『まんが猿飛佐助』アラビア語版の概要と主題歌紹介

『まんが猿飛佐助』アラビア語版について

題名

早い時期にレバノンでアラビア語化された日本のアニメ『まんが猿飛佐助』。

アラビア語の題名は

مُغَامَرَاتُ سَاسُوكِي
[ mughāmarāt sāsūkī ] [ ムガーマラート・サースーキー ]
サスケの冒険

略して سَاسُوكِي [ sāsūkī ] [ サースーキー ] でした。

[ sāsūkī ] [ サースーキー ] という名前になっている理由ですが、アラビア語の文語に ē [ エー ] や e [ エ ] の音が無く ī [ イー ] や i [ イ ] で代用しているため、そして日本語の固有名詞をアラビア語にする際に「サスキ」ではなく各文字を長母音で伸ばして「サースーキー」とする慣習があるためです。

サスケと読める人はこれでサースーケーと発音、読めない人はサースーキーと発音する感じです。主題歌でもレバノン人歌手が「サースーキー」と歌ったり叫んだりしているのもそのような事情によります。

アラビア語版制作会社

『まんが猿飛佐助』アラビア語版を制作したのはレバノンのFilmali社です。1980年代の日本アニメアラビア語版誕生期はレバノンでの吹き替えが特に盛んで、フィールマリー、ユニアート・スタジオ、バールベック・スタジオなどが活躍。1970代後半から1980年代末にかけてレバノンにおける日本アニメ吹き替えの黄金時代を築きました。

日本アニメのアラビア語化第1号は『アラビアンナイト シンドバッドの冒険』だったそうで、吹き替えは فِيلْمَلِي [ fīlmalī ] [ フィールマリー ](Filmali)社が担当。

Filmaliは نِقُولَا أَبُو سَمَح [ niqūlā ’abū samaḥ ] [ ニークーラー・アブー・サマフ ] (Nicolas Abu Samah、ニコラ・アブー・サマフ)氏が所有していた会社で、『宝島』『みつばちマーヤの冒険』のアラビア語化も同社が手がけました。

*ニコラなどレバノンの日本アニメ吹き替えに関わったアラブ人に西洋風の名前が多いのは、レバノンに多いキリスト教徒であるためです。グレンダイザー主役声優ジハード・アル=アトラシュ氏もドゥルーズコミュニティー出身で同国のモザイク国家状況を反映したものとなっています。

アラビア語版主題歌

アラビア語歌詞と直訳

アラブ人のアニメファンと一緒に歌えるようにフリガナもつけてみました。実際の歌に合わせ、文語アラビア語(フスハー)としての文法通りの発音・読み上げとは異なるルビにしてあります。

قُمْ ضَعْ يَدَكَ بِيَدِي
クム ダア ヤダク ビ・ヤディー
立ち上がれ、きみの手をぼくの手に置くんだ

قُمْ نَحْمِي غَدَكَ وَغَدِي
クム ナフミー ガダク ワ・ガディー
立ち上がれ、きみの未来とぼくの未来を守るんだ

نَفْتَدِي أَرْضَنَا بِالدِّمَاءِ نَفْتَدِي
ナフタディー アルダナー ビ・ッ=ディマーイ ナフタディー
ぼくらの土地に血を捧ささげるんだ、捧げるんだ

نَقْضِي نَقْضِي عَلَى الشُّرُورِ وَنَنْشُرُ السَّلَام
ナクディー ナクディー アラ・ッ=シュルール
ワ・ナンシュル・ッサラーム
悪を退治して、退治して 平和を広めよう

نَحْيَا بْزَهْوٍ وَسُرُورٍ فِي حُّبٍّ وَوِئَام
ナフヤー ビ・ザフウィン ワ・スルール
フィー フッビン ワ・ウィアーム
ぼくらは誇り・喜びとともに愛・融和に生きる

هَيَّا بِنَا هَيَّا بِنَا يَا رِفَاقُ هَيَّا يَا أَصْحَاب
ハイヤー ビナー ハイヤー ビナー
ヤー・リファーク ハイヤー ヤー アスハーブ
さあ行こう、さあ行こう、仲間たち さあ友だちよ

بِعَزْمِنَا وَبَأْسِنَا نُذَلِّلُ الصِّعَاب
ビ・アズミナー ワ・バァスィナー ヌザッリル・ッ=スィアーブ
決意と勇敢さをもって困難を克服するんだ

سَاعِدِي سَاعِدُكَ نُسَاعِدُ الْجَمِيع
サーイディー サーイドゥク ヌサーイド・ル=ジャミーァ
ぼくの腕はきみの腕 皆のことをぼくらが助けるんだ

سَاسُوكِي قُوَّتُكَ قُوَّةُ الْجَمِيع
サースーキー クッワトゥク クッワトゥ・ル=ジャミーィ
サスケはきみの力 みんなの力

نَقْضِي بِهَا عَلَى الْأَشْرَارِ وَنَنْصُرُ الأَخْيَار
ナクディー ビ・ハー アラ・ル=アシュラール
ワ・ナンスル・ル=アフヤール
ぼくらはそれによって悪人を退治し善人を助ける

قُمْ ضَعْ يَدَكَ بِيَدِي
クム ダア ヤダク ビ・ヤディー
立ち上がれ、きみの手をぼくの手に置くんだ

قُمْ نَحْمِي غَدَكَ وَغَدِي
クム ナフミー ガダク ワ・ガディー
立ち上がれ、きみの未来とぼくの未来を守るんだ

نَفْتَدِي أَرْضَنَا بِالدِّمَاءِ نَفْتَدِي
ナフタディー アルダナー ビ・ッ=ディマーイ ナフタディー
ぼくらの土地に血を捧ささげるんだ、捧げるんだ

سَاسُوكِي !!
サースーキーッ
サスケーッ

歌詞の意味

直訳なのとアラビア語の語順が日本語と違うため詩の行に合わせて日本語をつけていくと内容がかなり分かりづらいかもしれません。意味的には下のような感じだと思います。一部正確でない部分もあるかと思いますがご容赦願います。

立ち上がるんだ、さあ手を取りあおう
立ち上がるんだ、ぼくらの未来をさあ守ろう
ぼくらの土地に我が身をささげて尽くそう
悪いやつらをやっつけて平和を広めよう
ぼくらは誇り・喜びを胸に友愛・融和の社会で暮らそうじゃないか
仲間も友だちも、さあみんなで
決意と勇気を胸に困難を乗り越えよう
ぼくがきみの力になるよ
ぼくらで皆のことを助けようよ
サスケがきみやみんなの力になるよ
ぼくらはサスケの力で悪者をやっつけるぞ
そしていい人たちを助け勝利をもたらすんだ
立ち上がるんだ、さあ手を取りあおう
立ち上がるんだ、ぼくらの未来をさあ守ろう
ぼくらの土地に我が身をささげて尽くそう
佐助~っ!!

ちなみに『日本人が知らない「アラブ圏で“日本のアニメ”がこれほど深く根づいている理由」』(元になった英語版は『Why Anime has such deep roots in the Arab world』)という記事に出てくる歌詞がアラブ・ナショナリズム的だという『サスケ』は当ページで紹介している『まんが猿飛佐助』の誤りで、白土三平作品『サスケ』ではありません。

作詞者

يُوسِف فَاخُورِيّ
[ yūsif(→yūsef) fākhūrī(y) ]
[ ユースィフ(→ユーセフ)・ファーフーリー ]
Youssef Fakhoury、ユーセフ・ファーフーリー

レバノン バールベック(バアルベック/バアルバック)生まれの詩人。1909年生まれ、1967年没(ソースによっては1910年生まれ1968年没となっていることも)。1929年にブラジルへ移住。

本業は実業家。ブラジルで銀行・織物工場他を経営。不動産業でも財を成し、現地の大学学長を務めるなどしたレバノン系移民コミュニティーの超大物だったとか。

歌手

جُوزِيف نَاصِيف
[ jūzīf(→jōzēf) nāṣīf ]
[ ジョーズィーフ(→ジョーゼーフ)・ナースィーフ ]
Joseph Nassif、ジョゼフ・ナースィーフ

『まんが猿飛佐助』アラビア語版 مُغَامَرَاتُ سَاسُوكِي [ mughāmarāt sāsūkī ] [ ムガーマラート・サースーキー ] オープニング主題歌の歌手。

ベイルート出身のレバノン人俳優・歌手で1935年生まれ、2001年没。代表曲の一つが動画の لو بقدر انساكي [ ラウ・ビィディル・インサーキ ](もし君のことを忘れられるのなら)。

アラブ世界と『まんが猿飛佐助』

アラブ世界における代表的な懐かしアニメ

日本では見たことが無い方も多いかもしれませんが、アラブ世界では懐かしの名作アニメとしてこのが挙がることが結構多いようです。

イラク辺りだと『グレンダイザー』、『まんが猿飛佐助(通称:サスケ)』、『アラビアンナイト シンドバッドの冒険』などが人気だった模様。メディアでも時々名前が出てきます。

『まんが猿飛佐助』はアラビア語翻訳があふれ返る前の日本アニメ流行初期、しかも衛星放送がまだ普及しておらずチャンネル数の少ない国営テレビ局・ラジオ局だけが娯楽だった時代に放映されたためか、今の40代~50代で見ていた人はかなりいた模様。

イラクとサスケ

日本だと「イラクではグレンダイザーが大人気だった」という話が知られているかと思います。グレンダイザーはイラクで慣用句にもなったほどなのですが、サスケも時々慣用句的に使われているのを見聞きします。

グレンダイザーは慣用句・比喩として何種類かの意味で使われており、そのうちの一つが「悪・圧政・汚職に苦しむ人々を救う善のヒーロー」です。悪しき政治家に立ち向かうイメージと重なるということで反政府・国政改善要求デモの参加者らのシンボルとして語られることもしばしばです。

サスケも似たようなシチュエーションで使われることがあり、イラクのニュース記事やニュース対談で猿飛佐助が「悪に立ち向かい善き庶民を助けてくれる人・組織・抵抗運動」を意味する慣用句になっていることがうかがえます。

動画はイラクコメディー番組の『まんが猿飛佐助』パロディー回です。イラクのトップ級コメディー俳優らが演じている有名番組のため視聴回数も394万回超を記録。

他のページでも紹介しましたがグレンダイザーのパロディーも同じ番組内で放映されました。