目次 / ا ب ت ث ج ح خ د ذ ر ز س ش ص ض ط ظ ع غ ف ق ك ل م ن ه و ي / ء ة ى
ハムザ [ ء ] とは?
هَمْزَةٌ の発音
・無声・声門・閉鎖音(大阪大学 アラビア語独習コンテンツ)
・無声・声門・破裂音(東京外国語大学 言語モジュール)
ء | 文字名 | 音価 | IPA | 月/太陽 | |
---|---|---|---|---|---|
هَمْزَةٌ | hamzah ハムザ |
ʾ 当サイト: ’ |
ʔ | 月 |
アルファベット名の発音
・[ hamza(h) ] [ ハムザ ](語末を省略する普通の読み方)
・[ hamzatun ] [ ハムザトゥン ](格を示す語末母音も全部読んだ場合)
男声:プロのナレーターさんによる収録
女声:Amazon TTS Zeina
発音方法
男性ののどぼとけ付近にある声を出す器官である左右の声帯を閉じ、声門部分をふさいで息が通らないようにします(=声門閉鎖音)。
文字のつづり上 ء 単独ではなく台座である ا ى و に乗っていても発音は全部同じで、母音記号と ء との組み合わせとして考えて発音します。
*「声門破裂音」は左右の声帯を離し声門を開いた時の動作に基づいた名称。
ハムザの発音とは?
ハムザ自体は他の子音とは違ってちょっと特殊です。声門閉鎖音(声帯が閉じる動作に注目した場合のネーミング)もしくは声門破裂音(声帯がパッと開く動作に注目した場合のネーミング)と呼ばれていて、喉の奥の声門(声を出す器官である左右の声帯がある場所)をピッと閉めて息の流れを一瞬止めるという発音になります。
発音とは言いますが、「声門閉鎖」については何かの音を出すのではなくてむしろ逆に「話している途中で一瞬喉の空気の流れをふさいで何の音も出さない」ことを意味します。
母音との組み合わせ
ここではアリフを台にした場合の形で紹介しています。台となる文字が違って أ 以外の ؤ ئ になっていたり台が無い単独の ء になっていたりしても、ついている母音記号が同じであれば全部同じ発音になります。
+母音a | +母音i | +母音u |
---|---|---|
أَ | إِ | أُ |
’a [ ア ] | ’i [ イ ] | ’u [ ウ ] |
ハムザの持つ音価 [ ’ ] にそれぞれ短母音の a・i・u を足すと [ ’a ] [ ア ]・[ ’i ] [ イ ]・[ ’u ] [ ウ ] になります。
閉じた声門を再び開いて短母音a、i、uを後につなげて「ア」、「イ」、「ウ」と発音します。いずれも左右の声帯が閉まる閉鎖→閉じていた状態からぱっと開いて息が通過する開放(破裂)→母音の発音という流れがセットになっています。
喉のずっと奥の方を力む感じでギュッと閉めてから一気に勢いよく息を吐こつつa、i、uと言ってみてください。口を閉じていた状態から急に「ア!」「イ!」「ウ!」と叫ぶ時に一瞬だけ喉の奥がキュッと閉まる感覚、それがハムザになります。あえてカタカナで書くとしたら、「ッア」「ッイ」「ッウ」が近いかもしれません。
ひとまずは日本語のア・イ・ウとして読めば大丈夫ですが、基本的には喉の奥の声帯付近エリアをピッと閉じた後に3種類の母音を付け足しているイメージで覚えた方が良いと思います。
というのもハムザに子音のみであることを示すスクーンのついた単語が出てきた時に、語中でごくわずかな瞬間喉をピッと閉じることが必要になってくるためです。
口語での発音
口語(アーンミーヤ)ではハムザの声門閉鎖音/声門破裂音は長母音化する傾向が強いです。人名などでもこれを反映したものがしばしば見受けられます。
これはアラビア語のクルアーン朗誦学(タジュウィード)用語で تَسْهِيل الْهَمْزَةِ [ tashīlu-l-hamza(h) ] [ タスヒール・ル=ハムザ ](タスヒール・アル=ハムザ) と呼ばれる現象です。
イスラーム初期のアラビア語方言に既に見られたためクルアーン朗誦がらみで論じられ記録に残っているもので、フスハーのアラビア語として整備する過程でより文語的な声門閉鎖音/声門破裂音の明示が必要となりハムザが後から考案され追加されたこととも関係しています。
口語でも良く起きるタスヒールの典型例が「ハムザの直前の母音が i になっている場合は ـِي [ ī ] [ イー ]、直前の母音が u になっている場合は ـُو [ ū ] [ ウー ] に変わる」というものです。
ذِئْبٌ
[ dhi’b ] [ ズィッブ/ズィゥブ ]
オオカミ
↓
ذِيبٌ
[ dhīb ] [ ズィーブ ]
語頭の ذ [ dh ] がさらに د [ d ] に転じた دِيب [ dīb ] [ ディーブ ] も「オオカミ」のことで、元は全部同じ ذِئْبٌ になります。
ハムザが台座のアリフに乗っている場合
語頭によく来るハムザつきアリフの本体はハムザ
アリフは単語の先頭などに来る ء [ hamza(h) ] [ ハムザ ] [ ’ ] と組み合わせる台としても使われます。
アラビア語のアルファベットを28文字とみなす学説では、1文字目が長母音のアリフと声門閉鎖音/声門破裂音のハムザを兼業しているという理解になるとのこと。母音がつく場合は長母音としてのアリフではなくアリフという كرسيّ [ kursī(y) ] [ クルスィー(ュ/ィ) ](台座)に置かれたハムザとして扱われます。
このようにアリフに乗っているハムザは اَلْأَلِف الْيَابِسَة [ ’al-’alifu-l-yābisa(h) ] [ アル=アリフ・ル=ヤービサ ](直訳は「乾いたアリフ」)と呼ばれるなどします。
アリフにハムザをのっけて母音を足したら [ ’a ][ ア ]・[ ’i ][ イ ]・[ ’u ][ ウ ]
長母音のパーツとなり母音を受け入れないアリフアリフ自体に独自の子音は割り当てられていないので、声門閉鎖音/声門破裂音である ء [ hamza(h) ] [ ハムザ ] [ ’ ] に母音をつけた場合としての発音を行います。
日本語でこれと同じになるのは、主にア・イ・ウの母音を単独ではっきり発音する場合、単語がア・イ・ウで始まる場合だと思います。
語中で他の子音に続いて発音する時と違って閉じていた声門が開いて息が勢い良く飛び出した(ハムザと同じ声門閉鎖→声門破裂)後に母音の a i u を発音するため、厳密には /ʔa/ /ʔi/ /ʔu/ に。
長母音のパーツとなり母音を受け入れないアリフを台座としたハムザはそうした母音に先立つ声門閉鎖音/声門破裂音 /ʔ/ の方を示しており、後続する母音 a i u はハムザに書き足す母音記号の担当となっています。
+母音a | +母音i | +母音u |
---|---|---|
أَ | إِ | أُ |
’a [ ア ] | ’i [ イ ] | ’u [ ウ ] |
ハムザの持つ音価 [ ’ ] にそれぞれ短母音の a・i・u を足すと [ ’a ] [ ア ]・[ ’i ] [ イ ]・[ ’u ] [ ウ ] になります。
日本語のア・イ・ウを元気に勢い良くハキハキ言う時のイメージで発音しますが、しくみとしては「あさ」「いす」「うみ」といった具合にあ・い・うが語頭にある場合はアラビア語の語頭ハムザと一緒の発音になるので、特に意識しなくても大丈夫です。
詳しくは
『アラビア語アルファベットの発音を覚えよう~(★)ハムザ[ ء ]』
ハムザが書いてなくても母音がつけばハムザありと全く同じ発音
前に他の語が来てつなげ読みする際に発音を省略する一部の語頭ハムザは、アリフとセットであるにもかかわらず書かないというルールがあります。これを هَمْزَة الْوَصْلِ [ hamzatu-l-waṣl(i) ] [ ハムザトゥ・ル=ワスル ](直訳は「連結のハムザ」。ワスルは「連結、結合」の意。)と呼びます。
*ハムザトゥルワスル(ハムザトゥ・ル=ワスル)は本によってハムザトルワスル、ハムザト・ル=ワスル、語末母音を加えたハムザトルワスリなど表記はまちまちです。日本語で書かれた学習書で一番多いのはハムザトルワスルかもしれません。
このような場合、ハムザが隠れているだけで単独時もしくは直前の語とつなげ読みをしない時は上で紹介したハムザと母音とを組み合わせた発音になります。
ハムザが書いていないからといって、アリフそのものがア・イ・ウの発音を持っている、アリフが母音を示している、という考え方はアラビア語文法学ではしません。母音記号は隠れているハムザにつけられたものです。
長母音のパーツとなり母音を受け入れないアリフ自体に独自の子音は割り当てられていないので、声門閉鎖音/声門破裂音である ء [ hamza(h) ] [ ハムザ ] [ ’ ] に母音をつけた場合としての発音を行います。
閉じていた声門が開いて息が勢い良く飛び出した(ハムザと同じ声門閉鎖→声門破裂)後に母音の a i u を発音するため、厳密には /ʔa/ /ʔi/ /ʔu/に。
アリフを台座としたハムザはそうした母音に先立つ声門閉鎖音/声門破裂音 /ʔ/ の方を示しており、後続する母音 a i u はハムザに書き足す母音記号の担当となっています。
日本語のア・イ・ウを元気に勢い良くハキハキ言う時のイメージで発音しますが、しくみとしては「あさ」「いす」「うみ」といった具合にあ・い・うが語頭にある場合はアラビア語の語頭ハムザと一緒の発音になるので、特に意識しなくても大丈夫です。
+母音a | +母音i | +母音u |
---|---|---|
اَ | اِ | اُ |
’a [ ア ] | ’i [ イ ] | ’u [ ウ ] |
表記上隠れてしまっているハムザの持つ音価 [ ’ ] にそれぞれ短母音の a・i・u を足すと [ ’a ] [ ア ]・[ ’i ] [ イ ]・[ ’u ] [ ウ ] になります。
أَ إِ أُ と اَ اِ اُ に音や吐き出す息の強弱といった違いはありません。前の語とつなげ読みする際に読み飛ばすかどうかの違いだけです。
動画で発音の方法を確認
アラブ人向けにクルアーン朗誦に必要となるフスハー的発音を教えるレッスン動画です。
1:46~【 喉の最奥と声門・声帯の様子 】
أَقْصَى الْحَلْقِ [ ’aqṣa-l-ḥalq ] [ アクサ・ル=ハルク ] (喉の一番奥、最奥)(=黄色い楕円で囲まれたエリア)で発音する子音グループということで、ء [ ’ ](ハムザ)と ه [ h ] が一緒に解説されています。
青く塗られているエリアが الْحَلْق [ ’al-ḥalq ] [ アル=ハルク ] (喉)で、1:50で登場するのが喉の奥にある声門と左右にある声帯の図です。右上が声門を閉じている時の様子を示しています。
*声帯が閉じていたり狭くなったりしていて、そこに息を送った時に声帯が振動して音が生じるのが有声音。声帯が開いていて声帯の振動が起こらないのが無声音です。
2:00~【 ء [ ハムザ ] の発音 】
ء [ ’ ](ハムザ)では左右の声帯がくっつき合って完全に閉鎖されます。(*ハムザが声門閉鎖音と呼ばれる理由。)ハムザが無母音(=スクーン記号がつく)の場合は声帯の完全な閉鎖を行います。
ハムザに母音がついた場合は、声帯の閉鎖を行った後に母音の発声が続きます。右上が声門を閉じている時の様子なのに対し、右下に登場したイラストは声門を開いた時のイラストで、閉じていた左右の声帯が開いて أَ [ ’a ] [ ア ] と أُ [ ’u ] [ ウ ] と إِ [ ’i ] [ イ ] と発音する様子が示されています。
*日本の学習書では日本のア・イ・ウ・エ・オ順に合わせてか母音記号をつけて発音する練習がファトハ記号つきの◯a、カスラ記号つきの◯i、ダンマ記号つきの◯uの順番で行われるのが普通かと思います。しかしアラブ圏では動画のように◯a、◯u、◯iのように順番が異なっています。
2:26~【 ه [ ハー ] の発音 】
ه [ h ] の場合ハムザと違って声帯は完全に閉鎖しません。狭くなり左右の声帯同士がとても近くなることで通過する息が擦れた音が生じます。(=摩擦音)
理想的な声門の開き具合は右上のイラストの方で、右下は左右の声帯が開きすぎてちゃんと ه [ h ] の音が作られていない間違った発音(=赤い❌印)の例です。
同様の内容のレクチャーです。喉を使って発音する子音が全部入っている動画なので、ء [ ’ ](ハムザ)と ه [ h ] のところから再生が始まるように設定してあります。
こちらは発音練習コースの画面とともにイラストを出している動画です。最初に発音サンプルがひたすら繰り返されます。後半はクルアーン朗誦における実例になります。
ちょっと生々しい感じがするかもしれませんが左上は本物の声門の写真で、白っぽい筋が左右の声帯になります。
ハムザの誕生と現代口語における長母音化
ハムザはアルファベットに含む?含まない?
ハムザは後から整備された文字なので、アルファベットが全部で28個あるとする見方をする場合には「ハムザ」という名前の文字は含まれていません。アラビア語学習書で通常ハムザが欄外に書かれているのはそのためです。
しかしハムザの扱いには色々あって、アラブ世界の文法学講義では
- 1文字目のアリフが音価を持たない長母音アリフと声門閉鎖音/声門破裂音ハムザを兼ねている。
- 1文字目はアリフを呼ばれているだけで実体としてはハムザで、長母音アリフは لا [ lām(u-)’alif ] [ ラーム-アリフ ](ラーム-アリフ、ラームアリフ、ラーム=アリフ)という合字の形で弱文字である و と ي の仲間として最後の方で登場する。
という話もしばしば登場します。
ハムザはそもそも預言者ムハンマドのいた部族やアラビア半島西部ヒジャーズ地方の定住民(ハダル)たちは発音しておらず長母音化していたとされています。
クルアーンを文字として記録することになり正書法を整備していった過程で、ハムザを子音として発音していたアラビア半島東部ナジュド地方の遊牧民(ベドウィン)諸部族(タミーム族方言など)の特徴を後から統合したというのが定説です。
ハムザの考案と台座がある理由
発音する場所が喉の比較的近い場所にあることから、ع [ ‘ayn / ‘ain ] [ アイン ] の上部分を切り取った形として考案されたと言われています。
声門閉鎖音/声門破裂音ではなく長母音化していたクライシュ族のヒジャーズ方言に詩作のベースになっていた東部他地域のつづり規則を統合させたたことで生まれた文字なので、أ ئ ؤ のように色々な台座に小さな ء [ hamza(h) ] [ ハムザ ] が乗せられた形で表記される複雑なシステムとなっています。
口語での長母音化
現代アラビア語の口語でもハムザの声門閉鎖音/声門破裂音としての働きは弱まり長母音化する傾向が強く、文語フスハーの ذِئْب [ dhi’b ] [ ズィッブとズィゥブの中間のような発音 ](オオカミ)が ذِيب [ dhīb ] [ ズィーブ ](オオカミ)になるといった具合に、点無し ي の ى を台座にしていた ء が失われて点ありの ي となり長母音化するといった変化が多数見られます。
イスラーム初期のヒジャーズ方言でも見られたとされる長母音化の特徴が、現代アラブ世界における方言でも起きている形となっています。
ハムザの表記と発音
ネイティブも間違えやすいハムザの表記
単語中においては、語中での位置や前後に来る音との関連性によってアリフなどの台に乗せて書かれたり単独で書かれたりします。
هَمْزَةُ الْوَصْلِ [ hamzatu-l-waṣl ] [ ハムザトゥ・ル=ワスル ](ハムザト・アル=ワスル、ハムザトゥルワスル)のように通常表記しない隠れたハムザなどもあります。
しかしシステムが複雑なこともありネイティブでも混同する傾向が強く、
- ハムザを書くべき語なのに書かない
- ハムザを書くべきでない語なのに書かない
- ハムザをほとんど抜いて書く
- ハムザの台になる文字を間違える
といった具合に正書法・正字法通りに看板・書籍・メッセージがつづられていないことがとても多いです。
外国語学習者はこれらの表記ミスを前提の上でアラビア語文を読むことになります。
アリフとの組み合わせ
アリフが台座になる場合、ハムザが書かれる場合とそうでない場合があります。
単語の先頭では ا(アリフ)と組み合わせて書く
アリフは単語の先頭などに来る ء [ hamza(h) ] [ ハムザ ] [ ’ ] と組み合わせる台としても使われます。
アラビア語のアルファベットを28文字とみなす学説では、1文字目が長母音のアリフと声門閉鎖音/声門破裂音のハムザを兼業しているという理解になるとのこと。母音がつく場合は長母音としてのアリフではなくアリフという كرسيّ [ kursī(y) ] [ クルスィー(ュ/ィ) ](台座)に置かれたハムザとして扱われます。
このようにアリフに乗っているハムザは اَلْأَلِف الْيَابِسَة [ ’al-’alifu-l-yābisa(h) ] [ アル=アリフ・ル=ヤービサ ](直訳は「乾いたアリフ」)と呼ばれるなどします。
アリフにハムザをのっけて母音を足したら [ ’a ][ ア ]・[ ’i ][ イ ]・[ ’u ][ ウ ]
長母音のパーツとなり母音を受け入れないアリフアリフ自体に独自の子音は割り当てられていないので、声門閉鎖音/声門破裂音である ء [ hamza(h) ] [ ハムザ ] [ ’ ] に母音をつけた場合としての発音を行います。
日本語でこれと同じになるのは、主にア・イ・ウの母音を単独ではっきり発音する場合、単語がア・イ・ウで始まる場合だと思います。
語中で他の子音に続いて発音する時と違って閉じていた声門が開いて息が勢い良く飛び出した(ハムザと同じ声門閉鎖→声門破裂)後に母音の a i u を発音するため、厳密には /ʔa/ /ʔi/ /ʔu/ に。
長母音のパーツとなり母音を受け入れないアリフを台座としたハムザはそうした母音に先立つ声門閉鎖音/声門破裂音 /ʔ/ の方を示しており、後続する母音 a i u はハムザに書き足す母音記号の担当となっています。
+母音a | +母音i | +母音u |
---|---|---|
أَ | إِ | أُ |
’a [ ア ] | ’i [ イ ] | ’u [ ウ ] |
ハムザの持つ音価 [ ’ ] にそれぞれ短母音の a・i・u を足すと [ ’a ] [ ア ]・[ ’i ] [ イ ]・[ ’u ] [ ウ ] になります。
日本語のア・イ・ウを元気に勢い良くハキハキ言う時のイメージで発音しますが、しくみとしては「あさ」「いす」「うみ」といった具合にあ・い・うが語頭にある場合はアラビア語の語頭ハムザと一緒の発音になるので、特に意識しなくても大丈夫です。
見た目はハムザが無いのに実は隠れているだけの場合
前に他の語が来てつなげ読みする際に発音を省略する一部の語頭ハムザは、アリフとセットであるにもかかわらず書かないというルールがあります。これを
هَمْزَة الْوَصْلِ
語末の母音を省略した発音
[ hamzatu-l-waṣl ] [ ハムザトゥ・ル=ワスル ]
語末の母音まで全部読む発音
[ hamzatu-l-waṣli ] [ ハムザトゥ・ル=ワスリ ]
(直訳は「連結のハムザ」。ワスルは「連結、結合、連続」の意。)
このような場合、ハムザが隠れているだけで単独時もしくは直前の語とつなげ読みをしない時は上で紹介したハムザと母音とを組み合わせた発音になります。
ハムザが書いていないからといって、アリフそのものがア・イ・ウの発音を持っている、アリフが母音を示している、という考え方はアラビア語文法学ではしません。母音記号は隠れているハムザにつけられたものです。
長母音のパーツとなり母音を受け入れないアリフ自体に独自の子音は割り当てられていないので、声門閉鎖音/声門破裂音である ء [ hamza(h) ] [ ハムザ ] [ ’ ] に母音をつけた場合としての発音を行います。
閉じていた声門が開いて息が勢い良く飛び出した(ハムザと同じ声門閉鎖→声門破裂)後に母音の a i u を発音するため、厳密には /ʔa/ /ʔi/ /ʔu/に。
アリフを台座としたハムザはそうした母音に先立つ声門閉鎖音/声門破裂音 /ʔ/ の方を示しており、後続する母音 a i u はハムザに書き足す母音記号の担当となっています。
日本語のア・イ・ウを元気に勢い良くハキハキ言う時のイメージで発音しますが、しくみとしては「あさ」「いす」「うみ」といった具合にあ・い・うが語頭にある場合はアラビア語の語頭ハムザと一緒の発音になるので、特に意識しなくても大丈夫です。
+母音a | +母音i | +母音u |
---|---|---|
اَ | اِ | اُ |
’a [ ア ] | ’i [ イ ] | ’u [ ウ ] |
表記上隠れてしまっているハムザの持つ音価 [ ’ ] にそれぞれ短母音の a・i・u を足すと [ ’a ] [ ア ]・[ ’i ] [ イ ]・[ ’u ] [ ウ ] になります。
أَ إِ أُ と اَ اِ اُ に音や吐き出す息のの強弱といった違いはありません。前の語とつなげ読みする際に読み飛ばすかどうかの違いだけです。
アリフの発音とハムザとの関係
アリフからのハムザの切り分けという歴史
日本で発売されている詳しいタイプのアラビア語文法書では「アリフ自体は特定の子音を表さない」という説明が一般的です。
そのような本と同じ考え方の先生だと「昔はアリフの音価が現在のハムザの持つ声門閉鎖音/声門破裂音だったが、その後 ء [ hamza(h) ] [ ハムザ ] にバトンタッチ。現在はアリフは音価を持たないということになっている。」という説明をセットでされることも。
ただ調べてみるとわかるのですがアラビア語文法学ではアリフとハムザは完全に分離しきっておらず、1番目のアルファベットであるアリフがハムザを兼業しているとかアリフの実体がハムザだとか色々な説があるようです。
アラビア語のアルファベットを29個をする学説におけるアリフとハムザの位置づけ
このような違いがあるため、アラビア語アルファベットの1文字目をアリフ兼ハムザと見る場合はアルファベット数が28個、アリフとハムザを別に見る場合はアルファベット数が29個という扱いになります。
ただ文法書によっては1文字目がハムザで、長母音を形成するアリフの方は合字である لا [ lam ’alif ] [ ラーム-アリフ ] として現れると説明しているケースも。
エジプトの文法学専門家 عَبَّاس حَسَن [ ‘abbās ḥasan ] [ アッバース・ハサン ] 先生の著書『اَلنَّحْوُ الْوَافِى』[ ’an-naḥwu-l-wāfī ] [ アン=ナフウ・ル=ワーフィー ](*エジプト出版書籍なので語末の ي には点がついていません)によると、この場合はアリフが単体では発音できないことからラームにくっつけて登場させているという考え方をするそうで、メインはアリフなのだとか。
そしてこの説に従う場合はラーム-アリフ(=アリフ)を29個あるうちのアルファベットの1つと見るとのことです。
なおWright(ライト)の文法書では1文字目がアリフを台座にしたハムザで、合字ラーム-アリフはアルファベット順の最後にある و と ي の間に割り込ませて و لا ي と並べるのだという解説が載っています。(いわゆる長母音を形成する弱文字トリオ。)
アルファベット表のアレンジバージョン
1文字目がハムザとアリフを兼業しているとみなす場合
أ ا |
文字名 | 音価 | IPA | 月/太陽 | |
---|---|---|---|---|---|
أَلِفٌ | ’alif アリフ |
ʾ 当サイト: ’ ー |
ʔ
ー |
月
一 |
アルファベット順の1番目が実は声門閉鎖音/声門破裂音ハムザと長母音アリフを兼業しているとみなす説に従うとページ冒頭の表はこんな感じになるかと思います。
長母音アリフは長母音 ā そのものではなく直前の母音 a を長母音化する部品で特定の音価は示さないということで ー としました。
アリフと呼ばれていながらも声門閉鎖音/声門破裂音ハムザをも意味するこの兼業型ではこのような関係が成り立っていることになります。
アリフと呼ばれている1番目のアルファベット
- 声門閉鎖音/破裂音ハムザのことを指す
母音記号をつけた اَ اِ اُ はただの短母音 /a/ /i/ /u/ と等しくなるのではなく、その前に声門の破裂 /ʔ/ を伴う /ʔa/ /ʔi/ /ʔu/ であることを示します。日本語や英語では語頭の母音には一般的に声門閉鎖→破裂を伴うため同一視されやすいのですが意味合いに微妙な差異があります。 - 長母音アリフのことを指す
この長母音アリフは短母音 /a/ /i/ /u/ と等しいと見なされることはありません。その上これ自体が音価を持たないとされています。アリフ単独で長母音 ā(/aː/)を表すのではなく、直前の短母音 a を長母音化しており ā(/aː/)の記号から抜き出すとすると ā の上のーだけとか /aː/ の ː 部分だけと考えるのが適当なのではないでしょうか。
1文字目の実体がハムザだとみなす場合
أ | 文字名 | 音価 | IPA | 月/太陽 | |
---|---|---|---|---|---|
أَلِفٌ | ’alif アリフ |
ʾ 当サイト: ’ |
ʔ | 月 |
アルファベット順の1番目がアリフと呼ばれているだけで実はハムザのことだとする説に従うとページ冒頭の表はこんな感じになるかと思います。
لا | 文字名 | 発音 | IPA | 月/太陽 | |
---|---|---|---|---|---|
لَام أَلِف | lām(u)-’alif ラーム-アリフ |
lā | ー | ー |
アルファベット順の1番目がアリフと呼ばれているだけで実はハムザのことだとする説に従うと、長母音のアリフは و [ wāw ] [ ワーウ ](長母音 ū のつづりに使用)と ي [ yā’ ] [ ヤー(ゥ/ッ) ](長母音 ī のつづりに使用)にはさまれた後ろから2番目(29個のアルファベットのうち28番目)に置かれ、表としてはこんな感じになるかと思います。
アリフの発音に関する話題
アリフはアラビア語で唯一母音を示す文字?
アリフの音価が a・i・u で母音を示すという説明について
日本において本や学習サイトによっては「アリフはアラビア語アルファベットの中で唯一母音の音価を持っている文字」と説明されていることがありますが、
- 長母音を形成するアリフとして見た場合、母音を伴うことができず無母音(スクーン記号つき)のみでそれ自身が何らかの子音や母音を示す訳ではないという考え方になる。よって音価無しとの扱いに。
- 長母音アリフではなくアリフを台にした声門閉鎖音/声門破裂音ハムザとして見た場合、短母音を表すのではなく母音に先立つ声門閉鎖音/声門破裂音という子音 /ʔ/ の方を示すという考え方になる。
ため正確な記述とは言いづらいように思われます。
上でも書きましたが、アリフに母音記号がつくのはアリフとは名だけで実体は声門閉鎖音/声門破裂音である ء [ hamza(h) ] [ ハムザ ] [ ’ ] と見た場合になります。なので أَ إِ أُ も اَ اِ اُ も全く同じ発音で、閉じていた声門が開くという声門閉鎖→声門破裂後に母音の a i u を発音するため、厳密には /ʔa/ /ʔi/ /ʔu/ に。
アリフを台座としたハムザはそうした母音に先立つ声門閉鎖音/声門破裂音 /ʔ/ の方を示しており後続する母音 a i u はハムザに書き足す母音記号の担当なので、「アリフは母音を表す文字」は適切な解釈ではないように感じられる次第です。
文法書における記述
日本語の本ではまず見かけませんが、ハムザとアリフの話は海外で発売されている文法書には比較的詳しく書かれています。
John A. Haywood、H. M. Nahmad 著
『A new Arabic grammar of the written language』
Lund Humphries 刊
p.2
- The alphabet consists of 28 letters 中略, which are all consonants; three of them, however, ’alif, wāw, yā’, are also used as long vowels or diphthongs.
(アルファベットは28文字からなる(中略)、それらは全て子音だがそのうちの3つ(アリフ、ワーウ、ヤー)は長母音や二重母音としても使われる)
Karin C. Ryding 著
『A Reference Grammar of Modern Standard Arabic』
Cambridge University Press 刊
p.26
- In initial position, ’alif is not a vowel; it is always a seat for hamza or madda.
(語頭において、アリフは母音ではない。常にハムザかマッダ記号の台座となる。)
Eckehard Schulz 著
『A Student Grammar of Modern Standard Arabic』
Cambridge University Press 刊
p.5
- The first letter of the alphabet is actually Hamza, but since Alif is the chair of Hamza in most cases, it appears in its place as the first letter.
(アルファベットの1文字目は実はハムザだが、ほとんどの場合アリフはハムザの台座となっているため、アリフが1文字目の位置に登場している。)
Peter F. Abboud、Ernest N. McCarus 編集
『Elementary Modern Standard Arabic』
Cambridge University Press 刊
p.40
- In Arabic, every word beginning with a vowel is pronounced with initinal glottal stop
(アラビア語では母音で始まる語は全て最初に声門破裂音が伴う) - no syllable in Arabic can begin with a vowel(アラビア語では母音から始まる音節は無い)
- At the beginning of the word, hamza is always written with ا as its seat(語頭においてはハムザは常にアリフを台座とする)
これらの解説からも、アリフに母音記号が書いてあるように見えるものはハムザが実体でアリフは単なる台座であり、その部分がただの短母音ア・イ・ウを表しているのではなくそれらの母音の直前に起こる声門破裂音を示していることがわかります。
そしてアリフが単独で短母音ア・イ・ウの音を持っているのではないことが導き出せるかと思います。ア・イ・ウの音を示すのはアリフの上下についている母音記号であって、アリフ自体は音を持っておらず、表記上書かれず隠れているハムザに着目しなければいけないということになります。そしてアリフを台座にしているハムザも母音ではなく声門閉鎖音/声門破裂音という子音の一種を表します。
元々アラビア語のアルファベットは全て子音を示すということが詳しい文法書で述べられていること、ハムザが母音ア・イ・ウと共に発音されることが多いために母音とまるで同じであるかのようにセットでとらえられやすいと文法書に書かれていることからも、「アリフはア・イ・ウの母音」という風に覚えない方が良いように感じられます。