アラブ世界における月と太陽~製品パッケージと太陽・月のモチーフ

目次 | 日本でのイメージ | 比喩表現 | 製品デザイン | イスラーム | 多神教時代

太陽マークの缶詰を月マークにしたら売れた話

実は月マークに変えたのではなかった

日本語で書かれた書籍での描写を検証した『アラブ世界における月と太陽~日本で紹介されているアラブの太陽・月像を検証してみる』でも紹介したのですが、ニチロがアラブ諸国に輸出した缶詰は一般に流布している「太陽マークから月マークに変えた」のではなく「太陽マークから五つ星マークに変えた」というのが本当の話だそうです。

日本ではこの缶詰エピソードが「太陽マークの時は誰も買わなかったのに月マークにしたとたんに大売れした。アラブ人は太陽が大嫌いで月が大好きな証拠。」と語られることが多いのですが、実際には太陽マークの時と月マークの時のそれぞれの売り上げの対比ではありませんでした。

太陽は缶詰につけるマークとしては最悪のモチーフか?

日本で知られている「アラブ世界で缶詰を売り出した時に太陽マークでは売れ行きが悪かった。それぐらい現地では太陽が忌み嫌われている。太陽は製品パッケージにつけるイラストとしては最悪のモチーフ。アラブ人が好きになる訳がない。製品が全然売れなくて当然。日本人がアラブ文化を知らなかったせいで起きた。」という逸話ですが、売り場で買わない理由を尋ねたら「憎たらしい太陽の絵がついた製品なんて買わないよ」と言われたという顛末があわせて紹介されていることもあるようです。

しかしこの缶詰についた太陽マークのエピソードについて、元となった日本語の書籍には「聞き取りリサーチの相手となったアラブ人が具体的にどういう理由で太陽の図柄が気に入らなかったのか」「アラブ人が太陽マークの製品を敬遠する理由について文化・宗教的背景に関してどのような説明をしてくれたのか」までは書いてありません。

現代ではエアコンが普及し夏の苦しさからある程度解放されたという違いはありますが、アラブ諸国に太陽の名前を関した組織・店舗・施設があちこちにあり太陽のイラストを用いた食品・コスメも複数出回っていることから考えると、「アラブ文化では古来から太陽は忌み嫌われる憎悪の対象で製品パッケージとしてはタブー中のタブー」という認識は誤っているものと思われます。

現地には太陽の絵がでかでかと書かれた缶詰のブランドも実在します。日本語の書籍で紹介された缶詰エピソードが起こった時期からもう40~50年は経っているかと思うのですが、日常生活に大きな変化があったとはいえその結果アラブの太陽観が完全に覆されたとは考えにくいです。

管理人は現地の古典作品も現代文もテレビドラマも好きなのですが、太陽みたいという比喩表現がアラブ世界で悪い意味しか持っていないという話は一度も聞いたことがありません。むしろ良い意味で使われることばかりなので、日本語で書かれた本やネット記事を見て初めて日本国内では現地とは全く違うアラブ的太陽観・月観が流布していることを知り驚いたほどです。

月や星のモチーフはイスラーム世界でとても好まれており大変親しまれているのは事実です。しかし「砂漠は一年中暑いからアラブ世界では太陽がとことん嫌われる」というのは間違いだとしか言わざるを得ません。

日魯(ニチロ)の缶詰に描かれていた太陽マークはどんな感じだった?

現在の太陽マーク

マルハニチロ さけ水煮
*amazon商品画像を取得するためアフィリエイトを利用しています。リンクはクリックしなくても構いません。

こちらはアラビア半島に輸出を行った当初苦労したと言われるニチロのあけぼのブランド缶詰に現在ついている太陽マークです。現在は小さく太陽なのか花なのかぱっと見ただけでは判別できない程度の印しかついていない感じです。

昔の太陽マーク


引用元:アスクル(https://www.askul.co.jp/p/U900089/

上の画像は、マルハニチロの公式サイト『MARUHA NICHIRO 100年ブランド、あけぼのさけ~サケ缶ラベルコレクション』でも紹介されている昔のラベルをつけた復刻版の販売ページの一例です。

今の世代には全く馴染みの無いデザインとなってしまいましたが、元々日魯(ニチロ)の缶詰はこのように朝日の図柄がでかでかとあしらわれたものだったそうです。

サウジアラビアで缶詰食品が一気に普及したのが1960年代以降だったとのことなので、おそらく巨大な朝日デザイン時代のことだったのではないでしょうか。

マルハニチロの『MARUHA NICHIRO 商品別Q&A~「あけぼの」の商標の由来を教えてください。』によると、太陽の絵をつけた缶詰でアラブ世界に進出した頃に日魯(ニチロ)が使っていたラベルデザインはもっと大きく日の出が書かれていたほか、英語圏向け輸出用にブランド名も英語に変えてDay Break Brandとしていたのだとか。

アラブ諸国に進出した際のブランド名は調べたのですが残念ながらネット上では見つけることはできませんでした。マルハニチロに当時のブランド名とアラブ向けのラベルデザインについて問い合わせてみたのですが、残念ながら資料が残っていないため回答できないとのお返事をいただきました。

中東・アラブ諸国と太陽マーク

太陽マークをつけたニチロの缶詰がアラブ諸国で売れなかった時、販売側の日本人はイスラエル国旗の六芒星(ダビデの星)のようにアラブ世界では使ってはならないシンボルをデザインに入れてしまったのではないかと心配し調べたようです。

そこで「アラブ人は暑苦しい太陽が大嫌いだから太陽マークをつけたのは失敗だった」という結論に至ったらしいのですが、当時も中東には太陽モチーフを掲げた国や民族が複数ありました。

中東で続いている太陽信仰

いわゆるアラブ諸国と呼ばれる地域ならびにその周辺にはイスラーム教以外を信じるマイノリティーが複数住んでいます。中東では太古の時代に太陽信仰があったことから、その信仰を引き継いでいる彼らの旗や民族的なシンボルに太陽マーク・太陽神のイラストがあしらわれるなどしています。

太陽シンボルを掲げる人々はアラブ人イスラーム教徒側との間に軋轢・紛争を抱えている立場であることが多いように思います。

現在イスラーム教徒となったアラビア半島のアラブ人たちも元は太陽・月・星・自然・偶像を崇拝する多神教徒だったのですが、一神教に切り替わり宗教教義として「太陽や月も崇拝対象(神)ではなく被造物だからそれ自体を崇めてはいけない」と念押しされるに至りました。

太陽崇拝行為は過去に捨て去った所業という扱いで、二度と立ち戻ってはいけないということでヨガの太陽を拝むポーズも宗教者らから忌避されています。

一方宗教的マイノリティーはそうした昔ながらの太陽信仰や太陽に特別性を認めている宗教教義を保っている集団ということで、イスラーム側からあまりよく見られない傾向があると言えます。

彼らは太陽旗を掲げていたり太陽をネーミングに取り入れる率が高めだったり、太陽に関する扱いに関してイスラーム共同体との差異が現れやすいことも。

アラブ世界のマジョリティーであるイスラーム教徒が太陽マークよりも月マークを好むことに関しては「月は自分たちにおなじみ。でも太陽シンボルはそうではないし他の宗教の崇拝対象・シンボル。」という意識がある可能性も考慮に入れた方が良いような気がします。

アラブ世界近辺の非アラブ人イスラーム教徒たちが使ってきた様々な太陽シンボル

現在のアラブ世界に含まれる地域・民族のシンボルとして

Wikimedia Commons

アッシリアの旗です。古代メソポタミアの太陽神信仰を表している図案で、中央がシャマシュ・上がアッシュールのシンボルとなっています。

Wikimedia Commons

クルディスタンの旗です。クルド人が昔から大切にしてきたシンボルを大きくあしらった民族旗ですが、イラクではクルディスタン地域で公式採用されているためイラク系メディアで見かける機会は非常に多いです。

こちらの旗は彼らの古い宗教とも密接に関わっていた太陽を神格化しており、メソポタミア周辺で古代から続く太陽神信仰の流れをくんでいるのだとか。このクルドの太陽、見比べてみると本数こそ違うものの日光の表し方が現行のあけぼの缶詰太陽マークにそっくりです。

Wikimedia Commons

こちらは古いイラクの国旗で1959年~1963年に使われていたデザインです。3つの色は汎アラブ主義を象徴、黄色い丸がクルドの太陽で、それを囲む赤は古代メソポタミアから引き継いだ金星信仰のシンボルであるイシュタルの星だとのこと。

この国旗だった時代はちょうどサウジアラビアといったアラビア半島周辺で缶詰が本格的に普及しだした時期とかぶっているのですが、その数年の間はアラビア半島から非常に近い2つの国で太陽シンボルが国旗に描かれていた形に。

「中東で太陽が嫌われていて死と悪魔のような太陽だから国旗にも使われない。だから月と星の国旗だらけだ。」という言説が不正確であることを示す一例ともなっています。

イラン王朝のシンボルとして

イスラーム革命前、パフラヴィー朝時代のイランの国旗です。日本企業が揃ってアラビア半島の缶詰市場に進出した頃にイランが掲げていたのがこちらだったものと思われます。

*イランとイラクが似ていること、どちらも中東の国であること、アラビア文字を使っていることから混同されやすいのですがイランはアラブの国ではなく、言語もペルシア語というアラビア語とは全く違う系統が古くから使われてきた地域です。

「Lion and Sun」(ライオンと太陽、獅子と太陽)というイランを象徴するシンボルで、イスラーム革命後に赤新月社に変わる前のイラン版赤十字社は「赤獅子太陽社」というこのマークを赤く塗ったものだったとのこと。

ペルシアの王朝やシーア派のイマームなどを表しているというこの構図。民族的に系統が異なる上、同じイスラームでもイマーム信仰が無いアラブ・スンナ派イスラーム諸国とは大きく違ったシンボルとなっています。

最近ではイランの反体制派・反イスラーム統治活動に参加する人々がこの王制時代の旗を掲げているなどするため、ニュース番組でちらりと見た方もいらっしゃるかと思います。

こちらはサウジアラビアで私設のレトロ博物館を運営されている مُشَوِّح المُشَوِّح(ムシャウウィフ・アル=ムシャウウィフ)氏所有の木箱です。印字されている ANGLO PERSIAN OIL COMPANY(アングロ・ペルシアン石油 / アングロ・ペルシャン石油)はイラン革命前のまだ国王がいた頃の会社名で、下にある LION AND SUN が王家シンボルである太陽と獅子を意味。

サウジアラビアの人物が持っているということで、石油大国になる前・日本の缶詰製品や缶ジュースが大量に輸入されるようになる前のアラビア半島において強く輝く太陽をイメージしたマークを目立つ形であしらった製品パッケージが出回っていたであろうことがうかがえます。

太陽シンボルが昔からあった中東と製品ラベルとしての人気/不人気の問題

太陽マークの缶詰が売れなかった逸話とその要因については単純な「砂漠では太陽が暑くて嫌われているから。」という話で片付けるのではなく、

  • 「ヒジュラ暦では毎月の始まりは新月~三日月を見ることで確認されてきた。新しい月の到来の象徴は天体の月となっており、イスラーム教徒にとっても身近なモチーフ。」
  • 「太陽は他国や太陽崇拝系マイノリティのシンボルだから。」
  • 「ラマダーン時期になると月や星といった夜空のイメージを強調した商戦が展開される土地柄なので、太陽マークよりも星がついた食品の方が手にとってもらえる確率がはるかに高いから。」

といった側面からも検証する必要があったのではないでしょうか。

缶詰販売会社の方が深く掘り下げて文化的・宗教的な背景を研究しつくす前に「アラブ世界では暑いせいで太陽が憎まれているからだったのか!」と納得されてしまい話がそこで完結し、そのままびっくり異文化エピソードとして話が広まったということも考えられます。

ひょっとすると太陽マークから星マークに変えた後にラマダーンの食料品爆買いシーズンが来て「ラマダーンっぽいパッケージだから買ったら美味しかった、じゃあまた買うか」となって一気に売れだした可能性もあったりしたのでは?とも考えられ、時期的なタイミングというのもちょっと気になるところです。

アラブ世界における缶詰ラベルデザインと太陽

昔の缶詰デザイン

日魯(ニチロ)も含め日本の各会社が缶詰や缶ジュースを盛んに輸出していた時代のラベルについても調べてみました。あけぼのの大きな太陽マークが他の缶詰から浮いたデザインで購買意欲をそそらなかった可能性があったかどうかについて見てみたいと思います。

サウジアラビアのような砂漠の国では冷蔵庫が普及していなかった時代腐らずに食品を保存できる缶詰は貴重な存在で、食糧・栄養プログラムの一環として推進された学校給食システムでも缶詰が活用されていた時期があるのだとか。

同地域にとっては古き良き時代として記憶されているそんな近代化過程の品々は懐かしグッズコレクターに人気があり、当時の食料雑貨店を再現したコレクター個人経営の展示館も複数存在します。

太陽から星マークに変えたというニチロの古い缶詰画像探索中に見つけた動画です。サウジ国内には昔懐かしい食料雑貨店を再現したコレクターの展示施設が複数あるそうでこちらはその一つ。

途中の7:50に出てくるのは日本のポンジュース(عصير بوم [ ‘aṣīr pōm/bōm ] [ アスィール・ボーム/ポーム(元のPOMに当て字をしたもので実際にはポンもしくはpが発音できない人はボンに近い発音) ])です。日本とは違うアラブ諸国向けのネクタータイプで「すごくおいしい」「病人のお見舞い品にぴったり」と非常に人気があったそうで、サウジアラビアや湾岸諸国で70年代に大量に出回っていたとか。

管理人はサウジアラビアや湾岸諸国で出回っていた当時の缶詰デザインを探るべく似たような動画を大量に視聴したのですが、大抵の缶詰が当時の日本や欧米諸国で流行していたであろうデザインとあまり変わらない感じでした。日本では製品デザインに入れるとアラブで売れ行きが良くなると思われがちな月や星をあしらったラベルも特に見つけられませんでした。

そうした現地の缶詰ラベルデザイン事情を考えると、巨大な朝日のマークを配置したあけぼのの旧デザイン缶詰は良くも悪くも目立つ異質なデザインであった可能性もあるのでは?という気もします。

現在の缶詰デザイン

現在サウジアラビアで出回っているツナ缶詰を集めての試食レビュー動画です。日本で流布している太陽モチーフと缶詰の売れ行きエピソードの舞台となった国の現在の状況ということで探してきたビデオになります。

砂漠地域を抱える典型的なアラビア半島のアラブ国家における魚缶詰ラベルのデザインがどんな感じなのかを知る参考としても興味深いビデオとなっています。

サムネイル画像中央にある芸者マークのオレンジ缶は日本メーカーの商品です。GEISHA(جيشا)は日本の川商フーズの有名商品ですが、海外展開する際のブランド名であるため日本では知られていないかと思います。「日本といえば富士山・芸者」というステレオタイプをそのままデザイン化した感じのラベルですが、アラブ諸国でも昔も今もかわらずこのデザインで売っている模様です。

上の動画を見てもわかるように、昔サウジアラビアで出回っていた缶詰類と同様に太陽や月などの天体を強調したイラストは無く、魚や使用している油の原料であるひまわりの花の絵が中心となっています。

アラブ圏で実際に売られているサンシャインブランドの太陽マークつき魚缶詰

缶詰に太陽のイラストが描かれているケースです。

こちらはエジプトのツナ缶レビュー動画です。

巨大な太陽をアピールするイラストがラベルになっているのはエジプトのSunshine(صن شاين)ブランド。太陽の名前と大きめの太陽マークを掲げて製品展開しており、イルカ印のDolphine(دولفين)とシェア争いをするほどの売れ筋商品となっています。

英語の mackerel にそのままアラビア文字をあてた ماكريل(鯖)という言葉が青地に白で書かれた赤系の缶もあるらしく日本の缶詰メーカーあけぼのとそっくりな太陽マークが大きめに配置されており「もしかしてあけぼのが社名を変えて中東展開しているのだろうか?」と思うほどマークが似ています。

他にはゆらめく火炎を彷彿とされる太陽のイラストがメインな缶もあり太陽比率が高い結構暑苦しい感じの色合いとデザインになっています。

アラブ化されたとはいえ元々エジプトは太陽神信仰がアラビア半島よりも強かったと言えるような下地があるので日本の会社が進出したサウジアラビアなどとはまた違った事情があるのかもしれませんが、サハラ砂漠があったりして夏にかなり暑くなる点ではあまり変わらないようにも思います。

アラブ圏には「太陽」(シャムス)という名の食用油があって普通に売れているように、缶詰に太陽のシンボルがあしらわれていてもデザインやイメージ的に好感を与えるもの(例:太陽→ひまわりがすくすく育つ→栄養価が高くておいしそうな食用油)であれば積極的に用いられています。

こうした実例を見る限り、『日本語と外国語』にも書かれていたような「アラブ人にとって太陽は忌まわしい存在で食品のブランドとしては最も不愉快なマイナスのイメージ以外の何物でもないから太陽マークをつけた缶詰は売れない。」という解釈は日本で広がってしまった誤解だと断定して差し支えないのではないでしょうか。

缶詰以外にも太陽の名前やマークがついている例は色々

アラブ人は太陽が大嫌いだから日本の会社と違って最初から商品のパッケージに太陽の絵なんか最初から絶対につけないかというとそういう訳でもなく、太陽の持つイメージに合致する物に関してはデザインやネーミングに取り入れられている感じです。

植物油は太陽率が高い

明るい太陽の光と水ですくすく育つ作物を連想させるため、太陽や太陽光のモチーフは植物油(サラダ油)のパッケージに使われることが多いです。

こちらは شمس [ shams ] [ シャムス ](太陽)というそのまんまなネーミングの商品で、CMの終盤ではピカッと輝く陽射しが家の中に入ってくる様子や空がキラキラ輝いている様子が盛り込まれています。

もちろんですが、ここでは太陽はとても良いイメージとして食品パッケージに用いられています。

製品の名称に使われパッケージにも太陽があしらわれている例

  • Mukallat Al Shams
    UAEのドバイにあるAjmal Perfumeが販売する香水。太陽という名前の香水で瓶も太陽の形をイメージ。
  • Enasel
    アルジェリアで色々な塩を販売する会社で、Chams [ シャムス ](*フランス語の影響が強い地域なのでShamsのSh部分はChと表記されています)ブランドの料理用塩は太陽の絵を真ん中に大きく配置した袋に入っています。

会社や病院の名前に太陽がついていることも

太陽の名前を冠した会社・組織・病院・店舗もあります。

  • Shams Clinic(太陽クリニック)
    サウジアラビアにある健康・美容クリニック。医院のマークは太陽。
  • Sharjah Media City (Shams)
    シャルジャ・メディア・シティの別名がShams(シャムス=太陽)らしく、同シティのマークも太陽光をデザイン化したものになっています。
  • Sun Pharm Drug Store Company(太陽薬局)
    薬局・ドラッグストアだとのこと。所在地はパレスチナ。会社のマークは太陽。家名と同じ語根である太陽を社名にしたということのようです。
  • Shams Talent Management(太陽タレント事務所)
    ヨルダンのアンマンにあるというブティックモデル事務所。事務所のマークは太陽。
  • El Shams For Housing & Building(太陽建設)
    エジプトのカイロにある建築関係企業だとのこと。会社のマークは太陽。
  • Shems FM(太陽FM)
    チュニジアのラジオ局。アラビア文字の شمس [ shams(方言発音の関係で局名はshemsになっています) ] [ シャムス ](太陽)の真ん中部分を太陽の形に見立てたロゴを採用。

アラブ世界において太陽がイメージダウンや客足が遠のく原因にしかならない最悪のモチーフだとしたら、このようにあちこちで命名に使われることがあり得ないと思います。

アラブ諸国で商品のCMやパッケージに月や星が多用されることがあるのはどうしてか?

日本語サイトで「色々な広告に三日月のイラストがあしらわれている。アラブ人は太陽が嫌いで断然月が好きであることが反映されている。」に近い内容が書かれているのを見かけたことがありますが、コマーシャルに出てくる三日月はそれ自体が大人気なので購買意欲をそそるためにとりあえず月の絵をつけまくっているわけではなく、それとは違った宗教行事と密接に結びついた事情があります。

三日月が出てくるコマーシャルはよく見るとラマダーン時期に合わせたものが多く、買いだめ・食料品爆買いシーズンであるラマダーン中のイフタール(日中の断食が終わった後の大ごちそうな晩ごはん)メニューにしてもらうための各企業の競争や、財布の紐が緩み家族の団らん・絆が強調される時期にキャンペーンをはって加入者を増やしたい携帯電話会社等の狙いとリンクしています。

コカ・コーラのCMです。アラブ・イスラーム世界ではボイコット対象になることもあるブランドの一つではありますが、ラマダーン時期にはこうして現地の慣習に合わせて三日月や星をあしらったラベルや宣伝に切り替えて購買意欲を促すキャンペーンを行っています。

エジプトの携帯・通信会社によるラマダーンCMです。ステージに三日月や星が飾られていますが、三日月シンボルパワーでみんなに好感を持たせ契約者数を伸ばすためという訳ではなくラマダーンの象徴なので大道具として置いてあるだけだと思われます。

日本も含めてクリスマス時期に街や商品にサンタ・ツリー・星の飾り付けやイラストが広く使われるのと似たような感じで、ラマダーン時期の宣伝やパッケージには三日月・星・ランプ(ファーヌース)のイラストが加わります。

ラマダーン月を祝う歌の子供向けビデオです。三日月、星空、ランプ(ファーヌース)は昼間の断食を終えた後の楽しい会食や家族団らんの象徴としてイスラーム諸国で多用されるモチーフで、この動画にも登場しています。

アラブではイスラーム暦(ヒジュラ暦)の前も太陰暦を採用しており、少なくとも千数百年にわたって月が見えなくなる新月や三日月は新しい月の到来の象徴でもあり続けてきました。この動画にも三日月のイラストが入っていますが、こうした新月や三日月は「ああ新しい月が始まったのだな」と実感させる要素ともなっています。

 

(2023年4月イランの太陽シンボルについて追記)