英字表記されたアラビア語の名前とカタカナ化~女性名語末のター・マルブータ

ة(ター・マルブータ)で終わる名前はほぼ女性の名前

女性化のター・マルブータとは?

アラビア語では語末にة(ター・マルブータ)がついた人名が数多く存在します。ター・マルブータは「結ばれたター」という意味で、普通の開いた ت(ター、tを示す子音)を ه(ハー、hを示す子音)のように丸めて上に点を2個つけたものです。

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通常、能動分詞や形容詞の男性形にこのター・マルブータをつけることで女性版の名前を作ることができます。男性名にター・マルブータがついていることもありますが、基本的にはこれがついた人名は女性名です。

  • 寛大な、高潔な
    كَرِيم [ karīm ](カリーム)♂ →  كَرِيمَة [ karīma ](カリーマ)♀
  • 栄光ある、栄誉ある、高潔な、崇高な
    مَاجِد [mājid ](マージド)♂ → مَاجِدَة [ mājida ](マージダ)♀

ター・マルブータがついた男性名

通常女性名の語末につくター・マルブータ。語末がこの字になっている男性名の例は以下のとおりです。古い人名も込みで紹介していきたいと思います。

خَلِيفَة [ khalīfa / khalīfah ]

Khalīfa、Khalīfah
後継者

日本語の「カリフ」はこのハリーファから来ています。英字表記はKhaliifa、Khaliifah、Khalifa、Khalifah、Khaleefahなど。

アラビア語のカタカナ化では通常khはハ行としハリーファとなりますが、日本ではカ行でカタカナ化したカリーファ、さらに長母音īを補わずKhalifaの見た目そのままなカリファも多いようです。

وَرَقَة [ waraqa / waraqah ]

Waraqa、Waraqah(ワラカ)
(1枚の)葉、紙、紙幣

qをkに替えたWaraka、Warakahという表記も。

古くから男性名として使われていたそうで、預言者ムハンマドの最初の妻ハディージャの従兄弟にもワラカ・イブン・ナウファルという人物がいたと伝えられています。(クライシュ族出身ながら一神教的教えを信じており、ムハンマドがアッラーからの啓示を受け困惑していた際に助言を与えた人物。)

طَلْحَة [ ṭalha / ṭalhah ]

Talha、Talhah(タルハ)
アカシアの木、バナナの木

人名辞典では人々が木陰を求めてその下に向かうぐらいの大きな木でもあるアカシアだとか、バナナの木だとか説明されています。クルアーン第56章『出来事』に出てくるタルフの木がこの人名タルハの集合名詞で、累々と実るタルフの木はバナナだという解釈があるそうです。

預言者ムハンマドの親友(クライシュ族出身)で、イスラームのごく初期に入信した教友の名前がタルハ・イブン・ウバイドゥッラー。天国の楽園に必ず入ることができるであろうとされた10人(楽園を約束された10人)のうちの1人。

ター・マルブータで終わっている名前の読み方

ター・マルブータの手前のaまで読むのが普通

このター・マルブータの直前の母音は短母音aです。日常生活の読み方ではター・マルブータのtは読まず、直前のaで読みを切ってしまいます。

  • مَاجِدَةٌ(mājidatun)[マージダトゥン] 能動分詞・女性形・単数・非限定の場合のフルな読み方です
  • مَاجِدَةٌ(mājida)[マージダ] 通常はtunの部分は読まずに手前のaで読み終えて後は省略します

ワクフでtからhに転じる読み方は文語的

ワクフという格や数を示す語末の母音を省いた読み方があります。ター・マルブータは文語的に読むとtがhの音に変わり、~a(~ア)ではなく~ah(~アフ)となります。

軽くふんわりhの発音を添える方法なのですが、日常生活でこれはまずやりません。女性の名前で英字表記の語末が「ah」になっている場合は、単にター・マルブータがあることを示すのに使われていると言っても過言ではありません。英語のように「アー」とのばした長母音のカタカナ表記にしてしまわないように注意が必要です。

ahやehで終わる女性名のカタカナ表記に注意

上で紹介した通り、語末が-ahになっている女性名のhは日常会話では発音されない音に対応しているので、英字表記のhを「フ」や「ハ」とはカタカナ化しないよう注意が必要です。

Fatimah=Fatima
○ ファーティマ
× ファーティマフ、ファーティマハ

Jamilah=Jamila
○ ジャミーラ
× ジャミーラフ、ジャミーラハ

ちなみにFatimehのように-ehで終わっているものは-ahで終わる女性名の口語発音に対応した英字表記です。

Fatimeh=Fatime
○ ファーティメ、ファティメ
× ファーティメフ、ファーティメハ、ファティメフ、ファティメハ
*口語だとファーティメの長母音は短くなる傾向が強いので、日常会話での発音に寄せてファティメとカタカナ化しても違和感は少ないです。

複合名ではtの音が復活

女性の名前では「アブド◯◯」「◯◯ッディーン」のような複合名が非常に少ないのであまり気にする必要はありませんが、ター・マルブータで終わっている語が1語目に来る場合の複合語では次のような発音のルールがあります。

أَمَة [ ’ama(t) ](しもべ、女奴隷)♀+ الله [ ’allāh ](アッラー)
→ أَمَة اللهِ [ ’amatullāh ](アマトゥッラー、アッラーのしもべ)

ター・マルブータのついた女性名詞をアッラーという名詞が後ろから所有格(属格)支配しています。この時女性名詞「’ama」の語末で読み飛ばしていたtの音が復活。主格の場合はtの後に主格を示す母音uを付け足します。

これだけだと’ama+tu+’allāhでアマトゥアッラーになりそうに思われますが、アッラーの語頭の「’a」は前の語と一気に続けて読む時は省略されます。そのため’ama+tu+llāhに変わり「アマトゥッラー」という読みになります。

文中では人名が主格なら’ama+tu+llāh、所有格(属格)なら’ama+ti+llāh、目的格(対格)なら’ama+ta+llāhと変化しますが、単に人名を考える場合は主格のみ考えれば大丈夫です。