まずはこれだけ エジプト・アラビア語 (石原 忠佳)

まずはこれだけ エジプト・アラビア語

★★☆☆☆~★★★☆☆
不正確な発音ルビや誤字脱字が多め
アルファベット・発音解説の後にすぐ単語集が来る構成
会話表現集は対話形式ではなくこちら側の発言のみ収録

著者:石原 忠佳
出版社:国際語学社

著者の先生について

1952年生まれ。スペイン国立グラナダ大学 哲文学部 アラビア語学科卒業、グラナダ大学 哲文学部 セム・ハム言語学研究科 博士課程修了。グラナダ大学や日本の複数大学の講師を経て創価大学 文学部 人間学科 教授。

専門は言語学(アラビア語方言学、ベルベル語)で、研究分野は北アフリカのアラビア語、ベルベル語、アル・アンダルス(イスラーム統治時代のスペイン アンダルシア地方)のアラビア語など。モロッコ・アラビア語やベルベル語の文法書を複数書かれています。マグリブ地方が専門の先生にエジプト方言の学習書執筆を出版社が依頼した経緯は不明ですが、現代標準アラビア語(フスハー)バージョンを同じ出版社から出されているので、その際に方言版もついで・・・にということだったのかもしれません。

本の概要

●国際語学社という東京都豊島区にあった出版社から2009年発売。私が古本で入手した物は2009年の初版でした。出版社が倒産してしまっているので中古で探す必要があります。

●北アフリカ地方をベースに活動されている先生だけあって、フスハーで話しかけると尻込みされてしまうという現地事情を実感されることが多かったようです。前書きには、現地の言葉でなくても構わないのでどこかの方言で話しかけた方が返事をしてもらえる、そこでアラブ世界で最も通じるエジプト方言をおすすめしたい、といった言葉が書かれていました。

●本はアルファベットとその読み方や母音記号の解説が数ページでされた後、すぐに長めの単語集に入ります。その後30数ページかけて基本文法の説明。65ページ以降は実用編として場面別の会話表現集と関連単語集が続きます。

●アルファベット解説では最初にアルファベット表が載っていますが、アルファベット順になっていません。アリフ、ベ、テ、セ、ギーム・・・という順とは異なる配置です。

●基本単語コーナーは、人称代名詞、指示代名詞、疑問詞、家族、国と民族、職業、旅行、方角と位置、月の名前、曜日の言い方、数の数え方、時刻の言い方、時を表す言葉。

●実用編はあいさつ、ホテルで、電話と郵便、レストランで、交通、街で、ショッピング、両替、病気とケガ、ドライブ、の10場面。会話表現は対話方式ではなく、こちらがわのセリフのみ収録。相手方のせりふは殆ど載っていません。例えば病院に行くシーンだと、「どうしましたか?」とか「この薬を2錠ずつ飲んで下さい」といった医師側が言いそうなセリフは無く、患者側の「~です」「~が痛い」といったセリフが一文ずつ並べられている形です。ちなみにこの実用編の会話内容は姉妹書であるフスハー版とほぼ同じです。

表記と誤字脱字について

●アラビア文字ではなく、LC方式のローマ字転写をベースとした表記になっています。

●誤字脱字がかなり多いです。ローマ字転写の下点無し・有りの間違い、短母音と長母音の取り違え、不要な母音の挿入、がんばってくださいという意味のشدّ حيلك(=シッド ヘーラック)を示すローマ字転写がشدّ حالك(=シッド ハーラック)を示す転写になってしまっている、lとrの取り違えが複数の語で起きている(仕事を表すشغلやそれを語根とする派生形でل部分をlではなくrで表記、塩辛いمملحでlをrにしているためممرحを示す転写になってしまっている等)・・・と不正確な部分が少なくないように感じました。

●エジプト方言ではアラビア文字での表記上は長母音になっていても実際には短く発音するケースが数多くありますが、このテキストではそれらはほぼ反映されず長母音のままローマ字転写されています。そのため「これ」を意味する「ダ」が「ダー」、「今日」を意味する「エンナハルダ/インナハルダ」が「エン・ナハールダー」、と書かれており実際の発音との間にズレが生まれているように感じます。(この点に関しては白水社のエクスプレスが正確な表記で安定度が高いです。

付属CD

●CDに吹き込みはMohamed Qadry氏とプリントされていました。どうやら刊行当時エジプト大使館で書記官をされていたムハンマド・カドリーさんという方のようです。カイロ大学卒業後エジプト外務省入省。エジプト大使館による講座の講師も務められていたみたいです。

●吹き込みスピードは白水社のニューエクスプレスに比べると速めです。会話表現集も学習者向けにゆっくり読んでいるという感じではありません。

●アラビア語と日本語の両方が読み上げられるので、リスニング学習に便利だと感じました。

感想

●アルファベット学習の後に長い単語集が続くこと、また会話表現を集めた実用編も単語集部分が長いので、初学者にとっては単語暗記の負担が大きめの学習書だと思いました。

●会話表現集が対話形式スキットではないのは、エジプト人と会話する時相手がどんなことを言うのかという情報を欠いているということでもあるので、学習書としてはマイナスポイントかな・・・と思います。

●単語や会話文については、同じ意味で他のポピュラーな単語があるのにどうしてこっちのマイナーそうな単語を載せたのかな?と感じる語や、ちょっと違う言い回しの方が自然なのでは?というような会話文がちょこちょこありました。

●ローマ字表記部分の間違いや実際の発音とのずれが多いこともあって、方言学習の教科書としておすすめできる度合いは低いというのが正直な感想です。

 

まずはこれだけ エジプト・アラビア語 まずはこれだけ エジプト・アラビア語
著者:石原 忠佳
出版社:国際語学社