List of Arabic Family Names [ Arabic-Japanese ]
現代アラブ世界において家名(ファミリーネーム)と呼ばれ苗字/名字/姓のように用いられているものを収録。祖先名そのままをラストネームとしていたり、人名にただ定冠詞「al-」[アル]をつけたりしただけのものとは違い、ファーストネームとして使われることがまず無いケースをピックアップし随時追加中です。
ソースはネット上の人名リスト、郷土史系サイト、人名辞典、アラビア半島やイエメン等の部族・支族名鑑、アラビア語(アラ-日、アラ-英、アラ-アラ大型)辞典、オスマン朝時代の役職名・肩書き辞典、YouTube(発音確認用)などです。
* [ ] を使っている項目や行数が少ない部分はまだ改訂を行っていない初期状態の項目です。【 】を使っている項目は改訂履歴あり、行数がやたら多かったり■ ■を使ったりしている項目が改訂回数が多い/執筆時期が新しい部分で、内容的に信頼度が高い箇所となっています。
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『英字表記されたアラビア語の名前をカタカナで表記するには?』
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英字でのつづりについて
アラブ人の名前はファーストネーム部分も家名部分も英字表記に揺れがあります。文語のつづりと母音記号に比較的忠実なこともあれば、口語で起きる二重母音の変化を反映したり子音が2個連続しているはずの部分を1文字だけで済ませているケースもありカタカナ化をする時に間違えやすいです。
英字表記については、使われ得るパターンをなるべくたくさん列挙するようにしているので、多用されないつづりも含んでいます。
たとえはハーリドの場合、KhalidとKhaalidのようにアーと長く伸ばす長母音āを1文字だけで表現するKhalidと2文字並べてKhaalidとする方法がありますが、アラブ人やアラビア語由来人名を持つイスラーム教徒が通常用いるのはKhalidの方です。キャラクターネーミングの際はアーを-aa-ではなく-a-、イーを-ii-ではなく-i-、ウーを-uu-ではなく-u-と当て字をしている英字表記を使うのが無難なのでおすすめです。
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『英字表記されたアラビア語の名前をカタカナで表記するには?』
アラブ家名辞典
Al ◯◯(、Aal ◯◯表記はまれ)
▶【名詞】(男性の)家族、子供たち;付き従う者たち、援助者たち;◯◯家、◯◯一族
【 部族から枝分かれして家名の元になった先祖の名前をとって家名としている場合などに使われる名詞。◯◯とセットで属格構文(≒所有格構文)になっており、◯◯部分には通常家長・一族の父祖となった先祖男性の名前が入る。
アラビア語辞書の定義だと家族・一族以外にもいわゆる郎党も含んだ枠組みになっているが、ファミリーネームとして使う場合は「一家」「一族」を意図していると言える。
辞書によっては「栄誉ある一家にのみ使う」「たいていの場合は栄誉ある一家に用いる」と書いてあることも。ネット上で「アル・◯◯」と書いてある王家の家名や「アラブ世界では定冠詞のアルがついた家名は王家の印」と誤って説明されているものの多くがこの名詞アールを意図したもので、定冠詞 اَلْ [ ’al- ] [ アル= ]」混同される傾向が非常に強い。
なおアラビア半島の王族にアール・サウード、アール・サーニー、アール・マクトゥームのようなファミリーネームがあるため「アール(Al)で始まるのは王族・豪族だけの家名」と間違えられがちだが、部族の分家を示す一方式なので一般国民的な一族でも「アール・◯◯家」という表現を使っていることもある。
家名類の習慣に関しては国・地域・部族(/大部族連合)によって違いがあり、王族の家名に定冠詞アルがついている国もあれば名詞アールがついている国もあり、名詞アールつきの家名持ちがたいてい有力者一族な地域もあればそうでない一族がアール◯◯を名乗る地域もあったりと、家名に関する傾向や法則はまちまちだと言える。
ちなみに欧州の王族(ブルボン家)などをアラビア語訳する時もこのアールが使われ「アール・ブルボン」という風に表現される。】
【 英語でAaal表記は少なくAlと書かれていること、定冠詞al-と間違われがちなこともあってか、日本語のカタカナ表記ではアールではなくアルとなっていることが多い。】
母音記号あり:أَشْرَمُ [ ’ashram ] [ アシュラム ] ♪発音を聴く♪
Ashram
母音記号無し:الأشرم
母音記号あり:اَلْأَشْرَمُ [ ’al-’ashram ] [ アシュラム ]
al-Ashram
▶鼻が裂けている、鼻先が切り取られて欠けている(人);口唇裂の(人)
■意味と概要■
先祖の身体的特徴にちなんだあだ名(ラカブ)由来の家名で、身体的特徴や障がいを表す名詞・形容詞の典型的語形である أَفْعَلُ [ ’af‘alu ] [ アフアル ] 型語形。アラブ人名辞典によってはファーストネームと家名の両方として使われると書いてあるものがあるが、主に後天的負傷による呼び名だったことからもっぱら家名としての使用が行われており、ファーストネームに特化した人名辞典には載っていないことが多い。なお、定冠詞(アル)はついていたりついていなかったりする。
アラブ世界は部族抗争や戦乱で身体の一部を欠損する人も少なくなかったこと、また先天的障がいをそのまま本名に代わるあだ名として流通させるという風潮がしばしばあったことから、「鼻が欠けている」「耳が切れている」といった外見由来の通称が家名として定着した例も少なくない。イスラーム以前のジャーヒリーヤ時代にアビシニア(エチオピア)から侵攻しイエメン一帯でキリスト教勢力を拡大し象の軍団を率いて北上(通称「象の年」)したと言い伝えられているアブラハも、内輪での勢力争いの際に鼻を切られたことからアラブ側では「アル=アシュラム(鼻裂け、鼻欠け)」という別称を付して呼ばれることがしばしば行われてきた。
アシュラムまたはアル=アシュラムの家名を持つ人々はアラブ諸国にまたがって居住しており、イエメン、アラブ首長国連邦、サウジアラビア、イラク、クウェート、シリア、レバノン、ヨルダン、パレスチナ、エジプト…等広い範囲で見られる部族名、ファミリーネームとなっている。レバノンのようなイスラーム教・キリスト教混在地域ではイスラーム教徒のアル=アシュラム家とキリスト教徒のアル=アシュラム家両方が混在。イスラエルのユダヤ教徒にもアシュラム姓がいるが、リノイ・アシュラム(Linoy Ashram)元新体操選手(東京オリンピック金メダリスト)の場合は彼女の父方がイエメン系ユダヤ教徒一族の出身であることにちなむ家名だという。
ちなみに『ロードス島戦記』他の登場人物に「アシュラム」という男性騎士がいるが、作者の水野良氏公式Twitter(X)投稿によると「インドから中近東の名前」「中近東にいそうな名前」というイメージを持ちつつ好みの語感で命名したものだったという。
なおインドにあるヨガの道場・修行場の名称アシュラム(ashram)とは英字表記もカタカナ表記も全く同じだが、サンスクリット語由来だとのことでアラブ男性名・家名のアシュラム(Ashram)とは無関係な異なる単語。インドのイメージでアラブ風キャラクターにアシュラムと命名すると「鼻欠け、鼻裂け」という全く違う意味になってしまうので混同しないよう要注意。
[ ‘askarī(y) ]→Askarii、Askari、Askary、Askaree
اَلْعَسْكَرِيّ
[ ’al-‘askarī(y) ]→al-Askarii、al-Askari、al-Askary、al-Askaree
▶軍人
【家長・先祖の職業に由来するニスバ。定冠詞がついていたりついていなかったりする。】
[ ‘adawī(y) ]→Adawii、Adawi、Adawy、Adawee
اَلْعَدَوِيّ
[ ’al-‘adawī(y) ]→al-Adawii、al-Adawi、al-Adawy、al-Adawee
▶バヌー・アディーの、アディー族の、バヌー・アディー出身の、アディー族出身の
【 出身部族 بَنُو عَدِيّ [ banū ‘adī(y) ] [ バヌー・アディー ] に由来にするニスバ。通常は定冠詞を伴う。アディー عَدِيّ [ ‘adī(y) ] [ アディー ] は男性名で、敵に向かって真っ先に駆けていく戦士の軍勢を意味する。
バヌー・アディーはジャーヒリーヤ時代から続くクライシュ族の支族で、ウマル・イブン・アル=ハッターブの出身家系。預言者ムハンマドの教友(サハーバ)にも複数のバヌー・アディー出身者がいた。現代では主にサウジアラビアのヒジャーズやリヤード周辺に居住。】
母音記号あり:عَطَّار
[ ‘aṭṭār ] [ アッタール ] → Attaar、Attar
母音記号無し:العطار
母音記号あり:اَلْعَطَّار
[ ’al-‘aṭṭār ] [ アル=アッタール ] → al-Attaar、al-Attar
▶香水商;香料屋、香辛料屋;薬屋、薬売り;(馬やロバに荷物を載せて香辛料・茶葉・菓子・石鹸等を売って回る)食糧雑貨行商人
■意味と概要■
家長・先祖の職業に由来するニスバ。定冠詞がついていたりついていなかったりする。「عِطْر [ ‘iṭr ] [ イトル ](香水)を売る者」という職業名を表すのに多用される語形の男性形。عَطَّار [ ‘aṭṭār ] [ アッタール ] は動作主であることを意味する能動分詞同様の名詞の内容を強調する語形で、「香水をたくさん身にまとっている、香水をぷんぷんさせている」「香水商、香水売り」という2通りの意味合いを表し得る。
アラブ世界の伝統的なアッタールは香水以外にハーブや香辛料を店頭に並べていることが多かったため、アッタールという語が香水商、香辛料売り、薬屋といった比較的幅広い職業ジャンルを指す。】
■発音とつづり■
通常の英字表記では本来2個連なっているttを1個に減らしたAtarなども存在。Attarと書いてあってもアタールとカタカナ表記されていることが非常に多いが、原語であるアラビア語としては促音「ッ」が入ったアッタールと発音される。
[ ’adib ]→Adib、Adeeb
اَلْأَدِيب
[ ’al-’adib ]→al-Adib、al-Adeeb
▶文学者、作家、教養がある人物
【家長・先祖の職業に由来するニスバ。定冠詞がついていたりついていなかったりする。】
[ ’abū laban ] →Abu Laban、Abou Laban、Abulaban、Aboulaban
▶ラバンの父(ラバンのように清らかで善良な人物;ラバンを飲むのが大好きな男性;ラバン屋、ラバンの製造業者、ラバンの販売人)
【パレスチナやレバノンに見られる家名。لَبَن [ laban ] [ ラバン ] はアラビア語で牛乳もしくはヨーグルト(状の乳製品);凝乳;乳製品類を指す。エジプだとラバンはただの牛乳を意味するが、シリア・レバノン周辺ではヨーグルト風乳製品を意味する。
أَب [ ’ab ] [ アブ ](父) という語は後ろから属格(所有格)支配を受けて أَبُو [ ’abū ] [ アブー ](~の父)へと語形が変化する。أَبُو لَبَن [ ’abū laban ] [ アブー・ラバン ] という尊称・近親呼称形式だが、実際には家長となった人物がラバンのように心が澄み清らかで醜聞とは縁遠い善良な人物であることからアブー・ラバンとあだ名されるに至ったラカブだったり、家長がラバンを飲むのが大好きで好物にちなんでアブー・ラバンと呼ばれるに至ったアブー・バクル、アブー・フライラと同種のラカブだったり、家長がラバンの製造者や販売者であることに由来するニスバだったりする。】
【アブーの部分には何通りかのつづりがあり、レバノン人やパレスチナ人の人名表記として多用されているのはAbu、Abouの2種類。アラビア文字上では2語からなる複合語だが、英字表記では分かち書きをしてAbu Laban、Abou Labanとする場合と、つなげ書きをしてAbulaban、Aboulabanとする場合とに分かれどちらも多用されている。
日本語では長母音部分を復元しないアブ・ラバンやアブラバンというカタカナ表記も見られる。また口語では母音uが母音o寄りで発音することが多く、アボー・ラバンという読みに基づいたAbo Labanという英字表記もある。】
al-◯◯、Al-◯◯、al ◯◯、Al ◯◯、al◯◯、Al◯◯など
▶英語のtheに相当
【 アラビア語における定冠詞。英語のtheに相当するが、アラビア文字上では英語と違いスペースを入れず直後に何らかの語をくっつけて使用する。
ラストネーム中においては
(1)本人もしくは先祖の出身部族・出身地由来の形容詞を固有名詞で限定されているファーストネーム等に連ねるために限定・非限定の一致を行い「al-」とつけてある
(2)家名が先祖のファーストネームや通称由来で「あの」「例の」といった感じで特定する用法で「al-」とつけてある
ものなどに分けられる。
部族社会であるアラビア半島などは部族名由来の形容詞や支族・分家の家長のファーストネームなどに定冠詞アルをつけたラストネーム(ファミリーネーム、日本の姓・名字に相当)を持っている人が大半を占めており、ファーストネームではなくラストネームだけを表記するスポーツのポジション表でほぼ全員の選手がアル◯◯なのもそのため。
ちなみに、かつて日本貿易振興機構(ジェトロ)リヤド事務所が公開していた『アラブ人名の由来と正しい呼び方』というPDFファイルには「王族や名家が家名に定冠詞al-をつける」と誤った記述が載っており、サウード家、サーニー家、マクトゥーム家などのファミリーネーム「Al ◯◯」前半に来る「Al」がアラビア語定冠詞のアルだという誤解が日本国内で普及してしまった。しかし実際には آل [ ’āl ] [ アール ] という定冠詞とは全く違っており、「(男性にとっての)家族、子供たち;付き従う者たち、援助者たち」という意味を示す名詞である。
日本では長母音を省略して「アル・◯◯」と書かれがちなため定冠詞つきの「アル=◯◯」と勘違いされやすいことも誤解の一因であると言える。】
【 口語(方言)では [ ’il- ] [ イル= ] や [ ’el- ] [ エル= ] に変わることが多いため、al-ではなくil-やel-になっているケースも。el-に置き換える人が多い地域の代表例はエジプト。
一般的に英字表記の場合は定冠詞と定冠詞がつく◯◯部分とは「-」でつなぐことが多いが、スペースを入れるだけやスペース抜きでくっつけてあたかも一語のようにつづってある人も少なくない。
小文字でal-とする以外にも定冠詞の語頭を大文字にしたAl-も使われ、かつ-無しのスペース使用だと「Al ◯◯」になってしまい家名を示す別の語 آل [ ’āl ] [ アール ](Al ◯◯)と全く区別がつかなくなるので特に注意が必要。】
[ ‘ammār ]→Ammar、Amar
اَلْعَمَّار
[ ’al-‘ammār ]→al-Ammar、al-Amar
▶建築屋
【家長・先祖の職業に由来するニスバ。定冠詞がついていたりついていなかったりする。普通の人名・ファーストネームで全く同じ語形の عَمَّار [ ‘ammār ] [ アンマール ](Ammar、Amar)があるが、そちらは「長生きの」という意味で命名されている場合が多い。】
【本来は子音mが2個続いたmmだが英字表記ではm1個というつづりもある。ただし元々はアンマールであってアマールやアマルではないので注意。】
母音記号あり:اِبْن
[ ’ibn ] [ イブン ] → Ibn
▶◯◯の息子;◯◯家の息子、◯◯家の者、◯◯一族出身の男子・男性
■意味と概要■
アラブ人名のクンヤという呼称が出自表示・家名(ファミリーネーム)としてラストネームになったもの。本人のファーストネームを出さずラストネームだけで呼ぶ時に使われるなどするため、イブン・ハルドゥーン(意味は「ハルドゥーン家の者」)といった歴史上人物の名前として掲載されていることが多い。
「イブン・◯◯」というと父親の名前を使った父称とのみ説明されることが多いが、実際のラストネームとして使う場合は◯◯部分はその人の実父の名前ではなくもっと前の先祖であることが多い。そのようなケースではニュアンスとしては「◯◯さんの息子」ではなく「◯◯家の息子、◯◯家の者、◯◯一族出身の男子・男性」となる。
●世界史にも出てくる「イブン・◯◯」のうち◯◯部分が何代も前の祖先の名前になっている例
□イブン・ハルドゥーン(本名:アブドゥッラフマーン、父の名前:ムハンマド)
□イブン・ルシュド(本名:ムハンマド、父の名前:アフマド/アハマド)
●世界史にも出てくる「イブン・◯◯」のうち◯◯部分が祖父の名前になっている例
□イブン・ハンバル(本名:アフマド/アハマド、父の名前:ムハンマド、亡き父親に代わり養育を担当した祖父:ハンバル)
●世界史にも出てくる「イブン・◯◯」のうち◯◯部分が母親の名前・通称になっている例
□イブン・バットゥータ(本名:ムハンマド、父の名前:アブドゥッラー、母の名前:ファットゥーマ、母の通称:バットゥータ)
なお日本ではイブン・アル=ハイサムを「アル=ハイサム」、イブン・バットゥータをバットゥータと呼ぶことが広く行われているが誤り。アル=ハイサムは学者イブン・アル=ハイサムの数代前の先祖、バットゥータは母親の名前で呼んでいる形となる。
■発音と表記■
Ibnの他に口語的にiがeに転じたエブン寄りの発音に即したもしくは単に英単語のeraserのようにeとつづりながらもイと読むことを意図した可能性のあるEbnという英字表記も見られる。
また口語では語頭の「I(イ)」音は脱落しやすく、されにそれが口語発音風に変形したBin(ビン)、Ben(ベン)などがラストネーム(家名)に含まれているケースが多い地域も存在する。
[ ’ūṭa(h) bāshī ]→Uta Bashi、Utah Bashi、Ota Bashi、Otah Bashi、Outa Bashi、Outah Bashi、Utabashi、Otabashi、Otahbashi、Outabashi、Outahbashi
▶軍営・兵舎ならびにそこにいる兵士たちの責任者;隊商宿の警護人
【家長・先祖の職業に由来するニスバ。シリアやレバノンといったシャーム(レヴァント、レバント)地方に見られる家名。オスマン帝国時代の影響下でアラブ世界の家名として残ったものの一つで、トルコ語のOda başıが由来。odaは部屋、başıは長の意。
イェニチェリが現存していた時代には軍営・兵舎ならびにそこにいる兵士たちの責任者としての役職として存在し、階級は中尉に相当したとのこと。後代になるとアレッポなどで隊商宿(ハーン)の警護を行い夜に見回ったりする人物のことを指すようにもなったという。
أوضة باشي/أوضه باشي [ ’ūḍa(h) bāshī ] [ ウーダ(/オーダ)・バーシー ] と同じ語源の家名。】
【アラビア語のつづり通りならウータと読むが、実際にはオータという発音が多いためUta BashiではなくOta Bashiという英字表記がポピュラー。oではなくouというつづりもある。アラビア語では2語からなるが、英字表記では分かち書きされている場合とつなげ書きされている場合とがある。
بَاشِي [ bāshī ] [ バーシー ] 部分は長母音īがē寄りになるレバノン方言ではバーシェーと聞こえることもあってか、Otabashe、Otahbasheという英字表記も。】
[ ’ūḍa(h) bāshī ]→Uda Bashi、Udah Bashi、Oda Bashi、Odah Bashi、Ouda Bashi、Oudah Bashi、Udabashi、Odabashi、Odahbashi、Oudabashi、Oudahbashi
▶軍営・兵舎ならびにそこにいる兵士たちの責任者;隊商宿の警護人
【 家長・先祖の職業に由来するニスバ。シリアやレバノンといったシャーム(レヴァント、レバント)地方に見られる家名。オスマン帝国時代の影響下でアラブ世界の家名として残ったものの一つで、トルコ語のOda başıが由来。odaは部屋、başıは長の意。أُوطَه بَاشِي [ ’ūṭa(h) bāshī ] [ ウータ(/オータ)・バーシー ] と同じ語源の家名。
イェニチェリが現存していた時代には軍営・兵舎ならびにそこにいる兵士たちの責任者としての役職として存在し、階級は中尉に相当したとのこと。シリア アレッポの郷土史によると隊商宿(ハーン)の警護人がこの أوضة باشي [ ’ūḍa(h) bāshī ] [ オーダ・バーシー ] という名前で呼ばれており、日没時に大門を閉めたり夜間に見回ったりする業務を行っていたという。】
【アラビア語のつづり通りならウーダと読むが、実際にはオーダという発音が多いためUda BashiではなくOda Bashiという英字表記がポピュラー。oではなくouというつづりもある。アラビア語では2語からなるが、英字表記では分かち書きされている場合とつなげ書きされている場合とがある。
بَاشِي [ bāshī ] [ バーシー ] 部分は長母音īがē寄りになるレバノン方言ではバーシェーと聞こえることもあってか、Odabashe、Odahbasheといった英字表記も。】
[ ‘utaybī(y)/‘utaibī(y) ]→Utaybii、Utaybi、Utaibi、Utayby、Utaiby、Utaybee、Utaibeeなど
اَلْعُتَيْبِيّ
[ ’al-‘utaybī(y)/‘utaibī(y) ]→al-Utaybii、al-Utaybi、al-Utaibi、al-Utayby、al-Utaiby、al-Utaybee、al-Utaibeeなど
▶ウタイバ族の、ウタイバ族出身の
【 出身部族 عُتَيْبَة [ ‘utayba(h)/‘utaiba(h) ] [ ウタイバ ] に由来にするニスバ。通常は定冠詞を伴う。
ウタイバは男性名としても使われる名詞 عُتْبَة [ ‘utba(h) ] [ ウトバ ](=ワーディー(ワディ、ワジ、涸れ川)の曲り目)の縮小形名詞で、意味は「(小さな)ワーディー(ワディ、ワジ、涸れ川)の曲がり目」だが、ウタイバ族の父祖の名前自体は別の人名だった模様 。部族名がウタイバという名になった経緯にはいくつかの説があるそうで、一族の分家に عُتَيْب [ ‘utayb/‘utaib ] [ ウタイブ ] という名の男性・家長がいたことから残りの一族もそれにちなんだウタイバという名で呼ばれるに至ったという説明が最も有力だとか。
元々は現在サウジアラビアのナジュドからマッカ(メッカ)付近にかけての地域に居住。現代ではサウジアラビア他のアラビア半島各地などに成員らが住んでいるという。サウジアラビアにおける部族番号は511。】
【 アラビア語で [ ay ] は二重母音の [ ai ] を示すのでUtaybiだけでなくUtaibiという英字表記が多用されている。なお口語では二重母音 [ ai ] はエイもしくはエーと聞こえる発音になるので、ウタイビーがウテイビーもしくはウテービーに近くなる。
さらに口語ではuの音がo寄りになるのでオタイビー・オテイビー・オテービーとなる。それぞれに対応した英字表記のバリエーションはUteibi、Uteiby/Utebi、Uteby/Otaybi、Otayby、Otaibi、Otaiby/Oteibi、Oteiby/Otebi、Oteby、Otebeeなど。】
[ ’al-ghamīdī(y) ]→al-Ghamidii、al-Ghamidi、al-Ghamidy、al-Ghamidee
غَامِدِيّ
[ ghamīdī(y) ]→Ghamidii、Ghamidi、Ghamidy、Ghamidee
▶ガーミド族の、ガーミド族出身の
【 出身部族 غَامِد [ ghāmid ] [ ガーミド ] に由来にするニスバ。通常は定冠詞を伴う。ガーミドは現サウジアラビア南西部の(アル=)バーハ周辺に居住してきた部族。غَامِد [ ghāmid ] [ ガーミド ] は部族名の由来となった祖先男性のファーストネームで、剣を鞘に収める者 という意味を持つ。部族番号は707。 】
【 口語的な発音や母音の変化からiがeに寄った(アル=)ガーメディーに近い読みに基づく(al-)Ghamedi、(al-)Ghamedyといった表記のバリエーションがある。】
[ qabbānī(y) ]→Qabbanii、Qabbani、Qabbany、Qabbanee
اَلْقَبَّانَيّ
[ ’al-qabbānī(y) ]→al-Qabbanii、al-Qabbani、al-Qabbany、al-Qabbanee
▶秤屋
【 家長・先祖の職業に由来するニスバ。定冠詞がついていたりついていなかったりする。قَبَّان [ qabbān ] [ カッバーン ] はギリシア語由来で棒秤(ローマ秤)を指す。】
【 本来は子音bが2個続いたbbだが英字表記ではb1個のQabani、Qabanyというつづりもある。ただし元々はカッバーニーであってカバーニーやカバニではないので注意。】
[ ’al-qaḥṭānī(y) ]→al-Qahtanii、al-Qahtani、al-Qahtany、al-Qahtaneeなど
قَحْطَانِيّ
[ qaḥṭānī(y) ]→al-Qahtanii、Qahtani、Qahtany、Qahtaneeなど
▶カフターン族の、カフターン族出身の
【 出身部族 قَحْطَان [ qaḥṭān ] [ カフターン ] に由来するニスバ。通常は定冠詞を伴う。
現代においてカフターン族はサウジアラビアのティハーマ地方やナジュド地方周辺、クウェート、カタールといったアラビア半島の周辺諸国に居住。部族番号は505。 】
【 fではなくhに近い子音なので、日本語では(アル=)カハターニーとカタカナ表記されていることも。なおah部分は英語のように伸ばして発音するわけではないのでカーターニーとしないよう注意。 】
[ qahwajī(y) ]→Qahwaji、Qahwajy、Qahwajee
اَلْقَهْوَجِيّ
[ ’al-qahwajī(y) ]→al-Qahwaji、al-Qahwajy、al-Qahwajee
▶コーヒー屋・カフェの主人
【家長・先祖の職業に由来するニスバ。定冠詞がついていたりついていなかったりする。قَهْوَة [ qahwa(h) ] [ カフワ ](コーヒー)にトルコ語由来の職業を示す語尾 ـجِيّ [ -jī(y) ] [ -ジー ] を付加したもの。】
【qをgで発音しガフワジーと読むアラビア半島風発音に基づいた英字表記はGahwaji、Gahwajy等。jをgで発音するエジプトなどではjをgに差し替えたQahwagi、Qahwagy等。qが声門閉鎖音になりアフワジーやアフワギーと読む地域の読み方に対応したAhwaji、Ahwajy、Ahwagi、Ahwagyといった英字表記も。
なおイラクではこの家名が違うつづり・発音が見られ、ガハウチーとなったりする。】
[ ghannām ]→Ghannam、Ghanam、Gannam
اَلغَنَّام
[ ’al-ghannām ]→al-Ghannam、al-Ghanam、al-Gannam
▶羊飼い
【 家長・先祖の職業に由来するニスバ。定冠詞がついていたりついていなかったりする。】
【 アラビア語の元のつづりに忠実なのはghだが、ただのgに差し替えてある英字表記 (al-)Gannam も見られる。また本来は子音nが2個続いたnnだが英字表記ではn1個の (al-)Ghanam、(al-)Ganam というつづりもある。ただし元々はガンナームであってガナームやガナムではないので注意。】
[ ’al-qurashī(y) ]→al-Qurashii、al-Qurashi、al-Qurashy、al-Qurashee
قُرَشِيّ
[ qurashī(y) ]→Qurashii、Qurashi、Qurashy、Qurashee
▶クライシュ族の、クライシュ族出身の
【 出身部族 قُرَيْش [ quraysh / quraish ] [ クライシュ ] に由来するニスバ。通常は定冠詞を伴う。
クライシュ族は預言者ムハンマドの出身部族としても知られる。قُرَيْش [ quraysh / quraish ] [ クライシュ ] の名前の由来は部族の古い祖先の名前・別称だと言われている。
ウマイヤ朝、後ウマイヤ朝、アッバース朝もクライシュ族の系統。現代のヨルダン王族はクライシュ族ハーシム家の家系。モロッコの王族もクライシュ族の末裔だとされる。 】
【 口語的な発音や母音の変化から(アル=)クレシーや(アル=)コレシーに近くなった読みに基づいた(al-)Qureshi、(al-)Qureshy、(al-)Qoreshi、(al-)Qoreshyといった英字表記のバリエーションが存在する。 】
[ sā‘ātī(y) ] →Sa'ati、Saati、Sa'aty、Saaty、Sa'atee、Saateeなど
اَلسَّاعَاتِيّ
[ ’as-sā‘ātī(y) ] →al-Sa'ati、al-Saati、al-Sa'aty、al-Saaty、al-Sa'atee、al-Saateeなど
▶時計屋、時計製造業者、時計販売業者、時計修理業者
【家長・先祖の職業に由来するニスバ。定冠詞がついていたりついていなかったりする。シリアやレバノン近辺などで見られる家名。】
[ ṣāyigh ] →Sayigh、Sayig、Saigh、Saigなど
اَلصَّايِغ
[ ’aṣ-ṣāyigh ] →al-Sayigh、al-Sayig、al-Saigh、al-Saigなど
▶金細工職人、宝飾品職人
【 家長・先祖の職業に由来するニスバ。金細工や宝飾品の製造(鋳造・整形・細工)を行う職人を指す。文語における صَائِغ [ ṣā’igh ] [ サーイグ ] の声門閉鎖音/声門破裂音ハムザ部分が ي [ y ] に転じたもの。定冠詞がついていたりついていなかったりする。
シャーム地方で居住していた職人らが名乗るなどしていた家名で、ベイルートの金細工・宝石スークを作るなどしたのも彼らだったという。】
【ghをgで置き換えた(al-)Sayig、yi部分をiで表記した(al-)Saig、口語的にiをeで読むことに対応した(al-)Sayegh、(al-)Sayeg、(al-)Saegといった英字表記のバリエーションがある。英字表記で非常に多いのはSayighとSayegh。】
[ ṣāni‘ ] →Sani'、Sani、Sane'、Sanea、Saneなど
اَلصَّانِعُ
[ ’aṣ-ṣāni‘ ] →al-Sani'、al-Sani、al-Sane'、al-Sanea、al-Saneなど
▶(道具・用品等の)製造業者、制作職人
【 家長・先祖の職業に由来するニスバ。定冠詞がついていたりついていなかったりする。レバノン他で見られる家名。
道具・用品類を作る製造業者のことを指すが、パレスチナにある صَانِع الْخَيْرِ [ ṣāni‘u-l-khayr/khair ] [ サーニウ・ル=ハイル ](「善をなす者」という複合名タイプの家名)の分家もこの家名を名乗っているという。パレスチナのナーブルス近辺に居住するアッ=サーニウ家については代々の家業が建築業だったとのこと。】
【 最後の文字が喉を使う子音 ع [ ‘ ] であるアインという文字なので、実際の発音はサーニウではなくサーニアと聞こえることが多い。口語的にiがeに転じたサーネアに近い発音に対応する英字表記はSanea、Sane'だがSane'については'無しのSaneというつづりがある。語末にこのアインが含まれる人名は英字表記での揺れが大きく元のアラビア文字表記を推測しづらい英字表記になりがちである。】
[ ṣābūnjī(y) ]→Sabunji、Sabunjy、Sabounji、Sabounjy
اَلصَّابُونجِيّ
[ ’aṣ-ṣābūnjī(y) ]→al-Sabunji、al-Sabunjy、al-Sabounji、al-Sabounjy
▶石鹸屋
【 家長・先祖の職業に由来するニスバ。定冠詞がついていたりついていなかったりする。建築家ザハ・ハディドの母方祖父でイラクのモースル近代化に尽力した名士の家名もこのal-Sabūnjīだった。】
【 jをgに差し替えたSabungi、Sabungy、Saboungi、Saboungyという英字表記もある。なおイラクでの発音はサーブーンチー。そのためSabunchi、Sabunchy、Sabounchiといった英字表記が派生する。】
[ ṣayyād ] [ サイヤード ] → Sayyaad、Sayyad
اَلصَّيَّاد
[ ’aṣ-ṣayyād ] [ アッ=サイヤード ] → al-Sayyaad、al-Sayyadなど
▶狩人、猟師;漁師、漁夫(生業として、生計を立てるための仕事として従事していることを意味する)
■意味と概要■
家長・先祖の職業に由来するニスバ。定冠詞がついていたりついていなかったりする。動詞 صَادَ [ ṣāda ] [ サーダ ]((用具・狩猟具・漁具を使って)獲物をつかまえること・捕ること;獲物を狩る、捕る;魚を捕る、つかまえる)の動作主・行為者であることを強調したり職業名として使われたりする語形。صَيْد [ ṣayd / ṣaid ] [ サイド ](狩猟;漁獲)を生業とする者を意味。生活・生計のために日頃から狩猟や漁に従事していて、罠・銃・漁網といった色々な道具を使って獲物をつかまえる人といったニュアンス。
ちなみに「狩人、ハンター」という意味の名詞については قَنَّاص [ qaannāṣ ] [ カンナース ] という語もあり、日本アニメ『HUNTER×HUNTER』アラビア語版題名としても使われるなどしている。このカンナースは本来はサイヤードと同義語であり辞書でもサイヤードとの違いを明示した記述は見られないが、カンナースは「狙撃兵、スナイパー」という軍事的な意味でも使われるなど現代ではある程度の使い分けが存在している。アラブ世界のハンター同士の雑談等からすると、単なる猟師や漁師を意味することが多く食用なり何らかの用途に利用する目的で獲物を捕る仕事人としてのサイヤードに対して、視力やハンター能力に優れ高い的中率を誇り獲物・ターゲットを殺傷することに失敗しない銃撃のプロとしてのカンナースというイメージの違いがある模様。
本来猟師・狩人という意味だったはずのカンナースには現代においてスナイパーという意味合いが与えられたためか、狩猟・漁業のように獲物を有効利用する目的でその行為を行うのではなく、相手の殺傷そのものが目的のハンターというイメージが添えられた形となった様子。そのため創作でキャラクターや武器に「ハンター」という意味合いのアラビア語ネーミングを行う場合は、優れた狙撃兵をイメージさせるカンナースという語を用いることになるかと。
■発音と表記■
ṣay-部分のayは実際には二重母音のai(アイ)となるのでサイヤードと読む。ネーミング辞典などではSayyaad、Sayyadといった英字表記のyy連続をそのままカタカナ化することで促音化してしまいサッヤードと掲載していることがあるが誤り。実際にはサイ/ヤードのような読み方になる。昔は中東研究界隈でもAwwalをアッワル、Sayyadをサッヤードとするようなカタカナ表記がしばしば見られたが、今ではそれぞれアラビア語発音と同じアウワル、サイヤードが普及している。
本来はyが2連続しているSayyaad、Sayyadのyyだが、英字表記ではyを1個に減らしたSayaad、Sayadなども使われ得る。ただしサイヤードとは違うサヤードと読むことを意図してこのような英字表記をわざわざ採用している訳ではないので、サイヤードとカタカナ表記することを推奨。長母音ā部分は単にaと書くことが多いが、Sayyadはアラビア語でサッヤッド、サッヤドではなくサイヤード、Sayadはサヤッド、サヤドではなくサイヤードと読まれるので要注意。
[ zayyāt ]→Zayyat、Zayat
اَلزَّيَّات
[ ’az-zayyāt ]→al-Zayyat
▶油売り・油屋
【 家長・先祖の職業に由来するニスバ。定冠詞がついていたりついていなかったりする。】
【本来は子音yが2個続いたyyでzayy部分のayが二重母音のaiに対応しているのでザッヤートではなくザイヤートと読む。英字表記ではy1個のZayatというつづりもある。ただし元々はザイヤートであってザヤートやザヤトではないので注意。】
[ sawwās ] →Sawwas
اَلسَّوَّاس
[ ’as-sawwās ] →al-Sawwas
▶甘草屋、甘草売り、甘草ジュース屋
【家長・先祖の職業に由来するニスバ。سُوس [ sūs ] [ スース ](甘草、カンゾウ)もしくは甘草ジュース の売人という意味。定冠詞がついていたりついていなかったりする。】
【本来は子音wが2個続いたwwでsaww部分のawが二重母音のauに対応しているのでサッワースではなくサウワースと読む。英字表記ではw1個のSawasというつづりもある。ただし元々はサウワースであってサワースやサワスではないので注意。】
[ ṣabbāgh ] →Sabbagh、Sabagh
اَلصَّبَّاغ
[ ’aṣ-ṣabbāgh ] →Sabbagh、Sabagh
▶染物屋、染色業者
【 家長・先祖の職業に由来するニスバ。革や衣類に色をつける染色業者を指す。定冠詞がついていたりついていなかったりする。】
【本来は子音bが2個続いたbbだが英字表記ではb1個のSabaghというつづりもある。ただし元々はサッバーグであってサバーグやサバグではないので注意。ghをgで置き換えた(al-)Sabbagや、そこからbを1個抜いた(al-)Sabagという英字表記もある。】
[ ’az-zahrānī(y) ]→al-Zahranii、al-Zahrani、al-Zahrany、al-Zahranee
زَهْرَانِيّ
[ zahrānī(y) ]→Zahranii、Zahrani、Zahrany、Zahranee
▶ザハラーン(ザフラーン)族の、ザハラーン(ザフラーン)族出身の
【 出身部族 زَهْرَان [ zahrān ] [ ザハラーン(ザフラーン)] に由来するニスバ。通常は定冠詞を伴う。
ザハラーン族は現サウジアラビアの南西部(アル=)バーハに居住していた部族で、現代ではサウジアラビアの各都市やオマーンに広がっている。زَهْرَان [ zahrān ] [ ザハラーン(ザフラーン)] は部族名の元となった祖先の男性名で、光り輝いている・非常に色白な という意味を持つ。部族番号は702。 】
【 アラビア語のカタカナ表記のルールに従えばザフラーニーが適当だと思われるが、zahrānという英字表記を見てもわかる通り実際の発音はfではなくhなのでザハラーンの方が原語に近い。そのためもあり日本語ではザハラーニーとカタカナ表記されていることが多い。
なお ah部分を英語のように長く伸ばしてザーラーンと発音するわけではないので注意。】
[ ṣandaqlī ] →Sandaqli、Sandaqly
اَلصَّنْدَقْلِي
▶箱を作る職人、箱制作業者
【 レバノンに見られる家名。元々はエジプトやシャーム(レヴァント、レバント)地方に居住していた一族で、レバノン国内の商業・経済活動で重要な役割を果たしてきた家系だとか。
トルコにある地名が由来のニスバである場合と、صُنْدُوق [ ṣundūq ] [ スンドゥーク ](箱)を作る職人という意味の家長・先祖の職業に由来するニスバである場合とに分かれるという。定冠詞はついていたりついていなかったりする。】
【 アラブの人名表記では [ q ] の音を示す子音が発音場所の近いkに置き換えて英字表記されることが多く、このサンダクリーもSandakli、Sandaklyなどと書かれていることが非常に多い。なおSandakleeというつづりは非常にまれな模様。
またレバノンなどでは [ q ] の音を声門閉鎖音/声門破裂音であるハムザで発音する方言が多く、サンダクリーではなくサンダァリー、サンダッリー、サンダアリーに近く発音される。】
[ jābī ] →Jabi、Jaby、Jabee
اَلْجَابِي
[ ’al-jābī ] →al-Jabi、al-Jaby、al-Jabee
▶徴税役人、収税吏
【 家長・先祖の職業に由来するニスバ。ジャービーはアラビア語で徴税役人のこと。定冠詞がついていたりついていなかったりする。
アラビア半島からシャーム地方征服のために出ていったアラビア半島のアラブ人部族民の末裔が名乗っているとされる。レバノンやシリア周辺に見られる家名。】
[ jarrāḥ ]→Jarrah
اَلْجَرَّاح
[ ’al-jarrāḥ ]→al-Jarrah
▶外科医
【家長・先祖の職業に由来するニスバ。定冠詞がついていたりついていなかったりする。】
【英字表記では本来2つ連続するrr(al-Jarrah)をr1個でつづってある(al-Jarah)こともあるが、元々はジャッラーフでありジャラーフやジャラフではないので注意。】
[ jammāl ] →Jammal
اَلْجَمَّال
[ ’al- jammāl ] →al-Jammal
▶ラクダ使い、ラクダ乗り
【家長・先祖の職業に由来するニスバ。定冠詞がついていたりついていなかったりする。جَمَّال [ jammāl ] [ ジャンマール ] は جَمَل [ jamal ] [ ジャマル ](ラクダ)に従事している者を表す語形。】
【 本来は子音mが2個続いたmm(al-Jammal)だが英字表記ではm1個のal-Jamalというつづりもある。ただし元々はジャンマールであってジャマールやジャマルではないので注意。日本語では長母音を省いたジャマルと書かれていることもあるが、ジャマール(美)、ジャマル(ラクダ)とは別の語なのでジャンマールという人名を和訳する際は混同しないようにする必要がある。】
[ ash-shammarī(y) ]→al-Shammarii、al-Shammari、al-Shammary、al-Shammaree
شَمَّرِيّ
[ shammarī(y) ]→Shammarii、Shammari、Shammary、Shammaree
▶シャンマル族の、シャンマル族出身の
【 出身部族 شَمَّر [ shammar ] [ シャンマル ] に由来するニスバ。通常は定冠詞を伴う。
シャンマル族は現サウジアラビアの北寄りにあるナジュド地域のハーイルに居住してきた部族。部族番号はF-16。現代ではその血統はアラビア半島、イラク、シャーム(レバント/レヴァント)地方にも広がっている。】
【 口語的な発音と母音の変化から(アッ=)シンメリーや(アッ=)シェンメリーに近い読みとなることがあり、それらに基づいた(al-)Shimmeri、(al-)Shemmeriといった英字表記のバリエーションが存在する。】
[ shūrbajī(y) ]→Shurbaji、Shurbajy、Shourbaji、Shourbajy等
اَلشُّورْبَجِيّ
[ ’ash-shūrbajī(y) ]→al-Shurbaji、al-Shurbajy、al-Shourbaji、al-Shourbajy等
▶スープ調理人、料理人
【 家長・先祖の職業に由来するニスバ。شُرْبَجِيّ [ shurbajī(y) ] [ シュルバジー ] / اَلشُّرْبَجِيّ [ ’ash-shurbajī(y) ] [ アッ=シュルバジー ] のつづり違い。名詞 شُورْبَة [ shūrba(h) ] [ シュールバ ](スープ。トルコ語のチョルバ(çorba)のチ音がアラビア語に無いので調音部位が近い ج [ j ] や ش [ sh ] で当て字をしていたのがアラビア語内に定着したもの。)にトルコ語由来の職業を示す語尾 ـجِيّ [ -jī(y) ] [ -ジー ] を付加したもの。定冠詞がついていたりついていなかったりする。
オスマン帝国時代においてはイェニチェリ軍の兵食調理責任者・司令官階級や、地域の名士に与えられる称号的肩書きの名前だったとか。そのため祖先が必ずしもスープ屋やスープ調理人をしていたとは限らない模様。】
【口語的にuがoに転じた発音はショールバジーで、英字表記は(al-)Shorbaji、(al-)Shorbajy、(al-)Shourbaji、(al-)Shourbajy等。エジプト風に定冠詞がel-になりjをgに差し替え(エッ=)ショールバギーと読むことに対応した英字表記(el-)Shorbagi、(el-)Shorbagy、(el-)Shourbagi、(el-)Shourbagy等もある。】
[ shurbajī(y) ] [ シュルバジー ]→Shurbaji、Shurbajy、Shurbajee
اَلشُّرْبَجِيّ
[ ’ash-shurbajī(y) ] [ アッ=シュルバジー ]→al-Shurbaji、al-Shurbajy、al-Shurbajee
▶スープ調理人、料理人
【 家長・先祖の職業に由来するニスバ。定冠詞がついていたりついていなかったりする。名詞 شُرْبَة [ shurba(h) ] [ シュルバ ](スープ。トルコ語のチョルバ(çorba)のチ音がアラビア語に無いので調音部位が近い ج [ j ] や ش [ sh ] で当て字をしていたのがアラビア語内に定着したもの。)にトルコ語由来の職業を示す語尾 ـجِيّ [ -jī(y) ] [ -ジー ] を付加したもの。定冠詞がついていたりついていなかったりする。
オスマン帝国時代においてはイェニチェリ軍の兵食調理責任者に与えられる階級の名前だったとか。ただのスープ調理人というよりは料理長的な立場だった模様。】
【口語的にuがoに転じた発音はショルバジーで、英字表記は(al-)Shorbaji、(al-)Shorbajy、(al-)Shorbajee。エジプト風に定冠詞がel-になりjをgに差し替え(エッ=)ショルバギーと読むことに対応した英字表記(el-)Shorbagi、(el-)Shorbagy等もある。】
[ jundī(y) ]→Jundii、Jundi、Jundy、Jundee
اَلْجُنْدِيّ
[ ’al-jundī(y) ]→al-Jundii、al-Jundi、al-Jundy、al-Jundee
▶兵士
【 家長・先祖の職業に由来するニスバ。定冠詞がついていたりついていなかったりする。】
【 jがg発音されグンディーと読まれるエジプトなどにおいてjをgで表記してあることもしばしば。】
[ suṭūḥī(y) ] →Sutuhi、Sutouhiなど
سُطُوحِيّ
[ ’as-suṭūḥī(y) ] →al-Sutuhi、al-Sutouhiなど
▶屋根屋;屋根から監視を行う兵
【 家長・先祖の職業に由来するニスバ。意味は屋根屋(建物の屋根を作る職人・大工)もしくは屋根から監視を行う兵など。定冠詞がついていたりついていなかったりする。】
【 口語的にuがoに転じた発音に基づいた(al-)Sotouhi、(al-)Sotouhyといった英字表記もある。】
[ surūjī(y) ] →Suruji、Surujy、Surouji、Suroujyなど
اَلسُّرُوجِيّ
[ ’as-surūjī(y) ] →al-Suruji、al-Surujy、al-Surouji、al-Suroujyなど
▶鞍屋、鞍の製造業者
【 家長・先祖の職業に由来するニスバ。馬やロバにつける鞍を作る職人のこと。定冠詞がついていたりついていなかったりする。سُرُوج [ surūj ] [ スルージュ ] は سَرْج [ sarj ] [ サルジュ ](鞍)の複数形。同じつづりの音違いで سَرُوج [ sarūj ] [ サルージュ ] 出身のという意味のサルージーという家名もあるとのこと。】
【 口語的にuがoに転じた発音に基づいた(al-)Soruji、(al-)Soroujiといった英字表記もある。】
[ dāya(h) ] →Daya、Dayah
اَلدَّايَة
[ ’ad-dāya(h) ] →al-Daya、al-Dayah
▶産婆、助産師
【 家長・先祖の職業に由来するニスバ。定冠詞がついていたりついていなかったりする。産婆がいる家ということで家名になっているが、職業を示す家名としては珍しく女性形である。】
[ ’ad-dawsarī(y) ] [ アッ=ダウサリー ]→al-Dawsarii、al-Dawsari、al-Dawsary、al-Dawsareeなど
[ ’ad-dausarī(y) ] [ アッ=ダウサリー ]→al-Dausarii、al-Dausari、al-Dausary、al-Dausareeなど
دَوْسَرِيّ
[ dawsarī(y) ]→Dawsarii、Dawsari、Dawsary、Dawsareeなど
[ dausarī(y) ]→Dausarii、Dausari、Dausary、Dausareeなど
▶(アッ=)ダワースィル族の、(アッ=)ダワースィル族出身の
【 出身部族 اَلدَّوَاسِر [ ’ad-dawāsir ] [ アッ=ダワースィル ] に由来するニスバ。部族名とニスバ形容詞の語形が違うパターン。通常は定冠詞を伴う。ダワースィルの成員1人(男性単数形)は دَوْسَرِيّ [ dawsarī(y) / dausarī(y) ] [ ダウサリー ]となる。دَوْسَر [ dawsar / dausar ] [ ダウサル ] は「硬い石」「体が大きい・頑強な・激しく勇猛な獅子」「体の大きな(ラクダなどの)牡」「巨大な軍勢」といった意味合いの語で、دَوَاسِرُ [ dawāsir ] [ ダワースィル ] はその複数。父祖となった家長の本名ではなく部族の元々の居住地域の慣習で通称が部族名化したものだとか。屈強・頑強な一族の男たちを形容した言葉が由来である模様。
ダワースィルは複数の部族が参加する部族連合で多くが現サウジアラビアのナジュド地方に居住。部族番号は505。現代においてはクウェートやバーレーンにも広がる。部族名の由来については何通りかの説明がなされている模様。 】
【 アラビア語の二重母音は英字でawと表記される場合とauと表記される場合があるが、いずれも同じ二重母音「アウ」の音を示す。口語的な発音や二重母音の変化から(アッ=)ドウサリー、(アッ=)ドーサリーと聞こえることが多く、それらに基づいた (al-)Dosari、(al-)Dosary、(al-)Dowsari、(al-)Dowsary、(al-)Doudsari、(al-)Dousaryといった英字表記のバリエーションがある。口語的に語末長母音īが短母音i化した発音はドウサリ、ドーサリ 】
[ ṭabbāl ] →Tabbal
اَلطَّبَّال
[ ’aṭ-ṭabbāl ] →al-Tabbal
▶太鼓の叩き手、太鼓の演奏者
【 家長・先祖の職業に由来するニスバ。レバノンなどで見られる家名。意味は太鼓の叩き手で、軍行事・祝い事などにおいて太鼓を演奏していた者、ラマダーン中に太鼓を叩いて断食開始前の食事を摂るよう皆を起こして回るムサッヒル(/ムサッヘル、ムサッヒラーティー/ムサッヘラーティー)などを指す。定冠詞がついていたりついていなかったりする。
アラビア半島からシャーム地方(レヴァント、レバント)、レバノン、エジプト、モロッコへと移住したアラビア半島出身者の末裔らにこの家名を持つ者がいるなどするという。】
[ ’aṭ-ṭanṭāwī(y) ]→al-Tantawii、al-Tantawi、al-Tantawy、al-Tantaweeなど
طَنْطَاوِيّ
[ ṭanṭāwī(y) ]→Tantawii、Tantawi、Tantawy、Tantaweeなど
▶タンターの、タンター出身の
【 出身地 タンター طَنْطَا [ ṭanṭā ] [ タンター ] に由来するニスバ。エジプトなどでは定冠詞がついていないことも多い。タンター(日本語ではタンタというカタカナ表記多し。)はエジプトのナイル川下流デルタ地域の中ほどにある都市。 】
[ tūtanji ] →Tutanjii、Tutanji、Tutanjy、Tutanjee、Toutanji、Toutanjii
اَلتُّوتَنجِيّ
[ ’at-tūtanji ] →al-Tutanjii、al-Tutanji、al-Tutanjy、al-Tutanjee、al-Toutanji、al-Toutanjii
▶タバコ屋、タバコ製造業者、タバコ売り
【 家長・先祖の職業に由来するニスバ。レバノンに見られる家名だとのこと。定冠詞がついていたりついていなかったりする。トルコ語由来の職業を示す語尾 ـجِيّ [ -jī(y) ] [ -ジー ] を付加したもの。前半部分はトルコ語由来でタバコの意味。トゥータンジーで、タバコ製造業者・タバコ販売業者。】
[ tutanji ] →Tutanji、Tutanjy、Tutanjee
اَلتُّتَنجِيّ
[ ’at-tutanji ] →al-Tutanji、al-Tutanjy、al-Tutanjee
▶タバコ屋、タバコ製造業者、タバコ売り
【 家長・先祖の職業に由来するニスバ。レバノンに見られる家名だとのこと。定冠詞がついていたりついていなかったりする。تُوتَنجِيّ [ tūtanji ] [ トゥータンジー ] のつづり違い。トルコ語由来の職業を示す語尾 ـجِيّ [ -jī(y) ] [ -ジー ] を付加したもの。前半部分はトルコ語由来でタバコの意味。トゥタンジーで、タバコ製造業者・タバコ販売業者。】
[ dulaymī(y)/dulaimī(y) ]→Dulaymi、Dulaimi、Dulaymy、Dulaimy、Dulaymee、Dulaimeeなど
اَلدُّلَيْمِيّ
[ ’ad-dulaymī(y)/’ad-dulaimī(y) ]→al-Dulaymi、al-Dulaimi、al-Dulaymy、al-Dulaimy、al-Dulaymee、al-Dulaimeeなど
▶ドゥライムの、ドゥライム族の、ドゥライム族の、ドゥライム族出身の
【 出身部族 دُلَيْم [ dulaym/dulaim ] [ ドゥライム ] に由来にするニスバでイラクに多いラストネーム。通常は定冠詞を伴う。始祖 ثَامِر [ thamīr ] [ サーミル ] の息子には سَبْت [ sabt ] [ サブト ](=土曜日)、خَمِيس [ khamīs ] [ ハミース ](=木曜日)、جُمْعَة [ jum‘a(h) ] [ ジュムア ](=金曜日)らがいたが現在まで続いているのはサブトの子孫たちの系統。支族・分家に枝分かれしており成員は約100万人。
始祖の名がサーミルだったことから عِيَال ثَامِر [ ‘iyāl thāmir ] [ イヤール・サーミル ](サーミルの子ら、サーミルの子孫たち、サーミルの一族)という別名で呼ばれることも。部族の名前ドゥライムと始祖である初代族長サーミルの名前とが全然違うのはドゥライムがサーミルの肌の色から来るあだ名に由来しているため。語根d-l-mは肌などの色が黒い・非常に黒いことを示す語根で、أَدْلَمُ [ ’adlam ] [ アドラム ]は背が高く肌色が黒い男性の形容に用いる。دُلَيْم [ dulaym/dulaim ] [ ドゥライム ] はその縮小形。
それとは別にアンバール地域にある地名が由来だという説もあるとか。
ドゥライム族は元々は اَلزُّبَيْد [ ’az-zubayd/’az-zubaid ] [ アッ=ズバイド ] 族の末裔で、イスラーム軍による征服活動に従事しイエメン方面から北上した一族がイラクに定着してその子孫からドゥライム族を名乗るファミリーが生まれたという。
ドゥライムは全員がベドウィン(遊牧民)だった訳ではなくベドウィンのドゥライムと農民のドゥライムとが元々いたという。居住地は主にユーフラテス川があるイラクのالأنبار [ アル=アンバール ](アンバール)県エリア 。遊牧で育てている羊の肉を味付け調理してライスに乗せた اَلدُّلَيْمِيَّة [ ’ad-dulaymīya(h)/’ad-dulaimīya(h) ] [ アッ=ドゥライミーヤ ] という伝統料理はアンバール県の名物メニューとなっている。】
【 口語風の発音はドゥレイミー、ドレイミー、ドレーミーなど。日本語のカタカナ表記でドレイミ等と書かれているイラク人のラストネームも同じ。口語発音由来の英字表記は Dleymi、Dleimi、Dleymy、Duleymi、Duleimi、Dolaymi、Dolaymy、Dolaymee、Dolaimi、Dolaimy、Dolaimee、Doleymi、Doleimi、Doleimy、Dolemi、Dolemyなど。】
[ najjār ]→Najjar
اَلنَّجَّار
[ ’al-najjār ]→Najjar
▶大工
【 家長・先祖の職業に由来するニスバ。定冠詞がついていたりついていなかったりする。】
【 jがg発音されナッガールと読まれるエジプトなどにおいてjをgで表記してあることもしばしば。本来は子音jが2個続いたjj(Najjar)だが英字表記ではj1個(Najar)というつづりもある。ただし元々はナッジャールであってナジャールやナジャルではないので注意。また語末のarはアラビア語では英語のようにアーと読んでナジャーとすることはしない。】
[ khāshuqjī(y) ] →Khashuqji、Khashuqgi
▶スプーン職人;(食事用)スプーンを製造する業者;(スプーンを使って)人々に食事を提供する人;オスマン朝の宮廷においてスルターン(スルタン)の代理として歩兵軍団イェニチェリに食事を提供する役を務めた者
【由来】
家長・先祖の職業に由来するニスバ。アラビア半島の湾岸諸国に見られる姓で、オスマン帝国があった時代から続く古い家名。サウジアラビアにおいてハーシュクジー家は代々重要な地位を占めてきた。
ハーシュクジーはトルコ語の姓 Kaşıkçı [ カシュクチュ ] をアラビア語化したもので、スプーンを意味するトルコ語由来の خَاشُق [ khāshuq ] [ ハーシュク ] にトルコ語由来の職業を示す語尾 ـجِيّ [ -jī(y) ] [ -ジー ] を付加した語形である。意味はスプーン職人、(食事用)スプーンを製造する業者。また(スプーンを使って)人々に食事を提供する人も意味し、オスマン帝国の宮廷ではスルターン(スルタン)の代理として歩兵軍団イェニチェリに食事を提供する地位にある人物を指したという。
【つづりや発音について】
アラビア語の人名表記では ق [ q ] が元の発音に近い英字のkに置き換えられて表記されることが多い。またトルコ語由来で職業名を表す ـجِيّ [ -jī(y) ] [ -ジー ] については -jii、-ji、-jy、-jee、-gii、-gi、-gy、-geeといった英字表記のバリエーションが生じうるが、このうちハーシュクジー関連で多いのは-jiや-giの語尾となっている。
この家名については、文語(フスハー)のつづり通りであれば子音shは母音uを伴いshuとなり [ khāshuqjī(y) ] [ ハーシュクジー ] と発音。英字表記はKhashuqjiがメイン。qをkで置き換えたKhashukjiもある。現地だと実際には母音iを当てshiとして خَاشِقْجِيّ [ khāshiqjī(y) ] [ ハーシクジー ] と読まれることも多く、そうした母音記号通りの英字表記は少ないながらも見られるの英字表記はKhashiqji、Khashiqjy。qをkで置き換えたKhashikjiもある。
多用されているのは日常生活で口にされる口語的な読みに基づいた英字表記となっている。文語で [ khāshuqjī(y) ] [ ハーシュクジー ] と母音記号をふって読むケースでは、口語的な発音においてuがoになるので [ khāshoqjī(y) ] [ ハーショクジー ] となる。一方 [ khāshiqjī(y) ] [ ハーシクジー ] と母音記号をふって読むケースでは、口語的な発音においてiがeになるので [ khāsheqjī(y) ] [ ハーシェクジー ] と読まれる。
サウジアラビアなど アラビア半島の方言では子音 [ q ] が [ g ] で発音されることが多く、[ khāshugjī(y) ] [ ハーシュグジー ]、[ khāshogjī(y) ] [ ハーショグジー ]、[ khāshigjī(y) ] [ ハーシグジー ]、[ khāshegjī(y) ] [ ハーシェグジー ] といった読みのバリエーションが生じる。
これに英字表記におけるつづりの揺れが加わり、利用頻度の大小にかなりの差があるもののそれぞれの発音パターンに対してネット上で見られるのは以下のような多彩なバリエーションとなっている。
●ハーシュグジー:Khashugji/Khashugjy/Khashugjee/Khashuggi/Khashuggy/Khashuggee
●ハーショグジー:Khashogji/Khashugjy/Khashogjee/Khashoggi/Khashoggy/Khashoggee
●ハーシグジー:Khashigji/Khashigjy/Khashiggi/Khashiggy
●ハーシェグジー:Khashegji/Khashegjy/Khasheggi/Khasheggy
トルコ国内で殺害されたトルコ系サウジアラビア人ジャーナリストは日本語でジャマル・カショギとカタカナ表記されるが、これは彼が自分で使っていたJamal Khashoggiという氏名の英字表記を英語風に読んだ英語圏での発音に基づくものである。アラビア語では جَمَال خَاشُقْجِيّ [ jamāl khāshuqjī(y) ] [ ジャマール・ハーシュクジー ] だが、彼の場合ハーシュクジー部分は現地口語発音のハーショグジーをベースにしている。
・Jamālのa部分についている長母音を示す横棒を抜いてJamalにすることでマーではなく短いマになる。
・Khaを日本のアラビア語関連業界で一般的なハ行ではなく英語圏同様カ行で表記する。
・Khā-部分の長母音の横棒を取り去ってKha-とし、ハーと伸ばさずにハ、さらにはカ行で表記するのでカーではなくカにする。
・-ggiの最初のgは [ q ] を [ g ](ガ行の音)で発音することを反映しているが、一方で2番目のgは [ j ] で読む部分をgの文字に置き換えただけなのでジの音で発音することを想定している。
・-ggi部分のiは [ -gjī ] と読む部分を-ggiと英字表記しているだけなので、元のアラビア語の特性を知っていれば-ggi部分は-グジーと読むが、知らない海外の人だと-(ッ)ギと発音する可能性が高い。
このような変遷を経て、サウジアラビア首都周辺方言に基づくとジャマール・ハージョグジーと発音される名前が日本語でジャマル・カショギと表記されるに至った形となっている。アラブ人名の読みはこのようにして別の外国語をいったん経由して伝わることが多く、時としてアラビア語に忠実に表記した場合との差が大きく同一人物だと気付きにくいといったことが起きるなどする。
なおイラクでは発音やつづりの勝手が他地域と異なる。イラクではスプーンは [ ハーシューカ ] や [ ハーシューガ ] と呼ばれるが、口語においては ق と書いて [ g ] と発音する ق をペルシア語から借りた گ [ g ] やその代用である本来 [ k ] の音を表すアラビア語の ك [ k ] で表記すること、文語では ق [ q ] だった語根が ك [ k ] の発音に置き換わる現象がしばしば見られること、トルコ語由来の職業名を示す ـجي [ ージー ] 部分を元々の発音と同じ [ ーチ(ー) ] と読み ـجي もしくは ـچی と書いたりする。そこから خاشكجي / خاسكچي / خاشگجي / خاشگچي [ ハーシュグチー (/ハーショグチー) ] のようなつづりとアラビア語表記が派生。これに対応した英字表記はKhashogchiなど。
[ khānjī(y) ] →Khanjii、Khanji、Khanjy、Khanjee
اَلْخَانجِيّ
[ ’al-khānjī(y) ] →al-Khanjii、al-Khanji、al-Khanjy、al-Khanjee
▶ハーン屋、隊商宿屋、宿屋(の宿主もしくは従事者)
【 家長・先祖の職業に由来するニスバ。定冠詞がついていたりついていなかったりする。隊商宿を意味する خَان [ khān ] [ ハーン ] にトルコ語由来の職業を示す語尾 ـجِيّ [ -jī(y) ] [ -ジー ] を付加したもの。意味は隊商宿(ハーン)の宿主もしくはそこで働いている人間。前半部分がペルシア語由来、後半部分がトルコ語由来。
オスマン・トルコの統治時代にシリア~エジプトやトルコなどに住んでいた一族がこのファミリーネームを名乗っていることが多いという。】
[ baydas/baidas ] →Baydas、Baidas
▶歩兵軍団
【 パレスチナやレバノンで見られる家名。ペルシア語由来で歩兵軍団を示す名称から。パレスチナ-レバノンハーフでイントラ銀行の元トップ ユースィフ・バイダス(口語発音はユーセフ・ベイダス)のファミリーネームでもある。】
【 アラビア語で [ ay ] は二重母音の [ ai ] を示すのでBaydasだけでなくBaidasという英字表記が多用されている。口語では二重母音 [ ai ] はエイもしくはエーと聞こえる発音になるので、バイダスがベイダスもしくはベーダスに近くなる。そうした口語発音に基づいた英字表記がBeydas、Beidas、Bedas。Bedasについてはēから長母音を示す横棒を取り去った形となっており、ベダスではなくベーダスという発音を意図したもとなっている。】
[ khayyāṭ ]→Khayyat
اَلْخَيَّاط
[ ’al-khayyāṭ ]→al-Khayyat
▶仕立て屋
【 家長・先祖の職業に由来するニスバ。定冠詞がついていたりついていなかったりする。レバノン国内ではイスラーム教徒のハイヤート家とキリスト教徒のハイヤート家とがあるが、シャーム地方で有名なのはカトリックのハイヤート家でかつてパレスチナのハイファでバス会社を運行していた。】
【 本来は子音yが2個続いたyyでkhayy部分のayが二重母音のaiに対応しているのでハッヤートではなくハイヤートと読む。英字表記ではy1個のKhayatというつづりもある。ただし元々はハイヤートであってハヤートやハヤトではないので注意。khは通常ハ行でカタカナ化し、カイヤートとはしないのが普通。】
[ bawwāb ]→Bawwab、Bawab
اَلْبَوَّاب
[ ’al-bawwāb ]→al-Bawwab、al-Bawab
▶門番
【 家長・先祖の職業に由来するニスバ。定冠詞はついたりつかなかったりする。バウワーブといってもエジプトの集合住宅エントランスにいる管理人兼雑用係ではなく、街の城門を守備する者だったことからつけられた類の家名。】
【 本来は子音wが2個続いたww(Bawwab)でbaww部分のawが二重母音のauに対応しているので厳密にはバッワーブではなくバウワーブと発音される。英字表記ではw1個のBawabというつづりもある。ただし元々はバウワーブであってバワーブやバワブではないので注意。また長母音のāがēに近くなる地域の口語発音ではバウウェーブに近く読まれ、これに即した英字表記として(al-)Baweb等が存在。】
[ ’al-baghdādī(y) ]→al-Bagdhdadii、al-Baghdadi、al-Baghdady、al-Baghdadee
بَغْدَادِيّ
[ baghdādī(y) ]→Baghdadii、Baghdadi、Baghdady、Baghdadee
▶バグダードの、バグダード出身の
【 出身地 バグダード بَغْدَاد [ baghdād ] [ バグダード ] に由来するニスバ。通常は定冠詞を伴う。バグダード(日本語ではバグダッドといったカタカナ表記多し)は現イラクの真ん中あたりにあるティグリス川沿いの首都。アッバース朝時代に作られた都。】
【 元のアラビア語表記に忠実なgh部分をgに置き換えた英字表記(al-)Bagdadi、(al-)Bagdadyなども見られる。】
[ ’al--baṣrī(y) ]→al-Basrii、al-Basri、al-Basry、al-Basree
بَصْرِيّ
[ baṣrī(y) ]→Basrii、Basri、Basry、Basree
▶バスラの、バスラ出身の
【 出身地 バスラ اَلْبَصْرَة [ ’al-baṣra(h) ] [ アル=バスラ ] に由来するニスバ。通常は定冠詞を伴う。バスラは現イラクの都市でティグリス川とユーフラテス川が合流した後の河川沿いにある港湾都市。】
[ badawī(y) ] →Badawii、Badawi、Badawy、Badawee
اَلْبَدَوِيّ
[ ’al-badawī(y) ] →al-Badawii、al-Badawi、al-Badawy、al-Badawee
▶遊牧民の
【 遊牧民、非定住民を意味する بَدْو [ badw ] [ バドウ/バドゥウ ] を形容詞化したニスバ。定冠詞がついていたりついていなかったりする。イスラーム遠征軍に加わってアラビア半島から各地に広がった部族民らの末裔等が名乗っている家名だという。レバノン国内でバダウィー姓を持つ人たちは単一の家系というわけではなく、複数のルーツがあるとのこと。】
[ batakjī(y) ] →Batakji
اَلْبَتَكجِيّ
[ ’al-batakjī(y) ] →al-Batakji
▶剣;作家・書記業;養蜂家
【 家長・先祖の職業に由来するニスバ。レバノンのベイルートやサイダー(サイダ、シドン)に見られる家名だとのこと。定冠詞がついていたりついていなかったりする。
トルコ語由来の職業を示す語尾 ـجِيّ [ -jī(y) ] [ -ジー ] を付加したもの。بتك部分は(1)アラビア語で切断に関連した意味を付与する語根「ب ت ك」(b-t-k)でバタクジーが剣に関連した語である、(2)オスマン・トルコ語の「書くこと」という意味でバタクジーは書く仕事の人=作家、書記業を意味し、先生・教育者という意味でも使われる、といった説明あり。バタクジー=蜂関連の仕事の人、養蜂家だという解釈をしているソースあり。】
発音記号あり:بَزَّاز
[ bazzāz ] [ バッザーズ ]
Bazzaaz、Bazzaz
発音記号無し:البزاز
発音記号あり:اَلْبَزَّاز
[ ’al-bazzāz ] [ アル=バッザーズ ]
al-Bazzaaz、al-Bazzaz、Al-Bazzaaz、Al-Bazzaz、Albazzaaz、Albazzaz、al Bazzaaz、al Bazzaz、Al Bazzaaz、Al Bazzaz
▶生地屋、反物屋
【 家長・先祖の職業に由来するニスバ。定冠詞がついていたりついていなかったりする。なお全く同じアラビア語つづりで発音違いの بِزَاز [ bizāz ] [ ビザーズ ] は「乳首;(女性の)乳房」を意味する بُزّ [ buzz ] [ ブッズ ] の複数形で猥褻コンテンツで使われていることもあるので混同に要注意。】
【 本来2個連なっている真ん中のzzが1個だけのzになった英字表記があり、al-Bazaaz、al-Bazaz、Al-Bazaaz、Al-Bazaz、Albazaaz、Albazaz、al Bazaaz、al Bazaz、Al Bazaaz、Al Bazazなどが使われ得る。また語末のzを1個から2個に増やしたバージョンもあり、al-Bazzaaz、al-Bazzaz、Al-Bazzaaz、Al-Bazzaz、Albazzaaz、Albazzaz、al Bazzaaz、al Bazzaz、Al Bazzaaz、Al Bazzaz、al-Bazzaazz、al-Bazzazz、Al-Bazzaazz、Al-Bazzazz、Albazzaazz、Albazzazz、al Bazzaazz、al Bazzazz、Al Bazzaazz、Al Bazzazzなどが考え得る。
ただしいずれもアル=バッザーズという発音を意図しており、アル=バザズ、アル=バッザーッズ、アル=バッザッズ、アル=バザッズ等とカタカナ化しない方が適切な例が多いものと思われる。
口語(方言)では [ ’il- ] [ イル= ] や [ ’el- ] [ エル= ] に変わることが多いため、al-ではなくil-やel-になっているケースも。el-に置き換える人が多い地域の代表例はエジプト。英字表記で「al-」になっていない場合は本人が自分の話す方言に合わせて文語アラビア語(フスハー)ではなく口語アラビア語(アーンミーヤ)での発音に近くなるようわざわざil-やel-にしているので、必要に応じて上記における「アル=」部分を「イル=」や「エル=」に書き換えるなどする。】
[ ḥashshāsh ] →Hashshashなど
اَلْحَشَّاش
[ ’al-ḥashshāsh ] →al-Hashshashなど
▶草刈り人、草屋(刈り取った草を集めたり売ったりする人)
【 家長・先祖の職業に由来するニスバ。定冠詞がついていたりついていなかったりする。レバノンなどで見られる家名で、イスラーム遠征軍に参加したアラビア半島部族の末裔が名乗っているとされる。
現代で多用されている「ハシーシュ吸い、大麻吸引者」という意味ではなく、ハシーシュ(麻薬という意味ではなく、草全般を意味する名詞)を切る・刈る仕事の人という意味の家名である模様。草を刈ってそれを集めたり売ったりする職業を示すという。】
【 本来は子音shが2個続いたshshだが英字表記ではshだらけになってしまうのでsh1個でコンパクトにまとめたつづりHashashが多用されている。ただし元々はハッシャーシュであってハシャーシュやハシャシュではないので注意。】
[ ḥaddād ]→Haddadなど
اَلْحَدَّاد
[ ’al-ḥaddād ]→al-Haddadなど
▶鍛冶屋
【 家長・先祖の職業に由来するニスバ。定冠詞がついていたりついていなかったりする。حَدِيد [ ḥadīd ] [ ハディード ](鉄)に関連した行為・業務に従事する者を示す語形。】
【 本来は子音bdが2個続いたddだが英字表記ではd1個の(al-)Hadadというつづりもある。ただし元々はハッダードであってハダードやハダドではないので注意。日本ではハダッドと書かれていることも多いが、小さな「ッ」になる場所が後ろにずれており原語に忠実なカタカナ化にはなっていない。】
[ ḥallāq ] →Hallaq、Halaq
اَلْحَلَّاق
[ ’al-ḥallāq ] →al-Hallaq、al-Halaq
▶床屋、理髪師;医者、床屋外科
【 家長・先祖の職業に由来するニスバ。定冠詞がついていたりついていなかったりする。レバノンやシリア他で見られる家名。現代ではハッラークは床屋という意味で使うが、家名の由来としては医業を営んでいた床屋外科の方を指しているなどする。】
【 本来は子音nlが2個続いたll(Hallaq)だが英字表記ではl1個(Halaq)というつづりもある。ただし元々はハッラークであってハラークやハラクではないので注意。元のqをkに置き換えた英字表記Hallak、Halakも見られる。】
[ bakhūr ] →Bakhur、Bakhour
▶香;乳香;沈香
【 レバノンで見られる家名。イスラーム遠征軍に加わってアラビア半島からエジプト、シャーム(レヴァント、レバント)地方、マグリブ地方へと出ていった部族民らの末裔が名乗るなどしている家名だとのこと。マグリブ地方から引き返してシャーム地方に定住したという。
بَخُور [ bakhūr ] [ バフール ] は「香;乳香;沈香」の意。この家系には رَقّ البَخُورِ [ raqqu-l-bakhūr ] [ ラック・ル=バフール ](ラック・アル=バフール)という家名を名乗っているファミリーもいるが、これは彼らの祖先で聖者とみなされた人物がクルアーンを朗誦しながら香をまいたりすることで病人や気が触れた者たちに慈悲をかけてやっていたためつけられたあだ名が由来だとのこと。رَقٌ لِـ [ raqq(un) li- ] [ ラック・リ~ ] で「~に慈悲をかけること、~をあわれむこと」の意味。】
【 家名بَخُور [ bakhūr ] [ バフール ] や رَقّ البَخُورِ [ raqqu-l-bakhūr ] [ ラック・ル=バフール ](ラック・アル=バフール)についてはqをkで置き換えたり、本来は2個あるqをqqではなくq1個もしくは置き換えたk1個のみで表記したりしている英字表記が見られる。成員の数が少ない家名なので確認が難しいが、英字表記で検索に上がってくるのはRaq al-Bakhour、Rak al-Bakhourなど。】
[ ḥarīrī(y) ] →Haririi、Hariri、Hariry、Hariree
اَلْحَرِيرِيّ
[ ’al-ḥarīrī(y) ] →al-Haririi、al-Hariri、al-Hariry、al-Hariree
▶絹屋、絹販売業者、絹製造業者
【 家長・先祖の職業に由来するニスバ。定冠詞がついていたりついていなかったりする。レバノンの政治家ファミリーの家名としても有名だが、レバノン以外でも見られるファミリーネームである。ハリーリーは حَرِير [ ḥarīr ] [ ハリール ](絹)に由来する形容詞形で絹に関連している物事・人やそれを扱う業種に従事している者であることを示す。】
[ baltājī(y) ] →Baltaji、Baltajy
اَلْبَلْتَاجِيّ
[ ’al-baltājī(y) ] →al-Baltaji、al-Baltajy
▶バルタージュ(バルターグ、ベルターグ)出身の
【 祖先の出身地に由来するニスバ。エジプト、パレスチナ、レバノンなどで見られる家名。定冠詞はついていたりついていなかったりする。بَلْطَجِيّ [ balṭajī(y) ] [ バルタジー ](工兵)に音が似ており英字表記だとBaltajiやBeltajiとなり全く同じになるので紛らわしいが、別の由来がある家名。
エジプトの場合はデルタ地帯に実在する村の名前 بَلْتَاج [ baltāj ] [ バルタージュ ](エジプト風発音はバルターグ、ベルターグ。英字表記はBeltag。)を形容詞化したニスバだという。エジプトから移住した結果パレスチナ、ヨルダンにも広がったファミリーネームらしいが、全てのバルタージー姓の人々がエジプトのバルタージー姓の人々と血縁関係が必ずあるのかどうかは定かでない模様。】
【 口語風の発音だと [ beltājī ] [ ベルータジー ] に近くなることがあり、英字表記も(al-)Beltaji、(al-)Beltajy等。定冠詞がel-で、jをgで発音しバルターギー、ベルターギーと読まれるエジプト風の英字表記として(el-)Beltagi、(el-)Beltagyといったバージョンもある。】
[ balṭajī(y) ]→Baltaji、Baltajy、Baltajee
اَلْبَلْطَجِيّ
[ ’al-balṭajī(y) ]→al-Baltaji、al-Baltajy、al-Baltajee
▶斧を持つ者、斧を使う仕事に従事する者;工兵;スルターン居城の警備兵
【由来】
家長・先祖の職業に由来するニスバ。定冠詞がついていたりついていなかったりする。بَلْطَة [ balṭa(h) ] [ バルタ ](斧)にトルコ語由来の職業を示す語尾 ـجِيّ [ -jī(y) ] [ -ジー ] を付加したもので意味は「斧を持つ者、斧を使った職業に従事する者」。
工兵とは他の兵士たちに先駆けて進軍し斧を使って木々を切って道をひらいたり道中の邪魔な物を壊したりして回っていた職種。後にスルターンの居城警備・火災対応・女性らの移動護衛にあたったりする人物らを指す名称になったため、バルタジーといっても同じ内容を意味するとは限らない。
工兵としてのバルタジーは真っ先にやってきて破壊や乱暴を行っていたことから住民に怖がられていたのだとか。また粗暴でギャングのような者が多かったことから「バルタジー=ギャング・無法者」というもうひとつの意味が生まれた。そこから派生した動名詞として بَلْطَجَة [ balṭaja(h) ] [ バルタジャ ](バルタジーのようにふるまうこと、無法者としてふるまうこと→無法行為)がある。現代アラブ世界のメディアでもバルタジーやその複数形バルタジーヤは路上や街中で人々に暴力をふるう集団、報酬や利害関係のために他人を襲う輩、選挙等社会的な不正を行う集団に関する描写で使われることが日常的になっている。
現代では良い意味で使われなくなってしまい侮蔑や罵倒の言葉に近くなっているバルタジーだが、レバノンにはバルタジーの名前を持つ古い家系(港湾関係で活躍)があり道の名前としても残っている。バルタジー家には家名を馬鹿にしないで欲しいと抗議した者もいることからも一族の家名の由来が立派な職業名であったことが伺える。
レバノンのバルタジー一族はトルコからエジプトを経由するなどしてシャーム地方まで移住。オスマン帝国時代には実際に軍人とした活躍した成員らもいたが、家名が工兵・スルターン居城警護兵由来なだけで実際にはもっと高い地位にあった人物も輩出した模様。ベイルートの家名辞典には斧を持つトルコ語職業名が由来だがスルターン(スルタン)の居城を護衛する一団のことを指すとの記載あり。
【つづりや発音について】
口語風の発音だと [ belṭajī ] [ ベルタジー ] に近くなることがあり、英字表記も(al-)Beltaji、(al-)Beltajy等。定冠詞がel-で、jをgで発音しバルタギー、ベルタギーと読まれるエジプト風の英字表記、(el-)Beltagi、(el-)Beltagyといったバージョンもある。
[ ’al-ḥarbī(y) ]→al-Harbii、al-Harbi、al-Harby、al-Harbeeなど
حَرْبِيّ
[ ḥarbī(y) ]→Harbii、Harbi、Harby、Harbee
▶バヌー・ハルブの、バヌー・ハルブ出身の、ハルブ族の、ハルブ族出身の
【 出身部族 بَنُو حَرْب [ banū ḥarb ] [ バヌー・ハルブ ]、حَرْب [ ḥarb ] [ ハルブ ] 族 に由来するニスバ。通常は定冠詞を伴う。ハルブ族は現サウジアラビアのナジュド地方やヒジャーズ地方を中心に居住。部族番号はF-15。現代では周辺のアラビア半島諸国やシャーム地方(レバント/レヴァント地方)にも広がる。系譜については歴史的な証拠による裏付けが難しいが、元々イエメンのヒムヤルの血を引く家系だとされる。身内同士の諍いをきっかけにサウジアラビア方面に移住したと言われている。
حَرْب [ ḥarb ] [ ハルブ ](戦争、戦い;激しい戦いをする勇猛な男)は男性名で大先祖のファーストネーム。部族長だった大ご先祖がいた頃はハルブという男性名は珍しくなかったが、預言者ムハンマドが推奨しない名前として名指ししている上に現代では物騒な印象を与えることもあってまず命名されないレアネームとなっている。】
[ barbīr ] →Barbir、Barbeer
اَلْبَرْبِير
[ ’al-barbīr ] →al-Barbir、al-Barbeer
▶ロープ製造業者
【 家長・先祖の職業に由来するニスバ。定冠詞がついていたりついていなかったりする。レバノンに見られる家名だとのこと。元々はアラビア半島出身の部族で、アラブ人らによる領土拡大戦争で外に出ていった際にエジプトやシャーム地方(レヴァント、レバント)に散っていた一団の末裔。バルビールは床屋を意味するBarberやBarbierのアラビア語転写ではなく、紙・巻物の原料であるパピルスに由来する語だというが、レバノンでの家名に関しては港に船をとめておくために撚りあわせて作るロープのことで、バルビール姓はロープ製造業の従事者を示唆している可能性が高い模様。】
[ ḥalwānī(y) ] →Halwanii、Halwani、Halwany、Halwanee
اَلْحَلْوَانِيّ
[ ’al-ḥalwānī(y) ] →al-Halwanii、al-Halwani、al-Halwany、al-Halwanee
▶菓子屋/菓子製造業者/菓子販売業者
【 家長・先祖の職業が菓子屋/菓子製造業者/菓子販売業者だったことに由来するニスバ、ハルワーンという地名が出身であることからついたニスバなど同じ語形のファーストネームであっても意味は様々である。定冠詞がついていたりついていなかったりする。】
[ bandāq ] →Bandaq
اَلْبَنْدَاق
[ ’al-bandāq ] →al-Bandaq
▶注意深く見る(男)、詳細に目を通す(男)、精査する(男)、洞察力がある、物事を見通す力がある
【 イスラーム遠征軍の征服活動に伴い各地に散っていったアラブ人の末裔に見られる家名で、レバノン以外にもアルジェリアなどにこの家名を持つ人々が多いという。レバノンのベイルートにいるバンダーク家は歴史書をたどるとアルジェリア方面から移住してきた一族なのだとか。
バンダークは先祖の性質・特質に由来するラカブの類で、بَنْدَاق [ bandāq ] [ バンダーク ] で意味は「注意深く見る(男)、詳細に目を通す(男)、精査する(男)、洞察力がある、物事を見通す力がある」など。定冠詞はついていたりついていなかったりする。】
【 アラブ人名ではqを発音場所が近いkに置き換えた英字表記が見られ、BandaqがBandakと書かれていることも少なくない。】
[ ḥūrī(y) ] →Huri、Huryなど
اَلْحُورِيّ
[ ’al-ḥūrī(y) ] →Huri、Huryなど
【 先祖の身体的特徴にちなんだ家名(ラカブ)もしくは一族の出身地にちなんだ家名(ニスバ)。レバノン他で見られる。定冠詞がついていたりついていなかったりする。同じ語形の家名でも由来は複数あり、元々住んでいた地区の名前を形容詞化したニスバだったり、祖先の男性名が元になった部族名を形容詞化したニスバだったり、目が黒目と白目のコントラストがくっきりした目ーعُيُون حَوْرَاءُ [ ‘uyūn ḥawrā’/ḥaurā’ ] [ ウユーン・ハウラー(ゥ/ッ) ]ーの持ち主だった祖先に由来するラカブ的なものだったり、様々である。】
【 口語的な発音では(アル=)ホーリーとなるため、英字つづりも(al-)Houri、(al-)Houry、(al-)Hoori、(al-)Horiなど様々である。また(al-)Hourieのような英字表記も存在。】
[ fākhūrī(y) ]→Fakhurii、Fakhuri、Fakhury、Fakhouri、Fakhoury等
اَلْفَاخُورِيّ
[ ’al-fākhūrī(y) ]→al-Fkhakhurii、al-Fakhuri、al-Fakhury、al-Fakhouri、al-Fakhoury等
▶陶器職人、陶工
【 家長・先祖の職業に由来するニスバ。定冠詞がついていたりついていなかったりする。فَاخُور [ fākhūr ] [ ファーフール ] や فَاخُوريّ [ fākhūrī ] [ ファーフーリー ] は فَخَّار [ fakhkhār ] [ ファッハール ](陶器)を作る者、陶工のこと。】
[ ’al-makkī(y) ]→al-Makkii、al-Makki、al-Makky、al-Makkeeなど
مَكِّيّ
[ makkī(y) ]→Makkii、Makki、Makky、Makkeeなど
▶マッカ(メッカ)の、マッカ(メッカ)出身の
【 出身地 マッカ(メッカ)مَكَّة [ makka(h) ] [ マッカ ] に由来するニスバ。通常は定冠詞を伴う。マッカは現サウジアラビアの西寄りにあるヒジャーズ地方の都市で、山や谷の多い地域。ハッジやウムラといった巡礼でにぎわう街だが、イスラームの聖域のため非信徒は立ち入ることができない。 】
【 口語的な発音や母音の変化が起きた(アル=)メッキーに基づく(al-)Mekki、(al-)Mekkyといった英字表記のバリエーションが存在する。 】
[ ’al-muṭayrī(y) ]→al-Mutayriなど
[ ’al-muṭairī(y) ]→al-Mutairii、al-Mutairi、al-Mutairy、al-Mutaireeなど
مُطَيْرِيّ
[ muṭayrī(y) ]→Mutayriなど
[ muṭairī(y) ]→Mutairii、Mutairi、Mutairy、Mutaireeなど
▶ムタイル族の、ムタイル族出身の
【 出身部族 مُطَيْر [ muṭayr / muṭair ] [ ムタイル ] に由来するニスバ。通常は定冠詞を伴う。現サウジアラビアのヒジャーズ地方からナジュド地方にかけて居住。現代ではサウジアラビア各地に加え、クウェートやイラクにも広がる。
部族名の مُطَيْر [ muṭayr / muṭair ] [ ムタイル ] は男性名で、雨(مَطَر [ maṭar ] [ マタル ])が多い・寛大な・気前の良い といった意味を持つ。部族番号は305。】
【 アラビア語の二重母音は英字でayと表記される場合とaiと表記される場合があるが、いずれも同じ二重母音「アイ」の音を示す。 口語的な発音は(アル=)ムテイリー、(アル=)ムテーリー、(アル=)モタイリー、(アル=)モテイリー、(アル=)モテーリーなど。その場合の英字表記はそれぞれ(al-)Muteiri、(al-)Muteri、(al-)Motairi、(al-)Moteiri、(al-)Moteriなどに転じる。 】
[ rā‘ī ] →Ra'ii、Ra'i、Raii、Raey、Raee、Raea、Raei、Raieなど
اَلرَّاعِي
[ ’ar-rā‘ī ] →al-Ra'ii、al-Ra'i、al-Raii、al-Raey、al-Raee、al-Raea、al-Raei、al-Raieなど
▶羊飼い、牧人;保護者、パトロン
【 ファーストネームとしても使われる名詞。純然たる家名として使われる場合は家長・先祖の職業に由来するニスバ。定冠詞がついていたりついていなかったりする。文語だと非限定名詞の語形は رَاعٍ だが人名なので語末の弱文字部分は展開され راعي とつづられる。】