アラブ人名辞典-男性の名前

List of Arabic Given Names (Male) [ Arabic-Japanese ]

各種アラブ人名辞典(アラ-アラ、アラ-英)・中世から現代までのアラビア語大辞典・現地記事にて確認しながら日本語訳し、プラグインにデータ入力して作っています。「♪発音を聴く♪」をクリックすると発音サンプルの音声が流れます。

現地発刊のアラブ人名辞典5冊前後+串刺し検索で辞典を20~30冊ほどチェックし管理人の自分用メモとし、そこに創作・命名向け情報などをプラス。検索エンジンに全部載るよう全ネームを1ページに出力しています。長いので頭文字別ページや検索をご利用ください。

*アラビア語由来の名前を持っている人=アラブ系・アラブ人ではないので、トルコ、イラン、パキスタンなど非アラブ系の国における発音や表記とは区別する必要があります。(言語によってはアラビア語と少し意味が違ったり、アラブ男性名がその国の女性名になっていることも。)
* [ ] 使用項目/行数が少ない部分は未改訂の初期状態、【 】使用項目は改訂履歴あり。■ ■使用項目は直近改訂あり/新規執筆分で情報の正確性も高めの部分となっています。
*文藝春秋社刊『カラー新版 人名の世界地図』(著:21世紀研究会)巻末アラブ人名リストは当コンテンツの約1/3にあたる件数の人名・読みガナ・語義の転用と思われる事例となっていますが当方は一切関知していません。キャラ命名資料としてのご利用・部分的引用はフリーですが、商業出版人名本へのデータ提供許諾は行っていないので同様の使用はご遠慮願います。

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名前辞典の見方

カタカナ表記/アラビア語表記/英字表記/日本語での意味[補足]

英字表記については、長母音の有無を忠実に書いたバージョンから→長母音部分を短母音で記したバージョンの順に左から並べてあります。アラブ人の名前は英字で書く場合長母音アーをaaの2文字で表記することは少なく、aのみの1文字になっていることが多いです。使用頻度が高いつづりから順番に並べている訳ではないのでご注意願います。

アラブ人名辞典-男性

現在、このディレクトリには 46 の 名前 があります (文字 サ で始まる)
サーイブ
صَائِب [ ṣā’ib ] [ サーイブ ] ♪発音を聴く♪
Saaib、Saib
的を命中させる(人)、的を外さず適切に射る(人);正しい、言動において間違いを犯さず正しい、適切なことを行う、正しい意見を言う(人)

【 動詞 صَابَ [ ṣāba ] [ サーバ ](矢が的に命中する;(言動・意見が)正しい、適切である)の能動分詞男性形が由来で、それら動詞の行為者・動作主であることを表す。この語の語根は ص - و - ب(ṣ - w - b)と 第2語根が弱文字 و [ w ] のため、動詞完了形は صَابَ [ ṣāba ] [ サーバ ] と و [ w ] が ا(長母音āのアリフ)に転じるくぼみ動詞/第2語根弱動詞に。また能動分詞では弱文字 و [ w ] が声門閉鎖音/声門破裂音の ء(ハムザ)となり صَائِب [ ṣā’ib ] [ サーイブ ] となる。

2020年に新型コロナウイルス感染症で死去した(元)パレスチナPLO幹部 صَائِب عريقات [ サーイブ・エリーカート/イリーカート/アリーカート/ウライカート/ウレイカート等 ](部族名由来のファミリーネーム部分は発音の揺れが現地メディアでの読み方も大きく複数パターンあり。英字表記はSaeb Erakatなど。)氏のファーストネームはこの名前。】

【 英字表記では真ん中に入る声門閉鎖音/声門破裂音の ء(ハムザ)を表す「'」などは使わないのが普通で、単に母音を並べた感じのSaaib、Saibのような書き方が広く行われている。口語的にiがeに転じてサーエブ寄りとなった発音に対応した英字表記はSaaeb、Saeb。

口語でよく起こる変化 تَخْفِيف [ takhfīf ] [ タフフィーフ ](ハムザの弱文字化)が適用され صَايِب [ ṣāyib ] [ サーイブ ] に転じた発音を思わせるSaayib、Sayib、そしてiのe化も加わりサーイェブ寄りになった感じのSaayeb、Sayebといった英字表記も見られる。

日本語におけるカタカナ表記としてはサーイブ、サイブ、サーエブ、サエブなど。】

サージド
سَاجِد [ sājid ] [ サージド ] ♪発音を聴く♪
Saajid、Sajid
(アッラーに対する)祈りの平伏をしている(者)、(アッラーに対して)礼拝している(者)、(アッラーに向かって)跪拝している(者)

【 動詞 سَجَدَ [ sajada ] [ サジャダ ](礼拝の平伏をする、ひざまずいて祈る、礼拝する)の能動分詞男性形。سُجُود [ sujūd ] [ スジュード ](礼拝、跪拝、平伏)の動作主・行為者であることを示す。ちなみに跪拝・平伏動作の1回分を表す名詞は سَجْدَة [ sajda(h) ] [ サジ(ュ)ダ(フ/ハ) ]。

イスラームの礼拝時に唯一神アッラーへの祈りとして繰り返し行う動作のひとつで地に平伏し額をつける。通常聖地マッカ(メッカ)の方角に向かって跪拝。義務である1日5回の礼拝に加え、夜間に行う任意の追加礼拝や感謝を捧げたい時の臨時の祈りなどでもこの平伏動作をするため、「跪拝をする者」という意味のこの名前は「(我が子が)信心深く熱心に礼拝を実践するイスラーム教徒(になりますように)」といった親の願いと結びついている。】

【 口語的にiがeに転じたサージェドという発音に対応した英字表記はSaajed、Sajed。

口語では語末の د [ d ] 部分を無母音(スクーン記号つき)で発音することから-idが-idd、-edが-eddに近く聞こえる読み方がしばしばされ(文語にも存在する休止形(ワクフ)時語末の重子音化現象)、[ sājidd ] [ サージッド ] に対応したSajidd、[ sājedd ] [ サージェッド ] に対応したSajeddなどの使用も見られる。

エジプト首都カイロならびに周辺地域方言、イエメン、オマーン、サウジアラビアなどの一部方言のように ج [ j ] が [ g ] に置き換わって [ sāgid ] [ サーギド ] になるケース、もしくは英語のgentleのようにgでつづって [ j ](文語アラビア語の/ʤ/、レヴァント方言の/ʒ/)と読ませることを意図したケースに対応したSaagid、Sagid(サージドもしくはサーゲド)そして口語的なiのe化を反映したSaaged、Saged(サージェドもしくはサーゲド)といったつづりも。

北アフリカのマグリブ諸国やマグリブ系移民が多いフランスのように「j」を「dj」で表記することが行われている地域ではサージドに対応した表記としてSaadjid、Sadjid、サージェドに対応した表記としてSaadjed、Sadjeがあるが、サードジド、サードジッド、サドジド、サドジッド、サードジェド、サードジェッド、サドジェド、サドジェッドとカタカナ化しないよう要注意。

日本語のカタカナ表記としてはサージド、サジド、サージェド、サジェド、サーギド、サギド、サーゲド、サゲドなどの混在が考え得る。】

サーディク
صَادِق [ ṣādiq ] [ サーディク ] ♪発音を聴く♪
Saadiq、Sadiq
正直な、嘘をつかない;実直な、誠実な、約束を違えない

■意味や語形■

能動分詞男性形。動詞 صَدَقَ [ ṣadaqa ] [ サダカ ](本当のことを言う、真実を言う、実直である)の動作主・行為者であることを示すが、ここではたった1回きりではない数回続けたり一定期間維持されたりする「正直である」「実直である」という継続的な性質を備えていることを示す形容詞的な意味を持つ。

صَادِق [ ṣādiq ] [ サーディク ] の強調語形は صَدُوق [ ṣadūq ] [ サドゥーク ] で、「常に正直・実直である」「決して嘘をついたりしない」という強いニュアンスを含む。

初代正統カリフのアブー・バクル敬称にちなんだ男性名 صِدِّيق [ ṣiddīq ] [ スィッディーク ]((とても、大いに、常に、いつも必ず)誠実な、実直な、正直な、約束を果たす、有言実行の(者);預言者に下された啓示を嘘つき呼ばわりすることなく正しいとみなしアッラーの教えをしっかり信じている(者))も صَادِق [ ṣādiq ] [ サーディク ] の意味をより強調した男性名でいわゆる姉妹語にあたる。

■この名前を持つ有名人■

サーディクはシーア派第6代イマームである جَعْفَربْن مُحَمَّدٍ [ ja‘dfar(u) bnu muḥammad ] [ ジャアファル・ブヌ・ムハンマド ](ジャアファル・イブン・ムハンマド)の通称でもある。ファーストネームの固有名詞ジャアファルを形容詞修飾するため限定の定冠詞 اَلْـ [ ’al- ] [ アル= ](al-)を伴った الصَّادِقُ [ ’aṣ-ṣādiq ] [ アッ=サーディク ]をつけて جَعْفَرٌ الصَّادِقُ [ ja‘faru(ni-)ṣ-ṣādiq ] [ ジャアファル(ニ)・ッ=サーディク ](*男性名ジャアファルは厳密には三段変化だとのことだが二段変化で読む人が多い。また会話や口語ではタンウィーンはスキップした発音が一般的。)と呼ばれている。

■発音と表記■

口語的にiがeに転じたサーデクに対応した英字表記はSaadeq、Sadeq。ق [ q ] を調音部位が近い他の子音 ك [ k ] に置き換えたつづりもありSaadik、Sadik、Saadek、Sadekなどに。

非アラブ圏のイスラミックネームとしてなど、dを2個連ね-dd-にしたSaddiqといった英字表記も見られるがサッディクではなくサーディク、サディクといったカタカナ表記にすべき案件と思われる。同じ語根からなる別の男性名 صِدِّيق [ siddīq ] [ スィッディーク ](意味は「(とても、常に)誠実な、実直な、正直な、アッラーの教えをしっかり信じている」。日本ではシッディークとのカタカナ表記多し。)のカタカナ表記バリエーションSiddiiq、Siddiqに近いためまぎらわしいが、併記されたアラビア語表記から صَادِق [ ṣādiq ] [ サーディク ] にSaddiqが対応していることが確認できるケースも少なくない。また非アラブ地域ではこの人名にShadiq、-dd-にしたShaddiqという英字表記が使われている例も見られる。

またペルシア語等ではアラビア語の ق [ q ] が غ [ gh ] と同音となり置き換わるため非アラビア語イスラーム名の英字表記としてサーディグに対応したSaadigh、Sadigh、サーデグに対応したSaadegh、Sadeghも存在。また「gh」を発音の似た「g」に置き換えたSaadig、Sadig、Saadeg、Sadegも派生。元々qだった語末部分のgへの置き換わりについては、アラビア語口語で ق [ q ] が文語(フスハー)に無い [ g ] 音に置き換わる方言がある件もある程度関係しているものと思われる。

サービク
سَابِق [ sābiq ] [ サービク ] ♪発音を聴く♪
Saabiq、Sabiq
(競走などで/物事において時間的に)先行する者、先行者;先んじる者;(他の者たちに対して)優勢な者、まさっている者、優れている者

【 動詞完了形 سَبَقَ [ sabaqa ] [ サバカ ](先行する、先んじる;まさる、他の者たちよりも優れる)の能動分詞男性形。集団の中で何らかの形で優れていることを示唆。

ちなみに日本製ミニ四駆アニメ『爆走兄弟レッツ&ゴー!!』アラビア語版では兄弟である烈と豪がそれぞれこの سَابق [ sābiq ] [ サービク ](先行する者)と対義語の لَاحِق [ lāḥiq ] [ ラーヒク ](追走する者)となっている。】

【 qを発音が近いkに置き換えたSaabik、Sabikという英字表記も使われている。また口語風にiがe寄りになったサーベクに対応したSaabeq、Sabeq、さらにqのk置き換えも加わったSaabek、Sabekといった表記が混在している。】

サービト
ثَابِت [ thābit ] [ サービト ] ♪発音を聴く♪
Thaabit、Thabit
確固としている、固定されている、安定している、不動である(者);変化しない、意見を変えない、固持する(者);(勇敢にも)後退しない(者)、勇敢な、勇猛な

【 能動分詞男性形。動詞 ثَبَتَ [ thabata ] [ サバタ ](確固としている、固定されている、安定している、不動である;変化しない、意見を変えない、固持する;(勇敢にも)後退しない)の動作主・行為者であることを示す。ジャーヒリーヤ時代から使われてきた伝統的な古いアラブ人名。】

【 口語的にiがeに転じたサーベトという発音に対応した英字表記はThaabet、Thabet。アラビア語の口語やペルシア語圏などにおける ث [ th ] から س [ s ] への発音置き換わりを反映するなどしたサービトに対応したSaabit、Sabit、サーベトに対応したSaabet、Sabetも見られる。

この他、モロッコなどアラビア語方言で ث [ th ] が ت [ t ] に置き換わったタービト、ターベト系統の発音に準拠していると思われるTaabit、Tabit、Taabet、Tabetも混在。なお、日本語の記事では英字表記の語頭が「T」ではなく「Th」になっておりサービト系の発音をする地域の人物名であってもタービト、タビト、ターベト、タベトというカタカナ表記を当てているケースがあるが、現地における方言でそのようになっており口語発音準拠の英字表記やカタカナ表記を本人が敢えて選んでいるといったケースを除いてはサービト、サーベト系とする方が適切だと思われる。

なお、英語のthank(サンク)と同じで舌を歯ではさむものの濁点化はしないのでザービト、ザーベトとカタカナ化しないよう要注意。】

サーヒブ
صَاحِب [ ṣāḥib ] [ サーヒブ ] ♪発音を聴く♪
Saahib、Sahib
仲間、友人;同伴者、そばを離れることのない友;所有者、持ち主;行為の主体者、事業主

【 能動分詞男性形。動詞 صَحِبَ [ ṣaḥiba ] [ サヒバ ](同伴する;仲良くする、仲間である、友人である)の動作主・行為者であることを示す。】

【 口語的にiがeに転じたサーヘブという発音に対応した英字表記はSaaheb、Saheb。

語頭の صَا [ ṣā ] 部分は普通の سَا [ sā ] と違い重くこもったような発音をするためスォーやソーに近く聞こえることが多く、スォーヒブもしくはソーヒブという読みを意図したであろうSoohib、Sohib、スォーヘブもしくはソーヘブに対応していると思われるSooheb、Sohebのような英字表記も見られる。】

サービル
صَابِر [ ṣābir ] [ サービル ] ♪発音を聴く♪
Saabir、Sabir
耐える(者)、忍耐ある(者);我慢する(者)、~をさし控える(者)

【 能動分詞男性形。動詞 صَبَرَ [ ṣabara ] [ サバラ ] / صَبِرَ [ ṣabira ] [ サビラ ](耐える、耐え忍ぶ;我慢する、~をしないで耐える、~をさし控える)の動作主・行為者であることを示す。困難などを耐え忍ぶ我慢強い人、といったイメージ。】

【 口語的にiがeに転じた発音サーベルに対応した英字表記はSaaber、Saber。

語頭の صَا [ ṣā ] 部分は普通の سَا [ sā ] と違い重くこもったような発音をするためスォーやソーに近く聞こえることが多く、スォービルもしくはソービルという読みを意図したであろうSoobir、Sobir、スォーベルもしくはソーベルに対応していると思われるSoober、Soberのような英字表記も派生。】

サーミー
سَامِي [ sāmī ] [ サーミー ] ♪発音を聴く♪
Saamii、Samii、Sami、Saamy、Samy、Saamee、Sameeなど
高い;高等な、高位の、高貴な;高潔な、荘厳な

【 能動分詞男性形。動詞 سَمَا [ samā ] [ サマー ](高くなる、高まる;高位にある、高貴である;(إِلَىを伴って)~を望む、~を狙う;(لِを伴って)~との戦闘に赴く、(砂漠や荒野での)狩りに出かける)の動作主・行為者であることを示す。動詞の意味としては「高くなる」の系統と「~に向かう」的なニュアンスの系統の2通りに分かれるが、人名辞典に載っているのは高さに関係している方。

語形に関しては普通の名詞として使う場合非限定形では語末の弱文字が語末格母音u+タンウィーン「-un」を保持できず弱文字部分が消えて第2語根部分が「-in」となってしまうため主格・属格が سَامٍ [ sāmin ] [ サーミン ] となるが、人名として用いる場合は単独でも سَامِي [ sāmī ] [ サーミー ] と展開した形となる。

ちなみにアラブ世界で一世を風靡した往年の人気アニメであるグレンダイザーや宝島のアラビア語版主題歌を歌っていたレバノン人歌手の故 سَامِي كلارك(サーミー・クラーク、公式アカウント英字表記:Sammy Clark)氏の本名ならびに芸名のファーストネームがこの名前だった。彼の名前に関しては日本語の記事でサーミ、サミ、サミーと書かれていることも少なくない。】

【 口語アラビア語では語末の長母音īが短母音iになることが多いたサーミと聞こえることも。長母音ī(イー)を表す英字表記としては-ii、-i以外にも-y、-eeなどがあるが-eeについては-e1文字に減らしたつづりSaame、Sameも存在。「イー」もしくは口語風に短母音化した「イ」を意図しているものと思われ、必ずしもサーメと読ませることを示唆したものではないと言える。Sameについてはアラブ人名では英語のsame(セイム)のような発音をするつづりではないのでセイムとしないよう要注意。

この他には長母音āがēになるマグリブ(北アフリカ)方言などのセーミー、セーミ等寄り発音に対応した英字表記Seemii、Seemi、Semy、Semee、そして「エー」のつづりバリエーションとして派生したであろうSeamyなども見られる。
日本語のカタカナ表記では長母音無しのサミ、前半もしくは後半のみ長母音を戻したサミー、サーミなど。】

サーミフ
سَامِح [ sāmiḥ ] [ サーミフ ] ♪発音を聴く♪
Saamih、Samih
ゆるす(者)、寛大な(者)、心が広い(者)

【 能動分詞男性形。動詞 سَمَحَ [ samaḥa ] [ サマハ ](赦す;許す、可能にする;(寛大にも)与える) もしくは سَمُحَ [ samuḥa ] [ サムハ ](寛大である、心が広い)の動作主・行為者であることを示す。】

【 最後の子音 ح [ ḥ ] は日本語の「ハ」と同じ声門から出す ه [ h ] と違いもう少し上の咽頭を狭めて発音。通常の読み方では語末につく格母音を省略し 子音 ح [ ḥ ] で止めるが ف [ f ] ではないためサーミフではなくサーミハに近く聞こえることもある。

口語的な発音でiがeに転じてサーメフのように聞こえる発音に対応した英字表記はSaameh、Sameh。なおSamehのehは英語のようにエーと伸ばすわけではないため、原語のアラビア語に忠実なカタカナ表記ではサーメー、サーメ、サメーとはしない。移民などで英語圏に定着した人物のアラビア語由来ネームを現地発音している場合はそちらに合わせる必要が出てくる。

携帯電話にアラビア語キーボードが無かった時代に普及したチャットアラビア語の影響から、SNSのユーザーネーム等では語末の ح [ ḥā’ ] [ ハー(ゥ/ッ) ] を7に置き換えたSaami7、Sami7、Saame7、Same7などが見られる。いずれもサーミフもしくはサーメフという発音を意図したもの。

日本語記事におけるカタカナ表記で考え得るバリエーションはサーミフ、サミフ、サーミハ、サミハ、サーメフ、サメフ、サーメハ、サメハ。】

サーミル
سَامِر [ sāmir ] [ サーミル ] ♪発音を聴く♪
Saamir、Samir
(晩・夜になされる会話・会談・談話で)話をしている(人)、話者、話し手;(話・歌・音楽などで無聊を慰め)楽しませる人、エンターテイナー

【 動詞完了形 سَمَرَ [ samara ] [ サマラ ](夜に会話をする)の能動分詞。名詞 سَمَر [ samar ] [ サマル ](夜の語らい、夜に行う談話)の動作主・行為者であることを示す。サマルの元来の意味は「夜の会話」で砂漠などの屋外で月明かりを浴びながら語らうことなどを指した。同席者は友達同士とは限らず、家族・知人・地域住民・座談会参加者・親友など色々な関係性で結ばれた者同士が参加者・同席者となり得る。

知人と歌・ごちそう・踊りを楽しんでワイワイするエンターテインメント、楽しい夜更かし、夜遊びという意味合いは後代になってから加わった用法だという。預言者ムハンマドの時代には現代よりも سَهَر [ sahar ] [ サハル ](夜遅くまで起きていること、夜更かしすること)と سَمَر [ samar ] [ サマル ](夜の語らい、夜に行う談話)との区別がもう少しはっきりしており、「翌朝明け方の礼拝を寝過ごしてしまわないよう、サマル(夜の会話)は早めに終わらせ就寝すべきである」といった教えも残っているなどする。】

【 口語的的にiがeに転じたサーメル寄り発音に対応した英字表記はSaamer、Samer。なお-ir、-erは英語のような巻き舌発音はしないのでアラビア語に忠実なカタカナ表記とする場合はサーマー、サマー、サーメー、サメーとはしないが、実際には本人によって公式のカタカナ表記的に使われていることもある。

カタカナ表記だとアラビア語ではつづり・発音が異なる ثَامِر [ thāmir ] [ サーミル ] と同じになってしまい、しかも英語圏ではサーミルのような名前の長母音が後半にずれてサミールと読まれる可能性があり英語風発音が参考にならないこともあるため、元のアラビア語表記で確認しないと区別が難しい。

英字表記Samir、Samerは同じ語根「س - م - ر」(s - m - r)からなる別の男性名 سَمِير [ samīr ] [ サミール ]((晩・夜になされる会話・会談・談話で)話をしている(人)、話者、話し手;(晩・夜になされる会話・会談・談話における)話し相手、同席者;(話・歌・音楽などで無聊を慰め)楽しませる人、エンターテイナー)のつづりバリエーションとかぶるため、混同に要注意。】

サーミル
ثَامِر [ thāmir ] [ サーミル ] ♪発音を聴く♪
Thaamir、Thamir
(植物・木が)実をつけている、実りが豊かな;その人の財産が増えた、富裕である

【 動詞完了形 ثَمَرَ [ thamara ] [ サマラ ]((植物・木が)実をつける;物事が熟す・完全な状態になる;その人の財産が増える、富裕になる)の能動分詞。財産が増え豊かになること、裕福な暮らしを送る人生、子供たちの誕生を連想させる名前。】

【 口語的にiがeに転じたサーメル発音に対応した英字表記はThaamer、Thamer。アラビア語では方言によっては ث [ th ] が س [ s ] 音に置き換わる発音があること、「th」を英語のthe(ザ)のように濁点つきにならないよう発音がthreeなどのtheに似たsで置き換えたと思われる英字表記のつづりがあるため、語頭の子音を舌を歯ではさんで発音するはずの ثَامِر [ thāmir ] [ サーミル ] がSaamir、Samir、Saamer、Samerとなっているケースも見られる。

日本語におけるカタカナ表記としてはサーミル、サミル、サーメル、サメルなどが混在。-ir、-erは英語のような巻き舌発音はしないのでアラビア語に忠実なカタカナ表記とする場合はサーマー、サマー、サーメー、サメーとはしないが、実際には使われている例も少なくない。

カタカナ表記だとアラビア語ではつづり・発音が異なる別の男性名 سَامِر [ sāmir ] [ サーミル ]((晩・夜になされる会話・会談・談話で)話をしている(人)、話者、話し手;(話・歌・音楽などで無聊を慰め)楽しませる人、エンターテイナー)や سَمِير [ samīr ] [ サミール ]((晩・夜になされる会話・会談・談話で)話をしている(人)、話者、話し手;(晩・夜になされる会話・会談・談話における)話し相手、同席者;(話・歌・音楽などで無聊を慰め)楽しませる人、エンターテイナー)の表記バリエーションのうちのいくつかと同じになってしまうので、元のアラビア語表記で確認しないと区別が難しい。しかも英語圏ではサーミルのような名前の長母音が後半にずれてサミールと読まれる可能性があり英語風発音が参考にならないことも考慮に入れる必要がある。】

サーリー
سَارِي [ sārī ] [ サーリー ] ♪発音を聴く♪
Saarii、Sari、Saary、Sary、Saaree、Saree
夜に旅をする(者)、夜に道を進む(者)、夜道を行く(者);夜にできる雲、夜にやってくる雲、夜に降る雨;雨雲、雨を降らせる雲;(別名的に)ライオン、獅子;帆船のマスト

【 能動分詞男性形。動詞 سَرَى [ sarā ] [ サラー ]((夜間に)発つ、旅立つ、去る;(夜間に)旅をする、道を進む、夜道を行く)の動作主・行為者であることを示す。ライオンの別名として使われているのは夜行性で夜に活動することからついたもので、ライオン・獅子を意味する一般的な名詞 أَسَد [ ’asad ] [ アサド ] の属性名・別名のひとつとして使われている。

動詞 سَرَى [ sarā ] [ サラー ] は「(血・物質が体内などに)広がる、めぐる」「(木の根が地中で)伸び広がる、這い巡る」といった意味でも使われるが、人名の由来・意味として人名辞典に載っているのは上記の意味の方。

語形に関しては普通の名詞として使う場合非限定形では語末の弱文字が語末格母音u+タンウィーン「-un」を保持できず弱文字部分が消えて第2語根部分が「-in」となってしまうため主格・属格が سَارٍ [ sārin ] [ サーリン ] となるが、人名として用いる場合は単独でも سَارِي [ sārī ] [ サーリー ] と展開した形となる。】

【 口語アラビア語では語末の長母音īが短母音iになることが多いためサーリと聞こえることも。長母音ī(イー)を表す英字表記としては-ii、-i以外にも-y、-eeなどがあるが-eeについては-e1文字に減らしたつづりSaare、Sareも存在。「イー」もしくは口語風に短母音化した「イ」を意図しているものと思われ、必ずしもザーレと読ませることを示唆したものではないと言える。

インドの衣服サリーも全く同じつづり・発音で当て字がされ سَارِي [ sārī ] [ サーリー ] と呼ばれているのでネット検索時は混同に注意。】

サーリフ
صَالِح [ ṣāliḥ ] [ サーリフ(サーリハに近く聞こえることも) ] ♪発音を聴く♪
Saalih、Salih
善良な、正しい、健全な、不正・腐敗とは無縁の、高潔な;敬虔な;適している;有効な

【 能動分詞男性形。動詞 صَلَحَ [ ṣalaḥa ] [ サラハ ] もしくは صَلُحَ [ ṣaluḥa ] [ サルハ ](善良である、正しい、健全である、不正・腐敗とは無縁である、高潔である;敬虔である;適している;有効である)の動作主・行為者であることを示す。

イスラームにおける預言者サーリフの名前としても広く知られる。クルアーンによるとサムードの民に警告を与えるためアッラーの使徒となったが、権勢や富に溺れていたサムードの人々は聞き入れず、神徴としてサーリフに授けられた奇跡の雌ラクダも殺害。神が下した罰により滅ぼされたという。 】

【 最後の子音 ح [ ḥ ] は日本語の「ハ」と同じ声門から出す ه [ h ] と違いもう少し上の咽頭を狭めて発音。通常の読み方では語末につく格母音を省略し 子音 ح [ ḥ ] で止めるが ف [ f ] ではないためサーリフではなくサーリハに近く聞こえることもある。

口語的な発音でiがeに転じてサーレフのように聞こえる発音に対応した英字表記はSaaleh、Saleh。なおSalehのehは英語のようにエーと伸ばすわけではないため、原語のアラビア語に忠実なカタカナ表記ではサーレー、サーレ、サレーとはしない。移民などで英語圏に定着した人物のアラビア語由来ネームを現地発音している場合はそちらに合わせる必要が出てくる。

携帯電話にアラビア語キーボードが無かった時代に普及したチャットアラビア語の影響から、SNSのユーザーネーム等では語頭の ص [ ṣād ] [ サード ] を数字の9、ح [ ḥā’ ] [ ハー(ゥ/ッ) ] を7に置き換えた9alih、9aaleh、9aleh、Saali7、Sali7、Saale7、Sale7、9aali7、9ali7、9aale7、9ale7などが見られる。いずれもサーリフもしくはサーレフという発音を意図したもの。

日本語記事におけるカタカナ表記で考え得るバリエーションはサーリフ、サリフ、サーリハ、サリハ、サーレフ、サレフ、サーレハ、サレハ。】

サーリム
سَالِم [ sālim ] [ サーリム ] ♪発音を聴く♪
Saalim、Salim
(被害・事故・損害・病害・不信仰から)無事な、免れて;無傷の、健康な、安全な

【 能動分詞男性形。動詞 سَلِمَ [ salima ] [ サリマ ]((被害・事故・損害・病害から)無事である、免れる;無傷である、健康である)の動作主・行為者であることを示す。】

【 口語的にiがeに転じた発音サーレムに対応した英字表記はSaalem、Salem。方言で長母音āがēになるマグリブ(北アフリカ)方言などのセーリム寄り発音に対応した英字表記Seelim、Selim、iのe化が加わったセーレム寄り発音に対応したSeelem、Selemも見られる。

英字表記Salim、Salemは同じ語根 س - ل - م(s - l - m)を共有しており意味もよく似ている別の男性名 سَلِيم [ salīm ] [ サリーム ]((被害・事故・損害・病害・不信仰から)無事な、免れて;無傷の、健康な、安全な;負傷した(人)、(ひどい)噛み傷を負った(人)、死にかけている(人)、瀕死の(人))の英字表記バリエーションとかぶるので原語であるアラビア語における発音や表記で確認しないと区別が難しい。

日本語におけるカタカナ表記はサーリム、サリム、サーレム、サレム。】

サーリヤ
سَارِيَة [ sāriya(h) ] [ サーリヤ(フ/ハ) ] ♪発音を聴く♪
Saariyah、Saariya、Sariyah、Sariya
夜に旅をする(人々、一行)、夜に道を進む(人々、一行)、夜道を行く(人々、一行);夜にできる雲、夜にやってくる雲、夜に降る雨;雨雲、雨を降らせる雲;帆船のマスト、(建物の)支柱

【 男性名としても使われる سَارِي [ sārī ] [ サーリー ](夜に旅をする(者)、夜に道を進む(者)、夜道を行く(者);夜にできる雲、夜にやってくる雲、夜に降る雨;雨雲、雨を降らせる雲;(別名的に)ライオン、獅子;帆船のマスト)に女性化などの機能がある ة(ター・マルブータ)をつけたもの。

る سَارِي [ sārī ] [ サーリー ] の時は「夜に旅をする(者)、夜に道を進む(者)、夜道を行く(者)」という単数的な意味になるが、ة(ター・マルブータ)がついたこちらの سَارِيَة [ sāriya(h) ] [ サーリヤ(フ/ハ) ] の方は「夜に旅をする(人々、一行)、夜に道を進む(人々、一行)、夜道を行く(人々、一行)」と複数・集団としての意味で辞書に載っており、微妙にニュアンスが異なる。

古い時代から使われている伝統的なアラブ人名で、預言者ムハンマドと共に初期イスラーム共同体で過ごした教友ら(サハーバ)の中にも数人サーリヤが存在。全員男性だったという。しかしながら女性名詞につくことが大半である ة(ター・マルブータが語尾にある女性名詞であることから現代では女児に命名する人もいるとのこと。そのため現代の人名辞典では女性名としか書いていないものがある。

なお、男性名として使う場合も女性名として使う場合も主格:سَارِيَةُ [ sāriyatu ] [ サーリヤトゥ ]、属格:سَارِيَةَ [ sāriyata ] [ サーリヤタ ]、対格:سَارِيَةَ [ sāriyata ] [ サーリヤタ ] という二段変化となる


【 アラビア語の文語だとこの人名を単体で発音する時は سَارِيَة [ sāriyah ] の最後の子音「h」(ワクフと呼ばれる休止形発音なので「t」とはしない)をほんのり聞こえる軽い発音で出すため、厳密には耳を澄ませて聞くと [ サーリヤフ ] と [ サーリヤハ ] の中間のような読み方をしている。しかし現代文語会話や口語(方言)だと ة の休止形(ワクフ)発音である ه [ h ] が落ちてしまい手前の-aまでしか読まなくなっているので、日本では学術的な表記でもSaariyah、Sariyahと表記してあるものをサーリヤフ、サーリヤハとはせずサーリヤと書くのが標準ルールとなっている。】

【 語末の-iya部分が-iaに置き換えられるというアラブ人名の英字表記に多いパターンに従ったSaariah、Saaria、Saariah、Sariaというつづりバリエーションもある。原語のアラビア語ではサーリヤだが英語圏での発音や日本語のカタカナ表記でサーリア、サリアが見られる原因となっている。

レヴァント(レバント)地方やその他地域の口語アラビア語(方言)では語末の-a(h)部分が-e(h)となりサーリイェ、サーリエと聞こえるような発音に変化する。そのためサーリイェ、サーリエ系発音に対応したSaariyeh、Sariyeh、Sariye、Sariye、y無しのSaarieh、Sarieh、Saarie、Sarieなどが派生し得る。】

サアド
سَعْد [ sa‘d ] [ サアド(サァドに近く聞こえることも) ]  ♪発音を聴く♪
Sa‘d、Saad、Sad
幸福、幸運

【 動詞 سَعِدَ [ sa‘ida ] [ サイダ ](幸せである、幸福である、幸運である)の動名詞。もうひとつの動名詞 سَعَادَة [ sa‘āda(h) ] [ サアーダ(フ/ハ) ](幸福、幸運)と似た内容を示す。

ジャーヒリーヤ時代からある伝統的な古いアラブ男性名で部族名としても使われている。イスラーム以前、多神教・偶像・天体崇拝が行われていたジャーヒリーヤ時代にはこの سَعْد [ sa‘d ] [ サアド(サァドに近く聞こえることも) ] の名前を持ったサアド神が紅海沿岸港湾都市 جُدَّ [ judda(h) ] [ ジュッダ(フ/ハ) ](*文語的な古くからの発音はジュッダだが現代ではジッダ、ジェッダといった読まれ方が広く流布している。) 近辺の主に كِنَانَة [ kināna(h) ] [ キナーナ ](キナーナ)族二支族によって信仰されていた。

サアド神は幸福を司る神だが御神体はシンプルな長い岩石で、イスラーム以前の岩石・奇石・隕石信仰のひとつとして参詣されていた。ジャーヒリーヤ時代からあった عَبْد ـــ [ ‘abd(u) ◯◯ ] [ アブド・◯◯ ](◯◯のしもべ)方式複合名の一部にもなっており、عَبْد سَعْد [ ‘abd(u) sa‘d ] [ アブド・サアド/サァド ](アブド・サアド。意味は「サアドのしもべ」「サアド神のしもべ」)という男性名も存在。人々はサアド神の加護・ご利益を願って我が子に命名していた。

サアドの名を持つイスラーム初期の有名人物としては預言者ムハンマドと行動を共にした教友(サハービー)でクライシュ族出身の سَعْد بْن أَبِي وَقَّاص [ sa‘d(u) bnu ’abī waqqāṣ ] [ サアド/サァド・ブヌ・アビー・ワッカース ](サアド・イブン・アビー・ワッカース)がいる。イラク征服に貢献し、建設された軍営都市クーファの統治にあたった。天国の楽園に必ず入ることができるであろうとされた10人のうちの1人。】

【 この人名ではSaとdの後に ع [ ‘ayn / ‘ain ] [ アイン ] という子音がはさまっている。咽頭(のどひこ/のどち◯この奥にあるのどの上部分)を締めつけて出す子音で、この人名では母音無しの無母音(スクーン記号がついた)状態で発音されるためサアドというよりはサァドに近く聞こえることが多い。

この ع [ ‘ayn / ‘ain ] [ アイン ] は英字表記だと「‘」(/ ‘ / ʿ)のような記号で表すなどするが、通常のアラブ人名英字表記ではaやaeなどに置き換わるか表記から抜け落ちるかすることが一般的であるため、Sa‘dではなくただのSaadやSadとなっていることが多い。i/eの母音挿入もしくはアイン発音の再現と思われるi入りのSaidやe入りのSaedなども見られる。いずれのケースも英字表記から原語のアラビア語における正確な発音を推測するのが難しい。

携帯電話にアラビア語キーボードが無かった時代に普及したチャットアラビア語の影響から、SNSのユーザーネーム等では語中の ع [ ‘ayn/‘ain ] [ アイン ] を数字の3に置き換えたSa3d、そして母音挿入ありな感じのSa3ad、Sa3id、Sa3edなども用いられている。

日本語におけカタカナ表記はサアド、サードなど。なおSadはこれでサアドもしくは非アラビア語圏の人にも発音しやすいよう少し変えたサードと読むことを意図しており、英単語の sad [ サ(ッ)ド ](悲しい)のような発音をさせるためのものではないので要注意。】

サアドゥーン
母音記号無し:سعدون
母音記号あり:سَعْدُون [ sa‘dūn ] [ サアドゥーン(サァドゥーンに近く聞こえることも) ] ♪発音を聴く♪
Saaduun、Saadun、Saduun、Sadun、Saadoun、Sadoun、Saadoon、Sadoon、Sadonなど
幸福な者、幸運な者

■意味と概要■

イスラーム教徒が統治していたことのイベリア半島(アル=アンダルス)に多く見られた人名の型。アラブ世界で古くからあった伝統的男性名 سَعْد [ sa‘d ] [ サアド ](幸運、幸福)が由来で、男性名 خَلْدُونُ [ khaldūn ] [ ハルドゥーン ] などと同様、語末の ـُون [ -ūn ] [ -ウーン ] は愛称として呼ぶために添加されたもの。愛着を示したり、「小さくてかわいいサアドちゃん」的な気持ちを込めたりするアンダルス特有の人名語形で、カスティーリャで使われていた用法がアンダルス在住アラブ人たちの口語に取り入れられたものだという説もあるとか。

アンダルス地方やマグリブ地方(北アフリカ)のアラブ人たちに使われていた特殊な語形の人名タイプということで、専門家の見解によると外来語と同様に二段変化の固有名詞として扱うのが一般的。その根拠は(1)この語尾を付加することで愛着・愛玩・好意・強調などを示すという複数化とは異なる用法であること、(2)純粋なアラビア語文語(フスハー)文法には存在しないものであること。

外来語同様の扱いし二段変化とするというのが通常の学説ではあるものの、三段変化してそれぞれ主格:[ -un] [ -ウン ]、属格:[ -in ] [ -イン ]、対格:[ -an ] [ -アン ] という語尾にすべしというアラビア語学者も過去にはいたとのこと。

■発音と表記■

この人名ではSaとdの後に ع [ ‘ayn / ‘ain ] [ アイン ] という子音がはさまっている。咽頭(のどひこ/のどち◯この奥にあるのどの上部分)を締めつけて出す子音で、この人名では母音無しの無母音(スクーン記号がついた)状態で発音されるためサアドゥーンというよりはサァドゥーンに近く聞こえることも。

ع [ ‘ayn / ‘ain ] [ アイン ] は英字表記だと「‘」、「ʿ」のような記号で表すなどするが、は通常のアラブ人名英字表記ではaやaeなどに置き換わるか表記から抜け落ちるかすることが一般的であるため、前半部分に関してはSa‘d-ではなくただのSaad-やSad-となっていることが多い。i/eの母音挿入もしくはアイン発音の再現と思われるi入りのSaid-やe入りのSaed-なども見られる。いずれのケースも英字表記から原語のアラビア語における正確な発音を推測するのが難しい。

なお「Sad-」部分はこれでサアドゥーンもしくは非アラビア語圏の人にも発音しやすいよう少し変えたサードゥーンと読むことを意図しており、英単語の sad [ サ(ッ)ド ](悲しい)のような発音をさせるためのものという訳ではないので要注意。

後半部分に関しては-ドゥーンもしくは短母音化に近い-ドゥン、口語的なuのo寄り発音による-ドーン、-ドンに聞こえる発音に対応していると思われる-uun、-un、-oun、-oon、-on以外にも-own、-oan

携帯電話にアラビア語キーボードが無かった時代に普及したチャットアラビア語の影響から、SNSのユーザーネーム等では語中の ع [ ‘ayn/‘ain ] [ アイン ] を数字の3に置き換えたSa3d-、そして母音挿入ありな感じのSa3ad-、Sa3id-、Sa3ed-なども用いられている。

上記のような前半部分、後半部分それぞれの英字表記バリエーションを合わせたSa‘duun、Sa‘dun、Sa‘doun、Sa‘doon、Sa‘don、Sa‘aduun、Sa‘adun、Sa‘adoun、Sa‘adoon、Sa‘adon、Sa‘adown、Saaduun、Saadun、Saduun、Sadun、Saadoun、Sadoun、Saadoon、Sadoon、Saadon、Sadon、Saadown、Sadown 、Saadoan、Sadoan、Saiduun、Saidun、Saidoun、Saidoon、Saidon、Saeduun、Saedun、Saedun、Saedoun、Saedoon、Saedon、Sa3duun、Sa3dun、Sa3doun、Sa3doon、Sa3don、Sa3down、Sa3doan、Sa3idun、Sa3idoun、Sa3edoun、Sa3adun、Sa3adoun、Sa3adoon、Sa3adonなどの使用例が見られる。

サアドゥッディーン(サアド・アッ=ディーン)
سَعْد الدِّينِ [ sa‘du-d-dīn ] [ サアドゥ・ッ=ディーン ] ♪発音を聴く♪
Sa'd al-Diin、Sa'd al-Din、Saad al-Diin、Saad al-Din、Sad al-Diin、Sad al-Dinなど
宗教の幸福、宗教の幸運、信仰の幸福、信仰の幸運

【 男性名としても使われる名詞 سَعْد [ sa‘d ] [ サアド(サァドに近く聞こえることも) ](幸福、幸運)を後ろから定冠詞のついた名詞 اَلدِّين [ ’ad-dīn ] [ アッ=ディーン ](宗教、具体的にはイスラーム教という宗教を示唆)が属格(≒所有格)支配したイダーファ構文の複合名。元々功績を挙げた人物に与えていた称号(ラカブ)が一般男性名となったもの。

宗教(イスラーム)が彼による貢献のおかげで幸福・幸運を得られる、という意味ではなく人の側がイスラームから幸せ・幸運を得る、宗教・信仰によって幸福・幸運を得た者、というニュアンスだとか。】

【 分かち書きをするとサアド・アッ=ディーンだがアラビア語ではこうした複合語は途切れさせず一気読みする。定冠詞を含む語の前に別の語が来た時は語頭の [ ’a ] [ ア ] 音は省略され、かつ1語目の語末にある主語の格を示す母音「u(ウ)」も読み上げるため、合わせてサアドゥ・ッ=ディーンに。カタカナ表記はこうした一気読みする複合名に関しては「・」などを用いずサアドゥッディーンとするのが標準的。

前半部分のつづりは単体の時の人名 سَعْد [ sa‘d ] [ サアド(サァドに近く聞こえることも) ] と同様のつづりバリエーションを考慮に入れる。Sa'd、Saad、Sad、Said、Saedなど。後半部分は定冠詞部分が促音化したアッ=を反映しない「al-」のままのal-Diin、al-Din、al-Deen、al-Den、al-Deanと促音化を反映した「ad-」を含むad-Diin、ad-Din、ad-Deen、ad-Den、ad-Deanなど。

これらを組み合わせるとSa'd al-Diin、Sa'd al-Din、Sa'd al-Deen、Sa'd al-Den、Sa'd al-Dean、Sa'd ad-Diin、Sa'd ad-Din、Sa'd ad-Deen、Sa'd ad-Den、Sa'd ad-Dean、Saad al-Diin、Saad al-Din、Saad al-Deen、Saad al-Den、Saad al-Dean、Saad ad-Diin、Saad ad-Din、Saad ad-Deen、Saad ad-Den、Saad ad-Dean、Sad al-Diin、Sad al-Din、Sad al-Deen、Sad al-Den、Sad al-Dean、Sad ad-Diin、Sad ad-Din、Sad ad-Deen、Sad ad-Den、Sad ad-Dean、Said al-Diin、Said al-Din、Said al-Deen、Said al-Den、Said al-Dean、Said ad-Diin、Said ad-Din、Said ad-Deen、Said ad-Den、Said ad-Dean、Saed al-Diin、Saed al-Din、Saed al-Deen、Saed al-Den、Saed al-Dean、Saed ad-Diin、Saed ad-Din、Saed ad-Deen、Saed ad-Den、Saed ad-Deanといった英字表記が派生し得る。

さらには1語目と2語目の息継ぎ無しつなげ読みに即したスペース無しのSa'duddiin、Sa'duddin、Sa'duddeen、Sa'dudden、Sa'duddean、Saaduddiin、Saaduddin、Saaduddeen、Saadudden、Saaduddean、Saduddiin、Saduddin、Saduddeen、Sadudden、Saduddean、Saiduddiin、Saiduddin、Saiduddeen、Saidudden、Saiduddean、Saeduddiin、Saeduddin、Saeduddeen、Saedudden、Saeduddeanなども派生し得る。

つなげ書きパターンでは母音u部分が口語的なoに転じサアドッディーン寄りとなったSa'doddiin、Sa'doddin、Sa'doddeen、Sa'dodden、Sa'doddean、Saadoddiin、Saadoddin、Saadoddeen、Saadodden、Saadoddean、Sadoddiin、Sadoddin、Sadoddeen、Sadodden、Sadoddean、Saidoddiin、Saidoddin、Saidoddeen、Saidodden、Saidoddean、Saedoddiin、Saedoddin、Saedoddeen、Saedodden、Saedoddeanなども考えられる。

また口語的に1語目と2語目を連結する際に定冠詞語頭の「ア」音が残った感じのサアダッディーン系統発音に即したSa'daddiin、Sa'daddin、Sa'daddeen、Sa'dadden、Sa'daddean、Saadaddiin、Saadaddin、Saadaddeen、Saadadden、Saadaddean、Sadaddiin、Sadaddin、Sadaddeen、Sadadden、Sadaddean、Saidaddiin、Saidaddin、Saidaddeen、Saidadden、Saidaddean、Saedaddiin、Saedaddin、Saedaddeen、Saedadden、Saedaddeanなどもバリエーション候補として考慮に入れる必要がある。

-dd-を1個に減らしたSa'dudiin、Sa'dudin、Saadudiin、Saadudin、Sadudiin、Sadudin(以下略)なども同じ男性名の表記バリエーションだが、重子音化した促音部分がわからなくなっているのでSadudinあたりは仮にアラブ人名だとした場合サドゥディン、サドディンとカタカナ化してしまうと原語アラビア語の発音とはかなり変わってしまうので要注意。

パキスタン、インド方面では1語目末につく格母音「u」と定冠詞とをドッキングさせたSaad ud-Din、Sad ud-Deenといった表記も見られる。定冠詞部分については南アジア風のud-以外にアラブ系人名の英字表記として「al-◯◯」、「Al-」、スペース無しの「Al◯◯」。スペースありの「Al ◯◯」など複数通りが併存。口語における定冠詞の発音変化に即した「el-」「il-」そしてさらに後続の د [ d ] との発音同化を反映した「ed-」「id-」の系統が上記の多様な英字表記各パターンに加わる形となる。

また、携帯電話にアラビア語キーボードが無かった時代に普及したチャットアラビア語の影響からSNSのユーザーネーム等では1語目 سَعْد [ sa‘d ] [ サアド(サァドに近く聞こえることも) ](幸福、幸運) 真ん中の ع [ ‘ayn/‘ain ] [ アイン ] を数字の3に置き換えたSa3dそして母音挿入を反映したSa3id、Sa3edといった表記も見られる。】

サイード
母音記号無し:سعيد
母音記号あり:سَعِيد [ sa‘īd ] [ サイード ] ♪発音を聴く♪
Sa‘iid、Sa‘id、Saiid、Said、Saeedなど
幸せな、幸福な(者);幸運な(者);嬉しい、喜んでいる(人)

■意味と概要■

動詞 سَعِدَ [ sa‘ida ] [ サイダ ](幸せである、幸福である、幸運である)の動名詞より。動詞が示す性質・状態を継続して有することを意味する、分詞に類似した فَعِيلٌ [ fa‘īl(un) ] [ ファイールン ] 型語形。

別の男性名 سَعْد [ sa‘d ] [ サアド(サァドに近く聞こえることも) ](幸福、幸運)、男性名 أَسْعَد [ ’as‘ad ] [ アスアド ](より/最も幸せな、より/最も幸福な、より/最も幸運な)、女性名 سُعَاد [ su‘ād ] [ スアード ] と同じ語根「س - ع - د」(s - ‘ - d)を共有、「幸福」「幸運」に関連した概念を表す。

■発音と表記■

この人名ではSaとīの後に ع [ ‘ayn / ‘ain ] [ アイン ] という子音がはさまっている。咽頭(のどひこ/のどち◯この奥にあるのどの上部分)を締めつけて出す子音で、サの後に力む瞬間がはさまることによってサァイード、サアィード、サェイード、サィイードに近く聞こえることもしばしば。

ع [ ‘ayn / ‘ain ] [ アイン ] は英字表記だと「‘」(/ ‘ / ʿ)のような記号で表すなどするが、通常のアラブ人名英字表記ではaやaeなどに置き換わるか表記から抜け落ちるかすることが一般的であるため、Sa‘iid、Sa‘idではなくただのSaiid、Saidとなっていることが多い。

サイードの長母音「ī(イー)」に関してはSa‘iid、-ii-を1個に減らしたSa‘id、Sa‘eed、-ee-を1個に減らしたSa‘ed、Sa‘eadといった英字表記バリエーションが存在。英字表記が原語アラビア語での発音 [ sa‘īd ] [ サイード ] と離れているつづりもあり、サエド、サエアドとしないよう要注意。なお長母音āがaと書かれることが多いアラブ人名だがサイードには「アー」の音は無いのでサーイード、サーイドとはしないことを推奨。

これに「‘」を使わない ع [ ‘ayn / ‘ain ] [ アイン ] の各種英字表記バリエーションが加わってSaiid、Said、Saeed、Saed、Saead、Saaed、Saeidなどが派生。なおSaeidは「ei」が ع [ ‘ayn / ‘ain ] [ アイン ] のアィとエィが混ざったような咽頭を引き締めて出す音を記号抜きで表現したものでサエイドではなくサェイード寄りのサイードを意図している可能性が高いと思われる。

携帯電話にアラビア語キーボードが無かった時代に普及したチャットアラビア語の影響から、SNSのユーザーネーム等では語中の ع [ ‘ayn/‘ain ] [ アイン ] を数字の3に置き換えたSa3iid、Sa3id、Sa3eed、Sa3ed、Sa3ead、Sa3aed、Sa3eidなどの使用が見られる。

■混同されることのある人名■

なお語形が全く同じでカタカナ表記にするとよく似ているザイードとは全く別の名前。ザイードはサイードの表記揺れだとのネット記事も見られるが誤り。ザイードはキャラネーミングに多用されているものの実はアラビア語には存在しない人名で、アラブ首長国連邦大統領を務めたアブダビ首長のファーストネームなどとして知られる男性名ザーイドの英語風発音ザイードが本来のザーイド(ないしは姉妹語でもある別の男性名ザイド)のアラビア語発音に置き換わったもの。

そのためキャラ名のザイードとしては、本来のザーイドが持つ「増える;増やす;生長する(者)」やザイドが持つ「増加;生長」を意味。日本語にすると「増男(ますお)」さんに相当するのに対し、本項目のサイードは「幸男(ゆきお)」に対応しており、人名としても意味が異なっている。

サイイド
母音記号無し: 母音記号あり:سَيِّد [ sayyid / saiyid ] [ サイイド ] ♪発音を聴く♪
Sayyid、Saiyid
(一般人民や奴隷などの)主人、主(あるじ);長;君主、領主;(英語の敬称Mr.の訳語として)~氏、(複数形 سَادَة [ sāda(h) ] [ サーダ ] で英語での呼びかけgentlemenの訳語として)紳士;(預言者ムハンマドの子孫に対する呼称・敬称・肩書きとして)サイイド;夫、主人

■語形と意味■

動詞 سَادَ [ sāda ] [ サーダ ](率いる、長となる)より。率いている・長である状態が継続していることを示す分詞類似の名詞。能動分詞的意味合いを持つため、「率いる、長となる」ことの主体、つまりは「長、主、君主」といった語義となる。

本来は كَرِيم [ karīm ] [ カリーム ] と同じく形容詞的用法などで使われる分詞類似の語だが、 動詞完了形が فَعَلَ [ fa‘ala ] [ ファアラ ] 型かつ第2語根が弱文字という سَادَ [ sāda ] [ サーダ ] であることからفَعِيلٌ [ fa‘īl(un) ] [ ファイール(ン) ] 語形はとらずに فَيْعِلٌ [ fay‘il(un) / fai‘il(un) ] [ ファイイル(ン) ])語形となっている。(فَيْعَلٌ [ fay‘al(un) / fai‘al(un) ] [ ファイアル(ン) ] と書かれている解説も見られるが、弱文字を含む語根の時には適応されず فَيْصَلٌ [ fayṣal / faiṣal ] [ ファイサル ] のような強動詞由来の分詞類似語の形成に関わるという。)

語としての分類が同じで語形もよく似ていること、また別の男性名 سَعِيد [ sa‘īd ] [ サイード (幸せな、幸福な(者);幸運な(者);嬉しい、喜んでいる(人))と響きが近いことから سَيِيد [ sayīd ] [ サイード ] としばしば誤読されることがあるが、サイードではなくサイイドなので要注意。(誤:サイード・クトゥブ→正:サイイド・クトゥブ、エジプトのムスリム同胞団における理論・精神的指導者)

■人名の由来としての「主」「長」とは別枠の様々な用法■

英語の敬称Mr.の訳語としての用法は近現代に西洋的な言い回しを輸入した際にアラビア語化されたもので、定冠詞 اَلْـ [ ’al- ] [ アル= ](al-)がついた اَلسَّيَّد [ ’as-sayyidu / ’as-saiyidu ] [ アッ=サイイド ] をファーストネームの前に置いて用いる。

呼称・敬称・肩書きとしてのサイイドがつく預言者ムハンマドの子孫だが、彼には複数の子供らがいたものの孫以降の代が続いているのは娘ファーティマの家系のみとなっている。ファーティマと夫である第4代正統カリフ・初代シーア派イマームのアリー・イブン・アビー・ターリブとの間に生まれた息子(アル=)ハサンと(アル=)フサインはいずれもイスラーム共同体内部での抗争のため死去しているが、シーア派第2代イマームの(アル=)ハサン、第3代イマームの(アル=)フサインの遺児らがサイイドの祖先となった。

イラン、イラクや湾岸諸国、レバノンほかに居住するシーア派コミュニティーではイスラーム宗教家(法学者、神学者)が頭に巻く頭巾(ターバン、عِمَامَة [ ‘imāma(h) ] [ イマーマ(フ/ハ) ])の色で判別が可能で、黒はサイイド家系、白は非サイイド家系となっている。またシーア派イマームたちの墓廟がありシーア派人口が多いイラクではサイイド家系の人物が緑色の頭巾(シュマーグ)をかぶる慣習があり、ただのおしゃれ目的で非サイイド家系の一般人が緑色のシュマーグをかぶることは敬遠されているという。

アラブ世界のキリスト教徒がイエス・キリストについて言及する際にも敬称としてこの語が用いられ、اَلسَّيِّدُ الْمَسِيحُ [ ’as-sayyidu/’as-saiyidu-l-masīḥ ] [ アッ=サイイドゥ・ル=マスィーフ ](アッ=サイイド・アル=マスィーフ、The Messiah。「メシア様」「救世主様」の意。)と呼ぶなどする。

なお現代では一個人への敬称として気軽に使われているが、定冠詞 اَلْـ [ ’al- ] [ アル= ](al-)がついた اَلسَّيَّد [ ’as-sayyidu / ’as-saiyidu ] [ アッ=サイイド ] は唯一神アッラーの属性名(美名、美称)の一つでもあり意味は「全ての長」。アッラー99の美名一覧には含まれないが、預言者ムハンマドの言行録ハディースを通じ伝えられているものの1つ。

■つづり、英字表記、カタカナ表記■

-ay-部分はアラビア語では二重母音-ai-を表すため英字表記も-ay-つづりと-ai-つづりの両方が見られる。なおアクセントは先頭の「サイ」部分に来る。

アラビア語文語の二重母音「ay(=ai)」部分は日常会話・口語ではei(エイ)もしくはē(エー)音になることが多く、セイイド(対応英字表記:Seyyid、Seiyid)、セーイドと聞こえる発音が広く行われている原因となっている。

後半部分において口語的にiがeに転じたサイイェド、サイエドに近い発音に対応した英字表記はSayyed、Saiyed、二重母音部分の発音変化も加えたセイイドに対応したSeyyid、Seiyid、両パターンを合わせたセイイェド、セイエドに近い発音に対応したSeyyed、Seiyedなど。-yy-部分は重子音化記号のシャッダ(ـّ)がついているので英字表記ではyを2個連ねてSayyidなどとつづるのが一般的だが、1個に減らした英字表記Sayid、Sayed、Seyid、Seyedも。

また سَيِّد [ sayyid / saiyid ] [ サイイド ] の-ay-/-ai直後に本来無い母音がはさまった感じのSayiyid、Sayiid、Sayeyedといった英字表記、子音(半母音)yを抜いたSaiid、Said、Saied、Saed、Seiid、Seied、Seidなどの使用例も見られる。実際の発音サイイド、サイイェド、セイイド、セイイェド等とかけ離れたつづりも少なくなく、別の男性名 سَعِيد [ sa‘īd ] [ サイード ](幸せな、幸福な;幸運な;嬉しい、ハッピーな)の表記バリエーションとかぶってしまいアラビア語での発音を聞いたりアラビア語表記を見たりしない限り区別できないこともあるので要注意。

日本語におけるカタカナ表記ではサイイド、セイイド、サイイェド、セイイェド以外にも-id、-ed部分を英語圏単語のカタカナ表記風もしくは非アラビア語圏での発音風に促音化してサイイッド、セイイッド、サイッド、セイッドとしてあることも少なくない。

サイフ
母音記号無し:سيف
母音記号あり:سَيْف [ sayf / saif ] [ サイフ ] ♪発音を聴く♪
Sayf、Saif


【 「剣」を意味する基本的な語。アラビア語ではサイフという一般名称の他にも切れ味や機能にちなむ属性名的な別名が多数あり、男性名として使われているものも少なくない。例としてはファイサル、ファールーク、ムハンナド、フサームなど。】

【 「ay」部分は実際には二重母音「ai」として発音される部分なので英字表記はSayfとSaifの2系統が混在している。アラビア語文語の二重母音「ay(=ai)」部分は日常会話・口語ではei(エイ)もしくはē(エー)音になることが多く、セイフに対応したSeyf、Seif、セーフに対応したSeef、そして2個連なっている-ee-を1個に減らしたSefなども見られる。Sefに関してはセーフという発音を意図したものなのでセフとカタカナ化しないよう要注意。

方言によっては [ seif ] [ セイフ ] ではなく [ sief ] [ スィエフ ] と聞こえる発音になることがあり、一般的なeとiの位置が入れ替わったSiefといった英字表記も使われている。】

サイフッディーン(サイフ・アッ=ディーン)
سَيْف الدِّينِ [ sayfu/saifu-d-dīn ] [ サイフ・ッ=ディーン ] ♪発音を聴く♪
Sayf al-Diin、Sayf al-Din、Saif al-Diin、Saif al-Din、Sayfuddiin、Sayfuddin、Saifuddiin、Saifuddinなど
宗教の剣、信仰の剣

【 名詞 سَيْف [ sayf / saif ] [ サイフ ](剣)を後ろから定冠詞のついた名詞 اَلدِّين [ ’ad-dīn ] [ アッ=ディーン ](宗教、具体的にはイスラーム教という宗教を示唆)が属格(≒所有格)支配したイダーファ構文の複合名。その人が手に持った剣・武器によって宗教(イスラーム)を護るという宗教的な貢献を意味。元々功績を挙げた人物に与えていた称号(ラカブ)が一般男性名となったもののひとつ。】

【 分かち書きをするとサイフ・アッ=ディーンだがアラビア語ではこうした複合語は途切れさせず一気読みする。定冠詞を含む語の前に別の語が来た時は語頭の [ ’a ] [ ア ] 音は省略され、かつ1語目の語末にある主語の格を示す母音「u(ウ)」も読み上げるため、[ sayf / saif ] [ サイフ ] と [ ’ad-dīn ] [ アッ=ディーン ] を合わせて [ sayfu/saifu-d-dīn ] [ サイフ・ッ=ディーン ] に。カタカナ表記はこうした一気読みする複合名に関しては「・」などを用いずサイフッディーンとするのが標準的。

前半「ay」部分は二重母音「ai」となるため英字表記はSayfとSaifの2系統が混在している。後半部分は定冠詞部分が促音化したアッ=を反映しない「al-」のままのal-Diin、al-Din、al-Deen、al-Den、al-Deanと促音化を反映した「ad-」を含むad-Diin、ad-Din、ad-Deen、ad-Den、ad-Deanなど。

これらを組み合わせるとSayf al-Diin、Sayf al-Din、Sayf al-Deen、Sayf al-Den、Sayf al-Dean、Saif al-Diin、Saif al-Din、Saif al-Deen、Saif al-Den、Saif al-Dean、Sayf ad-Diin、Sayf ad-Din、Sayf ad-Deen、Sayf ad-Den、Sayf ad-Dean、Saif ad-Diin、Saif ad-Din、Saif ad-Deen、Saif ad-Den、Saif ad-Deanといった英字表記が使われ得る。

さらには1語目と2語目の息継ぎ無しつなげ読みに即したスペース無しのSayfuddiin、Sayfuddin、Sayfuddeen、Sayfudden、Sayfuddean、Saifuddiin、Saifuddin、Saifuddeen、Saifudden、Saifuddeanなども。

このつなげ書きパターンでは母音u部分が口語的なoに転じサイフォッディーン寄りとなったSayfoddiin、Sayfoddin、Sayfoddeen、Sayfodden、Sayfoddean、Saifoddiin、Saifoddin、Saifoddeen、Saifodden、Saifoddeanなども考えられる。口語的に1語目と2語目を連結する際に定冠詞語頭の「ア」音が残った感じのサイファッディーン系統発音に即したSayfaddiin、Sayfaddin、Sayfaddeen、Sayfadden、Sayfaddean、Saifaddiin、Saifaddin、Saifaddeen、Saifadden、Saifaddeanなどもバリエーション候補として考慮に入れる必要がある。

アラビア語文語の二重母音「ay(=ai)」部分は日常会話・口語ではei(エイ)もしくはē(エー)音になることが多く、セイフに対応したSeyf、Seif、セーフに対応したSeef、そして2個連なっている-ee-を1個に減らしたSefなども見られる。方言によっては [ seif ] [ セイフ ] ではなく [ sief ] [ スィエフ ] と聞こえる発音になることがあり、一般的なeとiの位置が入れ替わったSiefといった英字表記も使われている。

そうした文語発音から口語発音への変化によりSeyf al-Diin、Seyf al-Din、Seyf al-Deen、Seyf al-Den、Seyf al-Dean、Seif al-Diin、Seif al-Din、Seif al-Deen、Seif al-Den、Seif al-Dean、Seyf ad-Diin、Seyf ad-Din、Seyf ad-Deen、Seyf ad-Den、Seyf ad-Dean、Seif ad-Diin、Seif ad-Din、Seif ad-Deen、Seif ad-Den、Seif ad-Dean、Seef al-Diin、Seef al-Din、Seef al-Deen、Seef al-Den、Seef al-Dean、Sef al-Diin、Sef al-Din、Sef al-Deen、Sef al-Den、Sef al-Dean、Seef ad-Diin、Seef ad-Din、Seef ad-Deen、Seef ad-Den、Seef ad-Dean、Sef ad-Diin、Sef ad-Din、Sef ad-Deen、Sef ad-Den、Sef ad-Dean、Sief al-Diin、Sief al-Din、Sief al-Deen、Sief al-Den、Sief al-Dean、Sief ad-Diin、Sief ad-Din、Sief ad-Deen、Sief ad-Den、Sief ad-Deanなどが使われ得る。

-dd-を1個に減らしたSayfudiin、Sayfudin、Saifudiin、Saifudin(以下略)なども同じ男性名の表記バリエーション。

パキスタン、インド方面では1語目末につく格母音「u」と定冠詞とをドッキングさせたSayf ud-Din、Saif ud-Din、Sayf ud-Deen、Saif ud-Deen(以下略)といった表記も見られる。定冠詞部分については南アジア風のud-以外にアラブ系人名の英字表記として「al-◯◯」、「Al-」、スペース無しの「Al◯◯」。スペースありの「Al ◯◯」など複数通りが併存。口語における定冠詞の発音変化に即した「el-」「il-」そしてさらに後続の د [ d ] との発音同化を反映した「ed-」「id-」の系統が上記の多様な英字表記各パターンに加わる形となる。】

サウード
سَعُود [ sa‘ūd ] [ サウード ] ♪発音を聴く♪
Sa‘uud、Sa‘ud、Sauud、Saud、Saoud、Saoodなど
幸福、幸運

【 男性名としても使われる名詞 سَعْد [ sa‘d ] [ サアド(サァドに近く聞こえることも)](幸福、幸運)の不規則複数形(語幹複数形) سُعُود [ su‘ūd ] [ スウード ]((数々の、複数の)幸福、幸運)の口語発音・よくある誤用系発音とされる。日本語のら抜き言葉同様フスハー(文語アラビア語)としては誤用だと意識せずサウードと発音する人が非常に多い。通常はよくある間違いとしてアラビア語関連記事で紹介されているが、1文字目 س [ s ] に母音uではなく母音aを付加する سَعُود [ サウード ] [ sa‘ūd ] という発音が「幸福、幸運」に関連する強調語形だと説明している人名辞典なども見られる。

サウジアラビアの英語や日本語の国名は文語語形 سُعُود [ su‘ūd ] [ スウード ]((数々の、複数の)幸福、幸運)ではなくこの口語発音の方の سَعُود [ サウード ] [ sa‘ūd ] を使用。形容詞化したニスバ形容詞(関連形容詞)が「王国」を意味する名詞に形容詞修飾を行っているため اَلْمَمْلَكَة الْعَرَبِيَّة السَّعُودِيَّة [ ’al-mamlakatu-l-‘arabīyatu-s-sa‘ūdiya(h) ] [ アル=マムラカ(トゥ・)ル=アラビーヤ(トゥ・)ッ=サウーディーヤ(フ/ハ) ](*ة(ター・マルブータ)部分のトゥを読み飛ばすのは現代会話風のややブロークンな発音方法)に対応している。

*「サウジアラビア王国」の名称に含まれるサウジ部分は「サウード家の~」という意味。第一次サウード王国の拠点ともなった(アッ=)ディルイーヤをかつて統治していた مُقْرِن [ muqrin ] [ ムクリン ] 家出身の首長 سَُعُود [ su‘ūd /(口語発音)sa‘ūd ] [ スウード/(口語発音)サウード ] のファーストネームが由来。彼の息子ムハンマドが第一次サウード王国の王となり、ムクリン家からスウード(サウード)家に家名が切り替わった。】

【 この人名ではSaとūの後に ع [ ‘ayn / ‘ain ] [ アイン ] という子音がはさまっている。咽頭(のどひこ/のどち◯この奥にあるのどの上部分)を締めつけて出す子音で、この人名では母音無しの無母音(スクーン記号がついた)状態で発音されるためサウードというよりはサァウード、サォウードに近く聞こえることも。

この ع [ ‘ayn / ‘ain ] [ アイン ] は英字表記だと「‘」(/ ‘ / ʿ)のような記号で表すなどするが、日常生活でアラブ人各自が用いる英字表記では「‘」は脱落してしまい、代わりに [ -a‘ū- ] 付近の喉に力を入れる発音をa、ao、euなどに置き換えるなどする。長母音ūがuu、u以外にou、ooで表現される傾向も合わせたSauud、Saud、Saoud、Saood、Saaoud、Saeud、Sauadなどかなり自由なつづりも含めた各種バリエーションが併存。

語頭のSaを口語的なSeに置き換えたセウード寄りの発音に即したSe‘ud、Seuud、Seud、Seoud、Seood、Seeood、Seeudも使われている。

携帯電話にアラビア語キーボードが無かった時代に普及したチャットアラビア語の影響から、SNSのユーザーネーム等では語中の ع [ ‘ayn/‘ain ] [ アイン ] を数字の3に置き換えたSa3uud、Sa3ud、Sa3oud、Sa3ood、Se3ud、Se3oud、Se3oodなども用いられている。

日本語におけカタカナ表記はサウード、サウドなど。】

サクル
صَقْر(ṣaqr→Saqr)♪発音を聴く♪
タカ、鷹
[ 口語的な発音・表記としてはqの後に母音eをはさんでサケルに近くなったSaqerがある。またサウジアラビアなどqがgで発音されるアラビア半島地域ではサグルになるのでSagrと書かれていることも。そこに母音eをはさんでサゲルに近く発音することに基づいたSagerというつづりも見られる。qに関しては英字表記でkに置き換えられることが多く、Sakrというバリエーションもある。 ]

サッジャード
سَجَّاد [ sajjād ] [ サッジャード ] ♪発音を聴く♪
Sajjaad、Sajjad
礼拝を多く行う(者)、跪拝をたくさんする(者);(礼拝用)じゅうたん

【 動詞 سَجَدَ [ sajada ] [ サジャダ ](礼拝の平伏をする、ひざまずいて祈る、礼拝する)の能動分詞男性形で男性名としても使われる سَاجِد [ sājid ] [ サージド ]((アッラーに対する)祈りの平伏をしている(者)、(アッラーに対して)礼拝している(者)、(アッラーに向かって)跪拝している(者))の強調語形。

「大いに」「たくさん」「何回も繰り返し」といったニュアンスが加わり、سُجُود [ sujūd ] [ スジュード ](動名詞:礼拝、跪拝、平伏)、سَجْدَة [ sajda(h) ] [ サジ(ュ)ダ(フ/ハ) ](1回分を示す語形:礼拝、跪拝、平伏)を熱心に実践している様子を表し、子が大変敬虔なイスラーム教徒になるようにとの親の願いが込められた名前となっている。

シーア派第4代イマーム عَلِيُّ بْنُ الْحُسَيْنِ [ ‘alīyu-bnu-l-ḥusayn/ḥusain ] [ アリーユ・ブヌ・ル=フサイン ](アリー・イブン・アル=フサイン)は زَيْنُ الْعَابِدِينَ [ zaynu/zainu-l-‘ābidīn(a) ] [ ザイヌ・ル=アービディーン ](ザイヌルアービディーン、ザイン・アル=アービディーン)の他に اَلسَّجَّاد [ ’as-sajjād ] [ アッ=サッジャード ](数多く礼拝を行う者、跪拝を多数行う者)という別名・属性名で呼ばれており、シーア派信徒の場合は彼への崇敬から我が子にサッジャードと命名するなどしている。

なおこの فَعَّالٌ [ fa’’āl(un) ] 語形は強調に加えその動作を行う道具・機械、職業名などを表すのにも使われており、礼拝に使う・その上で跪拝を行う道具といった意味合いから「(礼拝用もしくは一般の)じゅうたん」としても用いられている。ただし人名の由来としては熱心に礼拝を繰り返すというイメージの方であり、通常は「じゅうたん君」と命名している訳ではない。】

【 エジプト首都カイロならびに周辺地域方言、イエメン、オマーン、サウジアラビアなどの一部方言のように ج [ j ] が [ g ] に置き換わって [ sāgid ] [ サーギド ] になるケース、もしくは英語のgentleのようにgでつづって [ j ](文語アラビア語の/ʤ/、レヴァント方言の/ʒ/)と読ませることを意図したケースに対応したSaggaad、Saggad(サッガードもしくはサッジャード)といったつづりも。

方言で長母音āがēになるマグリブ(北アフリカ)方言などのサッジェード寄り発音に対応した英字表記Sajjeed、Sajjed、Saggedそして「エー」のつづりバリエーションとして派生したであろうSajjead、Sajjaedなども見られる。

北アフリカのマグリブ諸国やマグリブ系移民が多いフランスのように「j」を「dj」で表記することが行われている地域ではサッジャードに対応した表記としてSadjdjaad、Sadjdjadなどの利用が見られる。これについてはサドジドジャード、サドジドジャドとカタカナ化しないよう要注意。

重子音化(シャッダ記号がついている)して同じ字が2個連なっている-jj-を1個に減らしたつづりもあり、サッジャード読みを意図したSajaad、Sajad、Sadjaad、Sadjadサッジェード読みを意図したSajeed、Sajed、Sadjed、サッガードもしくはサッジャード読みを意図したSagaad、Sagad、サッゲードもしくはサッジェード読みを意図したSageed、Sagedもあるが、原語での発音との乖離が大きい上に別の男性名 سَاجِد [ sājid ] [ サージド ] の英字表記バリエーションと一部かぶるため、よく確認の上でカタカナ化する必要あり。】

サッダーム
母音記号無し:صدام
母音記号あり:صَدَّام [ ṣaddām ] [ サッダーム ] ♪発音を聴く♪
Saddam、Saddam
数多く(/何回も/たびたび)ぶつかる(者)、衝突する(者);何回も敵と激しく衝突して駆逐する(者)、戦闘で大いに激突し敵を撃退する(者)、戦闘において激しく暴力的に敵と激突する(者)

■意味■

「大いに~する者」「激しく~する者」「何回も~する者」という意味合いを添える能動分詞の強調語形 فَعَّالٌ [ fa’’āl(un) ] 型で、通常の能動分詞 صَادِم [ ṣādim ] [ サーディム ](衝突する(者)、ぶつかる(者);衝撃的な)よりも意味が強い。

具体的には部族抗争や戦争などにおいて敵とガンガンぶつかり合い自ら奇襲をかけて突っ込んでいくような強者、敵と激しくぶつかり合ってボコボコにして遠くへと追いやり撃退する者、戦闘で率先して敵陣に突っ込んでいき力技で相手を叩きのめしていく強い戦士のことを指す。人名辞典によっては「強い(漢)、つわもの(の)」という意味を掲載していることも。

比較的遊牧民色・ベドウィン色が強めの人名だとされる。古いアラブ人名には敵陣に向かって突っ走っていく勇猛な戦士を表すものが複数あるが、サッダームもその一つ。彼の息子の名前 عُدَيّ [ ‘udayy / ‘udaiy ] [ ウダイイ/ウダイィ ](ウダイイ、ウダイ)も同系統で、そちらは「走る者、敵へと向かって攻撃を仕掛けんと進撃する軍団、敵と戦うべく走り急ぐ兵士たち」の意。

ちなみに صَدَّام [ ṣaddām ] [ サッダーム ] の語形は同じ動作を繰り返すという意味合いを示すことから特定の機能を与えられた道具の名称として使われることが多く、現代においては車のバンパーという意味で用いられることもある。

■この名前を持つ有名人物■

イラクの元・大統領であるサッダーム・フセインのファーストネームとして有名。

ネットではこの名前の意味が「直進する者」「困難に立ち向かう者」と紹介されていることもあるが、サッダームという語を構成する語根 ص - د - م(ṣ-d-m)は衝突や激突といった何かにぶつかることを示すため、直進という訳が適切だとは言いがたい。

実際、どのアラビア語のアラブ人名辞典そしてアラビア語大辞典類でもサッダームを直進する者や困難に立ち向かう者とは定義しておらず、部族民的視点・アラブ民族による抗争という視点から見た場合の果敢で勇猛な男といったイメージで命名されてきた男性名であることを示唆している。

■発音と表記■

方言で長母音āがēになるマグリブ(北アフリカ)方言などのサッデーム寄り発音に対応した英字表記Saddeem、Saddemなども見られる。2個連なっている-dd-を1個に減らしたSadaam、Sadamという英字表記も存在するがサダーム、サダムではなくサッダームという発音を前提としたつづりであり、別途サダームたサダムという人名があるわけではない。日本語におけるカタカナ表記ではサッダーム、サダーム、サダムが混在。一般記事ではサダムが多い。

サディーク
母音記号無し:صديق
母音記号あり:صَدِيق [ ṣadīq ] [ サディーク ] ♪発音を聴く♪
Sadiiq、Sadiq、Sadeeq
(誠実な)友、友人、親友

■意味と概要■

動詞 صَدَقَ [ ṣadaqa ] [ サダカ ](本当のことを言う、真実を言う;実直である、誠実である)と関連がある名詞。この動詞を他動詞として解釈した場合、サディークは動作主・行為者であることを示す能動分詞の強調語形という解釈になり、「大変誠実である人」というニュアンスになるという。

また自動詞として解釈した場合には صِدْق [ ṣidq ] [ スィドク ](誠実、正直、実直)がたった1回きりではなく、数回続いたり一定期間維持されたりすることで「正直である」「実直である」という継続的な性質を備えている(=形容詞的)という分詞類似語としての解釈「誠実な(人)」になるという。

古典文法的には男女同形が許される فَعِيلٌ [ fa‘īl(un) ] [ ファイール(ン) ] 語形なので、中世のアラビア語大辞典には ة(ター・マルブータ)無しの صَدِيقٌ で男性形と同形でも「女性の友人」という意味を表せるとの記載あり。同様に単数・男性形と同じ صَدِيقٌ でも男性複数・女性複数を表すことが許容されているが、現代ではそのような用例はまず見かけられない。

名詞として簡単に訳せば「友人、親友」となるが、アラビア語大辞典等に載っている定義によると具体的には自分にとって誠実で信頼できる交友関係を結んでくれる親友、実直に接してくれかつ自分の言うことをむやみに肯定するのではなく正しい助言を与えてくれるような友人のことを指す。

同じ語根からなる姉妹語の صَادِق [ ṣādiq ] [ サーディク ](正直な、嘘をつかない;実直な、誠実な、約束を違えない)に比べると比較的マイナーなファーストネームの部類。

■発音と表記■

アラビア文字表記では母音記号が無いと姉妹語である別の男性名 صِدِّيق [ ṣiddīq ] [ スィッディーク ]((とても、大いに、常に、いつも必ず)誠実な、実直な、正直な、約束を果たす、有言実行の(者);預言者に下された啓示を嘘つき呼ばわりすることなく正しいとみなしアッラーの教えをしっかり信じている(者))と全く同じになってしまうので英字表記や実際の発音を聞いて確認する必要がある。

英字表記では長母音 ī(イー)は2文字連ねた ii よりも1文字だけの i に減らしたSadiqが多用されるが、姉妹語である別の男性名 صَادِق [ ṣādiq ] [ サーディク ] の英字表記バリエーションとかぶってしまうのでまぎらわしい。また長母音 ī(イー)を2文字連ねた ee で表す当て字もあるが、1文字に減らしたSadeqもあり、こちらも別男性名 صَادِق [ ṣādiq ] [ サーディク ] の口語発音サーデクに対応した英字表記Sadeqとかぶるため要注意。

英字表記がSadiiq、Sadiq、Sadeeq、Sadeqとなっている場合、元のアラビア語表記と発音が صَدِيق [ ṣadīq ] [ サディーク ] なのかどうかをチェックした上で日本語カタカナ化。サディークとする。なとサディクは日本語的カタカナ表記なので原語発音とは異なる。なおアラビア語としてはSadiqをサッディク、Sadeqをサデク、サッデクとしないことを推奨。

サディード
سَدِيد(Sadiid、Sadid、Sadeed)的に命中した、的を射抜いた、適切な、正しい

サバーフ
صَبَاح [ ṣabāḥ ] [ サバーフ ] ♪発音を聴く♪
Sabaah、Sabah
朝、午前

【 مَسَاء [ masā’ ] [ マサー(ゥ/ッ) ](夕方、晩)の反対語。通常は女性名として用いられるが、男性名として命名されることもある。

クウェート首長家の名称についてはこの صَبَاح [ ṣabāḥ ] [ サバーフ ](朝)という意味だと説明している人名辞典もあるが、別の男性名 صُبَاح [ ṣubāḥ ] [ スバーフ ](美少年、美男子;灯火の炎)だとしている人名辞典も複数ある。

そのためアラブのメディアでは家名を آل صُبَاح [ ’āl(u) ṣubāḥ ] [ アール・スバーフ ](アール・スバーフ、「スバーフ家」の意)もしくは定冠詞を伴って آل الصُّبَاح [ ’āl(u) ’aṣ-ṣubāḥ ] [ アール・ッ=スバーフ ](アール・アッ=スバーフ、「アッ=スバーフ家」の意味)と発音していることが少なくなく、英語で書かれた専門書や現地サイト等で「Al Subah」「al-Subah」といった表記が存在するのもそのため。

なおサバーフ(実際の発音はサバーハに近い)と似た人名としてはサッバーフ(実際の発音はサッバーハに近いこともある)があるが、これは語根という基本となる子音3文字パーツを صَبَاح [ ṣabāḥ ] [ サバーフ ](朝、午前)と共有している姉妹語で صَبَّاح [ ṣabbāḥ ] [ サッバーフ ](大いに輝いている、とても輝いている(もの);朝に来る(者);朝の飲み物を注ぐ(人);朝に飲食される(物))という語形違いの別男性名。】

【 日本における学術的・標準的なカタカナ表記ではサバーフとなるが、日本語のフはいわゆる「f」であるため原語での発音はむしろサバーハに近い。そのためこの人名のカタカナ表記ではサバーフ、サバーハ、サバハが混在。さらに語末の-ahを英語のように「アー」と伸ばしたサバー、サバというカタカナ表記も見られる。

なお日本人の耳にはサバーハに近く聞こえる可能性が高いとは言うものの صَبَاحَة [ ṣabāḥa(h) ] [ サバーハ(フ/ハ) ](美しさ、美貌)程にはっきりと「サバーハ」と聞こえる訳ではないので、厳密に発音する場合は全く同じ読み方をしないよう要注意。】

サフーフ(サフーハ)
صَفُوح(Safuuh、Safuh、Safouh)赦す、寛大な(者)

サブリー
صَبْرِيّ(ṣabrī(y)→Sabrii、Sabri、Sabry、Sabree)♪発音を聴く♪
忍耐の、我慢強い
[ 厳密には語末を発音するとṣabrīyとなるためサブリーュ、サブリーィのように読むはずではあるが、口語など日常的な会話ではもっぱら単なるṣabrīのサブリーと聞こえる発音をしていることが多い。その場合はアクセント位置が前方にずれるので注意。→♪発音を聴く♪ ]

サフル
صَخْر(Sakhr)岩→強さを示す[古くからある男性名]

サフル(サハル)
母音記号無し:سهل,br> 母音記号あり:سَهْل [ sahl ] [ サフル(実際にはサハルに近く聞こえることが多い) ]
Sahl
容易な、平易な、簡単な;(坂や地面などの凸凹が少なく)なだらかな、平野

サフワ
صَفْوَة(Safwa、Safwah)精髄、選り抜き、精鋭

サフワーン
صَفْوَان(ṣafwān→Safwaan、Safwan)♪発音を聴く♪
雲の無い晴れた日、澄んでいる、なめらかな岩

サマーフ
سَمَاح(samāḥ→Samaah、Samah)♪発音を聴く♪
許すこと、赦し、寛大であること
[ 最後の子音hは喉の奥を狭めハッと発音するので、サマーハに近く聞こえることも。なおSamahのahは英語のアーのように長母音で伸ばすわけではないので、サマーとしないよう注意。]

サミーフ
سَمِيح(Samiih、Samih、Sameeh)寛容な、寛大な

サミール
سَمِير [ samīr ] [ サミール ] ♪発音を聴く♪
Samiir、Samir、Sameer
(晩・夜になされる会話・会談・談話で)話をしている(人)、話者、話し手;(晩・夜になされる会話・会談・談話における)話し相手、同席者;(話・歌・音楽などで無聊を慰め)楽しませる人、エンターテイナー

【 動詞 سَمَرَ [ samara ] [ サマラ ](夜に会話をする)より。通常の能動分詞 سَامِر [ sāmir ] [ サーミル ] よりも回数が多いことを示すなどする強調の意味合いがある語形 فَعِيلٌ [ fa‘īl(un) ] [ ファイールン ] 型にあてはめたもので、ここでは度合いの違い以外は通常の能動分詞とあまり変わらない意味合いとなる。

通常の能動分詞 سَامِر [ sāmir ] [ サーミル ] 同様、سَمِير [ samīr ] [ サミール ] も سَمَر [ samar ] [ サマル ](夜の語らい、夜に行う談話)の動作主・行為者であること、またその話し相手であることを示す。

サマルの元来の意味は「夜の会話」で砂漠などの屋外で月明かりを浴びながら語らうことなどを指した。同席者は友達同士とは限らず、家族・知人・地域住民・座談会参加者・親友など色々な関係性で結ばれた者同士が参加者・同席者となり得る。知人と歌・ごちそう・踊りを楽しんでワイワイするエンターテインメント、楽しい夜更かし、夜遊びという意味合いは後代になってから加わった用法だという。

預言者ムハンマドの時代には現代よりも سَهَر [ sahar ] [ サハル ](夜遅くまで起きていること、夜更かしすること)と سَمَر [ samar ] [ サマル ](夜の語らい、夜に行う談話)との区別がもう少しはっきりしており、「翌朝明け方の礼拝を寝過ごしてしまわないよう、サマル(夜の会話)は早めに終わらせ就寝すべきである」といった教えも残っているなどする。

一方、ペルシア的色彩が強めだったアッバース朝時代は宮廷内での飲酒が行われカリフの話し相手・飲み仲間・詩作披露係として نََدِيم [ nadīm ] [ ナディーム ] と呼ばれる立場の人物が複数存在。(彼らの一人が『千夜一夜物語(アラビアンナイト)』にも登場する詩人アブー・ヌワース。)

彼らのように酒を飲みながら芸能を楽しみ歓談する行為もアラブの文献では سَمَر [ samar ] [ サマル ] と描写していることも少なくなく、نَدِيم [ nadīm ] [ ナディーム ]((飲む際の、宴席での)同伴者、同席者;飲み友達、飲み仲間、呑み友達、呑み仲間;仲間、友達、親友)と سَمِير [ samīr ] [ サミール ] が似たような意味で使われたりもしている。

上記のように、サミールは必ずしも「夜のおしゃべりを楽しむとても仲の良い友人」「親友」という意味になる訳ではないため、状況や文脈に応じて和訳する必要あり。】

【 長母音ī(イー)を示すeeが1文字に減らされたGhareb、Garebも使われているがガレブではなくガリーブという発音を意図しているつづりなので要注意。

日本語におけるカタカナ表記としてはサミール、サミルが混在。なおサミル、Samir、Samerという英字表記の場合は違う男性名 سَامِر [ sāmir ] [ サーミル ]((晩・夜になされる会話・会談・談話で)話をしている(人)、話者、話し手;(話・歌・音楽などで無聊を慰め)楽しませる人、エンターテイナー)と混同しやすく、しかも英語圏ではサーミルのような名前の長母音が後半にずれてサミールと読まれる可能性があり英語風発音が参考にならないこともあるため、元のアラビア語表記を見ないと区別ができなかったりする。 】

サラーフ
صَلاَح(ṣalāḥ→Salaah、Salah)♪発音を聴く♪
正しさ、善良、高潔、信心深さ;(宗教的)救済
[ 最後の子音hは喉の奥を狭めハッと発音するので、サラーハに近く聞こえることも。なおSalahのahは英語のアーのように長母音で伸ばすわけではないので、サラーとしないよう注意。]

サラーフッディーン(サラーフ・アッ=ディーン)
صَلاَح الدِّين [ ṣalāḥu-d-dīn ] [ サラーフ・ッ=ディーン ] ♪発音を聴く♪
Salaah al-Diin、Salaah al-Din、Salah al-Diin、Salah al-Din、Salahddinなどなど
宗教(=イスラーム)の正しさ・善良・高潔・敬虔

■意味■

いわゆるサラディンのこと。その人物が人として・イスラーム教徒として非常に品行方正で立派であることを意味する呼び名で、中世においてイスラーム教に対し功績を挙げた統治者・指揮官級人物を讃える لَقَب [ laqab ] [ ラカブ ](称号、尊称)として使われていたものが男性名に転じた。

2語からなる複合語で、名詞 صَلَاح [ ṣalāḥ ] [ サラーフ / サラーハ ](正しさ、善良、高潔、敬虔)と定冠詞+名詞 اَلدِّين [ ’ad-dīn ] [ アッ=ディーン ](宗教、信仰)からなる。アラビア語大辞典などによると、前半のサラーフは腐敗・退廃・汚職の対義語で清く正しい言動をする善良・高潔な人物であること、またイスラーム教徒として礼拝や戒律・各種義務(カアバ神殿への巡礼を果たす、飲酒しない、豚肉を食べない、姦淫にふけらない、貧者に施しをする等)をしっかり守り信心深く品行方正に生きていることを示すという。後半部分のアッ=ディーンは定冠詞つきのため英語の「the Religion」に相当し、特定宗教であるイスラーム教のことを指す。

日本語の本やサイトでは「信教の救い」、「信教の誉れ」など掲載されているなど訳はまちまちだが、アラビア語諸辞典における語義説明は上記の通り。英語でも高潔さ・品行方正ぶりといった意味合いに対応した「righteousness of the religion」といった訳が見られる。

■十字軍と戦った英雄にちなんでの命名■

アラブ・イスラーム世界では十字軍との戦いで活躍したアイユーブ朝のクルド系英雄サラーフッディーン(サラーフ・アッ=ディーン)にあやかって命名されている。彼の本名・ファーストネーム自体は يُوسُف [ yūsuf ] [ ユースフ ]。イスラームにおける預言者の名前で聖書のヨセフに対応。しかし彼の場合称号の方で世間から認知されるようになり後代まで伝えられることとなった。ファーティマ朝カリフから授けられた別の称号も持っているが、一番有名なのはサラーフッディーン(サラーフ・アッ=ディーン)となっている。(調べたところ誰が最初にこの別名を授けたのかという情報は見当たらず。)

アラブに限らずトルコなども含めた中東イスラーム諸国ではリーダーシップを発揮し軍事に力を入れている大統領やイスラーム武装組織の指導者が「現代のサラーフッディーン」「サラーフッディーン2世」「2代目サラーフッディーン」という称号にふさわしいかどうか議論されることもあり、共同体に劇的戦果をもたらした英雄というイメージと結び付けられるなどしている。

弱体化し劣勢にあったイスラーム共同体を救った英雄というイメージから好まれている名前となっているが、現代アラブ諸国では2語1セットのような複合語の命名件数が昔に比べると減少傾向にあり、偉人サラーフッディーン(サラーフ・アッ=ディーン)をイメージしつつも前半部分のみの صَلَاح [ ṣalāḥ ] [ サラーフ / サラーハ ](正しさ、善良、高潔、敬虔)とのみ名付けるケースも増えてきている。

■アラビア語での発音■

日本語のカタカナ表記では複合語の発音を区切ってサラーフ・アッ=ディーンなどと書かれていることもあるが、実際には息継ぎせず一気読みされるため文語的な発音はサラーフッディーンとなる。

前半の صَلَاح [ ṣalāḥ ] [ サラーフ / サラーハ ] はサラーフとカタカナ表記することが多いが実際にはサラーハと聞こえやすい。そのため日本語のカタカナ表記ではサラーハ・アッ=ディーン、サラーハ・アッ・ディーン、サラーハ・アッディーンなどと書かれていることがある。

この人名は複合名なので分かち書きをすればとサラーフ・アッ=ディーンとなるものの、「サラーフ / サラーハ」の直後に定冠詞+ディーンより成る「アッ=ディーン」を息継ぎ無しで一気読みする際はサラーフの語末についた格母音(主格はu、属格はi、対格はa。通常人名として単独で言う場合は主格の「u」をつける。)がはっきり現れるので صَلَاح [ ṣalāḥ ] [ サラーフ / サラーハ ] ではなく [ ṣalāḥu ] [ サラーフ ] に変わる。

後半の2語目は定冠詞 اَلْـ [ ’al- ] [ アル= ](al-)+名詞 دِين [ dīn ] [ ディーン ] の組み合わせだが、定冠詞の「l」は直後に調音位置が近い子音が来ると同化してしまうため「d」に同化。اَلْدِين [ ’al-dīn ] [ アル=ディーン ] ではなく اَلدِّين [ ’ad-dīn ] [ アッ=ディーン ] という促音化した発音に変わる。そのためサラーフ・アル=ディーン、サラーフ・アル・ディーンのようなカタカナ化は実際のアラビア語発音から離れておりかつアル部分の発音がアラビア語として行うべきアッ化に従っていないことからかなり不自然だとも言える。

定冠詞語頭の [ ’a ] [ ア ] 部分は前に他の語が来て息継ぎ無しで一気読みすると発音が脱落。複合語全体では صَلاَح الدِّين [ ṣalāḥu-d-dīn ] [ サラーフ・ッ=ディーン ] という発音になる。しかし学術的表記も含めこの定冠詞の発音変化を反映させず常に「al-」で通す英字表記が多く使われており、本来はアッ=ディーンと読むにもかかわらずアル=ディーンなどとカタカナ化される一因となっている。

■英語や日本語における表記■

ディーンの長母音「ī(イー)」に関してはDiin、-ii-を1個に減らしたDin、Deen、-ee-を1個に減らしたe、Deanといった英字表記バリエーションが存在。ディーンもしくは短くつまってディンとなった発音を意図したものなので、デンやデアンとカタカナ化しないことを推奨。

前半部分と後半部分のつづりバリエーションを合わせた結果としてSalaah al-Diin、Salaah al-Din、Salah al-Diin、Salah al-Din、Salaah al-Deen、Salah al-Deen、Salaah al-Dean、Salah al-Dean、Salaahuddiin、Salaahuddin、Salahuddiin、Salahuddin、Salaahuddeen、Salahuddeen、Salaahuddean、Salahuddean…といった英字表記が使われ得る。

口語(方言)ではサラーハッディーンになることが多く、さらに長母音が短くなってサラフッディン、サラハッディンに近く聞こえることも。また、後半部分の2個連なる-dd-を1個に減らした英字表記も使われている。

前半部分最後の子音 ح [ ḥ ] は喉狭めハァッと発音するのでアラビア語でははっきり聞こえるが、英字表記でSalahなどとなることから英語のahのように「アー」と長母音で伸ばすものと理解され、日本ではサラーとカタカナ表記されることも少なくない。英語での表記と発音が Saladin [ sǽlədin ] [ サラディン ] なのもそうした事情が関係している。

日本語のカタカナ表記としてはサラーフッディーン、サラフッディーン、サラーフ・アッディーン、サラーフ=アッディーン、サラディン、サラディーン、サラーディーンなど色々なパターンが見られる。

サラーマ
سَلاَمَة(Salaama、Salaamah、Salama、Salamah)安全、無事、安寧、健全

サラマ
سَلَمَة(Salama、Salamah)アカシア・エレンベルギアーナ(学名Acacia ehrenbergiana Hayne。エジプト東部や紅海周辺の乾燥地域に生えるアカシアの仲間。トゲのある木で実は黄色で中の種は緑色。葉は皮なめしに使われる。)[アッバース朝が興る過程でシーア派側に立ったアブー・サラマの名前などに出てくる]

サリーム
سَلِيم [ salīm ] [ サリーム ] ♪発音を聴く♪
Saliim、Salim、Saleem
(被害・事故・損害・病害・不信仰から)無事な、免れて;無傷の、健康な、安全な;負傷した(人)、(ひどい)噛み傷を負った(人)、死にかけている(人)、瀕死の(人)

【 動詞 سَلِمَ [ salima ] [ サリマ ]((被害・事故・損害・病害から)無事である、免れる;無傷である、健康である)より。無事に成長してけがや死を免れますように、という親の願いが込められた名前。この人名の縮小語形 سُلَيْم [ sulaym / sulaim ] [ スライム ] も古くから使われてきた伝統的なアラブ人名で部族名にもなった。

オスマン朝第9代君主セリム1世の「セリム(Selim)」はこの男性名 سَلِيم [ salīm ] [ サリーム ] のトルコ語風発音。

語根 س - ل - م(s - l - m)が無事・健康を意味する語に多用されるにもかかわらず「負傷した(人)」「(ひどい)噛み傷を負った(人)」「死にかけている(人)、瀕死の(人)」という真逆の意味が人名辞典に同時掲載されている。これは中世のアラビア語大辞典に既に掲載されていた婉曲表現。

他動詞の目的語としての受動態的な意味としての فَعِيلٌ [ fa‘īl(un) ] [ ファイールン ] 語形で内容的には「けがを負わされた」「噛まれた」「病気や負傷で死にそうだ」という不吉な被害内容を示すにもかからわず、「無事治りますように」「この人はやがて元気になる」との前向きな願い・願掛けから真逆の語義を持つこの سَلِيم [ salīm ] [ サリーム ] で表現したことが由来だという。】

【 英語のknee(ニー)のように長母音ī(イー)を「ee」で表したSaleemという英字表記があるが、2つ連なるeeを1個に減らしたSalemというバージョンも存在。

英字表記Salim、Salemは同じ語根からなり似たような意味を持つ別の男性名 سَالِم [ sālim ] [ サーリム ]((被害・事故・損害・病害・不信仰から)無事な、免れて;無傷の、健康な、安全な)の英字表記バリエーションとかぶるので原語であるアラビア語における発音や表記で確認しないと区別が難しい。

日本語におけるカタカナ表記はサリーム、サリム。】

サルマーン
سَلْمَان [ salmān ] [ サルマーン ] ♪発音を聴く♪
Salmaan、Salman
健全な、無傷の、欠陥が無い
【 預言者ムハンマドの教友だったペルシア人信徒サルマーン・アル=ファーリスィー(直訳は「ペルシア人のサルマーン」の意味)の名前としても知られる。】

サルマド
母音記号無し:سرمد
母音記号あり:سَرْمَد [ sarmad ] [ サルマド ]
Sarmad
(始まりも終わりも存在しないような「時」という概念を超越した)永久、永遠;((途絶えることが無い)昼夜の)永続;(夜などが)長い

■意味と概要■

イスラームの聖典クルアーン(コーラン)にも登場し、哲学やイスラーム神秘主義用語としても使われてきた名詞。文法学者らの解釈によると、元々は سَرْد [ sard ] [ サルド ](後続、連続)という語で昼や夜の時間が途切れること無く連続している様子を「後続、連続」という語義のある語根「س-ر-د(s-r-d)」に当てはめたが、ر(r)とد(d)の字の間に語義を強調するために余剰の م(m)を挿入。「連綿と続く、ずっと続く、いつまでも果てしなく長く続く」といったニュアンスが加わった語形だという。

男性名としてはイラクに多く、アラブ世界ではそれ以外の国では少ない人名だとか。「永続する」という意味ではあるものの不死身を願うという訳ではなく「長生き」というニュアンスで命名されるものだとのこと。

サワーブ
ثَوَاب(Thawaab、Thawab)報酬、褒美、(善行に対して神が与える)報奨