フスハーは勉強した大人しか話せない?~文法教育を経ずに習得する子供たち

子供の日常生活とフスハー(現代標準アラビア語、文語)

日常生活でフスハーを話す人は皆無?

ほとんどのアラブ人は方言で日常生活を送る

アラブ世界では本・ニュースで用いられる文語(現代標準アラビア語、フスハー)と日常生活で用いられる口語(アーンミーヤ)とがあり、アラブ人は誰もが何らかの方言をしゃべって暮らしています。

そのことから日本語で書かれたアラビア語事情の紹介記事では「フスハーを普段の日常生活でしゃべっている人なんて誰一人として存在しない」「アラブ人でさえ文法の授業を受けないとフスハーは覚えられない」ということがしばしば書かれています。

たしかにこれはほとんどのアラブ人に当てはまります。普通なら話し言葉である口語アラビア語(アーンミーヤ)である方言(ラフジャ)で育つので、何らかの事情がない限り子供時代から晩年までずっと方言で日々の暮らしを送っています。

フスハーしか話さない子供たちの存在

ところが調べてみると、例外的にフスハーしかしゃべろうとしない子供や、ずっと発話が無かったので心配していたらやっと話しだしたのが方言ではなくフスハーだったという子供がいるとのこと。

現代においては文法規則を教えられたわけでもないのにアニメや動画を見ているうちに法則性や文法を会得し、家族が口語で話している中その子だけがフスハーで会話したがるという現象も複数確認されています。

アラブ人で幼少期からフスハーを使って会話ができる子供には何パターンかあり、

  • 言語・発達面で障がいもしくはそれに類した物があり、アニメで毎日長時間見ていたフスハーのみ話せる。アーンミーヤは聞いて理解できるものの日常会話の手段としては運用できないか、もしくは強いこだわりがありアーンミーヤを口にすることを拒否する。
  • フスハーで吹き替えられたアニメの視聴時間が長いためフスハーを覚えた。文法面でやや迷う様子も時々見られるものの、フスハーで一通り会話をすることができ途切れずにスピーチができる。子供によってはフスハーを強く気に入り、自発的にフスハーで生活する子もいる。
  • 親がアーンミーヤとフスハーのバイリンガルにするつもりで早い時期から育てたため、どちらも母語としてマスターしている。幼少期から正確なフスハーで意思表示・疎通ができ、読書量も多い。家庭内で親子がフスハーを使って会話する時間を設けていることも少なくないが、親はフスハー会話が苦手ではあるが適切なフスハー幼稚園に通園していたりフスハー教育メソッドを利用したりしたおかげで子供だけフスハーが得意だという家庭も見られる。

のような例がが現地メディアでも報じられています。

なお発達障がいのお子さんと子供向け番組・アニメの言語である文語(フスハー)の優先的な習得についても現地で研究*が行われており、アラブのテレビに登場する一部のフスハーキッズの状況を裏付けるものとなっています。

*研究論文の例としては『Language Learning』誌掲載『Noncolloquial Arabic in Tunisian Children With Autism Spectrum Disorder: A Possible Instance of Language Acquisition in a Noninteractive Context』など。

子供をフスハーで育てる実験

アラブの知識人とフスハー、アーンミーヤの様々な形』でも紹介しているパレスチナ生まれの言語学者・小説家・詩人 عبد الله الدنان [ ‘abdullāh ‘ad-dannān ] [ アブドゥッラー・アッ=ダンナーン ](Abdullah Al Danan、アブドゥッラー・アッ=ダンナーン)先生。

彼は自らの息子 بَاسِل [ bāsil / (口語発音) bāsel ] [ バースィル / (口) バーセル ] ちゃんを実験台としフスハーで話しかけて育てるということを敢行。彼が開発した幼児へのアラビア語教育メソッド

تَعْلِيمُ اللُّغَةِ الْعَرَبِيَّةِ الْفُصْحَى بِالْفِطْرَةِ وَالْمُمَارَسَةِ
[ ta‘līmu-l-lughati-l-‘arabīyati-l-fuṣḥā bi-l-fiṭra(ti) wa-l-mumārasa(h) ]
生得と実践によるフスハーアラビア語教育
文法規則を教え込む方法でなく、繰り返しフスハーを聞かせることで乳幼児が自然と文法ルールを理解し自ら運用できるようにする文語アラビア語教育

を施したといいます。

バースィル(/バーセル)さんは父親が繰り返しフスハーで話しかけ会話を実践した結果アーンミーヤとのいわばバイリンガルに育ち、1歳半でフスハーを話し始め、3歳時には語末の母音ですら一切間違わずに格変化(イウラーブ)を行いながら会話できる能力を身に着けていたのだとか。上の動画は1981年撮影、3歳7ヶ月の時の記録だそうです。

先生はこの後に生まれた娘 لُونة [ luna(h) ] [ ルーナ ] さんにも同じメソッドによる教育をほどこし、彼女もまたフスハーとアーンミーヤのバイリンガル少女に育ったとのこと。

ネットでは子供さんたちのその後については紹介されておらず、フスハーを話す大人になられたのか、それともじきに恥ずかしくなって自分からやめてしまわれたのかどうかまでは確かめられませんでしたが、博士が亡くなった際に身内の方が公開されたコメントによると学校に進んでからも教科書の間違いを指摘できるぐらいにフスハーが得意な青少年に育ったことがうかがえます。

ちなみにこのアブドゥッラー・アッ=ダンナーン先生の「生得と実践によるフスハーアラビア語教育」メソッドは幼稚園でのアラビア語教育にも活かされており、実際に成功を収めた方法として我が子にフスハーを教えたい親たちが実践するまでになっています。(詳細:『アラブの知識人とフスハー、アーンミーヤの様々な形』)

フスハー アニメの影響と子供の語彙習得

フスハーしかしゃべらない子供がまれにいる背景ですが、一般的にテレビ放送の影響が大きいとされています。

現代標準アラビア語であるフスハーによるアニメ・子供番組が多く、年齢が低い時期から毎日長時間視聴することで文語の語彙ばかりをどんどん吸収していき、その子にとっての感情表現の主な手段がフスハーになってしまうことが最大の原因である模様。

上の研究者による実験と同じことがフスハーのテレビアニメを通じて行われ、子供の言語習得に影響を及ぼしているということのようです。

アラブ世界のアニメいろいろ

日本アニメの吹き替え

80,90年代にアラビア語化された日本のアニメは現代標準アラビア語フスハー一色でした。

子供向けアニメのせりふ、特に吹き替えアニメの会話が文語フスハーでほぼ統一されている理由はいくつかあり、

  • 小学校に行く前の時期に、文法学習を経ない自然な方法でフスハーに触れてほしいという保護者や教育関係者らの要望が強く、社会的なニーズであると認識されている。フスハーからアーンミーヤに切り替えることは幼児に対する文語教育の軽視だとみなす人も少なくない。
  • 方言にしてしまうと他の国の子供が理解できなくなり、国境を超えたアラブ世界各国を対象にした放送としては不適だから。
  • 同じ国であっても都市方言・遊牧民方言・農村方言などに分かれており、同じ地域であっても街区・コミュニティーによって話し言葉が違うなど多様性がある。特定のアーンミーヤを採用することは各方言話者の子供たちが本来の方言を話せなくなる原因となる。アーンミーヤのアニメだと首都方言をベースにフスハー要素を入れた”薄められた方言”であるため、子供が家族と話しているどの方言とも違う。

などが挙げられます。

昨今ではフスハーアニメに対する需要や人々の意識も変わりつつあるそうですが、名作の再放送やフスハーによる吹き替えを続けてきたシリアのVenus Centre新作などを通じて今でも子供たちは文語に触れる時間数が非常に多い状況は変わっていません。

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日本アニメの吹き替え~名作を次々に送り出してきたシリアのVenus Centre

アーンミーヤのご当地アニメ

吹き替えでなく、現地制作会社が手掛け、伝統文化や民族衣装を重視したタイプのご当地アニメでは方言(アーンミーヤ)なのが普通です。

مُغَامَرَات مَنْصُور
[ mughāmarāt manṣūr ] [ ムガーマラート・マンスール ]
『マンスールのぼうけん』(Mansour’s Adventures)

مَنْصُور [ manṣūr ] [ マンスール ](マンスール)という少年が主人公のアラブ首長国連邦(UAE)発3Dアニメです。アブダビやドバイのチャンネルで放送とのこと。放映開始は2013年。シーズン1はドバイにあるFanar Productions制作。シーズン2はCartoon Network ArabicTwofour54が制作。セリフは全部現地方言になっています。

吹き替えながらアーンミーヤのアニメも

数は多くありませんが、海外製カートゥーンがエジプト方言等で吹き替えられている例もあります。

ディズニーに関してはエジプトアーンミーヤで吹き替えられた有名作品が多いとのことです。しかし昔もそうでしたが、ジャンルやチャンネルによってはエジプト方言等による吹き替えがあるだけで、子供たちが頻繁に見る日本アニメはどれも日常会話とかけ離れたフスハーです。

エジプト方言でしゃべっているラプンツェルとフリン・ライダーです。フスハーとまた違った味わいがあるのでエジプト方言での吹き替えの方が嬉しい、というファンの声も見かけました。

メディアで話題になったフスハーキッズの例

非常に珍しいケースなのでそうした子供たちは現地のテレビ局による取材を受けることが多く、インタビュー録画をYouTubeでも見ることができます。

親が意識して教えたケース、アニメを見て自分で覚えてしまったケース、学校で勉強してある程度話せるようになったケースなどまちまちですが、テレビで取り上げられるのはアニメやネット動画で自然に習得したケースが多いように思います。

アルジェリア

アニメ好きのフスハー少年

東アラブの住民からは理解が難しいと言われがちなアルジェリア方言(ダリジャ)。そんなアルジェリアで周囲との会話を断固としてフスハーで通している男の子がいると話題になりました。

Ennahar TV
المدية: محمد صاحب الثماني سنوات لا يتكلم إلا العربية الفصحى
(メデア:8歳のムハンマド君はフスハーしか話さない)

2019年にアップロードされた動画です。アルジェリアにある村で暮らしているムハンマド(محمد ميساوي)君という男の子で、取材時には8歳。

日常生活をフスハーだけで送っており、学校でもフスハー、他の子と遊ぶ時もフスハー。自分はアーンミーヤよりフスハーが好きで、自身にとってはフスハーの方がよりシンプル・明快に感じられるから一生フスハーで過ごそうと決めたんだと語っています。

EL BILAD TV
غرفة الاخبار : محمد الطفل النابغة يتفن العربية الفصحى
(ニュースの部屋:天才少年ムハンマド君、フスハーがペラペラ)

フスハーを流暢に話す天才少年としてムハンマド君が出演しています。出演時は小学校5年生で11歳。上の動画から数年経ってもフスハーでの生活を維持している様子がうかがえます。

アニメが大好きな少年だと紹介されていて、動画の中でキャラのモノマネを披露しています。

本人によると3~4歳の時にフスハーで話すようになったとのこと。家の中でも買い物に行く先でもフスハーを使い現地方言(ダリジャ)を使わないため周囲から浮いてしまっていることを本人も自覚していて、学校ではからかわれることも。

学校には幸い親友と呼べる子が1人いて今も仲良くできていること、ムハンマドくん自身が「同級生も学校という場における仲間であり兄弟のようなものだから」とあまり気に病んでいないらしく、フスハーの鍛錬をずっと続けているようです。

フスハーをマスターしたい一心で自信を失うことをせず、アーンミーヤを一言も発することなく自分の信念を貫いているムハンマドくん。大きくなったら国政に携わり祖国に貢献したいという夢があるそうです。

パレスチナ

息子にアーンミーヤを話してほしいと願う父親の心配とは

Al-Quds TV
أيهم ابن الاربع سنوات لايتحدث الا بالفصحى
(4歳の男児アイハム君、フスハーしか話さず)

パレスチナ ラーマッラー北の村に住むアイハム(أيهم جودة)君。取材時は4歳。画像アップロードは2013年。

アニメ等を見るのが大好きでフスハーしかしゃべらない子供に育ったようなのですが、周囲も喜んだり面白がったりしてフスハーで相手をするためフスハーしかしゃべらない状態に拍車がかかったといいます。

お父さんは息子の身を案じて家庭内ではアーンミーヤを教えていきたいと語っています。

!الطفل أيهم يتحدث الفصحى
(アイハム少年、フスハーを話す!)

元々はイランのAlalamというニュース局のアラビア語チャンネルが放送したものです。取材時は上とほぼ同時期らしく4歳。

テレビの子供番組をたくさん視聴していること、自分の感情を表現するにも全てフスハーで行っていてアーンミーヤでも話しかけられてもフスハーで返事をすることが紹介されています。ここでもお父さんは我が子が孤立するのではないか心配でならないと語っていました。

アーンミーヤを話すとめまいがしてしまうというフスハー少年と母親の肯定・応援

Wattan News Agency
جنين : طفل تأخر في النطق .. يصر على إحياء العربية الفصحى
(ジェニン:話せるようになったのが遅かった少年…フスハー復権にこだわる)
*タイトルの إحياء は「再生」「復活」などの意。アラビア語関係の記事でしばしば使われる語で、口語アーンミーヤ優勢により権威が低下した文語フスハーを再び盛り立てることなどを意味するため、ここでは「復権」と訳してあります。

パレスチナのジェニンに住むアブドゥッラフマーン(عبد الرحمن)君。取材時は9歳。14年間学校でアラビア語を教えている先生によると、彼のような生徒は初めてで「自分よりも上手にフスハーを話す」とのこと。

アーンミーヤしゃべると頭がくらくらしてしまう(めまいがしてしまう)という理由からフスハー会話を貫いている彼。周囲は彼がアーンミーヤを話さないためこれからの社会生活で色々な問題を抱えることになるだろうと心配。

しかし母親は言葉の発達が遅れ小学校1年生まではっきりした発話がなかった我が子がこうしてフスハーを話せているだけでも十分満足しており、何らかの神の采配だったのだと信じ応援する気持ちでいると語っています。

アラブ諸国では我が子の発話が遅れたことやフスハーしか話せないことについて悩みながらも現状を受け止め「神の叡智による何らかの取り計らいであり、クルアーンの言語であるフスハーを話せることは誇らしい」と考えることで発達特性を否定せず親としてその力をサポートするという傾向が存在。パレスチナに限らずアブドゥッラフマーン君の母親のように胸を張って取材に応じる親も多いとの印象です。

動画要旨:

男性リポーター(*フスハーで会話):君はパレスチナのことを愛していますか?
アブドゥッラフマーン君:はい。
男性リポーター:アブドゥッラフマーンくん、それはどうしてですか?
アブドゥッラフマーン君:なぜならパレスチナは母(なる存在)だからです。
男性リポーター:それ(*=パレスチナ)はお母さんだから。上手に言えましたね。アブドゥッラフマーンくん。
アブドゥッラフマーン君:ぼくはその大気も、大地も愛しています
男性リポーター:よくできました。あと何をかな?
アブドゥッラフマーン君:水もです。

女性ナレーター:この奇跡の男の子は発話に遅れがありましたが、初めて口にしたのはフスハーで、極めて流暢に会話。ジェニン出身のアブドゥッラフマーン君(9歳)は、アラビア語教員によるとこれまで見たことの無かった特異な珍しい事例だといいます。

アラビア語担当教師(*パレスチナ方言で応対):アラビア語の先生をやって14年になりますが、こういう状況、自分よりも上手にフスハーを話す生徒というのには初めて遭遇しました。

女性ナレーター:いくらか似通っているものの違う形の紙飛行機を1歳の頃からあれこれ作ってきたという彼。子供向け番組を見たり、複数のドキュメンタリーチャンネルを回ったり、自分用の端末でフスハーによる預言者列伝を視聴したりしているのに加えて、体が丈夫になるようにという母親の希望で街中にあるテコンドーセンターにも通っています。
アブドゥッラフマーン君:テコンドーは武術で、武器を使うものなど色々な型を教わりました。鎖でつながった2本の棒を使う方法もあるんですよ。
(*テコンドーの色々な技をリポーターにフスハーで解説。)

アブドゥッラフマーン君の母親(*パレスチナ方言で応対):彼が作るものはどれもそれぞれ形が違うんです。紙飛行機を作る趣味もあるんですが、同じ形のものを作るということを全くしないんです。4歳ぐらいから今に至るまで違う形で紙飛行機を作って繰り返すということがありませんでした。

取材者男性(*パレスチナ方言で):お友だちとどうしてアーンミーヤで話をしないんだい?
アブドゥッラフマーン君:なぜなら好きではないからです。
取材者男性:なんで好きじゃないんだい?
アブドゥッラフマーン君:アーンミーヤを話すとめまいがしてしまうんです。

女性ナレーター:肯定的な人たち否定的な人たち、彼が将来に直面するのではと考えている人たちもいますが、アブドゥッラフマーン君のお母さんは息子がフスハーで話すことを幸せだといいます。というのも神が彼に導きや信心を授けてくださったからで、フスハーもその徴の一つだと感じているからだとのこと。

アブドゥッラフマーン君の母親(*パレスチナ方言で応対):アブドゥッラフマーンは他の子たちと同様テレビを見ていたものの発話が遅く、おおむね上手に会話できるようになったのは1年生になった頃のことでした。彼には敬虔で神の道を進みご満悦を得て宗教家になってムハンマド様の共同体(*イスラーム)共同体の役に立つ人間になってほしいと願っています。預言者ムーサー様が捨てられた後ファラオの家族に拾われたのに神様によって立派に育ったように、息子も神様によってこのような力を授かり育てていただくことで敬虔な人物になればと考えています。

女性ナレーター:彼には人々に影響を与える力を持っており、人々が彼同様に(*フスハーで)話す動機となっています。周囲の社会はアブドゥッラフマーン君がフスハーを話す件を大問題だと考えているものの、お母さんの応援を受け生活のあらゆる物事に関してフスハーを使い広めるということを堅持しています。

イラク

クラスでたった1人、フスハーで生活する男の子に対し学校が特別サポート

2018年12月13日
الاعلام التربوي تربية كربلاء المقدسة(聖カルバラー教育広報)
موهبة مدرسية تجيد اللغة العربية الفصحى وتكتب القصص وتؤلف الحكايات القصيرة
(学校の才能ある生徒がフスハーに堪能、物語を書いたりショートストーリーを作ったりも)


画像引用元:الاعلام التربوي تربية كربلاء المقدسة(聖カルバラー教育広報)

記事要旨:

(*管理人注:イスラームのシーア派聖地として知られる)イラクのカルバラーにあるアル=ジャワーヒリー小学校1年にはフスハーの読み書きや会話が得意な حسن راشد(ハサン・ラーシド)君(6歳)が在籍。幼い時期からフスハーの才能を発揮しており、物語を自分で書いたりもしているという。

ハサン君が持つアラビア語能力の特性に気付いたのは学校の女性教師で、彼女によるとハサン君はフスハーで読むのが得意でフスハーでしか会話しない一方、アーンミーヤを使った授業や指示を理解できないため、学校側はハサン君が学校生活を送れるようにするとともに今持っているフスハーの才能を伸ばしてあげられるよう、特別支援チームを編成する必要があったとのこと。

校長先生はハサン君の事例を特殊な事例だと認識。小学校での授業は主にアーンミーヤ(*管理人注:イラク方言)で行っているためハサン君が周囲になじむためのサポートが必要で、フスハーの能力を保持しながらも同級生たちに混ざってやっていけるようアーンミーヤ語彙を使った自然な受け答えを教えるなどしたという。

ハサン君の父親は息子の非凡な才能を支援。子音の発音が上手で母音も正しく付け足すことができ、英語のアルファベットの発音もマスターしているという。家庭内ではハサン君が理解できるフスハーでの会話が優勢だが、母親やハサン君の兄弟たちとアーンミーヤで会話をするのが難しいとのこと。そんなハサン君に対してはカルバラーの教育委員会側から弁論・文学といったコンテストへの参加などを通じたアラビア語支援が提供されることを望んでいるという。

管理人コメント:

父親の話から、ハサン君と全く同じ条件で育った家族はフスハーしか話せない状態にはならなかったことがわかります。

家族がイラク方言を使っているにもかかわらずハサン君は習得できず小学校に進学しても先生や同級生たちの口語会話を理解できなかったとのことなので、発達上の何らかの事情がハサン君にはあった様子。

イラクは学校教育現場の疲弊が進んでおり発達障がいの子供に対する支援も充分な土地柄ではありませんが、ナジャフやカルバラーはシーア派聖地で学問に関心が高い土地柄であること、アラブ諸国では児童生徒のフスハー能力低下が問題視されておりフスハーキッズへの待遇が良い傾向が強いことから、彼の特性に合わせた特別な支援の提供を学校側がスピーディーに決め実行に移したのでは、という気がしました。

Beladi TV
تلميذ عمره 6 سنوات من محافظة كربلاء يتكلم الفصحى بامتياز ولا يفهم اللهجة الدارجة
【YouTube動画は現在非公開】

上のFacebook投稿にテレビ局の取材陣がマイクを持っている写真がありますが、マイクに書かれている بلادي という文字が Beladi TV のロゴとなっています。記事からすると地元教育関係者とともにテレビ局が取材に入ったということだった模様。

動画(2024年8月現在非公開になっており視聴不可)ではカルバラーで暮らすハサン君らにインタビュー。取材時は6歳の小学校1年生。クラスの中で彼だけがフスハーを話しており、番組内でもまだアーンミーヤを話せない状態であるとして紹介されていました。

彼のフスハーですが、アラブ各国で多数誕生しているフスハーキッズ同様テレビのアニメや子供番組を見てフスハーを習得したのだとか。ただ上の記事概要にもある通り、アーンミーヤであるイラク方言を覚えられないまま小学校に入学したということだったようです。

番組では上記の記事でも触れられていハサン君へのアラビア語関連支援に関する話が出ており、近年数が少なくなっているアラビア語の得意な子に対する教育関係者の関心の高さを物語っているように感じました。

フスハーを日常生活で話す子供に対する称賛と風当たり

アルジェリアの子供が語るフスハーとの距離感

Ennahar TV
!! تلاميذ يحاولون الحديث باللغة العربية الفصحى.. وكانت الصدمة
(生徒たちがフスハーで話そうと試みるも…ショッキングな結果に!!)

ムハンマド君を取材したアルジェリアのニュースチャンネルが行った街頭インタビューです。アラブ世界では「フスハーしゃべれますか?」的な動画が結構ポピュラーで、たいていはフスハーが苦手な人達の多さを強調した物が多いように思います。このEnnahar TVはとくにその傾向が強いようで、アルジェリア人がフスハーを話せない/話さないことを批判している内容の動画を複数公開しています。

上の動画では「冬休みの予定は?フスハーでしゃべってみて?」と言われて返事に困ってしまう子、「何か意味をなす簡単な1文をフスハーで言える?」と求められて一言も発せない子だけでなく、フスハーで会話できる子達も登場しています。その子たちが言うには、学校の友達の前でフスハーを使うとからかわれるとのこと。

最後の方に女の子が、「どうしてフスハーをしゃべらないのかって理由はよくわからないけど、私たちがしゃべっているのはダリジャだから。」と答えていました。

こちらの動画を見ると、からかわれてもアーンミーヤ(ダリジャ)を絶対に話さないムハンマド君が非常にレアケースだということがわかるかと思います。

 

(2024年10月 動画要旨や管理人コメントを修正加筆)