英字表記されたアラビア語の名前とカタカナ化~定冠詞al-(アル)と複合名

定冠詞「al-」(アル)とは?

アラビア語の定冠詞

アラビア語の定冠詞は اَلْ「al-」で [ ’al- ] [ アル= ] です。名詞や形容詞の前につき、その語が限定されていることを示します。基本的に英語のtheと同じ働きを持つと考えて大丈夫です。

なお、ネット上で紹介されているような「家~の息子、~さんちの息子」、「~家の男子・男児」、「御~」という意味はありません。「ファーストネーム絶対にアルはつかない。アルがついたら絶対に家名。」「アルが家名につくのは王族・貴族・豪族だけの特権。」ということもなく、文法上必要なために添付されているだけのパーツ(接頭辞)に過ぎません。

ゲームなどにおけるアラブ風キャラクターのオリジナル設定との混同や誤ったアラビア語・アラブ人名解説にご注意ください。

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定冠詞の読み方と書き方

アラビア語の定冠詞は اَلْ「al-」で [ ’al ] [ アル ] と読みます。アラビア文字でつづる時には、単独では書かず定冠詞をつける名詞の語頭とくっつけてひとまとめにつづります。

alのaの前には声門閉鎖音/声門破裂音である ء [ hamza(h) ] [ ハムザ ] が来るので発音に忠実に従って表記すれば「’」を使った [ ’al ] という発音表記になりますが、地名・人名の英字表記ではハムザを表す「’」は書かずに単に「al-」、もしくは大文字にして「Al-」というつづりを使います。

ハイフンやスペースの有無

英字表記の時は定冠詞の後にハイフン「-」を書くのが一般的です。人名・地名の学術的な英字表記では「-」を使って定冠詞を付ける名詞等とつないで書きます。

一般人が行う地名・人名表記ではハイフンを使わずに単なる半角スペースを空ける「al Harbi」「Al Harbi」だけとか、定冠詞の後に来る名詞とくっつけて書く「Alharbi」とか、複数のバリエーションが見られます。

  • 定冠詞’al(アル)+qāhira(カーヒラ)→ al-qāhira(アル=カーヒラ)
    エジプトの首都カイロのアラビア語名です。固有名詞(地名)なので定冠詞の後を大文字化して al-Qāriha などに。

カタカナ表記

カタカナ表記では後に来る語とつながっていることを示すためにイコール記号を使ってal-fāris「アル=ファーリス」としていることもあれば、イコール記号を使わずに「アルファーリス」としていることもあったり、書き手によってまちまちです。

また人名の後方に登場しファミリーネームっぽく使われる地名由来のニスバ、例えば al-baghdādī(y)* だと、アル=バグダーディーもしくはアルバグダーディーと書いてあったり、ニスバ部分でその人を呼ぶ際にはアルを抜いて単にバグダーディーと書いてあったりまちまちです。

*学術書的な書き方だとal-baghdādiyyのように語末のイー(ユ)部分をiyyで表記しますが、当サイトでは長母音として読むことをわかりやすくするため、また人名の一般的な英字表記に近づけるためī(y)を使用しています。なにとぞご了承ください。

これは日本語のカタカナにする時の慣習のようなもので、アラビア語の原語ではきちんと発音しているにもかかわらず、カタカナ化にする際に「アル」を抜いた結果によります。

定冠詞「al-」部分をアルで読むかアッやアンで読むか

定冠詞「al-」[’al-] [ アル ] は後に来る文字の発音する場所が「l」から近い場合と遠い場合とで読み方が違います。調音部位がlから遠い場合はそのまま [ アル ]。近い場合は同化して [ アッ ] や [ アン ] に変わります。

月文字 =「l」部分を「ル」にする

ب [ b ]、ج [ j ]、ح [ ḥ ]、خ [ kh ]、ع 、[ ‘ ]、غ [ gh ]、ف [ f ]、ق [ q ]、ك [ k ]、م [ m ]、ن [ n ]、ه [ h ]、و [ w ]、ي [ y ]、ء [ ’ ]

定冠詞アルの「l」から発音する場所が遠いため音の同化が起きない文字群です。

月を意味するqamar(カマル)に定冠詞「al-」[ ’al- ] がついた場合音の同化が起こらずそのまま [ ’al- ] [ アル ] と読み al-qamar [ ’al-qamar ] [ アル=カマル ] となることから、qやそれ以外のアルファベットのグループを月文字と呼びます。

→ al-qa〇〇(アル=カ〇〇)、al-qi〇〇(アル=キ〇〇)、al-qu◯◯(アル=ク〇〇)

*ج [ j ] については太陽文字だと勘違いして aj-ja◯◯「アッ=ジャ◯◯」のように発音してしまうネイティブがまれにいることが知られています。

太陽文字 =「l」部分を「ッ」(nのみン)にする

ت [ t ]、ث [ th ]、د [ d ]、ذ [ dh ]、ر [ r ]、ز [ z ]、س [ s ]、ش [ sh ]、ص [ ṣ ]、ض [ ḍ ]、ط [ ṭ ]、ظ [ ẓ ]、ل [ l ]

定冠詞アルの「l」から発音する場所が近いため音の同化が起きる文字群です。

太陽を意味するshams(シャムス)に定冠詞「al-」[ ’al- ] がついた場合、音が同化して促音の [ ッ ] で読み al-shams [ ’ash-shams ] [ アッ=シャムス ] となることから、shやそれ以外のアルファベットのグループを太陽文字と呼びます。

  • al-sha〇〇(アッ=シャ〇〇)、al-shi〇〇(アッ=シ〇〇)、al-shu◯◯(アッ=シュ〇〇)

    音の同化を起こす太陽文字では、英字表記の定冠詞のalを同化後の子音に書き換えることもあります。(いずれのつづりでもカタカナ化では「アッ◯◯◯」とします。)
    ash-sha◯◯(アッ=シャ◯◯)、ash-shi◯◯(アッ=シ◯◯)、ash-shu◯◯(アッ=シュ〇〇)

ただしnのみは「ン」とします。

  • al-na◯◯(アン=ナ◯◯)、al-ni◯◯(アン=ニ◯◯)、al-nu(アン=ヌ◯◯)

    音の同化を起こす太陽文字では、英字表記の定冠詞のalを同化後の子音に書き換えることもあります。(nの場合カタカナ化では「アン=◯◯◯」とします。)
    an-na◯◯(アン=ナ◯◯)、an-ni◯◯(アン=ニ◯◯)、an-nu(アン=ヌ◯◯)
同化が起きた場合の定冠詞の英字表記

同化が起こっている場合の人名英字表記は「al-」のままが多いです。しかし人名表記では人によって異なり、「at-t◯◯」や「att◯◯」のように同化を反映させたパターンも見られます。

英字表記がAlの定冠詞「アル」と「アール」(~家)の区別

定冠詞「al-」[ ’al- ] と間違えやすいのが、「親族、一族、~家」という意味の آل [ ’āl ] [ アール ] です。アールはアラビア語で آل と書き、اَلْ と書く定冠詞に見た目がそっくりで母音記号を書かない場合は全く同じ形になります。

英字表記の場合も、声門閉鎖音/声門破裂音ハムザを示す「’」や長母音āの横棒を取り去ってしまうとどちらも英字表記がalになってしまいます。

  • آل ثَانِي [ ’āl thānī ] [ アール・サーニー ]
    Al Thani(サーニー家)
    サーニーの一族、といった意味の所有格支配構文です。2つの語は切り離して書きます。「アール・サーニー」と「・」で分ける表記と、アール+サーニーでひとまとまりの複合語ということで「=」を使った「アール=サーニー」という表記があり、普通の記事ではなく事典やウェブ百科だと「アール=サーニー」になっていることが多いです。
  • اَلْأَطْرَش [ ’al-’aṭrash ] [ アル=アトラシュ ]
    al-Atrash / Al-Atrash(アル=アトラシュ、アトラシュ家)
    形容詞に定冠詞をつけて「The ◯◯」といった意味のファミリーネームとしたものです。2つの語は切り離さずにハイフンでつないで書くのが基本です。

آل [ ’āl ](アール)の英字表記&カタカナ表記

アラビア文字では「アール」(~家)の方は後に続く語と切り離して書き、定冠詞「アル」は後に続く語とつなげて書くという違いがあります。

英字表記ではアールをどこともくっつけずに単独で書いて、頭文字を大文字のAlにします。
→ Al Thani

まれにですが、長母音部分をa2個にしたAalという英字表記を見かけます。
→ Aal Thani

カタカナ表記では属格(所有格)支配でつながる複合語ということでイコール記号を使った「アール=」が使われていたり、単なる「・」で表記した「アール・」などが使われています。

定冠詞 اَلْ [ ’al- ](アルの英字表記パターン)

定冠詞「al-」[ ’al- ] についてはハイフンつき小文字の「al-」か、大文字の「Al-」となっている書き方が最も一般的です。→al-Karim、Al-Karim

しかしくだけた英字表記ではハイフン無しでスペースを空けて定冠詞つきの人名を書くこともしばしばです。この場合は「アール」と区別するのが難しいかもしれません。→ Al Karim

またハイフンもつけず、スペースも空けずに定冠詞とくっつけて書くパターンも少なくありません。→ Alkarim

口語編で別途説明していますが、el- もしくは大文字の El-はエジプトなどの方言における定冠詞で、母音・読みは違うものの働きは文語の定冠詞「al-」と全く同じです。

人名と定冠詞

1語単独のファーストネームに定冠詞はつけないのが基本

一般人に関して、単独のファーストネーム部分にほどんど定冠詞「al-」はつかないと理解して差し支えありません。歴史上の有名人物にあやかった名前ではファーストネームでも定冠詞「al-」がついていることもありますが、多くないです。

一方、地名には普通に定冠詞「al-」がつきます。

創作でファーストネームに定冠詞をつけることは回避がおすすめ

たとえば創作目的で寛大な(Kārim)という意味の形容詞を人名として使うと仮定します。通常は定冠詞「al-」をつけません。

しかし何らかの意味を持たせようということで定冠詞「al-」(アル)をつけて「Al-Karim」としてしまうと、アッラーが持つ属性を示す99の美名と同一になり個人名ではなくアッラーそのものを意味することになってしまいます。これはイスラーム圏における命名ルール「神そのものの名前をつけてはいけない」に反します。

形容詞1個のみのファーストネームを作る場合は不必要に定冠詞をつけてしまわないよう避けることをおすすめします。

× フルネーム ; アル=カリーム・ムハンマド・アリー
○ フルネーム ; カリーム・ムハンマド・アリー

ファーストネームに定冠詞を含む場合

有名人物にあやかったファーストネームに定冠詞がある例

歴史上の人物にあやかった命名でファーストネームで定冠詞がついているのは、たとえばシーア派イマームの اَلْحَسَن [ ’al-ḥasan ] [ アル=ハサン ] Al-Hasan や اَلْحُسَيْنِ [ ’al-ḥusayn / ’al-ḥusain ] [ アル=フサイン ] Al-Husayn / Al-Husain と同名にした場合などです。

これは中世あたりまでのアラブ人がファーストネームに冠詞アルつきで命名していたことが多かったためで、アルがついていても家名などではなく本人の名前となります。

詳しくは

複合語「the~の◯◯」の「~」語頭に定冠詞「al-」

2語に定冠詞アルを含む複合名

アラブ人名の1番最初に来るファーストネーム部分に定冠詞al-もしくはAl-が含まれるのは、たいていが2語を組み合わせた複合名(compound name)です。

実際には2語からなるのに発音する際には一気読みすることから、分かち書きではなくつなげ書きするカタカナ表記が中東関係の専門書などでも採用されています。「月(カマル)」+「宗教の、信仰の(アッ=ディーン)」と組み合わせてできる「信仰の月、宗教の月」という称号・男性名であっても「カマル・アッ=ディーン」と分かち書きしないで「カマルッディーン」となっていたりするのはそのためです。

間違えやすいのですが、「~の◯◯」という所有格(属格)支配の構文では定冠詞は2語目にだけつき、1語目にはつきません。アラビア語辞書や用語集には天体の名前として太陽と月には定冠詞がついて「アッ=シャムス(太陽)」、「アル=カマル(月)」となっているのですが、ファーストネームとして命名する時や「~の太陽」「~の月」のような熟語にする時にはアルを取る必要があります。

  • Qamar al-Dīn【正】
    カマル・アッ=ディーン / カマルッディーン
    (信仰の月、宗教の月)
    × al-Qamar al-Dīn
    アル=カマル・アッ=ディーン、アルカマルッディーン
    *辞書に天体名として「アル=カマル(月)」と載っていても、このような熟語の時は1語目に置いた「月」からは定冠詞アルを取るのが決まりです。

*アラビア語には大文字と小文字の違いはありませんが、英字表記にする際には定冠詞を除く「-」以降の1文字目を大文字で表記するのが普通です。

代表例

2語1組の複合ネームのうちアラブ人名として多いのは以下のようなパターンになります。

  • ‘Abd ◯◯
    アブド・◯◯
    (◯◯のしもべ)
    ◯◯にアラビア語の定冠詞アルがついていない場合です。定冠詞が無い場合は少なく、シーア派の初代イマームでスンナ派第4代正統カリフだったアリーの名前、イスラーム以前の多神教時代の神の名前(例:太陽神シャムス)などが入ることが多いです。
  • ‘Abd al-◯◯ / ‘Abdul◯◯等
    アブド・アル=◯◯ / アブドゥル◯◯
    アブド・アッ=◯◯ / アブドゥッ◯◯(◯◯の1文字目がサ・タ・ラ行、ザ・ダ行の時)
    アブド・アン=◯◯ / アブドゥン◯◯(◯◯の1文字目がナ行の時)
    (◯◯のしもべ)
    ◯◯にアラビア語の定冠詞アルがついている場合です。al-◯◯部分はたいてい「アッラーの99の美名」と呼ばれる神の属性名(アッラー以外の神の別名)が入ります。◯◯の1文字目によってアルの発音はアルのままだったりアッになったりアンになったりします。
    ▶詳細:『アラブ人の名前のしくみ~「アブド◯◯」(~のしもべ)
  • ◯◯ al-Dīn
    ◯◯・アッ=ディーン / ◯◯ッディーン
    (信仰の◯◯、宗教の◯◯)
    中世に本人の業績を讃えて与えられていた肩書きが個人名に転じたものです。◯◯部分には本人の活躍や業績を示すようなキラキラした内容の名詞が来ます。(例:高み、崇高さ、光、力、支柱、幸福、美、飾り、剣、星、流星、太陽、灯火、王冠、勝利、月、満月、支援者)

定冠詞を含む複合語「the~の◯◯」

定冠詞とつなげ読みのルール

定冠詞を含む複合語の名前は、英字表記・カタカナ表記において2語を切り離してあることが多いです。しかしアラビア語では1語目と定冠詞al-のついた2語目は息継ぎせずに一気にまとめ読みします。

その際、1語目の語末で読み飛ばしていた主格を示す母音「u」が復活。さらには定冠詞「アル」の「ア」の部分が脱落します。

  • Abd al-Qadir 月文字
    表記:アブド・アル=カーディル
    発音:アブドゥルカーディル
    [ ‘abd ]+[ al-qādir ](アブド+アル=カーディル)→ [ ‘abdu-l-qadir ](アブドゥ・ル=カーディル、アブドゥルカーディル)
  • Abd al-Salam 太陽文字
    表記:アブド・アッ=サラーム
    発音:アブドゥッサラーム
    [ ‘abd ]+[ as-sālam ](アブド+アッ=サラーム)→ [ ‘abdu-s-salam ](アブドゥ・ッ=サラーム、アブドゥッサラーム)

語末の各母音uの復活、定冠詞「al-」(アル)の「a」脱落が起き、カタカナ表記において2語の間に「ゥ」が入る感じです。

実際の人名としてこれらの名前をどう表記するかはまちまちですが、現代のアラブ業界標準に近い岩波書店のイスラーム辞典方式だとアブドゥルカーディル、アブドゥッサラームのようになります。

しかしネット上には色々な区切り方が混在していて、アブド・アル=カーディル、アブド・アルカーディル…など複数パターンが見られるのも統一ルールが無いことが原因となっています。

複合名の「アブド◯◯」を作中で呼ぶ時の注意点

創作の際にキャラクターに名前を呼ばせる場合は、「おい、アブド・アル=カーディル!」ではなく「おい、アブドゥルカーディル!」といった具合に2語を切り離さないバージョンのカタカナ表記にするのが自然です。

なお、2語でセットになっているので「アブドゥル!」・「カーディル!」・「アル=カーディル!」とはしません。

  • アブドゥ・ル=カーディル、アブドゥルカーディル ◯
    全能者(たるアッラーの)しもべ、という意味の複合男性名です。これで完全な形です。
  • アブド・アル=カーディル △
    人名辞典にこの表記で載っていても、実際にはアラブ人は実際にはこの通りには発音していません。アブドゥルカーディルと一気読みします。
  • アブドゥ ×
    1語目だけしか読んでない状態です。またアブドゥという音だと別の名前 عَبْدُه [ ‘abduh ] のくだけた発音 [ ‘abdo ]に近く、ネイティブが聞くとそちらの方で受け取られてしまいます。
  • アブドゥル ×
    名前を途中で切ってしまったもの。2語目の定冠詞に含まれる「l」で読んで終わりの状態です。
  • カーディル ×
    カーディル(能力がある)は人間についても使う形容詞ですが、ここではアッラーの属性を示す別名から定冠詞を取った形容詞単体部分です。ここだけだと「能力がある」のみになります。
  • アル=カーディル、アルカーディル ×
    カーディル(能力がある)という定冠詞がつくことによって、The All-Powerful=全能者たる(アッラー)という唯一性のある意味合いが与えられます。ここの部分だけを取ってしまうとアッラーそのものの名前になってしまいます。イスラーム世界では聞いた時にアッラーだと皆が理解するような神の別称を人間につけることが禁止されているので要注意です。

創作物に多いアラブ人キャラクター名のアブドゥルですがアラブ世界では大半の人が「アラビア語としては間違っている」「アブドゥルなんて人はいない」と考えています。実際には عبدول と書いてアブドゥール(日本風に長母音のーを抜いてカタカナ表記するとアブドゥル)と読む人名があることにはあるのですが、伝統的な純アラブネームとはちょっと言えない感じで人名辞典にも載っていません。

なので砂漠の王子といったキャラクターに名前をつける際はアブドゥルを避けることをおすすめします。

詳しくは『アラブ人の名前のしくみ~「アブド◯◯」(◯◯のしもべ)』をご覧ください。

つなげ読みと英字表記の色々なバリエーション

アラブ圏の一般的な人名表記では色々なパターンがあり、まず喉を使う子音 ع(アイン)の音価を示す「‘」が使われずに表記から消え、長母音の横棒も取れてAbd al-Qadirになります。一方、横棒のかわりにaaにするAbd al-Qaadirもあります。

定冠詞は小文字とハイフンでal-を2語目とつなげますが、頭文字を大文字にしたAbd Al-Qaadir、Abd Al-Qadirもあります。

また定冠詞の後にハイフンを入れずにスペースを空けて2語目の本体と切り離したAbd Al Qadir、Abd Al Qaadirという英字表記もあります。

あとは、alの後の-が無くなって2語目の本体部分とスペース無しでくっついたAbd AlqadirやAbd Alqaadir。

本来2語目と接続するべき定冠詞alを1語目の終わりに寄せて書くAbdul Qaadir、Abdul Qadirも見られます。

「アブドゥルカーディル」つなげ読みをした時に復活するuを入れてスペース無しに全部一気につづるパターンがAbdulqaadir、Abdulqadir。

定冠詞のせいで、とにかく何通りもの英字表記がうじゃうじゃとわいて出てくる状態です。口語の項目で改めて紹介しますが、口語では定冠詞がel(エル)やil(イル)になったりということで、バリエーションがさらに増えていきます。

複合語と英字表記・カタカナ化の実例

複合語の英字表記にはこれを反映させたものと、そうでないものと、両方のパターンがあるため色々なつづりのバリエーションができやすいです。

アラーウッディーンがアラジンになるまで

ここではわかりやすいようにするため、定冠詞と定冠詞がつけられる語の間に「=」を入れてあります。

عَلَاء [ ‘alā’ ](アラー)高み、高さ

  • عَلَاءٌ [ ‘alā’un ](アラーウン
    語末各母音を省略せずに完全に読み上げた時の音です。後ろから所有格(属格)支配を受ける前の非限定状態では、主格のuに非限定を示すnを組み合わせて「un」という音を足します。「’」は通常の英字表記に現れない声門閉鎖音 ء [ hamza(h) ](ハムザ)を示す記号「’」です。
  • عَلَاءٌ [ ‘alā’(un) ](アラー、アラー
    後ろから所有格(属格)支配を受ける前の非限定状態ですが、普段の音読では主格のuに非限定を示すnを組み合わせた「un」の部分は読み飛ばして省略。通常の英字表記に現れない声門閉鎖音 ء [ hamza(h) ](ハムザ)を示す「’」が発音上最後の子音になるので、丁寧に読めばアラーゥもしくはアラーッに近い音になります。
  • عَلَاءٌ [ ‘alā(’un) ](アラー)
    日常的な発音では声門閉鎖音ハムザの「’」はほぼ聞こえず、ただの長母音āに近くなってほぼアラーのようになります。
  • عَلَاءُ [ ‘alā(’u) ](アラー)
    後ろから所有格(属格)支配を受ける時は、非限定であることを示すnが取れた状態になります。発音はされませんが、「ウ」に相当する「’u」の部分が隠れて待機している感じです。

اَلدِّين [ al-dīn ](アッ=ディーン)宗教、信仰=イスラームのこと

  • دِينٌ [ dīnun ](ディーヌン)
    語末各母音を省略せずに完全に読み上げた時の音です。後ろから所有格(属格)支配を受ける前の非限定状態では、主格のuに非限定を示すnを組み合わせて「un」という音を足します。
  • دِينٌ [ dīn ](ディーン)
    後ろから所有格(属格)支配を受ける前の非限定状態ですが、普段の音読では主格のuに非限定を示すnを組み合わせた「un」の部分は読み飛ばして省略。
  • اَلدِّينُ [ ad-dīnu ](アッ=ディーヌ)
    定冠詞「al-」(アル)がついた上で、主格を示す母音のuをきちんと発音した場合です。非限定名詞ではなくなったのでnはつきません。また定冠詞がついて限定名詞になったので太陽文字の [ d ] の音なので、促音となりアルからアッに変わります。定冠詞をつけると「the 宗教」となり、それがイスラームという特定の宗教を意味することを示唆します。
  • اَلدِّينُ [ ad-dīn(u) ](アッ=ディーン)
    語末の格母音uを省略した時の発音です。
  • اَلدِّينِ [ ad-dīni ](アッ=ディーニ)
    「高さ、高み」という意味の عَلَاءٌ [ ‘alā(’u) ](アラーゥ、アラーッもしくはアラー)を後ろから所有格(属格)支配する時は、語末が主格のuから所有格(属格)を表すiに変わります。この状態で複合語化するのを待機させます。

複合名 علاء الدين になってからの発音

  • عَلَاءُ الدِّينِ [ ‘alā’ud-dini ](アラーウ・ッ=ディーニ)
    複合名では2語の間で息継ぎせずに一気読みするのが普通です。まず、隠れて待機していたハムザの声門閉鎖音 [ ’ ] が復活。それに続く語末格母音uも復活。定冠詞「al-」[ (’)al- ](アル)の語頭にあるハムザは前の語と一気読みする時には発音しない「ハムザトルワスル」なので抜け落ちます。
    2語目のal-dīnは語末まで完全に読むと所有格(属格)のiがあるのでアラーウ・ッ=ディーニとなります。
  • عَلَاءُ الدِّينِ [ ‘alā’u-d-dīn(i) ](アラーウ・ッ=ディーン)
    2語目のal-dīn語末にある所有格(属格)のiを省略するワクフという読み方です。
  • عَلَاءُ الدِّينِ [ ‘alā(’u)-d-dīn(i) → ‘alā-d-dīn ](アラー・ッ=ディーン)
    アラーの部分のハムザと格母音はくだけた読み方だとほぼ省略されただの長母音āで終わっているアラーのようになってしまいます。学術的なルールとは関係の無い一般人の英字表記では ع [ ’ ]( アイン)や ء [ ’ ](ハムザ)の子音を示す記号とか長母音の横棒は書かないのが普通なので、英字表記もAlaaとかAlaになります。この場合は2語の間のカタカナ「ウ」を抜いた方が実際の発音に即したものとなります。
  • عَلَاءُ الدِّينِ [ ‘alā(’u)-d-dīn(i) → ‘ala-d-dīn ](アラッディーン)
    口語では1語目の語末に来る声門閉鎖音/声門破裂音ハムザ(=「’」の部分)をすっ飛ばして読む傾向が強く「アラー」になりがちですが、āと伸ばす長母音の直後に定冠詞al-が来ると、長母音āは短母音にaになり、定冠詞al-のa部分が発音上スキップされ「アラッディーン」に近くなります。これが英語風のアラッディンという読みに最も近いかと思います。

記号を含めたローマ字表記は、アラビア語でアラーウ・ッ=ディーンという読みになることから

  • ‘Alā’ al-Dīn
    つなげ読みを反映せず、太陽文字による定冠詞「al-」の同化も反映しないバージョン。
  • ‘Alā’ ad-Dīn
    つなげ読みは反映しないものの、太陽文字による定冠詞「al-」の同化と発音の「ad-」化を反映したバージョン。
  • ‘Alā’ ud-Dīn
    2語はくっつけて書かないものの、つなげ読みした時の格母音uの出現を反映して定冠詞部分を「ud-」にしたバージョン。

そして長母音の横棒を取り去ってaを1文字にしてしまうか、aaと2文字続けてアラーの長母音を反映させるかの違い。

  • Alaa al-Din 、 Alaa ud-Din
  • Ala al-Din 、 Ala ud-Din

最後に、2語をくっつけてしまうと

  • Alaauddin
  • Alauddin

1語目の語末の格母音uを省略してしまったバージョンもあります

  • Alaaddin
  • Aladdin

最後にたどり着いた「Aladdin」はディズニー映画でも有名になったアラジンの英字表記になります。ここまで来てしまうとアラビア語での原型が [ アラーウ・ッ=ディーン ] という発音だったことをつきとめるのは難しくなっています。英語でのアラッディンという読みや、アラジンというカタカナ表記はここから生じたものになります。