アラブ人名辞典-女性の名前

List of Arabic Given Names (Female) [ Arabic-Japanese ]

各種アラブ人名辞典(アラ-アラ、アラ-英)・中世から現代までのアラビア語大辞典・現地記事にて確認しながら日本語訳し、プラグインにデータ入力して作っています。「♪発音を聴く♪」をクリックすると発音サンプルの音声が流れます。

現地発刊のアラブ人名辞典5冊前後+串刺し検索で辞典を20~30冊ほどチェックし管理人の自分用メモとし、そこに創作・命名向け情報などをプラス。検索エンジンに全部載るよう全ネームを1ページに出力しています。長いので頭文字別ページや検索をご利用ください。

*アラビア語由来の名前を持っている人=アラブ系・アラブ人ではないので、トルコ、イラン、パキスタンなど非アラブ系の国における発音や表記とは区別する必要があります。(言語によってはアラビア語と少し意味が違ったり、アラブ男性名がその国の女性名になっていることも。)
* [ ] 使用項目/行数が少ない部分は未改訂の初期状態、【 】使用項目は改訂履歴あり。■ ■使用項目は直近改訂あり/新規執筆分で情報の正確性も高めの部分となっています。
*文藝春秋社刊『カラー新版 人名の世界地図』(著:21世紀研究会)巻末アラブ人名リストは当コンテンツの約1/3にあたる件数の人名・読みガナ・語義の転用と思われる事例となっていますが当方は一切関知していません。キャラ命名資料としてのご利用・部分的引用はフリーですが、商業出版人名本へのデータ提供許諾は行っていないので同様の使用はご遠慮願います。

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名前辞典の見方

カタカナ表記/アラビア語表記/英字表記/日本語での意味[補足]

英字表記については、長母音の有無を忠実に書いたバージョンから→長母音部分を短母音で記したバージョンの順に左から並べてあります。アラブ人の名前は英字で書く場合長母音アーをaaの2文字で表記することは少なく、aのみの1文字になっていることが多いです。使用頻度が高いつづりから順番に並べている訳ではないのでご注意願います。

アラブ人名辞典-女性

現在、このディレクトリには 6 の 名前 があります (文字 ザ で始まる)
ザーフィラ
ظَافِرة [ ẓāfira(h) ] [ ザーフィラ ]
Zaafira、Zafirah、Zafira、Zafirah、Dhaafira、Dhaafirah、Dhafira、Dhafirahなど
勝利者、勝者
[「勝利する」という意味の動詞の能動分詞の女性形。男性名バージョンは ظَافِر [ ẓāfir ] [ ザーフィル ]。]
[ 口語的にiがeに転じザーフェラと読まれた場合の英字表記はZaafera、Zaaferah、Zafera、Zaferah、Dhaafera、Dhaaferah、Dhafera、Dhaferahなど。また口語では能動分詞女性形の真ん中あたりに位置する母音iが抜け落ちて詰まりザフラに近い発音になることがあるためZafra、Zafrah、Dhafra、Dhafrahといった表記が派生する。]

ザイナブ
母音記号無し:زينب
母音記号あり:زَيْنَب [ zaynab / zainab ] [ ザイナブ ] ♪発音を聴く♪
Zaynab、Zainab
(集合名詞として)見た目が美しく香りの良い木;香りの良い花;(背が低く)豊満な(女性)、ふくよかな(女性)

■意味と概要■

イスラーム以前のジャーヒリーヤ時代からあった女性名。古風かつイスラーム色が強いため、アラブ世界では耳で聞いた時の響きや新しさが好まれる女児名の躍進に伴い命名数は昔に比べ減ったが、今でもイスラーム諸国では定番の女児名であり続けている。

名前の意味は辞書や名前辞典によって「見た目が美しく香りの良い木(شَجَرٌ حَسَنُ الْمَنْظَرِ طَيِّبُ الرَّائِحَةِ)」だったり「香りの良い花」だったりするが、古いアラビア語辞典ではいずれも「見た目が美しく香りの良い木(شَجَرٌ حَسَنُ الْمَنْظَرِ طَيِّبُ الرَّائِحَةِ)」のような描写で花に関する言及が無いのが一般的。現代辞典だと「نَبَاتٌ عُشْبِيٌّ بَصَلِيٌّ مُعَمَّرٌ مِنْ فَصِيلَةِ النَّرْجِسِيَّاتِ، أَزْهَارُهُ جَمِيلَةٌ بَيْضَاءُ اللَّوْنِ فَوَّاحَةُ الرَّائِحَةِ(スイセン属の多年生球根植物で、その花は美しく白色でかぐわしい香りがする)」と具体的な描写になっているという違いがある。

また「太っている(女性)」「背が低く太っている(女性)」「ふくよかな、豊満な(女性)」という意味もあり、ふっくらした小柄な女性という古いアラブ的価値観では美しいものの部類に入るこうした体型が、上記の木・植物とは別に女性名としてのザイナブのもう一つの由来であったことを記したアラビア語大辞典も見られる。

これらに加え語義として男性に関して「臆病な」「臆病者」という意味も持つが、女性名の由来として示されている訳ではない。

このザイナブについては元々語根から形成される1語だったという説とあわせ、زَيْنُ أَب [ zayn(u)/zain(u) ’ab ] [ ザイン・アブ(丁寧な文語発音では主格形がザイヌ・アブ) ](ザインは「美、愛らしさ」、アブは「父」)という2語が語源で多用されているうちにzayn(zain)+’abの「أ(’)」が抜け落ちてzayn(zain)+ab→zaynab(zainab)に変わったとの学説も古くから存在。父親の人生を彩り飾ってくれる存在 زِينَة أَب [ zīnat(u) ’ab ] [ ズィーナト・アブ ](直訳:父親の飾り、父親の装飾)という愛らしい意味がこの名前の持つ意味だとしている説明もしばしば見られる。(英語などの名前サイトに「父親の宝物」的な意味が載っているのはそのため。)

■この名前を持つ有名人■

このザイナブという名前は預言者ムハンマドに縁のある複数女性たちのファーストネームでもあった。そのうち長女がザイナブという名前だった。イスラーム入信前に結婚・出産していたため多神教徒側となった夫 أَبُو الْعَاصِ بْنُ الرَّبِيعِ [ ’abu-l-‘āṣ(i) bnu-r-rabī‘ ] [ アブ・ル=アース・ブヌ・ッ=ラビーウ(休止形発音だと実際にはラビーァに近く聞こえることが多い) ](アブー・アル=アース・イブン・アッ=ラビーウ)とは一度別離。後にムスリムとなった彼と復縁した。

また第4代正当カリフ/初代シーア派イマームとなったアリーと預言者の娘ファーティマとの間に生まれた3人目の子供でシーア派第2代イマームのアル=ハサン、第3代イマームのアル=フサインの妹(姉と書いてある記事もあるが妹)もザイナブという名前であったことから、シーア派家庭が好んで女児に命名する名前の一つにもなっている。

この زَيْنَب بِنْت عَلِيٍّ [ zaynab/zainab bint(u) ‘alī(y) ] [ ザイナブ・ビント・アリー(ィ) ] は父方従兄弟と結婚し子供をもうけたが息子たちは兄のアル=フサインらと共にカルバラーで戦死。彼女自身もカルバラーに同行しており兄たちの壮絶な死と一族虐殺を目の当たりにしたとされている。捕虜となりウマイヤ朝側によってダマスカスへ連行されたが解放後の消息や具体的な逝去地は不明。何人もいたザイナブと区別するため زَيْنَب الْكُبْرَى [ zaynabu/naizabu-l-kubrā ] [ ザイナブ・ル=クブラー ](ザイナブ・アルークブラー、大ザイナブ)とも呼ばれている。

また預言者ムハンマドが生涯のうちに娶った11人の妻のうち、非クライシュ族出身の妻2人がザイナブというファーストネームだった。

■発音と表記■

-ay-部分はアラビア語では二重母音-ai-を表すため英字表記も-ay-つづりと-ai-つづりの両方が見られる。

アラビア語文語の二重母音「ay(=ai)」部分は日常会話・口語ではei(エイ)もしくはē(エー)音になることが多く、ゼイナブ(対応英字表記:Zeynab、Zeinab)、ゼーナブ(対応英字表記:Zeenab、Zenab)と聞こえる発音が広く行われている原因となっている。

ザキーヤ
ذَكِيَّة(dhakiiya、dhakiiyah、dhakiya、dhakiyah)賢い、頭の良い

ザフィーラ
ظَفِيرة [ ẓafīra(h) ] [ ザフィーラ ]
Zafiira、Zafiirah、Zafira、Zafirah、Zafeer、Zafeerah、Dhafiira、Dhafiirah、Dhafira、Dhafirah、Dhafeera、Dhafeerahなど
常に勝利する者、常勝者
[「勝利する」という意味の動詞の能動分詞(女性形)である ظَافِرة [ ẓāfira(h) ] [ ザーフィラ ] (勝利している、勝利する者)の内容をより強調している語形。常に勝利に向かって邁進・専念し勝利するという行為を何度も繰り返して実現している様子を示す。男性名バージョンは ظَفِير [ ẓafīr ] [ ザフィール ]。]

ザフラ(ザハラ)
母音記号無し:زهرة
母音記号あり:زَهْرَة [ zahra(h) ] [ ザフラとザハラを混ぜたような発音 ] ♪発音を聴く♪
Zahra、Zahrah
(一輪の、一つの)花

■意味と概要■

いわゆる花というもの・花全体を指す総称的な集合名詞としての زَهْر [ zahr ] [ ザフル/ザハル ] (花)に女性形化や集合名詞の単数化機能を持つ ة(ター・マルブータ)をつけたもの。漠然と花全体を指す集合名詞を「1つの、1個の」という意味合いが加わった語形。女子・女性としての美しさ、あでやかさ、美しく輝くような肌色と赤く染まる愛らしい頬などを意図した名前。

なお英字表記でZahraとなっている女性名は、この「花」という意味のザフラ(ザハラ)ではなく、預言者ムハンマドの娘で第4代正統カリフ・シーア派初代イマームとなったアリーの妻だったファーティマが持つ二つ名にちなんだ زَهْرَاء [ zahrā’ ] [ ザフラー(ゥ/ッ) / ザハラー(ゥ/ッ) ](輝ける(者))であることが非常に多いので混同に要注意。

アラビア語では زَهْرَاء [ zahrā’ ] [ ザフラー(ゥ/ッ) / ザハラー(ゥ/ッ) ](輝ける(者))の方であっても口語で長母音部分が短くなってしまい、耳で聞いても زَهْرَة [ zahra(h) ] [ ザフラ/ザハラ ] と区別が困難で本人の名前のアラビア語表記を見ないとどちらなのかわからなかったりする。

ただし عَبْدُ الزَّهْرَة [ ‘abdu-z-zahra(h) ] [ アブドゥ・ッ=ザフラ/ザハラ ](ザフラのしもべ/ザハラのしもべ)のように明らかに عَبْدُ الزَّهْرَاءِ [ ‘abdu-z-zahrā’ ] [ アブドゥ・ッ=ザフラー(ッ)/アブドゥ・ッ=ザハラー(ッ) ](アッ=ザフラー/アッ=ザハラーのしもべ)と混同しているケースも見られ、アラブ人ネイティブ(主にシーア派)人名に関しては زَهْرَة [ zahra(h) ] [ ザフラ/ザハラ ] が「花」ではなく「輝ける者」という二つ名を持つ預言者ムハンマドの娘・第4代正統カリフ/シーア派初代イマーム アリーの妻ファーティマを意図した命名である可能性も考え得る。

特にシーア派が多いイラクの場合、زَهْرَة [ zahra(h) ] [ ザフラ/ザハラ ] という名前を持つ女性は預言者の娘でアリーの妻だったファーティマの別名に含まれる زَهْرَاء [ zahrā’ ] [ ザフラー(ゥ/ッ) / ザハラー(ゥ/ッ) ](輝ける(者))を意図しており、単純に「(一輪の、一つの)花」という命名由来でないことが多いという。一方日本などにおける創作でのネーミングとしてはザフラ/ザハラは「花」の意味で命名されているのが一般的だとの印象。

■発音と表記■

カタカナ表記の一般的な基準に沿えばザフラとなるが、日本語の「フ」は上前歯が舌唇に近づく fu の音でアラビア語の ه [ h ] とは違うのでカタカナ表記としてはザハラの方が実際の発音に近い。

アラビア語の文語だとこの人名を単体で発音する時は زَهْرَة [ zahrah ] の最後の子音「h」(ワクフと呼ばれる休止形発音なので「t」とはしない)をほんのり聞こえる軽い発音で出すため、厳密には耳を澄ませて聞くと [ ザフラフ/ザハラフ ] と [ ザフラハ/ザハラハ ] の中間のような読まれ方をする。しかし現代文語会話や口語(方言)だと ة の休止形(ワクフ)発音である ه [ h ] が落ちてしまい手前の -a までしか読まなくなっているので、日本では学術的な表記でも Zahrah と表記してあるものをザフラフ、ザハラフ、ザフラハ、ザハラハ、とはせずザフラもしくは実際の発音に近いザハラと書くのが標準ルールとなっている。

語末についている ة(ター・マルブータ)は発音方法によって ت [ t ] 音で読むこともある。文語の語末母音まで全部読み切る読み方では زَهْرَة [ zahratu ] [ ザフラトゥ/ザハラトゥ ] になるが文法学習といった特定の場面でしか聞かれず、現代の文語(フスハー)会話や口語(方言)は後ろから属格支配(≒所有格支配)と受けた時のみ黙字扱いせず ت [ t ] 音で読むことが広く行われている。

アラビア語の英字表記では「ah」部分は英語のようにアーと伸ばさないので、英語圏に帰化したアラブ系住民の名前ではないアラブ圏在住アラブ人ネームの発音としてはザーラ、ザーラー、ザラのような発音やカタカナ表記はしないことを推奨。

ザフラー(ザハラー)
母音記号無し:زهراء
母音記号あり:زَهْرَاء [ zahrā’ ] [ ザフラー(ゥ/ッ)/ザハラー(ゥ/ッ) ] ♪発音を聴く♪
Zahraa、Zahra
輝いている、明るい

■意味と概要■

男性名にもなっている أَزْهَر [ ’azhar ] [ アズハル ] の女性形。「輝ける者」という意味で預言者ムハンマドの娘・第四代正統カリフとなったアリーの妻ファーティマの名称に添えられる称号・通称であるため、彼女への尊敬から命名されることが多い。

上記の通りザフラー(ザハラー)やザフラ(ザハラ)といったカタカナ表記になるアラブ人名は女性名なので創作の際男性キャラクターに命名しないよう要注意。「輝ける(者)」という意味の男性キャラについては男性形の أَزْهَر [ ’azhar ] [ アズハル ] を使う必要がある。

■発音と表記■

日本語カタカナ表記のルールで標準的なのはザフラーだが、フ部分は [ f ] ではなく [ h ] のため原語の発音に近いのはザフラーよりもザハラーの方。また語末が声門閉鎖音のハムザで終わっているため、文語通りに母音をつけて最後の文字までしっかり読めばザハラーゥ、ザハラーァ、ザハラーッなどに近い音になる。しかし口語では最後の声門閉鎖音/声門破裂音「 ’」(ハムザ)は省かれてしまい [ zahrā ] [ ザフラー/ザハラー ] のように発音され、これが日本における一般的カタカナ表記であるザフラーやザハラーの元となっている。

さらに口語では語末の長母音が短くなってしまうため [ zahra ] [ ザフラ/ザハラ ] に近く聞こえたりもする。そうなると「(1つの)花」という意味の زَهْرَة [ zahra(h) ] [ ザフラ/ザハラ ] と区別がつかなくなる。英字表記もZahraという具合にかぶるため、ポピュラーな「輝ける」の方なのかマイナーな「花」なのかはアラビア語表記を見て確認する必要がある。ただし英字表記でZahraとなっている女性名は、「花」という意味のザフラ/ザハラではなく زَهْرَاء [ zahrā’ ] [ ザフラー(ゥ/ッ)/ザハラー(ゥ/ッ) ] であることが非常に多いのでたいていの場合は「輝ける(者)」と訳して差し支えない。