★★★☆☆
日本語部分もアラビア語と同じ左←右方向という異色作
著者:川崎 寅雄
出版社:みき書房
著者の先生について
1914年茨城県生まれ、1977年死去。1935年名古屋高等商業学校(現・名古屋大学)3年生の時に外交官試験に合格、外務省に入省しエジプトへ。1938年カイロ大学文学部アラビア語学科卒業。エジプト、レバノン、イラクなどで勤務。
海軍司令官(文官)として派兵された先のインドネシアで敗戦を迎え、戦犯弁護のための自主弁護団運営に尽力。オランダにより次々に厳しい判決が下され処刑されたり自決したりしていく元日本人兵らを支援。しかし無償で弁護団を結成した行為が歓迎されなかったことから外務省を退官されたとか。
外務省を辞められてからはアラビア石油調査役として海上油田開発事業に参加。東京外国語大学助教授を経て創価大学教授に就任。また大学で教鞭をとりつつ外務省の語学研修生へのアラビア語教育も担当。
川崎先生は小説『新・人間革命』に登場するアラブの快男児こと河原崎寅造氏のモデルでいらっしゃるとのこと。創価学会から出されているその他著作でもアラブ諸国で過ごされた頃のこと、東京外国語大学から新設された創価大学に転職された経緯、その6年後に急逝された話などが詳しく紹介されています。(ウェブ上で閲覧可能。)
著書は『アラブ語辞典』など。莫大な金額をつぎ込んで完成させた辞典だそうで、エジプトから取り寄せた書籍から辞書項目に該当する部分を切ってきては原稿に貼って作ったという気の遠くなるような作業の末完成させたのだとか。
本の概要
●アラビア語の学習書がまだ珍しかった頃(1974年)に川崎先生が出版された本で、おなじみき書房から『アラビア語辞典』も刊行。
●文法学習は90ページ程度でその後に自習用の例文や新聞記事がいくつか載っています。巻末は活用表になっています。
●内容は大学書林の『現代アラビア語入門』に近いかもしれません。基本文法を学び感嘆文で締めくくる感じです。
●アラビア語での文法用語も併記されたりしていて、入門書としては結構難しい方だと思います。独学する人が楽しくのんびり勉強するための本ではなく大学の第二外国語の教科書に近い雰囲気です。指示代名詞の近称・遠称なども詳しくて通常覚える必要が無いものも載っているので、初めての一冊にするのはやめた方が良いものと思われます。
表記・誤字脱字について
●冒頭に「徹底してアラビア語に順応するため、思い切って、日本語までも右から左へ書いた」とある通り、アラビア語に合わせて日本語も敢えて左←右方向にしたという異色作です。アラビア語学習書ではカタカナのルビを日本語の逆方向の左←右にしてあるものは時々見かけるのですが、戦後出版されたアラビア語文法本で文法解説の本文までがそうなっているのはおそらくこの『アラビア語入門』だけだと思います。(ちなみに表紙は普通に左→右、序文は縦書きです。)
●活字は数十年前に出回っていた字体といった感じで、جميلة の ـمـ が جـ の左ではなく下に重なるといった合字があるタイプです。赤本こと『現代アラビア語入門』と違って母音記号は手書きではなく、特にかすれも無いので読みやすい方だと思います。
●文法説明の文中ではアラビア語+英字での転写+カタカナによる読みガナのセットになっている部分が多いです。転写部分だけは左→右の書字方向になっています。
●エジプトでアラビア語を勉強されたということで語末の ي は点が無くアリフ・マクスーラと同形の ى(点無しヤー)を採用しています。
感想
●アラビア語教育に献身的に取り組まれた川崎先生の記念すべき書籍です。大学書林の『現代アラビア語入門』(赤本)に似ているので簡潔で硬派なテキストが好きな方には良いかもしれません。
●左←右の逆になっている書字方向が非常に読みづらいこと、解説文のレベルが初学者向けとは言い難いので、色々なアラビア語教材に興味のある方が手に取る感じの本だという印象です。
アラビア語入門 著者:川崎 寅雄 出版社:みき書房 |