アラビア語アルファベットの発音を覚えよう~(05)ジーム[ ج ]

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(05) ジーム [ ج ]

جِيمٌ の発音

・有声・後部歯茎・破擦音(大阪大学 アラビア語独習コンテンツ)
・有声・後部歯茎・破擦音(東京外国語大学 言語モジュール)

ج 文字名 音価 IPA 月/太陽
جِيمٌ jīm
ジーム
j ʤ

アルファベット名の発音
・[ jīm ] [ ジーム ](語末を省略する普通の読み方)
・[ jīmun ] [ ジームン ](格を示す語末母音も全部読んだ場合)

男声:プロのナレーターさんによる収録

女声:Amazon TTS Zeina

英語の j と同じです。日本語のジャ・ジ・ジュ・ジェ・ジョのうち、「ジャ」「ジュ」「ジョ」のj音と同じだとのこと。

まず、舌の中央を上あごの天井部分にくっつけて息の通り道を完全にふさぐ閉鎖状態を作ります。そこに息を通しながらぱっと舌を離してたまった空気を解放しますが、その時に舌と上あごの間のわずかなすき間を息が抜けていくのでこすれたような j の音が出ます。

母音との組み合わせ

+母音a +母音i +母音u
جَ جِ جُ
ja [ ジャ ] ji [ ジ ] ju [ ジュ ]

母音 a、i、u を足すと、ja、ji、ju となります。

動画で発音の方法を確認

ج [ j ] の発音方法

アラブ人向けにクルアーン朗誦に必要となるフスハー的発音を教えるレッスン動画です。発音する場所が似ている ج [ j ]、ش [ sh ]、ي [ y ] がまとめて解説されています。

1:11あたりでは白い矢印を使って、舌の中央が後部歯茎(*アラビア語の説明では「上あごの中央」付近)にくっついて息の通り道をいったん完全にふさいでいる様子が示されています。そして発音の後半で舌が離れる過程で j の音が出るという順序です。(息をせき止める閉鎖を伴う破擦音 [ ʤ ] としてのクルアーン朗誦学的に正しいとされる発音の方。)

1:48頃に息を示す矢印が口の外へ漏れ出てしまっているのが口語(アーンミーヤ)にある発音です。シリア・レバノンなどの方言で見られる、完全な閉鎖が起きない摩擦音 [ ʒ ] を示しています。

息が完全にせき止められる瞬間が無く、終始狭いすき間から息がずっと漏れ続けている様子が示されています。

同様の内容のレクチャーです。

0:10から説明が始まる ج [ j ] の場合は舌の中央付近を上あごの天井中央付近 ー وَسَطُ الْحَنَكِ الْأَعْلَى [ wasaṭu-l-ḥanaki-l-’a‘lā ] [ ワサトゥ・ル=ハナキ・ル=アアラー ] ー に密着させてくっつけ、息の通り道をいったん閉鎖することにより発音を行うよう指示されています。
*日本の教材では「後部歯茎」ですが、アラブ式の発音学習レクチャーだと「上あごの真ん中」という説明になっています。

同様の内容ですがイラストと字幕を見ながら確認できる構成になっています。

調音部位のイラストとあわせてクルアーン朗誦における ج [ j ] 発音の確認をするレッスンビデオです。

口語における ج [ j ] の発音

アラビア語の方言とجの色々な発音

月文字の太陽文字化

フスハーでは ج [ j ] は定冠詞 اَلْ [ ’al- ] [ アル ] がついた時に定冠詞の発音 [ アル ] が変化せずそのまま اَلْجَرِيدَة [ ’al-jarīda(h) ] [ アル=ジャリーダ ] とする月文字です。

しかしイラク方言などでは太陽文字に変化して اَلْجَّرِيدَة [ ’aj-jarīda(h) ] [ アッ=ジャリーダ ] と読まれます。この発音は乳幼児期からの繰り返しにより習慣化してしまいフスハーの時に直すのが難しいらしく、フスハー文章を音読する時にも [ アル=ジャリーダ ] ではなく[ アッ=ジャリーダ ] のままの人が少なくない印象です。

日本で発売されたアラビア語教材の音声ファイルでもこの太陽文字化をしているナレーションが吹き込まれているのを聴いたことがあります。集中していないとあまり気付かないのですが、仮にそのようなフスハー教材に当たった場合は定冠詞の ل [ l ] の音が全てスキップされているので自分で置き換えて [ アル=ジャ◯◯/ジ◯◯/ジュ◯◯ ] と覚える必要があります。

ジーム・シャーミーヤ

昔の日本語の「じ」やフランス語の「j」と同じ発音

シリア・レバノン周辺(レヴァント地方、レバント地方)では完全に息の通り道をふさがず舌を歯茎付近に当てたまま息の通り道を邪魔して出す摩擦音の [ ʒ ] ー اَلْجِيم الشَّامِيَّة [ ’al-jīmu-sh-shāmīya(h) ] [ アル=ジーム・ッ=シャーミーヤ ](シャームのジーム) ーが見られます。

日本語カタカナ表記だと江戸時代の前しばらくの間は「ぢ」と「じ」の発音が区別されていたことから、現代の外国語単語への当て字に関しても「ヂ」が /ʤ/ で「ジ」が /ʒ/ の発音に対応する、と書かれている記事などがありますが、その方式でいくと「ヂ」がフスハーの ج、 「ジ」がシャームの ج ということになります。

西欧の言語を既習の方は、フスハーの ج は英語の j で /ʤ/、 レヴァント地域(レバント地域)方言の ج はフランス語の j と同じで /ʒ/ になり、と表現した方がわかりやすいでしょうか…

ただ日本語カタカナ表記に関しては「ヂ」は使われず、学術的な標準表記でも「ジャ」「ジ」「ジュ」で当てるというルールになっています。

どちらもフスハーの発音?それとも片方だけ?

大阪大学の世界の言語シリーズアラビア語など一部の教科書ではどちらで発音しても良いと書かれていますが、実際のところアラブ世界ではフスハーの ج [ jīm ] [ ジーム ] は [ ʤ ] だという認識です。

クルアーン朗誦の学習講座ではこうした発音置き換わりがある方言話者が矯正しなければいけない子音として必ず登場すること、アラブ人向けのテレビ番組における雑談で「シリアとかはジーム・シャーミーヤ /ʒ/ でジュィー、ジュィーって発音しますよね?フスハーのせりふを言う時に直します? 」といったやり取りをしているのも見たことがあります。

それらからも「フスハーのジームではない」というアラブ世界における一般的な扱いをうかがい知ることができるかと思います。

ジーム・ガイル・ムアッタシャ

他にはエジプト首都地域、イエメン、オマーン、サウジアラビア南部・北部の一部地域にこの ج [ j ] を英語の get、go と同じ [ g ] で発音する地域があります。ガ・ギ・グとカタカナ表記することになりますが غ [ gh ](ガイン)ではなくアラビア語の文語に無い方の [ g ] に置き換わります。(時々ネットに「エジプトではジームがガインになる」と書いている方がいらっしゃるのですが正しくは文語に無い g 音です。)

現代標準アラビア語では [ ja・ji・ju ] [ ジャ・ジ・ジュ ] と発音するところが、元々のセム語の古い発音と同じ [ ga・gi・gu ] [ ガ・ギ・グ ] と発音されます。

この発音はその調音方法や発音が多く見られる地域の名前をとるなどして、別名

  • اَلْجِيم غَيْر الْمُعَطَّشَة
    [ ’al-jīm ghayru-l-mu‘aṭṭasha(h) ] [ アル=ジーム・ガイル・ル=ムアッタシャ ]
    تَعْطِيش [ ta‘ṭīsh ][ タアティーシュ ] が起きないジーム
  • اَلْجِيم الْقَاهِرِيَّة
    [ ’al-jīmu-l-qāhirīya(h) ] [ アル=ジーム・ル=カーヒリーヤ ]
    カイロ方言のジーム
  • اَلْجِيم الْمِصْرِيَّة
    [ ’al-jīmu-l-miṣrīya(h) ] [ アル=ジーム・ル=ミスリーヤ ]
    エジプト方言のジーム
  • اَلْجِيم الْعَدَنِيَّة
    [ ’al-jīmu-l-‘adanīya(h) ] [ アル=ジーム・ル=アダニーヤ ]
    アデン方言のジーム
  • اَلْجِيمُ الْحِمْيَرِيَّة
    [ ’al-jīmu-l-ḥimyarīya(h) ] [ アル=ジーム・ル=ヒムヤリーヤ ]
    ヒムヤルのジーム
    (エジプト原産ではなくイエメン発祥の発音であることを強調する意味でイエメンの人が使用することがあるという名称)

と呼ばれることも。

エジプト方言の g 発音があまりに有名なのでエジプトだけの特徴だと勘違いされやすいですが、これはそもそもがエジプトをイスラーム化した時に駐留していたイエメン人部族民たちの置き土産で、今もイエメン南部(アデン)やオマーンの一部地方(ダーヒリーヤ)には j の [ g ] 発音が残っています。

エジプトだとg発音をするのはイスラーム軍の入植があったカイロならびにそこと往来が頻繁にあった地域で、他の地方部ではフスハーと同じj発音など。جرجا(ギルガ)や أسيوط(アスユート/アシュート)周辺ではd発音になる例も知られています。

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その他の発音

また、アラビア半島地域などにはjがchやyの音に一部差し替わる方言もあります。

湾岸地方だと ج の [ y ](/j/)発音が多いです。

イラク方言だと文字上は ج と書いてあっても外来語の ch の音かフスハーでは ك だった部分が違う発音に差し替わったケースということで [ ch ] で発音することが多いです。

フスハー的に正しい発音と間違った発音

方言では別の音で発音されることがしばしばある ج のフスハーにおける正しい発音についての解説動画です。今の時代において日常でどんな発音をしていようともクルアーンの朗誦では正しく発音すべし、とのこと。

舌の中央付近を使って声・息が漏れないようにせき止めてから出すジームが預言者時代の朗誦で行われていたことが研究によって確認されている正式な発音。

いったん息をせき止める閉鎖を起こさずに最初から息を漏らしながら摩擦を起こすのはシリア周辺のアーンミーヤのジーム。舌を前に出しすぎて・舌の先端部を使って د [ d ] に近くなるものや、後ろにずれたイエメン、オマーン一部、エジプトのカイロやアレキサンドリアの [ g ] 発音、アラビア半島東部の [ y ] 発音は避けること。

ジームの誤った発音方法に関するアイマン・スワイド師の講演です。シリア方言混じりでのトークになっています。

冒頭で摩擦音の [ ʒ ] ー اَلْجِيم الشَّامِيَّة [ ’al-jīmu-sh-shāmīya(h) ] [ アル=ジーム・ッ=シャーミーヤ ](シャームのジーム)の説明とクルアーン朗誦時の実例を紹介しています。こちらは جَرَيَان الصَّوْتِ [ jarayānu-ṣ-ṣawt ] [ ジャラヤーヌ・ッ=サウト ](=声・息が流れること)が起きているジーム。

jをdで発音するエジプトの一地方のように前方にあるdの発音位置にずれてしまい、ジがディのようになるもの。アラビア半島東部にある sh の発音場所で出すことでyの音になってしまうもの。イエメン、オマーン一部、エジプトの g 発音についても触れられています。

(2024年1月 ジーム・シャーミーヤの部分を改稿)