アラブ人の名前のしくみ~人名と双数形・複数形

アラビア語の双数と複数

アラビア語における単数・双数・複数の区別

アラビア語では単数よりも大きな数に2種類あります。単数も含めると以下のような区別が行われています。

  • 単数:1つ・1人;人以外の物・動物他が複数ある時は女性単数扱い
  • 双数:2つ・2人
  • 複数:3つ・3人以上(ただし人以外の物・動物他が複数ある時は女性単数扱い)

人以外を複数で受けるフスハーの用法

星々を男性複数で受けるクルアーンの表現など

人以外の物・動物他が複数ある時は女性単数扱いするルールですが、絶対にそうなるという訳ではありません。

クルアーンでは星々を男性複数で受けるといった表現がありますが、これらは無機物が人間を指している(夢で見た星々は夢を見た人物の周囲にいる人間たちが将来そうなるであろうことを示唆した予知夢だった etc.)部分でそうなっていると解釈されています。

学習書に出てくる文法説明は本来のごく一部を切り取ったもの

アラビア語のフスハー文法は元々アラビア半島にいた各部族の色々な用法・発音を調査しどこからどこまでが許容範囲でどの部族の用法が逸脱扱いになるかを細かく定義したものでした。そのためフスハー的に正しい・許される文法が一つの項目に対していくつも存在しており、「あっちも正しいしこっちも正しい」ということが頻繁に起きます。

アラビア語学習者が利用する初級~中級文法書では現代標準アラビア語で一般的なルールを選んで紹介しているためそれから外れた用法を「恥ずかしい間違い」的に教えることも少なくありません。

しかし実際にはフスハーとして許された用法だったり、過去に一部部族が行っていた発音だったりして、実は間違いではないケースが多かったりします。

詳しい文法書になると特定文法事項に対し部族ごとの差異が大きく発音や語形に10以上のバリエーションがあったこと、人称代名詞の接続形で ـِهِمْ [ -i-him ] を ـِهُمْ [ -i-hum ] で発音する方式(*アーンミーヤで行われるこの読みがフスハー文法書にも載っていてクルアーン朗誦学のレクチャーにも出てきます)の存在など、「え、それ間違いじゃなかったの?」と驚かされるような記述に出くわすことも少なくありません😅

口語における非人間の複数の女性複数扱い

方言によっては日常的に非人間・物事の複数形を女性複数 ـهن で受けることがあり空の星やお金を数えたりする際に女性単数 ـهَا にしないことがあります。(イラク方言もこのタイプ。空にあるいくつもの星を女性複数で受けるため ـهَا [ -ha / -he ] [ -ハ / -ヘ ] ではなく ـهن [ -hin ] [ -ヒン ] と聞こえます。)

人名の双数・複数

人名をそのまま双数形・複数形にして数詞と組み合わせる

人名は固有名詞ですが、同じ名前の人が何人もいる時には普通の名詞のように双数形・複数形にしてひとまとめにして表現します。

アラビア語では数量が1と2の時はわざわざ数詞「1」「2」をつけなくても単数形と双数形だけで1個・1人、2個・2人であることが示されます。そのため人名でも1人のムハンマドの時は単数形1語、2人のムハンマドの時は双数形1語だけで「(1人の)ムハンマド」「(2人の)ムハンマド」であることが読み取れます。

そして3人以上になった時にムハンマドといった人名と人数に対応した数詞「3」などを組み合わせて「3人のムハンマドたち」「11人のマルヤムたち」のように表現します。

人名が双数・複数になった時につく定冠詞の問題

アラビア語のニュース記事ではファーストネームがムハンマドである元首2人を双数としてまとめた上で定冠詞をつけた اَلْمُحَمَّدَانِ [ ’al-muḥammadāni ] [ アル=ムハンマダーニ ](2人のムハンマド、the two Muhammads)といった表現がしばしば使われています。

ムハンマドという人名は定冠詞のルール上ファーストネームとして定冠詞をつけた اَلْمُحَمَّد [ ’al-muḥammad] [ アル=ムハンマド ] という男性名を使うことは正則文法として認められていないのですが、特定のムハンマドや特定のムハンマドたちを指すという用法はまた別となっており、مُحَمَّدٌ [ muḥammad ] [ ムハンマド ] という固有名詞である人名を敢えて非限定と扱って特定のムハンマドを表すために敢えて定冠詞をつけた限定形 اَلْمُحَمَّد [ ’al-muḥammad] [ アル=ムハンマド ] を使う用法があるとのこと。

元々アラビア語では単数の مُحَمَّدٌ [ muḥammad ] [ ムハンマド ] は -un / -in / -an と語末が変化するタンウィーンがついていても定冠詞無しのこの語形で固有名詞として限定扱いするのが普通である一方、そうした限定扱いは双数・複数には適用されないのだとか。

単数の مُحَمَّدٌ [ muḥammad ] [ ムハンマド ] はこれで限定扱いできるのに、双数の

مُحَمَّدَانِ
[ muḥammadāni ] [ ムハンマダーニ ]【主格】
مُحَمَّدَيْنِ
[ muḥammadayni / muḥammadaini ] [ ムハンマダイニ ]【属格・対格】

だと「ムハンマドという名前を持っている不特定の2人の男性」という非限定の意味に。複数形の

مُحَمَّدُونَ
[ muḥammadūna ] [ ムハンマドゥーナ ]【主格】
مُحَمَّدِينَ
[ muḥammadīna ] [ ムハンマディーナ ]【属格・対格】

だと「ムハンマドという名前を持っている不特定の3人以上の複数男性」という非限定の意味になるため、話者と聞き手の双方が知っているムハンマドたちについて語っているとか前のやり取りで既に登場したといった理由で特定のムハンマドたちを主語にする場合は定冠詞の اَلْ [ ’al- ] [ アル= ] が必要になってくるとのこと。

そのため文法書でも特定のムハンマド(たち)が主語として設定されている例文「ムハンマドは書きました」「2人のムハンマドは書きました」「3人のムハンマドは書きました」が

كَتَبَ مُحَمَّدٌ
非休止形発音:[ kataba muḥammadun ] [ カタバ・ムハンマドゥン ]
休止形発音:[ kataba muḥammad ] [ カタバ・ムハンマド ]
意味:ムハンマドは書いた

كَتَبَ الْمُحَمَّدَانِ
非休止形発音:[ kataba-l-muḥammadāni ] [ カタバ・ル=ムハンマダーニ ]
休止形発音:[ kataba-l-muḥammadān ] [ カタバ・ル=ムハンマダーン ]
意味:ムハンマドたち2人は書いた

كَتَبَ الْمُحَمَّدُونَ
非休止形発音:[ kataba-l-muḥammadūna ] [ カタバ・ル=ムハンマドゥーナ ]
休止形発音:[ kataba-l-muḥammadūn ] [ カタバ・ル=ムハンマドゥーン ]
意味:(3人以上の)ムハンマドたちは書いた

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人名の双数語形

主格

ــَانِ
・語末母音まで読む文語的発音:[ -āni ] [ -アーニ ]
・語末母音を省略した読み方(ワクフ):[ -ān ] [ -アーン ]

名詞の語末にある子音から格変化を示す母音などを取り去って、双数の主格を示す ـَانِ [ -āni ] [ -アーニ ] をくっつけます。

*双数形は口語だと文語にある主格語形は使わず属格(≒所有格)・対格(≒目的格)の語形だけを使います。

男性名の例

حَسَنٌ
・語末母音まで読む文語的発音:[ ḥasanun ] [ ハサヌン ]
・語末母音を省略した読み方(ワクフ):[ ḥasan ] [ ハサン ]
【単数・主格】ハサン(1人)は/が

  • حَسَنَانِ
    ・語末母音まで読む文語的発音:[ ḥasanāni ] [ ハサナーニ ]
    ・語末母音を省略した読み方(ワクフ):[ ḥasanān ] [ ハサナーン ]
    【双数・主格】2人のハサンは/が

女性名の例

فَاطِمَةُ
・語末母音まで読む文語的発音:[ fāṭimatu ] [ ファーティマトゥ ]
・語末母音を省略した読み方(ワクフ):[ fāṭima(h) ] [ ファーティマ(ハ/フ) ]
*女性名かつ ـة で終わっているので二段変化となります。三段変化 [ fāṭima(tun) ] [ ファーティマ(トゥン) ] とはしません。
【単数・主格】ファーティマ(1人)は/が

  • فَاطِمَتَانِ
    ・語末母音まで読む文語的発音:[ fāṭimatāni ] [ ファーティマターニ ]
    ・語末母音を省略した読み方(ワクフ):[ fāṭimatān ] [ ファーティマターン ]
    【双数・主格】2人のファーティマは/が

属格

ــَيْنِ
・語末母音まで読む文語的発音:[ -ayni / -aini ] [ -アイニ ]
・語末母音を省略した読み方(ワクフ):[ -ayn / -ain ] [ -アイン ]

名詞の語末にある子音から格変化を示す母音などを取り去って、双数・属格を示す ـَيْنِ [ -ayni / -aini ] [ -アイニ ] をくっつけます。属格(≒所有格)と対格(≒目的格)は同形で見た目上は区別がつきません。文中における格を文中での位置や文脈などから判断します。

*ローマ字表記は [ -ayn ] ですが二重母音なので発音自体は [ -ain ] になります。口語での発音は通常 [ -ein ] [ -エイン ] もしくは [ -ēn ] [ -エーン ] に変わります。イラクだと [ -ien ] [ -ィエン ] のような発音が多いです。

*双数形は口語だと文語にある主格語形は使わず属格(≒所有格)・対格(≒目的格)の語形だけを使います。

男性名の例

حَسَنٍ
・語末母音まで読む文語的発音:[ ḥasanin ] [ ハサニン ]
・語末母音を省略した読み方(ワクフ):[ ḥasan ] [ ハサン ]
【単数・属格】ハサン(1人)の

  • حَسَنَيْنِ
    ・語末母音まで読む文語的発音:[ ḥasanayni / ḥasanaini ] [ ハサナイニ ]
    ・語末母音を省略した読み方(ワクフ):[ ḥasanayn / ḥasanain ] [ ハサナイン ]
    ・口語的発音:[ ḥasanein ] [ ハサネイン ] もしくは [ ḥasanēn ] [ ハサネーン ]
    【双数・属格】2人のハサンの

ちなみにシーア派イマームであるアル=ハサンとアル=フサインの2人をまとめたアル=ハサナーンの口語風語形由来で حَسَنَيْن [ ḥasanayn / ḥasanain ] [ ハサナイン ] という男性名があるのですが、それがこの双数の属格・対格語形となっています。

女性名の例

فَاطِمَةَ
・語末母音まで読む文語的発音:[ fāṭimata ] [ ファーティマタ ]
・語末母音を省略した読み方(ワクフ):[ fāṭima(h) ] [ ファーティマ(ハ/フ) ]
【単数・属格】ファーティマ(1人)の

  • فَاطِمَتَيْنِ
    ・語末母音まで読む文語的発音:[ fāṭimatāyni / fāṭimatāini ] [ ファーティマタイニ ]
    ・語末母音を省略した読み方(ワクフ):[ fāṭimatayn / fāṭimatain ] [ ファーティマタイン ]
    ・口語的発音:[ fāṭimatein ] [ ファーティマテイン ] もしくは [ fāṭimatēn ] [ ファーティマテーン ]
    【双数・属格】2人のファーティマの

対格

ــَيْنِ
・語末母音まで読む文語的発音:[ -ayni / -aini ] [ -アイニ ]
・語末母音を省略した読み方(ワクフ):[ -ayn / -ain ] [ -アイン ]

名詞の語末にある子音から格変化を示す母音などを取り去って、双数・属格を示す ـَيْنِ [ -ayni / -aini ] [ -アイニ ] をくっつけます。属格(≒所有格)と対格(≒目的格)は同形で見た目上は区別がつきません。文中における格を文中での位置や文脈などから判断します。

*ローマ字表記は [ -ayn ] ですが二重母音なので発音自体は [ -ain ] になります。口語での発音は通常 [ -ein ] [ -エイン ] もしくは [ -ēn ] [ -エーン ] に変わります。イラクだと [ -ien ] [ -ィエン ] のような発音が多いです。

*双数形は口語だと文語にある主格語形は使わず属格(≒所有格)・対格(≒目的格)の語形だけを使います。

男性名の例

حَسَنًا 
・語末母音まで読む文語的発音:[ ḥasanan ] [ ハサナン ]
・文語発音の休止形(ワクフ):[ ḥasanā) ] [ ハサナー ]
【単数・属格】ハサン(1人)を

  • حَسَنَيْنِ
    ・語末母音まで読む文語的発音:[ ḥasanayni / ḥasanaini ] [ ハサナイニ ]
    ・語末母音を省略した読み方(ワクフ):[ ḥasanayn / ḥasanain ] [ ハサナイン ]
    ・口語的発音:[ ḥasanein ] [ ハサネイン ] もしくは [ ḥasanēn ] [ ハサネーン ]
    【双数・対格】2人のハサンを

女性名の例

فَاطِمَةَ
・語末母音まで読む文語的発音:[ fāṭimata ] [ ファーティマタ ]
・語末母音を省略した読み方(ワクフ):[ fāṭima(h) ] [ ファーティマ(ハ/フ) ]
【単数・対格】ファーティマ(1人)を

  • فَاطِمَتَيْنِ
    ・語末母音まで読む文語的発音:[ fāṭimatāyni / fāṭimatāini ] [ ファーティマタイニ ]
    ・語末母音を省略した読み方(ワクフ):[ fāṭimatayn / fāṭimatain ] [ ファーティマタイン ]
    ・口語的発音:[ fāṭimatein ] [ ファーティマテイン ] もしくは [ fāṭimateen ] [ ファーティマテーン ]
    【双数・対格】2人のファーティマを

人名の複数語形

男性複数

同じ名前の男性が3人以上いる場合はその男性名の最後に男性規則複数の語尾をつけます。

主格

ـُونَ
・語末母音まで読む文語的発音:[ -ūna ] [ -ウーナ ]
・語末母音を省略した読み方(ワクフ):[ -ūn ] [ -ウーン ]

名詞の語末にある子音から格変化を示す母音などを取り去って、男性規則複数形の主格に足すパーツ ـُونَ [ -ūna ] [ -ウーナ ] をくっつけます。

*男性規則複数は口語だと文語にある主格語形は使わず属格(≒所有格)・対格(≒目的格)の語形だけを使います。

مُحَمَّدٌ
・語末母音まで読む文語的発音:[ muḥammadun ] [ ムハンマドゥン ]
・語末母音を省略した読み方(ワクフ):[ muḥammad ] [ ムハンマド ]
【単数・主格】ムハンマド(1人)は/が

  • مُحَمَّدُونَ
    ・語末母音まで読む文語的発音:[ muḥammadūna ] [ ムハンマドゥーナ ]
    ・語末母音を省略した読み方(ワクフ):[ muḥammadūn ] [ ムハンマドゥーン ]
    【男性規則複数・主格】(3人以上の)ムハンマドたち(は/が)

属格

ـِينَ
・語末母音まで読む文語的発音:[ -īna ] [ -イーナ ]
・語末母音を省略した読み方(ワクフ):[ -īn ] [ -イーン ]

名詞の語末にある子音から格変化を示す母音などを取り去って、男性規則複数形の属格(≒所有格)・対格(≒目的格)に足すパーツ ـِينَ [ -īna ] [ -イーナ ] をくっつけます。

*この複数形では属格(≒所有格)と対格(≒目的格)は同形で見た目上は区別がつきません。文中における格を文中での位置や文脈などから判断します。

*男性規則複数は口語だと文語にある主格語形は使わず属格(≒所有格)・対格(≒目的格)の語形だけを使います。

مُحَمَّدٍ
・語末母音まで読む文語的発音:[ muḥammadin ] [ ムハンマディン ]
・語末母音を省略した読み方(ワクフ):[ muḥammad ] [ ムハンマド ]
【単数・属格】ムハンマド(1人)の

  • مُحَمَّدِينَ
    ・語末母音まで読む文語的発音:[ muḥammadīna ] [ ムハンマディーナ ]
    ・語末母音を省略した読み方(ワクフ):[ muḥammadīn ] [ ムハンマディーン ]
    【男性規則複数・属格】(3人以上の)ムハンマドたちの

対格

مُحَمَّدًا
・語末母音まで読む文語的発音:[ muḥammadan ] [ ムハンマダン ]
・文語発音の休止形(ワクフ):[ muḥammadā ] [ ムハンマダー ]
【単数・対格】ムハンマド(1人)を

*この複数形では属格(≒所有格)と対格(≒目的格)は同形で見た目上は区別がつきません。文中における格を文中での位置や文脈などから判断します。

*男性規則複数は口語だと文語にある主格語形は使わず属格(≒所有格)・対格(≒目的格)の語形だけを使います。

  • مُحَمَّدِينَ
    ・語末母音まで読む文語的発音:[ muḥammadīna ] [ ムハンマディーナ ]
    ・語末母音を省略した読み方(ワクフ):[ muḥammadīn ] [ ムハンマディーン ]
    【男性規則複数・対格】(3人以上の)ムハンマドたちを

女性複数

女性名の最後に女性規則複数形の語尾をつけます。

主格

ـَاتٌ
・語末母音まで読む文語的発音:[ -ātun ] [ -アートゥン ]
・語末母音を省略した読み方(ワクフ):[ -āt ] [ -アート ]

名詞の語末にある子音から格変化を示す母音などを取り去って、女性規則複数形の主格を作る ـَاتٌ [ -ātun ] [ -アートゥン ] をくっつけます。単数の時の語形に女性化の ة(ター・マルブータ)がついていてもついていなくても複数いることを示す場合にはこの女性規則複数の語尾をつけます。

مَرْيَمُ
[ maryam(u) ] [ マルヤム ]
*女性名かつ外来の固有名詞なので二段変化します。
【単数・主格】マルヤム(1人)は/が

  • مَرْيَمَاتٌ
    ・語末母音まで読む文語的発音:[ maryamātun ] [ マルヤマートゥン ]
    ・語末母音を省略した読み方(ワクフ):[ maryamāt ] [ マルヤマート ]
    【女性規則複数・主格】3人以上の)マルヤムたちは/が

属格

ـَاتٍ
・語末母音まで読む文語的発音:[ -ātin ] [ -アーティン ]
・語末母音を省略した読み方(ワクフ):[ -āt ] [ -アート ]

مَرْيَمَ
・語末母音まで読む文語的発音:[ maryama ] [ マルヤマ ]
・語末母音を省略した読み方(ワクフ):[ maryam ] [ マルヤム ]
【単数・属格】マルヤム(1人)の

  • مَرْيَمَاتٍ
    ・語末母音まで読む文語的発音:[ maryamātin ] [ マルヤマーティン ]
    ・語末母音を省略した読み方(ワクフ):[ maryamāt ] [ マルヤマート ]
    【女性規則複数・属格】(3人以上の)マルヤムたちの

対格

ـَاتٍ
・語末母音まで読む文語的発音:[ -ātin ] [ -アーティン ]
・語末母音を省略した読み方(ワクフ):[ -āt ] [ -アート ]

  • مَرْيَمَ
    ・語末母音まで読む文語的発音:[ maryama ] [ マルヤマ ]
    ・語末母音を省略した読み方(ワクフ):[ maryam ] [ マルヤム ]
    【単数・属格】マルヤム(1人)を

    • مَرْيَمَاتٍ
      ・語末母音まで読む文語的発音:[ maryamātin ] [ マルヤマーティン ]
      ・語末母音を省略した読み方(ワクフ):[ maryamāt ] [ マルヤマート ]
      【女性規則複数・対格】(3人以上の)マルヤムたちを

具体的な人数を数える時

関連記事

男性名

3人~9人

標準的な数詞のイダーファ構文(属格構文)

「ムハンマドたち」という複数形が非限定扱いの時の例になります。

ثَلَاثَةُ مُحَمَّدِينَ
・語末母音まで読む文語的発音:[ thalāthatu muḥammadīna ] [ サラーサトゥ・ムハンマディーナ ]
・語末母音を省略した読み方(ワクフ):[ thalāthatu muḥammadīn ] [ サラーサトゥ・ムハンマディーン ]
【数詞「3」+ムハンマドの複数・属格】【主格】3人のムハンマドたちは/が
*複数のムハンマドが何人にいるのかを数詞文法のイダーファ構文によって示す方法。ムハンマドが3~9人いる場合もしくは100の位+1の位のような組み合わせで「ムハンマドたち」の直前に1の位が来る場合などがこのパターンになります。

数詞を後置した形容詞修飾バージョン

اَلْمُحَمَّدُونَ الثَّلَاثَةُ
・語末母音まで読む文語的発音:[ ’al-muḥammadūna-th-thalāthatu ] [ アル=ムハンマドゥーナ・ッ=サラーサトゥ ]
・語末母音を省略した読み方(ワクフ):[ ’al-muḥammadūna-th-thalātha(h) ] [ アル=ムハンマドゥーナ・ッ=サラーサ(フ/ハ) ]
【定冠詞=ムハンマド複数形+定冠詞=数詞「3」】【主格】(その)3人のムハンマドたちは/が

複数のムハンマドが何人にいるのかを数の形容詞修飾によって示す方法。国内で特に有名なラストネーム違いのムハンマド・◯◯をまとめて「三大ムハンマド」のように形容する際などに使用。

この「三人のムハンマド」もしくは「三大ムハンマド」はシーア派信徒らが依拠する預言者言行録(ハディース)の三大学者をまとめて呼ぶ名称として有名だとか。英語では The Three Muhammads。

11人~19人

「ムハンマドたち」が非限定扱いの時の例になります。

أَحَدَ عَشَرَ مُحَمَّدًا
・語末母音まで読む文語的発音:[ ’aḥada ‘ashara muḥammadan ] [ アハダ・アシャラ・ムハンマダン ]
・文語発音の休止形(ワクフ):[ ’aḥada ‘ashara muḥammadā ] [ アハダ・アシャラ・ムハンマダー ]
【数詞「11」+ムハンマドの単数・対格】【主格/属格/対格】11人のムハンマドたち は/が・の・を

11~19の数は文中での働きに関係なく語末が母音 a の記号(ファトハ)固定となります。そのためこの「11」も格変化せず固定なので主格・属格・対格全てこの語形・発音になります。

ムハンマドは単数・対格とします。

20・30・40・50・60・70・80・90人

日本で教えられるアラビア語文法と同じ方式では11~99については男性名と組み合わせる時は男性名が単数・対格になると教えられています。

しかしアラビア語には数の読み上げ方が10の位←1の位の外国人学習者が通常学ぶタイプに加え、逆の10の位→1の位の右からゴリゴリ読んでいくタイプがあり、同じ「23人のムハンマド」でも接続詞 و でつなぐ複合タイプの数詞セットのうちどちらがムハンマドの直前に来るかでムハンマドの語形に違いが出ます。

そのため厳密には「20~99の数のうちキリの良い 20・30・40・50・60・70・80・90 の10の位部分が名詞の直前に来る時に名詞が単数・対格になる」というルールとして覚える必要があります。

主格

「ムハンマドたち」が非限定扱いの時の例になります。

عِشْرُونَ مُحَمَّدًا
・語末母音まで読む文語的発音:[ ‘ishrūna muḥammadan ] [ イシュルーナ・ムハンマダン ]
・文語発音の休止形(ワクフ):[ ‘ishrūna muḥammadā ] [ イシュルーナ・ムハンマダー ]
【数詞「20」+ムハンマドの単数・対格】【主格】20人のムハンマドたちは/が

20~90は男性規則複数と同様の語形変化をします。

ムハンマドは単数・対格とします。

属格

「ムハンマドたち」が非限定扱いの時の例になります。

عِشْرِينَ مُحَمَّدًا
・語末母音まで読む文語的発音:[ ‘ishrīna muḥammadan ] [ イシュリーナ・ムハンマダン ]
・文語発音の休止形(ワクフ):[ ‘ishrīna muḥammadā ] [ イシュリーナ・ムハンマダー ]
【数詞「20」+ムハンマドの単数・対格】【属格】20人のムハンマドたちの

対格

「ムハンマドたち」が非限定扱いの時の例になります。

عِشْرِينَ مُحَمَّدًا
・語末母音まで読む文語的発音:[ ‘ishrīna muḥammadan ] [ イシュリーナ・ムハンマダン ]
・文語発音の休止形(ワクフ):[ ‘ishrīna muḥammadā ] [ イシュリーナ・ムハンマダー ]
【数詞「20」+ムハンマドの単数・対格】【対格】20人のムハンマドたちを

100・200・300・400・500・600・700・800・900・1000・2000・…人

100以降のキリが良い数に関しては単数・属格を組み合わせます。

主格

「ムハンマドたち」が非限定扱いの時の例になります。

مِائَةُ / مِئَةُ مُحَمَّدٍ
・語末母音まで読む文語的発音:[ mi’atu muḥammadan ] [ ミアト・ムハンマディン ]
・文語発音の休止形(ワクフ):[ mi’atu muḥammad ] [ ミアト・ムハンマド ]
【数詞「100」+ムハンマドの単数・属格】【主格】100人のムハンマドたちは/が

属格

「ムハンマドたち」が非限定扱いの時の例になります。

مِائَةِ / مِئَةِ مُحَمَّدٍ
・語末母音まで読む文語的発音:[ mi’ati muḥammadan ] [ ミアティ・ムハンマディン ]
・文語発音の休止形(ワクフ):[ mi’ati muḥammad ] [ ミアティ・ムハンマド ]
【数詞「100」+ムハンマドの単数・属格】【属格】100人のムハンマドたちの

対格

「ムハンマドたち」が非限定扱いの時の例になります。

مِائَةَ / مِئَةَ مُحَمَّدٍ
・語末母音まで読む文語的発音:[ mi’ata muḥammadan ] [ ミアタ・ムハンマディン ]
・文語発音の休止形(ワクフ):[ mi’ata muḥammad ] [ ミアタ・ムハンマド ]
【数詞「100」+ムハンマドの単数・属格】【対格】100人のムハンマドたちを

接続詞 و で結ぶタイプの数と人名との組み合わせ

ムハンマドというファーストネームを持つ男性が大集合した場合、数え方によってムハンマド部分の数・格に違いが出ます。

103人のムハンマド(100の位→1の位→10の位と読む方法で10の位が抜けている場合)
一般的な読み上げ方式

100の位を先、1の位を先に読むメジャーな方式ではムハンマドの直前に数詞「3」が来るのでムハンマドは複数・属格とします。

مِائَةٌ / مِئَةٌ وَثَلَاثَةُ مُحَمَّدِينَ
【主格】103人のムハンマドたちは/が

属格と対格にする時は「100」と「3」の語末の母音をそれぞれ変えます。

100の位←10の位←1の位と右から読んでいく方式~マイナー・古風

右からゴリゴリ読み上げていくマイナーかつ古風な感じの方式では1の位を先、100の位を後に読むためムハンマドの直前に数詞「100」が来ます。そのためムハンマドは「100」に合わせて単数・属格とします。

ثَلَاثَةٌ وَمِائَةُ / مِئَةُ مُحَمَّدٍ
【主格】103人のムハンマドたちは/が

属格と対格にする時は「3」と「100」の語末の母音をそれぞれ変えます。

1123人のムハンマド
一般的な読み上げ方式

1000の位→100の位→1の位→10の位の順番で読むメジャーな方式ではムハンマドの直前に数詞「20」が来るのでムハンマドは単数・対格とします。

أَلْفٌ وَمِائَةٌ / مِئَةٌ وَثَلَاثَةٌ وَعِشْرُونَ مُحَمَّدًا
【主格】1123人のムハンマドたちは/が

属格と対格にする時は「1000」「100」「3」の語末の母音をそれぞれ変え、「20」の語末を属格・対格の ين をつけた ـِينَ にします。

1000の位←100の位←10の位←1の位と右から読んでいく方式~マイナー・古風

右からゴリゴリ読み上げていくマイナーかつ古風な感じの方式では1の位を真っ先に読み、続いて10の位、100の位、1000の位を後に読むためムハンマドの直前に数詞「1000」が来ます。そのためムハンマドは「1000」に合わせて単数・属格とします。

ثَلَاثَةٌ وَعِشْرُونَ وَمِائَةٌ / مِئَةٌ وَأَلْفُ مُحَمَّدٍ
【主格】1123人のムハンマドたちは/が

属格と対格にする時は「3」「100」「1000」の語末の母音をそれぞれ変え、「20」の語末を属格・対格の ين をつけた ـِينَ にします。

女性名

3人~9人

標準的な数詞のイダーファ構文(属格構文)

「ムハンマドたち」が非限定扱いの時の例になります。

ثَلَاثُ مَرْيَمَاتٍ
・語末母音まで読む文語的発音:[ thalāthu maryamātin ] [ サラース・マルヤマーティン ]
・語末母音を省略した読み方(ワクフ):[ thalāthu maryamāt ] [ サラース・マルヤマート ]
【数詞「3」マルヤムの複数・属格】【主格】3人のマルヤムたちは/が

3~10の基数詞は数えられる対象と逆の性になるので、女性名と組み合わせる数字3はター・マルブータがついた ثَلَاثَة [ thalātha(h) ] [ サラーサ ] ではなく男性形である ثَلَاث [ thalāth ] [ サラース ] が用いられています。

なお属格・対格にする場合は「3」の語末の母音を変えます。

数詞を後置した形容詞修飾バージョン

اَلْمَرْيَمَاتُ الثَّلَاثُ
[ ’al-maryamātu-th-thalāth(u) ] [ アル=マルヤマートゥ・ッ=サラース ]
【定冠詞=マルヤムの複数+定冠詞=数詞「3」】【主格】3人のマルヤムたちは/が

数字3が女性名マルヤムの複数形の後に来て形容詞修飾をしているケース。キリスト教における「三人のマリア」(The Three Marias)のアラビア語訳で、特定のマリアたちということで定冠詞がついており後から形容詞修飾する数詞にもそれに合わせて定冠詞がついています。

なお属格・対格にする場合は「マルヤムたち」「3」それぞれの語末の母音を変えます。

それ以降の人数

上で紹介した男性名の時と同様に単数/複数の切り替えや性の一致/逆(gender polarity)を行っていきます。

違う2人を片方の名前に統合して双数形としてまとめる用法

2人のハサン…でも指しているのはハサンとフサイン

定冠詞がついたハサンの双数形

اَلْحَسَنَانِ
・語末母音まで読む文語的発音:[ ’al-ḥasanāni ] [ アル=ハサナーニ ]
・語末母音を省略した読み方(ワクフ):[ ’al-ḥasanān ] [ アル=ハサナーン ]
【定冠詞+人名・双数】【主格】2人のアル=ハサンたちは/が、アル=ハサンとアル=フサインは/が

اَلْحَسَنَيْنِ
・語末母音まで読む文語的発音:[ ’al-ḥasanayni / ḥasanaini ] [ アル=ハサナイニ ]
・語末母音を省略した読み方(ワクフ):[ ’al-ḥasanayn / ḥasanain ] [ アル=ハサナイン ]
【定冠詞+人名・双数】【属格】2人のアル=ハサンの、アル=ハサンとアル=フサインの
【定冠詞+人名・双数】【対格】2人のアル=ハサンを、アル=ハサンとアル=フサインを

アラブ世界ではこの定冠詞がついた「2人のアル=ハサンたち」は第4代正統カリフでシーア派イマームでもあるアリーの2人の息子、اَلْحَسَن [ ’al-ḥasan ] [ アル=ハサン ](佳人) と اَلْحُسَيْن [ ’al-ḥusayn / ’al-ḥusain ] [ アル=フサイン ](小さな佳人)のことを示します。

アル=フサインはアル=ハサンの縮小語形です。アラブ世界では長男を特定の形容詞や名詞「~」で命名し、その次男にはその語の縮小形の語形にした「小さな~」という名前をつけることが昔からしばしば行われており、アリーの息子たちもそのパターンのネーミングでした。

アラビア語では厳密には同じ名詞ではないのにセットでひとまとめにし優勢な方の「~」に統合してしまって「2つの~」「2人の~」という双数にする用法があります。ハサンという人名もこのようにして弟のフサインとセットで「2人のハサン」という風に双数化することが可能です。

シーア派イマームの2人をまとめて呼ぶ表現

イラクのニュースを見ていると、違うイマームを2人まとめて呼ぶ用法がアル=ハサナーン(アル=ハサナーニ)以外にもあることを実感する機会が少なくありません。

このうち管理人が耳にしたことがあるのは

اَلْكَاظِمَان
[ ’al-kāẓimān(i) ] [ アル=カーズィマーン(/カーズィマーニ) ]
【定冠詞+人名・双数】【主格】2人のアル=カーズィムたちは/が、アル=カーズィムとアル=ジャワードは/が
*カーズィムは「怒りをおさえる者」という意味でつけられた第7代イマームの通称。弾圧に耐え忍んび暴力的行為に訴えることをしなかった彼の人柄に由来するという。

اَلْجَوَادَانِ
[ ’al-jawādān(i) ] [ アル=ジャワーダーン(/ジャワーダーニ)]
【定冠詞+人名・双数】【主格】2人のアル=ジャワードたちは/が、アル=ジャワードとアル=カーズィムは/が
*ジャワードは「寛大な者」という意味でつけられた第9代イマームの通称。非常に寛大で大いに施しをする人物だったことが由来だという。

イラクの首都バグダードのアル=カーズィミーヤ地区内にそれぞれ墓廟があるシーア派十二イマーム派第7代イマーム ムーサー・アル=カーズィムと孫の第9代イマーム ムハンマド・アル=ジャワード(ムハンマド・アッ=タキー)を双数に集約した形。

上のどちらも同じ2人を指すが、祖父のアル=カーズィムをメインに双数形化した場合がアル=カーズィマーン(/カーズィマーニ)で、孫のアル=ジャワードをメインに双数形化した場合がアル=ジャワーダーン(/ジャワーダーニ)。

双数形・複数形もしくはそれに似た語形の人名

見た目は双数形っぽいが1人の人間のファーストネーム

زَيْدَانُ
・語末母音まで読む文語的発音:[ zaydānu / zaidānu ] [ ザイダーヌ ]
・語末母音を省略した読み方(ワクフ):[ zaydān / zaidān ] [ ザイダーン ]

男性名 زَيْد [ zayd/zaid ] [ ザイド ]((物や財産が)増えること、増加、増大、生長)の双数形風語形ネームで、「常に増加する」「絶えることなく生長する」といった意味を持っています。サッカー界の大御所ジダンの Zidane はこのザイダーンをフランス語風に表記したものになります。

アッバース朝時代にこの双数形タイプの人名が流行したそうで、アラブ世界では古めかしい名前の部類に含まれまるとか。

z につく母音が i になった زِيدَان [ zīdan ] [ ズィーダーン ] という語形も存在。また二重母音が口語的に発音されると [ zay / zai ] [ ザイ ] が [ zei ] [ ゼイ ] や [ zē ] [ ゼー ] に変わるので、ゼイダーンやゼーダーンという読みに即した英字表記 Zeidan、Zedan なども存在。

なおこのように元となる男性名を双数形にして ـَان [ -ān ] [ -アーン ] とした人名は、本来の双数形の語尾である ـَانِ [ -āni ] [ -アーニ ] とはせず二段変化とする規則だとのこと。

語末が男性規則複数っぽい人名

アンダルス発祥愛称語形の代表例~ハルドゥーン

خَلْدُونُ
・語末母音まで読む文語的発音:[ khaldūnu ] [ ハルドゥーヌ ]
・語末省略時:[ khaldūn ] [ ハルドゥーン  ]

人名 خَالِدٌ [ khālid ] [ ハーリド ](永続する、永遠の、不死の、不朽の) が元になったとされているアラブ男性名。イブン・ハルドゥーンの「ハルドゥーン」としておなじみの名前でもあります。

ぱっと見た感じでは男性規則複数形ですが、厳密には男性規則複数形ではなく愛着を示したり小さくてかわいいという気持ちを込めたりするアンダルス特有の用法だとのこと。(カスティーリャで使われていた用法がアンダルス在住アラブ人たちの口語に取り入れられたものだという説もあるとか。)

男性規則複数ではないため ن [ n ] に添えられる母音も違っており خَلْدُونَ [ khaldūna ] [ ハルドゥーナ ] ではなく خَلْدُونُ [ khaldūnu ] [ ハルドゥーヌ ] に。

アンダルス地方やマグリブ地方(北アフリカ)のアラブ人たちに使われていた特殊な語形の人名タイプということで、専門家の見解によると外来語と同様に二段変化の固有名詞として扱うのだとか。

この語尾を付加することで愛着・愛玩・好意・強調などを示すという複数化とは異なる用法であること、純粋なアラビア語文語(フスハー)文法には存在しないものであることから、外来語同様の扱いをすべしというのが専門家の見解のようです。

その一方で、三段変化して -un・-in・-an という語尾にすべしというアラビア語学者も過去にはいたとのこと。両方の活用パターンを覚えておくのが無難かもしれません。

男性規則複数に似た語形のアンダルス特有男性名の実例

سَعْدُونُ
・語末母音まで読む文語的発音:[ sa‘dūnu ] [ サアドゥーヌ ]
・語末省略時:[ sa‘dūn ] [ サアドゥーン  ]

男性名 سَعْد [ sa‘d ] [ サアド ](幸運、幸福)より。

زَيْدُونُ
・語末母音まで読む文語的発音:[ zaydūnu / zaidūnu ] [ ザイドゥーヌ ]
・語末省略時:[ zaydūn / zaidūn ] [ ザイドゥーン  ]

男性名 زَيْد [ zayd/zaid ] [ ザイド ]((物や財産が)増えること、増加、増大、生長)より。

ラストネーム(家名、名字・苗字)が同じ人をまとめる場合

アラブ人をラストネームで呼ぶ件

詳細は関連記事『アラブ人の名前のしくみ~フルネーム』の『有名になった人物のフルネームと通称』で紹介していますが、アラブ諸国では政治家やテレビ出演者などはムハンマドやアフマドといったファーストネームでは呼ばずラストネーム(家名、名字・苗字、出身地由来のニスバ形容詞など)の方で呼ぶことが広く行われています。

状況によってはファーストネームが違っても同じラストネームの人が一堂に会するといった事態が起こり得るのですが、そういう時に使われるのが双数形や複数形です。

2人を双数形でまとめる

ファーストネームは違うもののラストネームが同じ別々の人物を「◯◯家/族男性2人」「◯◯家/族成員2人」「◯◯両氏」のように双数形でまとめる用法です。日本語で言うと鈴木太郎氏と鈴木一郎氏を太郎・一郎さんではなく「鈴木さんたち」「鈴木両氏」と呼ぶのに相当します。

書籍で「なんとか族出身の2名」という意味で出てくる以外に時々見かける・耳にするのがニュース類で、政界の同じフィールドで同じファミリー出身の2人がそれぞれ別のポストについていたり同じ地位を争ったりしていたりする話にこのタイプの双数形が使われていることがあります。

ここではレバノンで首相など政治家を複数輩出してきたハリーリー家を例として取り上げたいと思います。

ـــ الْحَرِيرِيّ
[ ◯◯ ’al-ḥarīrī(y) ] [ ◯◯・アル=ハリーリー(ュ/ィ) ]
◯◯・アル=ハリーリー
(ハリーリー家出身の◯◯)
意味は「絹屋、絹販売業者、絹製造業者」。家長・先祖の職業に由来するニスバで حَرِير [ ḥarīr ] [ ハリール ](絹)に由来。家名の由来となった先祖の家長が絹に関連している物事・人やそれを扱う業種に従事している者だったことを示します。日本語であり得るカタカナ表記はハリーリー、ハリーリ、ハリリ。

سَعْد الْحَرِيرِيّ [ sa‘d ’al-ḥarīrī(y) ] [ サアド・アル=ハリーリー(ュ/ィ) ](サアド・アル=ハリーリー)と بَهَاء الْحَرِيرِيّ [ bahā’ ’al-ḥarīrī(y) ] [ バハー(ゥ/ッ)・アル=ハリーリー(ュ/ィ) ](バハー・アル=ハリーリー)両氏の確執を伝えるニュースなどで「ハリーリー両氏」のようにまとめる場合は

ـــ الْحَرِيرِيَّانِ
[ ◯◯ ’al-ḥarīrīyān(i) ] [ ◯◯・アル=ハリーリーヤーン(/ハリーリーヤーニ) ]
【主格】ハリーリー両氏、ハリーリー家男性2名、ハリーリー家成員2名

となります。

あとイラクのクルディスタン関連ニュースを見ていると「バルザーニー両氏」という意味で同様の双数形 اَلْبَارْزَانِيَّان [ ’al-bārzānīyān(i) ] [ アル=バールザーニーヤーン(/バールザーニーヤーニ) ] といったまとめ呼びを耳にすることがあります。

3人以上を複数形でまとめる

同じラストネーム(家名、名字・苗字)を持つ人が3人以上に増えた場合は複数形を使います。

ـــ الْحَرِيرِيُّون
[ ◯◯ ’al-ḥarīrīyūn(a) ] [ ◯◯・アル=ハリーリーユーン(/ハリーリーユーナ) ]
【主格】ハリーリー家の男たち、ハリーリー家男性ら、ハリーリー家成員ら

レバノンの場合は暗殺された父親世代の元首相から子供世代などをひっくるめて指す時に使用。ちょっと悪口的に使う場合は「ハリーリー家の連中」のように訳す感じだと思います。

 

(2023年8月 人名の双数・複数と定冠詞について追記)