旅の指さし会話帳39 エジプト~エジプト(アラビア)語 (伊藤由起)

旅の指さし会話帳39 エジプト~エジプト(アラビア語)

★★★☆☆
オール手書きの会話編、文法説明編、約2500語の単語集を収録
つづり間違いやフスハー単語の混在が多め

著者:伊藤 由起
イラスト:花島 ユキ
協力:アフマド・モハメド・アリ・ハバシ(アーンミーヤ発音指導)
出版社:情報センター出版局

購入方法

旅の指さし会話帳シリーズは紙媒体の書籍から電子書籍・スマホアプリへとシフトしているようで、AmazonだとKindle版が購入可能です。アプリの方は対応国名一覧を確認してみましたが、残念ながらエジプトは含まれていないようでした。私自身は昔購入して持っていたはずなのですが紛失してしまい、改めて紙の本を入手しました。

著者の方について

本の後書きなどによると、著者の伊藤由起さんは大学時代エジプトの語学学校Orman Schoolに2年間留学され、その後エジプト人男性と結婚。執筆当時子育てをしながら自動輸出業の会社を経営されていたようです。エジPOP紹介活動でも有名なのぶた(中町信孝)先生が昔運営されていた『エジだより』というサイトでの書き込みをきっかけに出版社から執筆の依頼があったとのこと。

どうやら著者の伊藤さんはAmazon Kindleでの『別世界へのパスポート「アラビア語を始めたい人のはじめの一歩」~たった5分読むだけで、自動的にアラビア語の口と耳を手に入れる秘密の方法』販売や、『アラビア語オンライン』[ https://egypt-arabiago.net/ ]というサイトを運営されている羽橋ゆきさんと同じ方らしく、当時のプロフィールにメールアドレスと共に名称が記されていた輸出会社の方もハバシ(羽橋)さんというアラブ姓を元にしたお名前にて現在も続けられているようでした。

本の概要

●『絵を見て話せるタビトモ会話 エジプト』よりも前に出版されているので、こちらを片手にエジプト旅行へ行った方も多いのではないでしょうか。

●エジプトに観光旅行に行った人がアラビア語を話せなくてもこちらの本で指さしてカタカナ読みすれば言いたいことが伝わる、という趣旨の旅行者向け会話本です。空港、挨拶、買い物、食事、観光といった海外旅行関連の会話・単語に加え、留学・駐在といった現地生活でも使えそうなシーンまで約75ページにわたりイラスト中心の会話帳が掲載されています。その後10ページほどかけて文字の読み方と動詞などの文法の説明。最後に約2500語の単語集という構成です。

●会話帳部分はオール手描きです。かわいらしいのですが罫線も手描き、文字部分も手書きなためかなり読みづらいです。文字部分はページによって薄めの紫だったり、書いているうちにスペースが足りなくなって文末だけ小さい字で詰めて書いてあったりするので、アラビア文字部分を読みながらその場で会話する時に不便だと感じることがあるかもしれません。

●色々修正箇所はありますが、全く違う意味に取り違えてしまうような重大な部分はほとんど無いので、旅行でなら十分安心して使えると思います。アラビア文字部分が全て手書きとなっており、文とイラストで一人ずつという体制の中せっせと記入されていったことがしのばれる労作です。

方言教材として見た場合の感想

●エジプト方言の学習教材、教科書として使うにはあまりおすすめできません。

●会話帳はエジプト首都カイロ周辺のアラビア語エジプト方言ですが、時折アーンミーヤ(口語)ではなくフスハー(標準アラビア語、正則語)の単語や読みが混ざっています。エジプトでelやilとなる定冠詞の読みがフスハーのalだったり、カイロ方言で起きる「ق」の「ء」化や方言で起きるフスハー単語とは違うカイロ方言的な母音の付き方が反映されていない箇所が多いです。
・شرقى(シャルキー)→ シャルイー
・ملعقة(ミルアカッ/スプーン)→ معلقة(マアラア)(口語ではلとعが入れ替わる)

●カタカナの読みは男性名詞の時の会話でもアラビア語部分の語末には女性を示すهが足されているなど、会話相手の性が逆になっている箇所が複数ありました。イラストでは女性旅行者が主人公なのですが、エジプト人の側が「イッザイヤック?」(男性相手に「お元気ですか?」)とか「名詞+ック(貴男の〇〇)」と話しかけているシーンが多かったり、本の中の旅行者がずっと女性である一方、エジプト人の会話相手として想定される旅行者側の性が男性になったり女性になっていたりまちまちです。

●カタカナ読みの通りに読むと違うアルファベットに聞こえてしまうフリガナの付け方をしている箇所が多少見受けられました。
・إزاز(イジャーズ/ガラス)→ (イザーズ)(ジャだとجかچになってしまう)

●つづり間違いの類があります。 ハムザは書いてあったり書いていなかったりで、本の中での統一性はありません。ター・マルブータもةだったりهだったりでまちまちです。
・أودة(オーダ/部屋)→ أوضة(「ダ」でも重い方のダード)
・آلحاؤونى(エル ハオーニー/助けてー!)(アリフにマッダあり)→ الحقونى
・تلاتتاشر(タラッターシャル/13)→ تلاتّاشر(ターを1個にまとめてシャッダをつける)

●日本語部分の品詞とアラビア語部分の品詞が違っていることが多いです。(例えば日本語部分は名詞でアラビア語部分は形容詞、日本語部分は動詞でアラビア語部分は名詞など。)
・متأخر(ムタアッハル/遅延)→ (遅れている)
・فاضى(ファーディー/空席)→ (空いている)

●巻末の単語帳はとても字が小さいのと、編集時に切れてしまったらしくアラビア語部分の語頭に来るدとかوといった字の半分以上が隠れて読めなくなっている点が気になりました。

 

旅の指さし会話帳39 エジプト~エジプト(アラビア語) 旅の指さし会話帳39 エジプト~エジプト(アラビア)語
著者:伊藤 由起
出版社:情報センター出版局