英字表記されたアラビア語の名前とカタカナ化~(口語編)定冠詞el-やil-

口語アーンミーヤと定冠詞の変化

アルからエル、イルへ

文語の定冠詞「al-」[’al-] [ アル= ]については別ページ『英字表記されたアラビア語の名前とカタカナ化~定冠詞al-(アル)と複合名』で紹介した通りです。

エジプト方言など口語によってはこの「al-」[ ’al- ] [ アル= ] が「el-」[ ’el- ] [ エル= ]などに変化します。元々アラビア語由来の名前で定冠詞を含む人名の場合、定冠詞「al-」が「el-」[ ’el- ] [ エル= ] もしくは「il-」[ ’il- ] [ イル= ]になっていることがしばしばあります。

この場合は口語に即してエルやイルとしてカタカナ表記します。

定冠詞「al-」部分をエルで読むかエッやエンで読むか

口語における定冠詞「el-」[ ’el ] [ エル= ]、「il-」[ ’il- ] [ イル= ] も文語同様に太陽文字の同化が起きます。

定冠詞エルの後に来る文字の発音する場所が「l」から近い場合と遠い場合とで読み方が違います。調音部位がlから遠い場合はそのまま [ エル= ] / [ イル= ]。近い場合は同化して [ エッ= ] / [ イッ= ] や [ エン= ] / [ イン= ] に変わります。

音が同化を起こす月文字と太陽文字の仕組みは文語と同じですが、注意が必要なのは口語だとアルファベットを違う子音で発音することが多く、エジプト方言などでは文語で [ j ] と発音する ج を [ g ] で読む場合には太陽文字となって同化を起こすことがあるといった特徴が見られます。

口語でどのアルファベットが違う音で発音されるのかについては『英字表記されたアラビア語の名前とカタカナ化~アルファベットと語根』で紹介しています。

月文字 =「l」部分を「ル」にする

ب [ b ]、ج [ j ]、ح [ ḥ ]、خ [ kh ]、ع 、[ ‘ ]、غ [ gh ]、ف [ f ]、ق [ q ]、ك [ k ]*、م [ m ]、ن [ n ]、ه [ h ]、و [ w ]、ي [ y ]、ء [ ’ ]

定冠詞のlに音が同化しないアルファベットの発音です。( *ك [ k ] についてはエジプト方言などでは太陽文字として発音されることがあります。)

→ el-ba〇〇(エル=バ〇〇)、el-bi〇〇(エル=ビ〇〇)、el-bu◯◯(エル=ブ〇〇)

太陽文字 =「l」部分を「ッ」(nのみン)にする

ت [ t ]、ث [ th ]、د [ d ]、ذ [ dh ]、ر [ r ]、ز [ z ]、س [ s ]、ش [ sh ]、ص [ ṣ ]、ض [ ḍ ]、ط [ ṭ ]、ظ [ ẓ ]、ل [ l ] + ج [ g ](エジプトのカイロ方言など)

定冠詞のlに音が同化するアルファベットの発音です。

  • el-sha〇〇(エッ=シャ〇〇)、el-shi〇〇(エッ=シ〇〇)、el-shu◯◯(エッ=シュ〇〇)

    音の同化を起こす太陽文字では、英字表記の定冠詞のalを同化後の子音に書き換えることもあります。(いずれのつづりでもカタカナ化では「エッ=◯◯◯」とします。)
    esh-sha◯◯(エッ=シャ◯◯)、esh-shi◯◯(エッ=シ◯◯)、esh-shu◯◯(エッ=シュ〇〇)

ただしnのみは「ン」とします。

  • e-na◯◯(エン=ナ◯◯)、el-ni◯◯(エン=ニ◯◯)、el-nu(エン=ヌ◯◯)

    音の同化を起こす太陽文字では、英字表記の定冠詞のalを同化後の子音に書き換えることもあります。(nの場合カタカナ化では「エン=◯◯◯」とします。)
    en-na◯◯(エン=ナ◯◯)、en-ni◯◯(エン=ニ◯◯)、en-nu(エン=ヌ◯◯)

口語の定冠詞と実際のカタカナ化

実際の発音に即したカタカナ化は上に挙げた通りです。しかしネイティブが自分の名前を日本語で表記している実例を見ると、同化が起きている太陽文字であっても「エル」と表記していることがほとんどであるように感じます。