目次 / ا ب ت ث ج ح خ د ذ ر ز س ش ص ض ط ظ ع غ ف ق ك ل م ن ه و ي / ء ة ى
ター・マルブータ [ ة ] とは?
اَلتَّاء الْمَرْبُوطَة の発音
ة | 文字名 | 音価 | IPA | 月/太陽 | |
---|---|---|---|---|---|
تَاءٌ مَرْبُوطَةٌ | tā’ marbūṭa(h) ター・マルブータ |
t / h (/-) |
t / h (/-) |
アルファベット名の発音
・[ tā’ marbūṭa(h) ] [ ター・マルブータ ](語末を省略する普通の読み方)
・[ tā’un marbūṭatun ] [ ターウン・マルブータトゥン ](格を示す語末母音も全部読んだ場合)
男声:プロのナレーターさんによる収録
女声:Amazon TTS Zeina
ター・マルブータはクルアーンの筆記が行われるようになってから既存のアルファベット2文字から作り出したものなので、28個あるアルファベット表の中には含まれません。単語の最後でのみ使う特殊な文字になります。
読み方によって
●文語発音
(1) ت [ t ] の音で読む
(2) ه [ h ] の音で読む時
●現代フスハー的会話・口語発音
(3) 直前の母音aや長母音āまで読んでター・マルブータを読み飛ばす
ケースに分かれるため、当ページでは音価の欄に t / h (/-)と記載しました。
なお直前に来る文字には母音「a」がつきます(長母音の場合は「ā」音)。「ター・マルブータの発音はア」と誤って紹介されていることがありますが、正確な表現ではないので要注意です。
母音との組み合わせ
+母音a | +母音i | +母音u |
---|---|---|
ـةَ | ـةِ | ـةُ |
ta [ タ ] | ti [ ティ ] | tu [ トゥ ] |
ة(ター・マルブータ)の語末を母音も含めて省略無しで音読する場合は、ت [ t ] の音に母音a、i、uを足したta、ti、tuと同じ音で発音されます。
方言での発音
口語では文語本来の t もしくは h の発音は省略されター・マルブータは読み飛ばされます。
日本のフスハー教育で教えられているのもこの簡略化された現代会話的な読み方です。「ター・マルブータは発音されない」「ター・マルブータには音価が無い」と文語文法の規則を間違えて覚えている方が多いのもそのような事情によります。
なお直前の母音 a はシリア・レバノン・ヨルダン・パレスチナ付近のシャーム方言、イラク方言、エジプト地方部など複数の地域で e もしくは e 寄りの a になる傾向があります。
動画で発音の方法を確認
アラビア語フスハー文法におけるワクフ読み ه [ h ] の音
アラブ人の子供向け学習動画です。本来はこんな感じでほんのり聞こえる ه [ h ] の音を ة(ター・マルブータ)の部分で出します。アラビア語科目の授業で必ず出てくる大原則になります。
كُرَةٌ ــ كُرَةْ
ボール(は・が)
・非ワクフ:kuratun [ クラトゥン ]
・ワクフ時:kurah [ クラフ と クラハ の中間のような発音 ]
・現代風:kura [ クラ ]
ター・マルブータの語末にある母音を省略して子音だけで読む(スクーンをつける)場合は、「ه」[ h ] として読むのが本来のワクフのルールです。
しかし現代において日常的なフスハー会話(ニュース等)ではター・マルブータでの語末母音省略読みで [ h ] が聞き取れるほどしっかり読んでいる例は少なく、ター・マルブータ直前の子音についている母音「a」(ア)で止めているに等しいと言えます。
そのため日本で出版されているアラビア語学習書では مَدْرَسَة に「madrasah」という転写が添えられていることはまず無く、ほとんどが「madrasa」になっています。
同じ単語のはずなのに、本やウェブサイトによって英字ルビで語末が「–a」なものと「–ah」に分かれるのはそのためです。アラブ人女性の名前で同じアミーラという人名の英字表記がAmiraだったりAmirahだったりして統一性が無いのはこのような事情によります。
ター・マルブータの成立過程と主な用法
ター・マルブータの形と名称の由来
ター・マルブータ ー اَلتَّاء الْمَرْبُوطَة [ ’at-tā’u-l-marbūṭa(h) ] [ アッ=ターウ・ル=マルブータ ] ー は「結ばれたター」という意味で、普通の開いた ت ー اَلتَّاء الْمَفْتُوحَة [ ’at-tā’u-l-maftūḥa(h) ] [ アッ=ターウ・ル=マフトゥーハ ](ただのターで [ t ] 音を示す子音)と対比させた名称となっています。
形としては ه [ hā’ ] [ ハー(ゥ/ッ) ]ー、hを示す子音)の上に点を2個つけたものです。イスラーム初期はまだ女性名詞語末とつづりや発音に関するルールがはっきりしておらず、女性名詞語末が ت つづりの場合と ه つづりの場合に分かれており碑文時代の書き方がまだ残っていたと言われています。ター・マルブータはクルアーン朗誦法とフスハーの整備に伴って誕生し、それら2つを統一すべく誕生した文字だとか。
現代標準アラビア語フスハーという観点からは「ター・マルブータがついた語の末で息継ぎをするワクフの時には ه [ h ] で、次の語と息継ぎ無しでつなげ読みするワスルの時には ت [ t ] で読むという2つの顔を持っているので両方のアルファベットを組み合わせたような形になっている」と覚えておけば十分だと思われます。
女性化やそれ以外の様々な機能
アラビア語で ة(ター・マルブータ)は主に男性形の名詞や形容詞を女性化する時(هَاء التَّأْنِيثِ [ ha’u-t-ta’nīth ] [ ハーウ・ッ=タァニース(/タゥニース/タッニース) ](女性化のハー))、集合名詞の単体(1個・1本・1輪…)を示す時、何らかの行為を示す動名詞の行為1回を示す時に使われます。
*似た名称で تَاء التَّأْنِيثِ [ ha’u-t-ta’nīth ] [ ターウ・ッ=タァニース(/タゥニース/タッニース) ](女性化のター)がありますが、そちらは動詞を女性化して كَتَبَ を كَتَبَتْ に変えるような ت のことを指します。
通常、名詞や形容詞の男性形にこのター・マルブータをつけることで女性形に変える(=男性名と同じ意味、かつほぼ同じつづりで語末の発音だけが違う女性バージョンの名前を作る)ことができます。
- 寛大な、高潔な
كَرِيم [ karīm ](カリーム)♂ → كَرِيمَة [ karīma ](カリーマ)♀ - 栄光ある、栄誉ある、高潔な、崇高な
مَاجِد [mājid ](マージド)♂ → مَاجِدَة [ mājida ](マージダ)♀
なお男性を示す名詞等にター・マルブータがついていることもありますが、それらは強調用法だったりして女性化の用法で ة を使っている訳ではありません。
発音に関する注意点
アラブ式のアラビア語フスハー文法における本来のルールと、日本で出版された学習書で一般的な読み方の解説とが違っているのでまとめておきたいと思います。
発音の基本ルール
直前の文字に母音「ア(a)」 がつく
ٌـَة
[ –atun ] [ -アトゥン ]
直前に来る文字につく母音を a にします。
*ター・マルブータ自体の発音が母音 a だと誤って書かれている記事も多いので覚え違いに要注意です。ター・マルブータの発音がアなのではなく直前の字につく母音がアになります。
これ以外にも長母音の ā が来る語もあります。
ـَاةٌ
[ –ātun ] [ -アートゥン ]
直後で息継ぎをする場合は ه [ h ] の音になる
مَدْرَسَةْ = مَدْرَسَهْ
[ madrasah ] [ マドラサフ と マドラサハ の中間のような発音 ]
(とある)学校
ター・マルブータが語末にある単語を単独で読んだり、直後で息継ぎをしたりする場合は ه(ハー(ゥ/ッ))と同じ [ h ] の音で発音します。hには母音がつかないので母音記号はスクーンがつくため、はっきりとは聞こえずふんわり小さく息が漏れるような「ハ」もしくは「フ」のような音になります。
英語だとこのわずかに聞こえるだけのハーを「faint」という風に表現していることが多いようです。
そしてこのように語の直後で息継ぎをするような発音を「ワクフ」اَلْوَقْف [ ’al-waqf ] [ アル=ワクフ ](停止、つまり息継ぎのこと)と呼びます。ワクフでは基本的に子音についていた母音が除去されてスクーンがつきます。
アラブのアラビア語授業では基本規則として教えられていますが日本で出版された入門書にはまず登場しません。これまでに発刊された主なアラビア語本を全部チェックして実際に確認したところター・マルブータを [ h ] で発音するルールについて明記している日本の初級~中級学習書はマイナーな存在で少なかったです。そのうち行数が多めだったのは以下の本でした。
- 東京外国語大学の『大学のアラビア語 表現実践』59-60ページ
説明は少ないですが実例が何個も並べられていて [ h ] と読む練習をするようになっています。 - 内記良一先生の『基礎アラビヤ語』8ページ
名称の由来とワクフ発音 [ h ] の説明が5行分あり。古典的なフスハー文法に則ったルールが明記されている珍しい例だと思います。 - 松山洋平先生の『第二外国語で学ぶアラビア語入門』145-146ページ
文末の母音の無母音化という項目でター・マルブータを [ h ] で読むこと、非常に弱く発音するのでほとんど聞こえない場合があることを紹介。ただ اللغة العربية を اللغهْ العربيهْ と両方とも [ h ] のワクフ [ アッルガフ・ル=アラビーヤフ ] で読むというくだりはちょっと違うかな?という気がしました。(ニュース等ではアッルガルアラビーヤのようにスピードを落とさず一気読みし明らかに [ h ] を聞こえないぐらい小さな音で発しているであろうブランクを一切はさまず ة 部分を省略していることが分かる読み方が多いため。)
ちなみに詩等ではター・マルブータだった部分を ـه で表記していることが多いです。母音記号をふってある文語詩の場合はきちんとここにスクーンが乗って ـهْ になっているので [ h ] と発音することを意識しやすいです。
またアーンミーヤのアラビア語表記ではター・マルブータ部分を [ t ] で発音しないことが多い上にネイティブの人が正書法(正字法)をきちんとマスターしていないことも重なって ة ではなく ه と書いてある率が非常に高いです。また外来語では語末に ه と書いてあっても読まない黙字的な使われ方をしているケースがあり、女性名詞語末についているこれら2つの文字は他の文字と事情が少し違っており結構ややこしいです。
文中にあって後続の語と息継ぎ無しでつなげ読みする場合は ت [ t ] の音になる
مَدْرَسَةٌ جَدِيدَةْ
[ madrasatun jadīdah ] [ マドラサトゥン・ジャディーダフ ]
(とある)新しい学校
文中にあって後に来る単語をそのまま息継ぎ無しで読む場合は ت(ター(ゥ/ッ))と同じ [ t ] の音で発音。ター・マルブータについている母音やタンウィーンもしっかり読みます。
ター・マルブータにタンウィーンがついている場合は主格-属格-対格の tun – tin -tan [ トゥン – ティン – タン ] と律儀に読むことになります。日本ではアラブ人講師による文法・格変化学習重視授業では、ター・マルブータについている母音を省略する略式なフスハー会話的発音ではなく本来の [ t ] 音を保持したまま読ませることが多い印象です。
このように後の語とつなげ読みすることを「ワスル」اَلْوَصْل [ ’al-waṣl ] [ アル=ワスル ](接続、つまりつなげ読みのこと)と呼びます。
しかし日常会話ではこの基本ルールに従っていないことが多く、日本語で書かれた多くの教科書では形容詞修飾の場合については文中にあってもター・マルブータを読み飛ばすよう教えていたり、ター・マルブータの音価を「tもしくは無音」としていることもあります。
日本語による学習書で教えられていることが多い読み飛ばし方式
直前の文字に母音「ア(a)」 がつくのは変わらない
ٌـَة
[ –atun ]
直前に来る文字につく母音を a にする点は同じです。
ター・マルブータは基本的に読み飛ばす【異なる点】
مَدْرَسَة جَدِيدَة
[ madrasa jadīda ] [ マドラサ・ジャディーダ ]
(とある)新しい学校
ター・マルブータが語末にある単語を単独で読んだり直後で息継ぎをしたりする場合も、文中にある場合も、基本的に直前の文字につく母音 a を読んだらター・マルブータを発音せず読み飛ばしてしまうというものです。
形容詞修飾がその典型例で、文中であっても名詞の語末・それを修飾する形容詞の語末それぞれについているター・マルブータは読み飛ばし直前の文字の母音 a までを発音します。
アラブ式フスハー文法本来のワフク規則とは違いますが、日本の学習書ではこれをター・マルブータの「ワクフ」読みとして紹介していることが多いです。
英語だとこの読み飛ばして聞こえないター・マルブータを「silent」という風に表現していることが多いようです。
ライトの文法書だと近代になってからのアラビア語における発音でター・マルブータは読まない黙字・黙音となっていることが記されています。現代アラビア語会話で読み飛ばされるター・マルブータについては英語等で書き込まれた記事やフォーラムで話題になっていることがしばしばあり、発音しないことを「silent」と表現してあったりします。
ター・マルブータを読まない黙字として扱うような現代風の発音では、定冠詞が含まれているような اَللُّغَة الْعَرَبِيَّة でもター・マルブータ部分をスキップして後続語の定冠詞の لْ [ l ] にジャンプして読んでしまいます。
اَللُّغَة الْعَرَبِيَّة
[ ’al-lugha-l-‘arabīya ] [ アッ=ルガ・ル=アラビーヤ ]
アラビア語
読み飛ばす扱いなので [ アッ=ルガフ・ル=アラビーヤフ ] のような感じで [ h ] の音は聞こえることがありません。(そもそも子音衝突の問題が発生するので [ ’al-lughah-l-‘arabīyah ] と子音3連続の「h-l-‘」をフスハーにもかかわらず維持すること自体に無理があると言えばあるのですが…)
イダーファ構文の時は ت [ t ] の音を残すのは非ワクフ時と同じ
سَيَّارَةُ الْكَاتِب
[ sayyāratu-l-kātib ] [ サイヤーラトゥ・ル=カーティブ ]
その作家の自動車(は・が)【主格】
سَيَّارَةِ الْكَاتِب
[ sayyārati-l-kātib ] [ サイヤーラティ・ル=カーティブ ]
その作家の自動車(の)【属格】
سَيَّارَةَ الْكَاتِب
[ sayyārata-l-kātib ] [ サイヤーラタ・ル=カーティブ ]
その作家の自動車(の)【対格】
上記のような簡略式フスハー発音でも、所有等の属格構文(イダーファ構文)「~の◯◯」では ت(ター(ゥ/ッ))と同じ [ t ] の音で読みます。ター・マルブータにつける母音は格に応じて変えます。
岩波イスラーム辞典等でター・マルブータのついた語の一部が「t」という翻字になっているのはこのような事情によります。
ちなみに口語(方言)では定冠詞の発音がアルではなくイルになることが多いため、ネイティブの人はフスハー文を言っている時に自動車部分が主格であっても [ sayyārati-l-kātib ] [ サイヤーラティ・ル=カーティブ ] と読んでいることがしばしばあります。日本で出版された学習書の音声教材でも時々そうなっていたりするのですが、正しくは上記の通り [ sayyāratu-l-kātib ] [ サイヤーラトゥ・ル=カーティブ ] なので耳で聞いたまま真似してしまい間違えて覚えないよう要注意です。
この略式のター・マルブータ発音について
フスハーを使った日常会話・レクチャーに多くアラブ世界では広く行われているものですが、現代標準アラビア語(フスハー)のニュース等で全部こうなっているかというとそうでもありません。
管理人はフスハーやアーンミーヤの放送を視聴するのが好きでニュース・ドキュメンタリー・インタビュー・宗教講話といった複数ジャンルの動画を見るのですが、話者によっては属格構文(イダーファ構文)やタンウィーンがついた副詞的対格 ـةً ではない部分でもター・マルブータの [ t ] 音とそれについている母音を読んでいることがしばしばあります。
なのでアラビア語入門書に書いてあるからといって、誰もが揃って اَللُّغَة الْعَرَبِيَّة [ ’al-lugha-l-‘arabīya ] [ アッ=ルガ・ル=アラビーヤ ] のようなター・マルブータ読み飛ばしをしている訳ではないと感じています。
このアッルガルアラビーヤ読みはいわゆる現代アラビア語的・口語会話的・略式な感じで、息継ぎしない限り母音記号を読み飛ばさない本来のフスハー文法に則った(古典)文学作品の音読やアラブ人によるアラビア語授業としてテキストを丁寧に読み上げる場合にはやってはいけない読み方と言えます。個人的意見がだいぶ入ってはいますが、シーンによってはやらないよう調節した方が良いという印象です。
なので余裕がある方や現地に行ってアラビア語学をさらに学ばれる予定がある方はター・マルブータを読み飛ばさない発音と読み飛ばす発音を使い分けられるよう両方練習するか、少なくともそういう発音の違いがあることを念頭に置いておくのが良いかもしれません。
アラブ式のアラビア語(国語)文法授業では語末の格変化に関わる母音記号をきちんと読むことを重視しており日本のアラビア語学習界ほどばんばん読み飛ばしたりはしないので、アラブ人の先生によってはこの部分に厳しく「トゥン・ティン・タン」の類を外国人学習者にも徹底的に言わせることが考えられます。
いわゆるイウラーブ練習重視の伝統的なアラビア語学習の手法なのですが、そういうポリシーの先生だと جَاءَتْ أَمِينَةُ(アミーナが来ました)のような文を [ jā’at ’amīna(h) ] [ ジャーアト・アミーナ ] ではなく [ jā’at ’amīnatu ] [ ジャーアト・アミーナトゥ ] のように律儀に読ませて母音記号つけと格変化の訓練をたくさんさせることが多いように思います。
なおそのような丁寧な発音は道端でのフスハー会話や日常会話ではしないため أَنَا يَابَانِيَّةٌ を [ アナ・ヤーバーニーヤ ] ではなく [ アナ・ヤーバーニーヤトゥン ]、أَنَا بِخَيْرٍ を [ アナ・ビハイル ] ではなく [ アナ・ビハイリン ] のように言うと一人で路上アラビア語学習をしているようなしゃべり方になり相手のアラブ人に一層の違和感を与える原因になり得ます。
アラブ人はフスハーで会話するだけでも国語の教科書音読や吹き替えアニメのセリフを言っているような気分になってゲラゲラ爆笑することもあり、語末の -un・-in・-an や -tun・-tin・-tan 類を全部言いながらフスハーで話し続けるというコメディーギャグも存在します。
アーンミーヤの代わりにフスハーで道行く人に話しかける場合は語末格変化部分の母音を削って少しでもフレンドリーなアラビア語で会話するのが良いかもしれません。
直前に長母音 ā が来るター・マルブータの発音
このようなケースでは属格構文(イダーファ構文)でなくとも語末のター・マルブータを [ t ] と読むことがしばしばあります。
حَيَاة
(人生、生活)
非ワクフ:ḥayātun [ ハヤートゥン ]
ワクフ時:ḥayāh [ ハヤーフ と ハヤーハ の中間のような発音 ]
現代・口語風:
ḥayā [ ハヤー ]
もしくは
ḥayāt [ ハヤート ]
他の単語も上と同じです。たとえば同じ語形で初級アラビア語学習書にもよく出てくる
فَتَاة
(若い娘、少女)
・非ワクフ:fatātun [ ファタートゥン ]
・ワクフ時:fatāh [ ファターフ と ファターハ の中間のような発音 ]
・現代・口語風:fatā [ ファター ] もしくは fatāt [ ファタート ]
など。
ター・マルブータを含む人名・地名の英字表記やカタカナ表記
ター・マルブータを含む人名(ほとんどが女性名)や地名はこのような発音に関する特殊なルールがあること、方言によって直前に来る母音が「ア」ではなく「エ」になったりすることから英字表記やカタカナ表記が普通の人名・地名よりもバリエーションが豊富になりがちです。
これについては別のページで紹介していますのでそちらを参照願います。
ター・マルブータを含む語とアクセントの位置
通常の方式とエジプト式
ター・マルブータを含む語のアクセント位置ですが、語形によってター・マルブータを読む時と読み飛ばす時とで変わる地域とそうでない地域とがあります。
日本語で書かれた書籍だと『アラビア語の世界 歴史と現在』の133-134ページなどで触れられています。フスハーの入門書だとここまで触れている本は少ないですが、英語で書かれたエジプト カイロ等方言の文法書とかを当たると結構書いてあるように思います。
エジプト方言といっても国内の全ての方言が全てという訳ではないようですが、メディアの標準にもなっている首都カイロの方言とかではこうなります。湾岸地方など他国に住んでいるエジプト人を判別できる基準の一つがこれだと言っても過言ではないぐらいにエジプトで普通に聞かれ浸透しているアクセントです。(だからといってこのアクセントをしている人が全員エジプト出身だとは限りません。あくまで参考です。)
フスハー文を読んでいてもこのアクセントのままになるのが普通なので、日本で発売された学習書の付属音声教材もこのエジプト式アクセントになっていることがしばしばあります。(ナレーターにエジプト人が多いため。)
日本人学習者だと、エジプトに留学した方・エジプト人の先生に教わった方・エジプト人ナレーターが吹き込んだ音声教材を普通のアクセントだと思って覚えた方にこのエジプト式アクセントをしていることが多いのではないでしょうか。
ちなみに本格的にフスハーを極めた人だとアクセント位置すら矯正してスピーチや朗読を聞いても何人か全く判別できないレベルの発音になっていることもあるようです。以前見たことがあるフスハーの弁論コンテストに出場していたエジプト人の子がそのパターンでした。
ター・マルブータも読む時
مَدْرَسَةٌ
[ madrasatun ] [ マドラサトゥン ]
学校
これについては基本的に皆 mad「ra」satun の ra 部分にアクセントが来るため違いは感じられません。違いが出るのは語末の ـة をワクフ読みしてスキップした時に一部の語で起こります。
ター・マルブータを読み飛ばす時
マシュリク地方(アラブ世界の東側)の場合、以下のような違いがあることで有名です。ター・マルブータがついた語の全てでそうなる訳ではなく語形次第なので、ここではアクセント位置の違いが出るものを選んで紹介したいと思います。
以下のサンプルはフスハーとして読み上げた場合の発音やアクセントになります。たとえばエジプト方言だと جَامِعَةْ(大学)などはジャーミアではなくガムアとかガマアと聞こえるなど長母音が短くなったりでもっと違う発音になります。
フスハー会話(マシュリク一般)
مَدْرَسَةْ
[ madrasa ] [ マドラサ ]
サンプル音声:Forvo – مدرسة
フスハー会話やエジプト方言以外では前寄りにアクセントが来て 「ma」drasa の ma 部分を強く読むのが普通です。
フスハー会話(エジプト式)
مَدْرَسَةْ
[ madrasa ] [ マドラサ ]
サンプル音声:Forvo – مدرسة
エジプト式アクセントでは語頭方向には来ず、ター・マルブータがあった時と同じ位置になります。なので mad「ra」sa の ra を一番強く読みます。
その他の例
大学
جَامِعَةٌ
ター・マルブータも読む時:[ jāmi‘atun ] [ ジャーミアトゥン ]
جَامِعَةْ
フスハー会話(マシュリク一般):[ jāmi‘a ] [ ジャーミア ]
フスハー会話(エジプト式):[ jāmi‘a ] [ ジャーミア ]
エジプト方言:[ gam‘a ] [ ガムア ]
エジプトの場合、フスハーとしではなく方言として日常で使う時 ā(アー)の音は短くなってしまい、かつその直後に来る子音 m についていた母音 i も落ちて mi(ミ)ではなく m に変わります。さらに首都カイロなどの方言では ج の発音が置き換わるため、gam‘a(ガムア、実際にはガムァやガマァが混ざったように聞こえたりも)となりフスハーのエジプト式アクセントとはまた違った感じになります。
サンプル音声:Forvo – جامعة
女子学生
طَالِبَةٌ
ター・マルブータも読む時:[ ṭālibatun ] [ ターリバトゥン ]
طَالِبَةْ
フスハー会話(マシュリク一般):[ ṭāliba ] [ ターリバ ]
フスハー会話(エジプト式):[ ṭāliba ] [ ターリバ ]
サンプル音声:Forvo – طالبة
数字の4
أَرْبَعَةٌ
ター・マルブータも読む時:[ ’arba‘atun ] [ アルバアトゥン ]
أَرْبَعَةْ
フスハー会話(マシュリク一般):[ ’arba‘a ] [ アルバア ]
フスハー会話(エジプト式):[ ’arba‘a ] [ アルバア ]
サンプル音声:Forvo – أربعة