★★★★☆~★★★★★
挨拶やことわざの意味・文化的背景・エピソードが詳しくて参考になる
アラビア語文法の全体像がどんな感じか知りたい人にもおすすめ
文法用語が多く双数や人称・格変化がフルセットで出てくるので初学者にはハードル高め
著者:宮本 雅行
出版社:講談社(現代新書)
著者の先生について
1957年生まれ。1981年上智大学ドイツ語学科卒業。外務省入省後、シリアでアラビア語研修。サウジアラビア、シリア、米国、イラク(サマーワ)、セネガル等の大使館に勤務。イラク勤務時代には湾岸危機で人質に取られた日本人達の解放に際し中曽根氏とサッダーム・フセイン大統領らとの長時間会見で通訳を務められたとのこと。
2003年の『はじめてのアラビア語』初版発売当時、外務省本省で勤務。サウジアラビアのジッダ総領事を経て2021年より駐バーレーン王国特命全権大使。
著書に『はじめてのアラビア語』(講談社)、『分野別アラビア語単語帖』(中東調査会)、『日本語-アラビア語 動詞用例辞典』(国際語学社)、『アディゲ語(西チェルケス語)文法入門』。
本の概要
●横書きの新書です。初版は2003年。一度絶版になった後2019年に新しい装丁で復活。新しい版も買ってみましたが、内容自体は全く同じらしくあとがきやプロフィールも初版と特に違いが無いように感じました。
●今はKindle版も購入可能。Kindle版は日本語部分はフォントサイズを変更できますが、アラビア語部分や例文部分だけは画像扱いらしくサイズ変更はできません。
●『はじめに』でアラビア語話者の数、成り立ちとイスラーム世界への広がり、フスハーとアーンミーヤについて紹介。第1章『挨拶してみよう』ではポピュラーなアラビア語での挨拶を取り上げ、その意味や文化的背景が筆者の体験したエピソードを交えつつ紹介されています。ページ数がかなり多く、アラビア語を学び始めたばかりの方が文法書代わりに楽しめる内容となっています。ちなみに挨拶はフスハーと著者の方がアラビア語研修で住んでいらっしゃったシリアの方言が多めです。
●第2章は『自己紹介をしてみよう』で自分の名前と職業、旅行の目的、旅の印象、買い物で使う表現等が登場。
●アラビア文字のアルファベットや母音記号については第3章『アラビア文字で名前を書いてみよう』で解説。単語の文字を分解しての丁寧な解説ですが、矢印やイラストを多用した図解ではなく言葉での説明になるのでパッと見てわかるという感じではないです。書き順の表や練習コーナーはありません。アラビア文字の接続方法を学んだ後、日本語の音のアラビア語表記をまとめた表を参考にしつつ名前や地名を読む練習をします。
●第4章・第5章は『文法の基礎を学ぼう』。学習内容は文字と発音、名詞文・動詞文、名詞、形容詞、代名詞、疑問詞、辞詞(前置詞、接続詞、副詞、数字・数詞、序数詞)、動詞の語根、動詞の人称、時制、動詞の否定、名詞文の否定、能動態・受動態、動詞の活用、動詞派生形、四語根動詞、不規則動詞、動名詞、能動分詞・受動分詞をカバー。
●初学者向けの入門書よりも取り扱う範囲が広く、入門書では省かれることもある双数形が登場したりと活用表もフルセットで登場しています。文法用語が多く登場すること、動詞派生形も第15形まであることに言及されていたりと、アラビア語が全く初めての人には難しく感じられる内容かもしれません。
●第6章は『新聞の見出しを読んでみよう』では新聞の見出しとヌクタ(小咄)を読むレッスンです。エジプトとシリアの新聞の見出しを1~2行読むだけなのですが、単語ごとの説明文が長くとても詳しいです。小咄は4~6行。
●第7章は『ことわざで知るアラブ人の知恵』。28のことわざとその解説や思い出話が綴られています。第7章のみ1993~1994年にかけて『日本・クウェイト協会報』のエッセイを一部修正して掲載した物だとのこと。
表記について
●横書きの日本語本文にアラビア語文とカタカナの読みガナが配置されています。第4章の文法説明編になると英字でのルビに切り替わります。英字のルビはLC方式の転写がベースになっていますが長母音がāの代わりにaaになっているといったアレンジが入っています。
●アラビア文字部分は語末まで全部母音記号がついています。ローマ字転写は語末変化が重要になる部分では省略無しのルビで、数詞などの通常読まないタンウィーンは( )カッコにくくってあります。
●誤字脱字の心配無く読むことができる一冊です。
感想
●アラビア語や語学学習に全くなじみの無い方が読むには難しい部分もありますが、挨拶やことわざに関するエッセイを読むだけでも十分楽しめると思います。
●文法紹介の部分はゼロから初める前に読むには結構難しいことが書いてあるので、大学などで動詞派生形まで勉強する予定のある方がこれから学ぶ内容を知るためざっと読むのに向いているかもしれません。アラビア語専攻への入学が決まった学生さんが授業開始前の3月頃読むのにぴったりな内容です。
(2022年2月修正)
新版
はじめてのアラビア語 著者:宮本 雅行 出版社:講談社(現代新書) |
旧版
はじめてのアラビア語 著者:宮本 雅行 出版社:講談社(現代新書) |