List of Arabic Given Names (Female) [ Arabic-Japanese ]
各種アラブ人名辞典(アラ-アラ、アラ-英)・中世から現代までのアラビア語大辞典・現地記事にて確認しながら日本語訳し、プラグインにデータ入力して作っています。「♪発音を聴く♪」をクリックすると発音サンプルの音声が流れます。
現地発刊のアラブ人名辞典5冊前後+串刺し検索で辞典を20~30冊ほどチェックし管理人の自分用メモとし、そこに創作・命名向け情報などをプラス。検索エンジンに全部載るよう全ネームを1ページに出力しています。長いので頭文字別ページや検索をご利用ください。
*アラビア語由来の名前を持っている人=アラブ系・アラブ人ではないので、トルコ、イラン、パキスタンなど非アラブ系の国における発音や表記とは区別する必要があります。(言語によってはアラビア語と少し意味が違ったり、アラブ男性名がその国の女性名になっていることも。)
* [ ] 使用項目/行数が少ない部分は未改訂の初期状態、【 】使用項目は改訂履歴あり。■ ■使用項目は直近改訂あり/新規執筆分で情報の正確性も高めの部分となっています。
*文藝春秋社刊『カラー新版 人名の世界地図』(著:21世紀研究会)巻末アラブ人名リストは当コンテンツの約1/3にあたる件数の人名・読みガナ・語義の転用と思われる事例となっていますが当方は一切関知していません。キャラ命名資料としてのご利用・部分的引用はフリーですが、商業出版人名本へのデータ提供許諾は行っていないので同様の使用はご遠慮願います。
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名前辞典の見方
カタカナ表記/アラビア語表記/英字表記/日本語での意味[補足]
アラブ人の名前はファーストネーム部分も家名部分も英字表記に揺れがあります。文語のつづりと母音記号に比較的忠実なこともあれば、口語で起きる二重母音の変化を反映したり子音が2個連続しているはずの部分を1文字だけで済ませているケースもありカタカナ化をする時に間違えやすいです。
英字表記については、使われ得るパターンをなるべくたくさん列挙するようにしているので、多用されないつづりも含んでいます。
たとえはハーリドの場合、KhalidとKhaalidのようにアーと長く伸ばす長母音āを1文字だけで表現するKhalidと2文字並べてKhaalidとする方法がありますが、アラブ人やアラビア語由来人名を持つイスラーム教徒が通常用いるのはKhalidの方です。キャラクターネーミングの際はアーを-aa-ではなく-a-、イーを-ii-ではなく-i-、ウーを-uu-ではなく-u-と当て字をしている英字表記を使うのが無難なのでおすすめです。
アラブ人名辞典-女性
母音記号あり:عَائِشَة [ ‘ā’isha(h) ] [ アーイシャ ] ♪発音を聴く♪
Aaishah、Aaisha、Aishah、Aisha
生きている(人);(良き)生を送っている、(恵まれた良い)生活を送っている、(安寧に)暮らしている(人)
■意味と概要■
動詞 عَاشَ [ ‘āsha ] [ アーシャ ](生きる、生活する)の能動分詞(~している;~する者・物)である عَائِش [ ‘ā’ish ] [ アーイシュ ] の女性形。動作主・行為者であることを示す。直訳は「生きている(人)」だが、アラブ人向けの複数人名辞典には「良い状況・状態・境遇の人(ذات الحالة الحسنة)」、「よき生活・人生の人(ذات الحياة الحسنة )」といった意味が載っている。
なおネット記事にはアーイシャではなく「彼は生きた」という意味であるはずの「アーシャ」を挙げて「アラビア語でアーシャは"ステキに生きる"、"希望の光"という女性名」といった説明が見られるが誤り。そのような女性名は無く、アーイシャについても「素敵に生きる」という活き活きキラキラしているというよりは、困窮せず恵まれた境遇で暮らすといったイスラーム以前のアラビア半島的な素朴な意味での良い暮らしを指していた女性名となっている。また「希望の光」といった名前については他言語の似た響きの人名との混同である可能性が高い。
元々は上記のような長生きや幸福・安寧な暮らしを送ることを願った命名だったが、アブー・バクルの娘で預言者ムハンマドの妻となったアーイシャの名前として有名なため彼女にあやかってつけられることが増えた。
シーア派が崇敬するシーア派初代イマーム/第四代正統カリフのアリーと対立した女性であったことからイラクやイランなどに代表されるシーア派コミュニティーでは生まれた女児につける名前としては敬遠されていると言われる。創作でネーミングを行う場合はキャラクターの宗教的なバックグラウンドとの一致に要注意。
なお方言による発音変化や日本語カタカナ化に際して長母音「ー」が抜けた(方言における تَخْفِيف [ takhfīf ] [ タフフィーフ ] と呼ばれる現象)アイシャがあり人名アラビア語表記としても元々の عَائِشَة [ ‘ā’isha(h) ] [ アーイシャ ] とは異なる عيشة(発音記号あり:عَيْشَة [ ‘aysha(h) / ‘aisha(h) ] [ アイシャ ] )が使われることもあり、アラブ人向け人名辞典にアーイシャの発音変化として掲載されている場合がある。
これは元々アーイシャと発音する عَائِشَة [ ‘ā’isha(h) ] [ アーイシャ ] という人名のカタカナ表記バリエーションの一つで、アイシャという違う意味を持つ女性名がそれぞれ別にあるのとはまた事情が違っている。(なおアーイシャの「ー」を抜いたアイシャ発音は中世には既にあったらしく、西暦1200年代に出版されたアラビア語のよくある間違い辞典にも「アイシャと言ってはならない」(≒文語の正則的な発音ではない)との記載が見られる。)
またアラブ女性名アーイシャ(カタカナ表記バリエーションアイシャ、アイーシャ含む)の意味として「生命」、「命」、「生」を紹介している記事も見られるが誤り。この人名は「~している」「~している人」といった英語の~ingや~erに相当する語で、「生命、命、生」といった意味で通常使うアラビア語名詞は حَيَاة [ ḥayā(t) ] [ ハヤー(ト) ]、「人生、生涯」といった意味で使うのは عُمْر [ ‘umr ] [ ウムル ] といった名詞。
さらにアラビア語にはアイシャという響きに近くアーイシャの姉妹語でもある عِيْشَة [ ‘īsha(h) ] [ イーシャ ](生きること、生活すること;生活、暮らし(life))という名詞・女性名があるが、アーイシャとは別物なので混同しないよう要注意。喉を引き締めて発音する語頭の ع(アイン)という子音を強調して読むとイーシャよりもァイーシャと聞こえることもあるため、聞き違いを意外としやすい。
なおこのアーイシャという名前については現代では辞典に「女性名」とのみ記載されているのが普通だが、古い辞典や資料には「男性と女性の名前」と書いてあるなどする。実際にアーイシャという名前を持っていたアラブ人男性らの記録が残っており、現サウジアラビアにあるイスラーム教聖地(アル=)マディーナ(メディナ)近くの場所名 بِئْر عَائِشَة [ bi’r(u) ‘ā’isha(h) ] [ ビッルとビィルを混ぜたような発音 ](ビウル・アーイシャ、「アーイシャの井戸」)についてはアーイシャという名前を持つアウス族出身男性の名前にちなんだ命名であったこと、またこの人物名は男性名としてのアーイシャであり女性名の方ではない点が記載されているなどする。
■発音と表記■
日本語では英字表記のAishaから本来アラビア語で伸ばして発音する前半の長母音āアーを省いて短母音で読んだ、もしくはアラビア語口語的に能動分詞語形の長母音ā部分を短母音のa化した感のあるアイシャというカタカナ表記が多い。
英語などを経由したためだと思われる英語圏他での発音と同じ部分を長母音化したアイーシャというカタカナ表記もあるが、原語であるアラビア語では長母音「ー」の位置をずらして変えると異なる語形になってしまい意味が変わってしまうリスクがある上、実在しない語形に置き換わってしまうので要注意。ただしAishaという女性がアラブ世界以外以外の欧米諸国に移民・帰化しているといったケースでは、現地の言語の発音に即してアイーシャと表記した方が適切な場合もある。(ただし創作物でアラブ人女性キャラに「アイーシャ」と命名するとアラブ人がすることの無い発音となってしまい不自然なので非推奨。)
アラビア語方言ではアーイシャ以外の発音も行われており、シリア・レバノン近辺のように語末の発音がaからeに変わってアーイシャからアーイシェになったり、さらにそれの長母音部分が口語発音により短母音化してアイシェになったりする。それらに対応した英字表記としてはAisheh、Aishe、Aaisheh、Aaisheなどが使われ得る。
Aamaal、Amal
(複数の、いくつかの、いくつもの)希望、望み
【 名詞 أَمَل [ ’amal ] [ アマル ](Amal、意味は「希望」)の複数形。】
Aaaya、Aya、Aayah、Ayah
印、証拠;アッラーの徴(神徴);(アッラーの御業などによって起こる)奇跡;クルアーンの章句
【 日本語の「あや」に似た響きなので日本生まれのアラブ-日本ダブルのお子さん、イスラーム教徒(ムスリム)家庭のお子さんに命名されることが昔から多い女性名でもある。2023年2月にトルコとシリアを襲った大震災では、お母さんの臍の緒につながれたまま生存していた新生児の女の子がこのアーヤという仮名を授けられ話題となった。なおこの赤ちゃんはその後亡き父の父方従兄弟一家に引き取られ、亡き母の名前 عَفْرَاء [ ‘afrā’ ] [ アフラー(ゥ/ッ) ]((赤みがかった毛色の)白ガゼル;(人の足に踏まれていないまっさらな)白い大地)に再改名された。】
Aayat Allah、Ayat Allah、Ayatullahなど
アッラーの奇跡、アッラーの神徴
【 アーヤ+アッラー=アーヤト+アッラー=アーヤトゥッラーと2語をつなげ読みしたもの。シーア派の高位ウラマー(イスラーム法学者)に与えられる称号として有名だが、ここでは神が与えてくれた奇跡のような赤ちゃん・素晴らしい赤ちゃん・類まれなる宝物のような我が子といった意味で命名されている。】
【 口語的にuがoに転じてアーヤトッラーという発音になった場合の英字表記はAyatollahなど。アラビア語文法に従えば1語目の終わりはtとなるがこれを表記上書かずAaya Allah、Aayah Allah、Aya Allah、Ayah Allahなどとしているムスリマネーム英字表記がなされている場合もある。】
母音記号あり:عَزِيزَة [ ‘azīza(h) ] [ アズィーザ ] ♪発音を聴く♪
Azizah、Aziza、Aziizah、Aziizah、Azeezah、Azeezaなど
力強い、強力な(女性);権力を有している、権能ある(女性);高貴な、高潔な(女性);高価な、希少な、価値が高い(女性);親愛なる、愛しい(女性)
【 男性名としても使われている名詞・形容詞の男性形 عَزِيز [ ‘azīz ] [ アズィーズ ] の女性形。】
【 日本語カタカナ表記としてはアズィーザ、アズィザ、アジーザ、アジザなど。日本では外国語の「ズィ」音を「ジ」音に置き換える当て字が広く行われていることからアジーザとカタカナ表記されていることが多いが、アラビア語ではアジーザは全く別の عَجِيزَة [ ajīza(h) ] [ アジーザ ](女性の尻)で、「デカ尻」といった女性の体型描写や性的動画の題名にも用いられるような単語なのでアラビア語で会話する時には混同しないよう要注意。】
母音記号あり:أَزْهَار [ ’azhār ] [ アズハール ] ♪発音を聴く♪
Azhar、Azhaar
花々、花たち;壮麗なるもの、輝かしいもの、美しいもの
■意味と概要■
種類や花の集まりを指す集合名詞 زهر(母音記号あり:زَهْر [ zahr ] [ ザフル(実際の発音はザハルに近い)])の複数形。いくつもの花があることを表し、日本語の「花々」「花たち」に対応。アラビア語によるアラブ人名辞典には植物・草木の花々以外にも「壮麗なるもの」「輝かしいもの」「美しきもの」の代名詞であるといった説明が載ったりもしている。
■発音と表記■
多用される英字表記Azharは男性名である أَزْهَر [ ’azhar ] [ アズハル ]((より/最も)光っている、輝かしい、光り輝ける;(より/最も)顔が光り輝いている;色白で星や灯火のように輝ききらめく美貌の男性;真っ白な(もの)、輝かしい(もの);月(の別名)etc.)の英字表記Azharとかぶるため混同に要注意。
Atiifah、Atifah、Atiifa、Atifa、Ateefah、Ateefa
(とても)同情している、哀れみ深い;(とても)優しい、愛情深い
【 動詞 عَطَفَ [ ‘aṭafa ] [ アタファ ](同情する、哀れむ;愛情を示す、愛着を抱く)の通常の能動分詞女性形で女性名としても使われる عَاطِفَة [ ‘āṭifa(h) ] [ アーティファ ] よりも意味合い・度合いが強調された語形。敢えて訳し分けるとすると、アーティファが「哀れみ深い、愛情深い」ならアティーファは「とても哀れみ深い、とても愛情深い」となる。】
【 アラビア語の文語だとこの人名を単体で発音する時は عَطِيفَة [ ‘aṭīfah ] の最後の子音「h」(ワクフと呼ばれる休止形発音なので「t」とはしない)をほんのり聞こえる軽い発音で出すため、厳密には耳を澄ませて聞くと [ アティーファフ ] と [ アティーファハ ] の中間のような読まれ方をする。しかし現代文語会話や口語(方言)だと ة の休止形(ワクフ)発音である ه [ h ] が落ちてしまい手前の-aまでしか読まなくなっているので、日本では学術的な表記でもAtiifah、Atifah、Ateefahと表記してあるものをアティーファフ、アティーファハとはせずアティーファと書くのが標準ルールとなっている。
語末についている ة(ター・マルブータ)は発音方法によって ت [ t ] 音で読むこともある。文語の語末母音まで全部読み切る読み方では عَطِيفَة [ ‘aṭīfatu ] [ アティーファトゥ ] になるが文法学習といった特定の場面でしか聞かれず、現代の文語(フスハー)会話や口語(方言)は後ろから属格支配(≒所有格支配)と受けた時のみ黙字扱いせず ت [ t ] 音で読むことが広く行われている。
一部方言の口語風発音は語末の-a(h)部分が-e(h)に転じたアティーフェで、対応する英字表記はAtiife、Atife、Atiifeh、Atifeh、Ateefe、Ateefeh等。この場合アラビア語としてはアティーフェフ、アティーフェー、アティフェフとはカタカナ表記しない。
長母音ī(イー)を示すeeが1文字に減らされたAtefa、Atefah、Atefe、Atefehも使われているがアテファ、アテフェではなくアティーファ、アティーフェという発音を意図しているつづりなので要注意。
日本語におけるカタカナ表記としてはアティーファ、アティファ、アティーフェ、アティフェなどが使われ得る。】
母音記号あり:أَفْنَان [ ’afnān ] [ アフナーン ] ♪発音を聴く♪
Afnaan、Afnan
(柔らかくしなやかでまっすぐな、すっとまっすぐに伸びている柔らかな)枝、木の枝々;髪の束、数房の髪
女性名としても用いられる名詞 فَنَن [ fanan ] [ ファナン ] の複数形。枝のすらりとのびた様を気高さ・美しさに結びつけたネーミング。実をつけたり涼し気な木蔭を生んでくれたりと恩恵をもたらす良きものとしての連想なども含む。
名詞 فَنَن [ fanan ] [ ファナン ] は元々木の幹から伸びる枝のことを指し、イスラームの聖典であるクルアーン(コーラン)第55章第48節には本項目の語形でもある複数形の أَفْنَان [ ’afnān ] [ アフナーン ](木の枝々、樹枝)で登場。神の恩恵として天国の楽園で実をたっぷりつけている様子が表現されている。人名辞典には「柔らかでしなやかな枝」のような修飾語がついていることもあるが、アラビア語辞典では単に「(木の幹から分岐した)枝、まっすぐな枝」程度の記述になっているのが一般的。
また木の枝のように長く伸びてしなやかな様子から詩などで髪の束の形容としても使われ得る。
母音記号あり:أَمَل [ ’amal ] [ アマル ] ♪発音を聴く♪
Amal
希望、望み
【動詞 أَمَلَ [ ’amala ] [ アマラ ](希望する、望む)の動名詞「希望すること、望むこと」より。】
母音記号あり:أَمِينَة [ ’amīna(h) ] [ アミーナ(フ/ハ) ] ♪発音を聴く♪
Aminah、Amina、Amiinah、Amina
誠実な、正直な(人・女性);信頼のおける、信頼できる(人・女性)
■意味と概要■
古くからあるアラブの伝統的な女性名。男性名としても用いられる名詞・形容詞 أَمِين [ ’amīn ] [ アミーン ](誠実な、正直な(人・男性);信頼のおける、信頼できる(人・男性))に女性化などの機能がある ة(ター・マルブータ)をつけたもの。
■発音と表記■
アラビア語の文語だとこの人名を単体で発音する時は أَمِينَة [ ’amīnah ] の最後の子音「h」(ワクフと呼ばれる休止形発音なので「t」とはしない)をほんのり聞こえる軽い発音で出すため、厳密には耳を澄ませて聞くと [ アミーナフ ] と [ アミーナハ ] の中間のような読み方をしている。しかし現代文語会話や口語(方言)だと ة の休止形(ワクフ)発音である ه [ h ] が落ちてしまい手前の-aまでしか読まなくなっているので、日本では学術的な表記でもAminah、Amiinahと表記してあるものをアミーナフ、アミーナハとはせずアミーナと書くのが標準ルールとなっている。
レヴァント(レバント)地方やその他地域の口語アラビア語(方言)では語末の-a(h)部分が-e(h)となりアミーネと聞こえるような発音に変化する。こうした口語的なアミーネ系発音に対応した英字表記としてはAmineh、Amine、Amiineh、Amiineなどが派生し得る。
また語頭のA-が口語的にE-寄りになったエミーネ等の発音を想定していると思われるEmineh、Emineという英字表記も見られる。
フランス語の影響が大きな地域(モロッコ、アルジェリア、チュニジアなど)や同地域の出身者についてはアラビア語固有名詞語末のン(n)音をneとつづることのが一般的であるため、この女性名の男性形バージョンである أَمِين [ ’amīn ] [ アミーン ] がAmine、その口語風発音エミーン、またその長母音部分が短めに発音されたエミンを意図しているであろうEmineといった当て字が使用されている。Amineはアミーネ、Emineはエミーネ系の発音を行う女性名 أَمِينَة [ ’amīna(h) ] [ アミーナ(フ/ハ) ](誠実な、正直な(人・女性);信頼のおける、信頼できる(人・女性))への当て字とかぶるため、翻訳などの際は男性なのか女性なのかを確認する必要が出てくる。
なお、携帯電話にアラビア語キーボードが無かった時代に普及したチャットアラビア語の影響から、SNSのユーザーネーム等では語頭の声門閉鎖音/破裂音を数字の2に置き換えた2aminah、2amina、2amineh、2emineといったつづりも見られる。例えば2aminahや2aminaの場合はトゥーアミーナ、にアミーナ等とはせず単にアミーナとカタカナ化を行う。
母音記号あり:أَلْمَاسَة [ ’almāsa(h) ] [ アルマーサ ] ♪発音を聴く♪
Almasah、Almasa、Almaasah、Almaasa
(1個の、1粒の)ダイヤモンド
■意味と概要■
いわゆるダイヤモンドというもの・ダイヤモンド全体を指す総称的な集合名詞としての أَلْمَاس [ ’almās ] [ アルマース ] に女性形化や集合名詞の単数化機能を持つ ة(ター・マルブータ)をつけたもの。漠然と花全体を指す集合名詞を「1つの、1個の」という意味合いが加わった語形。
■発音と表記■
アラビア語の文語だとこの人名を単体で発音する時は أَلْمَاسَة [ ’almāsah ] の最後の子音「h」(ワクフと呼ばれる休止形発音なので「t」とはしない)をほんのり聞こえる軽い発音で出すため、厳密には耳を澄ませて聞くと [ アルマーサフ ] と [ アルマーサハ ] の中間のような読まれ方をする。しかし現代文語会話や口語(方言)だと ة の休止形(ワクフ)発音である ه [ h ] が落ちてしまい手前の-aまでしか読まなくなっているので、日本では学術的な表記でもAlmaasah、Almasahと表記してあるものをアルマーサフ、アルマーサハとはせずアルマーサと書くのが標準ルールとなっている。
口語アラビア語(方言)だと濁点がついた أَلْمَاظَة [ ’almāẓa(h) ] [ アルマーザ ] や أَلْمَازَة [ ’almāza(h) ] [ アルマーザ ] つ発音になることも多い。対応している英字表記はAlmazah、Almaza、Almaazah、Almaza。
母音記号あり:أَلْمَاس [ ’almās ] [ アルマース ] ♪発音を聴く♪
Almas、Almaas
ダイヤモンド
■意味と概要■
「ダイヤモンド」という物質そのものや存在全体を表す集合名詞。アラブ人名辞典では載っていないこともあるが、掲載されている場合は女性名の欄に入れられているのが普通。集合名詞で文法的には男性扱いされるが、人名としては女の子の名前という扱い。
なおアルマースは純アラビア語単語ではないため、アラビア語辞典では古い時代にギリシア語から輸入されアラビア語化した外来語と記載されているのが一般的。ダイヤモンドの語源になったとされ日本ではアダマス、アダマースなどとカタカナ表記される古代ギリシア語「ἀδάμας(当時の発音はアダマース)」が語源とされる。
ギリシア語源説においては語頭の ألـ(’al)はアラビア語の定冠詞 اَلْ [ ’al ] [ アル= ] 由来ではなく、古代ギリシア語で「d」だった部分がアラビア語化の際に調音部位が近かった「l」に置き換わりadamās→almāsのように変化した部分だと説明されているが、アラビア語では定冠詞のように扱われ取れてしまい مَاس [ mās ] [ マース ] だけで「ダイヤモンド」を表す名詞として使われることもされており、中世のアラビア語辞典にも أَلْمَاس [ ’almās ] [ アルマース ] 全体で貴石の名前とするのか、مَاس [ mās ] [ マース ] だけが貴石の名前で語頭にあるのは定冠詞 اَلْ [ ’al ] [ アル= ] なのか意見が分かれていたことを示唆する記述が見られる 。
しかしながらアッカド語や中期ペルシア語(パフラヴィー語)にアダマースやアルマースと響きが似ていて硬い金属や貴石を表す単語が存在していたことから、ギリシア語におけるἀδάμας(アダマース)自体が中東由来の外来語だった可能性が近年では指摘されているとか。
■発音と表記■
口語アラビア語(方言)では最後のsに濁点がついた「アルマーズ」という発音に置き換わっていることもあり、أَلْمَاظ [ ’almāẓ ] [ アルマーズ ] や ألماز [ ’almāz ] [ アルマーズ ] などとつづられる。対応する英字表記はAlmaz、Almaazなど。
また口語(方言)発音として「イルマーズ」もあり、إلْمَاظ [ ’ilmāẓ ] [ イルマーズ ] や إلماز [ ’ilmāz ] [ イルマーズ ] などと表記されていることもある。
Anbar
アンバー、竜涎香(りゅうぜんこう)
【 男性名、女性名の両方として古くから使用されてきた名前。】
【 アラビア語では-ar部分はアルと発音。英語のようにアンバーのような発音にはならない。なおb音の前のn音がmに転化しやすいアラビア語の音声的な性質のため実際には [ ‘ambar ] [ (アムバル寄りの)アンバル ] と発音されることも。】
母音記号あり:إِيمَان [ ’īmān ] [ イーマーン ] ♪発音を聴く♪
Iman、Iimaan、Imaan、Iimanなど
信仰
■意味と概要■
派生形第4形動詞 آمَنَ [ ’āmana ] [ アーマナ ](信仰する、信じる)の動名詞で「信じること、信仰」の意。何かを信じることを意味する動名詞だが、イスラーム教、唯一神アッラー、預言者ムハンマドのことを信じるという意味で使うことが多い。
■発音と表記■
文語アラビア語(フスハー)としての発音は [ ’īmān ] [ イーマーン ] だが、口語アラビア語(方言)だと長母音が短くなって [ ’imān ] [ イマーン ] さらにはもっと短くなって [ ’iman ] [ イマン ] と聞こえたりもする。
英字表記で最も多いのはIman。ネットのハンドルネームなどだとIimaan、Imaan、Iimanなども見られる。
またEと当て字をしてI同様に読むイーマーン/イマーン/イマンといった発音を意図しているか、口語的ないしは非アラビア語発音としてエーマーン/エマーン/エマン等寄りになったものに対応するなどしたEman、そしてEmaan、Eemanなども使われている。
なおフランス語文化圏話者による発音を考慮して語末を-neにしたImane、Iimane、Imaane、Emane、Eemane、Emaaneといったつづりも多用されているが、語末をはっきりネと読むことを意図した当て字ではないので、アラビア語発音準拠カタカナ表記としてはイーマーネ、イマーネ、イマネ、エーマーネ、エマーネ、エマネとしないよう要注意。
また日本語ニュース記事などではエイヌマンとの読みガナも見かけるが、これもアラブ人名のアラビア語風読みとしては誤読に当たる。
Iitimaad、Itimad、Eitimad、Etimadなど
頼ること、信頼
【 イスラーム教徒がイベリア半島を支配していた頃のアンダルスで権力者に愛され娶られた非常に美人で聡明だった女奴隷の名前としても有名。】
母音記号あり:إِقْبَال [ ’iqbāl ] [ イクバール ] ♪発音を聴く♪
Iqbaal、Iqbal
近づくこと、やって来ること、到来;(物事の前に前置詞 بِ [ bi ] [ ビ ] を伴って - 物事を)もたらすこと;努力、専念;安寧、繁栄、成功、恵み、幸運
■意味と概要■
男性・女性共通の人名。アラブ諸国でも命名に用いられてはいるがマイナーで、パキスタン系などの方が圧倒的に多い。そのため「イクバールはパキスタン人の名前」「イクバールはアラブ人というよりはパキスタン、インド、バングラデシュの人たちの名前」と言われることが多いとの印象。
通常の単語としては「近づく」、「向かう」「(物事に)とりかかる」、「努力する、専念する」といった意味を持つ動詞派生形第4形 أَقْبَلَ [ ’aqbala ] [ アクバラ ] の動名詞。またアラビア語辞典やアラブ人名辞典によっては「安寧、繁栄、成功、恵み、幸運」といった語義も掲載されている。
■発音と表記
英語のenableのようにeとつづってイと読むケース、もしくは口語的にiがeに転じたエクバール寄りになった発音に即した英字表記としてはEqbaal、Eqbalがある。またアラビア語の「ق(q)」を調音部位の近いkに置き換えたIkbaal、Ikbal、そこにiのe置き換えを加えたEkbaal、Ekbalといった英字表記が派生。
また長母音āがē寄りもしくはēそのものになる地域の方言での発音イクベールなどに対応したIqbel、Iqbeel、Ikbel、Ikbeel、Eqbel、Eqbeel、Ekbel、Ekbeelといった英字表記も見られる。なおeeは長母音ī(イー)ではなく長母音ē(エー)を意図しているのでイクビール、エクビールとしないよう要注意。
なお、携帯電話にアラビア語キーボードが無かった時代に普及したチャットアラビア語の影響から、SNSのユーザーネーム等では語頭の声門閉鎖音/破裂音を数字の2に置き換えた2iqbal(以下略。検索する場合は上に挙げた表記例の語頭「I」「E」などの前に2を足すか、置き換えるかする。)といったつづりも見られる。
母音記号あり:اِزْدِهَار [ ’izdihār ] [ イズディハール ] ♪発音を聴く♪
Izdihar、Izdihaar
成長、発展、繁栄;輝き;喜び、喜色を浮かべた輝くような顔の様子;草木が花をつけること、開花
■意味と概要■
動詞派生形第8形 اِزْدَهَرَ [ ’izdahara ] [ イズダハラ ](成長する、発展する、繁栄する;(灯火、ランプ、月などが)輝く、光り輝く、光で照らす;(草木が)花をつける、開花する)の動名詞 اِزْدِهَار [ ’izdihār ] [ イズディハール ] が由来。由来になった動名詞自体は男性名詞だが、アラブ人名としては女性名という扱い。この名前を掲載していないアラブ人名辞典も多く、アラブ人の女性名としてはマイナーな部類に入る。
語に含まれる文字群である語根は「ز - ه - ر」(z-h-r)で「成長/生長する」「輝く」「開花」といったいくつかの概念を示す。そのため名前の意味も「成長、発展、繁栄」「輝き;喜色を浮かべた輝くような顔の様子」「草木が花をつけること、開花」と複数通りの意味に分かれる。
■発音と表記■
「I」が「E」に置き換わったEzdihar、Ezdihaarといった英字表記も。文語アラビア語(現代標準アラビア語、正則アラビア語、フスハー)通りのイズディハールという発音を意図している場合と、口語的にiがeに寄った口語アラビア語(方言)発音ないしはアラビア語以外の言語における発音変化バージョンであるエズディハール類を意図している場合とがある。
アラビア語の正書法として認められている表記の別パターンであること、また固有名詞化した際に語頭 ا の扱いが إ に置き換わる慣用があることから、ازدهار ではなく إزدهار とつづられているケースも。(アラビア語文語文法的に間違いというわけではない。)
母音記号あり:اِمْتِيَاز [ ’imtiyāz ] [ イムティヤーズ ] ♪発音を聴く♪
Imtiyaaz、Imtiyaaz
特質、特徴;区別;優れていること、秀でていること
【 動詞派生形第8形 اِمْتَازَ [ ’imtāza ] [ イムターザ ] の動名詞が由来の人名。男性にも使える名前の項目のところに収録しているアラブ人名辞典もあるが、女性名の項目に入れてあるアラブ人名辞典が多くWikipediaのアラビア語版にも女性名とのみ記載されているなど、アラブ人名としては女性名というイメージがかなり強め。】
【「I」が「E」に置き換わったEmtiyaz、Emtiyaazといった英字表記も。】
*本サイトアラブ人名辞典にある1/3近い人名・読みガナ・語義データの無許諾抜粋である可能性が高い文藝春秋社 文春新書『カラー新版 人名の世界地図』巻末アラブ人名一覧ではこのイムティヤーズが男性名の項目に収録されています。これは出版時の2021年頃に当サイトがイムティヤーズを男性名とのみ記載していたためだと思われます。同書のアラブ人名リストには独自の加筆や似た人名の同一視に加え、当サイトの人名辞典に当時まだ未修正箇所が多数含まれていたことに起因する誤りも含まれているとの印象です。当方は一切関知しておらず誤った転載が発生している箇所の修正をお願いする立場にありません。アラブ人名としては「イムティヤーズ」は女性名と書いてあったり男性名と書いてあったりまちまちで、実際にイムティヤーズさんというアラブ人女性もアラブ人男性も存在します。ご注意ください。
母音記号あり:اِنْتِصَار [ ’intiṣār ] [ インティサール ] ♪発音を聴く♪
Intisar、Intisaar
勝利、勝つこと、勝ち
■意味と概要■
動詞派生形第8形 اِنْتَصَرَ [ ’intaṣara ] [ インタサラ ](勝つ、勝利する)の動名詞 اِنْتِصَار [ ’intiṣār ] [ インティサール ] が由来。由来になった動名詞自体は男性名詞だが、アラブ人名としては女性名という扱い。この名前を掲載していないアラブ人名辞典もあり、アラブ人の女性名としてはそう多くない部類に入る。
同じ文字群(語根)を含む نصر(発音記号あり:نَصْر)[ naṣr ] [ ナスル ] も人名として用いられており「勝利」「助け、支援、援助」といった意味があるが、同じ「勝利」でもインティサールと違い男児名という扱いが基本的。
■発音と表記■
「I」が「E」に置き換わったEntisar、Entisaarといった英字表記も。文語アラビア語(現代標準アラビア語、正則アラビア語、フスハー)通りのインティサールという発音を意図している場合と、口語的にiがeに寄った口語アラビア語(方言)発音ないしはアラビア語以外の言語における発音変化バージョンであるエンティサール類を意図している場合とがある。
アラビア語の正書法として認められている表記の別パターンであること、また固有名詞化した際に語頭 ا の扱いが إ に置き換わる慣用があることから、انتصار ではなく إنتصار とつづられているケースも。(アラビア語文語文法的に間違いというわけではない。)
Utaarid、Utarid
水星
【 古くからある固有名詞。アラブ人名辞典には女性名とのみ書いてある場合もあるが中世のアラビア語辞典に男性名とのみ記載されている例も。預言者ムハンマドと同じ時代を生きた改宗信徒・教友(サハービー)に عُطَارِد بْن حَاجِب بْن زُرَارَة [ ‘uṭārid(u) bnu ḥājib(i) bni zurāra(h) ] [ ウターリド・ビヌ・ハージビ・ブニ・ズラーラ(フ/ハ) ](ウターリド・イブン・ハージブ・イブン・ズラーラ)というファーストネームを持つアラビア語演説・講話が巧みな男性がいたことなどから、現在は女児名として認識されている一方で大昔は男性名としての命名が行われていたことがわかる。
ちなみにウターリド・イブン・ハージブ・イブン・ズラーラはタミーム族のズラーラ家出身。ジャーヒリーヤ時代のタミーム族はほとんどが多神教徒で少数がキリスト教徒。そのような中ズラーラ家は当時のペルシアの影響下にあったヒーラ王国(現在のイラク)との結びつきが強かったためマギ教(拝火教)を信奉していたとのこと。ズラーラやその息子らも信徒で、一家にはマギ教にちなんだペルシアネームを持っていた女児もいたのだとか。タミーム族は元々武勇と美麗・雄弁なアラビア語能力で秀でた部族で、ウターリド・イブン・ハージブ・イブン・ズラーラもそうした資質を引き継ぎ巧みなアラビア語話術で知られていた模様。】
【 英字表記としては口語的にuがoに転じたオターリドに対応したOtaarid、Otaridやiがeに転じたウターレドに対応したUtaared、Utared、そして両方が合わさったオターレドに対応したOtaared、Otaredなどがある。携帯電話にアラビア語キーボードが無かった時代に普及したチャットアラビア語の影響からSNSのユーザーネーム等では語頭の ع [ ‘ayn/‘ain ] [ アイン ] を数字の3に置き換えた表記3utaarid、3utarid、3otaarid、3otarid、3utaared、3utared、3otaared、3otaredが派生。2文字目の ط [ ṭ ] を数字の6に置き換えた表記O6ared、3o6tarid、3o6aredなども使われている。】
母音記号あり:أُمّ كُلْثُوم [ ’umm kulthūm ] [ ウンム・クルスーム ] ♪発音を聴く♪
Umm Kulthuum、Umm Kulthum、Umm Kulthoumなど
ふっくらほっぺの持ち主、ほほがぷくぷくした(愛らしい、美しい)女児・女性
■意味と概要■
كُلْثُوم [ kulthūm ] [ クルスーム ] 単体だと「顔や頬の肉がぷっくらしている人;旗の上に取り付けられた絹布」という意味の男性名と使われることが一般的。これが前にある اُمّ [ ’umm ] [ ウンム ](母、母親;~の持ち主、~の主)を後方から属格支配(所有格支配)して「クルスームの母」となった複合名。クルスーム自体はイスラーム以前のジャーヒリーヤ時代からあった古い名前。
ウンム・クルスームは直訳すると「クルスームの母」になるが、生まれたての女児にクルスームという息子がいたからとか将来そういう名前の男児に恵まれるぐらい長生きすることを祈願した命名ではなく、ほっぺがぷっくらした女の子・ふっくらほっぺの持ち主的な意味で命名されていたものだとか。
スリムな体型とダイエットへの関心が高まった現代とは違い、アラブの伝統的な価値観では豊満と色白が女性の美の条件だった。「ウンム・クルスーム」と呼ばれるような爆弾級のむちむちほっぺを持った赤ちゃんは美貌・豊かな暮らし・幸せを連想させる好ましい外見であり、成人女性も含め頬の肉が多くぱつぱつで色白というのは悪い意味ではなく美点であったことがこうした命名の背景にある。美人を月や満月にたとえる習慣も丸い・白いという連想から来ている。
イスラーム以前のジャーヒリーヤ時代、子供の命名はかなり単純な動機でつけられたものも少なかったそうで、赤ん坊が生まれた時の様子・状況である「早産の子」「普通よりも重たい新生児」といった名前をそのまま人名として用いるなどしていたという。
「ぷくぷくほっぺ」を意味する男性名「クルスーム」や「ぷくぷくほっぺの母、ぷくぷくほっぺの持ち主」を意味する女性名「ウンム・クルスーム」もその一例で、生まれた女児の顔が大変肉付きの良いふくよか・ぷにぷに・もちもちすべすべな頬をしていた場合にファーストネームとしてそのまま採用されたのがたいていのケースにおける命名由来だったことが考えられる。
ウンム・クルスームは預言者ムハンマドとハディージャとの間の娘の名前として有名。預言者ムハンマドの娘のクンヤもしくはクンヤ形式のファーストネームが元祖で彼女以降の女児がそれにあやかることでイスムととして定着したとの説明も見られるが、同名の女児が増えたのは彼女の影響であるもののそれ以前から単なるあだ名(クンヤ)ではなくファーストネーム(イスム)として使われていた模様。
第三代正統カリフウスマーンの父親違いの姉妹で初期にイスラームに改宗しムハージルーンとなった女性も同じくウンム・クルスームという名前だったりと、ジャーヒリーヤ時代やイスラーム初期には既にこの複合名「ウンム・クルスーム(ふっくらほっぺちゃん)」がある程度使用されていたものと思われる。
■発音と表記■
アラビア語圏では كُلْثُوم [ kulthūm ] [ クルスーム ] を كَلْثُوم [ kalthūm ] [ カルスーム ] と発音することが多いため、英字表記もUmm Kalthuum、Umm Kalthum、Umm Kalthoumなどとなっていることが少なくない。
また口語的にuがoに転じオンムに近く聞こえる発音オンム・クルスームに即したOmm Kulthuum、Omm Kulthum、Omm Kulthoum、その口語的発音オンム・カルスームに即したOmm Kalthuum、Omm Kalthum、Omm Kalthoumといった英字表記も派生する。
本来mmと2つ連なっている部分を1文字だけのmに減らした英字表記Um Kulthuum、Um Kulthum、Um Kulthoum、Um Kalthuum、Um Kalthum、Um Kalthoum、Om Kulthuum、Om Kulthum、Om Kulthoum、Om Kalthuum、Om Kalthum、Om Kalthoumもあるが、Umm(ウンム)がUm(ウム)、Omm(オンム)がOm(オム)に発音変化するために生じる違いではなく、基本的にUmmもUmもウンム、OmmもOmもオンムと読むことを意図している可能性が非常に高い。
日本語ではウンム・クルスーム、ウム・クルスーム、ウンム・カルスーム、ウム・カルスーム、オム・クルスーム、オム・カルスームといった様々なカタカナ表記が使われ得る。th部分をタ行でカタカナ化したクルトゥムの使用例もあるが、全て同じ女性名。
Kawthar、Kauthar
豊かな、潤沢な;豊かさ、豊穣、潤沢
[ イスラームの天国とされる楽園に流れる川の名前として有名。日本では三途の川に似ている存在だととらえらることもあるが、三途の川がこの世と死後の世界を隔てているのとは違いカウサルは天国に流れており最後の審判を経て無事に楽園にたどり着くことのできた人々が享受できる神からの恩恵の一つとなっている。
カウサルは楽園の真ん中を通っていて、川辺には石の代わりに真珠が広がり、その水は純白で蜜よりも甘くて美味しく、香りは非常に芳しく、飲んだ者の渇きを癒してくれるという。
クルアーンでの描写からアッラーが特に預言者ムハンマドに対して与えた報奨として捉えられているが、一般的には善行を行った者たちに与える最上級の褒美として語られることも多く、現世において真水をたたえた河川やとても美味しい飲水のたとえとして使われることもしばしばである。この世と天国の両方を合わせてもずば抜けて美味しい特別な水ということで、水を販売する会社の名前やミネラルウォーターといった飲料のネーミングに使われるなどしている。]
[ アラビア語の二重母音aw(au)は口語だとオウやオーの発音になりやすく、アラブ圏以外のイスラーム諸国ではペルシア語のように二重母音が [ ow ] になったり ث [ th ] 部分が [ s ] と発音されたりで英字表記にもいくつかのバリエーションが存在する。
イスラーム女性名のKowthar、Kouthar、Kothar、Kowsar、Kousar、Kosar等は全てこのカウサルの変形バージョン。なおアラビア語では語末のarは英語の巻き舌のアーではないので原語に即したカタカナ表記はカウサーではなくカウサルとなる。]
Ghazaala、Ghazaalah、Ghazala、Ghazalahなど
雌のガゼル;昇る太陽、朝日
【 カゼルは目がくりっとしてすらりとしていることから美人女性を表す典型的な比喩表現。なお朝日がガザーラと名付けられたのは動物のガゼルに似ているからではなく、朝日の光がまるで紡いだ(動詞の語根はgh-z-l)糸のように伸びて見えたことからだとか。】
[ トゥールーン朝統治者の息女だった女性の通称として有名。彼女の父は大金をかけてアッバース朝カリフと結婚させた。 ]
母音記号あり:قَمَر [ qamar ] [ カマル ] ♪発音を聴く♪
Qamar
月
■意味と概要■
その美しさ、光り輝く様子、丸みを帯びたふくよかそうな好ましい形状などに例えて命名する。天体としての名称 اَلْقَمَر [ ’al-qamar ] [ アル=カマル ](月)とは違い人名なので定冠詞 اَلْ [ ’al- ] [ アル= ](al-)はつけない。
アラビア語では太陽と並んで人の美点についてほめる比喩表現として使われてきた天体(詳細:『アラブ世界における月と太陽~目次』)。アラブ諸国では女性に対して「月のよう」と言う時はその美貌、優美さをほめる意味合いにある。「太陽みたいな女性」は見返りを求めない情愛を与え皆の人生を明るく照らしてくれる母親の形容などに使用される。(「中東において太陽は冷酷非情・月は優しさの象徴」という二項対立のイメージはいわゆる都市伝説で、アラブ世界において月は優しい人・親切な人ではなく「美人、かわいこちゃん」の意。)
■アラブ世界でカマル(月)は女性名■
パキスタン方面など他のイスラーム地域では男性名として使われているとのことだが、アラブ地域ではカマルという名前はもっぱら女性につける女性名だという認識が強い。日本では知恵袋等に「アラブ人名のアラビア語でQamarは月という意味で男性名・女性名」と書いてあるがあまり正確な情報ではない。一応「主に女性名だか男児につけても構わない」と書かれたアラビア語記事もあったりはするが、比較的詳しい内容の主要アラブ人名辞典にも「女性名」としか書いていなかったり、アラブ人同士のSNS雑談で「Qamarは女の子の名前」といったやり取りがされているぐらいには女性名という認識が流布している。
日本では商業作品・創作物のアラビア半島をモチーフにした砂漠の王子様を始めとする各種アラブ系キャラや動物の名前のネーミングで男児・男性キャラクターやオスの動物にカマル(月)と命名しているケースが数多く見られるが、純アラブ人の名前としては女性名カマル(月)を男性キャラに命名しないよう注意。創作物で男性名ジョンやチャールズをジェーンやシャーロットと命名すべき女性キャラにつけているのとあまり変わらない案件であるため。
ただし非アラブ地域のイスラーム教徒の名前としてだと男性名としての命名は十分に有り得るので、月という意味のカマルが女性名なのか男性名としても使えるのかはアラブ世界とそれ以外の地域におけるアラビア語由来の人名としての使用という場合分けが必要。
■カマル(月)と似ている発音・表記になる名前との区別■
日本語でカマルとカタカナ表記されている実在アラブ人(イラク~アラビア半島~北アフリカにまたがるアラブ諸国出身者)男性名は قَمَر [ qamar ] [ カマル ](月)ではなく十中八九 كَمَال [ kamāl ] [ カマール ](完璧、完全)のことだと考えて差し支えない。アラビア語ではどちらの人名もカマルと書くことが多いため混同しやすいが、カマル(Qamar)とカマール(Kamal)という風に元の文語アラビア語ではつづりも発音も異なっている。
ただ頭文字がQなら絶対に女性名カマル(月)・Kなら絶対に男性名カマール(完璧、完全)かというとそうでもなく、Qを英語などにおいて発音部位が近いKに置き換えたKamar(=Qamar, カマル, 月)という英字表記も時々見られるため、まぎらわしいケースに関しては「月」なのか「完全、完璧」なのかを語末がrかlかで区別することになる。(KamarならQamarからの文字置き換えでアラブ女性名の「月」、Kamalならカマール(Kamāl)のことでアラブ男性名の「完全、完璧」。)
ただし2語1組で「信仰の月、宗教の月」を意味する قَمَر الدِّينِ [ qamaru-d-dīn ] [ カマル・ッ=ディーン ](カマルッディーン、カマル・アッ=ディーン)は قَمَر [ qamar ] [ カマル ](月)単体が女性名として使われるのに対し、もっぱら男性名となっている。「Qamar al-Din」などと書いてある場合は、これで1セットの男性用称号・ファーストネームなので前半のQamarだけ見て女性名と誤認しないよう要注意。
■発音と表記■
文語アラビア語(フスハー)では قَمَر [ qamar ] [ カマル ] という発音だが、口語アラビア語(アーンミーヤ)では方言によって発音が変わることも少なくない。シリア、レバノン、ヨルダン、パレスチナ一帯=シャーム(レヴァント、レヴァント)地域都市部方言やエジプト首都等方言のように ق [ q ] の音を声門閉鎖音/声門破裂音 ء(ハムザ)に置き換えて発音する地域では [ ’amar ] [ アマル ] となる。そのため元はQamarにもかかわらずAmarと英字表記されていることがしばしばある
ヨルダンなど ق [ q ] を文語アラビア語には無い [ g ] の音で発音する地域では母音記号の種類が قَمَر と同じであっても [ gamar ] [ ガマル ] と読まれ、英字表記Gamarが派生。
同じく [ g ] に置き換わるアラビア半島やイラクなどでは語頭につく母音が変化したりした結果 قُمَر [ gumar ] [ グマル ](Gumar)に。イラクなどではこうした発音になった語は ق ではなく كمر もしくはペルシア語で g の音を示す گ を借用した گمر と表記することが広く行われている。さらには口語特有の語頭無母音化による [ gmar ] [ グマル ] 発音に対応した英字表記Gmarを使っている地域・人も見られる。
この他にもqを調音部位が比較的近く発音が似ているkに置き換えたKamar(カマル)、Kumar、Kmar(クマル)などもあるが、これらを含めた様々なつづりバリエーションはいずれも「月」という意味の名詞もしくは人名 قَمَر [ qamar ] [ カマル ] を指す当て字となっている。
Ghinaa、Ghina
豊富さ、富、豊かさ、潤沢 [ ghをgに置き換えたGinaa、Ginaやiがeに転じたGhenaa、Ghena、Genaa、Genaといった英字表記も。 ]
Zaafira、Zafirah、Zafira、Zafirah、Dhaafira、Dhaafirah、Dhafira、Dhafirahなど
勝利者、勝者
[「勝利する」という意味の動詞の能動分詞の女性形。男性名バージョンは ظَافِر [ ẓāfir ] [ ザーフィル ]。]
[ 口語的にiがeに転じザーフェラと読まれた場合の英字表記はZaafera、Zaaferah、Zafera、Zaferah、Dhaafera、Dhaaferah、Dhafera、Dhaferahなど。また口語では能動分詞女性形の真ん中あたりに位置する母音iが抜け落ちて詰まりザフラに近い発音になることがあるためZafra、Zafrah、Dhafra、Dhafrahといった表記が派生する。]
母音記号あり:سَارَة [ sāra(h) ] [ サーラ(フ/ハ) ] ♪発音を聴く♪
Saara、Sara、Saarah、Sarah
解釈1- 預言者イブラーヒームの妻サーラの名前(アラム語、ヘブライ語で「高貴な女性、王女」)
解釈2- (他の人のことを)喜ばせる、嬉しくさせる(人、女性)
【 イスラームにおける預言者イブラーヒーム(聖書のアブラハムに対応)の妻の名前として有名。聖書のサラに対応しており英語圏などで用いられている聖書由来の名前Sara、Sarahと全く同じ語源・由来。いわゆる外来語として入ってきた非アラビア語女性名で、ヘブライ語で「高貴な女性」「王女」といった意味を持つとされる。アラブ人名辞典では「語源がヘブライ語というのは誤りでアラム語経由で伝わった」と書いてあることも。
アラブ圏では元の意味である「高貴な女性、王女」を意図してつける名前ではなく、イスラームも含むセム系一神教の原点でありカアバ神殿を再建したとされる預言者イブラーヒーム(アブラハムに相当)とその妻かつ預言者イスハーク(イサクに相当)の母たる女性名に対する尊敬から命名されている。
昨今では響きが良く愛らしい名前が好まれる傾向が強く、意味をなさない奇妙なキラキラネームと違い伝統的で由来も良いサーラがそうした動機から用いられることもある。
アラビア語には全く同じつづりで発音違い能動分詞・女性形 سَارَّة [ sārra(h) ] [ サーッラ(フ/ハ) ](サーッラ、「(他人を)喜ばせる、嬉しくさせる(人)」)があるが、人名辞典によっては発音変化で سَارَة [ sāra(h) ] [ サーラ ] になったとして「(人を)喜ばせる、嬉しくさせる(女性)」という意味を掲載していることもある。】
【アラビア語の文語だとこの人名を単体で発音する時は سَارة [ sārah ] の最後の子音「h」(ワクフと呼ばれる休止形発音なので「t」とはしない)をほんのり聞こえる軽い発音で出すため、厳密には耳を澄ませて聞くと [ サーラフ ] と [ サーラハ ] の中間のような読まれ方をする。
しかし現代文語会話や口語(方言)だと ة の休止形(ワクフ)発音である ه [ h ] が落ちてしまい手前の-aまでしか読まなくなっているので、日本では学術的な表記でもSaarah、Sarahと表記してあるものをサーラフ、サーラハ、サラフ、サラハとはせずサーラと書くのが標準ルールとなっている。
日本語におけるカタカナ表記としてはサーラ以外に原語にある長母音「ー」を抜いたサラが使われている。なおSaarah、Sarahという「-ah」で終わる英字表記は上で記した通りで、サーラー、サラーと読むわけではないので要注意。】
Saariyah、Saariya、Sariyah、Sariya
夜に旅をする(人々、一行)、夜に道を進む(人々、一行)、夜道を行く(人々、一行);夜にできる雲、夜にやってくる雲、夜に降る雨;雨雲、雨を降らせる雲;帆船のマスト、(建物の)支柱
【 男性名としても使われる سَارِي [ sārī ] [ サーリー ](夜に旅をする(者)、夜に道を進む(者)、夜道を行く(者);夜にできる雲、夜にやってくる雲、夜に降る雨;雨雲、雨を降らせる雲;(別名的に)ライオン、獅子;帆船のマスト)に女性化などの機能がある ة(ター・マルブータ)をつけたもの。
る سَارِي [ sārī ] [ サーリー ] の時は「夜に旅をする(者)、夜に道を進む(者)、夜道を行く(者)」という単数的な意味になるが、ة(ター・マルブータ)がついたこちらの سَارِيَة [ sāriya(h) ] [ サーリヤ(フ/ハ) ] の方は「夜に旅をする(人々、一行)、夜に道を進む(人々、一行)、夜道を行く(人々、一行)」と複数・集団としての意味で辞書に載っており、微妙にニュアンスが異なる。
古い時代から使われている伝統的なアラブ人名で、預言者ムハンマドと共に初期イスラーム共同体で過ごした教友ら(サハーバ)の中にも数人サーリヤが存在。全員男性だったという。しかしながら女性名詞につくことが大半である ة(ター・マルブータが語尾にある女性名詞であることから現代では女児に命名する人もいるとのこと。そのため現代の人名辞典では女性名としか書いていないものがある。
なお、男性名として使う場合も女性名として使う場合も主格:سَارِيَةُ [ sāriyatu ] [ サーリヤトゥ ]、属格:سَارِيَةَ [ sāriyata ] [ サーリヤタ ]、対格:سَارِيَةَ [ sāriyata ] [ サーリヤタ ] という二段変化となる
】
【 アラビア語の文語だとこの人名を単体で発音する時は سَارِيَة [ sāriyah ] の最後の子音「h」(ワクフと呼ばれる休止形発音なので「t」とはしない)をほんのり聞こえる軽い発音で出すため、厳密には耳を澄ませて聞くと [ サーリヤフ ] と [ サーリヤハ ] の中間のような読み方をしている。しかし現代文語会話や口語(方言)だと ة の休止形(ワクフ)発音である ه [ h ] が落ちてしまい手前の-aまでしか読まなくなっているので、日本では学術的な表記でもSaariyah、Sariyahと表記してあるものをサーリヤフ、サーリヤハとはせずサーリヤと書くのが標準ルールとなっている。】
【 語末の-iya部分が-iaに置き換えられるというアラブ人名の英字表記に多いパターンに従ったSaariah、Saaria、Saariah、Sariaというつづりバリエーションもある。原語のアラビア語ではサーリヤだが英語圏での発音や日本語のカタカナ表記でサーリア、サリアが見られる原因となっている。
レヴァント(レバント)地方やその他地域の口語アラビア語(方言)では語末の-a(h)部分が-e(h)となりサーリイェ、サーリエと聞こえるような発音に変化する。そのためサーリイェ、サーリエ系発音に対応したSaariyeh、Sariyeh、Sariye、Sariye、y無しのSaarieh、Sarieh、Saarie、Sarieなどが派生し得る。】
母音記号あり:زَيْنَب [ zaynab / zainab ] [ ザイナブ ] ♪発音を聴く♪
Zaynab、Zainab
(集合名詞として)見た目が美しく香りの良い木;香りの良い花;(背が低く)豊満な(女性)、ふくよかな(女性)
■意味と概要■
イスラーム以前のジャーヒリーヤ時代からあった女性名。古風かつイスラーム色が強いため、アラブ世界では耳で聞いた時の響きや新しさが好まれる女児名の躍進に伴い命名数は昔に比べ減ったが、今でもイスラーム諸国では定番の女児名であり続けている。
名前の意味は辞書や名前辞典によって「見た目が美しく香りの良い木(شَجَرٌ حَسَنُ الْمَنْظَرِ طَيِّبُ الرَّائِحَةِ)」だったり「香りの良い花」だったりするが、古いアラビア語辞典ではいずれも「見た目が美しく香りの良い木(شَجَرٌ حَسَنُ الْمَنْظَرِ طَيِّبُ الرَّائِحَةِ)」のような描写で花に関する言及が無いのが一般的。現代辞典だと「نَبَاتٌ عُشْبِيٌّ بَصَلِيٌّ مُعَمَّرٌ مِنْ فَصِيلَةِ النَّرْجِسِيَّاتِ، أَزْهَارُهُ جَمِيلَةٌ بَيْضَاءُ اللَّوْنِ فَوَّاحَةُ الرَّائِحَةِ(スイセン属の多年生球根植物で、その花は美しく白色でかぐわしい香りがする)」と具体的な描写になっているという違いがある。
また「太っている(女性)」「背が低く太っている(女性)」「ふくよかな、豊満な(女性)」という意味もあり、ふっくらした小柄な女性という古いアラブ的価値観では美しいものの部類に入るこうした体型が、上記の木・植物とは別に女性名としてのザイナブのもう一つの由来であったことを記したアラビア語大辞典も見られる。
これらに加え語義として男性に関して「臆病な」「臆病者」という意味も持つが、女性名の由来として示されている訳ではない。
このザイナブについては元々語根から形成される1語だったという説とあわせ、زَيْنُ أَب [ zayn(u)/zain(u) ’ab ] [ ザイン・アブ(丁寧な文語発音では主格形がザイヌ・アブ) ](ザインは「美、愛らしさ」、アブは「父」)という2語が語源で多用されているうちにzayn(zain)+’abの「أ(’)」が抜け落ちてzayn(zain)+ab→zaynab(zainab)に変わったとの学説も古くから存在。父親の人生を彩り飾ってくれる存在 زِينَة أَب [ zīnat(u) ’ab ] [ ズィーナト・アブ ](直訳:父親の飾り、父親の装飾)という愛らしい意味がこの名前の持つ意味だとしている説明もしばしば見られる。(英語などの名前サイトに「父親の宝物」的な意味が載っているのはそのため。)
■この名前を持つ有名人■
このザイナブという名前は預言者ムハンマドに縁のある複数女性たちのファーストネームでもあった。そのうち長女がザイナブという名前だった。イスラーム入信前に結婚・出産していたため多神教徒側となった夫 أَبُو الْعَاصِ بْنُ الرَّبِيعِ [ ’abu-l-‘āṣ(i) bnu-r-rabī‘ ] [ アブ・ル=アース・ブヌ・ッ=ラビーウ(休止形発音だと実際にはラビーァに近く聞こえることが多い) ](アブー・アル=アース・イブン・アッ=ラビーウ)とは一度別離。後にムスリムとなった彼と復縁した。
また第4代正当カリフ/初代シーア派イマームとなったアリーと預言者の娘ファーティマとの間に生まれた3人目の子供でシーア派第2代イマームのアル=ハサン、第3代イマームのアル=フサインの妹(姉と書いてある記事もあるが妹)もザイナブという名前であったことから、シーア派家庭が好んで女児に命名する名前の一つにもなっている。
この زَيْنَب بِنْت عَلِيٍّ [ zaynab/zainab bint(u) ‘alī(y) ] [ ザイナブ・ビント・アリー(ィ) ] は父方従兄弟と結婚し子供をもうけたが息子たちは兄のアル=フサインらと共にカルバラーで戦死。彼女自身もカルバラーに同行しており兄たちの壮絶な死と一族虐殺を目の当たりにしたとされている。捕虜となりウマイヤ朝側によってダマスカスへ連行されたが解放後の消息や具体的な逝去地は不明。何人もいたザイナブと区別するため زَيْنَب الْكُبْرَى [ zaynabu/naizabu-l-kubrā ] [ ザイナブ・ル=クブラー ](ザイナブ・アルークブラー、大ザイナブ)とも呼ばれている。
また預言者ムハンマドが生涯のうちに娶った11人の妻のうち、非クライシュ族出身の妻2人がザイナブというファーストネームだった。
■発音と表記■
-ay-部分はアラビア語では二重母音-ai-を表すため英字表記も-ay-つづりと-ai-つづりの両方が見られる。
アラビア語文語の二重母音「ay(=ai)」部分は日常会話・口語ではei(エイ)もしくはē(エー)音になることが多く、ゼイナブ(対応英字表記:Zeynab、Zeinab)、ゼーナブ(対応英字表記:Zeenab、Zenab)と聞こえる発音が広く行われている原因となっている。
2)سَنَاء(Sanaa、Sana)輝き、小窓や隙間からさしこむ明るい光、威光、権威、高位
3)ثَنَاء(Thanaa、Thana)称賛、賛美、良い評価
Sabaah、Sabah
朝、午前
【 مَسَاء [ masā’ ] [ マサー(ゥ/ッ) ](夕方、晩)の反対語。通常は女性名として用いられるが、男性名として命名されることもある。
クウェート首長家の名称についてはこの صَبَاح [ ṣabāḥ ] [ サバーフ ](朝)という意味だと説明している人名辞典もあるが、別の男性名 صُبَاح [ ṣubāḥ ] [ スバーフ ](美少年、美男子;灯火の炎)だとしている人名辞典も複数ある。
そのためアラブのメディアでは家名を آل صُبَاح [ ’āl(u) ṣubāḥ ] [ アール・スバーフ ](アール・スバーフ、「スバーフ家」の意)もしくは定冠詞を伴って آل الصُّبَاح [ ’āl(u) ’aṣ-ṣubāḥ ] [ アール・ッ=スバーフ ](アール・アッ=スバーフ、「アッ=スバーフ家」の意味)と発音していることが少なくなく、英語で書かれた専門書や現地サイト等で「Al Subah」「al-Subah」といった表記が存在するのもそのため
なおサバーフ(実際の発音はサバーハに近い)と似た人名としてはサッバーフ(実際の発音はサッバーハに近いこともある)があるが、これは語根という基本となる子音3文字パーツを صَبَاح [ ṣabāḥ ] [ サバーフ ](朝、午前)と共有している姉妹語で صَبَّاح [ ṣabbāḥ ] [ サッバーフ ](大いに輝いている、とても輝いている(もの);朝に来る(者);朝の飲み物を注ぐ(人);朝に飲食される(物))という語形違いの別男性名。】
【 日本における学術的・標準的なカタカナ表記ではサバーフとなるが、日本語のフはいわゆる「f」であるため原語での発音はむしろサバーハに近い。そのためこの人名のカタカナ表記ではサバーフ、サバーハ、サバハが混在。さらに語末の-ahを英語のように「アー」と伸ばしたサバー、サバというカタカナ表記も見られる。
なお日本人の耳にはサバーハに近く聞こえる可能性が高いとは言うものの صَبَاحَة [ ṣabāḥa(h) ] [ サバーハ(フ/ハ) ](美しさ、美貌)程にはっきりと「サバーハ」と聞こえる訳ではないので、厳密に発音する場合は全く同じ読み方をしないよう要注意。】
母音記号あり:سَحَر [ saḥar ] [ サハル ] ♪発音を聴く♪
Sahar
夜明け、暁、黎明
■意味と概要■
日の出・夜明け( فَجْر [ fajr ] [ ファジュル ] )が起こって朝になる直前、夜の最後の時間帯を指す。アラビア語では女性名との扱い。
■発音と表記■
英字表記では同じSaharとなるが、アラビア語では違うつづりである سَهَر [ sahar ] [ サハル ](夜更かし;夜眠れないこと;不眠;月)とは全く異なる単語・女性名。英字表記でSaharと書いてある場合、本人が自分の名前の意味を紹介していない限り、どちらの意味のサハルなのかはアラビア文字表記を確認しないと判別は不可能。
アラビア語表記では母音記号をつけないと سِحْر [ siḥr ] [ スィフル ](魔術、魔法;魔力;魅力)と全く同じつづりになるが、そちらとは別扱い。また母音「a」1個の有無が違う سَحْر [ saḥr ] [ サフル/サハル ](肺)という同綴で似た響きの単語もある。
なおアラビア語に関しては英字表記がSaharでシャハルと読むことはしない。ウガリト(ウガリット)神話に出てくる暁・夜明けの神はShahar(シャハル、シャヘル)と呼ばれアラビア語の سَحَر [ saḥar ] [ サハル ](夜明け、暁、黎明)と同一の語源となっているが、同じセム諸語のグループに属するアラビア語では「sh」音の「s」音への置き換わりが起こっているためシャハルではなくサハルと発音される。
創作キャラクターでアラブ系男性としてShahar(シャハール)のような名前が設定されている例も見られるが、アラブ人男性名・女性名にシャハールという名前は無い。Shaharという英字表記でシャハルと発音する人名はsへの置き換わりが起こっていないshのままの姉妹言語(例:ヘブライ語)における「暁、明け方」という語で、中東系人名ではあるがアラブ人ではなくユダヤ人、イスラエル人の名前であることが非常に多い。
母音記号あり:سَهَر [ sahar ] [ サハル ] ♪発音を聴く♪
Sahar
(楽しみ・会話・勉強など何らかの理由で)夜更かし、夜に寝ずに過ごすこと、寝ないで起きたままでいること;(恋などの悩みで)夜眠れないこと;不眠、不眠症(現代では病的な不眠は أَرَق [ ’araq ] [ アラク ] と表現することが多い);月(=اَلْقَمَر [ ’al-qamar ] [ アル=カマル ] の同義語として)
■意味と概要■
アラブ世界では女性名という扱い。動詞 سَهِرَ [ sahira ] [ サヒラ ](夜更かしをする、夜に寝ずに過ごす、寝ないで起きたままでいる)の動名詞。辞書やアラブ人名辞典によっては اَلْقَمَر [ ’al-qamar ] [ アル=カマル ](月)の同義語との記載があることも。
日本ではサハル(Sahar)が「夜更かしして友達と楽しく過ごすこと」「楽しむために就寝が遅くなること」として紹介されていることが多いが、アラビア語辞典ではそのような定義になっておらず元々の語義として\"楽しむ\"というニュアンスは含まれていないので要注意。楽しい夜更かしも辛くてたまらない夜更かしも全部ひっくるめて سَهَر [ sahar ] [ サハル ] と表現する。
夜になってからのコンサート・パーティー・ダンスを楽しむこともサハルと呼ばれ日本で知られているイメージに一番近いが、警備員が仕事のために寝ずの番として起きていてもサハル、高い目標を達成するために毎晩遅くまで勉学に励むこともサハル、恋煩いで悶々として眠れないのもサハル、人生などの悩みで寝ずに思いをめぐらせるのもサハルと示すなど、実際には非常に幅広い。
サハルは切ないラブソングの定番ワードとなっており、アラブ歌謡の歌詞で「夜々のサハル」となっている場合は友達と毎晩楽しく過ごしたパーティーライフを指していることは基本的に無く、相手に恋い焦がれて悶々と思い悩んだ晩を繰り返していたことを表すのが普通。
こうしたサハルまで「恋人と毎晩過ごした楽しかった思い出」と訳すと間違いになるので要注意。むしろ恋人と会っている幸せな時間の正反対で会えずに悶々と苦しむ切ない夜の象徴なので、ここでのサハルは「相手が恋しくて辛かった夜々」「恋い焦がれ会えない寂しさに必死で耐えた夜を繰り返した」といった意味になる。
■発音と表記■
英字表記では同じSaharとなるが、アラビア語では違うつづりである سَحَر [ saḥar ] [ サハル ](暁、明け方)とは全く異なる単語・女性名。英字表記でSaharと書いてある場合、本人が自分の名前の意味を紹介していない限り、どちらの意味のサハルなのかはアラビア文字表記を確認しないと判別は不可能。
母音記号あり:صَفِيَّة [ ṣafīya(h) ] [ サフィーヤ ]
Safiyah、Safiya、Safiiyah、Safiiya
澄んでいる、清らかな、純粋な;純正の、純粋な;親友
【 イスラーム教以前のジャーヒリーヤ時代からある伝統的な女性名。預言者ムハンマドの妻うちの一人の名前でもあった。その他預言者ムハンマドの父方おばや第2代正統カリフとなったウマルの娘の名前だったりと、預言者ムハンマドの身近に複数見られた女性名であるため古い時代からイスラーム教徒女児の命名にしばしば用いられてきた。】
Zafiira、Zafiirah、Zafira、Zafirah、Zafeer、Zafeerah、Dhafiira、Dhafiirah、Dhafira、Dhafirah、Dhafeera、Dhafeerahなど
常に勝利する者、常勝者
[「勝利する」という意味の動詞の能動分詞(女性形)である ظَافِرة [ ẓāfira(h) ] [ ザーフィラ ] (勝利している、勝利する者)の内容をより強調している語形。常に勝利に向かって邁進・専念し勝利するという行為を何度も繰り返して実現している様子を示す。男性名バージョンは ظَفِير [ ẓafīr ] [ ザフィール ]。]
母音記号あり:زَهْرَة [ zahra(h) ] [ ザフラとザハラを混ぜたような発音 ] ♪発音を聴く♪
Zahra、Zahrah
(一輪の、一つの)花
■意味と概要■
いわゆる花というもの・花全体を指す総称的な集合名詞としての زَهْر [ zahr ] [ ザフル/ザハル ] (花)に女性形化や集合名詞の単数化機能を持つ ة(ター・マルブータ)をつけたもの。漠然と花全体を指す集合名詞を「1つの、1個の」という意味合いが加わった語形。女子・女性としての美しさ、あでやかさ、美しく輝くような肌色と赤く染まる愛らしい頬などを意図した名前。
なお英字表記でZahraとなっている女性名は、この「花」という意味のザフラ(ザハラ)ではなく、預言者ムハンマドの娘で第4代正統カリフ・シーア派初代イマームとなったアリーの妻だったファーティマが持つ二つ名にちなんだ زَهْرَاء [ zahrā’ ] [ ザフラー(ゥ/ッ) / ザハラー(ゥ/ッ) ](輝ける(者))であることが非常に多いので混同に要注意。
アラビア語では زَهْرَاء [ zahrā’ ] [ ザフラー(ゥ/ッ) / ザハラー(ゥ/ッ) ](輝ける(者))の方であっても口語で長母音部分が短くなってしまい、耳で聞いても زَهْرَة [ zahra(h) ] [ ザフラ/ザハラ ] と区別が困難で本人の名前のアラビア語表記を見ないとどちらなのかわからなかったりする。
ただし عَبْدُ الزَّهْرَة [ ‘abdu-z-zahra(h) ] [ アブドゥ・ッ=ザフラ/ザハラ ](ザフラのしもべ/ザハラのしもべ)のように明らかに عَبْدُ الزَّهْرَاءِ [ ‘abdu-z-zahrā’ ] [ アブドゥ・ッ=ザフラー(ッ)/アブドゥ・ッ=ザハラー(ッ) ](アッ=ザフラー/アッ=ザハラーのしもべ)と混同しているケースも見られ、アラブ人ネイティブ(主にシーア派)人名に関しては زَهْرَة [ zahra(h) ] [ ザフラ/ザハラ ] が「花」ではなく「輝ける者」という二つ名を持つ預言者ムハンマドの娘・第4代正統カリフ/シーア派初代イマーム アリーの妻ファーティマを意図した命名である可能性も考え得る。
特にシーア派が多いイラクの場合、زَهْرَة [ zahra(h) ] [ ザフラ/ザハラ ] という名前を持つ女性は預言者の娘でアリーの妻だったファーティマの別名に含まれる زَهْرَاء [ zahrā’ ] [ ザフラー(ゥ/ッ) / ザハラー(ゥ/ッ) ](輝ける(者))を意図しており、単純に「(一輪の、一つの)花」という命名由来でないことが多いという。一方日本などにおける創作でのネーミングとしてはザフラ/ザハラは「花」の意味で命名されているのが一般的だとの印象。
■発音と表記■
カタカナ表記の一般的な基準に沿えばザフラとなるが、日本語の「フ」は上前歯が舌唇に近づく fu の音でアラビア語の ه [ h ] とは違うのでカタカナ表記としてはザハラの方が実際の発音に近い。
アラビア語の文語だとこの人名を単体で発音する時は زَهْرَة [ zahrah ] の最後の子音「h」(ワクフと呼ばれる休止形発音なので「t」とはしない)をほんのり聞こえる軽い発音で出すため、厳密には耳を澄ませて聞くと [ ザフラフ/ザハラフ ] と [ ザフラハ/ザハラハ ] の中間のような読まれ方をする。しかし現代文語会話や口語(方言)だと ة の休止形(ワクフ)発音である ه [ h ] が落ちてしまい手前の -a までしか読まなくなっているので、日本では学術的な表記でも Zahrah と表記してあるものをザフラフ、ザハラフ、ザフラハ、ザハラハ、とはせずザフラもしくは実際の発音に近いザハラと書くのが標準ルールとなっている。
語末についている ة(ター・マルブータ)は発音方法によって ت [ t ] 音で読むこともある。文語の語末母音まで全部読み切る読み方では زَهْرَة [ zahratu ] [ ザフラトゥ/ザハラトゥ ] になるが文法学習といった特定の場面でしか聞かれず、現代の文語(フスハー)会話や口語(方言)は後ろから属格支配(≒所有格支配)と受けた時のみ黙字扱いせず ت [ t ] 音で読むことが広く行われている。
アラビア語の英字表記では「ah」部分は英語のようにアーと伸ばさないので、英語圏に帰化したアラブ系住民の名前ではないアラブ圏在住アラブ人ネームの発音としてはザーラ、ザーラー、ザラのような発音やカタカナ表記はしないことを推奨。
母音記号あり:زَهْرَاء [ zahrā’ ] [ ザフラー(ゥ/ッ)/ザハラー(ゥ/ッ) ] ♪発音を聴く♪
Zahraa、Zahra
輝いている、明るい
■意味と概要■
男性名にもなっている أَزْهَر [ ’azhar ] [ アズハル ] の女性形。「輝ける者」という意味で預言者ムハンマドの娘・第四代正統カリフとなったアリーの妻ファーティマの名称に添えられる称号・通称であるため、彼女への尊敬から命名されることが多い。
上記の通りザフラー(ザハラー)やザフラ(ザハラ)といったカタカナ表記になるアラブ人名は女性名なので創作の際男性キャラクターに命名しないよう要注意。「輝ける(者)」という意味の男性キャラについては男性形の أَزْهَر [ ’azhar ] [ アズハル ] を使う必要がある。
■発音と表記■
日本語カタカナ表記のルールで標準的なのはザフラーだが、フ部分は [ f ] ではなく [ h ] のため原語の発音に近いのはザフラーよりもザハラーの方。また語末が声門閉鎖音のハムザで終わっているため、文語通りに母音をつけて最後の文字までしっかり読めばザハラーゥ、ザハラーァ、ザハラーッなどに近い音になる。しかし口語では最後の声門閉鎖音/声門破裂音「 ’」(ハムザ)は省かれてしまい [ zahrā ] [ ザフラー/ザハラー ] のように発音され、これが日本における一般的カタカナ表記であるザフラーやザハラーの元となっている。
さらに口語では語末の長母音が短くなってしまうため [ zahra ] [ ザフラ/ザハラ ] に近く聞こえたりもする。そうなると「(1つの)花」という意味の زَهْرَة [ zahra(h) ] [ ザフラ/ザハラ ] と区別がつかなくなる。英字表記もZahraという具合にかぶるため、ポピュラーな「輝ける」の方なのかマイナーな「花」なのかはアラビア語表記を見て確認する必要がある。ただし英字表記でZahraとなっている女性名は、「花」という意味のザフラ/ザハラではなく زَهْرَاء [ zahrā’ ] [ ザフラー(ゥ/ッ)/ザハラー(ゥ/ッ) ] であることが非常に多いのでたいていの場合は「輝ける(者)」と訳して差し支えない。
母音記号あり:سَمَر [ samar ] [ サマル ] ♪発音を聴く♪
Samar
(砂漠といった屋外や屋内の集まりの場で)晩・夜にする会話、談話、おしゃべり;晩・夜の会話・談話・おしゃべりの場(サマルの席、サマルの集い、サマル会のこと);月の光、月光(その光の下でサマルをしていたことから);夜の闇
■意味と概要■
アラブの女性名の一つ。
元々の意味は日本の書籍やネット記事で紹介されているような「友達と夜更かしして遅くまで楽しく過ごすこと」ではないので要注意。現代では音楽・歌・踊りを楽しむ場という意味合いも加わったが、本来は友達限定・夜更かし・おもしろおかしく過ごす(イスラームで禁止の飲酒を含む)といった意味は本来持ち合わせていない。
単に晩・夜の時間帯に夫婦、親族、知人、友人などの話し相手と会話をすることを指し、家族との雑談や重要な話し合いなども含んだ。大昔の資料には「預言者ムハンマドが妻と夜にサマル(話)をした」「預言者ムハンマドがアブー・バクルと晩にイスラーム共同体運営の件でサマル(話し合い)をした」といった文章も残っている。アラブ人名事典には「砂漠で夜に話をすること」と書かれていることも。
『アラビアンナイト(千夜一夜物語、千一夜物語)』の語り部であるシャハラザード(日本語で多いカタカナ表記はシェヘラザードなど)が王であるシャフラヤール(/シャハラヤール。日本語で多いカタカナ表記はシャフリヤール)に毎晩語って聞かせた寝物語(ピロートーク)もこのサマルで表現され、男女関係を結んだ後に毎晩繰り返ししていたことからサマルの複数形を使って أَسْمَار [ ’asmār ] [ アスマール ] と表現されることが多い。
なお、イスラームの規定では夜更かししてまでサマルをしたせいで早朝の礼拝をできず寝てしまうことを避けるため早めに切り上げしっかり寝て体を休めるべきだとの預言者ムハンマドの教えがあるが、現代では様々な娯楽が増えそれを守れない信徒も増えているという。
寝ずに夜更かしすることは سَهَر [ sahar ] [ サハル ]((悩み、不眠、勉強、歌・パーティー・踊りなどで)寝ずに夜を過ごすこと、夜更かしすること)と呼ばれる。夜更かしして行う歌・パーティー・踊りなどの会は سَهْرَة [ sahra(h) ] [ サフラ/サハラ ] と呼ばれるが、現代では区別があいまいになっておりサマルと混同されることも多い。
ちなみに病的に眠れない不眠は أَرَق [ ’araq ] [ アラク ]。】
■発音と表記■
「ar」部分はアーと発音しないのでアラビア語ではサマーとは発音しない。】
Jiihaan、Jihan
世界
【 ペルシア語起源の古くからある女性名。جِهَان [ jihān ] [ ジハーン ] とも。元は جَهَان [ jahān ] [ ジャハーン ] という語形。】
Shiiriin、Shirin、Shireen、Shirineなど
甘美な、甘い
【 ペルシア語由来。】
【 口語的にiがeに転じたシェーリーン、それの前半の長母音が少し短くなった感じのシェリーンに即した英字表記はSheeriin、Sherin、Shereen、Sherine。日本語のカタカナ表記ではシーリーン、シリーン、シリン、シェーリーン、シェリーン、シェリンが考え得る。】
母音記号あり:جِهَاد [ jihād ] [ ジハード ] ♪発音を聴く♪
Jihad、Jihaad
【広義】努力、奮闘;【狭義】ジハード(イスラームにおける対異教徒戦争、通称"聖戦")
■意味と概要■
アラブ人名辞典には「男性名・女性名の両方として使われる」と記載されているが、実際のアラブ諸国では「ジハードは男性名」という認識が強めでSNSなどでは「ジハードは男児につける名前」「ジハードって名前の女の子がいるの?」といった雑談がなされていることも。しかしながらエジプトにはこの名前を持つ女性政治家がいるなどジハードの名前を持つ女性も一定数ながら存在する。
ジハードはアラビア語の派生形第3形動詞 جَاهَدَ [ jāhada ] [ ジャーハダ ](努力する、奮闘する)の動名詞で「努力すること、奮闘すること」を意味。宗教用語としては崇高な目的のために尽くす精神的もしくは実践という形での努力全般や奮闘を指し、イスラーム教界隈やアラビア語圏のキリスト教界隈(例:اَلْجِهَاد الرُّوحِيّ [ ’al-jihādu-r-ruḥī(y) ] [ アル=ジハードゥ・ッ=ルーヒー(ュ/ィ) ](アル=ジハード・アッ=ルーヒー、spiritual struggle、「霊的闘争、霊的闘い、精神的苦闘」の意))などで用いられている。そのためジハードという人名はイスラーム教徒に限らずキリスト教徒の命名に用いられることもある。日本人名に置き換えると「努(つとむ)」や「闘介(とうすけ)」といった男性名が近い。
イスラームにおいては広義には言葉・行動・資産などを尽くすことによって行われる自己との向き合い・宗教的努力、狭義には異教徒との戦争(通称"聖戦")を指すが、後者の意味である「アッラー(神)のために敵と戦うこと」「(イスラームという)宗教を護るために戦うこと」をこの人名の第一の語義として挙げているアラブ人名辞典も存在。近現代では植民地主義やアラブ世界を蹂躙する側との闘争をジハードと位置付け立ち向かう者を英雄とみなしてきたため、ジハードという名前はプラスのイメージをもって命名される人名だった。
ところが原理主義的運動の台頭や諸外国における無差別テロ事件などの発生によりイメージが一変。特に9・11事件以降はジハード=イスラームのテロという印象が強まったことから「ジハードは無差別テロの英雄となることを願って命名された名前である」「ジハードという名前を持っているからテロに賛同しているのではないか」などと誤解されやすいようになり、ジハードという語自体が欧米の街中では気軽に叫べない言葉となってしまい、ジハード主義者やタクフィール主義者として扱われるといった社会的な不利益を恐れ改名する者も出るに至ったという。
実際、ドイツやフランスに関してはイスラーム教徒移民による過激派イスラーム主義活動を警戒しジハードという新生児名の申請が認められなくなった・命名希望者が法廷で争うなどした、SONYのPlayStation Networkにおいて本名のジハード(Jihad)で登録した男性が攻撃的かつ他ユーザーを不快にさせるユーザーネームを用いたとしてBANされたといった、社会的に許されざる人名となった事例が日本国内外メディアでも報じられるなどしている。
なおジハードという名前は祖父からそのまま同じ名前をもらうというアラブ人のよくある命名方式に即したもので特に思想的・宗教的な命名動機が無いケースも考えられる。人名自体は親など命名者の意志により選ばれたものなので、ジハードという名前を持っていても本人が対異教徒戦闘という意味でのジハードに肯定的である証拠とはならず使うことを嫌がっているケースも存在する。努力ではなく対異教徒戦闘という語義を意図した命名の場合その名を持つ本人の意志は関係無く、中東戦争に感化されたとかパレスチナ問題に共感したといった命名者側の思想を反映しているものなので、その子が同様にジハードとしての対植民地主義支配・対異教徒戦争に肯定的であるかどうかはまた別の問題となる。
加えて本人の年齢が若くない場合に関しては、命名当時諸外国における「ジハード」という言葉のイメージも異なっており、アラブ諸国におけるイスラーム主義的傾向を持った人物への取り締まり状況も違っていたであろう点を考慮する必要があると思われる。(イラクのネット記事にはジハードという名前を持つサービア・マンダ教徒男性が、ウサーマ・ビン=ラーディン(ウサーマ・ビンラーディン、オサマ・ビンラディン)らによって引き起こされた9・11事件以降名前のせいで齢七十にしてとばっちりによる誤解を受けるようになり、イスラーム教徒ではないと説明しても欧米の空港で過激派との関係を疑われ引き止められ苦労したといった話題が載っている。)
■発音と表記■
ジの発音をJiではなくJeで当て字をしたJehad、Jehaadという英字表記も見られる。
また英単語のgeneral(ジェネラル)のようにジという発音をgで当て字をしたGihad、Gihaad、Gehad、Gehaadといった英字表記もあるが、GehadやGehaadについてはゲハド、ゲハッド、ゲハード、ゲハーッド、ジェハド、ジェハーッドとカタカナ表記するような発音ではなく単にジハードを意図している可能性もあるため音声などでの確認が必要となってくる。(ただし英語ニュースなどだとGehadをゲハードと読んでいたりする。)
加えて、エジプト首都カイロ周辺方言のようにj音がg音に転じる地域ではギハードという発音になる。その場合の英字表記はGihad、Gihaad、Gehad、Gehaadなど。この場合は上の例と違い、ジハードではなくギハードという発音を意図してのG当て字となっている。フランス語の影響が強いマグリブ諸国(チュニジア、アルジェリア、モロッコ等)やフランスに移住したアラブ系・イスラーム教徒などの場合はjの前にdを置いてDjihad、Djehadのように表記することが広く行われているが、これをドジハド、ドジハッド、ドジハード、ドジェハド、ドジェハッド、ドジェハードのようにカタカナ化しないよう要注意。
Shifaa、Shifa
治癒、癒やし、薬
[ アラビア語で الشِفَاءَان [ ’ash-shifā’ān(i) ] [ アッ=シファーアーン(/語末格母音まで読む場合はアッ=シファーアーニ) ] はクルアーンとはちみつを指す。クルアーンは人を導き心身を健やかにする存在だが、はちみつもイスラームの伝統的医療においてその効用が認められたとても人気のある食品。]
[ 日本語ではシェファというカタカナ表記も多く見られる。口語ではiがeに転じやすいのと元々文語で母音がa、i、uしか無いアラビア語ではiとeの区別があいまいなため、Shefaa、Shefaという英字表記も多い。これは実際の発音がシェファーやシェファに近く聞こえることがあるのと関係している。なお語末に声門閉鎖音/声門破裂音ء(ハムザ)があるため厳密にはシファーゥとシファーッとシファーァを混ぜたような発音だが、口語ではただのシファーになってしまうため日本ではシファーとカタカナ化するのが一般的。]
母音記号あり:شَام [ shām ] [ シャーム ] ♪発音を聴く♪
Shaam、Sham
(広義のシャーム)シャーム地方、歴史的シリア、大シリア、レヴァント地方(レバント地方);(狭義のシャーム)シャーム、ダマスカス
■名前の概要と意味■
愛国的要素のある女性名で近年シリア近辺に生まれた女児に多く命名されている。サラブレッドの三大始祖の一頭として知られる牡馬ゴドルフィンアラビアン(スタッドブック登録名:ゴドルフィンバルブ)の幼名有力候補として挙げられることもあるSham(日本ではアラビア語発音のシャームではなくシャムというカタカナ表記が多い)だが、同馬がオスだったのに対しアラブ人名としてのシャームは女性名。
シャームという語には広義のシャームと狭義のシャームがあり、広義の方はシリア、レバノン、ヨルダン、パレスチナを含む地中海東側沿岸諸国一帯を指し、狭義の方はシリアの首都にもなっているダマスカスを指す。
命名の由来に関していくつかの説があり確定はしていない。有名なものとしては以下が挙げられる。
●ほくろ説
命名された東地中海沿岸地域のあちこちに石が転がっていたり村落が点在していたりする光景が شَأْم [ sha’m ] [ シャッムとシャァムを混ぜたような発音 ]((集合名詞的に用いて)ほくろ)に似ていたから。真ん中の「’」という声門閉鎖音/声門破裂音 ء が長母音化した شَام [ shām ] [ シャーム ] に転じた。
●預言者ヌーフの息子サームの地説
イスラームにおける預言者 نُوح [ nūḥ ] [ ヌーフ ](聖書のノアに対応)の息子 سَام [ sām ] [ サーム ](セムに対応)と縁の深い土地ということで彼の名前をつけたという説。セム系言語において元々親しい関係にある س [ s ] の音が ش [ sh ] の音に置き換わり شَام [ shām ] [ シャーム ] となった。
●聖地マッカ(メッカ)北方の地説
イスラームの聖地マッカ(メッカ)のカアバ神殿南方にはイエメンがあるが、その反対側の北方にあるのが東地中海沿岸地域。「左、北」に関連した概念を示す語根 ش - أ - م(sh-ʾ-m)からなる شَأْم [ shaʾm ] [ シャアム ] と命名され、発音がشَام [ shām ] [ シャーム ] となったとする。
■発音と表記■
アラビア語での発音はシャームだが、日本語のカタカナ表記では英字表記Shamを経由したために長母音部分が取れてシャムになっていることもしばしば。
この名前の英字表記としてはChaam、Chamも見られるが、「Cha」はフランス語圏やフランス語の影響が強いアラブ諸国で「シャ」の発音に対する当て字として使われているものなのでチャーム、チャムという読みを意図している訳ではないので要注意。
また長母音āがē寄りもしくは完全にēになる方言の地域ではシェームと聞こえたりもする。
月面の黒い斑点模様、体にほくろなどの特徴がある女性のこと[昔からある女性名で、預言者ムハンマドの乳兄弟の一人の名前でもある]
[語末が声門閉鎖音のハムザで終わっているため、母音をつけて読めばシャイマーゥ、シャイマーッに近い音になる。しかし実際の口語読みではシャイマーに近くなる。]
Jawhara、Jawharah、Jauhara、Jauharah
(1つの、1個の)宝石
【 集合名詞・総称的に用いる جَوْهَر [ jawhar / jauhar ] [ ジャウハル ](宝石;(物事の)本質)に単数化・女性名詞化機能を持つ ة(ター・マルブータ)がついて「1つの宝石」「1個の宝石」という意味になったもの。元々ペルシア語から入った単語の発音が一部変化しアラビア語化したという。
男性名詞扱いの جَوْهَر [ jawhar / jauhar ] [ ジャウハル ](宝石;(物事の)本質)が男性名・女性名の両方として使われ得るのに対し、女性名詞扱いの جَوْهَرَة [ jawhara(h) / jauhara(h) ] [ ジャウハラ ] はもっぱら女性名として用いられ、宝石のようにきらきらと美しい女性、貴石のように高貴な女性といったゴージャスなイメージなどと結びつけて命名されるなどする。】
【 現代アラビア語の日常会話発音では英字表記に含まれる最後の「h」は発音しないので、Jawharah、Jauharahと表記してあってもカタカナ表記ではジャウハラとするのが慣例。ジャウハラフ、ジャウハラハ、ジャウハラーのようにカタカナ化しないよう要注意。】
Shafaq
黄昏(たそがれ)、夕焼け;(黄昏のような)赤色の衣類、茜色の服;(手仕事としては粗雑な感じの)ざっくりと編んだ衣服、(物に関して)粗悪品、質の悪い品;哀れみ、憐憫;恐れ、(何か悪いことが起きるのではないかといった類の)懸念、心配
【 女性名。日没の後空に残っている赤み、夜の帳が落ちて完全な夜空の闇になるまでの太陽の光の残りと日没後の夜空の暗い色とが入り混じっている様子を指す。「極の」という意味の形容詞を直後につけ修飾した شَفَق قُطْبِيّ [ shafaq quṭbī(y) ] [ シャファク・クトゥビー(ュ/ィ) ] で「極光、オーロラ」の意味になるがいわゆる現代語なので伝統的アラブ人名の由来としては特に「黄昏」、次いで「哀れみ、憐憫」などがメイン。哀れみ、憐憫の意味合いに関しては شَفَقَة [ shafaqa(h) ] [ シャファカ(フ/ハ) ](哀れみ、憐憫;慈愛)と同じ。】
【 ق [ q ] を調音部位が近い他の子音 ك [ k ] に置き換えた英字表記Shafakも使われている。】
Shahd
(蜜蝋と分離していない状態の)はちみつ;蜂の巣
【 現代になってパレスチナなどで人気が出た女児名。「蜂蜜」と「蜂の巣」の両方の意味があるが、女児名なのでスイートで愛らしい意味の方の「はちみつ」ちゃんという方を意図した命名。アラビア語辞典によると特に蜜蝋部分とまだ分離していない蜂蜜を指すという。】
【 shafdではなくshahdなので実際にはシャハドに近い発音。hとdの間に母音aが補足されたシャハドという発音に対応する英字表記Shahad、口語風にhとdの間に母音iが挿入されたシャヒドに近いShahid、母音eが追加されたシャヘドに近いShahedといった英字表記も多用されている。】
*『ファイアーエムブレム 無双風花雪月』のシャハドはこのシャハドではなく男性名シャーヒドの可能性高し。詳細は男性名シャーヒド参照。
Jamiila、Jamiilah、Jamila、Jamilahなど
美しい(外見・容貌以外にも、所作・人柄について何らかの点が「良い・佳い」ことを示すのに使う)、美女の
【形容詞語形。男性名 جَمِيل [ jamīl ] [ ジャミール ](美しい、佳い)に女性化の ة(ター・マルブータ)をつけて女性形に変えたもの。美しさに関して飛び抜けている状態を示すような強い度合いではなく、その人の見た目・容姿や行い・精神面の何らかの点において他人に良い印象を与え好感を持たせるような一般的な「beautiful」「good」さを意味する形容詞。物事に使う場合はفكرة جميلة(fikra(h) jamīla(h)、フィクラ・ジャミーラ)で「良い考え、良い案」の意味に。
ネット記事ではアラブ人名紹介として「多芸多才」(excellent talents)の意味が載っていることもあるが、イラン・ペルシア語圏での話であって少なくともアラビア語圏では「美しい」「佳い」の意味で用いるのでキャラクター設定の時には混同しないよう注意。
イスラーム以前のジャーヒリーヤ時代、アラブ人は赤ん坊が生まれた時の状況や目の前にたまたまあったものをそのまま命名することが多く難産の子供に「言うことを聞かない、そむく子」といった名前をつけるなどイスラームの理念に合わない事例も多かった。預言者ムハンマドは新生児に良い名前を贈ってやるよう奨励し、望ましくない名前を持つ改宗信徒らに色々な名前を与えて改名を促したがこのジャミーラもその一つで新しくイスラーム教徒となった女性らのために彼自らが選ぶなどしたことが伝承(言行録)でも残っているという。
預言者ムハンマド自らが認めた良い名前ということでイスラーム教徒らの間では好まれている名前となっているが、男性形のジャミール同様、女性形ジャミーラ自体はアラブ諸国で用いられる純アラブ人ネームとしてはそれほど多い名前ではなく、ムハンマド、アフマド、マフムード(/マハムード)、アブドゥッラー(アブド・アッラー)、アブドゥッラフマーン(アブド・アッ=ラフマーン)などの超メジャーな男性名などに比べるとメディアや書籍・記事などで見かける頻度はそう多くない。
ちなみにウルトラマンに出てくる怪獣ジャミラはアラビア語の女性名由来で、アルジェリアの反仏・独立運動家ジャミラ・ブーパシャ(جَمِيلَة بُوبَاشَا、Djamila Boupacha。1938年生まれ-存命。若くして非業の死を遂げたと紹介されていることもあるが誤り。)のファーストネームから取られたものだという。
地球人男性宇宙飛行士が宇宙の星に墜落した後で怪獣化したとのことなので、怪獣化した際に性別が変わっていない限り男性キャラに女性名がついている例となっている。作中ジャミラの墓にはフランス語で名前が記されており前置詞àを添えて「À JAMILA」と書かれている。ジャミラは女性のファーストネームだが、アラブ圏でラストネーム・ファミリーネームは男性先祖の本名・別名などから取られ女性親族の名前は来ないため、男性宇宙飛行士の本名ということであれば姓名ともに男性形にする必要がある。
逆に那須どうぶつ王国のスナネコお母さんが男性名ジャミールなのは女性・メスに男性名がついている例。日本ではアラビア語の基本文法である男性形・女性形の区別が知られていないこと、アラビア語-日本語辞書やネーミング辞典には男性形(基本となる形は3人称・男性・単数「彼」の時の語形)しか載っておらず文法書を参考にしながら自力で女性形に変形する必要があるため、性別に合わせたネーミングが行われないことも多い。】
【 日本語一般的なカタカナ表記はジャミラだが、元のアラビア語の通りに発音する場合は後半のiを元の長母音īに戻しジャミーラと読むことを推奨。長母音にする場所を違う位置にしたジャーミラは不適だが、ジャミラも含め外国に移住していて現地での発音がそちらの方が普通だという場合には全部ジャミーラに戻す必要は無いため現地の一般的な発音を別途調べることとなる。
一部方言の口語風発音は語末の-a(h)部分が-e(h)に転じたジャミーレで、対応する英字表記はJamiile、Jamile、Jamiileh、Jamileh等。この場合アラビア語としてはジャミーレフ、ジャミーレー、ジャミレフとはカタカナ表記しない。
アラビア語の文語だとこの人名を単体で発音する時は جَمِيلَة [ jamīlah ] の最後の子音「h」(ワクフと呼ばれる休止形発音なので「t」とはしない)をほんのり聞こえる軽い発音で出すため、厳密には耳を澄ませて聞くと [ ジャミーラフ ] と [ ジャミーラハ ] の中間のような読まれ方をする。しかし現代文語会話や口語(方言)だと ة の休止形(ワクフ)発音である ه [ h ] が落ちてしまい手前の-aまでしか読まなくなっているので、日本では学術的な表記でもJamiilah、Jamilahと表記してあるものをジャミーラフ、ジャミーラハとはせずジャミーラと書くのが標準ルールとなっている。
語末についている ة(ター・マルブータ)は発音方法によって ت [ t ] 音で読むこともあるが、文語の語末母音まで全部読み切る読み方では جَمِيلَةُ [ jamīlatu ] [ ジャミーラトゥ ] になるが文法学習といった特定の場面でしか聞かれず、現代の文語(フスハー)会話や口語(方言)は後ろから属格支配(≒所有格支配)と受けた時のみ黙字扱いせず ت [ t ] 音で読むことが広く行われている。】
母音記号あり:شَمْس [ shams ] [ シャムス ] ♪発音を聴く♪
Shams
太陽
■意味と概要■
アラビア語で天体の太陽を意味する名詞。メソポタミアの太陽神シャマシュ(Shamash)の流れをくむ名称で、語末のsh音がアラビア語ではs音に置き換わっている。天体の名称を指す名詞としては女性扱いだが、女性名としても男性名としても使われる。
イスラーム以前のジャーヒリーヤ時代にはアラビア半島で月の神=父、太陽の神=母、金星=子といった多神教崇拝・天体崇拝・偶像崇拝が行われており عَبْد شَمْس [ ‘abd(u) shams ] [ アブド・シャムス ](太陽のしもべ、太陽神のしもべ、シャムス神のしもべ)という男性名も存在した。「猫好きおやじ」「猫おじさん」というあだ名で知られる預言者ムハンマドの教友 أَبُو هُرَيْرَةٍ [ ’abū hurayra(h) / ’abū huraira(h) ] [ アブー・フライラ ] も改宗前はアブド・シャムスというファーストネームだったが、唯一神信仰に合致する名前に改名したとされている。
なおこのシャムスという名前は複合名が禁止された国で従来使われていた شَمْس الدِّين [ shamsu-d-dīn ] [ シャムス・ッ=ディーン ](宗教の太陽)というラカブ由来の男性名の代替として使われたり、شَمْس الدِّين [ shamsu-d-dīn ] [ シャムス・ッ=ディーン ] という名前を持つ男性を普段周囲が呼ぶ時の通称として使われてもいるという。
■ネーミングの際の注意点■
【定冠詞アルは取る】
天体としての名称 اَلشَّمْس [ ’ash-shams ] [ アッ=シャムス(注:アシャムス、ア・シャムス、ア=シャムスではないのでネーミング時には要注意) ](太陽)には定冠詞 اَلْ [ ’al- ] [ アル= ] が直後の ش(sh)音の影響で発音変化した「アッ」がついており、アラビア語対応ネーミング辞典でもアッ=シャムス、アッ・シャムス、アッシャムスなどと載っていたりする。
ただし人名として使う時は定冠詞 اَلْ [ ’al- ] [ アル= ](al-)はつけない。アラビア語で「太陽」という意味を調べたりネットで検索したりすると宇宙にある天体の名前としての「太陽」が出てくるためにキャラクターや動物にそのままアッシャムス、アッ=シャムスと命名してしまっているケースが非常に多いが、人や動物への命名では英語の the にあたるアッの部分は抜くのが基本なのでアッ抜きのシャムスとすることを強く推奨。
【シャムスのスを取ってシャムやアッシャムとしない】
なおネット等では「アラビア語でアッシャムは太陽の意味」「アラビア語でシャムは太陽」と書かれていることがあり、ゴドルフィンアラビアン(ゴドルフィンバルブ)の幼名・本名も「アラビア語で太陽を意味するシャムだった」と説明されている記事も複数見られる。
しかしながらアラビア語ではそのような事実は無く、アッシャムスやシャムスからスを取ってアッシャムやシャムにしても太陽という意味を保つということは無いので要注意。アラビア語は単語のパーツになる文字(語根)であるs(ス)の部分を切り取ってしまうと言葉の意味を表せなくなり、太陽という意味の単語ではなくなってしまうため。アラブ人に「アッシャム」「シャム」といっても太陽と理解されることは無い。
【響きが似ているものの別の名称と混同しない】
アラビア語は長母音(音が「ー」と長く伸びる)か短母音(「ー」と伸びない)かどうか、アラビア文字上は同じつづりでも発音が少し違うかどうかによって全然違う意味になることがあるので、アラブ人名の意味解説やキャラクターネーミングの時には不要な「ー」を足したり発音を少し変えたりしないよう要注意。
شَمْس [ shams ] [ シャムス ](太陽)- 男性名&女性名
شَمْسَة [ shamsa(h) ] [ シャムサ ](口語語形:太陽)- 女性名
شَمُوس [ shamūs ] [ シャムース ]【男女共通語形】(気難しい、頑固な(男性/女性);夫に対して反抗的な(女性);人の言うことを聞かず誰もその背中に乗せようとしない暴れ馬など乗用家畜)- 男性名&女性名
■アラブ世界における太陽のイメージ■
日本では「アラブ世界における太陽のイメージは冷酷非情、傲慢、死の象徴、悪魔の化身。女性に君は太陽みたいだと言うとけなし言葉となり怒られる。」という都市伝説があるが全くの誤り。アラビア語では太陽と並んで人の美点についてほめる比喩表現として使われてきた天体(詳細:『アラブ世界における月と太陽~目次』)となっている。
女性などを月にたとえるのは太陽が非情で月が優しいという二項対立ではなく、ふくよかで色白の男性・女性に美貌ににているため。現代では「月みたい=美人、美男」で定着しているが、丸みがあり輝く太陽も元は同じ発想から美貌のたとえに使われてきたほか、「太陽みたいな女性」は輝かしい様子、見返りを求めない情愛を与え皆の人生を明るく照らしてくれる母親・女性の形容などに使用。
一方男性に関しては古くは美貌、中世などにおいては誰の追随も許さない高貴さ・地位の高さや月・星にたとえらえる他の貴族・要人らがかすむほどの光を放つ偉大な統治者、そして現代では非常に寛大な父性愛のたとえとして使われるなどしている。シーア派では偉大さと神秘性などから共同体指導者たるイマームを太陽と表現することが多い。
■発音と表記■
口語における無母音部分「m」に母音「i」の挿入が起こりシャミス系に変わった発音を反映したShamis、Shamesや「u」を挿入したShamusといった英字表記も。またフランス語圏である北アフリカのマグリブ方言地域ではシャ・シ・シュ音をshではなくchで表記するためChams、Chamis、Chamesといったつづりも多用されている。チャムス、チャミス、チャメスと発音させる意図は無いのでカタカナ表記の際には要注意。
母音記号あり:جَوَاهِر [ jawahir ] [ ジャワーヒル ] ♪発音を聴く♪
Jawaahir、Jawahir
(複数の)宝石、宝石たち;本質
■意味と概要■
名詞 جَوْهَر [ jawhar / jauhar ] [ ジャウハル ](宝石)の複数形。元々はペルシア語だったが、アラビア語化され語頭のg音がj音に置き換わったという。具体的には貴金属、貴石・宝石、真珠類を指す。
■発音と表記■
iが口語的にeになったジャワーヘル寄り発音に即した英字表記はJawaaher、Jawaher。
またエジプト方言などでは ج (j)の音が文語アラビア語(フスハー)には無い g 発音に置き換わってガワーヒル、ガワーヘルとなり英字表記Gawaahir、Gawahir、Gawaaher、Gawaherなどが派生する。ただし男性名ジョージのつづりGeorgeのようにGawaahir、Gawahir、Gawaaher、Gawaherと書いてあってもジャワーヒル、ジャワーヘルと発音することを意図している場合があり、G始まりのつづりを使っている=エジプト系アラブ人とは限らない。
[ 良い香りがするピンク系のバラ。香水の原料としても有名。中東原産でシリアのダマスカスなどが産地として知られたため、ダマスカスに由来するダマスクという名称がつけられたのだとか。十字軍によってヨーロッパに持ち込まれたとの言い伝えあり。 ]
[ 厳密には語末を発音するとjūrīyとなるためジューリーュ、ジューリーィのように聞こえるが、口語など日常的な会話では単なるjūrīのジューリーと聞こえることもある。この場合はアクセント位置が前方にずれる。また口語的にuがoに転じるとジョーリーに近い音になる。その場合の英字表記はJori、Jory、Joree、Jouri、Joury、Joureeなど。 ]
Shu\'lah、Shu\'la、Shulah、Shula、Shualah、Shualaなど
炎、火炎;松明、トーチ、灯火、(ガスなどの)バーナー;(人の性質・特質などについて)たくさんの~、普通よりも多くの~、とても~である;馬の尾・前髪(・たてがみ)の白色・白毛
【 男性名の مِشْعَل [ mish‘al ] [ ミシュアル ](松明;トーチ、ランプ)や مَشْعَل [ mash‘al ] [ マシュアル ](松明;トーチ、ランプ)と同じ語根「ش - ع - ل」(sh - ‘ - l)を共有している姉妹語。元々は薪木に火をつけて灯した松明の炎を指していたが、近現代になって新しい道具が使われるようになったことでトーチ、灯火、バーナーといった意味が加わった。】
【 アラビア語の文語だとこの人名を単体で発音する時は شُعْلَة [ shu‘lah ] の最後の子音「h」(ワクフと呼ばれる休止形発音なので「t」とはしない)をほんのり聞こえる軽い発音で出すため、厳密には耳を澄ませて聞くと [ シュウラフ ] と [ シュウラハ ] の中間のような読まれ方をする。しかし現代文語会話や口語(方言)だと ة の休止形(ワクフ)発音である ه [ h ] が落ちてしまい手前の-aまでしか読まなくなっているので、日本では学術的な表記でもShu\'lah、Shu\'laと表記してあるものをシュウラフ、シュウラハとはせずシュウラと書くのが標準ルールとなっている。 語末についている ة(ター・マルブータ)は発音方法によって ت [ t ] 音で読むこともあるが、文語の語末母音まで全部読み切る読み方では شُعْلَة [ shu‘latu ] [ シュウラトゥ ]になるが文法学習といった特定の場面でしか聞かれず、現代の文語(フスハー)会話や口語(方言)は後ろから属格支配(≒所有格支配)と受けた時のみ黙字扱いせず ت [ t ] 音で読むことが広く行われている。
語頭にある喉を引き締めて発音する ع [ ‘ayn/‘ain ] [ アイン ] という子音に相当する「\'」は通常のアラブ人名英字表記では用いられない上、「\'」の代わりがaだったりaeだったりとまちまちで統一性が無く非アラビア語話者にはわかりづらい英字表記となるため混乱しやすい。ネット上ではShu\'lah、Shu\'la、Shulah、Shula、Shualah、Shualaといったバリエーションが見られる。
口語的にuがoに転じた [ sho‘la(h) ] [ ショウラ、ショォラ、ショオラ、ショァラが混ざったような発音 ] に対応した英字表記はSho\'lah、Sho\'la、Sholah、Shola、Shoulah、Shoula、Shoalah、Shoalaなど。
携帯電話にアラビア語キーボードが無かった時代に普及したチャットアラビア語の影響から、SNSのユーザーネーム等では語中の ع [ ‘ayn/‘ain ] [ アイン ] を数字の3に置き換えたShu3lah、Shu3la、Sho3lah、Sho3laなども用いられている。
日本では書籍ならびに転載されたネーミング辞典の影響でショーラというカタカナ表記で知られており、キャラクターへのネーミングもショーラになっていることが多い。
単語の真ん中で喉をぎゅっと引き締める شُعْلَة [ shu‘la(h) ] の ـعـ 部分特有の発音を反映していないショーラは、違うつづりをするで شَوْلَة [ shawla(h) / shaula(h) ] [ シャウラ ](サソリが持ち上げた尾、サソリの尾の針;句読点、コンマ(アラビア語のコンマは英語と逆にした「،」))の口語発音 [ shoula ] [ ショウラ ]、[ shōla ] [ ショーラ ] のうち後者のショーラに聞こえるカタカナ表記なので非推奨。】
母音記号あり:جُلَّنَار [ jullanār ] [ ジュッラナール ] ♪発音を聴く♪
Jullanaar、Jullanar
ザクロの花
■意味と概要■
アラビア語ではなくペルシア語由来の外来女性名。元々は2語からなる複合名でペルシア語式につづると گلنار [ gulnār → golnār ] [ グルナール → ゴルナール ]。前半の1語目はجل部分でペルシア語の گل [ gul → gol ] [ グル → ゴル ](花)が由来。1文字目の「g」音が読み書きのアラビア語(文語アラビア語、フスハー)に無く大昔は「g」音で発音していたج(j)を当て字としているもの。後半の2語目はنار部分でペルシア語の انار [ ’anār ] [ アナール ](柘榴(ザクロ))が由来。
元となったペルシア語の語形を保った جُلْنَار [ julnār ] [ ジュルナール ] ないしはエジプト方言などにおけるج(j)の発音置き換わりでもある جُلْنَار [ gulnār ] [ グルナール ] として命名されることもあるという。
アラビア語に元々ある名前や古い時代にアラビア語化されたアラブ人名というよりはペルシア語っぽさが残る外国語人名に入る部類ということもあり、ラジオ番組の珍名・レアネーム特集回で取り上げられるなどアラブ諸国ではポピュラーではない名前となっている。
■発音と表記
アラビア語化した発音はペルシア語やトルコ語における発音とは異なるので、英字表記でJullanar(ジュッラナール)や方言発音に対応したGullanar(グッラナール)等になっているものを非アラビア語発音に読み替えてしまってゴルナール、グルナールとカタカナ化しないよう要注意。
重子音部分であるllを2文字連続させず1文字だけにしたJulanaar、Julanarという英字表記も見られる。エジプト首都地域方言のようにjをgで発音する場合はグッラナールとなり英字表記Gullanaar、Gullanar、Gulanarが派生。
また口語風にuがoに転じたジョッラナール、ゴッラナールのような発音にに対応した英字表記としてはJollanaar、Jollanar、Gollanaar、Gollanar、Jolanaar、Jolanar、Golanaar、Golanarなどが考え得る。
元となったペルシア語の語形と同じジュルナールや発音置き換わりで語頭がj→g化したグルナールを意図した英字表記としてはJulnaar、Julnar、Gulnaar、Gulnarなど。母音uが口語的にo寄りとなったジョルナール、ゴルナールに対応した英字表記としてはJolnaar、Jolnar、Golnaar、Golnarが使われ得る。
Jumaana、Jumaanah、Jumana、Jumanah
真珠、真珠のような銀色の粒
【 ラテン語GEMMA「宝石、貴石」→ペルシア語→アラビア語のルートで伝わった言葉だとのこと。】
Shuruuq、Shuruq、Shurouq、Shrooqなど
日の出、(日の出の)光が広がって照らすこと
[ アラブ文化では大昔から日の出の光は美しいものとしてとらえられていた。日本語でいうところのあさひ、朝日、朝陽ちゃんといった女性名に相当。 ]
[ 口語的発音ではuがoに寄るので、ショルークに近くなった読みに基づいたShoruq、Shorouq、Shrouqなどのつづりもあり。アラビア半島ではqがgで発音されることが多く、シュルーグやショルーグという読みを反映したShurug、Shuroug、Shuroog、Shorug、Shoroug、Shoroogといった英字表記も存在。またアラブ人名の英字表記ではqがkに置き換わっているケースが多く、この人名でもShuruk、Shurouk、Shurook、Shoruk、Shorouk、Shorookなどのつづりが生じうる。またShuの母音uが抜けたShr~という英字表記もある。]
Suaad、Suad
幸せ、幸運
【 男性には使わずもっぱら女性にだけつける名前。アラビア語の文法教科書では幸福という意味のスアードという単語が元々あってそれが人名として使われたパターンではなく、先に固有名詞としてスアードという語が使われていたケースの代表例として登場することも。】
【 su‘ādの「‘」部分は喉を引き締めて出すうめき声のような子音だが英字表記では書かないのが普通。】
Siiriin、Sirin、Sireen
たいそう満腹の、すっかり満たされた;ふくよかな、ぷっくらした(美人)
【 ペルシア語が起源。2パーツからなる一種の複合名で満腹+度合いの強調→たいそう満腹の、とてもお腹がいっぱいの→よく食べふっくらしている美人といった意味だという。アラブ世界の古典的な美人像はふくよかで肉付きが良い女性だったことから。】
【 日本語のカタカナ表記ではシーリーン、シリンと書く人も少なくないと思われるが、شِيرِين [ shīrīn ] [ シーリーン ](甘美な)というよく似た響きながら全く違う意味の女性名があるので要注意。】
(他の星に隠れてよく見えない)星、おおぐま座の4等星アルコル[視力がどのぐらいか試すために利用されるほどの見えづらさだったため][Sohaと書かれることも]
Zubayda、Zubaydah、Zubaida、Zubaidah
小さなクリーム、小さなバター
[ ay部分は二重母音aiと同じ。口語ではeiもしくはēで発音されることが多くズベイダやズベーダと聞こえたりする。そこから派生した英字表記はZubeyda、Zubeydah、Zubeida、Zubeidah、Zubeeda、Zubeedah、Zubeda、Zubedahなど。 ]
【ハールーン・アッ=ラシードの正妃と女性名ズバイダについて】
アッバース朝の第5代カリフ ハールーン・アッ=ラシードの正妃はズバイダ・ビント・ジャアファルという名前で広く知られている。彼女は第2代カリフ アブドゥッラー(アル=マンスール)の孫娘で、ハールーンにとっては父方・母方双方の従妹にあたる。父はアル=マンスールの長男ジャアファルだったが、父は父在位中に若くして亡くなったためカリフ位を継承することはなかった。
ズバイダは彼女の容姿・性質が由来のラカブ(あだ名)で、本名は أَمَةُ الْعَزِيزِ [ ’amatu-l-‘azīz ] [ アマトゥルアズィーズ ](アマト・アル=アズィーズ、通常アラビア語では一気読みするのでアマトゥルアズィーズと発音される)(意味は「比類無き強大者(たるアッラー)のしもべ」で、男性名アブド・アル=アズィーズ / アブドゥルアズィーズ)の女性バージョンに相当する。)だとされる。しかしそちらは父がそう呼んでいた別名であって、元々のファーストネーム自体は سُكَيْنَة [ sukayna(h)/sukaina(h) ] [ スカイナ ](「平安、安寧」を意味するسَكِينَة [ sakīna(h) ] [ サキーナ ] の縮小形名詞)だったという説もある。
ズバイダは زُبْدَة [ zubda(h) ] [ ズブダ ](バター、クリーム;精髄、エッセンス)の縮小形名詞で、小さなバター、小さなクリームという意味を持つ。この縮小形の語形には単に「小さい」という意味を添えるだけでなく小さくて愛らしい・かわいいという愛玩・親愛の情が込められていることもあり、子供を命名したりファーストネームの語形を縮小形で変形して愛称を作ったりするのに使われる。そのためズバイダには「まるで小さなクリームやバターのような愛らしい子」といったニュアンスが含まれ得る。
ハールーン・アッ=ラシード正妃に関しては、祖父のアル=マンスールが彼女をいたくかわいがっており、幼い孫娘を踊らせて一緒に遊び相手をしている時に「أَنْتِ زُبْدَةٌ، وَأَنْتِ زُبَيْدَةٌ(アンティ・ズブダ、ワ・アンティ・ズバイダ)」(お前はクリーム(のよう)だ、お前は小さなクリーム(のような子)だよ)と声をかけてやっていたと伝えられている。彼女がクリームやバターのように色白で繊細なまでにみずみずしい柔らかい肌(乳幼児特有のぷりぷりもちもちした美肌)の美少女だったことから祖父が「小さなクリームちゃん」もしくは「小さなバターちゃん」とあだ名をつけたとされるが、ニックネームの方が有名になり後代においても本名ではなくあだ名(ラカブ)の方でフルネームが表記されるまでになった。
ズバイダは美貌だけでなくその知性や富裕ぶり・慈善活動・宗教活動支援・文化振興といった功績で知られる。現代においてズバイダと命名される女児らも、彼女にあやかっての名付けであることが多いものと思われる。
母音記号あり:دَالِيَة [ dāliya(h) ] [ ダーリヤ ] ♪発音を聴く♪
Daliyah、Daliya、Daaliya、Daaliyah
水汲み桶・滑車・水車で水やりをされている土地;(水や牛による牽引で動く)水車、(ロープを取り付けた)水くみ桶;ぶどうの木
■意味と概要■
語根は د - ل - و (d - l - w)で、現代でも「水くみ用の桶」や「バケツ」という意味で使われている同根姉妹語 دَلْو [ dalw ] [ ダルウ ] と似たような概念を共有。دَالِيَة [ dāliya(h) ] [ ダーリヤ ] については動詞 دَلَا [ dalā ] [ ダラー ](水を汲むために(桶などを)水の中に投入する)の能動分詞に女性名詞化機能を持つ ة(ター・マルブータ)を付加した語形となっている。
そのため水を汲むことに関連した意味を持つが、それとは異なる「ぶどうの木」という語義も有する。アラビア語辞典類によると、「ぶどうの木」という意味についてはアラム語から引き継いだものだとのこと。
■発音と表記■
アラビア語の文語だとこの人名を単体で発音する時は دَالِيَة [ dāliyah ] の最後の子音「h」(ワクフと呼ばれる休止形発音なので「t」とはしない)をほんのり聞こえる軽い発音で出すため、厳密には耳を澄ませて聞くと [ ダーリヤフ ] と [ ダーリヤハ ] の中間のような読まれ方をする。しかし現代文語会話や口語(方言)だと ة の休止形(ワクフ)発音である ه [ h ] が落ちてしまい手前の-aまでしか読まなくなっているので、日本では学術的な表記でもDaliyah、Daaliyahと表記してあるものをダーリヤフ、ダーリヤハとはせずダーリヤと書くのが標準ルールとなっている。
つづり違いで داليا(発音:دَالِيَا [ dāliyā ] [ ダーリヤー ](♪発音を聴く♪))も存在するが、いわゆる大衆による口語的・慣用表記的なもので表記としては誤りだと記載しているアラブ人名辞典も存在する。
yを抜いたDalia、Daalia(Daliaに比べるとまれ)という英字表記もしばしば用いられている。Daliaと書かれるため元のアラビア語自体に「ダリア(dali’a)」と発音する女性名があると間違えられやすいが、本項目の دَالِيَة [ dāliya(h) ] [ ダーリヤ ] ないしはつづり違いの دَالِيَا [ dāliyā ] [ ダーリヤー ] のこと。
Dijla、Dijlah
ティグリス川
[ فُرَات [ furāt ] [ フラート ](ユーフラテス川)と並んでイラクでしばしば見られる人名。ペルシア語が由来である、シュメール語やアッカド語由来だといった説がある。]
[ i部分がeで英字表記されたDejla、Dejlahも。]
母音記号無し:دُنْيَا [ dunyā ] [ ドゥンヤー ] ♪発音を聴く♪
Dunyaa、Dunya
より下の、より低い;最も下の、最も低い;現世、今生、この世;世界
■意味と概要■
「より/最も下の、より/最も低い;(関係・位置などが)より/最も近い」という意味の比較級・最上級である أَدْنَى [ ’adnā ] [ アドナー ] の女性形 دُنْيَا [ dunyā ] [ ドゥンヤー ] が由来。宗教用語としては来生(あの世、天国)の対義語。この世・現世がこの名前で呼ばれるようになった由来については諸説あり、「来生よりも先にあるから」「来生よりもより近くにある世界だから」「報酬が与えられる素晴らしき来世に比べれば矮小な存在だから」などが知られている。
人名辞典によってはこの世・この世界に含まれる素晴らしい物事・美しい物事・喜び・幸せなどと結びつけての命名だといった由来・動機が書かれていることもある。ちなみに宮廷文化が栄えた中世のアッバース朝時代には歌姫・女性歌手にこの名前がつけられることがしばしばあったとか。
■発音と表記■
語末の長母音ā(アーと伸ばす音)は話し言葉である口語(方言)だと短いa(ア)の響きである短母音に変わりやすいため、実際の会話ではdunya(ドゥンヤ)と聞こえることも多い。ただし英字表記ではドゥンヤーと伸ばす場合でもDunyaaではなくDunyaとするのが普通なので、Dunyaだけでは本人がドゥンニャーとドゥンヤどちらの発音を意図しているかは確認不可能。
また口語(方言)では母音uがoに転じてドンヤー、ドンヤと聞こえたりする。それらに対応した英字表記としてはDonyaa、Donyaがある。
dunyāは「dun | yā」、口語発音donyāは「don | yā」と切れ目を入れるのでそれぞれドゥンヤー、ドンヤーと発音。アラビア語にはニャやニョという音は無いので「du | nyā」と区切ってドゥニャー、ドゥニャ、「do | nyā」と区切ってドニャー、ドニャとしないよう要注意。またこの人名のカタカナ表記として区切る位置を変えた上に前半部分を長母音「ー」で伸ばしたドゥーニャ、ドーニャなども見られるが、少なくともアラビア語としては正確な発音からは大きく離れた当て字となっている。
アラビア語としての表記・発音から消えて無くなる訳ではないが、DunyaやDonyaのような英字表記からyを抜いたDunia、Doniaといった当て字も多用されている。アラビア語としてはDuniaはドゥンヤー、ドゥンヤ、Doniaはドンヤー、ドンヤという発音を意図したものだが、日本語カタカナ表記は英字つづりから日本語化したドゥニア、ドゥーニア、ドニア、ドーニアになっていることが多い。
なお非アラビア語圏各国における英字表記と現地での実際の発音については別途実際の音声・動画などで確認の必要あり。
雨や露が降って湿っている、濡れている;寛大な、気前の良い[ 英字表記でNadiaと書かれていることも。 ]
Naadira、Naadirah、Nadira、Nadirah
珍しい、めったにいない、類まれな
[ 男性名 نَادِر [ nādir ] [ ナーディル ] の語末に女性化の ة(ター・マルブータ)をつけた女性形。]
[ i部分が口語風にeに転じナーデラに近くなったものを反映した英字表記Naadera、Nadera、Naaderah、Naderahも多い。また長母音āがつまって短くなった口語発音 [ nadra(h) ] [ ナドゥラ/ナドラ ] があることからNadra、Nadrahといった英字表記も派生する。イラン人名・ペルシア語圏女性名としてしばしば見られる英字つづりNadereh(نادره)もこのアラビア語ネームが由来。なお英字表記の語末にあるhははっきり読まない添字に近い文字なのでカタカナ化する時はナーディラフ、ナーデラフ、ナーデレフもしくはナーディラー、ナーデラー、ナーデレーのようにしないよう要注意。]
母音記号あり:نَجْمَة [ najma(h) ] [ ナジュマ ] ♪発音を聴く♪
Najma、Najmah
(1個の)星;スター、花形;茎を持たないイネ科などの植物
■意味と概要■
男性名詞 نَجْم(星;スター、花形;茎を持たないイネ科などの植物)に単数化・女性名詞化機能を持つ ة(ター・マルブータ)をつけた女性形名詞。現代では「ナジュム(星)1個分」つまりは「1個の星」を意味するのに使われているが、大昔は1個の星という意味では使われておらず「茎を持たない植物の1株・1本」を指す語だったという。
この名前の男性バージョンは نَجْم [ najm ] [ ナジュム ]。ネーミング辞典やアラビア語単語集などで「星」と調べると نَجْم [ najm ] [ ナジュム ] が出てくるものの、そちらはアラブ人名としては男性専用名なので、創作でのネーミングの際に女性キャラに「ナジュム」と命名しないよう要注意。
■発音と表記■
エジプト首都カイロ周辺方言ではジャ行のjがガ行のgに置き換わる。また口語的な変化でnaがneに置き換わってネグマという発音になるため、NegmaやNegmahといった英字表記が多用されている。
■ツイステッドワンダーランド(ツイステ)の名前考察のために検索された皆様へ■
人名辞典だけでは情報が足りないようなので、当方で考察向けの資料を作成しました。興味のある方はご覧ください。女性名「ナジュマ」に関するメモなども載っています。
ゲーム作品アラブ風キャラ名考察『ツイステッドワンダーランド』編
Nadaa、Nada
露、夜露;湿気、湿り気;雨;寛大さ
【 有名マンガ『サトコとナダ』に出てくるナダはこの名前。女性名としての使用が多いが男性名として使われることもある。アラビア語で雨水や露は恵みの象徴のため大昔から人名としても好まれてきた。】
【 口語(話し言葉、方言)ではナダーではなく短くなったナダに近く聞こえることが一般的。日本語ではナダーよりも語末の長母音が短母音化したナダというカタカナ表記の方が多く見られる。】
母音記号あり:نَهِيدَة [ nahīda(h) ] [ ナヒーダ ] ♪発音を聴く♪
Nahidah、Nahida、Nahiidah、Nahiida、Naheedah、Naheedaなど
大きな無塩バターの塊;巨乳の、胸が大きくこんもりとした(女性);ゆでたハンザル(コロシントウリ)の種と小麦粉で作った食べ物の名前
【ネットでは「女性名ナヒーダはアラビア語で金星という意味」という情報が流通しているが、アラビア語における金星の一般的な名称は الزهرة(母音記号あり:اَلزُّهَرَة [ ’az-zuhara ] [ アッ=ズハラ ])で、アラブ女性名ナヒーダ自体に金星という意味は無い。なお、金星を表す別の語としてはペルシア語由来の外来名称である أناهيد(母音記号あり:أَنَاهِيد [ ’anāhīd ] [ アナーヒード ])がある。】
母音記号あり:نِسْرِين [ nisrīn ] [ ニスリーン ] ♪発音を聴く♪
Nisrin、Nisriin、Nisreen
キズイセン(黄水仙);イヌバラ;ムスクローズ、ジャコウバラ(麝香薔薇)
■意味と概要■
バラ(薔薇)の一種を指すペルシア語の名詞でイラン系女性名としても用いられている نسرين [ nasrīn ] [ ナスリーン ] が由来。ペルシア語ではナスリーンだったが、アラビア語に輸入された時にニスリーンに発音が変化したという。
アラビア語-英語辞書によっては「キズイセン(黄水仙)」だったり「イヌバラ」(花びらはピンク色)だったり「ムスクローズ、ジャコウバラ(麝香薔薇)」で記載はまちまちだが、いずれも香りの良い花という点で共通している。アラビア語辞典では「ムスクローズ、ジャコウバラ(麝香薔薇)」のことを指しているであろう「芳香の強い白いバラ(薔薇)」と書かれていることが多い。
■発音と表記■
ニスリーンないしはiが口語的にeに転じたネスリーン寄りの発音に対応していると思われる英字表記としてはNesrin、Nesriin、Nesreenがある。
日本語カタカナ表記としてはニスリーン、ニスリン、ネスリーン、ネスリンが使われ得る。
母音記号あり:نِضَال [ niḍāl ] [ ニダール ] ♪発音を聴く♪
Nidal、Nidaal
戦い、戦闘、闘争、抗争;(祖国などの)防衛、防衛戦;(矢の)射的競争
■意味と概要■
動詞派生形第3形 نَاضَلَ [ nāḍala ] [ ナーダラ ](戦う、闘争する、抗争する;防衛する、守る;射的で競い合う)の動名詞。男性名と女性名の両方に用いられており、アラブ人名辞典にも男性・女性両方の名前として載っているのが一般的。
古いアラビア語だと「弓矢で競い合う、射的で競争する」が主な語義となっていたり、「(戦って/闘って)うち負かす」といった意味が載っていることも。また現代のアラビア語辞典では「自身の思想を守る」、「植民地支配された人々が軍事・政治において祖国を防衛する」、「自由のために闘う」、「独立のために闘う」といった例文が収録されるなどしている。
■発音と表記■
アラビア語アルファベットの ض [ ḍād ] [ ダード ] は口語発音や非アラビア語発音における ظ [ ẓ ](舌を歯にはさむ ذ [ dh ] の強勢音・強調音、もしくははさまない ز [ z ] の強勢音・強調音化への置き換えが起きる方言が多い)化や ز [ z ] 化が行っていなくても「dh」という当て字をすることがあり、現地ではニダールと発音していても Nidhal、Nidhaal のような英字表記が使われていることがある。
上記の通りダ部分の ض は方言で ظ と相互に置き換わりが起きる文字でネイティブには区別が苦手な人も多いことから、نضال ではなくニザールと読める نظال というアラビア語つづりで書かれていることがある。
また英語の enable のように e とつづってイと読むケース、もしくは口語的に i が e に転じたネダール寄りになった発音に即した英字表記としては Nedal、Nedaal、Nedhal、Nedhaal などがある。
アラビア語口語(方言)での発音置き換わりに加え、ペルシア語圏のイランなど非アラブ諸国では「ダー(ḍā)」部分がただの「ザー(zā)」に置き換わる傾向が顕著で、ニザールという発音に対応した Nizal、Nizaal やさらに i が e に転じたネザールに対応した Nezal、Nezaal といった英字表記が派生。
日本語のカタカナ表記としてはニダール、ニダル、ニザール、ニザル、ネダール、ネダル、ネザール、ネザルなどが使われ得る。なおカタカナ表記が同じになるアラブ男性名 نِزَار [ nizār ] [ ニザール ](少ない、珍しい、稀な)とは全く別の語なので名前の意味を併記する際に混同しないよう要注意。
Nirmiin、Nirmin、Nirmeen、Nirmineなど
優美な、柔和な、たおやかな
【 2パーツから成る複合語タイプのペルシア語名が由来の女性名。】
【 口語風にiがeに転じ [ nērmin ] [ ネルミーン ] となった発音に対応した英字表記はNermiin、Nermin、Nermeen、Nermineなど。なお元のアラビア語では英語風にナーミンとは読まないので注意。考え得る日本語カタカナ表記としてはニルミーン、ニルミン、ネルミーン、ネルミン。】
母音記号あり:نُورَة [ nūra(h) ] [ ヌーラ ] ♪発音を聴く♪
Nurah、Nura、Nuurah、Nuurah、Nourah、Noura、Noorah、Nooraなど
(ひとつの、1個の)光、明かり、光明、ともしび
■意味と概要■
男性名詞で男性名・女性名としても使われる نُور [ nūr ] [ ヌール ](光、明かり、光明、ともしび)に単数化機能を持つ ة(ター・マルブータ)を付加して「1つの、1個の」というニュアンスを添えた語形。نُورَة [ nūra(h) ] [ ヌーラ ] という語自体は古くからあったが元々の語義は「タールやピッチ、生石灰、ヒ素などを混ぜて練った除毛剤(*練り上げた除毛ペーストをべりっとすることで脱毛する)」や「女魔術師」で、現代において女児への命名として用いられている語義「(ひとつの、1個の)光」は後代になって新造され定着したものだという。
■発音と表記■
アラビア語の文語だとこの人名を単体で発音する時は نُورَة [ nūrah) ] の最後の子音「h」(ワクフと呼ばれる休止形発音なので「t」とはしない)をほんのり聞こえる軽い発音で出すため、厳密には耳を澄ませて聞くと [ ヌーラフ ] と [ ヌーラハ ] の中間のような読まれ方をする。しかし現代文語会話や口語(方言)だと ة の休止形(ワクフ)発音である ه [ h ] が落ちてしまい手前の-aまでしか読まなくなっているので、日本では学術的な表記でもNurah、Nuurah、Nourah、Noorahなどと表記してあるものをヌーラフ、ヌーラハとはせずヌーラと書くのが標準ルールとなっている。
アラビア語の英字表記では「ah」部分は英語のようにアーと伸ばさないので、英語圏に帰化したアラブ系住民の名前ではないアラブ圏在住アラブ人ネームの発音としてはヌーラー、ヌラーのような発音やカタカナ表記はしないことを推奨。
Nourah、Nouraと当て字をしている場合、「ou」はアラブ人名の当て字ではオウではなくウかウーを表す割合が圧倒的に多いので、ノウラとカタカナ表記しないよう要注意。
Noorah、Nooraはooをo1個に減らしたNorah、Noraという英字表記もあるが、アラビア語発音としてはヌーラが基本で場合によっては口語(方言)に近いノーラを意図しているものなので、純アラブ女性名としてのカタカナ表記にノラとすると原音とはだいぶ離れた感じになってしまうので要注意。
なおこの人名はたいていはヌーラという発音を意図したもので、口語(方言)発音がノウラやノーラとなるような語としては文語(フスハー)に全く別の名詞 نَوْرَة [ nawra(h) / naura(h) ] [ ナウラ ]((一つの、1個の)花)が存在する。こちらは掲載していない人名辞典もあるが女性名として掲載されていることも少なくなく、数はヌーラほど多くないものの母音記号抜きだと全く同じ نورة になってしまうため、必要に応じて実際の発音などでどちらなのかを確認する必要がある。
母音記号あり:نُور [ nūr ] [ ヌール ] ♪発音を聴く♪
Nuur、Nur、Noor、Nourなど
光、ともしび、明かり
【 男性名・女性名の両方として使用可能。ただし他の語と組み合わせた複合名にした場合 نُور الدِّينِ [ nūru-d-dīn ] [ ヌール・ッ=ディーン ](ヌールッディーン、ヌール・アッ=ディーン、「信教の光、宗教の光」の意)は男性名のみ、نُور الْهُدَى [ nūru-l-hudā ] [ ヌール・ル=フダー ](ヌールルフダー、フール・アル=フダー、「(神によるイスラームという正しき道への)導きの光」の意)は女性名のみとなる。】
【 Noorはooをo1個に減らしたNorという英字表記もある。なおNoor、Nor、Nourはノール、ノル、ノウル、ナウルではなくヌールという発音を意図したものなのでカタカナ化の際に要注意。なお口語(方言)の時は発音によってはノールに近く聞こえることがある可能性もある。どちらかというと文語(フスハー)における نَوْر [ nawr / naur ] [ ナウル ](花)の口語(方言)の方が [ nōr ] [ ノール ] そのものになるが、人名としては本項目の「ヌール(光)」だと考えてまず差し支えない。】
Nuur Aaya、Nuur Aayah、Nur Aya、Nurayah、Nuraya、Nurayah、Nooraya、Noorayah、Nouraya、Nourayahなど
神徴の光、奇跡の光
[ نُور(nūr、ヌール)=光 を آيَةٍ(’āya(h)、アーヤ)=奇跡、神の徴、クルアーンの章句 という名詞が後ろから属格(所有格)支配した複合名。 ]
Nuurhaan、Nurhan、Nourhan、Noorhan、Nuur Haan、Nur Han、Nour Haan、Nour Han、Noor Haan、Noor Han
光の女王、光の王女、輝ける女王、輝ける王女
[ アラビア語で光を意味する نُور(nūr、ヌール)とトルコ語系の外来語で王、アミール(人名辞典によっては王女、貴婦人と説明)を意味する هَان(hān、ハーン)をくっつけた複合名だと説明されている一方、インド経由で輸入された名前で「太陽の光」という意味だと説明している人名辞典も。男性名・女性名として使うことができるとのことだが、アラブ地域では女性名として使われることが一般的。 ]
[ 口語だとノールハーン、ノルハーン、ノルハンに近く聞こえるなどする。 ]
Nur al-Huda、Nour al-Huda、Nurul Huda、Nourul Huda、Nurulhuda、Nourulhudaなど
(正しき道への)導きの光
[ 口語的な発音はヌール→ノール、フダー→ホダー、ホダ。それらに基づく英字表記はNoor al-Huda、Noor al-Hoda、Nor al-hoda、Norul Hoda、Norulhodaなど。定冠詞がelの地域ではNur el-Huda、Nour el-Huda、Nour el-Hoda、Nor el-Hoda、Noor el-Hoda、Norelhoda、Nourelhoda、Noorelhodaなど。 ]
Nujuum、Nujum、Nujoom、Nujoum
星々、複数の星たち
【 男性名 نَجْم [ najm ] [ ナジュム/ナジム ](集合名詞的に「星」)に対応する女性名として昔から使われてきた女性名。نَجْمَة [ najma(h) ] [ ナジュマ ](Najma、Najmah。意味は「(1個の)星;スター、花形;茎を持たないイネ科などの植物)」)が集合名詞の単数化によって女性形になっているのに対し、ヌジュームは複数形。ちなみにアラビア語では物の複数形は女性名の単数と同じ扱いをする。】
【 口語的にuがoに近くなった発音に即した英字表記としてNojuum、Nojum、Nojoom、Nojoumが派生し得る。エジプト首都方言のようにjをgで発音する地域の読みに対応した英字表記としてはNuguum、Nugum、Nugoom、Nugoum、Noguum、Nogum、Nogoom、Nogoum、Nogomなどが考えられる。】
ハージャル [ 聖書にも出てくる預言者イブラーヒーム(アブラハム)の妻でイスマーイールの母となった女性の名前で、カタカナ表記ではハジャル(ハガル)と書かれていることも。 ]
母音記号あり:هَيْفَاء [ hayfā’ / haifā’ ] [ ハイファー(ゥ/ッ) ] ♪発音を聴く♪
Haifa、Haifaa、Hayfa、Hayfaa
ほっそりした、細身の、腰回りがスリムな
■意味と概要■
「(腰回りが)細い、ほっそりした」を意味する名詞・形容詞の女性形。イスラーム以前のジャーヒリーヤ時代からあったアラブ世界における典型的な美人像は「身長は低すぎず、高すぎず、ほどほど」、「腰の回りはほっそりしているが、お尻はどっしり大きい」(全身がまんべんなく痩せているのではなくいわゆる"でか尻"であることが重要)というもので古典詩でもしばしば描写されてきた。
■発音と表記■
لَيْلَى [ laylā/lailā ] [ ライラー ] のay部分は二重母音なので実質的にはai(アイ)の発音となるため、Hayfa、HayfaaとHaifa、Haifaaの2通りの英字表記が併存している。
語末が声門閉鎖音/声門破裂音のء(ハムザ)で終わっているため、文語アラビア語の非休止形発音では هَيْفَاءُ [ hayfā’u / haifā’u ] [ ハイファーウ ]、休止形発音で語末の格母音を省いて読めばハイファーゥとハイファーッが混ざったような هَيْفَاءْ [ hayfā’ / haifā’ ] [ ハイファー(ゥ/ッ) ] になる。
しかし日常会話の口語発音では声門閉鎖音/声門破裂音のء(ハムザ)部分が省かれ هَيْفَا [ hayfā / haifā ] [ ハイファー ] と同等の発音になることが一般的で、日本の学術的な標準カタカナ表記もこれに基づいたハイファーとなっている。口語(方言)の会話ではさらに語末の長母音が短くなってほぼ [ hayfa / haifa ] [ ハイファ ] に聞こえることも少なくない。
満月;満月のように色白な/ふっくらした女性
【 陰暦14日の満月を指す。日の出と共にすぐ隠れ日没と共にすぐ昇ることから「急ぐ」という意味動詞 يُبَادِرُ(yubādiru、ユバーディル)と同じ語根「b-d-r」をとって بَدْر [ badr ] [ バドル ] と名付けられたという。
男性・女性にも命名可能な名前だが女性の場合は複数形の بُدُور [ budūr ] [ ブドゥール ] が多用される。大昔このバドルは黒人奴隷男性に付ける名前で、その後女奴隷・女使用人の命名にも使われるように。じきに一般的な名前となり子供の命名用に広がっていったとのこと。
ふっくらした、色白、輝かしい様子というのはアラブの古くからある美の基準で、「バドル」も満月のように肉付きが良い美男/美女という意味合いがある。現代でも満月のような美しさ、美貌、その輝かしい光をイメージして命名に用いられている。ちなみに月という意味の قَمَر(qamar、カマル)は複合語ではない単体の場合、女児名として使われアラブ地域では男児名としての使用はまれ。】
【 アラビア語では口語風の発音になり語末のrを休止形の母音無し子音のみで読むとd部分に母音挿入が起こって母音iやeが入り込みBadr→Badir(バディル)、Bader(バデル)のような読み・英字表記になったりする。またBadurという英字表記も使われている。なお、日本語ではバドゥルとカタカナ表記されていることが多い。】
Hanaadii、Hanaadi、Hanadi、Hanaady、Hanady、Hanadeeなど
100頭の(もしくはそれを超える数の)ラクダ;(国名としての)インド
【 古くからポピュラーだった伝統的アラブ女性名 هِنْد [ hind ] [ ヒンド ](100頭のラクダ;インド)を複数形語形にあてはめ親愛の情「かわいいヒンドちゃん」「愛しいヒンドちゃん」的ニュアンスを表現した愛称・ニックネーム語形だという。100頭のラクダに匹敵するぐらい価値があり高貴な女性、という意味。】
愛された(人)、愛すべき(人)、愛しい(人)、恋人;(神に、唯一神アッラーに)愛されし(者);(他人のこと・誰かのことを)愛する(人)、愛している(人)
【 受動態的な意味と能動態的な意味の両方を持つ分子類似語形の女性形。そのため「愛された人、愛すべき人」と「愛する人」の両方が辞書に載っている。通常は前者の意味で使う。アラブ世界では恋人に限らず親しい家族・友人などに حَبِيبِي [ ḥabībī ] [ ハビービー ] と呼びかける。女性相手の場合は حَبِيبَتِي [ ḥabībatī ] [ ハビーバティー ](*口語の複数方言でハビブティのような発音になる)という語形を使うが、女性相手でも男性形のハビービーを用いることもある。
再婚により預言者ムハンマドの妻となった女性の中に أُمّ حَبِيبَة [ ’umm(u) ḥabība(h) ] [ ウンム・ハビーバ ] がいた。彼女はアブー・スフヤーンの娘で後にウマイヤ朝初代カリフとなったムアーウィヤの姉妹だった。ハビーバはイスラーム布教開始前のジャーヒリーヤ時代からある古い女性名だが、ウンム・ハビーバに関しては「ハビーバの母」という意味の通称「クンヤ」で彼女の本名ではなかった。ハビーバは彼女が前夫との間に設けた娘の名前。ハビーバは預言者ムハンマドの元で養育され、イスラーム教徒として行動を共にしたサハーバ(教友)の1人となった。
ハビーバは預言者ムハンマドに親しかった初期信徒の名前であること、またアラビア語で愛らしい意味であることから各国のイスラーム教徒に好まれる名前となっている。ただしアラブ諸国ではハビーバという女性名はそう多くない。】
母音記号あり:بِدَايَة [ bidāya(h) ] [ ビダーヤ(フ/ハ) ] ♪発音を聴く♪
Bidaaya、Bidaayah、Bidaya、Bidayah
(物事の)始まり、始め、開始
■意味と概要■
動詞 بَدَأَ [ bada’a ] [ バダア ](始める;始まる)の動名詞で「始めること;始まること」という意味。女性名詞で、アラブ諸国では女性名として用いられている。
■発音と表記■
アラビア語の文語だとこの人名を単体で発音する時は بِدَايَة [ bidāya(h) ] の最後の子音「h」(ワクフと呼ばれる休止形発音なので「t」とはしない)をほんのり聞こえる軽い発音で出すため、厳密には耳を澄ませて聞くと [ ビダーヤフ ] と [ ビダーヤハ ] の中間のような読まれ方をする。
しかし現代文語会話や口語(方言)だと ة の休止形(ワクフ)発音である ه [ h ] が落ちてしまい手前の-aまでしか読まなくなっているので、日本では学術的な表記でもBidaayah、Bidayahと表記してあるものをビダーヤフ、ビダーヤハとはせずビダーヤと書くのが標準ルールとなっている。
語末についている ة(ター・マルブータ)は発音方法によって ت [ t ] 音で読むこともあり文語の語末母音まで全部読み切る読み方では بِدَايَة [ bidāyatu) ] [ ビダーヤトゥ ] になるが文法学習といった特定の場面でしか聞かれず、現代の文語(フスハー)会話や口語(方言)は後ろから属格支配(≒所有格支配)と受けた時のみ黙字扱いせず ت [ t ] 音で読むことが広く行われている。
一部方言の口語風発音は語末の-a(h)部分が-e(h)に転じたビダーイェ(ビダーエ)で、対応する英字表記はBidaaye、Bidaayeh、Bidaye、Bidayehならびにyを抜いたBidaae、Bidaaeh、Bidae、Bidaeh等が使われ得る。この場合アラビア語としてはビダーイェフ、ビダーイェハ、ビダーエフ、ビダーエハ、ビダーイェー、ビダーエー等とはカタカナ表記しない。
日本語におけるカタカナ表記としてはビダーヤ以外にもビダヤなどが考え得る。
Hiba、Hibah
贈り物、プレゼント
[ 主に女性名として用いられるが男性名であることも。歴史上の人物でこの名を持つ男性らもいた。エジプトはナイルの賜物」という名言のアラビア語版では、賜物という意味の部分にこのヒバという語を使う。 ]
[ 口語的な発音だとiがeに転じるのでヘバと聞こえることも。その場合の英字表記はHeba、Hebah。]
Hibat Allah、Hiba Allah、Hibah Allah、Hibatullahなど
アッラーからの贈り物、プレゼント
[ 主に女性名として用いられるが男性名であることも。歴史上の人物でこの名を持つ男性らもいた。アフガニスタンだとこの意味の人名がهيبت اللهと書かれハイバトゥッラーと発音されている模様。(現地報道録画複数にて確認。)]
[ 2語から成る複合名。ヒバとアッラーでつなげ読みをするとヒバトゥッラーになる。口語的な発音だとiがeに転じるのでヒバがヘバと聞こえることも。その場合の英字表記はHebat Allah、Heba Allah、Hebah Allah、Hebatullahなど。]
母音記号あり:حُورِيَّة [ ḥurīya(h) ] [ フーリーヤ ] ♪発音を聴く♪
Huuriiya、Huuriiyah、Huriya、Huriyahなど
(海・川・森などに住んでいると信じられている)妖精;天国の楽園に住まうと信じられている永遠の乙女、天女;(色白でふっくらした柔肌を持つ)美人な女性、美女
■意味と概要■
イスラームにおいて最後の審判後天国の楽園に行くことができた男性らが結婚相手として与えられる永遠の乙女(=何度契っても処女性を失わない)・天女のような存在の名前として知られているが、人名辞典によると女性名としては「美人」という意図で命名されることが多いという。
この حُورِيَّة [ ḥurīya(h) ] [ フーリーヤ ] 自体は単数形の女性名詞で、複数形は حُورِيَّات [ ḥurīyāt ] [ フーリーヤート ] もしくは حُور [ ḥur ] [ フール ] となる。なお、英字表記によっては似通っており混同しやすいが、حُرِّيَّة [ [ ḥurrīya(h) ] [ フッリーヤ ](自由)という語とは全く別の単語で、女性名フーリーヤ自体に「自由」という語義は無い。
■発音と表記■
この人名を単体で発音する時はワクフと呼ばれる休止形発音となるため、アラビア語の文語だと حُورِيَّة [ ḥurīyah ] の最後の文字 ـة(ター・マルブータ)は ت(t)音ではなく ه(h)としてほんのり聞こえる軽く読み上げるため、厳密には耳を澄ませて聞くと [ フーリーヤフ ] と [ フーリーヤハ ] の中間のような読み方をしている。(こうした文語的な発音に対応した英字表記がHuuriiyah、Huriyah。)
しかし現代文語会話や口語(方言)だと ة の休止形(ワクフ)発音である ه [ h ] が落ちてしまい手前の「-a(アの響きの部分)」までしか読まなくなっているので、日本では学術的な表記でもと表記してあるものをフーリーヤフ、フーリーヤハとはせずフーリーヤと書くのが標準ルールとなっている。(こうした口語的な発音に対応した英字表記がHuuriiya、Huriya。)
語末についている ة(ター・マルブータ)は発音方法によって ت [ t ] 音で読むこともあるが、文語の語末母音まで全部読み切る読み方では حُورِيَّةُ [ ḥurīyatu ] [ フーリーヤ ] (注:人名としては二段変化)になるが文法学習といった特定の場面でしか聞かれず、現代の文語(フスハー)会話や口語(方言)では後ろから属格支配(≒所有格支配)と受けた時のみ黙字扱いせず ت [ t ] 音で読むことが広く行われている。
英字表記については標準的なHuuriiya、Huuriiyah、Huriya、Huriyah以外にも、語末部分でアの響きとなる「-a(h)」部分が一部アラビア語方言などにおけるいわゆるイマーラ発音によってエの響き「-e(h)」になるフーリーイェ(≒フーリーエ)に対応したHuuriiye、Huuriiyeh、Huriye、Huriyehなども派生。
またアラビア語人名に含まれる「ū(ウー)」についてはouやooを当てることも多く、フーリーヤについてはHouriiya、Houriiyah、Houriya、Houriyah、Hooriiya、Hooriiyah、Hooriya、Hooriyah、そしてフーリーイェ(≒フーリーエ)についてはHouriiye、Houriiyeh、Houriye、Houriyeh、Hooriiye、Hooriiyeh、Hooriye、Hooriyehといったバリエーションも考えられる。ooについては本来2個連ねてあるものを1個に減らしたoになっていることもあり、Horiiya、Horiiyah、Horiya、Horiyah、Horiiye、Horiiyeh、Horiye、Horiyehなども本項目の女性名のバリエーションとして考慮する必要がある。
さらに語末が「イーヤ(īya(h))」で終わる女性名はyを抜いて英字表記だけでは「イーア(īa)」と読めるような当て字になっていることもある。そのため仮にHouriia、Houriiah、Houria、Houriah、Hooriia、Hooriiah、Hooria、Hooriah、Houriie、Houriieh、Hourie、Hourieh、Hooriie、Hooriieh、Hoorie、Hoorieh、Horiiah、Horia、Horiah、Horiie、Horiieh、Horie、Horiehとなっていても、元は حُورِيَّة [ ḥurīya(h) ] [ フーリーヤ ] のことなのでホウリア、ホウリエ、ホリア、ホリエというカタカナ表記ではなくホーリーアもしくはホーリーエ程度に留めた方が無難であるとも言える。
なお、携帯電話にアラビア語キーボードが無かった時代に普及したチャットアラビア語の影響から、SNSのユーザーネーム等では語頭の ح [ ḥā’ ] [ ハー(ゥ/ッ) ] を数字の7に置き換えた7uriya、7oriya、7uria、7oriaなども用いられている。
この女性名の日本語カタカナ表記として考えられるのはフーリーヤ、フリーヤ、フリヤ、フーリーア、フリーア、フリア。なおネットのネーミング辞典では حُرِّيَّة [ [ ḥurrīya(h) ] [ フッリーヤ ](自由)という名詞に「フリーヤ」というカタカナ表記が当てられネーミング等にも利用されているが、原語にある「ッ」が抜けてしまっているためにこの女性名とより混同されやすくなっているもの。正しくはフリーヤという発音ではなくフッリーヤと読んで「自由」という意味になる語で、本項目の女性名とは無関係。
Faatina、Faatinah、Fatina、Fatinah
魅力的な、魅惑的な
【 同様の女性名 فَاتِن [ fātin ] [ ファーティン ](魅力的な、魅惑的な)に ة(ター・マルブータ)をつけた女性形語形。能動分詞語形だが魅力を持っているという性質を示す形容詞的に扱う。】
【 口語的な発音ではiがeに転じてファーテナに近くなる。その場合の英字表記はFaatena、Faatenah、Fatena、Fatenah。日本語のカタカナ表記ではファティナ、ファテナになっていたりする。また長母音部分がつまった口語発音ファトナに対応したFatna、Fatnahといった英字表記もある。】
Faatima、Faatimah、Fatima、Fatimah
子を離乳させた、乳離れが済んだ(無事に成長して大人になることを願ってつけられたのが名前の起源という説あり)
【人名ファーティマについて】
ファーティマは預言者ムハンマドの娘の名前として有名。彼女は後に第四代正統カリフ/シーア派初代イマームとなったアリーの妻となり、彼との間に後のシーア派イマームとなった男児ハサンとフサインをもうけた。現代においてファーティマと命名される女児たちも、彼女にあやかって命名されることが多い。
ファーティマという人名は一般的に「乳離れが済んだ」という意味で説明されているが、預言者ムハンマドが娘をファーティマと命名した由来については乳離れとはまた違った意味合いだったことが言い伝えられている。ファーティマという人名は能動分詞の女性形だが、元になった動詞 فَطَمَ [ faṭama ] [ ファタマ ] には「切る、切り離す」といった意味合いがあり、「アッラーにより娘とその愛しい者たちが地獄の業火から切り離され免れた」ことが命名の由来だったのだと預言者自らが語ったとされている。
預言者ムハンマドの娘ファーティマは زَهْرَاء [ zahrā’ ] [ ザフラー/ザハラー ](輝ける)という形容詞を定冠詞つきの فَاطِمَة الزَّهْرَاء [ fāṭimatu-z-zahrā’ ] [ ファーティマトゥ・ッ=ザフラー/ザハラー ](輝けるファーティマ)という別名で呼ばれることも少なくない。اَلزَّهْرَاء(az-zahrā’)単体でも特定の輝ける者という意味になりファーティマのことを指し、女児名として使われるなどしている。なお、「輝ける」という意味があるのはザフラー(ザハラー)の方で、ファーティマの意味はあくまで「子供を乳離れさせた」なので注意。ネット上にはファーティマという語自体に輝ける者という意味があるように説明されていることもあるが、誤りである。
なお、預言者ムハンマドに親しかった親族ファーティマという名前の女性が別にいた。彼女の名はファーティマ・ビント・アサド。自分と同じハーシム家のアブー・ターリブと結婚。アリーやその兄ジャアファル(戦役において両腕を失ってもなお軍旗を守り続けたが落命し、天に昇る際アッラーより代わりとなる双翼を贈られ空を駆けていったとされる人物。)を始めとする子供(男児4人、女児2人)らの母となった。預言者ムハンマドは父を亡くした後、少年期に母も亡くしてしまい、父方おじであるアブー・ターリブの家に引き取られた形となった。彼女は生母亡き後の第二の母であり、預言者ムハンマドは母さんと呼んで慕っていたという。初期にイスラームに改宗。亡くなった際には預言者ムハンマド自らが丁重に葬り死を悼んだとされる。彼女は初代イマームであるアリーの生母であることから、預言者ムハンマドの娘でアリーの妻となったファーティマ同様、シーア派において崇敬される女性の一人となっている。
【発音・つづり・英字表記】
口語風に長母音がつまったファトマに基づいたFatma、Fatmahという英字表記あり。またレバノン・シリア周辺の口語発音ファーティメ、ファトメにもどづいたFatime、Fatimeh、Fatme、Fatmehという英字表記も。日本では前半faの長母音ā部分を復元しないファティマというカタカナ表記が多い。
なお外国語での発音を経由したためと思われるファティーマというカタカナ表記も見られる。ただしファティーマだとファーティマが持つ能動態的な意味が受動態的な意味に置き換わってしまい「離乳された子、離乳が済んだ小児」になるので注意。
Faatin、Fatin
魅力的な、魅惑的な
【 能動分詞語形だが魅力を持っているという性質を示す形容詞的に扱う。女性形を示す ة(ター・マルブータ)はついていないが女性名。】 【 口語的な発音ではiがeに転じてファーテンに近くなる。その場合の英字表記はFaaten、Faten。日本語のカタカナ表記ではファティン、ファテンになっていたりする。】
母音記号あり:فَيْرُوز [ fayrūz/fairūz ] [ ファイルーズ ] ♪発音を聴く♪
Fairuuz、Fairuz、Fayruuz、Fayruz、Fayrooz、Fairooz、Fayrouz、Fairouz
トルコ石、ターコイズ
■意味と概要■
ペルシア語の فيروزه(古代ペルシア語では پیروزه)を語源とする外来語。古来よりイラン周辺が一大産地であったこの石はアラビア語に輸入され、فَيْرُوز [ fayrūz / fairūz ] [ ファイルーズ ] ならびに فَيْرُوزَج [ fayrūzaj / fairūzaj ] [ ファイルーザジュ ] の語形に転じた。
名前辞典によっては「勝利者たる英雄(البطل المنتصر)」というもう1つの意味があると説明しているものも見られるが、この語義はアラビア語辞典やアラブの外来語辞典にペルシア語発音に似た فِيرُوز [ firūz ] [ フィールーズ ] という別発音と共に「勝利者;幸運なる者;青い貴石(管理人注:いわゆるトルコ石のこと)」といった語義を持つものとして記載されている形となっている。
アラビア語で書かれた専門書やペルシア語辞典によると、「勝利者」という意味については元のペルシア語におけるفيروز(victorious, پیروز)つまりはサーサーン朝の王の名前でもあったペーローズが持っていた語義で、「ه」の字が語尾につく方がペルシア語で元々فيروزه(古代ペルシア語の پیروزه)だった石の名前の方という違いがあったが、アラビア語化により「ه」が取れてどちらも「فيروز」になったために「トルコ石」「勝利者」という語義がまとめて表示されることになったものと思われる。
この「ファイルーズ」は現代アラブ世界ではほぼ女性の名前としてつけられ男児に使うことは稀になっており、辞書によっては女性名としか書いていないことも多い。しかしながら、預言者ムハンマドの教友で預言者存命中に違う預言者を自称した人物の討伐に参加したペルシア系イエメン人 فَيْرُوز الدَّيْلَمِيّ [ fayrūz/fairūz ’ad-daylamī(y)/dailamī(y) ] [ ファイルーズ・アッ=ダイラミー(ュ/ィ) ](ファイルーズ・アッ=ダイラミー)のように、大昔はしばしば男性名として使われていた。
現代アラブ世界ではレバノン出身の有名女性歌手の名前として認知度が非常に高い人名で、「ファイルーズ」と聞くと真っ先に彼女のことを思い浮かべるアラブ人も多い。本来のターコイズ(トルコ石)としての意味を知らず芸能人のファイルーズにあやかって命名する人も少なくないという。(なおエジプトにはかつて同名のエジプト子役出身名女優もいた。)
■発音と表記■
アラブ人名における長母音「ū(ウー)」には複数通りの当て字があり、uu、u、oo、ouなどが存在する。ファイルーズという文語アラビア語発音についてはFayruuz、Fayruz、Fayrooz、Fayrouz、Fairuuz、Fairuz、Fairooz、Fairouzといった表記バリエーションが生じる。
-ay-部分はアラビア語では二重母音-ai-を表すため英字表記も-ay-つづりと-ai-つづりの両方が見られる。アラビア語文語の二重母音「ay(=ai)」部分は日常会話・口語ではei(エイ)もしくはē(エー)音になることが一般的で、フェイルーズに対応したFeyruuz、Feyruz、Feyrooz、Feyrouz、Feiruuz、Feiruz、Feirooz、Feirouz、フェールーズに対応したFeeruuz、Feeruz、Feerooz、Feerouz、そして2個連なって「ē(エー)」を表している部分を1文字に減らしたとFeruuz、Feruz、Ferooz、Ferouzいった英字表記が派生、使われ得る。
FeeからFeに減らされた部分を「フェ」、アラブ人名でウかウーになるouを「オウ」とし、Feruzをフェルッズ、フェルズ、Ferouzをフェロウズのようにカタカナ化しないよう要注意。
Fawz、Fauz
勝利
【大昔からある女性名。】
【二重母音aw/auが口語的にオウやオーに転じたフォウズ、フォーズに対応した英字表記はFowz、Fouz、Fooz、Foz。】
Fawziiya、Fawziiya、Fawziya、Fawziyah、Fauziiya、Fauziiyah、Fauziya、Fauziyah
勝利の、勝利して
【 動名詞 فَوْزٌ [ fawz/fauz ] [ ファウズ ](勝利)をニスバ形容詞化した فَوْزِيَّ [ fawzī(y)/fauzī(y) ] [ ファウズィー(ュ/ィ) ] に ة(ター・マルブータ)をつけて女性形にしたもの。】
母音記号あり:فَجْر [ fajr ] [ ファジュル(実際にはファジルに近く聞こえることも) ] ♪発音を聴く♪
Fajr
夜明け、暁、朝の光;物事の始まり、最初
■意味と概要■
男性名・女性名の両方として使用可能な名詞。ただしアラブ人名としての割合では男性の名前として使われることが多い。
ちなみにネットで流布している「中東によくある男性名アスランはアラビア語で夜明け・暁という意味」は誤り。アラビア語で「夜明け、暁」という意味の代表的人名がこのファジュルとなっている。中東系の男性名アスランは元々 أَصْلَان [ ’aṣlān ] [ アスラーン ] と後半が長く伸びる長母音を含んでいるがそれが日本語カタカナ表記化される時点で「ー」の取れたアスランになったもの。アラビア語ではなくテュルク系言語が由来でオスマン語・トルコ語圏などで使われてきた。意味は「獅子、ライオン」だが、姉妹語・変形元の أَرْسَلَان [ ’arsalān ] [ アルサラーン ] (アルスラーンと英字表記が当ててあることも多い)に比べるとアラブ世界にはあまり定着しておらず「トルコ人の名前」という扱いが強め。
■発音と表記■
文語アラビア語(フスハー)では ج(j)部分には母音がついていない子音だけの語形 فَجْر [ fajr ] [ ファジュル / ファジル ] だが、このような語形は口語アラビア語(アーンミーヤ、≒方言)では母音挿入によりjとrの間に母音iなどが追加されやすい。そのためファジル、ファジェルと聞こえるような発音に対応したFajir、Fajerといった英字表記も使われている。母音uが追加されたファジュル発音に対応したFajur、その母音uが口語的な変化でo寄りになったファジョルに近い発音に対応したFajorなども見られる。
Fatiima、Fatiimah、Fatima、Fatimah、Fateema、Fateemah
乳離れした、離乳した(乳児)
[ 有名なアラブ女性名 فَاطِمَة [ faṭima(h) ] [ ファーティマ ] と同じ語根だが語形が異なる。ファーティマの方は能動分詞で我が子を離乳させた母親を指す。一方ファティーマは受動分詞の一種で母親によって離乳させられた子供の方を指す。 ]
Fathiiya、Fathiya、Fathya、Fatheeya、Fathiiyah、Fathiyah、Fathyah、Fatheeyahなど
勝利の(→勝者)、征服の(→征服者)
[ 男性名 فَتْحِيّ [ fatḥī(y) ] ] [ ファトヒー ] の女性形。ファトヒーは名詞 فَتْح [ fatḥ ] [ ファトフ ](開くこと;始まり;征服、勝利;春の雨の降り始め、一番雨;アッラーにより与えられる糧;泉などから流れる水、川)のニスバ形容詞。ファトフはイスラーム軍による征服戦争で各地をイスラーム化し開城させた時の勝利を指すなどする。]
[ シリア・レバノン方言などではファトヒーイェ(ファトヒーエ)のような発音になることが多い。それにより派生した英字表記はFathiiye、Fathiye、Fathye、Fathiiyeh、Fathiyeh、Fathyehなど。語末にyを入れないFathia、FatheaそしてFathiie、Fathie、Fathyeといったつづりもある。]
母音記号あり:فَنَن [ fanan ] [ ファナン ] ♪発音を聴く♪
Fanan
(柔らかくしなやかでまっすぐな、すっとまっすぐに伸びている柔らかな)枝、木の枝;髪の束、一房の髪
木の幹から伸びる枝のこと。クルアーン(コーラン)第55章第48節にはこの名詞が複数形 أَفْنَان [ ’afnān ] [ アフナーン ](木の枝々、樹枝)として登場、神の恩恵として天国の楽園で実をたっぷりつけている様子が表現されている。人名辞典には「柔らかでしなやかな枝」のような修飾語がついていることもあるが、アラビア語辞典では単に「(木の幹から分岐した)枝、まっすぐな枝」程度の記述になっているのが一般的。また木の枝のように長く伸びてしなやかな様子から詩などで髪の束の形容としても使われ得る。
母音記号あり:فَرَح [ faraḥ ] [ ファラフ ] ♪発音を聴く♪
喜び
【英語風に読んでファラー、ファラとするのはアラビア語としては読み間違いに当たる。学術的なカタカナ表記ではファラフとするのが標準的だが、語末の文字は日本語のフ(f)と違い唇付近ではなく喉のところで発音すること、日常会話での発音に近いことなどからファラハとカタカナ表記している場合もある。】
Fariiza、Fariizah、Fariza、Farizah、Fareeza、Fareezahなど
大変際立っている、選りすぐりの
[ 形容詞 فَرِيز [ farīz ] [ ファリーズ ] の女性形。同様の語形で فَرِيز [ farīz ] [ ファリーズ ](カーブ)という語があるためアラビア語-英語人名辞典には「カーブ」となっていることもあるが、アラブ人向けの人名辞典にはいずれも上記の意味で掲載されている。ちなみに元になった動詞 فَرَزَ [ faraza ] [ ファラザ ] は「~を分類する」「~を選別する」という意味があり、ファリーザで「選び抜かれた」という受け身的意味になっている。]
母音記号あり:فَرِيدَة [ farīda(h) ] [ ファリーダ ] ♪発音を聴く♪
Fariida、Fariidah、Farida、Faridah、Fareeda、Fareedahなど
宝石;一点物の宝石、一粒の宝玉;首飾りで金や真珠の粒を区切るために入れる玉・部品、首飾りの真ん中に入れる部品;無比の、比類無い、ユニークな
■意味と概要■
古くからある女性名。男性名でもある名詞・形容詞 فَرِيد [ farīd ] [ ファリード] の女性形。男性形であるファリードには「1人、1個」「孤独な、単独の(者)」「独特な、特異な、ユニークな(者)」「比類無き、唯一の(者)」「首飾りなどの金や真珠を区切る銀などでできた珠・粒」「他の珠・粒で区切られた首飾りなどの真珠粒」「(他の物と混ざらないよう単独で入れ物で保管されている)高価な宝石」といった意味があり、ファリーダも同様の意味合いとなっている。
宝石であるPeridot(ペリドット、橄攬石、カンラン石)の語源とされるのはこの単語。ネット記事ではアラビア語の「Faridat(ファリダット)」と書かれていることがあるが、アラビア語ではファリダットという読み方はされずファリーダと発音されるためFaridatという英字表記は用いられない。(Faridatのようにtを含めた英字表記は非アラビア語圏におけるアラビア語由来女性名詞語末のつづり方。)
■発音と表記■
アラビア語の文語だとこの人名を単体で発音する時は فَرِيدَة [ farīdah ] の最後の子音「h」(ワクフと呼ばれる休止形発音なので「t」とはしない)をほんのり聞こえる軽い発音で出すため、厳密には耳を澄ませて聞くと [ ファリーダフ ] と [ ファリーダハ ] の中間のような読まれ方をする。しかし現代文語会話や口語(方言)だと ة の休止形(ワクフ)発音である ه [ h ] が落ちてしまい手前の-aまでしか読まなくなっているので、日本では学術的な表記でもFariidah、Faridahと表記してあるものをファリーダフ、ファリーダハとはせずファリーダと書くのが標準ルールとなっている。
母音記号あり:فِضَّة [ fiḍḍa(h) ] [ フィッダ ] ♪発音を聴く♪
Fidda、Fiddah
銀、シルバー
【 農村部いわゆる田舎に多い女性名だとのこと。銀の白さを女性の肌色として好まれる色白、銀の輝きや価値の高さをその子の大切さ・重要さと結びつけた命名。】
【 方言や非アラビア語地域での発音置き換わりのためフィッザという読みに対応したFizza、Fizzahという英字表記が多用されている。また2個連なっているddをdに減らしたFida、Fidah、d部分をdhに置き換えたFidha、Fidhahなども全部同じ人名。】
母音記号あり:فِرْيَال [ firyāl ] [ フィルヤール ] ♪発音を聴く♪
Firyal、Firyaal
首が綺麗な美人、美しい首をした佳人、首が美しい女性、艷やかな美人
■意味と概要■
ペルシア語の女性名。完全にアラビア語化した単語とはみなされていないためアラビア語大辞典にも収録されておらず、アラブ人名辞典によっては掲載されていなかったり「非アラブ人名」とのみ記載されていたりすることも。そのためアラブ人名というよりはペルシア人名扱いされる傾向が強めで、アラブ女性名としてはマイナーな部類に入りSNS情報等によるとフィルヤールさんが全然いない国もあるという。
元々のペルシア語では [ faryāl ] [ ファルヤール ] という語形だったがアラビア語化した際に母音がaからiに置き換わり [ firyāl ] [ フィルヤール ] になったという。元は ペルシア語の2単語 فر(素晴らしさ、splendor)と يال(首、neck)の2パーツから成る複合名で、「素晴らしい首の女性、いい首をした女性」すなわち「首が美しく艷やかな女性・美人」を表す。(注:現代イランにも通じるペルシア美人の条件の一つが「首が長い」だったりと、首は中東における美の重要なポイント。フィルヤールの首が綺麗というのは単に小綺麗だったり見てドキッとする艶っぽさがあるというだけではなく「長くて美しい」という含意を持つ。)
■発音と表記■
英字表記FiryalやFiryalのFir部分はアラビア語の「フィル」という発音を表し、r部分は舌で上の前歯の裏の歯茎をたたく「はじき音」となる。そのためアラビア語としては英語のようなそり舌のファーヤール、フィアヤール、フィヤールとは読まないのでカタカナ化の際には要注意。またfir/yālと区切るので違う場所のfi/ryālで区切ってフィリャール、フィリャルとはしない。
英語のenableのようにeとつづってイと読むケース、もしくは口語的にiがeに転じたフェルヤール寄りの発音に対応した英字表記はFeryal、Feryaal。
またトルコ語系の発音がフェルヤルであることから、Feryalのような英字表記はトルコ人女性ないしはトルコ語の系統の言語の地域が話されている女性の名前であることも多い。ペルシア語圏であるイラン、ウルドゥー語圏であるパキスタンについては語源となったペルシア語のファルヤール系発音だとのことで、Faryal表記に。
rの後に母音iが追加されたフィリヤールやフェリヤールに対応したFiriyaal、Firiyal、Feriyaal、Feriyal、さらにはyを抜いたFirial、Ferialといった英字表記が派生しうる。
日本語カタカナ表記で考えられるこの人名の発音/表記揺れパターンとしてはフィルヤール、フィルヤル、フィリヤール、フィリヤル、フィリアール、フィリアルなどが考えられる。
ちなみに日本の競走馬で馬名意味が「アラビア語で「首の綺麗な女性」という意味の人名より」と紹介されているフィヤール号の名前はこれが由来。ただ実際のアラビア語ではフィルヤールと読みフィヤールとは発音しないことから、Firyalのirをアラビア語などのように舌ではじく発音をしないそり舌風の英語読みがフィヤールに近く聞こえるといった何らかの事情でルが脱落したフィヤールで馬名登録が行われたものと推察される。
アラビア語で فِيَال [ fiyāl ] [ フィヤール ] ないしは فِئَال [ fi’āl ] [ フィアール ] は砂・土の中に物(棒切れや枝など)を埋めてそれがどの砂山に入っているかを当てるアラブの伝統的なゲームの名称に当たる。フィアール(フィヤール)は現代では子供が外で行う砂遊びというイメージだが、イスラーム以前のジャーヒリーヤ時代までさかのぼると大人たちの賭博としても行われていたといい、日本語書籍としては法政大学出版局『賭博 II: 外国篇』でも言及がある。
Hurriyyah、Hurriyya、Hurriyah、Hurriya
自由
【 誰かに隷属したり何かに束縛・拘束されたりすること無く自由であることを意味する。自分の意志で行動でき、決定できる立場にあること。】
【 アラビア語の文語だとこの人名を単体で発音する時は حُرِّيَّة [ ḥurrīya(h) ] の最後の子音「h」(ワクフと呼ばれる休止形発音なので「t」とはしない)をほんのり聞こえる軽い発音で出すため、厳密には耳を澄ませて聞くと [ フッリーヤフ ] と [ フッリーヤハ ] の中間のような読まれ方をする。
しかし現代文語会話や口語(方言)だと ة の休止形(ワクフ)発音である ه [ h ] が落ちてしまい手前の-aまでしか読まなくなっているので、日本では学術的な表記でもHurriyyah、Hurriyahと表記してあるものをフッリーヤフ、フッリーヤハとはせずフッリーヤと書くのが標準ルールとなっている。
語末についている ة(ター・マルブータ)は発音方法によって ت [ t ] 音で読むこともあるが、文語の語末母音まで全部読み切る読み方では حُرِّيَّة [ ḥurrīyatu ] [ フッリーヤトゥ ] になるものの文法学習といった特定の場面でしか聞かれず、現代の文語(フスハー)会話や口語(方言)は後ろから属格支配(≒所有格支配)と受けた時のみ黙字扱いせず ت [ t ] 音で読むことが広く行われている。
一部方言の口語風発音は語末の-a(h)部分が-e(h)に転じたフッリーエ(フッリーイェ)で、対応する英字表記はHurriyyeh、Hurriyye、Hurriyeh、Hurriye等。この場合アラビア語としてはh部分に何らかのカタカナを当てるようなフッリーヤフ、フッリーヤー、フッリーエフ、フッリーエー等とはカタカナ表記しない。
長母音ī(イー)をee2文字で表現したHurreeyah、Hurreeyaはまれだが、e1文字に減らされたHurreyah、Hurreyaはそれなりに使われている模様。
またuが口語的にoに転じた発音ホッリーヤもしくはより口語的な発音ホッレーヤ、ホッレイヤ等に対応した英字表記としてはHorriyyah、Horriyya、Horriyah、Horriya、Horreyyah、Horreyya、Horreyah、Horreyaなどがある。
さらにはyを抜いて-iaに置き換えたHurriah、Hurriaはフッリーヤ、Horriah、Horriaはホッリーヤ由来。-eaに置き換えたHurreah、HurreaそしてHorreah、Horreaも同様。】
(いくつもの、複数の)満月
【 アラビア半島湾岸地方やベドウィンの女性に多い名前。男性名に使われる بَدْر [ badr ] [ バドル(バドゥルに近く聞こえることも) ](満月)の複数形。男性名と同じバドルを女性名としても使う例もある/過去にはあったが、こちらの複数形はもっぱら女性名として使われる。複数形にすることで単数形が示す美しさ・美貌ぶりを強調・誇張する意味合いがあるという。】
【 口語風にuがoに転じボドゥールに近くなった発音に対応したBoduur、Bodur、Bodoor、Bodour、Bodorといった英字表記が派生し得る。】
Furaat、Furat
ユーフラテス川;海;淡水
[ クルアーンには淡水(「非常に甘い水」)として出てくる語。人名辞典では女性名と書かれているのが普通だがイラクではしばしば男児に名付けられる。]
[ مَال(māl、マール)=金、富、資産、財産 を後ろから اَلشَّام(’ash-shām、アッ=シャーム)=シャームの地(シリア、レバノン、パレスチナ、ヨルダン)という別の名詞が属格(所有格)支配してできた複合名。レバント(レヴァント)地域の女児につけることがある。 ]
雌の小猿;小ガゼル[ ガゼルはアラブ世界では昔から美人の代名詞。 ]
[ つづり上はyを2個重ねたmayyで発音はマイイもしくはマイイだが、実際にはマイに近く聞こえることも多い。英字表記としてはMay、Maiなどがある。 ]
Mays al-Rim、Mais al-Rim、Mays al-Reem、Mais al-Reem、Maisulreemなど
カモシカの闊歩、カモシカの誇らしげな歩み;カモシカの榎(えのき、エノキ)
【 مَيْس(mays/mais、マイス)は誇らしげに動く・歩くさま、闊歩するさま、体を揺する動作やゆらゆらと歩むさまを意味する動名詞。もしくは木の種類であるエノキ(榎)。それを後ろから名詞 ريم(rīm、リーム)=カモシカ、レイヨウ が属格(所有格)支配した複合名。比較的新しい女性名だがかわいらしいとのことで一定の人気を得ている。
アラブ歌唱界のレジェンドでもあるファイルーズが主演したレバノンの歌劇作品(1975年上演)の題名、ならびに劇中歌の題名としても知られる。同劇でマイス・アッ=リームは舞台となる村の名前として登場。レバノンに実際にある2つの地名
・مَيْس الْجَبَلِ [ maysu/maisu-l-jabal ] [ マイス・ル=ジャバル(口語発音はメイス・ル=ジャバル、メース・ル=ジャバル) ](マイス・アル=ジャバル/メイス・アル=ジャバル。意味は「山のエノキ」。パレスチナに近い村で、マイス(メイス、メース)は同地に多く生えているエノキ(榎、hackberry)が由来だとか。)
・قَاع الرِّيمِ [ qā‘u-r-rīm ] [ カーウ・ッ=リーム(口語風発音はカーア・ッ=リーム) ](カーウ・アッ=リーム/カーア・アッ=リーム。意味は「カモシカの川底」だと思われる。البردوني [ アル=バラダウニー ] 川が流れる山あいの地域で豊かな水資源を活かしたミネラルウォーター生産やサクランボなどの果樹栽培が盛ん。
からそれぞれ1語目と2語目を取ってきて組み合わせた架空ながらいかにもありそうな感じのネーミングにしたものだという。】
幸運な、神に祝福された
[ 預言者ムハンマドの一番最後の妻の名前としても有名。 ]
(真っ白に強く輝く)真珠;バナナ
[ アラビア半島の湾岸地域に多い女性名。通常はインド系原語からの外来語とされる مَوْز(mawz/mauz、マウズ)=バナナ の1本分という意味を思い浮かべるが、湾岸地域では強い輝きを放つ大粒の高級真珠のことを指すという。口語では真珠の種類を指す時にはz部分がシャッダのついたzzという重子音になる(موزَّه)そうだが、色・丸み・大きさにおいて通常の真珠とは明らかに違う良質で非常に高値がつくものをそう呼ぶのだとか。しかし真珠という意味は特に無くバナナの実のようにスラリとした様を女性のしなやかな容姿に例えたのだろうという解釈もある模様。 ]
[ 二重母音aw/au部分がオウ、オーに転じた場合の発音はモウザ、モーザ。対応する英字表記はMowza、Mowzah、Moza、Mozah、Mooza、Moozah。 ]
母音記号あり:مَكَّة [ makka(h) ] [ マッカ ] ♪発音を聴く♪
Makka、Makkah
■意味と概要■
イスラームの聖地であり現サウジアラビアにある地名マッカ(メッカ)のこと。宗教家らが「悪くはないがわざわざ命名する必要が?」とコメントするなど賛否両論はあるらしいものの、近年エジプト他で女児ネームランキング入りするなどアラブ地域で人気のある名前となっている。意味をなさないキラキラネームとは違うが、アラブの伝統的な女性名とは違い珍奇であるためアラビア語によるアラブ人名辞典にも載っていないことが多い。キャラクターネーミングの際は現代アラブ人女子以外に命名しないことを推奨。
レイヨウ [ 目美人の意。マハーは北アフリカ周辺にいるアダックス、ウシ科レイヨウ、アンテロープのことで、うるうると輝く大きな目が美人の形容に用いられてきた。];輝く白い真珠・石 [ 白い真珠のように色白な美人という意味。]
[ カタカナ表記では長母音復元しないマハというカタカナ表記も多い。 ]
天使
[ イスラームでは天使に性別が無いこと、また色々な法学的な見地から女児に天使の名前をつけることは避けるべきと言われているので要注意。サウジアラビアはこのマラーク、大天使であるジブリールといった名前の命名禁止を通達している。]
天使
[ イスラームでは天使に性別が無いこと、また色々な法学的な見地から女児に天使の名前をつけることは避けるべきと言われているので要注意。サウジアラビアはマラクと同じ天使という意味のマラーク、大天使であるジブリールといった名前の命名禁止を通達している。]
女王;王妃
[ مَلِك [ malik ] [ マリク ]=王 の女性形。王族が支配しているサウジアラビア王国ではこの名前の命名に対して禁止勧告が出ている。]
母音記号あり:مَرْجَانَة [ marjāna(h) ] [ マルジャーナ ] ♪発音を聴く♪
Marjaana、Marjaanah、Marjana、Marjanah
(1粒の小さな)真珠;(1かけらの、1個の小さな)珊瑚
■意味と概要■
イスラーム以前の時代にアラビア語化された外来語だとされる集合名詞 مَرْجَان [ marjān ] [ マルジャーン ](アラブ圏では基本的に男性名扱い)に集合名詞の単数化機能を持つ ة(ター・マルブータ)を付加して「1つの、1個の」というニュアンスを添えた語形。مُرْجَانَة [ murjāna(h) ] [ ムルジャーナ ] の発音違いで全く同じ語の発音バリエーション違いとして扱われる。
このマルジャーナ(ないしは発音違いのムルジャーナ)は昔から奴隷女性、奴隷で歌姫でもあった女性たちにつけられる典型的な名前の一つだった。また、真珠は色白な美人であることを連想させる名詞でもある。
■発音と表記■
口語的に母音aがeに転じたメルジャーナに対応した英字表記はMerjaana、Merjaanah、Merjana、Merjanahなど。
エジプト方言のようにjの発音がgに置き換わる地域でのマルガーナという読みに対応した英字表記としてMargaana、Margaanah、Margana、Marganah、加えて口語的に母音aがeに転じたメルガーナに対応した英字表記としてMergaana、Mergaanah、Mergana、Merganahが使われ得る。
欧米ではアラブ人名や中東系・イスラーム系人名として「ジャ」の部分を-ia-で当て字した表記も流通しており、アラビア語でのマルジャーナに対応したMarjianah、Marjiana、マルジャーナないしはマルガーナに対応したMargianah、Margiana、メルジャーナに対応したMerjianah、Merjiana、メルジャーナないしはメルガーナに対応したMergianah、Mergianaといった英字表記が存在。日本語カタカナ表記としてマルジアナ、マルギアナ、メルジアナ、メルギアナ等が生じる原因ともなっている。
なお語末の「-ah」は日常会話アラビア語では読まないので、アラビア語としてカタカナ化する場合はマルジャーナフとしたり、英語風に伸ばしてマルジャーナーとしないよう要注意。
マリア
[ イスラームにおける預言者イーサー(イエス)の母の名前。ヘブライ語のミリヤム、ミリャームより。]
[ 英字表記ではMariamなどと書かれていることもある。 ]
Minnat Allah、Minnatullah、Minna Allah、Minnah Allah
アッラーからの贈り物・慈悲・恩恵
【 属格(≒所有格)構文なので学術的な英字表記だとMinnatという風にMinnaの語末に「t」を添えるが、単なるイスラーム女性ネームとしては英字表記する場合にtを抜くMinna Allahなども見られる。最後の「h」は文語の語末母音まで全部発音する方法だとはっきり「ヒ」になり [ minnatu-llāhi ] [ ミンナトゥ・ッラーヒ ] と読まれるが、通常は文語でも口語でも母音iは落とすためミンナトゥッラーハのハ部分をほぼ聞こえないようにしたような発音となる。口語風にiがeに転じてメンナトゥッラー寄りになった場合の英字表記はMennat Allah、Mennatullah、Menna Allah、Mennah Allahなど。】
望み、希望
[ مُنْيَةの複数形。口語的な発音ではuがoに転じてモナーに近くなったり、語末の長母音が短めになってモナに近く聞こえることもある。そこから派生した英字表記はMonaa、Mona。]
母音記号あり:مُرْجَانَة [ murjāna(h) ] [ ムルジャーナ ] ♪発音を聴く♪
Murjaana、Murjaanah、Murjana、Murjanah
(1粒の小さな)真珠;(1かけらの、1個の小さな)珊瑚
■意味と概要■
イスラーム以前の時代にアラビア語化された外来語だとされる集合名詞 مُرْجَان [ murjān ] [ ムルジャーン ](アラブ圏では基本的に男性名扱い)に集合名詞の単数化機能を持つ ة(ター・マルブータ)を付加して「1つの、1個の」というニュアンスを添えた語形。مَرْجَانَة [ marjāna(h) ] [ マルジャーナ ] の発音違いで全く同じ語の発音バリエーション違いとして扱われる。
このムルジャーナ(ないしは発音違いでムルジャーナよりも標準的発音であると扱われているマルジャーナ)は昔から奴隷女性、奴隷で歌姫でもあった女性たちにつけられる典型的な名前の一つだった。また、真珠は色白な美人であることを連想させる名詞でもある。
■発音と表記■
口語的に母音uがoに転じたモルジャーナに対応した英字表記はMorjaana、Morjaanah、Morjana、Morjanahなど。
エジプト方言のようにjの発音がgに置き換わる地域でのムルガーナという読みに対応した英字表記としてMurgaana、Murgaanah、Murgana、Murganah、加えて口語的に母音uがoに転じたモルガーナに対応した英字表記としてMorgaana、Morgaanah、Morgana、Morganahが使われ得る。
欧米ではアラブ人名や中東系・イスラーム系人名として「ジャ」の部分を-ia-で当て字した表記も流通しており、アラビア語でのムルジャーナに対応したMurjianah、Murjiana、ムルジャーナないしはムルガーナに対応したMurgianah、Murgiana、モルジャーナに対応したMorjianah、Morjiana、モルジャーナないしはモルガーナに対応したMorgianah、Morgianaといった英字表記が存在。日本語カタカナ表記としてムルジアナ、ムルギアナ、モルジアナ、モルギアナ等が生じる原因ともなっている。
なお語末の「-ah」は日常会話アラビア語では読まないので、アラビア語としてカタカナ化する場合はムルジャーナフとしたり、英語風に伸ばしてムルジャーナーとしないよう要注意。
Yaaquut、Yaqut、Yaqout
コランダム(鋼玉)
[ ギリシア語起源でペルシア語を経由して入ってきた外来語で、クルアーンにも登場する名詞である。人名辞典には男性名としてのみ掲載されるなどしているが、女児にもつけることは可能。コランダムは酸化アルミニウムからなる鉱石で、宝石としてはルビー、サファイヤなどがある。 この名前を持つ有名人としては地理学者ヤークート・アル=ハマウィーなど。彼はビザンツ帝国生まれで幼少期に奴隷となり、シリア ハマーの商人アスカル・アル=ハマウィーに買われた。アル=ハマウィーというニスバは彼に由来。中世のアラブ世界では(解放)奴隷に貴石の名前をつけることが多く、ヤークートもその一例。]
[ 人名表記よくあるパターンで、qがkで書かれYakut、Yakoutと英字表記されていることも。 ]
Yaasamiina、Yaasamiinah、Yasamina、Yasaminah
(1つの、1輪の)ジャスミン
【 ギリシア語もしくはペルシア語由来などとされている外来語。種類としてのジャスミン・樹木・集合名詞的に花を指すيَاسَمِين [ yāsamīn ] [ ヤーサミーン ] の語尾に集合名詞のうちの単数・単体・1個だけを示す機能を持つ ـة(ター・マルブータ)をつけ、語末の発音を-ミーンから-ミーナに変えた語形。具体的にはジャスミンの花1個を意味。 】
母音記号あり:يَاسَمِين [ yāsamīn ] [ ヤーサミーン ] ♪発音を聴く♪
Yasamin、Yaasamiin、Yasameenなど
ジャスミン
■意味と概要■
種類としてのジャスミン・樹木・集合名詞的に花を指す。花のうちの一つ・一輪については語尾に ـة(ター・マルブータ)をつけ語末の発音をーンからーナに変えた يَاسَمِينَة [ yāsamīna(h) ] [ ヤーサミーナ ] という語形がある。
ヤーサミーン自体は純粋なアラビア語の単語ではなく、元はギリシア語もしくはペルシア語由来などとされている外来語。一般的にはペルシア語由来と説明されており中期ペルシア語(パフラヴィー語)辞典『A concise Pahlavi dictionary』(Oxford University Press刊)には「yāsaman」(ヤーサマン)がジャスミンを意味する語だったとの記載あり。アラビア語圏ではそれまで他のセム系言語からの輸入語である سَمْسَق [ samsaq ] [ サムサク ] がジャスミンを意味する語として使われていたが、ペルシア語の ياسم [ yāsim/yāsam ] [ ヤースィム/ヤーサム ](ジャスミン)が入ったことによりそのままの形の يَاسِم [ yāsim ] [ ヤースィム ] を「(単数の)ジャスミン」という意味で用いるようになった。
そこに男性規則複数の語尾 ـون や ـين がくっついて يَاسِمُون [ yāsimūn ] [ ヤースィムーン ] もしくは يَاسَمُون [ yāsamūn ] [ ヤーサムーン ]、يَاسِمِين [ yāsimīn ] [ ヤースィミーン ] もしくは يَاسَمِين [ yāsamīn ] [ ヤーサミーン ] という語形が作られた。現代で用いられているヤーサミーンという語は中世で生まれたそうした語形が残ったものだという。
男性名 يَاسِم [ yāsim ] [ ヤースィム ](ジャスミン)や 女性名 يَاسِمَة [ yāsima(h) ] [ ヤースィマ ](1つの・1輪のジャスミン)はそうした複数形語尾がついていない状態のまま人名として現代でも依然として命名に使われることがある。
なおヤーサミーンの語源に関し、海外の植物紹介や名前辞典サイトには「ペルシア語でgift from God、God’s gift(=神様からの贈り物)といった語源を持つ」「アラビア語で神様の贈り物という意味」「アラビア語で楽園の花という意味」などと書かれていることが多いが、アラビア語大辞典やペルシア語辞典類にそういった記述は見当たらず、ジャスミンの花の二つ名・あだ名の類が語源と混同された結果である可能性も高いいため、引用の際は要注意だと思われる。
■発音と表記■
sを2個連ねたYassamin、Yassameenといったつづりも多用されているが、フランス語圏で-s-が濁点化するのを防ぐといった理由から用いられている便宜的な当て字なので、ヤッサミーン、ヤッサミンと発音することは意図していないので要注意。
また口語辞書には يَاسْمِين [ yāsmīn ] [ ヤースミーン ] というsの後に母音aが付加されない発音で載っていることが多い。その場合の英字表記はYasmiin、Yasmin、Yasmeen、Yassmiin、Yassmin、Yassmeenなど。
日本語カタカナカタカナ表記としてはヤーサミーン、ヤサミーン、ヤーサミン、ヤサミン、ヤースミーン、ヤスミーン、ヤースミン、ヤスミンなどが使われている。
Yasamin al-Sham、Yassamin al-Shamなど
シャームのジャスミン
[ 花の名前のジャスミンを意味する يَاسَمِين(yāsamīn、ヤーサミーン)を後ろから اَلشَّام(’ash-shām、アッ=シャーム)=シャームの地(シリア、レバノン、パレスチナ、ヨルダン)という別の名詞が属格(所有格)支配してできた複合名。パレスチナで命名に用いられることがあると紹介されていた名前。 ]
Yusraa、Yusra
左の、左利きの;(より/最も)裕福な、豊かな;(より/最も)容易な
【 男性形 أَيْسَر [ ’aysar / ’aisar [ アイサル ](左の;(より/最も)裕福な、豊かな;(より/最も)容易な女性形。アラビア語ではこのような形容詞ならびに比較級・最上級は男性形と女性形とで語形が大きく異なる。アラビア語表記だと ى(アリフ・マクスーラ)ではない普通の ا(アリフ)を使って يسرا とつづられることもしばしばだが、يسرا の方が口語的。】
【 口語(方言)では語末の長母音が短くなって [ yusra ] [ ユスラ ] と聞こえることが多い。】
母音記号あり:رَانِيَة [ rāniya(h) ] [ ラーニヤ ] ♪発音を聴く♪
Raaniya、Raaniyah、Raniya、Raniyah
じっと見つめている(者)、凝視する(者)
【 動詞の動作主・行為主であることを示す能動分詞の女性形。愛しい相手をじっと見つめたり、あまりの美しさに瞬きも忘れて見入ることを意味する。】
【 日本語のカタカナ表記としてはラーニヤ、ラニヤ。また英字表記ではy抜いたRaniaとも書かれることもあるが同じ名前。yを抜いたRania表記由来のラーニア、ラニアというカタカナ表記も存在するが、元のアラビア語ではラーニヤと発音している。】
Raamaa、Rama
[ ヒンディー語由来。ラーマーヤナに登場するラーマ王子の名前から。元は男性名だったが女性名として現代アラブ世界の一部で人気が出たという。インドでは神の化身とされるためサウジアラビアでは命名禁止ネームリスト入りしており、法学者によってはイスラームの多神教・偶像崇拝の観点から改名も必要だという意見が出ている。 ]
芳香のある植物、香りの良い植物、香草(全般);シソ科ハーブのバジル、スイートバジル;(アッラーから報奨としてもたらされる)恩恵・賜物
Rayhaana、Raihaana、Rayhana、Raihana、Rayhaanah、Raihaanah、Rayhanah、Raihanahなど
【 男性名 رَيْحَان [ rayḥān/raiḥān ] [ ライハーン ] に ة(ター・マルブータ)をつけて女性名詞化したもの。ここでのター・マルブータは集合名詞の単数を示す用法でライハーンの1つ(1本・1輪など)を意味する。
クルアーンの中では、善きイスラーム教徒が死後に入ることのできる楽園(天国)とあわせて受けることのできるアッラーからの報奨のことを指している。解釈者によって何を指すかについてはかなり違いがあり、潤沢・豊富、満悦・充足、芳しい草、芳香、などと解釈の訳もまちまちである。別の章ではアッラーからもたらされる恩恵という意味でも使われている。】
【 ay/aiは二重母音で口語だとeiやēnに変わりやすい。レイハーナやレーハーナという発音に対応した英字表記はReyhana、Reihana、Reehana、Rehana、Reyhanah、Reihanah、Reehanah、Rehanahなど。
シリア・レバノン・ヨルダン・パレスチナ付近のレヴァント地方方言などでは語末の-a(h)が-e(h)の発音になりライハーネと読まれることが多い。これを受けた英字表記はRayhane、Raihane、Rayhaneh、Raihaneh。上記の口語的な英字表記も合わせたものがReyhane、Reihane、Reehane、Rehane、Reyhaneh、Reihaneh、Reehaneh、Rehanehなど。なお語末が-ehになるのはイラン・ペルシア語圏の女性名としての使用でも多く見られる。
またライの音をRiで表現したRihaana、Rihana、Rihane、Rihanehなどもあるが同じ人名である。
アラビア語の文語では本来この人名の語末で息継ぎをするか単独で読むかする時にはうっすら聞こえるhを発音してライハーナフと読む規則だったが、日常生活ではh部分は呼ばれずライハーナ、ライハーネなどと発音される。なのでライハーナフ、ライハーネフとカタカナ表記しないよう要注意。英語のようにアーを読むこともしないので純アラブな発音に即したカタカナ表記をする場合はライハーナーやライハーネーとしない。
n部分を本来の1個ではなく2個連ねて元々はライハーナとのみ読む人名をライハーンナに読めてしまうようなRayhanna、Rayhannah、Raihanna、Raihannahと英字表記してあることもあるがこれらも人名ライハーナを意図したものとなっている。
日本語のカタカナ表記では長母音を抜いたライハナ、ライハネなどと書かれていることが多い。】
母音記号あり:لَيْلَة [ layla(h) / laila(h) ] [ ライラ(フ/ハ) ] ♪発音を聴く♪
Layla、Laylah、Laila、Lailah
(一つの)夜、一夜
■意味■
夜を表す男性名詞 لَيْل [ layl / lail ] [ ライル ](夜)に女性化・集合名詞単数化機能を持つ ة (ター・マルブータ)を添えた女性名詞で、「(一つの)夜、一夜」を意味する。
ただしアラブ女性名として使われるのは非常にまれで、実在するアラブ人女性やイスラーム教徒女性、創作に多出する中東系女性キャラの生「ライラ」はこちらのライラではなく原語のアラビア語でライラーと発音する姉妹語の方。
アラブ系女性名のカタカナ表記でライラ、ライラーと書かれているものに関してはほぼ全て別の女性名 لَيْلَى [ laylā / lailā ] [ ライラー ] で、意味は
・(黒い)酒;酒の酩酊、酔い、酔い始め
・(太陰暦の月における下旬頃の、長く・最も真っ暗で・辛くて厳しい)夜
・(女性名詞 لَيْلَة [ layla(h) / laila(h) ] [ ライラ ]((一)夜)を修飾する形容詞として)月でも一番真っ暗で長い、月末で月が出ておらず真っ暗で厳しい
・(髪の毛などが)非常に濃い黒色、真っ黒な黒色(な娘→黒髪美人、黒目美人etc.)
だと考えた方が良い。アラブ系女性キャラクターの名前としてコピーペーストする場合は本項目の ليلة(ライラ)ではなく ليلى(ライラー)の方を使用するよう注意を要する。
夜を一夜、二夜と数える時は有名なアラブ女性名 لَيْلَى [ laylā / lailā ] [ ライラー ] の方ではなく、本項目の لَيْلَة [ layla(h) / laila(h) ] [ ライラ(フ/ハ) ] を用いる。千夜一夜物語(アラビアンナイト)のアラビア語名 أَلْفُ لَيْلَةٍ وَلَيْلَةٌ [ ’alf(u) layla(tin)/laila(tin) wa layla(h)/laila(h) ] [ アルフ・ライラ(ティン)・ワ・ライラ ](千の夜と一の夜、千夜一夜)のライラが代表例。題名が أَلْفُ لَيْلَةٍ وَلَيْلَةٌ [ ’alf(u) layla(tin)/laila(tin) wa layla(h)/laila(h) ] [ アルフ・ライラ(ティン)・ワ・ライラ ](千夜一夜、千の夜+夜1つ)という足し算で「千夜一夜」の意味を表すのは、アラビア語における数を数える際の独特の言い回し。このように千の後に100の位、10の位が0になっていて最後の1の位だけが1になっている場合は最初に「1000個の夜、一夜が1000個分」と数え上げ、最後に「1個の夜、一夜」という意味の名詞を改めて言い直す方法がある。
本項目の名詞「ライラ」と女性名としてポピュラーな名詞・形容詞「ライラー」は別々の単語なので、2語を並べ形容詞ライラーが名詞ライラを後ろから修飾(*アラビア語は「~な◯◯」という語順が日本語と逆)した لَيْلَةٌ لَيْلَى [ layla(tun)/laila(tun) laylā/lailā ] [ ライラ(トゥン)・ライラー ](真っ暗で厳しい夜)もしくはそのつづり違いである لَيْلَةٌ لَيْلَاءُ [ layla(tun)/laila(tun) laylā’/lailā’ ] [ ライラ(トゥン)・ライラー(ゥ/ッ) ](真っ暗で厳しい夜)という熟語も存在する。
そしてこの男性形を用いた総称的なバージョンは、男性名にもなっているライルを用いた لَيْلٌ أَلْيَلُ [ layl / lail ’alyal ] [ ライル・アルヤル ](真っ暗な夜、濃い闇夜)。「ライラ・ライラー」や「ライル・アルヤル」は電気が発明され電灯・街灯が存在する現代でも使われる表現で、デモや暴動などで停電し真っ暗になった闇夜の様子を表すのにも使われている。
■発音と英字表記■
لَيْلَة [ layla(h) / laila(h) ] [ ライラ(フ/ハ) ] はアラビア語の文語では [ laylah / lailah ] と最後にほんのり軽く「h(フ/ハ)」と聞こえるような発音をするためライラフ / ライラハに近い読まれ方をする。それは英字表記でLaylah、Lailahが見られる理由となっている。しかし現代アラビア語の日常会話では「h」は読まず黙字のような扱いに変わってしまっているため、この人名についてはライラが標準的なカタカナ表記となっており、ライラフ、ライラハのような日本語表記にはしない。
لَيْلَة [ layla(h) / laila(h) ] [ ライラ(フ/ハ) ] のay部分は二重母音なので実質的にはai(アイ)の発音となるため、Layla、LaylahとLaila、Lailahという2通りの英字表記が併存している。さらにこの二重母音部分は口語発音でei(エイ)やē(エー)になるためレイラ、レーラのように聞こえやすい。それらに対応した英字表記としてはLeyla、Leylah、Leila、Leilah、Leyla、Leela、Leelah、Lela、Lelah等が使われ得る。
また有名なアラブ女性名 لَيْلَى [ laylā / lailā ] [ ライラー ] は口語(方言)では語末の長母音が短母音化することが一般的で、ライラーではなくライラとなりがちである。耳で聞いただけでは本項目の لَيْلَة [ layla(h)/laila(h) ] [ ライラ ](一つの夜、一夜)と区別がつかなくなることも多く、英字表記がどちらもLayla、Lailaになるなどして両者を混同しやすい状況となっている。
■人名「ライラー」の意味・発音解説ブログ記事バージョンについて■
サンプル音声ファイルを多数加えてもう少し詳しく説明したブログ記事仕立てにした本項目解説の改訂版がサイト内記事【ゲーム作品アラブ系キャラ名考察『アイドルマスターシンデレラガールズ』ライラ編】の冒頭部分にあります。興味のある方はそちらもご参照ください。同ページではライラさん関連のアラビア語フレーズやあいさつの意味、ドバイで話されているアラビア語方言の種類、現地の人気女児名トップ10など色々な話題について管理人が(勝手に)語りつつまとめた考察風コンテンツとなっています。
Laylaa、Lailaa、Layla、Laila
(黒い)酒;酒の酩酊、酔い、酔い始め;(太陰暦の月における下旬頃の、長く・最も真っ暗で・辛くて厳しい)夜;(女性名詞 لَيْلَة [ layla(h) / laila(h) ] [ ライラ ]((一)夜)を修飾する形容詞として)月でも一番真っ暗で長い、月末で月が出ておらず真っ暗で厳しい;(髪の毛や瞳の色などが)非常に濃い黒色、真っ黒な黒色、漆黒、闇夜色
■意味や由来■
ライラーはイスラーム以前のジャーヒリーヤ時代からある古い女性名。アラビア語で書かれた専門書によると、
・アラブ人が好む美しい黒髪を持つ素敵な美人に育ちますようにとの願いを込めて
・本人の髪の毛、目(瞳)、その他の部位に真っ黒なパーツがあったから
女の赤ちゃんに命名したのが始まりだったのではないか、とのこと。
大昔から恋愛詩などにおいてしばしば美人や恋する相手女性の名前がライラーであるなどした。『مَجْنُونُ لَيْلَى』[ majnūn(u) laylā/lailā ] [ マジュヌーン・ライラー ](ライラーとマジュヌーン。日本ではライラとマジュヌーンとの表記多し。)で青年 قَيْس [ qays/qais ] [ カイス ] がその狂おしい愛を捧げた挙げ句その狂気じみた愛ゆえにマジュヌーン(狂人)と呼ばれるに至った相手の女性の名前がこのライラー。
アラビア語では夜を意味するライル(総称としての「夜」)、ライラ(単数としての「夜」。総称であるライルの1つ分、つまり「一夜」)、ライラーはメソポタミアのリリートゥやユダヤ社会におけるリリスの概念を引き継いだ語根とされ、セム語で続いてきた闇のイメージを継承したものとなっているとされる。イスラーム以前のジャーヒリーヤ時代から多用されていた女性名のひとつだが、現代においては夜という意味の他にも外国語風の響きを持つおしゃれでかわいい名前としても好まれている。
■女性名ライラーと千夜一夜物語アラビア語名のライラとの違い■
日本語では長母音無しのライラとカタカナ表記されていることが多いが、ライラーは同じ「夜」でも通常使われる لَيْل [ layl/lail ] [ ライル ](単なる昼の反対としての夜)ならびにその単数である لَيْلَة [ layla(h)/laila(h) ] [ ライラ ](一つの夜、一夜)とはまた別の語・つづり。
語末が長母音になっているこの女性名 لَيْلَى [ laylā/lailā ] [ ライラー ] の方は「月の光に恵まれないので(月の満ち欠けに基づいた太陰暦の)1ヶ月の間で最も暗く・長く・厳しい夜」を意味する別の単語である。
アラビアンナイトのアラビア語名 أَلْفُ لَيْلَةٍ وَلَيْلَةٌ [ ’alf(u) layla(tin)/laila(tin) wa layla(h)/laila(h) ] [ アルフ・ライラ(ティン)・ワ・ライラ ](千の夜と一の夜、千夜一夜)のライラとこの女性名ライラー(ライラ)は日本語カタカナ表記にするとほぼ同じで区別がつかないが、別の単語。
題名が أَلْفُ لَيْلَةٍ وَلَيْلَةٌ [ ’alf(u) layla(tin)/laila(tin) wa layla(h)/laila(h) ] [ アルフ・ライラ(ティン)・ワ・ライラ ](千夜一夜、千の夜+夜1つ)という足し算で「千夜一夜」の意味を表すのは、アラビア語における数を数える際の独特の言い回し。このように千の後に100の位、10の位が0になっていて最後の1の位だけが1になっている場合は最初に「1000個の夜、一夜が1000個分」と数え上げ、最後に「1個の夜、一夜」という意味の名詞を改めて言い直す方法がある。
日本では「女性名のライラ(ライラー)はアラビアンナイトのアラビア語題名のライラだ」という誤解が流布しているが、千夜一夜という熟語では「1個の夜」という夜の個数のカウントに用いるのは女性名詞 لَيْلَة [ layla(h)/laila(h) ] [ ライラ ](1つの夜、一夜)であって、女性名として創作にも多用されている لَيْلَى [ laylā/lailā ] [ ライラー ] ではない。
これらは別々の単語なので、形容詞ライラーが名詞ライラを修飾した لَيْلَةٌ لَيْلَى [ layla(tun)/laila(tun) laylā/lailā ] [ ライラ(トゥン)・ライラー ](真っ暗で厳しい夜)もしくはそのつづり違いである لَيْلَةٌ لَيْلَاءُ [ layla(tun)/laila(tun) laylā’/lailā’ ] [ ライラ(トゥン)・ライラー(ゥ/ッ) ](真っ暗で厳しい夜)という熟語も存在する。そしてこの男性形を用いた総称的なバージョンは、男性名にもなっているライルを用いた لَيْلٌ أَلْيَلُ [ layl / lail ’alyal ] [ ライル・アルヤル ](真っ暗な夜、濃い闇夜)。
■女性名ライラーは真っ暗な夜から連想される美しい黒髪などと結びつく■
日本の創作物におけるネーミングでは明るい月夜や美しい月とセットのイメージが与えられがちで、あまねく照らす月明かりに照らされたイラストが描かれたりもしている。しかしアラビア語的には女性名ライラーは元来闇の象徴である黒色、月が見えない夜の方を指す語だった。
ライラーという名前については、「月が無い真っ暗な夜」→「漆黒の美しい黒髪」といった具合に女性が持つ美しい黒色とも結びついている。アラビア語では「夜」は黒髪の比喩として用いられる。アラブ世界では古くから肌色自体は色白が好まれてきたが、髪や唇など黒さが濃いことが美しさの基準になっているなどパーツによりその理想的な色合いに違いがある。
■女性名ライラーが持つ「(黒い)酒;酩酊」という古い意味■
アラブ世界ではイスラーム以前のジャーヒリーヤ時代から太陰暦を使用。日本の旧暦における晦日と同じで、月末=月の光がほぼ無い=暗いという認識であった。アラビア語で書かれた名前辞典によっては闇夜という意味は載っておらず「酒の別名」などと酒・酔いに関連した意味のみが書かれていることもある。
元々黒い酒や酒による酩酊を意味する用法が多かった語であることから、現代のイスラーム教徒が法学者に「酒とか酩酊とかいう意味を命名するのは良くないでしょうか?もう命名してしまったので改名すべきでしょうか?」と質問している例も見られる。しかしながら預言者ムハンマドの教友に大勢のライラーという女性がいたこと、預言者が「酒という意味だから良くないのでライラーを他のイスラーム的な名前に改名するように」と命じたという記録も残っていないため、「ライラーはイスラームにおいても許される名前である」「改名の必要は無い」という法的判断がなされ、今日まで使い続けられきた。
ちなみに、أُمّ لَيْلَى(ウンム・ライラー)という熟語はライラーの母と書いて酔いの母・酩酊の母、すなわち酔いをもたらす「酒」のことを指す。文学的な表現では「ライラーの母」「ライラーちゃんのお母さん」という意味にならないことがあるので注意。
■アラブの有名な悲恋物語カイス(マジュヌーン・ライラー)とライラーのストーリー■
中東圏の熱愛・悲恋・狂愛物語として有名な『ライラ(ー)とマジュヌーン』。ライラーに激しく恋い焦がれたカイスには مَجْنُون [ majnūn ] [ マジュヌーン ](ジンに取り憑かれた(≒人外の精霊的存在に憑かれて奇行に走るようになった、言動がおかしくなってしまった);狂った、発狂した;狂人)という別名がつけられた。
ニザーミー作の悲恋物語バージョンでは族長の息子カイスが学校で出会ったライラーとの恋に落ちるが、ライラーはカイスとの関係が家族にばれて最後には別の男性に嫁がされる。ライラーは最終的にカイスと結ばれること無くこの世を去り、マジュヌーン(狂人)と化したカイスはその墓前で一人孤独にその生涯を終えるが、世捨て人のようになり狂おしいまでに恋い焦がれるカイスにイスラーム神秘主義的な唯一神アッラーへの渇望・思慕を投影したものとなっている。
カイス青年の元々のモデルは قَيْسُ بْنُ الْمُلَوَّحِ [ qays/qais(u) bnu-l-mulawwaḥ ] [ カイス・ブヌ・ル=ムラウワフ ](カイス・イブン・アル=ムラウワフ)もしくは قَيْسُ بْنُ الْمُلَوِّحِ [ qays/qais(u) bnu-l-mulawwiḥ ] [ カイス・ブヌ・ル=ムラウウィフ ](カイス・イブン・アル=ムラウウィフ)。よく知られたストーリーの一つでは彼がアラビア半島の現サウジアラビア王国地域ナジュド地方アーミル族出身で、一族が所有する家畜の世話などをしながら一緒に育った父方いとこのライラー لَيْلَى الْعَامِرِيَّةُ [ layla/laila-l-‘āmirīya(h) ] [ ライラ・ル=アーミリーヤ ](ライラー・アル=アーミリーヤ)と好き合うようになったという設定。
彼らの恋物語が周囲に知られたためにライラーの家族がそのままカイスといとこ婚させることを拒む。ライラーが別の男性と結婚した後は彼女を忘れたくても忘れられない思いをまぎらわせるかのようにカイスは恋愛詩を作りながら各地を放浪することとなったという筋書きになっている。
ニザーミー版のように狂気じみた愛に溺れたために مَجْنُون [ majnūn ] [ マジュヌーン ](狂人)と呼ばれた訳ではなく、その強い愛ゆえに مَجْنُون لَيْلَى [ majnūn(u) laylā/lailā ] [ マジュヌーン・ライラー ](ライラーのことを狂おしいまでに愛した男)という通称で知られるに至ったという。なおアラブ版ではライラーの墓前で息絶えていたのではなく、放浪先で行き倒れ小石が広がる涸れ谷で亡骸が見つかったという結末になっている。
彼が実在した一人の詩人だったかについては複数の文人らが疑義を表明するなどしてきたが、アラブ世界では男性名カイスは熱愛に身を焦がす男性、恋人に狂おしいまでの思慕を寄せる男性の代名詞ともなっておりライラーはそうした熱愛を捧げられた女性ヒロインという扱い。「أَنَا قَيْس وَأَنْتِ لَيْلَى」[ ’ana qays/qais wa ’anti laylā/lailā ] [ アナ・カイス・ワ・アンティ・ライラー ] で「僕はカイス、そして君はライラー。」といった愛し合う恋人同士を表現するフレーズなども存在する。
■発音と英字表記■
لَيْلَى [ laylā/lailā ] [ ライラー ] のay部分は二重母音なので実質的にはai(アイ)の発音となるため、Laylaa、LaylaとLailaa、Lailaの2通りの英字表記が併存している。さらにこの二重母音部分は口語発音でei(エイ)やē(エー)になるためレイラー、レーラーのように聞こえやすい。それらに対応した英字表記としてはLeylaa、Leyla、Leilaa、Leila、Leelaa、Lelaが派生し得る。
また口語では語末の長母音が短母音化することが一般的で、ライラーではなくライラとなるため聞いただけでは لَيْلَة [ layla(h)/laila(h) ] [ ライラ ](一つの夜、一夜)と区別がつかなくなることも多く、英字表記がどちらもLayla、Lailaになるなどして両者を混同しやすい状況となっている。
複数の発音上の変化・揺れがあるため日本語におけるカタカナ表記もライラー、ライラ、レイラー、レイラ、レーラー、レーラなどと色々なパターンになりやすい。(いずれも理由があってのことだが、元の文語的な発音はライラー。)
ちなみに発音がそっくりな普通の名詞 لَيْلَة [ layla(h) / laila(h) ] [ ライラ ](一夜、(一つの)夜)が方言で簡単にレイラ、レーラになるのに対し、女性名の لَيْلَى [ laylā / lailā ] [ ライラー ] は方言会話でもそこまで発音変化しないことが多く、大半の動画でも「ライラー」もしくは「ライラ」と言っていたりする。女性名ライラーに関してはただの「夜」という方と発音を分けており、口語でもライラーもしくはライラの発音が維持されやすいという可能性が高いものと思われる。
■人名「ライラー」の意味・発音解説ブログ記事バージョンについて■
サンプル音声ファイルを多数加えてもう少し詳しく説明したブログ記事仕立てにした本項目解説の改訂版がサイト内記事【ゲーム作品アラブ系キャラ名考察『アイドルマスターシンデレラガールズ』ライラ編】の冒頭部分にあります。興味のある方はそちらもご参照ください。同ページではライラさん関連のアラビア語フレーズやあいさつの意味、ドバイで話されているアラビア語方言の種類、現地の人気女児名トップ10など色々な話題について管理人が(勝手に)語りつつまとめた考察風コンテンツとなっています。
Rawdah、Rawda、Raudah、Rauda
草木が生えている土地;庭、庭園;草地、牧草地、放牧地;川・池沼・水たまりといった地面を水が覆いたまっている場所;天国の楽園;(幼稚)園
【 同じ語根からなる動詞派生形第10形 اِسْتَرَاضَ [ ’istarāḍa ] [ イスタラーダ ](場所・川・湖沼などを水が覆う)と関連のある/意味を共有している名詞。その場所に水がたくさんある→植物がたくさん元気に育ち牧草、果樹など色々な種類の草木が豊かに生い茂る場所になる→庭園、草地、牧草地といった意味で使われる、という発想が由来だとか。複数形は رَوْض [ rawḍ / rauḍ ] [ ラウド ] もしくは رِيَاض [ riyāḍ ] [ リヤード ]。
なお中世のアラビア語大辞典 لِسَان الْعَرَبِ [ lisānu-l-‘arab ] [ リサーヌ・ル=アラブ ](リサーン・アル=アラブ、「アラブ人の言葉」「アラブ人の言語」の意。)によると、木が生えた場所には使わない、草の生えている場所を指す、同じ場所もしくは脇に必ず水が存在すること、といった条件があるという。しかし後世の辞書では草地、牧草地、果樹園、庭園といった意味が載っており、時代の経過とともに指し示す範囲が広がっていったものと思われる。】
【 アラビア語では「aw」のつづりで二重母音「au」を表現するためRawdahとRaudah、RawdaとRaudaは同じ発音に対する異なるつづりのセットとなっている。】
正しく導かれた、(宗教的に)正しい道に導かれた、分別のある、眼識のある
母音記号あり:رَشَا [ rashā ] [ ラシャー ] ♪発音を聴く♪
Rasha、Rashaa
(自力で立ち上がって動き母親の側について歩けるようになった生まれてすぐの)ガゼル(غَزَال)/レイヨウ、カモシカ(ظَبْي)の(オスの)仔、子ガゼル、子カモシカ、子レイヨウ;木の名前;植物の名前
■意味と概要■
語末に声門閉鎖音/声門破裂音であるハムザ(ء)を第3語根として含む رَشَأٌ [ rasha’ ] [ ラシャァとラシャッが混ざったような発音 ](学界標準カタカナ表記はラシャア)の発音が口語的に簡易化され、母音a+声門閉鎖音/声門破裂音部分が長母音「アー(ā)」に変化した語形。
主な意味はガゼル(غَزَال)ないしはレイヨウ、カモシカ(ظَبْي)の子(辞書の定義では男性形なので上では雄(オス)の仔と記載した)で、辞書によってレイヨウ、カモシカだったりガゼルだったりとまちまち。いずれの場合も自力で立ち上がって歩けるようになり、母ガゼル/母レイヨウ/母カモシカの横について一緒に動き回りだした赤ちゃん個体を指す。同じ語根から成る動詞 رَشَاَ [ rasha’a ] [ ラシャア ] が「(ガゼル/レイヨウ/カモシカが)出産する」という意味であることから、生まれてからしばらく奮闘して歩き始めた仔を表していることが察せられる。
また「人の背丈を超す高さまで生長する木。トウゴマ(خروع)のような葉をしているが、実はつけずどの部位も食用ともならない。」といった語義や「اَلْقَرْنَوَة(Monsonia niveaのこと)に似た草本」といった語義もアラビア語辞典や人名辞典には載っている。
■発音と表記■
ラシャーの語末部分は口語だと短母音寄りになってラシャ(Rasha)と聞こえやすい。日本語カタカナ表記としてはラシャー、ラシャが使われ得る。
母音記号あり:رَجَاء [ rajā’ ] [ ラジャー(ゥ/ッ) ] ♪発音を聴く♪
Raja、Rajaa
希望、願い
【 語末が声門閉鎖音/声門破裂音のハムザで終わっているため、文語発音ではラジャーゥとラジャーッが混ざったような発音に。しかし実際の日常会話での口語読み(方言発音)ではラジャーという発音に変化し、日本の学界で用いられるカタカナ表記もこれに依拠したラジャーとするのが標準的。】
母音記号あり:رَجْوَةُ [ rajwa(h) ] [ ラジュワ ] ♪発音を聴く♪
Rajwa、Rajwah
希望、望み、期待
■意味と概要■
動詞 رَجَا [ rajā ] [ ラジャー ](望む、希望する)より。通常は رَجْوَى [ rajwā ] [ ラジュワー ] の語形・発音で人名辞典に掲載されているが、口語アラビア語(日常生活に用いる方言)では語末長母音の短母音化により [ rajwa ] [ ラジュワ ] と発音されることから本項目の رَجْوَةُ [ rajwa(h) ] [ ラジュワ ] という表記が用いられている可能性が考えられる。
なお人名辞典によっては رَجْوَةُ 語末の ة(ター・マルブータ)を動名詞の回数1回分「希望することの1回分、1つの望み」を意味する用法だと説明していることもある。
ちなみにヨルダン王太子(皇太子)妃のファーストネームはこの名前。アラビア語では رَجْوَة آلُ سَيْفٍ [ rajwa(h) ’āl(u) sayf/saif ] [ ラジュワ・アール・サイフ ](Rajwa Al Saif)。Al部分英語のtheに相当するアラビア語の定冠詞 اَلْ [ ’al- ] [ アル= ](al-)ではなく、「家族、一族、ファミリー」を意味する名詞 آَل [ ’āl ] [ アール ] の方。日本ではラジュワ・アール・サイフではなくアジワ・アル・サイフというカタカナ表記が一般的。
■発音と表記■
実際に聞くとラジュワではなくラジワに近く聞こえることもあるが、日本語による学術的な標準カタカナ表記としてはラジュワ。
アラビア語の文語だとこの人名を単体で発音する時は رَجْوَةُ [ rajwah ] の最後の子音「h」(ワクフと呼ばれる休止形発音なので「t」とはしない)をほんのり聞こえる軽い発音で出すため、厳密には耳を澄ませて聞くと [ ラジュワフ ] と [ ラジュワハ ] の中間のような読まれ方をする。しかし現代文語会話や口語(方言)だと ة の休止形(ワクフ)発音である ه [ h ] が落ちてしまい手前の-aまでしか読まなくなっているので、日本では学術的な表記でもRajwahと表記してあるものをラジュワフ、ラジュワハとはせずラジュワと書くのが標準ルールとなっている。
英字表記がRajwaの場合、アラビア語表記としては異なる رَجْوَى [ rajwā ] [ ラジュワー ] と区別がつかないので、英字表記がRajwaとなっているアラブ系女性の場合はアラビア語表記を直接見て確認する必要がある。
日本語におけるカタカナ表記としてはラジュワ、ラジワ。
母音記号あり:رَجْوَى [ rajwā ] [ ラジュワー ] ♪発音を聴く♪
Rajwaa、Rajwa
希望、望み、期待
■意味と概要■
動詞 رَجَا [ rajā ] [ ラジャー ](望む、希望する)より。女性名 رَجْوَةُ [ rajwa(h) ] [ ラジュワ ] と同じ意味・似た発音・似たつづりだが通常は رَجْوَى [ rajwā ] [ ラジュワー ] の語形・発音で人名辞典に掲載されている。رَجْوَى [ rajwā ] [ ラジュワー ] は口語アラビア語(日常生活に用いる方言)では語末長母音の短母音化により [ rajwa ] [ ラジュワ ] と発音されることから رَجْوَةُ [ rajwa(h) ] [ ラジュワ ] という表記が併用されている可能性が考えられる。
なお人名辞典によっては رَجْوَةُ の方に関して語末の ة(ター・マルブータ)を動名詞の回数1回分「希望することの1回分、1つの望み」を意味する用法だと説明していることもある。
■発音と表記■
実際に聞くとラジュワーではなくラジワーに近く聞こえることもあるが、日本語による学術的な標準カタカナ表記としてはラジュワー。また口語アラビア語(日常生活に用いる方言)では語末長母音の短母音化により [ rajwa ] [ ラジュワ ] と発音されることが一般的。
ラジュワーという発音でも、ラジュワという発音でも一番良く使われる英字表記はRajwa。アラビア語表記としては異なる رَجْوَةُ [ rajwa(h) ] [ ラジュワ ] と区別がつかないので、英字表記がRajwaとなっているアラブ系女性の場合はアラビア語表記を直接見て確認する必要がある。
日本語におけるカタカナ表記としてはラジュワ、ラジワ。
Ranaa、Rana
じっと見つめる、まばたきをせずに熱心に見入る;(美しさのあまりまばたきも忘れるほどにじっと見入ってしまうほどの)美しさ、美人、佳人
【 動詞がそのままの語形で人名になったもの。動詞・完了形 رَنَا [ ranā ] [ ラナー ](じっと耳を傾ける、傾聴する;じっと視線を向ける、まばたきも忘れるほどに熱心に見つめる)より。】
【 口語(話し言葉、方言)では語末の長母音āはつまって短母音aになることが広く行われているため実際には [ rana ] [ ラナ ] と聞こえることが多い。日本語ではラナー、ラナというカタカナ表記が混在している。】
Lamaa、Lama
唇(の内側)や歯茎が黒い/褐色・茶色いこと、唇の黒さ・褐色
【 アラブの昔ながらの美人の特徴の一つ。アラブ女性にとって唇が褐色~黒系で彩られていたことは美点であり好ましい身体的特徴とされていたことから、「美人」の代名詞として命名されていたもの。】
【 口語(話し言葉、方言)では語末の長母音āはつまって短母音aになることが広く行われてるため実際には [ lama ] [ ラマ ] と聞こえることが多い。日本語ではラマー、ラマというカタカナ表記が混在している。】
母音記号あり:لِينَةُ [ līna(h) ] [ リーナ ] ♪発音を聴く♪
Liinah、Liina、Linah、Lina、Leenah、Leena
(大きなナツメヤシの木の傍から生えてくる小さな)ナツメヤシの木;柔和、柔らかさ、柔軟;軟化、弛緩、弱化、弱さ
■意味と概要■
名前辞典では「ナツメヤシの木」とのみ載っているか、もしくは主な語義として挙げられていることが多い。イスラーム教の聖典クルアーン(コーラン)第59章(アル=ハシュル、集合)第5節でもナツメヤシの木という意味で登場する、古くからあるアラビア語名詞。本によってはナツメヤシの木の中でも大きなナツメヤシの本体から派生して横に生える小さなナツメヤシの木であるとの具体的な記述があることも。
ナツメヤシはイスラーム教以前の多神教時代には神の化身・御神体でもあった大切な樹木で、現代でもすらりとした美しい女性や高くそびえる立派な人物のたとえとして良い意味で用いられるなどしている。
また لِينَةُ [ līna(h) ] [ リーナ ] はナツメヤシの木以外にも「柔和、柔らかさ、柔軟」「軟化、弛緩、弱化、弱さ」といった語義も持つ。
■似ている外来女性名■
ネット記事では「アラビア語にレナという名前があり、"優しさ"や"献身"という意味を持つ」と説明されているものが見られるが、本項目の人名と混同した上で原語と異なる発音との結びつけや本来持たない語義「献身」の追加が行われたものだと思われる。文語アラビア語には母音eが無く「レ」の音自体が存在しないこと、レナとカタカナ表記できるような似た響きの純アラビア語女性名としては本項目の「リーナ」ぐらいしか見当たらないため。
なおアラブ圏ではアラビア語辞書には載っていないものの響きが愛らしいといった理由から外国語女性名を命名することが増えており、本項目の لِينَةُ [ līna(h) ] [ リーナ ] とは別に رِينَا [ rīnā ] [ リーナー ](口語アラビア語発音:語末短母音化により [ rīna ] [ リーナ ] となることが多い)という女性も見られるようになっている。このリーナー(リナ)については英字表記はRinaとRenaが多い。
またよく似た女性名としては لِينَا [ līnā ] [ リーナー ] もある。これはかつてアラブ世界で人気を博した日本アニメ『未来少年コナン』ヒロインのラナ(Lana)のアラビア語名ということもあり比較的アラブ諸国でなじみのある女性名だが、響き優先の命名が増えているアラブ女児名として比較的ポピュラーな名前ともなっており、アラブ系名前サイトなどでは「ラテン語で"魅力的な女性"を意味する」といった説明になっていることが多い。英字表記としてはLina、Leenaが多い。
■発音と表記■
アラビア語の文語だとこの人名を単体で発音する時は لِينَةُ [ līnah ] の最後の子音「h」(ワクフと呼ばれる休止形発音なので「t」とはしない)をほんのり聞こえる軽い発音で出すため、厳密には耳を澄ませて聞くと [ リーナフ ] と [ サルマーサハ ] の中間のような読まれ方をする。しかし現代文語会話や口語(方言)だと ة の休止形(ワクフ)発音である ه [ h ] が落ちてしまい手前の-aまでしか読まなくなっているので、日本では学術的な表記でもLiinah、Linah、Leenahと表記してあるものをリーナフ、リーナハとはせずリーナと書くのが標準ルールとなっている。
Riimaas、Rimas、Reemaas、Reemas、Remas
[ アラビア語辞書やアラビア語によるアラブ人名辞典にも載っていない、現代になって新造された女児名。珍奇さを含み議論の対象となるような、日本でいうところのキラキラネーム扱いをされつつ広がった名前であるとのこと。赤ちゃんネームサイトでは外来語である、「ダイヤモンドの水」「ダイヤモンドの輝き」といった意味があると説明していることが多い。 ]
Ridaa、Rida
満足、満悦;同意、承諾;喜び、悦び;善意、好意
■意味と概要■
男性名・女性名の両方として使うことができるが、どちらかというと男性名としての方がポピュラー。
最後の3文字目の語根が ي 由来かو 由来かという見解が2通りあるため رضى でも رضا でも正解だという。ただしシーア派十二イマーム派第8代イマーム عَلِيُّ بْنُ مُوسَى [ ‘alī(y(u)) bnu mūsā ] [ アリー(ユ)・ブヌ・ムーサー ](アリー・イブン・ムーサー)の敬称 اَلرِّضَا [ ’ar-riḍā ] [ アッ=リダー ] や彼の敬称にあやかった名前の場合は رِضَا という語末が ـا(文字名:アリフ)になっている方を用いるのが通例となっている。
シーア派地域ほかではこの名前を含む2個1組の複合名 عَلِيّ رِضَا [ ‘alī(y) riḍā ] [ アリー・リダー / 口語発音・非アラビア語発音:アリー・レダー、アリー・リザー、アリー・レザーなど ](アリー・リダー)も命名に用いられている。
■発音と表記■
アラビア語アルファベットの ض [ ḍād ] [ ダード ] は口語発音や非アラビア語発音における ظ [ ẓ ](舌を歯にはさむ ذ [ dh ] の強勢音・強調音、もしくははさまない ز [ z ] の強勢音・強調音化への置き換えが起きる方言が多い)化や ز [ z ] 化が行っていなくても「dh」という当て字をすることがあり、現地ではリダーと発音していても Ridhaa、Ridha のような英字表記が使われていることがある。
アラビア語の口語によくある i の e 寄り読みによってレダーに近くなった発音に対応した英字表記としては Redaa、Reda、Redhaa、Redha などがある。さらに口語アラビア語では語末の長母音 ā が短母音化してただの a になることが一般的で、日常会話レベルではリダーはリダ、レダーはレダと聞こえる可能性が高い。
アラビア語口語(方言)での発音置き換わりに加え、ペルシア語圏のイランなど非アラブ諸国では「ダー(ḍā)」部分がただの「ザー(zā)」に置き換わる傾向が顕著で、リザーという発音に対応した Rizaa、Riza やさらに i が e に転じたレザーに対応した Rezaa、Reza といった英字表記が派生。イラン人名などを中心にこの表記が多く使われている。
日本語のカタカナ表記としてはリダー、リダ、レダー、レダ、リザー、リザ、レザー、レザなどが使われ得る。
母音記号あり:لُؤْلُؤَة [ lu’lu’a(h) ] [ ルゥルアとルッルアを混ぜたような発音 ] ♪発音を聴く♪
Lu’lu’ah、Lu’lu’a、Luluah、Luluaなど
真珠
■意味と概要■
「真珠」という存在そのもの・全体をまとめて指す集合名詞 لُؤْلُؤ [ lu’lu’ ] [ ルゥルゥとルッルッを混ぜたような発音 ] に単数化機能を持つ ة(ター・マルブータ)を語末に付加し لُؤْلُؤَة [ lu’lu’a(h) ] [ ルゥルアとルッルアを混ぜたような発音 ](1個の真珠、1粒の真珠)とした女性名詞。輝き・白さ・澄んだ清純さ(アラブで古くから好まれる美女の特質と重なる)、貴重な宝飾品(≒高貴、大切な存在)といった美点と結びつけるなどして命名されている名前。
■発音と表記■
日本の学界標準である『岩波 イスラーム辞典』方式だと「ルウルア」となるが、2文字目部分実際には母音の「ウ」とは発音せず、ء(ハムザ)と呼ばれる声門閉鎖音/声門破裂音として息を止めて何も発音しないという調音を行っている。そのため厳密には「ル・ルア」や「ル!ルア」のように言っているが、日本語カタカナ表記の都合上「ルウルア」となっている。
実際には耳で聞いた場合ルウルアよりも「ルゥルア」と「ルッルア」の中間のような読み方をしており、一般記事やキャラクターネーミングの日本語カタカナ表記でもルゥルアとなっている例が多い。
アラビア語の文語だとこの人名を単体で発音する時は لُؤْلُؤَة [ lu’lu’ah ] の最後の子音「h」(ワクフと呼ばれる休止形発音なので「t」とはしない)をほんのり聞こえる軽い発音で出すため、厳密には耳を澄ませて聞くと [ ルゥルアフ/ルッルアフ ] と [ ルゥルアハ/ルッルアハ ] の中間のような読まれ方をする。
しかし現代文語会話や口語(方言)だと ة の休止形(ワクフ)発音である ه [ h ] が落ちてしまい手前の -a までしか読まなくなっているので、日本では学術的な表記でもLu’lu’ah、Luluah、Loulouahなどと表記してあるものをルゥルアフ、ルゥルアハとはせずルゥルアと書くのが標準ルールとなっている。(アラビア語発音では語末の「-ah」は英語のように「アー」とは読まないので、ルゥルアー、ルッルアーというカタカナ表記にはしない。)
アラビア語での発音に忠実な英字表記は記号を用いた Lu’lu’ah ないしは Lu’lu’a だが、一般のアラブ人名でこのような「’」を使う例は多くなく、通常はアルファベットのみで当て字をすることが行われている。Lu’lu’ah、Lu’lu’aから「’」を取り去ったLuluah、Luluaが多用されているほか、「ウ」音にouを当てたLou’lou’a、Lou’lou’ah、Loulouah、Louloua、Louluaなども併用されている。
なお「’」は単語の区切りを示す記号ではないので「ル・ル・ア」のようにしない。また「ou」はアラブ人名の当て字ではオウではなくウかウーを表す割合が圧倒的に多いので、ロウロウア、ロウロウアーとカタカナ表記しないよう要注意。さらに「’」を抜いたLuluahはルルアー、ルルア、Luluaはルルアなどと読める当て字だが、言語のアラビア語はこれでルゥルア、ルッルアに近い発音をしているのでカタカナ化の際にはその点を加味する必要あり。
母音記号あり:لُؤْلُؤ [ lu’lu’ ] [ ルゥルゥとルッルッを混ぜたような発音 ] ♪発音を聴く♪
Lu’lu’、Luluなど
真珠
■意味と概要■
「真珠」という存在そのもの・全体をまとめて指す集合名詞。集合名詞の単数化機能を持つ ة(ター・マルブータ)を語末に付加した لُؤْلُؤَة [ lu’lu’a(h) ] [ ルゥルアとルッルアを混ぜたような発音 ](1個の真珠、1粒の真珠)も女性名として用いられている。輝き・白さ・澄んだ清純さ(アラブで古くから好まれる美女の特質と重なる)、貴重な宝飾品(≒高貴、大切な存在)といった美点と結びつけるなどして命名されている名前。
真珠は日本産の養殖真珠が台頭するまでアラビア半島の湾岸地域の特産品で、真珠採りの水夫たちが素潜りをして採取していた。クウェートなどは真珠産業が盛んだった国の一つで、今でも当時の様子や先祖たちの苦労の物語が語り継がれているほか、歌や踊りといった民俗芸能を通じて真珠産業隆盛期の文化が伝えられている。
■発音と表記■
日本の学界標準である『岩波 イスラーム辞典』方式だと「ルウルウ」となるが、実際には母音の「ウ」とは発音せず、ء(ハムザ)と呼ばれる声門閉鎖音/声門破裂音として息を止めて何も発音しないという調音を行っている。そのため厳密には「ル・ル・」や「ル!ル!」のように言っているが、日本語カタカナ表記の都合上「ルウルウ」となっている。
実際には耳で聞いた場合ルウルウよりも「ルゥルゥ」と「ルッルッ」の中間のような読み方をしており、一般記事やキャラクターネーミングの日本語カタカナ表記でもルゥルゥとなっている例が多い。
2文字目と4文字目の声門閉鎖音/声門破裂音であるء(ハムザ、この女性名では台座に乗った ـؤ の形で登場)については口語アラビア語(話し言葉、方言)で長母音化しやすく、本項目の女性名 لُؤْلُؤ [ lu’lu’ ] [ ルゥルゥ/ルッルッ ] の口語発音バージョンないしは愛称語形 لُولُو [ lūlū ] [ ルールー ] も存在する。
アラビア語での発音に忠実な英字表記は記号を用いたLu’lu’だが、一般のアラブ人名でこのような「’」を使う例は多くなく、通常はアルファベットのみで当て字をすることが行われている。Lu’lu’から「’」を取り去ったLuLuが多用されているほか、「ウ」音にouを当てたLou’lou’、Loulouなども併用されている。
なお「’」は単語の区切りを示す記号ではないので「ル・ル」のようにしない。また「ou」はアラブ人名の当て字ではオウではなくウかウーを表す割合が圧倒的に多いので、ロウロウとカタカナ表記しないよう要注意。
この人名ないしは長母音化した発音違い/愛称語形の لُولُو [ lūlū ] [ ルールー ] に対する日本語カタカナ表記としてはルウルウ、ルゥルウ、ルッルウ、ルッルッ、ルールー、ルルなどが使われ得る。
母音記号あり:وَرْدَة [ warda(h) ] [ ワルダ ] ♪発音を聴く♪
(1つの、1輪の、1本の)バラ、薔薇
【 バラという存在やバラと呼ばれるものの全体を指す集合名詞 وَرْد [ ward ] [ ワルド ] 語末に集合名詞の単数化機能を持つ字 ة(ター・マルブータ)をつけることでバラ1つ分という単数を示す。】
【 アラビア語として発音する場合、-ar-部分は英語のような反り舌にはしないのでワーダとカタカナ表記しないよう要注意。非アラビア語圏に関してはその土地での一般的な発音などを加味して別途カタカナ化。】