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(26) ハー [ ه ]
هَاءٌ の発音
・無声・声門・摩擦音(大阪大学 アラビア語独習コンテンツ)
*PDFファイルの文字一覧には有声とありますが、詳細解説では無声と書いてあります。
・無声・声門・摩擦音(東京外国語大学 言語モジュール)
ه | 文字名 | 音価 | IPA | 月/太陽 | |
---|---|---|---|---|---|
هَاءٌ | hā’ ハー |
h | h | 月 |
アルファベット名の発音
・[ hā’ ] [ ハー(ゥ/ッ) ](語末を省略する普通の読み方)
・[ hā’un ] [ ハーウン ](格を示す語末母音も全部読んだ場合)
*エジプトでは「ヘッ」に近い読みをします
男声:プロのナレーターさんによる収録
女声:Amazon TTS Zeina
喉の最奥にある声を出す器官である左右の声帯を近づけることで息の通り道(声門)を狭くし、流れてきた息が少しひっかかって擦れたようなハッという音を作ります。
のどぼとけに相当するエリアに少し力を入れて息をハァッと送る感じで発声します。
هَ [ ha ] [ ハ ] については日本語のハ行(ハ・ヒ・フ・ヘ・ホ)のうちのハ・ヘ・ホや、英語の h とほぼ同じ音です。
هِ [ hi ] [ ヒ ]と هُ [ hu ] [ フ ] は日本語のヒ・フと違い喉の奥からハッと発声する感じなので、「日本語のハ行と全部同じ」と間違えて覚えないように注意が必要です。
*内記良一先生の『基礎アラビヤ語』がこの子音は日本語のハ・ヒ・フ・ヘ・ホのどれとも違うと指摘。「後舌部が極度に低められ、咽喉がもち上がって狭まり、唇をつぼめて発音される声門部の有声摩擦音」としています。ただしネイティブ向け発音ビデオを見るとそのような説明は出てこないように思います。
母音との組み合わせ
ha・hi・huの発音
+母音a | +母音i | +母音u |
---|---|---|
هَ | هِ | هُ |
ha [ ハ ] | hi [ ヒ ] | hu [ フ ] |
母音a、i、uを足すと、ha、hi、huとなります。
日本語のハ・ヒ・フ・ヘ・ホとの区別に注意
ハ・ヒ・フのうち日本語とほぼ同じ音なのはハだけで、ヒとフは違います。日本語のは行は
は [ha]・ひ [çi]・ふ [ɸu]・へ [he]・ほ [ho]
となっており、「は・へ・ほ」と「ひ・ふ」が異なっています。日本語の ひ(硬口蓋・摩擦音)と ふ(両唇・摩擦音)はアラビア語の هِ [ hi ] [ ヒ ] と هُ [ hu ] [ フ ] もずっと口の前の方・唇寄りで発音するので、混同してしまわないよう注意が必要です。
ه [ h] は基本的にハ・ヒ・フでカタカナ化しますがフは فُ [ fu ] と違い唇に歯が近づかない هُ [ hu ] です。喉の奥を使う感じでフと読みます。ハゥと意識して発音するとそれっぽくなるかもしれません。
なお、時々このアラビア語の ه が日本語のハ・ヒ・フと同一なのですごく簡単な発音だと紹介されることがありますが誤りです。ヒとフは日本語と違って喉から出さないといけないので練習が必要な結構やっかいな子音です。
動画で発音の方法を確認
発音の基礎的学習
アラブ人向けにクルアーン朗誦に必要となるフスハー的発音を教えるレッスン動画です。
1:46~【 喉の最奥と声門・声帯の様子 】
أَقْصَى الْحَلْقِ [ ’aqṣa-l-ḥalq ] [ アクサ・ル=ハルク ] (喉の一番奥、最奥)(=黄色い楕円で囲まれたエリア)で発音する子音グループということで、ء [ ’ ](ハムザ)と ه [ h ] が一緒に解説されています。
青く塗られているエリアが الْحَلْق [ ’al-ḥalq ] [ アル=ハルク ] (喉)で、1:50で登場するのが喉の奥にある声門と左右にある声帯の図です。右上が声門を閉じている時の様子を示しています。
*声帯が閉じていたり狭くなったりしていて、そこに息を送った時に声帯が振動して音が生じるのが有声音。声帯が開いていて声帯の振動が起こらないのが無声音です。
2:00~【 ء [ ハムザ ] の発音 】
ء [ ’ ](ハムザ)では左右の声帯がくっつき合って完全に閉鎖されます。(*ハムザが声門閉鎖音と呼ばれる理由。)ハムザが無母音(=スクーン記号がつく)の場合は声帯の完全な閉鎖を行います。
ハムザに母音がついた場合は、声帯の閉鎖を行った後に母音の発声が続きます。右上が声門を閉じている時の様子なのに対し、右下に登場したイラストは声門を開いた時のイラストで、閉じていた左右の声帯が開いて أَ [ ’a ] [ ア ] と أُ [ ’u ] [ ウ ] と إِ [ ’i ] [ イ ] と発音する様子が示されています。
*日本の学習書では日本のア・イ・ウ・エ・オ順に合わせてか母音記号をつけて発音する練習がファトハ記号つきの◯a、カスラ記号つきの◯i、ダンマ記号つきの◯uの順番で行われるのが普通かと思います。しかしアラブ圏では動画のように◯a、◯u、◯iのように順番が異なっています。
2:26~【 ه [ ハー ] の発音 】
ه [ h ] の場合ハムザと違って声帯は完全に閉鎖しません。狭くなり左右の声帯同士がとても近くなることで通過する息が擦れた音が生じます。(=摩擦音)
理想的な声門の開き具合は右上のイラストの方で、右下は左右の声帯が開きすぎてちゃんと ه [ h ] の音が作られていない間違った発音(=赤い❌印)の例です。
同様の内容のレクチャーです。喉を使って発音する子音が全部入っている動画なので、ه [ h ] のところから再生が始まるように設定してあります。
ه [ h ] は喉の最奥から出し、左右の声帯が閉じることはしないもののかなり近づいて声門が狭くなり、息を通す時に擦れたハッという音が出ます。
2:38の白い矢印は、声門を十分に狭めないと大量の息が通ってしまって口の方へと押しかけてしまい摩擦音である ه [ h ] の音にならない、という間違った発音を示しているものです。2:58付近は声門を開きすぎている正しくないケースの実演です。
同様の内容のレクチャーです。再生は喉の最奥で発音する ء [ ’ ](ハムザ)と ه [ h ] の部分から始まるように調整してあります。
こちらは発音練習コースの画面とともにイラストを出している動画です。最初に発音サンプルがひたすら繰り返されます。後半はクルアーン朗誦における実例になります。
ちょっと生々しい感じがするかもしれませんが左上は本物の声門の写真で、白っぽい筋が左右の声帯になります。
注意点~意外と難しい ه の発音とネイティブがしやすい違う発音とは?
エジプト人講師によるクルアーン朗誦のための発音レッスンですが、ネイティブと外国人学習者に共通して普通のアラビア語会話でも起こり得る発音間違い・正則的発音からの逸脱に触れている参考になる動画だったので、一般のアラビア語学習者にも必要な部分をピックアップしてみたいと思います。
日本人学習者にも関係してくる注意事項:
- ه(h)の調音部位は ء(ハムザ)同様に声門という口から非常に離れた位置である喉の最奥なので、アラビア語の音の中でも二番目に重たい(=発音時の負担が大きい)。
- ه(h)自体は無声音なので無母音の(=スクーン記号がつく)هْ は弱くささやかにしか聞こえない発音の一つで、正確な発声には呼気が影響する。
- أَهْ [ ’ah ] はアを発してそのまま息を吐く感じではなく。アの後に هْ(h)の音がちゃんと聞こえるように発音する。هْ(h)は声帯の震えを伴わない無声音で、外からは見えないものの声帯の間である声門を狭くして発音を行うが、近頃はそれを行わずに呼気を吐くような長音方法を教える朗誦者も出てきているが動画講師自身はそれを是としていない。
- 前後の音に影響されたりしてタフヒーム(強勢化/強調音化/咽頭化/口蓋垂化)を行い舌の奥・根元付近を盛り上げてしまい呼気の通り道を狭くして ه(h)を発音する人がいるが誤り。舌の奥・根元付近は高くしない。
画像引用元:YouTube『حرف الهاء _ مخرج الحلق _ شرح المقدمة الجزرية ح١٠ للشيخ منير محمد علي』
「ه [ h ] の調音部位は喉の最奥にある声門の部分で、口からこんなに離れているんですよ」と説明しているシーンの様子です。
日本ではこの文字の発音場所について大学などの授業だと詳しく説明されることは少なく「ハ・ヒ・フ、全部日本語のものと一緒で簡単です」と説明している無料コンテンツなどもあり、研究者業界出身の方によるアラビア語発音解説でも هُ [ hu ] [ フ ] を唇をすぼめて出す英語の fu に近い日本式の [ɸu] の口の動きで声門部分が狭くなる摩擦無しで写っているものがあるなど、日本人アラビア語学習者や学習年数を重ねた日本人アラビア語使用者にとっては簡単なようで実は無意識に違う場所から出してしまいやすい子音となっています。(管理人にとっても、ついついやってしまい矯正に苦労してきた発音の一つでした。)
しかしこのレクチャー動画を改めて見てみると、日本式の ふ [ɸu] が出る唇の間とアラビア語の هُ [ hu ] [ フ ] が出る声門部分とは、アラビア語の子音を発音する場所としては最も距離が離れている同士である、日本語式ハ・ヒ・フ発音をすることにより「意味が違って聞こえるレベルではないけれども響きが違う」という印象を与える一因ともなっていることが実感しやすいと思います。
日本語と全く同じハ・ヒ・フ発音が定着すると管理人のように後から直すのに時間がかかるので、最初のうちに「ヒとフは日本語と違う」「出すのは喉の奥の声帯がある位置」を意識する方が手間も省け良いのでは…という気がします。
(2025年1月 「注意点」を追加)