サウジアラビアの娯楽庁、アニメ・マンガ・ゲーム事業、ミスク財団について

後半で管理人が好き勝手に雑談しているので長いです。目次から必要な部分の拾い読みをお願いいたします。

  1. サウジアラビア(総合)娯楽庁
    1. (総合)娯楽庁の概要
    2. トゥルキー・アール・アッ=シャイフ長官
    3. 映画館やポップコンサートなど各種エンタメの大規模解禁
    4. アニメエクスポの開催、大型フェスティバルでの大型アニメブース設置
  2. サウジアラビアとメディア・娯楽産業について
    1. 国家事業・国策としてのアニメ・マンガ・ゲーム・スポーツ産業
    2. 新聞・ニュース発行会社
    3. ムハンマド王太子(皇太子)直轄の非営利財団「ミスク財団」
    4. テレビ局・メディア
    5. 投資ファンド
  3. サウジアラビアのアニメ・コミック・ゲーム事業とミスク財団
    1. ミスク財団はサウジアラビア王太子(皇太子)の機関
    2. ミスク財団の活動内容は多岐にわたる
    3. 日本企業との提携
  4. ミスク財団傘下会社マンガプロダクションズとは
    1. マンガプロダクションズ概要
    2. CEO(最高経営責任者)
    3. マンガプロダクションズの歴代作品
    4. グレンダイザー事業
  5. ビデオゲーム開発
    1. ゲーム産業確立を目指して
    2. サウジ人ゲームキャラ「ナジュド」の投入
  6. サウジアラビアの若手クリエイターたちの思い
    1. アニメーター:ファラフ・アーリフ氏
  7. 色々な話題
    1. 現地アニメファン界隈の反応
    2. サウジアラビア女性のコスプレについて
    3. サウジアラビアとエンターテインメント産業
    4. 「偶像崇拝禁止なのにアニメやゲームに関与しても大丈夫?これって革命的な大事件?」
    5. ワッハーブ派とサウジアラビアの娯楽産業
    6. 日本アニメは平和裏にうまい着地点を用意してイスラームと娯楽の共存を成功させたか?
    7. アニメは厳格なアラブ社会に平和・幸福を運んだのか?~娯楽政策の光と影について
    8. アラブ・イスラーム世界とエンタメの問題
  8. 最後に
    1. 強力なアラブ的リーダーとエンタメ事業
    2. サウジのおたく系国家事業とキーパーソンの多大なる寄与
    3. サウジアラビアの潤沢な国家予算と日本の業界にとっての資金源

サウジアラビア(総合)娯楽庁

日本で報じられているサウジアラビアのアニメ、コミック、ゲーム、コンサート、サッカー、eスポーツ等大型事業はほぼ全部ムハンマド王太子(皇太子)主導の事業です。そうしたエンタメ系のプロジェクトを統括しているのが日本語で娯楽庁もしくは総合娯楽庁と訳されているGeneral Entertainment Authority(略称:GEA)になります。

(総合)娯楽庁の概要

اَلْهَيْئَةُ الْعَامَّةُ لِلْتَّرْفِيهِ
[ hay’atu/hai’atu-l-‘āmma(h) li-t-tarfīh ] [ ハイアトゥ・ル=アーンマ・リ・ッ=タルフィーフ ]
*一般的な読みに基づき2語目と3語目の間を息継ぎした時と同じ切り方で読みガナをつけてあります。
英語名:General Entertainment Authority(GEA)
日本語訳:娯楽庁、総合娯楽庁

ウェブサイト:https://www.gea.gov.sa/

2016年5月7日設立。サウジアラビア王国が発表し2016年4月25日付でうちたてた「Saudi Vision 2030(サウジビジョン2030)」を受けて作られた機関で、国内の娯楽産業・イベント統括や経済振興を目的として活動。

日本語名は単に「娯楽庁」となっていることも多いのですが、サウジ系新聞社日本語版は「総合娯楽庁」という訳を使っています。

トゥルキー・アール・アッ=シャイフ長官

プロフィール

تُرْكِيّ آلُ الشَّيْخِ
[ turkī(y) ‘ālu-sh-shaykh/shaikh ] [ トゥルキー・アール・ッ=シャイフ ]
トゥルキー・アール・アッ=シャイフ
公式英字表記:Turki Alalshikh

*日本ではトルキ・アル=シャイフという表記が使われるなどしていますが文語では上記のような発音で、口語だとトルキー・アール・ッ=シェイフ/シェーフに近い読まれ方をします。
*アル=シャイフと書かれていることもあるため定冠詞のal-(アル=)と間違えやすいのですが、長官のラストネーム部分は「~家」を示すアールという名詞になっています。

آلُ الشَّيْخِ [ ‘ālu-sh-shaykh/shaikh ] [ アール・ッ=シャイフ ] 家はアラビア語で「シャイフ(師)の一家」を意味。タミーム族の系譜で、サウード家によるサウジアラビア王国の建国に関わったハンバル派・ワッハーブ派の法学者 مُحَمَّدُ بْنُ عَبْدِ الْوَهَّابِ [ muḥammad(u) bnu ‘abdi-l-wahhāb ] [ ムハンマド・ブヌ・アブディ・ル=ワッハーブ ](ムハンマド・イブン・アブドゥルワッハーブ)の子孫らが名乗っている家名です。

トゥルキー氏は1981年12月4日生まれ、既婚。クンヤ(通称)は أَبُو نَاصِر [ ’abū naṣir ] [ アブー・ナースィル ](ナースィルの父)。

アラブ諸国で日本アニメの放送本数が本格的に増え始めた頃が子供時代で、20歳前後の時にアニメ専門チャンネルができたりインターネット高速回線普及でファンサブやファンイラストなどが出回り始めたといった感じの世代に相当。

ムハンマド王太子(皇太子)が提唱・推進している形になっているビジョン2030に伴う開放政策から始まった各種イベント(アニメ、ライブコンサート、観光、サッカー、格闘技など)に関わる記者会見によく登場しており、サウジアラビアの娯楽政策のアイコン的存在ともなっています。

アール・アッ=シャイフからの娯楽庁長官任命と国内における議論

アール・(アッ=)シャイフ一族はサウジアラビア王国建国の理念と結びついたワッハーブ派の厳格なイスラームを支え多くの法学者を輩出してきた家系だったため、彼や前任者のようなシャイフ家のメンバーが娯楽庁トップに任命された際には「これまでイスラームと結び付けられてきたアール・アッ=シャイフの家名がエンターテインメント関連の報道が流れるたびに聞かれるようになってしまった。」といった波紋もあったようです。

彼の兄弟はイスラーム関係者一族の伝統に従い宗教家をしているのですが、娯楽・スポーツ路線とは全く違う方向性なので兄弟同士で比較されることもしばしばある模様です。

青年層のアニメ視聴に肯定的なトゥルキー長官

アラブ世界では「アニメ=子供・ファミリー向け」という扱いがずっとされており、アニメを青年以上の年齢が楽しむことに関しては否定的な世論もまだまだあります。

そのような中、トゥルキー・アール・アッ=シャイフ長官はアニメはキッズ専用ではないし日本やアメリカなどでは大人だって視聴しているとTwitterでつぶやき話題となりました。

ご本人は今でもアニメを見るタイプの方らしく、Twitter公式アカウントで好きなアニメ作品として『NARUTO -ナルト-』『ONE PIECE』『鬼滅の刃』『BLEACH』『MONSTER』『進撃の巨人』を挙げています。進撃の巨人の映画が公開された際にも見に行って称賛するコメントを出したことが現地ニュースで報じられていたほどです。

サウジアラビア娯楽庁のトゥルキー・アール・アッ=シャイフ長官は2021年3月中旬に王太子(皇太子)殿下所有ミスク財団傘下のマンガプロダクションズを訪問・激励。サウジアラビア王国関与によるアニメ制作にも積極的に関心を示していることが報道でも伝えられています。

映画館やポップコンサートなど各種エンタメの大規模解禁

映画館解禁

サウジ国内では2020年を迎える少し前の時期に、映画館設置・ポップコンサート開催・女性の自動車運転が解禁に。マンガプロダクションズの新作アニメ映画『ジャーニー』も国内映画館で上映され、サウジ初の豪華アニメ映画が自国でも見られるという運びとなりました。

映画館は解禁後新設が進み、2021年4月時点の報道によれば6つの行政地区に含まれる12の街に合計34館設置。視聴覚メディア総合委員会(General Commission for Audiovisual and Media、略称GCAM)の予測によれば2030年の時点で350館に達する見込みだとのこと。

エンタメイベントの規制緩和・開催数増加・大規模化

コンサートやイベントには規制や禁止事項がつけられた上での開催許可が出た形ですが、娯楽産業の振興の一環としてコミックの祭典Saudi Comic-Con(コミックコン、コミコン)の第1回目が2017年2月中旬に開催。

その後コンサート会場での男女混合も解禁されるなど規制緩和は継続。大型フェスティバルの会場内でのライブコンサートやアニメイベントも増えていき、年々大規模化。

クラブミュージックの屋外ライブ、米国の有名ラッパーがイベントに招かれライブパフォーマンスするというのも定番になりつつあります。

韓流アイドル人気

アジア発コンテンツの普及としては日本よりも韓国などが先行しており、韓国のアイドルグループBTSはサウジアラビアなどのアラビア半島富裕諸国の女子たちを中心に熱狂的ファンを獲得。日本アニメがアラブ人おたく女子を生んだのと同様、韓流スターたちが元々アイドル文化が存在しなかった地域にアイドル追っかけという層を生み出しました。

女性のコンサート観覧が解禁済みのサウジアラビアでも黄色い歓声が飛び交う光景が見られるようになっているのですが、問題視*する層も出ているほどの影響力を持つに至っています。

*元々サウジのような厳格だったイスラーム教国ではクルアーン朗誦を聞かず音楽に夢中になることが宗教的罪とされてきたこと、部族社会では保護者層がこうしたアイドル追っかけや娘がコンサートで熱狂することを歓迎しない傾向が強いこと、アジア人好みの細身な男性芸能人がアラブ的理想の男性像とは異質であることなどから批判されやすい、というのが主な理由となっています。

この動画の字幕にもBTSが保守的なサウジ文化に雪解けをもたらした的なことが書かれていますが、「日本のアニメがサウジアラビア社会を変えた」論同様、開放政策でサウジアラビアにもたらされたエンタメに関しては地元社会に与えた影響について語られることが多いとの印象です。

アニメエクスポの開催、大型フェスティバルでの大型アニメブース設置

2019年頃から増えていったアニメイベント開催

娯楽庁はアニメイベントであるサウジ アニメエクスポ(エキスポ)「SAUDI ANIME EXPO 2019」を開催。行列ができ3日間で3万8千人近い来客があったとか。

作品紹介展示、漫画家トークショー、大物歌手を呼んでのアニソンコンサート、コスプレ大会等が行われ大盛況。

キャラクターデザインコンテストも開かれ、「馬に乗るのが得意で頑丈だけれど優しくて、他人を助けることを厭わない親切なベドウィンの青年」という設定のキャラ مُصْلِحٌ [ ムスリフ ] が第1位に。(サウジ人が自国の人を描いているだけあって正確な衣装・髪型・武器になっています。)

サウジ初のアニメエキスポは電通によるプロデュースだったとのことですが、同社はその後も定期的に開催されているサウジアラビア国内のアニメ関連イベントにも参画しており密接な関係を築いている模様です。

アニメイベントの大型化

サウジアラビアでは年々開放政策・娯楽振興政策が大型化してきており、娯楽庁を通じた王国の公的な方針・事業という形で日本アニメ関連のイベントも規模の拡大を続けています。

巨大グレンダイザー像も作られた موسم الرياض(Riyadh Season、リヤード・シーズン/リヤド・シーズン)2022フェスティバル会場には世界の街を体験できる Boulevard World 区域には日本企業の実行委員会(GEA+SELA+電通)が作ったジャパンアニメタウンが爆誕。その近未来的でサイバーパンクなトウキョウワールドは日本でも話題になったかと思います。

同エリアではアニメイトといったアニメファン向けのショップに加え、大阪にあったガンダム像・ザク像の展示も行われ多くの来客を記録。

こうしたイベントやアニメ・ゲーム関連契約は全てムハンマド王太子(皇太子)主導による国営事業で、それらの実施に関するプレスリリースを日本国内に向けて行っているのも王太子(皇太子)運営機関傘下の会社もしくは結びつきが強い報道機関経由となっており、王太子(皇太子)の絶大なリーダーシップを表すものとなっています。

サウジアラビアとコスプレ

サウジアラビアは他のアラブ諸国と違って経済的な余裕があること、夏の暑さでインドアでも楽しめるアニメやゲームが昔から人気だったことから、元々アニメイベントの人気が爆発的に広がる可能性のある土地柄でした。

コスプレ歴の長いサウジ人もいて、今ではアニメ・ゲームイベントといえばコスプレショーというぐらいに当たり前になってきています。インタビューなどによると人気コスプレイヤー級になると国内イベントに呼ばれて参加しているのだとか。

2022年のサウジ アニメエクスポ(エキスポ)「SAUDI ANIME EXPO 2022」現地リポート。(3:45に登場するアラブ服のコスプレはおそらくサウジアラビア-東映合作映画の主人公アウスかと。)

ダンサーでもあるチャンネル主のMaho氏本人は方言からすると純サウジ人とは違う可能性があり登場するレイヤーさんたちもサウジ人以外が混じっているものと思われますが、会場の雰囲気を知るにはとてもわかりやすい動画となっています。

サウジアラビアはコスプレ姿での来場を推奨していることが多く、気合の入ったレイヤーさんたち以外にもちびっこたちが仮装して国営アニメ・コミック事業のブースで色塗り遊びなどをする光景も見られるようになっています。

ヒジャーブ(ヴェール)を使ったイスラミックな女性コスプレが流行した東南アジアと違い、サウジアラビアはウィッグ(かつら)装着がメジャーな方法である様子。

サウジなどのアラビア半島在住レイヤー女子さんたちのネット雑談を見ていると「コスプレするにはウィッグが欠かせない」「売っているウィッグと衣装を買うだけでコスプレしました、じゃ立派なコスプレとは言えない」といったやり取りも少なくなく、同じイスラーム教地域である東南アジアのヒジャーブコスプレ事情とは大きく違っているのがわかります。

サウジアラビアとメディア・娯楽産業について

国家事業・国策としてのアニメ・マンガ・ゲーム・スポーツ産業

サウジアラビアでは複数の組織が稼働しアニメ・マンガ・ゲーム部門における有名企業との提携・株式取得・若手サウジ人+アラブ人人材の大規模リクルートを行っており、国家提供コンテンツのプロデュースや王家主導による娯楽産業の掌握を急速に推進。元首に近い立場の人物から国民らに各種エンターテインメントが与えられている形となっています。

これらの事業の頂点に立っているのが王国における実質トップの権力・指導力を有しているムハンマド王太子(皇太子)で、サウジアラビア王国の国費からふんだんに注入される資金によって次々に事業が実現・拡大。日本で取り上げられるサウジアラビアがらみのアニメ・マンガ・ゲーム事業の話題のほぼ全部が同殿下関係のプロジェクトとなっています。

サウジアラビアでは女性の自動車運転解禁、頭にかぶるヴェールの義務化撤廃なども近年行われましたが、それらも全てムハンマド王太子(皇太子)主導による開放政策の結果です。

新聞・ニュース発行会社

サウジ・リサーチ&メディアグループ

旧名称:Saudi Research & Marketing Group
新名称:Saudi Research and Media Group
日本語訳:サウジ・リサーチ&メディアグループ
略称:SRMG
公式サイト:https://www.srmg.com/en/

Asharq Al Awsat(アラビア語発音:アッ=シャルク・(ア)ル=アウサト)や Arab News を発行しているメディア企業です。日本語でサウジアラビアがらみのアニメ事業ニュースなどを報道しているArab News Japanもこの系列です。

ARINAT(أرينات / アリナト)

公式SNS:https://twitter.com/arinat_official

正式名称は「Arab Innovative Arts and Technologies」。略称は真ん中が小文字の「ARiNAT」と全部大文字の「ARINAT」が混在。

今はもう活動していないスタジオで、サウジアラビアがアニメ事業を本格化する前に立ち上げられたプロトタイプ的な組織だった模様。当時のインタビューによると当初は日本作品の権利を買って翻訳しアラビア語版作りをする予定だったようなのですが、その後方針転換し日本の会社との共同事業を目指すに至ったのだとか。

ガイナックスとの合作『砂漠の騎士』を計画するもリリースには至らず。ブカーリ・イサム(イサム・ブカーリ)現マンガプロダクションズCEOがARINATのCEOを務めていました。(▶ 詳細は『サウジアラビアにおけるアニメ産業』にて紹介しています。)

2016年にガイナックスがアラブ首長国連邦(UAE)アブダビで開催されたイベント「ANI:ME」に出展した時の様子です。ブカーリ・イサム(イサム・ブカーリ)CEOとエグゼクティブディレクターのアムル・アル=マッダーフ(Amr Al-Maddah)博士*らの話によると

現地記事によると日本留学経験があり大阪大学で修士号・博士号を取得されたとのこと。ARINATとマンガプロダクションズという2つの国営アニメ事業会社を経て、現在はサウジアラビア王国政府ハッジ・ウムラ省の公務員をされているとのこと。

  • ビジョン2030発表によりムハンマド王太子(皇太子)主導のエンタメ振興政策が始まった。
  • ブカーリ・イサム(イサム・ブカーリ)CEOが在日サウジアラビア王国大使館文化アタッシェを務めていた時代、当時副王太子(副皇太子)兼国防大臣だったムハンマド現王太子(皇太子)が来日し日本の各社との各ジャンル文化事業につながるような協定が結ばれた。
  • サウジアラビアに合うアニメ作りのパートナーとして老舗のガイナックスが選ばれた。

という経緯だったことがわかります。これに対し取材者が「アラブのアニメファンはガイナックスの『エヴァンゲリオン』や『天元突破グレンラガン』が好き」「アラブ首長国連邦はアメリカとの共同制作でアニメ映画『ビラール』を作りましたが、サウジは日本の会社と共同制作するんですね」とコメントしています。

ガイナックスとの提携事業は立ち消えになってしまいましたが、2023年に2024年TVシリーズ公開予定が発表された『グレンダイザーU』では元福島ガイナックスであるGAINA(ガイナ)が制作を担当することが判明。古い縁が今でも続いていることを感じさせるニュースとなりました。

Manga Arabia(مانجا العربية / マンガ・アラビア)

公式サイト:https://www.mangaarabia.com/

概要と活動内容

アラブの文化・価値観に合った子供向け作品の提供を目的として創刊されたという無料コミック雑誌ですが、イスラームっぽい話は特に載っていないとの印象。

*キメラ、魔法、魔王、異世界などイスラーム的にはタブーとされる事項がテーマになっている作品も結構含まれています。青少年版については流血、身体欠損、食人も含めたグロ系がやや多めかもしれません。実際学校やスーパーで無料配布されている雑誌を見た親がグロシーンの多さゆえに仰天したという話もネットには上がっています。

毎号サウジオリジナル作品と提携先日本企業作品のアラビア語翻訳とを数作品ずつ掲載。数回で連載終了したものについては他作品に入れ替わっていく方式です。

10~15歳向けのマンガ・アラビア・キッズが先に創刊。16歳~向けのマンガ・アラビアが後続で発刊されました。当初アプリはどちらも日本でダウンロードできたのですが、青少年向けについては現在日本向けアプリストア上での入手は不可となっています。

『進撃の巨人』を始めとする日本の人気漫画のライセンスを次々に取得しアラビア語版化、国内小中学校での無料配布に加え近隣諸国でも配布を行うなど、こちらにも大規模投資が行われています。

編集長はミスク財団傘下のアニメ制作スタジオ Manga Productions(مانجا للإنتاج / マンガプロダクションズ)CEOでもあるブカーリ・イサム(イサム・ブカーリ)博士。サウジアラビアにおけるアニメ・コミック事業のキーパーソンが日本企業との契約にも立ち会うなど活躍。

マンガ・アラビア編集部。オリジナル作品に関してはシナリオ担当、作画担当、彩色担当の分業体制であることも多い様子。

マンガプロダクションズとは実質的な姉妹組織で、Manga Arabia(مانجا العربية / マンガ・アラビア)に高品質な作品を提供したりとセットでニュースに登場することもしばしばです。

アラビア語化・掲載済/中の日本作品例(50音順)

2023年8月現在のデータです。公式SNSにてチェックしました。アプリ経由で創刊号から1冊ずつ閲覧することができなくなってしまったので漏れがあるかもしれません。

KADOKAWA

  • 機動戦士ガンダムAGE‐First Evolution‐(葛木ヒヨン)【キッズ版】
  • SHERLOCK ピンク色の研究(Jay.)【青少年版】
  • 文豪ストレイドッグス(朝霧カフカ、春河35)【青少年版】

講談社

  • 亜人(桜井画門)【青少年版】
  • アヤナシ(梶本ユキヒロ)【青少年版】
  • ヴィンランド・サガ(幸村誠)【青少年版】
  • 空挺ドラゴンズ(桑原太矩)【青少年版】
  • 聲の形(大今良時)【青少年版】
  • 進撃の巨人(諫山創)【青少年版】
  • 東京卍リベンジャーズ(和久井健)【青少年版】
  • とんがり帽子のアトリエ(白浜鴎)【青少年版】
  • 猫ヶ原(武井宏之)【青少年版】
  • はたらく細胞(清水茜)【青少年版】
  • ブルーロック(金城宗幸、ノ村優介)【青少年版】

白泉社

  • 赤髪の白雪姫(あきづき空太)【青少年版】
  • 学園ベビーシッターズ(時計野はり)【青少年版】

集英社

  • 怪獣8号(松本直也)【青少年版】
  • 鬼滅の刃(吾峠呼世晴)【青少年版】
  • 呪術廻戦(芥見下々)【青少年版】
  • SPY×FAMILY(遠藤達哉)【青少年版】
  • ハイキュー!!(古舘春一)【青少年版】
  • 僕のヒーローアカデミア(堀越耕平)【青少年版】
  • 約束のネバーランド(白井カイウ、出水ぽすか)【青少年版】

小学館

  • イナズマイレブン(やぶのてんや)【キッズ版】
  • 葬送のフリーレン(山田鐘人、アベツカサ)【青少年版】
  • フューチャーカード バディファイト(田村光久)【キッズ版】
  • プリプリちぃちゃん(篠塚ひろむ)【キッズ版】
  • ミステリと言う勿れ(田村由美)【青少年版】
  • 名探偵コナン 時計じかけの摩天楼(青山剛昌、阿部ゆたか、丸 伝次郎)【青少年版】

『ヴィンランド・サガ』の幸村誠先生についてはマンガ・アラビア主催のコンテスト審査員にも選ばれ、サウジ&アラブ人クリエイター発掘事業の記念すべき第1回コンテストに参加するという出来事もありました。

ムハンマド王太子(皇太子)直轄の非営利財団「ミスク財団」

アラビア語名称:مُؤَسَّسَةُ الْأَمِيرِ مُحَمَّدِ بْنِ سَلْمَانَ بْنِ عَبْدِ الْعَزِيزِ الْخَيْرِيَّةُ
アラビア語略称:مُؤَسَّسَةُ مِسْك الْخَيْرِيَّةُ
英語名称:Prince Mohammed bin Salman bin Abdulaziz Foundation
英語略称:MiSK Foundation
日本語略称:ミスク財団
公式サイト:https://misk.org.sa/en/

ムハンマド王太子(皇太子)の直轄機関です。次世代育成各種事業、子育て・教育支援、各国へのサウジアラビア人留学生派遣、世界各社と協定を締結しての技術研修などを幅広く実施。

非営利財団とはいうものの、サウジアラビア王国のあらゆる事業に関与し驚くべき規模で活動を展開しているとの印象です。

Manga Productions(مانجا للإنتاج / マンガプロダクションズ)

公式サイト:https://manga.com.sa/

東映との合作で『きこりと宝物(キコリと宝物)』『アサティール』『ジャーニー』を作ってきたマンガプロダクションズ。

CEOは実質的な姉妹組織で Manga Arabia(مانجا العربية / マンガ・アラビア)編集長のブカーリ・イサム(イサム・ブカーリ)博士。『グレンダイザーU』発表会でアラブ服を着ていたのも同氏です。

マンガプロダクションズとは実質的な姉妹組織で、Manga Arabia(مانجا العربية / マンガ・アラビア)に作品を提供したりとセットでニュースに登場することもしばしばです。

建国記念のオリジナルアニメを毎年発表しているほか、マンガ・アラビアへの漫画提供、ゲーム開発訓練、バーチャルゲーム開発など幅広く事業展開しています。

サウジアラビアは漫画家やアニメーターの育成にも積極的で、日本のKADOKAWAの協力を得るなどして2ヶ月前後の漫画描き方講座を複数回開催。ストーリー構成からデジタル作画技術まで基礎からステップバイステップで細かい指導が行われ、無事に育った人材の一部は自分たちが採用することもある様子。サウジアラビア国内外の人材囲い込みを強力に進めています。

Electronic Gaming Development Company(EGDC)

2020年11月末、サウジアラビアのミスク財団がゲームメーカーSNKの株式のうち33.3%を取得、ゆくゆくは51%という過半数にまで増やす予定であるというニュースが話題になりました。

株式の取得自体はすぐに行われた訳ではなく、翌年の3月に完了。これにはマンガプロダクションズではなく、ミスク財団の別の完全子会社である Electronic Gaming Development Company(エレクトロニック・ゲーミング・ディベロプメント・カンパニー、略称EGDC)が介在。

4/6に開催された株主総会でサウジアラビア側関係者らがSNK役員に就任。その後急速に買い増しが進み、2022年2月時点で96.18%となりました。

買収が進められてから行われたSNKの入社式にはミスク財団マンガプロダクションズCEO、マンガ・アラビア編集長であるブカーリ・イサム(イサム・ブカーリ)博士が出席するなど、サウジアラビアがSNK経営に関与している様子がうかがえます。

テレビ局・メディア

MBC

MBCはムハンマド王太子(皇太子)が実質コントロールしているとされるサウジアラビア資本の老舗居テレビ・ラジオ局です。

マンガプロダクションズの作品もMBCオンデマンド動画配信サービス شاهد(Shahid / シャーヒド)で全て提供されていること、日本アニメの配信拡充を続けていることから、新作『グレンダイザーU』の優先的配信などが行われる可能性が高いものと思われます。

そのMBCが2023年3月、新アニメ専門チャンネル「MBC Anime」の開局計画とTOKYOPOP社による協力を発表。王太子(皇太子)統括事業としてシリアの老舗アニメチャンネルSpacetoonとは別枠で人気日本アニメのアラビア語版が続々とアラブ諸国に向けて放送されることが改めて明らかになった形です。

この部門が配信権を所有している作品の一例(50音順)

  • 銀河英雄伝説
  • 進撃の巨人
  • 青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない
  • ソードアートオンライン
  • 天元突破グレンラガン
  • 東京喰種トーキョーグール
  • HUNTER×HUNTER
  • Fate/stay night
  • BLEACH
  • 竜とそばかすの姫
  • ONE PIECE

関連記事

投資ファンド

Public Investment Fund(PIF)

アラビア語名称:صُنْدُوقُ الِاسْتِثْمَارَاتِ الْعَامَّةِ
英語名称:Public Investment Fund
英語略称:PIF
日本語略称:パブリック・インベストメント・ファンド
公式サイト:https://www.pif.gov.sa/en/

1971年設立のサウジアラビア王国の公的な投資ファンドで、実質的な王国トップであるムハンマド王太子(皇太子)の管理下にある機関となっています。ゲーム企業に限らず、世界各国の大企業に投資を行っておりソフトバンクに投資をしたのもこのファンドでした。

アニメ・ゲーム業界への投資

これまでに日本のアニメ・ゲーム会社に投資した例としては2023年8月現在で

  • ネクソン(10.23%)
  • 任天堂(5.16%)
  • カプコン(6.60%)
  • 東映(5.37%)
  • コーエーテクモ(5.56%)
  • スクウェア・エニックス(4.38%)

が挙げられます。

この中でスクウェア・エニックスはサウジアラビアとのつながりが長く、ARINAT(アリナト)社が活動していた頃の国営アニメ事業初期から提携関係があり、将来的にゲーム開発を共同で行う件についても話し合っていたことが当時の公式発表でも確認可能です。

2023年6月にはサウジアラビアのレーティング機関GCAM側から出されたゲーム内容修正要求をスクウェア・エニックス側が拒否したため6月22日に予定されていた各国一斉販売をサウジアラビアは見合わせ発売中止とした件が話題になりました。

ドラゴンボールテーマパークの建設

2024年3月に発表されたドラゴンボールテーマパーク建設計画もサウジアラビアのムハンマド王太子(皇太子)主導プロジェクトの一環となっています。これに関しサウジアラビア側が戦略的パートナーシップを結んだのは、王太子(皇太子)所有財団と合作アニメを作ってきた東映アニメーションで2021年から話が進められていたとのこと。

*日本のアニメ業界関係者の方々のX(Twitter)ポストによると実際にはもっと前(10年ぐらい前)から構想があった模様です。


Qiddiya公式チャンネルの英語告知動画

建設地のキディヤ・シティ(Qiddiya City)はアラビア語で اَلْقِدِّيَّة [ ’al-qiddīya(h) ] [ アル=キッディーヤ ] (サウジアラビア方言風発音は [ ’al-giddīya(h) ] [ アル=ギッディーヤ ] )と発音するエリアで、王太子(皇太子)が取り組んでいるビジョン2030に基づき建設が進んでいる文化・スポーツ・エンタメの首都的存在になる予定だとか。

このキディヤ・シティ(Qiddiya City、マディーナト・アル=キッディーヤ)を直接運営しドラゴンボールテーマパークを建設するのは直接的にはパブリック・インベストメント・ファンド(PIF)となっていますが、一番上のトップまでたどると他のエンタメ事業同様ムハンマド・ビン・サルマーン王太子(皇太子)に行き着く形となっています。

同シティの開発計画紹介動画によると、こちらもやはり王国の収入源として作る予定だとか。なのでドラゴンボールテーマパークも含めこのエリアの施設やイベントはいずれもサウジアラビア王国政府(実質的には王族)が管理し国民や国外からの観光客に提供することで国の収益とする公共事業になる模様です。

日本では「イスラーム教の教義に合わせてアラビア語版ではストーリーが改変されているのにサウジに作るのは無理があるのでは?」という感想を投稿されている方もいらっしゃるようなのですが、サウジアラビアが実施してきた過去のアニメ事業の内容からすると、ファン心理をよく理解した施設になり日本からの豪華ゲストを呼んだりして「絶対に行かなきゃ」と思わされるような超豪華テーマパークになる可能性が高いかもしれません。

*ドラゴンボールテーマパークについては発表後「すごい」「そのうち日本に勝てるんじゃないか」「ONE PIECEランドも作ってほしい」「なんでサウジになんか作るのかと言っている各国の連中も、完成したらどうせこぞって遊びに来るようになる」といった前向きな意見、「シルク(多神教)要素があってイスラームに抵触する部分があるのにイスラームの聖地がある巡礼の地であるサウジに作るのか?」といった疑問、「一体どれだけ国費が無駄にされるのか?」「今や7人に1人のサウジ国民が土地や持ち家を持たず裕福な暮らしができていないのにどうして作るのか?」「国民がこうした路線に表立って反対しなかったせいだ」といった危惧まで色々な意見が出てきているようですが、発表数日後の時点ではまだ反響の規模はそこまで大きくなくアラブ諸国やイスラーム各国における宗教問題に発展している様子は見られないです。

サウジアラビアのアニメ・コミック・ゲーム事業とミスク財団

ミスク財団はサウジアラビア王太子(皇太子)の機関

名称と概要

مُؤَسَّسَةُ الْأَمِيرِ مُحَمَّدِ بْنِ سَلْمَانَ بْنِ عَبْدِ الْعَزِيزِ الْخَيْرِيَّةُ
[ mu’assasatu-l-’amir(i) muḥammad(i) bni salman(a) bni ‘abdil-‘azīz(i) (’a)l-khayrīya(h)/(’a)l-khairīya(h) ]
[ 文語発音:ムアッササトゥ・ル=アミーリ・ムハンマディ・ブニ・サルマーナ・ブニ・アブディ・ル=アズィーズィ・ル=ハイリーヤ ]

مُؤَسَّسَةُ الْأَمِير مُحَمَّد بِنْ سَلْمَان بْنِ عَبْدِ الْعَزِيزِ الْخَيْرِيَّةُ
[ mu’assasatu-l-’amir muḥammad bin salman bin ‘abdil-‘azīz ’al-khayrīya/’al-khairīya ]
[ 口語風発音:ムアッササトゥ・ル=アミール・ムハンマド・ビン・サルマーン・ビン・アブディルアズィーズ・アル=ハイリーヤ ]

略称:مُؤَسَّسَةُ مِسْك الْخَيْرِيَّةُ [ ムアッササト・ミスク・(ア)ル=ハイリーヤ ]
英語名:Prince Mohammed bin Salman bin Abdulaziz Foundation(MiSK Foundation)

*ムハンマド王太子(皇太子)の王太子就任4周年を祝うマンガプロダクションズによる祝賀ツイート。アラビア文字で「おおせのままに 我が主よ」という旨のメッセージが記載されています。ミスク財団傘下のマンガプロダクションズはムハンマド王太子(皇太子)の持ち物なので、定期的に忠誠を宣言するツイートが投稿される感じです。

2011年にサウード家のムハンマド・ビン・サルマーン王子により創立された非営利の財団・慈善団体です。その後王子から王太子(皇太子)に昇格、現在は首相も務めています。サルマーン国王が高齢ということもあり、既に実権はムハンマド王太子(皇太子)にあるとも言われています。

略称のMiSKはアラビア語名称を縮めたもので、現地ではムハンマド王太子(王国ですが日本では皇太子と書いてあることも多いです)の名前を掲げた財団であり彼の理念を体現した組織だと称賛されるなどしています。

またアラビア語で مِسْك [ misk ] [ ミスク ] は麝香を指し、良い意味で熟語にも使われる名詞でもあります。

若手・次世代を国の重要な財産と位置づけ、教育・メディア・文化・科学技術といった各部門の振興を目標に活動。学校運営、世界各国の有名大学とパートナーシップを結んでサウジ人学生らを派遣する事業も行っているとのこと。

サウジアラビア王太子(皇太子)の名前について

日本での一般的なカタカナ表記と肩書きは「ムハンマド・ビン・サルマン皇太子」。サウジアラビア王国は王族なので本来は王太子なのですが、日本では皇太子と書かれているのが普通かと思います。

なおビンは「~の息子」という意味の名詞を口語読みしたもので、手前のムハンマドが本人のファーストネーム、後のサルマーンが父親の名前となります。「サルマン皇太子の財団」と紹介している記事もありますが誤りで、王太子本人の名前自体はムハンマドのみとなります。

慈善団体とありますが、実際の活動を見る限りサウジアラビア国内の若者を育成し国外の提携先に派遣したりする政府系機関に近い感じだという印象です。

ミスク財団の活動内容は多岐にわたる

ミスク財団と新世代育成

ミスク財団の活動紹介ビデオです。非営利財団であること、国家の重要な資産である若者を教育・メディア・文化の各分野において育成・支援に注力することがまず語られています。

マンガプロダクションズはこのミスク財団のメディア部門(1:21~)に含まれており、学習教材や役に立つエンターテインメントコンテンツの生産という事業に相当している模様。

次世代となる国民の幅広い年齢層を対象に活動している様子が写っています。子どもたちにはITを活用した授業やテクノロジー教育。青年らには各種イベントやクリエイターとなる人材の支援なども。

ムハンマド王太子(皇太子)個人と直結している組織のため同氏の動向がミスク財団全体に影響することが考えられます。ムハンマド王太子(皇太子)体制が変わったりしない限り、日本のアニメ・ゲーム業界への関与・進出も続くものと思われます。

サウジアラビアでは今まで企画が立ち上がったり日本企業とのコラボが発表されたりしても結局未完成に終わったアニメ・コミック事業が多かったのですが、このミスク財団になってからそのようなことは無くなり複数作品を無事リリースしています。そのため若者らの目から見てもわかりやすい実績を出していると言えるのではないでしょうか。

日本企業との提携

日本に関してはみずほ銀行との提携関係があり、銀行部門に就きたい学生の研修も実施されたのだとか。

サウジアラビアのミスク財団、アニメ・ゲームの作画や制作、金融ビジネスなど日本企業でインターンシップ研修を実施』という記事でクウェア・エニックス、東映アニメーション、SNK、みずほ銀行がインターンシップ研修の受け入れ先になったことが書かれており、『ミスク財団、日本のゲームやアニメ企業、銀行でインターンシップ研修を6月末から実施中。』にその時の様子をおさめた写真が掲載されています。

ミスク財団とマンガプロダクションズが日本の各大学にインターンシップ生を派遣している話は『日本・サウジ産学連携強化をめざして、ミスク財団バドル・アルアサーケル氏来日を記念しマンガプロダクションズ活動報告会』で報じられており、東海大学・東京大学・東京工科大学・名古屋大学ほかで再生可能エネルギーや自動車工学、ゲームデザイン等を学ばせ帰国させていることが紹介されています。

東京大学に関しては王太子(皇太子)の名前を冠した東京大学ムハンマド・ビン・サルマン未来科学技術センター(MbSC2030)も設立。ミスク財団マンガプロダクションズCEO / マンガ・アラビア編集長でもあるブカーリ・イサム(イサム・ブカーリ)博士が執行委員として参加しています。

ミスク財団傘下会社マンガプロダクションズとは

長くなったので詳細は『サウジアラビアミスク財団マンガプロダクションズのアニメ・マンガ・ゲーム事業』にて別途紹介しています。

マンガプロダクションズ概要

مَانْجَا لِلْإِنْتَاجِ
[ māngā li-l-’intāj ] [ マーンガー・リ・ル=インタージュ ]

英語名称:Manga Productions
日本語名称:マンガプロダクションズ

ミスク財団傘下の会社で、アニメーション・ゲーム・コミックを制作。2019年に東京支社(2023年現在所在地:港区虎ノ門2-10-4 オークラプレステージタワー10階)をオープン。

アラブ世界で唯一日本風アニメを制作しているスタジオとして日本の東映アニメーションと提携してきた以外にも、日本の大学に学生を派遣しゲーム制作技術を学ばせたり、他国とのパートナーシップを結んだりと各方面に進出。

スタッフは全員アラブ人という訳ではなく、従業員リストなどによると既に実績のある欧米出身の人物をライター等として雇い入れてもいるようで、サウジ他の若手育成とコンテンツ制作の推進に役立てている模様です。

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CEO(最高経営責任者)

عِصَام بُخَارِيّ
[ ‘iṣām bukhārī(y) ] [ イサーム・ブハーリー ]
公式英字表記:Essam Bukhary
公式日本語表記:ブカーリ・イサム、イサム・ブカーリ

Twitter:https://twitter.com/essambukhary

アラビア語では「イサーム・ブハーリー」(ブハーリーは「(ウズベキスタンの都市)ブハラ出身の」というファミリーのルーツを示すラストネームです)ですが、ご本人による公式カタカナ表記はずっと「ブカーリ・イサム」で、最近は「イサム・ブカーリ」の語順でプレスリリースに登場されています。

早稲田大学・大学院卒業。アラブ イスラーム学院文化・広報部長、サウジアラビア王国大使館 文化部 文化アタッシェ、東海大学国際教育センター客員教授、ARINAT社CEOなどを経て現職。キング・アブドゥルアズィーズ大学准教授。東京在住時代にはNHKラジオアラビア語講座『話そう!アラビア語』にも出演。東京にあるサウジアラビア大使館に在籍されていた時には留学生事業を牽引するなど色々な業績をお持ちです。

『グレンダイザーU』発表会の場にいた「石油王」「社長」と言われている人物が彼で、石油王ではなくムハンマド王太子(皇太子)からアニメ・マンガ・ゲーム事業を任されている実働部隊の大元締め的な役割を負っている現場のトップさんです。

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マンガプロダクションズの歴代作品

きこりと宝物(キコリと宝物)

كَنْزُ الْحَطَّابِ
[ kanzu-l-ḥaṭṭāb ] [ カンズ・ル=ハッターブ ]
邦題:きこりと宝物、キコリと宝物

マンガプロダクションズと日本の東映アニメーションとの初の共同制作。2018年5月20日にテレビ東京にて放送。

サウジアラビアの民話が元になっているというこのアニメ。主人公はきこりの男で、夢のお告げに従い探し当てた宝物が気になりすぎて平和な生活を失ってしまい、幸せの意味について改めて知るというストーリーになっています。

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アサティール 未来の昔ばなし

أَسَاطِيرُ فِي قَادِمِ الزَّمَانِ
[ ’asāṭīr(u) fī qādimi-z-zamān ] [ アサーティール・フィー・カーディミ・ッ=ザマーン ]
邦題:アサティール 未来の昔ばなし

マンガプロダクションズと東映アニメーションとの共同制作によるTVシリーズです。アラブ地域では2020年1月より放送。日本ではJ:COMのコミニティチャンネルJ:テレで2020年4月4日より放送開始。現在は動画オンデマンドとして各社が配信。

アサティールは2050年という未来のサウジアラビア首都リヤド(=リヤード)に住むアスマ(=アスマー)という老女が孫たちにアラビア半島の昔話や偉人の逸話を語って聞かせるというストーリーで、サウジの子どもたちも知っているような有名人物が1人ずつ登場。

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ジャーニー 太古アラビア半島での奇跡と戦いの物語

2021年夏に公開されたマンガプロダクションズと東映アニメーションとの共同制作映画です。サウジ製コンテンツ世界輸出の足がかりと位置づけられている力作となっています。

各国語版の声優陣が豪華極まりないドリームチーム状態なのも特徴で、日本語版の主要キャラを古谷徹、三石琴乃、神谷浩史、中村悠一、中井和哉、黒田崇矢各氏が担当。

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サウジアラビア王国建国記念ビデオ

マンガプロダクションズはムハンマド王太子(皇太子)支持メッセージや王国の建国記念日に合わせての高画質祝賀ビデオなども作成。毎年日本のスタジオに委託されており、サウジ人スタッフが加わっての制作になっています。

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グレンダイザー事業

アラブ世界におけるグレンダイザーのライセンスを獲得したものミスク財団傘下マンガプロダクションズで、ダイナミック企画(Dynamic Planning)らとグレンダイザー新作計画 ProjectG を立ち上げ。

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ギネス記録達成のグレンダイザー立像

ダイナミック企画とパートナーシップ契約を結び新作制作計画を発表したサウジアラビア王国ムハンマド王太子(皇太子)直営団体ミスク財団傘下マンガプロダクションズ(Manga Productions)が2022年12月に全高33.7mのグレンダイザー像を建設しギネス認定され話題になりました。

ゲーム

2023年11月14日発売予定のゲーム『 مغامرات الفضاء جريندايزر: وليمة الذئاب 』(ムガーマラートゥ・ル=ファダー(ッ)・グレーンダーイザル:ワリーマトゥ・ッ=ズィアーブ、意味は「宇宙の冒険グレンダイザー:狼たちの饗宴」)を発表。

TVアニメ

ゲームに続き2023年8月には新作TVアニメ『グレンダイザーU』が2024年放映予定であるとの発表も。

ビデオゲーム開発

ゲーム産業確立を目指して

インターンシップ制度を活用しての海外派遣と研修、コンテストを開催してのキャラクターデザイン採用など、ビデオゲーム産業を打ち立てようという試みもなされています。

マンガプロダクションズが公開している講演会動画。大学の施設で開催されたもので、ゲーム産業や海外研修の話など大変真面目な内容のレクチャーとなっています。

サウジ人ゲームキャラ「ナジュド」の投入

THE KING OF FIGHTERS XIVではアラブ人女性がデザインしたキャラデザインコンテスト優勝作品を元にしたナジュドを2018年4月から配信開始。サウジアラビアの首都リヤード(リヤド)を舞台にしたステージが用意されました。

デザインコンペはSNKとマンガプロダクションズが開催したもので、告知を見た若者たちが応募。2017年11月に結果が発表され、サウジアラビア人女性がデザインしたサウジ出身女性キャラが選ばれました。

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サウジアラビアの若手クリエイターたちの思い

アニメーター:ファラフ・アーリフ氏

サウジのマンガプロダクションズが開催した東映アニメーション清水氏との集い&イラストコンテストに参加し、その後入社したという فَرَح عَارِف [ faraḥ ‘ārif ] [ ファラフ・アーリフ ] 氏。

昔話アニメ『アサティール』制作風景もまじえてのインタビュー動画となっています。

ジャーニー封切り前にサウジ系メディア MBC(エム・ビー・スィー)のラジオ局で放送されたファラフ・アーリフ氏のインタビューです。

日本との合作という前例の無い事業だったためどのようにプロジェクトを進めていくかというノウハウも無く、アラブ式のボディーランゲージを撮影して日本のスタッフらにレクチャーしたといったエピソード、東映にはサウジにこれだけのクリエイターらが揃っていることに対して驚かれたこと等を披露。

今のサウジアラビアでは芸術活動に対する国の関心が強く支援もなされており、アーティストたちにとっての黄金時代だと感じているのだとか。アニメーター、イラストレーターだけではなくサウジ人の声優らも活躍と職業訓練の場所を得られることができ、やる気にあふれた若手が協力し合って完成したのが映画『ジャーニー』だったと語っています。

ファラフ・アーリフ氏のイラストです。Twitterアカウントのプロフィールによると以前は Myrkott(マンガプロダクションズに先行して活動・映画制作したサウジアラビアのアニメスタジオ)でアニメーターをされていたようです。

Myrkott 時代に女性誌から取材を受けた際の記事には彼女のお兄さんがテレビ業界で働いておりアニメ業界に入る道筋を示してくれたことが書かれています。お兄さんは سَمير عَارِف [ サミール・アーリフ ] というお名前で、ドラマの監督などをされている有名な方のようです。ファラフ氏自身子供時代にテレビ業界にいたそうですが自分がやりたいのはイラストの方だと自覚したのだとか。

かわいらしい三頭身キャラクターなども。彼女のオリジナルキャラクターだそうです。名前は فروحة الصغيرة [ ファッルーハ(トゥ)・ッ=サギーラ ](ファッルーハ・アッ=サギーラ、「ちっちゃなファッルーハ」の意)。ファッルーハはファラフの愛称形だと思われます。ファッルーハで「ファッルーハちゃん、小さなファラフちゃん」的な感じかと。

サウジアラビア国営テレビチャンネル(チャンネル1)に子役として出演していた頃のファラフさん。子供番組でトークをしたり歌ったりしていた頃の動画が現在でも残っています。関連動画のコメントには彼女がイラストレーターになったことを記しているものもありました。

***

ここから下では娯楽推進政策・開放政策の光と影的な話が出てきます。「日本のアニメがサウジアラビア人たちに大人気となり、現地社会に自由をもたらした」系のいわゆる”いい話”とは違う話題を読みたくない方はここでウィンドウ/タブを閉じていただければと思います。

色々な話題

現地アニメファン界隈の反応

開放政策でアニメ作品供給や超大型アニメイベントが実施されるようになったサウジアラビア。

2021年に東映との合作『ジャーニー 太古アラビア半島での奇跡と戦いの物語』が公開された時には喜ぶファンがいる一方、王族主導の国営事業ということで「東映には提携せずそのままでいてほしかった」「自分たちが見たいのは中東やアラブに配慮したアニメじゃなく、普通に日本で作られた作品」と感じるファンの声もSNS上ではちらほら見かけました。

「アラブ人はこういうのが好きでしょ?」と狙いすぎると逆に不発になりかねないので、合作というのも加減がなかなか難しいようです。

またアニメ産業に関するコメントとしては「国がサウジ人アニメーターや漫画家を囲い込んでしまうため、民間アニメ企業が育つ余地が無くなってしまっている」といったものも。

日本の各社とライセンス契約を結んだマンガ雑誌は無料、東映と合作で作った映画もチケット代に補助が出るなど、ビッグな作品が無料同然で与えられることへの慣れも生じているため、今後どのような形で黒字に変えていき収入源としていくのか気になるところです。

サウジアラビア女性のコスプレについて

日本アニメのコスプレが髪を隠すというイスラームの戒律を単独で変える原動力になった事実は特に無し

SNSでは「サウジアラビアではヒジャーブ着用義務があるのに、日本アニメ好きな王太子(皇太子)の決定によりアニメのコスプレだけは例外的に解禁になった」「厳格だったサウジアラビアのイスラームですら例外扱いになった稀有な事例がコスプレだからこの日本文化は大切にしていくべき」といった情報が書き込まれ話題となったようですが、これは不正確な情報だと思われます。

上記に対するサウジ人たちのアラビア語によるレスポンスでは「日本アニメの力でサウジを変えたとか何を言ってるの?」「間違いを投稿する前に情報は確認するものだ」「日本人たちは目を覚まして現実を見るべき」「サウジが日本にあげた支援額の総額を知っていてそんなことを言うのか」などと書き込まれ、改めてこれらがサウジ側から見て事実誤認とされていることが示された形となりました。

2022年に日本語で報道された『サウジで「日本アニメイベント」 規制緩和で女性コスプレ“肌露出”…背景に“思惑”』という記事では「今回は規制が緩和され、女性であっても男性がいる会場で、肌を露出するコスプレを行うことが可能となった。 その背景には、アニメ文化に対する理解が進み、肌を露出することへの許容度が上がったことがあるという。」とあるのですが、サウジアラビアではコスプレに限らず開放政策として色々な場所での男女分離を廃止、女性の服装に関する自由化も王太子(皇太子)直々の発言で容認されるなどしており、それらの一例がコスプレイベントだったーというのが実情に即した理解だと思われます。

時系列で見ていくと

  • 2011年頃からゲーマー向けイベントなどでコスプレ披露は行われていた
  • コンサートや映画館禁止の廃止、プライベートビーチでの水着解禁と同時期にまずアメコミ&SF系のイベントComi Con(コミコン)が開催された
  • 黒いガウンとヴェールという義務が無くなり髪を隠すかどうかも含めた女性服の自由化、女性運転廃止の禁止撤廃、男女混じってのコンサート観覧などの一般化
  • 韓国のBTSがサウジアラビア初となる海外グループ単独ライブコンサート
  • 電通協力により初の日本アニメイベントSAUDI ANIME EXPO 2019(サウジ アニメエクスポ2019)が開催
  • MDLBEASTによるレイヴ大型レイブコンサート開催、EDM界などの世界的スターらが集結、男女が入り混じっての観覧形態、海外に近い女子の薄着が許されるイベントに

となっており、イスラームの戒律に関する規則はまとめて緩くされていき、順番的にはゲームイベント、アメコミ・SFフェスティバル、韓国BTSが先だったりと、それらの後に公共事業となった日本アニメ関連イベントについては色々起こった大きな変化の一つとなった形です。

女性の黒い服装着用義務撤廃や自動車運転許可は諸外国から要求が出ていたもっと大きな問題だった

元々黒いアバーヤ(ガウン、クローク状の伝統衣装)やヒジャーブ(ヴェール)の着用義務と自動車運転禁止は女性の権利問題にからみ欧米諸国から圧力がかかっていた問題で、国内の女性運動家らによっても働きかけがなされていた案件でした。

服装規定、自動車運転、旅行・外出時の男性後見人同伴義務などは女性の人権問題を象徴するシンボル的なルールだったため長年欧米諸国や活動団体から問題視されており、ムハンマド王太子(皇太子)就任により加速した開放政策に伴い対外的にわかりやすいこれらの2点が緩和されたというのが実情で、日本アニメ単独の力で服装制限の厳しさに風穴が開いた訳ではありませんでした。

そのためムハンマド王太子(皇太子)が「服装は個人の自由」的な発言をした際もアニメのコスプレを特に引き合いに出したのではなく、もっと広い女性の日常生活全般に関わるものとしてゴーサインを出した形でした。

コスプレの時だけ普段の服よりも露出が多めになる人がいること、アラブ諸国では決められたイベント会場の中でコスプレをすべしといった制限がつくことが多いこと、アメコミや日本アニメは開放政策の中でも早い時期から力を入れられていたことからたしかに”例外的”と表現できるかもしれませんが、全然関係の無いジャンルでも同様の服装規定廃止が起こっていた上、王族個人の判断でアニメ・ゲームのコスプレだけを特別扱いして例外にさせたというアラビア語報道も特に見当たらないので、日本アニメ単独の功績と表現するのは難しいものと思います。

*MDLBEASTと検索すればわかると思うのですが、サウジで毎年行われている大型レイヴに参加している女性の方がアニメ等コスプレに参加している女子たちよりも薄着(下着が透ける上着、へそ出し類含む)で、開放度やヴィジュアル的なインパクトはアニメイベントよりも強いかもしれません。日本ではこれらのイベントの存在が知られていないため「アニメイベントとコスプレイベントは例外的に自由で、こうした特別扱いがサウジ人を引き付けている原因の一つになっている」と誤解されやすい模様です。

日本ではコスプレは日本発祥の文化と考えられている方も多いと思うのですが、米国発祥のComi Con(コミコン)やサウジで大型化しつつあるハロウィーンパレードなどは明らかに西洋生まれのイベントなので、同時期に複数国由来の色々な仮装文化が一気に解禁されサウジアラビアで容認されていったと言えるのではないでしょうか。

サウジアラビアの開放政策と規制解禁の流れ

時系列で追っていくと、電通が請け負った第1回の日本アニメイベントSAUDI ANIME EXPO 2019(サウジ アニメエクスポ2019)よりも前の2~3年をかけてイスラームを理由に禁止していた色々な事項を既に解禁していたことがわかります。

  • 2010年前後
    • 日本アニメ好きだったムハンマド王子が東映アニメーション関係者らをサウジアラビアに招待、同王国がアニメ産業に参入したいという意向を明かし東映との共同事業に対する希望を直々に伝える
  • 2011年
    • サウジ人初の男性プロコスプレイヤー「VEGA Cosplay」ことサウード・アル=ハッザーニー(Saud Al-Hazzani)氏、コスプレを始める
    • ゲームイベントTGXPOがサウジアラビア初とされるコスプレ披露の場に
  • 2012年
    • アラブ首長国連邦(UAE)のドバイでMiddle East Film & Comic Con(中東フィルム・コミコン、略称:MEFCC)がスタート、アラビア半島諸国のアニメファンらの興味を惹きにアニメ・映画・コミック・ゲームのキャラに扮したコスプレイヤーたちを増やす一因に
    • 娯楽を行ってはならない区域であるとして宗教的な理由から閉じられていたマダーイン・サーリフ遺跡を観光地化するため、長年の立入禁止を解除
  • 2015年
    • ムハンマド王子が副王太子(副皇太子)に昇格
  • 2016年
    • 勧善懲悪委員会(هيئة الأمر بالمعروف والنهي عن المنكر)いわゆる宗教警察が持っていた逮捕権・捜査権を廃止
    • この頃既にゲーマー向けイベントでコスプレコンテストが行われていたことが複数記事にて確認可能
    • 国の事業の一環としてARINAT(アリナト)社がガイナックスに委託したアニメ作品『砂漠の騎士』プロモ映像が完成→その後未完に終わる
  • 2017年
    • ムハンマド副王太子(副皇太子)が王太子(皇太子)に昇格
    • 音楽コンサート禁止の廃止、開催OKに
    • 映画館営業禁止解除を発表、翌年2018年以降に順次設置
    • 女性の自動車運転禁止の廃止が決定、翌年2018年から開始と決定
    • 指定されたプライベートビーチでは肌を隠さないビキニ水着の着用をOKとすることが発表される
    • 米国生まれのアメコミ等アニメ・コミック・SF等作品イベントComic Con(コミコン)が初開催、会場メイン部分は男女混合、コスプレ区域は女性専用エリアが設けられその中ではアバーヤ(黒いガウン、クローク形伝統衣装)を脱ぐことが許され米国から招かれた女性コスプレイヤーも女性客のみが見るというサウジアラビア国内で行われていた女性だけのパーティーと同じ形式だった
    • 汚職追放として王族、有力者、宗教家、作家、文化人、権利活動家ら200名余の一斉逮捕(通称:11月逮捕)、国内勢力図の一新・新体制確立と次期国王としての地位固めへ
    • ゲーマー向けイベントを中心に複数のコスプレコンテストが開催され、自作衣装で参戦・受賞する女性コスプレイヤーも
  • 2018年
    • ムハンマド王太子(皇太子)が「アバーヤ(黒いガウン、クローク形伝統衣装)着用は義務ではない」と発言、女性の服装が実質自由化、宗教警察の取締権・逮捕権も無くなっていたため外国ナイズされた生活様式に馴染みのある有力者令嬢などを中心にアバーヤ無しファッションを選択する女性らが出始めた
    • 元勧善懲悪委員会聖地マッカ(メッカ)トップだった宗教家アフマド・カースィム・アル=ガーミディー氏が「黒いアバーヤ(ガウン、クローク形伝統衣装)着用は義務ではない」と意見、カラフルな服装が増加していくことに
    • 上記宗教家が「バレンタインデーはイスラームに反しない」と見解発表、バレンタインデーイベントが解禁
    • 女性の自動車運転禁止の廃止が施行
    • 男女混合での音楽コンサート観覧解禁
    • マンガプロダクションズと日本の東映アニメーションとの初の共同制作『きこりと宝物(キコリと宝物)』TV放送
  • 2019年
    • 観光業振興本格化、外国人への観光ビザ発行開始
    • 外国人女性のアバーヤ(黒いガウン、クローク形伝統衣装)着用義務廃止
    • 男性後見人(通常は父親か夫)を同伴していないサウジアラビア人女性の旅行・宿泊制限を緩和
    • 外国人に関しては結婚していない未婚男女のペアがホテルの同じ部屋などに宿泊することや旅行者向け賃貸物件でのルームシェアを許可
    • 飲食店にあった男女別入り口設置義務廃止
    • 国軍へのサウジアラビア人女性加入が解禁との発表
    • 韓国のBTSがサウジアラビア初となる海外グループ単独ライブコンサート、賛否両論・論争も起きたが王太子(皇太子)サイドはライブ前日に首都の複数建築物をBTSシンボルカラーでライトアップしたり来場できないファン向けにライブ放送を提供したりと盛大に開催(BTSはサウジアラビアも含めアラビア半島諸国で大人気グループに成長へ)
    • 電通協力によりコスプレを含む初の日本アニメイベントSAUDI ANIME EXPO 2019(サウジ アニメエクスポ2019)が開催、初回のコスプレイベントは男女別の方式
    • MDLBEASTによるレイヴ大型レイブコンサート開催、EDM界などの世界的スターらが集結、男女が入り混じっての観覧形態、海外に近い女子の薄着が許されるイベントだったこともありセクハラ騒ぎ発生が課題に
    • 反イスラーム的であるとして行われていなかった公立学校での美術教育・音楽教育実施決定を発表
  • 2020年
    • マンガプロダクションズと日本の東映アニメーションとの共同制作『アサティール 未来の昔ばなし』TV放送
  • 2021年
    • 音楽教育解禁に合わせ日本のヤマハ音楽教室がサウジアラビアに初の教室をオープン
    • 国の近未来的都市計画NEOM内の新しいビーチリゾートで外国人観光客誘致を視野に入れ酒類を提供する計画があるとの話題がニュース記事として出るように
    • マンガプロダクションズと日本の東映アニメーションとの共同制作アニメ映画『ジャーニー 太古アラビア半島での奇跡と戦いの物語』公開
    • ハロウィーンイベント解禁
    • クリスマスツリー解禁
  • 2022年
    • サウジアラビアの公立学校で音楽教育がスタート
    • SAUDI ANIME EXPO 2022(サウジ サウジアニメエキスポ*2022)開催、各種イベント・コンサート同様コスプレイベントは男女分けずに実施、世界コスプレサミット予選会実施
    • 大規模ハロウィーン仮装パレード開催
  • 2023年
    • 世界各国の有名サッカー選手らのリクルートが加速、選手らに未入籍パートナーとの同棲を認める特例を適用
    • イスラームの二大聖地も含め、外国人によるサウジアラビア全土の不動産購入を許可する方針が発表
    • LGBTの方も含め全ての観光客を歓迎するとの旨を公式観光案内サイトに掲示、国内では禁止されている件とあわせ一部で議論も
    • アラブの複数国が上映禁止を発表する中、アラブ首長国連邦(UAE)と並んで『バービー』映画にゴーサインが出たことで話題に

同国の開放政策はアニメに限らず、アニメに無関心な層も対象にした特大規模の娯楽振興政策を生み出し、ハロウィンパレードなどアニメ以外の仮装も解禁し積極的に参加を促す流れとなっています。そのため、総合的な観点からしても「アニメが単独で風穴を開けた」「アニメのコスプレだけ例外扱いされている」と断定するのは難しい状況です。

国の実質トップがアニメ・マンガ・ゲーム好きで優遇されているという部分は事実ですが、アラブ諸国は日本ほどアニメ人口は多くなく、アニメのコスプレに無関心な層もヒジャーブ(ヴェール)を外しだしているのでアニメが唯一・最大の貢献者と考えるのは難しいです。

サウジアラビアは成人のコスプレ人口がさほど多くないこと、ヒジャーブ(ヴェール)着用の期待が周囲から高くなっていく時期に相当する青年期から大人になる段階でアニメを卒業していくのが一般的であることから、アニメのコスプレがサウジアラビア成人女性全般の服装に与える影響はそれほど大規模ではないというのが実情だと思われます。

既に王太子(皇太子)による容認発言により服装は個人の自由になっているので、ヒジャーブ(ヴェール)を脱ぎたいがためにコスプレをする女性たちが現れるということもありません。

コスプレ組よりももっと昔、開放政策による規制緩和が起きる前から留学などの欧米生活でヒジャーブ(ヴェール)やアバーヤ(伝統衣装のガウン、クローク)無しの生活を経験したことがある女性たちはいて、彼女たちを中心とした権利運動などの方が規模や影響力としては大きかったのでは、という気もします。

サウジ人は自国で禁じられていた薄着、色々なエンターテインメント、アニメ・マンガ・ゲームから飲む・打つ・買うまで海外旅行のときにやって帰国する人がかなりいることで昔は有名だったのですが、それらの多くが国内でできるように変わった、という例であるように感じられます。なので「禁欲生活しか知らなかった国民が急に解禁された各種娯楽にわっと飛びついた。日本アニメは彼らに許された数少ない娯楽。」というのとはだいぶ違っているのではないでしょうか。

王太子(皇太子)の独自判断で戒律解釈を変えたのではない

王太子(皇太子)殿下主導による開放政策でかつてあったような服装義務は既に撤廃、アニメとは無関係なもっと国民全体をカバーするような文脈で「ヒジャーブは個人の自由だ」との発言を通じ髪を出すことを容認したため、日常生活でも髪を出して過ごす女性が増えてきています。

「王太子(皇太子)本人が独自解釈でイスラームの戒律を変更させた」というのは限られた情報から推測で得られた誤解で、国民全員の義務から個人の判断に変わったこと、「エンタメ振興・観光産業促進のため」「石油産業の代わりを作るため」という方針に転換したことで厳格な戒律遵守をやめたこと、反対する宗教者たちが解任・投獄や転向・批判撤回で物理的にいなくなったり開放政策に反対しない宗教家に置き換えて障害が無くなっていることなどが原因です。

日常生活でのヒジャーブ(ヴェール)着用やコスプレ衣装の種類についてはイベント主催者側のガイドラインを守ればあとは女性本人の判断次第になった、ということでアニメファンといっても一様ではありません。

王太子(皇太子)主導エンタメ事業としてサウジアラビアでアニメ制作をしているマンガプロダクションズやマンガ制作をしているマンガ・アラビアの現場取材動画などでも、髪を出している、前髪を出した”ゆる系”ヒジャーブ姿、目だけ出しているニカーブ(フェイスヴェール)姿とアニメーターさん、イラストレーターさん、漫画家さんの女性たちだけをとっても人それぞれなのがわかります。

*日本でイスラーム世界の自由として引き合いに出されることが多い王制時代のイランですが、イスラーム革命以前のイランで一時期どの女性たちもヒジャーブを全然していなかったのは髪を隠すヒジャーブ(ヴェール)着用を禁止されていたからで、外出時に脱ぐべしという法律があったためでした。法律自体は5年で廃止となったようですが、社会の西欧化は続き1979年のイスラーム化までは着用する/しないを制限することはしなかったため多くの女性が髪を出して暮らしていたとのこと [ ソース ]。イスラーム世界では王家や元首の意向によって服装規定の扱いが変わりやすいという事情が昔からあったと言えそうです。

サウジアラビアではアニメやコスプレのために専門家が集まって戒律の再解釈を行った?

誤ったネット投稿と断片的な報道から「サウジアラビアではアニメやコスプレのために専門家が集まって戒律の再解釈を行い、コスプレとイスラーム法とのすり合わせを行った上で例外扱いとの意見がまとまった」と誤解されている方もいらっしゃるようなのですが、そのような事実はありません。

エンタメ・観光に関する規制緩和の大半はそれまで戒律としてを固持されてきた事項を遵守しないという形で進められており、宗教家や国民らと相談してイスラーム共同体の大多数を説得するための新解釈を打ち出したといった作業は特に行われていないです。

開放政策にまつわる宗教的なゴーサインの大半はかつて勧善懲悪委員会(宗教警察)の聖地マッカ(メッカ)地区トップで後に厳格主義との決別・転向を表明した宗教家アフマド・カースィム・アル=ガーミディー氏が出しているのですが、イスラーム世界にしばしば存在してきた権力者・王権側宗教家タイプと見る人が多く「バレンタインデー祝賀はOK」「女性は肌を出して礼拝して良い」「太ももを隠す服装をしなければいけないという宗教的な根拠は無い」といった発表を複数出していることから「宗教家の外見をしているが発表した法的見解に関しては疑義が残る」とも評されており、ワッハーブ派に基づいた社会に慣れていた国民の全員を牽引する状態にはなっていない様子。

イスラーム法に配慮した活動をしていくとした上で作った娯楽庁が最初イスラーム関連のコンテスト開催などを告知していたもののじきに音楽コンサートなどの事業に切り替えたことから「話が違う、約束が守られていない」「かつていた宗教家らを多数パージして入れ替えたが、娯楽庁の活動を正当化する法的解釈を今後も出させていくつもりなのではないか」「次は一体どんな超解釈が出されるのだろうか」という意見が厳格・敬虔な層の一部から出るなどしているのもそのような事情とリンクしています。

服装やウィッグ、ヘアエクステに関する戒律と実際のコスプレイベントルールとの差異

日本ではアラブ・イスラーム諸国で戒律解釈の工夫によりコスプレが可能になったと誤解されていますが、厳格な解釈ではコスプレは教義に違反する部分が多く、アニメイベントが広がってきているサウジアラビアやアラビア半島湾岸諸国ではまだ議論が続いています。

イスラームの伝統的な戒律もしくはアラブ・イスラーム世界の規範でひっかかる部分としては

敬虔なイスラーム教徒が宗教的に許されないと考えている行為

  • 女性が親兄弟や夫以外の前でおしゃれな服装をしメイクをする
  • 女性が髪や首以外の肌を露出させ肩・胸元・腕・脚特に太ももをあらわにする
  • 女性が布で覆っているとはいえ体のラインがわかる服装をする
  • 男性がその肌を大きく露出させる
  • 男性が女性、女性が男性の服を着る(異性装)
  • アラブ人、イスラーム教徒以外の外国の服装を真似して自分も着る
  • アラブ世界に元々存在しなかった仮装・コスプレという習慣を新規に取り入れる
  • (特に人毛でできた)かつらや付け毛を装着する
  • タトゥーを肌に入れる
  • 会場で音楽を流し楽しむ
  • 会場でダンスをする
  • 人間や動物の姿に仮装することについては意見が分かれており、子供の教育といった目的次第では容認される、仮装自体が不可など、一致していない
  • 仮装は偶像崇拝、モンスター・ゾンビ・悪魔キャラクターなどの仮装は悪魔崇拝に結びつくと考えられやすい

一方、

サウジアラビアのコスプレイベントにおける主なルール

  • 肌の露出が多すぎる服装は避ける
  • 性的で18禁な衣装は不可
  • 異性装は不可
  • 政治的メッセージ、人種差別、マイノリティー揶揄といった内容を含まない
  • キャラクターの武器として凶器になるものは持ち込まない

などとなっており、規制の少なさから色々なタイプのコスプレイヤーが生まれ、入場無料キャンペーンも手伝ってフェスティバルに仮装で訪れる客の数を急速に増やしています。

時期によっては

  • 肌の露出に関して、2019年実施イベントのルール一覧には「肌は晒さず覆うこと」とあり肌色の布などを使って地肌を隠すことを指示しているようなケースも
  • イスラームの宗教シンボルは利用しない

といった規定が書かれていることもあったようですが、年々縛りは緩くなってきている模様です。

サウジアラビアなどではコスプレに関する賛否両論があり問題は解決していない

こうしたコスプレルールは上でも挙げた通りサウジアラビアでそれまで宗教的罪だとされてきた事項に抵触しており、アラブ諸国で行われているコスプレイベントやコスプレ行為自体がイスラームの戒律に反すると考える層がまだかなり存在している原因となっています。

そのためアニメイベントでのコスプレやハロウィーン行列に関しては上記を理由とした理由から「宗教的な禁止事項=ハラーム」だという指摘・批判が依然として出ており、議論の対象となったまままだ解決に至っていないことが大手メディアなどでも報じられている状況です。

ネットを巡回していると「仮装イベントの開催に苦情を入れた」と書いている大人なども…

コスプレに関しては主催者と参加者らが「まあこのぐらいなら社会的にはNGじゃないと思う」と考えてそうしているものなので、外部者である日本人の側がわざわざ「本当はその格好だめなんじゃないの?」「イスラームに反してるのにいいの?」と聞くことではないものと思われます。

「かつらは戒律的にNG」「かつらはヒジャーブの代用にはならない」「コスプレの時にかつらをしても隠したことにならない」という意見が多いイスラーム社会

日本では「イスラーム教徒は地毛が出ないようウィッグで工夫して戒律を守っている」「かつらをすれば地毛が隠れるのでイスラームの戒律とヒジャーブ(ヴェール)の問題を回避できる」と紹介されることが多いのですが、正確な情報ではありません。

というのも

  • ヒジャーブ自体は女性らしさ(髪、首など)を隠すという目的で着用するものなので、キャラに寄せて愛らしい見た目にする機能を持つウィッグ(かつら)は代用として不適切。
  • 預言者ムハンマドの教えによりかつらや付け毛(ヘアエクステ)の使用自体が制限・禁止されてきた。

ため、かつらについては人工毛ならOKとする意見がある一方かつらそのものがNGという見解もかなり多く、特にコスプレのように外見の美化・おしゃれ・他人に見せる用事のために装着するという部分がひっかかってくる形です。ヘアエクステもサウジアラビアではかつて人毛・人工毛に限らずNGという大物宗教家の法的見解が出されたことがあるなど、制約が存在します。

元々厳密なイスラーム解釈では

  • 厳格な時代のサウジアラビアで王家に重用されていたビン・バーズ(イブン・バーズ)師は付け毛は許されないが、かつらも同じく許されないがイスラエルの民の女性たちが着用したことで神罰を受けたと言い伝えられているなどもっと重大であるとの見解を発表。[ ソース ]
  • カタール(カタル)政府運営のイスラームサイトにある質問箱で、「コスプレの時だけヒジャーブを外してかつらで地毛を隠せばセーフだと個人的には思っているのですが、間違っていますでしょうか?」と尋ねた女子に「男性や外国人たちの前でかつらを着用することは認められません。ヒジャーブというのは地毛を隠すのではなく女性の魅力・美点をさらけ出さないためのものです。かつらはヒジャーブの代用にはなりません。かつらも隠すべき装飾に含まれます。ヒジャーブをしているイスラーム教徒女性がコスプレをするのはふさわしくありません。尊厳や慎み深さという点と矛盾する行為です。」と専門家が回答した。[ ソース ]

などと扱われることが多く、アニメイベントでのコスプレは「若い子たちはやっているけれど本当はやったらだめなこと」「コスプレをしている本人にとって良心の呵責や抵抗がより少ないのでかつらが多用されている」と見るべき事項となっています。

ネットの知恵袋や掲示板・SNSでのコスプレ関連雑談では「コスプレするからまずはかつらを買わなくちゃ」という声とは別に「かつらを着用して公衆の面前に出るのは地毛は隠れるけどハラーム(イスラーム的にNG)」「اَلْبَارُوكَة حَرَام [ ’al-bāruka(h) ḥarām ][ アル=バールーカ・ハラーム ](かつらは禁止)」といった若い子同士の意見交換なども行われており、それ以外の要素も含めてアニメイベントやコスプレイベント自体が「本当はいけないことだけれども大勢がやりだしている」行為と見られやすいことがうかがえるかと思います。

*ちなみにヒジャーブ(髪や首を隠すヴェール)を髪の毛のようにして工夫するというのは東南アジアで流行したコスプレムーブメントでアラブ世界ではそれほど普及していないとの印象です。このヒジャーブ・コスプレもその創意工夫の一方で「ヒジャーブ本来のあり方を損ねるものだ」といった色々なリアクションがあったとされており、それらをまとめた論文なども見かけます。

コスプレが国家事業として公然と行われるようになってまだ数年と短いので、この手の議論は今後もしばらく続くものと思われます。

サウジアラビアとエンターテインメント産業

大型の音楽レーベルやテレビ局を抱えているサウジアラビア

日本では勘違いされがちですが、サウジアラビア自体はエンターテインメント業界の新参者ではありません。

長い間映画館やポップ音楽コンサートが禁止だった一方で、Rotana(ローターナー)というサウジ系資本の巨大な音楽レーベルがあり、ラジオ局やテレビ局も擁しているかなりの巨大企業となっています。現在では所属衛星テレビ放送チャンネルも増え、ミュージッククリップ・子供番組・映画といったジャンル別に色々な番組を流しています。

また MBC というアラブ世界屈指のテレビ局もサウジアラビア資本で、あらゆる種類の娯楽番組を大量に発信。エジプトやイラクといったサウジアラビア以外の地域に合わせた個別チャンネルまであります。王太子(皇太子)アニメ事業として日本の各社から配信権を買って回っているのがこの放送局なのですが、長年の経験があるためスムーズに事が進んでいくものと思われます。

Rotana はサウード家の王族が所有。MBC も姉妹が前国王に嫁ぎ王家と縁戚関係を持っているビジネスマンが創業した会社で本社はドバイにずっとあったのですが、サウジアラビア本国の影響が増した結果経営陣の逮捕や従業員の入れ替えといった大きな動きも見られたとのこと。ムハンマド王太子(皇太子)の方針に従い、チャンネルのサウジアラビア化や本社のドバイ→リヤード(リヤド)移転も発表されました。

サウジ資本のテレビ局や音楽レーベルが大規模なのに比べるとアニメ・コミック産業はまだまだ若いのですが、それ以外のテレビ番組制作に関してはそれなりの経験が蓄積されています。サウジアラビアのテレビ局では様々な報道・ドキュメンタリー・コメディー・ドラマ作品を放送。仕事の機会を求めてアラブ諸国から人材が集まっているせいか、ドラマBGMやコンサートのバックバンドなども演奏が上手です。

宗教的に厳格でないコンテンツは以前から作られていた

サウジというとどうしても厳格なイメージが先行しがちですが、ラブソングを歌う歌手も普通に長年活動していたり女性歌手が髪出しのドレス姿でビデオクリップを発表していたりと娯楽に関しては日本で思われているよりはかなり緩いのではないかという気がします。

髪の毛を隠さない女性アナウンサーもだいぶ前からサウジアラビア系TVチャンネルに複数出演していました。

厳しい人もいる一方で戒律を守っていない人もいたりと今でも一様ではないのですが、日本では「イスラームの戒律が世界一厳しいはずのサウジアラビア」というイメージが依然として強すぎ、アニメ事業に関する解説記事や考察投稿に不正確な認識が含まれがちだとの印象です。

「偶像崇拝禁止なのにアニメやゲームに関与しても大丈夫?これって革命的な大事件?」

サウジアラビア国内の娯楽・観光事業と国外のイスラーム教徒との間にある認識差

ネットではサウジアラビアへのアニメ・ゲーム進出に関し「偶像崇拝禁止なのにアニメやゲームに関与しても大丈夫?」「これって革命的な大事件?」といった投稿も見かけるのですが、そういう変革期・転換期はかなり前に終わっています。

当ページでも述べた通り開放・娯楽路線が始まるのと同時にそれまでいた宗教家たちが表舞台からいなくなり新路線に合致した人材に置き換わったことで新規にOKをもらった形となっており、他国のイスラーム教徒たちが「宗教的にそれはまずいのでは?」とまだ思っている事項がサウジの観光・娯楽事業に含まれているように見えることがあるのもそのためとなっています。

サウジアラビアが国家事業のために選択した路線なのでイスラーム諸国の宗教家たちの見解とはまた違っており、「サウジではもうそういうのは気にしなくて良くなったんですよ」と説明されたからといって「イスラーム教もやろうと思えばこのぐらいやっていいんだ」「サウジアラビアですらやっているから他のイスラーム教圏でもやればいいのに」と混同しないよう注意が必要かもしれません。

サウジアラビアは昔から日本アニメ・ゲームのファンが多かった

サウジアラビアは他のアラブ諸国に比べ暮らし向きが良かったこと、娯楽が少なかったことから、アニメやゲームに関心を持つ青少年が多く、ADSLによるインターネット高速化が進んだ頃の時点で既にアラブ諸国の中でもそれらのファンが多い部類に入る地域となっていたように記憶しています。

著作権問題に関する意識が日本と違うこともあって日本の雑誌やコミックがスキャンされる→ファンサブにより英語化されネット上に放流→ウェブサイトやダウンローダー経由で入手して閲覧という形が一般的だったため売り上げという形では表れていませんでしたが、ネットではプロキシサーバーによるコンテンツ規制の網をかいくぐってアニメ・マンガコンテンツを収集・閲覧していたファンたちのアニメ情報交換サイトや専門掲示板などが開設され、アニメ好きアラブ人がまだレアだった時代に既に「アニメが好きで日本に来た」という留学生までいたりと、将来的には相当な数のアニメ・ゲームファンを擁する国になる可能性が高かったと言えるかもしれません。

日本ではムハンマド王太子(皇太子)による娯楽推進政策以後のここ数年で急にアニメ大国としてのサウジアラビアが有名になりましたが、実際にはアニメ・マンガ・ゲームの本格的な受容は20年以上かけて進んできたというのが実情だという気がします。

ワッハーブ派の方針に基づいた娯楽規制があったため日本人の目には見えない形で浸透していただけで、それまで国民総動員で禁欲的生活に勤しんでいたところに開放政策へと転換し皆が一気にアニメ・マンガ・ゲームに目覚めた、というのとはだいぶ違っているとの印象です。

元々サウジアラビアは大人に骨董趣味の人が結構いて熱心な人は私設展示館まで作ってしまったり、沼るとガチオタになる人を輩出しやすい国民性が以前から多少ながらもあったのではと思うこともあるのですが、色々な要因が重なり今やアラブ世界でも突出したアニメ・ゲーム大国となっている状況です。

サウジアラビア資本のエンタメ企業は昔からあり結構自由に作品をリリースしていた

現在のサウジアラビア王国はそこまで戒律に厳しくなく、テレビ・ラジオ会社も存在しアニメも多数放映されています。サウジアラビア資本のテレビ局や音楽レーベルも昔からあり、衛星放送が普及した頃から続いているサウジ系大企業がいくつもあります。アラブ世界で高い知名度を誇るベテラン歌謡歌手もサウジアラビア人には何人もいます。

王家との結びつきが強い放送局ではポップミュージック専門チャンネルも複数あり、サウジ国内外のヒットソングがずっと流れており、日本で視聴することも可能です。サウジ資本の放送局が国外に拠点を置くなどしてポップソングを流すというのはムハンマド王太子(皇太子)よりもずっと前の時代に始まっており、西暦2000年頃には既にネットストリーミングなども行っていました。

ムハンマド王太子(皇太子)就任で一気に加速はしましたが、その前からサウジ制作アニメも色々とあり、今活動しているマンガプロダクションズなどはそうした積み重ねの成果ともなっています。

開放政策が進んだ現在ではイスラームの戒律にほぼ配慮していないタイプの女性の髪の毛や肌の露出が大きい恋愛もののテレビドラマも多数作られ、各ジャンルのドラマからサッカー試合動画まで全世界に向けてオンデマンド配信を行うなど、コンテンツ配信の規模はアラブ諸国の中でも際立っています。

そのため「サウジアラビアは世界一イスラームに厳格な国で未だに許されないことだらけだ」といった言説に関してはアップデートが必要だと思われます。

偶像崇拝や多神教を想起させる像の設置や作品内設定の扱い

サウジアラビアに関しては「魂を宿した生き物の絵を描くのは禁止」「写真もNG」というのはもうかなり昔の話となっており、今のアラブ各国では元首の肖像画が飾られていたり、SNS・セルフィー好きが多かったりで、人物がや写真撮影への忌避感に関してはすっかり薄れている状態です。

アラビア半島などでは蝋人形などのリアルな像は嫌がる人がまだ多めとの印象ですが、サウジアラビアでは単なるイラストやアニメに比べると抵抗が強めだったフィギュアや等身大かそれ以上のサイズの像の建設もムハンマド王太子(皇太子)の時代に進み、今では政府系エンタメイベント会場におけるアニメブースでアニメキャラの像と記念写真を撮る光景が定着していたり、王族の像やフィギュアが作られるようにもなっています。

以前であればイスラームの唯一神アッラー以外の「神」が出てくるために絶対的な一神教に抵触するとして手を出さなかったであろうドラゴンボールのテーマパーク建設やアニメ『カミエラビ』(神の座をかけた候補者間の戦いの話)への出資など、人間を描くという偶像崇拝よりもさらに踏み込んだタブーだったアッラー以外の神の存在という描写の許容(多神崇拝であるシルク要素の含有)も起こっており、他国イスラーム教徒たちが反応するような流れも見られつつあります。

サウジアラビアは「石油収入に代わる観光・エンタメ産業振興が将来の国家収入として命綱になる」「エンタメには必要だから」ということで色々なことが押し切られていると評されることも。イスラーム教徒から見ればNGとされる事項に次々とゴーサインが出ているように見える件についてはイスラーム教国としてのサウジアラビアの求心力などにも関わるため、今後もイスラーム共同体内部からの注目を集めていくことが予想されるように思います。

ワッハーブ派とサウジアラビアの娯楽産業

家電のテレビが登場した時の放送局襲撃事件

サウジアラビア自体は元々厳格であろうとするワッハーブ派関係者も少なくなかったため、テレビ放送が解禁になった時には偶像崇拝と不道徳を世の中に広める悪しき存在だとして抗議活動が巻き起ったこともありました。

王族の一人であったハーリド・イブン・ムサーイド・イブン・アブドゥルアズィーズ王子は自身がモスクで説法を行うなど宗教的に厳格な人物だったのですが、1965年に彼とその支持者らが武装してテレビ局を襲撃するという事件が発生。最終的にハーリド王子は公安警察との銃撃戦によって死亡しました。

今ではエンターテインメントを統括する娯楽庁すらあるサウジアラビアですが、色々な議論を経て現在の状況・開放政策に行き着いた形です。

エンタメ政策本格化とワッハーブ派宗教界

王国が娯楽庁を作りエンタメ振興に乗り出した時も宗教家らが苦言を呈し節度ある政策を求めるなどしたのですが、一通り逮捕・投獄もしくは大モスクからの解任が行われるなどして表舞台から皆姿を消したため批判の声が小さくなっており、新たに立ち上がろうとする宗教家もすっかり減ったと言われています。

かつて宗教警察メンバーとしてその多くが活動し国外の武装闘争を支援することもあった厳格派や原理主義的な宗教層は今やメインストリームからハワーリジュと呼ばれることもあり、サウジアラビア社会が昔とは大きく変わったことを実感させられることも。

娯楽産業振興、社会の開放という名目からそれまで守ってきたイスラームの戒律やサウジアラビア社会のタブーなども破られた形となったため、日本で思われているような厳格さは今はもう存在しておらず、国主導の娯楽路線を邁進。アラブ諸国の中でも突出してエンタメ・スポーツに投資国にすらなり、各国企業が進出先として注視する国になってきてもいるようです。

サウジアラビアでは観光も解禁されイスラーム以前の遺跡であるマダーイン・サーリフなども名所として紹介されていますが、ワッハーブ派の思想に基づき政治をしていた時代には「預言者ムハンマドが、神によって滅ぼされた民の住んでいた地では涙すべきであり楽しんではいけないと信徒らに教えた」というイスラームの教義から訪問やレジャーをしてはいけないとして立ち入りが禁止されていました。

今サウジアラビアで進んでいる色々な政策はここ10年ぐらいに一気に解禁した物事が多いのですが、いずれもイスラーム的に許されないこと扱いだった内容となっています。二つの聖地を擁するイスラーム布教発祥の地で起きている急激な変化を手放しで歓迎できないイスラーム教徒たちが各国にいるのも、娯楽と観光のために信仰面で色々と切り捨てているように見えやすいことが理由となっている模様です。

これに関してはサウジアラビア国内で「イスラームの教えとアラブの古い伝統とを切り分け、厳しい禁止や制限をやめた現代的解釈なのでセーフだ」「預言者ムハンマドが言っていないことも彼の言葉として扱った信憑性の低い根拠を整理し遵守するのをやめたに過ぎない」といった意見もあるようです。

ただ「根拠として弱い預言者の言葉とされる言い伝え حَدِيث ضَعِيف [ ḥadīth ḍa‘īf ] [ ハディース・ダイーフ ] という理由から色々解禁しすぎている」という投稿も見かけるなど、国内でも開放政策にまつわるイスラーム教の戒律問題に対する見方は人によって違うとの印象です。

日本アニメは平和裏にうまい着地点を用意してイスラームと娯楽の共存を成功させたか?

アニメ・コスプレイベントを可能にした宗教家の意見について

日本では「イスラームの戒律を守りながらもうまく折り合いをつけて、平和裏にアニメが浸透していきサウジアラビアのみんなが幸せになっている」と思っている方もいらっしゃるようなのですが、イスラーム教徒として露出を減らしたコスプレをするといった工夫がある程度で、戒律の解釈というもっと深いレベルで宗教家グループ内における折り合いがついたというような事実はありません。

イスラームの戒律は聖典クルアーン(コーラン)と預言者ムハンマドの言行に関する記録をまとめた厚い本に依拠して定められているのですが、それらを書き換えることは不可能なので確実に抵触する部分については「従わない」「守らない」「気にしない」「特定の行為を禁止する預言者ムハンマドの教えとして伝わっている話について、後代の創作の可能性やアラブ部族の慣習と混同したものだとして戒律の論拠としての信頼性を否定する」「国の意向をくんだ個人的なウルトラ解釈を行う」以外に解決方法が無いためです。

アラブ諸国では国の宗教界トップに据えられる人物は元首の意向に沿った解釈・発言をするのが一般的なのでサウジアラビアだけで特別な変化が起きているということではないのですが、サウジアラビアの開放政策推進に際しても国の方針に添った見解を述べ、それまで分けていた男女を同じ場に置くことを許すといった解禁の論拠を提供したり音楽鑑賞も含めた各種娯楽にゴーサインを出す宗教家が現れました。

そうした発言を出した中心人物はかつてのワッハーブ派的厳格主義を棄てたと宣言した元勧善懲悪委員会(いわゆる宗教警察)の聖地地区トップだったのですが、彼や同様の開放政策支持派人物らがかつてNGだとして自粛・敬遠されていた事項に許可を出していったことに対して国内の大物宗教家らから批判・反発が起こり、批判した側の主張や彼らの逮捕・投獄の経緯を紹介した動画類がネットでも広まるなどしました。

反対意見を言う人たちがいなくなったこと、また抗議集会の開催が認められていない同国では大規模抗議運動が起こらない/報じられないので、遠くの国から眺めている限りではアニメが武器も暴力も使わず極めてハッピーな形でサウジ社会を変えたように見えやすいのですが、女性のコスプレも含め娯楽政策に際しての宗教的ハードルについて話し合って国民を説得できる裏技的な戒律の新解釈を作ったということは特にされていないので、「日本アニメの力がイスラームの戒律そのものを変えた」「日本アニメのために戒律と両立できる上手い解決策が生みだされた」と安易に話を補完してしまわないよう注意が必要かもしれません。

戒律の解釈変更は大枠部分について行われ、引き続き遵守するかどうかは個人の判断になっていった

ただ、権力者の意思決定・政策に有利な法学的意見を出すにしても限界というものがあり、明らかに戒律に反している事項に対する支持を乱発することはできません。特にサウジアラビアでは国王に「二大聖地の守護者」という肩書きがあるため、その行動にはある程度の制限がつきます。

そのためアラブ首長国連邦やサウジアラビアのような開放政策が抜きん出て進行している国に関しては、エンタメ振興に合うように戒律解釈を全部変えていったのではなく、重要な骨格に関わる部分で宗教家が国の意向をくんだ意見を出し、それ以外の細かい部分は「多くの人々が自身の判断で厳密に守ることはしなくなった」というのが現状だと言えるかと思います。

中東ではこれまでも「イスラームにどのぐらい厳格か?」については時代によって変動があった訳ですが、アラブ諸国においてもムスリム同胞団の規制・テロ対策・反体制派取り締まりといった理由から戒律遵守とは逆の世俗化方向に進むのが一般的な流れとなっている印象です。

サウジでは若者向けに「原理主義やテロは良くない」「家に閉じこもって鬱々としているとテロ集団に引き込まれる」といった注意喚起の放送をテレビで放送していたりするのですが、それらにもアニメ技術が使われており宗教以外にハマるものを見つけるようにという広報活動の支える産業ともなっています。

アニメは厳格なアラブ社会に平和・幸福を運んだのか?~娯楽政策の光と影について

歓迎していない人々の姿は日本からだと見えないことが多い

サウジアラビアでは開放政策の本格化に伴い「国の予算を大幅に削り娯楽一辺倒の政策を推し進めるのではなく、節度ある態度でイスラームやサウジアラビア部族社会の価値観を守りつつやっていくべきだ」「伝統的サウジアラビア社会の破壊には反対だ」と提言した人々もいたのですが、国政の障害になった宗教家・部族関係者・一般人活動家らは逮捕・投獄されていき、一部は何年かで釈放、一部の宗教家は収監・服役中に死去、影響力の強い宗教家に関しては刑期延長が行われ外に帰って来ていません。

「厳格なイスラームの宗教家がいなくなるのならばむしろ好都合では?」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、同国の場合宗教活動とは関係が無い作家や人権活動家たちも収監されているので「どんどん取り締まれば過激派もいなくなって安心」「厳格な宗教家たちを投獄すればテロも減るからこのままの方が良い」「サウジにもっとアニメを入れれば解決が進む」などとは軽々しくも言えないセンシティブな問題となっています。

残った国民の中には国の変容に対する不安を感じながらも投獄を恐れて口をつぐんだまま押し寄せる開放・娯楽政策の波を傍観している人もいること、サウジの主要メディアは王族の管理下にあり日本アニメが大人気でイベントも大盛況だというニュースを重点的に供給していることなどから、日本という遠くから見ただけでは「反対意見が出ていない」=「サウジ人たちに圧倒的人気」「サウジはすっかり変わった」「日本のアニメをこぞって歓迎して喜んでいる」「コスプレイベントがほんの数年でここまで大きくなったのはサウジ国民に広く親しまれ容認されたから」と受け止める方も少なくないかもしれません。

各種娯楽があふれるようになったサウジアラビアでは「自分の国であれこれ楽しめるようになって嬉しい」と喜んでいる人たちも大勢いるのですが、「喜ばないことが許されない」「嫌悪感を公言すると反体制扱いされてしまう」という不安感を投稿している人もSNSで見かけます。

元々娯楽庁設立はワッハーブ派に根ざした国家運営の下で戒律を守っている人が多かったサウジアラビア国内では反対意見も多い案件で、当初は「イスラーム法に即したエンターテインメント運営をしていく組織を作る」的な前提で創立を説得したという経緯があったとか。当初は公約通りクルアーン朗誦コンテストといったイスラーム教関連のイベントを開催していたらしいのですが、突如ダンス・コンサート・アニメ・ゲーム・スポーツ等のエンタメに全振りした開放・娯楽振興策に転換したとのこと。そのためをイスラーム教関連のイベントをやってくれるならセーフだと思って娯楽庁新設を承認した層から「話が全然違う」「約束が破られた」という声が聞かれたりもしたようです。

その結果「勧善懲悪委員会の時代からイスラームに反した娯楽を推進する勧悪懲善の娯楽庁に置き換わり、敬虔なイスラーム教徒がないがしろにされる国になってしまった」という評が出るようになったり、「イスラームを熱心に信仰する自由がほしい」「新型コロナで聖地巡礼が制限されているのに密集が起きるダンスミュージックライブはなぜ先に解禁になったのか」「宗教家たちを刑務所から出してほしい」「イスラーム方式で貧者救済などに回していた寄付金が楽しんだらそれきりの娯楽に流れていく」「勧善懲悪委員会(宗教警察)による風紀取り締まりがあった時代の方が人々の公衆道徳が守られていたからまた戻してほしい」とネットで発信する人々が現れるようにもなっている状況です。

サウジアラビアではモスクでの宗教行為にいくつかの新規制限が設けられたり、近未来的都市計画の一環として聖地マッカ(メッカ)カアバ神殿そっくりな建造物のプランが発表され国外イスラーム教徒らも巻き込んだ似ている/似ていない論争が起きるなどしているのですが、そうした出来事が重なるうちに「サウジアラビアが新たに~を決定した」といった実際にはサウジアラビアが行っていないことをあたかもそうであるかのように報じたガセネタが出回るようにもなっており、以前より慎重な情報の確認・精査が必要になってきているとの印象です。

国が公共事業として一括で大規模開催し国民に供給するエンターテインメントと国民の自由

サウジアラビアでは国が国民の好きそうな海外エンタメをチョイスして供給している感が強めなのですが、必ずしも受け取る側にとって好みのコンテンツであるとは限りません。

しかし催行側が特定コンテンツや特定アーティストに批判的な人々・好きになれない人々を「◯◯が好きにならないなんて」「◯◯のどこが悪いのか?」といった感じで煽る発言もしたこともあるなど、日本に比べて「好きになる自由」「嫌いになる自由」「批判する権利」「見たくないコンテンツから距離を置く自由」が少ない様子。

身近で起きている急激な変化の中には自分が望んでいないものもあるということで、「自分たちが欲しかった自由はこれじゃない」「拒否権無しで強制的に与えられる娯楽は理想の姿じゃない」「意思決定側の個人的な趣味に基づく娯楽政策に国の金を浪費するのはやめてほしい」「就職難で困っている若者たちのためにお金を使ってほしい」「サウジ国民の中には家計が厳しい人たちもいるのだし、消費して楽しんでだらそれきりになってしまう娯楽に公金と国民が納めた税金をどんどん回すのは良くないと思う」といった意見がネットでも見られるなど、民間企業ではなく国家事業として巨大な規模で次々に提供されるがゆえの反応というのも色々とある模様です。

また急激な変化ゆえに「サウジから昔のようなのんびりした温かい人間関係が減っていき、ストレスもたまりギスギスして疲れるようになった」「昔のサウジアラビアが恋しい」といった声も出ており、国民がこの激しい変化スピードにどこまでついていけるのかも課題の一つになってきていると言えるかもしれません。

アラブ・イスラーム世界とエンタメの問題

支配・国民教育ツールとしてのアニメ

日本ではサウジアラビアにおけるアニメ・マンガ・ゲーム事業のニュースを見て「日本のアニメの力はすごい」「世界に平和を広げる素晴らしい手段」「とってもいい話」と絶賛・歓迎する声も多いようです。

しかしアラブ諸国ではアニメやエンタメ系コンテンツは立派な世論誘導・対外工作の道具になり得るという認識が日本よりもずっと強く20年以上前からそのような言説が存在していました。

アラブ世界におけるアニメ類の国策利用は1930年代にエジプトで生まれたシリーズ作品『ミシュミシュ・アファンディー(ミシュミシュ・エフェンディー)』の軍プロパガンダまでさかのぼるのですが、こうした利用は現在でも行われており、愛国心を育てる内容のアニメがラマダーン時期に放映されたり、イエメンではフースィー(フーシー/フーシ/ホーシー/ホーシ)派批判を盛り込み彼らが信仰するシーア派の一派ザイド派の歴史上指導者らを非人間(人外)の風貌で描いたり、子供に教育を施すためのメディア戦略として利用されている例が少なくありません。

「兵器を使わないでターゲットとなる国の国民性や宗教に対する姿勢を変えられる」というのは裏返せば「外部の意思に基づき、その国の国民性・社会構造・宗教権威の地位などを大規模に改造できる」になること、アラブ諸国は欧米諸国の工作活動を繰り返し受けてきたことなどから、アニメ兵器論をただの陰謀論だとは思っていない人も多いです。

サウジアラビアなどはイスラームだけの問題ではなく、保守的な部族社会という砦も別に存在しています。部族社会は非常に保守的で女性の自由や行動制限に関わる価値観と結びついており、「アニメは大人になったら卒業」という風潮がまだまだ強いこともあり壮年・老年世代には日本アニメに寛容な人が今でも少なめなこともあって、アニメ振興策や男女入り混じってのコスプレパーティー、ライブ、アニメグッズ販売などに対する不満は宗教とはまた別枠で出ている状況です。

サウジの場合は王族による統治・監視が行き渡っており大規模暴動が起きることもありませんが、宗教(主にシーア派)と部族の両面で保守的なイラクなどはライブコンサート反対デモが開催予定会場に押し寄せ中止に追い込む、シーア派の聖地で開催されたコスプレイベントに否定的なリアクションが寄せられるという事態も発生しています。

そうした保守的な地域では流入する日本アニメが増えれば増えるほど攻勢が激化したと受け止められることになること、またイスラームという要素が薄れても部族社会的価値観という別の要素があるためアニメの力だけでそれらを全て動かし変えていくことは不可能だと思われます。

イスラームへの信仰が厚いかどうかとはまた別に部族社会の価値観に反するインモラルなコンテンツが日本から持ち込まれれば反感を買うことになる訳ですが、その一方でアニメやマンガ関連の催事については子供も楽しめるイベントということで単なるライブコンサートに比べて好意的に見られているとの印象です。

実際のところ、衛星放送の普及とスマホ育児増加からどの国でもアニメを見て育つちびっこはますます増えている状況です。近頃は海外のアプリや動画で毎日数時間遊んでいるために英語の方が達者になってしまうことも現れているのだとか。先日サウジ系ラジオでそうした事例が紹介されていました。

せりふがアラビア語のアニメは親が優先的に与えたがるコンテンツともなるため、色々と議論はあるものの日本アニメで育つ子供は非常に多いとの印象です。

愛国とエンタメコンテンツ

日本はアラブの国家と構造が違うのでピンとこない方が多いと思うのですが、アラビア半島地域はイスラーム以前から部族同士が抗争・戦争を繰り返しており「力こそ正義」「強い漢こそが理想」「部族のために自分も戦って一員として認められる」「部族の長が一族の成員らを世話し、寛大な施しを与える」といった意識が日本に比べて強めです。

王国であれ首長国であれ特定の部族・一族が戦いの末にその土地の支配権を奪取することで生まれた政権が元になっていること、アラブ詩というアラブ世界に君臨し続けてきた文学ジャンル自体が為政者を称賛したり敵を攻撃したりという政治の重要なアイテムとしての役割を果たしてきたことから、メディアでは愛国ソングや愛国詩が盛んに流され、歌手などのアーティストも愛国キャンペーンに度々登場するなど、エンタメコンテンツが元首を称賛するのに利用されることが日常的に行われています。

これについてはサウジアラビアも例外ではなく、ミスク財団傘下各社は所有者であるムハンマド・ビン・サルマーン王太子(皇太子)への忠誠を公式SNSアカウントなどで定期的に表明。マンガプロダクションズが定期的に発表する動画や画像も国王陛下、王太子(皇太子)殿下、国軍を称賛しているなどしています。

日本人の感覚だと「アニメは政治・戦争と無縁」「国家元首のために作られることはまず無い」と思いがちですが、アラブ世界ではそこの部分が全然違うので、国策アニメに制作/製作技術を譲渡する以上はアラブ式の利用がなされてもおかしくはないと思った方が良いかもしれません。

既にサウジアラビアでは日本の会社への委託・共同制作の形でサウード家の王族を礼賛する建国記念日アニメが何本も作られており、国軍の戦闘機や兵士なども登場してきました。元々サウジ王家によるアニメ・ゲーム事業自体が祖国を好きになる若手の育成やサウジを好きになる外国人の増加が目標となっていることもあり、今後もサウジ/日本製のアニメやイラストが愛国心育成や過去の戦争の回顧といった用途に活用されることは続いていくものと思われます。

アラブ世界と「エンタメはソフトな戦争の兵器」論

国民性を大きく変える力があるものは兵器の一種とする考え

現地では「アニメ・マンガ・ゲーム、スポーツ、格闘技、ライブコンサート、観光などのあらゆる娯楽が兵器を使わない静かなる戦争・ソフトな戦争の道具として計画的に導入されている」「娯楽を使って本気でアラブ・イスラーム世界やサウジアラビアを潰しにかかってきた」「政治問題や宗教・民族問題から目をそらさせるための便利な道具」という日本のSSS政策(3S政策)論のアラブ・イスラーム版*的なものがあるのですが、そうした意見を持った人々の目には日本アニメ進出・アニソン歌手ライブコンサート・コスプレ大会は形を変えた戦略的な兵器と映っている状況です。

*スンナ派地域ではまず聞かれない言い回しですが、シーア派が過半数を超えるようなイラクなどではこうした企図を「悪魔の計画」「悪魔の企み」と表現することが多いです。管理人が毎日ニュース番組をチェックしているイラクの場合、麻薬、エンタメ、LGBT問題がそれらの代表として扱われている感じです。
*諸外国でサウジアラビアのエンタメ重視策がスポーツウォッシング、アニメウォッシングと評されることもありますが、アラブ世界ではアニメに関して「戦後日本はアニメの力で自国イメージを変えるのに成功した」と言われたり、アニメウォッシングの成功例として日本が挙げられたりすることもあります。

日本のSSS政策(3S政策)説は「アジア各国に侵攻し血気盛んだった日本人を大規模改造するために娯楽を大量投入し、大人しくさせた上で国際政治や戦争への関心も失わせる」的なものですが、これをアラブ・イスラーム世界やサウジに置き換えたのが「厳格なイスラーム教徒が多いサウジアラビアに娯楽を一気に入れて、イスラームやテロ問題への関心を薄れさせ、国民性を変える」になるかと思います。

西洋諸国はかなり昔から対中東政策としてメディアを通じ色々な試みをしてきたと言われていますが、日本アニメ・マンガ・ゲームは20年~30年の間にアラブ世界へと劇的に浸透し若者世代を変えてしまった驚異的な威力を持つ存在とも言われており、文化破壊の側面から特に警戒されやすい対象になりがちです。

「日本のアニメ・マンガ・ゲームの力がサウジアラビアを変えた」に対するサウジ人たちの嫌悪感・リアクション

これは日本で「日本のアニメの力があればサウジアラビアのような厳格な部族社会・イスラーム教社会を変え、過激なイスラーム教徒を減らせる」と言われている内容に相当するのですが、面と向かって「戦犯*の日本人が娯楽で牙を抜かれて嬉しい。朗報。」と海外から言われて日本人が嬉しくないのと同様、サウジ人たちにとっては受け入れ難い言説である様子。

2023年8月に「アニメ好きの皇太子がコスプレのために戒律をいじって例外扱いにした。日本のアニメの力はすごい。」というツイートが拡散した際、サウジ側に伝わって「大嘘」「間違ってるのに確認せず投稿した」「日本のアニメの力でサウジアラビアを変えるとか何を言ってるのか?」「夢から早く目を覚まして現実を見るべき」といった返信メッセージが寄せられるなどしました。

加えて原爆投下映像ペーストによる嫌がらせも複数行われたりもし、多くのサウジ人にとっては的外れもしくは心外・不快だと感じられる解釈だったことが改めて示された形となったように思います。

*サウジアラビアも含め、アラブ人が日本人をディスる時の典型例の一つが戦犯、差別主義者・排外主義者といった言葉での形容や原爆投下画像添付による応酬となっています。管理人の意見を反映したものではないので誤解無きようお願いいたします。

厳格なイスラーム教徒的視点から見た開放・娯楽政策

国外から見たサウジアラビアの急激な変化

イスラームの二大聖地を抱えるサウジアラビアがごく短期間で変貌したことについては、周辺諸国のアラブ人や世界各国のイスラーム教徒らも驚くとともに「娯楽・開放政策のために宗教家とされる人物が次々に色々な意見を出しているのはどういうことか」「あのサウジアラビアが娯楽の力で急速に壊れていってしまっている」「宗教的に緩かったはずのアラブ他国をほんの数年で追い越してしまった」と注視している人もいる様子。

サウジアラビアが娯楽に大量投資している国費は石油収入以外にも全世界のイスラーム教徒らが行う聖地大巡礼(ハッジ)・小巡礼(ウムラ)がもたらした歳入にも支えられているため、「自分たちが支払った巡礼観光の代金がイスラームに反した娯楽イベントに使われていると思うとやるせない」といったコメントも見かけたりと、国としては他所の国ではあるけれども他人事ではないと思っているというイスラーム共同体ならではの気持ちを抱いている人々も少なくないようです。

娯楽・エンタメに対する忌避感がイスラーム教徒らの間で強い理由

アラブ・イスラーム世界ではイスラーム時代になってから定められた戒律から離れることはそれ以前のジャーヒリーヤ(無明時代、無道時代)という暴利をむさぼり酒池肉林的な時代への回帰と見なされやすく、歌・ダンスといった娯楽推進や酒提供の一部解禁についてはイスラーム共同体から厳しい目で見られ、宗教的罪との関連で語られる傾向が強めです。

特に音楽や踊りを交えての饗宴は預言者ムハンマドらと敵対した多神教徒たちの生活ぶりのイメージと重なり、イスラーム世界の伝記映画でも度々登場してきた”悪いシーン”でもあったことから、今でも嫌悪する人が少なくありません。

日本ではまず考えられないことですが歌手・芸能人が晩年に体調を崩し入院すると「今ならまだ間に合う。最後に音楽を捨ててクルアーンに立ち戻った方がいい。改心の最後のチャンス。」といったコメントが寄せられることも多いなど、娯楽産業に対する風当たりというものも存在しています。

人によっては神の裁きによって地獄に送られる所業、イスラーム共同体の崩壊と末法の世の到来の象徴、終わりの始まり、最後の審判の日の接近の前兆としてとらえているので、そのような考えの人が書いたネット投稿やサイト記事の中では欧米スターのライブコンサート、日本のエンタメコンテンツ、韓流アイドルなどはまとめて宗教的に罪に誘い込む道具やその片棒を担いでいる側と形容されることもあります。

以前はサウジアラビアで豪雨や水害が起きると「イスラーム教徒らへの警告」とか「アラブの為政者らへの警告」といったコメントが寄せられることが一般的だったのですが、娯楽政策が本格化してからはコメントの内容が変化。「ニ大聖地の国であるサウジアラビアをダンス、歌謡などの娯楽の国にしたことへの罰」といった投稿も見られるようになってきています。

聖地があり全世界のイスラーム教徒たちの巡礼を受け入れ統括する側としてのサウジアラビアの威信にも関わる問題だと思うのですが、今後政策やイスラーム教徒たちの受け止め方がどのように変化していくのかはニュース報道やネット議論などでその都度確認していく必要がありそうです。

イスラーム世界と動揺

サウジアラビアでは娯楽・観光政策への批判動画を公開した宗教家がなぜか直後に撤回を表明し娯楽・観光政策を支持する動画をリリースした、モスクで礼拝の先導や説法といった業務を群衆の中で行っているタイミングで制服を来た当局関係者に取り囲まれ逮捕・投獄のために連行される様子が撮影されネットで動画が拡散した、聖地マッカ(メッカ)で導師を務めていた宗教家が娯楽庁のCMに採用されコスプレ姿で登場した、といった具合にイスラーム共同体が動揺する出来事が開放政策推進と並行して起きてきたといいます。

ムスリム世界連盟がイスラエルとの国交樹立に前向きな組織に変わった、イスラエル国籍保持者の観光客が聖地マッカ(メッカ)を訪れたとされる画像が出回った、国営コンサートのステージや歌手衣装にオカルト的シンボリズムとして知られる片目のシンボルが複数あしらわれていたことなどから陰謀論界隈に問題が波及した、など関係正常化と連動した大きな動きを予期させる流れが同時発生していたのですが、それらが「開放・娯楽政策はただのエンタメ産業振興目的とは違うのではないか」という疑念・危機感を惹起しやすくなっているという状況がしばらく続いていたようにも見受けられました。

2023年10月にハマース(ハマス)による軍事行動から始まったイスラエルとの交戦では落ち着くまでダンスや音楽ライブといったイベントを自粛した方が良いといった意見も出ていましたが、10月28日に大型娯楽フェスティバルが予定通り開催。ガザ地区への空爆が激化したタイミングで花火打ち上げが行われ、人々がコンサートでのダンスなどを楽しんでいる様子が世界各地のイスラームコミュニティーに転載されイスラーム共同体における憂慮すべき事件という反応が広まった模様。

こうした娯楽イベントは各国の自由ではありますが、サウジアラビアはニ大聖地を抱えているために国外イスラーム教徒らから厳しい評価を受けやすいようです。

ガザ空爆が激化した頃からライブコンサート、日本アニメなどのキャラコスプレ、キャラ大型像が設置されたアニメブースの光景が非難目的で転載される事例も出てきています。パレスチナ情勢が激化する中アラブ諸国でエンタメ系の興行をする場合、こうした「ガザで流血が続いているのにこんなイベントをするなんて」と見られイベントや作品のイメージに多少なりとも影響する可能性があることは把握しておいても損は無いかもしれません。

最後に

強力なアラブ的リーダーとエンタメ事業

アラブ諸国で日本アニメが広がりだしてから約40年。今はまだ日本アニメで育たなかった世代が現役ですが、世代交代に伴い次第に風当たりなども変わっていくものと思います。テレビ導入反対で王族蜂起が起きたのが昔の出来事になったのと同様、数十年も経てば「そういえば反対していた人たちもたくさんいたね」となるかもしれません。

サウジアラビアではムハンマド王太子(皇太子)による権力掌握がほぼ完了している状態で、かつて絶対的権力者が統治していたアラブ諸国が内乱や侵攻で安定を失ったのとは対象的に、圧倒的なリーダーシップを発揮しています。

そのためサウジ国内には信奉者も多く、国外からの批判に「強い指導者がいることへの他国アラブ人たちからのやっかみ」「王太子(皇太子)主導のプロジェクトを何でもすぐにハーショクジー(ハーショグジー、日本での一般的表記はカショギ)事件とからめバッシングに持っていくのは止めてほしい」と返す声もしばしば聞かれます。

日本で話題になっているサウジアラビア王国のエンタメ政策は莫大な国費に支えられた事業であること、ムハンマド王太子(皇太子)の治世が将来長期間にわたって続く可能性が非常に高いことから、現代30代後半の殿下が中年期に起きがちな”オタ卒”を迎えない限り突然ぱたりと縮小/中止されることは考えにくいです。

サウジのおたく系国家事業とキーパーソンの多大なる寄与

ただ、同国のアニメ・マンガ・ゲーム事業に関しては精力的に支えあらゆる契約に立ち会っている超重要キーパーソンがブカーリ・イサム(イサム・ブカーリ)氏実質一人である様子から、このマルチな統括者さんが無事勤続して事業を完遂していくという部分にもサウジアラビア王国のアニメ・マンガ業界の命運が左右され得るものと思われます。

アラブ社会は事業を担っていた強力なトップが不在になると突如頓挫してしまうといったことも起きがちな土地柄で、サウジアラビアの大学分校でサウジアラビア大使館公認アラビア語学校だった東京の施設も日本の複数大学と提携を結んだ矢先に突然閉校してしまったことがありました。

同スクールがNHKアラビア語講座のテキストに宣伝を載せたりと華やかに活動していた時期はちょうど現マンガプロダクションズCEO/マンガ・アラビア編集長のブカーリ・イサム(イサム・ブカーリ)氏が運営に関与され色々なアイデアを提供されていた頃だったと思うのですが、日本の大物政治家らを招いたり、アラビア語オリンピックを開催したりと、ものすごい勢いがあったように記憶しています。

ところが同氏がスクール運営から離れられたであろう時期から大量コンテンツを擁していた公式ウェブサイトが突然縮小するといった変化があり、大使館の文化事業担当を辞めサウジアラビアに帰国された(2015年夏)後の数年後には施設自体が一時閉鎖、そのまま再開せず実質閉校となってしまいました。開放政策による宗教大学海外分校の整理といった事情もあったのかもしれませんが、無料同然の費用でアラビア語講座を開き他スクールの追随を許さない吸引力を持ち続けた施設の終焉はあっけなく寂しさも感じる一件でもありました。

多くの日本企業・教育機関がたった一人の王太子(皇太子)殿下と各分野で契約・提携関係を結んでいる今、サウジアラビアの動向は日本を大きく左右し得るものとして注視すべき事項となっているのではないでしょうか…

サウジアラビアの潤沢な国家予算と日本の業界にとっての資金源

サウジアラビアは石油収入と巡礼・宗教観光収入に支えられた莫大な国費を持っているため、娯楽政策に超大型投資をし始めた時点で「アラブ・イスラーム各国には苦しんでいる人々が大勢いる。それなのにどうしてイスラームに反しているとされているエンタメに回してしまうのか?」といった意見がネットなどでも寄せられてきました。

日本は諸外国への巨額援助を発表することが多いので日本の方々もある程度は似た感情を覚えた方もいるかとは思うのですが、少なくないサウジアラビア国民が長年の「お財布」扱いに参っている部分もあるようで、「サウジアラビアの国庫金はサウジ人たちのものだから口出しは無用」「サウジの金をあてにしてまるで物乞いみたいだ」といった応酬になることも。

アラブ世界はアラブ連盟という枠組みで連帯しているものの隣り合ったアラブ諸国同士は仲が悪いことも多く、境遇・生活水準の大きな違いや一方的な金銭的援助の継続はこうした摩擦も生んでいます。

日本では「頼めば石油王がうちらの好きなアニメにお金を出してくれるかも」「日本のアニメ・マンガ界に最強のスポンサーが現れた」と語られることもありますが、サウジが日本に投下しているのは王族のポケットマネーではなく国家予算です。

王族の方の趣味とサウジアラビアのためになる利益・集客を考えてやっていることなので、「ドラゴンボールパークを日本に作りたいからお金を出してくださいと言えばサウジアラビアなんかにできなかたったのでは」的な感じでサウジアラビアの莫大な資金を太っ腹な石油王からのプレゼント的に期待しあてにする投稿類はサウジ人に見られた場合荒れる原因になることも考えられます。

以前、日本語アカウントでのサウジアラビアに関するツイートに現地からマイナスコメントが寄せられた際、「サウジアラビアが日本にどれだけ資金提供したか知っていてそんなこと(*日本アニメの力でサウジを変えられる、日本アニメがイスラームの厳しい戒律に風穴を開けた)を言うのか?」というコメントが実際に寄せられているのを何件か見かけたのですが、サウジの国家予算を投下してもらったならそれなりの見方・扱いをされる可能性を示している一件だったようにも感じました。

莫大な投資が見込めるサウジアラビア政府との事業提携は日本の企業にとっても非常に魅力的だとは思うのですが、太っ腹な個人から提示される単なるおいしい話とはまた違い、サウジ国民の税金やイスラーム教徒たちの巡礼費用が日本などのエンタメ業界に吸い上げられていると見られるリスクなどにも留意する必要があるのかもしれません。

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このページは管理人の空想から書いた創作ではなく、実際にネット上にあった記事・投稿・動画(アラビア語)の情報を元にしています。いつもネットで巡回して色々なニュースや投稿を拾い読みして得た情報に基づき書いたものなので、日本アニメの影響力を過小評価したり悪い印象を与えようといった意図による創作は加えていないつもりです。

実際に起きている流れをまとめる目的で作成したため、ムハンマド王太子(皇太子)殿下を批判する目的は特にありません。管理人は若い頃大使館事業として日本でのサウジ・イスラーム関連出版物チェックを行っている検閲係の青年にお会いしたことがあるので攻撃的な口調にならないよう注意したつもりではいるのですが、書きすぎた部分があったのではと心配もしています…

ページの終盤については日本語がわかるサウジアラビアの方々の多くが嫌な気分になられたかもしれません。もし気分を害されたようでしたら、この場にて改めてお詫び申し上げます。

 

(2024年3月 ドラゴンボールテーマパーク建設計画について)