編:幻想世界研究会
アラビア語部分執筆:(シルクロードの絵本屋さん)高岡 寛(敬称略)
出版社:宝島社
出版:2011年
おすすめ度:★★★☆☆
誤字脱字・読み間違い・形が似た同士のアラビア文字取り違えによる読みガナ不具合の類が結構ありますが、日本で出版されたアラビア語掲載ありの多言語ネーミング辞典の中でカタカナ表記が一番無難なので類書の中ではこちらがおすすめだと思います。
命名に役立つ星や草木の名前が豊富で現代標準アラビア語での発音に準拠しているので架空世界・ふんわりアラブな創作物の設定に使うのに向いています。
構成
英語・ドイツ語・フランス語・イタリア語・スペイン語・ポルトガル語・ラテン語・ゲール語・ロシア語・ギリシャ語・アラビア語・ヘブライ語・中国語での意味を見開きに詰め込んだ多言語ネーミング辞典です。
辞典自体はジャンルーサブジャンル別で巻末に50音順索引がついています。
RPG界で活躍されている桂令夫(東京大学文学部イスラム学科卒)氏によるアラブ人名解説コラムが2ページ分ついており、主に近現代以前のアラブ人に多く見られる名前パーツの紹介がなされています。
カタカナ表記
アラブ世界で各国共通の読み書き言葉(文語、フスハー)に基づいたカタカナ表記になっているので、特定国の方言の要素は特に見られません。
どことは指定しないけれどもふんわりアラブ的な地域を舞台として設定している作品、「アラビア半島の砂漠のプリンスが主人公だけれども現地方言がわからないからとりあえずアラビア語で」といったニーズに関してはこのネーミング辞典が向いています。
通常読む時には省く語末の母音をそのまま残した読みガナになっている(例:本書にあるビントゥは通常ビントと表記)などアラビア語界隈で用いられている学術的なカタカナ化と違っている部分も色々と含んではいますが、他書に比べると癖がほとんどありません。
誤字脱字について
他の多言語ネーミング辞典に比べれば内容がしっかりしているものの、誤字脱字・読み違い・形が似ている文字同士の混同により全然違う発音に置き換わっている・項目に入っているアラビア文字部分が別項目のそれで入れ違っているといった箇所が少なくありません。
命名時にはGoogle翻訳でもネットのアラビア語辞書でも良いので別ソースで念のため確認されると安心かもしれません。
アラビア文字の種類を読み間違えてそのまま読みガナ化するというのはある程度の期間を経た既習者さんは通常しないことなので、管理人も日本で出されたアラビア語本でこの手の誤記を見かけたのは初めてでした。
気になった点
基本的には日本語とアラビア語部分の訳は合っているのですが、「のろま」がほぼ同様の意味で使われている一単語 مُغَفَّل [ mughaffal ] [ ムガッファル ](うすのろ、ぼんくら)ではなく「他の人よりも(スピードが)遅い人」という定義を示す表現になっていたり、人物を指して「主役」としている項目が「主役を務めること」という動名詞になっていたりと、ずれている項目が時々あります。
あとは読む側が補う母音が違っていたために起きたと思われる読みガナの微妙なずれ、格変化や弱文字と呼ばれる y や w の音が語末に来る能動分詞の語形といったアラビア語学習者がしばしば苦手とする文法項目部分での語形間違いによる違う発音での掲載などが散見されました。
またハムザ(ء)を書き足すべき ا も أ や إ ではなく基本的に全部ハムザ抜きのアラビア文字表記になっています。全編を読んだ限り、文字スペースを食うので省いたということではないようでした。
管理人コメント
アラビア語部分担当者さんの方言反映率や独特なカタカナ表記の割合が少ないのでアラビア語収録多言語ネーミング辞典を使うならこちらをおすすめします。宝石や草花の名前なども豊富でネーミングに役立つ語が他書よりも多いとの印象です。
アラビア語と日本語とで逆になってしまう語順などについては自分で確認していただく形になりますが、Google翻訳の不正確な機械音声読み上げを耳で聞き取ってネーミングするよりもこちらの本を使う方がずっと正確なカタカナ表記になると思います。
ただ、似たアルファベット同士の見分けというアラビア語をある程度習得した方なら間違えない・他書では見られない取り違えや読みガナ間違いが時々ある点などが気になったので★3としました。
標準的カタカナ表記との対照表、正誤表
本書におけるカタカナ表記の特徴を示したものなので、全部を網羅したリストではありません。ご了承ください。
標準的なカタカナ表記との差異
- 契約:عقد(アクドゥ)→ アクド(通常「ゥ」はつけない)
- 誓約:عهد(アフドゥ)→ アフド
- 魔術書:كتاب السحر(キターブルスィフル)→ キターブッスィフル(定冠詞アルの直後に س [ s ] の音が来ると変化してアッに変わる)
*ただし日本ではアッ=スィフル、アッ・スィフル、アッスィフルのような実際に発音に基づいたカタカナ表記ではなくアル=スィフル、アル・スィフル、アルスィフルとしているキャラ名名や記事も多いです。 - 最初:أول(アッワル)→ アウワル
*この語にはよくあるカタカナ表記で昔は使う方が結構多かったのですが、أَوَّلُ [ ’awwal ] とアラビア語表記・英字表記するものの促音化せず aw 部分を二重母音の au として発音するためアウワルとなるものです。 - 裏:ظهر(ダフル)→ ザフル(ظ の字をザではなくダと発音するのは方言での読み方で、通常はザ行でカタカナ化)
- 諦め:تخل(タハッリン)→ タハッリー(この語形では通常タハッリーとカタカナ化)
- 純粋:صاف(サーフィン)→ サーフィー(この語形では通常サーフィーとカタカナ化)
*サーフィーは「澄んでいる、清らかな;空が晴れている;混じりけが無い純の」という意味の純粋の方で、人が純粋で汚れていないことについては نقي [ ナキー(ユ/イ) ] などを使用。 - 瞳:بؤبؤ عين(ブブウ・アイン)→ ブウブウ・アイン(ただし実際の発音はブゥブゥとブッブッを混ぜた感じ)
- 大工:نجار(ナッジァール)→ ナッジャール
- 影:ظل(ディッル)→ ズイッル(この語をディッルと読むのは方言発音で通常はザ行でカタカナ化)
- 谷:واد(ワーディン)→ ワーディー(この語形では通常ワーディーとカタカナ化)
- 1:واحد(ワーヒドゥ)→ ワーヒド(通常「ゥ」はつけず、日常会話だとワーヒドゥよりもワーヒッドと聞こえる確率が高いです)
- 第1:الاول(アルアッワル)→ الأول(アルアウワル)
*この語にはよくあるカタカナ表記で昔は使う方が結構多かったのですが、أَوَّلُ [ ’awwal ] とアラビア語表記・英字表記するものの促音化せず aw 部分を二重母音の au として発音するためアウワルとなるものです。これに定冠詞をつけ the first という意味の الأول [ アル=アウワル ] に。 - 2倍:ضعف(ディアフ)→ ディウフ(実際にはディィフ、ディィフ、ディァフ、ディゥフを混ぜたような発音に)
- ひれ:زعنفة(ジアニファ)→ ズィウニファ(jiではなくziの音で、実際にはズィイニファとズィァニファを混ぜたような発音に)
- 狼:ذئب(ズィブ)→ズィウブ(標準的なカタカナ表記だとズィウブとなるものの、実際にはズィゥブとズィッブを混ぜたような発音に)
- 蛇:ثعبان(スアバーン)→ スウバーン(標準的なカタカナ表記だとスウバーンとなるものの、実際にはスゥバーンとスァバーンを混ぜたような発音に)
- ムカデ:ام اربع و اربعين(ウンム・アルバワアルバイーン)→ ウンム・アルバア・ワ・アルバイーン أم أربع وأربعين(標準的なカタカナ表記だとアルバアとなるものの、実際にはアルバァ寄りの発音に)
*ちなみにがちがちの文語発音だと [ ウンム・アルバイン・ワ・アルバイーナ ] と読みます。
読む側が補足する発音記号違い(発音間違い)、不要な発音を省略していない等によるカタカナ表記違い
- コカトリス:الاصلة(アルアスラ)→ アルアサラ الأصلة(ṣ部分は無母音のṣではなく母音aがついたṣa)
- 信者:من يدين ب(ミン・ヤディーヌ・ビ+宗教名)→ マン・ヤディーヌ・ビ
*これだと「~教を信じる人」という語の定義になってしまっているので、1語で表せる مؤمن(ムウミン)が適切かと。 - 最後:آخر(アーハル)→ アーヒル(アラビア語でのつづりは全く同じながら、補う母音の違いでアーハルは「別の」、アーヒルは「最後の」という全く違う語に)
- 現代:هذا العصر(ハーザールアスル)→ ハーザルアスル(ハーザーという語の直後に定冠詞アルが来た時は短くなって「ハーザ・ル=」に変化)
- 知識:معرفة(ムアリファ)→ マアリファ(m部分は母音uがついたmuではなく母音aがついたmaの)
- 約束:وعد(ワウダ)→ ワアド(通常この語ではワウドではなくワアドとカタカナ化、また語末がda音になることは無いのでダ部分は読み違い)
- 傷跡:ندبة(ナダバ)→ナドバ(d部分は母音aがついたdaではなく無母音のd)
- 中指:وسطى(ワスター)→ ウスター(w部分は母音aがついたwaではなく母音uがついたwu)
- 厩:اصطبل(イスタバル)→ イスタブル إصطبل(b部分は母音aがついたbaではなく無母音のb)
- 関所:حرس الحدود(ハルスルフドゥード)→ ハラスルフドゥード(r部分は無母音のrではなく母音aがついたra)→ ハージズ حاجز
*حرس الحدود [ ハラス・ル=フドゥード ] は通常「国境警備」の意味で使用。checkpoint(チェックポイント)という意味の関所としては حاجز [ ハージズ ] という語があります。 - 司祭:قسيس(キスィース)→ キッスィース(s部分は重子音シャッダ記号のついたss)
- 救世主:منقذ(マンキズ)→ ムンキズ(m部分は母音aがついたmaではなく母音uがついたmu)
*منقذ [ ムンキズ ] は「救助者」の意味で、イエス・キリストのような「救世主、メシア」は مسيح [ マスィーフ ] と呼ばれます。英語の the に相当する定冠詞アルがついた المسيح [ アル=マスィーフ ](アル=マスィーフ、アル・マスィーフ、アルマスィーフ)だとユダヤ教におけるメシアやキリスト教におけるイエス・キリストを具体的に指す形に。 - 香水:عطر(アトル)→ イトル(語頭は母音aではなく母音iがつく)
- 鏡:مراة(ミルア)→ ミルアー مرآة(「ー」と長く伸ばす長母音)
- ゲーム・遊び:لعبة(ルアバ)→ ラアバ
*同じアラビア文字表記ですが補う母音によって意味に違いがあり لعبة(ラアバ)は「ゲーム・遊び」、لبعة(ルウバ)は「おもちゃ」という名詞、لعبة(ルアバ)は「遊び好きな」という形容詞になります。 - サッカー:كرة القدم(クッラトゥルカダム)→ クラトゥルカダム(rrではなくrのみで促音化はせず)
*ちなみに口語(話し言葉)だと كورة(クーラ)と伸ばす発音になる地域が多いです。 - 将校:ضابط(ダービット)→ ダービト(ṭṭではなくṭのみで一般的なカタカナ表記では促音化は反映せず)
- 渦:دوامة مائية(ドゥーワマ・マーイーヤ)→ ドゥーワーマ・マーイーヤ(ワの後は「ー」と伸ばす長母音)
- ガーネット:حجر سيلان(ハジャル・サヤラーン)→ スィーラーン سيلان(同じつづりでもサヤラーンは「流れること」、スィーラーンは「ガーネット、柘榴石」の意味に)
- 無限大:الابد(アルアブド) → アルアバド الأبد(b部分は無母音のbではなく母音aがついたba)
- 金星:زهرة(ズハーラ)→ アッズハラ الزهرة(「ー」と伸ばす長母音部分は無し、かつ通常は定冠詞アルの発音が変化したアッをつけ [ アッ=ズハラ ] を使用)
- シリウス:الشعرى اليمانية(アッシアラールヤマーニーヤ)→ アッシウラルヤマーニーヤ(つづり上は「ー」と伸ばす長母音部分が直後に定冠詞があるために取れる)
*シアラ部分の標準的カタカナ表記はシウラですが、実際にはシィイラやシィァラなどを混ぜた感じに聞こえます。なお後半を取った الشعرى [ アッ=シウラー(実際にはシィラーとシィァラーを混ぜたような発音)] のみでも意味は通じる模様です。] - 北極星:الجدي(アルジャッドユ)→ アルジャドイ(ddではなく重子音シャッダ記号不要のd)
*標準的なカタカナ表記に近づけるとアルジャドイになりますが、実際にはアルジャディィ寄りに聞こえたりします。 - 雉:الدراج(アッダッラージュ)→ タドルジュ تدرج
*دراج と書いて [ ダッラージュ ] と読むと「自転車乗り」で、「ドゥッラージュ」と読むと鳥の「シャコ」という意味に。 - ウナギ:ثعبان الماء(サアバーヌルマー)→ スウバーヌルマー(th部分は母音aがついたthaではなく母音uがついたthu)
- 蛾:فراش(フィラーシュ)→ ファラーシュ(f部分は母音iがついたfiではなく母音aがついたfa)
*فراش と書いてファラーシュと発音した場合は「蛾(ガ);蝶(チョウ)」、フィラーシュと発音した場合は「ベッド、寝床」の意味になります。 - 蝶:فراش(フィラーシュ)→ ファラーシュ(f部分は母音iがついたfiではなく母音aがついたfa)
*فراش と書いてファラーシュと発音した場合は「蛾(ガ);蝶(チョウ)」、フィラーシュと発音した場合は「ベッド、寝床」の意味になります。 - テントウムシ:دعسوقة(ダアスーカ)→ ドゥウスーカ(d部分は母音aがついたdaではなく母音uがついたdu)
- トカゲ:عظاية(イザーヤ)→ アザーヤ(1文字目は母音iではなく母音a)
*もしくは عظاءة [ アザーア ]、سحلية [ スィフリーヤ ] など。 - ナデシコ:قرنفل(クルンフル)→ カランフル(1文字目は母音uではなく母音a)
- 糸杉:سرو(サルー)→ サルウ(最後は長母音のウーではなくw)
- 桃:خوخ(フーフ)→ ハウフ(خو部分は長母音ūではなく二重母音aw/auを含む発音)
- キノコ:فطر(フィトル)→ フトゥル(f部分は母音iがついたfiではなく母音uがついたfu)
*同じアラビア語のつづりで [ フィトル ] と読むと「断食明け」、[ フト(ゥ)ル ] と読むと「キノコ、マッシュルーム」に。
格変化や分詞語形の取り違えによる読み違い
- 奈落:هاوية(ハーウィーヤ)→ ハーウィヤ(ニスバ形容詞の女性形 ـَّة [ イーヤ ] と間違えられやすいが、語末弱文字動詞能動分詞の女性形 ـِيَة [ イヤ ] なので長母音の「ー」は不要)
- 火葬:حرق جثة الميت(ハラカ・ジュッサトゥルマイイト)→ハルク・ジュッサティルマイイト(格変化の関係上トゥルではなくティル、またハラカは母音つけ違いによる読み違いでハルクが正しい発音)
- 抱く:ضم الى صدره(ダンマ・イラー・サドラヒ)→ ダンマ・イラー・サドリヒ(صدرهは主格でサドルフ、属格でサドリヒ、対格でサドラフとなり前置詞イラーの後でサドラヒと発音することは無い)
*「彼の胸に抱き寄せる」という意味の熟語が載っていますが「誰を」という目的語が書いていないのでこのままではネーミングには使えません。なお「抱く、抱き寄せる、抱きしめる」は عانق(アーナカ)1語で表現可能です。 - 挑戦:تحد(タハッダン)→ タハッディン تحد → タハッディー تحدي(能動分詞語形の読み間違いで全部の母音記号を省略しない文語的な発音ではタハッディンとなりますが、会話などで使われる一般的な発音かつ日本における標準のカタカナ表記としてはタハッディー)
- 水車:ساقية(サーキーヤ)→ サーキヤ(ニスバ形容詞の女性形 ـَّة [ イーヤ ] と間違えられやすいが、語末弱文字動詞能動分詞の女性形 ـِيَة [ イヤ ] なので長母音の「ー」は不要)
- 娼婦:زانية(ザーニーヤ)→ ザーニヤ(ニスバ形容詞の女性形 ـَّة [ イーヤ ] と間違えられやすいが、語末弱文字動詞能動分詞の女性形 ـِيَة [ イヤ ] なので長母音の「ー」は不要)
*通常はザーニヤではなく عاهرة(アーヒラ)という語が多用されています。どちらも「姦淫を犯す女性、姦通する女性」という意味から。 - 巫女:وسيط بين الاموات وغيرها(ワスィート・バイナ・ルーフルアムワート・ワガイルハー)→ ワスィータ・バイナ・ルーヒルアムワート・ワガイリハー وسيطة بين الأموات وغيرها(格変化を示す母音の違い、「仲介者」を意味する وسيط [ ワスィート ] は男性形なので男性霊媒者のことを指すため、女性霊媒者の場合は女性形 وسيطة [ ワスイータ ] に)
*掲載語は「死者やそれ以外の霊魂との仲介者」という霊媒師に相当する語義をアラビア語化したものとなっています。なおアラビア語で霊媒者は وسيط روحي [ ワスィート・ルーヒー ](男性霊媒師)や وسيط روحاني [ ワスィート・ルーハーニー ](男性霊媒師)/ وسيطة روحية [ ワスィータ・ルーヒーヤ ](女性霊媒師)や وسيطة روحانية [ ワスィータ・ルーハーニーヤ ](女性霊媒師)といった訳語あり。
似たアルファベット同士の混同、違う文字への置き換えによる読み違い
- 民話:حكامة شعبية(ヒカーマ・シアビーア)→ ヒカーヤ・シャアビーヤ حكاية شعبية(子音字 y の m への取り違えが起きたままカタカナ化されている、sh につく母音が a ではなく i になっている、 [ īya ] [ イーヤ ] と発音する部分がイーアの響きに置き換わっている)
- 聖書:الكناب المقدس(アルキターブルムカッダス)→ الكتاب المقدس(ت [ t ] が点の数の違いのみだけでパソコンキーボードで隣り合っている ن [ n ] に置き換わってキナーブルムカッダスと読めるつづりになっている)
- 冬:ستاء(シター)→ شتاء(パソコンのキーボードで隣にあって3点の有無で区別する別の文字 ش での打ち違いのためスィターと読めるつづりになっている)
- 八月:لغسطس(アグストゥス)→ أغسطس(パソコンのキーボードで隣にあって形状がお互いに似ている別の文字 ل での打ち違いのためラグストゥスと読めるつづりになっている)
- 図形:شكل هذدسي(シャクル・ハズダスィー)→ シャクル・ハンダスィー شكل هندسي(キーボード位置が離れた一見似た文字同士の混同で、後続文字と連結するかどうかで区別するアラビア語学習の最初期に習得する範囲での読み違いがそのままカタカナ化)
*シャクルのみでも「形、図形」という意味になるのでハンダスィーは無しでも大丈夫です。 - かわいい:اطيف(アティーフ)→ ラティーフ لطيف(パソコンのキーボードで隣にあって形状がお互いに似ている別の文字 ا での打ち違いのままカタカナ化)
*ラティーフは「親切な、優しい」という意味で使うことも多く、スイートでかわいい様子は حلو [ フルウ ] など。話し言葉では英語の cute に当て字をした كيوت [ キュート ] が多用されています。 - 狂気:جذون(ジュズーン)→ ジュヌーン جنون(キーボード位置が離れた一見似た文字同士の ن を ذ として混同したままカタカナ化)
- 運命:محير(マヒール)→ マスィール مصير(キーボード位置が離れたあまり似ていない文字同士の ص を ح として混同したままカタカナ化)
- 触る:لمس(アマサ)→ ラマサ(パソコンのキーボードで隣にあって形状がお互いに似ている ل を ا と混同したことによる読み違い)
- 農場:مزرعة(マズダア)→ マズラア(キーボード位置が離れた一見似た文字同士の ر を د として混同したままカタカナ化)
- 番人:حارث(ハーリス)→ حارس(カタカナでは同じ発音ながらアラビア語だと حارث [ ḥārith ] は「耕す人」、حارس [ ḥāris ] は「警護する人、守る人」という別々の単語で、掲載されているのは「耕す人」の意味のつづり)
- 音楽:موسيقي(ムースィーキー)→ ムースィーカー موسيقى(点の有無で異なる ى を ي と読み違えているため、「音楽」ではなく「音楽の;音楽家」という意味の姉妹語に置き換わり)
- 奇襲:هجوم مفاجي(フジューム・ムファージー)→ フジューム・ムファージウ هجوم مفاجئ(土台の形が同じ ئ を ي と取り違えて声門閉鎖音/破裂音ではなく長母音の ī としてカタカナ化)
*日本で標準的なカタカナ表記方法に即して書くとムファージウになりますが、実際にはムファージィとムファージッを混ぜたような発音になります。 - 矢:سفم(サフム)→ سهم(カタカナにすると同じ「フ」になるものの、声門で発音する ه [ h ] の子音を一番遠い場所である両唇を使って発音している ف [ f ] と取り違えているケース)
- 小さい:سغير(サギール)→ صغير(カタカナにすると同じ「サ」になるものの別々の子音で、リスニング時に混同しやすい良く似た発音同士)
- 吸盤:محتص(ムフタス)→ ムムタッス ممتص(読み違いもしくはパソコンのキーボードで斜め右上にある文字でのタイプミス)
*タコの吸盤としては ممتص [ ムムタッス ](1個は ممتصة [ ムムタッサ ] )もしくは ماص [ マーッス ](1個は ماصة [ マーッサ ] )が使われるなどしている模様です。 - チューリップ:خزامى(フザーミー)→ フザーマー(点の有無で異なる ى を ي と読み違え)
タイプミスなどの誤字脱字
- 勝者:غـ لاب(ガーリブ)→ غالب(2文字目と3文字目の順番入れ違いと連結し合う同士の字の分離)
- 射手:نبل(ナッバル)→ ナッバール نبال(3文字目 ا の脱字があるままカタカナ化)
- 自然:اطبيعة(アッタビーア)→ الطبيعة(定冠詞からの ل 抜け)
- 地球:الارض(アルアルドアルマッリーフ)→ アルアルド(アルマッリーフ部分は1つ後の「火星」が紛れ込んだもの)
- 北斗七星:بنات النعش الكبرى(バナートゥナアシルクブラー)→ بنات نعش الكبرى(アラビア文字部分に不要な定冠詞 ال あり、なおバナートゥは通常バナートとカタカナ表記)
- 冷たい:بارى(バーリド)→ بارد(バーラーもしくはバーリーと読める誤記)
- 幹:دذع(ジズィウ)→ ジズウ جذع(1文字目をキーボードですぐ右にある د とタイプミス、また2文字目に不要な母音iを添加)
アラビア文字部分と読みガナの不一致
- 近く:طرف(カリーブ)→ قريب(طرفは1つ前の「端(タラフ)」のアラビア文字表記)
- 理想:كابوس(マトマフ)→ مطمح(كابوسは1つ前の「悪夢(カーブース)」のアラビア文字表記)→ マサル مثل、ミサール مثال
*なお مطمح [ マトマフ ] は人が抱いている志や目指し狙っている目標のことなので理想とは違っています。通常「私の理想だ」「理想的だ」と言う場合にはマサルやミサールを使います。 - 毒:سمع(サンム)→ スンム سم もしくは サンム سم(アラビア語部分の سمع は近くに該当項目が無いことから発音が似た [ サムウ ](聞くこと、聴覚)との取り違えである可能性あり)
- 髭:ذقن(リフヤ)→ لحية(ذقنは1つ前の「顎(ザクン)」のアラビア文字表記)
- 村:وطن(カルヤ)→ قرية(وطنは1つ後の「故郷(ワタン)」のアラビア文字表記)
- 独裁:سوق(アッディクタートゥーリーヤ)→ الدكتاتورية(سوقは1つ後の「市場(スーク)」のアラビア文字表記)
- 市場:ميدان(スーク)→ سوق(ميدانは1つ後の「広場(マイダーン)」のアラビア文字表記)
- 広場:قصر(マイダーン)→ ميدان(قصرは1つ後の「城(カスル)」のアラビア文字表記)
- 教皇:فارس(アルバーバー)→ البابا(فارسは1つ前の「騎士(ファーリス)」のアラビア文字表記)
- 小麦:حبوب(カムフ)→ قمح(حبوبは1つ前の「穀物(フブーブ)」のアラビア文字表記)
- 羊肉:ダアン(خنزير)→ ضأن(خنزيرは1つ前の「豚肉(ヒンズィール)」のアラビア文字表記)
*この本では牛肉、豚肉、羊肉のいずれも元になった動物の名前のみ掲載していて「~肉」に当たる لحم [ ラフム ] がついていません。それぞれ「雌牛」「豚」「羊」という意味なので、ラフムを前に置いて「ラフム・バカル」(牛肉)、「ラフム・ヒンズィール」(豚肉)、「ラフム・ダアン」(羊肉)とする方法もありかと思います。
見出し語とアラビア語の品詞が合っていない、他言語の訳と品詞が合っていない
- 変化:غير(ガイヤル)→ タガイユル تغير、タハウウル تحول(ガイヤルは「彼は変更した、彼は変えた」という他動詞の完了形)
- 愚か:حماقة(ハマーカ)→ アフマク أحمق(ハマーカは「愚かさ」という意味の名詞)
- 主役:بطولة(ブトゥーラ)→ バタル بَطَل / バタラ بطلة(ブトゥーラは「勇敢であること、有機;選手権;主役、主演(を務めること)」で主役となる人物は男性がバタル、女性がバタラ)
- 貧乏:فقر(ファクル)→ ファキール فقير(1つ前の「金持ち」は形容詞 ガニー غني を収録している一方、「貧乏」は貧乏、貧困状態であることを意味する名詞)
- 触手:قرون استشعار(クルーヌスティシュアール)→ ミジャッス مجس / 複数形 ミジャッサート مجسات(掲載語は頭についている触覚の方で触手とは別)
*なお触覚については日常会話ではクルーヌスティシュアールとつなげ読みする人は少なく、クルーン・イスティシュアールと発音するのが一般的です。 - 人間の性質を示す語については英語などで形容詞が載っている一方、アラビア語部分は「~であること」という名詞になっている項目が多いです。
意味的にずれのある別単語掲載
- 究極:كمال(アブアド)→ アクサー أقصى アクサー、ムンタハー منتهى など
*掲載語はアラビア語と読みガナが合っておらず、前の項目「完璧」の訳語が繰り返されてしまっておりカマールと読めるアラビア文字にアブアドという読みガナが組み合わされています。またアブアドは「より遠い;最も遠い」という比較級・最上級ですが定冠詞アル無しで単にアブアドだと「さらに遠くへ」と理解される可能性が高いです。度合いに関して究極という場合は「アクサー」、最果てといった意味だと「ムンタハー」などを使うのが良いように思います。 - 大人:كبار(キバール)→ カビール كبير
*前後の男、女、子供、赤ん坊などが1人を表す単数形になっているのですが、この「大人」だけは3人以上いることを示す複数形「大人たち」になっています。大人1人ならカビールになります。 - 意地悪:مضايق(ムダーイク)→ ハビース خبيث、ハスィース خسيس
*ムダーイクは「鬱陶しい、面倒な、不愉快な、厄介な」で、「意地悪な、悪意がある」は خبيث [ ハビース ]、خسيس [ ハスィース ] など。 - 狂信者:حمس(ハミス)→ ムタアッスィブ متعصب
*ハミスは「熱心な人、熱狂している人」で、宗教に関して狂信的な人は متعصب [ ムタアッスィブ ]、過激派は متطرف [ ムタタッリフ ] などを使うのが一般的だと思います。 - ティアラ:عمامة(イマーマ)→ タージュ تاج
*イマーマはアラブ男性が頭に巻くターバン状の頭巾のことで、民族衣装だけでなくイスラームの宗教家らが頭に身に着けていることから宗教界の象徴として扱われることもしばしば。ティアラに相当するものは王冠と同じ تاج [ タージュ ] が使われるなどしているとの印象です。 - 防具:حام(ハーミン)→ ワーキヤ واقية
*حام [ ハーミン ] は現地会話では通常ハーミーと発音。日本でもこの語形はハーミーと発音するのが一般的です。ハーミーは「守る人、保護者」といういわゆるガーディアン的なイメージが強めで、武術などにおいて攻撃を防ぐ道具としてワーキヤを使うのが良いかもしれません。 - 淵:اطار(イタール)→ フーワ هوة 等
*إطار [ イタール ] は「ふち」違いで日本語における同音異義語の「縁」と取り違えたものです。イタールは額縁などいわゆるフレームの意味で使い、川の深い部分といった意味の「淵」は違うアラビア語になります。 - 甲羅:صدفة(サダファ)→ ダラカ درقة 、ディルウ درع 等
*サダファは貝やカタツムリの貝状の殻など。亀の甲羅はダラカ、ディルウ(日常会話の発音ではディルァやディラァが混ざったような発音も多いです)他を使用。 - 山猫:طائش(ターイシュ)→ ワシャク وشق、キット・バッリー قط بري 等
*ターイシュは「迷っている、はぐれの」という意味でキット・ターイシュはイエネコが屋外でさまよい暮らしているというニュアンスとなり「はぐれ猫、野良猫」を指すのに使用するとの印象です。 - カワウソ:قندس(クンドゥス)→ カルブルマー كلب الماء、クダーア قضاعة 等
*クンドゥスは「ビーバー」の意。カワウソは كلب الماء [ カルブ・ル=マー(ッ) ] や قضاعة [ クダーア ] と辞典などに書いてあったりします。 - ナメクジ:قعدة(クアダ)→ بزاق(バッザーク)
*ナメクジは英語でslugですが、クアダは英語のslugが持つ怠けもの的な意味の方に対応したアラビア語で「座ってばかりいる、座る総時間数がとても多い;怠惰な」。生物のナメクジはバッザークという別単語。 - トネリコ:توت الجبل(トゥートルジャバル)→ リサーヌルウスフール لسان العصفور
*掲載語 توت الجبل [ トゥートゥ・ル=ジャバル ] は mountain cranberry(コケモモ)で、トネリコは لسان العصفور [ リサーヌ・ル=ウスフール ](リサーン・アル=ウスフール)で辞書に載っています。 - ヒイラギ:شجرة عيد الميلاد(シャジャラ・イード・アルミーラード)→ بهشية(バフシーヤ)
*掲載語 شجرة عيد الميلاد [ シャジャラト・イーディ・ル=ミーラード ] は「クリスマスツリー」で、ヒイラギという意味ではありません。
その他
- 聖母:アルアズラーウ・マルヤム → アルウンムルムカッダサ الأم المقدسة
*掲載語は「処女マリア」という意味です。アラビア語では مريم العذراء [ マルヤム・ル=アズラー(ゥ/ッ) ](マルヤム・アル=アズラー)という語順が多いとの印象ですが、キリスト教サイトなどだと العذراء مريم [ アル=アズラー(ゥ/ッ)・マルヤム ](アル=アズラー・マルヤム) という語順も。ただしこれはイエスの母を指す「処女マリア」に限定されてしまうため、それ以外の名前を持つ架空キャラのネーミングには使えないです。単なる聖母ということなら「聖なる母」という意味での الأم المقدسة [ アル=ウンム・ル=ムカッダサ ](アル=ウンム・アル=ムカッダサ、アルウンムルムカッダサ)で良いかと。 - 方舟:سفينة نوح(サフィーナ・ヌーフ) → フルク فلك
*掲載語は通常アラビア語でサフィーナト・ヌーフと発音、意味は「ノアの舟」。これだとノアの方舟しか指さないので違う名前の架空キャラには使えないです。単に四角い舟という意味の方舟(ark)であれば فلك [ フルク ] が良いかと。 - のろま:شخص أبطأ من غيرة(シャフス・アブタウ・ミン・ガイラ)→ ムガッファル مغفل
*アラビア語部分は「その人以外よりも遅い人、他の人より遅い人」という語の定義になっておりこのままではネーミングに使えないです。1語で表せる「のろま、間抜け、ぼんくら」を意味する مغفل(ムガッファル)や「愚鈍な人、間抜け」という意味の بليد(バリード)があるのでそちらを使われるのが良いかと。
*語末の ة は形が似ているものの2つの点が無い ه との取り違えで読みガナもそれに引っ張られたものになっていますが、正しくは شخص أبطأ من غيره(シャフス・アブタウ・ミン・ガイリヒ)です。غيرة(ガイラ)は「嫉妬」という意味の別単語。 - 船乗り:بحري(バフリー)
*多用されるのは بحار [ バッハール ] の方だと思われます。 - 執事:الساقي(アッサーキー)
*ساق [ サーキン ] / ساقي [ サーキー ] は「水や酒を注ぐ人、給仕」という意味で中世の宮廷におけるお酌係の青少年もこの名称で呼ばれており、英語のbutlerの語義のうち「酒類を管理する使用人」に対応した訳語となっています。日本で一般的にイメージされる家令、使用人の中でもまとめ役的な立場で主の補佐をするような執事(butler)としては رئيس الخدم [ ライース・ル=ハダム ](使用人の長)、قهرمان [ カフラマーン ](執事、家令)、كاخية [ カーヒヤ ](執事、家令)などがあります。 - 踊り子:راقص(ラーキス)→ ラーキサ راقصة
*ラーキスは男性形なので男性ダンサー、男性の踊り手のみ意味します。「踊り子」というと通常女性を指すので、女性形のラーキサに変える必要があるかと。 - 米:ارز(ウルッズ)
*米は أرز [ アルッズ ] もしくは رز [ ルッズ ] と呼ぶ人が多く、ウルッズよりもそちらを命名に使うのが良いかもしれません。 - 歩兵:جندي ماش(ジュンディー・マーシュ)→ ジュンディー・マーシー
*これをマーシュと読むのは文語的な休止形で、現地会話では通常マーシーと発音。日本でもこの語形はマーシーとカタカナ化するのが一般的です。なおマーシー単体でも歩兵という意味で使用可能。 - 氷:جليد(ジャリード)
*アラブ人は雪も氷も ثلج [ サルジュ ] と呼ぶ人の方が多く、ジャリードは氷という固体を指す時に使う印象です。ジュースに入れる氷などもジャリードではなくサルジュと呼ばれます。冷凍庫の名称もサルジュという語の派生語を使います。 - 2:اثنان(イスナーニ)
*これは文語発音で通常の会話だとイスナーンという発音になります。ネーミングとしてはイスナーンの方がより自然かもしれません。 - 第8:الثامن(アッサーミヌ)→ アッサーミン
*これは文語発音で通常の会話だとアッサーミン(アッ=サーミン)という発音になります。ネーミングとしてはイスナーンの方がより自然かもしれません。ちなみに「アッ=」は定冠詞の「アル=」が直後に来る「th」の音と連動して変化したものです。 - 火星:ミッリーフ(مريخ)→ アルミッリーフ المريخ(通常は定冠詞アルをつけて使用)
- 木星:ムシュタリー(مشتري)→ アルムシュタリー المشتري(通常は定冠詞アルをつけて使用)
- 土星:ズハル(زحل)→ アッズハル(通常は定冠詞アルをつけて使用)
- 流れ星:نيزك(ナイザク)
*ナイザクは隕石、流れ星・流星は شهاب [ シハーブ ] の方を多く使うように思います。 - 隕石:رجم(ラジュム)
*隕石は نيزك [ ナイザク ] を使うことが多いように思います。رجم [ ラジュム ] はいわゆる投石刑・石打ち死刑の際に罪人に向かって投げつける石つぶてのこともしくは投石行為を指す用法が多いかと。 - 朝顔:نجمة الصبح زهرة(ナジュマルスブフ・ザフラ)
*「ールスブフ」の「ル」部分は定冠詞の2文字目で発音変化により「ーッスブフ」に。なおザフラは不要。この語順だと「ザフラという(名の)朝顔」になってしまうため。「朝顔の花」という意味にするためにはナジュマの前にザフラを持ってくる必要があります。 - トリカブト:خانق النمر(ハーニクンナミル)→ ハーニクッズィウブ خانق الذئب
*خانق الذئب は標準的カタカナ表記であればーズィウブとなりますが、実際にはハーニク・ッ=ズィッブとズィィブとズィゥブを混ぜたような発音に聞こえます。 - バラ:وردة(ワルダ)
*バラの花の1本(1個)について言う時は وردة [ ワルダ ] で、バラという植物の名前・種類・集合名詞としての花について言う時は ورد [ ワルド ] と使い分けをします。
(2023年10年 管理人コメント微修正)
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