ここからはアラビア語風の名前のネーミングに関連した文法事項になります。形容詞の順番など日本語による創作物でよく間違われている点(形容詞などの語順が逆、等)を中心に紹介していきたいと思います。
かなり細かいので「アラビア語的に間違いが無いようなネーミングを徹底させたい」「商業展開予定なので改名の必要が無い命名をしたい」方向けのコンテンツとなっています。
文法:文語アラビア語・口語アラビア語・非アラビア語に伝わったアラブ由来ネームで発音がそれぞれ違う
同じ語でも地域により読み方が違うアラビア語口語
アラビア語は文語(標準語)と口語(方言)では一部アルファベットの発音や多くの種類の語形(アラビア文字上では同じつづりでも補足する母音が違う等)が異なります。
アルファベットの発音はthがtになる、dhがdになる、jがgになる、qがgになるといった感じで地域によって様々です。グレンダイザーやガンダムなどgの字で始まる日本アニメのアラビア語題名が方言によってj、gh、q、kの子音いずれかで書かれてつづりが違うのもこのためです。
たとえば「新しい」という意味の جَدِيد [ jadīd ] [ ジャディード ] はエジプト首都のカイロ方言(ならびにイエメンやオマーンの一部方言)だと [ gadīd ] [ ガディードもしくはギャディードと聞こえます ] になります。兵士を意味する جُنْدِيّ [ jundī(y) ] [ ジュンディー ] が [ gundī(y) ] [ グンディー ] となるのも同じくエジプト カイロ方言です。
日本語のネーミング辞典は方言発音のものが多いので注意
日本で発刊されたネーミング辞典ではこのエジプト方言の発音でカタカナ表記が掲載されている物があるのですが、この発音をするのはエジプトの首都近辺やイエメン・オマーンの一部なので、サウジアラビアといったアラビア半島の砂漠地域をイメージした作品で採用するとキャラクターが出稼ぎか移民の人と同じ方言をしゃべっていることになり、舞台設定やその人が生粋の現地ネイティブだという人物設定との間で地域ずれが置き矛盾が生じてしまいます。
架空のアラビア風世界が舞台となっている場合も同様で、実在する特定地域のカラーを排除する上では文語・標準語であるフスハーに即したカタカナ表記を採用するのが最適だと言えます。
異世界・ファンタジー作品などの創作を行う場合、ネーミング辞典を選ぶ際にはこうした方言色が出てしまっているものよりも、オーソドックスな文語発音に忠実な物がおすすめです。
関連記事
『アラビア語アルファベットの書き方と読み方のしくみ』
『英字表記されたアラビア語の名前とカタカナ化~アルファベットと語根』
『アラビア語アルファベットの発音を覚えよう~目次』
アラビア語由来の外国語や星座の名前などは要注意
ヨーロッパにはアラビア語由来の単語が色々とあります。また星座の名前もアラビア語由来のものが多くネーミングに利用されることも少なくないかと思います。
ここで注意すべきなのはアラビア語由来の名前も星座の名前も外国語を経由しているため元のアラビア語における発音とはかなり違った読まれ方をしている点です。
アラビア半島のど真ん中に暮らしている純アラブ人として設定する場合、星座の名前をファーストネームやファミリーネームにするとその部分だけ浮いてしまいアラビア語っぽくなくなるのでネーミングの正確さが求められる商業作品では避けた方が無難かもしれません。
文法:アラビア語由来の名前≠アラブ人の名前
トルコ語やペルシア語のアラビア語由来ネームと混同しない
アラビア語由来の名前でも、トルコやイランなどでは発音が変わってしまうのでアラブ人名を設定する時にはトルコ語人名やイラン・ペルシア語人名のリストは使用しない方が良いです。
日本では高校の時に地理や世界史を選択しなかった方が多いせいか、アラブ諸国とイラン、トルコ、パキスタンあたりを「アラビア語の国」「アラブ人の国」と間違えて覚えられているケースが珍しくないようです。
しかしアラブとイラン・トルコはそれぞれ系統の違う言語で、アラビア語の影響があるとはいえイランやトルコとでは人名に関しては色々な違いがあります。文化なども違うので中東だからといって全部アラブ系という設定にしたり、アラブ人のキャラ作りにイランやトルコの資料を使って衣装をデザインしたりしないよう注意が必要です。
ネーミングに関しては、アラブの人名 – EFENDI.jpさんのようにアラブの人名と書いてあっても実はイラン人名リストで、発音がアラビア語とはかなり違う、アラビア語では男性名なのにペルシア語では女性名として使う、英字表記からのカタカナ化に誤りがあるため書いてある通りにキャラに命名してしまうと読み間違えのままのネーミングになってしまうという名前サイトなどもあります。
イスラーム人名サイトもアラビア語部分の説明や名前の意味の解説がアラビア語ではなく周辺の諸外国語のそれが混じっているケースもあるため、資料を用意する時には純アラビックネームしか載っていない人名辞典を探してくることをおすすめします。
非アラブ地域の名前との混同例~アラビア語由来人名の人をアラブ人と同一視してしまう例
アラブ人設定なのにイランやペルシア風にしてしまう
SNSやブログなどを見ていると、日本ではアラビア語由来の名前を持つ人を「アラブ人」と呼んでいる方が多いように思います。実際にはトルコ、イラン、パキスタン、バングラデシュといった非アラブ諸国だったりするのですが、区別がつかないとアラブ系キャラの創作の資料にペルシアの物を使ってしまったりすることも。
アラブ世界では「日本など海外で作られたアラブ人キャラクターがペルシア、イラン風の衣装を着ていることが多い。アラブとペルシアを混同している。」という認識があり、「海外で描かれるアラブ人は名前・衣装・舞台などが異国風」になってしまっているというレビューが結構多いです。
アラビア語と発音が違うためにトルコやイランだとすぐに分かってしまうカタカナ表記の例
Amir(アミール)がEmir(エミル)、Jamila(h)(ジャミーラ)がJamileh(ジャミーレ←注:ジャミーレフとは読みません)になる、wがvの音に変わる(ジャワード→ジャヴァード、日本語サイトではジャヴァド、ジャバード等という表記も)、qがg(h)の音に変わる(シャカーイク→シャガーイグ)、重たいdの音がzに変わる(リダーもしくは口語のレダー→レザー、ラマダーン→ラマザーン)といった具合にぱっと見でアラビア語由来ながらアラビア語ネームではなく近隣諸語における外来語だとわかってしまうケースが多いです。
それらのカタカナ表記を採用した場合、純アラブ風の舞台設定との間に齟齬が生まれてしまいます。
アラブ人の名前には使わないハーンやカーンなどをつけてしまう
◯◯ハーン(◯◯カーン)、◯◯ザーデ、◯◯・シャーなどは現在イスラーム教徒が多い地域の名前ではあるもののアラブ人名ではない典型例です。これらを命名すると、上と同様にアラブ人設定なのに名前を聞くと全然アラブ人だとは思えないという矛盾が生まれてしまいます。
中東地域にはジャムシードのような非常に有名な王の名前がありますがペルシア(現在のイラン)の王であってアラブではないので、イランとアラブを混同してイスラーム以前のペルシア色が強い名前をつけてしまわないよう要注意です。ホスローなどもアラブ人が戦った王の名前なのでいわばアラビア半島諸部族のかつての天敵扱いで、撃退したことを現代でも誇る対象となっています。
文法:長母音の場所を間違えると違う名前・意味になってしまう
小さな違いが意味を変え違う語形として扱われるアラビア語
関連記事
『英字表記されたアラビア語の名前とカタカナ化~様々な問題点・難しさ』
『英字表記されたアラビア語の名前とカタカナ化~短母音・長母音・二重母音』
アラブ人の名前は英字表記する際に長母音を示すā、ī、ūの横棒は取り払われ単なるa、i、uとして書かれるのが一般的です。Karimは元々が [ karīm ] [ カリーム ]、Jamilは元々が [ jamīl ] [ ジャミール ] ですが、カタカナ表記では「カリム」「ジャミル」が一般的です。
(下でも説明していますが、カリムとジャミルに長母音を補って原語に近づける場合はカーリム、ジャーミルとすると別物の名前になってしまうので短母音しか含まない名前をアラビア語風に戻す場合は人名辞典や辞書で確認する必要があります。)
長母音を短くするケースは問題が少なめ
長母音を短母音で短くカタカナ表記するパターンはアラビア語の口語でもしばしば見られる音の変化と似ているので、問題はそう大きくありません。日本語ではカリームよりもカリム、ジャミールよりもジャミルとする方が一般的なので、読者にとってより馴染みがあるつづりの方がすんなり作品に入り込めて良いということであればアラビア語の文語(標準語)における発音に細かく厳密に即していなくても特に構わないかと思います。
a・i・uをā・ī・ūと戻すし時に間違いが起きやすい
一方、ZayidもしくはZaidについては元々が [ zāyid ] [ ザーイド ] なのですが、日本語では誤った場所に長母音をつけてしまった「ザイード」というカタカナ表記が多く見られ、こちらについては避けるべきパターンとなります。
というのも、アラビア語として存在しない語形・人名になったり、全く別の人名にすり替わってしまうことが多いためです。
- Zayid / Zaid(男性名)
- ザーイド ◯
- ザイド △~✕(ザイドはザーイドと別の男性名)
- ザイード ✕
- Aisha(女性名)
- アーイシャ ◯
- アイシャ △(アラビア語口語に同じ発音あり)
- アイーシャ ✕
元のアラビア語とは違う部分を長母音にしてザーイドをザイード、アーイシャをアイーシャと読むのはおそらく英語などの地域を経由して日本語のカタカナに直されているためだと思われます。
アラブ世界ではなく欧米が舞台で登場人物が現地に帰化したアラブ系住民だといった設定の場合、周囲にはアーイシャではなくアイーシャと呼ばれているので敢えてアイーシャとカタカナ表記した方が自然な場合もあるため要注意です。
長母音「ー」の位置を変えると全く違う意味になる
普通の名詞についても、本来無い場所に長母音を足して伸ばしてしまうことは意味が全然違ってしまう原因、ネイティブに別の語として聞き間違えられる原因となるので回避することをおすすめします。
この手の長母音「ー」の場所の入れ替えは、アラビア語においては能動分詞(~する人・物)と受動分詞(~された人・物)という正反対の意味を区別する重要な語形の型の違いに関係してきます。なので「ーの場所がちょっとずれたぐらい意味なんかどうせ同じだろうに」とはならないので要注意です。
- Qasim
- カースィム(分配する者)*日本で多いカタカナ表記はカーシム
- カスィーム(分配されたもの、分け前)*日本で多いカタカナ表記はカシーム
- Fatima(h)
- ファーティマ(我が子を乳離れさせた母親)
- ファティーマ(乳離れさせられた子供)
- Rabita
- ラービタ(絆、結びつけるもの)
- ラビータ(結びつけられた家畜;化学結合における配位子)
- al-Qaida
- アル=カーイダ(基礎、基地、アル=カーイダ)
- アル=カイーダ(同伴者、同席者)
文法:形容詞や属格(所有格)の語順が日本語・英語と逆
アラビア語では形容詞修飾「~な◯◯」や属格(所有格)「~の◯◯」といった表現で日本語・英語とは語順が逆になります。
形容詞修飾「~な◯◯」は「◯◯・~」
形容詞の場合、「(とある)美しい男」(美しい=ジャミール、男=ラジュル)だと「ジャミール・ラジュル」は間違いで、正しくは「ラジュル・ジャミール」となります。
- ジャミール=美しい
ラジュル=男- ✕誤った語順 ジャミール・ラジュル(=ジャミールは男性だ/とある男性の親切)
- ◯正しい語順 ラジュル・ジャミール(=(とある)美しい男)
ジャミールはアラビア語で形容詞の「美しい」以外に名詞の「親切」という意味で使われることがあります。なので「ジャミール・ラジュル」だと「ジャミールは美男だ」以外に「とある男性の親切」つまりは男性が行った親切な行為という意味の構文と同じ語順になります。
日本では「ジャミル・ウルジュワン」は「美しい紫」、「ジャミル・バイパー」は「美しいバイパー」という風に解釈されるのが一般的ですが、アラビア語文法的には誤りで日本語の意味を示すにはアラビア語での語順を真逆にする必要があります。
日本国内であれば「ジャミル・◯◯だから美しい◯◯だ!」で済むのですが、アラブ人には真逆の語順に受け取られるので形容詞修飾だとは理解してもらえません。細かく設定を突き詰めたい方は留意されても良いかと思います。
属格(所有格)「~の◯◯」は「◯◯・~」
日本語と逆の語順なので起きやすいネーミング間違い
属格(所有格)の場合、「ウカーズ(の)スーク」(ウカーズ=地名、スーク=市場)だと「ウカーズ・スーク」は間違いで、正しくは「スーク・ウカーズ」となります。
ネーミングに使われそうな熟語を例に説明してみると
- 「砂漠(サハラー)の鷹(サクル)」
- ✕ サハラー・サクル(=鷹の砂漠)
- ◯ サクル・サハラー(=砂漠の鷹)
- 「王(マリク)の冠(タージュ)」
- ✕ マリク・タージュ(=冠の王様、王冠のキング)
- ◯ タージュ・マリク(=王の冠、王冠)
- 「ターリク(男性名)の山(ジャバル)」
- ✕ ターリク・ジャバル(=山のターリク、山に住むターリクさん)
- ◯ ジャバル・ターリク(=ターリクの山、ターリク山)
- 「竜騎士・ドラゴンナイト」(ドラゴン=ティンニーン、騎士=ファーリス)
- ✕ ティンニーン・ファーリス(=騎士が所有しているドラゴン)
- ◯ ファーリス・ティンニーン(=竜の騎士、竜騎士)
- 「魔術師ギルド」(魔術師たち=サハラ、ギルド=ニカーバ)
*サハラとニカーバは後ろから属格(所有格)支配を受けた時は語末に「ト」を足します。- ✕ サハラト・ニカーバ(=ギルドの魔術師たち、ギルドの所属魔術師ら)
- ◯ ニカーバト・サハラ(=魔術師たちのギルド)
となります。日本ではゲームから競走馬まで色々なネーミングでこの語順間違いが見られ、意図された意味とは真逆になってしまっています。
日本語と同じ語順でアラビア語単語を並べた場合に起きること
最近日本でもアラビア語の馬名が増えてきているようなのですが、「~の◯◯」という修飾関係が日本語と逆になることを知らないまま「~・◯◯」と並べてあるためにアラビア語で意図した意味とは違う「◯◯の~」になってしまっているケースも見かけます。
日本語と同じ語順でアラビア語単語を「雪(サルジュ)」「女王(マリカ)」の順番で並べて「サウルジュ・マリカ」とし「雪の女王」としたつもりでも、実際のアラビア語では「女王様の雪、女王様の持ち物である雪」と逆転してしまいます。馬名紹介として「アラビア語で雪の女王という意味です」とすると誤りになるなど要注意です。
実際のアラビア語では「マリカ・サルジュ」は「雪の女王」ということで白くて美しい馬体の牝馬が重賞を次々に勝っていく様子がイメージできるのですが、「サルジュ・マリカ」だと女王が持っている雪のような馬という解釈になる可能性が大きく「女王はどこかの国の女性君主か女王と呼ばれるような大物馬主で、彼女が持っている馬が雪のような白毛の牝馬だ」というニュアンスに変わってしまいます。
この構文では定冠詞のアルは取って命名した方が間違いが起きにくい
厳密には定冠詞アルをつけた上で「ル」音の同化を反映させたサクル・アッ=サハラー(実際のアラビア語発音では「ア」の消失も起こるので「サクル・ッ=サハラー」)とするのがナチュラルで良いと思うのですが、日本語のカタカナ表記化する時には定冠詞アル(アッ)は取ってしまうことが多いです。
定冠詞をつけたり取ったりするのは大変で文法がからんできてしまうので、語順さえ間違わなければ辞書や用語集で拾ってきた「サクル(鷹)」と「砂漠(サハラー)」と「サクル・サハラー」と並べるだけでも十分意味が通じるので大丈夫です。
実際のネーミング例
ルーフ・マクアド
実際にある例だと「ルーフ・マクアド」というネーミングの考察を見かけたことがあるのですが、上記の説明の通りアラビア語としては「ルーフ(魂)」「マクアド(座席)」をただ並べただけでは「魂の座」とはならず「座席の魂」という意味になります。これだと椅子の擬人化や座席に宿った付喪神のようになってしまうので、「アラビア語では魂の座という意味になる」と考察・解釈するには逆にして「マクアド・ルーフ」にしないと意図した通りのアラビア語熟語にはなりません。
サムトカマル
サムトカマルも同様で「静寂の月」ではなく「月の静寂」になります。またGoogle翻訳では日本語を入れるとサムトが提示されてしまいますが、サムト自体は静けさや静寂ではなく言葉を発しないという意味の沈黙・無言を意味します。なので厳密なアラビア語解釈ではサムト・カマルは「月の沈黙」「月の無言」となります。
また月は1個だけなのでアラビア語の言語では英語のtheに相当する定冠詞をカマルにつけアル=カマルとしサムト・アル=カマルなりにします。アルが無い場合はカマルという女性名に受け取られサムト・カマルが「カマル嬢の沈黙」という解釈になり得ます。
サムト・アル=カマルについては月しゃべることが無いので「月の沈黙」となりやや擬人化したような文学的表現だとも言えるかもしれません。何も言わずに空にたたずんでいる的なイメージがあります。
文法:定冠詞「al-(アル=)」の文法
定冠詞の表記
アラビア語の定冠詞は ال [ ’al- ] [ アル= ] です。英字表記ではal-と小文字で書くことが多いですが、人名・地名表記ではAl-のこともあります。またハイフン無しでal ◯◯やAl ◯◯と表記してあるケースも非常に多いです。
カタカナでは「アル◯◯」(例:アルカリーム)とスペースも何の記号も無しにくっつけて書くケース、「・」を使って「アル・◯◯」(例:アル・カリーム)と書くケース、「=」(全角の=を使ってあることも多いです)を使って「アル=◯◯(もしくはアル=◯◯)」と書くケースが見られます。
定冠詞の用法
アラビア語の定冠詞 ال [ ’al- ] [ アル= ] は英語のtheと似たような使い方をします。漠然とした不特定のものを示す名詞や形容詞を限定する役割です。昔ジェトロが提供していた『アラブ人名の由来と正しい呼び方』(こちらよく読んでみるとすごく間違いが多かった資料なのですが…)に書いてあったような、王家であるとか名門氏族であるといった意味を添える役割はありません。
また人気ゲームのツイステッドワンダーランドでは「~さんちの息子」という意味で使われていますが、これは同作品オリジナル設定なので真似してツイステ二次創作以外でのアラブ人名ネーミングに流用しないよう注意が必要です。
関連記事
『ゲーム作品アラブ風キャラ名考察『ツイステッドワンダーランド』編』
音の同化(太陽文字)
アラビア語の定冠詞 ال [ ’al- ] [ アル= ] の「l」は、接続する語の語頭にある子音が「l」に近い場所で発音する場合には同化して「アッ=」(nのみ「アン=」)に変化します。
たとえばアル=サラームではなくアッ=サラーム、アル=ディーブではなくアッ=ディーブが正しいのですが、ネーミングにおいてここまですると違和感があり定冠詞の元の音である「アル」を強調したい場合には敢えて「アッ」にせず「アル=サラーム」「アル=ディーブ」というカタカナ表記に留めても別に構わないかと思います。
関連記事
『英字表記されたアラビア語の名前とカタカナ化~定冠詞al-(アル)と複合名』
属格(所有格)支配で「~の◯◯」となる時◯◯の定冠詞は取れる
所有などを示す構文「~の◯◯」において「~」部分と「◯◯」部分の両方に定冠詞がついていた場合、「◯◯」の語頭にあった定冠詞al-は無くなり、後続の語のみに定冠詞al-がつきます。
- اَلْبَاب [ ’al-bāb ] [ アル=バーブ ](そのドア、the door)
اَلْبَيْت [ ’al-bayt/bait ] [ アル=バイト ](その家、the house)- ✕間違い✕
アル=バーブ・アル=バイト - ◯正しい◯
バーブ・アル=バイト(その家のドア)
*実際の発音は [ bābu-l-bayt/bait ] [ バーブ・ル=バイト ] ですが一般的な日本語表記では定冠詞アルの「ア」消失までは再現せず、バーブ・アル=バイトとなります。
- ✕間違い✕
このルールが適用されるので、「~の◯◯」という属格・所有格で日本語と逆の語順になるルールとを合わせると竜騎士・ドラゴンナイトは
- تِنِّين [ tinnīn ] [ ティンニーン ](とあるドラゴン)
اَلتِّنِّين [ ’at-tinnīn ] [ アッ=ティニーン ](そのドラゴン、ドラゴン種全般の総称的に)
فَارِس [ fāris ] [ ファーリス ](とある騎士)
اَلْفَارِس [ ’al-fāris ] [ アル=ファーリス ](その騎士、騎士全般の総称的に)- ✕間違い✕
アッ=ティンニーン・アル=ファーリス(文法間違い)
アッ=ティンニーン・ファーリス(文法間違い)
ティンニーン・ファーリス(=とある騎士の所有するドラゴン)
ティンニーン・アル=ファーリス(=その騎士の所有するドラゴン)
アル=ファーリス・ティンニーン(文法間違い)
アル=ファーリス・アッ=ティンニーン(文法間違い) - ◯正しい◯
ファーリス・ティンニーン(竜騎士、ドラゴンナイト)
ファーリス・アッ=ティンニーン((その)竜騎士、ドラゴンナイト)
*実際の発音は [ fāris-t-tinnīn ] [ ファーリス・アッ=ティンニーン ] ですが一般的な日本語表記では定冠詞アルの「ア」消失までは再現せず、ファーリス・アッ=ティンニーンとなります。アッは定冠詞アルの「ル」の同化によるものですが、文法書・専門書ではないので創作物で楽しむ程度ならファーリス・アル=ティンニーンとしても構わないかと思います。
- ✕間違い✕
となります。
ニックネームをつける際は定冠詞のアルは取る
キャラクターに愛称をつける場合、定冠詞 ال [ ’al- ] [ アル= ] は取りアルの後に続く単語から生成します。
ファーストネームとしてアルがついていること自体かなり不自然なのですが、例として挙げると天体の月を指す اَلْقَمَر [ ’al-qamar ] [ アル=カマル ](月)という名前があった場合は「アルカ」や「アルカマ」のようなニックネームは作りません。
定冠詞 ال [ ’al- ] [ アル= ] を取り去った قَمَر [ qamar ] [ カマル ] という語を形成する語根「q-m-r」をパーツとして違う語形に当てはめ قَمُّورَة [ qammūra(h) ] [ カンムーラ ] や قَمُّور [ qammūr ] [ カンムール ] といった愛称を作り出します。
また、アラブ人名のニックネームにはある程度決まった語形があり قَمَر [ qamar ] [ カマル ](月)から切り取って「カマ」や「マル」、شَمْس [ shams ] [ シャムス ](太陽)から「シャ」「シャム」とはまずしないので要注意です。
文法:主語・述語関係?それとも形容詞修飾?
定冠詞が無いと「偉大なる◯◯」という称号ではなく「◯◯は偉大だ」という文章になってしまう
アラビア語では「~は・・・」の「は」に相当するする語はなく、主語と述語を並べただけで文ができます。主語が固有名詞である人名の場合、形容詞と組み合わせる際には定冠詞al-(アル)の有無によって文章なのか形容詞修飾なのかが違ってきます。
例えば男性名 كَريمٌ [ karīm ] [ カリーム ](一般的な英字表記はKarim)。ただの形容詞としては「寛大な、気前が良い、高貴な」という意味で非限定なのですが、ここでは特定の人物を指す人名なので限定された固有名詞となります。
これと形容詞 أَكْبَرُ [ ’akbar ] [ アクバル ](より大きい、年上の、最も偉大な=比較級・最上級)を組み合わせる場合、アクバルに定冠詞がつくかどうかで違いが出ます。
- Karim Akbar(カリーム・アクバル)
主語・述語「カリームは年上だ。」
人名Karimは限定、形容詞部分は定冠詞無しで非限定なので不一致。その場合は主語と述語に分断されます。
Karim | Akbar - Karim al-Akbar(カリーム・アル=アクバル)
形容詞修飾「偉大なるカリーム」
人名Karimは限定、形容詞は定冠詞al-がついて限定。どちらも限定されて一致するので形容詞修飾となります。
Karim = al-Akbar
「偉大なるカリーム帝」のような感じで形容詞・二つ名をファーストネームの後に続けたい場合は、このようにして名前後に持ってくる形容詞や名詞などに定冠詞al-を足す必要があります。
ただ日本の歴史系記事などでは本来つけられる定冠詞アルを抜いてあることが多く、「偉大なるカリーム帝」のようなフレーズが「カリーム・アル=アクバル」ではなく「カリーム・アクバル」となっていたりします。
文法:名詞や形容詞の性別
動物や創作キャラで男性に女性名、女性に男性名のアラビア語があてられていることが多い
創作物のキャラクター命名でしばしば利用されるアラビア語。ところが自然界に存在する太陽、月、星、大地、風などはそれぞれ男性もしくは女性の性が割り当てられており、男性キャラに女性名/女性キャラに男性名がついてしまっている例がかなり見られます。
また最近日本では動物園の飼育動物にアラビア語で命名するケースが増えてきていますが、結構メスに男性名、オスに女性名がついている事例が少なくありません。
- スナネコのメス「ジャミール(美しい)」
▶ジャミールは男性名。女性名はジャミーラ。 - スナネコのメス「マシュリク(日が昇る場所、東方)」
▶アラビア語由来のムスリムネーム、イスラミックファーストネーム。アラブ圏では見かけませんが、他のイスラーム地域では男性名として使われている模様です。 - スナネコのメス「ナジュム(星)」
▶ナジュムは男性名。女性名は複数形のヌジューム。もしくは女性形に変えてナジュマと語末を変えます。 - スナネコのオス「アルド(大地)」
▶ファーストネームとしては使われないようですが、アルド自体は女性名詞です。 - フェネックのオス「カマル(月)」
▶カマルは比喩表現としては女性と男性の両方に使えるものの、ファーストネームとして使う場合は女性名。女性の輝かしい様子・肌・丸みを帯びた顔といった美人ぶりを表現するのが「月」になります。
公募により決まった名前はどれも多くの方々の願いが詰まっており素敵ではあるのですが、アラビア語辞典を調べて意味だけで命名している例が多いためか公募型のアラビア語名ではメスにオスの名前がつくことが多いようです。
しかしこれだとオスに花子、メスに太郎と命名するのと似た感じなので、ちょっとかわいそうなネーミングではあります。
アラブネームの命名知識を万全にするのは決して簡単ではないためこのような性別違いのネーミングがどうしても起きがちで、ネーミング辞典を簡単に参照したのみでのキャラ名決定や一般募集によるアラビア語での名前決定も結構難しいと言えるかもしれません。
形容詞~女性・メスに辞典に掲載されている男性形のままで命名しない
形容詞は男性形で載っているので女性形に変える必要がある
形容詞に関しては辞書の項目として載っているのは男性形です。ネーミング辞典などで女性形が併記されていない場合は、アラビア語の辞典や文法書で女性形を調べて男性形を変形させる必要があります。
また太陽、月、大地といった天体などに関する名詞も男性形・女性形それぞれ別の語形があるのではなく、それ自体が男性もしくは女性と扱われている語もあります。これらは男性名詞なら男性の名前、女性名詞なら女性の名前として使うことが多いですが、あべこべで男性名詞なのに女性名・女性名詞なのに女性名として使うケースも少なくないのでネーミング前に辞書での確認を行うと安心です。
男性形の形容詞を女性形に変えるには?
簡単な方法で女性名に変えられるかどうかは語形によって異なります。
語末の音を「a」にするだけで女性形にできるもの
人名においては、■a■ī■という語形の形容詞(例:Jamil=ジャミール、Karim=カリーム、Aziz=アズィーズ)や能動分詞(■ā■i■ など)・受動分詞(■a■ū■ など)由来の名前(例:Adil=アーディル、Arif=アーリフ、Mahmud=マフムード/マハムード)等の場合、男性形にター・マルブータという女性化の文字を加えただけで(=英字表記の男性名にaを加えただけで)女性名(例:Jamila=ジャミーラ、Karima=カリーマ、Aziza=アズィーザ、Adila=アーディラ、Arifa=アーリファ)を作ることができます。
なお、そうやってできる女性名の場合、女性を示すター・マルブータという文字を含む場合はJamila、Karimaという英字表記以外にJamilah、Karimahと書かれることがあります。
しかしこの語末のhは現代アラビア語会話では省略される黙字に近いhなのでジャミーラフ、カリーマフとカタカナ表記しないように注意が必要です。
関連記事
『英字表記されたアラビア語の名前とカタカナ化~女性名語末のター・マルブータ』
語形全体の変換が必要な場合
アズハル(Azhar)といった形容詞語形 ’a■■a■ の場合、語末を「a」の響きに変え「アズハラ(Azhara、Azharah)」とするだけで女性形は作れません。
このような形容詞では語末以外も変形して ザフラー(ゥ/ッ)/ザフラー(ゥ/ッ)(英字表記はZahraa’、Zahra’、Zahraa、Zahraなど)■a■■ā’ という型にはめ込みます。
語末「’」はハムザといって喉にある声門をピッと閉めて息を止める発音をする部分で「ゥ」と「ッ」の中間のような音に聞こえます。そのため学術書も含めカタカナ表記では直前の「ā」までしか反映させず「ザフラー」や「ザハラー」とのみ記すことが広く行われています。
名詞は男性もしくは女性の性を持つ
太陽は女性、月は男性、風は女性、大地は女性…なアラビア語
日本だと「大地」「陸」「風」「嵐」は力強い響きを持つ男性名というイメージですが、アラビア語では女性名詞です。女性名詞が男性名として使われているケースもありますが、多くは女性的な印象を与えるため対応しているアラビア語単語が男性名として適していないことが少なくありません。
アラビア語では風、嵐、戦争、目、手のように文法書で学習したり辞書で調べたりしないと女性名詞だと判断しづらい名詞もあり、日本人がイメージする「これは女性的」「これは男性的」とイメージする語とアラビア語での名詞の性とが乖離しているケースがかなり存在します。
自然界に存在する事柄はアラビア語の語形や本来の性別を見ただけでは判断しきれないため、実際に男性名として使えるのかどうかアラブ人名辞典やアラビア語辞書を参照する必要が出てきます。
「ネーミング辞典で好きな意味の単語を選んだものの、実はそれが女性名詞でものすごく女の子風の名前で男性の名前としては不適切だった。」などということもあるので、最終決定する前に実在するアラブ人名としてどちらの性別向けの名前として扱われているのか確認することをおすすめします。
名詞としては男性名詞でも女性の名前、女性名詞でも男性の名前に使われたりするのでただのアラビア語辞書を見るだけでは不十分
アラブ人の古い名前では身近な自然や動物の名称を子供に命名することが多かったので、そのような名前では女性名詞なのに男性名、男性名詞なのに女性名というあべこべになっている例がしばしば見られます。
そのためアラブ系キャラクターや動物に命名する際にはアラブ人名辞典で最終確認する必要が出てきます。アラビア語辞書で男性形と書いてあっても女性名としてのみ使われている語が少なくないので油断ができないためです。
創作物では欧米系の名前でも女性名が男性キャラにつけられているということがしばしば見られますが、アラブ人名の場合西洋系の名前よりもそうした間違いを確認する手段が少ないので女性キャラに男性名、男性キャラに女性名をつけたままということになりやすいです。
天体と人名~同じ天体でも男性名と女性名に分かれる
月の場合
よくネーミングに使われる「月」を意味する色々な名称や「月」を含む複合語の場合、女性名だったり男性名だったりするので区別が難しいです。
- قَمَر [ qamar ] [ カマル ] ♀
カマル
Qamar
太陽の反対語としての一般的な「月」を指すことが多いです。また美人・色白・輝かしい美女の代名詞でもあります。イスラーム世界全体で見れば男性名として使われる地域もあるようですが、アラブ諸国に関しては女性名という扱いです。日本ではペットや男性キャラにカマルと名付ける方が少なくないようなのですが、洋風キャラに女性名のルナちゃんを選ぶのと同じような感じになってしまいます。アラブという前提・設定で男性やオスの動物にカマルと命名する予定の方はバドルなりに変えるのが無難かもしれません。 - هِلَال [ hilāl ] [ ヒラール ] ♂
ヒラール
Hilaal、Hilal
「新月;三日月;半月」のいずれかを指します。こちらは男性名です。 - بَدْر [ badr ] [ バドル、バドゥル ] 主に♂・♀にも使用可能
バドル / バドゥル
Badr、Baderなど
「満月」の単数形です。アラブ諸国では男性名のことが多め。 - بُدُور [ budūr ] [ ブドゥール ] ♀
ブドゥール
Budur、Budoor、Budourなど
「満月」の複数形です。複数形はもっぱら女性名として使われます。 - قَمَر الدِّينِ [ qamaru-d-dīn ] [ カマルッ=ディーン ] ♂
カマル・アッ=ディーン、カマルッディーン
Qamar al-Dinなど
「信仰の月、宗教の月」(イスラームの信仰、イスラーム教における月のような立派な人物)という意味の複合語で、中世以降功績のある人物に贈られた称号が一般的な男性のファーストネームに転じたものです。「カマル」単体だとアラブ世界では女性名として使われますが、「カマルッディーン」は男性名になります。 - بَدْر الدِّينِ [ badru-d-dīn ] [ バドルッ=ディーン ] ♂
バドル・アッ=ディーン、バドルッディーン
Qamar al-Dinなど
「信仰の月、宗教の満月」(イスラームの信仰、イスラーム教における満月のような立派な人物)という意味の複合語で、中世以降功績のある人物に贈られた称号が一般的な男性のファーストネームに転じたものです。
星の場合
ネーミング辞典やアラビア語辞書では「星」というと نَجْم [ najm ] [ ナジュム ](星)が載っていますが、人物名としては
- نَجْم [ najm ] [ ナジュム(ナジムに近く聞こえることも) ] ♂
ナジュム
Najm
(集合名詞、総称的に)星 - نَجْمَة [ najma(h) ] [ ナジュマ ] ♀
ナジュマ
Najma、Najmah
(単数として、1個の)星
文法:形容詞・分詞・色と性・数による語形変化
形容詞・分詞・色の名前
アラビア語の形容詞は形容詞修飾する名詞の数・性別によって語形が変化します。色を表す形容詞にもこの文法が適用されます。
形容詞は■a■ī■、’a■■a■など。能動分詞(~する者)は■ā■i■、mu■a■■i■、mu■ā■i■、mu■ta■i■など。受動分詞(~された者)はma■■ū■、mu■a■■a■、mu■ta■a■など。こうした特定の語形に、一定の概念を示す語根を当てはめて色々な単語が作られます。
色については’a■■a■形と、名詞を形容詞化した—ī(y)形の2種類があります。
- 男性・単数(1人・1個)
- ٌكَريم [ karīm(un) ] [ カリーム(ン) ](寛大な、気前が良い)
- أَزْرَقُ [ ’azraq(u) ] [ アズラク ](青い)
- بُنِّيٌّ [ bunnī(yun) ] [ ブンニー(ユン) ](茶色の)
- 男性・双数(2人・2個)
- كَرِيمَانِ [ karīmān(i) ] [ カリーマーン(カリーマーニ) ](寛大な、気前が良い)
- أَزْرَقَانِ [ ’azraqān(i) ] [ アズラカーン(アズラカーニ) ](青い)
- بُنِّيَّانِ [ bunnīyān(i) ] [ ブンニーヤーン(ブンニーヤーニ) ](茶色の)
- 男性・複数(3人)
- كِرَامٌ [ kirām(un) ] [ キラーム(ン) ](寛大な、気前が良い)
كُرَمَاءُ [ kuramā’(u) ] [ クラマー(クラマーゥ/クラマーッ) ](寛大な、気前が良い) - زُرْقٌ [ zurq(un) ] [ ズルク(ン) ](青い)
- بُنِّيُّونَ [ bunnīyūn(a) ] [ ブンニーユーン(ブンニーユーナ) ](茶色の)
- كِرَامٌ [ kirām(un) ] [ キラーム(ン) ](寛大な、気前が良い)
- 女性・単数(数が1人・1個+物・動物の場合のみ3以上の複数は女性単数とみなされ女性単数用の形容詞と組み合わせます)
- كَرِيمَةٌ [ karīma(tun) ] [ カリーマ(トゥン) ](寛大な、気前が良い)
- زَرْقَاءُ [ zarqā’(u) ] [ ザルカー(ザルカーゥ/ザルカーッ) ](青い)
- بُنِّيَّةٌ [ bunnīya(tun) ] [ ブンニーヤ(トゥン) ](茶色の)
- 女性・双数(数が2人・2個)
- كَرِيمَتَانِ [ karīmatān(i) ] [ カリーマターン(カリーマターニ) ](寛大な、気前が良い)
- زَرْقَاوَانِ [ zarqāwān(i) ] [ ザルカーワーン(ザルカーワーニ) ](青い)
- بُنِّيَّتَانِ [ bunnīyatān(i) ] [ ブンニーヤターン(ブンニーヤターニ) ](茶色の)
- 女性・複数(数が3人)
- كَرِيمَاتٌ [ karīmāt(un) ] [ カリーマート(ゥン) ](寛大な、気前が良い)
كِرَامٌ [ kirām(un) ] [ キラーム(ン) ](寛大な、気前が良い)
كَرَائِمُ [ karā’im(u) ] [ カラーイム ](寛大な、気前が良い) - زَرْقَاوَاتٌ [ zarqāwāt(un) ] [ ザルカーワート(ゥン) ](青い)
زُرْقٌ [ zurq(un) ] [ ズルク(ン) ](青い) - بُنِّيَّاتٌ [ bunnnīyāt(un) ] [ ブンニーヤート(ゥン) ](茶色の)
- كَرِيمَاتٌ [ karīmāt(un) ] [ カリーマート(ゥン) ](寛大な、気前が良い)
発音
上の発音で()で囲んであるのは、語末の母音まで全てフルに読み上げた場合の読み方です。アラビア語では通常語末の母音は省略されるため、人名においてもカリームンではなくカリームと読まれます。
色は男性形・女性形・数や意味の微妙な違いに注意
日本におけるアラブ風ネームの命名でしばしば見られるのが、女性に男性形の色の名前をつけているケースです。
色の形容詞は他の文法要素がからむので実はすごくややこしいです。
形容詞「青い」のアズラクは男性専用、女性は女性形のザルカーを使い分ける必要がある
たとえばアラビア語の色の名前の中でもよく使われるアズラク。これは男性や男性扱いの名詞を形容詞修飾して「青い◯◯」と言ったり、色の名前「青(色)」として使ったりする時の語形になります。
女性や女性扱いの名詞(目など)を形容詞修飾して「青い◯◯」とする時は同じ女性形に変形してザルカー(厳密な発音はザルカーゥ、ザルカーッですが口語寄りの一般的な発音はザルカーになります)となります。
「明るい青色」のように色の名前を言う時は男性形のアズラクを使えば良いのですが、「碧眼」という時はザルカーを使わなければいけません。
色の形容詞は女性形にする際に語形がかなり変わってしまって難しいのでアラビア語の文法を無視すればアズラクでも良いかもしれませんが、気になる方はきちんとザルカーにするのが良いと思います。
アラブには زَرْقَاءُ الْيَمَامَةِ [ zarqā’u-l-yamāma(h) ] [ ザルカーウ・ル=ヤマーマ ](ヤマーマのザルカー)という有名な歴史上の人物がいました。ヤマーマ地方出身の彼女は青い瞳が由来でザルカー(青)と呼ばれていたのですが、アラビア語では目を意味する名詞「アイン」も女性本人同様に女性扱いで、これを「アズラク・ル=ヤマーマ」としてしまうと「ヤマーマに住む青の男」となってしまい誤りとなります。
「青さ」といった色味自体にはアズラクと違う名詞が存在する
「青い」という意味の形容詞は男性・男性名詞だとアズラク、女性・女性名詞だとザルカー(厳密な発音はザルカーゥもしくはザルカーッに近いです)だと上で説明しましたが、「青」や「青色」については
- أَزْرَقُ [ ’azraq ] [ アズラク ]
【形容詞として】青い
【名詞として】青(色);青いもの - اَلْأَزْرَقُ [ ’al-’azraq ] [ アル=アズラク ]
【名詞として】青(色);青いもの
*上の非限定形に定冠詞 اَلْ [ ’al- ] [ アル= ] をつけたもの。 - لَوْنٌ أَزْرَقُ [ lawn/laun ’azraq ] [ ラウン・アズラク ]
青い色、青色
*男性名詞 لَوْنٌ [ lawn/laun ] [ ラウン ] に形容詞修飾をさせて「青い色」とした熟語。
とする以外にも「青さ、青色」という意味を持つ別の語形を使うことがしばしばあります。
形容詞的な性質を持つアズラクと違い色味「青さ」「青み」を表す زُرْقَةٌ [ zurqa(h) ] [ ズルカ ] や زَرَقٌ [ zaraq ] [ ザラク ] がそれに当たります。
たとえばこれらを「美しい」という形容詞で修飾して「美しい青」とするには、「青(色)」「青み」という意味の名詞である زُرْقَةٌ [ zurqa(h) ] [ ズルカ ] や زَرَقٌ [ zaraq ] [ ザラク ] に形容詞 جَمِيل [ jamīl ] [ ジャミール ](美しい)を組み合わせることになります。
زَرَقٌ [ zaraq ] [ ザラク ] は男性名詞なのでそのまま形容詞 جَمِيل [ jamīl ] [ ジャミール ] を後に置けば大丈夫ですが、زُرْقَةٌ [ zurqa(h) ] [ ズルカ ] の方は女性名詞なので形容詞 جَمِيل [ jamīl ] [ ジャミール ] は女性形の جَمِيلَة [ jamīla(h) ] [ ジャミーラ ] に変えてから組み合わせる必要があります。そしてそれぞれの語頭に定冠詞を足して完成です。
美しい青という意味にするための組み合わせいろいろ
- أَزْرَقُ جَمِيلٌ [ アズラク・ジャミール ]
▶【述語として使って】(男性名詞である◯◯は)青くて美しい
▶【名詞的に使って】(とある)美しい青
*非限定なので形容詞「青い」と形容詞「美しい」の組み合わせでblue and beautiful(青くて美しい)という述語としてとられる可能性あり。 - اَلْأَزْرَقُ الْجَمِيلُ [ ’al-’azraqu-l-jamīl ] [ アル=アズラク・ル=ジャミール ]
▶【名詞的に使って】(その)美しい青
*定冠詞アルがつき限定されthe beautiful blue(その美しい青色)に。- اَلْبَلَاط الْأَزْرَقُ الْجَمِيلُ [ ’al-balāṭu-l-’azraqu-l-jamīl ] [ アル=バラートゥ・ル=アズラク・ル=ジャミール ]
▶【形容詞修飾として熟語の後半で使って】青くて美しいタイル、美しいブルータイル
*集合名詞としてのタイルが男性名詞があったとして、それに形容詞修飾する場合にアズラク+ジャミールという語順で形容詞が現れているケースです。英語のtheと同様美しいブルータイルの総称的に使っているのでここでは定冠詞 اَلْ [ ’al- ] [ アル= ] をそれぞれの語頭に付け足してあります。
- اَلْبَلَاط الْأَزْرَقُ الْجَمِيلُ [ ’al-balāṭu-l-’azraqu-l-jamīl ] [ アル=バラートゥ・ル=アズラク・ル=ジャミール ]
- اَلزَّرَقُ الْجَمِيلُ [ アッ=ザラク・ル=ジャミール ]
▶美しい青(色)
*アラビア語における青色や青みを示す名詞ザラクを使った表現。「ザラク・ジャミール」に定冠詞アルをそれぞれつけたもの。the beautiful blue (color)の意味。 - اَلزُّرْقَةُ الْجَمِيلَةُ [ アッ=ズルカ(トゥ)・ル=ジャミーラ ]
▶美しい青(色)
*アラビア語における青色や青みを示す名詞ズルカを使った表現。「ズルカ・ジャミーラ」に定冠詞アルをそれぞれつけたもの。the beautiful blue (color)の意味。
日本ではアズラクがそのまま「青(色)」という名詞と「青い」という形容詞の両方として定着しているのでアズラクを使うのが一番通じやすい気がするのですが、「こういう他のバリエーションもありますよ」という話でした。色と数と性の一致はややこしいので商業作品でのネーミングについてはネイティブチェックを受けたりアラビア語業者に監修を受けたりするのが良いと思います。
「海の青」か「青い海」か?
ちなみに語順によって同じ「青(い)」と「海」の組み合わせでも次のような違いが出てきます。
- أَزْرَقُ الْبَحْرِ [ ’azraqu-l-baḥr ] [ アズラク・ル=バフル ]
▶海の青、海の青色、マリンブルー
*アズラク(青、青色)+定冠詞つきバフル(海)の属格支配(所有格構文に相当)。 - اَلْبَحْرُ الْأَزْرَقُ [ ’al-baḥru-l-’azraq ] [ アル=バフル・ル=アズラク ]
▶(その)青い海
*定冠詞がついたアル=バフル(海)に定冠詞のついた形容詞アズラク(青、青色)がくっついているケース。
国の名前やギルドや騎士団の名前と色の名称・形容詞とを組み合わせる場合はこんな感じで順番を気を付ける必要があります。定冠詞アルのあり・無しが難しいので日本語名称は「アズラク・バフル」(海の青)や「バフル・アズラク」(青い海)でも構わない気がします。
数と性の一致
上記と同様に、人名・物の名前に色を表す形容詞を添える場合や組織名などに色を表す形容詞を含める場合は性の一致に気を付ける必要があります。
基本ルール
- 1個・1人を示す男性名詞につく形容詞は男性形の単数
- 1個・1人を示す女性名詞につく形容詞は女性形の単数
- 2個・2人を示す男性名詞の双数形につく形容詞は男性形の双数
- 2個・2人を示す女性名詞の双数形につく形容詞は女性形の双数
- 3人以上を示す男性名詞の複数形につく形容詞は男性形の複数
- 3個以上を示す名詞は男性でも女性でも複数は1個の女性扱いなので、つく形容詞は女性形の単数
アラビア語は煩雑な文法規則があるので、ネーミングをする際は辞書に載っている形である単数形の男性名詞に単数形の形容詞をつけた組み合わせに留めるのが無難かもしれません。
青い目
ネーミング辞典や辞書だと「目=アイン(عَيْنٌ)」「青い=アズラク(أَزْرَقُ)」ですが、形容詞と名詞の語順をアラビア語とは逆の日本語・英語に合わせてしまった「アズラク・アイン」が間違いなのはもちろん、女性である「目=アイン」と男性形の形容詞「青い=アズラク」を組み合わせた「アイン・アズラク」も文法的に間違いとなります。
「アイン・ザルカー」(عَيْنٌ زَرْقَاءُ)が正解に近い形となりますが、「アイン」は単数なのでこれだと隻眼もしくはオッドアイで片方が青いことを指す可能性が出てきてしまいます。
通常は目は2つで両方とも同じ青い色なので、「アイン」の双数形「アイナーン(アイナーニ)」と「アズラク」の女性形「ザルカー」をさらに双数形に変形した「ザルカーワーン(ザルカーワーニ)」を組み合わせた「アイナーン・ザルカーワーン(アイナーニ・ザルカーワーニ)」(عَيْنَانِ زَرْقَاوَانِ)というのがアラビア語本来の文法に合致したものとなります。
しかし実際の口語会話では「2つの~」という双数形は文語よりも使われない傾向があり、1人には3つ以上の目がついていなくても「ウユーン・ザルカー」(عُيُونٌ زَرْقَاءُ)という表現になっていることもしばしばです。
軍団・旅団
キャラクターが所属する組織として軍団や旅団といった名詞を含めるとします。物を示す名詞は単数だと男性もしくは女性となり形容詞もそれぞれに合わせますが、複数になると全部女性扱いとなり形容詞は元の単数の性に関係なく女性形を用います。
たとえば旅団の場合いくつか名詞があるのですが、そのうち كَتِيبَةٌ [ katība(h) ] [ カティーバ ](部隊、兵団、旅団)ならびに複数形 كَتَائِبُ [ katā’ib ] [ カターイブ ] は単数でも複数でも全て女性扱いのため、 「青の旅団」という意味で「カティーバ」や「カターイブ」を含める場合は「アル=カティーバ・アル=アズラク」「アル=カターイブ・アル=アズラク」は誤りとなります。
正しくは「アル=カティーバ・アッ=ザルカー」「アル=カターイブ・アッ=ザルカー」(注:アラビア語での実際の発音は一気読みをする上に女性名詞語末にあるター・マルブータのt音復活や定冠詞のア脱落が起きるので、アルカティーバトゥッザルカー、アルカターイブッザルカーと読みます。)とします。
似ているようで使い分けが存在する色の形容詞
金髪
「金の、金色の」という意味の形容詞としては ذَهَبِيٌّ [ dhahabī(y) ] [ ザハビー ] がありますが、通常は男性名詞である髪の毛(شَعَر、シャアル)について言う場合、金髪を単純に「シャアル・ザハビー」と形容する以外に別の言い方があります。
金髪であることを示す形容詞は أَشْقَرُ [ ’ashqar ] [ アシュカル ] で、金色・ブロンド髪の毛は شَعَرٌ أَشْقَرُ [ sha‘ar ’ashqar ] [ シャアル・アシュカル ]。金髪の男性は أَشْقَرُ [ ’ashqar ] [ アシュカル ]、金髪の女性は色の形容詞の女性形で شَقْرَاءُ [ shaqrā’ ] [ シャクラー(シャクラーゥ、シャクラーッ) ] とします。
アラブ人名・家名として存在するのは後者のアシュカルの方になります。祖先が金髪だったといった理由だったものと推測されますが、定冠詞al-をつけたal-Ashqar(アル=アシュカル)という家名が実在します。
白髪
白髪であることを示す形容詞も単純な أَبْيَضُ [ ’abyaḍ ] [ アブヤド ] という形容詞以外に أَشْيَبُ [ ’ashyab ] [ アシュヤブ ] という形容詞が存在します。形容詞としては上に出てきた「アシュカル」(金髪の)と同じ文法が適用されます。
このアシュヤブは年老いて白髪になったという意味合いがあるため、動物の毛色などを言う場合は普通のアブヤドとします。
また白いという意味のアブヤドは「白人の」という意味があり、「黒人の」という意味のアスワドと対比で用いられ人種を指す形容詞として使われることがしばしばあります。
2種類ある黒
黒い色を表す形容詞には主に2種類あって、通常のネーミング辞典にも載っている أَسْوَدُ [ ’aswad ] [ アスワド ](黒い) とマイナーな أَدْهَمُ [ ’adham ] [ アドハム ](漆黒の)が挙げられます。
アドハムはその人物の髪の毛や動物の体などが真っ黒な時に使われます。青毛の馬(黒馬)はオスならアドハム、メスならダフマー/ダハマー。
アドハムは男性名やペットの名前としても古くから使われてきましたが、アスワドはアラブ人男性名としての利用はまず無いと言えます。黒をイメージする人間の男性や獣人等に名前をつける場合はアドハムの方がアラビア語的にもナチュラルなのでおすすめです。
一方単純に黒髪を指したり黒い犬などの毛色について言ったりする時はアスワドを使えば大丈夫です。
上でも書きましたが、アスワドの方は人種を指すことがあり「黒い(人々)」という意味の سُودٌ [ sūd ] [ スード ] だと黒服を着た集団などではなく黒人・アフリカ系を意味することが一般的です。
文法:アラビア語の数字
関連記事
数字のカタカナ表記と方言
日本語で書かれたネーミング辞典やアラビア語紹介の数字関係項目で気になるのが、文語(標準語)ではなく口語(方言)に即したカタカナ表記がかなり流布している点です。
アラビア語の文語で1~10はワーヒド、イスナーン、サラーサ、アルバア、ハムサ、スィッタ、サブア、サマーニヤ、ティスア、アシャラとカタカナ表記するのが教科書的・標準的です。しかしネーミング辞典などでは一部方言と同じ発音の3=タラータ、8=タマーニヤで掲載されていることがしばしばあります。
アラビア語は口語だとどの地域でこういう音の変化が起きるというのが定まっているため、アラビア半島舞台の作品であるにもかかわらずシリア・レバノン発音やエジプト発音の数字発音に準拠したネーミングをすると、ネイティブやアラビア語をやっている人間には「ドバイが舞台なのにどうしてエジプト方言?」といった具合で違和感として受け止められる可能性があります。
数と性
アラビア語では数詞も性による使い分けがあります。ネーミングでも良く使う1~10の数字では、1・2と3~10で文法が異なります。
数が1人・1個、2人・2個の場合はわざわざ数詞は使わず、名詞や形容詞の単数形・双数形のみで表現します。
3~10は数えられる人・物の性が男性の場合は女性化のター・マルブータがついて語末の音が—aになった女性形のサラーサ、アルバア、ハムサ…を使用。人・物の性が女性の場合は、ター・マルブータがつかない男性形のサラース、アルバウ(実際の発音はアルバァに近いです)、ハムス…を使用します。(数えられる名詞と数詞の性が逆になるあべこべの法則です。)
男たち3人ならサラーサ(thalātha)。女性たち3人ならサラース(thalāth)。形容詞由来の男性名カリーム(Karīm)とその女性形(Karīma)とでは女性名詞に主につく語末ター・マルブータ由来の英字ルビ-aもしくは-ahの組み合わせが逆さになるので要注意です。
しかし口語ではこうした数の文法は簡素化されていますし、アラビア語の数の文法はとても複雑なので、単なる創作物のネーミングであれば辞典に載っている通りのサラーサで通してしまって構わないと思います。
数と人名
「ハミース」(木曜日)のように数字と同じ語根の曜日名が男性名になっているケースはあるのですが、基数詞のワーヒド、イスナーン、サラーサ…は人名としてはまず使いません。
人名関連で出てくるの序数詞(2番目の=サーニー、3番目の=サーリス、4番目の=ラービウ、5番目の=ハーミス、6番目の=サーディス、7番目の=サービウ、8番目の=サーミン、9番目の=タースィウ、10番目の=アーシル)の方で、「◯◯2世」のように王が何代目かを示す時などに用います。
文法:2つの語を自分で合成して新たにオリジナルネームを作り出す場合
ネーミングの際に単語をカットすると意味を失ってしまうアラビア語
アラビア語は語の全体に散りばめられた「語根」という3つほどのパーツが揃うことで単語としての意味を保っています。なのでオリジナルネーミングをする時点でカットしてしまうと、その時点で
- 元々持っていた意味を失う
- 意味をなす鋳型であった語形が崩れ、アラビア語に存在しない語形となりアラビア語だと認識できなくなる
- アラビア語にある別の語形もしくはそれに近く聞こえる音になる可能性もあるが、全く違う意味になる
ため、ネーミングでは回避しないとアラブ人の名前として認識されなく可能性が非常に大きくなります。
このような造語はアラビア語にもあるのですが、実際に造語として作られ流通しているもの以外は意味が相手に伝わることはまずありません。アラビア語から着想を得た架空言語の人名としては成立しますが、アラブ人の名前としては使えなくなります。
日本語では「二番目+男児→二男」といった感じで元になったそれぞれの語の意味を受け継いだ語を作れますが、アラビア語だと ثَانِي [ thānī ] [ サーニー ](2番目の)+ وَلَد [ walad ] [ ワラド ](男児)を切り貼りして thālad [ サーラド ] のようにしても、アラビア語に存在せず何の意味も持たない謎の文字列になってしまうことが多発します。
カットや合成で起きる意味の変化
ネーミング辞典から取ってきた名詞・形容詞を合成して自分でアラブ風の名前を新造する場合、組み合わせ次第では珍妙もしくは悪い意味になってしまうので注意が必要です。
自分の楽しみとして小説や漫画で使う分には全く問題が無いのですが、対外的に発表するような商業作品だととんでもない意味の単語(最悪の場合卑猥語)になってしまう可能性もあるので確認がいるかと思います。合成語を作った場合はできるだけ辞書等で意味に問題は無いかチェックすることをおすすめします。
またアラビア語は単語を途中でしてしまうとその時点で意味を失います。「アッシャムス(the Sun、太陽)」を「アッシャム」のように切り取ると、太陽という意味を示すことはできず、アラブ人に言っても伝わらないです。
単語をカットした残り部分が違う単語に近く聞こえるケース
- Faris(ファーリス=騎士)
→ Fari(ファーリ、ファリ)+ s
「私のネズミ・私のマウス」[ fa’rī/fārī ] [ ファァリー/ファーリー ] に近くなってしまい、元が騎士という語だったことに気付いてもらえなくなります。
→ Fa(ファ)+ ris
[ fa ] [ ファ ] は「それから、そして」という意味になります。 - Ithnan(イスナーン=2)
→ Ithna(イスナー、イスナ)+n
イスナーは「12」[ ’ithnā ‘ashara ] [ イスナー・アシャラ ] の1の位だけ読んだ時の発音と同じです。また「ほめること」[ ’ithnā’ ] [ イスナー ] とほぼ発音が同じなので、数字の2が由来だと受け取ってもらえない可能性が高くなります。
同じ語形同士をドッキングして意味の全く違う単語ができるケース
同じ語形動詞で切り貼りすると、アラビア語に存在する語形のテンプレートが崩れないので意味が違う全く別の単語ができる確率が高くなります。このようなケースでは予期しないマイナスの名称になってしまう可能性に要注意です。
- Jamil(ジャミール=美しい)+Sharif(シャリーフ=高貴な)
→ Jarif(ジャリーフ)- جَرِيف [ jarīf ] [ ジャリーフ ](表土や雪が押し流された・かかれた)
アラビア語で語根「j-r-f」は「土砂を押し流す;雪をかく;ショベルや重機で土砂をかく;川床の汚泥などを浚せつする、どぶさらいする」といった行為やそれに関連した名詞を形成するのに用いられる語形中の3文字セットピースです。ブルドーザーのアラビア語名もこの語根から作られています。
この جَرِيف [ jarīf ] [ ジャリーフ ] 自体は通常の辞書に載っていませんが、地名辞典を見る限り「表面の草木を取り払って更地にされた」といったニュアンスを持ちうる語形である模様です。 - جَرِيح [ jarīḥ ] [ ジャリーフ ](負傷した、怪我をしている)
語末が「ḥ」ですが日本語では「ハ・ヒ・フ・ヘ・ホ」の「フ」はhuではなくfuと発音されることもあってカタカナ表記と全く同じになってしまうので、幸運を願う命名としては響き的に適しているとは言い難いです。
- جَرِيف [ jarīf ] [ ジャリーフ ](表土や雪が押し流された・かかれた)
- Jamal(ジャマール=美)+Karima(h)(カリーマ=寛大な、高貴な)
→ Jarima、Jarimah(ジャリーマ)- جَرِيمَة [ jarīma(h) ] [ ジャリーマ ](犯罪、罪)
ジャマール君とカリーマさんが結婚して生まれた赤ちゃんに両親の名前をカット・合成してつけたら、非常に悪い意味になってしまった、というサンプルケースです。
- جَرِيمَة [ jarīma(h) ] [ ジャリーマ ](犯罪、罪)
長いフレーズの省略
- Alf Layla/Laila Wa Layla/Laila(アルフ・ライラ・ワ・ライラ)
アラビアンナイトのアラビア語題名『千夜一夜』。千の夜と一の夜という足し算になっていて1000 nights + a night = 1001 nights を意味するフレーズです。- Alif Layla/Laila Wa Layla/Laila(アリフ・ライラ・ワ・ライラ)
アリフにそっくりなので間違えられやすいのが「アリフ」です。アリフはアラビア語のアルファベットの最初の文字で、英語で言うところのABCのAになります。そのためアリフ・ライラ・ワ・ライラにすると「夜のアルファベットアリフと1つの夜」という意味になってしまいます。
イラク方言などでは千である [ ’alf ] [ アルフ ] が [ ’alif ] [ アリフ ] という発音になるのでアリフ・ライラ・ワ・ライラであっても文語のアルフ・ライラ・ワ・ライラと同じ意味になり「千夜一夜」として通じます。ただ標準的ではないのでネーミングで採用してしまうとアラブ人に「アリフ・ライラ」は間違いと言われる可能性があります。 - Fuwaila(フワイラ)/al-Fuwaila(アル=フワイラ)
長いフレーズから文字を拾って作った造語の例です。フワイラはアラビア語で「小さな(そら)豆」「イワオウギ(マメ科植物の名前)」を意味し、英字つづりも全く同じになります。アラビアンナイトのお姫様のようでふんわりした感じの愛らしい名前っぽいのですが、女子につけると「豆子」になってしまうので要注意です。 - Alwl→Alul(アルール)
各語の頭文字を取ってAlwlとし、そこからアルールという読みを導いた場合のネーミング例です。アラビア語で「アルール」は病人食を意味する名詞 عَلُولٌ [ ‘alūl ] [ アルール ] とほぼ発音が同じです。アラビアンナイトにちなんだかわいい女性、と思いきや「病人食子」さんという名前になってしまうケースとなります。
- Alif Layla/Laila Wa Layla/Laila(アリフ・ライラ・ワ・ライラ)