アラブ世界における月と太陽~目次

目次 | 日本でのイメージ | 比喩表現 | 製品デザイン | イスラーム | 多神教時代

目次

アラビア語では月も太陽もほめ言葉であるにもかかわらず、日本で都市伝説的な「アラブ世界では太陽=悪・死、月=善・慈愛、太陽みたい=けなし言葉、月みたい=ほめ言葉」という文化論がどうして広まったのか、実際には現地でどう扱われているのかに関するまとめ記事です。

  • アラブ世界における月と太陽~日本で紹介されているアラブの太陽・月像を検証してみる
    • 日本で流布しているアラブの太陽観・月観
    • 有名な書籍『日本語と外国語』『読むクスリ』『日本人の知らない日本語』における記述
    • 本の内容の発展型としてのネット記事の記述
    • アラビア語における比喩表現早見表
  • アラブ世界における月と太陽~アラビア語における太陽と月を使った比喩表現
    • アラビア語の教科書で学ぶ「太陽のようだ」「月のようだ」の基本表現
    • アラブ文化において太陽や月が持つ色々な意味
    • 太陽や月が出てくる歌や詩のビデオクリップを通じて見るアラビア語のポピュラーな比喩表現
    • 月は優しさ・慈悲ではなく美貌・色白・豊満の象徴
    • 女性を「君は月みたいだね」と口説くのは路上ナンパ・セクハラ男の常套句なので取り扱いには要注意
    • 高位の人物・崇敬対象・大切な人・恋人は太陽でも月でも表される
    • 太陽や月が由来のアラブ人の名前
    • アラブ世界で太陽が寛大・慈悲・親の愛・新生のイメージを持っている理由
    • 太陽は家族の人生をいつも照らし温めてくれるお母さんの象徴
    • アラビア語で無慈悲・冷酷・非情のシンボルは「石」
  • アラブ世界における月と太陽~製品パッケージと太陽・月のモチーフ
    • 日本で有名なニチロ缶詰輸出のエピソードと当時のラベルデザイン
    • 中東諸国における太陽信仰と国旗などに用いられてきた太陽モチーフ
    • アラブ世界における実際の缶詰ラベルデザインと実在する太陽ブランドの缶詰
    • 製品のCMやパッケージに月や星がたくさんつくのはラマダーン限定の販促キャンペーン
  • アラブ世界における月と太陽~イスラームにおける太陽と月
    • クルアーン(コーラン)や預言者言行録(ハディース)における太陽・月に関する記述
    • イスラームにおける太陽と月の位置づけ
    • イスラームと太陰暦・月の関係
    • 太陽も月も無いイスラームの天国(楽園)
    • 「砂漠の国では神が人間を苦しめるために太陽を創った」説はイスラームの話ではない?
    • イスラームにおける昼と夜
    • 月・星はイスラームの公式シンボルではなくオスマン朝旗の名残りだとして使用することを拒否するアラブ人もいる話
  • アラブ世界における月と太陽~イスラーム以前におけるアラブの太陽・月観
    • 古い時代から続き今でもアラブ人の価値観の根底に残っている太陽や月のイメージとは
    • 男性である月の神と女性である太陽の神の夫婦関係

当コンテンツについて~「暑さが厳しいアラブ世界では太陽はけなし言葉」という都市伝説

有名書籍やネットへの転載を通じて流布・定着した

  • アラブ世界は砂漠で一年中酷暑に悩まされるため死しかもたらさないような太陽は忌み嫌われる
  • アラブ人が大嫌いな太陽を製品ラベルにつけると全く売れない
  • アラブ女性にあなたは太陽のようだと言うとほめ言葉にならず怒られる
  • アラビア語で太陽は冷酷非情の憎たらしい人間で見るのも嫌だという意味
  • アラビア語では月は優しさや慈悲の象徴
  • 太陽が良い意味になる日本とは全く違う灼熱の国の価値観
  • 「君は僕の太陽だ」はけなし言葉ですごく悪い意味

ですが本やネットを通じて拡散された都市伝説的な誤解で、現地ではほぼ真逆の比喩表現に使われています。

アラビア語では「太陽みたいな人」は高位・卓越・強い輝き・美・慈愛・寛大・母親の愛情といった非常に良い意味のほめ言葉になります。「君は僕の太陽」「あなたは私の太陽」もとても良い意味で崇拝対象・恋人・配偶者等に贈る称賛に用いられています。

砂漠での死が珍しくなく真夏の猛暑ゆえに太陽そのものを好きな人が多いとは言えないような土地柄ですが、現地では善と悪・光と闇的なよくある二項対立「太陽 vs 月」にはなっておらず、比喩・象徴という表現技法としては月・星に勝るほどの地位を持っています。

「年中暑い砂漠だから中東において太陽は極めて悪い意味」という風土論で類推してしまうと勘違いしてしまいやすいアラビア語表現としての太陽の位置づけ。そこには厳しい寒さの冬の存在、イスラーム以前の太陽・月・金星信仰などもからんでおり予備知識抜きの類推だけでは正解を得られないという背景事情も関係しています。

アラビア語ではクルアーン(コーラン)の時代から冷酷非情さの比喩としては「石」が使われてきたのですが、日本では”アラブでは太陽=冷酷非情”という誤解が広まりすぎて本当は「石のように無慈悲で非情な」という表現をする件は知られていません。

当コンテンツではそうした都市伝説的誤解の検証にとどまらず、過去から現在までのアラブ世界における太陽・月を使った比喩表現に関して自習を兼ねたまとめ記事を随時更新しています。