ة(ター・マルブータ)がついた女性名詞の口語における変化
女性名の多くが英字表記において—a(—ア)もしくは—ah(ア)で終わる女性形になっています。
そのうち動詞基本形(第1形)能動分詞にター・マルブータがついた女性形では、口語において長母音ā→短母音a化、後半の母音i(もしくはそれが変化したe)の脱落が起きがちです。ガチガチの文語から普段使いの方言までどのぐらい変化するかを紹介しておきたいと思います。
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実際の例で確認する口語での変化
ファーティマの場合
アラビア文字で فَاطِمَة と書く女性名「ファーティマ」。預言者ムハンマドの娘で第4代正統カリフ アリーの妻となった人物の名前だけあって、昔から広く女児の名付けに使われてきました。
例えばこのファーティマだけでも、文語と口語の様々なルールゆえに英字表記で非常に多くのバリエーションが存在します。
文語:fātimatu(ファーティマトゥ)→横棒を取るとfatimatu
中央のtは厳密には重たいtなので、学術的な表記では下点のついたṭを使いますが、ここでは割愛しています。
ター・マルブータがついた女性名「ファーティマ」は厳密には格などを示す語末まで完全に読むと、子音「t」の音が現れてファーティマ(fātima)+「tu」(トゥ)となります。能動分詞の語形ですがファーティマトゥン(fātimatun)とはせず、「tu」(トゥ)の語尾にする二段変化の女性名です。
アラブ地域の人名表記でファーティマをfatimatu=ファーティマトゥで表記する例についてはまず無いので考えなくて大丈夫です。
文語:fātimah(ファーティマフ)→横棒を取るとfatimah
語末の格母音を省略するワクフという読み方で、tを点無しのhに変えてふんわりフを添えるケースです。日常生活でこの読み方はしないので、英字表記でhが入っていても「ファーティマフ」とする必要はありません。というよりは、ファーティマフは不自然なのでやらない方が良いです。
文語:fātima もしくは fātimah(ファーティマ)→横棒を取るとfatima、fatimah
語末にhが来るのは、ファーティマフと読むワクフ読みの名残です。一般的にはhは省略して単に手前のaで終えてファーティマと読んでいるにもかかわらず、英字表記ではこのhがしばしば付記されていることがあります。
語末のhはおまけ的なもので、「ファーティマフ」とはしません。「ah」は英語風に「アー」と読むためのものではないので、「ファーティマー」とカタカナ化しないよう要注意です。
口語:fātime もしくは fātimeh(ファーティメ)→横棒を取るとfatime、fatimeh
シリア・レバノン周辺方言では女性を示す語末のaをeで発音するためです。
語末のhはおまけ的なもので、「ファーティメフ」とはしません。また「eh」を英語風に「エー」と読んで「ファーティメー」とカタカナ化しないよう要注意です。
口語:fatma もしくは fatmah(ファトマ)
口語では能動分詞の女性形「■ā■i■a」の前半の長母音āが短くなることが多いためです。前半の長母音を短くした場合、後半のiも抜けてしまいfātima → fatma まで一気に英字表記が変化します。
語末のhはおまけ的なもので、「ファトマフ」とはしません。また「ah」を英語風に「ah」と読んで「ファトマー」としないよう要注意です。
口語:fatme もしくは fatmeh(ファトメ)
上のファトマがシリア・レバノン方言式に変化して語末がa → eに変わっているバージョンです。
語末のhはおまけ的なもので、「ファトメフ」とはしません。また「eh」を英語風に「エー」と読んで「ファトメー」とカタカナ化しないよう要注意です。
マージダの場合
ファーティマと似たような文語/口語/方言による英字表記の変化が他の名前でも起きます。エジプトのようにアルファベットجのjをgと読む地域では元の名前を推測するのが一層難しくなります。
文語:mājidatun(マージダトゥン)→横棒を取るとmajidatun
ター・マルブータがついた女性名「マージダ」は厳密には格などを示す語末まで完全に読むと、子音「t」の音が現れてマージダトゥン(mājida)+「tun」(トゥン)となります。
アラブ地域の人名表記でマージダをmajidatun=マージダトゥンで表記する例についてはまず無いので考えなくて大丈夫です。
文語:mājidah(マージダフ)→横棒を取るとmajidah
上で紹介したワクフという読み方で、tを点無しのhに変えてふんわりフを添えるケースです。日常生活でこの読み方はしません。
文語:mājida もしくは mājidah(マージダ)→横棒を取るとmajida、majidah
hがあっても無くても「マージダ」と読みます。「ah」は英語風に「アー」と読むためのものではないので、「マージダー」とカタカナ化しないよう要注意です。
文語の方言読み:māgida もしくは māgidah(マーギダ)→横棒を取るとmagida、magidah
jをgで読んでいる場合は、g表記に変身。hがあっても無くても「マーギダ」と読みます。「ah」は英語風に「アー」と読むためのものではないので、「マーギダー」とカタカナ化しないよう要注意です。
なお、ここでは「マー」とのばすと説明していますが、実際の発音は「マギダ」にかなり近い可能性があります。
方言:magda もしくは magdah(マグダ)
エジプト方言特有のg音化に加え、口語では能動分詞の女性形「■ā■i■a」の前半の長母音āが短くなり、後半のiも抜けてしまいmāgida(マーギダ)→ magda(マグダ) まで英字表記が変化します。
語末のhはおまけ的なもので、「マグダフ」とはしません。また「ah」を英語風に「ah」と読んで「マグダー」としないよう要注意です。