サウジ ミスク財団マンガプロダクションズのグレンダイザー事業

目次 | 概要 | スタジオ | 主役声優 | OP歌詞&訳 | サウジアラビア | イラク

マンガプロダクションズ社について

マンガプロダクションズの経営母体ミスク財団

サウジアラビアのエンタメ事業は王太子(皇太子)・首相主導の王国公式政策

ダイナミック企画とライセンス契約を結びアラブ地域でのアラビア語版制作を行っているのは、サウジアラビア王国で実質的トップの座にあるムハンマド・ビン・サルマーン王太子(皇太子)兼首相(1985年8月31日生まれ)です。

サウジアラビアでは石油産業に代わる各分野の振興と娯楽重視政策が短期間で強力に押し進められており、近頃話題になている世界各国有名サッカー選手らの超高額リクルートなどもその一環となっています。

近年日本ではサウジアラビアのアニメ・マンガ・ゲーム、スポーツ、フェスティバル開催に関する報道が増えていますが、基本的にこれらは皆王国の国家事業・国策事業なのですが、それらを全部統括して全権が集中している先がこのミスク財団所有者であるムハンマド・ビン・サルマーン王太子(皇太子)となっています。

彼の父親であるサルマーン国王が2023年夏時点で87歳と高齢であることから、グレンダイザーリメイク事業は将来的にサウジアラビア国王による国家事業に切り替わる可能性も考えられます。

ミスク財団概要

アラビア語名称:مُؤَسَّسَةُ الْأَمِيرِ مُحَمَّدِ بْنِ سَلْمَانَ بْنِ عَبْدِ الْعَزِيزِ الْخَيْرِيَّةُ
アラビア語略称:مُؤَسَّسَةُ مِسْك الْخَيْرِيَّةُ
英語名称:Prince Mohammed bin Salman bin Abdulaziz Foundation
英語略称:MiSK Foundation
日本語略称:ミスク財団
公式サイト:https://misk.org.sa/en/

グレンダイザー事業を担当しているマンガプロダクションズはムハンマド王太子(皇太子)直轄の非営利財団、通称「ミスク財団」の傘下会社です。

「ミスク財団」自体はエンターテインメント専門機関ではなく、次世代育成各種事業、子育て・教育支援、各国へのサウジアラビア人留学生派遣、世界各社と協定を締結しての技術研修などを幅広く実施。非営利財団とはいうものの、サウジアラビア王国のあらゆる事業に関与し驚くべき規模で活動を展開しているとの印象です。

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グレンダイザーは石油王案件か?

日本ではアラブ人富豪というと「石油企業を私有している大社長」「石油を掘り当てて金持ちになった石油王」というイメージを抱く方が多いのですが、アラブ諸国において石油採掘は国有事業なのでそうした意味での石油王は存在しません。

グレンダイザーリメイク事業の場合は「有数の産油国であるサウジアラビア王国が持っている各油田から得られる収入に支えられた莫大な財源を管理できる立場にある王太子(皇太子)の意向で、公的資金を使った大型事業の一環として行われている案件」という、もっと壮大なスケールになっています。

トップであるムハンマド王太子(皇太子)が東映作品の大ファンである件について

マンガプロダクションズ経営母体であるミスク財団を所有するムハンマド王太子(皇太子)は、大の東映作品好きで有名です。王太子(皇太子)に指名されるよりも遥か前の王子時代から東映アニメーションに接触しており、当時からグレンダイザー関係の事業を希望していた可能性が考えられます。

2021年5月に公開された『海外市場開拓の紹介』という動画で東映アニメーションの清水慎治顧問が提携の経緯を語っているのですが、事の始まりはサウジアラビアがまだ観光客の受け入れをしていなかった約10年前、つまりは2011年頃ということになるでしょうか。

当時はまだサウード家王族の王子という肩書きだったムハンマド王太子(皇太子)が東映の清水氏らを招聘し歓待。東映作品の大ファンだというムハンマド王太子(皇太子)はその時既にサウジアラビアがアニメ産業に参入することを希望していたようで、清水氏といつか一緒に仕事をしようという話になったのだとか。

関係者インタビューによると”ディズニー作品なんかに押されている場合じゃない、東映がんばれ”といった意欲を表明したという現王太子(皇太子)。

それが東映アニメーションとの総合的な提携関係という形で結実。『きこりと宝物(キコリと宝物)』、『アサティール 未来の昔ばなし』、『ジャーニー 太古アラビア半島での奇跡と戦いの物語』を生み出すこととなりました。

マンガプロダクションズやミスク財団傘下の企業、そして別系統のムハンマド王太子(皇太子)指揮下にある Manga Arabia(مانجا العربية / マンガ・アラビア)はその後も様々な契約を日本企業と結んでいき、アラビア語版制作事業を拡大し続けています。

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グレンダイザー事業を実際に担当しているマンガプロダクションズ

概要

مَانْجَا لِلْإِنْتَاجِ
[ māngā li-l-’intāj ] [ マーンガー・リ・ル=インタージュ ]

英語名称:Manga Productions
日本語名称:マンガプロダクションズ

ミスク財団傘下の会社で、アニメーション・マンガ・ゲームを制作。コンテンツ配信事業もこちらの担当です。

2019年に東京支社(2023年現在所在地:港区虎ノ門2-10-4 オークラプレステージタワー10階)をオープン。スタッフは全員アラブ人という訳ではなく、従業員リストなどによると既に実績のある欧米出身の人物をライター等として雇い入れてもいるようで、サウジ他の若手育成とコンテンツ制作の推進に役立てている模様です。

CEO

ムハンマド王太子(皇太子)からアニメ・マンガ・ゲーム事業を任されここのCEOをずっとされているのが

عِصَام بُخَارِيّ
[ ‘iṣām bukhārī(y) ] [ イサーム・ブハーリー ]
公式英字表記:Essam Bukhary
公式日本語表記:ブカーリ・イサム、イサム・ブカーリ
Twitter:https://twitter.com/essambukhary

氏です。ブハーリーは「(ウズベキスタンの都市)ブハラ出身の」というファミリーのルーツを示す語で、CEOの一族がウズベキスタンルーツのサウジアラビア住民であることを表しています。

日本における標準的なカタカナ表記に基づけばイサーム・ブハーリーとなるのですが、昔からご本人が氏名を逆にしてkhをカ行とする「ブカーリ・イサム」と使っていたので後者の方が公式表記ということになります。また最近ではアラブ式の順番に戻した「イサム・ブカーリ」の語順でプレスリリースに登場するようにもなってきています。

早稲田大学・大学院卒業。アラブ イスラーム学院文化・広報部長、サウジアラビア王国大使館 文化部 文化アタッシェ、東海大学国際教育センター客員教授、ARINAT社CEOなどを経て現職。キング・アブドゥルアズィーズ大学准教授。

*ARINATはガイナックスとの合作でアニメ『砂漠の騎士』を制作する予定であることを予告していましたが、その後活動が止まってしまったようでサイトの更新も無く砂漠の騎士もリリースされていません。

東京在住時代にはNHKラジオアラビア語講座『話そう!アラビア語』にも出演。東京にあるサウジアラビア大使館に在籍されていた時には留学生事業を牽引するなど色々な業績をお持ちの方だといった印象です。

早稲田の学生だった頃から日本のメディアとはつながりがあり、アラブ人離れした行動力と意思の強さを持った人物でした。サウジアラビアにおけるアニメ・マンガ・ゲーム事業の成功は彼がいてこそだったと言っても過言ではないと思います。

『グレンダイザーU』発表会の場にいた「石油王」「社長」と言われている人物が彼で、石油王や石油業界の社長ではなくムハンマド王太子(皇太子)からアニメ・マンガ・ゲーム事業を任されている実働部隊の大元締め的な役割を負っている現場のトップです。

サウジアラビアのアニメ・マンガ事業が軌道に乗る前にプロトタイプ的な組織が作られた初期からずっとこの業界の陣頭指揮をとっており、ミスク財団の別会社が買収したSNKの入社式などにも参加。サウジアラビアや日本のメディアにスーツ姿もしくは伝統衣装にて度々登場されています。

ダイナミック企画との提携・契約

ダイナミック企画との共同事業ProjectG(プロジェクトG)

世界各社との契約締結を定期的に発表しているマンガプロダクションズは、2022年8月26日にダイナミック企画(Dynamic Planning)との提携関係スタートを発表

グレンダイザー新作計画 ProjectG(プロジェクトG)を立ち上げました。

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中東でのライセンス獲得

2022年11月18日(現地公式Twitterアカウントでは11月17日)、マンガプロダクションズが日本のダイナミック企画から『UFOロボ グレンダイザー』IPライセンスを獲得した件が発表されました。

両者は戦略的パートナーシップ契約を締結。マンガプロダクションズへのライセンス供与、中東地域でのゲーム・アミューズメント施設・イベントでのキャラクターの利用が認められることとなりました。

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巨大グレンダイザー像建設

ギネス記録達成のグレンダイザー立像

ダイナミック企画とパートナーシップ契約を結び新作制作計画を発表したサウジアラビア王国ムハンマド王太子(皇太子)直営団体ミスク財団傘下マンガプロダクションズ(Manga Productions)が2022年12月に全高33.7mのグレンダイザー銅像(巨大金属製フィギュア)を建設。ギネス認定され話題になりました。

*33.7mはアニメ内設定の30mよりもやや大きめ。

巨大グレンダイザー像が作られたのは موسم الرياض(Riyadh Season、リヤード・シーズン/リヤド・シーズン)2022という大型フェスティバル内に設けられた世界の街を体験できる Boulevard World 区域でした。

立像・フィギュアとイスラームについて

「偶像崇拝を許さないイスラーム教でしかもワッハーブ派のサウジアラビアにこんなものを作っても大丈夫なのか?」と思われる方も多いと思うのですが、サウジアラビアは開放政策と娯楽重視方針によりそれらのタブーに関しては全て押し切って進めている形となっています。

*ちなみにネットでは「サウジアラビアはまだまだイスラームの戒律に厳しいのに王太子(皇太子)がアニメ好きなためコスプレを例外扱いとし髪の露出を許した」「王太子(皇太子)の力でイスラームの戒律が変えられた」といった解説記事も見かけますが、そのような事実は無いです。サウジアラビアでは同じ王太子(皇太子)主導による開放政策の一環としてヒジャーブ(ヴェール)着用義務が廃止されており、アニメに限らず男女混合でのライブコンサート参加やハロウィン行列など公共の場での髪の毛露出を許していった結果によるものです。

国民の皆が希望して作られたわけではないのですが、国の実質トップである王太子(皇太子)殿下の意思は絶対的であること、人間の銅像よりもアニメキャラについては抵抗感が少ないことからイベント会場に作られることが増えてきています。

フィギュアについてもマンガプロダクションズの事業と連動した商品発売が行われており、東映との共同制作『ジャーニー 太古アラビア半島での奇跡と戦いの物語』では日本のアニメ事業を真似て各種公式グッズも作られました。主人公アウスのフィギュア限定販売も行われるなど、マンガプロダクションズがやってみたいと思っていたであろう様々な試みが実行に移された形です。

こちらがマンガプロダクションズ公式フィギュア第1弾で、グレンダイザーの限定フィギュアは第2弾ということになるかと思います。

ゲーム

『UFOロボ グレンダイザー:たとえ我が命つきるとも』

アラビア語版

マンガプロダクションズは2023年11月14日発売予定のゲームアラビア語版『 مغامرات الفضاء جريندايزر: وليمة الذئاب 』(ムガーマラートゥ・ル=ファダー(ッ)・グレーンダーイザル:ワリーマトゥ・ッ=ズィアーブ、意味は「宇宙の冒険グレンダイザー:狼たちの饗宴」)を発表。

開発元はフランスのゲームスタジオ ENDROAD で、パブリッシャーは同じくフランスの Microids となっています。

日本では告知が行われなかったようですが、初期にはマンガプロダクションズ側が敵側怪獣のデザインコンテンストを実施。プロジェクトを盛り上げるなどしています。

日本語版

日本語版アナウンストレーラー。アラビア語とはタイトルが違っており『UFOロボ グレンダイザー:たとえ我が命つきるとも』とだとのこと。

日本語版についてはリリース日が2023年11月13日であるとの記事を見かけます。アラブ地域とは1日ずれているということでしょうか。

特典の限定フィギュアも用意

セット商品を購入するとついてくるという限定フィギュアは高さ25cm。デザイン・製造はフランスPlastoy(プラストイ)社だとのこと。

ゲーム本体同様、中東と並ぶ強力なグレンダイザー(フランス語題名:Goldorak(ゴルドラック))ファンの牙城であるフランスの各社が担当している形となっています。

2024年放映予定TVシリーズTVアニメ『グレンダイザーU』

『グレンダイザーU』について

概要

ゲームに続き2023年8月には新作TVアニメ『グレンダイザーU』が2024年放映予定であるとの発表も。キャッチコピーは「宙(そら)と大地よ、思い出せというのか?」。

上はアラビア語版のプロモ動画なのですが、1:15あたりにマジンガーZが出てくると気付いた一部のファンたちが作中での登場に期待を寄せている様子。

公式サイト

スタジオ・スタッフ

  • 監督:福田己津央
  • 脚本:大河内一楼
  • キャラクターデザイン:貞本義行
  • オリジナルサウンドトラック:田中公平
  • アニメーション制作:GAINA(ガイナ、元福島ガイナックス)

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日本でも話題になったドリームチーム的な豪華スタッフ

新作アニメ発表会での様子を伝える投稿。右端にいるのは王太子(皇太子)でも石油王でもなく、マンガプロダクションズの経営を任されているCEO イサム・ブカーリ(ブカーリ・イサム)博士です。

監督の福田氏本人が「よく考えると恐ろしいメンツでした」とコメントされている通り、映画『ジャーニー 太古アラビア半島での奇跡と戦いの物語』の時同様、アニメ好きが高じてマンガプロダクションズに入社を果たしたという経路をたどっていることが多いサウジ側関係者たちが考えたであろう夢の布陣となっており、日本でも話題になっている様子。

ジャーニーでは日本の他作品では考えられないような予算が投入。大々的に宣伝され各国語版も超豪華な声優陣を揃えるなど「ぼくらが考えた最強のアニメ」と呼べるような採算度外視とも言える大型事業となりました。『グレンダイザーU』も制作陣の顔ぶれに加え、驚くような豪華声優陣を発表していく可能性が高いのでは、と思われます。

キャラクター

主人公はオリジナルと同じデューク・フリード(宇門 大介)。初代アラビア語版ではドゥーク・フリード、ダイスケとのキャラクター名でした。

ネット上のアラビア語コメントを見るとリメイクが嬉しいという喜びの声に混じって「こんなの全然ダイスケじゃない」「美しい子供時代の思い出として刻まれていた清廉なダイスケはそのままにしておいてほしかった」「あのダイスケの威厳はどこいった?」「ダイスケは威厳に満ちた漢だったのになよっとしたティーンエージャーになっちゃった」「雄々しかったのにク◯みたいな見た目になった」といった厳しいコメントも…

グレンダイザーアラビア語版はアラブ世界でも最高峰扱いされている伝説的アニメなので、ファンからも色々な意見が出ている模様です。

兜 甲児は初代アラビア語版ではコージ・カブトのキャラクター名で登場。アラビア語版ではレバノンで放送作家として活躍していたパレスチナ人が担当。主役声優(レバノンの有力者家系出身の俳優)と共に熱演し名コンビとして人気に。

ターゲット地域は?何語版が用意される?

制作に関わっている日本、そしてサウジアラビアと同じアラビア語が通じるMENA地域(アラビア半島から北アフリカにかけてのアラブ連盟諸国)、マンガプロダクションがプロモ映像を用意している英語版フランス語版イタリア語版が作られることが予想されます。

マンガプロダクションズは『ジャーニー 太古アラビア半島での奇跡と戦いの物語』を公開した頃に世界各国の会社と契約を締結しており、『グレンダイザーU』コンテンツ配給に必要な態勢は既に整っている状態だと言えます。

マンガプロダクションズの関与

マンガプロダクションズの担当部分

マンガプロダクションズが行うのは海外配信、ライセンシングだとのこと。CEO自らの日本語コメントでは資金提供の有無、作品への具体的関与、サウジ人・アラブ人スタッフの参加については一切触れられていません。

日本では「石油王が出資した」「サウジ王族の資金投下で豪華メンバーを集めた」と話題になっていますが、今のところどれぐらいの範囲でマンガプロダクションズが関わっているのかという詳細は出回っていない模様です。

ちなみに東映アニメーションと共同制作で映画『ジャーニー 太古アラビア半島での奇跡と戦いの物語』を作った時には、日本語版とアラビア語版あわせてのだいたいの予算額として1000~1500万ドル(USD)だと報じられたことがありました。当時のレートで日本円に換算すると十数億円。CEOは無駄遣いにならない程度に良作を作れるだけの適度な予算だと言った程度で公式に金額を明言した訳ではないのですが、1本の日本アニメ映画としては非常に高額だったようです。

日本での公開規模が非常に小さかったこと、宣伝のために山手線などでラッピング電車を走らせたり映画館が遠くて見に行けないとSNS投稿した方のために会場を借り切ってお一人様上映会をプレゼントしたりしていたこと、サウジアラビアでは観覧料に公的補助金が出たことから元手は全く取れていないものと思われます。

赤字に構わずやりたいことをやりきったように見受けられたので、『グレンダイザーU』にも出資するとなると再び採算度外視の巨額資金投下になることも予想されます。

ガイナックスとマンガプロダクションズとの接点について

「なぜ東映ではなく元福島ガイナックスというガイナックス時代の主力が抜けてしまったGAINA(ガイナ)が制作することになったのか?」「サウジアラビアの王族や会社はガイナックスの内情を知らずに依頼してしまったのではないか?」といった疑問の声をネット上て見かけます。

これに関する情報を管理人考察を交えつつまとめてみたいと思います。

マンガプロダクションズCEOは過去にガイナックスとの共同事業経験あり

ネットでは「なぜGAINA(ガイナ)に?」という声もあるようですが、マンガプロダクションズCEOはミスク財団事業が開始する前に ARINAT(アリナト)というスタジオのCEOをしておりその際ガイナックスとの共同制作計画を発表したことがありました。

以前からの縁が続いていて元福島ガイナックスであるGAINA(ガイナ)にも当時の事業に関わったアニメーターさんたちがいるということも考えられるかもしれません。

『グレンダイザーU』発表会の端に居たアラブ服のCEO自身が ARINAT(アリナト)時代に共同事業『砂漠の騎士』担当者としてガイナックスとプロモビデオまで作ったりしていたことから、ガイナックスの経緯を全く知らず何の接点も無かったアラブの会社が「中の人たちが『新世紀エヴァンゲリオン』を大好きだったから」という理由で突然コンタクトを取ってきたのとは大きく違っているものと思われます。

ブカーリ・イサム(イサム・ブカーリ)CEOは早稲田の学生時代から日本のメディア関係各社とつながりがある人物でそれ以来ずっとサウジアラビアと日本各社との契約締結に貢献してきた人物なので、共同制作事業頓挫後のガイナックスの顛末も把握しておられるのではないでしょうか。

なお、当時の報道からガイナックスの社長が山賀博之氏だった時代のことだったと確認が可能です。

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サウジアラビアARINATとガイナックス

公式SNS:https://twitter.com/arinat_official

ARINAT(Arab Innovative Arts and Technologies、アリナト)は今はもう活動していないスタジオで、ムハンマド王太子(皇太子)が権限を持っているSaudi Research & Marketing Group(サウジ・リサーチ・アンド・マーケティング・グループ、略称SRMG)」の傘下にあった会社です。

CEOはサウジアラビア王国アニメ・マンガ・ゲーム事業のキーパーソンであるブカーリ・イサム(イサム・ブカーリ)現マンガプロダクションズCEOがを務めていました。

アニメ・コミック・ゲームなどコンテンツ・ビジネスを手がけべく2016年夏に設立。ガイナックスとの合作

فَارِسُ الصَّحْرَاءِ
[ fārisu-ṣ-ṣaḥrā’ ] [ ファーリス・ッ=サフラー(ッ)/サハラー(ッ) ]
*厳密な文語発音はサフラーゥ/サハラーゥとサフラーッ/サハラーッの中間に近い読み方をします。
日本語題名:砂漠の騎士
英語題名:Desert Knight

『砂漠の騎士』を計画しトレーラー(トレイラー)動画をアラブ首長国連邦のアブダビで開催された日本ポップカルチャーイベントでお披露目上映したのですが、その後プロジェクトは進まず正式リリースには至らず。ガイナックス内紛が激化した時期に当たるので、色々とあったのかもしれません。

この後サウジアラビア王国による国策アニメ事業はミスク財団のマンガプロダクションズに、マンガ事業はARINATの経営母体でもあったサウジ・リサーチ・アンド・マーケティング・グループが2021年創刊した月刊コミック雑誌『مَانْجَا الْعَرَبِيَّة』(Manga Arabia、マンガ・アラビア)編集部が担っていくこととなりました。

マンガ・アラビアの編集長はこれまたブカーリ・イサム(イサム・ブカーリ)現マンガプロダクションズCEOが務めているのですが、KADOKAWA、小学館、集英社、講談社、白泉社と契約を結び有名日本作品のアラビア語翻訳ライセンスを獲得。紙と電子版両方の月刊誌としてサウジアラビア国内外に無料配布しています。

2016年にガイナックスがアラブ首長国連邦(UAE)アブダビで開催されたイベント「ANI:ME」に出展した時の様子です。ブカーリ・イサム(イサム・ブカーリ)CEOとエグゼクティブディレクターのアムル・アル=マッダーフ(Amr Al-Maddah)博士*らの話によると

現地記事によるとアムル・アル=マッダーフ氏は日本留学経験があり大阪大学で修士号・博士号を取得されたとのこと。ARINATとマンガプロダクションズという2つの国営アニメ事業会社を経て、現在はイスラームの巡礼を司るサウジアラビア王国政府ハッジ・ウムラ省の要職にあるとのこと。

  • ビジョン2030発表によりムハンマド王太子(皇太子)主導のエンタメ振興政策が始まった。
  • ブカーリ・イサム(イサム・ブカーリ)CEOが在日サウジアラビア王国大使館文化アタッシェを務めていた時代、当時副王太子(副皇太子)兼国防大臣だったムハンマド現王太子(皇太子)が来日し日本の各社との各ジャンル文化事業につながるような協定が結ばれた。
  • サウジアラビアに合うアニメ作りのパートナーとして老舗のガイナックスが選ばれた。

という経緯だったことがわかります。

これに対し取材者が「アラブのアニメファンはガイナックスの『エヴァンゲリオン』や『天元突破グレンラガン』が好き」「アラブ首長国連邦はアメリカとの共同制作でアニメ映画『ビラール』を作りましたが、サウジは日本の会社と共同制作するんですね」ともコメントしており、

  • サウジ側は自分たちが好きなアニメを作った、合作にOKしてくれた、といった理由からガイナックスを選んだ。
  • 約7年前に一度挑戦したガイナックスとの合作は未完に終わったが、元福島ガイナックスであるGAINA(ガイナ)がその再チャレンジのパートナーとして選ばれ今回の『グレンダイザーU』制作会社に決まった。

という背景があったものと推察できそうです。

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グレンダイザーを作った東映になぜ依頼しなかったのか?

サウジアラビアとの付き合いが非常に長い東映アニメーション

サイト内関連記事の『サウジアラビアの娯楽庁、アニメ・マンガ・ゲーム事業、ミスク財団について』、『サウジアラビア ミスク財団マンガプロダクションズのアニメ・マンガ・ゲーム事業』でも紹介している通り、サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマーン王太子(皇太子)は大の東映アニメ好きとして有名で、10数年前の時点で既に自分の側から東映にコンタクトを取り共同制作の打診をしています。

その関係で『グレンダイザーU』制作に関わっているミスク財団マンガプロダクションズは東映アニメーションとの間で協力な提携関係を結んでおり、

を見てもわかる通り、かれこれ5年ほど共同制作事業を続けており、現在も進行中となっています。

ミスク財団マンガプロダクションズと東映との合作

『きこりと宝物(キコリと宝物)』
2018年5月20日、テレビ東京にて放送
アラビア語版収録は東京にある東映デジタルセンターで実施。サウジアラビア、イエメン、イラク等在住の有名声優らを日本に招聘してアフレコ。

『アサティール 未来の昔ばなし』
2020年4月4日~、J:COMのコミニティチャンネルJ:テレにて放送
サウジアラビア側のアニメーターを教育する技術研修も兼ねた合作を行うという契約内容のため、東映アニメーションとマンガプロダクションズとの人的交流も。2022年頃には第2シーズンの制作も進行。シーズン2はムハンマド王太子(皇太子)による近未来都市・スマートシティーNEOMが舞台でNEOMとの提携が発表済。

『ジャーニー 太古アラビア半島での奇跡と戦いの物語』
2021年夏にアラブ諸国と日本の複数映画館で公開
日本ではAmazonなどでオンデマンド配信中
その後英語版、ドイツ語版、中国語版などが追加されており2023年も事業は継続中。声優陣が豪華極まりないドリームチーム状態なのも特徴で、日本語版の主要キャラを古谷徹、三石琴乃、神谷浩史、中村悠一、中井和哉、黒田崇矢各氏が担当。

東映アニメーションと制作ラインの話

元々TVシリーズ『アサティール 未来の昔ばなし』を共同制作していた東映アニメーションですが、それとは別に映画『ジャーニー 太古アラビア半島での奇跡と戦いの物語』を作ることになった際、既に東映の制作ラインは埋まっていて直接引き受けるだけのリソースを確保できなかったことから、外部のアーチや横浜アニメーションラボが加わることになったのだとか。

そのためジャーニーは

  • 制作会社:マンガプロダクションズ、東映アニメーション
  • 製作:マンガプロダクションズ、東映アニメーション
  • 制作:マンガプロダクションズ、東映アニメーション、横浜アニメーションラボ、アーチ

という分業体制で作られました。

そうした経緯から、マンガプロダクションズによるガイナックス事業リベンジという側面以外にも、東映アニメーションにはグレンダイザー新作の依頼を引き受ける余裕が無かったという可能性も考えられそうです。東映アニメーション決算にもサウジアラビアとの新作予定は『アサティール 未来の昔ばなし 2』しか記載されてこなかったので、最初からそういう話は無かったものと思われます。