List of Arabic Given Names (Male) [ Arabic-Japanese ]
各種アラブ人名辞典(アラ-アラ、アラ-英)・中世から現代までのアラビア語大辞典・現地記事にて確認しながら日本語訳し、プラグインにデータ入力して作っています。「♪発音を聴く♪」をクリックすると発音サンプルの音声が流れます。
現地発刊のアラブ人名辞典5冊前後+串刺し検索で辞典を20~30冊ほどチェックし管理人の自分用メモとし、そこに創作・命名向け情報などをプラス。検索エンジンに全部載るよう全ネームを1ページに出力しています。長いので頭文字別ページや検索をご利用ください。
*アラビア語由来の名前を持っている人=アラブ系・アラブ人ではないので、トルコ、イラン、パキスタンなど非アラブ系の国における発音や表記とは区別する必要があります。(言語によってはアラビア語と少し意味が違ったり、アラブ男性名がその国の女性名になっていることも。)
* [ ] 使用項目/行数が少ない部分は未改訂の初期状態、【 】使用項目は改訂履歴あり。■ ■使用項目は直近改訂あり/新規執筆分で情報の正確性も高めの部分となっています。
*文藝春秋社刊『カラー新版 人名の世界地図』(著:21世紀研究会)巻末アラブ人名リストは当コンテンツの約1/3にあたる件数の人名・読みガナ・語義の転用と思われる事例となっていますが当方は一切関知していません。キャラ命名資料としてのご利用・部分的引用はフリーですが、商業出版人名本へのデータ提供許諾は行っていないので同様の使用はご遠慮願います。
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名前辞典の見方
カタカナ表記/アラビア語表記/英字表記/日本語での意味[補足]
アラブ人の名前はファーストネーム部分も家名部分も英字表記に揺れがあります。文語のつづりと母音記号に比較的忠実なこともあれば、口語で起きる二重母音の変化を反映したり子音が2個連続しているはずの部分を1文字だけで済ませているケースもありカタカナ化をする時に間違えやすいです。
英字表記については、使われ得るパターンをなるべくたくさん列挙するようにしているので、多用されないつづりも含んでいます。
たとえはハーリドの場合、KhalidとKhaalidのようにアーと長く伸ばす長母音āを1文字だけで表現するKhalidと2文字並べてKhaalidとする方法がありますが、アラブ人やアラビア語由来人名を持つイスラーム教徒が通常用いるのはKhalidの方です。キャラクターネーミングの際はアーを-aa-ではなく-a-、イーを-ii-ではなく-i-、ウーを-uu-ではなく-u-と当て字をしている英字表記を使うのが無難なのでおすすめです。
アラブ人名辞典-男性
母音記号あり:عَاقِل [ ‘āqil ] [ アーキル ] ♪発音を聴く♪
Aqil、Aaqil
知性ある、理性ある、理性的な 、分別がある、賢い(人);【アラビア語文法用語】(物事とは異なる知性ある存在としての)人間
■意味と概要■
能動分詞の男性形。動詞 عَقَلَ [ ‘aqala ] [ アカラ ](分別がある、理性がある;~を理解する)の動作主・行為者であることを示す。
アラビア語文法で「アーキル」は数や性の対応関係の項目でよく出てくる語で、具体的には知性を有する生命体である人間のことを指す。対義語は غَيْر عَاقِلٍ [ ghayr(u)/ghair(u) ‘āqil ] [ ガイル・アーキル ] で直訳は「知性的でない」、即ち「知性を持たないもの」である人間以外の動物や物事を指す。
■発音と表記■
口語的にiがeに転じた発音アーケルに対応した英字表記Aqel、Aaqelもある。携帯電話にアラビア語キーボードが無かった時代に普及したチャットアラビア語の影響からSNSのユーザーネーム等では語頭の ع [ ‘ayn/‘ain ] [ アイン ] を数字の3に置き換えた表記3aqil、3aaqil、3aqel、3aaqel等も派生し得る。
Aasii、Aasi、Asi、Aasy、Asyなど
不従順な、命令に従わない、反抗的な(者);反逆者;罪を犯す(者)、罪人;出血が止まらない血管
【 能動分詞の男性形。ベドウィン人名辞典によると難産ですんなり生まれてきてくれなかった男児だから、夫と喧嘩して家に戻るものかと反抗的になっていたさなかで産んだ男児だからつけた、といった命名の動機も元々はあったとか。
名将عَمْرُو بْنُ الْعَاصْ [ ‘amr(u) bnu-l-‘āṣ ] [ アムル・ブヌ・ル=アース ](アムル・イブン・アル=アース)のアル=アースはこのアースィーに定冠詞アルがついたアル=アースィーの休止形で、語末の長母音īが脱落したもの。アムル・イブン・アル=アースの父アル=アース・イブン・ワーイルは預言者ムハンマド迫害側の代表人物の一人。イスラーム教徒となった息子を監禁棄教を迫り毎日虐待。最後は天罰が下り落命したと言い伝えられている。】
【 sを2個連ねたAssi、Assyといった英字表記もあるがアッスィ、アッスィーと読むことを意図したものではないので要注意。
また日本語では外国語の「si」(スィ)部分に「shi」(シ)の音を当てることが広く行われているため、この人名に関してもアースィー、アスィ、アーシー、アシといったカタカナ表記が使われ得る。ただし子音のわずかな違いが言葉の意味を大きく変えてしまうアラビア語ではアースィーとアーシーでは全く違う名前になる。
アーシーという発音だと عَاشِي [ ‘āshī ] [ アーシー ] というアラビア語表記を連想、「夜盲症である、夜目がきかない」もしくは「夕食を食べる、夜ごはんを食べる;家畜が夜に牧草を食べる」といった概念に関連した同士の能動分詞(=行為者・動作主などを示す)のイメージにつながるので要注意。】
Aasim、Asim
護る者、防御者
【 能動分詞の男性形。】
【 日本語的なカタカナ表記ではアーシムになっていることも多いがshi(シ)の音ではなく重たく発音するこもった感じのsi(スィ)。またアラビア語の英字表記されたsはズィやジと濁らない。
また長母音の場所を変えてアスィームとしたり、さらに濁点をつけて読んでしまいアジームとすると全く違う語形となりもはや「護る者、防御者」の意味をなさないので要注意。ただし英語圏など非アラブ諸国では原語とは違う発音がされている可能性も高いので現地発音に沿ってカタカナ化する必要あり。】
Aazim、Azim
決意した、決心した(者)
【 能動分詞「~している」「~する者」の男性形。】
【 口語風にiがeに転じてアーゼムに近くなった発音に対応した英字表記はAazem、Azem。】
Aadam、Adam
アーダム
【 最初の人間でイスラームの預言者でもあるアーダム(アダム)の名前。アラビア語では بَنُو آدَم [ banū ’ādam ] [ バヌー・アーダム ](アーダムの子孫たち)は人類、人間のことを指す。】
Aaatif、Atif
同情している、優しい(人)
【 能動分詞の男性形。】
【 口語風にiがeに転じたアーテフという読みに対応した英字表記はAatef、Atef。】
発音記号あり:عَادِل [ ‘ādil ] [ アーディル ] ♪発音を聴く♪
Aadil、Adil
公平な、公正な(人)
【 能動分詞の男性形。継続的な性質を示す能動分詞(品詞としては名詞)のため形容詞的意味を帯びている。定冠詞 اَلْـ [ ’al- ] [ アル= ](al-)がついて اَلْعَادِل [ ’al-‘adīl ] [ アル=アーディル ] となっている場合は「公正なる王」といった限定名詞への修飾のため定冠詞がついている、「公正なる者」という称号として王を呼ぶのに使うなどするケースのため、男性のファーストネームとして使う場合は定冠詞 اَلْـ [ ’al- ] [ アル= ](al-)抜きの عَادِل [ ‘ādil ] [ アーディル ] が推奨。】
【 口語風にiがeに転じた発音アーデルに対応した英字表記はAadel、Adel。携帯電話にアラビア語キーボードが無かった時代に普及したチャットアラビア語の影響から、SNSのユーザーネーム等では語頭の ع [ ‘ayn/‘ain ] [ アイン ] を数字の3に置き換えた3aadil、3adil、3aadel、3adelも用いられている。日本語カタカナ表記としてはアーディル、アディル、アーデル、アデルが使われ得る。】
母音記号あり:عَابِد [ ‘ābid ] [ アービド ] ♪発音を聴く♪
Aabid、Aabid
崇拝する者、崇拝者、しもべ
【 動詞 عَبَدَ [ ‘abada ] [ アバダ ](~を崇拝する)の動作主・行為主であることを表す名詞(能動分詞)の男性形で「崇拝している(もの/者)、崇拝する(もの/者)、崇拝者、しもべ」。男性名としても用いられる名詞 عَبْد [ ‘abd ] [ アブド ](しもべ、奴隷;崇拝者、僕)と同じ語根を共有する姉妹語。】
【 口語(方言)風にiがeに転じた発音アーベドに対応した英字表記はAbed、Aabed。本人名に対応する主な日本語カタカナはアービド、アビド、アーベド、アベド。】
Aamir、Amir
住んでいる、居住している、居住者;建設者;人々がそこに住んでいる、(場所として)栄えている;長生きの
【 能動分詞の男性形。】
【 口語風にiがeに転じた発音アーメルに対応した英字表記はAamer、Amer。】
Aarif、Arif
知っている、知識ある、博識な(者)
【 能動分詞の男性形】
【 口語風にiがeに転じた発音アーレフに対応した英字表記はAaref、Aref。日本語のカタカナ表記ではアリフ、アレフと書かれていることも。】
Aalim、Alim
知識がある(者)、学がある(者);学者
【 能動分詞の男性形。عِلْم [ ‘ilm ] [ イルム ](知識、学)に関連した性質を有している者や仕事をしている者を指す。】
【 口語的にiがeに転じアーレム寄りになった発音に即した英字表記Aalem、Alemなどもある。】
Ayham、Aiham
勇敢で豪胆な男、撃退することがかなわない勇敢な男;到達・登頂が難しい高くそびえ立つ山;星が無い(真っ暗な)夜;滑らかな石
【 2010年前後にパレスチナで流行した男児名。パレスチナ付近にあったガッサーン朝(王国)最後の王の父親の名前でもあった。ガッサーンはキリスト教を信仰するアラブ系部族で、イスラーム軍に敗れイスラーム化した。
アラビア語で اَلْأَيْهَمَان [ ’al-’ayhamān(i)/’aihamān(i) ] [ アル=アイハマーン(語末まで全部読む場合はアル=アイハマーニ) ](意味は「2つのアイハム」)は打ち勝つことが難しい2つの存在である「激流・洪水」と「興奮して暴れまわるラクダ」を指すという。 】
【 二重母音ay/aiが口語風にエイやエーになったエイハム、エーハムという発音に即した英字表記はEyham、Eiham、Ehamなど。】
Ayman、Aiman
幸運/安寧/祝福を授かった(者)、幸運な(者);右の
【 يُمْن [ yumn ] [ ユムン ](幸運、好運;成功、繁栄)に恵まれていることを意味する形容詞的語形。もしくは يَمِين [ yamīn ] [ ヤミーン ](右)であることを示す。】
【 二重母音ay/aiが口語風にエイやエーになったエイマン、エーマンという発音に即した英字表記はEyman、Eiman、Emanなど。ただしEmanは女性名 إِيمَان [ ’īmān ] [ イーマーン ] の場合がほとんど。またIで [ アイ ] と読ませる意図のImanも見られるが、こちらも女性名イーマーンに使うのが普通。】
Ayyaash、Ayyash、Aiyaash、Aiyashなど
たくさん生きている、長生きの(人)
【 能動分詞 عَائِش [ ‘ā’ish ] [ アーイシュ ](生きている(者))の強調語形。たくさん生きている、長く生きているといった意味合いになりその度合い・長さ・回数が強調されている。なおアイヤーシュの語形は能動分詞の強調以外にも職業を示す語形としても使われることから عَيْش [ ‘aysh/‘aish ] [ アイシュ(口語発音はエイシュ、エーシュ) ](通常はパンのことだが米食地域では米・白飯を指す)屋・売り、つまりはパン売り・パン屋という意味で使うこともあるとのこと。】
【 [ ‘ayyāsh ] の「ay」部分は二重母音「ai」となるため発音表記が‘ayyāshと‘aiyāshが混在している。どちらもアイヤーシュという発音を示しており、重子音化記号シャッダ(ـّ)がついていても促音化させアッシャーシュとするのは正確なカタカナ表記ではないので要注意。
英字表記についてはyyを1個だけに減らしたAyashというバリエーションもある。語末のshをchで表記したフランス語圏風のAyyach、Ayachなどもしばしば見られるがアイヤッチやアヤッチという読みを意図したものではなくこのアイシャーシュの表記違い。】
Ayyuub、Ayyub、Ayyoub、Ayyoob
アイユーブ
【 イスラームにおける預言者の名前。聖書に出てくるヨブに相当。唯一神アッラーに対する揺らぎない信仰を試すべくシャイターン(悪魔)が次々と彼に不幸を起こした。財産の喪失・家族の死・体を蝕む病・孤独…最後に報われて苦しみから救われるものの、数々の苦難に陥った人生を想起させることからアイユーブという名前を我が子には命名しない親も少なからずいるという。】
【 yを1個だけに減らしたAyuub、Ayub、Ayoub、Ayoobといった英字表記も見られる。なおアラビア語ではay部分が二重母音aiになるためアッユーブではなくアイユーブと発音するので要注意。】
Aws、Aus
狼;贈り物;補償、代償
【 元々はギリシア語由来だと言われるが古くにアラビア語化されアラビア語とみなされている。ジャーヒリーヤ時代はأَوْسُ مَنَاة [ ’aws/’aus manā(h) ] [ アウス・マナー ](女神マナートの贈り物)という複合名があったが、イスラーム誕生により多神教の神の名前を含む名前は改名され أَوْسُ اللهِ [ ’aws/’ausu-llāh ] [ アウスッラーフ(語末まで厳密に読む発音ではアウスッラーヒ) ] に置き換わったという。
イスラーム共同体初期、マッカ(メッカ)から逃れた預言者ムハンマドらの一行を迎えた教友(サハーバ)であるアンサール達は الأوس [ アル=アウス ] 族と الخزرج [ アル=ハズラジュ ] 族に属していた。どちらも元々同じ祖先を持つ部族で、حارثة [ ハーリサ ] という男性の息子アウスとハズラジュを分家の祖とした。
預言者ムハンマドの教友でアンサールだった أوس بن جبير الأنصاري [ アウス・ブヌ・ジュバイル・ル=アンサーリー ](アウス・イブン・ジュバイル・アル=アンサーリー)はハズラジュ系統の支族の出身。】
【 語頭の’aw/’au部分は二重母音で口語発音ではオウ、オーになることからオウス、オース寄りの読みに基づいたOws、Ous、Oos、Osが派生し得る。】
母音記号あり:عَوْف [ ‘awf / ‘auf ] [ アウフ ] ♪発音を聴く♪
Awf、Auf、Aoufなど
獅子(ライオン);狼(オオカミ);家族のために懸命に働く人、家族を養うためあくせく働く男性;状態、状況;客、客人;仕事;恵み;分け前、持ち分;鶏(ニワトリ)、雄鶏(おんどり);(吉凶を占う際の前兆・鳥占いの吉凶の表れ・様相としての)鳥;運勢;オスのバッタ;かぐわしい香りがする植物の一種の名前
■意味と概要■
色々な意味を持つ単語。通常は一般的・基本的名称 أَسَد [ ’asad ] [ アサド ] などと呼ばれる獅子(ライオン)の指すのにも使用、夜に獲物を追い求める様子からつけられた属性名・別称だという。
「(吉凶を占う際の前兆という意味で)鳥」という語義についてはイスラーム以前(ジャーヒリーヤ時代)にあったアラブの迷信と関連しているもので、当時は鳥が飛ぶ方向によって幸運・不運の前兆が示されるという考えによる。アラブの伝統的な鳥占いでは、右の方を飛ぶ=吉兆、左の方を飛ぶ=凶兆、前の方に飛ぶ=凶兆、後ろの方に飛ぶ=吉兆、ヤツガシラ=吉兆の鳥、カラス=凶兆の鳥という扱いだった。(→アラブ研究者堀内勝先生ブログ『夜の旅人 研究ブログ~カラスの俗信、吉凶、鳥占、薬膳、夢占い』に詳細な説明あり。)
■発音と表記■
[ ‘awf / ‘auf ] [ アウフ ] の「aw」部分は二重母音「au(アウ)」として発音されるため-aw-を含むAwf等と-au-を含むAuf等との2系統が混在、どちらもアウフという発音を示している。
学術的な発音表記では1文字目のع(アイン)を示す際に記号の「‘」や「ʿ」を使ったりするが、一般的なアラブ人名・アラビア語由来人名の英字表記(ラテン文字表記)では‘Awf、‘Aufなどではなく単に記号無しのAwf、Aufとつづる方が圧倒的に多い。またフランス語の影響を受けている地域だとウ音をouで表現するため、Aoufという当て字でアオウフではなくアウフと読ませるので要注意。
アラビア語文語の二重母音「aw(=au、アウ)」部分は日常会話・口語ではou(オウ)もしくはō(オー)音になることが多く、オウフに対応したOwf、Ouf、Oaf(*英語のloafのように-oa-部分をオウと読むことを意図したものと思われる)オーフに対応したOof、そしてOofの-oo-を1文字に減らしたOf(*オーフを意図しているため、オフや英語風に濁点ありのオブなどとカタカナ表記しないよう要注意)といった英字表記が見られる。
またアウフは実際に発音するとアオフに近く聞こえることもあるせいか、アオフとしか読めないような当て字であるAofといった英字表記の使用も行われている。
携帯電話にアラビア語キーボードが無かった時代に普及したチャットアラビア語の影響からSfSのユーザーネーム等では語頭の ع [ ‘ayf/‘aif ] [ アイン ] を数字の3に置き換えた3owf、3ouf、3oaf、3oof、3of、3aof、3aoufといった表記も見られる。(注:3は喉付近を力む動作に対応したものなので、3owfはスリーオウフ等とはカタカナ化せず、3aはア、3oはオと当て字を行う。)
母音記号あり:عَوْن [ ‘awn / ‘aun ] [ アウン ] ♪発音を聴く♪
Awn、Aun、Aounなど
助け、援助、支援、助力;支援者、援助者
■意味と概要■
通常の名詞としては「召使い、使用人」「ボディーガード、護衛」といった語義もあるが、アラブ人名辞典で第一の意味として挙げられているのは「助け、援助、支援、助力」「支援者、援助者」。
ファーストネームだけでなく男性名由来のラストネーム(≒ファミリーネーム、家名)としてアラブ人名のフルネームに含まれることもしばしば。レバノン元大統領の مِيشَال عَوْن [ つづり通りの発音:mīshāl ‘awn/aun ] [ ミーシャール・アウン(実際にはミーシェール・アウン等と発音)](ミシェル・アウン)のラストネームであるアウンもその一例。
■発音と表記■
[ ‘awn / ‘aun ] [ アウン ] の「aw」部分は二重母音「au(アウ)」として発音されるため-aw-を含むAwn等と-au-を含むAun等との2系統が混在、どちらもアウンという発音を示している。
学術的な発音表記では1文字目のع(アイン)を示す際に記号の「‘」や「ʿ」を使ったりするが、一般的なアラブ人名・アラビア語由来人名の英字表記(ラテン文字表記)では‘Awn、‘Aunなどではなく単に記号無しのAwn、Aunとつづる方が圧倒的に多い。またフランス語の影響を受けている地域だとウ音をouで表現するため、Aounという当て字でアオウンではなくアウンと読ませるので要注意。
アラビア語文語の二重母音「aw(=au、アウ)」部分は日常会話・口語ではou(オウ)もしくはō(オー)音になることが多く、オウンに対応したOwn、Oun、Oan(*英語のloanのように-oa-部分をオウと読むことを意図したものと思われる)オーンに対応したOon、そしてOonの-oo-を1文字に減らしたOn(*オーンを意図しているため、オンとカタカナ表記しないよう要注意)といった英字表記が見られる。
またアウンは実際に発音するとアオンに近く聞こえることもあるせいか、アオンとしか読めないような当て字であるAonといった英字表記の使用も行われている。
携帯電話にアラビア語キーボードが無かった時代に普及したチャットアラビア語の影響からSNSのユーザーネーム等では語頭の ع [ ‘ayn/‘ain ] [ アイン ] を数字の3に置き換えた3own、3oun、3oan、3oon、3on、3aon、3aounといった表記も見られる。(注:3は喉付近を力む動作に対応したものなので、3ownはスリーオウン等とはカタカナ化せず、3aはア、3oはオと当て字を行う。)
母音記号あり:عَقِيل [ ‘aqīl ] [ アキール ] ♪発音を聴く♪
Aqil、Aqiil、Aqeelなど
知性ある、理性的な 、分別がある、賢い(人);(人・女性・ラクダなど)人民・集団の間の高貴な者、人民・集団の中でも長たる上位の身分の者;(言葉といった物事の中でも特に)希少・貴重な・最良の(物事);(海で採れる澄んだ色の大粒な)真珠;縛られた、拘禁された(もの/者)
■意味と概要■
男性のファーストネーム以外にも男性名由来のラストネーム(家名、ファミリーネーム)としてもしばしば用いられる。古くからあるアラブ男性名で、イスラーム初期に預言者ムハンマドらの仲間として活動し後に第4代正統カリフ/初代シーア派イマームともなったアリーの兄弟がこのアキールという名前だった。
文法的には受動態的な意味を持つ分子類似語形である فَعِيلٌ [ fa‘īl(un) ] [ ファイールン ] 型で、アラビア語辞典やアラブ人名辞典では受動分詞 مَعْقُولٌ [ ma‘qūl ] [ マアクール ] に似た語義を持つと書かれているなどする。
元になる動詞 عَقَلَ [ ‘aqala ] [ アカラ ] には「理性的である、分別がある」「理解する」という理性・分別に関連する語義と「(ラクダがいなくならないよう動き・行動範囲を制限するために脚を)縛る」「拘禁する」という語義の2通りがあり、そこから派生する عَقِيل [ ‘aqīl ] [ アキール ] も受動分詞 مَعْقُول [ ma‘qūl ] [ マアクール ] と同様の語義を含む。アキールの意味の一つとして「縛られた、拘禁された」などが挙げられているのはそのため。
■発音と表記■
長母音ī(イー)部分の当て字は複数通りあり、Aqil、Aqiil、Aqeel以外にもAqeelのeeをe1個に減らしたAqel、Aquilといった英字表記が用いられている。アラビア語としてAqelをアケル、アーケル、アケール、Aqeelをアケール、Aquilをアクイル、アキュイルとカタカナ表記するのは誤読に当たるので要注意。
またqを発音部位が近いkに置き換えたAkil、Akiil、Akeel、Akelなども広く用いられているが、全くの同じ人名。
英字表記についてはAqilは同じ語根を共有する姉妹語で男性名としても用いられる عَاقِل [ ‘āqil ] [ アーキル ] の英字表記Aqil、Aqelは عَاقِل [ ‘āqil ] [ アーキル ] の口語風発音アーケルに対応した英字表記のAqelとかぶるので要注意。アラビア語など原語での発音やつづりを確認の上区別する必要がある。
また携帯電話にアラビア語キーボードが無かった時代に普及したチャットアラビア語の影響からSNSのユーザーネーム等では語頭の ع [ ‘ayn/‘ain ] [ アイン ] を数字の3に置き換えた表記3aqil、3aqiil、3aqeel、3aqel、3akil、3akeel、3akel等の使用もしばしば見られる。
なお、アラビア語表記上では母音記号が無いと全く同じつづり عقيل となる男性名に縮小名詞語形である عُقَيْل [ ‘uqayl / ‘uqail ] [ ウカイル ] がある。アラビア語表記のみが書かれている場合は実際の発音や英字表記で عَقِيل [ ‘aqīl ] [ アキール ] と区別する必要あり。
عَقِيل [ ‘aqīl ] [ アキール ] に対する日本語カタカナ表記としてはアキール、アキルがある。
母音記号あり:أَكْرَم [ ’akram ] [ アクラム ] ♪発音を聴く♪
Akram
より/最も寛大な(者);より/最も気前が良い(者);より/最も高貴な(者)
【 比較級(より~な)・最上級(最も~な)語形。男性名 كَرِيم [ karīm ] [ カリーム ](寛大な、高潔な;気前が良い;高貴な)の意味合いを比較級もしくは最上級にしたのが أَكْرَمُ [ ’akram ] [ アクラム ] の意味となる。】
母音記号あり:عَقْل [ ‘aql ] [ アクル ] ♪発音を聴く♪
Aql
知性、理性、理解力;精神、心;意識、認識;(動き回らないようにするためラクダの脚を縄で)縛ること;血債(血の代償金、血の代金)
■意味と概要■
語形としては動詞 عَقَلَ [ ‘aqala ] [ アカラ ](理性的である、理性がある;理解する;(ラクダの脚)を(ロープで)縛る;~を拘禁する)の動名詞で文法的には男性名詞として扱われる。元々はラクダなどの家畜が自由に歩き回って他所に行ってしまわないようにするために脚に縄をかけて動きを制限することを表す語だったが、理解や認識といった語義に発展した。
عَقْل [ ‘aql ] [ アクル ] はこの他にもイスラームにおいて規定されている殺人時の遺族向け代償金ディヤを指すこともするが、男性名としても使われるのは「知性、理性」「理解、認識」などの意味で、アラブ人名辞典にはラクダの脚の緊縛や血の代償金といった語義までは載っていないことが多い。
■発音と表記■
真ん中の2文字に母音がつかない(無母音)の عَقْل [ ‘aql ] [ アクル ] という語形は語末母音の発音が省略される口語(アーンミーヤ)では無理が出ることから補助母音が入りやすく、方言によっては عَقِل [ ‘aqil ] [ アキル ] や母音iが口語的にe寄りになった [ ‘aqel ] [ アケル ] に近い発音に変化することも。それらの発音に対応した英字表記としてAqil、Aqelなどが用いられている。
またアラビア半島などベドウィン系方言などでは ق(q)の発音が文語アラビア語(フスハー、正則アラビア語、現代標準アラビア語)に存在しない g に置き換わるなどするため、ネットの人名やユーザーネームの英字表記には عَقْل [ ‘agl ] [ アグル ] に対応したAgl、عَقِل [ ‘agil ] [ アギル ] に対応したAgil、عَقِل [ ‘aqel ] [ アゲル ] 寄り発音に対応したAgelといった英字表記も使われているが、前部同じ男性名の発音揺れ・表記揺れに当たる。
母音記号あり:أَسَد [ ’asad ] [ アサド ] ♪発音を聴く♪
Asad
ライオン、獅子;勇敢な男、勇猛な男
■意味と概要■
ライオンを意味するアラビア語で最も一般的な名詞。獅子は勇敢・勇猛・猛者の代名詞。長年の間部族同士が衝突・戦争を繰り返し外敵と戦うこともあったアラブ社会では勇敢で死を恐れない戦士であることは重要な資質の一つでもあった。またイスラーム教のために奮闘する勇猛な闘士の形容にもしばしば用いられる。
■家名として■
【シリアのアサド家】
シリア大統領のアサド家はアラビア語だと定冠詞のついた اَلْأَسَد [ ’al-’asad ] [ アル=アサド ](「the Lion」の意)で一族の祖・家長の本名ではなく通称(ラカブ)が家名化したもの。
アサド家の父祖は元々野獣という意味の اَلْوَحْش [ ’al-waḥsh ] [ アル=ワフシュ(実際にはアル=ワハシュに近い発音)](一般的英字表記はal-Wahsh)の二つ名で知られ、それ以前に名乗っていた元々のラストネームに代えて新たな家名としてアル=ワフシュを名乗るようになったという。(反体制派が同家の元々のルーツと噂されるイラク-イラン付近クルド人地域の地名にちなむ本来のラストネームだとして البهرزي [ ’al-bahrazī ] [ アル=バフラズィー(/アル=バハラズィー) ] を敢えて使っているのもそのため。)
しかし後々になってさすがに اَلْوَحْش [ ’al-waḥsh ] [ アル=ワフシュ(/アル=ワハシュ)](野獣、けだもの)というネーミングはイメージ的にも良くないということで同じく勇猛さを意味する اَلْأَسَد [ ’al-’asad ] [ アル=アサド ](ライオン、獅子)家に改名したと言われている。
【ブラジルのアサド(Assad)ファミリー】
ブラジルには有名な音楽家一族である「アサド(Assad)」ファミリーがいるが、一族がレバノン系移民であることに由来するアラビア語家名で「獅子、ライオン」という意味の男性名が元になっている。
■発音と表記■
sを2個連ねたAssadという英字表記もあるが、フランス語圏で濁点がついたザで読まれることを防ぐためにssと連ねるといった理由などから多用されている当て字で、アッサドやアッサードと読むことを意図したつづりではないので要注意。
なお英字表記のAsadは「獅子、ライオン」という意味の أَسَد [ ’asad ] [ アサド ] だけでなく、「より/最も幸福な・幸運な」という意味の名詞・形容詞 أَسْعَدُ [ ’as‘ad ] [ アスアド ] にも使われる当て字なので、実際の発音や元のアラビア語のつづりを見ないと区別できないケースもある。
Ashraf
より/最も高貴な
【 比較級(より~な)・最上級(最も~な)の語形。男性名 شَرِيف [ sharīf ] [ シャリーフ ](高貴な、名家出身の、名誉ある)の意味合いを比較級もしくは最上級にしたのが「アシュラフ」の意味となる。】
【 フランス語圏ではsh部分をch表記するのが一般的でAchrafと書かれる。】
As'ad、Asad
より/最も幸せな、より/最も幸福な、より/最も幸運な
【 比較級(より~な)・最上級(最も~な)語形。男性名 سَعِيد [ sa‘īd ] [ サイード ](幸せな、幸福な、幸運な)の意味合いを比較級もしくは最上級にしたのが「アスアド」の意味となる。】
【 英字表記では「'」を通常入れないので、أَسَد [ ’asad ] [ アサド ](獅子、ライオン)のAsadと見た目上全く同じつづりになってしまうので混同に注意。アラビア語表記や本人の名前の発音を実際に聞かないとAsadがアスアドなのかアサドなのか判別できないため。】
母音記号あり:عَزِيز [ ‘azīz ] [ アズィーズ ] ♪発音を聴く♪
Aziiz、Aziz、Azeez
力強い、強力な;親愛なる
■発音と表記■
日本語カタカナ表記ではAzeezをアゼーズとしていることが多いが、アラビア語に忠実なカタカナ表記ではアズィーズとなる。英語圏、フランス語圏、ドイツ語圏などの移民先での呼ばれ方・読まれ方についてはまた別なので現地メディアなどで発音を確認する必要あり。
またアズィーズに関してはAzeezのeeを1個に減らしたAzez、英語のseize(スィーズ)のように長母音「ī(イー)」部分を「ei」で表現したAzeizといった英字表記も見られるが、アゼズ、アゼッズ、アゼイズではなくアズィーズという発音を意図したものなので要注意。
日本では外国語単語に含まれるzi(ズィ)音をji(ジ)で当て字してカタカナ化する慣例があるため、このアズィーズというアラビア語人名も日本で長い間使われてきたアジーズやアジズの方でカタカナ表記されていることが多く、創作などにおいても「アズィーズはなんとなく発音しにくいので」「アジーズの方が馴染みがあるから」といった理由からアジーズ、アジズ表記のキャラクター名ネーミングがポピュラーだと言える。
しかしながらアラビア語ではzi(ズィ)音をji(ジ)音に置き換えてアジーズやアジズといった響きにしただけで全く別の意味を表す完全に別物の単語に変貌してしまうので注意が必要だと思われる。عَجِيز [ ‘ajīz ] [ アジーズ ] は「性的不能になって女性と性行為ができない男性;交尾ができなくなった(種牡馬などの)種牡・種雄」。عَجِز [ ‘ajiz ] [ アジズ ](尻)という意味になる。人名としては不適切な内容なので、個人的にはアジーズにしないと読者受けが良くないといった事情が無い限りはアズィーズ表記を推奨。
Asiim、Asim、Aseemなど
【 近年になって男児の命名に使われるようになった新造のマイナー男児名。アラビア語の赤ちゃん命名サイトでは「家畜を放牧場に出す者」「視線を投げかける者」という意味も与え得るとはしているものの、辞書には載っていない。語源がはっきりたどれる人名ではなく、音的に良い感じだからと使われているもの、と説明している命名サイトもある。
アラビア文字上は同じつづりの男性名が別にあるが、そちらは أُسَيْم [ ’usaym/’usaim ] [ ウサイム ] と発音する全く別の男性名。ウサイムは男性名としても多用される أُسَامَة [ ’usāma(h) ] [ ウサーマ ](ライオン、獅子)の縮小形で「小さな獅子」という意味を示す。】
【 sを2個連ねたAssiim、Assim、Asseemといった英字表記も派生し得るが、主に濁点の「ズィ」になることを回避するためのつづりだったりするのでアッスィーム、アッスィムと読むのを意図している訳ではない。なお日本語によくあるカタカナ表記だとアシームだが、元はshではなくsの音である。また英語と違いsは濁点をつけることがないので、アラビア語としてはAsimをアズィームやアジームと読むことはしない。】
Asiil、Asil、Aseel
純血の、血筋・血統の良い;本物の、真正の;固有の
【 純血アラブ馬の「純血の」 といった表現に用いる形容詞。】
【 日本語のカタカナ表記ではアシール、アシルとなっていることが多い。】
Azhar
(より/最も)光っている、輝かしい、光り輝ける;(より/最も)顔が光り輝いている;色白で星や灯火のように輝ききらめく美貌の男性;真っ白な(もの)、輝かしい(もの);月(の別名);ミルク、乳;金曜日
【 動詞 زَهَرَ [ zahara ] [ ザハラ ](輝く)、زَهِرَ [ zahira ] [ ザヒラ ]((人の顔色などが)美しい、色白で肌色が輝かしく澄んでいる)と語根 ز - ه - ر(z - h - r)を共有する関連語。月・星や灯火が輝いている様子やそれらのごとくきらめいて輝いているもの・色が白いものを指すなどする。これらと結びつけた色白・輝くような肌色が美男の表現になるのはアラブにおける非常に古くからある美貌感が理由。
2つあることを示す双数形 اَلْأَزْهَرَانِ [ ’al-’azharān(i) ] [ アル=アズハラーン /(語末母音まで読む場合)アル=アズハラーニ ] で太陽と月を指す用法もある。いずれも光り輝くことから。
比較級・最上級の語形だが普通の形容詞の語形ともかぶっており、実際に比較・最上のニュアンスを含まない形容詞としても使われる。そのため「アズハル」でも単に「光り輝いている」という意味で「最も」という含みが無いことも。
エジプトの宗教機関アル=アズハルはこの「光り輝ける」という意味で、預言者ムハンマドの娘でありアリーと結婚したファーティマの称号 اَلزَّهْرَاء [ ’az-zahrā’ ] [ アッ=ザフラー(ゥ/ッ) / アッ=ザハラー(ゥ/ッ) ] (光り輝ける(者))の男性形が由来だとも言われている。シーア派(イスマーイール派)だったファーティマ朝のアリー、ファーティマ一家への崇敬との関連性があるとされる命名だが、ファーティマ朝以後エジプトは再び統治者がスンナ派となりアズハルもシーア派からスンナ派学府へと転換した。】
【 英字表記Azharは女性名 أَزْهَار [ ’azhār ] [ アズハール ](英字表記:Azhaar、Azhar。زَهْر [ zahr ] [ ザフル/ザハル ](花)の複数形で「花々」の意味)のAzharとかぶってしまうので要注意。Azharと英字表記された名前を持つ人物が男性ならアズハル、女性ならアズハール。】
母音記号あり:أَصْلَان [ ’aṣlān ] [ アスラーン ] ♪発音を聴く♪
Aslaan、Aslan
獅子、ライオン
■概要■
日本ではアルスラーン、アルスランというカタカナ表記が多い男性名 أَرْسَلَان [ ’arsalān ] [ アルサラーン ] と同様にオスマン語・トルコ語から輸入された外来人名で「獅子、ライオン」の意味。キャラクターネーミングで用いられるアスラーン、アスランはこの人名のこと。
テュルク系言語・オスマン語・トルコ語で使われてきた男性名アルスラーン(アルスラン)、アスラーン(アスラン)のうちアラブ世界に定着し一部の詳しいアラブ人名辞典にも載っているのは前者の方。
アルサラーン(アルスラーン)はアッバース朝初期にイラク方面から来たラフム朝統治者一族出身男性アルサラーン(アルスラーン)を父祖とする家名としてレバノンで有名。先祖が移住してきた西暦700年代から有名家系として延々と続いており、現代でも国会議員を輩出するなどしている。一方アスラーン(アスラン)の方は名辞典等に掲載されていないことが多くアスラーン(アスラン)という名前を持つアラブ人男性も非常に少ない。
ネット等でも「アスラーンはトルコ人の名前だよ」「アスラーンはトルコ語でライオンって意味だそう、アラビア語の男性名 أَسَد [ ’asad ] [ アサド ] とか لَيْث [ layth / laith ] [ ライス ] とかと同じだね」と書かれているなど、アラブ人名として定着・浸透したものではないことがうかがえる。
元々アラブ世界では獅子、ライオンという意味の人名アサド、ウサーマ、アッバース、ガダンファル、ディルガーム、フィラース、ライフ、バースィル、アッザーム、サーリー、サーリヤ、ハーディー、ハーリス、ハイダラ、ハイダル、ファーリスなどがある。アルサラーン(アルスラーン)はそれらの伝統的アラブ人名に比べるとテュルク系・トルコ系のイメージが強い男性名であるためアラブ人キャラのネーミングに使える典型的アラブネームであるとは言い難い。さらにアスラーン(アスラン)はそれよりもマイナーであることから、アラブ系キャラ命名には非推奨。
なおネットで出回っている
●トルコ語などで獅子を意味するアスラーン(アスラン)だがアラビア語では「昼下がりに、午後に」という意味の عَصْرًا [ ‘aṣran ] [ アスラン ] が由来の男性名。
●アスランはアラビア語で「夜明け、暁」という意味の男性名。
といった情報はいずれも誤報で、「アスランは昼下がり、午後」説については単にカタカナ表記が同じだという理由からアラビア語では全くつづりの違う単語を人名の語源として解釈してしまったのが原因だと思われる。
オスマン語(オスマン朝時代のトルコ語)で使われていた「獅子、ライオン」という意味の男性名は أَصْلَان [ ’aṣlān ] [ アスラーン ]、アラビア語で「昼下がりに、午後に」を意味するのは عَصْرًا [ ‘aṣran ] [ アスラン ] という名詞対格の副詞用法、アラビア語で「夜明け、暁」は فَجْر [ fajr ] [ ファジ(ュ)ル ] という具合に、「アラビア語にアスランという男性名がある」「トルコ語で獅子(ライオン)という意味のアスラーン(アスラン)と違って午後の意味」「アスランというアラビア語人名は午後3時ぐらいのことらしい」といった言説は全て混同や誤解によるものだと言える。
ちなみにアラビア語には多少似た語 أَصْلًا [ ’aṣlan ] [ アスラン ] がある。名詞対格の副詞的用法で、意味は「元々は、当初は」の意味。つづりも発音もトルコ男性名アスラーン(アスラン)に類似しているが無関係で、أَصْلًا [ ’aṣlan ] [ アスラン ] で人名として使われることは無い。
■発音と表記■
アラビア語における発音はアスラーンで対応する英字表記としてはAslaan、Aslanがある。日本語のカタカナ表記としてはアスラーンの他に長母音部分が短母音化したアスランが挙げられる。
Ataa、Ata
与えられた物、贈り物、授かり物
【 語頭にある喉を引き締めて発音するアインという子音に相当する「'」は通常のアラブ人名英字表記では用いられないためただのAtaaやAtaと書かれることが一般的。語末に長母音āと声門閉鎖音/声門破裂音ハムザがあるため厳密にはアターゥ、アターッのような発音となるが、口語などではアターのように聞こえることが多い。なおtを2個連ねたAttaa、Attaという英字表記もあるがアッター、アッタという発音を意図するものではない。】
Azzaam、Azzam
強く決意している、強く決心している(者)、非常に意志が強い(者);ライオン/獅子の別名
【 能動分詞男性形 عَازِم [ ’āẓim ] [ アーズィム ](決意した、決心した(者))をより強い意味にした強調語形。単に決意したのではなく、その決心ぶりが強い・激しいこと、確固たる決意を胸に抱いておりそれが決して揺るがない様子を示す。】
【 長母音āがē寄りになる方言におけるアッゼームに近い発音に即したAzzemといった表記も見られる。】
母音記号あり:عَبَّاس [ ‘abbās ] [ アッバース ] ♪発音を聴く♪
Abbaas、Abbas
(嫌悪感や怒りから)眉をひそめることが多い、しかめ面をやたらとする、度々渋面をする、苦い表情をやたらとする(男);(他の獅子たちが逃げ出すほどの)獅子、ライオン;厳しい(一)日
■意味と概要■
能動分詞男性形の強調語形。動詞 عَبَسَ [ ‘abasa ] [ アバサ ]((嫌悪感や怒りから)眉をひそめる、眉間にしわを寄せる、顔をしかめる)の動作主・行為主であることを意味する能動分詞(行為者名詞)の基本語形である عَابِس [ ‘ābis ] [ アービス ](眉をひそめている(者)、しかめ面をしている(者))よりも回数が多いこと、度合いが激しいことを示す。
注釈書などにおける詳しい語義説明では「眉をひそめ獅子のような」「怒りで顔つきが変わり獅子のような表情になっている様子」と記載されていることも。このことからも顔をしかめた憤怒の様子が、咆哮し他の個体を威嚇する勇猛な獅子(ライオン)の姿に重ねられライオンの別名となったことがうかがえる。
ライオン(獅子)の別名の一つで、他のライオンたちが(畏怖して)逃げ出してしまうような(勇猛な)雄ライオンを意味。男性名はそうした力強い獅子にあやかって命名されてきたもので、諸々のアラビア語大辞典では獅子の別名にちなみ男性名として用いられるといった説明が書いてあることが一般的。そのため人名の意味としては「眉をしかめる」さんではなく「獅子(ライオン)」さんとして解釈することを推奨。
元々の由来としてはかなり獰猛なニュアンスで昔のアラブ人が重んじた勇猛で敵をけちらす騎士といった印象をも与える人名でもあるが、後代ではイスラーム史上に名を残した預言者ムハンマドの一族出身者であるアル=アッバース・イブン・アブドゥルムッタリブや、シーア派に崇敬されるアル=アッバース・イブン・アリーにあやかった命名が増えたため、「獅子(ライオン)のような強い子に育ってほしい」ではなく「アル=アッバース様をお手本に育ってほしい」「アル=アッバース様のお名前に守られて育ちますように」といった名付け動機である事例の割合が高くなっている。
■アッバース朝の名称■
アッバース朝の名称はこの男性名が由来で、アッバース家の祖となった預言者ムハンマドの叔父(父アブドゥッラーの弟だが預言者ムハンマドと3歳違い)اَلْعَبَّاس بْن عَبْدِ الْمُطَّلِبِ [ アル=アッバース・ブヌ・アブディ・ル=ムッタリブ ](アル=アッバース・イブン・アブドゥルムッタリブ)にちなむ。アル=アッバースはイスラームに改宗し、異教徒との戦闘にも参加した。
■シーア派における重要人物、アル=アッバース■
アッバース家の父祖同様、中世には定冠詞 اَلْ [ ’al- ] [ アル= ] がついた「アル=アッバース」というファーストネームだった者は少なくなく、第4代正統カリフ・シーア派初代イマーム アリーの息子にもアル=アッバースの名を持つ اَلْعَبَّاسُ بْنُ عَلِيِّ بْنِ أَبِي طَالِبٍ [ ’al-‘abbās(u) bnu ‘alī(yi) bni ’abī ṭālib ] [ アル=アッバース・ブヌ・アリー(イ)・ブニ・アビー・ターリブ ](アル=アッバース・イブン・アリー・イブン・アビー・ターリブ)がいた。
彼は預言者の娘ファーティマとは別の妻が産んだ男子で、シーア派第2代イマーム アル=ハサンとシーア派第3代イマーム アル=フサインらの年の離れた弟だった。قَمَر بَنِي هَاشِم [ qamar(u) banī hāshim ] [ カマル・バニー・ハーシム ](ハーシム家の月)という二つ名を持つ人物で、美男だったという。アル=フサイン一行が全滅に陥ったカルバラーでの戦いにおいては軍旗を持つ役割を果たした。
飲み水不足に苦しんだ自軍のためユーフラテス川の水を届ける役目を負ったことから اَلسَّقَاء [ ’as-saqqa’ ] [ アッ=サッカー(ゥ/ッ) ](水を与える者、水を汲み与える者、水を注ぎ与える者)という呼び名も持つ。アル=フサイン側から飛び出し敵陣を突破した一行は川で遭遇した敵軍と対峙、何とか水を得ることに成功。アル=アッバースは兄らが喉の渇きに今も苦しんでいることを思い川で水を飲むことを我慢したまま自陣に向かったが、道中敵軍に再び見つかりその身と水袋を狙われてしまう。彼は手を切り落とされてもなお敵の刃に噛みついて応戦したが絶命。イマームのアル=フサインの悲痛な叫びが戦場に響き渡ったという。
徳の高い人物という意味でついた通称・敬称は أَبُو الْفَضْل [ ’abu-l-faḍl ] [ アブ・ル=ファドル ](アブー・アル=ファドル)。直訳は「徳の父」だが、アラビア語的な言い回しで意味としては「徳を持つ人、徳のある男性」といったニュアンス。
イラクのカルバラーには彼の墓廟があり、異母兄であるイマームのアル=フサイン墓廟の近くに位置。国内外シーア派信徒が参詣する重要施設となっている。そのような事情からこのアッバースという名前も彼に対する崇敬からシーア派信徒家庭の男児に命名されることが少なくなく、ジャアファルやカーズィムなどと並んでいわゆるシーア派ネームのひとつとなっている。
かつてイラクは軍事ミサイルとしてアル=フサイン(アル=フセイン、アル・フセイン、アルフセイン)やアル=アッバース(アル・アッバース、アル・アッバス、アルアッバース、アルアッバス)を所有していたが、これらはシーア派第3代イマームのアル=フセインとその弟である名騎士アル=アッバースを想起させるネーミングだった。
またシリア情勢で名前が出てくるイラク系シーア派民兵組織アル=アッバス旅団(アル・アッバス旅団、アルアッバス旅団、アッバス旅団)ことアブー・アル=ファドル・アル=アッバース旅団(アブー・ファドル・アッバース旅団)は彼の名前にちなむ。旅団の旗などで لواء أبو الفضل العباس の後に (ع) と添えられているのは預言者一族などの名前に添えたりする祈願文 عَلَيْهِ السَّلَامُ [ ‘alayhi/‘alaihi-s-salām ] [ アライヒ・ッ=サラーム ](彼の上に平安がありますように)の略。
■表記と発音■
長母音āがē寄りになる方言におけるアッベースに近い発音に即したAbbesといった表記も見られる。本来2つ連ねる重子音部分-bb-を1個に減らしたAbas、Abesもあるがアバス、アベスではなくアッバース、アッベースという発音を意図したものなので要注意。
日本語での主なカタカナ表記としてはアッバース、アッバスが見られる。
なお定冠詞 اَلْ [ ’al- ] [ アル= ] がついた「アル=アッバース」はイスラーム史上重要な地位を占める人物の名前を彷彿とさせるので、ネーミングの際は単なる「アッバース」とするのが無難。
Abbuud、Abbud、Abboud
強く崇拝する、よく崇拝する
【 強調の意味合いがある語形。】
【英字表記ではbを2個連ねたbbではなくbが1個だけのAbudやAboudがあるが、アブドやアブードと読むのではなく元々はアッブードという発音なので要注意。なおアラブ人名の英字表記に多い「ou」はオウではなくウもしくはウーの音を示すことが多く、ここでもアッボウド、アボウドとカタカナ化しないよう要注意。】
Allaam、Allam
非常に知識のある(者)、とても学がある(者)、博識な(者)
【 能動分詞 عَالِم [ ‘ālim ] [ アーリム ](知識がある(者)、学がある(者);学者)をより強い意味にした強調語形。知識の量が多いこと、とても学があることを意味する。】
【 lを1個に減らしたAlaam、Alamという英字表記も使われている。長母音āがē寄りになる方言におけるアッレームに近い発音に即したAlleem、Allem、さらにlを1個減らしたAlemといった表記も見られる。】
母音記号あり:عَلُّوش [ ‘allūsh ] [ アッルーシュ ] ♪発音を聴く♪
Alluush、Allush、Alloush、Allooshなど
オオカミ(狼);ジャッカル;男性名アリーの愛称の一つ
■意味と概要■
オオカミ(狼)を表す一般的な名詞 ذِئْب [ dhi’b ] [ ズィッブとズィィブを混ぜたような発音 ](オオカミ(狼))の別名の一つ。もしくはジャッカルといったイヌ科動物を意味する。アラブ世界では男性名として用いるが、アッルーシュという男性祖先がいる人々が名乗る家名として使われているケースが多い。
中世の複数アラビア語辞典には عِلَّوْش [ ‘illawsh / ‘illaush ] [ イッラウシュ ] という発音で母音記号がふってあり、ل [ l ] の後に ش [ sh ] が来る語根順(子音文字の組み合わせ)がアラビア語としては不自然であり外来語由来であることが記されている。辞書によってはヒムヤル語由来との記載があり、中世の学者らがヒムヤル語でオオカミ(狼)を意味する語だったとの解釈を記すなどしている。
またこれとは別に口語表現で عَلِيّ [ ‘alī(y) ] [ アリー(ュ/ィ) ](アリー、「高い;高貴な、地位が高い;堅固で強い」)の愛称、ニックネームとして使われることがある。語尾のش(sh)はシリア語における指小辞(縮小辞)が由来で、シリア語ではs音だった部分がアラビア語化する過程でsh音に置き換わったものだという。アラビア語における他の愛称語形と同じく「アリーくん、アリーちゃん、アリーっち」的な親しみや愛情を込めた意味合いを持つ。
■発音と表記■
アラブ人名の英字表記では長母音ū(ウーとのばす音)のつづりが何パターンもあるため、このアッルーシュという人名・家名もAlluush、uが1個だけに減らされたAllush、ouでウー音を表したAlloush、ooでウー音を表したAlloosh、そのoを1個に減らしたAlloshなどバリエーションが多め。また本来2個あって「ッ」と促音化するはずのllがつづり上1個に減らされたAluush、Alush、Aloush、Aloosh、Aloshもある。
上記に加え、携帯電話にアラビア語キーボードが無かった時代に普及したチャットアラビア語の影響から、SNSのユーザーネーム等では語頭の ع [ ‘ayn/‘ain ] [ アイン ] を数字の3に置き換えた3alluush、3allush、3alloush、3alloosh、3allosh、3aluush、3alush、3aloush、3aloosh、3aloshなどが使われ得る。
アラビア語としてはアッルーシュ、その次に少し口語(方言)風発音寄りのアッローシュと聞こえることが多く、日本語のカタカナ表記にする際はアッルシュ、アッロウシュ、アッロシュ、アルーシュ、アルシュ、アロウシュ、アローシュ、アロシュにする前に本人が自分の名前を言う時の発音や現地発音がそうなっているかどうか確認することを推奨。】
Adnaan、Adnan
(一箇所に常に・いつも)滞在している、居住している、住んでいる(者)
【 能動分詞と同様の意味を持つ語形。動詞 عَدَنَ [ ‘adana ] [ アダナ ]((一箇所に)滞在する)という行為を恒常的に行っていることを示す語形で、そこから「特定の場所に常に滞在している」というアドナーンの意味が生じたという。
北方系アラブ人の祖とされる人物の名前としても知られる非常に古い人名。アラブの部族はこのアドナーンの系譜の場合はアドナーン系部族、南方系アラブ部族の祖 قَحْطَان [ qaḥṭān ] [ カフターン(実際にはカハターンに近く聞こえることが多い) ] の系譜の場合はカフターン系部族と分類される。それぞれアラブ諸部族の祖先とされ系譜・血統に対するこだわりが強いアラブ部族社会ではアドナーン系、カフターン系といった用語が日常的に使われている。
アラビア語の別名の一つとして بِنْت عَدْنَان [ bint ‘adnān ] [ ビント・アドナーン ](アドナーンの娘)があり、アドナーンの末裔が話してきた言語という意味でそのように呼ばれている。】
Adham
(特に馬、そしてラクダや羊の毛色に関して)漆黒の;(夜が)真っ暗な、(夜の闇が)真っ黒な
■意味と概要■
古くからある男性名。色を示す語形の男性形。ベドウィン人名辞典によると、元々は生まれた時に肌が地黒だったことから命名されたりしたのだろうとのこと。アドハムという語については昔から真っ黒な家畜の毛色を示すのに使われ、青毛(黒い毛)の形容にも多用されてきた。馬の場合は現代でも青毛馬をアドハム号と命名することもしばしば。
アドハムが含む語根「د - ه - م」(d-h-m)を使って示される真っ暗な夜については、アラブでずっと使われてきた太陰暦月末3日間くらいの月の光がほぼ無くなる時期を指すという。女性名 لَيْلَى [ laylā/lailā ] [ ライラー ] も太陰暦で月が変わる新月の頃の真っ暗闇を示す語が由来だが、このアドハムも似たような時期の夜の闇と結びついており、ただの黒さよりもより深い黒色であることがわかる。
ちなみにアラビアのロレンスと同性愛関係にあったと言われているシリア人青年につけられたあだ名Dahoum(黒助)はこのアドハムの姉妹語。アドハムと同じ語根を共有する دَاهُوم [ dāhūm ] [ ダーフーム ] にダフームというカタカナ表記の当て字が行われているもので、「ちび黒
Adham
、黒ちゃん、黒すけ、黒っち」的なニュアンスを込めて周囲のアラブ人たちから命名されたあだ名だったという。
■アスワド(黒)との違い■
アラビア語では「黒い」という普通の形容詞・名詞としては أَسْوَد [ ‘aswad ] [ アスワド ] があるが、人名や動物の名前として「黒太」「黒助」「黒介」のように命名する時はアドハムを使うのが一般的。アスワドの方はアフリカ出身者(いわゆるザンジーと呼ばれる黒人奴隷)などを指すのに使われており日本語の「黒人」という呼称に対応した使われ方を主にしていたという違いがある。
アラブ世界ではイスラーム以前からアビシニア(エチオピア)系奴隷が多く、アラブ人部族の男性との間に子供も生まれるなどしてきたが、生粋のアラブたちがアフリカ人奴隷女性との間に設けた子供らは我が子だと認知されずアラブ人の一員としても扱われず、苦難の人生を送ることも多かった。
黒い肌色は上記のアスワド(黒)以外にも時として أَخْضَر [ ’akhḍar ] [ アフダル ](緑;(緑が黒に近いとされたことから)黒)と表現され差別を受け、両親ともにアラブ人であっても浅黒い肌を持った子は出自を疑われ部族から放逐されうち捨てられるなどしていたという。
彼らはしばしばはぐれ狼のように暮らし盗賊のような家業で食いつなぐなどし、すぐれた詩を残した者もいた。そうした詩人は無頼詩人(サアーリーク)と呼ばれ、アラブ詩の一ジャンルとして現代でも人気がある。英雄アンタル物語も上記のような境遇で育ったアラブ-アビシニアルーツを持つ主人公が復讐を遂げのし上がっていく様子を描いたものとなっている。
■発音と表記■
dhを1文字と扱ってアザムなどとカタカナ表記しないよう要注意。Ad/hamと区切りアドハムと発音する名前となっている。
Adlii、Adli、Adlee、Adly
公正さの、正義の;法の
【 ジャーヒリーヤ時代からある男性名。名詞 عَدْل [ ‘adl ] [ アドル(会話ではアドゥルやアディルに聞こえることもしばしば) ](公正、正義)をニスバ形容詞化したもの。】
【 厳密には語末を発音すると [ ‘adlīy ] [ アドリーュもしくはアドリーィ ] のように聞こえるが、口語など日常的な会話では単なる [ ‘adlī ] [ アドリー ](♪発音を聴く♪)と聞こえる発音をしていることが多い。この場合はアクセント位置が「リー」から「ア」へと前方にずれる。】
母音記号あり:عَدْوَان [ ‘adwān ] [ アドワーン ] ♪発音を聴く♪
Adwan、Adwaan
(敵と対峙し戦闘する際に)走りが激しい、速く走る、激走する、疾走する(者/もの)
■意味と概要■
イスラーム以前のジャーヒリーヤ時代からあった伝統的なアラブ男性名。現代では男性のファーストネームに加え家名としてしばしば用いられている。
走ることに関連した概念を表す語根 ع - د - و( ‘ - d - w )より構成される名詞・形容詞で、人名辞典には عَدْوَان [ ‘adwān ] [ アドワーン ] という発音で 「(敵と対峙し戦闘する際に)走りが激しい、速く走る、激走する、疾走する(者/もの)」という意味として載っている。
しかしながら「(敵と対峙し戦闘する際に)走りが激しい、速く走る、激走する、疾走する(者/もの)」、「(馬が)大いに走る、激走する、疾走する」、「(狼が)駆け回って人や羊を追い襲いかかる」という語義でアラビア語大辞典に通常収録されているのは عَدَوَان [ ‘adawān ] [ アダワーン ] の方で、語形としては程度・回数・度合いを誇張・強調する語形の一つである فَعَلَان [ fa‘alān ] [ ファアラーン ] 型との解説が専門書などにも明記されている。
これに対し部族名としては子音d部分に母音を伴わない無母音の عَدْوَان [ ‘adwān ] [ アドワーン ] と発音する旨が別途記されており、これが男性名としては [ ‘adwān ] [ アドワーン ] という発音になる原因だと思われる。
なお母音記号無しだと全く同じつづり عدوان で発音が異なる別単語 عُدْوَان [ ‘udwān ] [ ウドワーン ](敵意、敵対;攻撃、侵攻)と混同しないよう要注意。
■発音と表記■
語頭の ع [ ‘ayn/‘ain ] [ アイン ] という子音字を「‘」で表現する‘Adwan、‘Adwaanといった英字表記も見られるが、通常こうした記号を添えるのは学術的な転写で、一般のアラブ人名としては記号を足さずにただの母音アと同じであるかのようにAdwanやAdwaanと当て字をする方がはるかに多い。
長母音āがē寄りもしくはēそのものになる地域の方言での発音アドウェーンなどに対応したAdwen、Adween、時にはAdweanといった英字表記も見られる。なおeeは長母音ī(イー)ではなく長母音ē(エー)を意図しているのでアドウィーンとしないよう要注意。
携帯電話にアラビア語キーボードが無かった時代に普及したチャットアラビア語の影響から、SNSのユーザーネーム等では語頭の ع [ ‘ayn/‘ain ] [ アイン ] を数字の3に置き換えた3adwan、3adwaan、3adwenといったつづりも見られる。
Anas
親しみ、親愛、人を安らがせること;大勢、大人数の集団
【 預言者ムハンマドの教友(サハーバ)でアンサールだった أَنَس بْن مَالكٍ [ ’anas(u) bnu mālik ] [ アナス・ブヌ・マーリク ](アナス・イブン・マーリク)のファーストネームでもある。彼はヤスリブ(後のマディーナ/メディナ)のハズラジュ族出身。預言者ムハンマドが移住してきた時はまだ少年だったがイスラーム改宗者だった母の取り計らいにより身の回りの世話をすることとなり、青年期まで預言者の近くで過ごしたという。長期間にわたり預言者ムハンマドの言動を実際に見聞きしたことから言行録(ハディース)にも名前がよく登場する。】
Abuu Bakr、Abu Bakr、Abou Bakrなど
若ラクダの父;ラクダおやじ、ラクダ大好き男
【 第1代正統カリフのあだ名。「◯◯の父」という◯◯部分に通常息子の名前が来るクンヤ形式だが、بَكْر [ bakr ] [ バクル ] は若いラクダのことで彼自身にバクルという名前の男児はいなかった。ラクダ好きで有名だったためこの通称で呼ばれたと言われている。通称が有名になりすぎて本名アブドゥッラー(イスラーム改宗前はアブドゥルカアバ(アブド・アル=カアバ。「カアバ神殿のしもべ」の意。))の代わりにアブー・バクルの方が後代における人名表記で使われているパターン。
後世アブー・バクルと名付けられた子供たちは彼にあやかっての命名である。元々ラクダ好きだった彼のあだ名がファーストネーム扱いされ2語1組の複合名として定着した。いわゆるスンナ派色が強い名前とされており、シーア派圏ではイマームである第四代正統カリフのアリーとの関係性・彼に先んじて正統カリフ位についた人物として男児につける名前としては好まれないものの代表例の一つと言われている。】
【 アブーの伸ばす長母音ūにouの英字表記が当てられることも多いが、Abouと書いてアボウと読ませるわけではないので注意。口語ではアブーがアボー寄りになりやすく英字表記でもAbo、Abooと書かれることがある。また口語風にBakrの後半に母音挿入が発生しiやeが追加されたバキル、バケルのような読まれ方を発音に対応したBakir、Bakerという英字表記も存在する。更にはつなげ書きをしたAbuubakr、Abubakr、Aboubakr、Abobakr、Aboobakr、Abuubaker、Abubaker、Aboubaker、Abobaker、Aboobakerなども。
なお文語では特殊な格変化をし、主格でアブー・バクル(語末格母音・タンウィーンまで読む場合はアブー・バクリン)、属格ではアビー・バクル(語末格母音・タンウィーンまで読む場合はアビー・バクリン)、対格ではアバー・バクル(語末格母音・タンウィーンまで読む場合はアバー・バクリン)となるが、文中に登場するのではない単なる人名を単独で出す場合には使わない文法事項なのでネーミングに使う程度であれば特に考えず全部「アブー・バクル」で通してしまって差し支えない。】
Afiif、Afif、Afeef
慎み深い、貞淑な、清廉な(人);正直者の、実直な(人)
【 アフィーフの長母音「ー」を示すAfeefのeeを1個に減らしたAfefという英字表記も使われているがアフェフ、アフェッフと読ませることを意図したつづりではないので要注意。】
Abd ◯◯
しもべ、下僕;奴隷(;信心深く敬虔なイスラーム教徒)
【 「アブド・◯◯」のようにな複合名を形成せずこの1語のみで男性名として使うケース。単なる奴隷、下僕に限らず、主に従う者すなわち唯一神アッラーの教えによく従い信仰を実践する信徒といった意味も示す。】
【 口語的な母音挿入によりアビド、アベドに近くなった発音に対応した英字表記Abid、Abedも存在。】
عَبْد [ ‘abd ◯◯ ] [ アブド・◯◯ ] ♪発音を聴く♪
Abd ◯◯
■定冠詞が語頭に接頭する名前が◯◯に入る場合
عَبْدُ الْـ [ ‘abdu-l-◯◯ ] [ アブドゥ=ル・◯◯ ]
Abd al-◯◯、Abd al ◯◯、Abd Al ◯◯、Abd al◯◯、Abd Al◯◯、Abdul◯◯など
◯◯のしもべ、◯◯の下僕(≒◯◯の崇拝者、◯◯の崇敬者)
■名前の構成と意味■
99の美名と言われるアッラーの属性名・別名などと組み合わせて作る複合名。名詞 عَبْد [ ‘abd ] [ アブド ](しもべ、奴隷、下僕)を崇拝対象となる名詞「◯◯」が後ろから属格(≒所有格)支配した属格構文(イダーファ構文)「◯◯のしもべ」という作りになっている。和訳には「奴隷・下僕」という意味も含まれるが具体的には「崇敬する◯◯様の教えをよく守り信仰を実践する敬虔な人」といったニュアンス。
イスラーム以前のジャーヒリーヤ時代から存在した非常に古い伝統的中東ネーム・アラブ名で、メソポタミアの古代文明時代から存在したとされる「◯◯のしもべ」「◯◯の奴隷」という意味を表す複合名の一種がイスラーム以降も形を変えて残ったもの。旧約聖書のダニエル書に出てくるアベデネゴ(Abednego)はアッカド語由来の名前が変形したもので「Negoのしもべ」すなわちアッシリアやバビロニアで崇拝されていたナブー(ネボ)神のしもべであることを意味。アッカド語人名Arad-Mardukも「マルドゥク神のしもべ」を意味するなど、「◯◯のしもべ/奴隷」という形式の人名は中東において長い間用いられてきたものだった。
ジャーヒリーヤ時代当時は各地のご当地神様や部族全体で信奉する神などがアラビア半島内に複数併存。◯◯部分に多神教の神や偶像の名前やカアバ神殿といった名称が入ったが、イスラーム布教以後それらの名前を持つ人々はイスラームの唯一神信仰と抵触しない名前へと時には預言者ムハンマドの助言も受けながら改名が進められていった。
現代においてはスンナ派共同体内だとアッラーの名前と組み合わせたアブドゥッラー(アブド・アッラー)やその属性名(通常「アッラー99の美名」と呼ばれるものから選ぶ。ただし99個きっかりではなく使われない名称があるほか、99美名リスト掲載外の名称も◯◯に入るなどする。)と組み合わせたアブドゥッラフマーン(アブド・アッ=ラフマーン)などが広く命名に用いられている。
個人崇拝・偶像崇拝への忌避感が強いスンナ派地域では預言者・使徒ムハンマドへの崇敬からアブドゥンナビー(アブド・アン=ナビー)、アブドゥッラスール(アブド・アッ=ラスール)といった男性名もまれに見られるが、サウジアラビアではイスラーム教義にそぐわないとしてそれらの命名を禁止している。
イラクのようなシーア派が非常に多い地域では第4代正統カリフ・シーア派初代イマームのアリーやその子孫・親族各故人への崇敬が行われているため、アブド・アリー(アブド・アリー)といった具合にシーア派における重要人物の個人名や別称が来る名前も多く見られる。しかしスンナ派ではアッラー以外に対する個人崇拝として忌避されており、シーア派特有のアブド・◯◯系ネームが宗派差別の一因になることもあるという。
イラクではサッダーム・フセイン政権崩壊後政府がシーア派系となり逆にスンナ派信徒差別のようなものも生まれ宗派対立案件がしばしば生じるようになった。そのためシーア派側が好まないとされるアリーよりも先に正統カリフの位についた面々の名前を持つ人物が不利になるといった逆転現象も起こっているという。
なお、この「アブド・◯◯」はキリスト教徒コミュニティーなどでも使われており、◯◯部分にイエス・キリストを指すメシアといった意味合いの言葉が入った男性名も見られる。
■発音と表記■
◯◯に定冠詞が入らない名前(主に個人名)が来る場合、عَبْد [ ‘abd ◯◯ ] [ アブド・◯◯ ](英字表記はAbd)となり発音上の変化や数え切れないほどの膨大なつづりバリエーションが生じることは無い。Abd部分が口語的な母音挿入によりアビド、アベドに近くなった発音に対応したAbid、Abedに置き換わることがあるのと、◯◯に入る名前の何通りかの英字表記を把握しておくのみで十分なので比較的扱いが楽だと言える。
アッラーの美名(属性名、別名)と組み合わせる場合は通常定冠詞を伴う唯一神の属性名「al-◯◯」(◯◯なる者アッラー、最も◯◯なる者アッラー)が来るので、Abd al-◯◯のように複合名の2語目語頭に定冠詞al-(アル=)がつく。文法規則上このタイプの1語目に定冠詞al-(アル=)は付加できないので、「アル=アブド・アル=カリーム」とはしない。このような語形にすると2語目が1語目を形容詞修飾する構文となり「高貴なるしもべ」「寛大なるしもべ」となってしまうので創作におけるネーミングの際は要注意。
口語アラビア語(方言)では定冠詞が [ ’il- ] [ イル= ](英字表記:il- など)や [ ’el- ] [ エル= ](英字表記:el- など)と発音されることが多く、アブディル◯◯(アブド・イル=◯◯)やアブデル◯◯(アブド・エル=◯◯)という発音やそれに即した英字表記が派生する原因となっている。
またパキスタン、インド方面ではアブド+定冠詞+◯◯の「アブドゥル◯◯」の発音をal-からul-に置き換えるなどした英字表記が多く見られる。
■アブド・◯◯系ネームと非アラブ圏制作商業作品に頻出するアラブ人名アブドゥル、アブドゥールとの関係■
アブド・◯◯や定冠詞を含むアブドゥル◯◯(アブド・アル=◯◯)は2個ないしそれ以上が組み合わさっている複合名であるにもかかわらず、◯◯を抜いた「アブドゥル」部分だけが本人のファーストネームだと勘違いされることも多く、日本などでもファーストネームがアブドゥルアズィーズ(アブド・アル=アズィーズ)で1個扱いなのにアブドゥルさん、アブデルさん、アブドルさんと呼ばれることが一般化している。
ハリウッド映画といった映像作品、商業作品でもアラブ人キャラというと「Abdul」と命名されることが多く、アラブ人らの間で「またアブドゥルだ。そんな名前のアラブ人なんていないのに。」と議論が巻き起こるケースも珍しくない。
しかしアブドゥル単体を使うことが全くの間違いであるかというとそうでもなく、アメリカ人歌手で父親がアラビア語圏であるシリア出身ユダヤ教徒というポーラ・アブドゥルのようにアブドゥル単体が家名として使われているケース、アフリカ系イスラーム教徒男性がアブドゥル、アブドゥールを単体で個人名などとして使っている例も見られる。
ただし「Abdul」単体で男性名・家名として使われている場合は、アブド・◯◯とは違うアラビア語表記で عَبْدُول [ ‘abdūl ] [ アブドゥール ] のとd直後が長母音部分となる。日本語でポーラ・アブドゥルなどとカタカナ表記している「アブドゥル」は本来アブドゥールだったものを短くアブドゥルと書いているだけで「アブドゥル◯◯」のアブドゥル部分とは全くの別物なので要注意。
アラブ人の名前としては、アラビア語つづりを確認の上 عَبْدُول [ ‘abdūl ] [ アブドゥール ] と確認できたもの以外は十中八九「アブドゥル◯◯」と途中で切ってしまったものなので、創作目的でのネーミングとしては「アブドゥル」を避けるのが無難。商業作品の場合はアラブ圏に売った際にツッコミ祭になる可能性が大きいため。
なお『ジョジョの奇妙な冒険』シリーズに登場するモハメド・アヴドゥルのようなアヴドゥル(avdol)という名前はアラビア語には存在しない。アラビア語にはvの音が無く、本項で取り上げた「◯◯のしもべ(アブドゥル◯◯)」やまれに存在する「アブドゥール」のどちらとも異なるため。(モハメド・アヴドゥルのアヴドゥルはポーラ・アブドゥルが元ネタだとのことなので、原語であるアラビア語風に発音しても「ムハンマド・アブドゥッラー」とはならないものと思われる。ポーラ・アブドゥルのアブドゥルはアブドゥッラーではなくシリアなど一部地域に見られる عَبْدُول [ ‘abdūl ] [ アブドゥール ] という別の名前であるため。)
Abd al-Zahraa、Abd al-Zahra、Abdul Zahraa、Abdul Zahra、Abdulzahraa、Abdulzahraなど
アッ=ザフラー(アッ=ザハラー)のしもべ、輝ける者(ファーティマ様)のしもべ
[ ザフラーは男性名にもなっている أَزْهَر [ ’azhar ] [ アズハル ] の女性形。定冠詞al-がついたアッ=ザフラーは「輝ける者」という意味で預言者ムハンマドの娘・第四代正統カリフとなったアリーの妻ファーティマの名称に添えられる称号・通称であるため、彼女への尊敬から命名されることが多い。それを عَبْد [ ‘abd ] [ アブド ] と組み合わせてファーティマへの崇敬を示した男性名。スンナ派ではこのような唯一神アッラー以外に対する個人崇拝を禁じているためイラクなどシーア派信徒が多い地域に集中している名前でもある。]>
[ カタカナ表記のルールで標準的なのはザフラーだが、フ部分は [ f ] ではなく [ h ] のため原語の発音に近いのはザフラーよりもザハラーの方であるとも言える。そのためアブド・アッ=ザハラー(アブドゥッザハラー)の方が実際の発音に似ていたりする。
なお語末が声門閉鎖音のハムザで終わっているため、文語通りに母音をつけて最後の文字までしっかり読めばザハラーゥ、ザハラーッに近い音になる。しかし口語では最後の声門閉鎖音/声門破裂音「 ’」(ハムザ)は無しで [ zahrā ] [ ザフラー/ザハラー ] のように発音。口語では語末の長母音が短くなってしまうため [ ザフラ/ザハラ ] に近く聞こえたりもする。
口語における定冠詞al-の発音el-やil-を反映したAbd el-Zahraa、Abd el-Zahra、Abdel Zahraa、Abdel Zahra、Abdelzahraa、Abdelzahra、Abdilzahraa、Abdilzahraという英字つづりもある。定冠詞al-のlがzに同化してzとなり2個連なったzzを反映したaz-Z~、Abduzz~、Abdezz~、Abdizz~などのバリエーションも存在。]
慈悲厚き者アッラーのしもべ、慈悲深き者アッラーのしもべ
[ 99の美名と呼ばれる色々な属性を示すアッラーの別名とアブド=しもべ・奴隷という語を組み合わせた、アブド某シリーズ。]
Abd al-Rasuul、Abd al-Rasul、Abd al-Rasool、Abd al-Rasoul、Abdul Rasuul、Abdul Rasul、Abdul Rasool、Abdul Rasoul、Abdulrasuul、Abdulrasul、Abdulrasool、Abdulrasoulなど
使徒のしもべ、使徒様のしもべ
[ 名詞 عَبْد [ ‘abd ] [ アブド ](しもべ)に定冠詞al-のついた اَلرَّسُول [ ’ar-rasūl ] [ アッ=ラスール ] を組み合わせてアッラーの使徒であるムハンマドのしもべという意味にした複合名。何人もいる使徒の中の具体的には最後の預言者・使徒であるムハンマドへの崇敬から命名されたものだが、厳格なイスラームそしてスンナ派ではこうしたアッラー以外に対する個人崇拝系人名はNGとされており、一種の民間信仰的に慣習として現代まで用いられてきた男児名であると言える。数は多くないが存命中のアラブ人男性でこの名を持っている人は意外といたりする。]
[ ou部分はオウではなくオーと読むことを意図した英字表記なのでラソウルとは発音しない。また口語における定冠詞al-の発音el-やil-を反映したAbd el-Rasuul、Abd el-Rasul、Abd el-Rasool、Abd el-Rasoul、Abdelrasuul、Abdelrasul、Abdelrasool、Abdelrasoul、Abdilrasuul、Abdilrasul、Abdilrasool、Abdilrasoulという英字つづりもある。定冠詞al-のlがrに同化してrとなり2個連なったrrを反映したar-R~、Abdurr~、Abderr~、Abdirr~などのバリエーションも存在。]
糧を与える者アッラーのしもべ
[ 99の美名と呼ばれる色々な属性を示すアッラーの別名とアブド=しもべ・奴隷という語を組み合わせた、アブド某シリーズ。]
[エジプト等定冠詞がel-の地域ではAbd el-Razzaq、Abd Elrazzaq、Abdel Razzaq、Abderrazzaqといった表記になる]
慈悲深き者アッラーのしもべ
[ 99の美名と呼ばれる色々な属性を示すアッラーの別名とアブド=しもべ・奴隷という語を組み合わせた、アブド某シリーズ。]
[ エジプトなどの定冠詞がel-になる地域ではAbd el-Rahim、Abd el-Raheem、Abdel Rahim Abdel Raheem、Abdelrahim、Abderrahim、Abderraheemなどに表記が変化する。]
Abd Aliなど
アリーのしもべ
【 アブド・◯◯方式の属格構文(イダーファ構文)複合名「◯◯のしもべ」で、◯◯部分に唯一神アッラー以外の崇敬対象の名前が来るパターン。イラクなどで見られるシーア派ネームで、第4代正統カリフでありシーア派初代イマームでもあるアリーへの崇敬から命名。スンナ派地域では個人崇拝にあたるとして法学者が命名をNGだとしており、その人の宗教的バックグラウンドを明示しているタイプのファーストネームとなっている。】
【 アリーの部分は格変化部分の母音も全部省かずに読む文語式発音だと [ ‘aliyyin / ‘alīyin ] [ アリーイン ] となる。格を示す語末母音を読まない文語休止(ワクフ)形発音だと [ ‘aliyy / ‘alīy ] [ アリーュというよりはアリーィに近い発音 ] になるが日常会話では口語的な [ ‘alī ] [ アリー ] となり、日本語で一般的に使われているアリーもこれに基づいたカタカナ表記となっている。なお口語だと語末長母音āが短母音a化しアリに近く聞こえる可能性があること、通常の英字表記がAliであることからアリというカタカナ表記が日本では多用されている。】
威力並び無き者アッラーのしもべ
[ 99の美名と呼ばれる色々な属性を示すアッラーの別名とアブド=しもべ・奴隷という語を組み合わせた、アブド某シリーズ。]
[ 日本語的にカタカナ表記してアブド・アル=アジーズとなっている場合も多い。しかしその発音だとネイティブには عَجِيز(‘ajīz)というつづりで読み違えているものとして受け取られる可能性が高いので注意。]
[ エジプトなど定冠詞がel-の地域ではAbd El-Aziz、Abd el-Azeez、Abd Elaziz、Abd Elazeez、Abdelaziz、Abdelazeezと表記が変化する。]
[語末まで丁寧に読めばアブド・アル=カウィーイ、アブドゥルカウィーイだが、実際の日常的な発音ではカウィーで最後のyは聞こえないのが普通。]
寛大な者アッラーのしもべ
[ 99の美名と呼ばれる色々な属性を示すアッラーの別名とアブド=しもべ・奴隷という語を組み合わせた、アブド某シリーズ。]
英知ある者アッラーのしもべ
[ 99の美名と呼ばれる色々な属性を示すアッラーの別名とアブド=しもべ・奴隷という語を組み合わせた、アブド某シリーズ。]
Abd al-Hasan、Abdulhasanなど
アル=ハサンのしもべ
[ シーア派信徒特有の名前。第四代正統カリフかつシーア派初代イマームであるアリーの長男・第二代イマーム(アル=)ハサンに対する崇敬を示す男児名。スンナ派ではこのような唯一神アッラー以外に対する個人崇拝を禁じているためイラクなどシーア派信徒が多い地域に集中している名前でもある。]
[ ssを2個連ねたAbd al-Hassan、Abdulhassanや口語における定冠詞al-の発音el-やil-を反映したAbd el-Hasan、Abd el-Hassan、Abdelhasan、Abdelhassan、Abdilhasan、Abdilhassan等の英字つづりバリエーションがある。またHasan後半のaをeに置き換えたHasenやHassenも同じ人名。]
寛容な者アッラーのしもべ
[ 99の美名と呼ばれる色々な属性を示すアッラーの別名とアブド=しもべ・奴隷という語を組み合わせた、アブド某シリーズ。]
[ エジプト等定冠詞がel-になる地域ではAdb el-Halim、Abd Elhalim、Abdel Halim、Abdel Haleemといった表記になる。]
Abd al-Husayn、Abd al-Husain、Abdulhusayn、Abdulhusainなど
アル=フサインのしもべ
[ シーア派信徒特有の名前。第四代正統カリフかつシーア派初代イマームであるアリーの次男・第三代イマーム(アル=)フサインに対する崇敬を示す男児名。スンナ派ではこのような唯一神アッラー以外に対する個人崇拝を禁じているためイラクなどシーア派信徒が多い地域に集中している名前でもある。アル=フサインはヤズィード一派によるカルバラーで皆殺しにされのちのアーシューラー、アルバイーンといったシーア派特有の追悼行事が発生する原因となった人物。
歴代イマームの中でも強く敬愛されていることもありイラクのようなシーア派優勢地域ではアブド・アル=フサイン(アブドゥルフサイン)という名前をファーストネームなりラストネームなりに持つ人は少なくない。]
[ ssを2個連ねたAbd al-Hussayn、Abd al-Hussain、Abdulhussayn、Abdulhussainも。口語における定冠詞al-の発音el-やil-を反映したAbd el-Husayn、Abd el-Husain、Abdelhusayn、Abdelhusain、Abdilhusayn、Abdilhusain、そしてssと連ねたつづりをセットにしたAbd el-Hussayn、Abd el-Hussain、Abdelhussayn、Abdelhussain、Abdilhussayn、Abdilhussain、Abdilhussain等の英字つづりバリエーションがある。長母音部分の口語発音フセインやフセーンに即したバリエーションとして上記のパターンにおけるHusayn/HusainやHussayn/Hussain部分をHuseyn/HuseinやHusseyn/Hussein、Huseen、Husseen、Husen、Hussenに置き換えたつづりも多い。口語的にuがoに近い読み方をされるとホセインやホセーンと聞こえ、同様の部分を置き換えた英字表記Hoseyn、Hosseyn、Hosein、Hossein、Hoseen、Hosseen、Hosen、Hossenが派生する。いずれも同じ人名でフッサイン、フッセイン、フッセーン、フッセン、ホセン、ホッセンなどと発音することを意図した英字表記ではないので要注意。]
栄光ある者アッラーのしもべ
[ 99の美名と呼ばれる色々な属性を示すアッラーの別名とアブド=しもべ・奴隷という語を組み合わせた、アブド某シリーズ。]
[ 英字表記上で長母音を示す横棒が無くなってAbd al-Majidとなると、アブド・アル=マジードとアブド・アル=マージドの区別がつかなくなるので要注意。 ]
栄誉ある者アッラーのしもべ
[ 99の美名と呼ばれる色々な属性を示すアッラーの別名とアブド=しもべ・奴隷という語を組み合わせた、アブド某シリーズ。]
[ 英字表記上で長母音を示す横棒が無くなってAbd al-Majidとなると、アブド・アル=マジードとアブド・アル=マージドの区別がつかなくなるので要注意。 ]
[عَبْد الْمُتَعَالِي(‘abdu-l-muta‘ālī)(アブド・アル=ムタアーリー、アブドゥルムタアーリー)と書かれることもあるが、クルアーンの中ではワフクという語末母音等を省略する読み方の関係で最後のيが脱落しアル=ムタアーリとなるため、アブド某の人名でも通常はそちらの綴りを用いる。]
授与者アッラーのしもべ
[ 99の美名と呼ばれる色々な属性を示すアッラーの別名とアブド=しもべ・奴隷という語を組み合わせた、アブド某シリーズ。]
[語末まで丁寧に読めばアブド・アル=ワリーイ、アブドゥルワリーイだが、実際の日常的な発音ではワリーで最後のyは聞こえないのが普通。]
Abd al-Nabii、Abd al-Nabi、Abd al-Naby、Abd al-Nabee、Abdul Nabii、Abdul Nabi、Abdul Naby、Abdul Nabee、Abdulnabii、Abdulnabi、Abdulnaby、Abdulnabeeなど
預言者のしもべ
[ 名詞 عَبْد [ ‘abd ] [ アブド ](しもべ)に定冠詞al-のついた اَلنَّبِيِّ [ ’an-nabī(y)/nabiyy ] [ アン=ナビー ] を組み合わせてアッラーの預言者であるムハンマドのしもべという意味にした複合名。何人もいる預言者の中の具体的には最後の預言者・使徒であるムハンマドへの崇敬から命名されたものだが、厳格なイスラームそしてスンナ派ではこうしたアッラー以外に対する個人崇拝系人名はNGとされており、一種の民間信仰的に慣習として現代まで用いられてきた男児名であると言える。数は多くないが存命中のアラブ人男性でこの名を持っている人は意外といたりする。]
[ ナビーの部分は格変化も全部読む文語式発音だと [ nabīyin(=/nabiyyin) ] [ ナビーイン ]、格を示す母音を読まない文語式発音だと [ nabīy(=/nabiyy) ] [ ナビーィ ] になるが日常会話では口語的な [ nabī ] [ ナビー ] となり、日本語表記のナビーもこれに基づいたカタカナとなっている。
口語における定冠詞al-の発音el-やil-を反映したAbd el-Nabii、Abd el-Nabi、Abd el-Naby、Abd el-Nabee、Abdel Nabii、Abdel Nabi、Abdel Naby、Abdel Nabee、Abdelnabii、Abdelnabi、Abdelnaby、Abdelnabee、Abdilnabii、Abdilnabi、Abdilnaby、Abdilnabee、という英字つづりが派生。定冠詞al-のlがnに同化してnとなり2個連なったn-N/-nn-を反映したan-N~、Abdunn~、Abdenn~、Abdinn~などのバリエーションも存在。]
Abd Rabbihi、Abdrabbih、Abd Rabbih、Abdrabbih
彼の主のしもべ、彼が従うべきお方のしもべ
【 「アッラーのしもべ」という意味の عَبْدُ اللهِ [ ‘abdu-llāh(i) ] [ アブドゥッラー(語末母音まで読む丁寧な発音はアブドゥッラーヒ、語末母音iを省いた丁寧な発音はアブドゥッラーフだが日本語での一般的なカタカナ表記はアブドゥッラー) ](Abd Allah、Abdullah)と同様な構成の男性名。アブド(しもべ)+ラッビヒ(彼の主)=アブド・ラッビヒ(彼の主のしもべ)、つまりは彼の神であるアッラーのしもべといった意味になる。】
【 なお元々は2語から成る複合語だが、息継ぎせずに一気読みする1かたまり人名ということで英字表記ではスペース無し1つにまとめてくっつけたAbdrabbihi(以下略)のような表記が広く行われている。
アブド部分語末につく短母音uを英字表記に入れたAbdu Rabbih、Abdurabbih、語末にあり発音上はっきりと聞こえづらくなるhを脱落させたAbd Rabbi、Abdrabbi、Abdu Rabbi、Abdurabbiなども同じ人名。
口語的に رَبّ [ rabb ] [ ラッブ ](あるじ、主)という語に人称代名詞接続形・3人称・男性・属格(≒所有格)である ـِهِ [ -hi ] [ ヒ ](彼の~のー)がついてイダーファ構文(属格構文)になっている رَبِّهِ [ rabbihi ] [ ラッビヒ ] の読み方を主格と同じ ـُهُ [ -hu ] [ -フ ] にした رَبُّهُ [ ラッブフ ] を反映したアブド・ラッブフ、もしくは発音上聞こえづらくなるhを落としたアブド・ラッブ→Abd Rabbuh、Abdrabbuh、Abd Rabbu、Abdrabbu、Abdu Rabbuh、Abdurabbuh、Abdu Rabbu、Abdurabbuという英字表記も存在する。
更には口語的にuがo寄りになって [ ‘abdo ] [ アブド ] や [ rabbo(h) ] [ ラッボ ] と発音されたものに即したアブド・ラッボ→Abd Rabboh、Abdrabboh、Abd Rabbo、Abdrabbo、Abdu Rabboh、Abdurabboh、Abdu Rabbo、Abdurabbo、Abdo Rabbih、Abdorabbih、Abdo Rabbi、Abdorabbi、Abdo Rabboh、Abdorabboh、Abdo Rabbo、Abdorabboというバリエーションも生じる。
また方言によっては「彼の~」という人称代名詞接続形部分がu/o系の音ではなくa系の発音になるためラッブ、ラッボではなく [ rabba(h) ] [ ラッバ ] になる地域もあり、アブド・ラッバ→Abd Rabbah、Abdrabbah、Abd Rabba、Abdrabba、Abdu Rabbah、Abdurabbah、Abdu Rabba、Abdurabba、Abdo Rabbah、Abdorabbah、Abdo Rabba、Abdorabbaという英字表記も使われている。
さらにラッバの「バ」部分がa音のe化というイマーラ現象によりラッベ寄りになったためと思われるAbd Rabbeh、Abdrabbeh、Abd Rabbe、Abdrabbe、Abdu Rabbeh、Abdurabbeh、Abdu Rabbe、Abdurabbe、Abdo Rabbeh、Abdorabbeh、Abdo Rabbe、Abdorabbeなども見かける。
これに加えて عَبْد [ ‘abd ] の語形は真ん中の語根 ب 直後への母音挿入が起きやすく、[ ‘abid ] [ アビド ] もしくはiが口語的にe寄りになった [ ‘abed ] [ アベド ] という発音に変わるなどする→アビド・ラッボ、アベド・ラッボ、アビド・ラッバ、アベド・ラッバなどなど…それに即した英字表記として上記の各パターンにおけるAbd部分をAbidやAbedに置き換えた英字表記のバリエーションが更に追加される形となる。
このような複合名が文語(フスハー)文の途中に来る場合は文中での働きに応じて1語目 عَبْد [ ‘abd ] [ アブド ] 語末につく母音が格変化により主格では عَبْدُ رَبِّهِ [ ‘abdu rabbihi ] [ アブドゥ・ラッビヒ ]、属格(≒所有格)では عَبْدِ رَبِّهِ [ ‘abdi rabbihi ] [ アブディ・ラッビヒ ]、対格(≒目的格)では عَبْدَ رَبِّهِ [ ‘abdia rabbihi ] [ アブダ・ラッビヒ ] と変化するが、単独の人名として英字表記や日本語カタカナ表記をする場合は特に考える必要が無く、基本となる主格の時の発音を採用すれば大丈夫。】
Abduul、Abdul、Abdoul、Abdoolなど
アブドゥール
■創作に多いアラブ人名アブドゥルと実在するアブドゥールとの違い■
アラブ人の多くが「海外の映画やコミックによくアブドゥルとかアブドゥールというアラブ人が出てくるけどそんな名前存在しないしアラビア語としてもおかしいと思う」と思っている名前の典型例。日本でもアブドゥル◯◯(アブド+アル=◯◯)という複合名の前半部分だけを間違って切り取ってしまったものとして紹介されていることが多い。
しかしながらシリアのアレッポ周辺やイラクのクルディスタンなどにはアブドゥール単体が男性名として使われてきた形跡があり今でもこの名前を持つ人物が複数実在。アラブ首長国連邦にも آل عَبْدُول [ ’āl ‘abdūl ] [アール・アブドゥール](アブドゥール家)という家名があり少数派ながらアラブ世界の内部に存在する名前となっている。
女性歌手のポーラ・アブドゥルはシリア系ユダヤ教徒の父を持つが、アラビア語のファミリーネームAbdul単体を家名として名乗っておりこれはAbdul◯◯を間違って切り取って使っているのとは異なるものと思われる。第一次世界大戦時におけるアレッポ戦死者リスト資料にはアブドゥールというラストネーム(/ファミリーネーム)の男性が含まれていること、またシリア系の記事に「ポーラ・アブドゥルの父親はアレッポのユダヤ系ファミリーであるアブドゥール家の出身」と記載されているなどすることから、「ポーラ・アブドゥル◯◯」が本来のフルネームなのではなく「ポーラ・アブドゥール」というのが父親から引き継いだ通りの代々伝わる家名アブドゥールをそのまま使って名乗っていることがわかる。
アブドゥールはアラブ人向けの赤ちゃん名前サイトで عَبْد اللهِ [ ‘abdullāh ] [ アブドゥッラー(ヒ/フ) ](アブドゥッラー、「アッラーのしもべ」の意味)の愛称(=دلع [ ダラア ])候補として紹介されているなどしており、ダラア語形が人名として使われたもしくはアブドゥッラーからの連想なりがこの男性名アブドゥールの始まり・由来だった可能性も考え得る。
■発音と表記■
日本語では長母音を抜いたアブドゥルというカタカナ表記になっていることが多い。アブドゥルというアラビア語風人名の大半がアブドゥル◯◯の◯◯も含めてセットで一つの人名であることを知らず切り取ってしまったパターンに該当するが、まれにこのアブドゥールの方で◯◯部分を付け足さずそのまま単体で人名・家名とすべき例も少ないながら含まれているので注意。
通常は単体でアブドゥルという男性名になっていないので、Abdul Majid(アブドゥルマジード)のように直後に来るMajidなどのセットパーツと一緒に人名として扱いカタカナ化する。これで1つの人名なので、アブドゥルを本人の名前、マジードを父親の名前といった具合に「・」で仕切らないよう要注意。
Abd al-Zaahir、Abd al-Zahir、Abdul Zaahir、Abdul Zahir、Abdulzaahir、Abdulzahir、Abd al-Dhaahir、Abd al-Dhahir、Abdul Dhaahir、Abdul Dhahir、Abd az-Zaahir、Abd az-Zahir、Abduz Zaahir、Abuz Zahir、Abduzzaahir、Abduzahirなど
顕現者アッラーのしもべ、顕現する者アッラーのしもべ、外に現れる者アッラーのしもべ、明らかなる者アッラーのしもべ、他のいかなる存在・被創造物よりも上にある者アッラーのしもべ
【 99の美名と呼ばれる色々な属性を示すアッラーの別名などとアブド(しもべ、奴隷)という語を組み合わせた、アブド・◯◯シリーズ男性名の一つ。1語目 عَبْد [ ‘abd ] [ アブド ](しもべ、奴隷)を定冠詞 اَلْ [ ’al ] [ アル ](al-)がついた2語目であるアッラーの属性名 اَلظَّاهِر [ ’aẓ-ẓāhir ] [ アッ=ザーヒル ](顕現者、顕現する者、外に現れる者、明らかなる者、他のいかなる存在・被創造物よりも上にある者)が後ろから属格(≒所有格)支配したイダーファ構文型の複合語。】
【 アラビア語の定冠詞 اَلْ [ ’al ] [ アル ](al-)の「l」は直後に来る子音の調音位置が近いと同化を起こすためアル=ザーヒルではなくアッ=ザーヒルという促音化が発生。ただし人名表記としてはal-のままでaz-Zahirのように「l」部分を同化後の子音に書き換えていなかったりすることも多い。学術的な転写方法でも「l」音の同化有無に関わらずal-とする表記が存在するため、al-Ẓāhirやal-Zahirといった表記がかなり広範で見られる。そのため日本語でも原語通りのアッ=ザーヒルではなくアル=ザーヒル、アル・ザーヒル、アルザーヒルのようにカタカナ表記されていることが多い。
ザーヒル語頭の子音 ظ [ ẓā’ ] [ ザー ] は学術的な英字表記では dh ではなく便宜上 z の下に下点をつけたものが使われるなどする重くこもった音。文語アラビア語(フスハー)では舌を歯にはさむ ذ [ dh ] を重くした音だが、シリア・レバノンといった一部地域の口語では重たくこもった ز [ z ] の音(舌は歯ではさまない)に置き換わるため文語会話でも舌をはさまない発音をしている人が混在。そのためZaahir・Zahir系統とDhaahir・Dhahir系統の2通りのつづりが併存している。
また口語風にiがeに転じたアブドゥッザーヘルに対応した英字表記はAbd al-Zaaher、Abd al-Zaher、Abd al-Dhaaher、Abd al-Dhaher、Abdulzaaher、Abdulzaher、Abduldhaher、Abd az-Zaher、Abd adh-Dhaherなど。口語風にuがoに転じたアブドッザーヒルという発音に対応したAbdol Zahir、Abdolzahir、Abdozzahirといった英字表記も。
この他にも定冠詞部分が口語的な発音el-、il-に置き換わったアブデッザーヒル、アブディッザーヒルに対応したAbdel Zaahir、Abdel Zahir、Abdel Dhaahir、Abdel Dhahir、Abdelzaahir、Abdelzahir、Abdeldhaahir、Abdeldhahir、Abdil Zahir、Abdilzahir、Abdezzahirなどがある。
さらに子音 ظ [ ẓā’ ] [ ザー ] はアラビア語の口語において ض [ ḍād ] [ ダード ] との入れ替わりが起きやすく正確に区別できない人も少なくないため、عَبْد الضَّاهِرِ [ ‘abdu-ḍ-ḍāhir ] [ アブドゥ・ッ=ダーヒル ] とつづられていることもある。その場合の口語発音はアブドッダーヒル、アブドッダーヘル、アブディッダーヒル、アブディッダーヘルなど。派生し得る英字表記としてはAbd al-Daahir、Abd al-Dahir、Abduldaahir、Abduldahir、Abdol Dahir、Abdoldahir、Abdel Dahir、Abdeldahir、Abdil Dahir、Abdildahir、Abd al-Daaher、Abd al-Daher、Abduldaaher、Abduldaher、Abdol Daher、Abdoldaher、Abdel Daher、Abdeldaher、Abdil Daher、Abdildaher、Abdi Daherなどが考えられる。】
母音記号あり:عَبْدُ السَّتَّارِ [ ‘abdu-s-sattār ] [ アブドゥ・ッ=サッタール ]
Abd al-Sattar、Abdulsattar、Abdussattar、Abd al-Sattaar、Abdulsattaar、Abdussattaarなど
(よく/大いに)覆い隠し・匿い守る者(たるアッラー)のしもべ
■意味と概要■
イスラーム教の唯一神アッラーの属性名・別名などとアブド(しもべ、奴隷)という語を組み合わせた、アブド・◯◯シリーズ男性名の一つ。1語目 عَبْد [ ‘abd ] [ アブド ](しもべ、奴隷)を定冠詞 اَلْ [ ’al ] [ アル ](al-)がついた2語目であるアッラーの属性名 اَلسَّتَّار [ ’as-sattār ] [ アッ=サッタール ]((大いに/よく)覆い隠す者)が後ろから属格(≒所有格)支配したイダーファ構文型の複合語。
この اَلسَّتَّار [ ’as-sattār ] [ アッ=サッタール ]((大いに/よく)覆い隠す者)自体は「アッラー99の美名(/美称)」などと呼ばれている唯一神アッラーの正式な属性名の一群には含まれておらず、アラブ・イスラーム世界でアッラーの属性名・別名だと信じられ用いられている類のもの。具体的には「信徒・僕(しもべ)の過ち・罪・恥部を隠し、匿い・守る」といったニュアンスだという。
なお2語目に含まれる سَتَّار [ sattār ] [ サッタール ] を「神に匿われた」という意味で紹介しているアラブ人名関連の日本語ネット記事が複数見られるが能動と受動を取り違えているもので、誤り。سَاتِر [ sātir ] [ サーティル ](一般的な能動分詞語形)や سَتَّار [ sattār ] [ サッタール ](通常の能動分詞語形よりも回数が多い・度合いが強いことを示す強調語形) という語形が「覆い隠す」という動作の主語・動作主側であることを示す「覆い隠す(もの/者)」という能動分詞であるのに対し、「覆い隠された(もの/者)」という受け身の意味を示す受動分詞は مَسْتُور [ mastūr ] [ マストゥール ] のような語形となる。
なお定冠詞 اَلْ [ ’al- ] [ アル= ] がつかない単なる سَتَّار [ sattār ] [ サッタール ]((よく/大いに)覆い隠す者)が男性名として載っているアラブ人名辞典もあるが、純アラブ男性名としてはマイナーで唯一神アッラーの属性として扱われることが多いため、通常は複合名 عَبْدُ السَّتَّارِ [ ‘abdu-s-sattār ] [ アブドゥ・ッ=サッタール ]((よく/大いに)覆い隠し・匿い守る者(たるアッラー)のしもべ)として用いられると考えて差し支えない。(サッタールさん自体はイランやパキスタンといった非アラブ圏の男性名、男性名由来のラストネームという印象が強め。)
عَبْد اللهِ [ ‘abdu-llāh ] [ アブドゥ・ッラー(フ/ハ) ] ♪発音を聴く♪
Abd Allah、Abdullahなど
アッラーのしもべ
■意味と概要■
名詞 عَبْد [ ‘abd ] [ アブド ](しもべ、奴隷、下僕)を崇拝対象である神の名前 اللهِ [ ’allāh/(口語発音)’allā ] [ アッラーフ/(口)アッラー ] が後ろから属格(≒所有格)支配した属格構文(イダーファ構文)で、「アッラーのしもべ」を意味。具体的には「崇敬する唯一神の教えをよく守り信仰を実践する敬虔な人」といったニュアンス。
アブドゥッラーはイスラームにおいて特に好まれるメジャーな男性名で、預言者ムハンマドが信徒たちに"唯一神アッラーに最も愛されるファーストネーム群の一つ"だと教えたとされ、神が好む男性名の筆頭に位置すると考えられている。このアブドゥッラー(アッラーのしもべ、神の僕)は預言者ムハンマド本人の別名として知られているほか、ムハンマドが乳幼児期に亡くした父親の名前でもあり、かつ幼少期に夭折したムハンマドの息子の名前でもあった。
女性版は أَمَة اللهِ [ ’amatu-llāh ] [ アマトゥ・ッラー(フ/ハ) ](アマト・アッラー、アマトゥッラー。英字表記はAmat Allah、Amatullahなど。)アブドに女性化の役割を持つ ة(ター・マブルータ) をつけた女性形アブダを作り عَبْدَة اللهِ [ ‘abdatu-llāh ] [ アブダトゥ・ッラー ](アブダト・アッラー、アブダトゥッラー)とするわけではなく、أَمَة [ ’ama(h) ] [ アマ ] という女奴隷を意味する別の名詞と組み合わせてアマ+アッラー→つなげ読みしてアマトゥッラーとする。
■中東と男性名アブドゥッラー■
「アブド・◯◯(◯◯)のしもべ」という崇拝対象の僕であることを示す熟語形式の複合名は中東に太古から存在する男性名で、アブドゥッラーは◯◯部分に「アッラー」を入れて作られている。アブドゥッラーという名前はイスラーム誕生後に作り出されたイスラーム教徒だけのものというわけではなく、もっと古くからありイスラーム以前の多神教徒、ユダヤ教徒、キリスト教徒、イラクに居住するサービア・マンダ教徒などによって命名されてきた各宗教共通人名。
「神のしもべ」「神の僕」という男性名の歴史は非常に古く、メソポタミアのバビロニアにおける男性名「Ab-di-ili(Abdi-ili)」、旧約聖書歴代誌に出てくるアブディエル(עֲבְדִּיאֵל、Abdiel)なども同じような語彙と構造から成る複合名で「神のしもべ(servant of God)」という意味を持つとともにアラビア語のアブドゥッラーとよく似た響きを持つ人名でもあった。
「アブドゥッラー」は各地のご当地神様や部族全体で信奉する神がアラビア半島内で複数併存していた時代に「アッラー」という名前で信奉されていた神にあやかって命名されていた古いアラブ男性名で、当時の「アッラー」はセム系一神教的な信仰とは違う扱いだった。イスラーム以後は、かつての数ある中の神としてのアッラーではなく、他に神が存在しないという絶対的唯一神アッラーの信仰を表す好ましい複合名として性質を変えた形となっている。
預言者ムハンマドの父は彼が幼い頃に亡くなっておりイスラーム以前のジャーヒリーヤ時代のみ生きた人物だったが、このアブドゥッラー(アッラーのしもべ)という意味のファーストネームだった。クライシュ族や他の部族にも複数のアブドゥッラーという男性が実在していたことが記録により伝えられており、この名前が現代よりも1500年ほど前には既に使われていたことを示唆している。
当時既に現地にはユダヤ教徒やキリスト教徒がいて唯一神アッラーを信じる宗教の存在が知られていた。クライシュ族自体は他の神も信じていたため多神教徒だったが、信仰していた女神らをアッラーの娘たち、天使らもアッラーの娘たちと呼ぶなどしてアッラーという言葉が使われていた。アッラーも信じていたが真正な一神教という意味合いでのハニーフな宗教ではなく、多神教の枠組みの中での信仰でアッラーを見ていたためイスラームとは大きく異なる立場だったという。
なお、イスラーム改宗前に「アブド+多神教の神・偶像の名前」だったような男性信徒の中にはこのアブドゥッラーに改名した者も少なくなかった。預言者ムハンマドはそうしたイスラーム的に不適切である可能性のある信徒らから相談を受け、必要であれば改名するよう指示し推奨する新しい名前を提示することがたびたびあったと伝えられている。
初代正統カリフのアブー・バクルもその代表例で、本名部分アブドゥッラーはイスラーム改宗前 عَبْد الْكَعْبَةِ [ ‘abdu-l-ka‘ba(h) ] [ アブドゥ・ル=カアバ ](アブドゥルカアバ、アブド・アル=カアバ)だった。しかし意味が「カアバ神殿のしもべ」で多神教時代の巡礼地だったカアバ神殿そのものの崇拝者であることを示唆するような名前だったためカアバ神殿本来の主である唯一神アッラーのしもべという名前に。「太陽神のしもべ」といった名前を持つ改宗信徒らと同じく改名を行った一人となった。
またこの男性名アブドゥッラーは出自が不明(مجهول النسب)な男性にフルネームを与える際に便宜上父親の名前として用いられることが非常に多く、中世の非イスラーム教徒地域出身奴隷が「本人ファーストネーム・イブン・アブドゥッラー」だったり、現代も含めたアラブ諸国で捨て子男児が「本人ファーストネーム・イブン・アブドゥッラー」と名乗る背景ともなっている。
■発音と表記■
名詞 عَبْد [ ‘abd ] [ アブド ](しもべ、奴隷)を唯一神の名称 الله [ ’allāh ] [ アッラー(フ/ハ) ] が後ろから属格支配したイダーファ構文の複合名。前の語を属格支配する後続の名詞は語末に格母音「i」がつくのでこの人名につく母音を全て読み上げる場合は عَبْد الله [ ‘abdu-llāhi ] [ アブドゥ・ッラーヒ ] となる。
しかしアラビア語には休止(ワクフ)形がありこの人名を単独で呼ぶ場合、直後に息継ぎをする場合には最後の格母音「i」は落とすため、عَبْد الله [ ‘abdu-llāhi ] [ アブドゥ・ッラーヒ ] ではなく [ アブドゥ・ッラーフ ] と [ アブドゥ・ッラーハ ] の中間のような発音となり最後の「h」はほんのり軽く聞こえる程度となる。カタカナ表記でアブドゥッラーフではなくアブドゥッラーが一般的なのはそのため。
日本語表記の都合上元々の単語の切れ目通りにアブド・アッラーと中点を入れて分けることもあるが、この人名に関してはアブドゥッラーとつなげ書きすることが多い。アラビア語では実際にはアブド・アッラーのように分けて読まず息継ぎ抜きでアブドゥッラーと一気読みに発音される。日本における中東関連の学会における学術的な統一カタカナ表記もこのアブドゥッラーとなっているが、一般の記事や書籍ではアラビア語の方言における少し違う発音が由来となっているカタカナ表記やより日本語風に形を変えたカタカナ表記が多用されている。
口語(方言)のアラビア語では唯一神の名称は最後のhを読まずアッラーフ、アッラーハではなくアッラーや「ー」を短くつまらせたアッラになる傾向が強い。その際文語で語末の文字や格母音まできっちり読み上げる時よりもアクセントの位置が前方にずれる形となる。 ♪発音を聴く♪
口語的に読むとAbd+Allahがつながってアブダッラーと聞こえることが多く英字表記AbdallahやAbdallaなどが派生。また長母音が短くなったアブダッラ発音もあり、同じくAbdallah、Abdallaなどがあてられる。
またAbd部分は一気読み発音する場合には語末格母音「u」を含むことからAbdu+Allah→Abdullahとなるが、口語的にアブドゥッラと短くなった発音に対応したAbdullaなどが派生。また口語ではAbdu部分の母音uがoに転じやすくそこからアブドッラーやさらにそれがつまったアブドッラという発音とそれに対応する英字表記Abdollah、Abdollaが生じる。
またアッラー部分のllをl1個に減らしたAbdulah、Abdula、Abdalah、Abdala、Abdolah、Abdolaといった英字表記が各国イスラーム教徒のムスリムネームとして使われているが、これらをつづり通りに日本語のカタカナ化したものがアブドゥラ、アブダラ、アブドラといった表記となっている。アブダーラ、アブダラー、アブドーラ、アブドラー、アブドゥラーなども含め全て同一のアラビア語男性名アブドゥッラーを英語発音・ラテン系文字表記等を経由したこと、アラビア語の方言発音を聞いたらそう聞こえたといった何らかの理由から起きたカタカナ表記の揺れであり人名としての意味なども同じ。
母音記号あり:عَبْد اللَّطِيفِ [ ‘abdu-l-laṭīf ] [ アブドゥ・ッ=ラティーフ ] ♪発音を聴く♪
Abd al-Latiif、Abd al-Latif、Abd al-Lateef、Abdul Latiif、Abdul Latif、Abdul Lateef、Abdullatiif、Abdullatif、Abdullateefなど…
優しき者(たるアッラー)のしもべ、心優しき者(たるアッラー)のしもべ;最も神妙なるお方(アッラー)のしもべ、幽玄者(たるアッラー)のしもべ
■意味と概要■
「アッラー99の美名」「アッラー99の美称」などと呼ばれる色々な属性を示すアッラーの別名などと、名詞アブド(しもべ、奴隷)という語を組み合わせた、アブド・◯◯シリーズ男性名の一つ。
1語目 عَبْد [ ‘abd ] [ アブド ](しもべ、奴隷)を定冠詞 اَلْ [ ’al ] [ アル ](al-)がついた2語目であるアッラーの属性名 اَللَّطِيف [ ’al-laṭīf ] [ アッ=ラティーフ ](優しき者、心優しき者;最も神妙なるお方、幽玄者)が後ろから属格(≒所有格)支配したイダーファ構文型の複合語。
اَللَّطِيف [ ’al-laṭīf ] [ アッ=ラティーフ ] という属性名・称号の元となる文言はクルアーン(コーラン)で
إِنَّ ٱللَّهَ لَطِيفٌ خَبِيرٌ
本当にアッラーは「親切にして」知悉される御方である。(三田了一訳)
本当にアッラーは霊妙なお方、(全てに)通暁されたお方。(サイード佐藤訳)
ٱللَّهُ لَطِيفٌ بِعِبَادِهِ
アッラーはそのしもべに対して,「やさしくあられ」(三田了一訳)
アッラーはその僕たちに対して霊妙なお方であり(サイード佐藤訳)
などとして登場。解釈によって「優しき者」(些細な物事も感知・把握している存在。信徒らが思いもしないような方法で哀れみ優しくしてくれる神)と「最も神妙なる者、幽玄者」(人の視力では感じ取ることのできない神妙・幽玄の存在)といった和訳に分かれる。
ちなみにGoogle翻訳に「かわいい神様」と入れると上のクルアーン(コーラン)の文言と同じ言い回し اَلله لَطِيفٌ [ ’allāh(u) laṭīf(un) ] [ アッラーフ・ラティーフ ] が表示される。これは修飾語・被修飾語を結ぶのに必要な定冠詞 اَلْ [ ’al ] [ アル ](al-)がラティーフ語頭についていないために主語+述語の文章になっているもので「アッラー(イスラームの唯一神)は優しきお方であられる」といった意味になるのでネーミングに利用しないよう要注意。
■発音と表記■
アラビア語の定冠詞 اَلْ [ ’al ] [ アル ](al-)の「l」は直後に来る子音の調音位置が近いと同化を起こすためアル=ラティーフではなくアッ=ラティーフという促音化が発生。ただし英字表記(転写)としてはal-のままでal-Latiif、al-Latif、al-Lateefのように「l」部分はつづり上の違いが起こらないので、定冠詞部分がアルではなくアッと変化している件はアラビア語文法を知らないと見ただけではわからない。
日本語では学術的な表記だとスペースを空ける部分は「・」、定冠詞のように分かち書きをせず接頭する定冠詞 اَلْ [ ’al ] [ アル ](al-)は「=」でつなぐため分かち書きをすればアブド・アッ=ラティーフ。ただしこのような2語1組の複合人名に関しては実際のアラビア語で息継ぎ無しの一気読みをした時の本来の発音に即したカタカナ表記が広く採用されており、事典類でもアブドゥッラティーフとなっているのが一般的。
一方、一般の表記では全部「・」で区切る書き方、定冠詞直後は「・」を入れない書き方、実際の発音とは違う定冠詞部分がアルのままの書き方が混在しているので、アブド・アッ・ラティーフ、アブド・アル・ラティーフ、アブド・アッラティーフ、アブド・アルラティーフなど色々なパターンが使われ得る。
英字表記では定冠詞部分をどのように区切るかによって何通りものつづりが存在しており、学術表記のように定冠詞 اَلْ [ ’al ] [ アル ](al-)と直後の語を「-」で結んでAbd al-◯◯とするケース、2語を実際の発音と同じようにスペース無しで書きかつ隠れていた格を示す母音uを間にはさんでAbdul◯◯とするケース、2語目につくはずの定冠詞を1語目の最後にくっつけた上で2語目とスペースを空けるAbdul ◯◯、1語目末の母音uと定冠詞 اَلْ [ ’al ] [ アル ](al-)から一気読みで最初の [ ’a ] [ ア ] 音が落ちて الْ [ -l ] [ -ル ]となったものドッキングし2語目先頭につけたAbd ul-◯◯(注:非アラビア語圏のイスラームネームに多い)など様々。
1語目と2語目を息継ぎ無しで一気読みする時にAbduという風に現れる母音uを口語風oに寄せたアブドッラティーフという発音に対応したAbdollatiif、Abdollatif、Abdollateef、Abdol Latiif、Abdol Latif、Abdol Lateefといった英字表記も使われ得る。
この他にも定冠詞部分が口語的な発音el-、il-に置き換わったアブデッラティーフ、アブディッラティーフに対応したAbdel Latiif、Abdel Latif、Abdel Lateef、Abdil Latiif、Abdil Latif、Abdil Lateef、Abdellatiif、Abdellatif、Abdellateef、Abdillatiif、Abdillatif、Abdillateefなどがある。
なお定冠詞 اَلْ [ ’al ] [ アル ](al-)の2文字目とラティーフ語頭の「l」音とが連続してllと2文字連なるものをつづり上1文字だけに減らしたAbdulatiif、Abdulatif、Abdulateef、Abdolatiif、Abdolatif、Abdolateef、Abdelatiif、Abdelatif、Abdelateef、Abdilatiif、Abdilatif、Abdilateefの類も見られる。
ラティーフの長母音ī(イー)音を示すために用いる英字表記-ee-がe1個だけに減らされたLatefというつづりもよく見られるが、原語であるアラビア語ではラテフではなくラティーフと発音するので英字表記経由でカタカナ化する際は要注意。
この人名のカタカナ表記としてはアブドゥッラティーフ、アブドゥッラティフ、アブドッラティーフ、アブドッラティフ、アブド・アッ=ラティーフ、アブド・アル=ラティーフ、アブド・アッ・ラティーフ、アブド・アル・ラティーフ、アブド・アッラティーフ、アブド・アルラティーフ、アブドルラティーフ、アブドルラティフ、アブデッラティーフ、アブデルラティーフ…など多くのパターンが考え得る。
Abd al-Rahmaan、Abd al-Rahman、Abdulrahman、Abdul Rahman、Abd ar-Rahmaan、Abd ar-Rahman、Abdurrahmaan、Abdurrahmanなど
慈悲あまねき者アッラーのしもべ、最も慈悲あまねき御方アッラーのしもべ、慈愛あまねき者アッラーのしもべ
【 99の美名と呼ばれる色々な属性を示すアッラーの別名などとアブド(しもべ、奴隷)という語を組み合わせた、アブド・◯◯シリーズ男性名の一つ。
1語目 عَبْد [ ‘abd ] [ アブド ](しもべ、奴隷)を定冠詞 اَلْ [ ’al ] [ アル ](al-)がついた2語目であるアッラーの属性名 اَلرَّحْمٰن [ ’ar-raḥmān ] [ アッ=ラフマーン(ラハマーンに近く聞こえることも) ](全ての被造物に慈悲が行き渡るという意味の「慈悲あまねき者」「慈愛あまねき者」で説明している専門書が多いが、「慈悲深き者」という訳がついている例も見られる)が後ろから属格(≒所有格)支配した属格構文(イダーファ構文)型の複合語。特殊つづりのため رَحْمَان とは書かれず、م [ m ] 字の上に短剣アリフを表記する。
なお、رَحْمٰنُ [ raḥmān ] [ ラフマーン / ラハマーン ](慈悲あまねき者)は唯一神アッラーの属性名で人間の性質を形容するのには用いないため、イスラーム法学的には عَبْد [ ‘abd ] [ アブド ](しもべ、奴隷)抜きで単体の「ラフマーン」と名付けることは許されていない。アラブ人やイスラーム教徒で「ラフマーンさん」「ラハマーンさん」「ラーマンさん」のように紹介されている人物はほぼこの複合名「アブドゥッラフマーン(アブド・アッ=ラフマーン)」の後半部分だけを切り取ったものだと思われる。】
【 アラビア語の定冠詞 اَلْ [ ’al ] [ アル ](al-)の「l」は直後に来る子音の調音位置が近いと同化を起こすためアル=ラフマーンではなくアッ=ラフマーンという促音化が発生。ただし人名表記としてはal-のままでar-Rahmanのように「l」部分を同化後の子音に書き換えていなかったりすることも多い。学術的な転写方法でも「l」音の同化有無に関わらずal-とする表記が存在するため、al-Raḥmānやal-Rahmanといった表記がかなり広範で見られる。そのため日本語でも原語通りのアッ=ラフマーンではなくアル=ラフマーン、アル・ラフマーン、アルラフマーンのようにカタカナ表記されていることが多い。
前の語を属格支配する後続の名詞は語末に格母音「i」がつくのでこの人名につく母音を全て読み上げる場合は عَبْد الرَّحْمٰن [ ‘abdu-r-raḥmāni ] [ アブドゥ・ッ=ラフマーニ(ラハマーニに近く聞こえることも) ] となる。しかしアラビア語には休止(ワクフ)形がありこの人名を単独で呼ぶ場合、直後に息継ぎをする場合には最後の格母音「i」は落とすため、عَبْد الرَّحْمٰن [ ‘abdu-r-raḥmān ] [ アブドゥ・ッ=ラフマーン(ラハマーンに近く聞こえることも) ] に。英字表記や日本語のカタカナ表記も後者の休止形に基づいて行われている。
日本語表記の都合上元々の単語の切れ目通りにアブド・アッ=ラフマーンと中点を入れて分けることもあるが、アラビア語では実際には息継ぎ抜きでアブドゥッラフマーンと一気読みに発音されるため、カタカナ表記でもアブドゥッラフマーンとつなげ書きすることが多い。
またAbd部分は一気読み発音する場合には語末格母音「u」を含むことからAbdu+al-Rahmaan / al-Rahman / ar-Rahmaan / ar-Rahman 等を組み合わせた上でつなげることとなる。定冠詞の発音同化でアッ=ラフマーンと発音するにもかかわらず英字表記上は同化無しのアル=ラフマーンと読めるままのことも多いため、実際のアラビア語発音に即したAbdurrahmaan、Abdurrahman以外にもAbdulrahmaan、Abdulrahmanなどが併存。
また口語ではAbdu部分の母音uがoに転じやすく、1語目のuがoに転じたアブドッラフマーンという発音に対応した英字表記としてAbdo al-Rahmaan、Abdo al-Rahman、Abdol Rahmaan、Abdol Rahman、Abdolrahmaan、Abdolrahman、Abdor rahmaan、Abdorrahman、そして2語目の定冠詞部分の発音を一語目末に移動した上で切り分けたAbdor Rahmaan、Abdor Rahmanなどが使われ得る。
この他にも定冠詞部分が口語的な発音el-、il-に置き換わったアブデッラフマーン、アブディッラフマーンに対応した英字表記も見られる。
アラビア語に即したカタカナ表記だと後半の2語目部分は-ah-と「ー」のように伸ばすことはせずラフマーン、ラフマン、ラハマーン、ラハマンなどになるが、アラブ系移民だったり非アラブ人イスラーム教徒名だったりして英語圏での発音など非アラビア語圏における現地風の読み方に合わせる場合は適宜ラーマーン、ラーマンなどとする必要も出てくる。】
Abduh
彼のしもべ、かのお方(アッラー)のしもべ
【 عَبْد [ ‘abd ] [ アブド ](奴隷、しもべ) に「彼の~」という意味の人称代名詞 ـهُ [ -hu ] [ -フ ]をくっつけて書いて、「彼のしもべ」、「彼のお方(アッラー)のしもべ」という意味にしたもの。英語だとhis slave、his servantという2語になるものがアラビア語で1語にくっついてまとまっている形となっている。
この名前が父の名前だといった理由からフルネームに含む人物としては、エジプトのイスラーム革命思想家ムハンマド・アブドゥフ、サウジアラビアの大御所歌手モハンメド・アブドゥ、エジプトのベリーダンサー・女優フィーフィー・アブド(彼女の場合は完全な芸名)などがいる。】
【 文語においては語末母音まではっきり発音すると [ ‘abduhu ] [ アブドゥフ ] だが、アラビア語は語末母音のuを省略して発音する方法がありその場合は最後のフはふんわりと聞こえるのみになり、日常的にはアブドゥに近く発音されがちである。
さらに口語的な発音ではuがoになりやすく、アブドに近く聞こえるのが一般的。その場合の英字表記はAbdohもしくはAbdo。その他見られる英字表記としてはAbdu、Abdouなど。また方言によってはアブダという発音になることもあり、AbdaやAbdahという英字表記が派生し得る。】
Abd al-Amir、Abdulamir
アミールのしもべ、信徒の長様のしもべ
【 シーア派信徒特有の名前。第四代正統カリフ(アミール・アル=ムウミニーン)かつシーア派初代イマームであるアリーのしもべであることを意図した名前でアリーに対する崇敬を示す。スンナ派ではこのような唯一神アッラー以外に対する個人崇拝を禁じているためイラクなどシーア派信徒が多い地域に集中している名前となっている。】
【 口語的にuがoに転じたAbdol Amir、Abdol Ameer、Abdolamir、Abdolameerといった英字表記あり。口語における定冠詞al-の発音el-やil-を反映した英字つづりはAbd el-Amir、Abdelamir、Abdilamir。AmirをAmeerに置き換えたのがAbd al-Ameer、Abdulameer、Abd el-Ameer、Abdelameer、Abdilameerなど。AmirをEmirとつづっているのも同じ人名。】
万能なる者アッラーのしもべ
[ 99の美名と呼ばれる色々な属性を示すアッラーの別名とアブド=しもべ・奴隷という語を組み合わせた、アブド某シリーズ。]
[ 口語ではiがeに転じてアブドゥルカーデルのような発音になる。その場合は上記の英字表記バリエーションがQaader、Qaderに置き換わる。 ]
Abd al-Qahhaar、Abd al-Qahhar、Abdulqahhaar、Abdulqahharなど
征服者たるアッラーのしもべ、制圧者たるアッラーのしもべ
【 99の美名と呼ばれる色々な属性を示すアッラーの別名などとアブド(しもべ、奴隷)という語を組み合わせた、アブド・某シリーズ男性名の一つ。どちらかというとマイナーネームであまり見かけない印象。】
【 口語風にuがoに転じたアブドルカッハールという発音に対応したAbdol Qahhar、Abdolqahharといった英字表記あり。この他にも口語的な定冠詞発音el-、il-に置き換わったアブデルカッハール、アブディルカッハールに対応したAbdel Qahhar、Abdelqahhar、Abdil Qahhar、Abdilqahharなども。hを2個重ねず1個に減らした英字表記も使われており、Abdul Qahar、Abdulqahar、Abdol Qahar、Abdolqahar、Abdel qahar、Abdelqahar、Abdil Qahar、Abdilqaharといった英字表記が存在し得る。
またqを発音が近いkに置き換えたAbd al-Kahhaar、Abd al-Kahhar、Abdulkahhaar、Abdulkahhar、Abdol Kahhar、Abdolkahhar、Abdel Kahhar、Abdelkahhar、Abdil Kahhar、Abdilkahhar、Abdul Kahar、Abdulkahar、Abdol Kahar、Abdolkahar、Abdel kahar、Abdelkahar、Abdil Kahar、Abdilkaharなども全部同じ名前の英字表記バリエーション。】
Abd al-Hamiid、Abd al-Hamid、Abd al-Hameed、Abdul Hamiid、Abdul Hamid、Abdul Hameed、Abdulhamiid、Abdulhamid、Abdulhameedなどなど…
称賛される者アッラーのしもべ
【 名詞アブド(しもべ、僕)と唯一神アッラーの属性名(美名や美称と呼ばれている別名)の1つアル=ハミード(称賛される者、The Praiseworthy)を組み合わせた複合名。分かち書きをすればアブド・アル=ハミードだが実際にはアブドゥルハミードと一気読みされる。
神の教えによく従う敬虔な信徒となることを願ってつけられるイスラーム男性名。オスマン朝史で出てくるアブデュルハミトはこれのトルコ語発音由来で、後半部分の元となったEl-Hamit(アル=ハミト、アル・ハミト、アルハミト)が唯一神アッラーのみに用いられる特別な称号アル=ハミードに対応している。
*トルコ語発音にする場合、アラビア語の定冠詞 定冠詞 اَلْـ [ ’al- ] [ アル= ](al-)は el-(エル)に置き換えるのが標準的である模様。ただ検索してみると「アル=ハミード」の意味に相当する部分がAl-Hamit(アル=ハミトもしくはアル・ハミト、アルハミト)になっているケースも観測。】
Ahmad
より称賛された(者)、より称賛に値する(者);最も称賛された(者)、最も称賛に値する(者)
【 比較級・最上級の語形。ムハンマドと同じ語根 ح - م - د(ḥ-m-d)から作られた語で称賛に関連した概念を示す。
語末格変化が二段変化で主格: أَحْمَدُ [ ’aḥmadu ] [ アフマドゥ ]、属格: أَحْمَدَ [ ’aḥmada ] [ アフマダ ]、対格: أَحْمَدَ [ ’aḥmada ] [ アフマダ ] となる件に関して「動詞と同じ語形」「動詞と同じ型」(عَلَى وَزْنِ الْفِعْلِ)と形容されるが、これは語形・リズムが動詞未完了形と同じという意味で、アフマドという語の意味の由来が أَحْمَدُ [ ’aḥmadu ] [ アフマドゥ ](私は賛美する、私は称賛する)という動詞だという意味ではないので区別が必要。
アラビア語では比較級も最上級も同じ語形なので「より称賛された」と「最も称賛された」の両方の意味を示し得るが、属性名的にクルアーン等で言及されている預言者ムハンマドの別名としては最上級の方に該当。他のどんな人間よりも優れた預言者・使徒ということで「最も称賛された(者)、最も称賛に値する(者)」という強い意味の方となる。
アフマドと呼ばれた・アフマド(最も称賛されるべき者、最も称賛に値する者)と形容された人物は預言者ムハンマドが初めてだとされており、後代に生まれた男児たちの名前として崇敬を集める彼にあやかっての命名。信徒らの間で長きにわたって好まれており、この名前を持っている人はアラブ人だけでなくそれ以外のイスラーム教徒にも非常に多い。】
【 日本語のカタカナ表記ではアフマドが標準的だが、h部分はfとは違うためカタカナのフよりもハに近い。そのためアフマドよりもアハマドの方が原語に似た発音となる。口語風にaがeに寄ったアフメドもしくはアハメドという発音に対応した英字表記もAhmed。
またアラビア語では語末が-adのようになっている語では-addのように重子音化に近くなることがあるため、アフマッド、アハマッド、アフメッド、アハメッドのように聞こえる場合がある。日本ではそれとは別に英字表記Ahmadの-ad部分を英単語のカタカナ化同様に扱ってアフマッド、アハマッドとしているケースも少なくないと思われる。
アラビア語においてahはアーという音ではなくアフやアハという発音となる部分を示す。英語圏に移民したアラブ人やイスラーム教徒の人名として現地発音する場合は別だが、アラブ式発音に即した純アラブ人名としてカタカナ化をする場合はアーマド、アーメドとしないよう注意。ただしネイティブのアラブ人が自分の名前をアーマドのようにカタカナ表記して使っていることもある。】
Amiid、Amid、Ameed
(一家・民衆・組織などの)長、代表的人物;学長(*現代用法);(文芸界などの)大御所、第一人者;准将、大佐(*軍の階級として。ただし国によって異なる。);クッションで支えられないと座っていられないぐらいに弱っている病人;愛情・恋慕に身を焦がしている(人)、愛情・恋慕に苦しめられている(人)、(心が)恋慕や悲しみで打ちひしがれている(人)
【 語根 ع - م- د(‘-m-d)は支えること・支えられることに関連した概念などを示す単語を作るのに使われたりする。「長」といった意味はその人を拠り所として物事の決定において頼りにするような人物、というニュアンスから。「(文芸界などの)大御所、第一人者」という意味では عَمْيد الأَدَبِ الْعَرِبِيّ [ ‘amīdu-l-’adabi-l-‘arabiyy/‘arabī(y) ] [ アミードゥ・ル=アラビ・ル=アラビー(ィ) ](アラブ文学のアミード、アラブ文学の第一人者)という表現などが有名。ちなみにエジプトが生んだ有名作家ターハー・フサイン(/フセイン)のこと。
通常は人を率いて頼られるようなプラスのイメージで命名されるが、いくつかある意味にはマイナスの内容を示す用法も含まれる。恋情や悲しみに襲われ苦しんでいるイメージについては、同じ語根から成る動詞 عَمَدَ [ ‘amada ] [ アマダ ] に「(感情・悲しみ)が人にのしかかって蝕み苦しめる」ことを表現する用法があるため。عَمِيد [ ‘amīd ] [ アミード ] のような فَعِيل 語形にはそのような他動詞の動作を受ける対象であることを示す受動態的な意味合いが含まれ、恋慕や悲哀により苦しめられた人の形容となる。】
母音記号あり:أَمِير [ ’amīr ] [ アミール ] ♪発音を聴く♪
Amir、Amiir、Ameer
指導者、指揮者、司令官、長;首長;王;(国王の子供としての)王子;助言者、アドバイザー;イスラーム共同体の指導者たるカリフの称号「信徒たちのアミール(長)」を指す;(イラクやイラン(注:非アラブ地域)いったシーア派共同体内で強く崇敬されている)第4代正統カリフ/シーア派初代イマーム アリーの称号「信徒たちのアミール(長)」にちなむ
■意味と概要■
動詞 أَمَرَ [ ’amara ] [ アマラ ](命令する、命じる、指示を出す;アミールとなる)、أَمُرَ [ ’amura ] [ アムラ ](アミールになる)、أَمِرَ [ ’amira ] [ アミラ ](アミールになる)が示す性質・状態を継続して有することを意味する、分詞に類似した فَعِيلٌ [ fa‘īl(un) ] [ ファイールン ] 型語形。
現代アラブ諸国が王国となりその統治者である国王が مَلِك [ malik ] [ マリク ]、その息子である王子たちが أَمِير [ ’amīr ] [ アミール ] と呼ばれることが普及する前の長や民たちのトップがこの أَمِير [ ’amīr ] [ アミール ] で、今でもアラビア半島の湾岸諸国で「首長」と和訳される立場にある元首らがこのアミールという称号で呼ばれている。辞書にはアミールの同義語としてマリクが載っていたりと、「アラビア語では昔からマリクが王でアミールが王子だった」とはだいぶ事情が違うので要注意。
アラブ諸国やイスラーム諸国でアミールという名前がついている人は元々の意味である「指導者、指揮者、統治者、リーダー、長(おさ)」というニュアンスを意図しているのが普通で、「キラキラしくロイヤルに育ってほしい」「王侯貴族のようにゴージャスな暮らしを送ってほしい」という願いを込めて命名される「王子様」「プリンスくん」という意味で解釈しない方が無難。創作キャラ以外については日本でイメージするような「王子」「プリンス」と同じイメージで扱わないよう要注意。
أَمِير الْمُؤْمِنِينَ [ ’amīru-l-mu’minīn(a) ] [ アミール・ル=ムウミニーン(実際にはムゥミニーンとムッミニーンを混ぜたような発音) ](アミール・アル=ムウニミーン)すなわち「信徒たちのアミール(長)」シーア派初代イマームのアリーへにちなんでアミールと名付けられる例も多く、イラクやイランを始めとするシーア派が多い地域ではアリー崇敬と結びついた命名である割合がスンナ派地域よりも高め。
アミール自体はアラブ全体としてはそう多くないファーストネーム。王族の称号が国王(マリク)や王子(アミール)であるサウジラアビア王国では一般男児名として命名することが禁止であると内務省の通達などにより告知されており、このアミール(王子)もそうした命名禁止男児名の一つとなっている。
■発音と表記■
主な英字表記はAmir、Amiir、Ameer。Ameerの2個連なっているeeを1個に減らしたAmerも使われているが、アーメルでもアメールでもなくアミールなので要注意。
英字表記でEmir、Emiir、Emeerなどと書かれている男性名はこの名前の発音・表記バリエーション。トルコ語系の発音だとエミルになるため、Emirなどはトルコの男性名であることも多い。
なおAmirについてはアラビア語表記も発音も全く違う男性名である عَامِر [ ‘āmir ] [ アーミル ](住んでいる、居住している、居住者;建設者;人々がそこに住んでいる、(場所として)栄えている;長生きの)の英字表記とかぶるので、アラビア語表記や実際の発音で確認する必要あり。またAmeerと書いてアミールと読ませる当て字からeを抜いたAmerについては عَامِر [ ‘āmir ] [ アーミル ] の口語発音 [ ‘āmer ] [ アーメル ] の当て字とかぶるので同じく区別のための確認作業が必要。
Amiin、Amin、Ameen
正直な、誠実な;信頼できる、信頼に足る;安全な
【 預言者ムハンマドの別名(属性名的にクルアーン等で言及されているもの)の一つとして古くから好まれている男性名でもある。】
【 長母音 [ ī ] [ イー ] を意図したAmeenのeeが1個だけに減らされたAmenという英字表記があてられていることもある。】
Amr
長生きの(人);建築、建物を建ててその地に居住する(人);生涯、人生
【 イスラーム以前のジャーヒリーヤ時代からある伝統的なアラブ男性名。アラビア文字に弁別点も母音記号も無かった時代、別の男性名 عُمَرُ [ ‘umar ] [ ウマル ] とつづりが全く同じ عمر になってしまうためアムルの語末には区別用に発音に影響しない余剰の و [ wāw ] [ ワーウ ] 1文字が足され عَمْرٌو [ ‘amr ] [ アムル ] となった。
格変化についてはウマルが主格:عُمَرُ [ ‘umaru ] [ ウマル ]、属格:عُمَرَ [ ‘umara ] [ ウマラ ]、対格:عُمَرَ [ ‘umara ] [ ウマラ ] の二段変化。アムルは主格:عَمْرٌو [ ‘amrun ] [ アムルン ](*タンウィーン記号は و の手前の ر の上に書かれる)、属格:عَمْرٍو [ ‘amrin ] [ アムリン ](*タンウィーン記号は و の手前の ر の下に書かれる)、対格:عَمْرًا もしくは عَمْراً [ ‘amran ] [ アムラン ] の三段変化。対格のみ二段変化のウマルと違いタンウィーンのアリフが書かれるのは、つづり上の混同が起きないことから余剰の و を追加する必要が無いため。
アラビア語文法学では「فَعْلٌ(fa‘l)」型で語形的に使いやすいこの عَمْرٌو [ ‘amr ] [ アムル ] と زَيْد [ zayd/zaid ] [ ザイド ] が例文の登場人物として多用されるのが中世以降から続く伝統となっており、アムルはいつもザイドに殴られる・棒で叩かれる・殺されるといった物騒な目に遭っていることでも有名。入れ子状の構文になるとザイドの父なども登場しアムルに危害を加えるというかなりバイオレンスな設定となっている。
このファーストネームを持つ歴史上の有名人物としてはエジプトなどに遠征した名将 عَمْرُو بْنُ الْعَاصْ [ ‘amr(u) bnu-l-‘āṣ ] [ アムル・ブヌ・ル=アース ](アムル・イブン・アル=アース)が挙げられる。後世に生まれた男児らには彼にあやかって命名されたケースが多い。】
【 アラビア語表記の語末にある و は発音しない余剰文字で別の男性名 عُمَر [ ‘umar ] [ ウマル ] と区別するために足されたもの。 しかし英字表記ではAmru、もしくはuを口語的にoに寄せたAmroと書かれていることもある。日本語のカタカナ表記でアムロと書いてあるアラブ人名はこのAmroに対応。】
母音記号あり:عَلاَء [ ‘alā’ ] [ アラー(ゥ/ッ) ] ♪発音を聴く♪
Alaa、Ala
高さ;高位、高貴;高潔、崇高
■意味と概要■
「高いこと、高み」、「高位、高貴」、「高潔、崇高」を意味する動名詞。
2語以上から成る複合名の新規命名が不可となった国では عَلاَء الدِّين [ ’alā’u-d-dīn ] [ アラーウ・ッ=ディーン ](アラーウッディーン(アラー・アッ=ディーン))の代替としてこのアラー単体が命名されることも。本名自体がまた عَلاَء الدِّين [ ’alā’u-d-dīn ] [ アラーウ・ッ=ディーン ](アラーウッディーン(アラー・アッ=ディーン))というファーストネームを持つ人が日常において家族・知人などから短く省略して呼ばれる際にも、この「アラー」で呼ばれることが少なくない。
イスラーム教やアラビア語圏のキリスト教で使われている唯一神の名称 اَللهُ [ ’allāh ] [ アッラーフ(日常会話での発音は [ ’allā ] [ アッラー ]) ] に対して日本で長年使われてきた慣用カタカナ表記「アラー」とかぶるため誤解されがちだが、人名としての「アラー」は全く別のつづりと発音をする関係の無い語で、「唯一神の名前アッラーから定冠詞を取ると男性名アラーになる」、「アラジンのアラビア語名アラーウッディーンのアラーは神様の名前」といった説明はいずれも誤り。
■発音と表記■
語末に長母音ā+声門閉鎖音/声門破裂音 ء(ハムザ)があるため文語アラビア語的に厳密な発音はアラーゥとアラーッを混ぜたような感じに聞こえるが、口語などでは単なる [ ‘alā ] [ アラー ] のように聞こえることが一般的。そのため日本語の学術的なカタカナ表記でもアラーとするのが標準的となっている。
長母音āがē寄りになる方言におけるアレーに近い発音に即したAlee、Ale、Aleaといった表記も見られる。Aleaについてはおそらく口語アラビア語におけるアレェー(ァ)のような発音を意図したものなので、アレアとカタカナ化しないよう要注意。
携帯電話にアラビア語キーボードが無かった時代に普及したチャットアラビア語の影響から、SNSのユーザーネーム等では語頭の ع [ ‘ayn/‘ain ] [ アイン ] を数字の3に置き換えた3Alaa、3Ala、3alaa、3alaや、語末の声門閉鎖音/破裂音 ء [ hamza(h) ] [ ハムザ ] を数字の2に置き換えたAlaa2、Ala2といったつづりも見られる。
Alaa al-Diin、Alaa al-Din、Ala al-Din、Alaa ad-Diin、Ala ad-Din、Alaauddiin、Alauddinなどなど ♪発音を聴く♪
信仰の高み、宗教の崇高さ、信仰・宗教における高い地位・崇高さ
■意味■
いわゆるAladdin(アラジン)のこと 。2語からなる複合語で、中世に宗教関係で功績を挙げた人物に与えられた称号(ラカブ)がファーストネームに転じたもの。スルターンといった歴史上の統治者がこの称号を有していたほか、マムルーク朝時代になると軍人に授けられるなどしていたという。
「信念の尊さ」といった意味で紹介されていることもあるが、後半部分の単語 اَلدِّين [ ’ad-dīn ] [ アッ=ディーン ] 自体は信念や強く誰かや何かを信じる個人的な気持ちではなく具体的には信仰・宗教と訳する内容である。具体的には定冠詞つきで英語の「the religion」すなわち特定宗教であるイスラーム教のことを指しており、称号を与えられた人物のイスラームに対する信心や功績が栄光ある高い場所に到達したことを意味する称号・名称となっている。
ちなみにネットでは「アラジンのアラはイスラーム教の神の名前アラーが由来」「アラジンという人名は唯一神アラーとジーニー等の名前で知られるジンを合わせた名前」「アラジンは神(アラー)と妖精(ジン)の合成語」と書かれていることがあるが誤り。日本でアラジンとして知られるアラビア語人名は前半の عَلَاء [ ‘alā’ ] [ アラー(ゥ/ッ) ] という表記・発音で、英語発音Aladdin(アラディン)のディ部分を日本語カタカナ表記でしばしば行われるジ置き換えによってアラジンとしたものとなっている。
イスラームの唯一神の名前 اَلله [ ’allāh ] [ アッラー(厳密にはアッラーフとアッラーハを混ぜたような発音で、最後の ه [ h ] はほんのり聞こえる程度に発音、口語では省略され単なるアッラーに) ] とは全く別の言葉となっている。このアッラーは昔日本語で「アラー」「アラーの神」などと書かれることが多かったが、今は原語の発音に従い「ッ」を含んだアッラーやアッラーフが用いられている。また後半はジンではなく دِين [ dīn ] [ ディーン ](宗教)でこれも精霊的存在の人外である جِنّ [ jinn ] [ ジン ] とは異なる。
■発音と英語や日本語における表記■
日本語のカタカナ表記では複合語の発音を区切ってアラー・アッ=ディーンなどと書かれていることもあるが、実際には息継ぎせず一気読みされるため文語的な発音はアラーウッディーンとなる。これをアラー・ウッディーンのような区切り方をするのはインドなどのイスラーム政権の統治者の名前などとして表記する際となっており、アラブ人名では通常行わない。
1語目の厳密な発音がアラーゥとアラーッの中間のような読み方となるが日常生活での会話・口語における発音はアラーなので日本語では学術書も含めアラーゥやアラーッではなくアラーと表記。そのためこの複合名を分かち書きする際もアラー・アッ=ディーンのようになるなどする。
なお分かち書きをすればとアラー・アッ=ディーンとなるものの、「アラー」の直後に定冠詞+ディーンより成る「アッ=ディーン」を息継ぎ無しで一気読みする際はアラーの語末の声門閉鎖音/声門破裂音についた格母音(主格はu、属格はi、対格はa。通常人名として単独で言う場合は主格の「u」をつける。)がはっきり現れるので [ ’alā’ ] [ アラーゥ/アラーッ ] ではなく [ ’alā’u ] [ アラーウ ] に変わる。
後半の2語目は定冠詞 اَلْـ [ ’al- ] [ アル= ](al-)+名詞 دِين [ dīn ] [ ディーン ] の組み合わせだが、定冠詞の「l」は直後に調音位置が近い子音が来ると同化してしまうため「d」に同化。اَلْدِين [ ’al-dīn ] [ アル=ディーン ] ではなく اَلدِّين [ ’ad-dīn ] [ アッ=ディーン ] という促音化した発音に変わる。
さらに定冠詞語頭の [ ’a ] [ ア ] 部分は前に他の語が来て息継ぎ無しで一気読みすると発音が脱落。複合語全体では عَلاَءُ الدِّين [ ’alā’u-d-dīn ] [ アラーウ・ッ=ディーン ] という発音になる。しかし学術的表記も含めこの定冠詞の発音変化を反映させず常に「al-」で通す英字表記が多く使われている。
ディーンの長母音「ī(イー)」に関してはDiin、-ii-を1個に減らしたDin、Deen、-ee-を1個に減らしたe、Deanといった英字表記バリエーションが存在。ディーンもしくは短くつまってディンとなった発音を意図したものなので、デンやデアンとカタカナ化しないことを推奨。
前半部分と後半部分のつづりバリエーションを合わせた結果としてAlaa al-Diin、Alaa al-Din、Ala al-Diin、Ala al-Din、Alaa al-Deen、Ala al-Deen、Alaa al-Dean、Ala al-Deanといった英字表記が見られる。
口語(方言)ではアラーアッディーン、アラーッディーン、アラッディーンといった発音になることも。1語目末の声門閉鎖音やそこにつく母音を省いてしまうケースでは純文語的な発音とは耳で聞いた時の感じが多少異なってくる(♪発音を聴く♪)。英字表記のAlaaddiin、Aladdiin、Alaaddin、Aladdin、Alaaddeen、Aladdeen、Alaaddean、Aladdean、そして2個連なる-dd-を1個に減らしたAlaadiin、Aladiin、Alaadin、Aladin、Alaadeen、Alaaden、Aladen、Aladeen、Alaadean、Aladeanなどが派生。
ディズニー映画『アラジン』の題名としても使われている英語におけるつづりAladdin(発音はəlˈædnやəlˈædɪnなど)と英字表記が全く一緒・発音がそっくりになる場合もあり、英語における男性名Aladdinの発音が元のアラビア語から大きくかけ離れている訳ではないことがわかる。
アラブ以外のイスラーム圏では عَلاَء الدِّين [ ’alā’u-d-dīn ] [ アラーウ・ッ=ディーン ] の発音が英字表記の定冠詞部分に反映されたAlaa ud-Din、Ala ud-Din、Alaa ud-Deen、Ala ud-Deen、Alaa ud-Den、Ala ud-Den、Alaa ud-Dean、Ala ud-Deanのように定冠詞部分をalからudに変えた英字表記を使うことも少なくない。
定冠詞部分については南アジア風のud-以外にアラブ系人名の英字表記として「al-◯◯」、「Al-」、スペース無しの「Al◯◯」。スペースありの「Al ◯◯」など複数通りが併存。口語における定冠詞の発音変化に即した「el-」「il-」の系統が上記の多様な英字表記各パターンに加わる形となる。
なお、Aladdin語頭の「Al」は定冠詞アルではないのでAlとaddinに分けてAl-Addinとしてアル=アッディーンやアル=アッディンと間違えて読まないよう要注意。Alaとddinに分けるのがアラビア語的には正しい区切り方。
Alii、Ali、Alee、Aly
高い;高貴な、地位が高い;堅固で強い
【 第4代正統カリフでシーア派初代イマームのアリー・イブン・アビー・ターリブのファーストネームとして有名。彼は預言者ムハンマドのいとこで、彼の娘ファーティマと結婚。2人の間に生まれた息子のハサンとフサイン(フセイン)はシーア派の第2代・第3代イマームとなった。なお定冠詞 اَلْـ [ ’al- ] [ アル= ](al-)がついた اَلْعَلِيُّ [ ’al-‘alī(y) ] [ アル=アリー(ュ/ィ) ] は唯一神アッラーの属性名(美名)の一つで意味は「至高なる者」「最も高き者」。
アラブ世界では古くからあった名前だが、イスラーム教徒特にシーア派に強く崇敬されるアリーのファーストネームであることから世界各地の信徒らが我が子の命名に用いている。なお改宗者がムスリムネームとして選ぶことも少なくなく、アメリカ合衆国のボクシング王者モハメド・アリの「アリ」などもこのアラブ人名アリーが由来となっている。
なお「堅固で強い」という意味合いはアラビア語大辞典に載っていることがある定義で、人以外に牡ラクダや馬などの形容に使うなどする模様。】
【 語末の子音「y」は重子音化記号シャッダがついているためアラビア語におけるつづり的には [ ‘aliyy = ‘alī(y) ]。純文語的で厳密な発音を発音するとアリーュとアリーィの中間のような発音に聞こえアクセントも後半に置かれるが、口語など日常的な会話では単なる [ ‘alī ] [ アリー ] と聞こえる発音をしていることが多い。この場合はアクセント位置が前方にずれる(♪発音を聴く♪)。
さらに口語では [ ‘alī ] [ アリー ] のような語末の長母音が短母音化してしまうため、実際に聞くと [ ‘ali ] [ アリ ] に聞こえることも。また英字表記では語末長母音の存在がわからないAliというつづりが広く使われているため、日本ではアリー以外にアリというカタカナ表記が多用されている。】
母音記号あり:أَرْسَلَان [ ’arsalān ] [ アルサラーン ] ♪発音を聴く♪
Arsalaan、Arsalan
獅子、ライオン
■意味と由来■
テュルク系言語ならびにペルシア語で「獅子、ライオン」を意味する名として使われていたものがアラビア語圏に輸入された外来人名。非アラブ圏からの輸入男性名だが資料からかなり古い時代にアラブ世界内部で使われていたことがうかがえ、アッバース朝時代初期に現シリア・レバノン付近にやってきたラフム朝ゆかりの人物がこのアルサラーン(アルスラーン)の名を持っていたことが伝えられている。
レバノンでは家名にもなっており今でも国会議員を輩出するなどしている。スンナ派のアルサラーン(アルスラーン)家、ドゥルーズのアルサラーン(アルスラーン)家、シーア派のアルサラーン(アルスラーン)家がそれぞれあるという。
オスマン語やトルコ語におけるアルスラーン(アルスラン)、アスラーン(アスラン)のうちアラブ世界に定着し一部の詳しいアラブ人名辞典にも載っているのは前者の方で、アスラーン(アスラン)の方は名辞典等に掲載されていないことが多い。
元々アラブ世界では獅子、ライオンという意味の人名アサド、ウサーマ、アッバース、ガダンファル、ディルガーム、フィラース、ライフ、バースィル、アッザーム、サーリー、サーリヤ、ハーディー、ハーリス、ハイダラ、ハイダル、ファーリスなどがある。アルサラーン(アルスラーン)はそれらの伝統的アラブ人名に比べるとテュルク系・トルコ系のイメージが強い男性名であるためアラブ人キャラのネーミングに使える典型的アラブネームであるとは言い難い。さらにアスラーン(アスラン)はそれよりもマイナーであることから、アラブ系キャラ命名には非推奨
アラブ世界は多くの地域がオスマン朝の支配下にあったため、このアルサラーンのようにトルコ語の人名を持つ人物が今でも存在する。この أَرْسَلَان [ ’arsalān ] [ アルサラーン ] 語頭にある「ア」の音が取れた رَسْلَان [ raslān ] [ ラスラーン ](獅子、ライオン)という人名の流通もあり、シリア ダマスカス老舗コーヒーポット製造元の名前から命名されたラスラーン・ポットはアラビア半島のコレクターの間でも人気が高い。
なおネットで出回っている
●トルコ語などで獅子を意味するアスラーン(アスラン)だがアラビア語では「昼下がりに、午後に」という意味の عَصْرًا [ ‘aṣran ] [ アスラン ] が由来の男性名。
●アスランはアラビア語で「夜明け、暁」という意味の男性名。
といった情報はいずれも誤報で、「アスランは昼下がり、午後」説についてはアラブ人名事情に通じていない人物が単にカタカナ表記が同じだという理由からアラビア語では全くつづりの違う単語を人名の語源として解釈してしまったのが原因。
オスマン語(オスマン朝時代のトルコ語)で使われていた「獅子、ライオン」という意味の男性名は أَصْلَان [ ’aṣlān ] [ アスラーン ]、アラビア語で「昼下がりに、午後に」を意味するのは عَصْرًا [ ‘aṣran ] [ アスラン ] という名詞対格の副詞用法、アラビア語で「夜明け、暁」は فَجْر [ fajr ] [ ファジ(ュ)ル ] という具合に、「アラビア語にアスランという男性名がある」「トルコ語で獅子(ライオン)という意味のアスラーン(アスラン)と違って午後の意味」「アスランというアラビア語人名は午後3時ぐらいのことらしい」といった言説は全て混同や誤解によるものだと言える。
■発音と表記■
アラビア語圏ではアルスラーンではなく أَرْسَلَان [ ’arsalān ] [ アルサラーン ] と発音されるので、トルコ語系の発音「アルスラーン」「アルスラン」と混同しないよう要注意。
アラビア語では2語から成る外来語の1語目・2語目の切れ目に母音「a」を伴うことから、千夜一夜物語(アラビアンナイト)に出てくる王の名前もシャフリヤール、シャハリヤールではなく شَهْرَيَار [ shahrayār ] [ シャフラヤールとシャハラヤールを混ぜたような発音 ] と日本で出回っているカタカナ表記とは微妙に違う読み方となる。
ただしアラブ圏で活躍した男性の名前にArsalanではなくArslanという英字表記があててあることも少なくない。
Awad
代わり、代替
【 一般名詞として使われる時の発音 عِوَض [ ‘iwaḍ ] [ イワド ] で載せているアラブ人名辞典も。】
Antar
青蝿(アオバエ)、クロバエ(*英語のblue bottle flyに同じ);勇敢な、勇猛な;槍で激しく突き刺す者
【 有名なアラブの古典的騎士道物語の主人公名。実在したアラブの騎士・詩人アンタラ عَنْتَرَة [ ‘antara(h) ] [ アンタラ ] の生涯を脚色した壮大な物語となっている。彼はアラブ人の父と黒人奴隷の母との間に生まれ、誕生当初は父から認知を受けることができなかった。成長するとその勇敢さ・勇猛さで有名に。彼は色黒で寛大・高貴な人柄だったとされる。
その肌の黒さから أَبُو الْمُغَلِّسِ [ ’abu-l-mughallis ] [ アブ・ル=ムガッリス ](アブー・アル=ムガッリス、意味は「闇夜を進む者の父」)や اَلسَّائِر فِي الظَّلَامِ [ ’as-sā’ir fi-ẓ-ẓalām ] [ アッ=サーイル・フィ・ッ=ザラーム ](アッ=サーイル・フィー・アッ=ザラーム、意味は「夜に闇の中を進む者」)とあだ名された。
アンタル/アンタラの命名の由来が本当にアオバエやらクロバエやらで彼の肌の黒さを例えたからだったのかは確かではなく、他の語を変形させた語形が由来だとする説など複数の解釈があり定まっていないという。】
母音記号あり:عَنْبَر [ ‘anbar ] [ アンバル ] ♪発音を聴く♪
Anbar
アンバー、竜涎香(りゅうぜんこう)
【 男性名、女性名の両方として古くから使用されてきた名前。】
【 アラビア語では-ar部分はアルと発音。英語のようにアンバーのような発音にはならない。なおb音の前のn音がmに転化しやすいアラビア語の音声的な性質のため実際には [ ‘ambar ] [ (アムバル寄りの)アンバル ] と発音されることも。】
Ammaar、Ammar
数多く・大いに建設する者、建設者;長生きの;香りが良い、芳しい香りの;たくさん礼拝・断食を行う(人)、信仰心が強い(人)
【語形・意味・発音】
男性名にとしても使われている能動分詞 عَامِر [ ‘āmir ] [ アーミル ](住んでいる、居住している、居住者;建設者;人々がそこに住んでいる、(場所として)栄えている;長生きの)の強調語形。アンマール・イブン・ヤースィルのイメージからか「確固たる信仰心を持っている人物」「一生涯亡くなるまで揺るがない信仰心を持っている人物」といったイメージも持ち合わせている名前となっている。
-mm-部分は促音化する訳ではないのでアッマールとカタカナ化しないよう要注意。なおmの調音部位で-mm-と音を出すため日本語のカタカナ表記ではアンマールとなるもののアラビア語では [ ‘anmār ] [ アンマール ]ではなく [ ‘ammār ] [ (アムマール寄りの)アンマール ] と発音される。
【イスラーム最初期改宗者アンマール・イブン・ヤースィル】
男性名アンマールは預言者ムハンマドの布教活動が始まった最初期に入信した信徒・教友(サハービー)のファーストネームとして有名。イスラーム共同体のための最初のモスク(マスジド)を建てた人物。
彼の父ヤースィルはイエメン出身。故郷を離れた兄弟を探しに多神教の巡礼地としてにぎわっていた聖地マッカ(メッカ)に出てきてそのまま定住。イエメンに戻らずそのまま居着いてスマイヤと結婚。ヤースィルを含む男児複数名(うち1名はイスラーム以前に死去)をもうけ、預言者ムハンマドが布教を開始した早い時期にその教えに共鳴し一家でイスラームに改宗。多神教巡礼地マッカ(メッカ)管理者であったクライシュ族側が行ったイスラーム棄教を迫る激しい拷問で母が死去。母はイスラーム共同体でクライシュ族側による拷問により亡くなったした1人目の信徒となった。そして父も棄教を受け入れないまま拷問死。
生き残ったアンマールは激しい拷問と両親の壮絶な死から強要に屈し心にも無い信仰否定の言葉を口にしてしまい、泣く泣く預言者ムハンマドに事情を打ち明けたという。その折に本心で信仰を失っていなければ大丈夫だという旨の神の言葉がクルアーンとして下されたとされる。
預言者ムハンマドと行動を共にし数々の戦い(ガズウ)に参加。預言者亡き後は第4代正統カリフのアリーと共にウマイヤ家との闘争に参加、ヤマーマの戦いで片耳を失った。最期はウマイヤ家ムアーウィヤの軍勢との戦闘中に殺害され死去。享年93歳。
パレスチナのPLO議長を務めた故 يَاسِر عَرَفَات [ yāsir ‘arafāt(口語発音はyāser ‘arafāt)] [ ヤースィル・アラファート(口語発音はヤーセル・アラファート)](Yasser Arafat、ヤーセル・アラファート)のゲリラ名である أَبُو عَمَّار [ ’abū ‘ammār ] [ アブー・アンマール ](Abu Ammar、アブー・アンマール。意味は「アンマールの父」。)はこのアンマールと父ヤースィルの親子関係から着想を得たレヴァント(レバント)地域によくあるタイプのニックネームが由来。
Anwar
より/最も光り輝く、より/最も輝やかしい;肌の色が輝かしい、顔が輝かしい(*色白、血色が美しいといった意味合い)
【 比較級(より~な)・最上級(最も~な)の語形。
このアンワルはエジプト大統領だったアンワル・アッ=サーダート(日本ではアンワル・サダトといったカタカナ表記多し)氏のファーストネームとしても知られるが、実は彼の本名は「ムハンマド・アンワル」で1セットという昔エジプトに多かった複合名。預言者ムハンマドと同じ名前を我が子のファーストネームの最初に足すとご利益があるという民間信仰からよくつけられていたタイプの複合名だが、エジプトは男性の1/4近くが名前に「ムハンマド」を含むとされる国柄のため、大統領という有名人になったことでムハンマド部分が省略され「ムハンマド・アンワル・アッ=サーダート」から通名の「アンワル・アッ=サーダート」となった。】
【 女性名 أَنْوَار [ ’anwār ] [ アンワール ]((1) نُور [ nūr ] [ ヌール ](光)の複数形で意味は「光(たち)」、(2) نَوْر [ nawr ] [ ナウル ](春の野に咲く黄色い花)の複数形で意味は「春の野に咲く黄色い花(たち)」)と英字表記Anwarがかぶるため、文脈やプロフィールなどのヒントから男性名のアンワルなのか女性名のアンワールなのかを区別する必要がある。】
母音記号あり:عِيسَى [ ‘īsā ] [ イーサー ] ♪発音を聴く♪
Isa、Iisaa、Isaa、Iisaなど
イーサー(*イエスに相当)
■意味と概要■
ヘブライ語人名由来でアラビア語においては非アラビア語系の外来人名扱い。アラブ諸国ではイスラームにおける預言者イーサー(イエスに相当)の名前として広く知られる。なお、同じアラブ世界でもキリスト教徒は彼の名前を يَسُوع [ yasū‘ ] [ ヤスーウ ] と呼ぶ。ちなみにアラビア語でメシアは اَلْمَسِيح [ ’al-masīḥ ] [ アル=マスィーフとアル=マスィーハが混ざったような発音) ]。
■発音と表記■
イー部分は単なる長母音 [ ī ] [ イー ] ではなく、アインという喉を引き締める子音を伴う音であるためァイーサー、アィーサー、アイーサーに近く聞こえることがある。そのような発音を意識し単なる「イ(i)」ではなく「ai」で表現したAiisaa、Aiisa、Aisaa、Aisaや「ae」で表現したAeisaa、Aeisa、Aeesaa、Aesaa、Aesaといった英字表記も。語頭の「I」を「E」に置き換えたEesaa、Eesa、Essa、Eiisaa、Eisaa、Eisaといった英字表記も見られる。
s部分はフランス語圏などにおける濁点化防止といった理由から便宜上ssと2個連ねる表記もあり、Iissaa、Issa、Issaa、Iissa、Aiissaa、Aiissa、Aissaa、Aissa、Aeissaa、Aeissa、Aeessaa、Aessaa、Aessa、Eessaa、Eessa、Essssa、Eiissaa、Eissaa、Eissaといった表記が派生し得る。しかしイーッサー、イッサー、イッサ、アエッサー、アエッサ、エッサー、エッサと読ませることを意図したものではないのでカタカナ化の際は要注意。
携帯電話にアラビア語キーボードが無かった時代に普及したチャットアラビア語の影響から、SNSのユーザーネーム等では語頭の ع [ ‘ayn/‘ain ] [ アイン ] を数字の3に置き換えた3isa(以下略。検索する場合は上に挙げた表記例の語頭「I」「E」「Ae」などの前に3を足すか、置き換えるかする。)といったつづりも多用されている。
口語アラビア語(方言)では語末長母音āの短母音(a)化が起こる傾向が強いため、実際に耳で聞くと [ ‘īsa ] [ イーサ ] に聞こえることも少なくない。また英字表記としてIsaのように元々長母音があることを推測できないつづりのものがあることから、日本ではイーサー、イーサ、イサといったカタカナ表記が混在している。
Iihab、Ihabなど
与えること、贈ること;(物事に対して)準備させること
【 語根 و - ه - ب(w-h-b)から成る動詞派生形第4形 أَوْهَبَ [ ’awhaba / ’auhaba ] [ アウハバ ]((人に)(物事を)贈る、与える;(人に対して物事に向け)準備させる、用意させる)の動名詞。単なる「プレゼントする」というよりはそれを手に入れる能力を相手に与える、手はずを整えて準備してやるといったニュアンスである模様。】
【 語頭のiをeに置き換えた(*アラビア語はiとeの区別が無く口語では文語の母音iがe寄りになりやすい)Eehaab、Eehab、Ehaab、Ehab、Eihaab、Eihabなどと英字表記されていることもある。携帯電話にアラビア語キーボードが無かった時代に普及したチャットアラビア語の影響から、SNSのユーザーネーム等では語頭の声門閉鎖音/破裂音を数字の2に置き換えた2ihab(以下略。検索する場合は上に挙げた表記例の語頭「I」「E」などの前に2を足すか、置き換えるかする。)といったつづりも見られる。
日本ではこの男性名のカタカナ表記としてイーハーブ、イハーブ、イハブ、エハーブ、エハブなどが混在。】
母音記号あり:إِقْبَال [ ’iqbāl ] [ イクバール ] ♪発音を聴く♪
Iqbaal、Iqbal
近づくこと、やって来ること、到来;(物事の前に前置詞 بِ [ bi ] [ ビ ] を伴って - 物事を)もたらすこと;努力、専念;安寧、繁栄、成功、恵み、幸運
■意味と概要■
男性・女性共通の人名。アラブ諸国でも命名に用いられてはいるがマイナーで、パキスタン系などの方が圧倒的に多い。そのため「イクバールはパキスタン人の名前」「イクバールはアラブ人というよりはパキスタン、インド、バングラデシュの人たちの名前」と言われることが多いとの印象。
通常の単語としては「近づく」、「向かう」「(物事に)とりかかる」、「努力する、専念する」といった意味を持つ動詞派生形第4形 أَقْبَلَ [ ’aqbala ] [ アクバラ ] の動名詞。またアラビア語辞典やアラブ人名辞典によっては「安寧、繁栄、成功、恵み、幸運」といった語義も掲載されている。
■発音と表記
英語のenableのようにeとつづってイと読むケース、もしくは口語的にiがeに転じたエクバール寄りになった発音に即した英字表記としてはEqbaal、Eqbalがある。またアラビア語の「ق(q)」を調音部位の近いkに置き換えたIkbaal、Ikbal、そこにiのe置き換えを加えたEkbaal、Ekbalといった英字表記が派生。
また長母音āがē寄りもしくはēそのものになる地域の方言での発音イクベールなどに対応したIqbel、Iqbeel、Ikbel、Ikbeel、Eqbel、Eqbeel、Ekbel、Ekbeelといった英字表記も見られる。なおeeは長母音ī(イー)ではなく長母音ē(エー)を意図しているのでイクビール、エクビールとしないよう要注意。
なお、携帯電話にアラビア語キーボードが無かった時代に普及したチャットアラビア語の影響から、SNSのユーザーネーム等では語頭の声門閉鎖音/破裂音を数字の2に置き換えた2iqbal(以下略。検索する場合は上に挙げた表記例の語頭「I」「E」などの前に2を足すか、置き換えるかする。)といったつづりも見られる。
Ikrimah、Ikrima
メスの鳩(ハト)
【 イスラーム以前のジャーヒリーヤ時代から使われてきたアラブの古い伝統的男性名。男子につける名前にもかかわらず性別が女性であるメスのハトの名称が用いらたケース。】
【 語頭部分が「E」に置き換わったEkrimah、Ekrimaという英字表記も。また携帯電話にアラビア語キーボードが無かった時代に普及したチャットアラビア語の影響から、SNSのユーザーネーム等では語頭の ع [ ‘ayn/‘ain ] [ アイン ] を数字の3に置き換えた3ikrimah、3ikrima、3ekrimah、3ekrimaといったつづりも見られる。】
Isaam、Isam
紐、革紐;紐帯、血縁関係
【 イスラーム以前のジャーヒリーヤ時代からある古い男性名。革袋の紐などを意味。】
【 「I」を「E」に置き換えたEsaam、Esamも。sをssと2個重ねたつづりEssaam、Essamもあるがフランス語圏などで濁点化しないようにするための表記だと思われ、イッサームやイッサムと発音することを意図しているものではない。また携帯電話にアラビア語キーボードが無かった時代に普及したチャットアラビア語の影響から、SNSのユーザーネーム等では語頭の ع [ ‘ayn/‘ain ] [ アイン ] を数字の3に置き換えた3isaam、3isam、3esaam、3esam、3essaam、3essamといったつづりも見られる。】
Iskandar
イスカンダル
【 マケドニアの王だったアレクサンドロス3世の名前でもあるアレクサンドロス(=アレクサンダー、アレキサンダー)に当て字をしたもの。非アラブ人名ということでアラブ辞典にも掲載されていないマイナーネームだがまれにこの名前を持つアラブ人がいる。エジプトなどではキリスト教徒(コプト教会信徒等)が男児につける名前という扱いで、イスラーム教徒(ムスリム)ネームとは見なされていないという。】
【 語頭のIをEに置き換えたEskandarという英字表記も見られる。イスカンダルという発音もしくは口語的にエスカンダル寄りになった発音に対応。なおアラビア語では「ar」部分は英語のようにそり舌の「アー」とせず「アル」とrの部分で舌をはじくので、アラブ世界在住アラブ人名としてはイスカンダーとしないことを推奨。】
イスハーク
【 預言者イブラーヒーム(*アブラハムに相当)の妻サーラが産んだ息子である預言者イスハーク(*イサクに相当)の名前。サーラとイブラーヒームが非常に高齢になってから生まれた子供だったことからヘブライ語で「笑う」という意味の名前をつけたとされる。】
【 Is/haqと区切るのでイシャークやイシャクではなくイスハークとなることに注意。日本語カタカナ表記ではイスハクと書かれていることも。語頭のiをeに置き換えた(*アラビア語はiとeの区別が無く口語では文語の母音iがe寄りになりやすい)Eshaaq、Eshaqなどと英字表記されていることもある。qを調音部位の近いkに置き換えたIshaak、Ishak、Eshaak、Eshakといった英字表記も。
携帯電話にアラビア語キーボードが無かった時代に普及したチャットアラビア語の影響から、SNSのユーザーネーム等では語頭の声門閉鎖音/破裂音を数字の2に置き換えた2ihab(以下略。検索する場合は上に挙げた表記例の語頭「I」「E」などの前に2を足すか、置き換えるかする。)といったつづりも見られる。】
母音記号あり:إِسْمَاعِيل [ ’ismā‘īl ] [ イスマーイール ] ♪発音を聴く♪
Ismaaiil、Ismaail、Ismaiil、Ismail、Ismaeel、Ismael、Ismaaelなど
イスマーイール
■意味と概要■
イスラームにおける預言者の名前。預言者イブラーヒーム(*アブラハムに相当)との間の子供に恵まれなかった妻サーラ(*サラに相当)が女奴隷ハージャル(*ハガルに相当)を夫にあてがい産ませた男児。イシュマエルに相当。意味はヘブライ語で「神は聞かれる」。イスラームでは母子が荒野に追放された際喉の渇きに苦しむ息子のために奔走するハージャルの奔走に報いて唯一神アッラーがザムザムの泉を湧かせたとされている。
■意味と概要■
語頭のiをeに置き換えた(*アラビア語はiとeの区別が無く口語では文語の母音iがe寄りになりやすい)Esmaaiil、Esmaiil、Esmaail、Esmail、Esmaelや後半のiをeに置き換えたIsmaelといった英字表記が見られる。SNSのユーザーネーム等では語中の ع [ ‘ayn / ‘ain ] [ アイン ](語末にある-īlの手前の「‘」)を数字の3に置き換えたIsma3il、声門閉鎖音/破裂音を数字の2に置き換えた2isma3ilなどの表記も使われている。英字表記Ismaaelなどもこの人名の当て字バリエーション。
アラビア語口語(方言)では語頭に来る声門閉鎖音/声門破裂音(+母音)が脱落しやすい傾向にあるが北アフリカマグレブ地域では特に顕著で、このイスマーイールという人名もスマーイールや長母音がつまったスマイール、スマイルといった発音になるなどする。英字表記のSmaiil、Smail、Smaeel、Smael、Smaaelなどはこのイドリースの変化形。
本項目の人名の日本語カタカナ表記としてはイスマーイール、イスマイール、イスマイル、イスマーエル、イスマエルなどが使われ得る。
なお元になったヘブライ語とアラビア語とではsh音のs音置き換わりがあるため、イシュマエルのように「sh」という響きは無くなり「s」音を含むイスマーイールとなる。そのためアラブ人名としてのカタカナ表記でユダヤ人名と同じイシュマエル等にしないよう要注意。
母音記号あり:إِسْلَام [ ’islām ] [ イスラーム ] ♪発音を聴く♪
Islam、Islaam
恭順、帰依;イスラーム(教え)、神に身を委ね従うこと
■意味と概要■
動詞派生形第4形 أَسْلَمَ [ ’aslama ] [ アスラマ ] (~を渡す、委ねる;~を任せる、委ねる;~を帰依させる;帰依する;イスラーム教徒になる)の動名詞。唯一神アッラーとその教えに自らを従わせ帰依・信心することなどを指す。イスラーム(イスラム教)の名称 اَلْإِسْلَام [ ’al-’islām ] [ アル=イスラーム ] と同じだが、人名の場合は定冠詞 اَلْ [ ’al- ] [ アル= ](アル)はつかず、単なるイスラームの形となる。
宗教名としてはIslamという英字表記が通常使われるが、人名としては語頭のiをeで表したEslam、Eslaamなども見られる。
携帯電話にアラビア語キーボードが無かった時代に普及したチャットアラビア語の影響から、SNSのユーザーネーム等では語頭の声門閉鎖音/破裂音を数字の2に置き換えた2islam、2islaam、2eslaam、2eslaamなども使われている。
日本語カタカナ表記としてはイスラーム、イスラムなど。
Izzah、Izza
力、権力;威厳、威信、矜持
【 この通常のアラビア語表記 عِزَّة [ ‘izza(h) ] [ イッザ ](力、権力;威厳、威信、矜持)語末の ة [ tā’ marbūṭa(h) ] [ ター・マルブータ ] を後代のオスマン朝時代になってオスマン語風の開いた ت [ tā’ ] [ ター ] に置き換えた عِزَّت [ ‘izzat ] [ イッザト ] が普及した。そのため現代では本項目の عِزَّة [ ‘izza(h) ] [ イッザ ] ではなく عِزَّت [ ‘izzat ] [ イッザト ] のつづり・発音の方が多く用いられている。】
【 「I」を「E」に置き換えた英字表記Ezzah、Ezzaも使われている。また携帯電話にアラビア語キーボードが無かった時代に普及したチャットアラビア語の影響から、SNSのユーザーネーム等では語頭の ع [ ‘ayn/‘ain ] [ アイン ] を数字の3に置き換えた3izzah、3izza、3ezzah、3ezzaといった表記も見られる。
zの字を1個に減らしたIzah、Iza、Ezah、Ezaなどもこの男性名。イザ、エザと発音するイッザとは全く別の名前がある訳ではないので要注意。】
Izzat
力、権力;威厳、威信、矜持
【 通常のアラビア語表記 عِزَّة [ ‘izza(h) ] [ イッザ ](力、権力;威厳、威信、矜持)語末の ة [ tā’ marbūṭa(h) ] [ ター・マルブータ ] を後代のオスマン朝時代になってオスマン語風の開いた ت [ tā’ ] [ ター ] に置き換えたもの。現代でも元オスマン朝支配地域などで時々見られるタイプの男性名 ــــَتْ [ ◯◯at ] バリエーションの一つ。】
【 「I」を「E」に置き換えたEzzat、-at部分を-etに置き換えたIzzet、Ezzetといった英字表記も使われている。また携帯電話にアラビア語キーボードが無かった時代に普及したチャットアラビア語の影響から、SNSのユーザーネーム等では語頭の ع [ ‘ayn/‘ain ] [ アイン ] を数字の3に置き換えた3izzat、3izzet、3ezzat、3ezzetといった表記も見られる。
zの字を1個に減らしたIzat、Izet、Ezat、Ezetなどもこの男性名。イザト、イザット、エゼト、エゼットと発音する別の名前ではないので要注意。】
Izz al-Diin、Izz al-Din、Izz al-Deen、Izzuddiin、Izzuddin、Izz ad-Diin、Izz ad-Din、Izz ad-Deenなど
宗教の力、宗教の栄光、宗教の誉れ
【 名詞 عِزّ [ ‘izz ] [ イッズ ](力、権力;栄光、栄誉;高位、高貴)を後ろから定冠詞のついた名詞 اَلدِّين [ ’ad-dīn ] [ アッ=ディーン ](宗教、具体的にはイスラーム教という宗教を示唆)が属格(≒所有格)支配したイダーファ構文の複合名。元々功績を挙げた人物に与えていた称号(ラカブ)が一般男性名となったもの。】
【 分かち書きをするとイッズ・アッ=ディーンだがアラビア語ではこうした複合語は途切れさせず一気読みする。定冠詞を含む語の前に別の語が来た時は語頭の [ ’a ] [ ア ] 音は省略されるので、イッズ・ッ=ディーンに。カタカナ表記はこうした一気読みする複合名に関しては「・」などを用いずイッズッディーンとするのが標準的。
英字表記としては定冠詞部分が促音化したアッ=を反映しない「al-」のままのIzz al-Diin、Izz al-Din、Izz al-Deenと促音化を反映した「ad-」を含むIzz ad-Diin、Izz ad-Din、Izz ad-Deen、1語目と2語目の息継ぎ無しつなげ読みに即したIzzuddiin、Izzuddin、Izzuddeenなどが派生し得る。つなげ書きパターンでは母音u部分が口語的なoに転じイッゾッディーン寄りとなったIzzoddin、Izzoddeenなども見られる。
また-dd-を1個に減らしたIzzudiin、Izzudinなども同じ男性名の表記バリエーション。パキスタン、インド方面では1語目末につく格母音「u」と定冠詞とをドッキングさせたIzz ud-Din、Izz ud-Deenといった表記も見られる。定冠詞については「al-◯◯」、「Al-」、スペース無しの「Al◯◯」。スペースありの「Al ◯◯」など複数通りが併存。
さらに1語目のIzz部分に関しては「I」を「E」に置き換えたEzz、携帯電話にアラビア語キーボードが無かった時代に普及したチャットアラビア語の影響からSNSのユーザーネーム等では語頭の ع [ ‘ayn/‘ain ] [ アイン ] を数字の3に置き換えた3izz、3ezzといった表記も見られる。】
Idriis、Idris、Idrees、Idresなど
イドリース
【 預言者イドリース(*エノクに相当)の名前。中世のアラビア語大辞典によると唯一神アッラーの啓示・聖書について大いに勉強・研究したためにイドリースという名前で呼ばれるに至ったという。
現在のモロッコからアルジェリア西部一帯をかつて支配したシーア派王朝イドリース朝は初代統治者(イマーム)の名前がこのイドリースだったりと、東方アラブ世界よりも西方アラブ世界で特になじみがある名前の一つとなっている。】
【 語頭のiをeに置き換えた(*アラビア語はiとeの区別が無く口語では文語の母音iがe寄りになりやすい)Edriis、Edris、Edreesそしてeeをe1個に減らしたEdresといったパターンも。携帯電話にアラビア語キーボードが無かった時代に普及したチャットアラビア語の影響から、SNSのユーザーネーム等では語頭の声門閉鎖音/破裂音を数字の2に置き換えた2idriis、2idris、2idrees、2idres、2edriis、2edris、2edrees、2edresといった表記も派生し得る。
アラビア語口語(方言)では語頭に来る声門閉鎖音/声門破裂音(+母音)が脱落しやすい傾向にあるが北アフリカマグレブ地域では特に顕著で、このイドリースという人名もドリースや長母音がつまったドリスのような発音になるなどする。英字表記のDriis、Dris、Drees、Dresなどはこのイドリースの変化形。
さらに語末のsは2個連ねてIdriiss、Idriss、Idreess、Idress、Edriiss、Edriss、Edreess、Edress、2idriiss、2idriss、2idreess、2idress、2edriiss、2edriss、2edreess、2edress、Driiss、Driss、Dreess、Dressになっていることも少なくない。ただこれはフランス語圏などにおける濁点化防止の為ssと2個連ねているケースが多くイドリーッス、イドリッス、エドリーッス、エドリッス、ドリーッス、ドリッスと読ませることを意図したものではないことが少なくないのでカタカナ化の際はイドリース、イドリス、エドリース、エドリス、ドリース、ドリスなどとした方が無難。】
Ihsaan、Ihsan
善行、施し、親切
■意味と概要■
動詞派生形第4形 أَحْسَنَ [ ’aḥsana ] [ アフサナとアハサナの中間のような発音 ] の動名詞。
■発音と表記■
口語風にiがeに転じてエフサーン寄りになったEhsaan、Ehsanとった英字表記、また携帯電話にアラビア語キーボードが無かった時代に普及したチャットアラビア語の影響から、SNSのユーザーネーム等では語頭の声門閉鎖音/破裂音を数字の2に、次の ح [ ḥ ] を数字の7で置き換えたI7saan、I7san、E7saan、Ehsan、2i7saan、2i7san、2e7saan、2e7sanといった表記も派生し得る。
アラブ人名の英字表記ではahをアー、ehをエー、ihをイーとは発音しないので、この人名の英字表記Ihsanをアラビア語式に発音する場合はイーサーンとはならないので要注意。
Ikhlaas、Ikhlas
誠実;忠実、忠義;献身
【 動詞派生形第4形 أَخْلَصَ [ ’akhlaṣa ] [ アフラサ ] の動名詞。】
【 アラビア語の子音 خ [ kh ] はカタカナ表記の際カ行ではなくハ行にするのが標準的なのでイクラースではなくイフラースとするのが普通。英字表記については口語風にiがeに転じてエフラース寄りになったEkhlaas、Ekhlasも。また携帯電話にアラビア語キーボードが無かった時代に普及したチャットアラビア語の影響から、SNSのユーザーネーム等では語頭の声門閉鎖音/破裂音を数字の2に、語末の ص [ ṣ ] を数字の9で置き換えた2ikhlaas、2ikhlas、2ekhlas、Ikhla9、Ekhla9といった表記も派生し得る。】
Ibraahiim、Ibraahim、Ibrahim、Ibrahiim、Ibraaheem、Ibraahem、Ibraheem、Ibrahemなど
イブラーヒーム
【 イスラームにおける預言者イブラーヒーム(*アブラハム)の名前。ヘブライ語で「大勢の民の父」的な意味だとのこと。イスラームではカアバ神殿を建設した人物の一人ともされる。アラビア語で دِين إِبْرَاهِيمَ [ dīn(u) ’ibrāhīm ] [ ディーン・イブラーヒーム ](イブラーヒームの宗教)はアブラハムの宗教のことでいわゆるセム系一神教である唯一神アッラーの教えを指す。
また、預言者ムハンマドの夭折した息子の名前の一人がこのイブラーヒームだった。享年1歳半。】
【 日本語におけるカタカナ表記はイブラーヒーム、イブラヒムなどが混在。
口語的にiがeに転じてエブラーヒーム寄りになったEbraahiim、Ebrahim、Ebraheem、Ebrahemといった英字表記なども存在。帯電話にアラビア語キーボードが無かった時代に普及したチャットアラビア語の影響から、SNSのユーザーネーム等では語頭の声門閉鎖音/破裂音を数字の2に置き換えた2ibraahiim、2ibraahim、2ibrahim、2ibrahiim、2ibraaheem、2ibraahem、2ibraheem、2ibrahem、2ebraahiim、2ebrahim、2ebraheem、2ebrahemなども使われている。
またアラビア語口語(方言)では語頭に来る声門閉鎖音/声門破裂音(+母音)が脱落しやすい傾向にあるが北アフリカマグレブ地域では特に顕著で、このイブラーヒームという人名もブラーヒームや長母音がつまったブラヒーム、ブラヒムのような発音になるなどし、Brahiim、Brahim、Braheem、Brahemといった表記が派生。】
Imaad、Imad
(家や天幕・テントの)柱、支柱;高い建物;軍の長、軍の指揮官、(一部の国の軍事階級として)少将;(キリスト教徒の)洗礼
【 口語風に「I」を「E」に置き換えたエマード寄りとなったEmaad、Emadといった英字表記も。喉を引き絞る感じで発音する語頭の ع [ ‘ayn / ‘ain ] [ アイン ](語頭にある-im-の手前の「‘」)ゆえにァイマードのように聞こえる「ァイ」部分を「ae」で表現したAemaad、Aemadも。携帯電話にアラビア語キーボードが無かった時代に普及したチャットアラビア語の影響から、SNSのユーザーネーム等では語頭の ع [ ‘ayn/‘ain ] [ アイン ] を数字の3で表した3imaad、3imad、3emaad、3madなども見られる。】
Imaad al-Diin、Imaad al-Din、Imad al-Diin、Imad al-Din、Imaad al-Deen、Imad al-Deen、Imad al-Den、Imaad ad-Diin、Imaad ad-Din、Imad ad-din、Imad ad-Deenなど
宗教の支え、宗教の支柱
【 名詞 عِمَاد [ ‘imād ] [ イマード ]((家や天幕・テントの、もしくは物事に関して比喩的に)柱、支柱)を後ろから定冠詞のついた名詞 اَلدِّين [ ’ad-dīn ] [ アッ=ディーン ](宗教、具体的にはイスラーム教という宗教を示唆)が属格(≒所有格)支配したイダーファ構文の複合名。元々功績を挙げた人物に与えていた称号(ラカブ)が一般男性名となったもの。】
【 分かち書きをするとイマード・アッ=ディーンだがアラビア語ではこうした複合語は途切れさせず一気読みする。定冠詞を含む語の前に別の語が来た時は語頭の [ ’a ] [ ア ] 音は省略されるので、イマードゥ・ッ=ディーンに。カタカナ表記はこうした一気読みする複合名に関しては「・」などを用いずイマードゥッディーンとするのが標準的。
英字表記としては定冠詞部分が促音化したアッ=を反映しない「al-」のままのImad al-Diin、Imad al-Din、Imad al-Deenと促音化を反映した「ad-」を含むImad ad-Diin、Imad ad-Din、Imad ad-Deen、1語目と2語目の息継ぎ無しつなげ読みに即したImaduddiin、Imaduddin、Imaduddeenなどが派生し得る。つなげ書きパターンでは母音u部分が口語的なoに転じイマードッディーン寄りとなったImadoddin、Imadoddeenなども見られる。
また-dd-を1個に減らしたImadudiin、Imadudinなども同じ男性名の表記バリエーション。パキスタン、インド方面では1語目末につく格母音「u」と定冠詞とをドッキングさせたImad ud-Din、Imad ud-Deenといった表記も見られる。定冠詞については「al-◯◯」、「Al-」、スペース無しの「Al◯◯」。スペースありの「Al ◯◯」など複数通りが併存。
さらに1語目のImad部分に関しては「I」を「E」に置き換えたEmad、携帯電話にアラビア語キーボードが無かった時代に普及したチャットアラビア語の影響からSNSのユーザーネーム等では語頭の ع [ ‘ayn/‘ain ] [ アイン ] を数字の3に置き換えた3imad、3emadといった表記も見られる。】
Imaam、Imam
指導者、リーダー、導師;人々の模範・規範となる人物;(スンナ派・イスラーム共同体の長としての)カリフ;(シーア派・イスラーム共同体の指導者・長としてのアリーやその子孫である継承者らという意味での)イマーム;軍の指揮官;礼拝の導師、集団礼拝の先導役;(現世・来生に関し人々を導く神の言葉としての)クルアーン(コーラン);人々を先導する者、(家畜などの)導き手、商隊の案内人、旅のガイド
【 シーア派地域では第4代正統カリフだったアリーをイスラーム共同体が従うべき指導者として崇敬しており後継者である彼の子、孫、子孫をイマームとして崇敬。そのためスンナ派地域よりも語の重みが大きめで、عَبْد الإِمَامِ [ ‘abdu-l-’imām ] [ アブドゥ・ル=イマーム ](アブドゥルイマーム、アブド・アル=イマーム。「イマーム(様)のしもべ」の意。)というシーア派イマームへの強い崇敬と結びついた複合名も存在する。】
【 語頭のiをeに置き換えた(*アラビア語はiとeの区別が無く口語では文語の母音iがe寄りになりやすい)英字表記Emaam、Emamも。方言で長母音āがēになるマグリブ(北アフリカ)方言などのイメーム寄り発音に対応した英字表記Imem、Ememも見られる。また携帯電話にアラビア語キーボードが無かった時代に普及したチャットアラビア語の影響から、SNSのユーザーネーム等では語頭の声門閉鎖音/破裂音を数字の2に置き換えた2imaam、2imam、2emaam、2emamといった表記も使われている。】
母音記号あり:اِمْتِيَاز [ ’imtiyāz ] [ イムティヤーズ ] ♪発音を聴く♪
Imtiyaaz、Imtiyaaz
特質、特徴;区別;優れていること、秀でていること
【 動詞派生形第8形 اِمْتَازَ [ ’imtāza ] [ イムターザ ] の動名詞が由来の人名。男性にも使える名前の項目のところに収録しているアラブ人名辞典もあるが、女性名の項目に入れてあるアラブ人名辞典が多くWikipediaのアラビア語版にも女性名とのみ記載されているなど、アラブ人名としては女性名というイメージがかなり強め。】
【「I」が「E」に置き換わったEmtiyaz、Emtiyaazといった英字表記も。】
*本サイトアラブ人名辞典にある1/3近い人名・読みガナ・語義データの無許諾抜粋である可能性が高い文藝春秋社 文春新書『カラー新版 人名の世界地図』巻末アラブ人名一覧ではこのイムティヤーズが男性名の項目に収録されています。これは出版時の2021年頃に当サイトがイムティヤーズを男性名とのみ記載していたためだと思われます。同書のアラブ人名リストには独自の加筆や似た人名の同一視に加え、当サイトの人名辞典に当時まだ未修正箇所が多数含まれていたことに起因する誤りも含まれているとの印象です。当方は一切関知しておらず誤った転載が発生している箇所の修正をお願いする立場にありません。アラブ人名としては「イムティヤーズ」は女性名と書いてあったり男性名と書いてあったりまちまちで、実際にイムティヤーズさんというアラブ人女性もアラブ人男性も存在します。ご注意ください。
Imraan、Imran
高位にある人々
【 クルアーン第3章 آل عِمْرَان [ ’ālu ‘imrān ] [ アール・イムラーン ](イムラーン家)にも出てくる男性名。預言者イーサー(イエスに相当)の母マルヤム(マリアに相当)の父親の名前がこのイムラーンだったとされる。
外来語人名扱いで、ヘブライ語男性名アムラム/Amram(عمرام)に対応しているとも。なおヘブライ語の人名Amram(アムラム)については「高位にある人々」といった意味を持つという。
عُمْرَان [ ‘umrān ] [ ウムラーン ] と読むと別のアラビア語男性名になるので混同しないよう要注意。ウムラーンは「建設;建築物;繁栄」といった意味の名詞。】
【 口語的にiがeに置き換わってエムラーン寄りになった発音などに対応した英字表記はEmraan、Emran。携帯電話にアラビア語キーボードが無かった時代に普及したチャットアラビア語の影響からSNSのユーザーネーム等では語頭の ع [ ‘ayn/‘ain ] [ アイン ] を数字の3に置き換えた3imraan、3imran、3emraan、3emranといった表記も見られる。
日本語であり得るカタカナ表記としてはイムラーン、イムラン、エムラーン、エムラン。】
母音記号あり:إِيَاد [ ’iyād ] [ イヤード ] ♪発音を聴く♪
Iyaad、Iyad
上腕;胸、胸部;力、力強さ、堅固、強固;人を寄せつけない山、堅固な山、難攻不落の山;砦、牙城;物事を守り固める事物、他の物がよすがとするような存在;軍の陣形の右翼もしくは左翼、軍の左右両翼のうちの片方;人の多さ
■意味と概要■
アラビア語辞典では派生形第3形動詞 آيَدَ [ ’āyada ] [ アーヤダ ](強化する、強くする)の動名詞だと説明されるなどしている。メディアアラビア語でも多用される派生形第2形動詞 أَيَّدَ [ ’ayyada ] [ アイヤダ ](支援する、支持する;強化する)と同じ語根。
アドナーン系アラブ部族の祖であるアドナーンの曾孫でニザールの息子がこの إِيَاد [ ’iyād ] [ イヤード ] という名前だった。そのためイヤード族という部族名称としてもしばしば登場する。元々はアラビア半島南西部のティハーマ~ナジュラーン近辺に居住、後代になってからイラク、シリアなどへ移住していったという。
■発音とつづり■
英単語のEnglishのようにEと書いて「イ」と発音することを意図もしくは口語的にiがeに転じたエヤード寄りの発音を意図しているであろうEyaad、Eyadという英字表記も多い。
携帯電話にアラビア語キーボードが無かった時代に普及したチャットアラビア語の影響から、SNSのユーザーネーム等では語頭の声門閉鎖音/破裂音を数字の2に置き換えた2iyaad、2iyad、2eyaad、2eyadといったつづりも使われ得る。
日本語表記に関しては原語アラビア語での発音に関係なく英字表記をそのままカタカナ化したものが使われることが多いため、イヤード、イヤド、エヤード、エヤド、イヤッド、エヤッドなど複数パターンに分かれやすい。なおアラビア語の文語発音に準拠するならばイヤード、口語発音に敢えて寄せるとすればエヤードを選ぶのがベターかと。
Irfaan、Irfan
知、知ること;感知、認識;認識、認めること;(してもらった親切、善行を認め)感謝(すること);神智、イスラーム神智学
【 動詞 عَرَفَ [ ‘arafa ] [ アラファ ](知る)の動名詞。】
【 口語的にi部分がeに転じた発音に対応した英字表記Erfaan、Erfanも。携帯電話にアラビア語キーボードが無かった時代に普及したチャットアラビア語の影響からSNSのユーザーネーム等では語頭の ع [ ‘ayn/‘ain ] [ アイン ] を数字の3に置き換えた3irfaan、3irfan、3erfaan、3erfanといった表記も見られる。日本語ではイルファーン、イルファン、エルファーン、エルファンといったカタカナ表記が見られる。】
母音記号あり:إِلْيَاس [ ’ilyās ] [ イルヤース ] ♪発音を聴く♪
Ilyaas、Ilyas
イルヤース
【 イスラームにおける預言者イルヤース(*エリヤに相当)の名前。】
【 口語的にiがeに置き換わったElyaas、Elyasといった英字表記もあり。他にも母音「i」挿入ありのIliyas、Eliyasやyを抜いたIlas、Ilias、Elas、Eliasなども。また携帯電話にアラビア語キーボードが無かった時代に普及したチャットアラビア語の影響から、SNSのユーザーネーム等では語頭の声門閉鎖音/声門破裂音を数字の2に置き換えた2ilyaas、2ilyas、2Elyas、2iliyas、2eliyas、2eliasといった表記も使われている。日本語カタカナとして実際に使われている/生じ得る表記はイルヤース、イルヤス、イリヤース、イリヤス、エルヤース、エルヤス、エリヤース、エリヤス、イリアース、イリアス、エリアース、エリアスなど。なお切れ目はIl/yasであってI/lyasではないので、イリャース、イリャスと読まないよう要注意。】
Inaam、Inam
恩恵、(恩恵などを)授けること、恵むこと;善行
【 動詞派生形第4形 أَنْعَمَ [ ’an‘ama ] [ アンアマ ](恵む、(恩恵などを)授ける;(暮らしなどを)安楽にする、快適にする;柔らかくする;(精査など物事・動作を)じっくり~する、しっかり~する)の動名詞。】
【 語頭のiをeに置き換えた(*アラビア語はiとeの区別が無く口語では文語の母音iがe寄りになりやすい)英字表記Enaam、Enamも。携帯電話にアラビア語キーボードが無かった時代に普及したチャットアラビア語の影響からSNSのユーザーネーム等では語頭の声門閉鎖音/破裂音を数字の2、ع [ ‘ayn/‘ain ] [ アイン ] を数字の3に置き換えたin3aam、in3am、En3aam、En3am、2en3amといった表記なども見られる。
日本語における主なカタカナ表記はインアーム、インアム。他にはイヌアームなども見られる。一般的英字表記におけるnとaの間には喉を引き絞る感じで発音する ع [ ‘ayn / ‘ain ] [ アイン ](当人名辞典では「‘」記号部分)がはさまっており、「イン+ァアーム」のような感じでインアームという発音に。イナーム、イナムと読まないよう注意。】
Wisaam、Wisam
動物・家畜につける焼き印;勲章、メダル;形容詞 وَسِيم [ wasīm ] [ ワスィーム ](ハンサムな、美男の、優雅な)の複数形
【 口語的にiがeに転じたWesaam、Wesamといった英字表記も多用されている。sを2個重ねssとしたWissaam、Wissam、Wessaam、Wessamのようなバリエーションも存在するがウィッサーム、ウィッサム、ウェッサーム、ウェッサムと読ませるためのつづりではないので要注意。-s-を-ss-つづりにするのはフランス語圏で濁点がついた発音にさせないための目的であることが多い。日本語のカタカナ表記としてはウィサーム、ウィサムなど。】
Uqaab、Uqab
鷲(ワシ);(星座の名称として)わし座
【 アラビア半島の湾岸地方に多い男性名。普通の名詞としては女性とのみ書いてある辞書もあるが男性・女性両方として扱う(=オスの鷲もメスの鷲も عُقَاب [ ‘uqāb ] [ ウカーブ ] と呼ぶ)と明記してある辞書も複数ある。】
【 口語的にuがo寄りになったオカーブという発音に対応した英字表記Oqaab、Oqabやqを発音が似ているkに置き換えたOkaab、Okabといった英字表記も。携帯電話にアラビア語キーボードが無かった時代に普及したチャットアラビア語の影響からSNSのユーザーネーム等では語頭の ع [ ‘ayn/‘ain ] [ アイン ] を数字の3に置き換えた表記3uqaab、3uqab、3oqaab、3oqab、3okaab、3okabが使われ得る。日本語におけるカタカナ表記としてはウカーブ、ウカブ、オカーブ、オカブなど。】
Usaama、Usaamah、Usama、Usamah
ライオン、獅子
【 勇敢・勇猛な者のたとえとしてもしばしば用いられる。アラビア語では أَسد [ ’asad ] [ アサド ] やこの أُسَامَة [ ’usāma(h) ] [ ウサーマ ] の他にも風貌・特質などを意味する語から転じたライオン(獅子)を表す言葉が他にも多数存在。男性名としてもよく使われている。普通の名詞として用いる場合、既に定冠詞 اَلْ [ ’al- ] [ アル= ](al-)をつけずأُسَامَة [ ’usāma(h) ] [ ウサーマ ] のみで اَلْأَسَد [ ’al-’asad ] [ アル=アサド ] のような総称の意味合いを示すと書いてある辞書もある。(ただし اَلْأُسَامَة と定冠詞をつけて総称的な意味で使っている辞書も多い。)
アル=カーイダのウサーマ・ビン・ラーディン(オサマ・ビン・ラディン、オサマ・ビンラディン)のファーストネームであるため悪い意味で世界的に有名になってしまったが、元々アラブ世界ではポピュラーな男性名の一つ。
ちなみに「ビン・ラーディン」は直訳こそ「ラーディンの息子」だが彼の父方であるイエメン・ハドラマウト系も含めしばしばあるタイプの家名で لَادِن [ lādin ] [ ラーディン ](柔らかくする(者)、柔軟にする(者))は数代前の祖先の名前。父親の名前はムハンマドなので、ウサーマ本人のフルネームは「ラーディンの息子家出身、ムハンマドの息子ウサーマ」となる。「ラーディンの息子(ビン・ラーディン)」と呼ばれた人物が家長であることを示すファミリーネームをウサーマが継いだもので、和訳すると「ラーディンの息子家」「ビン・ラーディン家」。ヨーロッパ風に置き換えると「MacLaden」「McLaden」「Ladenson」となるような家名。
またアラブ諸国では有名人物などをラストネーム/ファミリーネームのみで呼ぶこともあるためニュースや新聞ではウサーマ・ビン・ラーディンのことも「ビン・ラーディン」とのみ書いていることが少なくない。彼の実家であるビン・ラーディン一族が経営してきた財閥は通常日本語で「ビン・ラーディン財閥」と表現される。】
【 口語的にuがoに転じたオサーマという発音に対応した英字表記はにOsaamah、Osamah、Osaama、Osama。sを2個連ねたUssaamah、Ussamah、Ussaama、Ussama、Ossaamah、Ossamah、Ossaama、Ossamaといった英字表記も派生し得るが、フランス語圏で濁点の「ズィ」になることを回避するためのつづりだったりするのでオッサーマ、オッサマと読むのを意図している訳ではない。日本語のカタカナ表記としてはウサーマ、ウサマ、オサーマ、オサマが見られる。]
Uthmaan、Uthman
(オスの)ヘビ;(オスの)ヘビの子供、幼蛇;野雁のヒナ
【 第3代正統カリフの عُثْمَان بْن عَفَّانٍ [ ‘uthmān(u) bnu ‘affān ] [ ウスマーン・ブヌ・アッファーン ](ウスマーン・イブン・アッファーン)のファーストネームとしても有名。ウスマーンは預言者ムハンマドの娘2人(ルカイヤ、ウンム・クルスーム)他と結婚。ルカイヤとの間に男児アブドゥッラーをもうけるがルカイヤは早い時期に死去、姉妹であるウンム・クルスームと結婚した。ルカイヤが生んだアブドゥッラーは6歳で夭折したため、ウスマーン一家を通じて残された預言者ムハンマドの子孫は存在しない。
イスラーム共同体内部の対立からウスマーンは殺害されたが、クルアーン(コーラン)の文字化が彼の時代に完成、ウスマーン写本と呼ばれる文書も残っている。声門閉鎖音/声門破裂音ハムザや長母音など現在の正書法(正字法)とは異なるつづりが行われていた時の特徴が複数見られるが、この写本を元にしたクルアーンは今でも新規に印刷されるなどしてイスラーム教徒の間で流通。後世に生まれた男児の多くが彼の功績にあやかって命名されてきた。
一方シーア派圏ではイマームである第四代正統カリフのアリーとの関係性・彼に先んじて正統カリフ位についた人物として男児につける名前としては好まれないものの代表例の一つと言われている。ちなみにアッファーンはウスマーンの父の名前でジャーヒリーヤ時代から使われていた「(非常に、大いに、とても)慎み深い、貞淑な」という意味の男性名。
オスマン朝(オスマン帝国)の名称はこのウスマーンのトルコ語発音(Osman)。創始者・初代であるオスマン1世の名前が由来。】
【 口語的にuがoに転じてオスマーンに近く聞こえる発音に対応した英字表記はOthmaan、Othman。方言によっては ث [ th ] を س [ s ] に置き換わる場合があること、非アラビア語圏のイスラーム諸国における発音置き換わりなどの関係などからthがsになったUsmaan、Usman、Osmaan、Osmanという英字表記も存在する。sに置き換えたつづりではさらにssと2個連ねた英字表記Ussmaan、Ussman、Ossmaan、Ossmanも使われているが、これはフランス語圏でs1文字だけだと発音が濁点化してしまうのを防ぐためのつづりであるなどするため、ウッスマーン、ウッスマン、オッスマーン、オッスマンと読ませる意図は特に無いので要注意。
携帯電話にアラビア語キーボードが無かった時代に普及したチャットアラビア語の影響からSNSのユーザーネーム等では語頭の ع [ ‘ayn/‘ain ] [ アイン ] を数字の3に置き換えた表記 3uthmaan、3uthman、3othmaan、3othman、3usmaan、3usman、3osmaan、3osman、3ussmaan、3ussman、3ossmaan、3ossman なども使われ得る。
日本語でのカタカナ表記としてはウスマーン、ウスマン、オスマーン、オスマンが生じ得る。】
Utaarid、Utarid
水星
【 古くからある固有名詞。アラブ人名辞典には女性名とのみ書いてある場合もあるが中世のアラビア語辞典に男性名とのみ記載されている例も。預言者ムハンマドと同じ時代を生きた改宗信徒・教友(サハービー)に عُطَارِد بْن حَاجِب بْن زُرَارَة [ ‘uṭārid(u) bnu ḥājib(i) bni zurāra(h) ] [ ウターリド・ビヌ・ハージビ・ブニ・ズラーラ(フ/ハ) ](ウターリド・イブン・ハージブ・イブン・ズラーラ)というファーストネームを持つアラビア語演説・講話が巧みな男性がいたことなどから、現在は女児名として認識されている一方で大昔は男性名としての命名が行われていたことがわかる。
ちなみにウターリド・イブン・ハージブ・イブン・ズラーラはタミーム族のズラーラ家出身。ジャーヒリーヤ時代のタミーム族はほとんどが多神教徒で少数がキリスト教徒。そのような中ズラーラ家は当時のペルシアの影響下にあったヒーラ王国(現在のイラク)との結びつきが強かったためマギ教(拝火教)を信奉していたとのこと。ズラーラやその息子らも信徒で、一家にはマギ教にちなんだペルシアネームを持っていた女児もいたのだとか。タミーム族は元々武勇と美麗・雄弁なアラビア語能力で秀でた部族で、ウターリド・イブン・ハージブ・イブン・ズラーラもそうした資質を引き継ぎ巧みなアラビア語話術で知られていた模様。】
【 英字表記としては口語的にuがoに転じたオターリドに対応したOtaarid、Otaridやiがeに転じたウターレドに対応したUtaared、Utared、そして両方が合わさったオターレドに対応したOtaared、Otaredなどがある。携帯電話にアラビア語キーボードが無かった時代に普及したチャットアラビア語の影響からSNSのユーザーネーム等では語頭の ع [ ‘ayn/‘ain ] [ アイン ] を数字の3に置き換えた表記3utaarid、3utarid、3otaarid、3otarid、3utaared、3utared、3otaared、3otaredが派生。2文字目の ط [ ṭ ] を数字の6に置き換えた表記O6ared、3o6tarid、3o6aredなども使われている。】
Udayy、Udaiy
走る者、敵へと向かって攻撃を仕掛けんと進撃する軍団、敵と戦うべく走り急ぐ兵士たち
【 名前の意味・関連人物】
形容詞的用法などで使われる分詞に類似した فَعِيلٌ [ fa‘īl(un) ] [ ファイールン ] 語形である アディー عَدِيّ [ ‘adī(y) ] [ アディー(ユ/ィ) ](敵に向かって真っ先に駆けていく戦士。男性名としても用いられる。)の縮小形。動詞 عَدَا [ ‘adā ] [ アダー ](走る、駆ける)と語根 ع - د - و(‘ - d - w)を共有しており、走る・駆けるという意味合いを含む。
イラクの大統領だったサッダーム・フセインの長男ウダイイ・サッダーム・フサイン(一般的な日本語カタカナ表記:ウダイ・サッダーム・フセイン)のファーストネームとしてもよく知られる人名。】
【発音と英字表記、カタカナ表記】
-ay-部分はアラビア語では二重母音-ai-を表すため英字表記も-ay-つづりと-ai-つづりの両方が見られる。また最後に ي [ y ] が2つ重なっているのでアクセントは前半の「ウ」ではなく真ん中の二重母音「アイ」の部分に来る。
文語的な発音だと語末の母音や元となった非限定名詞の時からそのままついているタンウィーン(格母音の後に付加するn音)も含めて全部読んだ時の主格語形は عُدَيٌّ [ ‘udayyun / ‘udaiyin ] [ ウダイユン ] となる。語末の格母音とタンウィーンを省いた休止形(ワクフ)の読み方だと [ ウダイイ ] というよりは最後の [ y ] の字を母音抜きでやや軽めに発音する [ ウダイィ ] 寄りに。
しかし実際の日常会話・口語では(ほぼ)ウダイと聞こえる発音が多く、語末に2個連なっている ي [ y ] を反映させないUday、Udaiという英字表記も広く使われている。日本語のカタカナ表記でもウダイが一般的。
口語的にuがoに転じてオダイイ(/オダイィ)、オダイ寄りになった発音に対応した英字表記はOdayy、Odaiy、Oday、Odai。
アラビア語文語の二重母音「ay(=ai)」部分は日常会話・口語ではei(エイ)もしくはē(エー)音になることが多く、ウデイイに対応したUdeyy、Udeiy、ウデイに対応したUdey、Udei、ウデーに対応したUdee、Udeといった英字表記が見られる。これに上記のu→o化が合わさったオデイイに対応したOdeyy、Odeiy、オデイに対応したOdey、Odei、オデーに対応したOdee、Odeなども。
携帯電話にアラビア語キーボードが無かった時代に普及したチャットアラビア語の影響からSNSのユーザーネーム等では語頭の ع [ ‘ayn/‘ain ] [ アイン ] を数字の3に置き換えた表記3udayy、3udaiy、3uday、3udai、3uday、3udai、3odayy、3odaiy、3oday、3odai、3udeyy、3udeiy、3udey、3udei、3udee、3ude、3odeyy、3odeiy、3odey、3odei、3odee、3odeなどが派生し得る。
Utaybah、Utayba、Utaibah、Utaiba
ワーディー(ワディ、ワジ、涸れ川)の(小さな)曲がり目
【 男性名としても使われる名詞 عُتْبَة [ ‘utba(h) ] [ ウトバ ](ワーディー(ワディ、ワジ、涸れ川)の曲がり目)の縮小形。敢えて訳すなら「小さな」という意味合いを添えられる。ウトバと並んでイスラーム以前のジャーヒリーヤ時代から使われてきた古い名前。
ウタイバは預言者ムハンマドの娘ウンム・クルスームの元夫 عُتَيْبَة بْن أَبِي لَهْبٍ [ ‘utayba(h)/‘utaiba(h) bnu ’abī lahb ] [ ウタイバ・ブヌ・アビー・ラハブ ](ウタイバ・イブン・アビー・ラハブ)の名前でもある。彼の兄も預言者ムハンマドの娘ルカイヤと結婚していたが、アブー・ラハブがイスラーム共同体と対立関係に入ったことでそれぞれ預言者ムハンマドの娘2人と離縁。ルカイヤ、そして彼女の死後ウンム・クルスームがウスマーン・イブン・アッファーン(後の第3代正統カリフ)と再婚することとなった。
なおウタイバは有名部族の名前としても知られるが、ウタイバ族については父祖の名前がウタイバという訳ではなく一族の男性名からとられたといった説があるという。】
【 口語的にuがoに転じた発音オタイバに対応した英字表記はOtaybah、Otayba、Otaibah、Otaiba。アラビア語文語の二重母音「ay(=ai)」部分は日常会話・口語ではei(エイ)もしくはē(エー)音になることが一般的で、ウテイバに対応したUteybah、Uteyba、Uteibah、Uteiba、ウテーバに対応したUtebah、Uteeba、Uteba、オテイバに対応したOteybah、Oteyba、Oteibah、Oteiba、オテーバに対応したOteebah、Otebaなどが英字表記として見られる。
携帯電話にアラビア語キーボードが無かった時代に普及したチャットアラビア語の影響からSNSのユーザーネーム等では語頭の ع [ ‘ayn/‘ain ] [ アイン ] を数字の3に置き換えた表記3utaybah、3utayba、3utaibah、3utaiba、3otaybah、3otayba、3otaibah、3otaiba、3uteybah、3uteyba、3uteibah、3uteiba、3oteybah、3oteyba、3oteibah、3oteiba、3otebaなどが派生し得る。
Utbah、Utba
ワーディー(ワディ、ワジ、涸れ川)の曲り目
【 部族名としても使われている名前。現代アラブ世界では男性名としての認識が強いがアラブ人名辞典によると元々は男性・女性の両方につけられる名前だ(った)という。
縮小形は عُتَيْبَة [ ‘utayba(h) / ‘utaiba(h) ] [ ウタイバ ]。ウトバ、ウタイバはどちらもイスラーム以前のジャーヒリーヤ時代から使われてきた古い名前。
ウトバは預言者ムハンマドの娘ルカイヤの元夫 عُتْبَة بْن أَبِي لَهْبٍ [ ‘utba(h) bnu ’abī lahb ] [ ウトバ・ブヌ・アビー・ラハブ ](ウトバ・イブン・アビー・ラハブ)の名前でもある。彼の弟 عُتَيْبَة بْن أَبِي لَهْبٍ [ ‘utayba(h)/‘utaiba(h) bnu ’abī lahb ] [ ウタイバ・ブヌ・アビー・ラハブ ](ウタイバ・イブン・アビー・ラハブ)も預言者ムハンマドの娘ウンム・クルスームと結婚していたが、アブー・ラハブがイスラーム共同体と対立関係に入ったことでそれぞれ預言者ムハンマドの娘2人と離縁。ルカイヤ、そして彼女の死後ウンム・クルスームがウスマーン・イブン・アッファーン(後の第3代正統カリフ)と再婚することとなった。】
【 口語的にuがoに転じた発音オトバに対応した英字表記はOtbah、Otba。
携帯電話にアラビア語キーボードが無かった時代に普及したチャットアラビア語の影響からSNSのユーザーネーム等では語頭の ع [ ‘ayn/‘ain ] [ アイン ] を数字の3に置き換えた表記3utbah、3utba、3otbah、3otbaも使われている。】
Ubayd、Ubaid
(小さな)しもべ、(小さな)奴隷;(小さな)神のしもべ(、信心深く敬虔なイスラーム教徒)
【 ジャーヒリーヤ時代から使われていた古い名前。人名としても使われる名詞 عَبْد [ ‘abd ] [ アブド ](奴隷、しもべ)の縮小形で、小さな奴隷・小さなしもべといった具合に「小さな」という意味が添えられる。単なる奴隷、下僕に限らず、主に従う者すなわち唯一神アッラーの教えによく従い信仰を実践する信徒といった意味も示す。】
【 -ay-部分はアラビア語では二重母音-ai-を表すため英字表記も-ay-つづりと-ai-つづりの両方が見られる。アラビア語文語の二重母音「ay(=ai)」部分は日常会話・口語ではei(エイ)もしくはē(エー)音になることが一般的で、ウベイドに対応したUbeyd、Ubeid、ウベードに対応したUbeed、Ubedといった英字表記が使われている。
口語的にuがoに転じてオバイドとなった発音に対応した英字表記はObayd、Obaid。これに二重母音部分の変化が加わったオベイドに対応したObeyd、Obeid、オベードに対応したObeed、Obedなどが加わる形となる。
携帯電話にアラビア語キーボードが無かった時代に普及したチャットアラビア語の影響からSNSのユーザーネーム等では語頭の ع [ ‘ayn/‘ain ] [ アイン ] を数字の3に置き換えた表記3ubayd、3ubaid、3ubeyd、3ubeid、3ubeed、3ubed、3obayd、3obaid、3obeyd、3obeid、3obeed、3obedが派生し得る。
英字表記を見ただけではウビード、ウベッド、オビード、オベッドなどとしてしまいがちだが、英語圏の人物としてではなく純アラブ人名としてアラビア語発音通りにカタカナ化する場合は要注意。】
Umayyah、Umayya、Umaiyah、Umaiya
(小さな)女奴隷
【 名詞 أَمَة [ ’ama(h) ] [ アマ ](女奴隷)の縮小形。イスラーム以前のジャーヒリーヤ時代から使われている古い人名で、元々は女奴隷の意味であるにもかかわらず男性名だった。現代では女性名詞ということで男性名ではなく女性名として女児に命名されることが一般的になっているという。男性名であっても女性名であっても語末に ة(ター・マルブータ)がつくので二段変化となる。
ウマイヤ朝の名称はこのウマイヤ。ウマイヤは初代カリフ مُعَاوِيَة [ mu‘āwiya(h) ] [ ウアーウィヤ ](ムアーウィヤ)の曽祖父の名前でクライシュ族のウマイヤ家・ウマイヤ一門・ウマイヤ一族の父祖。親子関係としては曽祖父から順番に أُمَيَّة [ ’umayya(h) / ’umaiya(h) ] [ ウマイヤ ](ウマイヤ)→ حَرْب [ ḥarb ] [ ハルブ ](ハルブ)→ صَخْر [ ṣakhr ] [ サフル ](サフル、通称アブー・スフヤーンもしくはアブー・ハンザラ)→ ムアーウィヤ。】
【 -ay-部分はアラビア語では二重母音-ai-を表すため英字表記も-ay-つづりと-ai-つづりの両方が見られる。また短母音uや長母音ūを「ou」に置き換えた英字表記があることから、Oumayyah、Oumayya、Oumaiyah、Oumaiyaといったつづりも使われている。
口語的にuがoに転じたオマイヤという発音に対応した英字表記はOmayyah、Omayya、Omaiyah、Omaiya。アラビア語文語の二重母音「ay(=ai)」部分は日常会話・口語ではei(エイ)もしくはē(エー)音になることが多く、ウマイヤについてはあまり数が多くない印象があるもののウメイヤ寄りのUmeyyah、Umeyya、Umeiyah、Umeiya、ウメーヤ寄り発音から派生したと思われるUmeyyah、Umeyya、これらにuのo化が加わったOmeyyah、Omeyyaという英字表記例もある。
2個連なっている-yy-を1文字に減らしたUmayah、Umaya、Omayah、Omaya、Omeyah、Omeyaもあるがアラビア語としてはウマヤではなくウマイヤ、オマヤではなくオマイヤ、オメヤではなくオメーヤと読むことを意図しているものと思われるので要注意。
さらには語末の-yyah、-yya、-iyah、-iyaが「-ia」に置き換えられたUmaiah、Umaia、Omaiah、Omaiaがあるが元のアラビア語における発音とつづりはウマイア、オマイアではなくウマイヤ、オマイヤ。
レヴァント(レバント)地方やその他地域の口語アラビア語(方言)では語末の-a(h)部分が-e(h)となりウマイイェ、ウマイエと聞こえるような発音に変化する。そのためウマイイェ、ウマイエ系発音に対応したUmayyeh、Umayye、Umaiyeh、Umaiye、Umayeh、Umaye、Umaiehオマイイェ、オマイエ系発音に対応したOmayyeh、Omayye、Omaieなどが派生し得る。】
母音記号あり:عُمَرُ [ ‘umar ] [ ウマル ] ♪発音を聴く♪
Umar
(とても)長生きする(人)、長寿の(人)
■意味と概要■
イスラーム以前のジャーヒリーヤ時代からある非常に古いアラブ人名。「長生きする(人)、長寿の(人)」という意味で、元々は「この子が末永く長生きできますように」という願いを込めて命名されていた男性名。
元々は生まれた男児の長寿を願ってつけていた名前だったが、後代になり第二代正統カリフの عُمَر بْن الْخَطَّابِ [ ‘umar(u) bnu-l-khaṭṭāb ] [ ウマル・ブヌ・ル=ハッターブ ](ウマル・イブン・アル=ハッターブ) にあやかってつけられる名前となった。シーア派圏ではイマームである第四代正統カリフのアリーとの関係性・彼に先んじて正統カリフ位についた人物として男児につける名前としては好まれないものの代表例の一つと言われている。
ウマルは能動分詞 عَامِر [ ‘āmir ] [ アーミル ](長生きする(者))が変形したされる語形で、この変形ゆえ主格の時の語末が-runではなく-ruという二段変化になったと解釈されている。アラビア語文法学者らの見解によると、通常の فَاعِلٌ [ fā‘ilun ] [ ファーイルン ] 型能動分詞を فُعَلُ [ fu‘alu ] [ フアル ] に変形させたっこうした語形(مَعْدُول [ ma‘dūl ] [ マアドゥール ])には強調・誇張の意味合いが込められているという。この学説によるならば、単なる能動分詞 عَامِر [ ‘āmir ] [ アーミル ](長生きする(者))と違い عُمَرُ [ ‘umar ] [ ウマル ] は「とても長生きする(者)」といったニュアンスに。
■つづりが似ている別の男性名との区別■
アラビア文字に弁別点も母音記号も無かった時代、この عُمَرُ [ ‘umar ] [ ウマル ] とつづりが全く同じ عمر になってしまう他の男性名 [ ‘amr ] [ アムル ] があったことからアムルの語末に区別用に発音に影響しない余剰の و [ wāw ] [ ワーウ ] 1文字が足され عَمْرٌو [ ‘amr ] [ アムル ] となった。
格変化についてはウマルが主格:عُمَرُ [ ‘umaru ] [ ウマル ]、属格:عُمَرَ [ ‘umara ] [ ウマラ ]、対格:عُمَرَ [ ‘umara ] [ ウマラ ] の二段変化。アムルは主格:عَمْرٌو [ ‘amrun ] [ アムルン ]、属格:عَمْرٍو [ ‘amrin ] [ アムリン ]、対格:عَمْرًا もしくは عَمْراً [ ‘amran ] [ アムラン ] の三段変化。対格のみ二段変化のウマルと違いタンウィーンのアリフが書かれるのは、つづり上の混同が起きないことから余剰の و を追加する必要が無いため。
■発音と表記■
口語的にuがoに転じてオマル寄りになった近い発音に対応した英字表記はOmar。アラビア語では英語読みでarをアーと伸ばしてウマーやオマーとはしないので注意。ただし英語圏などに移民したアラブ系住民の名前として読む場合は英語読みでオマーのようにすることが広く行われている。
日本語における標準的なカタカナ表記としてはウマルもしくはオマルだが、外国語圏における発音や原語での発音を考慮しない英字表記からのカタカナ化などの影響からウマー、オマー、ウマール、オマールと書かれていることも少なくない。
*管理人自分用メモ:ウマール、オマールに近い響きの文語単語としては عُمَّار [ ’ummār ] [ ウンマール / 口語発音:オンマール ](家に棲まうジン、家屋に住み着いている人外の精霊的存在;ジンが棲まう家、人外の精霊的存在が住み着いている家)がある。ウンマール(口語発音:オンマール)については民間信仰・心霊現象的に取り上げられることもあり、ネットにもこのテーマを扱った動画が結構ある。男性名ウマル(口語発音:オマル)に本来存在しない長母音「ー」を加えてウマール/オマールと当て字をし「マー」部分にアクセントを置くとかなり近く聞こえるので、アラブ人相手に会話をする場合にはある程度注意が必要だと思われる。
Ghaazii、Ghaazi、Ghazi、Ghaazy、Ghazy、Ghaazee、Ghazee、Ghaze
攻撃者、侵略者、襲撃者;ガーズィー
【 動詞完了形 غَزَا [ ghazā ] [ ガザー ](~を求める、~に向かう;(相手側がいる場所に行く・遠征する形で)~との戦闘に赴く、~に対する略奪に向かう、~を襲撃する)の能動分詞。غَزْو [ ghazw ] [ ガズウ ](攻撃、軍事遠征)・غَزْوَة [ ghazwa(h) ] [ ガズワ ](動名詞の行為1回分を表す ة(ター・マルブータ)をつけたもの。「攻撃、軍事遠征(の1回分)」の意味。)に参加する者などを示す。「ガーズィー」は非ムスリムに対する遠征を行っていた戦士の名称としても知られる。
一般名詞として使う場合非限定形では語末の弱文字のため主格・属格が غَازٍ [ ghāzin ] [ ガーズィン ] となるが、人名として用いる場合は単独でも غَازِي [ ghāzī ] [ ガーズィー ] と展開した形となる。】
【 口語アラビア語では語末の長母音īが短母音iになることが多いためガーズィと聞こえることも。
「Gh」を発音が似ている「G」(文語アラビア語フスハーには無いが口語アラビア語では複数方言に存在する発音)に置き換えたつづりもあり、Gaazii、Gaazi、Gazi、Gaazy、Gazy、Gaazee、Gazee、Gaze などが使われ得る。
日本語におけるカタカナ表記としてはガーズィー、ガーズィ、ガズィ、ガージー、ガージ、ガジなど。「Gh」で1文字のアルファベット・1個の子音なので「G/ha」と分けてグハーズィー、グハーズィ、グハズィ、グハージー、グハージ、グハジとしないよう要注意。】
Kaadhim、Kadhim、Kaazim、Kazim
怒りを抑える(者)、怒りをこらえる(者);沈黙している、黙っている(者);(ラクダが)喉がカラカラに乾ききって、非常に喉が乾いていて
【 能動分詞の男性形。元になった動詞は كَظَمَ [ kāẓama ] [ カザマ ]。カッとなってしまっても自制し怒りをぐっと飲み込んで抑えることや、苦難を耐え忍ぶような様を意味する。
シーア派の十二イマーム派第7代イマームの通称としても有名。本名は مُوسَى [ mūsā ] [ ムーサー ] で父の名前を添えたナサブは مُوسَى بْن جَعْفَر [ mūsā bnu ja‘far ] [ ムーサー・ブヌ・ジャアファル ](ムーサー・イブン・ジャアファル)だが、「怒りを抑える者」という意味の形容詞を通称・あだ名(ラカブ)としてつけた مُوسَى الْكَاظِم [ mūsa-l-kāẓim ] [ ムーサ・ル=カーズィム ](ムーサー・アル=カーズィム、日本では定冠詞アル=部分を抜いたムーサー・カーズィムというカタカナ表記が一般的。
アッバース朝のカリフ位を脅かす存在として弾圧を受けていたが、理不尽な扱いに激昂したりせずぐっとこらえて耐え忍んだ人柄からつけられた通称だという。彼はカリフであるハールーン・アッ=ラシードにより度々投獄されており、晩年は何年間も牢獄で過ごし、最後には毒を仕込んだナツメヤシを無理やり食べさせられて殺害されたと言い伝えられている。
イラクのシーア派コミュニティーでは、貧者・弱者に尽くす実直な人物であったにもかかわらずアッバース朝カリフ ハールーン・アッ=ラシードの強権政治に耐え忍んだ挙げ句に命を落としたイマームとしてとらえられており、バグダードの墓廟がある地区は彼の通称にちなんで اَلْكَاظِمِيَّة [ アル=カーズィミーヤ ] と呼ばれている。サッダーム政権崩壊後はシーア派政府が国家運営をするようになったため、国営TV放送では命日に合わせ彼の苦難やハールーン・アッ=ラシードによる弾圧に対する批難を織り交ぜた伝記特番や霊廟への参詣光景が流されるなどしている。
このような背景からカーズィムの名前を持つ男性はアラブ諸国の中でも特にシーア派人口比率が大きいイラクに多い。日本ではイラク出身の歌手 كَاظِم السَّاهِر(カーズィム・アッ=サーヒル、口語風発音はカーゼム・アッ=サーヘル)のファーストネームとして覚えている人も多いかと。】
【 学術的な英字による表記ではzの下に点をつけたẓを使うが、これは口語(方言)で ز [ z ] を重くした音になるという発音を反映したもので、文語(フスハー)では ذ [ dh ] を重たくした音として発音する。そのため英字表記でも Kaadhim、Kadhimとなっていることが少なくない。
口語風にiがeに転じカーゼムと発音されるのに対応した英字表記はKaadhem、Kadhem。またイラクだとこの語形がカーズムのように発音されたりするため、Kaadhum、Kadhum、Kaazum、Kazumといった英字表記も見られる。
またズ部分のظは方言でضと相互に置き換わりが起きる文字で、كاظمではなくカーディムもしくは口語発音のカーデム、カードゥムと読めるكاضمというアラビア語つづりで書かれていることがある。英字表記においてKaadim、Kadim、Kaadem、Kadem、Kaadum、Kadumといった各種バリエーションを生む原因。Kaadum、Kadumについてはイラク方言などにおける能動分詞語形の発音がカーズム、カードゥムのように読まれることなどが関係している。
携帯電話にアラビア語キーボードが無かった時代に普及したチャットアラビア語の影響からSNSのユーザーネーム等では ظ [ ẓ ](*文語フスハーでは ذ [ dh ] 音を重くこもらせた発音、一部口語では ز [ z ] 音を重くこもらせた発音)を「6′」に置き換えたKaa6′im、Ka6′im、Kaa6′em、Ka6′emや口語での置き換わり後に含まれる ض [ ḍ ] を「9′」に置き換えたKa9′im、Kaa9′em、Ka9′emなどの使用が見られる。】
Qaasim、Qasim
分割する者、(公平に)分配する者、与える者;顔が美しい(男性)、美貌の(男性)、美男
【 能動分詞の男性形。分割・分配という意味の能動分詞としては動詞完了形 قَسَمَ [ qasama ] [ カサマ ](分ける、分配する)より。顔が美しいという意味の形容詞的な能動分詞としては動詞完了形 قَسُمَ [ qasuma ] [ カスマ ]((顔が)美しい、美貌である)から。
カースィムは昔からある人名で、預言者ムハンマドの早逝した息子の名前としても知られる。そのため預言者ムハンマドは أَبُو الْقَاسِمِ [ ’abu-l-qāsim ] [ アブ・ル=カースィム ](アブー・アル=カースィム、「(アル=)カースィム」の父)というクンヤでも呼ばれてきた。
アラビア半島、イラクからレヴァント(レバント)地方で多用されるクンヤ「◯◯の父」形式の通称で مُحَمَّد [ muḥammad ] [ ムハンマド ](ムハンマド)を أَبُو جَاسِم [ ’abū jāsim ] [ アブー・ジャースィム ] と呼ぶのは預言者ムハンマドと幼くして亡くなったカースィムとの親子関係が由来。一部方言で قَاسِم [ qāsim ] [ カースィム ] の ق [ q ] 音が ج [ j ] 音に置き換わったことでジャースィムに転じたという。
大昔はまれに女性対して女性名詞化の ة(ター・マルブータ)をつけることをしないまま قَاسِم [ qāsim ] [ カースィム ] と命名することがあったとのこと。】
【 日本語的なカタカナ表記だとカーシム、カシムもしくは英語圏発音風に後半部分を長母音化したカシームが使われているが、カーシムのようにスィではなくシに置き換えた日本的なカタカナ表記にすると قَاشِم [ qāshim ] [ カーシム ] という別のつづり・言葉の発音と同じになってしまい、耳で聞いた時のささいな違いが意味の違いに直結するアラビア語では「質の悪い食べ物を嫌がって良い物しか食べようとしない人」「がつがつ食べる人、やたら食べる人」という意味の別の語に対応するカタカナ表記と全く同じになってしまうので要注意。
口語的にiがeに転じた発音カーセムに対応した英字表記はQaasem、Qasem。sを2個連ねたQaassim、Qassim、Qaassem、Qassemといった英字表記も派生し得るが、フランス語圏で濁点の「ズィ」になることを回避するためのつづりだったりするのでカーッスィム、カッスイム、カーッセム、カッセムと読むのを意図している訳ではない。
また英字表記がQasim、Qassim、Qassemのようなケースではアラビア語表記で確認しない限り長母音の位置が異なる قَسِيم [ qasīm ] [ カスィーム ] と区別がつかない。語形の違いからカースィム(カーシム)は「分配する者」という能動分詞で動作主を表すのに対し、カスィーム(カシーム)は「分配された」「分け前」 という受動分詞で動作の目的語を表すため、全く逆の意味になる。英語圏ではカースィムの長母音位置をカスィームのように変えて読むことが広く行われているが、この方式だと人名としての意味が動作をする人↔動作を受ける対象で真逆になるので意味を調べる時は注意が必要。
この他には ق [ q ] を調音部位が近い他の子音 ك [ k ] に置き換えたつづりもあり、Kaasim、Kasim、Kaasem、Kasem、Kaassim、Kassim、Kaassem、Kassemなどが使われ得る。】
Ghaanim、Ghanim
(戦争での)勝者、(戦利品の)獲得者、略奪者
【 能動分詞の男性形。動詞完了形 غَنِمَ [ ghanima ] [ ガニマ ](戦利品(غَنِيمَة [ ghanīma(h) ] [ ガニーマ ])を得る;略奪する)の動作主・行為者であることを示す。ファーストネームとしてだけでなく代々引き継ぐ家名(いわゆる名字、ファミリーネーム)的にフルネーム後半のラストネーム部分で用いる人も少なくない。】
【 口語的にiがeに転じるとガーネムという発音に対応した英字表記はGhaanem、Ghanem。日本語のカタカナ表記としてはガーニム、ガニム、ガーネム、ガネムが見られる。なお「Gh」で1文字のアルファベット・1個の子音なので「G/ha」と分けてグハーニム、グハニム、グハーネム、グハネムとしないよう要注意。
「Gh」を発音が似ている「G」(文語アラビア語フスハーには無いが口語アラビア語では複数方言に存在する発音)に置き換えたGaanim、Ganim、Gaanem、Ganemも使われている。】
Qaabuus、Qaabus、Qabuus、Qabus、Qaabous、Qabous、Qaaboos、Qaboos
美男、顔が美しく血色の良い男性、肌色が好ましい男性
【 現代で言うところのハンサム、イケメン。アラブ人名辞典によるとペルシア語由来だとのこと。ペルシアの影響を強く受けていたジャーヒリーヤ時代のヒーラ(現イラク)の国王にもこの名前を持つ者がいたという。】
【 アラビア語ではよく似た発音・1字のみ異なるつづりで كَابُوس [ kābūs ] [ カーブース ] という語があるがそちらの意味は「悪夢」。しかしアラブ人名の英字表記でしばしば行われるQのKへの置き換えがされ、「美男」という意味の男性名が「悪夢」という意味のカーブースと同じKaabuus、Kaabus、Kabuus、Kabus、Kaabous、Kabous、Kaaboos、Kaboosといった表記になっている例も見られる。】
Kaamil、Kamil
全部の、完全な、(各部分・パーツを/良き特質・褒められるべき点を)全て備えた(もの/者)
【 動詞完了形 كَمَلَ [ kamala ] [ カマラ ]((部分・各性質が)完全となる、完璧となる、全て揃う、全部備わる)、كَمُلَ [ kamula ] [ カムラ ](継続的な性質を示して:完全である、完璧である、全て揃っている、全部備わっている)、كَمِلَ [ kamila ] [ カミラ ](あまり良くないマイナー発音である的な説明をしている辞書あり:(部分・各性質が)完全となる、完璧となる、全て揃う、全部備わる)の能動分詞男性形。】
【 口語的にiがeに転じてカーメルとなった発音に対応した英字表記はKaamel、Kamel。日本語のカタカナ表記としてはカーミル、カミル、カーメル、カメルが混在。】
Ghaalii、Ghaali、Ghali、Ghaaly、Ghaly、Ghaalee、Ghaale、Ghalee、Ghale
高価な、値段が高い;貴重な、大切な;愛しい;度を越している、過激派(の);肥えた肉;沸騰している
【 能動分詞の男性形。動詞完了形 غَلَا [ ghalā ] [ ガラー ]((許容範囲の値付けを越えて高いという意味合いから)値段が高い、高額である;(物事や宗教に関して)度を越す)と غَلَى [ ghalā ] [ ガラー ](湯が沸騰する)の能動分詞が同形の غَالِي [ ghālī ] [ ガーリー ] になるが、人名としての意味は前者の方。
一般名詞として使う場合非限定形では語末の弱文字のため主格・属格が غَالٍ [ ghālin ] [ ガーリン ] となるが、人名として用いる場合は単独でも غَالِي [ ghālī ] [ ガーリー ] と展開した形となる。
国連事務総長を務めたエジプト出身 بُطْرُس بُطْرُس غَالِي [ buṭrus buṭrus ghālī / (口語発音)buṭros buṭros ghāli ] [ ブト(ゥ)ルス・ブト(ゥ)ルス・ガーリー / (口語風発音)ブトロス・ブトロス・ガーリ ](Boutros Boutros-Ghali、ブトロス・ブトロス=ガーリ) 氏 フルネームの最後に来るGhaliがこの人名。
ガーリーは彼のラストネーム بُطْرُس غَالِي [ buṭrus ghālī ] [ ブト(ゥ)ルス・ガーリー/(口語風発音)ブトロス・ガーリ ](Boutros-Ghali、ブトロス=ガーリ)の一部で、本人の名前が بُطْرُس [ buṭrus / (口語発音)buṭros ] [ ブト(ゥ)ルス / (口語風発音)ブトロス ](ペトロのアラビア語名)、父の名前が يُوسِف [ yūsif / (口語発音)yūsef ] [ ユースィフ / (口語発音)ユーセフ ](ヨセフのアラビア語名)、祖父の名前が بُطْرُس [ buṭrus / (口語発音)buṭros ] [ ブト(ゥ)ルス / (口語風発音)ブトロス ](ペトロのアラビア語名)、曽祖父が نَيْرُوز [ nayrūz / nairūz ] [ ナイルーズ ](ペルシア語由来で「祭日(特に太陽暦新年・元日)」の意味)。
غَالِي [ ghālī ] [ ガーリー ] は曽祖父の代から使っていたラストネーム(ファミリーネーム)で「Boutros-Ghali」は元来の家名に祖父ブトルス(/ブトロス)のファーストネームを組み合わせて祖父以降の代が引き継いでいる新たなラストネーム。(ブトルス・)ガーリ(ー)家はエジプト政府の重要政治家・閣僚を複数輩出してきた一族として有名。
【 口語アラビア語では語末の長母音īが短母音iになることが多いためガーリと聞こえることも。長母音ī(イー)を表す英字表記としては-ii、-i以外にも-y、-eeなどがあるが-eeについては-e1文字に減らして「イー」もしくは口語風に短母音化した「イ」を意図しているものと思われ、必ずしもガーレと読ませることを示唆したものではないと言える。
「Gh」を発音が似ている「G」(文語アラビア語フスハーには無いが口語アラビア語では複数方言に存在する発音)に置き換えたつづりもあり、Gaalii、Gaali、Gali、Gaaly、Galy、Gaalee、Gaale、Galee、Gale などが使われ得る。
日本語におけるカタカナ表記としてはガーリー、ガーリ、ガリが混在。「Gh」で1文字のアルファベット・1個の子音なので「G/ha」と分けてグハーリー、グハーリ、グハリなどとしないよう要注意。】
Ghaalib、Ghalib
勝者、勝利者;圧倒的な、支配的な、優位な、優勢な
【 動詞完了形 غَلَبَ [ ghalaba ] [ ガラバ ](勝つ、まさる、制する)の能動分詞男性形。定冠詞 اَلْـ [ ’al- ] [ アル= ](al-)がついた اَلْغَالِب [ ’al-ghālib ] [ アル=ガーリブ ] は唯一神アッラーの属性名(美名)の一つで意味は「至高なる者」「最も高き者」。
【 口語的にiがeに転じてガーレブ寄りになった発音に対応する英字表記はGhaaleb、Ghaleb。なお「Gh」で1文字のアルファベット・1個の子音なので「G/ha」と分けてグハーリブ、グハリブ、グハーレブ、グハレブとしないよう要注意。また、「Gh」を発音が似ている「G」(文語アラビア語フスハーには無いが口語アラビア語では複数方言に存在する発音)に置き換えたGaalib、Galib、Gaaleb、Galebも使われている。
日本語におけるカタカナ表記としてはガーリブ、ガリブ、ガーレブ、ガレブなどが使われ得る。】
Kaarim、Karim
気前の良い;寛大な;高貴な;人格的に優れた、高潔な
【 動詞 كَرُمَ [ karuma ] [ カルマ ](気前が良い、物惜しみしない;寛大である、心が広い;高貴である;高潔である)の能動分詞男性形。動詞完了形能動分詞の一般的な فَاعِلٌ [ fā‘il(un) ] [ ファーイル(ン) ] 語形だが意味としては فَعِيلٌ [ fa‘īl(un) ] [ ファイール(ン) ] 型の كَرِيم [ karīm ] [ カリーム ] と同等の内容を表す。】
【 口語的にiがeに転じてカーレム寄りとなった発音に対応した英字表記はKaarem、Karem。
英字でKarimと表記されている人名の場合、同じ語根と同様の意味で長母音の位置が異なる語形違いの كَرِيم [ karīm ] [ カリーム ] (Karim/Kariim/Kareem)と区別がつかなくなるので要注意。アラビア文字表記を見ないと確認が難しいが、人名 كَرِيم [ karīm ] [ カリーム ] の方がメジャーなのでたいていの場合はカリームだと考えて差し支え無い。
日本語におけるカタカナ表記としてはカーリム、カリム、カーレム、カレムが使われ得る。】
母音記号あり:غَيْث [ ghayth / ghaith ] [ ガイス ] ♪発音を聴く♪
Ghayth、Ghaith
雨、降雨;慈雨、恵みの雨;(雨)雲;空;雨が降った後に生えてきて育つ牧草;助け、救い
■意味と概要■
アラブ人名辞典にはいくつかの語義が載っているが、各種アラビア語辞典によると元々の意味は雨、特に恵みとなるような有益な雨のことを指すという。また雨という意味から、雨後に一斉に芽吹いて荒野に広がり家畜の牧草となるような草花、(雨)雲、空といった語義が派生したとされている。文脈によっては「助け、救い」というニュアンスになることもあり、アラブ人名辞典やアラビア語辞典に語義として載っていることもある。
■発音と表記■
アラブ人名では元々غ(ghの音を表す文字「ガイン」)だった部分はGhaとするとグハと誤読されGhayth、Ghaithがグハイスなどと読まれてしまうこともあるため、より誤読が少なく音として近く聞こえるh無しのGで置き換えるケースがしばしば見られ、このガイスもGaythやGaithと英字表記されていることもしばしば。
[ ghayth / ghaith ] [ ガイス ] の「ay」部分は二重母音「ai」となるため発音表記がGhaythとGhaithが混在、どちらもガイスという発音を示している。上述の通りGhからhを抜いたGayth、Gaithも並存。加えて口語アラビア語(方言)では二重母音ay(ai)が [ ei ] [ エイ ] や [ ē ] [ エー ] に転じるなどするため、غيث というアラビア語名がゲイスと発音された場合に対応しているGheyth、Gheith、Geyth、Geith(*ゲイズ、ジェイズ、ジェイスのようにカタカナ化しないよう要注意)、ゲースと発音された場合に対応しているGheeth、Geeth(*ジェース、ジース、ジェーズ、ジーズとカタカナ化しないよう要注意)さらにはゲースとの発音を意図しつつもeeを1個に減らしたGheth、Geth(*ゲス、ゲズ、ジェス、ジェズとカタカナ化しないよう要注意)なども用いられている。
なお舌の先を歯ではさんで発音する最後の文字 ث(th)は口語アラビア語の方言だと舌をはさまずにスースーさせて出す س(s) 、また上前歯の裏の歯茎に舌を当ててバッと息を出すことで発音する ت(t)に置き換わるなどする。
ث(th)から س(s)への置き換わりではカタカナ表記としては同じになるものの実際の発音では微妙に違うガイス(Ghays、Ghais)、ガイスのガに対する当て字であるGhaからhを抜いたガイス(Gays、Gais)、口語的に二重母音アイの響きがエイに転じたゲイスに対応しているGheys、Gheis、Geys、Geis、口語的に二重母音アイの響きがエーに転じたゲースに対応しているGhees、Gees、ゲースとの発音を意図しつつもeeを1個に減らしたGhes、Gesなどが派生し使われ得る。またフランス語圏などを中心に本来s1個のみの語末をssと連ねた当て字もありGhayss、Ghaiss、Gayss、Gaiss、Gheyss、Gheiss、Geyss、Geiss、Ghess、Gess…等も併存。ただし発音はガイッス、ゲイッス、ゲーッスのようにすることは意図されていないので、促音化せず「ッ」無しのガイス、ゲイス、ゲースなどとカタカナ化することを推奨。
ث(th)から ت(t)への置き換わりではガイトとしか読めないGhayt、Ghait、ガイスのガに対する当て字であるGhaからhを抜いたガイト(Gayt、Gait)、口語的に二重母音アイの響きがエイに転じたゲイトに対応しているGheyt、Gheit、Geyt、Geit、口語的に二重母音アイの響きがエーに転じたゲートに対応しているGheet、Geet、ゲートとの発音を意図しつつもeeを1個に減らしたGhet、Getなどが派生し使われ得る。
なお英字表記(ラテン文字表記)のGays、Gais(ガイス)については別のアラブ男性名 قَيْس [ qays / qais ] [ カイス ](困難、苦難、厳しさ、飢え;【たとえ・代名詞として】叶わぬ愛に身を焦がす男性、愛しい人に思いこがれる男性)の口語アラビア語発音・非アラビア語発音ガイスに対応した英字表記Gays、Gais、ゲイスに対応したGeys、Geis、ゲースに対応したGees、Gesなどとかぶるため、実際のアラビア語表記で確認・区別する必要がある。
母音記号あり:قَيْس [ qays / qais ] [ カイス ] ♪発音を聴く♪
Qays、Qais
困難、苦難、厳しさ、飢え;【たとえ・代名詞として】叶わぬ愛に身を焦がす男性、愛しい人に思いこがれる男性
■意味と概要■
【男性名カイスの概要と意味合い】
イスラーム以前からある非常に古いアラブ男性名。ジャーヒリーヤ時代を生きたアラブの詩人イムル(ウ)・アル=カイス اِمْرُؤ الْقَيْسِ [ ’imru’u-l-qays/qais ] [ イムルウ・ル=カイス ](イムルウ・アル=カイス、日本ではイムル・アル=カイス、イムル・カイスと書かれていることも。) は本人のファーストネームが جُنْدُح [ junduḥ ] [ ジュンドゥフ ] だったが、この「苦難の男」という意味のあだ名(ラカブ)で広く知られた。
イムルウ・アル=カイスが「苦難の男」と呼ばれたのは彼の波乱に満ちた人生にちなんだものとされるが、カイス自体がイスラーム以前のジャーヒリーヤ時代に崇拝されていた多神教・偶像崇拝時代の神の名だったという説明も見られる。元々はエドム人の神Qosのことで、その名はナバテア文字でも書き残されているという。
アラビア半島では大昔に عَبْدُ قَيْس [ ‘abd qays/qais ] [ アブド・カイス ] や عَبْدُ الْقَيْسِ [ ‘abdu-l-qays/qais ] [ アブドゥ・ル=カイス ](アブドゥルカイス、アブド・アル=カイス。「カイスのしもべ」の意。)という男性名があり部族名にすらなっているが、ジャーヒリーヤ時代のアブドの後に来るのは神・偶像の名前であったためカイスが多神教崇拝対象だったことがうかがえるとされる。ジャーヒリーヤ時代にはアブド・カイスやアブドゥルカイス(アブド・アル=カイス)以外にもカイス単体をファーストネームする男性の存在が複数名知られていたことが記録から判明しているとか。
【男性名カイスと熱愛のイメージ】
●ライラーとマジュヌーンの男性主人公カイス●
中東圏の熱愛・悲恋・狂愛物語として有名な『ライラ(ー)とマジュヌーン』に出てくる青年のファーストネームがこのカイスだが、ライラーに激しく恋い焦がれたカイスには مَجْنُون [ majnūn ] [ マジュヌーン ](ジンに取り憑かれた(≒人外の精霊的存在に憑かれて奇行に走るようになった、言動がおかしくなってしまった);狂った、発狂した;狂人)という別名がつけられた。
ニザーミー作の悲恋物語バージョンでは族長の息子カイスが学校で出会ったライラーとの恋に落ちるが、ライラーはカイスとの関係が家族にばれて最後には別の男性に嫁がされる。ライラーは最終的にカイスと結ばれること無くこの世を去り、マジュヌーン(狂人)と化したカイスはその墓前で一人孤独にその生涯を終えるが、世捨て人のようになり狂おしいまでに恋い焦がれるカイスにイスラーム神秘主義的な唯一神アッラーへの渇望・思慕を投影したものとなっている。
元々のモデルは قَيْسُ بْنُ الْمُلَوَّحِ [ qays/qais(u) bnu-l-mulawwaḥ ] [ カイス・ブヌ・ル=ムラウワフ ](カイス・イブン・アル=ムラウワフ)もしくは قَيْسُ بْنُ الْمُلَوِّحِ [ qays/qais(u) bnu-l-mulawwiḥ ] [ カイス・ブヌ・ル=ムラウウィフ ](カイス・イブン・アル=ムラウウィフ)。よく知られたストーリーの一つは彼がアラビア半島の現サウジアラビア王国地域ナジュド地方アーミル族出身で、一族が所有する家畜の世話などをしながら一緒に育った父方いとこのライラー لَيْلَى الْعَامِرِيَّةُ [ layla/laila-l-‘āmirīya(h) ] [ ライラ・ル=アーミリーヤ ](ライラー・アル=アーミリーヤ)と好き合うようになったという設定。彼らの恋物語が周囲に知られたためにライラーの家族がそのままカイスといとこ婚させることを拒む。ライラーが別の男性と結婚した後は彼女を忘れたくても忘れられない思いをまぎらわせるかのようにカイスは恋愛詩を作りながら各地を放浪することとなったという筋書きになっている。
ニザーミー版のように狂気じみた愛に溺れたために مَجْنُون [ majnūn ] [ マジュヌーン ](狂人)と呼ばれた訳ではなく、その強い愛ゆえに مَجْنُون لَيْلَى [ majnūn(u) laylā/lailā ] [ マジュヌーン・ライラー ](ライラーのことを狂おしいまでに愛した男)という通称で知られるに至ったという。なおアラブ版ではライラーの墓前で息絶えていたのではなく、放浪先で行き倒れ小石が広がる涸れ谷で亡骸が見つかったという結末になっている。
彼が実在した一人の詩人だったかについては複数の文人らが疑義を表明するなどしてきたが、アラブ世界では男性名カイスは熱愛に身を焦がす男性、恋人に狂おしいまでの思慕を寄せる男性の代名詞ともなっており「أَنَا قَيْس وَأَنْتِ لَيْلَى」[ ’ana qays/qais wa ’anti laylā/lailā ] [ アナ・カイス・ワ・アンティ・ライラー ] で「僕はカイス、そして君はライラー。」といった愛し合う恋人同士を表現するフレーズなども存在する。
●マジュヌーン・ルブナー●
アラブには同じカイスという名前の男性が登場するもう一つの熱愛・悲恋物語が存在する。それが مَجْنُونُ لُبْنَى [ majnūn(u) lubnā ] [ マジュヌーン・ルブナー ](ルブナーのことを狂おしいまでに愛した男)という通称で知られる قَيْسُ بْنُ ذَرِيحٍ [ qays/qais(u) bnu dharīḥ ] [ カイス・ブヌ・ザリーフ ](カイス・イブン・ザリーフ)。
彼は上記のマジュヌーン・ライラーことカイス・イブン・アル=ムラウウィフと大体同じ時代に生きた詩人で、アラビア半島の現サウジアラビア王国地域ヒジャーズ地方キナーナ族支族であるライス族出身。外出時喉が乾いて立ち寄った先で知り合ったルブナーへの想いが実って結婚するが、子供に恵まれなかったため親族特に父親から別の女性を新たに妻として迎えるようプレッシャーをかけられるようになり離婚を余儀なくされ、彼女への変わらぬ愛を詩に昇華させるに至った。
ルブナーも再婚するが、ある時ラクダを売った相手が彼女の新しい夫だったという偶然から彼の家を訪ねたことで思いがけず再会。ルブナーの夫は彼女を離縁、カイスとルブナーは復縁・再婚することとなる。しかし彼女はイッダ(待婚)期間中に亡くなってしまい再婚は完了せず。「彼女の死は私の死」と詩をつづったカイスもやがて死去。悲しき愛の物語として語り継がれている。
■発音と表記■
アラブ人名では元々qだった部分の英字表記・当て字をを発音場所の近いkで置き換えるケースがしばしば見られ、このカイスもKaysやKaisと英字表記されていることがある。
アラビア語の複数方言、また非アラビア語言語によってはق(q)音がg音に置き換わることからガイスと読めるGays、Gaisといった英字表記が併存しているが、本項目のガイスのことを指すことが多いものの全く別の人名 غَيْث [ ghayth / ghaith ] [ ガイス ](雨;(雨)雲)の英字表記バリエーションであるGays、Gaisである可能性もあるためアラビア語表記での確認が必要。
[ qays / qais ] [ カイス ] の「ay」部分は二重母音「ai」となるため発音表記がqaysとqaisが混在、どちらもカイスという発音を示している。口語では二重母音ay(ai)が [ ei ] [ エイ ] や [ ē ] [ エー ] に転じるなどするため、قيس というアラビア語名がケイス、ケースのように発音された場合に対応しているであろうQeys、Qeis、Qees、Qes、Keis、Kees、Kesといった英字表記も存在する。これらの語頭を先述のGに置き換えたゲイスに対応しているのがGeys、Geis、ゲースに対応しているのがGees、Gesなど。
またフランス語圏などを中心に本来s1個のみの語末をssと連ねた当て字もありQayss、Qaiss…等も併存。ただし発音はカイッスのようにすることは意図されていないので、促音化せず「ッ」無しのカイスなどとカタカナ化することを推奨。
母音記号あり:غَيَّاث [ ghayyāth / ghaiyāth ] [ ガイヤース ] ♪発音を聴く♪
Gayyaath、Gaiyaath、Gayyath、Gaiyathなど
救援者、救助者、多大なる救援を与える者、大いに助ける者、数多くの助力を何度も行う者、他者を苦しみ・悩みからよく助けてやる者
■意味■
動詞 غَاثَ [ ghātha ] [ ガーサ ]((神が)雨を降らせる、慈雨を恵む;(神が人々の祈りを聞き届けて)助ける、援助する、救援する)の行為者・動作主であることを示す能動分詞の強調語形。通常の救援者・救済者よりもその回数・度合いが大きく、何度も繰り返し他者を助けることを意味。人々に助け・食料・慈雨を与える救援・助力を1回きりではなく常日頃から行っている人物・存在であることを示す。
アラビア語辞典には載っていないことが多いが、詳しい人名辞典には掲載されていることがあり発音と意味の確認が可能。
別の男性名 غِيَاث [ ghiyāth ] [ ギヤース ]((神によりもたらされる)助け、救援;(助けとなるような)救助行為、食べ物、降雨など;民に助けを与える神(アッラー))と全く同じつづりで、母音記号が無いと区別がつかないため添えられた英字表記や実際の発音でチェックを行う必要がある。
■この名前を持つ人物など■
ドバイ警察のスマートパトロールカーは英字表記が Ghiath のためアラビア語表記を見ないと別の男性名で姉妹語の غِيَاث [ ghiyāth ] [ ギヤース ] のつづりバリエーションのひとつとかぶってしまい区別がつきにくくなっているが、アラビア語では同じつづりで発音が違う本項目の غَيَّاث [ ghayyāth / ghaiyāth ] [ ガイヤース ] として現地では発音・表記されており、しばしば使われているギアスというカタカナ表記は誤りで英字表記の Ghaiath そのままにy抜きでカタカナ化すればガイアース、本来の発音により近いつづり Ghaiyath から抜かれたy字があることをふまえアラビア語としての本来の発音まで戻すならばガイヤースとなる。
海外記事などではこの警察車両について「Sun(太陽)」という意味のアラビア語単語・アラブ男性名だと紹介しているものもあるが、掲載情報が不正確な英語のアラブ系・イスラミックネームサイトを参照したことが原因だと思われる。ドバイのスマートパトカーはガイヤースという発音で「(多大なる助力を与える)救援者、援助者」の意味の方、同じアラビア語つづりで発音が良く似た別男性名ギヤース(*カタカナ表記ギアスの原因)も「救援、助力」という意味。正確な記事だと「Ghiath roughly means rescuer in Arabic」(Ghiathはアラビア語で救助者といった意味)と記載されている。
ガイヤースと取り違えられやすい男性名ギヤースについては太陽ではなく雨を指す名詞で、「(助けとなる、救いとなる)雨」のこと。ギヤースに関しては「(太陽に照らされる厳しい日照りの後に)人々を救うべく神が降らせてくれた恵みの雨、神が授けて下さった久々の雨で家畜に食べさせられる草も生え羊飼いやラクダ飼いたちも大いに救われた」というシチュエーションを示す語であることがアラビア語大辞典でも説明されている。「太陽」はむしろギヤースとは対極にある意味となるためアラブ人名辞典やアラビア語辞典にも太陽という意味では載っていない。海外の名前サイトで手違いがあったか、いたずら投稿されたのか、非アラビア語圏の違う名前と混同されたのかは不明。
ゴドルフィン所属で活躍した競走馬ガイヤース(Ghaiyyath)はこの名前。現地ニュース記事などからアラビア語表記類が確認可能。
■発音とつづり■
-ay-部分はアラビア語では二重母音-ai-を表すため英字表記も-ay-つづりと-ai-つづりの両方が見られる。長母音āをaaで表現した場合がGhayyaath、Ghaiyaath、長母音部分からaを1個減らした上でガイヤースと読ませるGhayyath、Ghaiyathが主な英字表記。
「Gh」を発音が似ている「G」(文語アラビア語フスハーには無いが口語アラビア語では複数方言に存在する発音)に置き換えた英字表記としては。Gayyaath、Gaiyaath、長母音部分からaを1個減らした上でガイヤースと読ませるGayyath、Gaiyathが使われ得る。
アラビア語口語(方言)における ث [ th ] の س [ s ] 音への置き換わりや非アラビア語諸語地域における子音の置き換わりなどを反映して語末の「-th」を「-s」に置き換えたGhayyaas、Ghaiyaas、Ghayyas、Ghaiyas、Gayyaas、Gaiyaas、Gayyas、Gaiyasも考え得る。
またGhayya-の「y」を抜いて発音が似ている「Ghaia-」とする系統のGhaiath、Gaiath、Ghaias、Gaiasも派生し得るが、アラビア語本来の発音はガイアース、ガイアスではなくガイヤースで、しかも上に挙げた英字表記のバリエーションにもかかわらずアラビア語表記としては全部同じ同一人名なので要注意。
Qasiim、Qasim、Qaseem
共有者、(分け前や何かを分割したものを)分け合う仲間;分割された物の部分、分け前;顔が美しい(男性)、美貌の(男性)、美男
【 他動詞の目的語としての受動態的な意味・継続する性質を示す形容詞的な意味・通常よりも強調された内容などを表す فَعِيلٌ [ fa‘īl(un) ] [ ファイールン ] 語形。分割・分配に関連した意味は動詞完了形 قَسَمَ [ qasama ] [ カサマ ](分ける、分配する)より。顔が美しいこと・美貌に関連した意味は動詞完了形 قَسُمَ [ qasuma ] [ カスマ ]((顔が)美しい、美貌である)から来ている。
同じ語根 ق - س - م (q-s-m)を共有している一般的な能動分詞語形で人名としてもよく使われる قَاسِم [ qāsim ] [ カースィム ] は能動的で動作主・行為主であることを表すため「分割する者、(公平に)分配する者、与える者」という意味になるが、受動的・目的語的としてのニュアンスを示す قَسِيم [ qasīm ] [ カスィーム ] の方は「分割された物の部分、分け前」とカースィムとは真逆の意味が含まれる。
英語圏では قَاسِم [ qāsim ] [ カースィム ] のように前半が長母音で「ー」とのびるようなアラブ人名の発音が後半が長母音「ー」になるケースが多いため [ qasīm ] [ カスィーム ] となってしまい、アラビア語では「カースィム」であるにもかかわらず英語風発音では別の人名「カスィーム」と全く同じ読み方をされることも少なくない。その場合語形の違いから「~する人」という意味の名前が「~された人」「~されたもの」という逆の意味の名前の発音に置き換わることになるので、人名の意味を調べる時はそうした事情をふまえた上での混同回避と区別が必要となる。】
【 長母音ī(イー)を示すeeが1文字に減らされたQasemも使われているがカセムではなくカスィームという発音を意図しているつづりなので要注意。
sを2個連ねたQassiim、Qassim、Qasseem、Qassemといった英字表記も派生し得るが、フランス語圏で濁点の「ズィ」になることを回避するためのつづりだったりするのでカッスィーム、カッスイム、カッスィーム、カッセムと読むのを意図している訳ではない。
英字表記によっては別の男性名 قَاسِم [ qāsim ] [ カースィム ] の英字表記とかぶることがあり、Qasim、Qassim、Qasem、Qassemとなっている場合は元のアラビア語表記を見ないとどちらか区別できないため非常にまぎらわしい。
なお、外国語のsi(スィ)をshi(シ)をあてることが多い日本語的なカタカナ表記だとカシーム、カシムとなるが、カシームでは別のつづり・言葉の発音 قَشِيم [ qashīm ] [ カシーム ] と同じになってしまう。アラビア語では語根 ق - ش - م (q-sh-m)は「質の悪い食べ物を嫌がって良い物しか食べようとしない」「がつがつ食べる、やたら食べる」行為に関連した概念を示すなどするが、قَشِيم [ qashīm ] [ カシーム ] に関しては「乾燥した草、枯れ草、干し草;しなびた野菜」「死」を意味。耳で聞いた時のささいな違いが意味の違いに直結するアラビア語では「カスィーム」と「カシーム」のような違いは非常に大きく、往々にしてひどい意味の別の語と同じ発音になってしまうので要注意。
日本におけるこの人名のカタカナ表記としてはカスィーム、カスィム、カシーム、カシムなどが使われ得る。】
Ghazwaan、Ghazwan
数多く侵略を行う者、数多く攻撃を行う者、数多く略奪遠征を行う者
【 数・回数の多さを強調する語形。動詞完了形 غَزَا [ ghazā ] [ ガザー ](~を求める、~に向かう;(相手側がいる場所に行く・遠征する形で)~との戦闘に赴く、~に対する略奪に向かう、~を襲撃する)の基本的な能動分詞由来の男性名 غَازِي [ ghāzī ] [ ガーズィー ](攻撃者、侵略者、襲撃者;ガーズィー)よりも意味が強い。
غَزْو [ ghazw ] [ ガズウ ](攻撃、軍事遠征)・غَزْوَة [ ghazwa(h) ] [ ガズワ ](動名詞の行為1回分を表す ة(ター・マルブータ)をつけたもの。「攻撃、軍事遠征(の1回分)」の意味。)を単に行うだけでなく、しばしばそれを行うこと・これまでに何回もそうしてきたことを示す語形となっている。
同じつづりながら発音違いの غَزَوَانٌ [ ghazawān ] [ ガザワーン ] という語があるが、そちらは غَزْو [ ghazw ] [ ガズウ ](攻撃、軍事遠征)と同じく 動詞 غَزَا [ ghazā ] [ ガザー ](~を求める、~に向かう;(相手側がいる場所に行く・遠征する形で)~との戦闘に赴く、~に対する略奪に向かう、~を襲撃する)の動名詞の一つ。】
【 「Gh」を発音が似ている「G」(文語アラビア語フスハーには無いが口語アラビア語では複数方言に存在する発音)に置き換えたGazwaan、Gazwanも見られる。方言で長母音āがēになるマグリブ(北アフリカ)方言などのガズウェーン寄り発音に対応した英字表記もありGhazween、Ghazwen、Gazween、Gazwenなどが使われ得る。
日本語におけるカタカナ表記としてはガズワーン、ガズワンなど。】
Qataadah、Qataada、Qatadah、Qatada
ゲンゲ(トラガカントゴムノキなど)
【 集合名詞、草木の名称としての語形 قَتَاد [ qatād ] [ カタード ](ゲンゲ(トラガカントゴムノキなど))に単数を表す ة(ター・マルブータ)をつけたもの。マメ科ゲンゲ属のことで、種類によっていくつかの学名に分かれる。いわゆるマメの仲間でトゲのある硬い植物として知られる。いわゆるマメの仲間でトゲのある硬い植物として知られ、ことわざでは苦難・困難といった意味で使われることも。
預言者ムハンマドの教友(サハービー)・アンサールでイスラーム黎明期に実在した男性のファーストネームもカターダで、イスラーム以前のジャーヒリーヤ時代から使われていた古い伝統的人名であることがわかる。】
【 ق [ q ] を調音部位が近い他の子音 ك [ k ] に置き換えた英字表記Kataadah、Kataada、Katadah、Katadaも使われている。日本語におけるカタカナ表記としてはカターダ、カタダ。
アラビア語の文語だとこの人名を単体で発音する時は قَتَادَة [ qatādah ] の最後の子音「h」(ワクフと呼ばれる休止形発音なので「t」とはしない)をほんのり聞こえる軽い発音で出すため、厳密には耳を澄ませて聞くと [ カターダフ ] と [ カターダハ ] の中間のような読み方をしている。しかし現代文語会話や口語(方言)だと ة の休止形(ワクフ)発音である ه [ h ] が落ちてしまい手前の-aまでしか読まなくなっているので、日本では学術的な表記でもQataadah、Qatadahと表記してあるものをカターダフ、カターダハとはせずカターダと書くのが標準ルールとなっている。】
Ghadanfar
体の大きな、大柄な、どっしりした体格の、巨体の;体の大きな獅子
【 ライオン・獅子を意味する一般的な名詞 أَسَد [ ’asad ] [ アサド ] の属性名的な別名としても用いられる。حَيْدَر [ ḥaydar/ḥaidar ] [ ハイダル ](獅子)もしくは حَيْدَرَة [ ḥaydara(h)/ḥaidara(h) ] [ ハイダラ ] の異名を持つ第4代正統カリフ・シーア派初代イマームであるアリーや彼の一族・子孫であるアフル・アル=バイトが輩出した各イマームなどの形容に用いることから、イラクやイランなどのシーア派優勢地域(やアラビア半島湾岸地方、レバノンシーア派コミュニティー)などで命名される男性名となっている。】
【 「ダ」部分の子音 ض [ḍ] がイラク等の口語 ظ(ذ [dh ] を重たくこもらせた音)発音 やペルシア語圏他における ز [ z ] 発音に置き換わってガザンファルになったことに対応するGhazanfarという英字表記も見られる。ض [ḍ] にしばしば当てられるのが「dh」であること、もしくはイラク方言での発音置き換わり後に ظ(ذ [dh ] を重たくこもらせた音)になることからGadhanfarという英字表記が使われることも少なくない。
【 「Gh」を発音が似ている「G」(文語アラビア語フスハーには無いが口語アラビア語では複数方言に存在する発音)に置き換えたGadanfar、Gazanfar、Gadhanfarも見られる。】
母音記号あり:غَسَّان [ ghassān ] [ ガッサーン ] ♪発音を聴く♪
Ghassan、Ghassan
若さの盛り、満ち溢れる若々しさ;心・心臓の最奥;現イエメンのティハーマ地方にある/あった泉の名前
■意味・語形■
語根「غ-س-س(gh-s-s)をفَعْلَان語形に当てはめたものだとされる。元々動詞 غَسَّ [ ghassa ] [ ガッサ ] には「(国・地域)に入る」「水に入る、水に身を浸す」という意味があり、同じ語根から成る غَسَّان [ ghassān ] [ ガッサーン ] が一般名詞として持つ意味については辞書に「若さの盛り」「心臓の最奥」などと記載されている。
■ガッサーン族について■
「ガッサーン」はアラビア半島南部に居住していたガッサーン族 اَلْغَسَاسِنَة [ ’al-ghasāsina(h) ] [ ガサースィナ(フ/ハ) ](不規則複数語形で「ガッサーン族の者たち、ガッサーン一族」の意)の名称としても使われた非常に古い部族名・人名。この部族の名称となった غَسَّان [ ghassān ] [ ガッサーン ] 自体は父祖となった男性の名前ではなく、アズド族が当時住んでいたティハーマ地方ザビード付近にあったガッサーンと呼ばれる泉の名前から取られたものだという。彼らが自分たちが水場としていた泉を部族の識別名として選んだ件については詩の一節
إمّا سألت فإنّا معشر نجب الأزد نسبتنا والماء غسان
にも残されている。
アズド族支族ガッサーン族はイスラーム以前のジャーヒリーヤ時代にマアリブダム崩壊・洪水をきっかけとして現在のイエメン付近からシャーム地方(レヴァント地方、レバント地方)へ移住。現シリア~ヨルダン~パレスチナにまたがる地域に広がるキリスト教王国であるガッサーン朝を興した。
アズド族は今もサウジラアビア南部からイエメン西部に広がる ج [ jīm ] [ ジーム ] の [ g ] 発音(ギーム化)地域で暮らしていた大部族で、イスラーム遠征軍のエジプト征服とフスタート建設を通じエジプト首都付近にアズド系諸支族の発音が伝わることとなった。エジプトではその後の首都カイロとなった旧フスタートや同地域と交易などで往来のあった周辺地域においてイエメン人入植者によって伝えられた ج のg発音を今でも使用。文語アラビア語(フスハー)におけるこの子音の発音よりも古いセム系言語で元々行われていた発音を保っている。
ガッサーン族もアズド式の ج 発音を維持したままアラビア半島を北上しシャーム地方へ移住したとされており、ガッサーン朝関係の文字資料で ك [ k ] の字に置き換わっている点がシリア近辺で王朝と興した後も g 発音への置き換えをなお保っていたことを示しているという。
■この名前を持つ有名人■
現代においてはパレスチナの文学者・ジャーナリストである غَسَّان كَنَفَانِيّ [ ghassān kanafānī(y) ] [ ガッサーン・カナファーニー(ュ/ィ) ](Ghassan Kanafani、ガッサーン・カナファーニー)のファーストネームとしても広く知られている。和訳も刊行された短編『رِجَالٌ فِي الشَّمْسِ [ rijāl(un) fi-sh-shams ] [ リジャール(ン)・フィ・ッ=シャムス ]』(邦題:太陽の男たち)などを発表、パレスチナ解放運動の重要人物としても活躍したが1972年に爆殺。
■発音と表記■
「Gh」を発音が似ている「G」(文語アラビア語フスハーには無いが口語アラビア語では複数方言に存在する発音)に置き換えたGassaan、Gassanも見られる。その他には方言で長母音āがēになるマグリブ(北アフリカ)方言などのガッセーン寄り発音に対応した英字表記Ghasseen、Ghassen、Gassenなど。
なお日本ではガッサーンと読むべきアラブ人名Ghassanを「ハッサン」とカタカナ化している例が見られるが、読み間違いがそのまま定着してしまったものと思われる。
Ghaniyy、Ghanii、Ghani、Ghaniy、Ghanee、Ghany
豊かな、裕福な、富裕な;(بِを伴って)(~に)富んでいる、豊かな、十分に備わっている;(عَنْを伴って)~を必要としない、~無しで済ませることができる
【 動詞 غَنِيَ [ ghaniya ] [ ガニヤ ](豊かである、裕福である、富裕である;(بِを伴って)(~に)富んでいる、豊かな、十分に備わっている;(عَنْを伴って)~を必要としない、~無しで済ませることができる)と関連のある名詞/形容詞。その動詞の動作主・行為者であることを示す能動分詞的な意味を持つ فَعِيلٌ [ fa‘īl(un) ] [ ファイール(ン) ] 語形。
イスラーム以前のジャーヒリーヤ時代から使われてきた伝統的な古いアラブ男性名。定冠詞 اَلْـ [ ’al- ] [ アル= ](al-)がついた اَلْغَنِيّ [ ’al-ghanī(y) ] [ アル=ガニー(ュ/ィ) ] は唯一神アッラーの属性名(美名)の一つで意味は「自足者」「満ち足りた者」「最も満ち足りた御方」「豊かなる者」「富める者」となるため、子供に命名する際は神の属性名(美名)とかぶらないよう定冠詞抜きで名付けをすることが求められる。
アラブ人やイスラーム教徒の名前で「ガニー」が含まれるのは複合名である عَبْد الْغَنِيّ [ ‘abdu-l-ghanī(y) ] [ アブドゥ・ル=ガニー(ィ)](アブドゥルガニー、アブド・アル=ガニー。意味は「自足者のしもべ」「満ち足りた者のしもべ」「最も満ち足りた御方のしもべ」「豊かなる者のしもべ」「富める者のしもべ」など。)のことが多い。その場合はアブド、アブドゥル、アル=ガニー、ガニーのように一部だけを切り取ってファーストネームとして扱わないよう要注意。】
【 語末の子音「y」は重子音化記号シャッダがついているためアラビア語におけるつづり的には [ ghaniyy = ghanī(y) ]。純文語的で厳密な発音を発音するとガニーュとガニーィの中間のような発音に聞こえアクセントも後半に置かれるが、口語など日常的な会話では単なる [ ghanī ] [ ガニー ] と聞こえる発音をしていることが多い。この場合はアクセント位置が前方にずれる(♪発音を聴く♪)。
さらに口語では [ ghanī ] [ ガニー ] のような語末の長母音が短母音化してしまうため、実際に聞くと [ ghani ] [ ガニ ] に聞こえることも。また英字表記では語末長母音の存在がわからないGhaniというつづりが広く使われているため、日本ではガニー以外にガニというカタカナ表記が多用されている。
「ガニー(ュ/ィ)」という発音を表す英字表記は複数通りあり、アラビア語表記に忠実なGhaniyy、Ghanii、Ghani、Ghaniy以外にも英語のknee(ニー)のように長母音ī(イー)を「ee」で表したGhaneeやその2つ連なるeeを1個に減らしたGhane、sunny(サニー)のように長母音ī(イー)を「y」で表したGhanyなどが混在。
「Gh」を発音が似ている「G」(文語アラビア語フスハーには無いが口語アラビア語では複数方言に存在する発音)に置き換えた英字表記もあり、Ganiyy、Ganii、Gani、Ganiy、Ganee、Gany、Ganeなどが使われ得る。】
母音記号あり:كَمَال [ kamāl ] [ カマール ] ♪発音を聴く♪
Kamal、Kamaal
完璧、完全、(物事や性質・特質・人格などが)欠けることなく全て備わっていること
■意味と概要■
動詞(辞書に載っているのは「彼が~した」という形の完了形) كَمَلَ [ kamala ] [ カマラ ]((部分・各性質が)完全となる、完璧となる、全て揃う、全部備わる)、كَمُلَ [ kamula ] [ カムラ ](継続的な性質を示して:完全である、完璧である、全て揃っている、全部備わっている)、كَمِلَ [ kamila ] [ カミラ ](あまり良くないマイナー発音である的な説明をしている辞書あり:(部分・各性質が)完全となる、完璧となる、全て揃う、全部備わる)の動名詞。
イスラーム教徒の女性名としてこの كَمَال [ kamāl ] [ カマール ](完璧、完全)に女性化語尾を付した感じの کمالہ [ kamāla(h) ] [ カマーラ ] があり"アラビア語で完璧を意味するアラビア語由来のアラブ女性名"と説明されることがあるが、「完璧」という意味と كَمَالَة [ kamāla(h) ] [ カマーラ ] という語形で掲載しているアラブ人名辞典は極めて稀で、ウルドゥー語女性名の影響を受けて"كَمَال [ kamāl ] [ カマール ](完璧、完全)の女性形"という語義を掲載しているおそれがある。
کمالہ [ kamāla(h) ] [ カマーラ ] 自体はアラビア文字を借用したウルドゥー語が話されイスラーム教徒が大半を占めるパキスタンなどにおける女性名。語形はアラビア語風だが実際の由来はサンスクリット語で「蓮(の花)」を意味する女性名が移入されたものだという。アラビア語辞典では同じ響きである كَمَالَة [ kamāla(h) ] [ カマーラ ] という語を載せているものもあるが掲載辞書数は少ない上、その語義は俗語用法として記載がついている「補足、追加、補完分、補欠分」のようなものであり「完璧」の女性形であるという認識は存在しない。現代になってから「外国風の響きだから」「かわいいから」といった理由で命名する人がアラブ人の中からも表れて命名されるという事例が表れたとしても、伝統的かつメジャーなアラブ人女性名ではないため「カマーラ(カマラ)はアラビア語で完璧を意味する女性名」というのは誤った説明だと言えるかと。
■発音と表記■
方言で長母音āがēになるマグリブ(北アフリカ)方言などのカメール寄り発音に対応した英字表記Kameel、Kamelなども見られる。Kameelという英字表記は別の男性名 كَمِيل [ kamīl ] [ カミール ]((申し分が無いぐらいにとても)完璧な、完全な)の英字表記バリエーションの一つとかぶるが、元のアラビア語表記を見ないと区別できないので別途音声や動画での確認が必要になることも。
本項目の男性名に関してはアラビア語での発音に近いのはカマールだが、日本語のカタカナ表記では英字表記Kamalにそのまま当て字をした、もしくは記事の字数削減の目的で長母音「ā(アー)」を省略したカマルが多い。
カタカナで全く同じ「カマル」になってしまうため間違われやすいが、アラブ人名としては日本語カタカナ慣用表記で「カマル」となっている男性名は本項目の كَمَال [ kamāl ] [ カマール ](完璧、完全)の方で、アラビア語発音でも「カマル」なのが「月」や「輝く肌色の色白美人、べっぴんさん、かわいこちゃん」といった意味を持つ قَمَر [ qamar ] [ カマル ] という女性名なので混同しないよう要注意。
ただし2語1組で「信仰の月、宗教の月」を意味する قَمَر الدِّينِ [ qamaru-d-dīn ] [ カマル・ッ=ディーン ](カマルッディーン、カマル・アッ=ディーン)は قَمَر [ qamar ] [ カマル ](月)単体が女性名として使われるのに対し、もっぱら男性名となっている。
Qamar al-Diin、Qamar al-Din、Qamar al-Deen、Qamar ad-Diin、Qamar ad-Din、Qamar ad-Deen、Qamaruddiin、Qamaruddin、Qamaruddeenなど
信仰の月、宗教の月
【 2語からなる複合語で、中世に宗教関係で功績を挙げた人物に与えられた称号(ラカブ)がファーストネームに転じたもの。光を放つ月、輝ける月の光のイメージと定冠詞+名詞「宗教」(=イスラームのこと)との組み合わせとなっている。宗教イスラームの信仰を立派に実践している人物、敬虔な人物といったニュアンスを持つ。
アラブ諸国では قَمَر [ qamar ] [ カマル ](月)単体だと女性名として扱われるのが普通だが、カマルッディーン(カマル・アッ=ディーン)の方は男性名としてのみ用いられる。
قَمَر الدِّينِ [ qamaru-d-dīn ] [ カマル・ッ=ディーン ] はあんず(杏)の砂糖入り果実・果肉ペーストの名称としても使われており、ق [ q ] 音が声門閉鎖音/声門破裂音 ء [ ’ ] 化する地域では قَمَر الدِّينِ [ ’amaru-d-dīn ] [ アマル・ッ=ディーン ] という発音になる。通常日本ののし梅のような見た目のシート状で売られ、ラマダーン月の定番食材として水で溶いた断食終了後用ドリンク、菓子などを作るのに使われる。菓子としてのカマルッディーン(/アマルッディーン)産地はシリアが特に有名で発祥の地とされている。ネーミングについては発案者の名前(通称)、月とからめての命名など複数の説があるという。】
【 日本語のカタカナ表記では複合語の発音を区切ってカマル・アッ=ディーンなどと書かれていることもあるが、実際には息継ぎせず一気読みされるため文語的な発音はカマルッディーンとなる。
後半の2語目は定冠詞 اَلْـ [ ’al- ] [ アル= ](al-)+名詞 دِين [ dīn ] [ ディーン ] の組み合わせとなっており、定冠詞の「l」は直後に調音位置が近い子音が来ると同化してしまうため「d」に同化。اَلْدِين [ ’al-dīn ] [ アル=ディーン ] ではなく اَلدِّين [ ’ad-dīn ] [ アッ=ディーン ] という促音化した発音に変わる。さらに定冠詞語頭の [ ’a ] [ ア ] 部分は前に他の語が来て息継ぎ無しで一気読みすると発音が脱落。
分かち書きをすればカマル・アッ=ディーンとなるものの、複合語全体では قَمَرُ الدِّينِ [ qamaru-d-dīn ] [ カマル・ッ=ディーン ] という発音になる。qamaruの「u」はこのような属格(≒所有格)支配で構成されている複合名の格変化部分で、文中で主格になる時や人名として単独で挙げる時は主格の「u」がついて قَمَرُ الدِّينِ [ qamaru-d-dīn ] [ カマル・ッ=ディーン ]、属格(≒所有格)の時は「i」がついて قَمَرِ الدِّينِ [ qamari-d-dīn ] [ カマリ・ッ=ディーン ]、対格(≒目的格)の時は قَمَرَ الدِّينِ [ qamara-d-dīn ] [ カマラ・ッ=ディーン ] と変化する。
日本における学術的表記も含めこの定冠詞の発音変化を反映させない英字表記が多く使われており、Qamar al-Diin、Qamar al-Din、Qamar al-Deenといった英字表記が見られる。日本語で発音同化を反映させ実際の読み方と一緒にしたアッ=ディーンではなくアル=ディーンというカタカナ表記が少なくないのは、英字表記において定冠詞 اَلْـ [ ’al- ] [ アル= ] (al-)部分が直後の子音と発音同化がある/無いにかかわらず「al-」で統一され言語における発音と一致しないケースが多いこととも関係しているものと思われる。
口語(方言)では定冠詞 اَلْـ [ ’al- ] [ アル= ](al-)が「el-(エル=)」や「il-(イル=)」という発音になったり複合名の1語目+定冠詞つき2語目との音のつながり方が文語と違ったりするといった事情、そして非アラビア語圏での表記慣例なども加わって、イスラーム名としてはカマラッディーンに対応したQamaraddiin、Qamaraddin、Qamaraddeen、カマリッディーンに対応したQamariddin、Qamariddeen、カマレッディーンに対応したQamareddiin、Qamareddin、Qamareddeenといった多用なつづりが見られる。
さらに1語目と2語目を息継ぎ無しで発音した時の聞こえ方通りにつづったつなげ書きでは-dd-と子音 د [ d ] の発音が2つ連なっている部分を1個に減らしたバージョンがあり、アラビア語通りの発音において含まれる促音「ッ」の存在がわかりづらい英字表記が混在。インターネット上にはアラビア語名・アラビア語由来イスラーム名としてのこの名前に対してQamarudiin、Qamarudin、Qamarudeen、Qamaradiin、Qamaradin、Qamaradeen、Qamaridiin、Qamaridin、Qamarideen、Qamaredin、Qamaredeenのような英字表記が用いられるなどしている。
アラブ以外のイスラーム圏では قَمَرُ الدِّينِ [ qamaru-d-dīn ] [ カマル・ッ=ディーン ] の発音が英字表記の定冠詞部分に反映されたQamar ud-Diin、Qamar ud-Din、Qamar ud-Deenのように定冠詞部分をal-からud-に置き換わった英字表記を使うことも少なくない。(パキスタン、インド方面など。)
この他にも、定冠詞後に「-」を入れないスペースありのQamar Al Din、スペース無しのQamar Aldin(以下略。上記の各派生パターンから「-」を抜くことで生成。)といった実に多用なつづりバージョンが存在するが、全て同じ人名を指している。
日本語のカタカナ表記でアラブ人のファーストネームに「カマル」が含まれる場合、女性名であれば قَمَر [ qamar ] [ カマル ](月)に。男性名の場合カマルの直後に الدِّين [ ’ad-dīn ] [ アッ=ディーン ] が来ていれば複合名 قَمَر الدِّينِ [ qamaru-d-dīn ] [ カマル・ッ=ディーン ] となるが、単体でカマルとなっている場合は別の男性名でアラビア語におけるつづりが異なる كَمَال [ kamāl ] [ カマール ](完璧、完全)の方になると考えて差し支え無い。】
Kamiil、Kamil、Kameel
(申し分が無いぐらいにとても、非常に、大いに)完璧な、完全な、(各部分・パーツを/良き特質・褒められるべき点を)全て備えた
【 動詞完了形 كَمَلَ [ kamala ] [ カマラ ]((部分・各性質が)完全となる、完璧となる、全て揃う、全部備わる)、كَمُلَ [ kamula ] [ カムラ ](継続的な性質を示して:完全である、完璧である、全て揃っている、全部備わっている)、كَمِلَ [ kamila ] [ カミラ ](あまり良くないマイナー発音である的な説明をしている辞書あり:(部分・各性質が)完全となる、完璧となる、全て揃う、全部備わる)より。
通常よりもその度合いが強いことを示す فَعِيلٌ [ fa’īl(un) ] [ ファイール(ン) ] 語形。「とても」「非常に」「大いに」といったニュアンスが加わる。シャーム地域(レヴァント/レバント。レバノン、シリア、ヨルダン、パレスチナ。)のクリスチャン男性に多い名前だとのこと。】
【 長母音ī(イー)を示すeeが1文字に減らされたKamelも使われているが、カメルではなくカミールという発音を意図しているつづりなので要注意。
英字表記Kamilは同じ語根を共有する別の男性名 كَامِل [ kāmil ] [ カーミル ](全部の、完全な、(各部分・パーツを/良き特質・褒められるべき点を)全て備えた(もの/者))と、Kamelは كَامِل [ kāmil ] [ カーミル ] の口語発音カーメルや كَمَال [ kamāl ] [ カマール ](完璧、完全、(物事や性質・特質・人格などが)欠けることなく全て備わっていること)の口語発音カメールに対応した英字表記とかぶるので、実際に発音を聞いたりアラビア語表記を見たりしないと区別がつかない。
日本語におけるカタカナ表記としてはカミール、カミルが挙げられる。】
Karam
気前の良さ、物惜しみしないこと;寛大、心の広さ;高貴;高潔
【 動詞 كَرُمَ [ karuma ] [ カルマ ](気前が良い、物惜しみしない;寛大である、心が広い;高貴である;高潔である)の動名詞。レバノンなどではファーストネームではなくファミリーネーム(ラストネーム)とフルネームに含まれていることも多い。
ちなみに別の男性名 كَارِم [ kārim ] [ カーリム ](気前の良い;寛大な;高貴な;人格的に優れた、高潔な)は基本的な能動分詞男性形で継続的性質を表すことから形容詞に近い意味を持っているもの。كَرِيم [ karīm ] [ カリーム ](気前が良い、物惜しみしない;寛大な、心が広い;高貴な;高潔な)は語根を同じくする関連語で形容詞的意味・意味の強調を持つなどする فَعِيلٌ [ fa‘īl(un) ] [ ファイール(ン) ] 語形にあてはめたもの。】
Ghariib、Gharib、Ghareeb
祖国・故郷から遠く離れた(者)、よそ者(の);外来の;奇妙な
【 動詞 غَرُبَ [ gharuba ] [ ガルバ ](祖国・故郷から遠く離れる、よそ者となる;奇妙である)の状態・性質を継続して有することを示す形容詞的な性質を帯びた فَعِيلٌ [ fa’īl(un) ] [ ファイール(ン) ] 語形。】
【 ghの代わりに発音が似ているg(*文語アラビア語フスハーに無い子音)に置き換えたGariib、Garib、Gareebという英字表記も使われている。長母音ī(イー)を示すeeが1文字に減らされたGhareb、Garebも使われているがガレブではなくガリーブという発音を意図しているつづりなので要注意。】
Kaliim、Kalim、Kaleem
話し手、話者、対話者、対話相手(こちら側から話しかけられた人/こちら側に話しかける人);負傷した、(心または身体が)傷ついた、傷つけられた(人)、負傷者
■語形と意味■
アラブ圏では使用例が少ないマイナー男性名。アラブ人名辞典にも掲載されているがパキスタン近辺での使用頻度に比べるとかなり少ない。
Kariim、Karim、Kareemなどと英字表記される كَرِيم [ karīm ] [ カリーム ](気前の良い;寛大な;高貴な;人格的に優れた、高潔な;貴重な、高価な)とはカタカナ表記にすると全く同じカリーム(もしくはカリム)となるため混同しやすいが、子音1つが置き換わるだけで全く別の意味になってしまうアラビア語では「Karīm」と「Kalīm」の違いは非常に大きい。
いずれも「継続的な性質・状態を示す」「能動分詞/受動分詞と同様に働く」「程度・度合いを強め強調のニュアンスを添える」といった機能を持った فَعِيلٌ [ fa‘īl(un) ] [ ファイール(ン) ] 語形に語根を当てはめたものなので聞いて区別するのが難しい。كَلِيم [ kalīm ] [ カリーム ] はこの型に語根 ك - ل - م(k - l - m)を流し込んだ語だが、この語根セットは言葉・会話に関連した語の中で頻出。تَكَلَّمَ [ takallama ] [ タカッラマ ](話す)、كَلَام [ kalām ] [ カラーム ](言葉)、كَلِمَة [ kalima(h) ] [ カリマ(フ/ハ) ](語、単語)などがその代表例。
傷・けがに関連した意味合いを持たせる語根としての用法では كَلَمَ [ kalama ] [ カラマ ](~を傷つける、負傷させる)、كَلَّمَ [ kallama ] [ カッラマ ](傷つける、けがをさせる)。كَلِيم [ kalīm ] [ カリーム ] が「負傷した、(心または身体が)傷ついた、傷つけられた(人)」という意味になるのは فَعِيلٌ [ fa‘īl(un) ] [ ファイール(ン) ] 語形が持つ受動態的・受動分詞相当の意味から。
■つづり、英字表記、カタカナ表記■
長母音ī(イー)を示すeeが1文字に減らされたKalemという英字表記も見られる。
■関連語~アッラーとの対話者、預言者ムーサー■
カリームッラー(カリーム・アッラー) كَلِيم اللهِ [ kalīmu-llāh ] [ カリーム・ッラー(フ/ハ) ]
Kaliim Allāh、Kalim Allah、Kaleem Allah、Kaliimullah、Kalimullah、Kaleemullahなど
كَلِيم [ kalīm ] [ カリーム ](対話者、対話相手(こちら側から話しかけられた人/こちら側に話しかける人))をイスラームの唯一神の名称 الله [ ’allāh ] [ アッラー(フ/ハ) ](アッラー)が後ろから属格(≒所有)格)支配した複合語。分かち書きをするとカリーム・アッラーとなるがアラビア語だと実際には息継ぎせず一気読みするのでカリームッラーとなる。
語末につく格を表す母音も含め全くの省略をせず読む場合は كَلِيمُ اللهِ [ kalīmu-llāhi ] [ カリーム・ッラーヒ ] となるが人名として日常的に使う際はこのような発音はせず複合語最後の「i」は省略し كَلِيم اللهِ [ kalīmu-llāh ] [ カリーム・ッラー(フ/ハ) ] に。最後の「h」は母音を伴わず子音のみとなるので軽くほんのり「フ」と「ハ」の中間のように聞こえる。また日常会話や口語では「h」も落ちてしまい [ kalīmu-llā ] [ カリーム・ッラー ](カリームッラー)などと発音され、日本語における標準的カタカナ表記もこれに準拠した形となっている。
複数のアラビア語大辞典を確認したところ、カリーム部分を能動分詞的に解釈した「神に話しかけた者」と受動分詞的に解釈した「神から話しかけられた者」とに分かれたが、いずれも会話を交わした2者ということで「神との対話者」と和訳が可能かと。英訳は「the one who talked with God」など。
この複合語はアッラーから言葉を受けた者、アッラーに語りかけられた者、アッラーが語りかけをされたその相手、神との対話者である預言者ムーサー(*モーセ、モーゼに相当)のことを指すものであり、كَلِيم اللهِ [ kalīmu-llāh ] [ カリーム・ッラー(フ/ハ) ](カリームッラー(カリーム・アッラー))が単に「預言者」という意味になる訳ではないので混同に要注意。
「神の代弁者」と訳している記事もあるが、同表現が単に神から一方的な信託を授かって伝言・代弁しているのに対し、カリームッラー(カリーム・アッラー)は預言者ムーサーとアッラーが言葉をやり取りした点に焦点を当てたものであり意味合いが異なっている。
なお كَلِيم [ kalīm ] [ カリーム ] 1語のみでは「神との対話者」という意味にはならないので注意。あくまで「誰か他の人と話している人」という意味の対話者。普通の人間が話し相手の時を含むので相手が唯一神アッラーだという含みは特に無い。
アラブ諸国と違い預言者ムーサーの別称であるはずのこの複合名が男性名として使われる地域も見られる。イスラーム教徒が大半を占めるパキスタンなどでカリームッラー(カリーム・アッラー)という名前の利用が多い模様。英字表記はKaliim Allah、Kalim Allah、Kaleem Allah、Kaliimullah、Kalimullah、Kaleemullahなど。つなげ読みした時の発音のバリエーション「カリーマッラー」からKaliimallah、Kalimallah、Kaleemallahなども派生。
■ツイステッドワンダーランド(ツイステ)の名前考察のために検索された皆様へ■
カリム(Kalim)君、ジャミル(Jamil)君他のネーミングに関して人名辞典だけでは考察が大変なようなので、当方で考察向けの資料を作成しました。興味のある方はご覧ください。
ゲーム作品アラブ風キャラ名考察『ツイステッドワンダーランド』編
Kariim、Karim、Kareem
気前の良い;寛大な;高貴な;人格的に優れた、高潔な;貴重な、高価な
【 動詞 كَرُمَ [ karuma ] [ カルマ ](気前が良い、物惜しみしない;寛大である、心が広い;高貴である;高潔である)が継続するという状態を示す形容詞的性質を持った فَعِيلٌ [ fa‘īl(un) ] [ ファイール(ン) ] 語形。基本的な能動分詞語形である فَاعِلٌ [ fā‘il(un) ] [ ファーイル(ン) ] 語形の كَارِم [ kārim ] [ カーリム ](気前の良い;寛大な;高貴な;人格的に優れた、高潔な)と似た意味となる。
アラブ人名のカタカナ表記ででカリーム(カリム)と書いてある場合は十中八九こちらの方。気前が良く客人を十二分に歓待するのはアラブ社会(特に部族社会)で重視される美徳の一つ。数代前に人々への惜しみない援助で名を馳せた族長などがいると子孫の代までその記憶は人々の間に残り、偉大な遺産として語り継がれることも多い。そのような文脈では「アンタ・カリーム」は「あなたは寛大で気前の良い御仁だ。」という意味に。
なお كَرِيم [ karīm ] [ カリーム ] には色々な意味があり物を気前よく渡すのとは違う度量の大きさ・心の広さという「寛大な」として使われる。他の語と組み合わせた اِسْمُكَ الْكَرِيمُ [ ’ismuka-l-karīm ] [ イスムカ・ル=カリーム ](相手の名前に対する尊敬を込めて「あなたのお名前」「ご芳名」)、اَلْحَجَرُ الْكَرِيمُ [ ’al-ḥajaru-l-karīm ] [ ハジャル・ル=カリーム ](貴重な石、高価な石つまりは「貴石」)なども日常的に用いられている。
カリームは預言者ムハンマドの別名としても知られる。一方、定冠詞 اَلْـ [ ’al- ] [ アル= ](al-)がついた اَلْكَرِيم [ ’al-karīm ] [ アル=カリーム ] は唯一神アッラーの属性名(美名)の一つで意味は「至高なる者」「最も高き者」。人間も備えている性質である寛大さを類を見ない度合いで有していることを示唆。
定冠詞抜きの كَرِيم [ karīm ] [ カリーム ] 定冠詞 اَلْـ [ ’al- ] [ アル= ](al-)がついた اَلْكَرِيم [ ’al-karīm ] [ アル=カリーム ] と人に命名することはイスラーム法学的観点より許されていないので、創作キャラクターに命名する場合は「アル=カリーム」ではなく単に「カリーム」とすることを強く推奨。また家名としてラストネーム部分を「アル=カリーム」とすることも回避するのが無難。
なお、普通の人間の名前であるカリーム(カリム)の意味を「慈悲深き者」と紹介しているネット記事も多いが、おそらくWikipedia類の記載が転載された結果であると思われる。「慈悲深き者」は通常唯一神アッラーの別名を日本語訳したもので、アッラー99の美名と呼ばれる数々の属性名のうち اَلْكَرِيم [ ’al-karīm ] [ アル=カリーム ] ではなく別の別名 ٱلرَّحْمَـٰنِ [ ’ar-raḥmān ] [ アッ=ラフマーンとアッ=ラハマーンの中間のような発音 ](*長母音āを示す ا(アリフ)が表記上現れない特殊例)などに割り当てられる訳語となっている。】
【 長母音ī(イー)を示すeeが1文字に減らされたKarem使われているがカレムではなくカリームという発音を意図しているつづりなので要注意。なお英字表記Karim、Karemは別の男性名 كَارِم [ kārim ] [ カーリム ](気前の良い;寛大な;高貴な;人格的に優れた、高潔な)の英字表記バリエーションとかぶるので実際の発音を聞いたり元のアラビア語表記を見たりしないと区別がつかない。】
Ghannaam、Ghannam
羊飼い、羊の放牧係;羊の所有者;戦利品を数多く得た者、戦争で略奪品を多数手に入れた者;獲得物が多い者、多くを獲得した者
【 ジャーヒリーヤ時代から使われている古い男性名。動詞 غَنِمَ [ ghanima ] [ ガニマ ](戦利品(غَنِيمَة [ ghanīma(h) ] [ ガニーマ ]など)を得る)の動作主・行為者であることを示す基本的な能動分詞 غَانِم [ ghānim ] [ ガーニム ]((戦争での)勝者、(戦利品の)獲得者、略奪者)よりも度合い・回数・数量を強調する意味がある強調語形。通常よりも戦利品を多く手に入れた者であることを意味し、敵対勢力との戦闘で良い結果を得たことを示唆。
また職業名を表す語形としても使われており、「羊飼い」の意味はそちらが由来。غَنَمٌ [ ghanam ] [ ガナム ](オスもメスも含めての集合名詞として:羊)の関連語として。先祖の職業名由来としてファミリーネーム(日本における名字・家名に相当)として使われフルネーム中のラストネーム部分に来ることも少なくない。】
【 「-nn-」と同じ子音が2個連続している部分は促音化しないのでガッナームではなくガンナームと発音。日本語のカタカナ表記もガンナームとするのが標準的。実際の記事ではガンナームの他にもガンナムなどが混在。
「Gh」を発音が似ている「G」(文語アラビア語フスハーには無いが口語アラビア語では複数方言に存在する発音)に置き換えた英字表記はGannaam、Gannam。方言で長母音āがēになるマグリブ(北アフリカ)方言などのガンネーム寄り発音に対応した英字表記もあGhanneem、Ghannem、Ganneem、Gannemなどが使われ得る。
-nn-と2個連なっている重子音部分を1個のnに減らしたGhanaam、Ghanam、Ganaam、Ganamも。さらに上の要素を複数含んだGhaneem、Ghanem、Ganeem、Ganemなどが派生。
英字表記だけだとガナーム、ガナム、ガネーム、ガネムと読め別の男性名 غَانِم [ ghānim / (口語)ghānem等 ] [ ガーニム / (口語)ガーネム ]((戦争での)勝者、(戦利品の)獲得者、略奪者)の英字表記バリエーションなどと区別がつかず、元のアラビア語表記を見ないとわからないので要注意。】
Ghiyaath、Ghiyath
(神によりもたらされる)助け、救援;(助けとなるような)救助行為、食べ物、降雨など;民に助けを与える神(アッラー)
■意味■
動詞 غَاثَ [ ghātha ] [ ガーサ ]((神が)雨を降らせる、慈雨を恵む;(神が人々の祈りを聞き届けて)助ける、援助する、救援する)の動名詞のひとつ。
英語で書かれたアラブ・イスラームネーム辞典ではsun(太陽)と記載されていることが多いが誤りだと言える。ギヤースは太陽ではなく雨を指す名詞で、「(助けとなる、救いとなる)雨」のこと。ギヤースに関しては「(太陽に照らされる厳しい日照りの後に)人々を救うべく神が降らせてくれた恵みの雨、神が授けて下さった久々の雨で家畜に食べさせられる草も生え羊飼いやラクダ飼いたちも大いに救われた」というシチュエーションを示す語であることがアラビア語大辞典の記述から理解可能。「太陽」はむしろギヤースとは対極にある意味となるためアラブ人名辞典やアラビア語辞典にも載っていない。
また人々の祈念を受け入れ苦難・苦悩から救い出したり降雨といった助けをもたらしたりする援助者・救助者としての唯一神アッラーの属性名的な別称「救援(者)、救助(者)」としても使われる。この場合は定冠詞 اَلْ [ 'al- ] [ アル= ] をつけ اَلْغِيَاث [ 'al-giyāth ] [ アル=ギヤース ] とする。
ちなみにドバイ警察のスマートパトロールカーは英字表記が Ghiath のためアラビア語表記を見ないとこの男性名 غِيَاث [ ghiyāth ] [ ギヤース ] のつづりバリエーションのひとつとかぶってしまい区別がつきにくくなっているが、アラビア語では同じつづりで発音が違う غَيَّاث [ ghayyāth / ghaiyāth ] [ ガイヤース ]((多大なる助力を与える、数多くの助けを提供する)救援者、救助者)をパトカーに命名したもの。
■発音と表記■
「Gh」を発音が似ている「G」(文語アラビア語フスハーには無いが口語アラビア語では複数方言に存在する発音)に置き換えた英字表記はGiyaath、Giyath。アラビア語口語(方言)における ث [ th ] の س [ s ] 音への置き換わりや非アラビア語諸語地域における子音の置き換わりなどを反映して語末の「-th」を「-s」に置き換えたGhiyaas、Ghiyas、Giyaas、Giyasも見られる。
またGhiya-の「y」を抜いて「Ghia-」とする系統のGhiath、Giath、Ghias、Giasもあり英字表記から直接日本語のカタカナ表記に直すとギアース、ギアスとなるが元のアラビア語で غِيَاث [ ghiyāth ] [ ギヤース ] と発音するものを便宜上そのように英字表記しているケースに該当。】
Qusayy、Qusaiy
遠い、(故郷・家族から)遠くに離れて(暮らして)いる(者);目的・目標に到達した者
【 形容詞的用法などで使われる分詞に類似した فَعِيلٌ [ fa‘īl(un) ] [ ファイールン ] 語形である قَصِيّ [ qaṣī(y) ] [ カスィー(ュ/ィ) ](遠い)の縮小形。動詞 قَصِيَ [ qaṣiya ] [ カスィヤ ](遠い、遠く離れている)より。
預言者ムハンマドの五世の祖父(祖父の曽祖父) قُصَيّ بْنُ كِلَابٍ [ quṣayyu/quṣaiyu bnu kilāb ] [ クサイユ・ブヌ・キラーブ ](クサイ(イ)・イブン・キラーブ)の名前としても知られる。彼の本名は زَيْد [ zayd / zaid ] [ ザイド ] だったが、実父の死後母が再婚し前夫との間になしたクサイイを連れて遠方のシャーム地方へ転居したため「家族から遠く離れた場所で暮らしている(者)、出身部族であるクライシュ族の本拠地であるマッカ(メッカ)から遠く離れた(者)」というニュアンスを含んだクサイイと呼ばれたのが由来だという。クサイイは母の再婚相手の息子同然に育てられたが後にクライシュ族の元に戻りマッカ(メッカ)で権力を握るに至ったとのこと。】
【 -ay-部分はアラビア語では二重母音-ai-を表すため英字表記も-ay-つづりと-ai-つづりの両方が見られる。また最後に ي [ y ] が2つ重なっているのでアクセントは前半の「ク」ではなく真ん中の二重母音「アイ」の部分に来る。
文語的な発音だと語末の母音や元となった非限定名詞の時からそのままついているタンウィーン(格母音の後に付加するn音)も含めて全部読んだ時の主格語形は قُصَيٌّ [ quṣayyun / quṣaiyin ] [ クサイユン ] となる。語末の格母音とタンウィーンを省いた休止形(ワクフ)の読み方だと [ クサイイ ] というよりは最後の [ y ] の字を母音抜きでやや軽めに発音する [ クサイィ ] 寄りに。
しかし実際の日常会話・口語では(ほぼ)ウダイと聞こえる発音が多く、語末に2個連なっている ي [ y ] を反映させないQusay、Qusaiという英字表記も広く使われている。日本語のカタカナ表記でもクサイが一般的。
口語的にuがoに転じてコサイイ(/コサイィ)、コサイ寄りになった発音に対応した英字表記はQosayy、Qosaiy、Qosay、Qosai。
アラビア語文語の二重母音「ay(=ai)」部分は日常会話・口語ではei(エイ)もしくはē(エー)音になることが多く、クセイイに対応したQuseyy、Quseiy、クセイに対応したQusey、Qusei、クセーに対応したQusee、Quseといった英字表記が見られる。これに上記のu→o化が合わさったコセイイに対応したQoseyy、Qoseiy、コセイに対応したQosey、Qosei、コセーに対応したQosee、Qoseなども使われ得る。
qを調音部位の近いkに置き換えた英字表記もあり、Kusayy、Kusaiy、Kusay、Kusai、Kosayy、Kosaiy、Kosay、Kosai、Kuseyy、Kuseiy、Kusey、Kusei、Kusee、Kuse、Koseyy、Koseiy、Kosey、Kosei、Kosee、Koseなどが派生し得る。】
Qutaybah、Qutayba、Qutaibah、Qutaiba
(小さな)鞍嚢、荷鞍、水汲みに使役するラクダに取り付ける用具;出発の準備としてを鞍に鞍嚢を取り付ける者;腸;腸詰め、ソーセージ;了見が狭い、心が狭い、忍耐が無い、すぐに怒る
【 名詞 قَتَب [ qatab ] [ カタブ ] もしくは قِتْب [ qitb ] [ キト(ゥ)ブ ](ラクダなどの背・こぶ付近に取り付ける鞍、鞍嚢、水汲みに使役するラクダに取り付ける用具;腸)の縮小形。「小さな~」という意味合いを添える語形。了見が狭い、すぐに怒るといった意味合いは قَتِب [ qatib ] [ カティブ ](心が狭い、すぐに怒る)との関連から。
ウマイヤ朝時代の軍人でホラーサーン総督になった قُتَيْبَةُ بْنُ مُسْلِمٍ [ qutayba(tu)/qutaiba(tu) bnu muslim ] [ クタイバ(トゥ)。ブヌ・ムスリム ](クタイバ・イブン・ムスリム)のファーストネームとしても知られる。現イラクの港湾都市バスラの生まれで、イスラーム共同体の版図を大きく拡大することに貢献。】
【 口語的にuがoに転じた発音コタイバに対応した英字表記はQotaybah、Qotayba、Qotaibah、Qotaiba。
-ay-部分はアラビア語では二重母音-ai-を表すため英字表記も-ay-つづりと-ai-つづりの両方が見られる。アラビア語文語の二重母音「ay(=ai)」部分は日常会話・口語ではei(エイ)もしくはē(エー)音になることが多く、クテイバに対応したQuteybah、Quteyba、Quteibah、Quteiba、クテーバに対応したQuteebah、Qutebah、Quteeba、Qutebaなどがある。
さらにu→o化が合わさって変化した発音であるコテイバに対応したQoteybah、Qoteyba、Qoteibah、Qoteiba、コテーバに対応したQoteebah、Qoteeba、Qotebah、Qotebaなどが英字表記として見られる。
qを調音部位の近いkに置き換えた英字表記もあり、Kutaybah、Kutayba、Kutaibah、Kutaiba、Kotaybah、Kotayba、Kotaibah、Kotaiba、Kuteybah、Kuteyba、Kuteibah、Kuteiba、Kuteebah、Kutebah、Kuteeba、Kuteba、Koteybah、Koteyba、Koteibah、Koteiba、Koteebah、Koteeba、Kotebah、Kotebaなどが派生し得る。】
Qutb
(回転の)軸、(天体などで中心となる)極;(回転する上半分を支える)石臼の土台中心的人物、指導者、権威者
【 回転の軸や天体などの極という意味に加え、人民・民衆の中でそのような存在として指導を行うようなリーダーシップを持った人物を指すなどする。
歴史上の人物としてはエジプト出身で同国のムスリム同胞団活動の理論面を支えた知識人・作家・宗教活動家 سَيِّد قُطْب [ sayyid/saiyid quṭb ] [ サイイド・クト(ゥ)ブ ] の名前を思い浮かべる方も多いかと。彼のファーストネームは سَيِّد [ sayyid/saiyid ] [ サイイド ] の部分で、قُطْب [ quṭb ] [ クト(ゥ)ブ ] は父親の名前由来のラストネーム。】
【 2文字目の第2語根部分が無母音(子音のみ、スクーン記号つき)で母音挿入が起こりやすく、tとbの間に母音「u」が足されたQutub(クトゥブ)、「i」が足されたQutib(クティブ)、口語的なi→e化が反映されたQuteb(クテブ)といった英字表記が混在。
口語的にuがoに転じたコトブ、コトゥブに対応したQotb、母音u挿入ありのコトゥブに対応したQotub、その挿入母音uが口語的にoに転じたコトブに対応したQotob、母音i挿入ありのコティブに対応したQotib、その挿入母音iがeに転じたコテブに対応したQotebなども見られる。
アラブ人名の [ u ] [ ウ ]、[ ū ] [ ウー ] 音は「ou」で表記することもあり、上の各発音・変化のそれぞれに対応したQoutb、Qoutub、Qoutib、Qoutebも。これらはクトブ、クトゥブ、クティブ、クテブといった発音を意図したものなのでコウトブ、コウトゥブ、コウティブ、コウテブとカタカナ表記しないのが無難。
なお岩波 イスラーム辞典冒頭の転写法説明欄に قُطْب [ quṭb ] に関しては例外的にクトブではなくクトゥブとカタカナ表記するとの記載あり。】
Kulthuum、Kulthum、Kulthoum、Kulthoom、Kulthom(*2個連なっているKulthoomの-oo-を1個に減らしたもの)
顔や頬の肉がぷっくらしている人、むちむちでふくよかなほっぺの人、もちほっぺの人、もちもちすべすべした頬の人、顔が丸々とした人;旗の上に取り付けられた絹布;象(فِيل)、巨象( زَنْدَبِيل ، زَنْدَفِيل :アラビア語辞典に出てくるザンダビール、ザンダフィールはペルシア語単語を組み合わせた古い複合語で「巨象」の意味)
■名前の意味と男性名・女性名としての用例■
イスラーム以前のジャーヒリーヤ時代から使われていた古い名前。四語根動詞 كَلْثَمَ [ kalthama ] [ カルサマ ] は頬の肉がふっくら集まって満ちておりしわの寄った渋面をしていないことを意味する。اِمْرَأَةٌ كُلْثُومٌ [ ’imra’a(tun) kulthūm ] [ イムラア(トゥン)・クルスーム ] のように男性形から女性形を作る女性化の ة(ター・マルブータ)をつけなくとも女性名詞に男性形と同じ語形のまま修飾をする。
●元来は كُلْثُوم [ kulthūm ] [ クルスーム ] 単体は男性名、母・持ち主という意味のウンムを合わせた複合名 أُمّ كُلْثُوم [ ’umm kulthūm ] [ ウンム・クルスーム ] は女性名という使い分けがされていたという系統の「クルスームは男性名、ウンム・クルスームは女性名」という記述の中世刊行アラビア語大辞典や現代刊行の人名辞典が複数ある
●クルスーム単体を男性名としてだけでなく女性名としても使っていたという系統の「男性にも女性にも命名される名前」と記しているアラビア語大辞典(لِسَان الْعَرَبِ [ lisānu-l-‘arab ] [ リサーヌ・ル=アラブ ](リサーン・アル=アラブ。中世に刊行され今でも広く利用されている大辞典で「アラブ人の言語」の意。)など)・人名辞典が複数ある
●現代のアラビア語大辞典や人名辞典ではクルスーム単体を女性名とのみ記載しているものが複数ある
といった具合に男性名、女性名のどちらなのかについては説明がまちまち。
كُلْثُوم [ kulthūm ] [ クルスーム ] は主に「顔や頬の肉がぷっくらしている人、むちむちでふくよかなほっぺの人、もちもちすべすべした頬の人、顔が丸々とした人」という意味で、生まれた時にむちむちでぱつんぱつんの重量級ほっぺをした愛らしく福福しい赤ちゃんだったことなどから命名に使われていたという。子供や青年・成人男女の頬の肉がぷくぷくというのはアラブの伝統的な価値観においては悪い意味ではなく、むちむちふっくらして好ましい様子として受け止められてきた。
クルスームという男性名は現代において多くはなく、預言者ムハンマドとハディージャとの間に生まれた娘であるウンム・クルスームにあやかった複合女児名「ウンム・クルスーム」の一部としての用法がメインとなっている。
■クルスームの名を持つ歴史上の人物■
クルスームのファーストネームを持つ歴史上の人物としてはジャーヒリーヤ時代のムアッラカート詩人 عَمْرُو بْنُ كُلْثُوم [ ‘amr(u) bnu kulthūm ] [ アムル・ブヌ・クルスーム ] (アムル・イブン・クルスーム。いわゆるナサブ形式の人名表記で「クルスームの息子アムル」の意。)の子孫でシャーム地方(現シリアのアレッポ近辺)生まれの詩人 كُلْثُوم الْعَتَّابِيّ [ kulthūmu-l-‘attabī(y) ] [ クルスーム・ル=アッタービー(ュ/ィ) ] がいる。彼はバグダードへ赴き当時アッバース朝のカリフであったハールーン・アッ=ラシードならびに大粛清前のバルマク家を称賛する詩を残している。
■発音と英字表記・カタカナ表記■
英字表記や日本語カタカナ表記ではカルスームとなっていることもあるが文語での元々の発音はクルスーム。カルスームは口語的・方言的な発音だとのこと。800年ほど前に刊行されたアラビア語辞典には口語において ك [ k ] に母音uをつけずaにした كَلْثُوم [ kalthūm ] [ カルスーム ] という発音がされている件が記されており、カルスームという読み方が中世から存在していたことがうかがえる。
日本語におけるカタカナ表記はサ行を当ててクルスームとするのが標準的だが、タ行を当ててクルトゥーム、クルトゥムとしている記事も見られる。アラビア語の口語で كُلْثُوم [ kulthūm ] [ クルスーム ] の ث [ th ] 部分が ت [ t ] 音に置き換わって كُلْتُوم [ kultūm ] [ クルトゥーム ] と発音する人が少なくなく英字表記でもKultuum、Kultum、Kultoom、Kultoumになっているケースがある件も関係しているものと思われる。
口語における発音の置き換わりで كُلْسُوم [ kulsūm ] [ クルスーム ] と発音する人がいること、また非アラビア語圏における子音の置き換わりなどを反映したであろうKulsuum、Kulsum、Kulsoum、Kulsoom、2個連なっている-oo-を1個に減らしたKulsomといった英字表記もある。
アラブ人名の英字表記においてouは短母音の [ u ] [ ウ ] もしくは長母音の [ ū ] [ ウー ] を表すのに使われており、人名クルスームの英字表記バリエーションに含む「-ou-」もオウではなくウーとカタカナ化することとなる。そのためKulthoumや口語発音ベースのKultoum、Kulsoumはクルソウム、クルトウム、クルソウムではなくクルスーム、クルトゥーム、クルスームという発音を意図したつづりとなっている。
語頭「Ku」のuが口語的にoに転じたコルスーム寄りの発音に対応した英字表記はKolthuum、Kolthum、Kolthoum、Kolthoom、Kolthom。さらに口語発音的なコルトゥームに対応したKoltum、Koltoum、Koltoom、Koltom、コルスームに対応したKolsuum、Kolsum、Kolsoum、Kolsoomなども。
また後半の長母音 [ ū ] [ ウー ] が口語風の [ ō ] [ オー ] になったクルソーム、コルソームあたりが由来だと推察されるKulthoam、Kolthoam、Kulsoam、Kolsoamなどもイスラーム名他の表記として使われているのを観測。
Zaayid、Zayid
増やす者;増える者、増す者、生長する者
■名前の意味と関連人物■
アラビア半島の特にアラビア湾岸(ペルシア湾岸)地域に多い伝統的な男性名。動詞 زَادَ [ zāda ] [ ザーダ ](増やす;増える)の能動分詞男性形が由来で、それら動詞の行為者・動作主であることを表す。他動詞としての意味から「増やす者」、自動詞としての意味から「増える者、生長する者」という意味に。
この語の語根は ز - ي - د(z - y - d)と 第2語根が弱文字 ي [ y ] のため、動詞完了形は زَادَ [ zāda ] [ ザーダ ] と ي [ y ] が ا(長母音āのアリフ)に転じるくぼみ動詞/第2語根弱動詞に。また能動分詞では弱文字 ي [ y ] が声門閉鎖音/声門破裂音の ء(ハムザ)となり زَائِد [ zā’id ] [ ザーイド ] となる。しかし人名として日常的に繰り返し使われているうちに口語でよく起こる変化 تَخْفِيف [ takhfīf ] [ タフフィーフ ](ハムザの弱文字化)が起こり、زَايِد [ zāyid ] [ ザーイド ] に転じたとされている。
この名前を持つ人物としては元アブダビ首長でアラブ首長国連邦の初代大統領でもあった故 زَايِد بِنْ سُلْطَان آل نُهَيَّان [ zāyid bin sulṭān ’āl nuhayyān/nuhaiyān ] [ ザーイド・ビン・スルターン・アール・ヌハイヤーン ](*家名部分の別の読み方は نَهْيَان [ nahyān ] [ ナフヤーン / ナハヤーン ]。なお بِنْ [ bin ] [ ビン ] はナサブ表示パーツ بْن [ bnu ] [ ブヌ ] のアラビア半島などにおける口語発音。)が日本でも有名。
■発音と英字表記、カタカナ表記■
口語的にiがeに転じてザーイェド寄りとなった発音に対応した英字表記はZaayed、Zayed。さらにはザーエドに近く聞こえる、もしくはアラブ人名の英字表記によくある子音y部分の省略のためといった理由からZaaed、Zaed、後半のeを増やしたZaeedも使われており、英字表記を見ただけではアラビア語における発音を推測するのが困難なつづりバリエーションも少なくない。
口語では語末の د [ d ] 部分を無母音(スクーン記号つき)で発音することから-idが-idd、-edが-eddに近く聞こえる読み方がしばしばされ(文語にも存在する休止形(ワクフ)時語末の重子音化現象)、[ zāyidd ] [ ザーイッド ] に対応したZaayidd、Zayidd、[ zāyedd ] [ ザーイェッド ] に対応したZaayedd、Zayedd、さらにはyを抜いたZaaidd、Zaidd、Zaaedd、Zaeddなどが派生。
日本語のカタカナ表記ではザーイド、ザイド、ザイードが混在。特にザイードが多く見られる。زَيْد [ zayd/zaid ] [ ザイド ](Zayd、Zaid)はこの男性名 زَايِد [ zāyid ] [ ザーイド ] と同じく動詞 زَادَ [ zāda ] [ ザーダ ](増やす;増える)の関連語だが、ザーイドが能動分詞で行為者・動作主を表すのに対し、ザイドは「(物や財産が)増えること、増加、増大、生長」という動名詞が由来の別の男性名となっているためザーイドとの混同は非推奨。
なお本来前半部分に来る長母音「ー」の位置が後半に移動しザイードとなるのは英語圏などでの発音に即していると思われるパターン。アラブ系移民の名前として現地での発音に忠実なカタカナ表記をするということであればザイードの方が適切な場合もあるが、アラビア語に即したアラブ世界での発音を考慮する場合はザーイドが推奨。
なお動詞 زَادَ [ zāda ] [ ザーダ ](増やす;増える)と同じ語根 ز - ي - د(z - y - d)からなる人名でザイードと発音するものは無い。
■日本で実際に混同されてきた別の人名について■
日本語サイトではアラブ風人名ザイードはサイードの表記揺れで「幸福な者、幸せな、嬉しい、喜んでいる」という意味を持つと解説した記事やSNS投稿がしばしばなされてきたがこれは誤解で、「ザイード」と検索した際にGoogle検索が「サイード」を代わりに提示する現象もそうした誤りに基づいたものなので要注意。
語形が全く同じでカタカナ表記にするとよく似ているザイードとサイードは全く別の名前。そもそもザイードはキャラネーミングに多用されているものの実はアラビア語には存在しない人名で、アラブ首長国連邦大統領を務めたアブダビ首長のファーストネームなどとして知られる男性名ザーイドの英語風発音ザイードが本来のザーイド(ないしは姉妹語でもある別の男性名ザイド)のアラビア語発音に置き換わったもの。増加や成長に関連した語義を持つ一方で幸福・喜びとは無関係なので、「ザイードは増える者・増やす者という意味と幸せな者という意味を持ち合わせている」といった説明も誤りとなるので要注意。日本語にすると本項目のザーイドや姉妹語である男性名ザイドが「増男(ますお)」さんに相当するのに対し、しばしば混同されるサイードは「幸男(ゆきお)」に対応している形となっている。
創作で多用されるキャラ名のザイードについては、本来は実在するアラブ名ザーイドが持つ「増える;増やす;生長する(者)」やザイドが持つ「増加;生長」として解釈するような名前だが、誤った記事に依拠してサイードという別男性名の意味である「幸福な者、幸せな、嬉しい、喜んでいる」を意図して命名された可能性が存在する。そのためネーミング考察では命名時の誤解という点も考慮に入れる必要があるものと思われる。
Saaib、Saib
的を命中させる(人)、的を外さず適切に射る(人);正しい、言動において間違いを犯さず正しい、適切なことを行う、正しい意見を言う(人)
【 動詞 صَابَ [ ṣāba ] [ サーバ ](矢が的に命中する;(言動・意見が)正しい、適切である)の能動分詞男性形が由来で、それら動詞の行為者・動作主であることを表す。この語の語根は ص - و - ب(ṣ - w - b)と 第2語根が弱文字 و [ w ] のため、動詞完了形は صَابَ [ ṣāba ] [ サーバ ] と و [ w ] が ا(長母音āのアリフ)に転じるくぼみ動詞/第2語根弱動詞に。また能動分詞では弱文字 و [ w ] が声門閉鎖音/声門破裂音の ء(ハムザ)となり صَائِب [ ṣā’ib ] [ サーイブ ] となる。
2020年に新型コロナウイルス感染症で死去した(元)パレスチナPLO幹部 صَائِب عريقات [ サーイブ・エリーカート/イリーカート/アリーカート/ウライカート/ウレイカート等 ](部族名由来のファミリーネーム部分は発音の揺れが現地メディアでの読み方も大きく複数パターンあり。英字表記はSaeb Erakatなど。)氏のファーストネームはこの名前。】
【 英字表記では真ん中に入る声門閉鎖音/声門破裂音の ء(ハムザ)を表す「'」などは使わないのが普通で、単に母音を並べた感じのSaaib、Saibのような書き方が広く行われている。口語的にiがeに転じてサーエブ寄りとなった発音に対応した英字表記はSaaeb、Saeb。
口語でよく起こる変化 تَخْفِيف [ takhfīf ] [ タフフィーフ ](ハムザの弱文字化)が適用され صَايِب [ ṣāyib ] [ サーイブ ] に転じた発音を思わせるSaayib、Sayib、そしてiのe化も加わりサーイェブ寄りになった感じのSaayeb、Sayebといった英字表記も見られる。
日本語におけるカタカナ表記としてはサーイブ、サイブ、サーエブ、サエブなど。】
Saajid、Sajid
(アッラーに対する)祈りの平伏をしている(者)、(アッラーに対して)礼拝している(者)、(アッラーに向かって)跪拝している(者)
【 動詞 سَجَدَ [ sajada ] [ サジャダ ](礼拝の平伏をする、ひざまずいて祈る、礼拝する)の能動分詞男性形。سُجُود [ sujūd ] [ スジュード ](礼拝、跪拝、平伏)の動作主・行為者であることを示す。ちなみに跪拝・平伏動作の1回分を表す名詞は سَجْدَة [ sajda(h) ] [ サジ(ュ)ダ(フ/ハ) ]。
イスラームの礼拝時に唯一神アッラーへの祈りとして繰り返し行う動作のひとつで地に平伏し額をつける。通常聖地マッカ(メッカ)の方角に向かって跪拝。義務である1日5回の礼拝に加え、夜間に行う任意の追加礼拝や感謝を捧げたい時の臨時の祈りなどでもこの平伏動作をするため、「跪拝をする者」という意味のこの名前は「(我が子が)信心深く熱心に礼拝を実践するイスラーム教徒(になりますように)」といった親の願いと結びついている。】
【 口語的にiがeに転じたサージェドという発音に対応した英字表記はSaajed、Sajed。
口語では語末の د [ d ] 部分を無母音(スクーン記号つき)で発音することから-idが-idd、-edが-eddに近く聞こえる読み方がしばしばされ(文語にも存在する休止形(ワクフ)時語末の重子音化現象)、[ sājidd ] [ サージッド ] に対応したSajidd、[ sājedd ] [ サージェッド ] に対応したSajeddなどの使用も見られる。
エジプト首都カイロならびに周辺地域方言、イエメン、オマーン、サウジアラビアなどの一部方言のように ج [ j ] が [ g ] に置き換わって [ sāgid ] [ サーギド ] になるケース、もしくは英語のgentleのようにgでつづって [ j ](文語アラビア語の/ʤ/、レヴァント方言の/ʒ/)と読ませることを意図したケースに対応したSaagid、Sagid(サージドもしくはサーゲド)そして口語的なiのe化を反映したSaaged、Saged(サージェドもしくはサーゲド)といったつづりも。
北アフリカのマグリブ諸国やマグリブ系移民が多いフランスのように「j」を「dj」で表記することが行われている地域ではサージドに対応した表記としてSaadjid、Sadjid、サージェドに対応した表記としてSaadjed、Sadjeがあるが、サードジド、サードジッド、サドジド、サドジッド、サードジェド、サードジェッド、サドジェド、サドジェッドとカタカナ化しないよう要注意。
日本語のカタカナ表記としてはサージド、サジド、サージェド、サジェド、サーギド、サギド、サーゲド、サゲドなどの混在が考え得る。】
Saadiq、Sadiq
正直な、嘘をつかない;実直な、誠実な、約束を違えない
■意味や語形■
能動分詞男性形。動詞 صَدَقَ [ ṣadaqa ] [ サダカ ](本当のことを言う、真実を言う、実直である)の動作主・行為者であることを示すが、ここではたった1回きりではない数回続けたり一定期間維持されたりする「正直である」「実直である」という継続的な性質を備えていることを示す形容詞的な意味を持つ。
صَادِق [ ṣādiq ] [ サーディク ] の強調語形は صَدُوق [ ṣadūq ] [ サドゥーク ] で、「常に正直・実直である」「決して嘘をついたりしない」という強いニュアンスを含む。
初代正統カリフのアブー・バクル敬称にちなんだ男性名 صِدِّيق [ ṣiddīq ] [ スィッディーク ]((とても、大いに、常に、いつも必ず)誠実な、実直な、正直な、約束を果たす、有言実行の(者);預言者に下された啓示を嘘つき呼ばわりすることなく正しいとみなしアッラーの教えをしっかり信じている(者))も صَادِق [ ṣādiq ] [ サーディク ] の意味をより強調した男性名でいわゆる姉妹語にあたる。
■この名前を持つ有名人■
サーディクはシーア派第6代イマームである جَعْفَربْن مُحَمَّدٍ [ ja‘dfar(u) bnu muḥammad ] [ ジャアファル・ブヌ・ムハンマド ](ジャアファル・イブン・ムハンマド)の通称でもある。ファーストネームの固有名詞ジャアファルを形容詞修飾するため限定の定冠詞 اَلْـ [ ’al- ] [ アル= ](al-)を伴った الصَّادِقُ [ ’aṣ-ṣādiq ] [ アッ=サーディク ]をつけて جَعْفَرٌ الصَّادِقُ [ ja‘faru(ni-)ṣ-ṣādiq ] [ ジャアファル(ニ)・ッ=サーディク ](*男性名ジャアファルは厳密には三段変化だとのことだが二段変化で読む人が多い。また会話や口語ではタンウィーンはスキップした発音が一般的。)と呼ばれている。
■発音と表記■
口語的にiがeに転じたサーデクに対応した英字表記はSaadeq、Sadeq。ق [ q ] を調音部位が近い他の子音 ك [ k ] に置き換えたつづりもありSaadik、Sadik、Saadek、Sadekなどに。
非アラブ圏のイスラミックネームとしてなど、dを2個連ね-dd-にしたSaddiqといった英字表記も見られるがサッディクではなくサーディク、サディクといったカタカナ表記にすべき案件と思われる。同じ語根からなる別の男性名 صِدِّيق [ siddīq ] [ スィッディーク ](意味は「(とても、常に)誠実な、実直な、正直な、アッラーの教えをしっかり信じている」。日本ではシッディークとのカタカナ表記多し。)のカタカナ表記バリエーションSiddiiq、Siddiqに近いためまぎらわしいが、併記されたアラビア語表記から صَادِق [ ṣādiq ] [ サーディク ] にSaddiqが対応していることが確認できるケースも少なくない。また非アラブ地域ではこの人名にShadiq、-dd-にしたShaddiqという英字表記が使われている例も見られる。
またペルシア語等ではアラビア語の ق [ q ] が غ [ gh ] と同音となり置き換わるため非アラビア語イスラーム名の英字表記としてサーディグに対応したSaadigh、Sadigh、サーデグに対応したSaadegh、Sadeghも存在。また「gh」を発音の似た「g」に置き換えたSaadig、Sadig、Saadeg、Sadegも派生。元々qだった語末部分のgへの置き換わりについては、アラビア語口語で ق [ q ] が文語(フスハー)に無い [ g ] 音に置き換わる方言がある件もある程度関係しているものと思われる。
Zaahii、Zahi、Zaahy、Zahy、Zaahee、Zahee、Zaheなど
尊大な、横柄な、高慢な、自尊心が強い;(灯火などが)輝く、輝いている、明るい;(色・顔などが)輝いている、明るい、澄んでみずみずしい;(ナツメヤシの実が)色づいて熟し始めている;(植物が)生長している、(人が)成長している;最上のラクダ、極上のラクダ;熟し始めたナツメヤシの実;生長が早いナツメヤシの木
【 能動分詞の男性形。動詞完了形 زَهَا [ zahā ] [ ザハー ](尊大である、横柄である、高慢である、自尊心が強い;(灯火・色などが)輝いている、明るい;ナツメヤシの実が色づいて熟し始める;(植物が)生長する、(人が)成長する、(少年が)青年期を迎える;)より。
なお、意味「最上のラクダ、極上のラクダ;熟し始めたナツメヤシの実;生長が早いナツメヤシの木」については通常のアラビア語辞典・大辞典では見かけず、人名辞典での掲載を確認。
普通の名詞として使う場合非限定形では語末の弱文字が語末格母音u+タンウィーン「-un」を保持できず弱文字部分が消えて第2語根部分が「-in」となってしまうため主格・属格が زَاهٍ [ zāhin ] [ ザーヒン ] となるが、人名として用いる場合は単独でも زَاهِي [ zāhī ] [ ザーヒー ] と展開した形となる。】
【 口語アラビア語では語末の長母音īが短母音iになることが多いためザーヒと聞こえることも。長母音ī(イー)を表す英字表記としては-ii、-i以外にも-y、-eeなどがあるが-eeについては-e1文字に減らしたつづりZaahe、Zaheも存在。「イー」もしくは口語風に短母音化した「イ」を意図しているものと思われ、必ずしもザーヘと読ませることを示唆したものではないと言える。
日本語のカタカナ表記としてはザーヒー、ザヒ以外にもザーヒ、ザヒーなどが使われている。英字表記でZahi、カタカナ表記でザヒとつづられているアラブ人名、イスラーム人名はこの男性名だと考えて差し支えない。
ちなみにエジプト考古学の権威 زَاهِي حَوَّاس [ zāhī ḥawwās/ḥauwās ] [ ザーヒー・ハウワース ] 氏のファーストネームが本項目の男性名で、英字表記のZahi Hawassは2個連なっているwを1個にし、語末にあるsをssと2個連ねたもの。ザヒ・ハワッスと読めるが元のアラビア語ではザーヒー・ハウワース、ザーヒーの語末長母音が短母音化したやや口語的な発音はザーヒ・ハウワースとなっている。日本語ではザヒ・ハワスなどとカタカナ表記されていることが多い。】
Saabiq、Sabiq
(競走などで/物事において時間的に)先行する者、先行者;先んじる者;(他の者たちに対して)優勢な者、まさっている者、優れている者
【 動詞完了形 سَبَقَ [ sabaqa ] [ サバカ ](先行する、先んじる;まさる、他の者たちよりも優れる)の能動分詞男性形。集団の中で何らかの形で優れていることを示唆。
ちなみに日本製ミニ四駆アニメ『爆走兄弟レッツ&ゴー!!』アラビア語版では兄弟である烈と豪がそれぞれこの سَابق [ sābiq ] [ サービク ](先行する者)と対義語の لَاحِق [ lāḥiq ] [ ラーヒク ](追走する者)となっている。】
【 qを発音が近いkに置き換えたSaabik、Sabikという英字表記も使われている。また口語風にiがe寄りになったサーベクに対応したSaabeq、Sabeq、さらにqのk置き換えも加わったSaabek、Sabekといった表記が混在している。】
Thaabit、Thabit
確固としている、固定されている、安定している、不動である(者);変化しない、意見を変えない、固持する(者);(勇敢にも)後退しない(者)、勇敢な、勇猛な
【 能動分詞男性形。動詞 ثَبَتَ [ thabata ] [ サバタ ](確固としている、固定されている、安定している、不動である;変化しない、意見を変えない、固持する;(勇敢にも)後退しない)の動作主・行為者であることを示す。ジャーヒリーヤ時代から使われてきた伝統的な古いアラブ人名。】
【 口語的にiがeに転じたサーベトという発音に対応した英字表記はThaabet、Thabet。アラビア語の口語やペルシア語圏などにおける ث [ th ] から س [ s ] への発音置き換わりを反映するなどしたサービトに対応したSaabit、Sabit、サーベトに対応したSaabet、Sabetも見られる。
この他、モロッコなどアラビア語方言で ث [ th ] が ت [ t ] に置き換わったタービト、ターベト系統の発音に準拠していると思われるTaabit、Tabit、Taabet、Tabetも混在。なお、日本語の記事では英字表記の語頭が「T」ではなく「Th」になっておりサービト系の発音をする地域の人物名であってもタービト、タビト、ターベト、タベトというカタカナ表記を当てているケースがあるが、現地における方言でそのようになっており口語発音準拠の英字表記やカタカナ表記を本人が敢えて選んでいるといったケースを除いてはサービト、サーベト系とする方が適切だと思われる。
なお、英語のthank(サンク)と同じで舌を歯ではさむものの濁点化はしないのでザービト、ザーベトとカタカナ化しないよう要注意。】
Saahib、Sahib
仲間、友人;同伴者、そばを離れることのない友;所有者、持ち主;行為の主体者、事業主
【 能動分詞男性形。動詞 صَحِبَ [ ṣaḥiba ] [ サヒバ ](同伴する;仲良くする、仲間である、友人である)の動作主・行為者であることを示す。】
【 口語的にiがeに転じたサーヘブという発音に対応した英字表記はSaaheb、Saheb。
語頭の صَا [ ṣā ] 部分は普通の سَا [ sā ] と違い重くこもったような発音をするためスォーやソーに近く聞こえることが多く、スォーヒブもしくはソーヒブという読みを意図したであろうSoohib、Sohib、スォーヘブもしくはソーヘブに対応していると思われるSooheb、Sohebのような英字表記も見られる。】
Saabir、Sabir
耐える(者)、忍耐ある(者);我慢する(者)、~をさし控える(者)
【 能動分詞男性形。動詞 صَبَرَ [ ṣabara ] [ サバラ ] / صَبِرَ [ ṣabira ] [ サビラ ](耐える、耐え忍ぶ;我慢する、~をしないで耐える、~をさし控える)の動作主・行為者であることを示す。困難などを耐え忍ぶ我慢強い人、といったイメージ。】
【 口語的にiがeに転じた発音サーベルに対応した英字表記はSaaber、Saber。
語頭の صَا [ ṣā ] 部分は普通の سَا [ sā ] と違い重くこもったような発音をするためスォーやソーに近く聞こえることが多く、スォービルもしくはソービルという読みを意図したであろうSoobir、Sobir、スォーベルもしくはソーベルに対応していると思われるSoober、Soberのような英字表記も派生。】
Zaahir、Zahir
輝いている、明るい;(色が)明るい、(人などの)顔が色白の;(植物・動物・物が白かったり輝いていたりで)色がきれいな、美しい、輝かしい色合いの
【 能動分詞男性形。動詞 زَهَرَ [ zahara ] [ ザハラ ](輝く)、زَهِرَ [ zahira ] [ ザヒラ ]((人の顔色などが)美しい、色白で肌色が輝かしく澄んでいる)の動作主・行為者であることを示す。】
【 口語的にiがeに転じたザーヘルという発音に対応した英字表記はZaaher、Zaher。なおアラビア語では-irや-erは英語のように読まないため原語に忠実な発音ではザーヒーア、ザーハーなどとしない。ただし移民などで英語圏に定着した人物のアラビア語由来ネームを現地発音している場合はそちらに合わせる必要が出てくる。
なおZaahir、Zahir、Zaaher、Zaherは発音がよく似た語頭1文字違いの ظَاهِر [ ẓāhir(文語ではzではなく舌を歯ではさむdhをこもらせた発音だが便宜上業界ではzに下点をつけた発音表記が一般的) ] [ ザーヒル ] (明らかである、(隠れず)表れている;目立った、傑出している(者);強い(者)、強者)の英字表記がかぶってしまうので元のアラビア語のつづりを見ないと区別が困難。】
Zaahir、Zahir、Dhaahir、Dhahir
明らかである、(隠れず)表れている;目立った、傑出している(者);強い(者)、者
【 能動分詞男性形。動詞 ظَهَرَ [ ẓahara ] [ ザハラ ](明らかである、明らかとなる、(隠れず)表れる;目立つ、傑出する;(عَلَىの後に対象となる語を置いて)(敵など)~に対して優勢となる、~をうち負かす)の動作主・行為者であることを示す。
定冠詞 اَلْ [ ’al ] [ アル ](al-)が語頭についている اَلظَّاهِر [ ’aẓ-ẓāhir ] [ アッ=ザーヒル ] は唯一神アッラーの属性名(美名)の一つで意味は「顕現者」「顕現する者」「外に現れる者」「明らかなる者」「他のいかなる存在・被創造物よりも上にある者」となるため、子供に命名する際は神の属性名(美名)とかぶらないよう定冠詞抜きで名付けをすることが求められる。
アラブ人やイスラーム教徒の名前 ظَاهِر [ ẓāhir ] [ ザーヒル ] が含まれるのは複合名である عَبْد الظَّاهِرِ [ ‘abdu-ẓ-ẓāhir ] [ アブドゥ・ッ=ザーヒル ](アブドゥッザーヒル、アブド・アッ=ザーヒル。意味は「顕現者アッラーのしもべ」「顕現する者アッラーのしもべ」「外に現れる者アッラーのしもべ」「明らかなる者アッラーのしもべ」「他のいかなる存在・被創造物よりも上にある者アッラーのしもべ」など。)のことが多い。その場合はアブド、アブドゥル、アッ=ザーヒル、アル=ザーヒル、ザーヒルのように一部だけを切り取ってファーストネームとして扱わないよう要注意。】
【 語頭の子音 ظ [ ẓā’ ] [ ザー ] は学術的な英字表記では dh ではなく便宜上 z の下に下点をつけたものが使われるなどする重くこもった音。文語アラビア語(フスハー)では舌を歯にはさむ ذ [ dh ] を重くした音だが、シリア・レバノンといった一部地域の口語では重たくこもった ز [ z ] の音(舌は歯ではさまない)に置き換わるため文語会話でも舌をはさまない発音をしている人が混在。そのためZaahir・Zahir系統とDhaahir・Dhahir系統の2通りのつづりが併存している。
口語的にiがeに転じたザーヘルという発音に対応した英字表記はZaaher、Zaher、Dhaaher、Dhaher。これに関してはネイティブのアラブ人が自分の名前のカタカナ表記をザ行ではなくダ行を当ててダーヒル、ダーヘルとしていることがある。
さらに子音 ظ [ ẓā’ ] [ ザー ] はアラビア語の口語において ض [ ḍād ] [ ダード ] との入れ替わりが起きやすく正確に区別できない人も少なくないため、ضَاهِرِ [ ḍāhir ] [ ダーヒル ] とつづられていることもある。その場合の口語発音はダーヒル、ダーヘルなどに。英字表記Daahir、Dahir、Daaher、Daherが派生するが、別の男性名 ضَاهِرِ [ ḍāhir ] [ ダーヒル ](山の頂、山頂;カメ(亀);ワーディー、涸れ谷;山の中で他の部分と色合いが違っている部分)とアラビア語表記、発音、英字表記が丸かぶりしてしまうため非常にまぎらわしい。
語頭の ظَا [ ẓā ] 部分は普通の ذَا [ dhā ] [ ザー ] や زَا [ zā ] [ ザー ] と違い重くこもったような発音をするためズォーやゾーに近く聞こえることが多く、ズォーヒルもしくはゾーヒルという読みを意図したであろうZoohir、Zohir、Dhoohir、Dhohir、ズォーヘルもしくはゾーヘルに対応していると思われるZooher、Zoher、Dhooher、Dhoherのような英字表記も見られる。
なおアラビア語では-irや-erは英語のように読まないため原語に忠実な発音ではザーヒーア、ザーハーなどとしない。ただし移民などで英語圏に定着した人物のアラビア語由来ネームを現地発音している場合はそちらに合わせる必要が出てくる。】
Zaafir、Zafir、Dhaafir、Dhafir
勝利した(人)、勝利者、勝者 ;獲得者、望みを達成した(者)、欲しい物を手に入れた(者)
【 能動分詞男性形。動詞 ظَفِرَ [ ẓafira ] [ ザフィラ ](勝利する、勝つ、相手を打ち負かす;手に入れる、獲得する、掌握する)の動作主・行為者であることを示す。
古くから指揮官や統治者の称号としても用いられるなどしてきた名詞でもある。シーア派イスマーイール派であったファーティマ朝の第12代カリフの称号 اَلظَّافِر بِأَمْرِ اللهِ [ ’aẓ-ẓāfir(u) bi-’amri-llāh(i) / (語末の母音まで全部読む場合)’aẓ-ẓāfiru bi-’amri-llāhi ] [ アッ=ザーフィル・ビ-アムリ・ッラー(フ/ハ) / (語末の母音まで全部読む場合)アッ=ザーフィル・ビ-アムリ・ッラーヒ ](アッラーの命令により勝利した者、神の命に従い勝利者となった者)はこの名詞から。
【 語頭の子音 ظ [ ẓā’ ] [ ザー ] は学術的な英字表記では dh ではなく便宜上 z の下に下点をつけたものが使われるなどする重くこもった音。文語アラビア語(フスハー)では舌を歯にはさむ ذ [ dh ] を重くした音だが、シリア・レバノンといった一部地域の口語では重たくこもった ز [ z ] の音(舌は歯ではさまない)に置き換わるため文語会話でも舌をはさまない発音をしている人が混在。そのためZaafir・Zafir系統とDhaafir・Dhafir系統の2通りのつづりが併存している。
口語的にiがeに転じザーフェルと読まれた場合の英字表記はZaafer、Zafer、Dhaafer、Dhafer。これに関してはネイティブのアラブ人が自分の名前のカタカナ表記をザ行ではなくダ行を当ててダーフィル、ダーフェルとしていることがある。
さらに子音 ظ [ ẓā’ ] [ ザー ] はアラビア語の口語において ض [ ḍād ] [ ダード ] との入れ替わりが起きやすく正確に区別できない人も少なくないため、ضَافِرِ [ ḍāfir ] [ ダーフィル ] とつづられていることもある。その場合の口語発音はダーフィル、ダーフェルなどに。英字表記Daafir、Dafir、Daafer、Daferが派生するが、別の能動分詞 ضَافِرِ [ ḍāfir ] [ ダーフィル ]((髪の)三つ編みを作っている(人);縄を撚っている(人))とアラビア語表記、発音、英字表記が丸かぶりしてしまうため非常にまぎらわしい。
語頭の ظَا [ ẓā ] 部分は普通の ذَا [ dhā ] [ ザー ] や زَا [ zā ] [ ザー ] と違い重くこもったような発音をするためズォーやゾーに近く聞こえることが多く、ズォーフィルもしくはゾーフィルという読みを意図したであろうZofir、Dhofir、ズォーフェルもしくはゾーフェルに対応していると思われるZofer、Dhoferのような英字表記も見られる。
なおアラビア語では-irや-erは英語のように読まないため原語に忠実な発音ではザーフィーア、ザーファーなどとしない。ただし移民などで英語圏に定着した人物のアラビア語由来ネームを現地発音している場合はそちらに合わせる必要が出てくる。】
Saamii、Samii、Sami、Saamy、Samy、Saamee、Sameeなど
高い;高等な、高位の、高貴な;高潔な、荘厳な
【 能動分詞男性形。動詞 سَمَا [ samā ] [ サマー ](高くなる、高まる;高位にある、高貴である;(إِلَىを伴って)~を望む、~を狙う;(لِを伴って)~との戦闘に赴く、(砂漠や荒野での)狩りに出かける)の動作主・行為者であることを示す。動詞の意味としては「高くなる」の系統と「~に向かう」的なニュアンスの系統の2通りに分かれるが、人名辞典に載っているのは高さに関係している方。
語形に関しては普通の名詞として使う場合非限定形では語末の弱文字が語末格母音u+タンウィーン「-un」を保持できず弱文字部分が消えて第2語根部分が「-in」となってしまうため主格・属格が سَامٍ [ sāmin ] [ サーミン ] となるが、人名として用いる場合は単独でも سَامِي [ sāmī ] [ サーミー ] と展開した形となる。
ちなみにアラブ世界で一世を風靡した往年の人気アニメであるグレンダイザーや宝島のアラビア語版主題歌を歌っていたレバノン人歌手の故 سَامِي كلارك(サーミー・クラーク、公式アカウント英字表記:Sammy Clark)氏の本名ならびに芸名のファーストネームがこの名前だった。彼の名前に関しては日本語の記事でサーミ、サミ、サミーと書かれていることも少なくない。】
【 口語アラビア語では語末の長母音īが短母音iになることが多いたサーミと聞こえることも。長母音ī(イー)を表す英字表記としては-ii、-i以外にも-y、-eeなどがあるが-eeについては-e1文字に減らしたつづりSaame、Sameも存在。「イー」もしくは口語風に短母音化した「イ」を意図しているものと思われ、必ずしもサーメと読ませることを示唆したものではないと言える。Sameについてはアラブ人名では英語のsame(セイム)のような発音をするつづりではないのでセイムとしないよう要注意。
この他には長母音āがēになるマグリブ(北アフリカ)方言などのセーミー、セーミ等寄り発音に対応した英字表記Seemii、Seemi、Semy、Semee、そして「エー」のつづりバリエーションとして派生したであろうSeamyなども見られる。
日本語のカタカナ表記では長母音無しのサミ、前半もしくは後半のみ長母音を戻したサミー、サーミなど。】
Saamih、Samih
ゆるす(者)、寛大な(者)、心が広い(者)
【 能動分詞男性形。動詞 سَمَحَ [ samaḥa ] [ サマハ ](赦す;許す、可能にする;(寛大にも)与える) もしくは سَمُحَ [ samuḥa ] [ サムハ ](寛大である、心が広い)の動作主・行為者であることを示す。】
【 最後の子音 ح [ ḥ ] は日本語の「ハ」と同じ声門から出す ه [ h ] と違いもう少し上の咽頭を狭めて発音。通常の読み方では語末につく格母音を省略し 子音 ح [ ḥ ] で止めるが ف [ f ] ではないためサーミフではなくサーミハに近く聞こえることもある。
口語的な発音でiがeに転じてサーメフのように聞こえる発音に対応した英字表記はSaameh、Sameh。なおSamehのehは英語のようにエーと伸ばすわけではないため、原語のアラビア語に忠実なカタカナ表記ではサーメー、サーメ、サメーとはしない。移民などで英語圏に定着した人物のアラビア語由来ネームを現地発音している場合はそちらに合わせる必要が出てくる。
携帯電話にアラビア語キーボードが無かった時代に普及したチャットアラビア語の影響から、SNSのユーザーネーム等では語末の ح [ ḥā’ ] [ ハー(ゥ/ッ) ] を7に置き換えたSaami7、Sami7、Saame7、Same7などが見られる。いずれもサーミフもしくはサーメフという発音を意図したもの。
日本語記事におけるカタカナ表記で考え得るバリエーションはサーミフ、サミフ、サーミハ、サミハ、サーメフ、サメフ、サーメハ、サメハ。】
Saamir、Samir
(晩・夜になされる会話・会談・談話で)話をしている(人)、話者、話し手;(話・歌・音楽などで無聊を慰め)楽しませる人、エンターテイナー
【 動詞完了形 سَمَرَ [ samara ] [ サマラ ](夜に会話をする)の能動分詞。名詞 سَمَر [ samar ] [ サマル ](夜の語らい、夜に行う談話)の動作主・行為者であることを示す。サマルの元来の意味は「夜の会話」で砂漠などの屋外で月明かりを浴びながら語らうことなどを指した。同席者は友達同士とは限らず、家族・知人・地域住民・座談会参加者・親友など色々な関係性で結ばれた者同士が参加者・同席者となり得る。
知人と歌・ごちそう・踊りを楽しんでワイワイするエンターテインメント、楽しい夜更かし、夜遊びという意味合いは後代になってから加わった用法だという。預言者ムハンマドの時代には現代よりも سَهَر [ sahar ] [ サハル ](夜遅くまで起きていること、夜更かしすること)と سَمَر [ samar ] [ サマル ](夜の語らい、夜に行う談話)との区別がもう少しはっきりしており、「翌朝明け方の礼拝を寝過ごしてしまわないよう、サマル(夜の会話)は早めに終わらせ就寝すべきである」といった教えも残っているなどする。】
【 口語的的にiがeに転じたサーメル寄り発音に対応した英字表記はSaamer、Samer。なお-ir、-erは英語のような巻き舌発音はしないのでアラビア語に忠実なカタカナ表記とする場合はサーマー、サマー、サーメー、サメーとはしないが、実際には本人によって公式のカタカナ表記的に使われていることもある。
カタカナ表記だとアラビア語ではつづり・発音が異なる ثَامِر [ thāmir ] [ サーミル ] と同じになってしまい、しかも英語圏ではサーミルのような名前の長母音が後半にずれてサミールと読まれる可能性があり英語風発音が参考にならないこともあるため、元のアラビア語表記で確認しないと区別が難しい。
英字表記Samir、Samerは同じ語根「س - م - ر」(s - m - r)からなる別の男性名 سَمِير [ samīr ] [ サミール ]((晩・夜になされる会話・会談・談話で)話をしている(人)、話者、話し手;(晩・夜になされる会話・会談・談話における)話し相手、同席者;(話・歌・音楽などで無聊を慰め)楽しませる人、エンターテイナー)のつづりバリエーションとかぶるため、混同に要注意。】
Thaamir、Thamir
(植物・木が)実をつけている、実りが豊かな;その人の財産が増えた、富裕である
【 動詞完了形 ثَمَرَ [ thamara ] [ サマラ ]((植物・木が)実をつける;物事が熟す・完全な状態になる;その人の財産が増える、富裕になる)の能動分詞。財産が増え豊かになること、裕福な暮らしを送る人生、子供たちの誕生を連想させる名前。】
【 口語的にiがeに転じたサーメル発音に対応した英字表記はThaamer、Thamer。アラビア語では方言によっては ث [ th ] が س [ s ] 音に置き換わる発音があること、「th」を英語のthe(ザ)のように濁点つきにならないよう発音がthreeなどのtheに似たsで置き換えたと思われる英字表記のつづりがあるため、語頭の子音を舌を歯ではさんで発音するはずの ثَامِر [ thāmir ] [ サーミル ] がSaamir、Samir、Saamer、Samerとなっているケースも見られる。
日本語におけるカタカナ表記としてはサーミル、サミル、サーメル、サメルなどが混在。-ir、-erは英語のような巻き舌発音はしないのでアラビア語に忠実なカタカナ表記とする場合はサーマー、サマー、サーメー、サメーとはしないが、実際には使われている例も少なくない。
カタカナ表記だとアラビア語ではつづり・発音が異なる別の男性名 سَامِر [ sāmir ] [ サーミル ]((晩・夜になされる会話・会談・談話で)話をしている(人)、話者、話し手;(話・歌・音楽などで無聊を慰め)楽しませる人、エンターテイナー)や سَمِير [ samīr ] [ サミール ]((晩・夜になされる会話・会談・談話で)話をしている(人)、話者、話し手;(晩・夜になされる会話・会談・談話における)話し相手、同席者;(話・歌・音楽などで無聊を慰め)楽しませる人、エンターテイナー)の表記バリエーションのうちのいくつかと同じになってしまうので、元のアラビア語表記で確認しないと区別が難しい。しかも英語圏ではサーミルのような名前の長母音が後半にずれてサミールと読まれる可能性があり英語風発音が参考にならないことも考慮に入れる必要がある。】
Saarii、Sari、Saary、Sary、Saaree、Saree
夜に旅をする(者)、夜に道を進む(者)、夜道を行く(者);夜にできる雲、夜にやってくる雲、夜に降る雨;雨雲、雨を降らせる雲;(別名的に)ライオン、獅子;帆船のマスト
【 能動分詞男性形。動詞 سَرَى [ sarā ] [ サラー ]((夜間に)発つ、旅立つ、去る;(夜間に)旅をする、道を進む、夜道を行く)の動作主・行為者であることを示す。ライオンの別名として使われているのは夜行性で夜に活動することからついたもので、ライオン・獅子を意味する一般的な名詞 أَسَد [ ’asad ] [ アサド ] の属性名・別名のひとつとして使われている。
動詞 سَرَى [ sarā ] [ サラー ] は「(血・物質が体内などに)広がる、めぐる」「(木の根が地中で)伸び広がる、這い巡る」といった意味でも使われるが、人名の由来・意味として人名辞典に載っているのは上記の意味の方。
語形に関しては普通の名詞として使う場合非限定形では語末の弱文字が語末格母音u+タンウィーン「-un」を保持できず弱文字部分が消えて第2語根部分が「-in」となってしまうため主格・属格が سَارٍ [ sārin ] [ サーリン ] となるが、人名として用いる場合は単独でも سَارِي [ sārī ] [ サーリー ] と展開した形となる。】
【 口語アラビア語では語末の長母音īが短母音iになることが多いためサーリと聞こえることも。長母音ī(イー)を表す英字表記としては-ii、-i以外にも-y、-eeなどがあるが-eeについては-e1文字に減らしたつづりSaare、Sareも存在。「イー」もしくは口語風に短母音化した「イ」を意図しているものと思われ、必ずしもザーレと読ませることを示唆したものではないと言える。
インドの衣服サリーも全く同じつづり・発音で当て字がされ سَارِي [ sārī ] [ サーリー ] と呼ばれているのでネット検索時は混同に注意。】
Saalih、Salih
善良な、正しい、健全な、不正・腐敗とは無縁の、高潔な;敬虔な;適している;有効な
【 能動分詞男性形。動詞 صَلَحَ [ ṣalaḥa ] [ サラハ ] もしくは صَلُحَ [ ṣaluḥa ] [ サルハ ](善良である、正しい、健全である、不正・腐敗とは無縁である、高潔である;敬虔である;適している;有効である)の動作主・行為者であることを示す。
イスラームにおける預言者サーリフの名前としても広く知られる。クルアーンによるとサムードの民に警告を与えるためアッラーの使徒となったが、権勢や富に溺れていたサムードの人々は聞き入れず、神徴としてサーリフに授けられた奇跡の雌ラクダも殺害。神が下した罰により滅ぼされたという。 】
【 最後の子音 ح [ ḥ ] は日本語の「ハ」と同じ声門から出す ه [ h ] と違いもう少し上の咽頭を狭めて発音。通常の読み方では語末につく格母音を省略し 子音 ح [ ḥ ] で止めるが ف [ f ] ではないためサーリフではなくサーリハに近く聞こえることもある。
口語的な発音でiがeに転じてサーレフのように聞こえる発音に対応した英字表記はSaaleh、Saleh。なおSalehのehは英語のようにエーと伸ばすわけではないため、原語のアラビア語に忠実なカタカナ表記ではサーレー、サーレ、サレーとはしない。移民などで英語圏に定着した人物のアラビア語由来ネームを現地発音している場合はそちらに合わせる必要が出てくる。
携帯電話にアラビア語キーボードが無かった時代に普及したチャットアラビア語の影響から、SNSのユーザーネーム等では語頭の ص [ ṣād ] [ サード ] を数字の9、ح [ ḥā’ ] [ ハー(ゥ/ッ) ] を7に置き換えた9alih、9aaleh、9aleh、Saali7、Sali7、Saale7、Sale7、9aali7、9ali7、9aale7、9ale7などが見られる。いずれもサーリフもしくはサーレフという発音を意図したもの。
日本語記事におけるカタカナ表記で考え得るバリエーションはサーリフ、サリフ、サーリハ、サリハ、サーレフ、サレフ、サーレハ、サレハ。】
Saalim、Salim
(被害・事故・損害・病害・不信仰から)無事な、免れて;無傷の、健康な、安全な
【 能動分詞男性形。動詞 سَلِمَ [ salima ] [ サリマ ]((被害・事故・損害・病害から)無事である、免れる;無傷である、健康である)の動作主・行為者であることを示す。】
【 口語的にiがeに転じた発音サーレムに対応した英字表記はSaalem、Salem。方言で長母音āがēになるマグリブ(北アフリカ)方言などのセーリム寄り発音に対応した英字表記Seelim、Selim、iのe化が加わったセーレム寄り発音に対応したSeelem、Selemも見られる。
英字表記Salim、Salemは同じ語根 س - ل - م(s - l - m)を共有しており意味もよく似ている別の男性名 سَلِيم [ salīm ] [ サリーム ]((被害・事故・損害・病害・不信仰から)無事な、免れて;無傷の、健康な、安全な;負傷した(人)、(ひどい)噛み傷を負った(人)、死にかけている(人)、瀕死の(人))の英字表記バリエーションとかぶるので原語であるアラビア語における発音や表記で確認しないと区別が難しい。
日本語におけるカタカナ表記はサーリム、サリム、サーレム、サレム。】
Saariyah、Saariya、Sariyah、Sariya
夜に旅をする(人々、一行)、夜に道を進む(人々、一行)、夜道を行く(人々、一行);夜にできる雲、夜にやってくる雲、夜に降る雨;雨雲、雨を降らせる雲;帆船のマスト、(建物の)支柱
【 男性名としても使われる سَارِي [ sārī ] [ サーリー ](夜に旅をする(者)、夜に道を進む(者)、夜道を行く(者);夜にできる雲、夜にやってくる雲、夜に降る雨;雨雲、雨を降らせる雲;(別名的に)ライオン、獅子;帆船のマスト)に女性化などの機能がある ة(ター・マルブータ)をつけたもの。
る سَارِي [ sārī ] [ サーリー ] の時は「夜に旅をする(者)、夜に道を進む(者)、夜道を行く(者)」という単数的な意味になるが、ة(ター・マルブータ)がついたこちらの سَارِيَة [ sāriya(h) ] [ サーリヤ(フ/ハ) ] の方は「夜に旅をする(人々、一行)、夜に道を進む(人々、一行)、夜道を行く(人々、一行)」と複数・集団としての意味で辞書に載っており、微妙にニュアンスが異なる。
古い時代から使われている伝統的なアラブ人名で、預言者ムハンマドと共に初期イスラーム共同体で過ごした教友ら(サハーバ)の中にも数人サーリヤが存在。全員男性だったという。しかしながら女性名詞につくことが大半である ة(ター・マルブータが語尾にある女性名詞であることから現代では女児に命名する人もいるとのこと。そのため現代の人名辞典では女性名としか書いていないものがある。
なお、男性名として使う場合も女性名として使う場合も主格:سَارِيَةُ [ sāriyatu ] [ サーリヤトゥ ]、属格:سَارِيَةَ [ sāriyata ] [ サーリヤタ ]、対格:سَارِيَةَ [ sāriyata ] [ サーリヤタ ] という二段変化となる
】
【 アラビア語の文語だとこの人名を単体で発音する時は سَارِيَة [ sāriyah ] の最後の子音「h」(ワクフと呼ばれる休止形発音なので「t」とはしない)をほんのり聞こえる軽い発音で出すため、厳密には耳を澄ませて聞くと [ サーリヤフ ] と [ サーリヤハ ] の中間のような読み方をしている。しかし現代文語会話や口語(方言)だと ة の休止形(ワクフ)発音である ه [ h ] が落ちてしまい手前の-aまでしか読まなくなっているので、日本では学術的な表記でもSaariyah、Sariyahと表記してあるものをサーリヤフ、サーリヤハとはせずサーリヤと書くのが標準ルールとなっている。】
【 語末の-iya部分が-iaに置き換えられるというアラブ人名の英字表記に多いパターンに従ったSaariah、Saaria、Saariah、Sariaというつづりバリエーションもある。原語のアラビア語ではサーリヤだが英語圏での発音や日本語のカタカナ表記でサーリア、サリアが見られる原因となっている。
レヴァント(レバント)地方やその他地域の口語アラビア語(方言)では語末の-a(h)部分が-e(h)となりサーリイェ、サーリエと聞こえるような発音に変化する。そのためサーリイェ、サーリエ系発音に対応したSaariyeh、Sariyeh、Sariye、Sariye、y無しのSaarieh、Sarieh、Saarie、Sarieなどが派生し得る。】
Sa‘d、Saad、Sad
幸福、幸運
【 動詞 سَعِدَ [ sa‘ida ] [ サイダ ](幸せである、幸福である、幸運である)の動名詞。もうひとつの動名詞 سَعَادَة [ sa‘āda(h) ] [ サアーダ(フ/ハ) ](幸福、幸運)と似た内容を示す。
ジャーヒリーヤ時代からある伝統的な古いアラブ男性名で部族名としても使われている。イスラーム以前、多神教・偶像・天体崇拝が行われていたジャーヒリーヤ時代にはこの سَعْد [ sa‘d ] [ サアド(サァドに近く聞こえることも) ] の名前を持ったサアド神が紅海沿岸港湾都市 جُدَّ [ judda(h) ] [ ジュッダ(フ/ハ) ](*文語的な古くからの発音はジュッダだが現代ではジッダ、ジェッダといった読まれ方が広く流布している。) 近辺の主に كِنَانَة [ kināna(h) ] [ キナーナ ](キナーナ)族二支族によって信仰されていた。
サアド神は幸福を司る神だが御神体はシンプルな長い岩石で、イスラーム以前の岩石・奇石・隕石信仰のひとつとして参詣されていた。ジャーヒリーヤ時代からあった عَبْد ـــ [ ‘abd(u) ◯◯ ] [ アブド・◯◯ ](◯◯のしもべ)方式複合名の一部にもなっており、عَبْد سَعْد [ ‘abd(u) sa‘d ] [ アブド・サアド/サァド ](アブド・サアド。意味は「サアドのしもべ」「サアド神のしもべ」)という男性名も存在。人々はサアド神の加護・ご利益を願って我が子に命名していた。
サアドの名を持つイスラーム初期の有名人物としては預言者ムハンマドと行動を共にした教友(サハービー)でクライシュ族出身の سَعْد بْن أَبِي وَقَّاص [ sa‘d(u) bnu ’abī waqqāṣ ] [ サアド/サァド・ブヌ・アビー・ワッカース ](サアド・イブン・アビー・ワッカース)がいる。イラク征服に貢献し、建設された軍営都市クーファの統治にあたった。天国の楽園に必ず入ることができるであろうとされた10人のうちの1人。】
【 この人名ではSaとdの後に ع [ ‘ayn / ‘ain ] [ アイン ] という子音がはさまっている。咽頭(のどひこ/のどち◯この奥にあるのどの上部分)を締めつけて出す子音で、この人名では母音無しの無母音(スクーン記号がついた)状態で発音されるためサアドというよりはサァドに近く聞こえることが多い。
この ع [ ‘ayn / ‘ain ] [ アイン ] は英字表記だと「‘」(/ ‘ / ʿ)のような記号で表すなどするが、通常のアラブ人名英字表記ではaやaeなどに置き換わるか表記から抜け落ちるかすることが一般的であるため、Sa‘dではなくただのSaadやSadとなっていることが多い。i/eの母音挿入もしくはアイン発音の再現と思われるi入りのSaidやe入りのSaedなども見られる。いずれのケースも英字表記から原語のアラビア語における正確な発音を推測するのが難しい。
携帯電話にアラビア語キーボードが無かった時代に普及したチャットアラビア語の影響から、SNSのユーザーネーム等では語中の ع [ ‘ayn/‘ain ] [ アイン ] を数字の3に置き換えたSa3d、そして母音挿入ありな感じのSa3ad、Sa3id、Sa3edなども用いられている。
日本語におけカタカナ表記はサアド、サードなど。なおSadはこれでサアドもしくは非アラビア語圏の人にも発音しやすいよう少し変えたサードと読むことを意図しており、英単語の sad [ サ(ッ)ド ](悲しい)のような発音をさせるためのものではないので要注意。】
母音記号あり:سَعْدُون [ sa‘dūn ] [ サアドゥーン(サァドゥーンに近く聞こえることも) ] ♪発音を聴く♪
Saaduun、Saadun、Saduun、Sadun、Saadoun、Sadoun、Saadoon、Sadoon、Sadonなど
幸福な者、幸運な者
■意味と概要■
イスラーム教徒が統治していたことのイベリア半島(アル=アンダルス)に多く見られた人名の型。アラブ世界で古くからあった伝統的男性名 سَعْد [ sa‘d ] [ サアド ](幸運、幸福)が由来で、男性名 خَلْدُونُ [ khaldūn ] [ ハルドゥーン ] などと同様、語末の ـُون [ -ūn ] [ -ウーン ] は愛称として呼ぶために添加されたもの。愛着を示したり、「小さくてかわいいサアドちゃん」的な気持ちを込めたりするアンダルス特有の人名語形で、カスティーリャで使われていた用法がアンダルス在住アラブ人たちの口語に取り入れられたものだという説もあるとか。
アンダルス地方やマグリブ地方(北アフリカ)のアラブ人たちに使われていた特殊な語形の人名タイプということで、専門家の見解によると外来語と同様に二段変化の固有名詞として扱うのが一般的。その根拠は(1)この語尾を付加することで愛着・愛玩・好意・強調などを示すという複数化とは異なる用法であること、(2)純粋なアラビア語文語(フスハー)文法には存在しないものであること。
外来語同様の扱いし二段変化とするというのが通常の学説ではあるものの、三段変化してそれぞれ主格:[ -un] [ -ウン ]、属格:[ -in ] [ -イン ]、対格:[ -an ] [ -アン ] という語尾にすべしというアラビア語学者も過去にはいたとのこと。
■発音と表記■
この人名ではSaとdの後に ع [ ‘ayn / ‘ain ] [ アイン ] という子音がはさまっている。咽頭(のどひこ/のどち◯この奥にあるのどの上部分)を締めつけて出す子音で、この人名では母音無しの無母音(スクーン記号がついた)状態で発音されるためサアドゥーンというよりはサァドゥーンに近く聞こえることも。
ع [ ‘ayn / ‘ain ] [ アイン ] は英字表記だと「‘」、「ʿ」のような記号で表すなどするが、は通常のアラブ人名英字表記ではaやaeなどに置き換わるか表記から抜け落ちるかすることが一般的であるため、前半部分に関してはSa‘d-ではなくただのSaad-やSad-となっていることが多い。i/eの母音挿入もしくはアイン発音の再現と思われるi入りのSaid-やe入りのSaed-なども見られる。いずれのケースも英字表記から原語のアラビア語における正確な発音を推測するのが難しい。
なお「Sad-」部分はこれでサアドゥーンもしくは非アラビア語圏の人にも発音しやすいよう少し変えたサードゥーンと読むことを意図しており、英単語の sad [ サ(ッ)ド ](悲しい)のような発音をさせるためのものという訳ではないので要注意。
後半部分に関しては-ドゥーンもしくは短母音化に近い-ドゥン、口語的なuのo寄り発音による-ドーン、-ドンに聞こえる発音に対応していると思われる-uun、-un、-oun、-oon、-on以外にも-own、-oan
携帯電話にアラビア語キーボードが無かった時代に普及したチャットアラビア語の影響から、SNSのユーザーネーム等では語中の ع [ ‘ayn/‘ain ] [ アイン ] を数字の3に置き換えたSa3d-、そして母音挿入ありな感じのSa3ad-、Sa3id-、Sa3ed-なども用いられている。
上記のような前半部分、後半部分それぞれの英字表記バリエーションを合わせたSa‘duun、Sa‘dun、Sa‘doun、Sa‘doon、Sa‘don、Sa‘aduun、Sa‘adun、Sa‘adoun、Sa‘adoon、Sa‘adon、Sa‘adown、Saaduun、Saadun、Saduun、Sadun、Saadoun、Sadoun、Saadoon、Sadoon、Saadon、Sadon、Saadown、Sadown 、Saadoan、Sadoan、Saiduun、Saidun、Saidoun、Saidoon、Saidon、Saeduun、Saedun、Saedun、Saedoun、Saedoon、Saedon、Sa3duun、Sa3dun、Sa3doun、Sa3doon、Sa3don、Sa3down、Sa3doan、Sa3idun、Sa3idoun、Sa3edoun、Sa3adun、Sa3adoun、Sa3adoon、Sa3adonなどの使用例が見られる。
Sa'd al-Diin、Sa'd al-Din、Saad al-Diin、Saad al-Din、Sad al-Diin、Sad al-Dinなど
宗教の幸福、宗教の幸運、信仰の幸福、信仰の幸運
【 男性名としても使われる名詞 سَعْد [ sa‘d ] [ サアド(サァドに近く聞こえることも) ](幸福、幸運)を後ろから定冠詞のついた名詞 اَلدِّين [ ’ad-dīn ] [ アッ=ディーン ](宗教、具体的にはイスラーム教という宗教を示唆)が属格(≒所有格)支配したイダーファ構文の複合名。元々功績を挙げた人物に与えていた称号(ラカブ)が一般男性名となったもの。
宗教(イスラーム)が彼による貢献のおかげで幸福・幸運を得られる、という意味ではなく人の側がイスラームから幸せ・幸運を得る、宗教・信仰によって幸福・幸運を得た者、というニュアンスだとか。】
【 分かち書きをするとサアド・アッ=ディーンだがアラビア語ではこうした複合語は途切れさせず一気読みする。定冠詞を含む語の前に別の語が来た時は語頭の [ ’a ] [ ア ] 音は省略され、かつ1語目の語末にある主語の格を示す母音「u(ウ)」も読み上げるため、合わせてサアドゥ・ッ=ディーンに。カタカナ表記はこうした一気読みする複合名に関しては「・」などを用いずサアドゥッディーンとするのが標準的。
前半部分のつづりは単体の時の人名 سَعْد [ sa‘d ] [ サアド(サァドに近く聞こえることも) ] と同様のつづりバリエーションを考慮に入れる。Sa'd、Saad、Sad、Said、Saedなど。後半部分は定冠詞部分が促音化したアッ=を反映しない「al-」のままのal-Diin、al-Din、al-Deen、al-Den、al-Deanと促音化を反映した「ad-」を含むad-Diin、ad-Din、ad-Deen、ad-Den、ad-Deanなど。
これらを組み合わせるとSa'd al-Diin、Sa'd al-Din、Sa'd al-Deen、Sa'd al-Den、Sa'd al-Dean、Sa'd ad-Diin、Sa'd ad-Din、Sa'd ad-Deen、Sa'd ad-Den、Sa'd ad-Dean、Saad al-Diin、Saad al-Din、Saad al-Deen、Saad al-Den、Saad al-Dean、Saad ad-Diin、Saad ad-Din、Saad ad-Deen、Saad ad-Den、Saad ad-Dean、Sad al-Diin、Sad al-Din、Sad al-Deen、Sad al-Den、Sad al-Dean、Sad ad-Diin、Sad ad-Din、Sad ad-Deen、Sad ad-Den、Sad ad-Dean、Said al-Diin、Said al-Din、Said al-Deen、Said al-Den、Said al-Dean、Said ad-Diin、Said ad-Din、Said ad-Deen、Said ad-Den、Said ad-Dean、Saed al-Diin、Saed al-Din、Saed al-Deen、Saed al-Den、Saed al-Dean、Saed ad-Diin、Saed ad-Din、Saed ad-Deen、Saed ad-Den、Saed ad-Deanといった英字表記が派生し得る。
さらには1語目と2語目の息継ぎ無しつなげ読みに即したスペース無しのSa'duddiin、Sa'duddin、Sa'duddeen、Sa'dudden、Sa'duddean、Saaduddiin、Saaduddin、Saaduddeen、Saadudden、Saaduddean、Saduddiin、Saduddin、Saduddeen、Sadudden、Saduddean、Saiduddiin、Saiduddin、Saiduddeen、Saidudden、Saiduddean、Saeduddiin、Saeduddin、Saeduddeen、Saedudden、Saeduddeanなども派生し得る。
つなげ書きパターンでは母音u部分が口語的なoに転じサアドッディーン寄りとなったSa'doddiin、Sa'doddin、Sa'doddeen、Sa'dodden、Sa'doddean、Saadoddiin、Saadoddin、Saadoddeen、Saadodden、Saadoddean、Sadoddiin、Sadoddin、Sadoddeen、Sadodden、Sadoddean、Saidoddiin、Saidoddin、Saidoddeen、Saidodden、Saidoddean、Saedoddiin、Saedoddin、Saedoddeen、Saedodden、Saedoddeanなども考えられる。
また口語的に1語目と2語目を連結する際に定冠詞語頭の「ア」音が残った感じのサアダッディーン系統発音に即したSa'daddiin、Sa'daddin、Sa'daddeen、Sa'dadden、Sa'daddean、Saadaddiin、Saadaddin、Saadaddeen、Saadadden、Saadaddean、Sadaddiin、Sadaddin、Sadaddeen、Sadadden、Sadaddean、Saidaddiin、Saidaddin、Saidaddeen、Saidadden、Saidaddean、Saedaddiin、Saedaddin、Saedaddeen、Saedadden、Saedaddeanなどもバリエーション候補として考慮に入れる必要がある。
-dd-を1個に減らしたSa'dudiin、Sa'dudin、Saadudiin、Saadudin、Sadudiin、Sadudin(以下略)なども同じ男性名の表記バリエーションだが、重子音化した促音部分がわからなくなっているのでSadudinあたりは仮にアラブ人名だとした場合サドゥディン、サドディンとカタカナ化してしまうと原語アラビア語の発音とはかなり変わってしまうので要注意。
パキスタン、インド方面では1語目末につく格母音「u」と定冠詞とをドッキングさせたSaad ud-Din、Sad ud-Deenといった表記も見られる。定冠詞部分については南アジア風のud-以外にアラブ系人名の英字表記として「al-◯◯」、「Al-」、スペース無しの「Al◯◯」。スペースありの「Al ◯◯」など複数通りが併存。口語における定冠詞の発音変化に即した「el-」「il-」そしてさらに後続の د [ d ] との発音同化を反映した「ed-」「id-」の系統が上記の多様な英字表記各パターンに加わる形となる。
また、携帯電話にアラビア語キーボードが無かった時代に普及したチャットアラビア語の影響からSNSのユーザーネーム等では1語目 سَعْد [ sa‘d ] [ サアド(サァドに近く聞こえることも) ](幸福、幸運) 真ん中の ع [ ‘ayn/‘ain ] [ アイン ] を数字の3に置き換えたSa3dそして母音挿入を反映したSa3id、Sa3edといった表記も見られる。】
母音記号あり:سَعِيد [ sa‘īd ] [ サイード ] ♪発音を聴く♪
Sa‘iid、Sa‘id、Saiid、Said、Saeedなど
幸せな、幸福な(者);幸運な(者);嬉しい、喜んでいる(人)
■意味と概要■
動詞 سَعِدَ [ sa‘ida ] [ サイダ ](幸せである、幸福である、幸運である)の動名詞より。動詞が示す性質・状態を継続して有することを意味する、分詞に類似した فَعِيلٌ [ fa‘īl(un) ] [ ファイールン ] 型語形。
別の男性名 سَعْد [ sa‘d ] [ サアド(サァドに近く聞こえることも) ](幸福、幸運)、男性名 أَسْعَد [ ’as‘ad ] [ アスアド ](より/最も幸せな、より/最も幸福な、より/最も幸運な)、女性名 سُعَاد [ su‘ād ] [ スアード ] と同じ語根「س - ع - د」(s - ‘ - d)を共有、「幸福」「幸運」に関連した概念を表す。
■発音と表記■
この人名ではSaとīの後に ع [ ‘ayn / ‘ain ] [ アイン ] という子音がはさまっている。咽頭(のどひこ/のどち◯この奥にあるのどの上部分)を締めつけて出す子音で、サの後に力む瞬間がはさまることによってサァイード、サアィード、サェイード、サィイードに近く聞こえることもしばしば。
ع [ ‘ayn / ‘ain ] [ アイン ] は英字表記だと「‘」(/ ‘ / ʿ)のような記号で表すなどするが、通常のアラブ人名英字表記ではaやaeなどに置き換わるか表記から抜け落ちるかすることが一般的であるため、Sa‘iid、Sa‘idではなくただのSaiid、Saidとなっていることが多い。
サイードの長母音「ī(イー)」に関してはSa‘iid、-ii-を1個に減らしたSa‘id、Sa‘eed、-ee-を1個に減らしたSa‘ed、Sa‘eadといった英字表記バリエーションが存在。英字表記が原語アラビア語での発音 [ sa‘īd ] [ サイード ] と離れているつづりもあり、サエド、サエアドとしないよう要注意。なお長母音āがaと書かれることが多いアラブ人名だがサイードには「アー」の音は無いのでサーイード、サーイドとはしないことを推奨。
これに「‘」を使わない ع [ ‘ayn / ‘ain ] [ アイン ] の各種英字表記バリエーションが加わってSaiid、Said、Saeed、Saed、Saead、Saaed、Saeidなどが派生。なおSaeidは「ei」が ع [ ‘ayn / ‘ain ] [ アイン ] のアィとエィが混ざったような咽頭を引き締めて出す音を記号抜きで表現したものでサエイドではなくサェイード寄りのサイードを意図している可能性が高いと思われる。
携帯電話にアラビア語キーボードが無かった時代に普及したチャットアラビア語の影響から、SNSのユーザーネーム等では語中の ع [ ‘ayn/‘ain ] [ アイン ] を数字の3に置き換えたSa3iid、Sa3id、Sa3eed、Sa3ed、Sa3ead、Sa3aed、Sa3eidなどの使用が見られる。
■日本で実際に混同されてきた別の人名について■
なお語形が全く同じでカタカナ表記にするとよく似ているザイードとは全く別の名前。ザイードはサイードの表記揺れだとのネット記事も見られるが誤り。ザイードはキャラネーミングに多用されているものの実はアラビア語には存在しない人名で、アラブ首長国連邦大統領を務めたアブダビ首長のファーストネームなどとして知られる男性名ザーイドの英語風発音ザイードが本来のザーイド(ないしは姉妹語でもある別の男性名ザイド)のアラビア語発音に置き換わったもの。
そのためキャラ名のザイードとしては、本来のザーイドが持つ「増える;増やす;生長する(者)」やザイドが持つ「増加;生長」を意味。日本語にすると「増男(ますお)」さんに相当するのに対し、本項目のサイードは「幸男(ゆきお)」に対応しており、人名としても意味が異なっている。
母音記号あり:سَيِّد [ sayyid / saiyid ] [ サイイド ] ♪発音を聴く♪
Sayyid、Saiyid
(一般人民や奴隷などの)主人、主(あるじ);長;君主、領主;(英語の敬称Mr.の訳語として)~氏、(複数形 سَادَة [ sāda(h) ] [ サーダ ] で英語での呼びかけgentlemenの訳語として)紳士;(預言者ムハンマドの子孫に対する呼称・敬称・肩書きとして)サイイド;夫、主人
■語形と意味■
動詞 سَادَ [ sāda ] [ サーダ ](率いる、長となる)より。率いている・長である状態が継続していることを示す分詞類似の名詞。能動分詞的意味合いを持つため、「率いる、長となる」ことの主体、つまりは「長、主、君主」といった語義となる。
本来は كَرِيم [ karīm ] [ カリーム ] と同じく形容詞的用法などで使われる分詞類似の語だが、 動詞完了形が فَعَلَ [ fa‘ala ] [ ファアラ ] 型かつ第2語根が弱文字という سَادَ [ sāda ] [ サーダ ] であることからفَعِيلٌ [ fa‘īl(un) ] [ ファイール(ン) ] 語形はとらずに فَيْعِلٌ [ fay‘il(un) / fai‘il(un) ] [ ファイイル(ン) ])語形となっている。(فَيْعَلٌ [ fay‘al(un) / fai‘al(un) ] [ ファイアル(ン) ] と書かれている解説も見られるが、弱文字を含む語根の時には適応されず فَيْصَلٌ [ fayṣal / faiṣal ] [ ファイサル ] のような強動詞由来の分詞類似語の形成に関わるという。)
語としての分類が同じで語形もよく似ていること、また別の男性名 سَعِيد [ sa‘īd ] [ サイード (幸せな、幸福な(者);幸運な(者);嬉しい、喜んでいる(人))と響きが近いことから سَيِيد [ sayīd ] [ サイード ] としばしば誤読されることがあるが、サイードではなくサイイドなので要注意。(誤:サイード・クトゥブ→正:サイイド・クトゥブ、エジプトのムスリム同胞団における理論・精神的指導者)
■人名の由来としての「主」「長」とは別枠の様々な用法■
英語の敬称Mr.の訳語としての用法は近現代に西洋的な言い回しを輸入した際にアラビア語化されたもので、定冠詞 اَلْـ [ ’al- ] [ アル= ](al-)がついた اَلسَّيَّد [ ’as-sayyidu / ’as-saiyidu ] [ アッ=サイイド ] をファーストネームの前に置いて用いる。
呼称・敬称・肩書きとしてのサイイドがつく預言者ムハンマドの子孫だが、彼には複数の子供らがいたものの孫以降の代が続いているのは娘ファーティマの家系のみとなっている。ファーティマと夫である第4代正統カリフ・初代シーア派イマームのアリー・イブン・アビー・ターリブとの間に生まれた息子(アル=)ハサンと(アル=)フサインはいずれもイスラーム共同体内部での抗争のため死去しているが、シーア派第2代イマームの(アル=)ハサン、第3代イマームの(アル=)フサインの遺児らがサイイドの祖先となった。
イラン、イラクや湾岸諸国、レバノンほかに居住するシーア派コミュニティーではイスラーム宗教家(法学者、神学者)が頭に巻く頭巾(ターバン、عِمَامَة [ ‘imāma(h) ] [ イマーマ(フ/ハ) ])の色で判別が可能で、黒はサイイド家系、白は非サイイド家系となっている。またシーア派イマームたちの墓廟がありシーア派人口が多いイラクではサイイド家系の人物が緑色の頭巾(シュマーグ)をかぶる慣習があり、ただのおしゃれ目的で非サイイド家系の一般人が緑色のシュマーグをかぶることは敬遠されているという。
アラブ世界のキリスト教徒がイエス・キリストについて言及する際にも敬称としてこの語が用いられ、اَلسَّيِّدُ الْمَسِيحُ [ ’as-sayyidu/’as-saiyidu-l-masīḥ ] [ アッ=サイイドゥ・ル=マスィーフ ](アッ=サイイド・アル=マスィーフ、The Messiah。「メシア様」「救世主様」の意。)と呼ぶなどする。
なお現代では一個人への敬称として気軽に使われているが、定冠詞 اَلْـ [ ’al- ] [ アル= ](al-)がついた اَلسَّيَّد [ ’as-sayyidu / ’as-saiyidu ] [ アッ=サイイド ] は唯一神アッラーの属性名(美名、美称)の一つでもあり意味は「全ての長」。アッラー99の美名一覧には含まれないが、預言者ムハンマドの言行録ハディースを通じ伝えられているものの1つ。
■つづり、英字表記、カタカナ表記■
-ay-部分はアラビア語では二重母音-ai-を表すため英字表記も-ay-つづりと-ai-つづりの両方が見られる。なおアクセントは先頭の「サイ」部分に来る。
アラビア語文語の二重母音「ay(=ai)」部分は日常会話・口語ではei(エイ)もしくはē(エー)音になることが多く、セイイド(対応英字表記:Seyyid、Seiyid)、セーイドと聞こえる発音が広く行われている原因となっている。
後半部分において口語的にiがeに転じたサイイェド、サイエドに近い発音に対応した英字表記はSayyed、Saiyed、二重母音部分の発音変化も加えたセイイドに対応したSeyyid、Seiyid、両パターンを合わせたセイイェド、セイエドに近い発音に対応したSeyyed、Seiyedなど。-yy-部分は重子音化記号のシャッダ(ـّ)がついているので英字表記ではyを2個連ねてSayyidなどとつづるのが一般的だが、1個に減らした英字表記Sayid、Sayed、Seyid、Seyedも。
また سَيِّد [ sayyid / saiyid ] [ サイイド ] の-ay-/-ai直後に本来無い母音がはさまった感じのSayiyid、Sayiid、Sayeyedといった英字表記、子音(半母音)yを抜いたSaiid、Said、Saied、Saed、Seiid、Seied、Seidなどの使用例も見られる。実際の発音サイイド、サイイェド、セイイド、セイイェド等とかけ離れたつづりも少なくなく、別の男性名 سَعِيد [ sa‘īd ] [ サイード ](幸せな、幸福な;幸運な;嬉しい、ハッピーな)の表記バリエーションとかぶってしまいアラビア語での発音を聞いたりアラビア語表記を見たりしない限り区別できないこともあるので要注意。
日本語におけるカタカナ表記ではサイイド、セイイド、サイイェド、セイイェド以外にも-id、-ed部分を英語圏単語のカタカナ表記風もしくは非アラビア語圏での発音風に促音化してサイイッド、セイイッド、サイッド、セイッドとしてあることも少なくない。
Zaydaan、Zaydan、Zaidaan、Zaidan
(常に)増加(すること)、(絶えることなく)生長(すること)
【 アラブの伝統的男性名 زَيْد [ zayd / zaid ] [ ザイド ](増やすこと;(物や財産が)増えること、増加、増大、生長)の双数形風語形ネーム。アッバース朝時代にこの双数形のような語末の人名が流行したとのこと。
一見「2人のザイド」と解釈できる語形で人名辞典にも双数形と書かれているなどするが、純粋な双数の範疇から外れているため双数形本来の語尾 ـَانِ [ -āni ] [ -アーニ ] ではなく余剰の2文字として扱われ、その結果二段変化 زَيْدَانُ [ zaydānu / zaidānu ] [ ザイダーヌ ] となる-という学説がメジャーだとのこと。なお通常人名として発音する場合は語末の母音を省いた休止(ワクフ)形 ـَان [ -ān ] [ -アーン ] となる。
サッカー界の大御所Zinedine Zidane氏のZidane(ジダン)は彼のファーストネームではなくラストネーム(ファミリーネーム、家名)だが、このザイダーン(の別発音ズィーダーン)表記は語末が-neになっているフランス語風バリエーションのひとつ。ちなみにジダン氏はアルジェリア系フランス人だが家系的にはカビール人(ベルベル人)でテレビ番組などで自分のアイデンティティーはアラブ人ではなくカビール人の方だと語ったことも。】
【 zにつく母音がiになり続くيが二重母音「ay/ai(アイ)」ではなく長母音īの一部となった口語発音 زِيدَان [ zīdān ] [ ズィーダーン ](♪発音を聴く♪)も多用されている。長母音部分が短めに詰まった感じの発音も含め、対応する英字表記としてZiidaan、Ziidan、Zidaan、Zidan、フランス語圏風語末つづりのZidaane、Zidaneなどが挙げられる。
二重母音が口語的に発音されると [ zay / zai ] [ ザイ ] が [ zei ] [ ゼイ ] や [ zē ] [ ゼー ] に変わることが多いため、ゼイダーンやゼーダーンという読みに即した英字表記 Zeydaan、Zeydan、Zaidaan、Zeidan、Zedan、Zeydane、Zeidane、Zedaneなども存在。
日本語ではズィーダーン、ズィダーン、ズィダン、ザイダーン、ザイダン、ゼイダーン、ゼイダンなどが混在。外国語人名のカタカナ表記によくあるzi(ズィ)のji(ジ)置き換わりが行われたジダンも多く、特にサッカー界のZinedine Zidane氏に関してはこのジダンが一般的。】
Zayd、Zaid
増やすこと;(物や財産が)増えること、増加、増大、生長
【 古くからある男性名。動詞 زَادَ [ zāda ] [ ザーダ ](増やす;増える)の動名詞が由来。
アラビア語文法学では「فَعْلٌ(fa‘l)」型で語形的に使いやすいこの زَيْد [ zayd/zaid ] [ ザイド ] と عَمْرٌو [ ‘amr ] [ アムル ] が例文の登場人物として多用されるのが中世以降から続く伝統となっており、アムルはいつもザイドに殴られる・棒で叩かれる・殺されるといった物騒な目に遭っていることでも有名。
アラビア語文法書は単純な内容で他動詞としてもわかりやすい「打つ」「殺す」といった動詞が例文に使われる伝統が千年以上続いており、「ザイドがアムルを殺した」、そして入れ子状の構文になるとザイドの父なども登場し「ザイドはその父親がアムルを棒で殴った」といった具合にアムルが繰り返し危害を加えられるというかなりバイオレンスな設定となっている。
なおイエメン付近に残るシーア派の一派ザイド派 اَلزَّيْدِيَّة [ ’az-zaydīya(h) / ’az-zaidīya(h) ] [ アッ=ザイディーヤ ] の名称はシーア派イマームたるアリー、アル=フサインらの子孫である زَيْد بْن عَلِيٍّ [ zayd/zaid bnu ‘alī(y) ] [ ザイド・ブヌ・アリー(ィ) ](ザイド・イブン・アリー) を崇敬・支持した人々の集団であったことから命名されたもの。】
【 2文字目の第2語根が無母音となる(スクーン記号がつく)この語形では母音挿入が起きやすく、yとdの間に母音iやより口語的なeがはさまった英字表記Zayid、Zayedという英字表記があてられていることがある。どちらも別の男性名 زَايِد [ zāyid ] [ ザーイド ](英字表記:Zaayid、Zayid、Zaid、Zaayed、Zayedなど)の英字表記つづりバリエーションとかぶるため、実際の発音を聞いたり元のアラビア語表記を見たりしないと判別できない。
زَيْد [ zayd/zaid ] [ ザイド ] という発音を意図した英字表記を見て確認を取らないまま別の名前と混同してザーイドとしたり、زَايِد [ zāyid ] [ ザーイド ] の英語圏風発音のように不必要な場所に長母音「ー」を補足してザイードのようにカタカナ表記しないよう要注意。】
宗教の美/飾り、信仰の美/飾り
[ アルジェリア・カビール(=いわゆるベルベル)系フランス人元サッカー選手・現監督のジネディーヌ・ジダンの名前、ジネディーヌはこのザイヌッディーンの母音等が変化した上にフランス風の表記がされている物である。2語をつなげて読んだ場合の英字表記はZaynuddin、Zainuddinなど。口語的にuがo寄りとなった場合はZaynoddin、Zainoddin。口語では二重母音のアイがエイもしくはエーに転じるため、ゼイヌッディーンやゼーヌッディーンのように聞こえることも。そこから派生する英字表記はZeyn al-Din、Zein al-Din、Zeen al-Din、Zen al-Dinなど。]
最良の信仰者、最良の崇拝者
[ 2語をつなげて書く場合はZaynulabidin、Zainulabidin、Zaynulabideen、Zainulabideen、Zaynalabidin、Zainalabidin、Zainalabideenなど。更にアービディーンのbiが口語的にbeに転じてアーベディーンにという発音に寄ることで、Abidin→Abedin、Abedeenという英字表記のバリエーションが生じる。ザイン部分に関しては、二重母音が口語的にアイからエイもしくはエーに転じた場合はゼイン、ゼーンという読みになり、全体としてはゼイヌルアービディーン、ゼーヌルアービディーンといった読みとなる。その場合の英字表記はZeyn al-・・・、Zein al-・・・、Zeen al-・・・、Zen al-・・・など。]
母音記号あり:سَيْف [ sayf / saif ] [ サイフ ] ♪発音を聴く♪
Sayf、Saif
剣
【 「剣」を意味する基本的な語。アラビア語ではサイフという一般名称の他にも切れ味や機能にちなむ属性名的な別名が多数あり、男性名として使われているものも少なくない。例としてはファイサル、ファールーク、ムハンナド、フサームなど。】
【 「ay」部分は実際には二重母音「ai」として発音される部分なので英字表記はSayfとSaifの2系統が混在している。アラビア語文語の二重母音「ay(=ai)」部分は日常会話・口語ではei(エイ)もしくはē(エー)音になることが多く、セイフに対応したSeyf、Seif、セーフに対応したSeef、そして2個連なっている-ee-を1個に減らしたSefなども見られる。Sefに関してはセーフという発音を意図したものなのでセフとカタカナ化しないよう要注意。
方言によっては [ seif ] [ セイフ ] ではなく [ sief ] [ スィエフ ] と聞こえる発音になることがあり、一般的なeとiの位置が入れ替わったSiefといった英字表記も使われている。】
Sayf al-Diin、Sayf al-Din、Saif al-Diin、Saif al-Din、Sayfuddiin、Sayfuddin、Saifuddiin、Saifuddinなど
宗教の剣、信仰の剣
【 名詞 سَيْف [ sayf / saif ] [ サイフ ](剣)を後ろから定冠詞のついた名詞 اَلدِّين [ ’ad-dīn ] [ アッ=ディーン ](宗教、具体的にはイスラーム教という宗教を示唆)が属格(≒所有格)支配したイダーファ構文の複合名。その人が手に持った剣・武器によって宗教(イスラーム)を護るという宗教的な貢献を意味。元々功績を挙げた人物に与えていた称号(ラカブ)が一般男性名となったもののひとつ。】
【 分かち書きをするとサイフ・アッ=ディーンだがアラビア語ではこうした複合語は途切れさせず一気読みする。定冠詞を含む語の前に別の語が来た時は語頭の [ ’a ] [ ア ] 音は省略され、かつ1語目の語末にある主語の格を示す母音「u(ウ)」も読み上げるため、[ sayf / saif ] [ サイフ ] と [ ’ad-dīn ] [ アッ=ディーン ] を合わせて [ sayfu/saifu-d-dīn ] [ サイフ・ッ=ディーン ] に。カタカナ表記はこうした一気読みする複合名に関しては「・」などを用いずサイフッディーンとするのが標準的。
前半「ay」部分は二重母音「ai」となるため英字表記はSayfとSaifの2系統が混在している。後半部分は定冠詞部分が促音化したアッ=を反映しない「al-」のままのal-Diin、al-Din、al-Deen、al-Den、al-Deanと促音化を反映した「ad-」を含むad-Diin、ad-Din、ad-Deen、ad-Den、ad-Deanなど。
これらを組み合わせるとSayf al-Diin、Sayf al-Din、Sayf al-Deen、Sayf al-Den、Sayf al-Dean、Saif al-Diin、Saif al-Din、Saif al-Deen、Saif al-Den、Saif al-Dean、Sayf ad-Diin、Sayf ad-Din、Sayf ad-Deen、Sayf ad-Den、Sayf ad-Dean、Saif ad-Diin、Saif ad-Din、Saif ad-Deen、Saif ad-Den、Saif ad-Deanといった英字表記が使われ得る。
さらには1語目と2語目の息継ぎ無しつなげ読みに即したスペース無しのSayfuddiin、Sayfuddin、Sayfuddeen、Sayfudden、Sayfuddean、Saifuddiin、Saifuddin、Saifuddeen、Saifudden、Saifuddeanなども。
このつなげ書きパターンでは母音u部分が口語的なoに転じサイフォッディーン寄りとなったSayfoddiin、Sayfoddin、Sayfoddeen、Sayfodden、Sayfoddean、Saifoddiin、Saifoddin、Saifoddeen、Saifodden、Saifoddeanなども考えられる。口語的に1語目と2語目を連結する際に定冠詞語頭の「ア」音が残った感じのサイファッディーン系統発音に即したSayfaddiin、Sayfaddin、Sayfaddeen、Sayfadden、Sayfaddean、Saifaddiin、Saifaddin、Saifaddeen、Saifadden、Saifaddeanなどもバリエーション候補として考慮に入れる必要がある。
アラビア語文語の二重母音「ay(=ai)」部分は日常会話・口語ではei(エイ)もしくはē(エー)音になることが多く、セイフに対応したSeyf、Seif、セーフに対応したSeef、そして2個連なっている-ee-を1個に減らしたSefなども見られる。方言によっては [ seif ] [ セイフ ] ではなく [ sief ] [ スィエフ ] と聞こえる発音になることがあり、一般的なeとiの位置が入れ替わったSiefといった英字表記も使われている。
そうした文語発音から口語発音への変化によりSeyf al-Diin、Seyf al-Din、Seyf al-Deen、Seyf al-Den、Seyf al-Dean、Seif al-Diin、Seif al-Din、Seif al-Deen、Seif al-Den、Seif al-Dean、Seyf ad-Diin、Seyf ad-Din、Seyf ad-Deen、Seyf ad-Den、Seyf ad-Dean、Seif ad-Diin、Seif ad-Din、Seif ad-Deen、Seif ad-Den、Seif ad-Dean、Seef al-Diin、Seef al-Din、Seef al-Deen、Seef al-Den、Seef al-Dean、Sef al-Diin、Sef al-Din、Sef al-Deen、Sef al-Den、Sef al-Dean、Seef ad-Diin、Seef ad-Din、Seef ad-Deen、Seef ad-Den、Seef ad-Dean、Sef ad-Diin、Sef ad-Din、Sef ad-Deen、Sef ad-Den、Sef ad-Dean、Sief al-Diin、Sief al-Din、Sief al-Deen、Sief al-Den、Sief al-Dean、Sief ad-Diin、Sief ad-Din、Sief ad-Deen、Sief ad-Den、Sief ad-Deanなどが使われ得る。
-dd-を1個に減らしたSayfudiin、Sayfudin、Saifudiin、Saifudin(以下略)なども同じ男性名の表記バリエーション。
パキスタン、インド方面では1語目末につく格母音「u」と定冠詞とをドッキングさせたSayf ud-Din、Saif ud-Din、Sayf ud-Deen、Saif ud-Deen(以下略)といった表記も見られる。定冠詞部分については南アジア風のud-以外にアラブ系人名の英字表記として「al-◯◯」、「Al-」、スペース無しの「Al◯◯」。スペースありの「Al ◯◯」など複数通りが併存。口語における定冠詞の発音変化に即した「el-」「il-」そしてさらに後続の د [ d ] との発音同化を反映した「ed-」「id-」の系統が上記の多様な英字表記各パターンに加わる形となる。】
Zayn、Zain
美;美しいもの、美人、美男、美女;(形容詞的に)美しい、佳い、佳人で;飾り、装飾、装飾品;(雄鶏の)とさか
【 動詞 زَانَ [ zāna ] [ ザーナ ](飾る)の動名詞。男性名・女性名として使われているが、人名辞典によっては女性名としか書いていないものがある。
アラビア半島他の口語方言で「調子はどうだ?」と聞かれた時の返事ゼイン、ゼーン、ズィエン(意味:「良いです」「いいよ」)等はこの زين の口語発音。】
【 「ay」部分は二重母音「ai」となるため英字表記はZaynとZainの2系統が混在している。アラビア語文語の二重母音「ay(=ai)」部分は日常会話・口語ではei(エイ)もしくはē(エー)音になることが多く、ゼインに対応したZeyn、Zein、セーフに対応したZeen、そして2個連なっている-ee-を1個に減らしたZenなども見られる。
方言によっては [ Zeyn / Zein ] [ ゼイン ] ではなく [ zien ] [ ズィエン ] と聞こえる発音になることがあり、一般的なeとiの位置が入れ替わったZienといった英字表記も使われている。
フランス語圏のアラブ人名表記に多い語末-nの-ne化もしくは英単語nine(ナイン)のような-ne部分の発音を意図したりしていると思われるnの後にeが足されたZayne、Zaine、Zeyne、Zeine、Zeene、Zene、Zieneも使われている。これらはザイネ、ゼイネ、ゼーネ、ゼネ、ズィエネと読むことを意図するものではないのでザイン、ゼイン、ゼーン、ズィエンのようなカタカナ表記が推奨。
日本語のカタカナ表記としてはザイン、ゼイン、ゼーン、ゼンが考え得る。】
Sa‘uud、Sa‘ud、Sauud、Saud、Saoud、Saoodなど
幸福、幸運
【 男性名としても使われる名詞 سَعْد [ sa‘d ] [ サアド(サァドに近く聞こえることも)](幸福、幸運)の不規則複数形(語幹複数形) سُعُود [ su‘ūd ] [ スウード ]((数々の、複数の)幸福、幸運)の口語発音・よくある誤用系発音とされる。日本語のら抜き言葉同様フスハー(文語アラビア語)としては誤用だと意識せずサウードと発音する人が非常に多い。通常はよくある間違いとしてアラビア語関連記事で紹介されているが、1文字目 س [ s ] に母音uではなく母音aを付加する سَعُود [ サウード ] [ sa‘ūd ] という発音が「幸福、幸運」に関連する強調語形だと説明している人名辞典なども見られる。
サウジアラビアの英語や日本語の国名は文語語形 سُعُود [ su‘ūd ] [ スウード ]((数々の、複数の)幸福、幸運)ではなくこの口語発音の方の سَعُود [ サウード ] [ sa‘ūd ] を使用。形容詞化したニスバ形容詞(関連形容詞)が「王国」を意味する名詞に形容詞修飾を行っているため اَلْمَمْلَكَة الْعَرَبِيَّة السَّعُودِيَّة [ ’al-mamlakatu-l-‘arabīyatu-s-sa‘ūdiya(h) ] [ アル=マムラカ(トゥ・)ル=アラビーヤ(トゥ・)ッ=サウーディーヤ(フ/ハ) ](*ة(ター・マルブータ)部分のトゥを読み飛ばすのは現代会話風のややブロークンな発音方法)に対応している。
*「サウジアラビア王国」の名称に含まれるサウジ部分は「サウード家の~」という意味。第一次サウード王国の拠点ともなった(アッ=)ディルイーヤをかつて統治していた مُقْرِن [ muqrin ] [ ムクリン ] 家出身の首長 سَُعُود [ su‘ūd /(口語発音)sa‘ūd ] [ スウード/(口語発音)サウード ] のファーストネームが由来。彼の息子ムハンマドが第一次サウード王国の王となり、ムクリン家からスウード(サウード)家に家名が切り替わった。】
【 この人名ではSaとūの後に ع [ ‘ayn / ‘ain ] [ アイン ] という子音がはさまっている。咽頭(のどひこ/のどち◯この奥にあるのどの上部分)を締めつけて出す子音で、この人名では母音無しの無母音(スクーン記号がついた)状態で発音されるためサウードというよりはサァウード、サォウードに近く聞こえることも。
この ع [ ‘ayn / ‘ain ] [ アイン ] は英字表記だと「‘」(/ ‘ / ʿ)のような記号で表すなどするが、日常生活でアラブ人各自が用いる英字表記では「‘」は脱落してしまい、代わりに [ -a‘ū- ] 付近の喉に力を入れる発音をa、ao、euなどに置き換えるなどする。長母音ūがuu、u以外にou、ooで表現される傾向も合わせたSauud、Saud、Saoud、Saood、Saaoud、Saeud、Sauadなどかなり自由なつづりも含めた各種バリエーションが併存。
語頭のSaを口語的なSeに置き換えたセウード寄りの発音に即したSe‘ud、Seuud、Seud、Seoud、Seood、Seeood、Seeudも使われている。
携帯電話にアラビア語キーボードが無かった時代に普及したチャットアラビア語の影響から、SNSのユーザーネーム等では語中の ع [ ‘ayn/‘ain ] [ アイン ] を数字の3に置き換えたSa3uud、Sa3ud、Sa3oud、Sa3ood、Se3ud、Se3oud、Se3oodなども用いられている。
日本語におけカタカナ表記はサウード、サウドなど。】
Zakariyyaa、Zakariyya、Zakariiyaa、Zakariiya、Zakariyaa、Zakariya
ザカリーヤー
【 ザカリーヤーはイスラームにおける預言者の一人。聖書に出てくるザカリヤ(ザハリヤ、ゼカリヤ)に相当。英語のrememberに対応する動詞部分と神・主であるヤハウェに対応する部分とが組み合わさったヘブライ語名で「神は思い起こされる」「神は覚えて下さる」といった意味だとか。
老年になってから神の恩寵により息子 يَحْيَى [ yaḥyā ] [ ヤフヤー(ヤハヤーに近く聞こえることが多い)](ヤフヤー。聖書に出てくるヨハネに相当。)を授かった。またイーサー(キリスト教のイエスに相当)を産むこととなるマルヤム(キリスト教のマリアに相当)と同じイムラーン家の出身で彼女の保護者となった。】
【 yを抜いたZakariia、Zakariaといった英字表記も使われている。】
タカ、鷹
[ 口語的な発音・表記としてはqの後に母音eをはさんでサケルに近くなったSaqerがある。またサウジアラビアなどqがgで発音されるアラビア半島地域ではサグルになるのでSagrと書かれていることも。そこに母音eをはさんでサゲルに近く発音することに基づいたSagerというつづりも見られる。qに関しては英字表記でkに置き換えられることが多く、Sakrというバリエーションもある。 ]
Zaghluul、Zaghlul、Zaghloul、Zaghlool
乳幼児、子供;鳩の雛;明るい、陽気な(人)
[ 文語での正しい発音は زُغْلُول [ zughlūl ] [ ズグルール ] だが一般的にはザグルールと発音されている。反英民族運動とワフド党結成で知られたエジプトの政治家サアド・ザグルールのラストネーム(家名)としても有名。ザグルール自体は特殊な家名という訳ではなく、男性名や人名由来の家名として使われている。 ]
Sajjaad、Sajjad
礼拝を多く行う(者)、跪拝をたくさんする(者);(礼拝用)じゅうたん
【 動詞 سَجَدَ [ sajada ] [ サジャダ ](礼拝の平伏をする、ひざまずいて祈る、礼拝する)の能動分詞男性形で男性名としても使われる سَاجِد [ sājid ] [ サージド ]((アッラーに対する)祈りの平伏をしている(者)、(アッラーに対して)礼拝している(者)、(アッラーに向かって)跪拝している(者))の強調語形。
「大いに」「たくさん」「何回も繰り返し」といったニュアンスが加わり、سُجُود [ sujūd ] [ スジュード ](動名詞:礼拝、跪拝、平伏)、سَجْدَة [ sajda(h) ] [ サジ(ュ)ダ(フ/ハ) ](1回分を示す語形:礼拝、跪拝、平伏)を熱心に実践している様子を表し、子が大変敬虔なイスラーム教徒になるようにとの親の願いが込められた名前となっている。
シーア派第4代イマーム عَلِيُّ بْنُ الْحُسَيْنِ [ ‘alīyu-bnu-l-ḥusayn/ḥusain ] [ アリーユ・ブヌ・ル=フサイン ](アリー・イブン・アル=フサイン)は زَيْنُ الْعَابِدِينَ [ zaynu/zainu-l-‘ābidīn(a) ] [ ザイヌ・ル=アービディーン ](ザイヌルアービディーン、ザイン・アル=アービディーン)の他に اَلسَّجَّاد [ ’as-sajjād ] [ アッ=サッジャード ](数多く礼拝を行う者、跪拝を多数行う者)という別名・属性名で呼ばれており、シーア派信徒の場合は彼への崇敬から我が子にサッジャードと命名するなどしている。
なおこの فَعَّالٌ [ fa’’āl(un) ] 語形は強調に加えその動作を行う道具・機械、職業名などを表すのにも使われており、礼拝に使う・その上で跪拝を行う道具といった意味合いから「(礼拝用もしくは一般の)じゅうたん」としても用いられている。ただし人名の由来としては熱心に礼拝を繰り返すというイメージの方であり、通常は「じゅうたん君」と命名している訳ではない。】
【 エジプト首都カイロならびに周辺地域方言、イエメン、オマーン、サウジアラビアなどの一部方言のように ج [ j ] が [ g ] に置き換わって [ sāgid ] [ サーギド ] になるケース、もしくは英語のgentleのようにgでつづって [ j ](文語アラビア語の/ʤ/、レヴァント方言の/ʒ/)と読ませることを意図したケースに対応したSaggaad、Saggad(サッガードもしくはサッジャード)といったつづりも。
方言で長母音āがēになるマグリブ(北アフリカ)方言などのサッジェード寄り発音に対応した英字表記Sajjeed、Sajjed、Saggedそして「エー」のつづりバリエーションとして派生したであろうSajjead、Sajjaedなども見られる。
北アフリカのマグリブ諸国やマグリブ系移民が多いフランスのように「j」を「dj」で表記することが行われている地域ではサッジャードに対応した表記としてSadjdjaad、Sadjdjadなどの利用が見られる。これについてはサドジドジャード、サドジドジャドとカタカナ化しないよう要注意。
重子音化(シャッダ記号がついている)して同じ字が2個連なっている-jj-を1個に減らしたつづりもあり、サッジャード読みを意図したSajaad、Sajad、Sadjaad、Sadjadサッジェード読みを意図したSajeed、Sajed、Sadjed、サッガードもしくはサッジャード読みを意図したSagaad、Sagad、サッゲードもしくはサッジェード読みを意図したSageed、Sagedもあるが、原語での発音との乖離が大きい上に別の男性名 سَاجِد [ sājid ] [ サージド ] の英字表記バリエーションと一部かぶるため、よく確認の上でカタカナ化する必要あり。】
母音記号あり:صَدَّام [ ṣaddām ] [ サッダーム ] ♪発音を聴く♪
Saddam、Saddam
数多く(/何回も/たびたび)ぶつかる(者)、衝突する(者);何回も敵と激しく衝突して駆逐する(者)、戦闘で大いに激突し敵を撃退する(者)、戦闘において激しく暴力的に敵と激突する(者)
■意味■
「大いに~する者」「激しく~する者」「何回も~する者」という意味合いを添える能動分詞の強調語形 فَعَّالٌ [ fa’’āl(un) ] 型で、通常の能動分詞 صَادِم [ ṣādim ] [ サーディム ](衝突する(者)、ぶつかる(者);衝撃的な)よりも意味が強い。
具体的には部族抗争や戦争などにおいて敵とガンガンぶつかり合い自ら奇襲をかけて突っ込んでいくような強者、敵と激しくぶつかり合ってボコボコにして遠くへと追いやり撃退する者、戦闘で率先して敵陣に突っ込んでいき力技で相手を叩きのめしていく強い戦士のことを指す。人名辞典によっては「強い(漢)、つわもの(の)」という意味を掲載していることも。
比較的遊牧民色・ベドウィン色が強めの人名だとされる。古いアラブ人名には敵陣に向かって突っ走っていく勇猛な戦士を表すものが複数あるが、サッダームもその一つ。彼の息子の名前 عُدَيّ [ ‘udayy / ‘udaiy ] [ ウダイイ/ウダイィ ](ウダイイ、ウダイ)も同系統で、そちらは「走る者、敵へと向かって攻撃を仕掛けんと進撃する軍団、敵と戦うべく走り急ぐ兵士たち」の意。
ちなみに صَدَّام [ ṣaddām ] [ サッダーム ] の語形は同じ動作を繰り返すという意味合いを示すことから特定の機能を与えられた道具の名称として使われることが多く、現代においては車のバンパーという意味で用いられることもある。
■この名前を持つ有名人物■
イラクの元・大統領であるサッダーム・フセインのファーストネームとして有名。
ネットではこの名前の意味が「直進する者」「困難に立ち向かう者」と紹介されていることもあるが、サッダームという語を構成する語根 ص - د - م(ṣ-d-m)は衝突や激突といった何かにぶつかることを示すため、直進という訳が適切だとは言いがたい。
実際、どのアラビア語のアラブ人名辞典そしてアラビア語大辞典類でもサッダームを直進する者や困難に立ち向かう者とは定義しておらず、部族民的視点・アラブ民族による抗争という視点から見た場合の果敢で勇猛な男といったイメージで命名されてきた男性名であることを示唆している。
■発音と表記■
方言で長母音āがēになるマグリブ(北アフリカ)方言などのサッデーム寄り発音に対応した英字表記Saddeem、Saddemなども見られる。2個連なっている-dd-を1個に減らしたSadaam、Sadamという英字表記も存在するがサダーム、サダムではなくサッダームという発音を前提としたつづりであり、別途サダームたサダムという人名があるわけではない。日本語におけるカタカナ表記ではサッダーム、サダーム、サダムが混在。一般記事ではサダムが多い。
母音記号あり:صَدِيق [ ṣadīq ] [ サディーク ] ♪発音を聴く♪
Sadiiq、Sadiq、Sadeeq
(誠実な)友、友人、親友
■意味と概要■
動詞 صَدَقَ [ ṣadaqa ] [ サダカ ](本当のことを言う、真実を言う;実直である、誠実である)と関連がある名詞。この動詞を他動詞として解釈した場合、サディークは動作主・行為者であることを示す能動分詞の強調語形という解釈になり、「大変誠実である人」というニュアンスになるという。
また自動詞として解釈した場合には صِدْق [ ṣidq ] [ スィドク ](誠実、正直、実直)がたった1回きりではなく、数回続いたり一定期間維持されたりすることで「正直である」「実直である」という継続的な性質を備えている(=形容詞的)という分詞類似語としての解釈「誠実な(人)」になるという。
古典文法的には男女同形が許される فَعِيلٌ [ fa‘īl(un) ] [ ファイール(ン) ] 語形なので、中世のアラビア語大辞典には ة(ター・マルブータ)無しの صَدِيقٌ で男性形と同形でも「女性の友人」という意味を表せるとの記載あり。同様に単数・男性形と同じ صَدِيقٌ でも男性複数・女性複数を表すことが許容されているが、現代ではそのような用例はまず見かけられない。
名詞として簡単に訳せば「友人、親友」となるが、アラビア語大辞典等に載っている定義によると具体的には自分にとって誠実で信頼できる交友関係を結んでくれる親友、実直に接してくれかつ自分の言うことをむやみに肯定するのではなく正しい助言を与えてくれるような友人のことを指す。
同じ語根からなる姉妹語の صَادِق [ ṣādiq ] [ サーディク ](正直な、嘘をつかない;実直な、誠実な、約束を違えない)に比べると比較的マイナーなファーストネームの部類。
■発音と表記■
アラビア文字表記では母音記号が無いと姉妹語である別の男性名 صِدِّيق [ ṣiddīq ] [ スィッディーク ]((とても、大いに、常に、いつも必ず)誠実な、実直な、正直な、約束を果たす、有言実行の(者);預言者に下された啓示を嘘つき呼ばわりすることなく正しいとみなしアッラーの教えをしっかり信じている(者))と全く同じになってしまうので英字表記や実際の発音を聞いて確認する必要がある。
英字表記では長母音 ī(イー)は2文字連ねた ii よりも1文字だけの i に減らしたSadiqが多用されるが、姉妹語である別の男性名 صَادِق [ ṣādiq ] [ サーディク ] の英字表記バリエーションとかぶってしまうのでまぎらわしい。また長母音 ī(イー)を2文字連ねた ee で表す当て字もあるが、1文字に減らしたSadeqもあり、こちらも別男性名 صَادِق [ ṣādiq ] [ サーディク ] の口語発音サーデクに対応した英字表記Sadeqとかぶるため要注意。
英字表記がSadiiq、Sadiq、Sadeeq、Sadeqとなっている場合、元のアラビア語表記と発音が صَدِيق [ ṣadīq ] [ サディーク ] なのかどうかをチェックした上で日本語カタカナ化。サディークとする。なとサディクは日本語的カタカナ表記なので原語発音とは異なる。なおアラビア語としてはSadiqをサッディク、Sadeqをサデク、サッデクとしないことを推奨。
Sabaah、Sabah
朝、午前
【 مَسَاء [ masā’ ] [ マサー(ゥ/ッ) ](夕方、晩)の反対語。通常は女性名として用いられるが、男性名として命名されることもある。
クウェート首長家の名称についてはこの صَبَاح [ ṣabāḥ ] [ サバーフ ](朝)という意味だと説明している人名辞典もあるが、別の男性名 صُبَاح [ ṣubāḥ ] [ スバーフ ](美少年、美男子;灯火の炎)だとしている人名辞典も複数ある。
そのためアラブのメディアでは家名を آل صُبَاح [ ’āl(u) ṣubāḥ ] [ アール・スバーフ ](アール・スバーフ、「スバーフ家」の意)もしくは定冠詞を伴って آل الصُّبَاح [ ’āl(u) ’aṣ-ṣubāḥ ] [ アール・ッ=スバーフ ](アール・アッ=スバーフ、「アッ=スバーフ家」の意味)と発音していることが少なくなく、英語で書かれた専門書や現地サイト等で「Al Subah」「al-Subah」といった表記が存在するのもそのため。
なおサバーフ(実際の発音はサバーハに近い)と似た人名としてはサッバーフ(実際の発音はサッバーハに近いこともある)があるが、これは語根という基本となる子音3文字パーツを صَبَاح [ ṣabāḥ ] [ サバーフ ](朝、午前)と共有している姉妹語で صَبَّاح [ ṣabbāḥ ] [ サッバーフ ](大いに輝いている、とても輝いている(もの);朝に来る(者);朝の飲み物を注ぐ(人);朝に飲食される(物))という語形違いの別男性名。】
【 日本における学術的・標準的なカタカナ表記ではサバーフとなるが、日本語のフはいわゆる「f」であるため原語での発音はむしろサバーハに近い。そのためこの人名のカタカナ表記ではサバーフ、サバーハ、サバハが混在。さらに語末の-ahを英語のように「アー」と伸ばしたサバー、サバというカタカナ表記も見られる。
なお日本人の耳にはサバーハに近く聞こえる可能性が高いとは言うものの صَبَاحَة [ ṣabāḥa(h) ] [ サバーハ(フ/ハ) ](美しさ、美貌)程にはっきりと「サバーハ」と聞こえる訳ではないので、厳密に発音する場合は全く同じ読み方をしないよう要注意。】
Sahl
容易な、平易な、簡単な;(坂や地面などの凸凹が少なく)なだらかな、平野
許すこと、赦し、寛大であること
[ 最後の子音hは喉の奥を狭めハッと発音するので、サマーハに近く聞こえることも。なおSamahのahは英語のアーのように長母音で伸ばすわけではないので、サマーとしないよう注意。]
Samiir、Samir、Sameer
(晩・夜になされる会話・会談・談話で)話をしている(人)、話者、話し手;(晩・夜になされる会話・会談・談話における)話し相手、同席者;(話・歌・音楽などで無聊を慰め)楽しませる人、エンターテイナー
【 動詞 سَمَرَ [ samara ] [ サマラ ](夜に会話をする)より。通常の能動分詞 سَامِر [ sāmir ] [ サーミル ] よりも回数が多いことを示すなどする強調の意味合いがある語形 فَعِيلٌ [ fa‘īl(un) ] [ ファイールン ] 型にあてはめたもので、ここでは度合いの違い以外は通常の能動分詞とあまり変わらない意味合いとなる。
通常の能動分詞 سَامِر [ sāmir ] [ サーミル ] 同様、سَمِير [ samīr ] [ サミール ] も سَمَر [ samar ] [ サマル ](夜の語らい、夜に行う談話)の動作主・行為者であること、またその話し相手であることを示す。
サマルの元来の意味は「夜の会話」で砂漠などの屋外で月明かりを浴びながら語らうことなどを指した。同席者は友達同士とは限らず、家族・知人・地域住民・座談会参加者・親友など色々な関係性で結ばれた者同士が参加者・同席者となり得る。知人と歌・ごちそう・踊りを楽しんでワイワイするエンターテインメント、楽しい夜更かし、夜遊びという意味合いは後代になってから加わった用法だという。
預言者ムハンマドの時代には現代よりも سَهَر [ sahar ] [ サハル ](夜遅くまで起きていること、夜更かしすること)と سَمَر [ samar ] [ サマル ](夜の語らい、夜に行う談話)との区別がもう少しはっきりしており、「翌朝明け方の礼拝を寝過ごしてしまわないよう、サマル(夜の会話)は早めに終わらせ就寝すべきである」といった教えも残っているなどする。
一方、ペルシア的色彩が強めだったアッバース朝時代は宮廷内での飲酒が行われカリフの話し相手・飲み仲間・詩作披露係として نََدِيم [ nadīm ] [ ナディーム ] と呼ばれる立場の人物が複数存在。(彼らの一人が『千夜一夜物語(アラビアンナイト)』にも登場する詩人アブー・ヌワース。)
彼らのように酒を飲みながら芸能を楽しみ歓談する行為もアラブの文献では سَمَر [ samar ] [ サマル ] と描写していることも少なくなく、نَدِيم [ nadīm ] [ ナディーム ]((飲む際の、宴席での)同伴者、同席者;飲み友達、飲み仲間、呑み友達、呑み仲間;仲間、友達、親友)と سَمِير [ samīr ] [ サミール ] が似たような意味で使われたりもしている。
上記のように、サミールは必ずしも「夜のおしゃべりを楽しむとても仲の良い友人」「親友」という意味になる訳ではないため、状況や文脈に応じて和訳する必要あり。】
【 長母音ī(イー)を示すeeが1文字に減らされたGhareb、Garebも使われているがガレブではなくガリーブという発音を意図しているつづりなので要注意。
日本語におけるカタカナ表記としてはサミール、サミルが混在。なおサミル、Samir、Samerという英字表記の場合は違う男性名 سَامِر [ sāmir ] [ サーミル ]((晩・夜になされる会話・会談・談話で)話をしている(人)、話者、話し手;(話・歌・音楽などで無聊を慰め)楽しませる人、エンターテイナー)と混同しやすく、しかも英語圏ではサーミルのような名前の長母音が後半にずれてサミールと読まれる可能性があり英語風発音が参考にならないこともあるため、元のアラビア語表記を見ないと区別ができなかったりする。 】
正しさ、善良、高潔、信心深さ;(宗教的)救済
[ 最後の子音hは喉の奥を狭めハッと発音するので、サラーハに近く聞こえることも。なおSalahのahは英語のアーのように長母音で伸ばすわけではないので、サラーとしないよう注意。]
Salaah al-Diin、Salaah al-Din、Salah al-Diin、Salah al-Din、Salahddinなどなど
宗教(=イスラーム)の正しさ・善良・高潔・敬虔
■意味■
いわゆるサラディンのこと。その人物が人として・イスラーム教徒として非常に品行方正で立派であることを意味する呼び名で、中世においてイスラーム教に対し功績を挙げた統治者・指揮官級人物を讃える لَقَب [ laqab ] [ ラカブ ](称号、尊称)として使われていたものが男性名に転じた。
2語からなる複合語で、名詞 صَلَاح [ ṣalāḥ ] [ サラーフ / サラーハ ](正しさ、善良、高潔、敬虔)と定冠詞+名詞 اَلدِّين [ ’ad-dīn ] [ アッ=ディーン ](宗教、信仰)からなる。アラビア語大辞典などによると、前半のサラーフは腐敗・退廃・汚職の対義語で清く正しい言動をする善良・高潔な人物であること、またイスラーム教徒として礼拝や戒律・各種義務(カアバ神殿への巡礼を果たす、飲酒しない、豚肉を食べない、姦淫にふけらない、貧者に施しをする等)をしっかり守り信心深く品行方正に生きていることを示すという。後半部分のアッ=ディーンは定冠詞つきのため英語の「the Religion」に相当し、特定宗教であるイスラーム教のことを指す。
日本語の本やサイトでは「信教の救い」、「信教の誉れ」など掲載されているなど訳はまちまちだが、アラビア語諸辞典における語義説明は上記の通り。英語でも高潔さ・品行方正ぶりといった意味合いに対応した「righteousness of the religion」といった訳が見られる。
■十字軍と戦った英雄にちなんでの命名■
アラブ・イスラーム世界では十字軍との戦いで活躍したアイユーブ朝のクルド系英雄サラーフッディーン(サラーフ・アッ=ディーン)にあやかって命名されている。彼の本名・ファーストネーム自体は يُوسُف [ yūsuf ] [ ユースフ ]。イスラームにおける預言者の名前で聖書のヨセフに対応。しかし彼の場合称号の方で世間から認知されるようになり後代まで伝えられることとなった。ファーティマ朝カリフから授けられた別の称号も持っているが、一番有名なのはサラーフッディーン(サラーフ・アッ=ディーン)となっている。(調べたところ誰が最初にこの別名を授けたのかという情報は見当たらず。)
アラブに限らずトルコなども含めた中東イスラーム諸国ではリーダーシップを発揮し軍事に力を入れている大統領やイスラーム武装組織の指導者が「現代のサラーフッディーン」「サラーフッディーン2世」「2代目サラーフッディーン」という称号にふさわしいかどうか議論されることもあり、共同体に劇的戦果をもたらした英雄というイメージと結び付けられるなどしている。
弱体化し劣勢にあったイスラーム共同体を救った英雄というイメージから好まれている名前となっているが、現代アラブ諸国では2語1セットのような複合語の命名件数が昔に比べると減少傾向にあり、偉人サラーフッディーン(サラーフ・アッ=ディーン)をイメージしつつも前半部分のみの صَلَاح [ ṣalāḥ ] [ サラーフ / サラーハ ](正しさ、善良、高潔、敬虔)とのみ名付けるケースも増えてきている。
■アラビア語での発音■
日本語のカタカナ表記では複合語の発音を区切ってサラーフ・アッ=ディーンなどと書かれていることもあるが、実際には息継ぎせず一気読みされるため文語的な発音はサラーフッディーンとなる。
前半の صَلَاح [ ṣalāḥ ] [ サラーフ / サラーハ ] はサラーフとカタカナ表記することが多いが実際にはサラーハと聞こえやすい。そのため日本語のカタカナ表記ではサラーハ・アッ=ディーン、サラーハ・アッ・ディーン、サラーハ・アッディーンなどと書かれていることがある。
この人名は複合名なので分かち書きをすればとサラーフ・アッ=ディーンとなるものの、「サラーフ / サラーハ」の直後に定冠詞+ディーンより成る「アッ=ディーン」を息継ぎ無しで一気読みする際はサラーフの語末についた格母音(主格はu、属格はi、対格はa。通常人名として単独で言う場合は主格の「u」をつける。)がはっきり現れるので صَلَاح [ ṣalāḥ ] [ サラーフ / サラーハ ] ではなく [ ṣalāḥu ] [ サラーフ ] に変わる。
後半の2語目は定冠詞 اَلْـ [ ’al- ] [ アル= ](al-)+名詞 دِين [ dīn ] [ ディーン ] の組み合わせだが、定冠詞の「l」は直後に調音位置が近い子音が来ると同化してしまうため「d」に同化。اَلْدِين [ ’al-dīn ] [ アル=ディーン ] ではなく اَلدِّين [ ’ad-dīn ] [ アッ=ディーン ] という促音化した発音に変わる。そのためサラーフ・アル=ディーン、サラーフ・アル・ディーンのようなカタカナ化は実際のアラビア語発音から離れておりかつアル部分の発音がアラビア語として行うべきアッ化に従っていないことからかなり不自然だとも言える。
定冠詞語頭の [ ’a ] [ ア ] 部分は前に他の語が来て息継ぎ無しで一気読みすると発音が脱落。複合語全体では صَلاَح الدِّين [ ṣalāḥu-d-dīn ] [ サラーフ・ッ=ディーン ] という発音になる。しかし学術的表記も含めこの定冠詞の発音変化を反映させず常に「al-」で通す英字表記が多く使われており、本来はアッ=ディーンと読むにもかかわらずアル=ディーンなどとカタカナ化される一因となっている。
■英語や日本語における表記■
ディーンの長母音「ī(イー)」に関してはDiin、-ii-を1個に減らしたDin、Deen、-ee-を1個に減らしたe、Deanといった英字表記バリエーションが存在。ディーンもしくは短くつまってディンとなった発音を意図したものなので、デンやデアンとカタカナ化しないことを推奨。
前半部分と後半部分のつづりバリエーションを合わせた結果としてSalaah al-Diin、Salaah al-Din、Salah al-Diin、Salah al-Din、Salaah al-Deen、Salah al-Deen、Salaah al-Dean、Salah al-Dean、Salaahuddiin、Salaahuddin、Salahuddiin、Salahuddin、Salaahuddeen、Salahuddeen、Salaahuddean、Salahuddean…といった英字表記が使われ得る。
口語(方言)ではサラーハッディーンになることが多く、さらに長母音が短くなってサラフッディン、サラハッディンに近く聞こえることも。また、後半部分の2個連なる-dd-を1個に減らした英字表記も使われている。
前半部分最後の子音 ح [ ḥ ] は喉狭めハァッと発音するのでアラビア語でははっきり聞こえるが、英字表記でSalahなどとなることから英語のahのように「アー」と長母音で伸ばすものと理解され、日本ではサラーとカタカナ表記されることも少なくない。英語での表記と発音が Saladin [ sǽlədin ] [ サラディン ] なのもそうした事情が関係している。
日本語のカタカナ表記としてはサラーフッディーン、サラフッディーン、サラーフ・アッディーン、サラーフ=アッディーン、サラディン、サラディーン、サラーディーンなど色々なパターンが見られる。
Saliim、Salim、Saleem
(被害・事故・損害・病害・不信仰から)無事な、免れて;無傷の、健康な、安全な;負傷した(人)、(ひどい)噛み傷を負った(人)、死にかけている(人)、瀕死の(人)
【 動詞 سَلِمَ [ salima ] [ サリマ ]((被害・事故・損害・病害から)無事である、免れる;無傷である、健康である)より。無事に成長してけがや死を免れますように、という親の願いが込められた名前。この人名の縮小語形 سُلَيْم [ sulaym / sulaim ] [ スライム ] も古くから使われてきた伝統的なアラブ人名で部族名にもなった。
オスマン朝第9代君主セリム1世の「セリム(Selim)」はこの男性名 سَلِيم [ salīm ] [ サリーム ] のトルコ語風発音。
語根 س - ل - م(s - l - m)が無事・健康を意味する語に多用されるにもかかわらず「負傷した(人)」「(ひどい)噛み傷を負った(人)」「死にかけている(人)、瀕死の(人)」という真逆の意味が人名辞典に同時掲載されている。これは中世のアラビア語大辞典に既に掲載されていた婉曲表現。
他動詞の目的語としての受動態的な意味としての فَعِيلٌ [ fa‘īl(un) ] [ ファイールン ] 語形で内容的には「けがを負わされた」「噛まれた」「病気や負傷で死にそうだ」という不吉な被害内容を示すにもかからわず、「無事治りますように」「この人はやがて元気になる」との前向きな願い・願掛けから真逆の語義を持つこの سَلِيم [ salīm ] [ サリーム ] で表現したことが由来だという。】
【 英語のknee(ニー)のように長母音ī(イー)を「ee」で表したSaleemという英字表記があるが、2つ連なるeeを1個に減らしたSalemというバージョンも存在。
英字表記Salim、Salemは同じ語根からなり似たような意味を持つ別の男性名 سَالِم [ sālim ] [ サーリム ]((被害・事故・損害・病害・不信仰から)無事な、免れて;無傷の、健康な、安全な)の英字表記バリエーションとかぶるので原語であるアラビア語における発音や表記で確認しないと区別が難しい。
日本語におけるカタカナ表記はサリーム、サリム。】
Salmaan、Salman
健全な、無傷の、欠陥が無い
【 預言者ムハンマドの教友だったペルシア人信徒サルマーン・アル=ファーリスィー(直訳は「ペルシア人のサルマーン」の意味)の名前としても知られる。】
母音記号あり:سَرْمَد [ sarmad ] [ サルマド ]
Sarmad
(始まりも終わりも存在しないような「時」という概念を超越した)永久、永遠;((途絶えることが無い)昼夜の)永続;(夜などが)長い
■意味と概要■
イスラームの聖典クルアーン(コーラン)にも登場し、哲学やイスラーム神秘主義用語としても使われてきた名詞。文法学者らの解釈によると、元々は سَرْد [ sard ] [ サルド ](後続、連続)という語で昼や夜の時間が途切れること無く連続している様子を「後続、連続」という語義のある語根「س-ر-د(s-r-d)」に当てはめたが、ر(r)とد(d)の字の間に語義を強調するために余剰の م(m)を挿入。「連綿と続く、ずっと続く、いつまでも果てしなく長く続く」といったニュアンスが加わった語形だという。
男性名としてはイラクに多く、アラブ世界ではそれ以外の国では少ない人名だとか。「永続する」という意味ではあるものの不死身を願うという訳ではなく「長生き」というニュアンスで命名されるものだとのこと。
母音記号あり:جِهَاد [ jihād ] [ ジハード ] ♪発音を聴く♪
Jihad、Jihaad
【広義】努力、奮闘;【狭義】ジハード(イスラームにおける対異教徒戦争、通称"聖戦")
■意味と概要■
アラブ人名辞典には「男性名・女性名の両方として使われる」と記載されているが、実際のアラブ諸国では「ジハードは男性名」という認識が強めでSNSなどでは「ジハードは男児につける名前」「ジハードって名前の女の子がいるの?」といった雑談がなされていることも。しかしながらエジプトにはこの名前を持つ女性政治家がいるなどジハードの名前を持つ女性も一定数ながら存在する。
ジハードはアラビア語の派生形第3形動詞 جَاهَدَ [ jāhada ] [ ジャーハダ ](努力する、奮闘する)の動名詞で「努力すること、奮闘すること」を意味。宗教用語としては崇高な目的のために尽くす精神的もしくは実践という形での努力全般や奮闘を指し、イスラーム教界隈やアラビア語圏のキリスト教界隈(例:اَلْجِهَاد الرُّوحِيّ [ ’al-jihādu-r-ruḥī(y) ] [ アル=ジハードゥ・ッ=ルーヒー(ュ/ィ) ](アル=ジハード・アッ=ルーヒー、spiritual struggle、「霊的闘争、霊的闘い、精神的苦闘」の意))などで用いられている。そのためジハードという人名はイスラーム教徒に限らずキリスト教徒の命名に用いられることもある。日本人名に置き換えると「努(つとむ)」や「闘介(とうすけ)」といった男性名が近い。
イスラームにおいては広義には言葉・行動・資産などを尽くすことによって行われる自己との向き合い・宗教的努力、狭義には異教徒との戦争(通称"聖戦")を指すが、後者の意味である「アッラー(神)のために敵と戦うこと」「(イスラームという)宗教を護るために戦うこと」をこの人名の第一の語義として挙げているアラブ人名辞典も存在。近現代では植民地主義やアラブ世界を蹂躙する側との闘争をジハードと位置付け立ち向かう者を英雄とみなしてきたため、ジハードという名前はプラスのイメージをもって命名される人名だった。
ところが原理主義的運動の台頭や諸外国における無差別テロ事件などの発生によりイメージが一変。特に9・11事件以降はジハード=イスラームのテロという印象が強まったことから「ジハードは無差別テロの英雄となることを願って命名された名前である」「ジハードという名前を持っているからテロに賛同しているのではないか」などと誤解されやすいようになり、ジハードという語自体が欧米の街中では気軽に叫べない言葉となってしまい、ジハード主義者やタクフィール主義者として扱われるといった社会的な不利益を恐れ改名する者も出るに至ったという。
実際、ドイツやフランスに関してはイスラーム教徒移民による過激派イスラーム主義活動を警戒しジハードという新生児名の申請が認められなくなった・命名希望者が法廷で争うなどした、SONYのPlayStation Networkにおいて本名のジハード(Jihad)で登録した男性が攻撃的かつ他ユーザーを不快にさせるユーザーネームを用いたとしてBANされたといった、社会的に許されざる人名となった事例が日本国内外メディアでも報じられるなどしている。
なおジハードという名前は祖父からそのまま同じ名前をもらうというアラブ人のよくある命名方式に即したもので特に思想的・宗教的な命名動機が無いケースも考えられる。人名自体は親など命名者の意志により選ばれたものなので、ジハードという名前を持っていても本人が対異教徒戦闘という意味でのジハードに肯定的である証拠とはならず使うことを嫌がっているケースも存在する。努力ではなく対異教徒戦闘という語義を意図した命名の場合その名を持つ本人の意志は関係無く、中東戦争に感化されたとかパレスチナ問題に共感したといった命名者側の思想を反映しているものなので、その子が同様にジハードとしての対植民地主義支配・対異教徒戦争に肯定的であるかどうかはまた別の問題となる。
加えて本人の年齢が若くない場合に関しては、命名当時諸外国における「ジハード」という言葉のイメージも異なっており、アラブ諸国におけるイスラーム主義的傾向を持った人物への取り締まり状況も違っていたであろう点を考慮する必要があると思われる。(イラクのネット記事にはジハードという名前を持つサービア・マンダ教徒男性が、ウサーマ・ビン=ラーディン(ウサーマ・ビンラーディン、オサマ・ビンラディン)らによって引き起こされた9・11事件以降名前のせいで齢七十にしてとばっちりによる誤解を受けるようになり、イスラーム教徒ではないと説明しても欧米の空港で過激派との関係を疑われ引き止められ苦労したといった話題が載っている。)
■発音と表記■
ジの発音をJiではなくJeで当て字をしたJehad、Jehaadという英字表記も見られる。
また英単語のgeneral(ジェネラル)のようにジという発音をgで当て字をしたGihad、Gihaad、Gehad、Gehaadといった英字表記もあるが、GehadやGehaadについてはゲハド、ゲハッド、ゲハード、ゲハーッド、ジェハド、ジェハーッドとカタカナ表記するような発音ではなく単にジハードを意図している可能性もあるため音声などでの確認が必要となってくる。(ただし英語ニュースなどだとGehadをゲハードと読んでいたりする。)
加えて、エジプト首都カイロ周辺方言のようにj音がg音に転じる地域ではギハードという発音になる。その場合の英字表記はGihad、Gihaad、Gehad、Gehaadなど。この場合は上の例と違い、ジハードではなくギハードという発音を意図してのG当て字となっている。フランス語の影響が強いマグリブ諸国(チュニジア、アルジェリア、モロッコ等)やフランスに移住したアラブ系・イスラーム教徒などの場合はjの前にdを置いてDjihad、Djehadのように表記することが広く行われているが、これをドジハド、ドジハッド、ドジハード、ドジェハド、ドジェハッド、ドジェハードのようにカタカナ化しないよう要注意。
炎;星、流星
[ アラビア語では物事~学問・戦闘において鋭い感覚を持ち巧みな腕を有する有能な人物をこのシハーブ(星、流星)に例える。]
[ 口語的な発音でiがeに転じシェハーブに近く聞こえるケースに基づいたShehaab、Shehabという英字表記も多い。なお日本語では長母音を復元しないシハブというカタカナ表記が見られる。 ]
信仰の星・流星、宗教(イスラーム)の星・流星
[ アラビア語では物事~学問・戦闘において鋭い感覚を持ち巧みな腕を有する有能な人物をこのシハーブ(星、流星)に例える。]
[ 口語的な発音でiがeに転じシェハーブに近く聞こえるケースに基づいたShehaab、Shehabという英字表記も多い。 ]
感謝している(者)、称賛している(者)→神の恩恵に対し感謝し称える者
[ 口語的な発音ではiがeに転じてシャーケルと聞こえる。その場合の英字表記はShaaker、Shaker。]
Jaasim、Jasim
大きな、大いなる、巨大な
【 アラビア半島付近では砂漠地域や農村部を中心に ق [ q ] の音を ج [ j ] に置き換えて発音する方言が複数あるためそれら方言話者の場合は قَاسِم [ qāsim ] [ カースィム ](分割する者、(公平に)分配する者;顔が美しい)が [ qāsim ] [ カースィム ] ではなく [ jāsim ] [ ジャースィム ] と読まれる。
複数のアラブ諸国において実在した歴史上の有名人物とその父/息子との親子関係からの連想に基づく أَبُو ـــ [ ’abū ◯◯ ] [ アブー・◯◯ ](◯◯の父)というあだ名が子供から大人まで広い年代の男性に対して使われる慣習があるが、مُحَمَّد [ muḥammad ] [ ムハンマド ] が أَبُو جَاسِم [ ’abū jāsim ] [ アブー・ジャースィム ](ジャースィムの父)と呼ばれるのは連想の元となった預言者ムハンマドの夭折した男児の名前が قَاسِم [ qāsim ] [ カースィム ] で、それを口語発音の جَاسم [ jāsim ] [ ジャースィム ] に置き換えたことが由来となっているという。】
【 口語的にiがeに転じてジャーセムに近くなった場合の英字表記はJaasem、Jasem。sを2個連ねてssと英字表記したJaassim、Jassim、Jaassem、Jassemもあるが、フランス語圏における濁点化防止のためのつづりであるなどするためジャーッスィム、ジャッスィム、ジャーッセム、ジャッセムと読ませる意図は特に無いので要注意。またjの代わりにgを用いたGasim、Gaasem、Gasem、Gassemなどもある。エジプト首都カイロならびに周辺地域方言、イエメン、オマーン、サウジアラビアなどの一部方言のように ج [ j ] が [ g ] で発音される場合はガースィム(時にはギャースィムに近いことも)と聞こえるため、このgを使った英字表記は主にそれらの方言における発音に対応している。
なお日本語のカタカナ表記ではジャースィム、ジャスィム、ジャーセム、ジャセムなど。si(スィ)音にシ(shi)を当てる日本語のカタカナ表記によくある子音の置き換わりが反映されアラビア語だと全く別の意味になってしまう系統のジャーシム、ジャシムや非アラビア語(英語等)圏における発音の影響などが考えられる長母音位置がずれたタイプのジャスィーム、ジャシームなども見られる。】
ジャーダッラー(ジャーダ・アッラー)
جَادَ اللهُ [ jāda-llāh(u) ] [ ジャーダ・ッラー(フ) ]
Jaadallah、Jadallah、Jaada Allah、Jada Allah、Jaad Allah、Jad Allah
アッラーは寛大であられる、アッラーは寛大にも恵みをお与えになった
■一部人名辞典・書籍での母音記号・発音表示
ジャードゥッラー(ジャード・アッラー)
جَادُ اللهِ [ jādu-llah ] [ ジャードゥ・ッラー(フ) ]
Jaadullah、Jadullah、Jaadu Allah、Jadu Allah、Jaad Allah、Jad Allah
アッラー(神)からの贈り物、アッラー(神)からの恩恵
【 元々は جَادَ اللهُ [ jāda-llāh(u) ] [ ジャーダ・ッラー(フ) ](アッラーは寛大であられる、アッラーは寛大にも恵みをお与えになった)というVS型の動詞文。アラブ人名にある色々なファーストネームの由来のうち主語と述語からなる文章タイプに属する。جَادَ [ jāda ] [ ジャーダ ] は動詞完了形(くぼみ動詞、第2語根弱文字動詞)。
文法書の解説によると تَاَبَّطَ شَرًّا [ ta’abbaṭa sharran ] [ タアッバタ・シャッラン ](「彼は脇に悪を抱えた」という意味の主語込み動詞完了形+目的語の名詞。イスラーム以前ジャーヒリーヤ時代のサアーリーク(無頼)詩人の代表的存在だった男性のあだ名。脇に抱えていた物が何だったかに関しては諸説あり。)等と同様、動詞+主語の時のままの جَادَ اللهُ [ jāda-llāh(u) ] [ ジャーダ・ッラー(フ) ] で母音記号を打つ。主格・属格・対格のどれにおいても全てこの語形のままとし見た目上の語尾活用が見られないため、複合名ジャーダッラーに対し仮想の主格ダンマ・属格カスラ・対格ファトハがつくと解釈するのが適切である模様。
しかしながら人名辞典他には複合固有名詞化したということで جَادُ اللهِ [ jādu-llah ] [ ジャードゥ・ッラー ] という語尾活用になっている例も複数見られる。】
【 英字表記ではジャーダッラー系とジャードゥッラー系が混在。
ジャーダッラー系の発音~対応する英字表記はJaadallah、Jadallah。さらに口語的な発音になると最後のhは発音せず短くなりジャーダッラとなるためh無しのJaadalla、Jadallaといった表記も見られる。
ジャードゥッラー系の発音~上と同様に文語風の英字表記はJaadullah、Jadullahなど。口語だとuがo寄りになる、hが読まれないといった事情からジャードゥッラ、ジャードッラー、ジャードッラといった発音に。対応した英字表記としてはJaaduldla、Jadulla、Jaadollah、Jadollah、Jaadolla、Jadollaなどが考え得る。
エジプト首都地域方言などj音がg音になる地域ではガーダッラーという発音に対応したGaadallah、Gadallah、Gaadalla、Gadalla、Gaadullah、Gadullah、Gaadulla、Gadulla、Gaadollah、Gadollah、Gaadolla、Gadollaといった表記が派生し得る。ただし男性名ジョージのつづりGeorgeのようにGadallaと書いてあってもジャーダッラと発音することを意図している場合があり、G始まりのつづりを使っている=エジプト系アラブ人とは限らない。
なお現代アラブ諸国では複合名の間に本来空けるべきスペースを入れない文語正書法(正字法)に従わないつなげ書きが広く行われており、جاد اللهではなくجاداللهとタイピングされていることが珍しくない。】
歌い手、歌手
[ shadyというつづりの場合は英語のshady(シェイディー)と同じつづりなので間違えやすいが、a部分を二重母音で読むことはせず長母音āに復元してシャーディーと読む必要がある。 ]
母音記号あり:شَاهِين [ shāhīn ] [ シャーヒーン ] ♪発音を聴く♪
Shahin、Shaahiin、Shaheenなど
ハヤブサ(falcon);タカ(hawk)
■意味と概要■
中期ペルシア語(パフラヴィー語)起源の名詞が由来。ペルシア語である شاه [ shāh ](王)と名詞を形容詞化する接尾辞 ين からなる複合語で「王の(kingly)」という意味を持つとのこと。
鳥の種類の科学的な分類が確立していなかった大昔から使われていた語ということもあり、ハヤブサ(falcon)以外にタカ(hawk)となっていたりと指す内容・訳はまちまちの模様。現代になってから研究の結果を受けタカ目ハヤブサ科からハヤブサ目ハヤブサ科に変更されたため、1960年代に出版されたアラビア語辞典だと「タカ(الصقر)の仲間」(صَقْر [ ṣaqr ] [ サクル ])と書いてあったりする。
■発音と表記■
この人名についてはシャヒーンという日本語カタカナ表記が多い。サウジアラビア人らの監修によって作られた鉄拳(TEKKEN)キャラクターであるサウジアラビア人戦士シャヒーン(Shaheen)がその代表例。キャラクター原案に関わったサウジ人ゲーマー氏の談話によると、当初はラシード(正しく信仰の道に導かれた人)のような名前が候補に挙がっていたもののキャラのイメージに合わないとしてアラブ文化の象徴であり力強いイメージを与えるシャヒーンを提案したのだとか。
文語アラビア語(フスハー)では شَاهِين [ shāhīn ] [ シャーヒーン ] だが、口語アラビア語では語形の都合上途中の長母音「ā(アー)」が短くなって [ shahīn ] [ シャヒーン ] に聞こえることも多い。上記のようなカタカナ表記シャヒーンはそうしたアラビア語方言での発音に対応している。英字表記としてはShahin、Shaheenが多く、他にはShaahiin、Shaahin、Shaaheenなどが用いられている。
2個連なっているeeを1個に減らしたShahen、Shaahenなどもあるが、アラビア語としては原則シャーヒーンであとはたいていがシャヒーンという発音なのでシャーヘーン、シャーヘン、シャヘン、シャーヘンとカタカナ表記しないよう要注意。
またフランス語圏やフランス語の影響が強いモロッコ、アルジェリア、チュニジア、レバノン系アラブ人名の場合はShをChで当て字をするChahin、Chaahin、Chaheen、Chahenさらにはフランス語圏アラブ人名風語尾「-ne」としたChahineなども多用されている。なおこれらはアラビア語発音準拠のカタカナ表記をする場合はシャーヒーン、シャヒーン系の当て字となるため、見たままの当て字であるチャヒン、チャーヒン、チャーヘーン、チャヘン、チャヒネ等としないよう要注意。
なおこの人名の日本語カタカナ表記としてはシャーヒーン、シャヒーン、シャヒンなどが実際に使われている。
Shaahid、Shahid
目撃者;証人、証言者
【 動詞 شَهِدَ [ shahida ] [ シャヒダ ] の能動分詞「~する者/物」語形。英字表記がShahidだと、このシャーヒドという能動分詞を強調した語形である別の男性名 شَهِيد [ shahīd ] [ シャヒード ](殉教者、宗教や祖国のために自らを犠牲をして捧げる者;目撃者(*強調語形なので目撃行為を度々するニュアンス含む);証人)と見た目上区別がつかないので要注意。】
【 口語風発音でiがeに転じてシャーヘドに近くなった発音に対応した英字表記はShaahed、Shahed。】
■キャラ名について■
『ファイアーエムブレム 無双風花雪月』クロード(カリード)兄のシャハドはこの名前の可能性高し。Shahidという英字表記である点、その上日本語カタカナ表記でシャハドとなる点がアラビア語名シャーヒドのパキスタン付近における英字表記などと重なるため。
英語版ではシャヒードと発音しているものの、アラブ式ではナーデルと発音するNaderが英語版でナデール、弟クロードの本名Khalidがハーリド、カーリドではなくカリードと前半にある長母音「ー」が全部後半に移動した発音となっていることから、シャヒードよりもシャーヒドが由来であるパターンが優勢だと思われる。(英語では□ā□i□語形のアラブ人名を□a□ī□のように発音することが多いため。ただし制作陣が2つの紛らわしい男性名を混同していないことが前提の推測。)
貧困者を助ける者、救済者、善行・慈善・施しをする者;接骨医
[ 口語ではiがeに転じてジャーベルと発音されることが多く、英字表記はJaaber、Jaberに。]
シャアバーン月(イスラームのヒジュラ暦における8月)
[ 通常太陰暦であるイスラームのヒジュラ暦8月に生まれた人が命名される名前。シャアバーンは分岐、分断、離散の意味。命名の由来については、ラマダーン月とラジャブ月の間にあって両者を分断しているから、暑さが厳しくなった時期に水を求めて各地に散っていく様を示すから、といった諸説があるという。]
[ 喉の奥を締めつけて発音するアインを示す「‘」部分は英字表記でaaとして書かれるか省略されa1個になることが多い。その場合の英字表記はShaaban、Shabanなど。原語の発音にはシャアバーンもしくはシャァバーンが近いが、英字表記からカタカナ化するとシャーバーン、シャバンというカタカナ表記が生まれることとなる。]
Jaafar、Jafar
(特に小川といった大きさは限定せず)川;小さな川、小川;大きな川、大きくて広い川;水に満ちた川;川のように寛大さにあふれる男;(川のように)乳をたくさん出す雌ラクダ
■意味と文法的解釈■
中世~現代のアラビア語辞書を見ると、جَعْفَر [ ja‘far ] [ ジャアファル ] は「小川」を指すこともあれば逆に「大きくて広い川」を指すこともあるという。単に「川」のことも。ただ元は「川、小川」という意味だが現代では「川男、川太郎」的な発想で命名されるのではなく基本的にはイスラーム史上実在した有名なジャアファル達にあやかってつけられた男性名なのが普通。
文法面では جَعْفَرُ [ ja‘faru ] [ ジャアファル ] という二段変化か?それとも جَعْفَرٌ [ ja‘farun ] [ ジャアファルン ] という三段変化か?という問題がしばしば取り沙汰されるが、古い詩や散文に三段変化の実例があることなどから専門家らによって三段変化のみの名詞だという見解が出されている。
■有名人物■
人名としては、イスラーム初期に実在した預言者ムハンマドの従兄弟で第4代正統カリフ アリーの兄、ジャアファル・イブン・アビー・ターリブのファーストネームなどとして知られる。
従兄弟である預言者ムハンマドにとても良く似た容姿で、困窮者への援助を惜しまない寛大な人物だったと伝えられている。マッカ(メッカ)からエチオピア、マディーナ(メディナ)への移住を経験。勇敢な戦士としても知られ、ムウタの戦いでは両腕を斬り落とされてもなおイスラーム軍の旗を抱えて手放さなかったという。
天の楽園に召される際、失くした両腕の代わりに翼を神より授けられたとされ、双翼の持ち主(2つの翼を持つ者)、飛翔する者といった意味合いの別名を持つ。殉教地であるヨルダン南部に彼の霊廟がある。彼の肖像画(偶像崇拝禁止のため顔は隠されているが)も両肩から大きな翼がのびている構図が多い。
後代における有名なジャアファルとしては千夜一夜物語に出てくるアッバース朝カリフ ハールーン・アッ=ラシードの側近ジャアファル。彼は権勢を誇ったバルマク家(元は仏教徒家系で「バルマク」自体がサンスクリット語由来だとも言われる)粛清の際に斬首され死去。現代にも語り継がれる逸話となっている。
日本の創作物ではバルマク家のジャアファルを念頭に置いたネーミングがなされていることがしばしばあるが、ジャアファルという人名は多くハールーン・アッ=ラシードの妻ズバイダ妃の実父もジャアファルというファーストネームだった。ハールーン・アッ=ラシードとその妻ズバイダがアブー・ジャアファルとウンム・ジャアファルというクンヤ(~の父・~の母という意味の通称)で呼ばれたりと、アッバース朝時代はカリフのファーストネームがジャアファルだったり通称のクンヤがアブー・ジャアファルっだったりする人物が複数いた。
■シーア派に好まれる男性名の一つ■
なおジャアファルは第6代シーア派イマームのファーストネームでもあるため、シーア派信徒が大事にしている名前の一つとなっており男児の命名に用いる傾向が強い。アラビア半島地域などでは「ジャアファルというファーストネームの人=シーア派、スンナ派ではない」という認識があり、ディズニー映画の大臣がジャファーだったころから「アグラバーはシーア派王朝かも」とコメントが書かれる一因となっている。
創作物でアラビア半島中央部や湾岸地方の砂漠地帯の典型的なアラブ人を登場させる場合、王族や首長の名前にジャアファルと命名するとスンナ派王室揃いである現地事情と矛盾する可能性があるので要注意。
■発音と表記■
jaとfaの間に喉を締めつけて出す ع [ ‘ayn / ‘ain ] [ アイン ] という子音が入っているので、アラビア語ではジャアファルもしくはジャァファルという発音になるが、英字表記ではアインを示す「‘」を書かないのが普通で、aで置き換えたJaafarなども使われる。「‘」を置き換えず省略するとJafarという英字表記になる。これらの英字表記がジャーファル、ジャファルというカタカナ名の元になっているものと思われる。
jをgに置き換えてガアファル、ガァファルと発音する地域(エジプト首都近辺など)もあることからGaafar、Gafarと英字表記されていることもある。ただしGaafar、Gafarが必ずしもgetやgoのようなg発音を意図しているとは限らず、ジャアファル、ジャァファルと発音する読みに対応していることもある。
なおar部分は英語風にarを読むとアーとなるが、アラブ圏ではarと読むためアラビア語ではジャーファー、ジャファー、ガーファー、ガファーとは発音しない。
またfを2つ連ねてJaffar、Gaffarなどと英字表記されており日本語ではジャッファール、ジャッファー、ガッファール、ガッファーのようにカタカナ表記されていることもあるが、Jaffarと書いてジャアファル、ジャーファル、Gaffarと書いてガアファル、ガーファルもしくはジャアファル、ジャーファルという発音を意図しているので要注意。これ以外にもジャーファル発音とした上でさらに長母音位置を後方にずらしたジャファールというカタカナ表記も見られる。
特に「Gaffar」は唯一神アッラーの属性名として有名で男性名としても使われることがある غَفَّار [ ghaffār ] [ ガッファール ](大いに赦す、赦し深い)と混同しやすいが、Abd [ アブド ](~のしもべ)というが前に来ずGaffarとのみ単体で書いてあるアラブ人名、イスラーム教徒名英字表記は十中八九「(小)川」という意味のジャアファルの方だと考えて差し支えない。
なおジャアファルの「ア」はアラビア語では喉を力んで発音するため日本語の「ア」と違って力強い響きとなるが、非アラビア語圏では日本語の「ア」と同じ発音に置き換わりやすい。現地語でジャーファルに近い発音をする地域の場合はアラビア語的なジャアファルよりもジャーファルの方が適切なカタカナ表記ということもあり得るので、イスラーム教徒男性名として日本語表記に直す場合は要確認。
憧憬の、熱望の、望みの
[ 厳密には語末を発音するとshawqīy/shauqīyとなるためシャウキーュ、シャウキーィのように聞こえるが、口語など日常的な会話では単なるshawqī/shauqīのシャウキーと聞こえる発音をしていることが多い。この場合はアクセント位置が前方にずれる(→♪発音を聴く♪)。また二重母音のアウは口語でオーやオウのような音に転じやすいため、英字表記でもShooqi、Shouqiなどになっていることがある。またqがkで書かれる場合も少なくなく、その場合はShauki、Shawqki、Shooki、Shoukiなどに。またシリア~エジプトにかけた地域ではqの音が声門閉鎖音のハムザになる方言が多く、シャウイーもしくはショウイーのように発音される。]
大いに感謝している(者)、神の恩恵への感謝と称賛に大いに励む者
[ 「大いに~」という強調の意味がある語形。]
Jad‘aan、Jad‘an、Jadaan、Jadan
鼻を切られた(者)、鼻以外の何らかの部分(耳・唇・手など)の端を切られた(者);(相手の)鼻(や耳・唇・手といった先端部を)を切り取る者、勇敢な
【 砂漠の遊牧民の間で名付けられていた男性名。現代ではマイナーネームとなっている。意味としては形容詞 أَجْدَع [ ’ajda‘ ] [ アジュダウ(実際の発音はアジュダアに近い) ](鼻もしくはそれ以外の耳・唇・手といった先端部が切られて欠損している)と同様の意味。人名辞典によっては能動分詞的な意味で「鼻を切り取る者」で載っていることもある。「勇敢な」というのは能動的な意味の時に戦闘で相手を傷つける→戦って戦果を挙げる→勇敢な、という連想から来る意味合いだと推測される。
エジプトで使われる يا جدعان [ ヤー・ゲドアーン/ゲダアーン ](Hey men.やHey guys.的な意味)という呼びかけは جدع [ gada‘ ][ ガダア ](若者、男性)の複数形なので「ジャドアーン」という名前の人を呼び止めているのとは異なる。】
【 語頭部分がjaではなく口語風発音で母音が変化したjeに転じた読みに対応した英字表記Jed‘aan、Jed‘an、Jedaan、Jedanも。jがエジプト首都地域方言などの発音を受けてgに置き換わったつづりもありGad‘aan、Gad‘an、Gadaan、Gadan、Ged‘aan、Ged‘an、Gedaan、Gedanといった英字表記が派生。】
母音記号あり:شَهِيد [ shahīd ] [ シャヒード ] ♪発音を聴く♪
Shahiid、Shahid、Shaheed
殉教者、宗教や祖国のために自らを犠牲をして捧げる者;目撃者;証人
■意味と概要■
動詞 شَهِدَ [ shahida ] [ シャヒダ ]()の能動分詞「~している;~する者/物」 شَاهِد [ shāhid ] [ シャーヒド ](目撃者;証人、証言者)の強調形。物事を目撃する行為を度々していること、目撃する行為が常態化していることを示唆するニュアンスを含む分詞類似語 صِفَة مُشَبَّهَة [ ṣifa(tun) mushabbaha(h) ] [ スィファ(トゥン)・ムシャッバハ ] と呼ばれるもの。
殉教者という意味ではイスラームのために戦い身を捧げた人物以外にも称賛・評価・同情されるべきプラスの死に対して広く使われており、文脈に応じて殉死者、殉職者、犠牲者、死者という意味に訳すべきケースも少なくない。
■商業作品キャラクター名として■
『ファイアーエムブレム 無双風花雪月』クロード(カリード)兄のシャハドはこの名前ではなくシャーヒドの方の可能性高し。Shahidという英字表記である点、その上日本語カタカナ表記でシャハドとなる点がアラビア語名シャーヒドのパキスタン付近における英字表記などと重なるため。シャハドという発音・カタカナ表記の名詞・人名 شَهْد [ shahd ] [ シャフド/シャハド ]((蜜蝋と分離していない状態の)はちみつ;蜂の巣)があるがそちらは女性名なので、Shahidと書いてシャハドと当て字をする非アラビア語圏イスラーム男性名だと考える方が適切だと思われる。
■発音と表記■
英字表記がShahidだと男性名としても用いられる同根姉妹語 شَاهِد [ shāhid ] [ シャーヒド ](目撃している(者/物)、目撃者;証人、証言者) と本項目の شَهِيد [ shahīd ] [ シャヒード ](殉教者、宗教や祖国のために自らを犠牲をして捧げる者;目撃者;証人)との区別がつかず、元のアラビア語表記を見ないとわからないので要注意。
なお、サウジアラビア系放送局MBCのオンデマンド動画配信プラットフォーム شاهد(Shahid)は派生形第3形動詞 شَاهَدَ [ shāhada ] [ シャーハダ ](見る、視聴する)の命令形(2人称・男性・単数)شَاهِدْ [ shāhid ] [ シャーヒド ](見て、視聴して)が由来だが、日本語記事では誤った位置に長母音「ー」を置いたシャヒードとして紹介されている。しかしながら本項目のシャヒード(殉教者;目撃者;証人)とも شَاهِد [ shāhid ] [ シャーヒド ](目撃している(者/物)、目撃者;証人、証言者) とも別物の同根姉妹語となっている。
Shabiib、Shabib、Shabeebなど
青年である、若々しい(者);美男の(青年)、美貌の(青年)、色白で髪が黒い(青年)
【 2種類の意味を持つ動詞 شَبَّ [ shabba ] [ シャッバ ](青年になる;馬が両前脚をはね上げる、馬がはね上がる、馬がはね回る)のうち「青年になる」の意味の方から派生した形容詞的意味を持つ分詞類似の名詞語形。少年時代を終え青年期に入り成長を遂げている男子であること、若々しく活力に満ちている様子などを示唆。
現代では父親かそれ以前の祖先の名前由来のラストネーム、ファミリーネーム(家名、日本の名字に相当)「シャビーブ家」という意味として使われているケースも少なくない。】
【 長母音ēを表すeeを1個に減らしたShabebという英字表記もあるがシャベブ、シャベッブとカタカナ化せずシャビーブもしくは日本語風に「ー」を抜いたシャビブとするのが無難。口語発音のシェビーブに対応した英字表記はShebiib、Shebib、Shebeeb、Shebeb。こちらもシェビーブもしくはシェビブ程度にしておくカタカナ表記が無難かと。】
母音記号あり:جَبْر [ jabr ] [ ジャブル ] ♪発音を聴く♪
Jabr
勇敢な(男);男;王、王者;力、力強さ;強制;接骨、整復;運命、定命、定め
■意味と概要■
代数学のアラビア語名称にもなっている名詞。語形としては動詞 جَبَرَ [ jabara ] [ ジャバラ ](接骨する、整復する;(心などを)癒やす;強制する)の動名詞に当たる。
現代のアラビア語辞書では「強制」「接骨、整復」「運命、定命、定め」といった意味が主に掲載されているが、人名辞典では「力、力強さ」「勇敢な(男)」「王」といった意味が強調されていることが多い。「男、男性」も中世のアラビア語辞典に رَجُل [ rajul ] [ ラジュル ] の同義語として載っている語義。
また中世に書かれたアラビア語大辞典には「王」という語義とは真逆な地位を示す عَبْد [ ‘abd ] [ アブド ](奴隷、しもべ)という語義もあるとしている。有名な天使の名前 جِبْرِيل [ jibrīl ] [ ジブリール ] の前半である「جبر」部分がそれに当たるといい、「神のしもべ」という意味を持つ天使名「ジブリール」の「しもべ」に対応しているという。(現代のアラブ人名としてポピュラーな عَبْدُ اللهِ [ ‘abdu-llāh ] [ アブドゥ・ッラー(厳密な文語休止形発音ではアブドゥッラーフとアブドゥッラーハの中間のような発音で最後のhがうっすらフのようなハのような感じて聞こえる) ]に相当。)
アラブ人名辞典などによると、この語が「男」というのはアラム語、「力」という意味を持つのはセム諸語由来だとのこと。
■発音と表記■
アラビア語単語の基本となる要素である語根の3文字のみから成りかつ真ん中の第2語根に当たる子音「ب(b)」に短母音がつかない語形であることから、口語アラビア語(方言)では補助母音が挿入されることが多い。
b直後に母音iもしくは同系統の母音eが追加されたジャビル、ジャベルに近い発音に対応した英字表記としてはJabir、Jaberが挙げられる。b直後に母音uもしくは同系統の母音oが追加されたジャブル、ジャボルに近い発音に対応した英字表記としてはJabur、Jaborが挙げられる。
Jabir、Jaber、Jabur、Jaborについては能動分詞語形の姉妹語で別の男性名として使われている جَابِر [ jābir ] [ ジャービル ] の文語発音ジャービルの英字表記の一つであるJabir、口語(方言)発音ジャーベル、ジャーブル、ジャーボルに対応した各英字表記Jaber、Jabur、Jaborとそれぞれかぶるので要注意。元のアラビア語表記を見たり本人の名前発音を聞いたりして確認する必要あり。
またج(j)の子音部分が英語のgetのようなgに置き換わるエジプト方言での発音ガブルに対応、もしくは英単語のgenderのようにgeと書いてジェと読むようなgを意図しアラビア語発音ジャブルに対応しているGabrといった英字表記もある。これに母音iを挿入したジャビル/ガビルにGabir、母音eを挿入したジャベル/ガベルにGaber、母音uを挿入したジャブル/ガブルにGabur、母音oを挿入したジャボル/ガボルにGaborがそれぞれ対応する形となる。
母音記号あり:جَمَال [ jamāl ] [ ジャマール ] ♪発音を聴く♪
Jamaal、Jamal
(外見・風貌や所作の)美しさ、美;佳さ、良さ
■意味と概要
動詞 جَمُلَ [ jamula ] [ ジャムラ ](美しい;佳い(状態になる、状態である))の動名詞で、「佳いこと(=佳さ)」や「美しいこと(=美しさ、美、美貌)」という意味を持つ。男性名としても用いられる جَمِيل [ jamīl ] [ ジャミール ](美しい;佳い)とは同語根の姉妹語の関係。
■発音と表記■
日本語のカタカナ表記では英字表記Jamalをそのままカタカナ化したり記事の字数を減らすといった目的から長母音「ー」を抜いたジャマルというつづりが多用されている。これはアラビア語の別の単語 جَمَل [ jamal ] [ ジャマル ](オスのラクダ)とかぶることから「アラビア語の"美"という語はラクダが語源だ」として間違えられやすく、実際に民間語源として聞いたことがあるアラブ人もいるという。
実際には直接「ラクダ=美」という発想で結びついていると確言する学説は特に無く、同じ語根を共有する語や語根が近い語などと比較してラクダという語の語源が考察されていはいるが、アッカド語の時点で既にオスラクダが現在のアラビア語とほぼ同じ「gammalu」だったことから、ラクダがなぜ語根「g - m- l」(アラビア語では「j - m - l」)なのかについては古代にさかのぼって調べる必要があるものと思われる。
日本で売られている人名紹介本には「ラクダのようになってほしいといった意図でつけたもの」「ラクダ(ジャマル)のように力強く美しいから命名される男性名で、好ましい動物を人名として使っているケース」と記載しているものがあるが、ラクダという意味でつけている人名ではなくアラビア語の諸大辞典や人名辞典にもそういった記述は一切見られない。アラブ世界において美しさの代名詞とされる動物はガゼルやオリックスなどで、ラクダの方は辛抱強さ・記憶力(飼い主のことを忘れない、ひどいことをされた恨みをずっと覚えている)で有名。「ラクダよりも辛抱強い」という慣用句は非常に忍耐強い人の比喩となっている。
タカ(鷹)、ハヤブサ(隼)、ワシ(鷲)、ライオン(獅子)、オオカミ(狼)など好ましい動物や身近な動物の名前が少なくないアラブ人男性名だが、共に暮らしてきたはずのラクダにちなんだ جَمَل [ jamal ] [ ジャマル ](オスラクダ)さんというアラブ人男性は基本的におらず、どのアラブ人名辞典にも載っていなかったりする。
■発音と表記■
ج(j)がgの音で読まれるエジプト首都カイロ周辺方言等ではガマールと読まれる。そのような地域ではGamal、Gamaalという英字表記が多用されている。
また長母音āがē寄りないしはēそのものになるジャメール系の発音に即した英字表記としてはJamel、Jamael、Gamel、Gamaelなどが用いられている。アラビア語発音に即した人名としてカタカナ化する際にジャマエル、ガマエルとしないよう要注意。
この人名に対する日本語カタカナ表記としてはジャマール、ジャマル、ガマール、ガマルなど。
母音記号あり:جَمِيل [ jamīl ] [ ジャミール ] ♪発音を聴く♪
Jamiil、Jamil、Jameel
1)形容詞として:美しい(外見・容貌以外にも、所作・人柄についてその人が持つ何らかの点が「良い・佳い」ことを示すのに使う)、美男の;(物事・天気などが)良い
2)名詞として:親切
■意味と概要■
美しさに関して通常のレベルを逸脱してずば抜けている状態を示すというほどではなく、その人の見た目・容姿や行い・精神面の何らかの点において他人に良い印象を与え好感を持たせるような「good」さを意味する。物事に使う場合は فكرة جميلة [ fikra(tun) jamīla(h) ] [ フィクラ・ジャミーラ ] で「良い考え、良い案」。شيء جميل [ shay’/shai’ jamīl ] [ シャイゥ(/ッ/ィ)・ジャミール ] で「(なにか)いいこと」。天気だと طقس جميل [ ṭaqs jāmil ] [ タクス・ジャミール ] や جو جميل [ jaww jamīl ] [ ジャウウ・ジャミール ] で「良い天気、素敵な天気、素晴らしい天気」といった表現に。
ウマイヤ朝時代の詩人 جَمِيل بْن مَعْمَر [ jamīl bnu ma‘mar ] [ ジャミール・ブヌ・マアマル ](ジャミール・イブン・マアマル)のように昔の方が現代よりもジャミールという名前のアラブ人が多かったという。現代では同じ語根「j-m-l」を持ち「美」という概念を示す名詞 جَمال [ jamāl ] [ ジャマール ](英字表記はJamaal、Jamalなど)という人名の方がポピュラーで、尊称ラカブ由来の複合男性名 جَمَال الدِّينِذ [ jamālu-d-dīn ] [ ジャマール・ッ=ディーン ](ジャマール・アッ=ディーン、ジャマールッディーン。意味は「宗教/信仰の美」。)なども長きにわたって命名に使われてきた。単体の「ジャミール」はアラブ世界の外のイスラーム教徒男性の名前として使われることの方が多めだと言える。
■発音と表記■
元々はiの部分が長母音のīだが、英語つづりはJamilが一般的なこともあってか、日本語のカタカナ表記だと長母音を復元せずJamilという英字表記をそのままをカタカナ化したジャミルが多い。女性版は語末をaにしたジャミーラ。そちらも長母音部分が短くなったジャミラというカタカナ表記が多い。元のアラビア語に忠実なカタカナ表記はジャミールとジャミーラだが、単にアラビア語由来の名前を持っているだけで母国が別の地域であるような人物に関しては移民先・帰化先の英語やフランス語といった発音に別途合わせてカタカナ化する必要がある。
エジプト首都地域方言のように ج [ j ] をgで発音する地域ではガミールとなり、英字表記もGamiil、Gamil、Gameelが派生する。ただしjをjのままでジャミールと発音する地域であっても英語のgenerousのようにジャ・ジ・ジュと読むことを期待してGamilとつづっている可能性も考えられるので、必ずしもエジプト系発音ガミールを意図しているとは限らずケース・バイ・ケースだったりする。
■ツイステッドワンダーランド(ツイステ)の名前考察のために検索された皆様へ■
人名辞典だけでは考察が大変なようなので、当方で考察向けの資料を作成しました。興味のある方はご覧ください。
ゲーム作品アラブ風キャラ名考察『ツイステッドワンダーランド』編
母音記号あり:شَمْس [ shams ] [ シャムス ] ♪発音を聴く♪
Shams
太陽
■意味と概要■
アラビア語で天体の太陽を意味する名詞。メソポタミアの太陽神シャマシュ(Shamash)の流れをくむ名称で、語末のsh音がアラビア語ではs音に置き換わっている。天体の名称を指す名詞としては女性扱いだが、女性名としても男性名としても使われる。
イスラーム以前のジャーヒリーヤ時代にはアラビア半島で月の神=父、太陽の神=母、金星=子といった多神教崇拝・天体崇拝・偶像崇拝が行われており عَبْد شَمْس [ ‘abd(u) shams ] [ アブド・シャムス ](太陽のしもべ、太陽神のしもべ、シャムス神のしもべ)という男性名も存在した。「猫好きおやじ」「猫おじさん」というあだ名で知られる預言者ムハンマドの教友 أَبُو هُرَيْرَةٍ [ ’abū hurayra(h) / ’abū huraira(h) ] [ アブー・フライラ ] も改宗前はアブド・シャムスというファーストネームだったが、唯一神信仰に合致する名前に改名したとされている。
なおこのシャムスという名前は複合名が禁止された国で従来使われていた شَمْس الدِّين [ shamsu-d-dīn ] [ シャムス・ッ=ディーン ](宗教の太陽)というラカブ由来の男性名の代替として使われたり、شَمْس الدِّين [ shamsu-d-dīn ] [ シャムス・ッ=ディーン ] という名前を持つ男性を普段周囲が呼ぶ時の通称として使われてもいるという。
■ネーミングの際の注意点■
【定冠詞アルは取る】
天体としての名称 اَلشَّمْس [ ’ash-shams ] [ アッ=シャムス(注:アシャムス、ア・シャムス、ア=シャムスではないのでネーミング時には要注意) ](太陽)には定冠詞 اَلْ [ ’al- ] [ アル= ] が直後の ش(sh)音の影響で発音変化した「アッ」がついており、アラビア語対応ネーミング辞典でもアッ=シャムス、アッ・シャムス、アッシャムスなどと載っていたりする。
ただし人名として使う時は定冠詞 اَلْ [ ’al- ] [ アル= ](al-)はつけない。アラビア語で「太陽」という意味を調べたりネットで検索したりすると宇宙にある天体の名前としての「太陽」が出てくるためにキャラクターや動物にそのままアッシャムス、アッ=シャムスと命名してしまっているケースが非常に多いが、人や動物への命名では英語の the にあたるアッの部分は抜くのが基本なのでアッ抜きのシャムスとすることを強く推奨。
【シャムスのスを取ってシャムやアッシャムとしない】
なおネット等では「アラビア語でアッシャムは太陽の意味」「アラビア語でシャムは太陽」と書かれていることがあり、ゴドルフィンアラビアン(ゴドルフィンバルブ)の幼名・本名も「アラビア語で太陽を意味するシャムだった」と説明されている記事も複数見られる。
しかしながらアラビア語ではそのような事実は無く、アッシャムスやシャムスからスを取ってアッシャムやシャムにしても太陽という意味を保つということは無いので要注意。アラビア語は単語のパーツになる文字(語根)であるs(ス)の部分を切り取ってしまうと言葉の意味を表せなくなり、太陽という意味の単語ではなくなってしまうため。アラブ人に「アッシャム」「シャム」といっても太陽と理解されることは無い。
【響きが似ているものの別の名称と混同しない】
アラビア語は長母音(音が「ー」と長く伸びる)か短母音(「ー」と伸びない)かどうか、アラビア文字上は同じつづりでも発音が少し違うかどうかによって全然違う意味になることがあるので、アラブ人名の意味解説やキャラクターネーミングの時には不要な「ー」を足したり発音を少し変えたりしないよう要注意。
شَمْس [ shams ] [ シャムス ](太陽)- 男性名&女性名
شَمْسَة [ shamsa(h) ] [ シャムサ ](口語語形:太陽)- 女性名
شَمُوس [ shamūs ] [ シャムース ]【男女共通語形】(気難しい、頑固な(男性/女性);夫に対して反抗的な(女性);人の言うことを聞かず誰もその背中に乗せようとしない暴れ馬など乗用家畜)- 男性名&女性名
■アラブ世界における太陽のイメージ■
日本では「アラブ世界における太陽のイメージは冷酷非情、傲慢、死の象徴、悪魔の化身。女性に君は太陽みたいだと言うとけなし言葉となり怒られる。」という都市伝説があるが全くの誤り。アラビア語では太陽と並んで人の美点についてほめる比喩表現として使われてきた天体(詳細:『アラブ世界における月と太陽~目次』)となっている。
女性などを月にたとえるのは太陽が非情で月が優しいという二項対立ではなく、ふくよかで色白の男性・女性に美貌ににているため。現代では「月みたい=美人、美男」で定着しているが、丸みがあり輝く太陽も元は同じ発想から美貌のたとえに使われてきたほか、「太陽みたいな女性」は輝かしい様子、見返りを求めない情愛を与え皆の人生を明るく照らしてくれる母親・女性の形容などに使用。
一方男性に関しては古くは美貌、中世などにおいては誰の追随も許さない高貴さ・地位の高さや月・星にたとえらえる他の貴族・要人らがかすむほどの光を放つ偉大な統治者、そして現代では非常に寛大な父性愛のたとえとして使われるなどしている。シーア派では偉大さと神秘性などから共同体指導者たるイマームを太陽と表現することが多い。
■発音と表記■
口語における無母音部分「m」に母音「i」の挿入が起こりシャミス系に変わった発音を反映したShamis、Shamesや「u」を挿入したShamusといった英字表記も。またフランス語圏である北アフリカのマグリブ方言地域ではシャ・シ・シュ音をshではなくchで表記するためChams、Chamis、Chamesといったつづりも多用されている。チャムス、チャミス、チャメスと発音させる意図は無いのでカタカナ表記の際には要注意。
Shams al-Diin、Shams al-Din 宗教の太陽
【 功労者などに与えられた称号(ラカブ)がファーストネームとして定着したもの。「宗教」は具体的にはイスラームのこと。なお شَمْس [ shams ] [ シャムス ](太陽)は女性名・男性名の両方として使われるが、シャムスッディーン(シャムス・アッ=ディーン)は男性名としてのみ用いられる。】
Shalhuub、Shalhub、Shalhoub、Shalhoob
炎、火炎
【 男性名、家名として使用。アラビア語の名前・固有名詞辞典でシリア語、アラム語由来と説明されている。火の燃焼もしくはその炎などを指すという。
家名としてはサウジアラビア、シリア、レバノンなど複数地域で見られる。映画『アラビアのロレンス』で Harith(アラビア語では حَارِث [ ḥārith ] [ ハーリス ] だが日本ではハリト表記が多い)族族長 Ali(アラビア語では عَلِيّ [ ‘alī(y) ] [ アリー(ュ/ィ) ] だが日本ではアリ表記が一般的)役を演じた عُمَر الشَّرِيف [ ‘umar ’ash-sharīf ] [ ウマル・アッ=シャリーフ/(口語発音)オマル・ー ](オマル・シャリフ、オマー・シャリフ)の出身家系がこのシャルフーブだった。
彼は元々はキリスト教徒でレバノン家系のエジプト国籍保持者・エジプト出身と紹介されていることが多いが、現地ニュース記事等によるとシャルフーブ家自体はダマスカスがルーツで父方シャルフーブ家がダマスカス出身、母方がラタキア出身ファミリーの生まれだという。】
【 フランス語圏風のChalhoub、Chalhub、Chalhoobといった表記も見られる。チャルフーブと発音する訳ではないので要注意。また-ou-はアラブ人名表記では [ u ] [ ウ ] や [ ū ] [ ウー ] を表すことが多く、ここでもシャルフーブの「ū(ウー)」音を意図。シャルホウブとはカタカナ化しない。】
寛大な、気前が良い;馬
[ 通常は馬ではなく寛大なという意味を込めて命名される。]
[ Javad(カタカナ表記ジャバード、ジャヴァード、ジャヴァド等)はこのジャワードのwがvに置き換わってペルシア語読みされたバージョンのイラン人名。]
民、民衆
[ イスラームにおける預言者の一人シュアイブの名前。]
[ شَعْب(シャアブ=民の意)の縮小形名詞とも説明される。]
Shujaa’、Shuja’、Shujaa、Shujaなど
勇敢な、勇猛な、勇気がある(人)
【 形容詞・名詞の男性形で男性名として用いられる。】
【 語末の子音についた母音まで丁寧に読むと主格ではシュジャーウに近い発音になるなどするが、日常的な読まれ方では語末子音の格母音は省略するためシュジャーァ、シュジャーアと聞こることの方が多い。英字表記では語末の子音を「’」なりで文字化しないことが多く、日本語カタカナ表記ではシュジャーのように語尾がただの長母音になっていることも少なくない。日常的な発音に即したつづりが採用されているためシュジャーウそのものな感じのShujaau、Shujauのような英字表記はほぼ使われていないとの印象。
語末の字は喉を引き締めた感じの発音をする ع [ ‘ayn / ‘ain ] [ アイン ] という字だがこれに相当する「’(もしくは‘)」を使ったShujaa’、Shuja’、Shujaa‘、Shuja‘を人名の日常的表記にしていることは少ない。携帯電話にアラビア語キーボードが無かった時代に普及したチャットアラビア語の影響から、SNSのユーザーネーム等では語頭の ع [ ‘ayn/‘ain ] [ アイン ] を数字の3に置き換えたShujaa3、Shuja3なども用いられているが、多いのは ع [ ‘ayn/‘ain ] [ アイン ] に対応する部分の文字化を省いたShujaaやShujaといった英字表記。
エジプト方言などでは ج [ j ] の音が文語アラビア語(フスハー)には無い g 発音に置き換わってシュガーウ(シュガーァ、シュガーア)となり英字表記Shugaa、Shugaなどが派生する。ただし男性名ジョージのつづりGeorgeのようにShugaa、Shugaと書いてあってもシュジャーウ(シュジャーァ、シュジャーア)と発音することを意図している場合があり、G始まりのつづりを使っている=エジプト系アラブ人とは限らない。
また口語風にuがoに転じたショジャーァ、ショジャーアそしてエジプト等発音であるショガーァ、ショガーアに対応した英字表記としてShojaa、Shoja、Shogaa、Shoga他が挙げられる。】
金曜日
[ 生まれた曜日にちなんで。金曜日は集団礼拝(サラート・アル=ジュムア)の日でもある。]
[ 文語ではm部分に母音がつかない読みと母音uがつく جُمُعَة(jumu‘a(h))という発音(→♪発音を聴く♪)とがあるため、上記以外にもJumua、Jumuahという英字表記がある。エジプトのようにjをgで発音する地域ではグムアと聞こえる。その場合の英字表記はGuma、Gumah、Gumaa。さらには口語でuがoで転じてジョムア、ゴムアとなるため、Joma、Jomah、Jomua、Jomuah、Goma、Gomahなどもバリエーションが生まれる。またmに母音uがついていた場合にはJomoa、Jomoah、Gomoa、Gomoahといったつづりが生まれ得る。 ]
母音記号あり:ذِي يَزَنَ [ dhī yazan ] [ ズィー・ヤザン ] ♪発音を聴く♪
Dhii Yazan、Dhi Yazanなど
ヤザン谷の所有者、ヤザン谷の領主
■意味と概要■
古代イエメンのヒムヤル王国を支配していた王の名前(アラビア語名)、そして王家の家名としても用いられていた ذُو يَزَن [ dhū yazan ] [ ズー・ヤザン ] の属格(≒所有格)語形もしくは口語アラビア語的な語形。また出自表示を含むナサブ(系譜・血統)方式フルネームの父の名前部分にこの「ズィー・ヤザン」を含むヒムヤル王国の王の名前、人物 سَيْفُ بْنُ ذِي يَزَن [ sayf(u)/saif(u) bnu dhī yazan ] [ サイフ・ブヌ・ズィー・ヤザン ](サイフ・イブン・ズィー・ヤザン)は特に有名。南アラビアにいたアクスム人達を排除したと伝えられており、ヒムヤル王家男性と女のジン(精霊的存在とされる人外)の間に生まれたとも言われる半伝説的な彼の伝記が民話や神話をまじえた物語として後世に残された。
ズー・ヤザン一族はかつてイエメン一体を支配した王家だったことからイエメン人は自分たちが非常に古くからアラビア半島を統べてきたことを自負。イエメンの歌に「我々はズー・ヤザン(ズィー・ヤザン)の末裔」という歌詞が入っていることも。現代でもイエメンなどではこのファーストネームを命名された男性が数は少ないがも見られ、オマーン国王太子(皇太子)のファーストネームがこのズィー・ヤザンとなっている。
ヤザンはイエメンのヒムヤル王国地域にあった涸れ谷の名前だったという。また、砂漠に生えている草の名前でもある。元はيزأنだったものの声門閉鎖音/声門破裂音部分が消えてيزنになったという。「ズィー・ヤザン」部分については、ذو(dhū、ズー)=「所有者、持ち主」をつけた ذُو يَزَن(dhū yazan、ズー・ヤザン)=「ヤザンの所有者、つまりはヤザン地域の領主」の意 が属格(所有格)の形となったもの。日本語のカタカナ表記ではディ・ヤザンやズィ・ヤザンと書かれていることも。]
「ヤザン」自体はイエメンのヒムヤル王国地域にあったワーディー(「涸れ川」「谷・谷川」「渓谷」の意。その他カタカナ表記としてワディ、ワジなど。)の名前だったという。それに「~の所有者、~の持ち主」という意味の ذُو [ dhū ] を前に置いた複合男性名 ذُو يَزَن [ dhū yazan ] [ ズー・ヤザン ](主格語形)ないしはその属格語形である ذِي يَزَن [ dhī yazan ] [ ズィー・ヤザン ] は「ヤザンの所有者」「ヤザンの領主」(ヤザン谷を統治・保護した支配者・王の意)という意味の称号・名前だったとされている。
アラビア語辞典類によると、يَزَنُ [ yazan ] [ ヤザン ] は「重み」といった語義を持つ固有名詞で、元々 يَزْأَنُ [ yaz’an(u) ] [ ヤズアン(母音記号を全部読む場合はヤズアヌ) ] という語形だったが声門閉鎖音(声門破裂音)であるأ部分が脱落してيَزَنとなり、未完了形(過去形動詞)と同じ語形であることからタンウィーン無しの二段変化である يَزَن [ yazanu ] となったものだという。
■発音と表記■
元のアラビア語表記・発音に即したDhii Yazanもあるが、長母音「イー」部分を「ii」としないDhi Yazanの方が多用されている。
口語的にヤザン後半のaがeに転じたズー・ヤゼンに対応した英字表記としてはDhi Yazenがあり、Dhii Yazenも使われ得る。
また先頭の ذ(dh) を調音部位が近く口語アラビア語(方言)でもしばしば音の置き換わりが起こる z(ز) に置き換えたZi Yazan、口語的にヤザンがヤゼンに転じたZi Yazenの使用も見られ、表記揺れであるZii Yazan、Zii Yazenも使われ得る。さらに ذ(dh) を調音部位が近く口語アラビア語(方言)でもしばしば音の置き換わりが起こる d(د) に置き換えたDi Yazan、口語的にヤザンがヤゼンに転じたDi Yazenの使用も見られ、表記揺れであるDii Yazan、Dii Yazenも使われ得る。
これに加えて、長母音のイーをeeで表したDhee Yazan(≠ゼー・ヤザン)、Zee Yazan(≠ゼー・ヤザン)、Zee Yazen(≠ゼー・ヤゼン)、Dee Yazan(≠デー・ヤザン)などの使用例も見られる。長母音「イー」と読むにもかかわらず「ee」を1個に減らしたDhe Yazan(≠ゼ・ヤザン)、Dhe Yazen(≠ゼ・ヤゼン)、Ze Yazan(≠ゼ・ヤザン)、Ze Yazen(≠ゼ・ヤゼン)などがある。
2語をつなげ書きした英字表記であるDhiiyazan、Dhiyazan、Dhiyazen、Ziyazan、Ziyazen、Diyazan、Diyazen、Zeeyazan(≠ゼーヤザン)、Zeeyazen(≠ゼーヤゼン)、Zeyazan(≠ゼヤザン)、Zeyazen(≠ゼヤゼン)、Deeyazan(≠デーヤゼン)、Deeyazen(≠デーヤゼン)、Deyazan(≠デヤザン)、Deyazen(≠デヤゼン)といったバリエーションもある。
文語アラビア語での発音に忠実なカタカナ表記としてはズィー・ヤザン、口語アラビア語(方言)的な発音としてはズィー・ヤゼン、子音置き換わりありのディー・ヤザン、ディー・ヤゼン、さらには口語的な語末長母音の短母音化が加わったズィ・ヤザン、ズィ・ヤゼン、ディ・ヤザン、ディ・ヤゼンとなる。
しかし英字表記の揺れが大きくズィー・ヤザンないしはズィー・ヤゼン、ディー・ヤザン、ディー・ヤゼン、ズィ・ヤザン、ズィ・ヤゼン、ディ・ヤザン、ディ・ヤゼンと読むことが推測できないような英字表記が多い、日本語ではカタカナ化の際に外国語のズィ音がジ音に置き換わる慣用があることから、誤読も加わった原音とは大きく離れたカタカナ表記になりやすい人名なので要注意。
母音記号あり:ذِيب [ dhīb ] [ ズィーブ ] ♪発音を聴く♪
Dhib、Dhiib、Dheeb
オオカミ(狼)
■意味と概要■
文語アラビア語(フスハー)で「オオカミ(狼)」を意味する最も一般的な呼称である名詞 ذِئْب [ dhi’b ] [ 学界の標準カタカナ表記だとズィイブだが、実際にはズィゥブとズィィブとズィッブが混ざったような発音 ] の声門閉鎖音(声門破裂音)ء(ハムザ)部分が長母音化する発音置き換わり( تَخْفِيف [ takhfīf ] [ タフフィーフ ] )によって ذِيب [ dhīb ] [ ズィーブ ] になったもの。
なおネットのアラビア語単語集や紹介記事では「アラビア語で狼はアルス」となっていることがしばしばあるが何らかの手違いで全く異なる読みガナが付された用語集から転載・引用が行われた結果だと思われる誤り。アラビア語だと أَرْس [ ’ars ] [ アルス ] は「畑・土地を耕すこと」、أَلْس [ ’als ] [ アルス ] は「精神障害、精神錯乱、精神的混乱;嘘、騙し、裏切り、窃盗」、عَرْس [ ‘ars ] [ アルス ] は「テント(天幕)中央の支柱;綱」、عَلْس [ ‘als ] [ アルス ] は「飲み物、食べ物」なので、オオカミ(狼)とは特に関係が無い。
■発音と表記■
ズィーブの長母音ī(イー)音を示すために用いる英字表記-ee-がe1個だけに減らされたDhebというつづりもよく見られるが、原語であるアラビア語ではゼブ、ゼッブではなくズィーブと発音するので英字表記経由でカタカナ化する際は要注意。
Siddiiq、Siddiq、Siddeeqなど
(とても、大いに、常に、いつも必ず)誠実な、実直な、正直な、約束を果たす、有言実行の(者);預言者に下された啓示を嘘つき呼ばわりすることなく正しいとみなしアッラーの教えをしっかり信じている(者)
■意味■
行為者であることを示す能動分詞男性形 صَادِق [ ṣādiq ] [ サーディク ](正直な、嘘をつかない;実直な、約束を違えない)の回数や度合いを強調する語形。
1回きりではない「正直である」「実直である」という継続的な性質を備えていることを示す形容詞的な意味を持つ صَادِق [ ṣādiq ] [ サーディク ] の度合いが非常に強くいつもそうだったこと、決して不誠実なことを常にしなかった人柄であったことを示唆。「常に正直・実直である」「決して嘘をついたりしない」という強いニュアンスとなる。
■由来となった人物■
初代正統カリフだったアブー・バクルにあやかってつける男児名。絶大なカリスマ性を有していた預言者ムハンマド逝去直後のイスラーム共同体を率いるに値すると判断された原因ともなった彼の性格・特質
(1)「(とても、大いに、常に、いつも必ず)誠実な、実直な、正直な、約束を果たす、有言実行の(者)」という能動分詞男性形 صَادِق [ ṣādiq ] [ サーディク ] に対応した意味合い كَثِير الصِّدْقِ [ kathīru-ṣ-ṣidq ] [ カスィール・ッ=スィドク ](大いに実直な)
(2)「預言者に下された啓示を嘘つき呼ばわりすることなく正しいとみなしアッラーの教えを(誰よりも、他のどのイスラーム教徒よりも率先して)しっかり信じている(者)」という派生形第2形動詞 صَدَّقَ [ ṣaddaqa ] [ サッダカ ](正しいと信じる、嘘を言っておらず真実を言っているとみなす)の主体としての كَثِير التَّصْدِيقِ [ kathīru-t-taṣdīq ] [ カスィール・ッ=タスディーク ](人のことを真実だと大いに信じている、相手のことを嘘偽りだと全く思わず全力で信用する)
とが名前の意味として示され得る。
アブー・バクルが言行不一致などしない信頼のおける人物で、預言者ムハンマドの言葉・教えを疑ったりせず正しいものと信じ誠実につき従ったこと、多数決でリーダーとして選ばれるぐらいに皆が「彼は信用に値する極めて誠実な人物だし、誰よりも預言者ムハンマドを通じて広められたイスラームの教えを信じてきた」と思っていた人格者ぶりが由来なので、アラブ・イスラーム男性名としてはかなり宗教色が強い部類に入る。
各地のイスラーム教徒が彼にあやかってスィッディークと命名されてきたが、アラブ諸国ではそれほどポピュラーではなくパキスタン方面など非アラブイスラーム教徒に多く見られる。
■発音と表記■
日本語におけるカタカナ表記としてはスィッディーク、スィッディク、スィディークなど。外国人名表記に多いSi部分のシ表記が多いため、シッディーク、シッディクさらには「ッ」を抜いたシディーク、シディクとカタカナ表記されていることも少なくない。(パキスタン系カレー店などについているシディークという男性名もこの人名。日本語カタカナ表記でSi-となる外国人名をスィではなくShi-と同じシ音で表す慣例が主に関係。)
非アラブ圏のイスラミックネームとしては母音iがaに置き換わったSaddiiq、Saddiq、Saddeeq、Saddeq(日本語におけるカタカナ表記としてはサッディーク、サッディクとなっている可能性高し)も使われているが、صَادِق [ ṣādiq ] [ サーディク ](正直な、嘘をつかない;実直な、約束を違えない)の表記バリエーションの一つでdを2個連ね-dd-にしたSaddiqや別の男性名 صَدِيق [ ṣadīq ] [ サディーク ] のdを2個連ねた英字表記バリエーションSaddiq、Saddeeq等とかぶるのでアラビア文字表記を見て確認・区別する必要が出てくる。特に後者は母音記号が無いと صديق となり全く同じつづりになってしまうため動画などで実際の発音をしないと区別がつかない。
また非アラブ地域ではこの人名にShiddiiq、Shiddiq、Shiddeeq、Shiddeq、Shaddiqという英字表記が使われている例も見られる。日本語におけるカタカナ表記としてはシッディーク、シッディク、シディク、シャッディーク、シャッディク、シャディクが考え得る。これらはスィッディークの称号で呼ばれたアブー・バクルの名前と組み合わせて使われていることから、アラビア語ではスィッディークだったもののSがShiに置き換わったり、Siの母音iがaに替えられSaやShaとなっていると推察可能。Shaddiqについてはインドネシア付近で使用例が多い模様。
またペルシア語等ではアラビア語の ق [ q ] が غ [ gh ] と同音となり置き換わること、アラビア語文語語形のiがeに転じることなどから非アラビア語イスラーム名の英字表記としてスィッディーグ系のSiddiigh、Siddigh、Siddeegh、Siddegh、セッデーグ系のSeddigh、Seddegh、語頭Siの母音iがaに置き換わったサッディーグ系のSaddigh、Saddeghなども存在。
また「gh」を発音の似た「g」に置き換えたスィッディーグ系Siddiig、Siddig、Siddeeg、Siddeg、セッディーグ系Seddiig、Seddig、Seddeeg、Seddeg、サッディーグ系Saddig、Saddeeg、Saddeg、SがShに置き換わったShiddiig、Shiddig、Shaddigもネット検索にて存在確認済。パキスタン系などのイスラーム男性名としては語末にeを加えたSiddique、Shiddique、Shaddiqueなども。この場合-queは「ク」を意図しているものと思われるので「クエ」とカタカナ化しないよう要注意。
槍の穂先、先鋒
[ siを日本語風にshiで発音してシナーンとカタカナ表記されていることも多い。長母音部分を復元しないシナンというカタカナ表記も。]
(物や財産の)増加、生長
[ Ziadという英字表記もある。口語発音でiがeに転じゼヤードに近い読み方をされた場合の英字表記はZeyaad、Zeyad。日本語のカタカナ表記ではziではなくjiと聞こえるジヤードと書かれていることが多い。]
母音記号あり:سِرَاج [ sirāj ] [ スィラージュ ] ♪発音を聴く♪
Siraj、Siraaj
(明るく輝いている)灯火、ともしび、ランプ、ランタン;明るく輝くもの;(比喩的に:不信仰・無知蒙昧という暗闇から正しき信仰の道へと信徒を)導く光、導き;太陽
■意味と概要■
イスラーム教の聖典クルアーン(コーラン)にも出てくる古い語。元々はペルシア語を経由してインドから伝わった外来語だったという。名詞としては明るく輝く灯火・ランプ・ランタン以外にも比喩的に唯一神アッラーやイスラームという宗教が信徒に与える導きを光としてたとえる用法などがある。
■発音と表記■
日本語のカタカナ表記ではスィラージュ、英字表記Sirajそのままに読んだり文字数削減をするためといった理由から長母音部分を省略したスィラジュ、最後の j をジュではなくジとしたスィラージ、スィラジなどが使われ得る。
また日本語カタカナ表記では外国語の「si(スィ)」音を「shi(シ)」と聞こえる日本語式のカタカナ化がしばしば行われるため、シラージュ、シラージ、シラジュ、シラジなどもこの人名「スィラージュ」の表記ゆれとなり得る。
エジプト首都カイロならびに周辺地域方言、イエメン、オマーン、サウジアラビアなどの一部方言のように ج の「j」発音が「g」音に置き換わって [ sirāg ] [ スィラーグ ] になるケース、もしくは英語のgentleのようにgでつづって「j」(文語アラビア語の/ʤ/、レヴァント方言の/ʒ/)と読ませることを意図したケースに対応したSirag、Siraag(スィラージュもしくはスィラーグ)といった英字表記もある。
加えて英語のenableのようにeとつづってイと読むケース、もしくは口語的にiがeに転じたセラージュ、セラーグ寄りになった発音に即した英字表記としてはSeraj、SeraajならびにSerag、Seraagがある。
この他、口語アラビア語では語頭のس(s)についている母音iが脱落して [ srāj ] [ スラージュ ] となる発音もあり、英字表記Sraj、Sraajが派生する。母音iがuに置き換わって [ surāj ] [ スラージュ ] と読めるようなSuraj、Suraajという英字表記も併用されるなどしている。
母音記号あり:سِرَاج الدِّين [ sirāju-d-dīn ] [ スィラージュ・ッ=ディーン ] ♪発音を聴く♪
宗教(信仰の)の灯火、ともしび
[ sirāj部分はsiがshiと聞こえる日本語式のシラージュ、長母音を復元しないシラジュというカタカナ表記も多く見られる。dīn部分も長母音を復元しないディンというカタカナ表記が見られる。]
母音記号あり:سِرْحَال [ sirḥāl ] [ スィルハール ] ♪発音を聴く♪
Sirhal、Sirhaal
オオカミ(狼);ライオン(獅子)
■意味と概要■
男性名や男性名由来の部族名として使われている名詞 سِرْحَان [ sirḥān ] [ スィルハーン ] の1文字違いの同義語。
■発音と表記■
英語のenableのようにeとつづってイと読むケース、もしくは口語的にiがeに転じたセルハーン寄りになった発音に即した英字表記としてはSerhal、Serhaalがある。携帯電話にアラビア語キーボードが無かった時代に普及したチャットアラビア語の影響から、SNSのユーザーネーム等では語頭の ح [ ḥā’ ] [ ハー(ゥ/ッ) ] を数字の7に置き換えたSir7al、Sir7aal、Ser7al、Ser7aalなどが使われ得る。
日本語カタカナ表記としてはスィルハール、そして慣用表記におおい英字表記Sirhalにそのまま当て字したもしくは字数削減といった目的から「ー」を取ったスィルハルに加え外来語への当て字でしばしば行われるスィ(si)音のシ(shi)置き換えという慣用表記のためにシルハール、シルハルなども使われ得る。ただしアラビア語では شِرْحَال [ shirḥāl ] [ シルハール ](*このような語はアラビア語大辞典類にも載っておらず実在しないと言える)というのは全く別物として扱われるので、アラビア語として発音する場合は要注意。
母音記号あり:سِرْحَان [ sirḥān ] [ スィルハーン ] ♪発音を聴く♪
Sirhan、Sirhaan
オオカミ(狼);ライオン(獅子)
■意味と概要■
男性名だけでなく男性名由来の部族名としても使われてきた名詞で、イスラーム以前のジャーヒリーヤ時代からあった古い人名。語末が1文字違う سِرْحَال [ sirḥāl ] [ スィルハール ](♪発音を聴く♪)も同様の意味を持つ同義語とされ、男性名としても用いられている。
アラビア語辞典には ذِئْب [ dhi’b ] [ ズィッブとズィィブを混ぜたような発音 ](オオカミ(狼))の同義語とのみ書いてあるものもあるが、大きめの辞典だとオオカミ(狼)以外に أَسَد [ ’asad ] [ アサド ](ライオン(獅子))といった語義も併記されている。これはアラビア半島の現在サウジアラビア王国首都エリアとなっているナジュド地方ではオオカミを意味する語として用いられていた一方、イスラーム教の二大聖地がマッカ(メッカ)とアル=マディーナ(マディーナ、メディナ)を擁するヒジャーズ地方(フザイル族方言)ではライオンを意味する語として用いられていたという差異に起因するという。
中世に書かれた大辞典類に載っているその他の語義としては「犬」、「馬」、「水溜め、水桶の中央部」など。
なお母音記号が無いと全く同じつづりになる سَرْحَان [ sarḥān ] [ サルハーン ] は「心ここにあらずな、上の空の、ぼんやりとした」という人の心理状態を示す名詞・形容詞となっているが、現代では混同する人がしばしばおり狼というつもりでサルハーンと命名する事例も見られるという。
■発音と表記■
英語のenableのようにeとつづってイと読むケース、もしくは口語的にiがeに転じたセルハーン寄りになった発音に即した英字表記としてはSerhan、Serhaanがある。
携帯電話にアラビア語キーボードが無かった時代に普及したチャットアラビア語の影響から、SNSのユーザーネーム等では語頭の ح [ ḥā’ ] [ ハー(ゥ/ッ) ] を数字の7に置き換えたSir7an、Sir7aan、Ser7an、Ser7aanなども用いられている。
日本語カタカナ表記としてはスィルハーン、そして慣用表記におおい英字表記Sirhanにそのまま当て字したもしくは字数削減といった目的から「ー」を取ったスィルハンに加え外来語への当て字でしばしば行われるスィ(si)音のシ(shi)置き換えという慣用表記のためにシルハーン、シルハンなども使われ得る。ただしアラビア語では شِرْحَان [ shirḥān ] [ シルハーン ](*このような語はアラビア語大辞典類にも載っておらず実在しないと言える)というのは全く別物として扱われるので、アラビア語として発音する場合は要注意。
Su‘uud、Su‘ud、Suuud、Suud、Suoud、Suoodなど
幸福、幸運
【 男性名としても使われる名詞 سَعْد [ sa‘d ] [ サアド(サァドに近く聞こえることも)](幸福、幸運)の不規則複数形(語幹複数形) سُعُود [ su‘ūd ] [ スウード ]((数々の、複数の)幸福、幸運)。
口語発音・よくある誤用系発音として سَعُود [ サウード ] [ sa‘ūd ] が多用されている。日本語のら抜き言葉同様フスハー(文語アラビア語)としては誤用だと意識せずサウードと発音する人が非常に多い。通常はよくある間違いとしてアラビア語関連記事で紹介されているが、1文字目 س [ s ] に母音uではなく母音aを付加する سَعُود [ サウード ] [ sa‘ūd ] という発音が「幸福、幸運」に関連する強調語形だと説明している人名辞典なども見られる。
サウジアラビアの英語や日本語の国名は文語語形 سُعُود [ su‘ūd ] [ スウード ]((数々の、複数の)幸福、幸運)ではなく口語発音の方の سَعُود [ サウード ] [ sa‘ūd ] を使用。
本来の文語(フスハー)語形に合致した「サウジアラビア王国」のアラビア語名称は、形容詞化したニスバ形容詞(関連形容詞)が「王国」を意味する名詞に形容詞修飾を行っている اَلْمَمْلَكَة الْعَرَبِيَّة السُّعُودِيَّة [ ’al-mamlakatu-l-‘arabīyatu-s-su‘ūdiya(h) ] [ アル=マムラカ(トゥ・)ル=アラビーヤ(トゥ・)ッ=スウーディーヤ(フ/ハ) ](*ة(ター・マルブータ)部分のトゥを読み飛ばすのは現代会話風のややブロークンな発音方法)となる。
口語発音・よくある誤用系発音が اَلْمَمْلَكَة الْعَرَبِيَّة السَّعُودِيَّة [ ’al-mamlakatu-l-‘arabīyatu-s-sa‘ūdiya(h) ] [ アル=マムラカ(トゥ・)ル=アラビーヤ(トゥ・)ッ=サウーディーヤ(フ/ハ) ] の方だが、サウジアラビア王室とのつながりがある放送局等では母音記号のついた書道作品で「サウード」ではなく「スウード」になっている他、アラブ諸国のフスハーによるニュースでも国名(の一部)を「アッ=スウーディーヤ」と発音するなど、文語としてはSa-ではなくSu-の方が正式だと認識されていることが推察可能。
*「サウジアラビア王国」の名称に含まれるサウジ部分は「サウード家の~」という意味。第一次サウード王国の拠点ともなった(アッ=)ディルイーヤをかつて統治していた مُقْرِن [ muqrin ] [ ムクリン ] 家出身の首長 سَُعُود [ su‘ūd /(口語発音)sa‘ūd ] [ スウード/(口語発音)サウード ] のファーストネームが由来。彼の息子ムハンマドが第一次サウード王国の王となり、ムクリン家からスウード(サウード)家に家名が切り替わった。】
【 この人名ではSuとūの後に ع [ ‘ayn / ‘ain ] [ アイン ] という子音がはさまっている。咽頭(のどひこ/のどち◯この奥にあるのどの上部分)を締めつけて出す子音で、この人名では母音無しの無母音(スクーン記号がついた)状態で発音されるためスウードというよりはスゥオード、ソオードに近く聞こえることも。
この ع [ ‘ayn / ‘ain ] [ アイン ] は英字表記だと「‘」(/ ‘ / ʿ)のような記号で表すなどするが、日常生活でアラブ人各自が用いる英字表記では「‘」は脱落してしまい、代わりに [ -u‘ū- ] 付近の喉に力を入れる発音をa、ao、euなどに置き換えるなどする。長母音ūがuu、u以外にou、ooで表現される傾向も合わせたSuuud、Suud、Suoud、Suood、Suaod…などかなり自由なつづりも含めた各種バリエーションが併存。
語頭のSuを口語的なSoに置き換えたソオード寄りの発音に即したSo‘ud、Souud、Soud、Sooud、Soood、Soeud…他も使われている。
携帯電話にアラビア語キーボードが無かった時代に普及したチャットアラビア語の影響から、SNSのユーザーネーム等では語中の ع [ ‘ayn/‘ain ] [ アイン ] を数字の3に置き換えたSu3uud、Su3ud、Su3oud、Su3ood、So3uud、So3ud、So3oud、So3oodなども用いられている。
日本語におけカタカナ表記はスウード、スウドなどが使われ得る。】
Subaah、Subah
美少年、美男子;灯火の炎
【 動詞 صَبُحَ [ ṣabuḥa ] [ サブハ ](顔が輝かしく美しい、美貌である)が由来。
クウェート首長家の名称についてはこの صَبَاح [ ṣabāḥ ] [ サバーフ ](朝)という意味だと説明している人名辞典もあるが、別の男性名 صُبَاح [ ṣubāḥ ] [ スバーフ ](美少年、美男子;灯火の炎)だとしている人名辞典も複数ある。
そのためアラブのメディアでは家名を آل صُبَاح [ ’āl(u) ṣubāḥ ] [ アール・スバーフ ](アール・スバーフ、「スバーフ家」の意)もしくは定冠詞を伴って آل الصُّبَاح [ ’āl(u) ’aṣ-ṣubāḥ ] [ アール・ッ=スバーフ ](アール・アッ=スバーフ、「アッ=スバーフ家」の意味)と発音していることが少なくなく、英語で書かれた専門書や現地サイト等で「Al Subah」「al-Subah」といった表記が存在するのもそのため
なお صَبَاح [ ṣabāḥ ] [ サバーフ ](朝)と似た人名としてはサッバーフ(実際の発音はサッバーハに近いこともある)があるが、これは語根という基本となる子音3文字パーツを صَبَاح [ ṣabāḥ ] [ サバーフ ](朝、午前)と共有している姉妹語で صَبَّاح [ ṣabbāḥ ] [ サッバーフ ](大いに輝いている、とても輝いている(もの);朝に来る(者);朝の飲み物を注ぐ(人);朝に飲食される(物))という語形違いの別男性名。】
【 日本における学術的・標準的なカタカナ表記ではスバーフとなるが、日本語のフはいわゆる「f」であるため原語での発音はむしろスバーハに近い。そのためこの人名のカタカナ表記ではスバーフ、スバーハ、スバフ、スバハが混在し得る。
なお語末の-ahはアラビア語では英語のように「アー」と伸ばさないのでスバー、スバとするとアラビア語から離れた英語発音に基づくカタカナ表記となる。】
赤褐色の、赤髪の
[ 形容詞 أَصْهَبُ(’aṣhab、アスハブ)=赤褐色の を縮小形にした語形。]
[ 恵まれた境遇から一転して売り飛ばされ奴隷に身を堕としたが、メッカ(マッカ)に逃れその後イスラーム初のローマ人解放奴隷信徒となった預言者ムハンマドの教友の名前として有名。]
母音記号あり:سُهَيْل [ suhayl / suhail ] [ スハイル ] ♪発音を聴く♪
Suhayl、Suhail
素直な(人)、温和な(人)、柔和な性格の(人)、従順な(人);平野、平地;【星の名前】カノープス(りゅうこつ座α星)
■意味と概要■
イスラーム以前のジャーヒリーヤ時代から使われてきた伝統的なアラブ男性名。
星の名前であることから日本では女性キャラクターのネーミングに使われたりもしているが、アラブ人名としては女性にも使える男女共用ネームではなく男性名という認識。アラブ人名辞典でも男性名の項目に掲載されている、男性名と明記されているなど女性のスハイルさんは非常に珍しくSNSでも「スハイルは男性名」「スハイルさんって女性を初めて見かけた」「スハイルって名前のアカウントなのに中の人が女性でいぶかしんだ」といった投稿があるなどするが、一応実在はしている。
対応する女性名としては名詞・形容詞の男性形語末に付加することで女性化する機能を持つ ة(ター・マルブータ)のついた سهيلة(母音記号あり:سُهَيْلَة [ suhayla(h) / suhaila(h) ] [ スハイラ ](素直な(人)、温和な(人)、柔和な性格の(人)、従順な(人)))があり、そちらはスハイルの女性バージョンとしてアラブ人名辞典にもたいてい掲載されている。
*人名辞典には سُهَيْلَة [ suhayla(h) / suhaila(h) ] [ スハイラ ] は良い意味のみが載っているが、アラビア語辞典によると"スハイラ"は実際の人名もしくは風の名称として大嘘つきの代名詞ともなりことわざに登場することも。أَكْذَبُ مِنْ سُهَيْلَة [ ’akdhabu min suhayla(h)/suhaila(h) ] [ アクザブ・ミン・スハイラ ](スハイラよりも嘘つきだ)でとんでもない大嘘つきだ、スハイルの上をいくとんでもない嘘つき野郎だ、という意味になるという。ただし現在ではあまり使われていないようでウェブ検索してもヒット数は非常に少ない。
سُهَيْل [ suhayl / suhail ] [ スハイル ] は名詞・形容詞である سَهْل [ sahr ] [ サフル(日本語のフがf音であるため誤解しやすいが「h」はカタカナのハ実際にはサハルに近く聞こえる) ](容易な、簡単な;(性格が)温和な、柔和な(人/男性);平らな、緩やかな;平野)の縮小形で、「小さな」「愛らしい」というニュアンスを添えたりするアラブ人名によくある語形。
星の名前としては古来から主にカノープス(りゅうこつ座α星)のことを指す名称として知られ、「明るい」という意味でスハイルとの名になったという説明がなされるなどしている。アラビア語辞典では真夏の酷暑期が終わり実った果実が熟す時期(アラブ世界では西暦の8月24日)に夜空に登場するとても明るい星といった記述が一般的。イランのホラーサーンまで行くと見えなくなり、見えるのはイラクまでだといったことも古いアラビア語辞典では言及されている。
このカノープスは南の空に現れることから、北をシャーム(現在のシリア)方面、南をヤマン(イエメンのアラビア語名称)方面という名称で呼ぶ当時の慣習に基づき「南(イエメン方向)のスハイル」を意味する سهيل اليماني(母音記号あり:سُهَيْلٌ الْيَمَانِي [ 簡略発音:suhaylu/suhailu-l-yamānī ] [ スハイル・ル=ヤマーニー ](スハイル・アル=ヤマーニー))という別名の一つを持つに至った。
ちなみにネットでは「スハイル(ソヘイル)はアラビア語で"星"の意味」との情報が流通しているが誤り。現代アラビア語では単なる「星」は نجم(発音記号あり:نَجْم [ najm ] [ ナジュム(ナジムに近く聞こえることも)] が用いられるのが一般的で、スハイル(ソヘイル)はカノープス(りゅうこつ座α星)という特定の星の名前を指す。
■発音と表記■
[ suhayl ] [ スハイル ] の「ay」部分は二重母音「ai」のことなので発音表記としてはsuhaylとsuhailが混在している。
口語的発音(方言による日常会話での発音)としてはに二重母音ay/ai(アイ)がei(エイ)やē(エー)に寄ったスヘイル、スヘールがあり、英字表記はSuheil、Suhelなどが派生。同じく口語的な発音でuがo寄りのsu→soに転じたソハイル、ソヘイル、ソヘールに聞こえる発音により派生する英字表記はSohayl、Sohail、Souhayl、Souhail、Soheil、Souheil、Sohelなどがある。
Zubayr、Zubair
力が(とても)強い(男)、力が(とても)激しい(男);石;知性、理性(的な者)
■概要・意味■
古くからある男性名。زَبْر [ zabr ] [ ザブル ](強い、激しい)の縮小語形。語根z-b-rは男性器と全く同じ語根だが特に関係無い。
■重要人物~アッ=ズバイル・イブン・アル=アウワーム■
イスラーム初期でこのファーストネームを持つ人物としてはクライシュ族アサド家出身の اَلزُّبَيْرُ بْنُ الْعَوَّامِ [ ’az-zubayr/zubair(u) bnu-l-‘awwām ] [ アッ=ズバイル・ブヌ・ル=アウワーム ](アッ=ズバイル・イブン・アル=アウワーム)が挙げられる。
預言者ムハンマドと行動を共にした教友(サハーバ)の中でも特に重要な人物で、預言者にとっては父方おばサフィーヤの息子(いとこ)かつ妻ハディージャの兄弟の息子(義理の甥)にあたる。年齢的には預言者ムハンマドの方が一回りほど年上。イスラーム布教が始まった早い時期に入信した初期信徒だった。
アッ=ズバイルの父 اَلْعَوَّام بْن خُوَيْلِد [ ’al-‘awwām bnu khuwaylid/khuwailid ] [ アル=アウワーム・ブヌ・フワイリド ](アル=アウワーム・イブン・フワイリド)はクライシュ族アサド家の一員で、彼の妹ハーラもイスラーム改宗者、別の妹ハディージャは預言者ムハンマドの妻になるなどイスラーム初期共同体と密接に関わっていた一家。なお父アル=アウワームはイスラーム以前のジャーヒリーヤ時代に起こった部族間戦争で死去している。
アッ=ズバイル数々の戦いで功績を挙げ、天国の楽園を約束された十名の信徒のうちの一人とされる人物。両脚で馬を駆り両手に刀剣を持ち戦場を駆け回った二刀流の名騎士で、この技術が現代では失伝したことも相まって伝説的な戦士・ホースマンの憧れとしても知られる。
預言者ムハンマド亡き後はエジプト征服戦争に従軍したりカリフを選ぶ合議・協議(シューラー)に加わったりしたが、預言者ムハンマドの妻だったアーイシャらと共に第4代正統カリフ アリーの就任に反対。アッ=ズバイルとアブー・バクルの娘 أَسْمَاء [ ’asmā’ ] [ アスマー(ゥ/ッ) ](アスマー)との間に生まれた息子アブドゥッラー(アブド・アッラー)も加わって勢力争いに発展、勃発したラクダの戦いのさなかアリー軍兵士に殺害された。
アッ=ズバイルはイラク南部に埋葬され、同地は اَلزُّبَيْر [ ’az-zubayr / ’az-zubair ] [ アッ=ズバイル ] という地名になった。
シーア派では第4代正統カリフ・シーア派初代イマームのアリーと対立したため、ラクダの戦いに参加すべきではないと感じて撤退を決めたにもかかわらず殺害されたのは彼自身の敵対行為の報いであり改心しただけでは足りなかったからだと考える模様。
なお彼の名前についてはアラビア語では定冠詞の有無を区別するためアッ=ズバイル・イブン・アル=アウワームと発音・表記するが、日本ではアラブ人名の定冠詞を一律で除去してからカタカナすることが慣例化しているため、ズバイル・イブン・アウワームなどとなっていることが多い。
■アラブの有名都市伝説~文豪シェイクスピアアラブ人説
余談だがアラビア半島付近には「文豪シェイクスピアの名前はアラビア語の名前で شيخ زبير [ shaykh/shaikh zubayr/zubair ] [ シャイフ・スバイル ](シャイフ・ズバイル、口語風発音はシェイフ・ズベイル、シェイフ・ズベール)だったという小話がある。それが英語風発音になってシェイク・ズバイル、シェイク・ズベイル、シェイク・ズベール→シェークスビールに変わったというシェイクスピアアラブ人説なる都市伝説となっている。
ゲーム『原神』には『オモスの商人』を上映するズバイルシアターの関係者としてシェイクズバイルというキャラクターが登場するが、上記の実在するシェイクスピアアラブ人説をヒントに作られた登場人物だと思われる。
■発音と表記■
口語的に二重母音ay/aiがei(エイ)やē(エー)に寄ったズベイル、ズベールという発音に対応した英字表記はZubeir、Zuberなど。同じく口語的な発音でuがo寄りのZu→Zoに転じたゾバイル、ゾベイル、ゾベールに聞こえる発音により派生する英字表記はZobayr、Zobair、Zoubayr、Zoubair、Zobeir、Zoubeir、Zoberなど。
イラク方言のように二重母音ay/aiがieになってズィビェル、ズビェールに聞こえるような発音に即した英字表記としてはZubie、Zubyerが見られる。
Sufyaan、Sufyan
歩みを急ぐもの(者)、飛翔を急ぐもの(者);風に巻き上げられたちり・ほこり、ちりを運ぶ雲
【 古くからある男性名。預言者ムハンマドらを迫害したマッカ(メッカ)クライシュ族側の指導者的人物であった أَبُو سُفْيَان [ ’abū sufyān ] [ アブー・スフヤーン ](=アブー・スフヤーン・サフル・イブン・ハルブ)の通称に含まれるスフヤーンがこの人名。彼の本名(ファーストネーム本体)は صَخْر [ ṣakr ] [ サフル ](「岩」の意味)だったが「スフヤーンの父」という意味のクンヤ形式ラカブであるアブー・スフヤーンで後代まで通っているため本名サフルを知らない人の方が多い。
また彼にはこの他にも أَبُو حَنْظَلَة [ ’abū ḥanẓala(h) ] [ アブー・ハンザラ ](ハンザラの父)という自分の長男の名前からつけられた通称(クンヤ)があった。ハンザラは彼の実子の名前でウマイヤ朝の祖ムアーウィヤにとっては母親違いの兄弟にあたる。】
【 短母音u部分をouで表現したSoufyaan、Soufyanもしばしば使われているが基本的にはソウフヤーン、ソウフヤンではなくスフヤーン、スフヤン系統の発音を意図しているつづりなので要注意。口語的にuがoに転じてにソフヤーン寄りになった発音に対応した英字表記はSofyaan、Sofyan。
yの字を使わず-fyan部分を-fianの類に置き換えたSufiaan、Sufian、Sofiaan、Soufiaan、Sofian、Soufianなどもあるが、アラビア語としての実際の発音はスフィアーン、スフィアン、ソフィアーン、ソフィアンではなくy音が入ったスフィヤーン、スフィヤン、ソフィヤーン、ソフィヤンに聞こえるものと思った方が無難。】
Zuraara、Zuraarah、Zurara、Zurarah
(衣服の)ボタン;壁・地面に固定する鋲;剣の刃
[ アラビア半島には تميم [ タミーム ] 族に連なる دارم [ ダーリム ] 族分家にあたるズラーラ家が実在。ジャーヒリーヤ時代とイスラーム誕生後の両時代にわたって他のタミーム同様武勇・戦闘能力・騎馬技術で人々に恐れられるとともに、巧みで美麗なアラビア語能力で知られたとのこと。ジャーヒリーヤ時代のタミーム族自体は偶像崇拝する支族、キリスト教を信仰していた部族などに分かれたがズラーラ家はマギ教徒だったという。同ズラーラ家の父祖・家長名がズラーラであった。崇高で英知に富んだ人物で他のタミームの成員らが彼に裁定を頼むなどしていたという。]
[ 日本語のカタカナ表記ではズララなどが見られる。 ]
健全な、無傷の、欠陥が無い
[ سَلْمَان=サルマーンの縮小形名詞=小さなサルマーン という説明も。スライマーンはイスラームにおける預言者スライマーン(=ソロモン)の名前として好まれている。]
[ 口語的に二重母音アイをエイもしくはエーで読むとスレイマーンやスレーマーンと聞こえる。その場合の英字表記はSuleiman、Sulemanなど。uがoに転じてソライマーンやソレイマーン、ソレーマーンと聞こえる発音に基づいた英字表記はSolaiman、Soulaiman、Soleiman、Soleman、Souleiman、Solemanなど。Sの後の母音が抜けて音が詰まった感じの発音に即した英字表記としてはSlayman、Slaiman、Sleyman、Sleiman、Slemanなど。]
母音記号あり:سُلَيْم [ sulaym / sulaim ] [ スライム ] ♪発音を聴く♪
Sulaym、Sulaim
(被害・事故・損害・病害・不信仰から)無事な、免れて;無傷の、健康な、安全な;小さなサリーム
■意味と概要■
男性名としてもポピュラーな سَلِيم [ salīm ] [ サリーム ](主な意味:(被害・事故・損害・病害・不信仰から)無事な、免れて;無傷の、健康な、安全な)の縮小語形。「小さなサリーム」の意。小さくて愛らしいといったニュアンスを与える語形だが、アラビア半島の部族社会にはこうした縮小語形の男性名が非常に多く、スライムもその一つ。
なおカタカナ表記では「スライム」と同じになるが、ドラクエやファンタジーものに出てくるモンスター「スライム」の名称にもなっている英単語「slime」(どろどろしたもの、ぬるぬるしたもの;ヘドロ;粘液)とは無関係。
■発音と表記■
縮小語形でない方の元になった سَلِيم [ salīm ] [ サリーム ] も本項目の سُلَيْم [ sulaym / sulaim ] [ スライム ] も母音記号が無いと全く同じアラビア語表記 سليم になってしまう。どちらの発音なのかは添えられた英字表記や動画などにおける発音で確認する必要がある。
-ay-部分はアラビア語では二重母音-ai-(アイ)を表すため英字表記も-ay-つづりと-ai-つづりの両方が見られる。アラビア語文語の二重母音「ay(=ai)」部分は日常会話・口語ではei(エイ)もしくはē(エー)音になることが一般的で、スレイムに対応したSuleym、Suleim、スレームに対応したSuleem、また2個連なっているeeを1個に減らしたSlemといった英字表記が使われている。
また口語的にSの直後に来る母音uがoに転じたソライムに対応した英字表記Solaym、Solaim、上で起こる発音変化と組み合わさったソレイムに対応したSoleym、Soleim、ソレームに対応したSoleem、Solemなども派生。
さらに語頭のsは口語(方言)だと母音が取れて無母音化しやすいため、Sとlの間の母音が除去されたSlaym、Slaim、Sleym、Sleim、Sleem、Slemなども使われ得る。
根拠、証拠、権力、支配権、統治権、スルターン(=スルタン)
[ 口語的にuがoに転じてソルターンと読まれた場合の英字表記はSoltaan、Soltan、Soultanなど。 ]
Dhu al-Faqaar、Dhu al-Faqar、Dhulfaqaar、Dhulfaqarなど
ズー・アル=ファカール、ズ・ル=ファカール、ズルファカール
【 アラブ・イスラーム圏でまれに見られる男性名。第4代正統カリフ・シーア派初代イマームであるアリーの剣の名称であるためシーア派信徒が多数派のイラク辺りでの使用例が多めとの印象。
「持ち主、所有者;~があるもの、~を持つもの」という意味の ذُو [ dhū ] [ ズー ] と後続する定冠詞つきの属格(≒所有格)名詞 اَلْفَقَار [ ’al-faqār ] [ アル=ファカール ] が前の語を属格支配している属格構文(イダーファ構文)の複合語。
息継ぎをしながら分かち読みをすれば [ dhū ’al-faqār ] [ ズー・アル=ファカール ] となるが、実際にはアラビア語だとこうした1個の人名としてのかたまりの中では実際には息継ぎせずに一気読みするため、2語間のリンキングによる発音変化が起こる。[ dhū ] 語末は短母音化で [ dhu- ] に、前に別の語が来ることで定冠詞語頭の「’a」が発音のみ省略され [ ’al-faqār ] から [ -l-faqār ] となり、合わせて ذُو الْفَقَارِ [ dhu-l-faqār ] [ ズ・ル=ファカール ] という読まれ方をする。
第4代正統カリフ・初代シーア派イマームが持っていたという剣の名称が由来。意味には複数の解釈がある。この剣は預言者ムハンマドから授けられたとされるなどしている。預言者ムハンマドから授けられたという言い伝えにおいては、元々バドルの戦いで戦死した異教徒側の人物 اَلْعَاص بْنُ مُنَبِّه [ ’al-‘āṣ bnu munabbih ] [ アル=アース・ブヌ・ムナッビフ ](アル=アース・イブン・ムナッビフ)の持ち物で、戦利品として預言者の手に渡ったものがアリーに手渡されたことになっている。先が二つに割れた二股の剣とされていることが多い。】
【 口語的にu部分がoに転じ [ dho-l-faqār ] [ ゾ・ル=ファカール ](ゾルファカール)に近くなったことから派生する英字つづりはDho al-Faqaar、Dho al-Faqar、Dholfaqaar、Dholfaqar。非アラビア語圏などにおける ذ [ dh ] 部分の発音置き換わりや ق [ q ] 部分の発音置き換わりもしくは調音部位が近い ك [ k ] 当て字などが反映されたつづりもあるため、ムスリムネームとしてはZu al-Faqaar、Zu al-Faqar、Zulfaqaar、Zulfaqar、Zulfaghaar、Zulfaghar、Zulfagaar、Zulfagar、Zo al-Faqaar、Zo al-Faqar、Zolfaqaar、Zolfaqar、Zolfaghaar、Zolfaghar、Zolfagaar、Zolfagarといった英字表記が派生。同じ人名でもズルファガール、ゾルファガールのように読まれることがあるのもそのため。
アラビア語文語ではズルフィカール(ズー・アル=フィカール)という発音もある。
ذُو الْفِقَارِ [ dhu-l-fiqār ] [ ズ・ル=フィカール ] ♪発音を聴く♪
Dhu al-Fiqaar、Dhu al-Fiqar、Dhulfiqaar、Dhulfiqarなど
非アラビア語圏イスラーム諸国で発音が置き換わったことから生じるなどした英字表記のバリエーションはZu al-Fiqaar、Zu al-Fiqar、Zulfiqaar、Zulfiqar、Zulfighaar、Zulfighar、Zulfigaar、Zulfigar、Zo al-Fiqaar、Zo al-Fiqar、Zolfiqaar、Zolfiqar、Zolfighaar、Zolfighar、Zolfigaar、Zolfigarなど。読みとしてはズルフィガール、ゾルフィガール。
さらにi部分がeに置き換わったDhu al-Feqaar、Dhu al-Feqar、Dhulfeqaar、Dhulfeqar、Zu al-Feqaar、Zu al-Feqar、Zulfeqaar、Zulfeqar、Zulfeghaar、Zulfeghar、Zulfegaar、Zulfegar、Zo al-Feqaar、Zo al-Feqar、Zolfeqaar、Zolfeqar、Zolfeghaar、Zolfeghar、Zolfegaar、Zolfegarなども派生し得る。発音はズルフェカール、ゾルフェカール、ズルフェガール、ゾルフェガール。】
小さな黒→ちょっと色黒→褐色の、茶色の
[ أَسْوَد(’aswad、アスワド)=黒い の縮小形として。小さな黒の、少し黒いという意味。]
[ 口語では二重母音アイがエイやエーになるため、スウェイドやスウェードに聞こえる。その場合の英字表記はSuweyd、Suweid、Suweid、Suweed。さらに口語におけるu→oの変化を反映した英字表記はSowayd、Sowaid、Soweyd、Soweid、Soweed。Sの後の母音が脱落した発音に基づくSwayd、Swaid、Sweyd、Sweid、Sweedなども派生する。]
正しい、健全な、高潔な、敬虔な、小さなサーリフ
[ صَالِح(ṣāliḥ、サーリフ)の縮小形。「小さいサーリフ」の意。]
[ 口語では二重母音アイがエイやエーになるため、スウェイリフやスウェーリフに聞こえる。その場合の英字表記はSuweylih、Suweilih、Suweilih、Suwelihなど。さらに口語におけるu→oの変化を反映した英字表記はSowaylih、Sowailih、Soweylih、Soweilih、Sowelihなど。Sの後の母音が脱落した発音に基づくSwaylih、Swailih、Sweylih、Sweilih、Swelihなども派生し得る。lih部分のiがeに転じた口語読みで~リフ→~レフとなった場合の英字表記はSuwayleh、Suwaileh、Suweyleh、Suweileh、Suweleh、Soawyleh、Sowaileh、Soweyleh、Soweileh、Sowelehなど…]
安全な、無事な、健康な、無傷の
[ سَالِم(sālim、サーリム)の縮小形。「小さなサーリム」の意。]
[ 口語では二重母音アイがエイやエーになるため、スウェイリムやスウェーリムに聞こえる。その場合の英字表記はSuweylim、Suweilim、Suweilim、Suwelimなど。さらに口語におけるu→oの変化を反映したソワイリム、ソウェイリム、ソウェーリムを反映した英字表記はSowaylim、Sowailim、Soweylim、Soweilim、Sowelimなど。Sの後の母音が脱落した発音に基づくSwaylim、Swailim、Sweylim、Sweilim、Swelimなども派生し得る。lim部分のiがeに転じた口語読みで~リム→~レムとなった場合の英字表記はSuwaylem、Suwailem、Suweylem、Suweilem、Suwelem、Soawylem、Sowailem、Soweylem、Soweilem、Sowelemなど…]
従順な、素直な
[ 元々そんなに多い男性名ではないが、エジプトではラマダーンドラマにこの名前の登場人物がいたことで一時的に命名数が急増したことで話題になった。]
[ 口語・人名でしばしば起きる تَخْفِيف(takhfīf、タフフィーフ )と呼ばれる現象が起こり、声門閉鎖音/声門破裂音ハムザの弱文字y化で طَايِع(ṭāyi‘、ターイウ)に転じた口語風バージョンも。語末が喉を引き締めて出す独特の音で、実際に聞くとターイァに聞こえることも。]
Daawuud、Dawud、Dawoud、Daud、Daoudなど
ダーウード
■意味と由来■
イスラームの預言者ダーウードの名前として有名なヘブライ語由来の外来語。セム系一神教の預言者ダビデ/ダヴィデ、英語の男性名David(デイヴィッド/デーヴィッド/デイヴィド等)に相当。元の意味は「愛された者」だが、アラブ世界では預言者にあやかって命名する名前となっている。
■アラビア語表記におけるو(w)の個数と有名なエピソード■
وを2個連ねる دَاوُود [ dāwūd ] [ ダーウード ] 以外にوを1個抜いても同じ発音になる دَاوُد [ dāwūd ] [ ダーウード ] という表記が存在する。後者は [ dāwud ] [ ダーウド ] と読ませる別男性名として区別されている訳ではなく同一人名のつづり違いとして扱われている。داودと書いてダーウードと発音する件はアラビア語正書法(正字法)教科書に必ず出てくるといっても過言ではないほど有名な特殊表記。人名辞典によっては دَاوُد の方しか載っていないこともある。
ダーウードにو1個だけの特殊表記がある件は、伝統的なアラビア語学習書において主語がザイド、目的語がアムルの例文が多く動詞と目的語の説明にザイドがアムルをぶった・殺したといった物騒な暴行が頻出することとからめた歴史上のエピソードとしても伝わっている。
バグダードに統治者として赴任したダーウード・パシャ(オスマン朝時代の人物でジョージア(グルジア)生まれ)はアラビア語の講義を受けるものの「文法の授業でなぜいつもザイド(زَيْد)がアムル(عَمْرٌو)殴ったりするような例文ばかり出てくるのか?」と学者らにに尋ねた。しかし誰もが「ザイドがアムルをどうこうするのは単に例文を作る際に便利だから」と回答。つまらない答えばかりが返って来たことに立腹したダーウード・パシャは文法学者らを次々に投獄してしまったという。
とうとう彼を楽しませてくれる説明をしてくれた学者が登場。「عَمْرٌو [ ‘amr ] [ アムル ](*発音に現れない余分なوが語末についている特殊つづりの人名)めは貴方様のお名前でもある دَاوُد [ dāwūd ] [ ダーウード ] (発音するのにつづり上はوが1個足りない)からوの一字を盗むという大罪を犯したからそのようなひどい目に遭ったのでございます!」という回答に大満足したダーウード・パシャ。投獄された文法学者らも無事釈放されたのだとか…
■発音と表記■
دَاوُود や دَاوُد 以外にも、دَاؤُود [ dā’ūd ] [ ダーウード ] というつづり・発音がある。これについては近代になってから欧米で刊行されたライト(Wright)文法書において、特殊な文字表記なだけで [ dā’ūd ] と発音すべきだとの説明がなされている。
また دَاهُود [ dāhūd ] [ ダーフード ](英字表記:Daahuud、Dahud、Dahoudなど)という表記・発音もバリエーションの一つとされる。複数国のTV放送録画を色々と見てみたところداهودと書いてある場合、ダーフードと発音しているケースが主流ながらダーウードと呼んでいる/言っている例もあることを確認。Dahoudという表記の場合本人たちが普段ダーフードと発音しているか、ダーウードと発音しているか動画等で聞いたり本人公式の英字表記を見たりしないと分からない可能性もあると言える。)といったつづり・発音が使われることもあるとのこと。
ただしアラビア語文法解説フォーラム・サイトによると دَاوُود が最も正しいつづり、次いで دَاوُد も正しいつづり扱いで同じ文字が2個続くのを避けるため(=لِعَدَمِ تَوَالِي الْأَمْثَالِ)発音はそのままで表記上1個だけのوに減らされたことによるもの。一方でハムザを用いた دَاؤُود や دَاؤُد は避けるべきだという。ハムザあり表記については西暦1268年刊の辞典『مختار الصحاح』に وَ (دَاوُدُ) اسْمٌ أَعْجَمِيٌّ لَا يُهْمَزُ(=そしてダーウードは外国語由来の名前でありハムザはつかない)との記載あり。慣用としてはあるが厳密にはNGとの位置づけ。
口語では実際には長母音表記であっても発音されると音が短くなったりしやすい傾向が強く、ダーウードも耳で聞いただけはダーウドのように感じられることも。アラビア語文語ではダーウードが正しくても地元方言や移民・帰化した先の言語によっては少し変えたカタカナ表記の方が本人が希望した読まれ方である/適切であるケースも有り得るので注意。
なお、アラブメディアではフスハー番組になると方言発音を文語通りに直して口語で短くなる長母音ももとに戻してしまうことが多いため、現地発音や本人採用の公式発音を知りたい場合は参考にする動画類の出所を選ぶ必要が出てくる。
Daaghir、Daghir
(不当な)襲撃者、侵入者、攻撃者;卑しい、下劣な、悪しき、堕落した、人柄の悪い
【 ファーストネームよりも人名由来の家名として使われることが多いとか。サウジアラビアの場合は شَمَّر [ shammar ] [ シャンマル ] 族の支族にダーギル族(/家)があり、レバノンだとイスラーム教徒のダーギル家(イラクやシャーム地方征服のためアラビア半島から出ていったイスラーム戦士らの末裔)、キリスト教徒のダーギル家両方があるという。】
【 口語的にiがeに転じた発音ダーゲルに即した英字表記はDaagher、Dagher。】
宗教(信仰)の王冠
طٰهٰ [ ṭāhā ] [ ターハー ] ♪発音を聴く♪
Taahaa、Taha
ターハー
■意味と概要■
クルアーン第20章「ター・ハー」章冒頭に出てくる神秘文字で、はっきりとした意味はわかっていない。アルファベットのطターとهハーという謎の組み合わせについては、後世の学者らが研究し解釈を書き著している。預言者ムハンマドへの語りかけだと解釈されることもあることからイスラーム世界ではターハーがアフマド、ムスタファー等と並んで預言者ムハンマドの別名の一つだと考える人も少なくないが、厳密には別名ではないとの学説も。イスラーム法学的にはター・ハーのようにクルアーンの章句を男児名とすることは好ましくない行為だとする法学者の意見も見られる。
■発音と表記■
アラビア語では طهと表記するが長母音āを表す記号(短剣アリフ)を書き足して طٰهٰ [ ṭāhā ] [ ターハー ] と発音する特殊表記の代表例。英字表記ではTahaになっていることが多いが、アラビア語発音に忠実なカタカナ化はタハではなくターハー。口語発音だと最後の長母音が短母音化しターハに近く聞こえることも。
ナツメヤシの実をたくさん持っている(者)→幸福・糧・財産をたくさん持っている(者)
[ レバノン周辺には تَامِرجي(tāmirjī、ターミルジー→口語的に読んでTamerji、ターメルジー)というファミリーネームがあるが、これはナツメヤシ屋という意味ではなくトルコ語の鉄に由来する دَامِرجِي(dāmirjī、ダーミルジー→口語的に読んでDamerji、ダーメルジー)と同義で、鉄屋つまり鍛冶屋を意味する。 ] [ 口語的にiをeで読むとターメルで、英字表記はTaamer、Tamerとなる。]
戸を叩く者、夜訪れる者
[ 元の意味は「戸を叩く者」。アラブの住戸では昼間は家の戸は開けてあるので人が来ても叩くことをしないが、夜には戸が閉まっていているのでノックする必要があった。そこから戸を叩く人→戸が閉まっている夜中に来訪する人、という意味が派生した。またクルアーンの第86章اَلطَّارِق(アッ=ターリク)「夜訪れるもの」に出てくる星もこのターリクで呼ばれている。クルアーン解釈では夜明けに見える星の土星であるとか、夜肉眼でも見えるすばる(プレアデス星団)である、といった推測がなされているという。]
[ 口語的にiをeで読むとターレクで、英字表記はTaareq、Tareqとなる。また英字表記ではqがkに置き換わることが多く、Taarik、Tarik、Taarek、Tarekと書かれていることも少なくない。]
母音記号あり:طَالِب [ ṭālib ] [ ターリブ ] ♪発音を聴く♪
Taalib、Talib
求める者、追求者;学徒、学生
■意味と概要■
動詞 طَلَبَ [ ṭalaba ] [ タラバ ](求める)の能動分詞・男性形で、動作主・行為者であることを示す。「物事を求める者、何かを手に入れようとする者」「学を求める者、知識を求める者、学徒」「(高校、大学以降)学生」といった意味がある。
第4代正統カリフ/シーア派初代イマームであったアリーの父は أَبُو طَالِب [ ’abū ṭālib ] [ アブー・ターリブ ](アブー・ターリブ)の名前で知られているが、これはクンヤと呼ばれる通称「アブー・◯◯(◯◯の父)」。アリーの長兄がターリブという名前だったことから周囲にそう呼ばれるようになったもの。アブー・ターリブの父本人のファーストネームは عَبْد مَنَاف [ ‘abd(u) manāf ] [ アブド・マナーフ ](マナーフのしもべ)だったという。マナーフはイスラーム以前の多神教時代(ジャーヒリーヤ時代)に聖地マッカ(メッカ)などで強く崇拝されていた神の名前。アブー・ターリブの長男でアリーの兄だったターリブについてはわずかな伝承しか残っておらず、その人となりについては詳しいことはわかっていないという。
■発音と表記■
口語的にiがeに転じたターレブという発音に即した英字表記Taaleb、特にTalebが広く用いられている。またアラビア語方言や非アラビア語圏における母音置き換わりによりi/e部分がuになったタールブに対応した英字表記Taalub、Talub、母音uではなくoの響きまで変わっているターロブに対応したTaalob、Talobなども元は全部このターリブという人名。
Tayyib、Taiyib
良い、善良な
【 形容詞的用法などで使われる分詞に類似した فَعِيلٌ [ fa‘īl(un) ] [ ファイール(ン) ] 語形に似ているが、元になった動詞が فَعَلَ [ fa‘ala ] [ ファアラ ] 型で第2語根が弱文字のくぼみ動詞であることから فَيْعَلٌ [ fay‘al(un) / fai‘al(un) ] [ ファイアル(ン) ] 語形となっているもの。そのため طَيِّب と書いて [ ṭayīb ] [ タイーブ ] ではなく [ ṭayyib / ṭaiyib ] [ タイイブ ] と読む。】
【 口語的にiがeに転じる発音ではタイイェブもしくはタイエブに聞こえる。対応する英字表記はTayyeb、Tayeb、Taiebなど。】
容易にすること、簡単にすること、(神が)恩恵・安寧を与えること
客、客人
[ 二重母音アイがエイもしくはエーに転じた口語発音デイフもしくはデーフに由来する英字表記はDeyf、Deif、Deef、Defなど。 ]
アッラーの客人、巡礼者、カアバ神殿を訪れる者、モスクに礼拝に訪れる者、モスクで礼拝する者
[ 二重母音アイがエイもしくはエーに転じた口語発音デイフもしくはデーフに由来する英字表記はDeyf Allah、Deif Allah、Deef Allah、Def Allah、Deyfullah、Deifullah、Deefullah、Defullahなど。さらに口語的な読みはダイファッラーで英字表記はDayfallah、Daifallah、Deyfallah、Deifallahなど。]
Taym Allah、Taim Allah、Taymullah、Taimullahなど
アッラーのしもべ
■タイムッラーという名前について■
イスラーム以前のジャーヒリーヤ時代から使われいた古い複合名。عَبْد الله [ ‘abdu-llāh ] [ アブドゥ・ッラー(フ/ハ) ](アブドゥッラー)と同じ意味。
ジャーヒリーヤ時代には تَيْم [ taymu / taimu ] [ タイム ] の後に多神教崇拝の対象女神 اَلَّات [ ’allāt ] [ アッ(=)ラート ] の名前を置いた تَيْم اللَّاتِ [ taymu/taimu-llāt ] [ タイム・ッ(=)ラート ](タイムッラート、タイム・アッ(=)ラート、「アッラーとのしもべ」の意。)という男性名も存在、部族名として有名部族の系譜図にも残るなどしている。
【発音と英字表記、カタカナ表記】
名詞 تَيْم [ taym / taim ] [ タイム ](しもべ、奴隷)を唯一神の名称 الله [ ’allāh ] [ アッラー(フ/ハ) ] が後ろから属格支配したイダーファ構文の複合名。-ay-部分はアラビア語では二重母音-ai-を表すため英字表記も-ay-つづりと-ai-つづりの両方が見られる。前の語を属格支配する後続の名詞は語末に格母音「i」がつくのでこの人名につく母音を全て読み上げる場合は تَيْم اللهِ [ taymu/taimu-llāhi ] [ タイム・ッラーヒ ] となる。
しかしアラビア語には休止(ワクフ)形がありこの人名を単独で呼ぶ場合、直後に息継ぎをする場合には最後の格母音「i」は落とすため、تَيْم اللهِ [ taymu/taimu-llāhi ] [ タイム・ッラーヒ ] ではなく [ taymu/taimu-llāh ]-[ タイム・ッラーフ ] と [ タイム・ッラーハ ] の中間のような発音となり最後の「h」はほんのり軽く聞こえる程度となる。カタカナ表記でタイムッラーフではなくタイムッラーが一般的なのはそのため。
日本語表記の都合上元々の単語の切れ目通りにタイム・アッラーと中点を入れて分けることもあるが、この人名に関してはタイムッラーとつなげ書きすることが多い。アラビア語では実際にはタイム・アッラーのように分けて読まず息継ぎ抜きでタイムッラーと一気読みに発音される。
口語(方言)のアラビア語では唯一神の名称は最後のhを読まずアッラーフ、アッラーハではなくアッラーや「ー」を短くつまらせたアッラになる傾向が強い。その際文語で語末の文字や格母音まできっちり読み上げる時よりもアクセントの位置が前方にずれる形となる。 ♪発音を聴く♪
口語的に読むとTaym+Allahがつながってタイマッラーと聞こえることが多く英字表記Taymallah、TaimallahやTaymalla、Taimallaなどが派生。また長母音が短くなったタイマッラ発音もあり、同じくTaymallah、Taimallah、Taymalla、Taimallaなどがあてられる。
またTaym / Taim部分は一気読み発音する場合には語末格母音「u」を含むことからTaymu(/ Taimu)+Allah→Taymullah、Taimullah)となるが、口語的にタイムッラと短くなった発音に対応したTaymulla、Taimullaなどが派生。また口語ではTaymu部分の母音uがoに転じやすくそこからタイモッラーやさらにそれがつまったタイモッラという発音とそれに対応する英字表記Taymollah、Taymollaが生じる。
アラビア語文語の二重母音「ay(=ai)」部分は日常会話・口語ではei(エイ)もしくはē(エー)音になることが多く、1語目のタイムがテイムに転じたテイムッラー発音に対応したTeimullah、テイムッラ発音に対応したTeimulla、テイマッラー発音に対応したTeimallah、テイマッラ発音に対応したTeimalla、テームに転じたテームッラー発音に対応したTeemlluah、-ee-を1個に減らしたTemullah、テームッラに対応したTeemulla、Temulla、テーマッラーに対応したTeemalla、-ee-を1個に減らしたTemallaといった英字表記が派生し得る。
これに加えてアッラー部分のllをl1個に減らしたTaym Alah、Taim Alah、Taymulah、Taimulah、Taymula、Taimula、Taymalah、Taimalah、Taymala、Taimala、Teimulah、Teimula、Teimalah、Teimala、Teemluah、Temulah、Teemula、Temula、Teemala、Temalaといった英字表記が各国イスラーム教徒のムスリムネームに対する英字表記として使われ得る。
成功、幸運、(人間関係や物事における)調停、アッラーにより悪行への道が塞がれ善行への道へと導かれること
[ 口語的に二重母音アウがオウもしくはオーに寄った発音に即した英字表記、アラブ圏以外のイスラーム諸国における英字表記のバリエーションとしてToufiiq、Toufiq、Toufeeq、Towfiiq、Towfiq、Towfeeq、Tofiqなどがある。 ]
勇敢な、戦闘相手を踏み倒して回る勇敢なる者、獅子
[ 動詞 دَاسَ(dāsa、ダーサ)=踏みつける より派生。踏みつける行為を大いにする者、といった強調の意味が付与された語形。単なる能動分詞よりも激しいことを示す。]
宗教(信仰)の敬虔なる者、信心深き者→信心深く敬虔なイスラーム教徒
[ تَقِيّ(taqī(y))が単独の場合、語末母音まで全部発音するとtaqīyとなるためタキーュ、タキーィのように聞こえるが、口語など日常的な会話では単なるtaqīのタキーと聞こえる発音をしていることが多い。複合語になった場合はyをはっきり読んだ上で語末の母音も復活するのでyuと読むが、英字表記ではyu音の復活を反映しないTakiddinも数は多くないが見られる。]
多く屠殺をする者、大いに屠る者、屠ることを恐れない勇猛果敢な男
[ 能動分詞 ذَابِح(dhābiḥ、ザービフ)=屠る者 の強調語形 ذَبَّاح(dhabbāḥ、ザッバーフ) が、口語的に ذ(dh)音が د(d)に転化したもの。]
完璧な人物、人格・徳に関して全てを兼ね備えた、厳しい・激しい性格の
[ بَنُو تَمِيم(banū tamīm、バヌー・タミーム)=タミーム族、Banu Tamim、Bani Tamim のタミームはこの名前。先祖にタミームという男性がいたことから「バヌー・タミーム」(タミームの子孫たち、タミームの一族 )と呼ばれるようになった。 ]
[ 強調の意味を示す語形。]
♪発音を聴く♪
Darwiish、Darwish、Darweeshなど
貧者;(イスラーム神秘主義、スーフィズムにおける)修道者
[ ペルシア語由来の人名・家名。どちらかというと家名として使われることの方が多い。ペルシア語風なのでイラン系ルーツの非ローカルアラブ人に特有のファーストネームやファミリーネームかというとそうでもなく、フルネームを頼りにナサブ(系譜)をたどって大元の部族を調べてみると有名なアラブ系大部族に行き当たることもしばしばで、遊牧民系・部族系アラブ人のローカル民であることも少なくない。
イラクからアラビア半島湾岸地域にかけてはイラン方面の影響を受けてイスラーム宗教家の肩書きが一部ペルシア語風だったりするため、人名・家名としてもダルウィーシュという語が入り込んだものと推察される。
またその他のアラブ各国でも原理主義的傾向が強まる前は長い歴史の中で色々なイスラーム神秘主義(スーフィズム)教団が活動してきたためにダルウィーシュという名称は比較的馴染みがあるからか、シリア・レバノン・パレスチナといったレヴァント地方やエジプトなどにも主にラストネームとしてフルネームの中にダルウィーシュの語を含んでいる人々がしばしば存在する。]
[ 英字表記に関してはDarweishなども。なおDarwishのwishを英語のウィッシュのように発音するダルウィッシュというカタカナ表記も多く見られるが、アラビア語の文語ではダルウィーシュと伸ばして発音される。日本語ではダルウィシュといったカタカナ表記も。
非アラビア語圏ではアラビア語に無いvの音があるため、非アラブ世界の人名・家名としてはwの部分がvになった [ darvīsh ] [ ダルヴィーシュ ] という発音が一般的で、英字表記Darviish、Darvish、Darveesh等はそこから派生。ダルヴィシュ、ダルヴィッシュ、ダルビッシュ、ダルビシュといったカタカナ表記はそちらから来ている。]
アカシアの木(人々が木陰を求めてその下に向かうぐらいの大きな木でもある)、バナナの木(クルアーン第56章『出来事』に出てくるタルフの木がこの人名タルハの集合名詞で、累々と実るタルフの木はバナナだという解釈がある)
[ イスラームのごく初期に入信した預言者ムハンマドの親友が、同じクライシュ族の出身のタルハだった。天国の楽園に必ず入ることができるであろうとされた10人のうちの1人。預言者ムハンマド逝去、第3代カリフウスマーン暗殺事件等を経て、アリー側との対立の中戦死した。]
母音記号あり:دِيب [ dhīb ] [ ディーブ ] ♪発音を聴く♪
Dib、Diib、Deeb
オオカミ(狼)
■意味と概要■
文語アラビア語(フスハー)で「オオカミ(狼)」を意味する最も一般的な呼称である名詞 ذِئْب [ dhi’b ] [ 学界の標準カタカナ表記だとズィイブだが、実際にはズィゥブとズィィブとズィッブが混ざったような発音 ] の声門閉鎖音(声門破裂音)ء(ハムザ)部分が長母音化する発音置き換わり( تَخْفِيف [ takhfīf ] [ タフフィーフ ] )によって ذِيب [ dhīb ] [ ズィーブ ] になったものが、さらに口語的なdh(ذ)音のd(د)化によって دِيب [ dhīb ] [ ディーブ ] にまで変化した形。
■発音と表記■
ディーブの長母音ī(イー)音を示すために用いる英字表記-ee-がe1個だけに減らされたDebというつづりもよく見られるが、原語であるアラビア語ではデブ、デッブではなくディーブと発音するので英字表記経由でカタカナ化する際は要注意。
光、明かり、輝き
[ 語末に長母音āと声門閉鎖音/声門破裂音ハムザがあるため厳密にはディヤーゥ、ディヤーッのような発音となるが、口語などではディヤーのように聞こえることが多い。 ]
宗教(信仰)の光、宗教の明かり、宗教の輝き
(複数の)狼、オオカミ、狼の一群
[ 文語の ذِئَاب(dhi’āb、ズィアーブ)=狼の複数形 が口語的な発音においてذ dh→د d、2文字目の声門閉鎖音/声門破裂音ハムザつきの’aが ي yaに転じた語形。英字表記ではDiabとなっていることも少なくない。エジプトの歌手アムル・ディヤーブの名前がAmr Diabと書かれているのもそのため。]
母音記号無し:ضرغام
母音記号あり:ضِرْغَام [ ḍirghām ] [ ディルガーム ] ♪発音を聴く♪
【1字目を似た発音に置き換えた非強勢音化・非強調音化した場合のつづり】
母音記号無し:درغام
母音記号あり:دِرْغَام [ dirghām ] [ ディルガーム ] ♪発音を聴く♪
Dirghaam、Dirgham
(強くて苛烈/激烈/獰猛な)獅子、ライオン;(獅子、ライオンのように)勇敢な(者)、強い(者)、猛者
■意味と概要■
アラビア語でライオン(獅子)を意味する基本的な単語は أَسد [ ’asad ] [ アサド ] だが、他にも風貌・特質などを意味する語から転じたライオン(獅子)を表す言葉(別称、二つ名)が多数存在。ディルガームはその一つで、強くて勇猛苛烈な雄のライオン(獅子)を表すという。また人間について使う場合は、果敢で優れた戦士であることを示唆。
男性名(ファーストネーム)として以外にラストネーム、ファミリーネーム部分にこの名前が来ることも少なくない。なお、アラブ人のファーストネームとしてはイラクなどに特に多く、シーア派信徒の名前というイメージが強めだと言われることも。
この名を持つ歴史上の有名人物としては、幼くして即位したファーティマ朝カリフ(アル=)アーディドの元で権力争いしていたディルガームが挙げられる。
■発音と表記■
口語的にiがeに転じたデルガームに対応した英字表記はDerghaam、Dergham。غ [ gh ] を発音が似ているgに置き換えたDergaam、Dergamも広く使われている。
ضرغام 語頭の「ض」の表記バリエーションdhを用いたDhirghaam、Dhirgham、Dherghaam、Dhergham、Dhirgaam、Dhirgam、Dhergaam、Dhergamもあるが、方言発音や非アラビア語圏における発音変化の都合上ディルガーム、デルガームではなくズィルガーム、ゼルガームに置き換わった読み方を意図している可能性も考慮する必要あり。語頭部分の発音置き換わりに対応した英字表記としてはZirghaam、Zirgham、Zerghaam、Zergham、Zirgaam、Zirgam、Zergaam、Zergamなどが挙げられる。
また口語発音だったり非アラビア語発音だったりで母音が置き換わったダルガームに対応したDarghaam、Dargham、Dargaam、Dargam、ザルガームに対応したZarghaam、Zargham、Zargaam、Zargam、ドゥルガームに対応したDurghaam、Durgham、Durgaam、Durgam、ズルガームに対応したZurgham、Zurgaam、Zurgam、ドルガームに対応したDorghaam、Dorgham、Dorgaam、Dorgam、ゾルガームに対応したZorgham、Zorgaam、Zorgamがアラブ名・イスラーム名として各国で使われている。
(複数の)歯が抜けている、歯抜けの、(全部抜けてしまって)歯が無い、虫歯により根元まで腐食してしまい歯が失われている
[ أَدْرَدُ(’adrad)の縮小形。イスラーム以前のジャーヒリーヤ時代からある古い人名。ジャーヒリーヤ時代に度重なる戦闘をしたにもかかわらず負けなしだった勇猛な英雄・詩人のファーストネームとしても有名。]
[ 口語的にuがoに転じた発音はドライドで、英字表記はDorayd、Doraid。また二重母音アイがエイやエーに近くなった場合の発音はDureyd、Dureid。さらに両方を反映したドレイドという発音に基づく英字表記はDoreyd、Doreidなど。]
Turkii、Turki、Turkee、Turky
トルコの;トルコ人(;美少年、美男)
【 現代ではアラビア半島地域の有力者・権力者に比較的多く見られる人名。人名辞典によるとトルコ系には優美で美形の少年・少女奴隷が多かったため、古くは生まれた男児が美貌に恵まれるようにと願って命名されるなどしていたのだとか。通常の辞書には出て来ないがアラブ人向け命名サイトだと人名トゥルキーと同じ意味の他候補として「美しい」という意味の形容詞や「美」といった名詞が挙げられていることもある。】
【 語末の子音「y」は重子音化記号シャッダがついているためアラビア語におけるつづり的には [ turkiyy = turkī(y) ]。純文語的で厳密な発音を発音するとトゥルキーュとトゥルキーィの中間のような発音に聞こえアクセントも後半に置かれるが、口語など日常的な会話では単なる [ turkī ] [ トゥルキー ] と聞こえる発音をしていることが多い。この場合はアクセント位置が前方にずれる(♪発音を聴く♪)。さらに口語では [ turkī ] [ トゥルキー ] のような語末の長母音が短母音化してしまうため、実際に聞くと [ turki ] [ トゥルキ ] に聞こえることも。
他には口語的にuがo寄りになったトルキーに対応した英字表記Torkii、Torki、Torkee、Torkyなどが派生。語末が短母音化したトルキに対応した英字表記としてはTorkiなど。
日本語のカタカナ表記ではトゥルキー、トゥルキ、トルキー、トルキが混在している。】
母音記号あり:نَايِف [ nāyif ] [ ナーイフ ] ♪発音を聴く♪
Nayif、Naayifなど
高い、そびえ立つ(もの/者);高貴な、崇高な(者)
■意味と概要■
動詞 نَافَ [ nāfa ] [ ナーファ ](高い、そびえる;高貴である、崇高である;(一定の年齢に)近づく;(数などが)超える)の能動分詞・男性形 نَائِف [ nā’if ] [ ナーイフ ] の3文字目である声門閉鎖音/声門破裂音ハムザ(ئـ とつづられている ء)部分の発音が口語的な変化である弱文字化 تَخْفِيف [ takhfīf ] [ タフフィーフ ] / تَسْهِيل [ tashīl ] [ タスヒール ] によって ي(y)に置き換わり نَايِف [ nāyif ] [ ナーイフ ] のようなつづりとなったもの。
アラブ人名辞典によっては現サウジアラビア首都付近であるナジュド地方の砂漠地域に居住する部族民の男性名として知られる人名だとしているものもあり、アラビア半島のうち特にサウジアラビア人の名前というイメージが比較的強いと言える模様。実際にサウジアラビア王族にもこの名を持つ人物らが存在する。
■発音と表記■
発音については、人名として نايِف という表記としながらも نَائِف [ nā’if ] [ ナーイフ ] と発音するとの旨(ويلفظ: نائف)が書かれているオンラインのアラブ人名辞典がある。
実際の口語アラビア語による日常会話では نَائِف [ nā’if ] [ ナーイフ ] の「イ(ئِـ)」ははっきりとしたイとなるが、نَايِف [ nāyif ] [ ナーイフ ] についても「يِـ(yi)」をユィとカタカナ表記すべきであるような y を強く感じる発音をするわけではないため後者もナーイフとしか聞こえないような発音が行われるとの印象。そのためアラビア語表記に忠実な英字表記(ラテン文字表記)でNayifやNaayifとなっていても、ナーユィフなどと当て字をせず、標準的なカタカナ表記であるナーイフとするのが無難・自然だと思われる。
また口語(方言)的にiの響きがe寄りになるナーエフに近い発音もしくはナーイフと意図しているであろうNayef、Naayefという英字表記も用いられているが、これについても y を強調したナーイェフというカタカナ表記はやや不自然であることから、実際の発音に近いナーエフという当て字が無難だと思われる。
またアラブ人名の英字表記ではアラビア文字表記に含まれるي(y)の字を抜去した慣用当て字もしばしば行われ、この人名についてもナーイフ(Nayif、Naayif)からyを抜いたNaif、Naaif、ナーエフ/ナーイフからyを抜いたNaef、Naaefなどもしばしば用いられている。
日本語カタカナ表記としてはナーイフ、文字数削減目的や英字表記Naif等を見たままにカタカナ化したナイフ、ナーエフ、ナエフ、ナーイェフ、ナイェフなどが併存。
競走馬名としてはアラブネームのNayefを英語発音したネイエフなども見られるが、Naderをナーデルではなくネイダーと読むのと同様英語読みで、アラビア語男性名としては誤読に当たる。
獲得者、手に入れる(者);手に入れた物、(与えられた)恩恵、贈り物
[ 口語的にiがeに転じた発音だとナーエルに近く聞こえる。その場合の英字表記はNaael、Nael。 ]
Naajii、Naji、Naajy、Najy、Naajee、Najeeなど
(敵・死・災難から逃れて)免れる(者)、生き残る(者)、助かった(者);(人やラクダの歩みが)速い
【 動詞 نَجَا [ najā ] [ ナジャー ] (免れる;歩みや走りを速くする)の能動分詞・男性形。動作の主体・主語であることを示す。非限定形かつ語末母音まで全部読む方法では نَاجٍ [ nājin ] [ ナージン ] と発音するが、人名なので ي の字をつける方のつづりでナージーとする。】
【 日本語のカタカタ表記としてはナージー以外にナジも使われている。口語では語末の長母音が短母音化してナージと聞こえることが多い。エジプトなどjをg音に置き換えて発音する地域ではナーギー、ナーギに。そこから派生する英字表記はNaagii、Naagi、Nagi、Naagy、Nagy、Naagee、Nageeなどが考えられる。】
成功した(人)、成功者、うまくいった(人)
[ カタカナ表記上はナージフが普通だが、フの部分はfではなく喉を狭めてハッと発音するのでhの後に来る母音を読まず子音で止める読み方をした場合にはナージハ寄りで聞こえることがある。 ]
勝利の助けとなる(者)、援助者;ワーディー(ワジ、涸れ川)へと向かう水の流れ
[ エジプト元大統領はナセルという名前で書かれていることも多いが、彼のファーストネームや家名がこのナースィルだという訳ではないので注意。フルネームに含まれる عَبد النَّاصِر(‘abdu-n-nāṣir→エジプト口語読み‘abde-n-nāṣer)は2語セットでアッラーのしもべを意味するアブド◯◯シリーズだが、その一部だけを取って日本語化したものである。 ]
[ 口語的に読むとiがeに転じてナーセルに近くなり、英字表記もNaserに。sを2個連ねた、Nassir、Nasserといった表記もある。日本語ではナセルとカタカナ表記されていることも多い。]
珍しい、稀な
[ 口語的に読むとiがeに転じたナーデルとなり、英字表記はNaader、Naderに。レバノン系アメリカ人であるラルフ・ネーダー(Ralph Nader)のネーダー(Nader)はこのナーデルを英語読みしたもの。なお日本ではNaderの長母音部分を復元しないナデルというカタカナ表記が多く見られる。]
母音記号あり:نَاهِض [ nāhiḍ ] [ ナーヒド ] ♪発音を聴く♪
Nahid、Naahid
立っている(者);活動的な、精力的な(者);戦闘の準備ができている、敵との戦闘に臨む、敵と対決すべく急いで向かう(者);上り坂の道;高い場所;飛ぶことができるようになった鳥の雛(ひな)・幼鳥;獅子、ライオン(の別名の一つ)
■意味と概要■
「立ち上がる、起きる」といった意味を持つ動詞 نهض(母音記号あり:نَهَضَ [ nahaḍa ] [ ナハダ ])の動作主・行為者であること、もしくはそれが表す状態にあることを意味する能動分詞語形の男性形。副次的な語義をどの程度まで掲載しているかはアラブ人名辞典によってまちまちで、獅子の別名であるという記載があるものと無いものとに分かれる。
なお、獅子の別名としては発音が酷似した1文字違いで نَاهِض [ nāhiḍ ] [ ナーヒド ] どある程度語義もかぶっている ناهد(発音記号あり:نَاهِد [ nāhid ] [ ナーヒド ] )もあり男性名としても用いられている。ただし نَاهِد [ nāhid ] [ ナーヒド ] は女性名としては「乳房がこんもりと高い、胸が大きな、巨乳の(女性)」という意味。
■発音と表記■
口語的にiがeに転じた発音ナーヘドに対応した英字表記はNahed、Naahed。実際の発音ではナーヒッド、ナーヘッドに近く聞こえることもあるが、カタカナ表記としてはナーヒドないしはナーヘドが無難かと。
日本語カタカナ表記としてはナーヒド、ナヒド、ナーヘド、ナヘド、ナーヒッド、ナヒッド、ナーヘッド、ナヘッドなどの混在が考え得る。
役に立つ、有益な [ 英字表記で上手く表せない喉を引き絞る子音 ع(アイン。「‘」などで表す。)の音を反映させる都合上、Nafie、Nafia、Nafeaなどの表記バリエーションが生じる。語末を子音=無母音で止める発音だとナーフィァに近く聞こえることがある。]
Nawfal、Naufal
海;(広大な海のごとく)寛大で気前が良い(男);(大いなる)恵み、(多大なる)恩恵;(少年・青年に関して)顔が美しい、美青年、美貌の青年;ハイエナのオス;ライオンの仔;キツネの仔;犬の仔、子犬
■意味と概要■
語根 ن - ف - ل(n - f - l)からなる名詞で و [ w ] は語根に含まれない。كَثْرَة [ kathra(h) ] [ カスラ(フ/ハ) ](多量、大量、多さ)に関連した كَوْثَرٌ [ kawthar / kauthar ] [ カウサル ](多量、大量、潤沢;多くの恵み、潤沢な恩恵)同様に語根を余剰の و [ w ] を含む فَوْعَلٌ [ faw‘al(n) / fau‘al(n)] [ ファウアル(ン) ] 語形に当てはめたもので、誇張・度合いの強調を意味。名詞 نَافِلَة [ nāfila(h) ] [ ナーフィラ(フ/ハ) ]((分け前・権利・義務などの枠を超えたものとしての)余剰、余計、追加分;義務ではない随意の礼拝;戦利品;贈り物、授かり物、恩恵、恵み;(息子の息子としての)孫)の誇張・強調であるという説明、もしくはそれと同様の意味を持つ نَفَل [ nafal ] [ ナファル ]、نَفْل [ nafl ] [ ナフル ] の誇張・強調であるといった説明が文法書やクルアーンの注釈書などに書かれている。
アラビア語で「海」は寛大さの象徴・比喩のひとつ。中世から現代に至るまでのアラビア語辞典・大辞典によるとナウファルは「海」、「(海のごとく)寛大で気前が良い人物」という語義がメインである模様。なお動物に関してはハイエナのオスまでの掲載に留まるものが多く、ライオンの仔やキツネの仔まで載っている辞典は少ない。
ナウファルはイスラーム以前のジャーヒリーヤ時代から使われてきた伝統的な古い男性名で、ジャーヒリーヤ時代のクライシュ族にも نَوْفَلُ بْنُ عَبْدِ مَنَاف [ nawfal(u)/naufal(u) bnu ‘abdi manāf ] [ ナウファル・ブヌ・アブディ・マナーフ ](ナウファル・イブン・アブド・マナーフ、意味は「アブド・マナーフの子ナウファル」。)という男性がいた。預言者ムハンマドの祖父 عَبْدُ الْمُطَّلِبِ [ ‘abdu-l-muṭṭalib ] [ アブドゥ・ル=ムッタリブ ] の父方おじに当たる。
■発音と表記■
-aw-部分はアラビア語では二重母音 [ au ] [ アウ ] を表すため英字表記も-aw-つづりと-au-つづりの両方が見られる。アラビア語文語の二重母音「aw(=au)」部分は日常会話・口語ではou(オウ)もしくはō(オー)音になることが多く、ノウファルやにノーファルに対応したNowfal、Noufal、Noofal、そして-oo-を1文字に減らしたNofalといった英字表記が見られる。Nofalについては文語発音のナウファルが口語で変化したノウファル、ノーファルを意図した当て字なので、アラブ人名としては現地で発音されることが無い読みであるノファルとカタカナ表記しないことを推奨。
英語のoath(誓い)の「oa-」部分の発音を取り入れたと思われるNoafalなども。これについてはノーファルという発音を意図したものということでノアファルとカタカナ表記しないよう要注意。
これ以外には口語的に後半の-alが-elに転じたナウフェル、ノウフェル、ノーフェルといった発音に対応しているNawfel、Naufel、Noufel、Noofel、Nofel、Noafelなども使われている。
高い、非常に長身な
[ 強調の意味がある語形。アラビア語のnawwāfをカタカナ表記にする場合、aw部分が二重母音auに相当するので小さなッのナッワーフではなくナウワーフとした方がより正確。同様に、「第1の」という意味の أَوَّل(’awwal)もアッワルではなくアウワルとカタカナ表記するのが一般的。]
高貴な生まれの、名家出身の、傑出した、賢い、理知的て理解の早い、見識のある
[ カイロ方言でjがgと読まれるエジプトなどではナギーブになる。jをgで置き換える場合の英字表記はNagiib、Nagib、Nageebなど。Naguibという表記もある。ナジーブ、ナギーブに関しては日本語では長母音を復元しないナジブ、ナギブというカタカナ表記も見られる。]
小高い場所、台地、高地、高原;高く盛り上がった道;勇敢で傑出している男、鋭敏・活動的で他の者の追随を許さない勇敢な男;呼ばれた際にすぐに返事をする男、返事が早い男;巧みな、腕の良い;木が生えていない場所、植生が無い土地;サウジアラビアの首都(リヤド/リヤード)がある地方の名前(ナジュド/ネジュド/ネジド);胸、乳房;悩み、苦悩、悲しみ
[ 文語ではjの部分に母音がつかないのでナジドに近い発音だが、口語ではjの後に母音がはさまってナジェドに近くなることも多く英字表記でNajedとなっていることもしばしば。 ]
母音記号あり:نَجْم [ najm ] [ ナジュム(実際にはナジムに近く聞こえることも) ] ♪発音を聴く♪
Najm
星;スター、花形;茎を持たない形状の植物
■意味と概要■
「星」を意味する名詞に由来する男性名。天体の星という意味以外にも、芸能人・人気者・花形といったいわゆる英語や日本語の「スター」と同じ意味で用いられることも多い。
نَجْم [ najm ] [ ナジュム ](星;スター、花形)自体は男性名詞かつ男性の名前として使われるため、アラブの女性名として使う場合は複数形の نُجُوم [ nujūm ] [ ヌジューム ](星々)にするか、星1個を表しかつ女性名詞であることを示す ة(ター・マルブータ)がついた女性形(女性バージョン)である نَجْمَة [ najma(h) ] [ ナジュマ ]((1個の)星)となる。「星」の意味で創作物のキャラクターやペットに命名する場合は女性キャラに「ナジュム」と命名しないよう要注意。
■発音と表記■
学術書などではカタカナ表記がナジュムとなっているが、j部分は母音uはつかず無母音のjであることからナジムに近く聞こえたりする。また口語ではjの後に補助の母音が追加されることが広く行われており、[ najim ] [ ナジム ] や [ najem ] [ ナジェム ] のような発音に変化しやすい。そのため文語での読みの母音記号に出てこないeをjの後に付け足しナジェム寄りにしたNajemという英字表記も多い。
また方言ではna(ナ)がne(ネ)となり、エジプト首都カイロ近辺方言などではjがgになってネグムという発音になるため、ネジュムに対応したNejm、ネジムに対応したNejim、Nejemといった英字表記も存在する。さらにエジプト首都カイロ近辺方言などではjの音がgの音に置き換わるため、ネグムという発音に対応した英字表記がNegmなども使われている。
またjではなくgを用いた表記に関しても補助母音を追加したNagim、Nagem、Negim、Negemなどがあるが、必ずしもエジプト方言風発音のガ行発音を意図しているとは限らずナジム、ナジェム、ネジム、ネジェムといった発音を意図している可能性もあるため、動画などで本人がどう発音しているのか確認が必要な場合も。
宗教(信仰)の星
母音記号あり:نَشْوَان [ nashwān ] [ ナシュワーン ] ♪発音を聴く♪
Nashwaan、Nashwan
酔っている、酔い始めている(、酩酊している);酔っ払い(の男);(酒を飲んで)楽しげ・嬉しそうにしている、 ;(吉報・勝利などによって)喜びに包まれている、歓喜し酔いしれている
■意味と概要■
女性名として使われた事例もあるが、アラブ世界では基本的には男性名との扱いでイスラーム以前のジャーヒリーヤ時代から使われていた名前。
形容詞的意味と名詞的意味を持ち合わせており、同じ فَعْلَانُ [ fa‘lān(u) ] 語形である سَكْرَانُ [ sakuran ] [ サクラーン ] と似たような意味だが、アラビア語辞典によるとひどく酔っている酩酊状態ではなく酔い始めの最初の段階の様子、ワインなどの酒を飲んでご機嫌な状態になってきた様子を表す模様。
アラビア語-英語辞典やアラビア語-日本語辞典では深く酔っている、酩酊状態である、陶酔状態で恍惚としているといったイメージを示す語義も載っているが、アラビア語大辞典などでは سَكْرَانُ فِي أَوَّلِ سُكْرِهِ や سَكْرَانُ فِي أَوَّلِ أَمْرِهِ などと定義されており酒飲みの序盤、酔い始めた最初の段階であり、酩酊・泥酔状態よりは軽く酔い始めて嬉しそうにしている様子が本来の意味に近いことがわかる。
■発音と表記■
日本語カタカナ表記としてはナシュワーン、ナシュワン。
また長母音āがē寄りになる方言におけるナシュウェーン、そしてその長母音が短めに詰まったナシュウェンに近い口語発音に即したNashween、Nashwenといった表記もまれに見られる。
公正な(者)、半分ずつに二等分する(者)、(物の)半分、ヴェール
[ sを2個重ねたNassif、Nasseefといった表記も多い。日本では日本語的にsをshiでカタカナ化したナシーフという表記が見られる。]
نَسِيم [ nasīm ] [ ナスィーム ] ♪発音を聴く♪
Nasiim、Nasim、Naseem
よそ風、微風;心地良い風
■意味と概要■
アラビア語辞典での定義は「木を動かしたり足跡を消したりしない柔らかな風」、「風が強まる前の最初の吹き始め」、「心地良い風、そよ風」など。
日本語記事では「ナシームはアラビア語で海風という意味」と紹介しているものもあるが、不正確な情報。ナスィーム単体が元々海風という意味を持っている訳ではなく、海風という意味の時は「海」を意味する名詞 بَحْر [ baḥr ] [ バフル/バハル ] を添えた نَسِيمُ البَحْرِ [ nasīmu-l-baḥr ] [ ナスィーム・ル=バフル/バハル ] で「海風、海から陸へと吹くそよ風」、その逆の陸風の時は「陸」を意味する名詞 بَرّ [ barr ] [ バッル ] を添えた陸から海へと吹く نَسِيمُ البَرِّ [ nasīmu-l-barr ] [ ナスィーム・ル=バッル ] で「陸風、陸から海へと吹くそよ風」という区別がなされている形となっている。
■発音と表記■
フランス語などで濁点化を防ぐといった目的からsを2個連ねたNassiim、Nassim、Nasseemという英字表記もあるが、これらはナスィームのことでナッスィーム、ナッスィム、ナッセームと発音することは特に意図していないので要注意。また口語風にaがeに転じたネスィーム寄りになった発音に対応したNesiim、Nesim、Nessiim、Nessim、Nesseemなども派生。
日本ではナスィーム、当て字の際に長母音を抜いたナスィム以外にも外国語への当て字における慣習からsi(スィ)がsh(シ)音に置き換わったナシーム、ナシム、ネシーム、ネシムといったカタカナ表記が見られる。
警告者、警告、警報、(悪いことが起きる)前兆
[ アラビア語の口語でしばしばdhがzに置き換わることもあってか、NazirやNazeeerという英字表記も存在する。日本では日本語的にdhをj音と聞こえるナジールや、長母音を復元しないナジルでカタカナ表記されていることが多い。]
整理・統制・組織の(に関連した)、秩序を好む(者)
[ ظ はzで英字表記してある場合とdhの場合との2通りがある。文語ではdhの強勢音だが、口語ではzの強勢音となり地域差・方言差が見られる。日本語ではナズミー、ナズミ以外にもナドミとカタカナ表記されていることがある。アラビア語においては厳密には語末を発音するとnaẓmīyとなるためナズミーュ、ナズミーィのように聞こえるが、口語など日常的な会話では単なるnaẓmīのナズミーと聞こえる発音をしていることが多い。この場合はアクセント位置が前方にずれる。 →♪発音を聴く♪]
勝利の、援助の、支持の
[ 厳密には語末を発音するとnaṣrīyとなるためナスリーュ、ナスリーィのように聞こえるが、口語など日常的な会話では単なるnaṣrīのナスリーと聞こえる発音をしていることが多い。この場合はアクセント位置が前方にずれる。 ]
宗教(信仰)の勝利
[ トルコ民話に出てくるナスレッディン・ホジャの「ナスレッディン」はこの名前から。]
[ 定冠詞al-読みが口語のel-に置き換わったナスレッディンNasrredinといったバージョンもある。]
アッラーの勝利
[ ヒズブッラー(ヒズボラ)の書記長 حَسَن نَصْر الله(ḥasan naṣrullāh→口語的発音はnaṣrallā(h)、Hassan Nasrallah、ハサン・ナスルッラーフもしくはハサン・ナスラッラー)のフルネームの一部としても広く知られる。有名な種牡馬ナスルーラの名前はここから。 ]
[ 文語で語末まで厳密に読めば子音のhがあるためナスルッラーフという発音になる。しかしながら日常では口語的にhがほとんど聞こえないナスルッラーのような発音が多く、アクセント位置も前方にずれる。口語ではナスラッラーという発音になることが多く、そこからNasrallahという英字表記が派生する。♪発音を聴く♪]
Nadaa、Nada
露、夜露;湿気、湿り気;雨;寛大さ
【 有名マンガ『サトコとナダ』に出てくるナダはこの名前。女性名としての使用が多いが男性名として使われることもある。アラビア語で雨水や露は恵みの象徴のため大昔から人名としても好まれてきた。】
【 口語(話し言葉、方言)ではナダーではなく短くなったナダに近く聞こえることが一般的。日本語ではナダーよりも語末の長母音が短母音化したナダというカタカナ表記の方が多く見られる。】
Nadiim、Nadim、Nadeemなど
(飲む際の、宴席での)同伴者、同席者;飲み友達、飲み仲間、呑み友達、呑み仲間;仲間、友達、親友
【 (主に夜に)飲んだり談話を楽しんだりする場や宴での同伴者・同席者という意味。同席して一緒に飲んで・談話する相手のこと。歓談や芸能を楽しむ سَمَر [ samar ] [ サマル ](夜の会話/談話/歓談/宴席)と関連付けて使われることも。
酒宴以外における同伴者・同席者を指すのにも用いられるが、主にアルコール類の摂取を伴う場について言う言葉であるため、命名してから「酒を共に飲む相手というイスラーム的でない由来の名前をつけてしまいました。改名すべきでしょうか?」という相談を法学者にしている人の例なども見られる。
酒宴を開き人を侍らせること自体はイスラーム以前のジャーヒリーヤ時代からアラブ人は行っていたが、ペルシア的要素を多分に有していたアッバース朝時代にも宮廷内での飲酒が行われていた。カリフに同伴して酒類を飲んだり作詩をしたりする職業的・専門的なナディームらがおり宮廷文化の一端を担った。享楽的傾向で知られ『千夜一夜物語(アラビアンナイト)』にも登場するアブー・ヌワースもその一人。彼は現代イラクの首都バグダードに銅像があるほか、彼の名前を冠したアブー・ヌワース通りは魚の丸焼きマスグーフ専門店の名所としても知られる。
アブー・ヌワース通りはイラク経済全盛期にレストランやナイトクラブがずらりと並び、イラク人らの会食でにぎわい外国人観光客が多数訪れる観光名所だった。エジプトの新聞はかつて「バグダードで人を見失ったらアブー・ヌワース通りに行けば良い。相手も必ずそこを通るだろうからきっと見つけられるはずだ。」と書いたことすらあったとか。旧政権崩壊後は国民の生活水準変化により気軽にマスグーフランチを楽しむことも難しくなり、アブー・ヌワース通りの店舗も多数閉店したという。
なお نَدِيم [ nadīm ] [ ナディーム ] 自体は動詞 ندم から得られる分詞類似の فَعِيلٌ [ fa‘īl(un) ] [ ファイール(ン) ] 語形だが、「飲み・宴席で相伴する」という動詞は動詞派生形第3形の نَادَمَ [ nādama ] [ ナーダマ ] や第6形の تَنَادَمَ [ tanādama ] [ タナーダマ ] が用いられる。
第1形(基本形) نَدِمَ [ nadima ] [ ナディマ ] は「後悔する」という全く違う概念を示すが、これに関しては「元々 مُنَادَمَة [ munādama(h) ] [ ムナーダマ ](飲み・宴席での同伴)は مُدَامَنَة [ mudāmana(h) ] [ ムダーマナ(フ/ハ) ] の子音字の位置があべこべになったもので إِدْمَان الشَّرَابِ [ ’idmānu-sh-sharāb ] [ イドマーヌ・ッ=シャラーブ ]((相伴役との)飲酒にひたること、酒を飲んでばかりいること)という意味だった語の子音字が入れ替わりこのような文字順になった」という文法学者の説が中世の複数アラビア語大辞典等で紹介されている。しかし نَدِيم [ nadīm ] [ ナディーム ] の語源に関しては他にも諸説あるといい、確定した学説ではない模様。
なおペルシア文学などの飲酒にまつわる詩に出てくる酌人の方は سَاقِي [ sāqī ] [ サーキー ](水を注ぐ者;酒を注ぐ者、お酌をする人)。非限定形の時の語形は سَاقٍ [ sāqin ] [ サーキン ]。水などを注ぐという意味の動詞の能動分詞男性形。しばしば若人・青年が担当したため少年愛とからめて語られることも少なくなかった。】
【 長母音ī(イー)を表す英字表記は複数通りあり、-ii-を使ったNadiim、-i-を使ったNadim、-ee-を使ったNadeem、-e-1文字に減らしたNaedm、-y-を使ったNadym、-ie-を使ったNadiem、-ei-を使ったNadeim、-ea-を使ったNadeamなどが併存。アラビア語に即した発音をベースにする場合はナデム、ナダイム、ナディエム、ナデイム、ナデアムとカタカナ表記をしないことを推奨。
日本語におけるカタカナ表記としてはナディーム、ナディム。】
分別がある、明敏な、利発な、名家の生まれの、高貴な
[ レバノンの政治家Nabih Berri(ナビーフ・ビッリー、もしくは口語読みに即したナビーフ・ベッリー)のファーストネームでもある。 ]
秩序、制度、組織、体系
[ ظ はzで英字表記してある場合とdhの場合との2通りがある。文語ではdhの強勢音だが、口語ではzの強勢音となり地域差・方言差が見られる。]
Nizaar、Nizar
少ない、珍しい、稀な
【 古くからある男性名。預言者ムハンマドの遠い祖先でもあるアドナーンの孫 نِزَار بْن مَعَدّ [ nizār(u) bnu ma‘add ] [ ニザール・ブヌ・マアッド ](ニザール・イブン・マアッド。「マアッドの息子二ザール」の意。)がこの名前で呼ばれた最初の人物であるとも言い伝えられており、彼にちなんで男児らに命名されるなどしてきた。
二ザールという命名の由来は、父マアッドが生まれたばかりの息子の目を見て類まれなるもの(子孫ムハンマドへと連なる預言者家系が有する特別な光・輝き)を感じ取ったからだとされる。マアッドは我が子がどこか普通とは違う特別な赤ん坊であると感じ取って大喜びし、非常に豪勢な誕生祝いとご馳走の大盤振る舞いをしたという。
また、現代においてはシリア人詩人 نِزَار قَبَّانيّ [ nizār qabbānī(y) ] [ ニザール・カッバーニー(ュ/ィ) ](Nizar Qbbani、ニザール・カッバーニー )のファーストネームとしても広く知られる男性名となっている。】
【 i部分が口語的にe寄りとなったネザールルに対応した英字表記はNezaar、Nezar。方言で長母音āがēになるマグリブ(北アフリカ)方言などのニゼール発音に対応した英字表記はNizeer、Nizer、両方が合わさったネゼールに対応したNezeer、Nezerなども見られる。
同じ人名ニザールに対して生じ得る日本語カタカナ表記のバリエーションはニザール、ニザル、ニゼール、ニゼル、ネゼール、ネゼル。】
母音記号あり:نِضَال [ niḍāl ] [ ニダール ] ♪発音を聴く♪
Nidal、Nidaal
戦い、戦闘、闘争、抗争;(祖国などの)防衛、防衛戦;(矢の)射的競争
■意味と概要■
動詞派生形第3形 نَاضَلَ [ nāḍala ] [ ナーダラ ](戦う、闘争する、抗争する;防衛する、守る;射的で競い合う)の動名詞。男性名と女性名の両方に用いられており、アラブ人名辞典にも男性・女性両方の名前として載っているのが一般的。
古いアラビア語だと「弓矢で競い合う、射的で競争する」が主な語義となっていたり、「(戦って/闘って)うち負かす」といった意味が載っていることも。また現代のアラビア語辞典では「自身の思想を守る」、「植民地支配された人々が軍事・政治において祖国を防衛する」、「自由のために闘う」、「独立のために闘う」といった例文が収録されるなどしている。
■発音と表記■
アラビア語アルファベットの ض [ ḍād ] [ ダード ] は口語発音や非アラビア語発音における ظ [ ẓ ](舌を歯にはさむ ذ [ dh ] の強勢音・強調音、もしくははさまない ز [ z ] の強勢音・強調音化への置き換えが起きる方言が多い)化や ز [ z ] 化が行っていなくても「dh」という当て字をすることがあり、現地ではニダールと発音していても Nidhal、Nidhaal のような英字表記が使われていることがある。
上記の通りダ部分の ض は方言で ظ と相互に置き換わりが起きる文字でネイティブには区別が苦手な人も多いことから、نضال ではなくニザールと読める نظال というアラビア語つづりで書かれていることがある。
また英語の enable のように e とつづってイと読むケース、もしくは口語的に i が e に転じたネダール寄りになった発音に即した英字表記としては Nedal、Nedaal、Nedhal、Nedhaal などがある。
アラビア語口語(方言)での発音置き換わりに加え、ペルシア語圏のイランなど非アラブ諸国では「ダー(ḍā)」部分がただの「ザー(zā)」に置き換わる傾向が顕著で、ニザールという発音に対応した Nizal、Nizaal やさらに i が e に転じたネザールに対応した Nezal、Nezaal といった英字表記が派生。
日本語のカタカナ表記としてはニダール、ニダル、ニザール、ニザル、ネダール、ネダル、ネザール、ネザルなどが使われ得る。なおカタカナ表記が同じになるアラブ男性名 نِزَار [ nizār ] [ ニザール ](少ない、珍しい、稀な)とは全く別の語なので名前の意味を併記する際に混同しないよう要注意。
ヌーフ
[ セム系の古い名前。預言者ヌーフの名前。聖書に出てくるノアのこと。]
[ 語末のhは喉を締めつけてハッと発音する子音なので、fを想起させる軽いフよりもハ寄りとなりヌーフとヌーハの中間ぐらいで聞こえることがある。 ]
Nuur、Nur、Noor、Nourなど
光、ともしび、明かり
【 男性名・女性名の両方として使用可能。ただし他の語と組み合わせた複合名にした場合 نُور الدِّينِ [ nūru-d-dīn ] [ ヌール・ッ=ディーン ](ヌールッディーン、ヌール・アッ=ディーン、「信教の光、宗教の光」の意)は男性名のみ、نُور الْهُدَى [ nūru-l-hudā ] [ ヌール・ル=フダー ](ヌールルフダー、フール・アル=フダー、「(神によるイスラームという正しき道への)導きの光」の意)は女性名のみとなる。】
【 Noorはooをo1個に減らしたNorという英字表記もある。なおNoor、Nor、Nourはノール、ノル、ノウル、ナウルではなくヌールという発音を意図したものなのでカタカナ化の際に要注意。なお口語(方言)の時は発音によってはノールに近く聞こえることがある可能性もある。どちらかというと文語(フスハー)における نَوْر [ nawr / naur ] [ ナウル ](花)の口語(方言)の方が [ nōr ] [ ノール ] そのものになるが、人名としては本項目の「ヌール(光)」だと考えてまず差し支えない。】
Nuur al-Diin、Nur al-Din、Nuruddin、Nurddinなど
宗教の光、信教の光、信仰の光明
【 イスラームという信教・宗教の正しき導きを人々を照らす光にたとえた複合名。ラカブと呼ばれる敬称・尊称が男性名に転じたもの。その人物がイスラーム教徒として正しく導かれ厚い信仰心を持っていることを示唆。】
小さなヌウマーン [ نُعْمَان(nu‘mān、ヌウマーン)=血、(赤い花を咲かせる)アネモネ の縮小形。]
血、(血のような赤い色の花を咲かせることから)アネモネ
[ ノウマーンとカタカナ表記されていることも多い。]
Baaqir、Baqir
知識を豊富に持つ者、学識豊かな者、学問に通暁している者
【 動詞 بَقَرَ [ baqara ] [ バカラ ]((腹などを)切り開く、切り裂く;(話を)明らかにする、明確にする;(問題・物事を)よく検討・吟味・研究する)の能動分詞(~している;~する者)男性形。
シーア派(十二イマーム派など)家庭で好んで命名に用いられている男性名。第5代イマームの مُحَمَّد الْبَاقِر(ムハンマド・アル=バーキル、原語にある(定)冠詞を省いた日本式表記だとムハンマド・バーキル)にちなんで命名されることが多い。アラブ世界ではシーア派が多いイラク、非アラブ地域では同じくシーア派が多いイランなどでこの人名がしばしば聞かれる。】
【 口語的にiがeに転じたバーケル寄りの発音に基づく英字表記はBaaqer、Baqer。qを発音が近いkに置き換えたBaakir、Bakir、Baaker、Bakerも使われている。イランのペルシア語やその他地域では ق [ q ] 音が置き換わってバーギル、バーゲルという発音に変わることから、アラビア語のバーキルに由来するイスラーム教徒の名前としてBaaghir、Baghir、Baagir、Bagir、Baagher、Bagher、Baager、Bagerといった英字表記が使われ得る。】
母音記号あり:هَاشِم [ hāshim ] [ ハーシム ] ♪発音を聴く♪
Hashim、Haashim
(骨・頭蓋骨・鼻のように空洞で乾いた物を)割る者、壊す者、砕く者;寛大な(者)、気前良くもてなす(者);地盤がゆるい山;巧みにラクダの乳を搾る者、ラクダの乳搾りの名人
■意味と概要■
ハーシムはイスラーム以前のジャーヒリーヤ時代からあった男性名で、特に預言者ムハンマドの曽祖父 هَاشِم بْن عَبد مَنَاف [ hāshim bnu ‘abd(i) manāf ] [ ハーシム・ブヌ・アブド(格母音込みの発音:アブディ)・マナーフ ](Hāshim ibn ʿAbd Manāf、ハーシム・イブン・アブド・マナーフ)の名前として有名。
生まれた時に命名された本来のファーストネームは名前は عَمْرو [ ‘amr ] [ アムル ] だったが、多神教信仰が行われていた当時カアバ神殿へ巡礼に来ていた人々にパンを分け与え、ちぎったパンを汁に浸して作る料理 ثَرِيد [ tharīd ] [ サリード ] をふるまったことから「砕く者(ハーシム)」という通称で呼ばれるようになったと伝えられている。
ヨルダン・ハシミテ(ハシェミット)王国の国名はこの「ハーシム」に由来。王族がクライシュ族ハーシムの系譜であるハーシム家であることにちなむ。ハーシム家は預言者ムハンマドの出身家系でもあり、アラブ・イスラーム世界で非常によく知られたファミリーでもある。
アラビア語辞典に載っている هَاشِم [ hāshim ] [ ハーシム ] の語義自体は「(骨・頭蓋骨・鼻のように空洞で乾いた物を)割る者、壊す者、砕く者」「地盤がゆるい山」「巧みにラクダの乳を搾る者、ラクダの乳搾りの名人」となっており、「寛大な、気前が良い」については古い時代のアラブ社会ではパンを割る=客人にもてなしの食料として提供する=気前が良いといった発想から生じた意味合いだとか。
■発音と表記■
口語的にiがe寄りになったハーシェムに対応した英字表記はHashem、Haashem。
またフランス語の影響が強い地域ではsh部分をchでつづることが一般的で、Hachim、Hachemといった当て字が行われている。これらはアラビア語としてはハーチム、ハチム、ハーチェム、ハチェム、ハーキム、ハキム、ハーケム、ハケムとは発音しないので誤読に注意。
非学術関係の日本語一般記事カタカナ表記では字数を減らすために長母音を削除するといった慣例もしくはHashimを見たままに当て字をしたといった理由によるハシムというカタカナ表記が多用されている。
母音記号あり:بَاسِم [ bāsim ] [ バースィム ] ♪発音を聴く♪
Baasim、Basim
ほほえんでいる(人)、微笑している(人)
■意味と概要■
能動分詞の男性形。動詞完了形 بَسَمَ [ basama ] [ バサマ ](ほほえむ、微笑する)の行為者・動作主であることを示す。「ワハハハ」と笑うのではなく声を立てずニコリとほほえんでいるという意味。بَاسِم [ bāsim ] [ バースィム ] を強調して「大いに」「たくさん」「何回も繰り返し」というニュアンスが加わったものが بَسَّام [ bassām ] [ バッサーム ](いつもほほえんでいる(人)、ほほえみを絶やさない(人)、よく微笑している(人))でそちらも男性名として用いられている。
ゲーム『Assassin’s Creed(アサシン クリード)』に登場するキャラクターBasim(日本語版:バシム)はこの名前。会社公式Twitterでは「名前の由来はアラビア語で「微笑む者」」との情報掲載あり。なおアラビア語版が出て بَاسِم [ bāsim ] [ バースィム ] だと確定する前は、アラビア語サイトにおいて英字表記がBasimになることがある姉妹語・男性名 بَسِيم [ basīm ] [ バスィーム ] でこのキャラ名をアラビア語表記しているケースもしばしば見られた。
■発音と表記■
口語的にiがeに転じたバーセム寄りの発音に対応した英字表記はBaasem、Basem。sを2個連ねたBaassim、Bassim、Baassem、Bassemいった英字表記も派生し得るが、主にフランス語圏などで濁点の「ズィ」になることを回避するためのつづりだったりするのでバーッスィム、バッスィム、バーッセム、バッセムと読むのを意図している訳ではない。
日本語におけるカタカナ表記としてはバースィム、バスィム、バーセム、バセム。日本語的な外国人名カタカナ表記であるバーシム、バシムとなっていることも少なくないが、元はshではなくsの音である。バーシムとすると別の能動分詞 بَاشِم [ bāshim ] [ バーシム ](食べすぎて消化不良を起こしている(人))と全くの同音になってしまうので要注意。
なお英語と違いアラビア語人名・地名の英字表記ではsに濁点がつかないので、アラビア語としてはバーズィム、バズィム、バーゼム、バゼムと読むことはしない。
Baasil、Basil
獅子心の、勇敢な、勇猛な(人);勇敢さと激しさ・厳しさを持ち合わせている英雄然とした戦士;怒っている;(戦闘時に勇敢さや怒りゆえに)眉をひそめる(人)、しかめ面をしている(人)、渋い表情をしている(人);ライオン、獅子;(言葉が)厳しくて嫌な、辛辣で不快な;(食べ物の)味気が泣く美味しくない、(飲食物が)いたんで変な臭いになった、酸化して酸っぱくまずい味になった(凝乳)、ワインが古くなって劣化・酸化した
【 動詞完了形 بَسَلَ [ basala ] [ バサラ ](勇敢である、勇猛である;怒る;(戦闘時に)眉をひそめる、しかめ面になる、渋い表情をする;(飲食物が)いたんだり腐ったりして風味・良い香り・美味しさを失う、(凝乳などが)酸化して酸っぱくなり味が悪くなる、ワインが古くなって劣化・酸化する)もしくは بَسُلَ [ basula ] [ バスラ ](勇敢である、勇猛である)の能動分詞男性形。
強者たる様子・相手に嫌悪といった負の感情を覚えさせる表情との関連からライオン・獅子を意味する一般的な名詞 أَسَد [ ’asad ] [ アサド ] の属性名的な別名としても用いられる。
眉をひそめるようなしかめ面・厳しい表情に関しては、怒りの表情や勇敢に戦い猛々しい様子を見せていることを示す。アラビア語大辞典における定義によると、厳しい表情・怖い表情ということで人に嫌悪感のようなマイナスの感情を感じさせるような顔つきを指すなどする模様。
マイナスの意味も持つのに響きが良いので命名に使われている名前、的なことを書いてある人名辞典もある。】
【 口語的にiがeに転じたバーセル寄り発音に対応した英字表記はBaasel、Basel。sを2個連ねたBaassil、Bassil、Baassel、Basselいった英字表記も派生し得るが、主にフランス語圏などで濁点の「ズィ」になることを回避するためのつづりだったりするのでバーッスィル、バッスィル、バーッセル、バッセルと読むのを意図している訳ではないので要注意。
日本語におけるカタカナ表記としてはバースィル、バスィル、バーセル、バセルなどが混在している。】
(財を)貯蓄する者、会計係、出納係
[ レバノンではマロン派キリスト教徒の有名なファミリーネームでもある。]
[ 口語的に読むとiがeに転じてハーゼンに近くなり、英字表記はKhaazen、Khazenに。]
Haadii、Hadi、Haady、Hady、Haadee、Hadeeなど
導く者、導き手、案内人、首(胴体の上部にあり体の「先頭=ハーディー」となるため)、ライオン、矢の先端
【 定冠詞をつけるとアッラーの美名(別名・属性名、99の美名として知られる)になる。】
【 ha部分はヘイと読む訳ではないのでアラビア語発音ではヘイディー、ヘイディとしない。】
Haanii、Hani、Hany、Haneeなど
食事を与える者;幸せな者、幸福な者、安らいでいる者、喜び・幸せ・安寧とともに生きる者;仕える者、使用人、召使い;(食べ物が)美味である、おいしい
[ 能動分詞 هَانِئ [ hāni’ ] [ ハーニウ ] 語末の声門閉鎖音/声門破裂音ハムザ(ء)が弱文字ヤー(ي)に置き換わったもの。文語の元の語では喉の途中にある声門を短時間ふさぐ [ ハーニゥ ] もしくは [ ハーニッ ]・[ ハーニィ ]の中間のような音だが、口語的な変化によって [ ハーニー ] と長くのばす音になっている。日本語しばしば見られるカタカナ表記はハニ、ハニー。 ]
Haani、Hani、Haniaなど
食事を与える者;幸せな者、幸福な者、安らいでいる者、喜び・幸せ・安寧とともに生きる者;仕える者、使用人、召使い;(食べ物が)美味である、おいしい
[ 能動分詞。この هَانِئ [ hāni’ ] [ ハーニウ ] 語末の声門閉鎖音/声門破裂音ハムザ(ء)が弱文字ヤー(ي)に置き換わった هَانِي [ hānī ] [ ハーニー ] も同じ意味。語末はハムザといって喉の途中にある声門を短時間ふさぐ子音で、主格を示す母音uと一緒に読めば [ ハーニウ ] や [ ハーニゥ ] と聞こえるが、日常生活では母音uまでは読まないため [ ハーニッ ]・[ ハーニィ ] の中間のように聞こえることが多い。なお [ ハーニー ] と長くのばす発音は口語的。口語風にiがeに転じたHaneaという英字表記も見られる。]
輝いている、光がとても強い、(月の光がまぶしいほどに明るく他の星々が見えなくなるがごとく)他を圧倒する
[ 口語的にiがeに転じバーヘルに近く読まれた場合の英字表記はBaaher、Baher。]
保つ者、保持する者、護る者、保護者、守護者;クルアーンの全章暗記者
[ 定冠詞をつけるとアッラーの別名・属性名(99の美名)になる。シリアの元大統領 حَافِظ الأَسَد(ḥāfiẓ ’al-’asad/ḥāfiẓu-l-’asad、ハーフィズ・アル=アサド)のファーストネームとしても有名。]
[ ظ はzで英字表記してある場合とdhの場合との2通りがある。文語ではdhの強勢音だが、口語ではzの強勢音となり地域差・方言差が見られる。口語的に読むとiがeに転じてハーフェズに近くなり、英字表記はHaafezやHafezに。]
母音記号あり:حَامِد [ ḥāmid ] [ ハーミド ] ♪発音を聴く♪
称賛する(者)、讃える(者)
■意味と概要■
動詞 حَمِدَ [ ḥamida ] [ ハミダ ](称賛する、讃える)の行為者・動作主であることを表す能動分詞の男性形。アラブ人名辞典には具体的な意味として「自分に与えられた恩恵や他者に感謝する者」「唯一神アッラーを讃えその恩恵に感謝する者」「称賛や感謝を大いに/盛んににする者」さらには「物事に満足して」といったニュアンスの説明が載っていたりする。
■発音と表記■
口語(方言)的にiがe寄りになったハーメドに近くなった発音に対応した英字表記はHamed、Hamed。
HamidとHamedについては同じ語根(子音字のセット)を共有する姉妹語で別の男性名でもある حَمِيد [ ḥamīd ] [ ハミード ](称賛された(者)、称賛されるべき素質を備えた(者))の英字表記バリエーションとかぶるので、実際の発音やアラビア語表記を見ないと区別は困難。特にハーミド(称賛する者)とハミード(称賛された者)では能動と受動の違いがあり立場的には真逆になるので要注意。
守護者、保護者、番人
[ 口語的にiがeに転じてハーレスに近くなった発音に基づく英字表記はHaares、Hares。 ]
2)حَارِث(ḥārith→Haarith、Harith)♪発音を聴く♪
耕す者、耕作者、農夫、財産を集める者;(حَارِث(ḥāris、ハーリス)単体もしくは أَبُو حَارِثٍ(’abū ḥārisアブー・ハーリス)=ハーリスの父 という熟語で)ライオン
[ ライオンがこのあだ名で呼ばれるのは、最強の捕食者であり獲物を取ってくる=集めることに長けているため。]
[ 口語的にiがeに転じてハーレスに近くなった発音に基づく英字表記はHaareth、Hareth。 ]
Khaalid、Khalid
永続する、永遠の;不死の、不朽の
■意味と概要■
イスラーム初期の名将ハーリド・イブン・アル=ワリードのファーストネームとしてムスリムらの間で今でも好まれている男性名。男児名ハーリドの多くが武将であり「アッラーの剣」「イスラームの剣」とうたわれた彼の名前にちなんで命名されてきた。ただしハーリドという名前の人物が必ずイスラーム教徒(ムスリム)かというとそうでもなく、キリスト教徒やイラクのサービア・マンダ教の信徒男性にも見られる各宗教共通ネームとなっている。
語形としては動詞 خَلَدَ [ khalada ] [ ハラダ ](永続する、永遠に続く;不死である、死なずに生き続ける)の能動分詞「~する、~している(者/もの)」の男性形。イスラーム教において永遠に生きる不死者・永遠なる不朽の存在は唯一神アッラーだけが持つ属性ということで、語の意味の通り永遠者・不死者という名前をただの人間である男児に命名しても大丈夫なのかどうか心配する人もいるとか。法学者の見解によると、アッラーのように我が子が不死者であると考えてつけている訳ではなく、永遠と思われるぐらいのとても長い年数を生きること・非常に長生きすることを願ってのことなので差し支え無いという。
■発音と表記■
口語的にiがeに転じたハーレドという発音に対応した英字表記はKhaaled、Khaledに。また文語アラビア語(フスハー)で語末のdに母音や格変化・定/不定に関わるパーツをつけた [ khālidu(n) ] [ ハーリドゥ(ン) ] とせず日常会話的な子音で止める発音 [ khalīd ] [ ハーリド ] とする場合は最後のd音が重子音化することがあり [ khālidd ] [ ハーリッド ]、[ khāledd ] [ ハーレッド ] に近く聞こえることがある。日本語のカタカナ表記でこの人名の語末を「ーッド」とする人がいるのは、英語の「-id」「-ed」を「ッド」とカタカナ化するのが一般的であることに加え、「アラビア語で言っているのを実際に耳で聞くとそういう風に聞こえるから」という上記の発音問題が関係している。
アラビア語の「kh」はカとハの中間のようなかすれた音。「k」「h」という2つの子音が並んでいるわけではないので「クハーリド」「カハーリド」のようにはカタカナ化しない。日本語でのカタカナ表記では学術書だとハを使ってハーリドとするが、日本においては一般的なメディア報道・ネット記事だとカ行で示してカーリド、カーレド、カレドと書かれていることが少なくない。
■英語圏とハーリドの発音について■
パレスチナ系ミュージシャンのDJ Khaledはこのハーリドを口語的にKhaledと表記し かつ英語風に発音させた物を元に日本語化しているため、DJキャレドというカタカナ名になっている。
アラビア語人名 خَالِد [ khālid ] [ ハーリド ] の英字表記で特に多いのがKhalidやKhaledだが、āのような長母音記号を使わないのが普通なのでどの部分を伸ばして読むのかアラビア語を知らない人には判断が難しく、ザイド→ザイードのように日本語化した時点で長母音の位置が変わってしまい、ハリードもしくはカリードになっていることもある。このような言語と違う発音は英語等を介して日本に伝わった場合に起きがちである。
ハーリドについては英字表記でKhaledの代わりにKhaleedとして実際にカリードと英語で読んでいる例もあるためカリードという日本語化が一層多くなる理由となっているものと推察される。しかし英語でKhaleedとなっていてもほぼ100% خالد [ khālid ] [ ハーリド ] に対応しており خَلِيد [ khalīd ] [ ハリード ] という人名は存在しない。ちなみにR&B歌手のカリードはムスリムではないがアラビア語由来の名前を名乗っているとのことで、Khalidという英字表記に英語風発音のカリードを対応させている例となっている。こうした例でアラビア語表記では خَلِيد [ khalīd ] [ ハリード ] と当て字することは行われておらず、本項目の男性名である خالد(khālid、ハーリド)というつづりが使われている。
アラビア語にはぱっと見Khaleedとも読めそうなつづりの خليد という男性名があるが、こちらは縮小形名詞で خُلَيْد [ khulayd / khulaid ] [ フライド ] と母音をふって音読すべき人名となので、ハリードやカリードという発音はされない。語形としては「永遠、継続」を意味する名詞 خُلْد [ khuld ] [ フルド ] を「小さな~」という意味を持つ縮小形の語形に当てはめたものとなる。
■日本語でのカタカナ表記■
上記の理由から、日本では原語であるアラビア語とは異なる発音や長母音「ー」の脱落ならびに移動などを理由として、ハーリド、ハリド、カーリド、カリド、カリード、ハリード、ハーリッド、ハリッド、カーリッド、カリッド、キャリド、キャレド、キャリッド、キャレッド…と実に多用なバリエーションが存在する。
ハールーン
[ 預言者ムーサーの兄弟である預言者ハールーンの名前として知られる。聖書に出てくるアロンに相当。]
Haytham、Haitham
鷹(タカ);鷹(タカ)の雛(=幼鳥、巣立ち前の赤ちゃん);鷲(ワシ)
■意味と概要■
昔からある男性名。主な意味は鷹の成鳥もしくは鷹や鷲の雛鳥(巣立ち前で生後1ヶ月ぐらいまでのふわふわした赤ちゃん鳥)だが、アラブの国語大辞典やネイティブ向け人名辞典には赤い砂丘、赤い砂など鳥以外の語義も載っている。なおアラビア語大辞典(لِسَان الْعَرَبِ [ lisānu-l-‘arab ] [ リサーヌ・ル=アラブ ](リサーン・アル=アラブ。
中世に刊行され今でも広く利用されている大辞典で「アラブ人の言語」の意。)には、男性名の由来としては「タカ;タカの雛(幼鳥)、ワシの雛(幼鳥)」であることがうかがえる記述(لهَيْثَم: الصَّقْر، وقيل: فَرْخ النَّسْر، وقيل: هو فرخ العُقاب ومنه سمي الرجل هَيْثَماً)がある。
オマーンの現スルターン(国王)のファーストネームでもある。
■学者イブン・アル=ハイサムの名前について■
中世の数学界などで活躍したバスラ(現イラク南部の大型港湾都市)生まれアラブ人(ペルシア系説あり)学者 اِبْن الْهَيْثَمِ [ ’ibnu-l-haytham/haitham ] [ イブヌ・ル=ハイサム ](Ibn al-Haytham、イブン・アル=ハイサム)(♪発音を聴く♪)の名前にもこの「ハイサム」は含まれる。「イブン・アル=ハイサム」の直訳は「アル=ハイサムの息子」になるがここでは父子関係を示す「◯◯の息子」というナサブではなく父祖の名前にちなんだ家名「◯◯家(出身の)」として使われているものなので、実際には「アル=ハイサム家の者」というニュアンスに近くなる。
アル=ハイサムは学者本人の数代前の先祖の名前で、男性名ハイサムに英語の定冠詞theに似たアラビア語の冠詞 اَلْـ [ ’al- ] [ アル= ](al-)がついた語形。イベリア半島で活躍したイスラーム教徒学者ら(イブン・ハルドゥーン、イブン・ルシュドほか)と同様、数代前の祖先の名前などとイブンとを組み合わせた現代でいうところの家名(ファミリーネーム、ラストネーム)相当扱いする部分で世界的に知られているケースなので「イブン・◯◯」=「◯◯は本人の父の実名」と解釈しないケースに該当する。
日本に置き換えると鈴木や山田などと呼んでいるのとほぼ同じで、アラビア語記事では彼の生まれた実家を「イブン・アル=ハイサム家」と表現するなどしている。
しかし近年はアラビア語直通の日本語化表記であるイブン・アル=ハイサムもしくは定冠詞アル=を便宜的に抜いたイブン・ハイサムとカタカナ化することが一般的。アル=ハゼン、アル・ハゼン、アルハゼン、アルハーゼンが اِبْن الْهَيْثَمِ [ ’ibnu-l-haytham/haitham ] [ イブヌ・ル=ハイサム ](Ibn al-Haytham、イブン・アル=ハイサム)に含まれる「アル=ハイサム」部分がラテン語風の発音になったものではなく、イブン・アル=ハイサムという家名的な通称で知られる人物のファーストネームの方がラテン語風発音に変わったものなのでアルハゼンやアルハーゼンがアル=ハイサムの西洋風読み方という訳ではない。
■発音と表記■
hyper(ハイパー)やhiking(ハイキング)のような英語的なつづりと発音の対応関係を取り入れたHytham、Hithamも見られ、これでヒサムではなくハイサムと読む。
二重母音「アイ」となる「-ay-(-ai-)」部分が口語的発音であるエイやエーに転じた発音ヘイサム、ヘーサムを反映した英字表記はHeytham、Heitham、Heetham、Hethamなど。thを似た音であるs(口語ではthがsに置き換わる発音もある)に置き換えたHaysam、Haisam、Heysam、Heisam、Heesam、Hesamといったバリエーションもある。また「ハイ」部分にhyという外国語風表記をあてたHytham、Hysamなども見られる。
ハイサム後半の「-am」部分は口語風発音では「-em」に転じることもあり、ハイセム寄り発音に対応したHaythem、Haithem、Hythem、Hithemといった英字表記も存在する。
モロッコなどの方言では ث [ th ] が ت [ t ] に置き換わることがあるため、ハイタム(Haytam、Haitam)、ヘイタム(Heytam、Heitam)、ヘータム(Hetam)といった発音に対応した表記バリエーションが併存している。
なお、th部分は英語のthe、thatのように濁点はつかないのでアラビア語としての発音ではハイザム、ヘイザムのようにならないので注意。
■ゲームキャラクター名として■
【Assassin’s Creed(アサシン クリード)】
ゲーム『Assassin’s Creed(アサシン クリード)』に登場するキャラクターHytham(日本語版:ハイサム)はこの名前。二重母音「アイ」である「-ay-(=-ai-)」部分を英語のhyper(ハイパー)同様「Hy-」とつづってあり、英語版ではHythamで「ハイサム」と読まれていることを確認済。
【原神】
長くなったので個別にページを作りました。詳細はサイト内の別コンテンツ『ゲーム作品アラブ風キャラ名考察『原神』アルハイゼン編』をご参照ください。
母音記号あり:حَيْدَرَة [ ḥaydara(h)/ḥaidara(h)] [ ハイダラ ]
Haydara、Haydarah、Haidara、Haidarah
(群れの中でも最も強くて偉大な)ライオン、獅子;ふくよかな、がっちりむっちりしている(男性);美男(の)
■意味と概要■
人民を統べる王のごとく獅子(ライオン)たちの間で最も権威・力を持つ偉大なる獅子(ライオン)を意味する名詞。力・襲撃力が強い、首ががっしり太い、四肢の力が強い(腕力が強い)といった性質からついた أَسَد [ ’asad ] [ アサド ](ライオン、獅子)の別名・属性名だという。حَيْدَر [ ḥaydar / ḥaidar ] [ ハイダル ] や語根を同じくする語自体は「がっちりむっちりしている、太っている、豊満である」「美男である」「背が低い」といった語義が併記されている辞書もあり、アラブ人名辞典にも「獅子(ライオン)」以外の語義が載っていることも。ただアラブ男性名としては通常「獅子(ライオン)」の意味で、現代に関してはシーア派イマームとしてのアリー・イブン・アビー・ターリブへの崇敬から命名されていると考えるのが適切かと。
حَيْدَرَة [ ḥaydara(h)/ḥaidara(h)] [ ハイダラ ] 自体は حَيْدَر [ ḥaydar / ḥaidar ] [ ハイダル ] と同じ「(群れの中でも最も強くて偉大な)ライオン、獅子」を表す。語末の ة(ター・マルブータ)は女性化機能ではなく強調・強意目的での付加とされているため、حَيْدَر [ ḥaydar / ḥaidar ] [ ハイダル ] が雄ライオンで حَيْدَرَة [ ḥaydara(h)/ḥaidara(h)] [ ハイダラ ] が雌ライオンという区別とはなっていない。
ハイダラ自体はイスラーム以前からあった古い男性名で、第4代正統カリフかつシーア派初代イマームだったアリー・イブン・アビー・ターリブの乳児期の名前として有名。母であるファーティマは父の名前が أَسَد [ ’asad ] [ アサド ](ライオン、獅子)であったため、息子にも獅子にちなむ名前を考えたと言われている。不在だった父親が帰宅してから改めてアリーと命名されたが、それまでの間母親はこの名前で呼んで育てていたという。
イスラーム軍と敵とが対決したハイバルの戦いではアリー自ら母が自分をハイダラと名付けたことに触れた詩句を朗唱したと伝えられている。その冒頭の一節 أَنَا الَّذِي سَمَّتْنِي أُمِّي حَيْدَرَة [ ’ana-lladhī sammatnī ’ummī ḥaydarah/ḥaidarh ] [ アナ・ッラズィー・サンマトニー・ウンミー・ハイダラ(フ/ハ) ](我は我が母がハイダラと名付けし者)は有名。
後世、ハイダルやハイダラという男性名はアリーの信奉者によって好んで命名されるようになった。アラブ人名としての総数においてはハイダラよりもハイダルが大きいが、シーア派信徒が多いイラクなどで特に用いられおり、「ハイダルはスンナ派アラブ人がつけない、シーア派アラブ人の名前」と評されることも。
■発音と表記■
口語的に二重母音アイがエイもしくはエーに転じたヘイダラに近い発音になった場合の英字表記はHeydara、Heydarah、Heidara、Heidarah、Hedara、Hedarahなど。
母音記号あり:حَيْدَر [ ḥaydar / ḥaidar ] [ ハイダル ] ♪発音を聴く♪
Haydar、Haidar
(群れの中でも最も強くて偉大な)ライオン、獅子
■意味と概要■
人民を統べる王のごとく獅子(ライオン)たちの間で最も権威・力を持つ偉大なる獅子(ライオン)を意味する名詞。力・襲撃力が強い、首ががっしり太い、四肢の力が強い(腕力が強い)といった性質からついた أَسَد [ ’asad ] [ アサド ](ライオン、獅子)の別名・属性名だという。
名詞としての حَيْدَر [ ḥaydar / ḥaidar ] [ ハイダル ] は「(群れの中でも最も強くて偉大な)ライオン、獅子」を表す。同様の意味を持ち男性名としても用いられる حَيْدَرَة [ ḥaydara(h)/ḥaidara(h)] [ ハイダラ ] 語末の ة(ター・マルブータ)は女性化機能ではなく強調・強意目的での付加とされているため、حَيْدَر [ ḥaydar / ḥaidar ] [ ハイダル ] が雄ライオンで حَيْدَرَة [ ḥaydara(h)/ḥaidara(h)] [ ハイダラ ] が雌ライオンという区別とはなっていない。
ハイダル、ハイダラ自体はイスラーム以前からあった古い男性名で、第4代正統カリフかつシーア派初代イマームだったアリー・イブン・アビー・ターリブの乳児期の名前として有名。母であるファーティマは父の名前が أَسَد [ ’asad ] [ アサド ](ライオン、獅子)であったため、息子にも獅子にちなむ名前を考えたと言われている。不在だった父親が帰宅してから改めてアリーと命名されたが、それまでの間母親はこの名前で呼んで育てていたという。
イスラーム軍と敵とが対決したハイバルの戦いではアリー自ら母が自分をハイダラと名付けたことに触れた詩句を朗唱したと伝えられている。その冒頭の一節 أَنَا الَّذِي سَمَّتْنِي أُمِّي حَيْدَرَة [ ’ana-lladhī sammatnī ’ummī ḥaydarah/ḥaidarh ] [ アナ・ッラズィー・サンマトニー・ウンミー・ハイダラ(フ/ハ) ](我は我が母がハイダラと名付けし者)は有名。
後世、ハイダルやハイダラという男性名はシーア派初代イマームだったアリーの信奉者によって好んで命名されるようになった。アリーの別名・幼名として知られるハイダラとハイダルのうちアラブ人名としての総数においてはハイダラよりもハイダルが断然多く、シーア派信徒が多いイラクなどで特に男性名として使われている。「ハイダルはスンナ派アラブ人がつけない、シーア派アラブ人の名前」と評されることもあるほどなので、アラビアンな王子様キャラのネーミングにシーア派ネームであるハイダルを用いると設定的に不自然になりかねないため要注意。アラブものでモデルとなるアラビア半島産油諸国の元首や元首一族はスンナ派(スンニ派)が国王、首長となりその一族や周りを取り囲むスンナ派部族たちが政権・社会の中枢を維持しているため、ハイダルという名前は王族らしさが薄いと言える。
■発音と表記■
口語的に二重母音アイがエイに転じたヘイダルに近い発音になった場合の英字表記はHeydar、Heidar。二重母音アイがエーに転じたへーダルに対応した英字表記としてはHeedar、Hedarなど。
イラク方言などでは二重母音部分アイ(ay/ai)がie(ィェ)に近く発音されることが多く英字表記もay、ai、ey、ei、ee、eの系統とは異なるHiedarという当て字も存在。ヒィェダル的な対応しているものと思われるケースがあるが、はっきりとヒエダルと読むことは意図していないのでカタカナ化の際は要注意。なおHiedarとなっていてもハイダルの口語発音であるヘイダル、ヘーダルのバリエーションの一つに過ぎないため本項目のハイダルと全く同一の人名として扱う必要がある。
善、幸福
[ 二重母音アイを口語的に読むとエイもしくはエーとなる。ヘイルもしくはヘールという発音に基づく英字表記はKheyr、Kheir、Kheerなど。]
2人のハサン、ハサンとフサイン、アル=ハサンとアル=フサイン
[ ハサンとフサインという異なる名前を2人のハサンとまとめたもの。ハサンは佳人、フサインはその縮小形で小さなハサン、小さな佳人という意味。違う名前を1つにまとめるアラビア語的な双数形用法である。具体的には第四代正統カリフ アリーの息子アル=ハサンとアル=フサインのことを指す。シーア派信徒の間で強く崇敬されているイマームの2人にちなんだ命名。]
[ 口語的に読むと二重母音アイがエイやエーになりハサネインやハサネーンと聞こえる。派生した英字表記はHasaneyn、Hasanein、Hasaneen、Hasanenなど。sを2個連ねたHassanayn、Hassanain、Hassaneyn、Hassanein、Hassaneen、Hassanenというバリエーションもあり。]
母音記号あり:حَسَن [ ḥasan ] [ ハサン ] ♪発音を聴く♪
Hasan
佳い(人)、良い(人)、善い(人);美しい(人)、美貌の(人)、佳人の(人)、佳人、美男
■名前の概要と意味■
イスラーム以前のジャーヒリーヤ時代から使われている伝統的男性名。イスラーム期に入ってからは預言者ムハンマド一家待望の初孫となった人物の名前という意味合いも加わり、長きにわたって男児の命名に使われてきた。
(定)冠詞をつけ اَلْحَسَن(’al-ḥasan、アル=ハサン)とした場合は、第四代正統カリフ/シーア派初代イマームのアリーと預言者ムハンマドの娘ファーティマとの間に生まれた長男で次男アル=フサインの兄を指すことが多い。シーア派第2代目イマームとして崇敬を受けており、敬称・通称である مُجْتَبَى [ mujtabā ] [ ムジュタバー ](選ばれた(者)、選ばれし(者))はシーア派信徒が多いイラクなどでしばしば見られる男性名でもある。
イラクなどに信徒が多いシーア派の十二イマーム派では第2代目のアル=ハサン以外にも第11代目のハサン・アル=アスカリーがこのハサンという名前を持つ。彼はアル=アスカリー(軍隊の;軍人)という二つ名を持っているが、これはアッバース朝カリフ側からの弾圧を受け生涯の大半を戦いに費やしたことが由来。
■発音と表記■
sを重ねてHassanと書かれていることもあるが、これは濁音化するフランス語圏でハサンではなくハザンという読みになってしまうのを回避するためのつづりであることが多い。本来はハッサンと読ませるためにそうつづっている訳ではないが、日本では見たままのカタカナ化によりハッサンと表記されていることが非常に多い。
また口語風に母音がeに置き換わってハセンに近く読まれる方言発音に基づくHasen、Hassenという英字表記もある。イラクなどではそうした文語単語末の-anを-enに寄せハサンをハセンと方言発音する人が少なくない。(元)アナウンサーの国山ハセン氏のハセンは本項目の男性名ハサンのイラク方言発音ハセン。
ちなみにHassanという英字表記の場合、アラビア語ではつづりが異なる حَسَّان [ ḥassān ] [ ハッサーン ](美しさがとても多い(=とても美しい、非常に美男な)、善がとても多い(者))という別の男性名の英字表記バリエーションHassanとかぶるので元のアラビア語表記か実際の発音を聞くかして確認する必要がある。日本語のカタカナ表記でも両方ともハッサンと書かれることがある人名なので混同しやすい。
なおこの人名をハサヌとカタカナ表記している例も見られるが、いわゆるタンウィーンを伴う三段変化の人名なので、非休止形は حَسَنٌ [ ḥasanun ] [ ハサヌン ]、休止形は حَسَنْ [ ḥasan ] [ ハサン ] となる。ハサヌは語末に母音uが伴う حَسَنُ [ ḥasanu ] [ ハサヌ ] を示唆するカタカナ表記だが、単体でハサヌは二段変化として誤読した発音になってしまうこと、また現代フスハーによるアラビア語会話では"ハサヌ"と唇をすぼめ母音uを添加するような読み方はしていないため、標準的なハサンの方が適切だと思われる。
この人名をタンウィーン抜きで حَسَنُ [ ḥasanu ] [ ハサヌ ] と読むのは後方から属格支配を受けるイダーファ構文の時や、呼びかけの يَا [ yā ] [ ヤー ] の直後に来るいわゆる呼格の時となる。ニスバを伴う時はタンウィーンは取れず حَسَنٌ الْتَّمِيمِيُّ のように表記、本来は非休止形であればハサン語末のタンウィーン直後に補助母音iが付加され حَسَنٌ التَّمِيمِيُّ [ ḥasanuni-t-tamīmīyu ] [ ハサヌニ・ッ=タミーミーユ ] となるはずだが、現代フスハーの会話でそのような発音がなされることは皆無に近く、ハサン語末のタンウィーンを抜き母音uのみ残すという古典的フスハー本来の休止形を簡略化した感じの حَسَنُ التَّمِيمِيّْ [ ḥasanu-t-tamīmīy ] [ ハサヌ・ッ=タミーミーィ ] のような読み上げが広く行われている。
母音記号あり:بَشِير [ bashīr ] [ バシール ] ♪発音を聴く♪
Bashir、Bashiir、Basheer
知らせを告げる者;喜ばしい知らせを伝える、吉報をもたらす、吉報を伝える(者);雨の到来を感じさせる風、雨という吉報を告げる風;顔が美しい、美貌の、美男な(人)
■意味と概要■
語根 ب - ش - ر ( b - sh - r )である点は共通だが、بُشْرَى [ bushrā ] [ ブシュラー ](吉報、喜ばしい知らせ)と結びつけた語義「吉報をもたらす(者)、吉報を伝える(者)」や「雨の到来を感じさせる風、雨という吉報を告げる風」と、動詞 بَشُرَ [ bashura ] [ バシュラ ](美しい、美しくある)の状態が継続し保たれていることを示す形容詞的な語義「顔が美しい、美貌の、美男な(人)」という2つの系統に分かれる。
前者の意味は動詞派生形第2形の能動分詞 مُبَشِّر [ mubashshir ] [ ムバッシル ] と同義とされる。「喜ばしい知らせ・吉報を伝える者」と「悪い知らせ・凶報を伝える者」の両方を示しうるが、この語に関しては特に喜ばしい知らせをもたらす人について使うのが一般的。
またイスラームの聖典クルアーン(コーラン)では「雨の到来という喜ばしい知らせを告げる風、雨の予兆を感じさせる風」という意味でも使われていることから、詳しいアラブ人名辞典に雨を告げる風という語義があわせて掲載されている場合もある。
■発音と表記■
英字表記はBashirが非常に多い。次いでBasheer、そしてBashiirなど。Basheerについてはeeを1個に減らしたBasherも使われているが、これでバシールという発音を意図しているのでアラビア語発音に即したカタカナ表記にする場合はバーシェル、バシェル、バシェールさらには英語のそり舌風にしたバシャーなどとしないよう要注意。
Khaz‘al、Khazalなど
(足を引きずって歩いている、びっこを引いて歩いている)(メスの)ハイエナ;足を引きずって歩く者、びっこを引いて歩く人
*差別用語の使用、ご容赦願います。
【 ضَبْع [ ḍab‘ ] [ ダブウ(実際の発音はダブァに近く聞こえることも) ](オスのハイエナ)もしくは ضَبُع [ ḍabu‘ ] [ ダブウ(実際の発音はダブァに近く聞こえることも) ](メスのハイエナ)が خَزْعَلَ [ khaz‘ala ] [ ハズアラ ](足を引きずって歩く、びっこを引く)こと、とアラビア語各辞典では定義されている。ハイエナについては母音記号が ضَبْع [ ḍab‘ ] ではなく ضَبُع [ ḍabu‘ ] と子音bに母音uが付加され、かつ動詞が3人称・女性・単数になっており、オスのハイエナではなくメスのハイエナを指していることがわかる辞書も見られる。
身近な荒野にいる動物の名前を子供につけていた時代の名残りとも言える男性名で、現代ではマイナーネームになったもののイラクなどでは今でも聞かれる。またハズアルは部族名としても知られており、イラクなどにいる اَلْخَزْعَلِيّ [ ’al-khaz‘alī(y) ] [ アル=ハズアリー(ュ/ィ) ] というニスバネーム(現代アラブ世界ではラカブなどと呼ばれる家名相当パーツ)は「ハズアル族出身の(人)」という意味となっている。】
【 語頭にある喉を引き締めて発音するアインという子音に相当する「\'」は通常のアラブ人名英字表記では用いられないためただのKhazalと書かれることが一般的。その場合はハザルとカタカナ化しないよう要注意。実際にはかなりはっきりと「ハズ/アル」のように「ア」の音を発音する名前となっている。
携帯電話にアラビア語キーボードが無かった時代に普及したチャットアラビア語の影響から、SNSのユーザーネーム等では語中の ع [ ‘ayn/‘ain ] [ アイン ] を数字の3に置き換えたKhaz3alといったつづりも使われている。】
Basiim、Basim、Baseem たくさん微笑む者、微笑みが多い者、よく微笑んでいる者
【 動詞完了形 بَسَمَ [ basama ] [ バサマ ](ほほえむ、微笑する)の行為者・動作主であることを示す通常の能動分詞男性形 بَاسِم [ bāsim ] [ バースィム ] を強調して「大いに」「たくさん」「何回も繰り返し」というニュアンスが加わったもの。たまたまほほえんだのではなく、いつもニコニコしているような人柄を表す。
別の男性名 بَسَّام [ bassām ] [ バッサーム ] も強調語形だが、この بَسِيم [ basīm ] [ バスィーム ] はそれとはまた別の強調を表す語形にあてはめたもの。意味としては(ほぼ)同じ。】
【 長母音ī(イー)を示すeeが1文字に減らされたBasemも見られるがバセムではなくバスィームという発音を意図しているつづりとなっている。また、。sを2個連ねたBassiim、Bassim、Basseem、Bassemいった英字表記も派生し得るが、主にフランス語圏などで濁点の「ズィ」になることを回避するためのつづりだったりするのでバッスィーム、バッスィム、バッセーム、バッセムと読むのを意図している訳ではない。
Bassim、Bassem、Basemは別の男性名 بَاسِم [ bāsim ] [ バースィム ] の英字表記バリエーション、またBasseem、Baseem、Basemは بَسَّام [ bassām ] [ バッサーム ] のマグリブ(北アフリカ)方言風発音に対応した英字表記のバリエーションとかぶるので、英字表記を見ただけでは元のアラビア語表記がどれなのかを確定するのは難しい。
日本語のカタカナ表記ではバシーム、バシムと書かれていることも少なくないが、アラビア語では ب - س - م(b-s-m)と ب - ش - م(b-sh-m)という語根の違いは「(重たいものを食べたり食べ過ぎたりしたために)消化不良に成る」という全く違う概念を表すのに使われており、بَشِم [ bashim ] [ バシム ] だと「消化不良を起こしている」という形容詞的な様子・状態を表す語と同じ発音になってしまう。このように、耳で聞き分けた時のささいな子音の違いで単語を区別するアラビア語において「スィ」と「シ」の使い分けは重要なポイントとなっている。】
Bassaam、Bassam
いつもほほえんでいる(人)、ほほえみを絶やさない(人)、よく微笑している(人)
【 動詞完了形 بَسَمَ [ basama ] [ バサマ ](ほほえむ、微笑する)の行為者・動作主であることを示す通常の能動分詞男性形 بَاسِم [ bāsim ] [ バースィム ] を強調して「大いに」「たくさん」「何回も繰り返し」というニュアンスが加わったもの。たまたまほほえんだのではなく、いつもニコニコしているような人柄を表す。】
【 2個連なっている-ss-を1個に減らしたBasaam、Basamという英字表記もあるがバサーム、バサムと読ませることを意図したつづりではないので要注意。
方言で長母音āがēになるマグリブ(北アフリカ)方言などのバッセーム寄り発音に対応した英字表記Basseem、Bassem、Baseem、Basemも見られる。アラビア語でのつづりを見れば区別できるが、Baseemは別の男性名 بَسِيم [ basīm ] [ バスィーム ]、BassemやBasemは別の男性名 بَاسِم [ bāsim ] [ バースィム ] の英字表記バリエーションとかぶるので英字表記を見ただけでは元のアラビア語表記がどれなのかを確定するのは難しい。
日本語におけるカタカナ表記としてはバッサーム、バッサムなど。】
母音記号あり:حَسَّان [ ḥassān ] [ ハッサーン ] ♪発音を聴く♪
Hassan、Hassaan
とても美しい(人)、非常に美男な(人)、たいそうな美男
■意味と概要■
美、美貌を通常よりも多く有している様子を表す強調語形。同じ語根(子音字の組み合わせ)を持つ姉妹語で男性名として多用される حَسَن [ ḥasan ] [ ハサン ](美しい(人)、佳人、美男)よりも意味としては強め。
イスラーム以前のジャーヒリーヤ時代からあった伝統的なアラブ男性名。ちなみに日本製アニメ『スラムダンク(سلام دانك)』アラビア語版では主人公である桜木花道がこのハッサーンという名前になっている。
■発音と表記■
日本語におけるカタカナ表記としてはハッサーン、ハッサンが見られる。
同じ語根(子音のセット)から構成される姉妹語で男性名としても用いられる حَسَن [ ḥasan ] [ ハサン ] はフランス語圏でハザンと読まれないようにするため、Hasan以外にもsを2個連ねたHassanというラテン文字表記(≒英字表記)に一般の慣例つづりが広く用いられているが、本項目のメジャーな英字表記Hassanとかぶるため英字表記上だけではハサンとハッサーンとの区別が難しく、元のアラビア語でのつづりや発音を確認する必要がある。
巡礼を多く行う者、メッカ(マッカ)へたびたび巡礼する者;しっかりとした根拠・証拠を(多数)有する者、根拠・証拠をもって議論・論争を多く行う者
[ 単なる能動分詞 حَاجّ(ḥājj、ハーッジュ)により強い意味を持たせた強調形。語末のjにつく母音を省略して子音だけで読んだ場合、ハッジャージに近く聞こえたりする。]
Bashshaar、Bashshar、Basshaar、Bassharなど
人々に吉報・喜び・幸福をもたらすことが多い者、他の人に吉報・喜び・幸福を何度も運んできてくれる人
[ 単なる能動分詞よりもより多くの吉報を携えて来てくれる意味合いを示す、強調の語形。シリアのバッシャール・アル=アサド大統領のファーストネームとして有名。]
[ shを重ねないBashaar、Basharという英字表記もあるがバシャールと発音する別の人名ではなく、このバッシャールを意図したものである。日本語のカタカナ表記でもバシャールとなっていることが多いが、原語であるアラビア語に忠実なのはバッシャールである。なお参照する英字表記によっては長母音抜きのバシャル、バッシャルというカタカナ表記になり得るが、بَشَر [ bashar ] [ バシャル ] は名詞「人類、人間」、بَشَّرَ [ bashshara/口語風発音はbashshar ] [ バッシャラ/口語風発音はバッシャル ] は動詞「~に吉報を告げる」としてネイティブには受け取られる可能性がある。]
Khattaab、Khattab
演説・講話・スピーチ・説教が多い(者)、演説・講話・スピーチ・説教を多く行う(者)
【 能動分詞 خَاطِب [ khāṭib ] [ ハーティブ ](婚約仲介者、仲人;演説者)の強調語形。通常の能動分詞よりも回数・度合いが大きいことを示す。第2代正統カリフ عُمَر بْن الْخَطَّابِ [ ‘umar(u) bnu-l-khaṭṭāb ] [ ウマル・ブヌ・ル=ハッターブ ](ウマル・イブン・アル=ハッターブ)の「アル=ハッターブ」は اَلْخَطَّاب بْن نُفَيْل [ ’al-khaṭṭāb bnu nufayl/nufail ] [ アル=ハッターブ・ブヌ・ヌファイル ](アル=ハッターブ・イブン・ヌファイル)というフルネームだった父親のファーストネーム。】
母音記号あり:بَدُّور [ baddūr ] [ バッドゥール ] ♪発音を聴く♪
Badduur、Baddur、Baddoor、Baddour
満月
■意味と概要■
男性名もしくは家名として使われる。主に男性名そして時には女性名としても使われる単数の名詞 بَدْر [ badr ] [ バドル(バドゥルに近く聞こえる可能性あり) ](満月)を愛称に用いられる فَعُّول [ fa‘‘ūl ] 語形に当てはめたもの。バドル(満月)という人名に親しみと愛情を込めた語形が発祥ということで、敢えて直訳するならば「バドルくん、バドルちゃん、バドルっち」のような感じかと。
■発音と表記■
ddと2個連なっているdを1個だけに減らしたBaduur、Badur、Badoor、Badour、Badorといった英字表記も見られるが、بَدُور [ badūr ] [ バドゥール] という人名が別途ある訳ではないので要注意。
主に男性名そして時には女性名としても使われる بَدْر [ badr ] [ バドル(バドゥルに近く聞こえる可能性あり) ](満月)に母音挿入した時の発音 [ badur ] [ バドゥル ] に対応した英字表記Badurと混同しやすいので、音声などによる確認と区別が必要なことも。
またアラビア語表記の場合、母音記号無しではバドルの複数形である女性名 بُدُور [ budūr ] [ ブドゥール ](いくつもの満月、複数の満月)と全く同じبدورになってしまうのでまぎらわしい。実際のアラビア語表記や発音を聞かないと本項目のバッドゥールなのかどうか確認がやや難しいが、写真や敬称などで男性のファーストネームだとわかる場合はバッドゥール、女性のファーストネームとわかる場合はブドゥールであると考えて差し支えない。
Hadiid、Hadid、Hadeed
鉄
【 鉄が持つ強靭さ・鋭さ等を示唆。ファーストネームを集めたアラブ人名辞典に載っていないことが多い。フルネーム中にこのハディードが含まれる場合、本人のファーストネームではなくラストネーム(欧米や日本でいうところのファミリーネーム、家名、名字相当)部分に来ていることも少なくない。】
【 Hadidという英字表記・非アラビア語圏発音ゆえに日本ではハディッドとカタカナ表記されていることが多いが、アラビア語的な発音は後半に長母音を含むハディード。】
満月;満月のように色白でふっくらした若者・男性、満月のように美しい若者・男性
■意味と概要■
陰暦14日の満月を指す。日の出と共にすぐ隠れ日没と共にすぐ昇ることから「急ぐ」という意味動詞 يُبَادِرُ(yubādiru、ユバーディル)と同じ語根「b-d-r」をとって بَدْر [ badr ] [ バドル ] と名付けられたという。アラビア語では「14の月」のような言い方で満月を表現する方法もあり、美しい・素晴らしいものを表すのに使ったりされる。
「バドル」自体は一応男性・女性にも命名可能な名前だが、男性名として使うのが一般的。女性の場合はバドルの複数形である بُدُور [ budūr ] [ ブドゥール ] が多用される。大昔このバドルは黒人奴隷男性に付ける名前で、その後女奴隷・女使用人の命名にも使われるように。じきに一般的な名前となり子供の命名用に広がっていったとのこと。
日本では「中東、アラブ世界では太陽は無慈悲の象徴で月は慈愛・優しさの象徴」という都市伝説が流布しているが、実際には「太陽は輝かしさ・高い地位・素晴らしさ・尽きない慈愛の象徴で、月は美貌・輝かしさの象徴」。満月も親切といった優しさではなくその人の外見・見た目・容姿の比喩に使うのが一般的。ふっくらした、色白、輝かしい様子というのはアラブの古くからある美の基準で、「バドル」も満月のように肉付きが良い美男/美女という意味合いがある。現代でも満月のような美しさ、美貌、その輝かしい光をイメージして命名に用いられている。
なお「月」という意味の قَمَر(qamar、カマル)は複合語ではない単体の場合、女児名として使われアラブ地域では男児名としての使用はまれ。
■発音と表記■
アラビア語では口語風の発音になり語末のrを休止形の母音無し子音のみで読むとd部分に母音挿入が起こって母音iやeが入り込みBadr→Badir(バディル)、Bader(バデル)のような読み・英字表記になることが多い。アラビア半島やイラクなどもこの文語発音badrから口語(方言)発音badir/baderへの置き換えが起こる地域。
なお英字表記やキャラクターネーミングとしてはBadurという英字表記が使われることもあるが、実際のアラブ人名としては読み書き言葉でBadr(バドル)だったものが実際の話し言葉ではBadr(バドル)、Badir(バディル)、Bader(バデル)のいずれかになることが多いことから、母音uを挿入したBadurという当て字は実際の使用例はそう多くない。キャラクターネーミングの際はu抜きの無難なBadrがおすすめ。
なおこの人名の日本語カタカナ表記バリエーションとしてはバドル、バドゥル、バディル、バデルなどが考え得る。
宗教の満月、信仰の満月
[ 定冠詞al-(アル)が口語でel-(エル)の発音になる地域ではバドル・エッ=ディーンといった読みとなり、Badr el-Din、Badr Eldinなどの英字表記に。つなぎ読みした場合はバドレッディーンで、英字表記はBadreddinなど。]
純正なる宗教を信奉する者、イスラームに従いその教えを守る者、まことの信者、善行を目指し信念を曲げることの無い実直な者
[ 預言者ムハンマドに予言が下される以前に預言者イブラーヒーム(=アブラハム)の宗教、つまりは一神教的な信仰=イスラームを信じ守っていた人のことを指すなどする。]
[ ムスリムネームとしてHaniefという英字表記が使われていることもある。 ]
美、美麗さ
[ 語末に長母音āと声門閉鎖音/声門破裂音ハムザがあるため厳密にはバハーゥ、バハーッのような発音となるが、口語などではバハーのように聞こえることが多い。]
美、美麗さ
[ 語末に長母音āと声門閉鎖音/声門破裂音ハムザがあるため بَهَاء(bahā’)単体の場合はバハーゥ、バハーッのような発音となる。この後に属格(所有格)支配をする語が来ることで語末の母音uが復活。ハムザの音もはっきりと聞こえるようになり、バハーウ・ッ=ディーンという発音に変わる。また、口語での発音バハーの後にal-Dinをくっつけたハバーッディーンに基づいた英字表記も少なくなく、イスラーム世界ではBahaaddin、Bahaddinなどが見られる。]
Habiib、Habib、Habeeb
愛された(人)、愛すべき(人)、愛しい(人)、恋人;(神に、唯一神アッラーに)愛されし(者);(他人のこと・誰かのことを)愛する(人)、愛している(人)
【 受動態的な意味と能動態的な意味の両方を持つ分子類似語形。そのため「愛された人、愛すべき人」と「愛する人」の両方が辞書に載っている。通常は前者の意味で使う。アラブ世界では恋人に限らず親しい家族・友人などに حَبِيبِي [ ḥabībī ] [ ハビービー ] と呼びかける。女性相手の場合は حَبِيبَتِي [ ḥabībatī ] [ ハビーバティー ](*口語の複数方言でハビブティのような発音になる)という語形を使うが、女性相手でも男性形のハビービーを用いることもある。】
Habiib Allah、Habib Allah、Habeeb Allah、Habiibullah、Habibullah、Habeebullahなど
アッラーに愛された者、神に愛された者
【 分かち書きをするとハビーブ・アッラーになるが、実際にはハビーブッラーと一気読みでつなげて発音する。語末のhまで厳密に読んだ場合はハビーブッラーフとハビーブッラーハの中間のように聞こえる発音となるが、文語であってもhには母音がつかないので軽く発音されがちである。口語ではhを読まずハビーブッラーと読まれることが一般的。口語的な発音にはハビーバッラーもあり、英字表記としてHabiiballah、Habiballah、Habeeballahなどが派生する。】
喜び、歓喜
[ Bahja(h)のhはfではない上に母音がついていないので、バフジャではなくバハジャに近く聞こえることがある。この名前はオスマン帝国時代にポピュラーだったもので、当時は語末の ة(ター・マルブータ)部分を開いたター(ت)で表記した。その場合の読みはバフジャトもしくはバハジャトでー♪発音を聴く♪ー英字表記はBahjat。エジプト等では現代でも開いたターのبَهْجَتというつづりの人名が存在する。jをgで発音するエジプト口語だとバフガト(バフガット、バハガットに近いことも)になり、Bahgatという英字表記が派生する。]
母音記号あり:بَحْر [ baḥr ] [ バフル(実際にはバハルに近く聞こえる) ] ♪発音を聴く♪
Bahr
海、大洋;(巨)大河川、大河;非常に寛大な、とても気前の良い(人物);(知識などが)非常に深遠な、とても博識な(人物)、大学者;アラブ定型詩における韻律の型
■語の定義・意味■
بَرّ [ barr ] [ バッル ](陸、陸地)の対義語。いわゆる海以外にも大河川を指すのにも使われてきた名詞。動詞 بَحَرَ [ baḥara ] [ バハラ ] は شَقَّ [ shaqqa ] [ シャッカ ] と同じく「(切り)裂く、割く」という意味を持っており、ラクダの耳を切り取ることを意味するなどした。
イスラーム以前のジャーヒリーヤ時代にはそれまでに生んだ仔ラクダの頭数や性別によって定められた規定に応じて牝ラクダの耳を半分に裂く形で切って目印とする習慣があった。5頭目の仔がオスかメスかによって仔をその後どうするかが違う、乳を取って良い/良くない、乗らない/乗る、男女共にその肉を食べて良い/女性は食べてはいけない、といった場合別に分けられた慣習が存在したという。耳を切られた牝ラクダは受動分詞的意味を持つ語形の بَحِيرَة [ baḥīra(h) ] [ バヒーラ(フ/ハ) ](バヒーラ、「耳を切られた(もの、メス)」の意)と呼ばれていたが、複数アラビア語大辞典によるとラクダに限らずヒツジについてもこの名称が用いられていたという。なおこの慣習は預言者ムハンマドによるイスラーム布教を機に廃止となった。
بَحْر [ baḥr ] [ バフル/バハル ] は上で述べた 動詞 بَحَرَ [ baḥara ] [ バハラ ] の動名詞語形。元々陸地を割く形で存在している水場、水がふんだんにある広大な水域、という意味で派生した語義なので、海水の海だけでなく淡水の湖、大河川といった複数種類の水域を指すのに使われてきた理由となっている。
ただし中世の時点で既に海水域を指すことが多く淡水域をバフル/バハルと呼ぶことは少なかったことがアラビア語大辞典から読み取れる。諸辞典にて確認してみると、時代が経過するにつれ海水域としての「海、大洋」という用法が圧倒的多数になっていったことがうかがえる。
エジプトではナイル川を بَحْر النِّيلِ [ baḥru-n-nīl ] [ バフル・ン=ニール(/バハル・ン=ニール) / (口語)バフリ・ン=ニール(バハリ・ン・ニール)、バフレ・ン=ニール(バハレ・ン・ニール)](バフル・アン=ニール(/バハル・アン=ニール)、直訳:ナイル海、意訳:ナイル大河川、ナイル河)と呼ぶ習慣があるが、これも普通の川よりも遥かに大きな大河川を海水をたたえたいわゆる「海」を指すのに使われる بَحْر [ baḥr ] [ バフル/バハル] を使って呼んでいるものだと言える。
中世の複数アラビア語資料においてナイル川が بَحْر النِّيلِ [ baḥru-n-nīl ] [ バフル・ン=ニール(/バハル・ン=ニール)] と記されていること、ティグリス側を بَحْر دِجْلَة [ baḥr(u) dijla(h) ] [ バフル・ディジュラ(フ/ハ) ](直訳:ディジュラ海、ティグリス海、実際の意味:ディジュラ大河川、ディジュラ河、ティグリス大河川、ティグリス河)と表現し「ナイル河と同じく大河川を بَحْر [ baḥr ] [ バフル/バハル ] と呼んでいるものである」的な解説も存在。ナイル川が現代の意識では「ナイル海」と受け取れる名称を持つ件に関しては、「海」と「幅が広く水量が豊かな大河川」の両方を指すことが可能なこの名詞を使って「ナイル河、ナイル大河川」というニュアンスで呼んでいた中世の名残りであろうことが推察される。
ただしエジプト発の記事・論説では「海のように大きな河川だから」「海と表現するほど偉大な川だと感じていたからだろう」のように海・大洋と結びつけたイメージで語られることも少なくない。なお、「ナイル川の氾濫時に一帯が水浸しになると海のように見えたから」という解説は特に見当たらず、氾濫時期かどうかを問わず大きく水深が大きな大河川ナイルを「バフル(バハル)」と呼んだことが由来である可能性が高いものと思われる。
「海」「大河川」は水の量が多く水深も深いことから、寛大さや知識の豊富さの比喩、博識な大学者の代名詞としてしばしば使われる。広大深遠な知識はアラブ世界で昔から強く尊敬されてきた資質の一つ。川、小川、大きめの河川を意味する جَعْفَر [ ja‘far ] [ ジャアファル ] が母乳を豊富に出す牝ラクダの別名として使われるなどするアラブ世界では、川は尽きぬ恵みと豊富さの象徴として表現に用いられる傾向がある。
海・大河川・山のように大きな度量の持ち主で惜しみなくたっぷりと人々に施しをすることは、アラブ部族社会の族長らが誇る人物像となっている。かつての部族長や有力者らの海のように山のように寛大な人柄と逸話は現代に至るまで代々語り継がれるほど大切にされている例も少なくなく、多くのケースが口語詩作品として残されるなどしている。
■発音と表記■
英字表記のBahrはBah/rと区切ってahを英語のように伸ばして「バール」、rをそり舌にした「バー」や「バーー」とは読まないので要注意。なお標準的なカタカナ表記はバフルだが、日本語のフと違い唇を近づける音ではなく咽頭を締めつけるようにして力強く発音する子音なので、実際にはバハルというカタカナ表記の方が原語発音に近いとも言える。そのため日本語におけるカタカナ表記としてはバフルとバハルの2通りが見られる。
またアラビア語では文語で بَحْر [ baḥr ] [ バフル/バハル ] という風にḥとrの間に何も母音がはさまらない語形では口語(方言)で発音がしやすいように母音が挿入されることが多い。そのためBahrという標準的な英字表記以外にも、بَحَر [ baḥar ] [ バハル ] という口語発音に即したBahar、بَحِر [ baḥir ] [ バヒル ] に即したBahir、そしてそれのiが口語的にe寄りになって [ baḥer ] [ バヘル ]に近くなった発音に即したBaherなどが見られる。
アフリカ北部のアラブ・イスラーム地域(マグリブ地方)では語頭の母音脱落が起こることから بْحَر [ bḥar ] [ ブハル ] と聞こえるような発音になるなどするため、Bharといった英字表記も派生する。】
Hamaadah、Hamadah、Hamaada、Hamada
男性名ムハンマドなどの愛称(≒ムハンマドくん、ムハンマドちゃん、ムハンマドっち等…)
【 預言者ムハンマドの名前でもありアラブ世界で最も多い男性名としても有名な مُحَمَّد [ muḥammad ] [ ムハンマド ] かそれと同じ語根からなる男性名などの愛称がファーストネームとして使われたもの。部族名・家名として使われていることも。日本の浜田/濱田さんがアラブ世界で覚えてもらいやすく受けが良いと言われるのも現地に馴染みのある名前、愛称であるため。】
【 母音記号が無い状態だと女性名 حَمَّادَة [ ḥammāda(h) ] [ ハンマーダ ] の英字表記バリエーションに含まれるHamadah、Hamadaとかぶるので混同しないように注意。文脈や添えられた画像、記事中に出てくる描写が男性形か女性形かによっては区別はつくが、アラブ系人名フルネームの英字表記でHamaadah、Hamadah、Hamaada、Hamadaとありそれが後半部分のラストネーム/ファミリーネーム位置に来ている場合は男性名ハマーダ由来の家名・部族名だと考えて差し支え無い。(*アラブ人名ではファミリーネーム類は父方から取るため。)】
Hamad
称賛された;称賛すべき(者)
[ 男性名 أَحْمَد(’aḥmad→Ahmad、アフマド/アハマド)の発音が変化したものだという説明も見られる。 ]
(子供の産まれた曜日にちなんで)木曜日、(第5子につける日本語でいうところの五郎的な用法として)5番目の、前衛・右翼・左翼・中央・後衛の5陣形よりなる大群
称賛された、称賛に値する(者)
[ 定冠詞al-(アル=)をつけるとアッラーの別名・属性名(99の美名)になる。]
母音記号あり:حَمْزَة [ ḥamza(h) ] [ ハムザ ] ♪発音を聴く♪
Hamza、Hamzah
舌にぴりっとくる辛味;酸味、刺激のある酸っぱさ;舌にぴりっとくる酸味を持つ野菜の一種;獅子(ライオン)の別名
■意味と概要■
この語根を持つ姉妹語である動詞は حَمَزَ [ ḥamaza ] [ ハマザ ](酸っぱくなる、舌にぴりっとくる味になる;(心配・不安が)強くなる;(心が)果敢になる、大胆になる、勇気が出る)や حَمُزَ [ ḥamuza ] [ ハムザ ](強くなる、頑強である)があり、男性名 حَمْزَة [ ḥamza(h) ] [ ハムザ ] はこれらの動詞の動名詞が由来だという。語末に女性名詞であることを示す ة(ター・マルブータ)はついているが男性名。
この名詞は激しさ・力強さと頑強さを示すことからいわゆる属性名として獅子の別名ともなっている。イスラーム以前のジャーヒリーヤ時代から男性名として使われており、人名辞典では通常獅子の名称が由来だと記載されている。
一方辛味・酸味を持つ野菜の名前でもあり、アラビア語辞典によってはこの植物の名前がファーストネームや通称・あだ名として使われるようになったと説明していることもある。
なお、語頭で母音を伴う ا(アリフ)と一緒に書かれたりする ء( هَمْزَة [ hamza(h) ] [ ハムザ ] )とはよく発音が似ており英字表記だと全く同じHamza、Hamzahになるが、全く別の言葉。特にジャーヒリーヤ時代やイスラーム初期についてはアラビア語学がまだ発達していない時期でハムザが表す声門閉鎖音/声門破裂音の概念がまだはっきりしておらず、ء( هَمْزَة [ hamza(h) ] [ ハムザ ] )という補助的な字も開発されていなかった。
■この名前を持つ有名人物■
【ハムザ・イブン・アブドゥルムッタリブ】
イスラーム共同体においてこのハムザという男性名は預言者ムハンマドの父方叔父 حَمْزَة بْن عَبْدِ الْمُطَّلِبِ [ ハムザ(トゥ)・ブヌ・アブディ・ル=ムッタリブ ](ハムザ・イブン・アブドゥルムッタリブ)のファーストネームとして有名。ハムザは預言者ムハンマドの父方祖父・ハーシム家出身アブドゥルムッタリブ(アブド・アル=ムッタリブ)の息子の一人で、預言者の父アブドゥッラー(アブド・アッラー)の弟。関係としては叔父に当たるが4歳ほどしか歳が離れておらず、預言者ムハンマドとは乳兄弟の関係であり兄のような存在でもあった。
イスラームの布教を始めたムハンマドを同胞として早期から支え、豪胆で勇敢な騎士・戦士として知られたハムザだったが、イスラーム教徒側の守りが崩れ大勢の犠牲者を出したウフドの戦いで戦死。ハムザに対して敵意を抱いていたアブー・スフヤーンの妻ヒンドが差し向けたアビシニア(エチオピア)人奴隷により戦場で殺害。ヒンドによって遺体が損壊され肝を噛みちぎられるという痛ましい最後を迎えたとも言われている。
彼は本人のファーストネームが獅子という意味を持つハムザだったことから、その貢献と勇猛ぶりを称えられ أَسَدُ اللهِ [ ’asadu-llah ] [ アサドゥ・ッラー(フ/ハ) ](アッラーの獅子)、 أَسَدُ رَسُولِ اللهِ [ ’asadu rasūli-llah ] [ アサド(ゥ)・ラスーリ・ッラー(フ/ハ) ](アッラーの使徒の獅子)、سَيِّدُ الشُّهَدَاءِ [ sayyidu/saiidu-sh-shuhadā’ ] [ サイイドゥ・ッ=シュハダー(ッ) ](殉教者たちの長)という二つ名を与えられた。
その後ハムザという男子名は叔父・乳兄弟・同胞信者として預言者を支えた敬虔で勇敢な騎士としての彼にあやかって命名されるようになった。現代でもアラブ人に限らず世界各地のイスラーム教徒家庭で人気のあるファーストネームとなっている。
【アナス・イブン・マーリクのあだ名アブー・ハムザ】
預言者の言行を多数伝えハディース集などにその名が登場するアンサーリー(援助者アンサールの1人)でサハービー(教友サハーバの1人)だった أَنَسُ بْنُ مَالِكٍ [ ’anas bnu mālik ] [ アナス・ブヌ・マーリク ](アナス・イブン・マーリク)には أُبُو حَمْزَةٍ [ ’abū ḥamza(h) ] [ アブー・ハムザ ](ハムザの父)というクンヤ(「~の父」といった形式のあだ名)がある。
ハムザは当時食用として食べられていた野菜の一種で、伝承によるとアナス・イブン・マーリクはこのピリッとした葉菜が好きで自家栽培しては収穫していて食べていた。それを知った預言者ムハンマドが「ハムザ好き」という意味であだ名 أُبُو حَمْزَةٍ [ ’abū ḥamza(h) ] [ アブー・ハムザ ](ハムザの父;ハムザ好きの男、ハムザ好きおやじ)を授けたという。
そのことからも、イスラーム以前のジャーヒリーヤ時代からハムザという名詞が獅子(ライオン)としてだけでなくぴりりとした味の野菜の名前として一般に認識されていたことがうかがえる。そのためアラビア語大辞典などにも野菜の名前が男性名の由来と書かれていることもある形となっている。
■発音と表記■
この人名を単体で発音する時はワクフと呼ばれる休止形発音となるため、アラビア語の文語だと حَمْزَة [ ḥamzah ] の最後の文字 ـة(ター・マルブータ)は ت(t)音ではなく ه(h)としてほんのり聞こえる軽く読み上げるため、厳密には耳を澄ませて聞くと [ ハムザフ ] と [ ハムザハ ] の中間のような読み方をしている。(こうした文語的な発音に対応した英字表記がHamzah。)
しかし現代文語会話や口語(方言)だと ة の休止形(ワクフ)発音である ه [ h ] が落ちてしまい手前の「-a(アの響きの部分)」までしか読まなくなっているので、日本では学術的な表記でもと表記してあるものをハムザフ、ハムザハとはせずハムザと書くのが標準ルールとなっている。(こうした口語的な発音に対応した英字表記がHamza。)
語末についている ة(ター・マルブータ)は発音方法によって ت [ t ] 音で読むこともあるが、文語の語末母音まで全部読み切る読み方では حَمْزَةُ [ ḥamzatu ] [ ハムザトゥ ] (注:人名としては二段変化)になるが文法学習といった特定の場面でしか聞かれず、現代の文語(フスハー)会話や口語(方言)では後ろから属格支配(≒所有格支配)と受けた時のみ黙字扱いせず ت [ t ] 音で読むことが広く行われている。
英字表記については標準的なHamza、Hamzah以外にも、語末部分でアの響きとなる「-a(h)」部分が一部アラビア語方言などにおけるいわゆるイマーラ発音によってエの響き「-e(h)」になるハムゼに対応したHamze、Hamzehなども併用されている。
携帯電話にアラビア語キーボードが無かった時代に普及したチャットアラビア語の影響から、SNSのユーザーネーム等では語頭の ح [ ḥā’ ] [ ハー(ゥ/ッ) ] を数字の7に置き換えた7amza、7amzah、7amze、7amzehなども用いられている。
Balaasim、Balasim
名無し、名前が無い
【 イラクで時々聞かれる男性名。名詞 بَلْسَم [ balsam ] [ バルサム ](バルサム(=含油樹脂、芳香族性のオイルを含んだ香りのある樹脂);軟膏;癒やし)の複数形 بَلَاسِمُ [ balāsim ] [ バラースィム ] と同じつづり・発音であるためイラク人でもそちらの意味が由来だと思って知人の名前バラースィムの意味を理解している人も少なくないというが、実際には文語アラビア語(フスハー)でいうところの بِلَا اسْمٍ [ bilā+(’i)sm=bilasm ] [ ビラー+(イ)スム=ビラスム ](名前が無い、名無しの、without a name、with no name)が由来。
元々はイラク南部付近の民間邪視信仰から命名されてきた名前で、名無しと命名することでその子への注目・嫉妬・邪視が集まらないようにしそらす目的があったという。国内の住民移動・移住が進み今では首都圏のバグダード他でもこのバラースィムという名前を持つ男性がちらほら見られるようになっているとのこと。
*イラクに集中している地域限定の男性名でものすごく数が多いというほどでもないので、創作の際はアラビア半島出身の砂漠の王子様キャラなどに使用しないことを推奨。】
【 口語表現のため語頭が無母音化した بْلَاسِم [ blāsim ] [ ブラースィム ] に対応したBlaasim、Blasimなども。母音iのe寄り発音化バラーセムに対応したBalaasem、Balasem、語頭の無母音化とi→e化が合わさったブラーセムに対応したBlaasem、Blasemなどが生じ得る。その他sとmの間の短母音が落ちてバラースムと読めるBalaasm、Balasmなどがある。
語頭が「Bi-」になっているつづりも使われており、ビラースィムと読めるBilasim、ビラーセムと読めるBilasem、ビラースムと読めるBilasmなどの使用例が見られる。語頭がi→eになった「Be-」始まりのつづりとしてはベラースィムに対応したBelasim、ベラーセムに対応したBelasem、ベラースムに対応したBelasmなど。
後継者、子孫
[ khはhとkの中間のような擦れた感じのハ。専門書等ではハ行でカタカナ表記するが、日本ではカ行でカタカナ表記されてカラフになっていることも。 ]
後継者;代理人 [ 日本語の「カリフ」はこのハリーファから。アラビア語のカタカナ化では通常khはハ行でハリーファとするが、日本ではカ行でカタカナ化したカリーファ、さらに長母音īを補わずKhalifaの見た目そのままなカリファも多い。アラビア語界隈ではカリーファ、カリファというカタカナ表記は好まれていないので注意。]
母音記号あり:خَلِيل [ khalīl ] [ ハリール ] ♪発音を聴く♪
Khalil、Khaliil、Khaleel
友人、親友;助言者;恋人
■意味と概要■
分詞的な意味を持つ名詞・形容詞語形である فَعِيلٌ [ fa‘īl(un) ] [ ファイールン ] 型。動詞 خَلَّ [ khalla ] [ ハッラ ](~に穴を開ける;肉がそげて痩せる;財産を失って貧窮する)の語義に関連した複数の意味を持つ。人名辞典に載っている主な意味は「(誠実な)友人、親友」や「助言者」など。人名以外の一般的な名詞・形容詞としては「恋人」「伴、伴侶」「剣」「槍」「体が虚弱な(人)、痩せこけた(体)」「貧者、貧窮者」「穴が開いた、穴を開けられた(物)」なども表す。
穴が開く、体の肉がそげて痩せこけ病弱になる、財産が無くなり貧窮するといった概念を示す語根 خ - ل - ل( kh - l - l )から「親友」といった意味合いの語が生じた理由についてはアラビア語大辞典などに記載されており「友情や愛情が人の心を開いて(注:この"切り開く"というニュアンスの部分に語根 خ - ل - ل( kh - l - l )が関与)入り込んでいるから」といった内容となっている。そのためハリールは親密、誠実、偽り無い心からの助言といったプラスの人間関係と結びついている模様。
またこのハリールという語を含む熟語 خَلِيلُ اللهِ [ khalīlu-llāh ] [ ハリール・ッラー(フ/ハ) ](ハリールッラー、ハリール・アッラー)-「神の友、神の親しき友」については聖書のアブラハムに対応したイスラームの預言者イブラーヒームの二つ名として知られる。
■発音と表記■
アラビア語発音に近い学術的なカタカナ表記の標準では子音「kh」にはハ行を当てるためハリールとなる。これから長母音をを省略したカタカナ表記がハリル。一方一般的な記事では英語などと同様カ行を当てることが多く、カリールやカリルが多用されている。
英字表記は長母音「ī(イー)」の表し方によってKhaliil、iを1文字に減らしたKhalil(非常に多い表記)、eeで表したKhaleel(≠ハレール、カレール)などが混在している。またeeを1文字に減らしたKhalelもあるが、こちらもハリールを意図したものでハレル、ハレッル、カレル、カレッルとしないよう要注意。
母音記号あり:حَرْب [ ḥarb ] [ ハルブ ] ♪発音を聴く♪
Harb
戦争、戦い;激しい戦いをする勇猛な男
■意味と概要■
単語としては女性名詞だが、イスラーム以前のジャーヒリーヤ時代から男性名として使われてきた。ベドウィン人名辞典によると、生まれた子の父親の部族が他の部族と抗争・戦争をしている際に生まれたからという理由で命名されることもあったのだとか。
まさに「戦争」という意味の語なので、現代では好ましいファーストネームという見方は薄まり、イスラーム法学的にも命名を避けるべきだという名前の部類に入っている。預言者ムハンマドの言行録(ハディース)にもアッラーのしもべ、神の僕であることを示すアブドゥッラー、アブドゥッラフマーン等が神に最も喜ばれ、対してハルブのような名前は良くない類の命名だという話が伝えれており、預言者自らが推奨しなかった人名ということでイスラーム共同体内で名付けに使われることが少ないファーストネームとなっていった。
現代アラブ社会ではハルブはいわゆる家名、ラストネーム部分として登場することが多い。◯◯・ハルブといったフルネームの人はシリア、レバノンやレバノンに多く、両国に数多く住むドゥルーズ派のハルブ家出身だったり、ベイルートのキリスト教徒ファミリーのハルブ家出身だったりと様々。またサウジアラビアを中心に居住する大規模部族であるハルブ族は、祖先のハルブという男性名にちなんだ部族名。
■発音と表記■
ハルブのような語形によく起こる母音挿入によりハリブ、ハレブ寄りとなった発音に対応したHarib、Harebといった英字表記も存在する。
母音記号あり:حَنْظَلَة [ ḥanẓala(h) ] [ ハンザラ ] ♪発音を聴く♪
Hanzalah、Hanzala、Handhalah、Handhalaなど
(1つの、1個の)コロシント
■意味と概要■
イスラーム以前のジャーヒリーヤ時代から存在する伝統的な古いアラブ男性名。集合名詞である حَنْظَل [ ḥanẓal ] [ ハンザル ](コロシント、学名:Citrullus colocynthis、英語名:colocynth)に集合名詞の単数化機能を持つ ة(ター・マルブータ)を付した語形で、「(1つの、1個の)コロシント」を意味する。
語根は3文字だとする説、4文字だとする説とがある。語根3文字説では2文字目のن [ nūn ] [ ヌーン ] は麦穂などを意味する سُنْبُلٌ [ sunbul ] [ スンブル ] 同様語根3文字には含まれない余剰文字(زايدة)だとされる。余剰文字を除いた語根 ح - ظ - ل(ḥ - ẓ - l)は「行動できなくする、動けなくする、歩けなくする」「けちって家族に十分な生活費を与えない」「怒りながら歩く」「痛みや怒りでうまく歩けない」「乳房が腫れた牝羊の肌色が変色し足を引きずって歩く」といった概念を示す。
コロシントはアフリカ北部のサハラ砂漠や中東などの砂漠に生えるつる性のウリ科スイカ属植物で、食用スイカにそっくりな見た目で中が白っぽい直径10cmほどの実をつける。実は非常に苦味が強く、アラブ世界では苦味の代名詞として「ハンザルよりも苦い( أَمّرُّ مِنَ الْحَنْظَلِ [ ’amarr(u) mina-l-ḥanẓal ] [ アマッル・ミナ・ル=ハンザル ] )」(非常に苦いことのたとえ)といった慣用表現でも用いられている。
食べると体調が悪くなることでも知られ、激しい下痢を起こすことから生薬としては下剤の原材料ともなる。アラブ人の間では「(めったには食べないが)コロシントを多食して体調を崩した病気のラクダ」を表す حَظِلٌ [ ḥaẓil ] [ ハズィル ] といった語もアラビア語辞典には収録されている。
حَنْظَل [ ḥanẓal ] [ ハンザル ](コロシント)のアラビア語での別名は شَرْي [ shary ] [ 岩波方式の学術的カタカナ表記だとシャルイだが実際の休止形発音はシャルュとシャリィが混ざったような発音、非休止形・主格はsharyun(シャルユン) ] や عَلْقَم [ ‘alqam ] [ アルカム ] など。コロシントの激しい苦味から人生における苦難・艱難辛苦・苦汁の代名詞としても使われ、ذَاقَ الْعَلْقَمَ [ dhāqa-l-‘alqam ] [ ザーカ・ル=アルカム ](苦汁をなめる、辛酸をなめる、艱難辛苦を味わう)といった熟語も存在する。
パレスチナ出身の風刺漫画家ナージー・アル=アリーは自身の体験を投影した10歳のパレスチナ人少年キャラクターにこの名前ハンザラ(日本では口語発音ハンダラで知られる)を与えた。非常に強い苦味がパレスチナ人たちが送っている艱難辛苦と重なること、今どきの小洒落た愛らしいニックネーム語形よりも似合うからとハンザラという伝統男性名を選んだのだとか。
■発音と表記■
語頭の子音 ظ [ ẓā’ ] [ ザー ] は学術的なラテン文字転写(英字表記)では dh ではなく便宜上 z の下に下点をつけたものが使われるなどする重くこもった音。文語アラビア語(フスハー)では舌を歯にはさむ ذ [ dh ] を重くした音だが、シリア・レバノンといった一部地域の口語では重たくこもった ز [ z ] の音(舌は歯ではさまない)に置き換わるため文語会話でも舌をはさまない発音をしている人が混在。そのためHanzalah・Hanzala系統とHandhalah・Handhala系統の2通りのつづりが併存している。
この人名を単体で発音する時はワクフと呼ばれる休止形発音となるため、アラビア語の文語だと حَنْظَلَة [ ḥanẓalah ] の最後の文字 ـة(ター・マルブータ)は ت(t)音ではなく ه(h)としてほんのり聞こえる軽く読み上げるため、厳密には耳を澄ませて聞くと [ ハンザラフ ] と [ ハンザラハ ] の中間のような読み方をしている。(こうした文語的な発音に対応した英字表記がHanzalah、Handhalah。)
しかし現代文語会話や口語(方言)だと ة の休止形(ワクフ)発音である ه [ h ] が落ちてしまい手前の「-a(アの響きの部分)」までしか読まなくなっているので、日本では学術的な表記でもと表記してあるものをハンザラフ、ハンザラハとはせずハンザラと書くのが標準ルールとなっている。(こうした口語的な発音に対応した英字表記がHanzala、Handhala。)
英字表記については標準的なHanzalah、Hanzala、Handhalah、Handhala以外にも、語末部分でアの響きとなる「-a(h)」部分が一部アラビア語方言などにおけるいわゆるイマーラ発音によってエの響き「-e(h)」になるハンザレに対応したHanzaleh、Hanzale、Handhaleh、Handhaleなども併用されている。
さらに子音 ظ [ ẓā’ ] [ ザー ] はアラビア語の口語において ض [ ḍād ] [ ダード ] との入れ替わりが起きやすく正確に区別できない人も少なくないため、حنضلة [ ḥanḍala(h) ] [ ハンダラ ] とつづられていることもある。その場合の口語発音はハンダラ、ハンダレとなり英字表記ハンダラに対応するHandalah、Handala、ハンダレに対応するHandaleh、Handaleが派生する。
また、携帯電話にアラビア語キーボードが無かった時代に普及したチャットアラビア語の影響から、SNSのユーザーネーム等では語頭の ح [ ḥā’ ] [ ハー(ゥ/ッ) ] を数字の7に置き換えた7anzalah、7anzala、7andhalah、7andhala、7andalehなども用いられている。
3文字目の ـظَـ [ ẓa ] [ ザ ] 部分は普通の ذَ [ dha ] [ ザ ] や زَ [ za ] [ ザ ] と違い重くこもったような発音をするためズォやゾに近く聞こえることが多く、非アラブ圏のアラビア語由来の名前としてはハンゾラという読みを意図したであろうHanzolah、Hanzola、ハンドラに対応していると思われるHandolah、Handolaのような英字表記も見られる。
背が低い、腹が大きい、背が低く太鼓腹の;毛皮;海
[ イスラーム法学 ハンバル派の祖となったアフマド・イブン・ハンバル。ハンバルがイブンの後に来るが彼の父のファーストネームではない。彼の父の名前はムハンマド・イブン・ハンバルで、ハンバルは祖父の名前だった。アフマドが幼い頃に若くして亡くなった父親よりも祖父の名前が周囲に広く知られており、通称のような形で父の名前がスキップされて呼ばれていたため。なお حَنْبَليّ(ḥanbalī(y)、ハンバリー)は法学派の祖となったイブン・ハンバルのハンバル部分を取って作られた語で、「ハンバルの、ハンバル派の」という意味を示す。 ]
母音記号あり:هِشَام [ hishām ] [ ヒシャーム ] ♪発音を聴く♪
Hisham、Hishaam
寛大、気前の良さ
■意味と概要■
預言者ムハンマドの曽祖父 هَاشِم بْن عَبد مَنَاف [ hāshim bnu ‘abd(i) manāf ] [ ハーシム・ブヌ・アブド(格母音込みの発音:アブディ)・マナーフ ](Hāshim ibn ʿAbd Manāf、ハーシム・イブン・アブド・マナーフ)はメッカ(マッカ)巡礼に来る多神教徒たちのためにちぎったパンを汁に浸して作る料理 ثَرِيد [ tharīd ] [ サリード ] をふるまったことから「砕く者(هَاشِم [ hāshim ] [ ハーシム ])」という通称で呼ばれるに至ったが、そのハーシムと同じ文字群(語根)を含む関連語がこの هِشَام [ hishām ] [ ヒシャーム ] となっている。
ハーシムが「(骨・頭蓋骨・鼻のように空洞で乾いた物を)割る者、壊す者、砕く者」「地盤がゆるい山」「巧みにラクダの乳を搾る者、ラクダの乳搾りの名人」という元々の語義に加えて古い時代のアラブ社会における「パンを割る」=「客人にもてなしの食料として提供する」という関連から「寛大な、気前が良い」といった意味を人名として持つのに対し、本項目のヒシャームは性質そのものを表す「寛大、気前の良さ」という意味を有する。
■発音と表記■
口語的に母音がiからe寄りになったヘシャームに対応した英字表記ではHesham、Heshaam。長母音ā(アー)がē(エー)寄りもしくは全くのē(エー)に転じた口語(方言)発音ヒシェームの類に対応した英字表記としてはHishem、また上記2種が組み合わさったヘシェームないしは単なるヒシェームを意図しているであろうHeshemといった当て字もある。
フランス語圏ではsh部分をchで当て字をするのが一般的で、Hicham、Hichaam、Hichem、Hicheem、Hechemなどの表記が用いられている。アラビア語としてはヒチャーム、ヒチャム、ヒチェーム、ヒチェム、ヘチェーム、ヘチェム、ヒカーム、ヒカム、ヒケーム、ヒケム、ヘケーム、へケム等は誤読に当たるので要注意。
吉報、福音
[ キリスト教における福音はアラビア語でこのビシャーラなので、レバノンなどのキリスト教徒の名前として多く使われている。]
[ 口語的にiがeで置き換わったBeshara、Besharahといった英字表記もある。]
露、湿り気、口を潤わせ湿り気を与える物(=水、ミルクなど)
[ 誕生間も無かったイスラーム共同体で最初に礼拝の呼びかけアザーンを任されたビラールの名前として有名。エチオピア系黒人奴隷で、クライシュ族の一門である بَنُو جُمَح(banū jumaḥ)の所有だったという。]
Hilaal、Hilal
新月;三日月;半月
[ 口語的にiがeに転じたヘラールという発音に基づいた英字表記はHelaal、Helal。 ]
母音記号あり:فَارِس [ fāris ] [ ファーリス ] ♪発音を聴く♪
Faaris、Faris
(馬に乗った戦士という意味での)騎士;騎手、馬の乗り手、馬に乗るのが上手な人;(物事に関して経験・知識豊富な)達人、造詣が深い人;獅子・ライオンの別名
■意味と概要■
武器を持ち馬を駆ったイスラーム軍や部族の戦士のように勇敢なイメージを与える男性名。西欧の騎士(ナイト)や創作・ファンタジーでの騎士なども同じ فَارِس [ fāris ] [ ファーリス ] を用いる。なお女性の騎士については ة [ ター・マルブータ ] を語末に加え女性形に変形した فَارِسَة [ fārisa(h) ] [ ファーリサ ] となる。
■発音と表記■
口語的にiがeに転じたファーレスに近い発音に対応した英字表記はFaares、Fares。日本語では長母音「ー」無しでのファリス、ファレスというカタカナ表記も少なくない。
母音記号あり:فَارُوق [ fārūq ] [ ファールーク ] ♪発音を聴く♪
真偽を見分ける者、分断者、物事を分け隔てる者、物事を2つに分断する/切り分ける者もしくは物;剣の一種;とても怖がりな、臆病な
[ 公正な裁定を行った正統カリフ ウマルの別名として有名。日本語ではファルークとカタカナ表記されていることが多い。ちなみにその切れ味や機能を語源とする剣(サイフ)の別名は多数あり、男性名にもなっている。例としてはファイサル、ファールーク、ムハンナド、フサームなど。 ]
真と偽を断じる裁定者、(良く切れる、切れ味の鋭い)刀剣
[ その切れ味や機能を語源とする剣(サイフ)の別名は多数あり、男性名にもなっている。例としてはファイサル、ファールーク、ムハンナド、フサームなど。 ]
[ 口語的に二重母音アイが口語的にエイやエーになるとフェイサルやフェーサルと聞こえる。その場合の英字表記はFeysal、Feisal、Feesal、Fesal。]
母音記号あり:فَجْر [ fajr ] [ ファジュル(実際にはファジルに近く聞こえることも) ] ♪発音を聴く♪
Fajr
夜明け、暁、朝の光;物事の始まり、最初
■意味と概要■
男性名・女性名の両方として使用可能な名詞。ただしアラブ人名としての割合では男性の名前として使われることが多い。
ちなみにネットで流布している「中東によくある男性名アスランはアラビア語で夜明け・暁という意味」は誤り。アラビア語で「夜明け、暁」という意味の代表的人名がこのファジュルとなっている。中東系の男性名アスランは元々 أَصْلَان [ ’aṣlān ] [ アスラーン ] と後半が長く伸びる長母音を含んでいるがそれが日本語カタカナ表記化される時点で「ー」の取れたアスランになったもの。アラビア語ではなくテュルク系言語が由来でオスマン語・トルコ語圏などで使われてきた。意味は「獅子、ライオン」だが、姉妹語・変形元の أَرْسَلَان [ ’arsalān ] [ アルサラーン ] (アルスラーンと英字表記が当ててあることも多い)に比べるとアラブ世界にはあまり定着しておらず「トルコ人の名前」という扱いが強め。
■発音と表記■
文語アラビア語(フスハー)では ج(j)部分には母音がついていない子音だけの語形 فَجْر [ fajr ] [ ファジュル / ファジル ] だが、このような語形は口語アラビア語(アーンミーヤ、≒方言)では母音挿入によりjとrの間に母音iなどが追加されやすい。そのためファジル、ファジェルと聞こえるような発音に対応したFajir、Fajerといった英字表記も使われている。母音uが追加されたファジュル発音に対応したFajur、その母音uが口語的な変化でo寄りになったファジョルに近い発音に対応したFajorなども見られる。
Fathii、Fathi、Fathy、Fatheeなど
勝利の(→勝者)、征服の(→征服者)
[ 名詞 فَتْح [ fatḥ ] [ ファトフ ](開くこと;始まり;征服、勝利;春の雨の降り始め、一番雨;アッラーにより与えられる糧;泉などから流れる水、川)のニスバ形容詞。ファトフはイスラーム軍による征服戦争で各地をイスラーム化し開城させた時の勝利を指すなどする。]
[ 厳密には語末を発音すると [ fatḥīy ] となるためファトヒーュ、ファトヒーィのように聞こえるが、口語など日常的な会話では単なる [ fatḥī ] [ ファトヒー ] と聞こえる発音をしていることが多い。この場合はアクセント位置が前方にずれる。 ]
[ 口語的な発音はファトハッラーで英字表記はFathallah。 ]
母音記号あり:فَهْد [ fahd ] [ ファハド ] ♪発音を聴く♪
ヒョウ(豹)、パンサー;ジャガー;チーター;オオヤマネコ、ヤマネコ(山猫);眠りが深く一度寝たらなかなか起きない人、ぐっすり眠る人、やたらと眠る男、寝てばかりいる人;義務を怠っている人
■意味と概要■
アラビア半島地域に多い男性名で、サウジアラビア王家の元国王などの名前としても有名。アラビア半島に古くから生息する大型ネコ科動物で、獰猛な力強いヒョウ(豹)などにちなんでの命名。
アラビア語辞典やアラブ人名辞典には فَهْد [ fahd ] [ ファハド ] の語義として「眠りが深く一度寝たらなかなか起きない人、ぐっすり眠る人、やたらと眠る男、寝てばかりいる人」「義務を怠っている人」を挙げているものも。ヒョウ(豹)などは(昼間)寝てばかりいるためアラビア語では「やたらと寝る人、寝てばかりいる人、眠りが深い人」や「寝てばかりいるために本来自分がすべき物事を見過ごして軽んじ怠る人」の比喩として使われるようになったのが由来だという。
■発音と表記■
『岩波 イスラーム辞典』で定められている中東・イスラーム関連学会での標準的カタカナ表記だと通常 ــَـهْـــ [ ◯ah△ ] という語形の時には「◯ァフ△」と当て字をするルールとなっているが、この男性名に関してはファフドではなくファハドとする例外的な扱い。そのため一般書籍・記事だけでなく専門書や論文などでもファフドではなくファハドという表記が浸透している。
Fahdの-ah-は英語のようにアーと伸ばすわけではないので、ファードはアラビア語としては誤読に当たる。
口語アラビア語(方言)ではhの後に補助母音が入ることもあり、母音aを補った [ fahad ] [ ファハド ] に対応したFahad、母音iを補った [ fahid ] [ ファヒド ] に対応したFahid、母音iが口語的にeに寄った [ fahed ] [ ファヘド ] ないしは [ fahid ] [ ファヒド ] を意図しているFahedのような英字表記も多用・併用されている。
[ ファフル فَخْر(fakhr)=名誉、栄光、誇り の関係形容詞/関連形容詞(ニスバ形容詞)。]
アッラーにより開かれること、心配事が取り去られアッラーにより安寧・喜びがもたらされること
[ アラブ地域のキリスト教徒に多い名前だとのこと。]
[ 口語的な発音はファラジャッラーで英字表記はFarajallah。Farajではなくrが無母音であるFarj(ファルジュ)のバージョンも存在し、Farj Allah(ファルジュ・アッラー→ファルジュッラー)としてそれが口語的にファルジャッラーと読まれたFarjallahもあるという。]
母音記号あり:فَرِيد [ farīd ] [ ファリード] ♪発音を聴く♪
Fariid、Farid、Fareedなど
1人、1個;孤独な、単独の(者);独特な、特異な、ユニークな(者);比類無き、唯一の(者);首飾りなどの金や真珠を区切る銀などでできた珠・粒;他の珠・粒で区切られた首飾りなどの真珠粒;(他の物と混ざらないよう単独で入れ物で保管されている)高価な宝石
■発音と表記■
長母音ī(イー)を表す英字表記としてはiiと2個iを連ねるよりも1個だけのiが多いためFaiidよりもFaridが多い。iが1文字だけのFaridは長母音を示す横棒つきのFarīdから「-」だけを取り去ったものに相当するため、アラビア語的にはファリドと短く発音することは特に意図されていない。
eeも同じく長母音ī(イー)を表すためFareedでファレードではなくファリードとカタカナ化する。Fareedについてはeeを1個だけに減らしたFaredもあるが、これは原語であるアラビア語の場合ファレドやファレッドという発音を意図している訳ではないので要注意。
日本語で見られるカタカナ表記としてはファリード、ファリド。
Farhaat、Farhat
(数々の)喜び、歓喜
【 名詞 فَرْحَة [ farḥa(h) ] [ ファルハ(フ/ハ) ](喜び)の女性規則複数形。】
【 語頭のFa-(ファ)が口語的にFe-(フェ)に置き換わったフェルハートとそれに対応した英字表記Ferhaat、Ferhatも同じ人名。携帯電話にアラビア語キーボードが無かった時代に普及したチャットアラビア語の影響から、SNSのユーザーネーム等では語中の ح [ ḥā’ ] [ ハー(ゥ/ッ) ] を数字の7に置き換えたFar7aat、Far7atなども用いられている。日本語でのカタカナ表記としてはファルハート、ファルハト、フェルハート、フェルハトなどが考え得る。ちなみにアラビア語では-ar-、-er-部分は英語のようにアーとはならないため、原語に忠実なカタカナ表記ではファーハートなどとしない。】
母音記号あり:فِرَاس [ firās ] [ フィラース ] ♪発音を聴く♪
Firaas、Firas
(獲物を狩って仕留める者たる)獅子、ライオン;馬事・騎乗に長けた人物
■意味と概要■
アラビア語において فِرَاس [ firās ] [ フィラース ] もしくは أَبُو فِرَاسٍ [ ’abū firās ] [ アブー・フィラース ](フィラースの父)は獅子・ライオンの別称。動詞 فَرَسَ [ farasa ] [ ファラサ ] が「(獅子・ライオンが)獲物を狩って仕留める、獲物を狩りその首を砕き髄を噛みちぎる」といった意味を持つことが由来。
男性名としてもポピュラーな名詞 فَارِس [ fāris ] [ ファーリス ]((馬に乗った戦士という意味での)騎士;騎手、馬の乗り手、馬に乗るのが上手な人;(物事に関して経験・知識豊富な)達人、造詣が深い人;獅子・ライオンの別名)と同根の姉妹語。
■発音と表記■
英字表記はFiraas、Firas以外にもiではなくeで当て字したFeraas、Ferasも併用されている。日本語カタカナ表記としては主にフィラース、そして長母音「ー」を抜いたフィラスが使われている。
剣、鋭い剣、よく切れる剣、物事を解決する(*切る、終わらせるという語のニュアンスから)、力のある強者
[ sを2個重ねたHussaam、Hussamのような表記もあるがフッサームやフッサムと読むわけではないので注意。また口語的に読むとuがoに転じてホサームに近くなり、英字表記Hosaam、Hosam、Hossaam、Hossamなどが派生する。]
[ 口語的に読むとホサームッディーン。英字表記はHosaam al-Din、Hosam al-Din、Hosamuddinなど。sを2個重ねたHussaam、Hussam、Hossaam、Hossamという表記もあるが、ホッサームッディーンやホッサムッディーンと読ませるためのものではないので注意。]
母音記号あり:حُذَيْفَة [ ḥudhayfa(h) / ḥudhaifa(h) ] [ フザイファ ] ♪発音を聴く♪
(集合名詞として)小さな黒羊;小さなアヒル;背が低い、小さな
Hudhayfa、Hudhayfah、Hudhaifa、Hudhaifah
■意味と概要■
アラビア語辞典や人名辞典には、集合名詞 حَذَف [ ḥadhaf ] [ ハザフ ]((ヒジャーズ地方産だともイエメン産だとも言われる耳や尾が無い短毛種の)黒羊;アヒルの一種)に集合名詞の単数化機能を持つ ة(ター・マルブータ)を付した حَذَفَة [ ḥadhafa(h) ] [ ハザファ ]((1頭の)黒羊;アヒルの一種、アヒルに似た鳥)の縮小語形(小さな黒羊;小さなアヒルのような鳥)、もしくは حِذْفَة [ ḥidhfa(h) ] [ ヒズファ ]((肉や服などから切り取られた)切れ端、欠片)の縮小語形(小さな切れ端、小さな欠片)だという説明が書かれている。
また、動詞 حَذَفَ [ ḥadhafa ] [ ハザファ ]((物の端を)切り取る、刈り取る;削除する)の動名詞 حَذْف [ ḥadhf ] [ ハズフ ] から派生しており、不必要な物や欠点などが削ぎ取られた好ましい人格を想起させる名前だと解説している人名辞典もある。
■発音と表記■
この人名を単体で発音する時はワクフと呼ばれる休止形発音となるため、アラビア語の文語だと حُذَيْفَة [ ḥudhayfah / ḥudhaifah ] の最後の文字 ـة(ター・マルブータ)は ت(t)音ではなく ه(h)としてほんのり聞こえる軽く読み上げるため、厳密には耳を澄ませて聞くと [ フザイファフ ] と [ フザイファハ ] の中間のような読み方をしている。(こうした文語的な発音に対応した英字表記がHudhayfah、Hudhaifah。)
しかし現代文語会話や口語(方言)だと ة の休止形(ワクフ)発音である ه [ h ] が落ちてしまい手前の「-a(アの響きの部分)」までしか読まなくなっているので、日本では学術的な表記でもと表記してあるものをフザイファフ、フザイファハとはせずフザイファと書くのが標準ルールとなっている。(こうした口語的な発音に対応した英字表記がHudhayfa、Hudhaifa。)
語末についている ة(ター・マルブータ)は発音方法によって ت [ t ] 音で読むこともあるが、文語の語末母音まで全部読み切る読み方では حُذَيْفَة [ ḥudhayfatu / ḥudhaifatu ] [ フザイファトゥ ](注:人名としては二段変化)になるが文法学習といった特定の場面でしか聞かれず、現代の文語(フスハー)会話や口語(方言)では後ろから属格支配(≒所有格支配)と受けた時のみ黙字扱いせず ت [ t ] 音で読むことが広く行われている。
-ay-部分はアラビア語では二重母音-ai-(アイ)を表すため英字表記も-ay-つづりと-ai-つづりの両方が見られる。この二重母音-ay(ai)-部分は口語アラビア語(方言)ではエイもしくはエーに転じることが一般的で、本項目の人名フザイファもフゼイファ、フゼーファと読まれることがある。フゼイファに対応した英字表記としてはHudheyfa、Hudheyfah、Hudheifa、Hudheifah。フゼーファに対応した英字表記としてはHudheefa、Hudheefah、Hudhefa、Hudhefaが考え得る。
口語風にuがoに転じホザイファと読まれた場合の英字表記はHodhayfa、Hodhayfah、Hodhaifa、Hodhaifah。
dhを音が似ているz、アラビア語口語(方言)によってはdhからの発音置き換わりになるzで当て字をしたフザイファ(Huzayfa、Huzayfah、Huzaifa、Huzaifah)、ホザイファ(Hozayfa、Hozayfah、Hozaifa、Hozaifah)、フゼイファ(Huzeyfa、Huzeyfah、Huzeifa、Huzeifah)、フゼーファ(Huzeefa、Huzeefah、Huzeefa、Huzeefah、Huzefa、Huzefah、Huzefa、Huzefah)、ホゼイファ(Hozeyfa、Hozeyfah、Hozeifa、Hozeifah)、ホゼーファ(Hozeefa、Hozeefah、Hozeefa、Hozeefah、Hozefa、Hozefah、Hozefa、Hozefah)等が使われる可能性も派生する。
また一部口語アラビア語(方言)の発音等で語末が「-a(h)」の響きから「-e(h)」の響きに転じた読みフザイフェを意図しているであろうHudhayfe、Hudhayfeh、Hudhaife、Hudhaidfeh…といった英字表記になっているサイトも見られる。
さらには携帯電話にアラビア語キーボードが無かった時代に普及したチャットアラビア語の影響から、SNSのユーザーネーム等では語末の ح [ ḥā’ ] [ ハー(ゥ/ッ) ] を7に置き換えたフザイファ(7udhayfa、7udhayfah、7udhaifa、7udhaifah)、ホザイファ(7odhayfa、7odhayfah、7odhaifa、7odhaifah)…以下略…などが見られる。
小さなハサン、小さな佳人、小さな美男
[ حَسَن(ḥasan、ハサン)=佳人、美男 の縮小形。「小さなハサン」「ちっちゃくてかわいいハサン」といった意味があるが預言者ムハンマドの孫でアリーとファーティマ夫妻の息子らのように兄が普通の語形のハサンで縮小形のフサインの方が後から生まれた弟に命名されるという傾向があり、ウトバとウタイバといった人名も同様の仕組みでイスラーム以前から兄弟につけられるなどしていた。
定冠詞をつけ اَلْحُسَيْن(’al-ḥusayn/ḥusain、アル=フサイン)とした場合は、第四代正統カリフ/シーア派初代イマームのアリーと預言者ムハンマドの娘ファーティマとの間に生まれた次男であり長男アル=ハサンの弟を指す。シーア派ではイマームの1人(第三代イマーム)とみなされる。イラクのクーファから要請を受け少数の兵らを連れて出征したものの全滅。ウマイヤ朝軍との戦闘で見殺しにし本人・一家・支持者らの弾圧を招いてしまったカルバラーの悲劇を悔いて、シーア派では彼の死を追悼するアーシューラーの行事が毎年行われている。シーア派地域を中心に、男児名として現代でも広く用いられている。
シーア派地域のイラクなどではアブドと組み合わせたアブド・アル=フサイン(アブドゥルフサイン)という人名もしばしば見られる。]
[ 口語的に二重母音アイをエイもしくはエーで読むとフセインやフセーンに近くなり、英字表記はHuseyn、Husein、Huseen、Husen。更に口語的にuがoに近い読み方をされるとホセインやホセーンと聞こえ、英字表記Hoseyn、Hosein、Hoseen、Hosenが派生する。さらに英字表記でsを2個重ねてssとするバージョンもあり、Husseyn、Hussein、Husseen、Hussen、Hosseyn、Hossein、Hosseen、Hossenといったバリエーションが生まれる。]
[ エジプト元大統領ムハンマド・ホスニー・ムバーラク(通称:ホスニー・ムバーラク)のファーストネームである複合名ムハンマド・ホスニーの2語目がこの名前である。 ] [ 口語的に読むとuがoに転じてホスニーに近くなり、英字表記はHosnii、Hosni、Hosny、Hosneeなど。]
Furaat、Furat
ユーフラテス川;海;淡水
[ クルアーンには淡水(「非常に甘い水」)として出てくる語。人名辞典では女性名と書かれているのが普通だがイラクではしばしば男児に名付けられる。]
Khulayd、Khulaid
(小さな)永遠、永続
[ 永遠・永続を意味する名詞 خُلْد [ khuld ] [ フルド ] を「小さな~」という意味の縮小形を示す語形に当てはめたもの。]
[ 口語的にu部分がo寄りとなったホライドという発音に対応したKholaid、二重母音部分(ay/ai)がエイやエーになった口語発音ホレイドやホレードに対応したKholeidといった英字表記もある。]
小さなハーリド
[ 男性名 خَالِد(khālid、ハーリド)=永続する・永遠の・不死の・不朽の の縮小形。元々はハーリドの愛称として使われていたが、後にファーストネームとしても使われるようになった。アラビア半島の湾岸地方で多く見られる。]
[ 日本語でクワイリドとカタカナ表記されている例もあるが、標準的なカタカナ化はハ行のフワイリドである。口語的にいiがeに転じた発音ではフワイレドになり、英字表記はKhuwayled、Khuwailed。uがoに転じホワイリドと読んだ場合の英字表記はKhowaylid、Khowailid。そのどちらもが起こった場合はホワイレドでKhowayled、Khowailed。二重母音アイがエイやエーに転じた場合はフウェイリド、フウェーリド、フウェイレド、フウェーレド、ホウェイレド、ホウェーレドに。Khuweylid、Khuweilid、Khuwelid、Khuweled、Khoweylid、Khoweilid、Khoweyled、Khoweiled、Khoweledといった英字表記が派生する。]
栄光ある、栄誉ある、高潔な、崇高な
[ アラブ圏で昔から人気の『キャプテン翼』のアラビア語題名は『キャプテン・マージド』である。翼という名前の代わりにマージドとして登場する。]
[ 口語的に読むとiがeに転じてマージェドという発音となり、英字表記はMaajed、Majedに。エジプトのようにjをgで発音する地域がある方言ではマーギドと発音することもあって、Maagid、Magid, Maaged、Magedという英字表記も見られる。Majidの場合長母音を復元する位置によってマージドとマジードという異なる名前になるので要注意。]
母音記号あり:مَالِك [ mālik ] [ マーリク ] ♪発音を聴く♪
Malik、Maalik
(物・権利・王権などの)所有者、保有者、保持者、持ち主;(王権・元首としての地位・権力保有者という意味での)統治者、王者
■意味と概要■
イスラーム法学のマーリク派(マーリキー派)名称の由来ともなったイスラーム法学者 مَالِك بْن أَنَس [ mālik bnu ’anas ] [ マーリク・ブヌ・アナス ](マーリク・イブン・アナス)のファーストネームにも含まれるポピュラーなアラブ男性名。各国でイスラーム教徒男性名としてもしばしば用いられている。
アラビア語の語形としては動詞 مَلَكَ [ malaka ] [ マラカ ](~を所有する;掌握する;支配する;統制する)の動作主・行為主であることを意味する能動分詞(行為者名詞)で「~している」や「~しているもの、~するもの」を表す。語根 م - ل - ك ( m - l - k )が権力や王権に関連する概念を示すのはアラビア語以前のセム系諸語と同様で、アッカド語で「王」が malku だったりするのと関係している。
■発音と表記■
英字表記でMalikかつ日本語一般記事のカタカナ表記でマリクと書かれている男性名の場合、「王(king)」という意味の مَلِك [ malik ] [ マリク ] ではなく原語では長母音「ā(アー)」が入っている方の مَالِك [ mālik ] [ マーリク ] であることが一般的。
日本語の非学術的慣用表記はMalikの見た目そのままにマリクとカタカナ化したり、字数を減らしたりするためにマーリクをマリクに短縮・改変した当て字だったりする。そのためMalikと英字表記されているアラブ人名・アラビア語由来男性名の意味を紹介する場合に、間違えて「この名前Malik(マリク)はアラビア語で王という意味です」と意味紹介を書いてしまわないよう要注意。
口語的にiがeに転じたマーレクという発音に対応した英字表記はMalek、Maalek。
母音記号あり:مَأْمُون [ ma’mūn ] [ マァムーンとマッムーンの中間のような発音 ] ♪発音を聴く♪
Ma'muun、Ma'mun、Maamuun、Maamun、Mamuun、Mamun、Maamoun、Mamoun、Maamoon、Mamoonなど
信頼のおける、信用できる、信頼された
【 maとmūnの間に母音がつかない声門閉鎖音/声門破裂音の子音ハムザ ء [ ’ ] がはさまっており、マ・ムーンのように「・」部分で一瞬息を止める発音を行う。標準的カタカナ表記であるマアムーンよりはマァムーンとマッムーンの中間のように聞こえる。口語(方言)では声門閉鎖音/声門破裂音の ء [ ’ ] 部分が長母音ā(アー)を形成するパーツに変化するため、māと伸びたマームーンのような発音になりやすい。英字表記でma’の代わりにmaaになっていたり単にmaになっていたりするのはそのため。日本語カタカナ表記ではマアムーン、マームーン以外にもマァムーン、マッムーン、マムーンなども見られる。】
親しまれた
[ maとlūfの間に母音がつかない声門閉鎖音/声門破裂音の子音ハムザ「’」がはさまっており、マアルーフよりはマァルーフとマッルーフの中間のような発音となる。口語では声門閉鎖音/声門破裂音のハムザ部分が長母音の一部となり、māと伸びたマールーフのように聞こえる発音になりやすい。英字表記でma’の代わりにmaaになっていたり単にmaになっていたりするのはそうしたハムザの特徴によるところが大きい。]
2)مَعْرُوف(ma‘rūf→Ma'ruuf、Ma'ruf、Ma'roof、Ma'rouf、Maaruuf、Maaruf、Maaroof、Maarof、Maarouf、Maruuf、Maruf、Maroof、Marouf、Marofなど)♪発音を聴く♪
知られた、有名な、好意、善行
[ 上のハムザとは違う子音 ع(アイン)だが、「‘」で表すことも多くハムザ同様にma‘部分の英字表記がmaaになったりmaになったりする。 ]
容易な、簡単な、幸運な、恵まれた、裕福な
運が良い、幸運に恵まれた
[ 二重母音アイを口語的にエイと読んだ場合メイムーンに近くなり、英字表記はMeymun、Meimun、Meymoon、Meimoon、Meymoun、Meimounなどに。]
愛された、好かれた
[ 二重母音アウが口語的に読まれてオウもしくはオーに近くなるとモウドゥードやモードゥードに近く聞こえることとなり、Mowduud、Mowdood、Mowdoud、Mouduud、Moudood、Moudoud、Modood、Modoudといった英字表記が派生する。]
生まれた、新生児、子供
(大いに)栄光ある、高潔な、高貴な
[ 通常の形容詞を強調した語形。定冠詞al-をつけるとアッラーの別名・属性名(99の美名)になる。]
[ Majidという英字表記だと مَاجِد(mājid、マージド)と全く同じになるので、元のアラビア語表記を見たり実際の発音を聞いたりしない限り区別することはできない。 ]
松明;トーチ、ランプ
[ مِشْعَل(mish‘al、ミシュアル)という読みもある。アラビア半島湾岸地域に多い男性名とされる。]
[ アラビア語に即したカタカナ表記の場合ma/shalと分けてマシャルとはしないように注意。]
栄光の、栄誉の、高貴さの、高潔さの
[ エジプト首都部のようにjがgで発音される地域ではマグディーと読まれ、英字表記もMagdi、Magdy、Magdeeとなっていることが多い。]
栄誉、栄光、崇高
[ j部分には母音がついていないので、マジドという発音に近い。jとdの間に母音eが挿入されてマジェドに近いMajedという英字表記もある。مَاجِد(mājid、マージド)の口語読みであるMajed(マージェド)と混同しないように注意。元のアラビア語表記を見たり実際の発音を聞いたりしない限り区別することはできない。]
Mas'uud、Mas'ud、Mas'ood、Mas'oud、Masud、Masood、Masoud
幸福な、幸せな、アッラーによ幸福を授けられた
【 ウーの音の前にアインという口の奥・喉の上方を絞って息の通り道を狭くする子音が入っているので、アラビア語ではなめらかなマスウードやマスードという発音ではなく「マス ァウード」に近く聞こえる。発音に即した発音表記では [ mas‘ūd ] のように「‘」などで喉を力ませる子音を表現するが、一般的な人名表記ではいちいち書かないのが普通なのでMasuud、Masudなどになりマスードと欧米や日本において読まれやすい要素を持っている。
またアラビア語以外のアラビア文字を使った諸語ではعがただの声門閉鎖音/声門破裂音になる置き換わりが発生。アラビア語では「ウ」が力強くはっきり聞こえるマスウードと発音していてもそれ以外の言語では喉を使わないマスウードが一般的で、さらには「ウ」がはっきり聞こえないマスードに近くなる可能性も高い。たとえばアフガニスタンの現地語放送などではマスウードではなくマスードやマッスードのように聞こえる印象で、アラビア語同様に扱ってマスウードと直すと逆に現地人発音から離れてしまう過修正になりかねないので要注意。
なおアラブ人名としての英字表記ではsを2個重ねてMassud、Massood、Massoudなどと表記されていることも少なくないが、これはフランス語圏でs1個だと濁点化してしまうのを防ぐつづりであることが多く、マッスードと発音する名前が別にある訳ではない。更にはmaがmeに近くなる口語発音メスウードに即した英字表記Messud、Messood、Messoudなどが派生する。
英字表記を元にカタカナ化もしくは欧米諸語における発音を介して日本語化された結果としてマスード、メスードのように表記されたイスラーム名が見られるが、元々の標準アラビア語に即した音は皆このマスウードという同一の男性名となっている。】
母音記号あり:مَسْرُور [ masrūr ] [ マスルール ] ♪発音を聴く♪
Masruur、Masrur、Masroor、Masrourなど
喜ばされた、喜んでいる、嬉しい(人)
【 動詞 سَرَّ [ sarra ] [ サッラ ]((~を)喜ばせる)の受動分詞で「喜ばされた(人)」つまりは「喜んでいる(人)、嬉しがっている(人)」の意味。日本では千夜一夜物語(アラビアンナイト)にも出てくるアッバース朝カリフのハールーン・アッ=ラシード(日本では定冠詞を抜いてハールーン・ラシードとする表記が多い)のお抱え首切り処刑人・太刀持ちの名前でバルマク家粛清の際にジャアファルらの首を落とした人物としても知られており、しばしば創作におけるネーミングにも登場する。】
【 語頭のmaが口語的にmeとなった発音メスルールに対応した英字表Mesruur、Mesrur、Mesroor、Mesrourなども同じ人名。】
Matar
雨
【 イスラーム以前のジャーヒリーヤ時代からある非常に古い名前。アラブ世界において雨は乾いた大地を潤し豊かな牧草をもたらす恩恵・幸福・安寧・寛大の象徴として好まれる。
ただマタルという男性が皆恵みや寛大さというイメージから命名されていたとは限らないようで、ベドウィン人名辞典によると「生まれた時に雨が降っていたから」「分娩時に降っていた雨を見た父なりがそのまま雨という名前のマタルをつけたから」といういたって単純な理由から命名していた例もあったという。
非常に古い人名ということもあってか現代では若者のファーストネームとしてよりもファミリーネームとして見かける可能性の方が高いという印象。
なお、コーヒー産地として有名なイエメンの بِنِي مَطَر [ banī maṭar ] [ バニー・マタル ](バニー・マタル、その他日本語カタカナ表記はバニーマタル、バニ・マタル、バニマタルなど)は同地に居住する大部族「バニー・マタル(マタルの息子たち、マタルの子孫たち、マタル一族、マタル族)」にちなむ命名で、マタルは男性名。バニー・マタルは降雨に恵まれ樹々が生い茂る恵まれた土地だったことから長い間 بُسْتَان [ bustān ] [ ブスターン ](庭園、果樹園)という地名で呼ばれていたという。
「バヌー・◯◯」や「バニー・◯◯」はアラブでよくある部族・氏族名の名称で、雨が多く降る同地域の豊かな自然を表現したメルヘンチックな由来ではなく、雨という意味のマタル氏が家長だったマタル部族がその一帯に居住していたという意味でそう呼ばれるようになったものである。日本でいうところの「雨左衛門谷」「雨左衛門山」「雨左衛門新田」的な地名に相当。バニー・マタル周辺は同様のネーミングによる地名が複数あり、それぞれ「バニー・◯◯」の◯◯部分に部族名・支族名が入った名称となっている。】
[ 強調の意味がある語形。語末はfではなくhなので、マッダーフよりもマッダーハに近く聞こえる可能性が高い。]
神により正しい道へと導かれた(者)
[ 動詞 هَدَى(hadā、ハダー)=導く の受動態。語末まで丁寧に読めばマフディーュもしくはマフディーィに聞こえるが、実際の日常的な発音ではマフディーで最後のyは聞こえないのが普通。その場合はアクセント位置が前にずれてMaの部分になる。真ん中部分はfではなくhなので、マフディーというよりはマハディーに近く聞こえる。アラブ地域以外のイスラーム諸国ではMehdiなどと書かれていることも。]
保護された(もの)、守られた(もの)、保存された(もの)
[ エジプトが誇る大作家 نَجِيب مَحْفُوظ(najīb maḥfūẓ→エジプト方言でナギーブ・マフフーズ/マハフーズ)のファーストネームの一部としても有名。ちなみにナギーブ・マフフーズはこれで全部で本名のファーストネーム部分だとか。マフフーズが父、祖父、家名のいずれかという訳ではなく、ナギーブ・マフフーズの2語1組でファーストネームとする複合名だとのこと。父親の名前も複合名で、アブドゥルアズィーズ・イブラーヒーム。ナギーブ・マフフーズという名前はお産に立ち会った医師の名前から取ったという。アラブ世界では尊敬する人物にちなんで命名する際、こうした複合名のファーストネームになりやすい。 ]
[ 真ん中部分は f ではなく h なので、マフフーズというよりはマハフーズに近く聞こえる。]
愛されている、好かれている(者)
[ 真ん中部分は f ではなく h なので、マフブーブというよりはマハブーブに近く聞こえる。MaがMeに転じてMehboob、Mehboub等と英字表記されているイスラーム名もあるが、元は同じ語。]
称賛された、褒め称えられた(者)
[ 厳密には預言者ムハンマドの別名ではないとのことだが、語根が同じことから預言者ムハンマドとの関連で命名される赤ちゃんも多い模様。 ]
[ 真ん中部分は f ではなく h なので、マフムードというよりはマハムードに近く聞こえる。MaがMeに転じてMehmood、Mehmoudと英字表記されたイスラーム名もあるが、元々は同じ語である。なお、語中に-ah-が含まれているがアーとは読まないので、アラビア語に即してカタカナ化する場合はマームードとしないよう注意。]
母音記号あり:مَلِك [ malik ] [ マリク ] ♪発音を聴く♪
Malik
王、国王、王権の所有者
■意味と概要■
王を意味するアラビア語の名詞。アラブ人男性名としてはあまり使われずマイナー人名の部類に入る。(なお対応する女性名詞は مَلِكَة [ malika(h) ] [ マリカ ] で女性の名前としても用いられている。)
現代のアラブ諸国に複数存在する王国の国王を指すのに用いられている。アラビア語では動詞 مَلَكَ [ malaka ] [ マラカ ] が「~を所有する;掌握する;支配する;統制する」という意味を持つなど語根 م - ل - ك ( m - l - k )が権力や王権に関連する概念を示すが、これはアラビア語以前のセム系諸語と同様で、アッカド語で「王」が malku だったりするのと関係している。
サウジアラビア王国では王族しかもその頂点に経つ国王の肩書とかぶってしまうということで、新生児に「王」という意味を持つこの مَلِك [ malik ] [ マリク ] という人名をつけることは政府の通達により正式に禁止されている。
■発音と表記■
英字表記でMalikかつ日本語一般記事のカタカナ表記でマリクと書かれている男性名の場合、مَلِك [ malik ] [ マリク ](王)ではなく原語では長母音「ā(アー)」が入っている方の مَالِك [ mālik ] [ マーリク ]((物・権利・王権などの)所有者、保有者、保持者、持ち主;(王権・元首としての地位・権力保有者という意味での)統治者、王者)であることが一般的。
日本語の非学術的慣用表記はMalikの見た目そのままにマリクとカタカナ化したり、字数を減らしたりするためにマーリクをマリクに短縮・改変した当て字だったりする。そのためMalikと英字表記されているアラブ人名・アラビア語由来男性名の意味を紹介する場合に、間違えて「この名前Malik(マリク)はアラビア語で王という意味です」と意味紹介を書いてしまわないよう要注意。
本項目 مَلِك [ malik ] [ マリク ] については口語発音などでiがe寄りになったマレクのような発音に依拠していると思われるMalekという英字表記も併用されている。
母音記号無しのアラビア語表記が全く同じで人名としても用いられている語としては مَلَك [ malak ] [ マラク ](天使)がある。マラクの方は女子名なので混同しないよう要注意。
神により祝福を与えられた、祝福された、幸運な
[ mar部分はマルであってアーと伸ばさないので、マーズークとしないよう注意。MaがMeに転じてメルズークと読まれ英字表記がMerzuq、Merzooq、Merzouqとなっているイスラーム名もあるが、元々はこの語である。日本語のカタカナ表記でマルズクやメルズクになっているのも元はこの名前から来ている。]
火打ち石;香草、香りの良い樹木の1種
[ 名詞「مَرْو(marw、マルウ)=火打ち石 から派生した語。ウマイヤ朝カリフらのファーストネームとしても有名。]
[ MaがMeに転じてMerwanと表記されているイスラーム名もあるが、元々は同じ語である。]
アッラーにより助けられた、神から勝利を授けられた、勝者
[ アッバース朝第2代カリフのラカブ(称号)がこのマンスールに定冠詞をつけた اَلْمَنْصُور(’al-manṣūr、アル=マンスール)だった。 ] [ MaがMeと読まれてMensur、Mensoor、Mensourと表記されているアラビア語由来の名前もあるが、元は同じ語である。]
ミーナー
[ エジプトのコプト正教会(キリスト教)信徒の男性名。Menaというつづりもある。アラブ地域・エジプトのメディアではミーナーと発音されている模様。コプト正教会信徒に多い名前だとのことだが、非常に有名なのはアレクサンドリアのメナス(=Mina)と呼ばれる聖人だと思われる。京都にあるコプト正教会ウェブサイトでは聖ミーナという表記になっている。エジプト系カナダ人俳優メナ・マスードのMenaがこの名前である。「Amen」という語に関連のあるコプト語(=エジプトで使われていたギリシア語の影響が強い原語で、アラビア語とは異なる。)だとのこと。聖人メナスを授かる前に子が欲しくて必死に祈っていた彼の母が聖母マリアのイコンから祈りの通りとなることを示唆する「アーメン」という声を聞いたそうで、誕生後それにちなんで「Mīnā」と名付けたという。]
母音記号あり:مِقْدَام [ miqdām ] [ ミクダーム ] ♪発音を聴く♪
Miqdaam、Miqdam
戦い・戦争において我先にと駆けていくことを度々する(者)、先を争うようにして軍勢の最前線に立つことを大いにする(者);勇猛果敢な、勇敢な、豪胆な(者)
【 アラブに昔からある名前で、預言者ムハンマドと行動を共にした教友(サハーバ)にもミクダームという名を持つ男性がいた。現代ではマイナーネームの部類に入る。回数や度合いが強い・大きいことを意味する強調の語形で、いつも敵を恐れずに真っ先に走っていく勇猛な戦士の様子を表す。】
【 ミクダーム、もしくは口語的にiがeに転じたメクダーム寄りの発音に対応した英字表記としてはMeqdaam、Meqdamが使われ得る。qを発音が近いkに置き換えたMikdaam、Mikdam、Mekdaam、Mekdamや方言発音などでqがgに置き換わったMigdaam、Migdam、Megdaam、Megdamなどもこのミクダームという男性名の発音・つづりバリエーション。】
松明;トーチ、ランプ
[ アラビア半島湾岸地域に多い男性名とされる。人名辞典では مَشْعَل(mash‘al→Mash'al、Mashal / マシュアル)の発音で載っていることが多い。]
[ 口語的に読むとiがeに転じてメシュアルとなり、英字表記はMesh'al、Meshal、。アラビア語に即したカタカナ表記の場合me/shalと分けて読み、メシャルとはしないように注意。]
母音記号あり:مِصْبَاح [ miṣbaḥ ] [ ミスバーフ ] ♪発音を聴く♪
Misbaah、Misbah
灯り、灯火、灯明;ランプ;照明、(電気)ランプ、電灯
【 現代では電気照明や電球をはめた電灯を指すのに使わているが、元は灯火や灯明といったもっと原始的な光を意味していた。この人名の元になった名詞はクルアーンなどにも登場。ガラスで囲われた灯火や灯火のようにきらめく星の光として用いられている。】
【 口語的にiがeに転じてメスバーフ寄りになった発音に対応した英字表記Mesbaah、Mesbahも。なお-ah部分は英語と違いアラビア語では長母音化しないので、アラビア語圏在住アラブ人のアラビア語発音としてはミスバー、メスバーとカタカナ表記しないよう注意。】
Midhat
称賛、礼賛
[ オスマン・トルコの言葉でアラビア語のمَدْحَة [ madḥa(h) ] [ マドゥハ/マドハ ] の語末を開いたターで表記し、語頭のmにつける母音をiに差し替えた語形。人名や肩書きにトルコ語の影響が残っているエジプト他で時折見られるファーストネーム。]
[ 口語風にiがeに転じてメドハトに近く聞こえる発音になった場合に対応した英字表記はMedhat。なお-dh-部分 ذ [ dh ] 1文字ではなく「d/h」と区切るのでミザト、メザトとカタカナ化しないよう注意。 ]
ムーサー
[ イスラームの預言者ムーサーの名前。モーセ、モーゼに対応。 水の中から引き上げられたことにちなむヘブライ語由来の名前。]
[ 日本語では全てもしくは一部の長母音を復元しないムーサ、ムサというカタカナ表記が見られる。 ]
●関連語●كَلِيم اللهِ(Kalīm Allāh→Kalim Allah)(カリーム・アッラー → カリームッラー)
カリーム(話し相手)という名詞を後ろからアッラー(神、イスラームにおける唯一神)という語が属格(所有格)支配した複合語。「the one who talked with God」すなわちアッラーから言葉を受けた者、アッラーに語りかけられた者、アッラーが語りかけをされたその相手、神との対話者であるムーサー(モーセ、モーゼ)のことを指す。元々Kalim Allahはムーサーの別称だが、イスラーム圏では男性名として使われることも。神から語りかけられた者というムーサーの有名な別名の英字表記はKaliim Allah、Kalim Allah、Kaleem Allah、Kaliimullah、Kalimullah、Kaleemullah、Kaliimallah、Kalimallah、Kaleemallahなど。
母音記号あり:مُعَاوِيَة [ mu‘āwiya(h) ] [ ウアーウィヤ ] ♪発音を聴く♪
Muaawiyah、Muaawiya、Muawiyah、Muawiyaなど
メス犬、(発情期で)オス犬との交尾を求めて吠えるメス犬、オス犬と遠吠し合うメス犬;仔犬、子犬;キツネの仔(/子)
■意味■
動詞派生形第3形動詞 عَاوَى [ ‘āwā ] [ アーワー ]((犬などが)吠える)の能動分詞女性形で、「吠えている(もの)、吠えるもの」の意味。女性名詞だが古くから男性名として使われてきた。アラビア語大辞典やアラブ人名辞典には「メス犬」というのみ掲載しているものと、「子犬、犬の仔」「子ギツネ、キツネの仔」という意味まで載せているものとに分かれる。
■この名前を持つ人物とアラブ世界での扱い■
ムアーウィヤはいわゆるスンナ派色が強い名前とされており、シーア派圏ではイマームである第四代正統カリフのアリーとの関係性・彼に先んじて正統カリフ位についた人物として男児につける名前としては好まれない男性名の代表例の一つと言われている。
シーア派では第4代正統カリフ・シーア派初代イマームと対立しウマイヤ朝を興したムアーウィヤ、アリーが預言者ムハンマドの娘ファーティマとの間にもうけた次男アル=フサイン一行をカルバラーで死なせたムアーウィヤの息子ヤズィードはいわば憎悪・怨恨を向けるべき対象と見られる傾向が強め。
シーア派系の文書では一家の父祖となったウマイヤ(*ウマイヤは「小さな女奴隷」の意味だがジャーヒリーヤ時代には男性名として使われていた)と並んで、「発情して吠える雌犬」という由来の卑しい名前だとしてムアーウィヤを揶揄するくだりが登場することも。
彼らの名前は好んで生まれたシーア派男児につけるような類のものではないため、イマームにちなんだアリー、フサイン、ムジュタバー、バーキル、カーズィムといった名前が人気のシーア派優勢地域では命名に使われることが少ないことで知られる。
一方スンナ派側からは「預言者ムハンマドの教友(サハーバ)にムアーウィヤという名前を持つ男性が何人もおり、決して忌み嫌われていた男性名ではなかった。」「生誕時に将来発情した雌犬のようになるようにと願ってつけられた名前ではなかったといった。」という見解・反論も見られる。
■発音と表記■
口語的にuがoに転じたモアーウィヤ寄りの読みに基づく英字表記はMoaawiya、Moaawiyah、Moaawia、Moawiaなど。さらにiがeに転じてムアーウェアやモアーウェア寄りになった発音に基づく英字表記はMuaawea、Muawea、Moaawea、Moaweaなど。他にはMuaweah、Moaweahといった英字表記もある。
(神により)支えられた者、助けられた者
[ Muが口語的にMoと読まれてモアイヤドとなり、英字表記がMoayyad、Moaiyadとなっている場合も。]
長生きの、長命の
[ リビアのカダフィ大佐のファーストネームがこのムアンマルであった。ムアンマル・アル=カッザーフィーのザは ذ=dhでしばしばdやzの音に転じる。そこから日本語でのカタカナ表記「カダフィ」が生じた。uがoに転じた口語的な読みはモアンマルで、英字表記はMo'ammar、Moammar。mを2個連ねないMuamar、Moamarという英字表記も存在する。その場合はムアマル、モアマルとせず子音を復元してムアンマル、モアンマルとカタカナ化することとなる。]
誇っている、誇り高い、強い、力強い
[ その他にMuがMoという口語的な読みに転じたMo'tazz、Motazz。zが1個だけのMutaz、Motazもある。ムウの部分をムーのアラブ人名英字表記で良く用いるMouでつづったMoutazz、Moutazも存在する。「mu‘」の最後に来る喉を使う子音 ع(アイン)の発音を反映したMuatazz、Moatazzなども。日本語ではムウタッズが最も多いカタカナ表記で、他にはムータッズ、ムアタッズ、ムタッズ、モウタッズ、モウタズ等が見られる。]
人を愉しませる、人を楽しくさせる、無聊を慰める者
[ イスラーム以前のジャーヒリーヤ時代では木曜日がこの名前で呼ばれていたという。*現代では الْخَمِيس(’al-khamīs、アル=ハミース)。昔は使用人や奴隷が この مُؤْنِس(mu’nis、ムウニス)という名称で呼ばれることもあった。アッバース朝時代に立身出世した مُؤْنِس الْخَادِم(mu’nis ’al-khādim)Mu'nis al-Khadim、ムーニス・アル=ハーディム、=اَلْمُظَفَّر الْمُعْتَضِدِيّ(al-Muzaffar al-Mu'tadidi)も元はカリフの宦官だった。ギリシア系白人奴隷とも伝えられている軍人で、90歳前後まで長生きしたとされる。]
[ 厳密な発音はmuの後に声門閉鎖音/声門破裂音ハムザが来るためムゥニスやムッニスに近いが、口語では喉を閉じて息の流れを止める代わりにムーニスと長母音として読まれるなどする。また話し言葉ではMuがMoに転じてモーニスに近い音となり、英字表記がMoonis、Monis、Mounisに変わるなどする。さらに後半部分のiがeに近くなる口語発音ムーネスに即したMunes、Mounesや、モーネスに即したMoones、Mones、Mounesといった英字表記がある。その他、声門閉鎖音/破裂音部分をaに置き換えたと思われるMuanis、Moanis、Muanes、Moanesなども。]
信じている(者)、信心深い、信者、信徒
[ 厳密な発音はmuの後に声門閉鎖音/声門破裂音ハムザが来るためムゥミンやムッミンに近いが、口語では喉を閉じて息の流れを止める代わりにムーミンと長母音として読まれるなどする。口語的なu→o、i→eへの変化が起こり、ムウメン、ムーメン、モオミン、モーミン、モオメン、モーメンといった発音のバリエーションが生じる。それらに合わせた英字表記はMu'men、Mumen、Muumen、Mo'min、Momin、Moomin、Mo'men、Moomen、Momenなどなど。]
[ Musaaed、Musaedのような表記もある。また口語的にMuがMoに転じてモサーイドと読まれMosaaid、Mosaid、更にidがedに転じてモサーエドと読まれMosaaed、Mosaedといった英字表記になる。]
Muzaffar、Mudhaffar
勝利した(者)、勝者;常に勝利する(者)、常勝の(人)
【動詞派生形第2形の受動分詞。勝利させられた、勝利を授けられた→勝利した者】
【 ظはzで表記されることが多いが、標準アラビア語フスハーでの本来の発音は ذ=dhを重くした音であるためMudhaffarという表記も使われている。口語的にuがoに転じモザッファルに近く読まれるケースに対応した英字表記はMozaffar、Modhaffar。】
努力・奮闘に励む者、アッラーの道のために闘う戦士、敵(特に異教徒)との戦闘に心身を捧げる者
[ ジハード戦士を意味するムジャーヒディーンはこのムジャーヒドの複数形が元になっている。Jihad(ジハード)を行う者という能動分詞の語形。ジハードはイスラームにおける宗教的な努力を指し、自己との向き合いや努力を大ジハード、異教徒との戦争を小ジハードと呼ぶこともある。]
[ 口語的にMuがMoに転じてモジャーヒドと読まれた場合はMojaahid、Mojahid、更にはiがeに転じてムジャーヘドやモジャーヘドと読まれた場合のMujaahid、Mujahed、Mojaahed、Mojahedといった英字表記のバリエーションが存在する。]
母音記号あり:مُجْتَبَى [ mujtabā ] [ ムジュタバー ] ♪発音を聴く♪
Mujtabaa、Mujtaba
選ばれた(者)、選ばれし(者)
【 派生形第8形動詞 اِجْتَبَى [ ’ijtabā ] [ イジュタバー ] の受動分詞男性形。男性名としても使われる مُصْطَفَى [ muṣṭafā ] [ ムスタファー ] や مُخْتَار [ mukhtār ] [ ムフタール ] と大体同じ意味。
第4代正統カリフ・初代シーア派イマームであるアリーの息子アル=ハサン(シーア派第2代イマーム)の通称の一つであることから信徒らが好んでつけるシーア派ネームとなっており、アラブ世界の場合はシーア派が多数居住するイラクなどで特に多く見られる。同じくシーア派がマジョリティーのイランなどでもしばしば命名される名前となっている。】
【 口語だと語末の長母音āが短母音a化してムジュタバに聞こえることが多い。また口語的にuがoに転じた発音モジュタバーに対応した英字表記としてMojtabaa、Mojtaba、さらにその語末が短母音化したモジュタバに対応した英字表記としてMojtabaなどが挙げられる。
日本語のカタカナ表記としてはムジュタバー、ムジュタバ、モジュタバー、モジュタバ以外にもムジタバー、ムジタバ、モジタバー、モジタバなどが考え得る。】
Mus'ab、Musab
長に任命された、長として推挙された;困難な、 多難な、厳しい;(種付けのみを行っているため)しばらく人を乗せておらず気難しくなったり縄を首にかけることを許さなくなった家畜の種牡
[ 英字表記をそのまま読んだ音に近いムサブといったカタカナ表記も見られる。「‘」部分はアインという喉を引きしぼったような発音になるが、記号抜きで表記するためにMusaabのようなa2個のつづりになっていることも。ただし元はムスアブでムサーブではないので注意。 ]
選ばれた、選ばれし、選別された
[ 動詞派生形第8形の受動分詞。預言者ムハンマドの別名として長きにわたり好まれている。]
[ 語末の長母音を復元しないムスタファというカタカナ表記が多く見られる。 ]
アッラーに帰依し身を委ねている者、ムスリム、イスラーム教徒
[ Muが口語的にMoに転じモスリム読みになった場合のMoslim、iがeに転じたムスレム読みになった場合のMuslem、両方の変化が起こってムスレムになった場合のMoslem、といった英字表記のバリエーションが存在する。]
Mudar
酸味が強い白い乳飲料;酸化したぶどう酒(ワイン)
[ 非常に古くからある男性名で現代でもこの名を持つ人が見られる。クライシュ族の遠い祖先とされ預言者ムハンマドの先祖にあたる。酸味のある白い乳飲料が大好きだったからその名で呼ばれるようになったとも、肌が色白だったからとも言われている。]
[ アラビア語本来の発音に即したカタカナ表記にする場合はムダー、ミュダーとはならないので注意。]
委託された、仕事や役職を引き受けた
[ 口語的にMuがMoに転じたモタワッリー=Motawalli、Motawally、MoがMeに転じた上にtaがtと短くつまったメトワッリー=Metwalli、Metwallyのような英字表記もある。]
代理人、代行者;悔い改めた(クルアーンの第34章『サバア』第9節より。悔悟して主に返る、悔い改めてアッラーの教えに戻る、という意味。)
[ 口語的にMuがMoに転じてモニーブを読まれた場合の英字表記はMoniib、Monib、Moneebという表記もある。]
母音記号あり:مُنِير [ munīr ] [ ムニール ] ♪発音を聴く♪
Munir、Muniir、Muneer、Mounir、Moubniir、Mouneerなど
光っている、光を放つ、照らす、明るい(もの/人);肌色・顔色が輝かしい、美しい、美貌の(人/男性)
■意味と概要■
派生形第4形動詞 أَنَارَ [ ’anāra ] [ アナーラ ](光る、照らす)の動作主・行為主であることを示す能動分詞語形の男性形。闇を照らすような存在、周りの人に光を与え暮らしや人生に明かりをもたらす人といったイメージの他にも、アラビア語辞典やアラブ人名辞典では「輝かしい=光に近い明るい美しい・佳い肌色・顔色をしている」(=アラブで古くから好まれてきた色白傾向で美しい、美貌の男子・男性)というニュアンスを持つとの記載も。
なおネットではこの口語発音(ないしはペルシア語発音)に当たるモニール(Monir、Moniir、Moneer、Mounirなど)がアラブ女性名と紹介されているためアラブ系・アラブ風女性キャラへのネーミングで用いられている事例もしばしば見られるが、ペルシア語圏で非アラブのイランでは男性名・女性名兼用で使われる一方、アラビア語圏ではムニール(モニール)は男性名のみで女性名としては女性名詞化・女性形容詞化語尾 ة(ター・マルブータ)を付した منيرة(母音記号あり:مُنِيرَة [ munīra(h) ] [ ムニーラ ]、口語発音や非アラビア語発音はモニーラ等)という風に区別されているので混同しないよう要注意。ざっくりとした中東風ということであればセーフながら、アラブ風に限定するとモニールを女性キャラに命名するのは回避する必要が出てくる。
■発音と表記■
アラブ人名の英字表記(ラテン文字表記)特にフランス語の影響が強い層において母音uの響きはouで当て字をすることが広く行われており、Mounir、Mouniir、Mouneerの類は全てモウニール、モウニルではなくムニールという発音を意図しているのでカタカナ化の際は要注意。
また長母音ī(イー)はii、iを1個だけに減らしたi、eeなどで表されMuniir、Munir、Muneer、さらにはeを1個に減らしたMunerも使われているが、Muneerはムネールではなくムニール、Munerはムネルではなくムニールという発音を意図している。
口語的発音(アラビア語の方言でよくある変化)として母音uがoに転じた、ないしは非アラビア語であるペルシア語風発音などであるモニールに基対応した英字表記はMonir、Moniir、Moneer、Monerといった表記もある。これらもモネールやモネルではなくモニールに対する表記揺れに当たる。
さらには長母音ī(イー)部分を英単語の違う当て字eiで表現したMuneir、Moneirというつづりもあるが、Muneirはムネイルではなくムニール、Moneirはモネイルではなくモニールのこと。
[ エジプトの元大統領はムハンマド・ホスニー・ムバーラクで、通称ホスニー・ムバーラク。ホスニーはHusnīが口語読みされたHosnīで意味は「美の、善の」。ちなみに彼のファーストネームはムハンマド・ホスニーという2語1セットの複合名で、有名になってからムハンマドの部分が省略されてホスニーと呼ばれるようになった。]
[ 口語的にMuがMoに転じたモバーラクに対応した英字表記はMobaarak、Mobarak。日本では長母音を復元しないムバラク、モバラクといったカタカナ表記が見られる。]
剣、研ぎ澄まされた剣、インド産の鉄(*昔は良質の鉄として知られていた)で作られた切れ味の良い剣、湾曲した形状の剣
[ その切れ味や機能を語源とする剣(サイフ)の別名は多数あり、男性名にもなっている。例としてはファイサル、ファールーク、ムハンナド、フサームなど。 ]
[ 口語的にMuがMoに転じたモハンナド=Mohannadという英字表記も存在。なお-nn-となっているからといって、ムハッナドやモハッナドとカタカナしないよう注意。]
Muhammad
称賛された、讃えられた、称賛に値する、称賛されるべき
■意味と概要■
動詞派生形第2形 حَمَّدَ [ ḥammada ] [ ハンマダ ]((大いに)称賛する、ほめる)の受動分詞。
イスラームにおける最後の預言者・使徒ムハンマドの名前であるため長きにわたって男児の命名に使われてきた。アラブ世界では今でも不動の名前ランキング1位でほとんどの国で男児名ランキングの1位を保持。彼の名前にあやかった命名はイスラーム圏全般で多く、「欧米で生まれた男児の名前ランキング1位」「世界で一番多い名前」として紹介されることもしばしば。
しかしイスラーム以前にはポピュラーな名前ではなく、ジャーヒリーヤ時代にもムハンマドという名前を持つ人はいたがその数はごくわずかだったという。宗教的意義の関係上、預言者が本当の意味でムハンマドという名を与えられた最初の人物だったと書かれていることもある。
イラクなどに信徒が多いシーア派の十二イマーム派では第5・9・12代目のイマームらがそれぞれムハンマドという名前だが、預言者ムハンマドと複数イマームらにあやかった命名が行われることによりムハンマドが突出して多くなるという事象は特に見られない。イラクではムハンマドという名前の男性が1/4近いとされているエジプトなどに比べるとそう多くなく、他のイマームにあやかった男性名も少なくない。
■発音と表記■
口語風にuがoに転じるとモハンマドという発音になりMohammadという英字表記に変化。さらに-adの部分が-edに転じてモハンメドという発音になりMohammedといった英字表記に変化する。地域によっては語頭の母音が脱落したMhammad、Mhammedという書き方も見られる。
また最後の-ad部分は-addに近い発音になることがある、英語で-ad/-ed部分の読みガナが原語での発音とは違い日本では促音「ッ」つきになる慣例があることからムハンマッド、モハンメッド、ムハマッド、モハメッドといった促音化したカタカナ表記もしばしば見られる。
[ 口語的にMuがMoに転じたモフィード=Mofiid、Mofid、Mofeedのような英字表記も。]
善行を行う者、親切な人、慈愛のある者
[ 口語的にMuがMoに転じたモフスィン=Mohsin、更にはiがeに転じたムフセン=Muhsenやモフセン=Mohsenといった英字表記も存在。それぞれ長母音のように伸ばしてムースィン、モースィン、モーセンとカタカナ表記しないよう注意。]
選ばれた、選ばれし、選りすぐりの、お気に入りの(者)
[ 口語的にMuがMoに転じたモフタールに対応するMokhtaar、Mokhtarといった英字表記も。khの音はフとクを混ぜたようなかすれた音なので日本語ではムクタール、ムクタル、モクタール、モクタル等とカタカナ表記されていることもあるが、アラビア語に即した標準的なカタカナ化はムフタールとなっている。]
誠実な、実直な、忠実な
[ ムクリスではなくムフリスとカタカナ表記するのが標準的。MuがMoと口語的に読まれたモフリス=Mokhlis、更にはiがeと読まれたムフレス=Mukhles、両方が起こったモフレス=Mokhlesといった英字表記が存在。]
母音記号あり:مُرَاد [ murād ] [ ムラード ] ♪発音を聴く♪
Murad、Muraad
望まれた(者)、求められた(者);希望、願い
【派生形第4形の第2語根弱文字動詞 أَرَادَ [ ʾarāda ] [ アラーダ ](~を欲する、望む、求める)の受動分詞。】
【口語的にuがoに転じてモラードとなった発音に対応した英字表記としてはMorad、Moraadがある。またアラブ世界のフランス語文化圏に特に多い「ウ」音への当て字ouを用いたMourad、Mouraadも。Mouradについてはモウラド、モウラッドと誤読しないよう要注意。】
[ 口語的にMuがMoに転じたモルシド=Morshidや、iがeに転じたモルシェド=Morshedといった英字表記も。]
(他者によって)満足された、喜ばれた、人々が彼のことを好んで選んで認めていて
[ 動詞派生形第8形の受動分詞。] [口語的にMuがMoに転じたモルタダー=Mortadaという英字表記も。また ض(ḍ)の音は口語で ظ(ẓ) の音と入れ替わることがあり、アラビア語以外でそうした発音がなされることからムルタザー=Murtaza、モルタザー=Mortazaと英字表記されていることもある。ペルシア語圏であるイランでの英字表記はMortezaとのこと。]
Muwaffaq
成功した、うまくいっている(人)、神の恩恵を授かっている(人)、幸運な(人)、幸せな(人);正しい道を進んでいる(人)
【動詞派生形第2形受動分詞。「成功・神の恩恵を授けられた、成功した、うまくいっている(人)」「(アッラーにより)迷っていた状態から正しい道へと導かれた、正しい道を歩んでいる、正しい道を進んでいる(人)」といった意味を持つ。違う男性名 تَوْفِيق [ tawfīq / taufīq ] [ タウフィーク ] も مُوَفَّق [ muwaffaq ] [ ムワッファク ] と同じ動詞派生形第2形の動名詞。】
【本来2個連なっている-ff-を1個だけに減らしたMuwafaq、qをkに置き換えたMuwaffakそしてfを1個減らしたMuwafakといった英字表記もある。口語的にuがoに転じてモワッファクに近くなった発音に即したMowaffaq、Mowafaq、Mowaffak、Mowafakなども使われている。】
母音記号あり:مُنْتَظَر [ muntaẓar ] [ ムンタザル ] ♪発音を聴く♪
Muntadhar、Muntazar
待たれた(者)、期待された(者)、予期された(者)
■意味と概要■
動詞完了形・派生形第8形 اِنْتَظَرَ [ ’intaẓara ] [ インタザラ ](~を待つ;期待する、予期する)の受動分詞・男性形。
通常「待望の男子」「待ち望んでいた男の子」といったごく一般的な意味で命名されるのではなく、シーア派十二イマーム派の第12代イマーム مُحَمَّدُ بْنُ الْحَسَنِ [ muḥammad(u) bnu-l-ḥasan ] [ ムハンマド・ブヌ・ル=ハサン ](ムハンマド・イブン・アル=ハサン)の通称・敬称・二つ名の一つである اَلْمُنْتَظَر [ ’al-muntaẓar ] [ アル=ムンタザル ](待望されし者、待ち望まれる者)にあやかって男児につけられる名前。
第12代イマームはガイバ(隠れ、幽隠)により行方不明となりそのまま姿を隠しているとされ、救世主としていつの日にか再臨する مَهْدِيّ [ mahdī(y) ] [ マフディー(ュ/ィ) ](直訳:(神によってイスラームの宗教的に)正しき道へと導かれた(者))であると考えられている。彼は「その再臨が待たれる者」という意味で اَلْمُنْتَظَر [ ’al-muntaẓar ] [ アル=ムンタザル ](待望されし者、待ち望まれる者)という二つ名を持っており、これがシーア派男子名ムンタザルの由来となっている。
そのためスンナ派信徒が使わないシーア派特有の男性名として扱われており、この名前を掲載していないネイティブ向けアラブ辞典も複数見られる。アラブ世界ではシーア派住民が多いイラクなどでしばしば見られる名前。また同じく十二シーア派がマジョリティーである非アラブ地域のイランなどでも比較的多い。
■発音と表記■
مُنْتَظَر の ظ は文語アラビア語(フスハー)では舌を歯にはさむ発音をするため ذ(dh)が重たくこもったような強調音・強勢音となるが、シリア・レバノン~エジプトといった口語アラビア語では ز(ز)重たくこもったような強調音・強勢音となるため学術的なラテン文字転写でもzの下に点をつけた ẓ を使うことが一般的。一般人名としての英字表記でもMuntadharではないMuntazarの使用がかなり多い。
また口語的にuがoに転じた発音もしくは非アラビア語圏的な発音によりモンタザルとなった読みに即した英字表記Montadhar、Montazarも用いられている。
なお形が似ている「ムンタズィル(Mutnadhir、Muntazir)」ならびにその口語的発音「モンタズィル(Montadhir、Montazir)」や「モンタゼル(Montadher、Montazer)」は語形違いである能動分詞・男性形 مُنْتَظِر [ muntaẓir ] [ ムンタズィル ](待つ者、期待する者、予期する者)が由来で、ガイバしているイマームの再臨を熱望するシーア派信徒としての気持ちが反映された名前となっている。
しかしながら受動分詞(待ち望まれる者)と能動分詞(待ち望む者)ではわずかな母音の違いしか無いこともあり、同じ人物たとえばブッシュ大統領に靴を投げたイラク人記者でも、ムンタザル準拠のMuntadhar、Muntazarと英字表記がされていたり、ムンタズィル準拠のMuntadhir、Muntazirなどと英字表記がなされていたりまちまち。なお記者本人のSNSアカウントではMuntadhar表記ながらID名がmuntazerを使っており、受動分詞のムンタザルの方だろうと一応確認はできるものの、ID名は能動分詞なのか受動分詞語形のzar部分が口語的に変化したzerで能動分詞ではないように受け取れる英字表記となっている。
母音記号あり:مُنْتَظِر [ muntaẓir ] [ ムンタズィル ] ♪発音を聴く♪
Muntadhir、Muntazir
待つ(者)、期待する(者)、予期する(者)
■意味と概要■
動詞完了形・派生形第8形 اِنْتَظَرَ [ ’intaẓara ] [ インタザラ ](~を待つ;期待する、予期する)の能動分詞・男性形。
通常「素敵な未来を待つ子、この子の未来が素晴らしいものになりますように」といったごく一般的な意味で命名されるのではなく、シーア派十二イマーム派の第12代イマーム مُحَمَّدُ بْنُ الْحَسَنِ [ muḥammad(u) bnu-l-ḥasan ] [ ムハンマド・ブヌ・ル=ハサン ](ムハンマド・イブン・アル=ハサン)の通称・敬称・二つ名の一つである اَلْمُنْتَظَر [ ’al-muntaẓar ] [ アル=ムンタザル ](待望されし者、待ち望まれる者)に関連して男児につけられる名前。
第12代イマームはガイバ(隠れ、幽隠)により行方不明となりそのまま姿を隠しているとされ、救世主としていつの日にか再臨する مَهْدِيّ [ mahdī(y) ] [ マフディー(ュ/ィ) ](直訳:(神によってイスラームの宗教的に)正しき道へと導かれた(者))であると考えられている。彼は「その再臨が待たれる者」という意味で اَلْمُنْتَظَر [ ’al-muntaẓar ] [ アル=ムンタザル ](待望されし者、待ち望まれる者)という二つ名を持っている。これのイマームの再臨を「待つ者」というのがシーア派男子名ムンタズィルの由来となっている。
そのためスンナ派信徒が使わないシーア派特有の男性名として扱われており、この名前を掲載していないネイティブ向けアラブ辞典も複数見られる。アラブ世界ではシーア派住民が多いイラクなどでしばしば見られる名前。また同じく十二シーア派がマジョリティーである非アラブ地域のイランなどでも比較的多い。
■発音と表記■
مُنْتَظَر の ظ は文語アラビア語(フスハー)では舌を歯にはさむ発音をするため ذ(dh)が重たくこもったような強調音・強勢音となるが、シリア・レバノン~エジプトといった口語アラビア語では ز(ز)重たくこもったような強調音・強勢音となるため学術的なラテン文字転写でもzの下に点をつけた ẓ を使うことが一般的。一般人名としての英字表記でもMuntadhirではないMuntazirの使用がかなり多い。
また口語的にuがoに転じた発音もしくは非アラビア語圏的な発音によりモンタズィルとなった読みに即した英字表記Montadhir、Montazir、さらには口語的にiがeに転じたモンタゼルに対応したMontadher、Montazerも用いられている。
なお形が似ている「ムンタザル(Mutnadhar、Muntazar)」ならびにその口語的発音「モンタザル(Montadhar、Montazar)」は語形違いである受動分詞・男性形 مُنْتَظَر [ muntaẓar ] [ ムンタザル ](待たれた(者)、期待された(者)、予期された(者))が由来で、ガイバしているイマーム本人を崇敬しその二つ名にあやかった名前となっている。
しかしながら受動分詞(待ち望まれる者)と能動分詞(待ち望む者)ではわずかな母音の違いしか無いこともあり、同じ人物たとえばブッシュ大統領に靴を投げたイラク人記者でも、ムンタザル準拠のMuntadhar、Muntazarと英字表記がされていたり、ムンタズィル準拠のMuntadhir、Muntazirなどと英字表記がなされていたりまちまち。なお記者本人のSNSアカウントではMuntadhar表記ながらID名がmuntazerを使っており、受動分詞のムンタザルの方だろうと一応確認はできるものの、ID名は能動分詞なのか受動分詞語形のzar部分が口語的に変化したzerで能動分詞ではないように受け取れる英字表記となっている。
Yaaquut、Yaqut、Yaqout
コランダム(鋼玉)
[ ギリシア語起源でペルシア語を経由して入ってきた外来語で、クルアーンにも登場する名詞である。人名辞典には男性名としてのみ掲載されるなどしているが、女児にもつけることは可能。コランダムは酸化アルミニウムからなる鉱石で、宝石としてはルビー、サファイヤなどがある。 この名前を持つ有名人としては地理学者ヤークート・アル=ハマウィーなど。彼はビザンツ帝国生まれで幼少期に奴隷となり、シリア ハマーの商人アスカル・アル=ハマウィーに買われた。アル=ハマウィーというニスバは彼に由来。中世のアラブ世界では(解放)奴隷に貴石の名前をつけることが多く、ヤークートもその一例。]
[ 人名表記よくあるパターンで、qがkで書かれYakut、Yakoutと英字表記されていることも。 ]
ヤースィーン
[ クルアーンの第36章『ヤースィーン』が由来。يヤーとسスィーンは章の冒頭にある文字だがはっきりとした意味はわかっておらず神秘文字と呼ばれる。ヤースィーン章はクルアーンの中でも最も重要な章の一つとされている。預言者ムハンマドへの語りかけだと解釈されることもありイスラーム世界では彼の別名だと考える人も少なくないが、厳密には別名ではないという。こうしたクルアーンの章句名を赤ちゃんに命名することはイスラーム法学的には問題視されている側面があり、طٰهٰ(ṭāhā、ターハー)と並んで注意すべきファーストネーム候補だという。]
[ 日本語ではヤーシーン、ヤシーン等とカタカナ表記されていることも多いが、原語の発音に即したより正確なカタカナ表記はヤースィーンである。]
Yaasim、Yasimなど
ジャスミン
[ ジャスミンを意味する一般的な名称 يَاسَمِين [ yāsamīn ] [ ヤーサミーン ] と関連がある語。元々ペルシア語からの外来語などと言われているヤーサミーン。中世では語末の「ーン」部分は男性規則複数の語尾のような物だという文法的解釈がなされており、その単数形がヤースィムとされていたのだとか。ヤースィムは詩にもジャスミンの意味で登場。それが人名として残っている形となっている。]
[ 口語風にiがeに近づいたヤーセムという発音に即したYaasem、Yasemさらにはsを2個重ねたYaassim、Yassim、Yaassem、Yassemなどが英字表記のバリエーションとして考え得る。]
容易な、平易な、簡単な、豊かな;左利きの
[ يَاسر عَرَفَات(yāsir ‘arafāt、ヤースィル・アラファート→口語発音:ヤーセル・アラファート)のヤーセルはこの名前である。ちなみにヤースィル・アラファートは本名ではなく、亡くなった知人の名前を引き継いだとか、子供の頃から家族や親戚に呼ばれていたニックネームだとかいった説がある模様。詳しくは『アラブ人の名前のしくみ~有名人探訪編:ヤーセル・アラファート』を参照のこと。 ] [ 口語的にiがeに転じたヤーセル=Yaserという英字表記もある。sを2個連ねた英字表記はYassir、Yasserなどがあるが、ヤッスィルやヤッセルと読ませるためのつづりではないので注意。日本語ではヤースィルとその発音違いの英字表記を元にした、ヤシル、ヤセルといったカタカナ表記が見られる。]
ヤークーブ
[ イスラームにおける預言者ヤアクーブの名前。ヤコブに相当。アラビア語の人名辞典ではヘブライ語で後に続く者、後続の者といった意味を持つと説明。双子だったヤコブが2番目に生まれたことから。エサウのかかとをつかんで生まれてきたと言われる。]
Ya'rub、Yarub、Yaarub
間違いをすること無く正則なアラビア語を流暢に話す
【 動詞由来の人名。語根はアラブ人やアラビア語と同じ ع - ر - ب(‘ - r - b)」。完了形は عَرُبَ [ ‘aruba ] [ アルバ ] で未完了形の三人称・男性・単数が يَعْرُبُ [ ya‘rub ] [ ヤアルブ(ヤァルブに近く聞こえる)]。今から800年以上前の古いアラビア語辞典だと「アラブ人であること」「アラビア語を話す人であること」となっているが、現代では特に混じりけの無い生粋のアラビア語を話すことを意味する。
ヤアルブは يَعْرُب بْنُ قَحْطَان [ ヤアルブ・ブヌ・カフターン ](ヤアルブ・イブン・カフターン)の名前としても有名。ヤアルブ・イブン・カフターンはアラビア半島南部のアラブ系部族カフターン族の祖であるカフターンの息子の1人。本名は別にあったとされるが初めてフスハー的なよどみないアラビア語を整備したと言い伝えられていることから「ヤアルブ」と呼ばれるようになったという。(*初めてアラビア語を話した人・存在にはいくつもの説があり、ヤアルブ・イブン・カフターンはその一人。)
ヤアルブ・イブン・カフターンは أَبُو الْعَرَبِ الْعَارِبَةِ [ ’abu-l-‘arabi-l-‘āriba(h) ] [ アブ・ル=アラビ・ル=アーリバ ](アラブ・アーリバの父、生粋のアラブ人の祖先)とも呼ばれ、後代にアラブ化したのではないアラブ人の真なる祖先の象徴とされている。そのためアラブ人の遠い祖先、アラブ人の起源の代名詞的にも使われるなどしている。】
【 口語風にuがoに転じヤアロブに近く発音された場合のYa'rob、Yarob、Yaarobといった英字表記も見られる。喉を引き締めて発音する子音 ع(アイン) を示す「‘」は通常の英字表記では書かれないことが多いが、原語ではヤルブ、ヤロブ、ヤールブ、ヤーロブとは違う発音をしているので要注意。】
母音記号あり:يَعِيشُ [ ya‘īsh ] [ ヤイーシュ ] ♪発音を聴く♪
Ya‘iish、Ya‘ish、Yaiish、Yaish、Ya‘eesh、Ya‘esh、Yaeesh、Yaeshなど
彼は生きる(≒彼は長生きする/彼が長生きしますように、彼が安寧な暮らしを送る/彼が安寧な暮らしを送ることができますように)
■意味と概要■
完了形(過去形)動詞 عَاشَ [ ‘āsha ] [ アーシャ ](彼は生きた、he lived)の未完了形(現在形)である يَعِيشُ [ ya‘īsh(u) ] [ ヤイーシュ ](彼は生きる、he lives)が由来の動詞語形人名。具体的には「彼が長生きしますように」や「彼が(衣食住などの生活に困らず)安寧な暮らしを送れますように」といった願掛け的な命名で、女性名の عَائِشَة [ ‘ā’isha(h) ] [ アーイシャ ](直訳は「(彼女は)生きている(人)」)と同じ発想。
アラブ男性名としてはマイナーネームの部類に入るため、ヤイーシュというファーストネームを持つアラブ人自体は多くない。
なおこれと正反対の意味の男性名が同じく未完了形(過去形)動詞語形である يَمُوتُ [ yamūt(u) ] [ ヤムート(ゥ) ](日常会話における実際の休止形は「ヤムート」)。直訳は「彼は死ぬ(he dies)」という珍名で、数は少ないものの中世から実在。現代でも男性由来の家名としても使われている。
ヤイーシュのように幸せを願う名前と「ヤムート(彼は死ぬ)」は発想が異なっており、ヤムートの方は邪視・嫉妬よけのためにわざと悪名をつけるというアラブの慣習による名付けで、「この子は死ぬ子、死ぬような取るに足りない不幸せな子」や「死んだも同然でこの世にいないようなものという思いを込めることで「かわいくてうらやましい、健やかで妬ましい」という邪視をはねつけ他人からうらやましがられないようにという効能を期待されてのネーミングだったという。
■発音と表記■
語末の母音まで全て読んだ場合は يَعِيشُ [ ya‘īshu ] [ ヤイーシュ ] となるが、人名としては休止形と呼ばれるを使うのが一般的で会話での発音は يَعِيشْ [ ya‘īsh ] となる。学術的なカタカナ表記の標準としてはヤイーシュだが、そうした休止形発音では実際の日本語のヤイーシュよりはヤイーシに近く聞こえやすい。
アラビア語表記の2文字目である「アイン(ع)」は学術的な転写であれば「ʿ」や「‘」などで当て字をするが、一般のアラブ人名表記ないしはアラビア語由来人名表記としてはそうした記号を使わないことが多いため、Ya‘iishがYaiish、長母音イー部分をiiではなくiの1文字で表したYa‘ishはYaish(≠ヤイシュ、ただし方言だと音が詰まって近く聞こえる可能性あり)、長母音イー部分をeeで表したYa‘eeshはYaeesh(≠ヤーエシュ)、eeをeに減らしたYa‘eshはYaesh(≠ヤエシュ)に置き換えられたりしている。
また喉を引き締めて出す「ـعِـ(‘i)」は「イ」ではなく「ァイ」や「ェイ」といった他の音に聞こえやすいこともあって「‘i」部分が「ea」「ae」「ei」「ie」に置き換えられることも多く、Yaeash(≠ヤエアシュ)、Yaaesh(≠ヤーエシュ、ヤアエシュ)、Yaeish(≠ヤエイシュ)、Yaiesh(≠ヤイエシュ)といった英字表記も存在する。
またフランス語の影響が大きい地域(特にモロッコ、アルジェリア、チュニジア、あとはレバノンなど)ではsh部分をchとつづるのが一般的で、Ya‘ich(≠ヤッイチュ、ヤイチュ)、Yaiich(≠ヤイーチュ)、Yaich(≠ヤイチュ)、Yaech(≠ヤエチュ)、Yaeich(≠ヤエイチュ)などもこの男性名「ヤイーシュ」を表す当て字となっている。
確かさ、確実、確実性、確信
[ 発音としてはヤキーンとヤクィーンの中間のような感じ。英字表記はYaquinなどもある。 ]
目覚めている、覚醒した、夜寝ずに起きている、聡明な、明敏な
[ ظはzで表記されることが多いが、標準アラビア語での本来の発音は ذ=dhを重くした音であるためYaqzan、Yaqdhanのような2通りの表記が存在する。 ]
母音記号あり:يَزَنُ [ yazan ] [ ヤザン ] ♪発音を聴く♪
Yazan
ヤザン(イエメンにあった渓谷・川の名前で「ヤザン谷(Yazan Valley)」的な意味)
■意味と概要■
アラブの非常に古い男性名。元々はイエメンのヒムヤル王国地域にあったワーディー(「涸れ川」「谷・谷川」「渓谷」の意。その他カタカナ表記としてワディ、ワジなど。)の名前だったという。元々が「~の所有者、~の持ち主」という意味の ذُو [ dhū ] を前に置いた複合男性名 ذُو يَزَن [ dhū yazan ] [ ズー・ヤザン ](主格語形)ないしはその属格語形である ذِي يَزَن [ dhī yazan ] [ ズィー・ヤザン ] は「ヤザンの所有者」「ヤザンの領主」(ヤザン谷を統治・保護した支配者・王の意)という称号・名前だったため、男性名の由来としてはヤザン単体ではなくズー・ヤザンだったという。
またアラビア語辞典類によると、يَزَنُ [ yazan ] [ ヤザン ] は「重み」といった語義を持つ固有名詞で、元々 يَزْأَنُ [ yaz’an(u) ] [ ヤズアン(母音記号を全部読む場合はヤズアヌ) ] という語形だったが声門閉鎖音(声門破裂音)であるأ部分が脱落してيَزَنとなり、未完了形(過去形動詞)と同じ語形であることからタンウィーン無しの二段変化である يَزَن [ yazanu ] となったものだという。
■この名前を含むフルネームを持つ有名な人物■
このヤザンはヒムヤル王国の王だったとされる半伝説的な人物 سَيْفُ بْنُ ذِي يَزَن [ sayf(u)/saif(u) bnu dhī yazan ] [ サイフ・ブヌ・ズィー・ヤザン ](サイフ・イブン・ズィー・ヤザン)の名前にも含まれていた古い人名。サイフ・イブン・ズィー・ヤザンはアフリカ大陸の現エチオピア付近から海を渡りアラビア半島南部に侵攻してきていたアクスム人たちを排除したと伝えられており、ヒムヤル王家男性と女のジン(悪魔とは異なる精霊的存在の人外)との間に生まれたとも噂された彼の伝記は民話や神話をまじえた物語として後世に残された。
سَيْفُ بْنُ ذِي يَزَن [ sayf(u)/saif(u) bnu dhī yazan ] [ サイフ・ブヌ・ズィー・ヤザン ](サイフ・イブン・ズィー・ヤザン)自体はナサブ(系譜、血統)と呼ばれる出自表示を伴うフルネームの一種で、直訳は「ズー・ヤザンの息子サイフ」。このアラビア語名は当時のヒムヤル語の記録に残っているものではなく、彼のヒムヤル語での本名はマアド・ヤクリブだったという説もあるという。
なお「ズィー・ヤザン」は ذُو [ dhū ] [ ズー ] を前に伴った属格構文「~の◯◯」形式の複合男性名 ذُو يَزَن [ dhū yazan ] [ ズー・ヤザン ](「ヤザンの所有者」の意)が属格(≒所有格)の形で بْنُ [ bnu ] [ ブヌ ](「~の息子」を意味する اِبْن [ ’ibn ] [ イブン ] が「~の息子◯◯」を意味するナサブという形式の人名表記の際に変化したもの)後に来ているので ذِي يَزَن [ dhī yazan ] [ ズィー・ヤザン ] という属格語形になっている。
■発音と表記■
口語的に後半のaがeになったヤゼンという発音に対応した英字表記Yazenも用いられている。
増える、増す、生長する
[ 未完了形動詞がそのまま人名化したもの。預言者ムハンマドの教友の中にもヤズィードという人物はいたが、イスラーム世界ではウマイヤ朝の第2代カリフの名前として有名。預言者ムハンマドの孫かつ第四代正統カリフであるアリーの次男、(アル=)フサインの一軍を全滅させ親族や支持者を徹底的に弾圧したためシーア派信徒たちからの怨恨の感情は強く、現代でも彼らの子供に付ける名前としては忌避されていることで有名。
創作でイラクなどシーア派が多い地域のアラブ人キャラクターに命名すると宗教的バックグラウンドと矛盾するので要注意。]
[ 日本語ではヤジード、ヤジドとカタカナ表記されていることが多い。ただしネイティブにはyajīdというzとjを入れ替えた読み間違えと受け止められ得るのでヤズィードが最も元の発音に近い。]
母音記号あり:يَحْيَى [ yaḥyā ] [ ヤフヤー ] ♪発音を聴く♪
Yahya、Yahyaa
ヤフヤー、ヤハヤー、ヤヒヤー
■意味と概要■
ヘブライ語男性名由来の外来人名。イスラームにおける預言者の名前としても知られ、聖書のヨハネに対応。
もしくはアラビア語の動詞未完了形 يَحْيَا [ yaḥyā ] [ ヤフヤー ](彼は生きる≒彼は安寧な人生を生きる、彼は長生きする)からの連想として。元のヘブライ語では「ヤハウェは恵み深い」のような意味が由来だというが、アラビア語では動詞未完了形語形の人名として知られ、動詞の語末がただのアリフ ا でつづられるのに対し、こちらの外来人名はアリフ・マクスーラ ى でつづられるという違いがある。
■発音と表記■
中東関連学界での標準的カタカナ表記ではヤフヤーと当て字をし平凡社イスラム事典や岩波イスラーム辞典でも一貫してヤフヤー表記が採用されている。しかしながら日本語のフは唇同士を近付けて出すいわゆる f なので、カタカナ表記の通りだと yafyā に近い発音になってしまう。実際の発音では咽頭を狭めて ḥ を喉からはっきり出すことからヤハヤーに聞こえることも多いため、学術的表記以外ではヤハヤーと敢えて書く人もいる。
語末の長母音は話し言葉の口語アラビア語(アーンミーヤ、各地の方言)では短母音化する傾向があるため、يَحْيَى というつづりでも [ yaḥya ] [ ヤフヤー(/ヤハヤ) ] と聞こえるなどする。
なお日本語カタカナ表記では慣用的にヤヒヤー、ヤヒヤと書かれることが多い。ただしアラブ人ははっきりと [ yaḥiyā ] [ ヤヒヤー ] や [ yaḥiya ] [ ヤヒヤ ] と発音する訳ではないので、原音により近いカタカナ表記としてはヤフヤーやヤハヤーとなる。
日本で実際に使われているカタカナ表記としてはヤフヤー、ヤフヤ、ヤハヤー、ヤハヤ、ヤヒヤー、ヤヒヤなど。
母音記号あり:يُوسُف [ yūsuf ] [ ユースフ ] ♪発音を聴く♪
Yuusuf、Yusuf、Yousuf、Yoosufなど
ユースフ
■名前の意味と発音■
イスラームの預言者ユースフ(聖書のヨセフに対応)の名前。元々はヘブライ語で「神よ、加え増やして下さいますように」という意味だという。
イスラームにおいてはヤアクーブ(=ヤコブ)の息子で、父に愛された彼を妬んだ兄弟たちにより井戸に投げ捨てられた。彼を引き上げた隊商によりエジプトへ売り飛ばされ、後にエジプト王国で要人となったとされている。
■発音■
元の言語に近い母音記号のつけ方・発音だと يُوسِف [ yūsif ] [ ユースィフ ] となる。またアラビア語口語でもユースィフもしくはi音がe寄りになったユーセフとなることが多い。
クルアーン(コーラン)朗誦に関しては最も多いのが يُوسُف [ yūsuf ] [ ユースフ ](7例)だが、流派によって يُوسِف [ yūsif ] [ ユースィフ ](2例)、يُوسَف [ yūsaf ] [ ユーサフ ](5例)もあるといい(*ソース:أبو جعفر الرعيني著『كتاب تحفة الأقران في ما قرئ بالتثليث من حروف القرآن』)、いずれもが正しいとされている。その中で最もフスハー(標準アラビア語)的・正則的とされるのは يُوسُف [ yūsuf ] [ ユースフ ] となっている。
■英字表記■
英字表記については文語発音 يُوسُف [ yūsuf ] [ ユースフ ] に対応したYuusuf、Yusuf、Yousuf、Yoosuf、そしてooをoを1個減らしたYosuf、文語発音のuが口語的にo寄りになったユーソフに対応したYuusof、Yusof、Yousof、Yoosof、Yosofが使われ得る。
文語発音 يُوسِف [ yūsif ] [ ユースィフ ] に対応した英字表記としてはYuusif、Yusif、Yousif、Yoosif、そしてooをoを1個減らしたYosif、文語発音のiが口語的にe寄りになったユーセフに対応したYuusef、Yusef、Yousef、Yoosef、Yosefが使われ得る。
またクルアーン(コーラン)朗誦でも許されている يُوسَف [ yūsaf ] [ ユーサフ ] についてはYuusaf、Yusaf、Yousaf、Yoosaf、そしてooをoを1個減らしたYosafなどが考えられる。
なお北アフリカのマグリブ諸国やマグリブ系移民が多いフランスといったフランス語優勢地域他ではsが濁点化することから代わりにcが用いられYucuf、Youcif、Yocif、Youcef、Yoocef…のようにつづられるなどする。
ユーニス
[ イスラームの預言者ユーニスの名前。ユーヌスに同じ。旧約聖書のヨナに相当。]
[ 口語的にiがeに転じてユーネスに近くなった場合の英字表記はYuunes、Yunes、Younes。yūがyōに転じてヨーニス、ヨーネスに近くなったものに対応した英字表記はYoonis、Yonis、Younis、Yoones、Yones、Younes。 ]
ユーヌス
[ イスラームの預言者ユーヌスの名前。ユーニスに同じ。旧約聖書のヨナに相当。]
[ 口語的にuがoに転じてユーノスに近くなった場合の英字表記はYuunos、Yunos、Younos。yūがyōに転じてヨーヌス、ヨーノスに近くなったものに対応した英字表記はYoonus、Yonus、Younus、Yoonos、Yonos、Younos。 ]
[ 名詞 يُسْر(yusr、ユスル)を形容詞化したもの。 ]
[ 厳密には語末を発音するとyusrīyとなるためユスリーュ、ユスリーィのように聞こえるが、口語など日常的な会話では単なるyusrīのユスリーと聞こえる発音をしている。この場合はアクセント位置が後方のリー部分から前方のユス部分にずれる。口語的にuがoに転じてヨスリーに近く聞こえることも。それに対応した英字表記はYosrii、Yosri、Yosry、Yosree。 ]
威厳、安定、不動、確固としているさま、屈強、沈着、戦争における参謀・指導者
[ رُكْن(rukn)=支柱、基礎 と同じ語根。サウジアラビアなどアラビア半島周辺で見られる男性名。]
望んでいる(者)、欲している(者)、何かを手に入れたいと考えている(人)
[ 口語的にiがeに転じてラーゲブと読まれた場合は、英字表記がRaagheb、Raghebに。]
母音記号あり:رَاشِد [ rāshid ] [ ラーシド ] ♪発音を聴く♪
Raashid、Rashid
理性ある、分別のある、良識のある(人);(イスラーム教徒としての)正しい道に導かれた、正しい道を進んでいる者、真の信仰心を有する者正しい道へと導く者、導き手;成人した(人)
■意味と概要■
動詞 رَشِدَ [ rashida ] [ ラシダ ](正しく導かれた;理性がある、分別がある;成人する/した)の動作主・行為者であることを示す能動分詞 فَاعِلٌ [ fā‘ilun ] [ ファーイルン ] 語形。
日本の創作界隈ではアラブ系キャラにこのラーシドや姉妹語のラシードが命名されることが多いが、分別があり思慮深くイスラーム教徒として正しく生きている人物を想起する名前であることからネイティブらに「キャラクターの設定と名前が合っていない」と言われることもしばしば。
なお、一部日本語記事では「勇敢な(者)」、海外の名前サイトでは「brave」と紹介されていることがあるが、アラビア語としてはそのような語義は持たない。
■発音と表記■
口語的にiがeに転じてラーシェド寄りになった発音に即した英字表記はRaashed、Rashed。Rashid、Rashedについては姉妹語の違う男性名 رَشِيد [ rashīd ] [ ラシード ] と混同しやすいので要注意。実際の発音やアラビア文字での表記を確認しないと区別が難しい。
なお日本語のカタカナ表記では、ラーシド、ラーシェド以外にも英語表記Rashid、Rashedをそのままカタカナ化した感じのラシッド、ラシェッドが併用されている。
文語的な元々の発音では促音「ッ」は入らないが、日常会話などではラーシッド、ラーシェッドに近い発音になることもある。日本語のカタカナ表記ではラシッド、ラシェッド、ラシェドとなっていることが多いが、アラビア語での発音は本項目のラーシド(口語発音:ラーシェド)か別人名で姉妹語のラシードとなる。
[ 最後の子音はfではなくhなのでラージフよりはラージハに近く聞こえることも。口語的にiがeに転じるとラージェフもしくはラージェハに近い発音となり、英字表記はRaajeh、Rajehに。]
Laadin、Ladin
柔らかくする者、柔和にする者
【 能動分詞語形。ウサーマ・ビン・ラーディン(オサマ・ビン・ラディン、オサマ・ビンラディン)の家名ビン・ラーディンは「ラーディンの息子」という意味のファミリーネームで、ラーディンは彼の数代前の先祖男性の名前。イエメンにはこのような「ビン・◯◯」(◯◯の息子)家というファミリーネームが比較的多い。】
【 口語風にiがeに転じたラーデンに対応した英字表記はLaaden、Laden。日本語におけるカタカナ表記はラーディンの他にラディン、ラーデン、ラデンなど。】
儲けている(人)、獲得者
[ 口語的にiがeに転じてラーベフに近く読まれた場合は、英字表記がRaabeh、Rabehに。アラビア語圏ではRabehをラベーと読むわけではないので注意。]
投げる(者)、投手、射る(者)、射撃手
[ 日本では長母音を完全に復元していないラミ、ラミー、ラーミでカタカナ表記されていることも多い。 ]
輝いている、光っている、光り輝いている [ 英字表記で上手く表せない喉を引き絞る子音 ع(アイン。「‘」などで表す。)の音を反映させる都合上本来のつづりと発音がわかりにくい英字表記になる傾向がやや強め。語末は喉を引き絞るアインなので語末を子音=無母音で止める発音だとラーミァ、ラーミアに近く聞こえることがある。口語的にiがeに転じラーメアに近く聞こえることも。 ]
[ 口語的にiがeに転じるとラーメズに近い発音になり、その場合の英字表記はRaamez、Ramez。]
母音記号あり:لَيْث [ layth / laith ] [ ライス ] ♪発音を聴く♪
Layth、Laith
力、強さ、激しさ;獅子、ライオン;勇猛さ
■意味と概要■
男性名としては「獅子、ライオン」を意味する代表的名詞 أَسَد [ ’asad ] [ アサド ] などに次いで広く使われてきた男性名。
古いアラビア語辞典等によると、元々は「体の頑強さ」を意味する名詞だったものが獅子・ライオンの属性名・別名となったケースで、そこからライスという人名や、獅子・ライオンから連想する「勇猛さ、勇敢さ」という意味合いに結びついたという。
普通の名詞としては中世の有名詩人アル=ムタナッビーによる詩の一節
إَذَا رَأيْتَ نُيُوبَ اللّيْثِ بارِزَةً فَلَا تَظُنّنّ أنّ اللّيْثَ يَبْتَسِمُ
もし獅子の牙があらわになっているのを見たのなら それが微笑んでいるなどと思ってはならない
に登場するなどしている。
■発音と表記■
-ay-部分はアラビア語では二重母音-ai-を表すため英字表記もLaythつづりとLaithつづりの両方が見られる。またアラビア語文語の二重母音「ay(=ai)」部分は日常会話・口語ではei(エイ)もしくはē(エー)音になることが多く、レイスに対応したLeyth、Leith、レースに対応したLeethそしてそのeeを1個に減らしたLethが派生し得る。
アラブ人名の英字表記ではth部分をスではなく濁点ありのズで読むようなつづりを採用している人は少ないので、LaythやLaithをライズとカタカナ化しないよう要注意。
またthを発音が近いsで置き換えたLays、Lais、Leys、Leis、Lees、Lesなども使われ得るが、いずれも発音・表記バリエーションの一つに過ぎないのでアラビア語としての表記自体は全て同一の ليث となる。
なおネットでは「ライスはアラビア語で長、リーダー、大統領の意味」と書かれていることもあるが本項目の男性名ライスは無関係。長を意味する方は原語ではライスではなくライースと発音する名詞で、アラビア語表記・発音も رَئِيس [ ra’īs ] [ ライース ] と異なっている。
母音記号あり:رَيْحَان [ rayḥān/raiḥān ] [ ライハーン ]
芳香のある植物、香りの良い植物、香草(全般);シソ科ハーブのバジル、スイートバジル;(アッラーから報奨としてもたらされる)恩恵・賜物;(アッラーから恵まれる存在としての)子供
Rayhaan、Raihaan、Rayhan、Raihanなど
■意味と概要■
イスラームの聖典クルアーン(コーラン)の中で2回登場する名詞。善行を積んだイスラーム教徒たちが死後に入ることのできる来世での楽園(天国)入りとあわせて受けることのできるアッラーからの報奨のことを指しているという。
解釈者によって何を指すかについてはかなり違いがあるとのことで、クルアーン注釈書や日本語による意味説明でも潤沢・豊富、満悦・充足、芳しい草、芳香、などとライハーンが指し示す意味の説明もまちまちである。
■発音と表記■
-ay-部分はアラビア語では二重母音-ai-を表すため英字表記も-ay-つづりと-ai-つづりの両方が見られる。Rayhaan / Raihaan、Rayhan / Raihanはどちらもライハーンという発音を意図したものなので、yを含んでいてもラヤハーン、ライャハーンなどとカタカナ表記しないよう要注意。
アラビア語文語の二重母音「ay(=ai)」部分は日常会話・口語ではei(エイ)もしくはē(エー)音になることが多く、レイハーンに対応したReyhan、Reihan、レーハーンに対応したReehanそして2個連なっているeを1個に減らしたRehanといった英字表記が見られる。Rehanについては元の長母音の存在がわからない当て字なので、レハンなどとしてしまいやすい。
日本語のカタカナ表記では、英字表記で長母音ā(アー)の存在が判別できないRayhan、Raihanが多用されていることもありライハーン以外にライハンが広く用いられている。
さらには携帯電話にアラビア語キーボードが無かった時代に普及したチャットアラビア語の影響から、SNSのユーザーネーム等では真ん中付近にある子音字 ح [ ḥā’ ] [ ハー(ゥ/ッ) ] を7に置き換えたRay7aan、Rai7aan、Ray7an、Rai7an、Rey7an、Rei7an、Ree7an、Re7an…なども使われ得る。
母音記号あり:رَيَّان [ rayyān / raiyān ] [ ライヤーン ] ♪発音を聴く♪
Rayyan、Rayyaan、Raiyan、Raiyaan
喉の渇きが癒やされた(者)、水を飲んで渇きを癒やした(者)、十分に水を飲んだ(者);【アラブの伝統的な美貌の特徴】顔がふくよかな、顔がふっくらした、ぷくぷくした肉付きの良い(顔);背中周りがふくよかな、背中の肉付きが豊かな(馬);(果物が)汁気たっぷりの、水分に富んだ;水に恵まれた、水が豊富な(山や土地);(知識などが)豊かな(男性、人物);(木の枝などの)みずみずしい緑色で柔らかい(部分);イスラームにおける天国の楽園の入口の名前
■意味と概要■
動詞 رَوِيَ [ rawiya ] [ ラウィヤ ](喉の渇きを癒やす、十分に水を飲む)の結果が定まった状態であることを示すニュアンスを含む分詞類似語 صِفَة مُشَبَّهَة [ ṣifa(tun) mushabbaha(h) ] [ スィファ(トゥン)・ムシャッバハ ] の語形。元の語形に当てはめた رَيْوَانُ [ raywān / raiwān ] という語形を保てずに رَيَّانُ [ rayyān / raiyān ] [ ライヤーン ] に変形したもの。 「喉が渇いている(者)」を意味する عَطْشَانُ [ ‘aṭshān ] [ アトシャーン ] の対義語に当たる。
人間以外にも水気がたっぷりの果物、肉付きが良い顔(アラブの伝統的な美男・美女の特徴とされ、月・満月といった人名などもふくよかで色白が良いという古典的な美的感覚と結び付いている)などにも用いられる。また豊かな水源に恵まれ土中に充分な水が行き渡り草木が生えているような土地の名称になることから、アラブ諸国にもライヤーンという地名が複数存在。
定冠詞 اَلْ [ ’al- ] [ アル= ] を伴った اَلرَّيَّان [ ’ar-rayyān/raiyān ] [ アッ=ライヤーン ](al-Rayyān)は、イスラームにおいて断食の信仰行為を律儀に守ったイスラーム教徒たちが復活の日に入ることができる天国の楽園の入口のうちの一つの名称としても知られる。預言者ムハンマドが語ったとされる言葉(ハディース)によると、断食をきちんと遂行した者以外に開くことはせず、それ以外に対しては入口を閉ざしてしまい入ることがかなわないとされる。
■発音と表記■
rayyān前半の「ay」部分は二重母音「ai」となるため発音表記がrayyānとraiyānが混在している。どちらもライヤーンという発音を示しており、重子音化記号シャッダ(ـّ)がついていても促音化させラッヤーンとするのは正確なカタカナ表記ではないので要注意。
アラブ人名・地名の英字表記(ラテン文字表記)ではyを含む発音であるにもかかわらず慣例的にyを抜いて当て字をするということがしばしば行われる。そのためRayyan、Rayyaan、Raiyan、Raiyaanそれぞれからyを抜去したRayan、Rayaan、Raian、Raiaanなども併存しているが、これらはアラビア語としてはライヤーンと発音することを意図しており、見たままにラヤン、ラヤーン、ライアン、ライアーンとすると原語発音から外れるので要注意。
ただしラヤーンについては口語的な発音として実際の地名などに存在。-yy-が重なっている重子音部分がy1文字のみに軽減される تَخْفِيف [ takhfīf ] [ タフフィーフ ] により رَيَان [ rayān ] [ ラヤーン ] として定着した地名の存在がアラビア語の大辞典などに載っていることから、場合によってはラヤーンとカタカナ表記すべき事例も。ただし通常はライヤーンと読むため、原語に近い学界標準カタカナ表記としてライヤーンという当て字を用いるのが無難だと思われる。
日本語カタカナ表記としては中東系学界の当て字ルール通りのライヤーン、文字数削減目的ないしは英字表記の見たままに当て字をしたライヤンなど。その他、二重母音部分を促音として当て字したラッヤーン、ラッヤン、y抜き英字表記をカタカナ化したライアーン、ライアンも使われて得るが、いずれもアラビア語ではライヤーンのような発音をしている人名・地名となる。
なおアラビア語の方言(レバノン方言やチュニジア方言など)のように長母音āがē寄りないしは全くのēに置き換わる地域では [ rayyēn / raiyēn ] [ ライイェーン ] のように発音が変化するため、英字表記がライイェン、ライィエーンと読めるようなRayyen、Rayeen、ライエン、ライエーンと読めるようなRaien、Raieenになっていることも。そうした当て字についてはそうした発音をしているチュニジアや周辺のマグリブ諸国出身者であることが多い。
Layl、Lail
夜
【 نَهَار [ nahār ] [ ナハール ](昼、昼間)の対義語。男性形のライルは夜そのものを指し、具体的な1つの夜・一夜は単数であることを示す機能を持つ ة がついた女性形の لَيْلَة [ layla(h)/laila(h) ] [ ライラ ]。千夜一夜物語(アラビアンナイト)のアラビア語名 أَلْفُ لَيْلَةٍ وَلَيْلَةٌ [ ’alf(u) layla(tin)/laila(tin) wa layla(h)/laila(h) ] [ アルフ・ライラ(ティン)・ワ・ライラ ](千の夜と一の夜、千夜一夜)は後者の夜の数をカウントする時の語形。
ちなみにアラブ女性名として有名なライラー(日本語カタカナ表記で多いのはライラ)は لَيْلَى [ layla(h)/laila(h) ] [ ライラ ] の方で、ライラーは昼の対義語としての単なる夜ではなく「月が出ておらず真っ暗な太陰暦月末(晦日)の(一)夜;真っ暗な、非常に闇が濃い、真っ黒な」の意味なので異なる。
女性名 لَيْلَى [ laylā/lailā ] [ ライラー ](= لَيْلَاءُ [ laylā’/lailā’ ] [ ライラー(ゥ/ッ) ](真っ暗な、闇が濃い))に対応する男性形は أَلْيَلُ [ ’alyal ] [ アルヤル ](真っ暗な、非常に闇が濃い)。名詞 لَيْل [ layl / lail ] [ ライル ]((総称的に用いる)夜)を形容詞修飾した لَيْلٌ أَلْيَلُ [ layl / lail ’alyal ] [ ライル・アルヤル ](真っ暗な夜、濃い闇夜)という熟語もある。】
【 二重母音ay/aiが口語(方言)風にエイやエーになったレイル、レールという発音に即した英字表記はLeyl、Leil、Leel、Lelなど。】
母音記号あり: رَشِيد [ rashīd ] [ ラシード ] ♪発音を聴く♪
Rashiid、Rashid、Rasheed
理性ある、分別のある(人);(イスラーム教徒としての)正しい道に導かれた、正しい道を進んでいる者、真の信仰心を有する者;正しい道へと導く者、導き手;成人した(人)
■意味と概要■
動詞 رَشِدَ [ rashida ] [ ラシダ ](正しく導かれた;理性がある、分別がある;成人する/した)の状態が1回きりではなく続いておりその状態をその人の性質として備えていることを表す。形容詞的用法などで使われる、分詞に類似した فَعِيلٌ [ fa‘īl(un) ] [ ファイールン ] 語形。
فَعِيلٌ [ fa‘īl(un) ] [ ファイールン ] 語形は場合によって行為者・動作主であることを示す能動分詞的なものと動作の対象であることを示す受動分詞的なものとがあるが、ラシードの場合は元になった動詞が自動詞であることから能動分詞 فَاعِلٌ [ fā‘ilun ] [ ファーイルン ] と同等の意味合いを示すパターンとして扱われている。
イスラームの唯一神アッラーの属性名(99の美名、美称)には اَلرَّشِيد [ ’ar-rashīd ] [ アッ=ラシード ] という称号が含まれるが、こちらについては定冠詞がつくことで他の者との格差・度合いの違いが示され、「自らの被造物・信徒たちを正しい道へとよく導く者」という具合に単なる導き手よりも優れた存在・導き手として至高であることを表している。
日本の創作界隈ではアラブ系キャラにこのラシードや姉妹語のラーシドが命名されることが多いが、分別があり思慮深くイスラーム教徒として正しく生きている人物を想起する名前であることからネイティブらに「キャラクターの設定と名前が合っていない」と言われることもしばしば。
なお、一部日本語記事で紹介されているような「勇敢な(者)」という語義は持たない。日本で誕生したアラブ風・中東風キャラクターに雄々しいタイプや戦闘系が少なからずいるのはおそらく「勇敢な者」という意味の名前だと思われてきたことが一因だと思われる。実際のアラビア語におけるはむしろその正反対の理知的・敬虔なイスラーム教徒という物静かなイメージを与える男性名で、ネイティブたちが「キャラ設定と名前に合っていないのでは」とコメントする理由となっている可能性あり。
■アッバース朝カリフ ハールーン・アッ=ラシードの称号としても有名なラシード■
アッバース朝第5代カリフであるハールーン・アッ=ラシードのラシードはこの人名と同じ名詞・形容詞が由来。ハールーンというファーストネームが限定扱いの固有名詞であることから、後置修飾する形容詞/名詞のラシードが定冠詞 اَلْ で [ ’al- ] [ アル= ](al-)を伴ったアッ=ラシードという形となり前に来るファーストネームのハールーンにかかっている構造。「ハールーン・アッ=ラシード」で「正しき道に導かれた者ハールーン」「導き手たる者ハールーン」「分別ある者ハールーン」といった意味になる。
なおシーア派では第7代イマームに当たる مُوسَى الْكَاظِمُ [ mūsa-l-kāẓim ] [ ムーサ・ル=カーズィム ](ムーサー・アル=カーズィム)がハールーン・アッ=ラシードによって不当に投獄され陽の当たらない監獄で鎖に繋がれた生活を送った挙げ句毒殺されたとされており、同カリフにアッ=ラシードという称号を付すことを嫌う傾向がある。
イマーム追悼詩には「ハールーンよ、お前がラシード(正しきイスラームの道に導かれた者)だというのならイマーム様を投獄などしなかっただろうに。驕れるお前の言葉を聞く者などもう誰もいない。犯した所業への罰を受けるがいい。罪が多すぎて墓の土すらお前のことを嫌う始末だ。そしてお前の名は一人として口にしたがらない。」といった非常に厳しい内容のカリフ非難が含まれることも。
ラシードが単なる男性名・ファーストネームではなく為政者の称号として用いられる場合の重みを示唆している一件だとも言える。
■発音と表記■
英字表記がRashidの場合はつづり違いで同じ語根からなる別男性名 رَاشِد [ rāshid ] [ ラーシド ] と混同しやすいので要注意。実際の発音やアラビア文字での表記を確認しないと区別が難しい。(アラブ首長国連邦の統治者の名前で日本などにおける創作で男性名・王族名としてよく採用されているのは、本項目のラシードではなくラーシドの方。)
なお日本語のカタカナ表記では、ラーシド以外にも英語表記Rashidをそのままカタカナ化した感じのラシッドが多用されている。
また長母音ī(イー)を表すee部分が1文字に減らされたRashedという英字表記も使われている。こちらも別男性名 رَاشِد [ rāshid ] [ ラーシド ] の口語風発音 [ rāshed ] [ ラーシェド ] の当て字として使われることが多く、混同しやすいので要注意。実際の発音やアラビア文字での表記を確認しないと区別が難しい。
日本語のカタカナ表記ではラシェッド、ラシェドとなっていることが多いが、元々は本項目のラシードもしくは別人名ラーシドの口語風発音ラーシェドを意図した英字表記なので、ラシェッドやラシェドと発音するアラブ人名が別にある訳ではない。
ラジャブ、イスラーム(ヒジュラ)暦の7月 [ その月に生まれたから、といった命名理由による。]
[ 首都圏の方言でjがgと読まれるエジプトではラガブとなり、英字表記はRagabに。]
Rasuul、Rasul、Rasool、Rasoul
メッセンジャー、使者、伝令;神の使徒
【 何らかの伝令やメッセージを相手に届けるべく送り手から派遣された者を意味する。女性の場合は男性と同形の رَسُول [ rasūl ] [ ラスール ] もしくは女性化の役割を持つ ة(ター・マブルータ) をつけた女性形 رَسُولَة [ rasūla(h) ] [ ラスーラ(フ/ハ) ]。
定冠詞al-をつけて اَلرَّسُول [ ’ar-rasūl ] [ アッ=ラスール ] とすると預言者であり使徒であったムハンマド、キリスト教におけるイエス・キリストのような宗教上の特定の存在を示すことが多い。アラブ・イスラーム世界では本人のファーストネーム無しに「アッ=ラスール」と呼ぶ場合は十中八九預言者ムハンマドのことを指す。これはアラビア語の定冠詞の用法の一つで、特定の人物・物事・地名があまりに突出して有名になった結果元来は単なる「the Messenger」という意味でしかなかった語がたった一つの存在を指すに至った用法に相当。
一方人名としては定冠詞無しの一般的な意味での「使者、メッセンジャー」となり、子供に「神の使徒くん」と命名している意図は無い。ただし預言者ムハンマドを想起させやすいファーストネームなので海外ファンの目に触れる可能性が高い商業作品ではラスールというキャラクターに不道徳な行為、悪行をさせる設定は回避した方が無難。
ちなみに中世のイエメンにかつて存在したスンナ派王朝であるラスール朝の名称は統治者がテュルク系ラスール家出身だったことから。王朝を興した初代のマンスール1世の祖父がラスールと呼ばれていたのが由来。なお、マンスール1世本人のファーストネームは عُمَر [ ‘umar ] [ ウマル ] で、اَلْمَنْصُور [ ’al-manṣūr ] [ アル=マンスール ](意味:神の助力を受けた者、勝利を授かった者、勝利者)や نُور الدِّينِ [ nūru-d-dīn ] [ ヌール・ッ=ディーン ](ヌールッディーン、ヌール・アッ=ディーン。意味は「宗教の光、信仰の光」。)は尊称・通称の類。祖父ラスールについては本名が مُحَمَّد [ muḥammad ] [ ムハンマド ] だとの記述がイエメン政府系サイト等にあり。】
【 英字表記バリエーションの一つであるRasoulにおけるou部分はオウではなくウやウーと読むことを意図した英字表記のことが多く、ラソウルとカタカナ化しないよう要注意。】
母音記号あり:لَهَب [ lahab ] [ ラハブ ] ♪発音を聴く♪
Lahab
炎、火炎
■意味と概要■
「炎、火炎」を意味するアラビア語の名詞 لَهَب [ lahab ] [ ラハブ ] が由来の男性名。ただし実在するアラブ人男性名としては少なくマイナーネームの部類に入ることもあり、アラブ人向けのアラブ人名辞典によっては載っていないこともある。
■ラハブを含む名前を持つ有名人物■
アラブ世界だけでなくイスラーム教徒たちの間で有名かつラハブを含む男性の筆頭に上がるのが預言者ムハンマドの父方叔父だった أَبُو لَهَبٍ [ ’abū lahab ] [ アブー・ラハブ ] だと言える。アブー・ラハブは本名ではなく後からついたあだ名・通称(ラカブ)で直訳は「炎の父」。彼のファーストネーム自体はジャーヒリーヤ時代に信仰されていた女神 اَلْعُزَّى [ ’al-‘uzzā ] [ アル=ウッザー ] にちなんだ عَبْد الْعُزَّى [ ‘abdu-l-‘uzzā ] [ アブドゥ・ル=ウッザー ](アブドゥルウッザー、「アル=ウッザーのしもべ(僕)」)だったという。
彼の通称に含まれる لَهَب [ lahab ] [ ラハブ ](炎)は元々彼の顔の赤さ(赤ら顔)を示すものであり、色白の美しい顔が怒ったりした際に炎のように真っ赤に染まったことから「炎の父(≒炎の人、炎を持っている男)」と呼ばれるようになったのだとか。
アブー・ラハブはクライシュ族の一員で新たにイスラームという教えを布教し始めた親族ムハンマドたちの初期共同体と敵対。イスラーム教徒たちに容赦ない迫害を行ったことから聖典クルアーン(コーラン)ではアブー・ラハブが名指しで滅び地獄の業火の燃え盛る炎(ラハブ)に焼き尽くされるべき存在であることが明言されているほどである。
感情が動いた際に色白な顔が真っ赤になることから「アブー・ラハブ」とついたはずのあだ名は、イスラーム教側で新たな解釈が加わり、激しい迫害という重大な罪ゆえに地獄に落とされ炎で炙られるのがふさわしい人物として、「ラハブ」=「地獄の炎」「煉獄の炎」「罪人を焼き続ける業火」というイメージが定着することとなった。
なおアブー・ラハブはイスラームの天敵と後世まで語り継がれる存在のため大河ドラマでは醜い悪人顔で登場することが半ば定番となっているが、実際にはクライシュ族きっての美男で、アラブ世界における古くからの美人・美男の理想像でもあった「色白」を兼ね備えた人物だったとされている。テレビドラマであまりに醜悪な風貌で登場したため、エジプトの著名な法学者が「史実に反する。実際には非常に美男だった。」とコメントしたこともあったという。
上のような事情から、ラハブという名前は宗教的な罪人となることや地獄の業火を想起させること、また息子にラハブと命名するとアラブ世界で広く用いられているクンヤの一種「~の父、~のお父さん」という呼び名が「アブー・ラハブ」(ラハブの父、ラハブのお父さん)になり初期イスラーム共同体を迫害した悪名高い人物アブー・ラハブ(炎の父、赤ら顔)のあだ名と同じになってしまうことから、アラブ・イスラーム世界における「ラハブ」命名が避けられる傾向を助長しているとも言える。(ソース:SNSにおけるアラブ人同士の雑談)
身分・地位が高い、民の間で他のものよりも身分が高い=高貴な [ 最後の子音が喉を引き絞った感じの ع(、アイン)なので、語末に母音をつけず子音で止めて読む発音ではラフィーウよりもラフィーァに近く聞こえる。子音のアインは「‘」で示されることが多いが、英字表記ではこうした記号類は書かれないためラフィーゥもしくはラフィーァという元の発音を想像しにくいつづりになっている傾向が特に強い。 ]
同伴者、付き添い、友
[ 爆破テロにより暗殺された元レバノン大統領のラフィーク・アル=ハリーリーのファーストネームでもある。 ] [ qの代わりにkで表記したRafiik、Rafik、Rafeekというバージョンもあるが、元はRafiqというつづりである。]
ラマダーン、イスラーム(ヒジュラ)暦の9月
[ その月に生まれたから、といった理由による命名。]
[ 語頭の子音ダード ضَ(ḍ)はアラビア語口語でも重たいzであるザー ظَ(ẓ)の音と入れ替わることがしばしばあり、アラビア語以外の言語になるとザに置き換わったりする。非アラブイスラーム諸国でラマザーンと読まれる関係からRamazanでの英字表記となっているイスラームネームを持つ人が多い。日本語では長母音を復元しないラマダンというカタカナ表記が多い。]
母音記号あり:رَمْزِيّ [ ramzī(y) ] [ ラムズィー(ュ/ィ) ] ♪発音を聴く♪
Ramsii、Ramsi、Ramsee、Ramsyなど
象徴の、象徴的な;合図の、身振りの
■意味と概要■
名詞 رَمْز [ ramz ] [ ラムズ ](象徴、シンボル;身振り、合図、目配せ;記号)にニスバ語尾と呼ばれる يّ(yy)をつけて語末を [ -iyy / -īy ] の響きに変えた物。「~の、~に関係した」といった形容詞的な意味合いも有する。
このラムズィーは元々は男性名だが、男性名をラストネーム(家名、名字、姓)として使うことが多いアラブのフルネーム慣習ゆえ「ラムズィー家」というファミリーネームとして使われていることも多い。欧米諸国などに住むアラブ系住民のラストネームとしてしばしばラムズィー姓が見られるのもそのため。
■発音と表記■
語末の母音などを完全に発音する文語非休止形発音だと [ ramziyyun / ramzīyun ] [ ラムズィーユン ]、語末母音を省いた文語休止形発音だと [ ramziyy / ramzīy ] となるためラムズィーュとラムズィーィを混ぜたように聞こえるが、口語など日常的な会話では単なる [ ramzī ] [ ラムズィー ] と聞こえる発音をしていることが一般的。この場合は文語発音で後方にあったアクセント位置が前方にずれる。
英字表記はラムズィーという発音に対応したRamzii、Ramzi、Ramzee(注:アラブ人名への当て字では通常eeはエーではなくイー音を意図しているのでこれでラムゼーではなくラムズィーのことが多い)、Ramzyなどが用いられている。Ramzeeの2個連なるeeを1個に減らしたRamze、英国系で似た発音ラムズィーやラムズィとなるラムズィー姓のつづりを借りたRamsey、Ramsayといった英字表記も見られる。
*日本では英語圏でラムズィーやラムズィと発音するにもかかわらずRamsey等をラムゼイ、ラムゼーとカタカナ表記する慣例があるが、アラビア語由来人名への当て字は原語発音であるラムズィーに合わせているものなので、アラビア語由来ネームとしてRamsi、Ramsee、Ramsy類の代わりに使っている英字表記Ramseyまでラムゼイ、ラムゼーとカタカナ化しないよう要注意。
日本語カタカナ表記として使われ得るのはラムズィー、ラムズィ、ラムジー、ラムジなど。日本では外国語単語に含まれるzi(ズィ)音をji(ジ)で当て字してカタカナ化する慣例があるため、このラムズィーというアラビア語人名もラムジーとカタカナ表記されていることが多い。
しかしながら語の響きのわずかな違いが意味の違いに直結するアラビア語ではラムズィーをラムジーと置き換えると人名としての意味を損なうことになりかねないので要注意。アラビア語で رَمْج [ ramj ] [ ラムジュ ] は「鳥が糞を投げ落とすこと、鳥の脱糞、鳥が糞をぺちゃっとすること」を意味。それを形容詞化した語形である رَمْجِيّ [ ramjī(y) ] [ ラムジー(ュ/ィ) ] は「鳥の脱糞の」というとんでもない意味になってしまうため。
Rizq
神からの授かり物、神より与えられた祝福;(神が恵んだことで手に入った)財産、富;(生活の・日々の)糧
【 口語風にiがeに転じレズク寄りになったRezq、qを音の似ているkで置き換えたRizk、Rezkといった英字表記なども同じ名前。】
アッラーからの授かり物、アッラーによって与えられた祝福・財
[ qの代わりにkで英字表記されることも多く、その場合はRizk Allah、Ruzkullah。口語的に読むとリズカッラーで、英字表記はRizqallah、Rizkallah。]
Ridaa、Rida
満足、満悦;同意、承諾;喜び、悦び;善意、好意
■意味と概要■
男性名・女性名の両方として使うことができるが、どちらかというと男性名としての方がポピュラー。
最後の3文字目の語根が ي 由来かو 由来かという見解が2通りあるため رضى でも رضا でも正解だという。ただしシーア派十二イマーム派第8代イマーム عَلِيُّ بْنُ مُوسَى [ ‘alī(y(u)) bnu mūsā ] [ アリー(ユ)・ブヌ・ムーサー ](アリー・イブン・ムーサー)の敬称 اَلرِّضَا [ ’ar-riḍā ] [ アッ=リダー ] や彼の敬称にあやかった名前の場合は رِضَا という語末が ـا(文字名:アリフ)になっている方を用いるのが通例となっている。
シーア派地域ほかではこの名前を含む2個1組の複合名 عَلِيّ رِضَا [ ‘alī(y) riḍā ] [ アリー・リダー / 口語発音・非アラビア語発音:アリー・レダー、アリー・リザー、アリー・レザーなど ](アリー・リダー)も命名に用いられている。
■発音と表記■
アラビア語アルファベットの ض [ ḍād ] [ ダード ] は口語発音や非アラビア語発音における ظ [ ẓ ](舌を歯にはさむ ذ [ dh ] の強勢音・強調音、もしくははさまない ز [ z ] の強勢音・強調音化への置き換えが起きる方言が多い)化や ز [ z ] 化が行っていなくても「dh」という当て字をすることがあり、現地ではリダーと発音していても Ridhaa、Ridha のような英字表記が使われていることがある。
アラビア語の口語によくある i の e 寄り読みによってレダーに近くなった発音に対応した英字表記としては Redaa、Reda、Redhaa、Redha などがある。さらに口語アラビア語では語末の長母音 ā が短母音化してただの a になることが一般的で、日常会話レベルではリダーはリダ、レダーはレダと聞こえる可能性が高い。
アラビア語口語(方言)での発音置き換わりに加え、ペルシア語圏のイランなど非アラブ諸国では「ダー(ḍā)」部分がただの「ザー(zā)」に置き換わる傾向が顕著で、リザーという発音に対応した Rizaa、Riza やさらに i が e に転じたレザーに対応した Rezaa、Reza といった英字表記が派生。イラン人名などを中心にこの表記が多く使われている。
日本語のカタカナ表記としてはリダー、リダ、レダー、レダ、リザー、リザ、レザー、レザなどが使われ得る。
喜び、満足、同意、承認;(天使)リドワーン
[ リドワーンはイスラームにおける天使の名前。楽園として描写されている天国の番人とされている。]
[ iがeに転じてレドワーン寄りになった場合の英字表記はRedwaan、Redwan、Redhwaan、Redhwan。舌をはさんだザーを意図している訳では無いケースでもRidhwanのようなdh表記になっていることもある名前。語頭の子音ダード ضَ(ḍ)はアラビア語口語でも重たいzであるザー ظَ(ẓ)の音と入れ替わることがしばしばあり、アラビア語以外の言語になるとザに置き換わったりする。非アラブイスラーム諸国でリズワーン等と読まれる関係からRizwan、Rezwanでの英字表記となっているイスラームネームを持つ人が多い。]
草木が生えている土地;庭、庭園;草地、牧草地、放牧地;川・池沼・水たまりといった地面を水が覆いたまっている場所;天国の楽園;(幼稚)園
【 女性名としても使われる名詞 رَوْضَة [ rawḍa(h) / rauḍa(h) ] [ ラウダ ](Rawdah、Rawda、Raudah、Rauda)の複数形。サウジアラビア首都の名称 اَلرِّيَاض [ ’ar-riyāḍ ] [ アッ=リヤード ] はこの رِيَاض [ riyāḍ ] [ リヤード ] に定冠詞 اَلْ [ ’al- ] [ アル= ](al-)を付けた語形。元々は違う名前がついていたが、なだらな土地に色々な植物が生育していたことからこのような名前で呼ばれるようになったという。
リヤードの単数形である رَوْضَة [ rawḍa(h) / rauḍa(h) ] [ ラウダ ] は同じ語根からなる動詞派生形第10形 اِسْتَرَاضَ [ ’istarāḍa ] [ イスタラーダ ](場所・川・湖沼などを水が覆う)と関連のある/意味を共有している名詞。その場所に水がたくさんある→植物がたくさん元気に育ち牧草、果樹など色々な種類の草木が豊かに生い茂る場所になる→庭園、草地、牧草地といった意味で使われる、という発想が由来だとか。複数形は رَوْض [ rawḍ / rauḍ ] [ ラウド ] もしくは رِيَاض [ riyāḍ ] [ リヤード ]。
なお幼稚園の「園」という意味での用法は、元になったkindergarten(直訳:子供たちの庭)自体が近代以降に作られた造語であることから、アラブ世界でも近現代になってから直訳することで輸入され普及した新しい用法だと言える。アラブ人名の由来としては考えにくいが、一般的な名詞としての色々な意味の一つとして掲載した。】
【 口語的にiがeに転じてレヤード寄りになるなどしたはケースに対応した英字表記はReyaad、Reyad。また ض [ ḍ ] 部分をdではなくdhとつづる英字表記Riyaadh、Riyadh、Reyaadh、Reyadhもしばしば使われる。
語末の子音ダードض [ ḍ ] はアラビア語口語でも ذ [ dh ] を重くこもらせた ظ(いわゆる文語アラビア語フスハー式の発音)や ز [ z ] を重くこもらせた ظ [ ẓ ](レヴァント方言、エジプト方言など)の音に置き換わることがあるほか、アラビア語以外のイスラーム諸国諸語になると重くこもらせない ز [ z ] 相当の子音に置き換わったりする。非アラブのイスラーム諸国でリヤーズ、レヤーズといった発音に変化する関係からアラビア語文語発音がリヤードであるこの男性名に対しRiyaz、Reyazといった英字表記が用いられている。
またyを用いないRiad、Riadh、Riazという英字表記も見られる。
日本語におけるカタカナ表記としてはリヤード、リヤド、レヤード、レヤド、リヤーズ、リヤズ、レヤーズ、レヤズ、リアード、リアド、リアーズ、リアズなどが考え得る。】
Riyaah、Riyah
風
【 名詞 رِيح [ rīḥ ] [ リーフ ](風)の複数形。リーフは大気が動いて生じる風を表すごく一般的な名詞で、人名としては単数のリーフではなくリヤーフの形で用いる。アラビア語ではこの名詞は単数形でも複数形でも女性扱いするが、もっぱら男性名として使われてきた。昔に比べると命名が減りマイナーネームとなっている。】
【 最後の文字 ح [ ḥ ] は通常「フ」でカタカナ化するが、実際の発音はリヤーハに近く聞こえることも少なくない。リヤーフもしくは口語的にiがeに転じたレヤーフ寄りの発音に対応した英字表記はReyaah、Reyah。最後のahは英語のようにアーと伸ばす部分ではないのでリヤー、リヤ、レヤー、レヤとしないよう要注意。
日本語では長母音部分を省いたリヤフ、レヤフのようなカタカナ表記になっている可能性あり。】
[ 語末に長母音āと声門閉鎖音/声門破裂音ハムザがあるため厳密にはリワーゥ、リワーッのような発音となるが、口語などではリワーのように聞こえることが多い。口語的にiがeに転じてレワーに近い読み方をした場合は、英字表記がLewaa、Lewaとなる。]
Luayy、Luay、Luai、Luaiy
(小さな)野牛
[ لَأْي(la’y、ラァイ)=ゆっくり、緩慢、遅くすること の縮小形。 ]
[ 口語ではルアイイとはっきり聞こえずルアイ寄りで聞こえることも。口語風にuがoに転じてロアイイ、ロアイに近く聞こえる場合の英字表記はLoayy、Loay、Loaiなど。声門閉鎖音/声門破裂音のハムザが消失してルワイに近い発音も多いとのことで、その場合の表記は لُوَيّ(luwayy)→Luwayy、Luway、Luwai、Luwaiy、Lowayy、Lowayなど。 ]
Luqmaan、Luqman
(ものすごく、いつも)早食いの、がつがつ食べる、せっせと食べる(人、男);イスラームのクルアーン(コーラン)に出てくる賢者ルクマーンの名前(*ルクマーンのように賢くなってほしい、唯一神アッラーへの信仰に身を捧げる敬虔なイスラーム教徒になってほしいといった願いからつけられる)
【 動詞 لَقِمَ [ laqima ] [ ラキマ ](早食いする)をたくさん行うという強調の語形。ただ早食いする、がつがつむしゃむしゃ食べるだけではなく、その度合が強い・何度も行う・いつもやっていることを示す。
元々の意味は「(やたら/ものすごく/いつも/並外れて)早食いの、がつがつ食べる、せっせと食べる(人)」だがむしゃむしゃバクバク食べる早食い名人に育ってほしいと意図して命名されている訳ではない。アラブ世界・イスラーム諸国ではクルアーンの中に登場し章の名前にもなっている伝説的な偉人 لُقْمَان الْحَكِيم [ luqmānu-l-ḥakīm ] [ ルクマーヌ・ル=ハキーム ](ルクマーン・アル=ハキーム、「賢者ルクマーン」の意)にあやかって命名されている。ルクマーンのように英知に恵まれ、賢く、信心深いイスラーム教徒男性になってほしいという親の願いからつけられる。
ルクマーンは預言者ムハンマドによるイスラーム布教開始以前のジャーヒリーヤ時代にいたとされるエチオピア系黒人奴隷で、クルアーンの中では唯一神アッラーより際立った英知を授けられ多神教や他の神ではなくアッラーのみを信じていたことが語られている。類まれな偉人として扱われているが、預言者だったのか、賢者だったのか、信心深い人に留まったのかについては意見が分かれている。一般的にはイスラームの預言者や使徒には含まれない。なお職業については縫製職人説、大工説、羊飼い説などがあるという。
賢者ルクマーンについては色々な言説がありその家系・素性についても確定していないが、伝記によるとルクマーンという名で呼ばれるようになったのは彼が大食漢だったために「早食いな」という意味の لُقْمَان [ luqmān ] [ ルクマーン ] と結び付けられた可能性も考えられるという。】
【 uが口語的にoに転じロクマーンに近くなった場合の発音に即した英字表記はLoqmaan、Loqman。qを調音部位が近く発音が似ているkで置き換えたLukmaan、Lukman、Lokmaan、Lokmanという英字表記も多い。そののため日本語のカタカナ表記ではルクマーン、原語に含まれる長母音「ー」を反映しないルクマン以外にもロクマーン、ロクマンといったつづりが使われ得る。
また長母音āがēに近くなる・完全にēになる方言での発音に即した英字表記Luqmeen、Luqmen、Loqmeen、Loqmen、Lukmeen、Lukmen、Lokmeen、Lokmenなども見られる。これらのカタカナ表記としてはルクメーン、ルクメン、ロクメーン、ロクメンが考えられる。】
理性の、知性の、思慮分別の、正しい道への導きの [ 厳密には語末を発音するとrushdīyとなるためルシュディーュ、ルシュディーィのように聞こえるが、口語など日常的な会話では単なるrushdīのルシュディーと聞こえる発音をしていることが多い。この場合はアクセント位置が前方にずれる→♪発音を聴く♪。なお、口語的にuがoに転じてロシュディーに近く発音された場合は英字表記がRoshdi、Roshdy、Roshdeeに。]
避難する(者)、難を逃れる(者)
[ ジャーヒリーヤ時代から使われていた古い人名。ジャーヒリーヤ時代のイエメン(ヒムヤル)の王の名前でもあった。]
[ 口語的にiがeに転じてワーエルに近く読まれた場合の英字表記はWaa'el、Waael、Wa'el、Waelなどに。]
[ 口語的にiがeに転じるとワーケドに近い読みとなり、英字表記はWaaqed、Waqedに。qをkで英字表記することもあり、その場合の綴りはWaakid、WakidやWaaked、Wakedに。]
[ وَجْد(wajd、ワジュドもしくはワジド)=情熱、感情の高まり、激情、怒り という名詞を形容詞化したもの。]
[ 厳密には語末を発音するとwajdīyとなるためワジュディーュ、ワジュディーィのように聞こえるが、口語など日常的な会話では単なるwajdīのワジュディーと聞こえる発音をしていることが多い。この場合はアクセント位置が前方にずれる。なお、エジプトのようにjがgの音で読まれる地域ではワグディーとなり、英字表記はWagdii、Wagdi、Wagdyなど。]
美男の、ハンサムな、顔が良い
[ sを2個続けたWassiim、Wassim、Wasseemという英字表記もあるが、ワッスィムやワッセムと読ませるためのつづりではないので注意。日本ではsをshに置き換えた形で聞こえるワシーム、ワシムとカタカナ表記されていることも多い。]
[ 単なる能動分詞よりも強調の意味合いがある語形。ワッハーブ派の「ワッハーブ」はこの語と同じだが、始祖のファーストネームだった訳ではなく、父親の複合ファーストネームであるアブドゥルワッハーブ(アブド・アル=ワッハーブ)から取ったもの。なお定冠詞al-がつくとアッラーの別名・属性名(99の美名)になる。]
[ 日常会話での発音はワディーァに近くなる傾向が強く、日本語カタカナ表記もワディーアなどになっていることも多い。 ]
Waraqa、Waraqah
(1枚の)葉、紙、紙幣
[ وَرَق [ waraq ] [ ワラク ] に集合名詞の単数を示す機能がある ة(ター・マルブータ)をつけて単数にしたもの。女性名詞なので現代のネット上名前辞典では女性名として紹介されていることも多いが、古くから男性名として使われていた。
その中でも特に有名なのが、預言者ムハンマドの最初の妻ハディージャのいとこワラカ・イブン・ナウファル。当時多神教崇拝と巡礼権益で繁栄していたクライシュ族出身ながら一神教的教えを信じていた人物だった。伝承では彼がユダヤ教徒だったとも、キリスト教徒だったとも言われている。聖書だけでなくユダヤ教のトーラーにも造詣が深かったとされる。
ムハンマドが啓示を受け困惑していた際に助言を与え、それが唯一神からのメッセージでありムハンマドが預言者として選ばれたこと、今後周囲との軋轢・敵対関係を経験するであろうことを教えたという。ワラカ自身はイスラームが確立する前に死去している。イスラームのドラマでは高齢の落ち着いた思慮深い男性として描かれるなどしている。]
[ qの代わりに音が似ているkを使ったバージョンもあり、Waraka、Warakahなどと英字表記される。]
支援者、保護者、友、隣人
[ 厳密には語末を発音するとwalīyとなるためワリーュ、ワリーィのように聞こえるが、口語など日常的な会話では単なるwalīのワリーと聞こえることもある。この場合はアクセント位置が前方にずれる。]
(特に生まれてから1週間以内の)新生児、赤ちゃん、乳児;しもべ、(若い)使用人;結果・産物
[ 古くからある男性名。有名な武将ハーリド・イブン・アル=ワリードの父アル=ワリードがこの男性名に定冠詞al-をつけたもの。ハーリド以外にも子供がおり、そのうちの一人が父と同名のアル=ワリード。アル=ワリード・イブン・アル=ワリードはハーリドの兄で、イスラームを迫害したクライシュ族側の一員として預言者ムハンマド側の陣営と戦ったが捕虜に。解放後イスラームに改宗した。]
宗教の支援者、信仰の支援者
[ 口語的な発音ではyをスキップしたワリーッディーンのような読みもある。 ]
アッラーの支援者
[ 読みが転じたバージョンに基づく英字表記等としてはWaliullah=ワリーウッラー、Waliallah=ワリーアッラーなどがある。]