目次 | 概要 | スタジオ | 主役声優 | OP歌詞&訳 | サウジアラビア | イラク
プロフィール
جِهَاد الأَطْرَش
[ jiḥād ’al-’aṭrash ] [ ジハード・アル=アトラシュ ]
Jihad Al-Atrash
レバノン人の俳優・声優。1943年8月28日、山岳レバノン県バアブダー生まれ。エジプトで活躍したシリア系歌手ファリード・アル=アトラシュやアスマハーンと同じドゥルーズ教徒の指導者的一族アトラシュ家の出身。父はレバノン山地エリアで松を商う大商人だったそうです。
*シリア出身でSpacetoonアニメの主題歌を数多く担当してきたアラブアニメ界の女王 رَشَا رِزْق [ rashā ] [ ラシャー・リズク ] 氏は母方がアトラシュ家出身。ジハード氏の親族ということになります。
子供時代は大の飛行機好きでパイロットになりたくて航空工学を志したもののラジオ・テレビ業界に入り俳優として活躍。
フスハーでの演技が非常に上手いことでも知られ、これまでに預言者・イスラーム共同体の重要人物・歴史上の人物・哲学者・文学者らの役を数え切れないほど演じてきたそうです。後進の指導にも熱心で、フスハーによる演技やアラビア語特有の強勢音をはっきりと発音しながらも他の子音とスムーズにつなげるセリフ読みのコツなどを教えているのだとか。
グレンダイザーでは主人公 ダイスケ/デューク・フリード 役を演じ、その力強いかけ声が決めゼリフが人気を博したそうです。ジハード氏によると、パレスチナのナクバによる離散やレバノン内戦が主人公への共感や感情移入の背景にあったそうですが、彼自身は一族総出で対仏闘争を繰り広げたというアトラシュ家出身のため祖国のために自らを捧げて闘うという姿が非常に身近なものとして感じられたとのこと。
俳優として大御所の地位に立つに至った後もアニメ声優の仕事は引き受けていて、比較的最近の日本アニメ吹き替え出演はポケモンアラビア語版のナレーター役。2015年発表の3Dアニメ映画『Bilal: A New Breed of Hero』アラビア語版ではアブー・バクル役を演じています。
絶大な人気を誇ったグレンダイザーの主人公役、そして近年で初代正統カリフ アブー・バクル役も演じたたジハード氏は自身の声を商業コマーシャルに利用させたくないという思いがあり、CM出演オファーは一切受けないというポリシーを長年貫いているのだとか。
移住先のオーストラリアからレバノンに帰国して間も無い時期に血栓が原因で数分間心停止したことから記憶障害を患い友人らの名前も忘れてしまうという経験をしたものの復帰。現役で俳優として活躍されていること、さらにはレバノン俳優組合の会長に就任したこともあって、今でもテレビにおけるインタビュー出演依頼が後をたたないようです。
グレンダイザー出演関連のインタビュー番組
エジプトテレビ局の懐かしアニメ・子供番組特番
1980-1990年頃は子供たちの間でグレンザイダーの必殺技を叫んで遊ぶのが流行っていました、という紹介の後にスタジオのオーケストラとコーラス隊がオープニング曲を披露。同じ特番の中でアラビア語版オリジナル歌手のサーミー・クラーク氏も歌っているのですが、ジハード・アル=アトラシュ氏登場に合わせてもう一度違った演出で彼らが披露したという形のようです。
ジハード氏はレバノンの放送業界に俳優として飛び込んだものの、当初は大役をつかめずなかなか浮上できずにいたとか。ある時海の男たちをテーマにした全30話のドラマが作られた際、エジプトから来た関係者の目に留まり威厳ある声がぴったりだからとただの船乗り役から船長役に抜擢。
トークの中では親戚のファリード・アル=アトラシュについても触れています。ジハード氏の才能を認めてくれエジプトに来たら芸能界でやっていけるように応援すると言ってもらったりしていたとのことです。
サウジアラビアのニュースチャンネル
こちらはサウジアラビアのニュースチャンネルの朝番組に出演した時の動画です。サウジアラビアはqの字をgで発音するので、デューク・フリードの دُوق [ dūq ] がドゥーグで読まれテロップでは دُوغْفُلِيد [ dūghflīd ] [ ドゥーグフリード ] という表記になっています。
祖国の喪失、祖国愛、平和を愛する心というグレンダイザーのメッセージについて語っています。アラビア半島(湾岸)地域にファンが特に集中している話、アニメで使われてたフスハーとアラビア語の美しさを保つことの重要性など。シーンごとに収録し、出演者が全員スタジオに並んで吹き替えを行い失敗したら冒頭からやり直しという当時のシステムについても語っています。
5:00ごろからは番組が用意した動画に合わせて生で決めゼリフを言うように頼まれ快く応じています。6:00ごろからは最近のアニメが暴力を助長していると思うかというアンケート結果の発表で、60%がそう思う、30%がややそう思うと回答。グレンダイザーはむしろその逆で暴力と闘って平和を訴えた側だという話をしています。
グレンダイザーのアラビア語吹き替え制作には著名な業界人が関わっており作品作りに注力していたこと、ただの吹き替えアニメであっても視聴者に何らかのメッセージを届けるべく彼らの思いを込めて制作に当たっておりそれが日本語版を発展させたアラビア語版ならではの特徴になっていることなどにも触れていました。
レバノンMTV番組WALL OF FAME
こちらはレバノンのテレビ局MTVの『WALL OF FAME』に出演した時の録画です。
フスハーによるセリフを話すのがとても上手なことで知られており、後進を指導するワークショップも開いていることが紹介されています。ジハード氏によるとアラビア語のフスハーで演技することは決して容易ではなく、子音同士のシフト特に強勢音から軽い普通の子音へのシフトというマスターが難しい技術を習得するには訓練が必要でなのだとか。
口語のアーンミーヤとは文語のフスハーとでは一部のアルファベットの調音部位が異なる上、語末の格変化や母音について考える必要も特に無いため、フスハーで演技をするには考えるという作業が必要なのだそうです。
後半ではパレスチナやレバノンという祖国を脅かされる立場がグレンダイザーの主人公に重なり共感を得た件、グレンダイザー人気は健在でアニメイベントに自分も呼ばれてたびたび出演している件などを話しています。
16:00過ぎからは声優業ではなく俳優業の方の話題に移り、最近出演したテレビドラマの映像が流れます。
レバノンAl Mayadeen Documentaries
レバノンのドキュメンタリー専門チャンネルAl Mayadeen Documentariesの作家・俳優・プロデューサー等を毎回ゲストに招いている番組に出演した時の映像です。ジハード・アル=アトラシュの芸能人生や哲学、人柄についてのルポタージュや友人・知人からのコメントを交えながら本人にインタビューする1時間15分ほどの録画になります。
飛行機好きに関しては上でも紹介した通り。アメリカで60時間の飛行講習を受けたほか、メカニック関係を学ぶため3年間空港で働いていたそうです。
子供時代から歌うことが好きで、親戚であるファリード・アル=アトラシュの前で歌ったこともあったのだとか。
グレンダイザーについては40年経過してもなお愛されていることが嬉しいというだけではなく、フスハーのアラビア語がとてもきれいな作品だという理由から彼らが自分たちの子供に勧めたり視聴させたりしている事実がとても光栄だと感じているそうです。
その後は内戦の激化と娘3人の教育のためオーストラリアに移住した話が続きます。向こうの放送業界で活躍したものの現地社会に同化する必要性のあった暮らしに馴染めず、妻子と別れ失意のうちに帰国。
そして帰国後の意気消沈していた時期に心停止を起こし臨死体験をし、目覚めた後に一部の記憶を喪失してしまった話へと発展していきます。肉体の束縛から離れとてつもない幸福感に包まれ、世界が自分の回りをめぐりまばゆいばかりの光が満たしていたという体験を詳しく語っています。司会は「改めてこの世にようこそ戻って来られました。」と歓迎。
28:00あたりでグレンダイザーの主題歌を歌ったサーミー・クラーク氏が登場。彼の自宅で取材を受けたようです。ジハード氏とは色々な面で意見が合う旧友で、サーミー氏の考えによれば彼は色々な人が拠り所とし学びを得る導師のような人物なのだとか。
30:00過ぎではグレンダイザーが単なる子供向けの娯楽や勧善懲悪劇で片付けられるようなものではないこと、吹替版制作陣が3人とも故郷を失ったパレスチナ人でありアラビア語化する際にパレスチナ問題、祖国愛、家族愛といったメッセージを込めたことについて触れています。
35:00ごろからはアラビア語のフスハーで演技することの難しさについて。毎日の訓練が必要で最低でも1日15分は練習すべきなのだそうです。
ジハード氏非常に謙虚な人物として知られているそうで、数千という作品に出演し名声を得ても安っぽい豪遊浪費に溺れることもせずその実直な人柄は健在なのだとか。知人の作家から「どうして君はそんなに謙虚なんだい?」と質問されているシーンも。
1:05:00以降はパレスチナやレバノンの対シオニスト抵抗運動に対する自身の立場について。ジハード氏は対仏抵抗運動を繰り広げたアトラシュ家の出身だったため、父親が家に率先して電気を引き込み家族が集ってラジオで中東情勢を追うという子供時代を過ごしたことを回顧しています。
ファンによる独自インタビュー
YouTubeチャンネルも持っているアニメ・漫画ウェブフォーラムKAIZU LAND(サウジアラビア)によるインタビュー動画です。アラビア半島(湾岸)地域に特に集中しているグレンダイザーファンが数多く活動しているフォーラムのようで、これ以外にもグレンダイザー関連の動画をYouTubeにアップ。フォーラムではスタッフやスタジオに関する調査記事、作品考察などを読むことができます。
この動画では冒頭においてジハード・アル=アトラシュ氏を形容する数々の文がとにかく熱いです。「彼の声と演技を聞くたびに我々は何度も何度も繰り返し真似をしたものだった」「黄金の喉を持つ男」「吹き替えのアミール(大家)」「比類無き才能で他言語版声優のいずれをも凌ぐ」といった称賛の言葉が続きます。
*アミールは「王子、プリンス」以外にも「首長、総督、指導者、大家」といった意味があります。
2:00すぎに芸能界でのキャリアを1962年にスタートしたこと、これまでに収録したラジオ・テレビ番組は2万を超えることが紹介されています。レバノンでのあだ名は「芸能のアミール」なのだとか。ジハード氏の場合アミールは単にプリンスとか大家といった意味を指すだけでなく、アトラシュ家がアミールと呼ばれるレバノン山岳地帯の領主だったことも示唆する呼び名のようです。
6:00台からはテラスに用意されたチェアに座り、アニメファン側からの質問に快く答えている様子が写っています。このインタビューのために豪華な横断幕を用意してテラスの柵にかけているところにもファンの愛の強さを感じました。
関連サイト
- ARAB NEWS JAPAN