アラビア語のアルファベットが今の形になるまで、アラビア文字をつづる向き、文字としてかかれないア・イ・ウの母音を追加しながら読んでいくシステム、単語と単語をつなげ読みする時に起こるリエゾンやリンキングに似た発音の変化などを紹介しているページです。
動画版
このページの内容をまとめたビデオ(2022年3月改訂)です。トーク入りなので28分ほどの長さになっています。たぶんこのページを読むよりもわかりやすいと思います。
母音記号を補足しながら文章の意味を決めていく作業の部分のみ抜粋したビデオです。
アラビア語とアラビア文字って?
関連記事~個別のアラビア文字学習はこちらから
- 『アラビア語アルファベットの発音を覚えよう』
それぞれのアルファベット語頭が示す子音の発音、舌や喉を実際にどのように使うのか、文語と口語での発音の違い、アラブ人向け発音レクチャー動画の内容メモなど。 - 『アラビア文字の書き方を覚えよう~基礎編』
それぞれの文字の単独の時の形と単語の中で連結し合う時の形を図や動画で紹介。
アラビア語は中東の言語
アラブ世界に広がるアラビア語圏
アラビア語は中東地域の言語の一つでいわゆるセム系言語に分類されます。
元々はアラビア半島付近で話されていた・書かれていた言語でしたが、イスラーム教徒の大遠征によって使用地域が広がり、方言の違いはあるものの均質な文語であるフスハーを共有し合う地域はメソポタミア地方から北アフリカまで広がるに至りました。
どのようにして書き言葉と話し言葉とが乖離していったかについては色々な学説があるのですが、現代のアラブ世界ではクルアーンの言語・書き言葉・堅い場所でのアラビア語としての「フスハー」と一般民衆の日常生活で使われる話し言葉(≒方言)としての「アーンミーヤ」が共存しています。
口語・大衆語(アーンミーヤ)としての方言の違いは非常に離れた地域同士だと日本の江戸弁・関西弁・鹿児島弁同士のように大きいですが、書く・読むメインの文語アラビア語(フスハー)はほぼ均質なので、アラブ人を結びつける紐帯ともなっておりアラブ連盟に加盟している国を中心にアラビア語が使われている地域が広がっています。
アラビア語ではないけれども同様の文字を使っている地域は広い
アラビア文字はイスラームの伝来にともなって各地に伝わり、現地の言葉に即した改良を加えられました。今では違う文字に置き換わった国も増えましたが、アフリカから中央アジア、東南アジアにかけての広範囲でアラビア文字が取り入れられ使われていた時代もありました。
現役でアラビア文字由来の文字が使われている国でしかもアラブ世界に近いということでよく間違えられますが、イラン(名前が似ているのでアラブ国家であるイラクと混同されがちですがアラブの国ではありません)のペルシア語やパキスタンのウルドゥー語などはアラビア語とは違う系統の言語に分類されます。
トルコはオスマン朝時代はオスマン語の表記にアラビア文字を使っていましたが、近代化を境にラテン文字表記に変更。アラビア文字使用から脱却した国の代表例となりました。しかしお互いに与え合った影響は色濃く残っており、トルコ語にはアラビア語由来の単語がたくさんあり、逆にアラビア語にもトルコ語由来の単語がたくさん見られます。
イスラーム用語ということで挨拶や礼拝に関連した用語を中心に、東南アジア諸国でも聞いてすぐにアラビア語が語源だとわかるような単語が色々とあり、イスラームを通じたアラビア語の影響力を感じさせられることも少なくありません。
アルファベットを並べただけでは文章にならない
右から左へと文字がつづられるのは同じセム系言語のヘブライ語も同じなのですが、アラビア語は単語の中で文字同士を連結させるためいわゆる「蛇がはったようなニョロニョロ文字」のような外見をしています。
英語だと子供が習う時に楽なブロック体と昔は日本でも広く教えられていた文字同士をつなげる筆記体がありますが、アラビア語はブロック体に相当する「ばらばらな文字を並べてそれでおしまい」的なものがありません。連結させる英語の筆記体のような連続させてのつづりが形が必須で、その中でも特にシンプルな書体が英語のブロック体や日本語の教科書体・楷書体のような立場となっています。
そのためアラビア語のアルファベット表として出てくるそれぞれの文字は、連結する前つまり変形前の姿で登場していることになります。
アラビア語の古い文字配列順
時間をかけて書き方のシステムが整備されていった
文字の書き方に関する細かい仕組みである正書法(正字法)は、イスラームの誕生とクルアーンの書き方ルールの整備にともなってできあがっていきました。
クルアーンというと絶対不可侵な存在として知られますが、口頭・語りかけ(アッラーからの呼びかけや天使による伝言)として預言者ムハンマドに啓示が行われていました。そもそも預言者ムハンマドは読み書きができなかったとされており、預言を受けた時も「私は読むことができません」と答え自分が非識字者であり重大な責務を負いきれないと断ったと言い伝えられているほどです。
信者たちもほとんど紙にメモせず口で伝え合っていたので、主に暗誦の力に頼っていた形でした。
しかし預言者ムハンマドと共に過ごした信者が遠征に行っては次々に亡くなり、寿命を迎えて亡くなる人も増えていき、クルアーンを暗誦して教えられる人、正しく読める人はどんどん減っていきまいた。
そこでようやく、当時のまだ原始的だったアラビア文字を使ってクルアーンが記録として残されることになります。ずっと口伝で伝承していて紙に書いて配布することをしていなかったので、筆記により残そうとなった際には難色を示した信徒らもいたといいます。
ともあれクルアーンを書き留めるという行為が次第に行われるようになっていき、第3代正統カリフのウスマーンの時代に本格的な写本作成が進められ、部族方言の差や個人の記憶の差からまちまちだった発音を吟味し預言内容を適切に伝えているとされる公認版が選定。それまでに伝承されていた朗誦・作られていた文書のうち認められないバージョンは廃棄されたと言われています。
最初はお互いを区別する点や線が無くメインの線部分しかありませんでした。しかし発音が違うのに形が同じ文字のグループが何個もあった上、アラビア語は母音を文字上で書かないので正確な発音もできず目的語を主語に読み違えたりすることで信仰上大いに問題がある勘違いを誘発するという欠点を持っていました。
そこで開発されたのが上のような赤い点でした。現代の我々が目にしているアラビア語の発音記号はこうした試行錯誤の時代を経て確立したものになります。
アラビア語の古い文字配列
フェニキア文字の子音字配列順と同じ流れを組むアブジャド
これが大昔に使われていたアラビア語文字の古い並び順です。
フェニキア文字の文字順(≒アルファベット順)と同じものがアラム語あたりを通じて引き継がれたもので、最後の方にアラビア語にしか無い音が追加されています。
ABCに相当するのは「アブジャド」、アルファベットに相当するのは「アブジャディーヤ」
最初の4文字に関しては、英語の「ABC」や日本語の「いろは」に相当するフレーズとして「アブジャド」と呼ばれています。
この頃のアルファベット順ですが、日本語の「あいうえお かきくけこ」のようにブロックごとにまとめられた上で母音が補われ次のように読まれていました。読みについては複数通りあるのですが、そのうちのよく知られたものの一つが
أَبْجَدْ هَوَّزْ حُطِّي كَلَمَنْ سَعْفَصْ قَرَشَتْ ثَخَذْ ضَظَغْ
(アラビア語文を右から読むと以下の通り)
アブジャド ハウワズ フッティー カラマン サアファス カラシャト サハズ ダザグ
なお、最後の部分は ثَخَذٌ ضَظَغٌ [ サハズン・ダザグン ] のように -un の音を添加して読むバージョンも結構耳にします。
そしてこの並び順・文字群は اَلْأَبْجَدِيَّة [ ’al-’abjadīya(h) ] [ アル=アブジャディーヤ(フ/ハ) ]((アル=)アブジャディーヤ)と呼ばれています。アブジャドが「ABC」や「いろは」のように最初の4文字「أ ب ج د」を示すのに対し、アブジャディーヤの方はアブジャド配列や子音字全体を指すのに使われています。
数字の代わりに文字で数値を表していた
アラビア語の数字である通称インド数字が導入される前のシステムなので、文字自体に数値がわりあてられているのが特徴的です(=字母数値)。
といっても、数を表している部分は何の目印も無しに単に文章に混ぜただけでは普通の単語と区別がつきません。そのため数字部分の上に棒を書いて区別していました。
現在のアルファベット順
アリフ・バーのアルファベット配列
こちらが現代でも使われている新しい文字順です。上の段の右から左へと読んでいきます。下のプレーヤーを操作して読み方を聴いてみてください。
男声:プロのナレーターさんによる収録
女声:Amazon TTS Zeina
モロッコなどのアフリカ北部やアンダルシアのイスラーム政権支配地域では違う順も使われていましたが、現代アラブ世界における一般的なアルファベット順は以下の通りです。
أ(ا) ب ت ث ج ح خ د ذ ر ز
س ش ص ض ط ظ ع غ ف ق
ك ل م ن ه و ي
最初の2文字 أَلِف بَاء [ ’alif bā’ ] [ アリフ・バー(ゥ/ッ) ] は、英語における「~のABC」に相当する「~の初歩」という意味の表現としても使われています。
またこの配列や含まれる子音字群は اَلْأَلِفْبّائِيَّة [ ’al-’alifbā’īya(h) ] [ アル=アリフバーイーヤ(フ/ハ) ]((アル=)アリフバーイーヤ)や اَلْحُرُوف الْهِجَائِيَّة [ ’al-ḥurūfu-l-hijā’īya(h) ] [ アル=フルーフ・ル=ヒジャーイーヤ ](つづりの文字たち、つづりの文字群≒アルファベット)と呼ばれており、昔ながらのアブジャド配列とは区別されています。
*めったにしか聞きませんが、アリフ・バー・ター・サー順という意味の اَلتَّرْتِيب الْأَبْتَثِيّ [ ’at-tartību-l-’abtathī(y) ] [ アッ=タルティーブ・ル=アブタスィー(ュ/ィ) ](アリフ・バー・ター・サー順、アブタスィー順)という表現も存在します。
英訳や日本語訳で “アラビア語のアルファベット” と書かれている場合は現配列のこちらを指すのが一般的で、「アラビア語アルファベット表」として文法書に載っているのもこの順番です。
先ほど紹介した古い文字順(アブジャド配列、アブジャディーヤ)とこの新しいアルファベット順は(アリフバー配列、アリフバーイーヤ)日本語の「いろはにほへと」と「あいうえお」に似た関係で、古いア・ブ・ジャ・ドは今でも本における項目名に使われるなどしています。
新しいアルファベット順が生まれた背景
これは古かったアブジャド配列を並び替えたもので、ウマイヤ朝時代にクルアーンの言語である文語のアラビア語を正しく読めるようにするという必要が高まった時に変更されました。
当時イラクの港湾都市バスラではクルアーンの朗誦を信徒たちにいかに正しく行わせるかという関心から発展したアラビア語文法学が盛んになってきており、複数の学者がアルファベット同士を区別する点や線、文字に現れない母音を明記するための発音記号の開発に取り組んでいました。
その一環としてアブジャド配列だったアルファベットの順番も変えられ、お互いを区別する点が無いと全く同じに見えてしまうような文字同士がまとめられ、アリフ、バー、ターの新しいアルファベット配列が生まれました。
こうした文法学の誕生については、現地のアラビア語学のレクチャーなどで「イラクのバスラは港湾都市かつペルシア語を話す住民らが一緒に暮らしており、生粋のアラビア語を正しく読めない人が急速に増えていた。単語の終わりの母音などを間違えるとクルアーンの意味自体が変わってしまう。このままではいけないという流れが生まれた。」といった説明がされています。
アリフ・バー式アルファベット配列の文字数をめぐる論争
声門を閉じたり開いたりして息の流れをコントロールする ء [ hamza(h) ] [ ハムザ ] を後代になって ا [ ’alif ] [ アリフ ] と分かち書きするようになりアッバース朝時代に今の ء の形になったのですが、このハムザをどう扱うかによって学説が分かれています。
この新しい並び順のアルファベットが全部で29個なのか、それとも28個なのかは中世からずっと議論されていて未だに決着がついていません。アラビア語の学習書によってアルファベットの文字数が29となっていたり28だったりとまちまちなのもそのためです。
そしてこのようにアラビア語文法学者らが中世に解決できなかった件は、これまで通り異なる学説の併存という形で今後も残っていく可能性が非常に高いです。
アラビア語文のつづり方
よく使われるのは日本の教科書体・楷書体・行書体に相当する書体
現地の人が手書き文字をつづる時は学習書に載っているいわゆる教科書体ではなく行書体的な位置付けの字形を使うため、学習者は
- バラバラの状態でのアルファベットの形
- 単語の中でくっつき合う時の形
- 行書体的な日常用手書き文字の習得
という風に何段階ものステップを経てようやくネイティブの人たちが書く手紙を判読できるようになります。
文字をつづる方向(書字方向)は戦前の日本語と同じで右から左
文字は左←右
アラビア語の文章は右から左につづっていきます。ただ、アルファベットの1個ずつは右から左に引く線もあれば左から右に引く線もあります。
テレビのテロップも左から右へと流れます。
句読点は西洋から輸入したものを左右逆にしたりして使う
句読点は欧米から取り入れたものを左右逆にするなどして使っています。一番わかりやすいのがはてなマーク(クエスチョンマーク)です。
日本語
ほんとうに?
アラビア語
حَقًّا ؟
数字はそこだけ逆の左→右
アラビア語の数字はインド数字(ヒンディー数字)
数字については先ほど見た古いアルファベットのしくみとは違い、アラブ世界で整備されたアラビア語の数字(アラブ世界での一般名称を日本語でカタカナ化したものはインド数字もしくはヒンディー数字)が使われます。
このインド数字はインド方面から輸入され、アラブ世界で形を変えて使われているものです。
これが北アフリカ付近の西部アラブ世界でさらに形を変え、グバール数字と呼ばれるものに変わってからヨーロッパに伝わりました。
なのでわれわれが使っているアラビア数字と、現在アラブ人が使っているアラビア語の数字はあまり似ていません。
詳しくは
- 『アラビア語の数字(インド数字)について』
インドからアラブ世界に導入された数字の現代の形、グバール数字に変わってからヨーロッパに伝わりアラビア数字になったためアラビア語の数字とアラビア数字が似ていない、それぞれの数の形状や発音など。 - 『アラビア語の数字(インド数字)の書き順を覚えよう』
実際の書き順を画像や動画で紹介。
インド数字のつづる方向は左→右、でも読む順番は…
後から輸入されたインド数字だけは文字の方向を逆にせず、文章の中でもそこだけ左から右へ書きます。
アラビア語の数の文法に即した順番で読む
しかし読む時はアラビア語の数の文法通りなので、表記上は1987となっていても読む順は異なります。1000の位→100の位と読んだら1の位にジャンプし、最後に10の位の数字を読みます。それぞれの位の数の間はandに相当する و [ wa ] [ ワ ] という字を補足しながら音読していきます。
١ | ٩ | ٨ | ٧ |
1 | 9 | 8 | 7 |
1番目 | 2番目 | 4番目 | 3番目 |
つまり、1000 → wa → 900 → wa → 7 → wa → 80 という順番になります。
右からグイグイ読んでいく方法も一部で使われている
一方、1987の7から読み始めて 1000← wa ← 900 ← wa ←80 ← wa ← 7 といった具合で左←右に進んでいく方法もあります。
١ | ٩ | ٨ | ٧ |
1 | 9 | 8 | 7 |
4番目 | 3番目 | 2番目 | 1番目 |
これは現代の日常会話では廃れていてニュースなどを見る程度ではまず耳にすることはありません。
しかし歴史学や宗教界における偉人に関する専門的な本やテレビの「今日は何の日」系番組では年号を言う時に左←右の順番を使うことが多いため、歴史関係の動画やスピーチでは古い方の方式で年号の数字を読み上げているのを頻繁に聞くことになります。(そういう分野に手をつける場合には2通りの年号の読み上げ方ができるようにする必要が出てきます。)
左→右につづる外国語はそのままはめ込む
英語にせよ日本語にせよ、アラビア語とは逆の書字方向(左から右)になっている言語の言葉をアラビア語の文に挿入する場合は、そこだけインド数字のように左→右のままはめ込みます。
إذا قمت بتغيير أجهزتك للترقية إلى Windows 11 ولم يتعرف النظام على التغيير في الوقت المناسب |
アラビア語の文に「Windows 11」がはめ込まれています。左←右とアラビア語文を読み進めていき、書字方向が違う言語の単語や熟語のところに来たら左端に目を移動させて「Windows 11」のように読み、また Windows 11 の左端に戻って続きのアラビア語文を読んでいきます。
昔のパソコンはOSがこの文字方向の転換に対応しておらず、アラビア語の部分とそれ以外の英語や日本語を自然に混ぜて文字方向を切り替えるということができませんでした。現代のWindows 10 や 11 で違和感無くアラビア語を表示しているのは、Windows 98 → 2000 → XP になる時代に整備が進み問題点が解決されていったことによりもたらされた利便性の結果となっています。
母音は書かない
母音がつづりとして現れない
アラビア語は先にあったセム系言語のシステムをそのまま踏襲しており、全ての文字は基本的に子音を表します。そのため母音を抜いた部分が文字としてつづられます。
ネット上に2ちゃんねるができた頃 ktkr(キタコレ)といったフレーズが流行しました。また人の名前を szk のように伏せ字で書いて「鈴木」を指すといった表記もしばしば使われているかと思います。
そのような書き方がされている文字列は意味を推察して kitakore と母音を補って読む訳ですが、アラビア語では全ての単語、文章の全ての場所で行っています。
母音はア・イ・ウ
アラビア語(文語、フスハー)の母音は a(ア)・i(イ)・u(ウ)の3種類のみです。
*3種類しか無いといいつつも、隣接する子音が口の奥の方で発音される場合には母音が後舌化するので「それらを区別していないので母音が a(ア)・i(イ)・u(ウ)3つしか存在しないことにされている」だけだったりします。
話し言葉である口語(いわゆる方言)には母音 e(エ)・o(オ)も現れるのですがこれらを表す発音記号は無く、e(エ)は i(イ)の母音記号、o(オ)は u(ウ)の母音記号を代用して表現されます。
文章・単語における場所に応じて変形させてから他の字とドッキングさせる
アルファベットは単独での形と他字と接続する時の形、2種類を覚える
アルファベットの各文字は、アルファベット表に単独で出てくる時の独立形と単語の中で他のアルファベットとくっつく時の接続形、2種類があります。
アラビア語の場合は英語のブロック体のようにアルファベットを1文字ずつ並べるだけでは単語や文章はつづれません。単語の中でどの場所に来るかによって変身させ、その上で他の文字と前後を連結させなければいけません。
単語を書く時は、その文字が単語の先頭・途中・最後のどこに来るかによってアルファベットがどう形を変えるのか思い出しながらつづります。
単独の時の独立形です。アルファベットをただポンと1つだけ書く時はこの形です。
文章・単語の中に出てくる時はこの接続形を使います。単語の先頭にその文字があるなら語頭形、途中にあるながら語中形に変えてから他の文字とくっつけます。
アルファベットによっては次の文字と連結できないものもあり、そうした例外の文字の直後ではスペースは入れないままで、いったん文字同士の連結を切ります。
1つの単語を書き終わるごとにスペースを入れて他の語と切り分ける
文章の中では、最初から最後まで一気に全部の文字をつなげてしまうことはしません。1つの単語の中では文字同士をくっつけ、単語が終わったらいったん切り離します。そしてスペースを入れてまた次の単語を書き始めます。
句読点は西洋からの輸入なので以前は無かったのですが、単語ごとにスペースを入れるルールは大昔から変わっていません。
数字が混じったアラビア語の文章と文字をつづっていく様子を見てみて下さい。黒字の部分をオレンジのペンでなぞっていきます。
なお、似た文字どうしを区別するためについている小さな点は単語の骨格を書いてから後から書き足すことが一般的です。この動画でもベースとなる線を引いた後に小さな点や短い線を追加しています。
大文字と小文字の区別は無い
英語のように頭文字を大文字にするといったことはしません。
パソコンやスマホへの対応
時間をかけて進められたアラビア語への対応
アラビア文字の右から左に書く&文字同士がつながる仕組みは細かいプログラミングの制御により再現されており、キーボードで1文字ずつ押すだけでくっついて表示されるようになっています。
西暦2000年ぐらいまではWindowsであっても非アラビア語版だとこの対応が不十分で、文字が分解される、句読点がおかしな位置に飛ぶ、アラビ文字を使ったソフトウェアが使えない、アラビア文字を含むファイル名が文字化けするといった不具合を多数抱えていました。しかし今では若い方たちがそんな時代があったことを想像すらできないほどに改善が進んでいます。
画面などは英語版や日本語版と違い鏡像のように左右が逆になる
アラビア語は文字をつづる方向が逆なので日本語版と違いパソコンやスマホの画面は鏡で映したように左右が逆になり、閉じるボタンの位置も反転します。
アラビア語文はどうやって読まれる?
母音が何なのか全く書かれていない、学習者泣かせのシステム
アラビア文字は基本的に全て子音を表します。なので母音は文字上に一切現れません。
声門を閉じたり開いたりする声門閉鎖音/声門破裂音である ء [ hamza(h) ] [ ハムザ ] をクルアーン啓示のずっと後に分離したため、アリフという1番目の文字だけは複雑な事情をかかえており細かいルールが存在します。
それ以外は、アルファベットの名前の先頭の音がその文字の示す子音になります。
そこにバーの字が書いてあるならそこは英語の b と同じ子音、といった具合に文字一個につき子音一つが対応するという関係があります。
アラビア文字は、細かいルールが存在するアリフ(縦に長い棒状をした、1番目のアルファベット)に関わる部分と二重母音の [ ai ] [ アイ ] と [ au ] [ アウ ] を示す表記といった一部のパーツを除けば全て子音だけを表すと考えて差し支えありません。
通常、アラビア語の文章は何の補助記号もつけずに書かれます。イスラーム教の聖典であるクルアーン(コーラン)を間違いなく読むように後から考え出されたのが母音記号ですが、現代では子供向けの本や外国人向けの学習書を除く新聞・小説・テレビのテロップ・製品パッケージ類は全てそのような記号はついていませんから、記号の助けを借りずにアラビア語の文を読んで意味を推測しなければいけません。
上の画像の例文だと赤い点線の◯で囲った部分が発音記号で、それを取り去った線や点がそうした通常の表記になります。
كتبت البنت رسالة
t-l-[ 長母音āの一部かもしれない部分 ]-s-r t-n-b-l-[ 書くが読み飛ばす ( ’ ) ] t-b-t-k
(左←右に対応する子音を並べてあります)
しかしこれだと、母音を付けるのか、母音を付けないのか、つける母音がア・イ・ウのどれなのか、どこがアーとかイーとかウーなどとのばす長母音なのかわかりません。知らない単語だと正確に読むこともできません。1語目の كتبت も k-t-b-t と子音だけしか書いてないので、katabatなのかkatabtuなのかそれとももっと他の読みをするのか判断がつきません。
日本語の「て・に・を・は」に相当する部分も文字に現れず、単語の最後につける母音の種類などで示します。
これが、アラビア語を初めて勉強する人が挫折してしまう大きな原因の一つになっています。そしてネイティブでも簡単には身につかないので、多くの人が方言でない書き言葉のアラビア語を苦手とする原因になっています。
そこで登場するのが母音記号です。画面の左に挙げた母音記号を補うことによって本当の読みが何なのかを示していってみたいと思います。
単語の形を位置関係を見て品詞や意味を推測し母音を補って発音を決める
イスラームが伝播していく過程でクルアーンの正しい読み方を文字上ではっきり示す必要が生じたアラビア語。一字一句間違えずに読めるように助けてくれるようにと考案されたのが母音記号です。母音記号は初期に色々な形が考え出されましたが、その後決まった形状に落ち着き現代に至ります。
上で紹介した例文は3つの単語からできています。3語あるのはスペースが2個あることからも判断できます。それぞれの単語を1文字ずつに分解するとこうなっています。
画面の一番下に並んでいるアルファベットがパーツで、単語の中でお互いが連結するための形に変形し、それから単語としてつながり合っていくまでの過程を図に示してみました。
縦の棒線の形をしているアリフは長母音 ā [ アー ] を表現するのパーツの後半を形成するのですがそれ単独では音を持っていません。なので図では該当する子音は書かれていません。
さてこの例文。母音記号がついていないので知らない人は音読すらできません。アラビア語は母音記号が無いと「つづりの通り音読すればだいたい読めるけれど、なんていう意味かまではわからない」という英語のようなことすらできない言語です。
そのような母音記号が一切無いこの文章ですが、アラビア語を知っている人なら「おそらく、その少女は手紙を書いた、という意味なんだろうな。」と予想できます。
そしてその推測した意味に実際になるのかを確認し、同時に正確に音読できるようにするために自分の知っている文法の知識や単語のストックを動員して細かい部分をつめていきます。
主語は2番目の単語である名詞で意味は「(その)少女」であること。先頭に英語の「the」に相当する定冠詞のアルがついていること。この単語が主語であり、単語の終わりに文字に現れない主格を示す母音 [ u ] [ ウ ] の音を補うことをチェック。
次にその主語が行う動作が1番目の単語でそれが動詞の完了形であること。しかも「(その)少女は」という主語部分に対応する活用をしていて、三人称・女性・単数の時の活用形であることをチェック。
そして残った3番目の語が名詞で、主語である少女が書いたものつまり目的語の「手紙」だろうと決めます。「手紙」は目的語ですが、アラビア語ではその名詞が目的語であるということを日本語の「~を」に当たる母音の [ a ] [ ア ] は文字に現れません。
しかも定冠詞がつくような特定の手紙ではなく不特定の何らかの手紙であることが判断できるので、非限定名詞であることを示す音 [ n ] [ ン ] も追加する必要があります。
アラビア語の構文や文法を知っていれば全部正確に書き足せるのですが、この作業は普段口語で生活しているネイティブが頻繁に間違える作業です。アラビア語は文語と口語のダブル体制な上に同じ意味とつづりであっても文語と口語では母音が違うので、それぞれの使い分けがきっちりできるよう読み方を2通り記憶しておく必要があるというやっかいな言語です。
普段口語で生活しているアラブ人たちは文語における正しい発音を知らないと適切な母音を補うことができません。なので文語で書かれたニュースや専門書を渡されて「はい読んで」と言ってもスラスラ読めないということが珍しくないです。
日本で発売されているアラビア語の教材(特に単語集)でナレーター役を任された留学生さんや非アラビア語科出身の先生方がしばしば読み違いをしているのも、こうした口語と文語との関係性が背景にあります。
通常の本や新聞ではこのような母音記号はほとんど書かれていませんが、学習書では丁寧に記号がふってあることが多いです。日本人学習者としてスタートする場合は教材を選びつつ徐々に慣れていくことができます。
子音だけの文字列に母音を足して文章を完成
書き込みが細かいのですごく見づらいですが、母音を補足していく読み方のしくみはこのようになっています。
アラビア語を勉強する人が補助記号の無い新聞や本を読む場合、辞書で調べてメモを追加していくことになります。音読ができるようにするために母音記号や発音記号も手で書いていきます。
初級の時に難しい本を読んだりすると、わからないところばかりなので書き込みは多くなり辞書で調べる回数も増えます。
アラビア語の授業で難しめの本を講読する際、アラビア語1年目や2年目ぐらいの学生さんが単語の活用形や人の名前がわからず、ひどい場合は1ページに何時間もかかってしまうというのはこのような事情によります。外国人の名前にアラビア文字で当て字をしてあるだけなのに動詞の派生形かなにかだと思って文法書や辞書をめくりながらぐるぐるぐるぐるしてしまったという経験がある方も少なくないのではないでしょうか。
実際に例文の母音記号つけを完成させてみよう
1単語目
まずは語が単独の時の発音を記号で書き入れる
まず最初の単語です。文法的な推測から「彼女は書いた」という動詞の完了形だと決めた部分です。その意味になるように母音を補います。
كتبت
t-b-t-k
(ktbt)
- kの音を示す文字に母音のaを足すと ka(カ)
- tの音を示す文字に母音のaを足すと ta(タ)
- bの音を示す文字に母音のaを足すと ba(バ)
- tの音を示す文字は三人称・女性・単数(=彼女は~した)の活用部分を指すパーツなので母音はつけず t(ト)
كَتَبَتْ
t-ab-at-ak
(katabat)
文の中に無い単独の時の「彼女は書いた」(katabat)ができました。
最初の文字3つ「k-t-b」という子音の組み合わせ・セットは語根(ごこん)といって、「書く」ことに関連した単語を色々作り出すパズルのピースのような役割をしています。
アラビア語の動詞完了形は基本が三人称・男性・単数の(彼はした)という語形です。ここでは「彼は書いた」という意味の動詞 كَتَبَ [ kataba ] [ カタバ ] に ت [ t ] によって示される子音を追加し「彼女は書いた」という活用をしています。
ت [ t ] のところは母音を足さずに子音だけにするのが本来の語形です。なのでひとまず小さな ○ を書いて母音の補足が無い子音だけになっていることを示します。
これでひとまず1語目の読みを決めることができました。
次の語のつなげ読みをする実際の発音に即して語末の発音記号を書き換える
ただこの最後の تْ [ t ] の文字。次に続く単語の先頭の文字との兼ね合いでこのままではいられません。
アラビア語は単語の区切りごとに息継ぎをするわけではないので、1番目の単語の最後の音と2番目の単語の最初の音は連続させて読むことになります。つづりの上ではスペースが入っていますが、英語などのリエゾンやリンキングのように読む時にくっつくので、単語の間を移動する時に音と音の関係から発音が変化することがしばしば起こります。
そしてここがそのような変化する場所にあたります。
2番目の単語は「その少女は」という主語を表す名詞ですが、単語の最初にある定冠詞の اَلْ [ ’al ] [ アル ](通常先頭に「’」はつけず単に al- と書いてあることが多いです)には重要な発音ルールがあります。
この定冠詞 اَلْ [ ’al ] [ アル ] の [ ’a ] [ ア ] には一般の英字表記では文字として現れない声門閉鎖音/声門破裂音である ء [ hamza(h) ] [ ハムザ ] がついています。なのでただの母音 a(ア)ではありません。
日本語で母音を単独で発音する時や単語の先頭に母音の「あ」が来る時に起きる現象と同じなのですが、ただの母音アではなくアの前に声門が開いて一気に息が吐き出される現象を伴う [ ’a ] [ ア ] になります。
そしてその次に英語の l と同じ音を示す子音 ل [ l ](文字の名前はラーム)が続いて اَلْ [ ’al ] [ アル ] になっています。
ところがこの定冠詞 اَلْ [ ’al ] [ アル ]。前に他の単語が来てしかも息継ぎせずに続けて読む時は اَ [ ’a ] [ ア ] の発音が抜け落ちて、単語の2文字目にくる لْـ [ l ] [ ル ] の子音から読み始めなければいけません。
そこに前の単語の最後に来る「彼女は書いた」という動詞の「彼女は」部分を示す子音 تْ [ t ] が母音を伴わずに接しています。
しかしアラビア語では子音を3個連続で続けることはできません。上のイラストで t-l-b となっている部分に母音がはさまらずに3つも子音が連なっていますが、無理やり「ツルブ」などと読むことはしません。
*アラビア語では اِلْتِقَاءُ السَّاكِنَيْنِ [ ’iltiqā’u-s-sākinayn(i)/sākinain(i) ] [ イルティカーウ・ッ=サーキナイン(語末の母音まで全部読む場合はサーキナイニ) ](2子音の連続)と呼びます。子音連結、子音衝突のことで、無母音記号スクーンを2個連続で ـْ ـْ と書くような発音になってしまう場合は、発音を少し変えることで回避します。
そのため1番目の語尾 تْ [ t ] は子音のままではいられず、母音の [ i ] [ イ ] をつけたしてから音読することになります。
これはアラビア語によくある現象で、子音連続を避けるための補助母音システムになります。どの組み合わせでどの母音記号を補うかは文法規則として決まっており、全て正確に母音記号を書き加えることができるようになるためには全部暗記する必要があります。ただ種類が多いのでネイティブも学習者も完璧に覚えている人は少ないです。
そしてこの補助母音の追加を受けて母音記号も変更します。
「彼女は書いた」という意味の1番目の動詞の最後には、その文字が母音を伴わず子音だけであることを示すスクーンという小さな ○ のような形をした記号をつけておいたはずなのですが母音の [ i ] [ イ ] を示す発音記号に改めて書き直します。
英語 t と同じ音を示す子音 تْ [ t ] と補助で入った母音の i が組み合わさって تِ [ ti ] [ ティ ] という発音に変更。そこに「その少女」という2語目である名詞の先頭にあった定冠詞 اَلْ [ ’al ] [ アル ] から اَ [ ’a ] [ ア ] の発音が抜け落ちて残っていた لْـ [ l ] [ ル ] に変えた部分とドッキング。[ ti-l ] [ ティ・ル ](息継ぎせずつなげ読みをするのでティル)という風にリンキングを行います。
كَتَبَتِ ٱلْـ
-l-[ ]-it-ab-at-ak
[ katabati-[ ]-l- ] [ カタバティ・ル= ]
以上をまとめると1語目については katabati [ カタバティ ] という読みが決定しました。そして2語目は لْـ [ l ] [ ル ] から読み始める状態で待機しています。
2単語目
先ほど1番目の単語として「彼女は書いた」という動詞完了形を紹介しました。
もう既に動詞の主語は動詞に含まれる「彼女は」部分である程度示されているのですが、アラビア語では最初に「彼」「彼女」といった人称を示すパーツを含んだ動詞を最初に置き、その後に「その少年」や「その少女」といった名詞が改めて主語として現れるという構文になっています。
そしてアラビア語特に書き言葉のアラビア語フスハーでは、このように「目的語←主語←動詞」の順番に並べる構文が多く「動詞文」と呼ばれています。
まずは前後の単語とつなげ読みをしない時の語形を確認
2番目の単語は定冠詞 اَلْ [ ’al ] [ アル ] の後に「少女」という名詞 بِنْت [ bint ] [ ビント ] が来ています。
定冠詞とつなげて書いてあるのは、定冠詞の اَلْ [ ’al ] [ アル ] が単独ではつづらず必ず名詞なり形容詞なりの単語の先頭にくっつくためです。そしてこれらは別々の2語とはカウントせず定冠詞も含めて1語とみなします。
ここではまず、前の単語とのリンキングを考えずに「その少女は」という主語になるように母音を補います。
定冠詞 اَلْ [ ’al ] [ アル ] の1文字目が上図のような特殊表記(ハムザト・アル=ワスル、ハムザトゥルワスル、ハムザト・ル=ワスル、ハムザトルワスルなどと表記)であることも考慮に入れた上で発音についてチェックを行います。
البنت
t-n-b-l-[ ]
- 定冠詞 اَلْ [ ’al ] [ アル ] の最初に来るアリフには表記上現れていない声門閉鎖音/声門破裂音の ء [ hamza(h) ] [ ハムザ ] が隠れているので、ハムザに母音aつけるというイメージで ’a
*通常のアラビア語学習書やアラビア語をラテン文字転写する場合定冠詞は「’al-」ではなく「al-」としますが、当サイトでは声門閉鎖音/声門破裂音の存在を強調するためにわざと「’」を書き足しています。なにとぞご了承願います。 - 定冠詞のl部分は子音のみだけなので、「母音は足さない」「子音のまま」という意味のスクーンという記号を添えて l
- bを表す子音に母音のiがついて bi
- nは「母音は足さない」「子音のまま」という意味のスクーン記号を添えて n
- 最後の ت [ t ] は名詞「その少女」が動詞「彼女は書いた」の主語であることを示す主格の母音 [ u ] [ ウ ] を追加、になります。なので文字には現れない、主語を示す母音、ウを記号で追加する必要があります。 tを表す子音に母音のuがついて、tu
اَلْبِنْتُ
ut-n-ib-l-a’
(’albintu)
という風に発音するよう母音記号の記入が完了。
前に来る動詞完了形とつなげ読みする時の発音に修正する
覚えていますでしょうか。さっき1語目の動詞「彼女は書いた」の語尾部分とのリンキングで発音の変化が起こるという話をしたかと思います。
2語目の先頭にくっついている定冠詞 اَلْ [ ’al ] [ アル ] の最初に来る ا [ アリフ ] には表記上現れていない声門閉鎖音/声門破裂音の ء [ hamza(h) ] [ ハムザ ] が隠れていて、実はそちらのハムザの方が発音の本体でアリフはただの台座(ハムザの棚のような存在)です。発音も أَ [ ’a ] [ ア ] と全く同じです。
ともあれこの اَ [ ’a ] [ ア ]。リンキングで発音が抜け落ちてしまうので、この部分を読み飛ばした時の発音記号に書き換えます。
1文字目の記号はこんな風に書き換えます。「隠れハムザがついている語頭アリフのところではハムザと母音aがついていても読み飛ばしてしまいます」という意味のワスラ記号を文字アリフの上に書きます。
*このワスラはWindowsキーボードでは入力できない記号ということもあり、通常の書籍では省略されて書き足されていないことが多いです。
ٱلْبِنْتُ
ut-n-ib-l-[ 読まない ]
(lbintu)
これで2語目の文中における発音 –l-bintu [ ・ル=ビントゥ ] が決定しました。
3単語目
3番目の単語は他動詞「彼女は書いた」の目的語である「手紙」という意味の名詞になります。
رسالة
t-l-[ 長母音āを表すパーツのアリフでā音の後半部分を担当 ]-s-r
(r-s-[ āの一部 ]-l-t)
- rの音を示す子音に母音のiがついて ri
*日本語のラに似た子音で舌を上の前歯の裏の歯茎に1回はじいて発音するはじき音です。よく「アラビア語のrは巻き舌だ」と言われますが、この子音が1個だけ単独である場合は舌をぶるぶる震えさせないのが本来の発音です。そして定冠詞の後などでr+ra、r+ri、r+ruのようにrrと2個連続した場合にいわゆる巻き舌と形容される舌を震わせた発音のふるえ音になります。 - sを表す子音には母音のaをつけてまず sa
- 「母音aがついた子音の後に長母音の ا [ ’alif ] [ アリフ ] 続けると長母音のāを示す」というルールを使ってsaをsāに変更して sā
*この長母音アリフは、単独 [ ā ] [ アー ] を示すのではなく直前の文字である س [ sīn ] [ スィーン ] についた母音の [ a ] [ ア ] とセットで使うことによって、長母音の [ ā ] [ アー ] になることを表します。なので長母音アリフには示す音(音価)が無いとされます。 - lを表す子音に母音のaをつけて la
最後は女性名詞の語尾によく使われる ة [ tā’ marbūṭa(h) ] [ ター(ゥ/ッ)・マルブータ ](ター・マルブータ)」という文字です。語末に格を示す母音などを付加して音読する場合は ت [ t ] と同じ音を表します。
ここでは彼女が書いた手紙は限定されていない非限定名詞です。英語でいうと the letter ではなく a letter と書いてあるのと同じになります。そして ة が示す [ t ] 音の後に、アラビア文字のつづりに現れない「手紙という名詞が非限定」しかも「動詞の目的語である」ことを示す発音を記号によって明示します。
まず最初に、動詞の目的語であることを表す対格の母音 [ a ] [ ア ] を意味する記号をまず加えます。次に非限定名詞であることを意味する [ n ] [ ン ] の音を追加(タンウィーン、nunation)して、両方あわせて a+n=an [ アン ] の音を語末に補います。
そのような発音は母音aを示すファトハという記号を二重に重ねた فَتْحَتَانِ [ fatḥatān(i) ] [ ファトハターン ](双数形で、母音aの記号であるファトハが2個という意味)を加えて tan とします。
رِسَالَةً
nat-al-ās-ir
(ri-sā-la-tan)
これで文中における3語目の発音 risālatan [ リサーラタン ] が決まりました。
全部を合わせてついに文章の読みが決定
こうやって読み方の記号を書き込むことで、文章の正しい読み方
كَتَبَتِ ٱلْبِنْتُ رِسَالَةً
katabati-l-bintu risālatan
(カタバティ・ル=ビントゥ・リサーラタン)
がようやく判明。「その少女は手紙を書きました」という意味の文章であることを明示することができました。
ちなみに現代のアラブ世界では書き言葉を使った会話が古典よりも簡略化される傾向にあり、最後の格を示す母音は多数読み飛ばすなどします。そうした簡略化された現代会話風の文語フレーズとしては、この例文における最後の「タン」は読まず手前のリサーラまで読んだらおしまいとします。
كَتَبَتِ ٱلْبِنْتُ رِسَالَة
katabati-l-bintu risāla
(カタバティ・ル=ビントゥ・リサーラ)
最後に
こうして見てみると、アラビア語は絶望的に難解な文字システムであると感じる方たが多いかもしれません。実際、アラビア文字を覚える時点や母音を補うという読み方のシステムの時点でくじけてしまう人も少なくないのが現状です。
しかし、わかりやすい入門書であればとても簡単な内容からコツコツ続けられるようになっています。教える側も挫折しやすい難関がどこか把握していますので、最近の入門書は語末の母音を読み飛ばす簡略化された文語(フスハー)を教えていることが多いです。
なので、自分に合った難しすぎない本をしっかり選ぶことが挫折しないコツの一つかもしれません。
なお、このような細かいルールは読み書きの言葉である文語アラビア語フスハーでの話です。
アラブ人は普段の生活で使っているのは話し言葉である口語のアーンミーヤです。アーンミーヤでは文字の発音や読み方・文法などが簡略化され語末格変化は無くなっています。語彙も書き言葉のアラビア語とはだいぶ違います。
方言の会話教科書だと、アラビア文字を使わず英字だけで表現することが多いです。なのでアラビア文字の大変さを体験せずアラビア語を話せるようになることも可能です。
書き言葉のアラビア語は普段の生活で会話に使わないこともあってネイティブのアラブ人でも苦手な人が多いです。標準アラビア語の文章は、どの母音を付け足して読むのかとか動詞の変化はどうなっているかとかいった部分をアラブ人でもよく間違えるのが普通です。
ニュース記事や本ははこの動画で紹介したような補助の記号は全くついていないので、学習者が取り組む場合はコツコツ知識をためていってようやく音読がすらすらできるようになります。
しかし読むだけなら全ての文字について母音を正しく補足できなくても語形と意味を理解していれば何とかなったりします。あまり細かいことは覚えなくても音読させられるような環境に無ければその部分はあまりやり込まずに文法・構文・語彙増強だけやってやり過ごすこともできます。
なので興味のある方は最初に絶望してしまわず、簡単な本から少しずつ進まれるのが良いかもしれません。
(2023年6月 アラビア語文への外国語単語・熟語挿入と読み方)