決勝大会での様子
アラブ読書チャレンジの概要については別ページにてどうぞ。
→ 『フスハーに打ち込む子供たちの晴れ舞台、アラブ読書チャレンジ』
決勝における堂々としたスピーチが話題に
フスハーの影が薄すぎると言われているアルジェリアですが、このコンテストで意外と健闘しているのがアルジェリアだったりします。第1回目でタイトルを獲得したのもアルジェリア人生徒で、しかも当時若干7歳だった محمد عبد الله فرح جلود(Mohamed Abdullah Farah Juloud)くんという少年でした。
決勝大会でのスピーチです。「まだ幼いのに素晴らしいですね。どうして君は読書するのですか?」という問いに対し「僕は学ぶために本を読んでいます。僕は読書が大好きです。読書は思考することに欠かせません。口にする食事、飲む水、呼吸する空気と同じです。知能にとっての栄養なのです。そしてイスラームにおける義務でもあります。」と答えています。
有名な文学者や哲学者の言葉を引用しながら読書の意義についてよどみなく語りだした頃から拍手が始まり、自分の夢を実現する手段は読書だ、過去の偉大な学者たちがいた高みに昇るために必要だと表明した時点で歓声が飛び交っていました。
優勝の瞬間
前半にサウジアラビア代表の青年やヨルダン代表の少女が映っています。サウジ代表の男子生徒さんは先生から参加を勧められたものの当初は断っていたそうですが、説得されて出場したところ国内予選で優勝したと話しています。
この年の第2位はヨルダン代表の少女、第3位はバーレーン代表の女子でした。
表彰式でドバイ首長は近頃の子供がパソコンやスマホばかりしていること、読書の重要性、出場者の子供たちを支えた家族や先生・学校への称賛を述べていました。
優勝者輩出にわく地元
毎年優勝者が決まるたびに地元ではお祭り騒ぎとなり、子供は英雄のような扱いを受けて凱旋帰国。学校でお祝いしてもらったり、国家元首や教育省トップたちから表彰を受けたりします。ムハンマドくんもブーテフリカ大統領(当時)から祝辞を寄せられたり、教育相と面会したりしました。
ムハンマドくんの地元、قسنطينة(コンスタンティーヌ)でのお祝い風景です。
女性陣が舌笛(ザグラダ)を鳴らして大歓迎している様子、小学校の先生や同級生らも映っています。制服と制帽を着用してインタビューに答えているのは警察署の署長さんだそうです。
→ 『شرطة قسنطينة تكرم النابغة محمد عبد الله فرح جلود』(警察署での表彰を報じた記事)
ムハンマドくんが持っている国旗は自分が色を塗って作ったもので、決勝で祖国の国旗を掲げたいという目標を胸にドバイまで持っていったものです。帰国後も携えて祖国愛を表明していました。
家庭背景
どの子も両親がテレビや新聞のインタビューを多数受けており、フスハーがペラペラな天才キッズが育った経緯について知ることができます。
お母さん
前半にフスハーで会話している男性は、アラブ読書チャレンジの学校部門で受賞したアルジェリアの学校の先生です。
مدرسة تاونزة العلمية [ Tawenza Scientific School ]
https://www.tawenza-school.org/
非常に教育熱心な学校のようです。優勝者を輩出した国の中からアラブ読書チャレンジ活動を熱心に行った学校が選ばれるのですが、同校はその栄誉ある第1代目となりました。
そして、同じ動画の途中で電話出演しているのがお母さんのアーイシャさんです。お母さんは電話の間中ひたすら話し続けられるほどフスハーが堪能です。お母さんは上の方でリンクをはった警察署での表彰記事の写真に出ている大きな花束を持った女性、また署の前での集合写真でムハンマドくんとお父さんの間に立っている女性らしく、ニカーブを着用していることからアラビア語だけではなくイスラームの信仰全般を重視している女性であることがわかります。
これ以外にも複数のニュース記事に登場しているのですが、彼女によるとごく普通の日常生活を送り周囲との軋轢が生まれない範囲でムハンマドくんのフスハー教育を行ったそうです。まず本人の年齢に合わせた本を与え、後から本人の興味に応じて色々な本を読ませたのだとか。
小学校までは手元に置いておきたかったので幼稚園には通わせず、本人が好きなように読書をさせ、適切な教材を選んで与え、親を真似したいという子供の欲求を育てるために両親自身が読書に励む姿を見せるようにしたそうです。
お父さん
ムハンマドくんのお父さんです。お父さん本人が非常に流暢なフスハーを話す人物なのがわかります。夫婦が協力して子供を育て上げて社会に送り出すことの重要さについて語っています。外見と言動からすると信仰に厚いご夫婦のようです。
ちなみにムハンマドくんのおじいさんは農家で、その勤勉さをムハンマドくんは尊敬し愛していると話していました。
他のニュース記事にもインタビューが載っていたのですが、お父さんから見た息子は、記憶力が強く、想像力に富み、分析・批判する力を持っている少年なのだそうです。元々言葉が非常に早く、生後半年で「ビスミッラー」(=食事前やクルアーン朗誦前に必ず唱える文言)と言い出したとのこと。
両親が積極的に読み聞かせをし、家族で会話する場を設けることでムハンマドくんがフスハーで自己表現する力がぐんぐん伸びていったとか。お母さんもこの会話タイムについて語っていましたが、口語であるアーンミーヤ(ダリジャ)ではなくアルジェリアの一般家庭では口にされることがまず無い標準語のフスハーで行う討論会に近いものらしいです。
ただ読書をするだけではなくムハンマドくんの中に生まれた様々な考えをまとめてそれをアウトプットし自分の意見として語ることができるまでを目指して育てられただけあって、ムハンマドくんはテレビ出演時にも正確なフスハーでスピーチしています。
チャレンジ参加を勧めたのはお父さん。課題として読んだ本は題名を見て面白そうだと思ったもの、宗教書、歴史書など。アルジェリアの書店は品揃えが少なく、しかも子供向けの本は絵がメインで文字数が少なすぎるため、ムハンマドくんの高い読書能力に合わせ対象年齢が高く文字数が多い本を選択したようです。
アルジェリアがアラブ読書チャレンジに参加を決めたのが遅れ約3ヶ月という短い期間で参加準備をしたため、課題である50冊分の感想文を突貫工事で書き上げたとか。読書はともかく書く方はなかなか大変だったみたいです。
ムハンマドくんのその後
シャーフィイー(イスラーム法学者)、ブハーリー(ハディース学者・イスラーム法学者)、イブン・バーディース(アルジェリアのナショナリズムをイスラーム・アラビア語の方面から牽引した人物。ウラマー協会会長。)のようになるのが夢だと語っていたムハンマドくん。
受賞直後は自作の物語を出版したり子供チャンネルの朗読番組に出演するなどしていましたが、その後メディアにほとんど出演しなくなったようです。
お父さんによると、引っ張りだこになってタレントのように活動する生活ではなく、子供らしい日常を送って欲しいという願いから仕事をセーブし、息子の役に立つと感じた出版やテレビ出演だけを経験させたとのこと。
エジプトの معكم منى الشاذلي という番組に10歳になったムハンマド君が出演しているのを見かけました。11:30過ぎぐらいから登場しています。
フスハーでの会話に磨きがかかって話す内容もだいぶ大人びており、司会の女性にもその点を褒められていました。