初歩のアラビア語(’11) (鷲見 朗子&依田 純和,福田 義昭,森口 明美/放送大学)

初歩のアラビア語〈’11〉

★★★★★
初級文法の途中で終わってしまうはじめて系学習書相当のカバー範囲だが内容は濃い
他の入門書に見られない詳しい解説と複数執筆陣も加わっての丁寧な作りが特徴

講師:鷲見 朗子
分担執筆者:依田 純和、福田 義昭、森口 明美
出版社:放送大学
ネイティブチェック:フサーム・カースィム(=カースィム・ホサーム大阪大学特任准教授)
アドバイス:高橋 和夫(放送大学教授)
放送教材制作指導:藤原 準二(放送大学制作部)、加藤 愛(NHKエデュケーショナル)
CD収録指導:宮入 邦男(NHKエデュケーショナル)
原稿確認・アイデア提供:鷲見 克典(名古屋工業大学教授)
(*肩書はいずれも番組放送当時の物です。)

講師の先生について

鷲見 朗子 先生
1963年生まれ。ノートルダム女子大学文学部生活文化学科卒業。大阪外国語大学アラビア・アフリカ語学科を経て、ミシガン大学アンアーバー校大学院修士課程卒業。米インディアナ大学ブルーミントン校大学院修士課程・博士課程卒業。現・京都ノートルダム女子大学国際言語文化学部/大学院教授。専門はアラブ文学(アラブ詩、アラビアンナイトなど)、アラビア語教育。

本の概要

●こちらの2011年版は2006年放映の『初歩のアラビア語―アラブ・イスラーム文化への招待 (’06) 』を改訂したものだとのこと。全く同じ内容の再放送という訳ではなくテレビの内容も一部入れ替えて制作されたようです。2006年版講座は好評で受講者数もそれなりにいたらしく、それを受けての2011年度版登場だったのだとか。しかしその後講座は無くなってしまい、現在では『 放送大学アーカイブス・知の扉』という枠で定期的に再放送が行われるにとどまっています。

●同じ『初歩のアラビア語(’11)』タイトルでも表紙の色違いがあるようです。オレンジ色と黄緑色の2種類らしいのですが、自分が中古で購入したものは黄緑色の表紙でした。黄緑色はオレンジバージョンには無い「文部科学省認可通信教育」という字句が表紙に印刷されているという点で異なるようでした。調べてみると、放送大学テキストで色違いが存在するのは一般販売用と受講生への配布用があるためだとか。なのでどちらを古本で買っても内容は同じだと思われます

●レッスンは全15課。アルファベットと母音記号の学習は少しずつ進み第6課で完了。第7課以降に学ぶ文法項目は名詞と性、独立人称代名詞、ニスバ、数字0~10、定冠詞、形容詞、接尾人称代名詞、指示代名詞、「~があります」の表現、イダーファ(属格構文)、前置詞を使った所有表現、単数・双数・複数、名詞と形容詞の数の一致、動詞未完了形、動詞完了形、語根と語形パターン、否定 ليس、疑問詞など。

●本田孝一先生の『アラビア語の入門』やナツメ社『CDブック はじめてのアラビア語』のような入門書とだいたい同じカバー範囲になっているのですが、放送大学の教科書はLC方式の転写メインながらIPA方式の音価が書いてあったり発音解説が言語学的な観点からの詳しい記述だったりと、やや本格的・難しめの作りとなっています。

●それぞれの課は基本フレーズ、ムハーダサ(会話スキット)、文字や文法の解説、練習問題、サカーファ(アラブ、イスラーム世界・文化に関するコラム)、スワル(写真メインの単語集)から構成されています。会話スキットは長すぎずほどほどの分量です。ページ下の語句集が親切で辞書を引く必要がほとんど無いぐらいです。

●巻末に練習問題、語句リスト、人称代名詞リスト、動詞活用表、パソコンでのアラビア文字入力方法などが載っています。

表記

●アルファベット表では次の文字とつなげずにつづる字にハサミマーク、太陽文字に太陽マークがついています。このようなマークはアラビア語学習書で初めて見たのですが非常にわかりやすくて良いと思いました。

●例文にはLC方式のローマ字転写とカタカナでのルビがついています。文法説明の場面では語末の母音やタンウィーンが書かれています。単語集などでは通常読まないタンウィーンはカッコでくくられています。ハムザトルワスル(ハムザト・アル=ワスル、ハムザトゥルワスル)でつなげて読む場所は弧で結ばれています。

●アラビア文字部分には基本的に語末まできっちり母音記号がふってあります。語末母音記号を省略しないタイプの教科書なので、格変化や二段変化について学ぶ際の助けになると思います。

付属CD

●放送大学のテレビ放送を見なくても独習できるようにCDが付いています。テレビ放送と違い日本人男性の出演は無く、フィラース・オマル氏と井上ハキマ氏が全てのパートを担当しています。(日本語部分は鷲見先生。)

●アラビア語のナレーターは

  • フィラース・オマル氏(パレスチナ出身)
    ナツメ社『CDブック はじめてのアラビア語』のCDナレーターでもあるノーマン・オマル氏の弟さんだそうで声がそっくりです。放送大学の再放送を見ましたがテレビの方にも出演されていました。
  • 井上ハキマ氏(モロッコ出身)
    モロッコのラバト出身。エリコ通信社通訳、NHK Worldアナウンサー、カルチャースクール講師など。NHKラジオアラビア語講座『アラブの国々を旅しよう!』にも出演されていたようです。

●エジプト方式の後ろにずれたアクセントではなく、現代標準アラビア語のルール通りのごく一般的なアクセントでの発音です。ゆっくりかつ明瞭なナレーションです。井上ハキマさんは r の発音が力強いです。(ただ、ت [ t ] が [ ts ] に近い破擦音寄りの発音になっていることが多いような気がしました。ちなみに t が 破擦音の ts になるのはマグレブ出身の方に比較的見られる発音という印象です。専門書によるとベルベル語からの影響だとか。ベルベル語話者が多い地域に発音だとのこと。)

感想

●フスハーとアーンミーヤの関係性、ج の発音が地域によって異なる件、أنا の長母音を読む・読まない、ل の2通りの読み方、東京ジャーミイの前身である代々木モスクが日本側の援助で建てられた件、ベリーダンスの起源や広がり、千一夜物語と百一夜物語、ジュハーの原型とナスレッディン・ホジャ物語との統合、など普通の一般向け入門書では読めないような話が色々と載っています。アラビア語を始めたけれど簡単すぎる入門書では物足りないという方におすすめです。

●テレビ放送の方はゆっくりと進行しますが、付属CDを使えば時短でサクッと終わらせられる分量です。タイミングが合わずテレビ放送を見られない場合は最初にCDで学習を終えておいて、後からテレビ放送だけ楽しむのが良いかもしれません。再放送は毎日連続に近いハイペースでまとめて放送されるので、録画しながら一気におさらいをするという形が合っている気もしました。

●良質なテキストなので古本でも購入するだけの価値はあると思います。

(2022年2月修正)

初歩のアラビア語〈’11〉 初歩のアラビア語(’11)
講師:鷲見 朗子
分担執筆者:依田 純和、福田 義昭、森口 明美
出版社:放送大学