読める書ける アラビア文字練習プリント (アルモーメン・アブドーラ/小学館)

読める書ける アラビア文字練習プリント

★★★★☆
文字の書き方・読み方だけでなく単語や挨拶の学習もできる
お手本がWindows UI系丸文字フォントなのを除けばかなりおすすめ

著者:アルモーメン・アブドーラ
出版社:小学館

ページサンプル

小学館の書籍概要ページには試し読み画像はありません。amazonの商品ページに行くと表紙以外にも中のページのサンプル写真を見開きで数点見ることができます。

著者の先生について

エジプトのカイロ出身。学習院大学文学部ならびに大学院で日本語を専攻。2022年現在東海大学湘南キャンパス文学研究科日本文学専攻語学教育センター教授。ホリプロスポーツ文化部所属タレントも兼業。

アラビア語教育や通訳の分野で長年活躍されており、NHKの語学講座やアラブニュースチャンネルへの出演でも有名な先生です。

エジプトTV局のインタビューによると、エジプトで元々学ばれていた分野は観光関係だったものの日本語に転向。日本に片道切符で渡航してからは様々な仕事をしながら学習院大学で学び続け、日本の大学で学部・修士・博士課程の全てを出た初のエジプト人となるに至ったのだとか。

本の概要

●2006年発売。B5サイズで全112ページ。本、付属CD、別冊のアラビア語文字練習帳(ARABIC EXERCISE BOOK)より構成されています。

●本の内容は以下の通りです。

  • アラビア語についての概要
  • アルファベットの独立形(矢印と数字による書き順つき)とその文字が示す子音の音
  • 各文字の語頭形・語中形・語尾形、母音記号を足した時の各文字の読み方
  • 各文字を使った単語を3個ずつ書いていく練習
  • 自分の名前をアラビア文字で書く
  • インド数字の読み方と書き方
  • 定冠詞と太陽文字・月文字
  • 挨拶や場面別の単語・表現を読んだり書いたりする
  • パソコンでのアラビア文字入力設定の方法とWindows、Macのキーボード配列表

●単語ごとにどの文字から構成されているのか・それぞれの文字の語中での形はどれかを示す表が用意されているのでつづりの仕組みを理解しやすいです。シャッダのついている子音を2つに分解して表の別々の項に入れ、「同じ文字1文字目のスクーンつき+同じ文字2文字目のファトハ・カスラ・ダンマつき」に分解してあるのも良いと思いました。

●下に灰色で文字が書かれており、見本の表を見ながら文字同士をつないでいく練習をする書き込みドリル形式。

●格変化を登場させるとややこしくなるということだと思いますが、人称を示す部分を除いて基本的に語末の母音記号は書かれておらずタンウィーンも読まずに休止発音にしてあります。مَقْهًى [ maqhan ] [ マクハン ] や غَالٍ [ ghālin ] [ ガーリン ] のような単語はタンウィーンを取り展開して مَقْهَى [ maqhā ] ならびに غَالِي [ ghālī ] [ ガーリー ] にしてあります。これについては他の入門書と同じ方式で、日本において一般的な初学者向け簡易説明かと思います。

付属CD

●ページ数の少ない本ですがCDは45分近く収録されています。細かく分割してあるので合計トラック数は49。1トラックを繰り返し再生しながらつづりと発音の練習をすることができ便利です。文字練習に特化した本としては音声ファイルの量がかなり充実していると感じました。

●吹き込みをされているのはアルモーメン・アブドーラ先生と師岡カリーマ・エルサムニー先生です。巻末にカリーマ先生は友情出演との表記あり。CDの全編にわたってナレーションの録音に参加されています。アナウンス業やアラビア語教育番組でも有名なお二人ということもありはっきりと聴き取りやすい声で録音がされています。

●両者ともエジプトご出身なのでター・マルブータのついた単語などでアクセントの位置が他の地域と違って後ろの方にずれているエジプト式の読みになっています。しかし文字練習ということで短い単語しか出てこないので語形により決まるフスハーのアクセントルールとの差異はほとんど感じられないと思います。

気になった点

お手本となる文字が一般的な書籍用書体と異なりかなりの丸文字である点

この本の売りのセールスポイントとして「手書き文字に近い書体を採用したので、すらすら書けます。」と書かれているのですが、付録別冊練習帳のフォントがごく一般的な印刷物向け活字体であるのに対し、メインとなる本編の解説・レッスン部分のフォントが文字学習本ではまず採用されないタイプの丸っこいフォントである点がかなり気になりました。(これについてはアラビア語教育者の榮谷温子先生もウェブ上で書かれていました。)

形状が完全一致している訳ではないので採用されているフォント名を具体的に挙げることはできないのですが、非常に近いのがWindows OSにおけるユーザーインターフェース(UI)に採用されてきたTahomaやSegoe UIという書体です。

非常に丸みがありアラブ圏の教科書や書籍とは全然違う文字なのですがフォントサイズの割には視認性が高く、パソコンにおける操作ウィンドウやアイコン下に使う文字としてはよく考えて作られてある字体です。


学習書によく使われるフォントや筆記体フォントとの比較

上の図はその比較になります。左は現地のアラビア語教科書や書籍で使われているナスフ書体系統で、日本語における楷書体に相当します。右側が『読める書ける アラビア文字練習プリント』本編で採用されているフォントに近い字体で、カリグラフィー筆を払った時に現れる線の太い・細いの差が無い単純化されたラインが特徴です。

同じ『読める書ける アラビア文字練習プリント』でも別冊の『アラビア語文字練習帳』の方はナスフ書体(ナスヒー書体)系統のフォントを使用。上画像の左側に近い文字で印刷されています。

アラブ圏では教科書用書体として左側のナスフ書体(ナスヒー書体)が採用されており、現地の教育関係者が「この自体が一番文字の学習に適している」とコメントしている番組を見たこともあります。

本編で敢えて採用したという丸文字調フォントですが、アラビア文字としてのバランスがかなり違っており線や弧の角度がだいぶ違います。個人的にはこの本でつづり方を覚えたままずっとそっくりな手書き文字を書き続けるというのはおすすめできず、少し慣れたら付録の別冊練習帳やナスフ書体を採用している他の学習書で字体を修正した方が良いように感じました。

基本線との位置関係がずれているものが多い

最終的に字が書けるようになればフォント種類の違いぐらい問題無いと考える方もいらっしゃるとはも思うのですが、『読める書ける アラビア文字練習プリント』では独立形の基本線との位置関係が一般的な文字学習書とずれているものがいくつもあるのが気にかかりました。

たとえば ج は中の点を基本線下に書くよう教えられるのが普通ですが、この本では基本線上に乗っているといった具合に位置のずれがあります。

別冊ではハムザの有無がまちまち

別冊練習帳の中で本来ハムザを足して書くアリフ(ا)にハムザ(ء)がついていない単語がいくつか混じっていました。

اسد(ライオン)→ 正: أسد
ابريق(やかん)→ 正: إبريق

アーンミーヤ(口語)をアラビア文字でつづる時にはハムザ無しで書く人がすごく多いのですが、この本はフスハーの学習書なので正書法(正字法)に反したハムザの入力忘れという扱いになるかと思います。

感想

アラビア文字の書き方を教える本としては本田孝一先生+師岡カリーマ・エルサムニー先生著『アラビア文字を書いてみよう読んでみよう』もありますが、既に絶版なのでアラビア文字を学ぶ方はまずこちらの『読める書ける アラビア文字練習プリント』を購入されているものと思います。

『アラビア文字を書いてみよう読んでみよう』は書道家の先生が教えている点が特色でオーソドックスな書籍用書体(日本語の楷書体に相当)と手書き用書体(英語の筆記体や日本語の行書体に相当)を学べるという長所がある一方、文字同士の連結や母音記号をつけた時の読み方レッスンが少なめでした。

『読める書ける アラビア文字練習プリント』は従来の文字学習書と違い初学者の一番最初の最初を手助けするための教材として丁寧に作られています。

「文法まで進めるかどうか未定だけれどもひとまずアラビア文字を書ける・読めるようになりたい」という方はまずこの本を1冊購入されることをおすすめします。(アラビア文字の読み書きの時点でギブアップされてしまう方が多いので、文法書まで買ってしまわずにまずは1冊だけ買われると良いです。)

(2022年1月修正)

読める書ける アラビア文字練習プリント 読める書ける アラビア文字練習プリント
著者:アルモーメン・アブドーラ
出版社:小学館