★★★☆☆
アラブ世界の言語・衣食住・社会・宗教等をアラビア語単語をまじえて紹介
現地を擬似体験することでアラビア語の世界を身近に感じるための本
方言と標準語の混在やオリジナルの口語寄りカタカナ表記が特徴的
著者: 長渡 陽一
出版社:ベレ出版
著者の先生について
長渡 陽一先生は1991年東京外国語大学アラビア語専攻卒業、2005年東京外国語大学大学院博士課程修了。専門は言語学。高校・大学や外務省研修所でのアラビア語講師以外に2009年のNHKアラビア語ラジオ講座『アラブの国々を旅しよう』でも先生役を務められました。
アラビア語関連の著作としては『ニューエクスプレス エジプトアラビア語』、『ニューエクスプレスプラス エジプトアラビア語』。
複数の言語を習得されており、東京外国語大学オープンアカデミーではアラビア語エジプト方言講座やマルタ語講座を担当。
また韓国語/朝鮮語学習歴もかなり長い(1980年代~)とのことで、労働組合の相談員兼通訳経験なども。現在高校・大学での講師をされているほか韓国語学習書も多数執筆。外国人学習者ならではの視点でわかりやすくまとめた韓国語学習には定評がある模様です。
本のページサンプル
●目次の確認や立ち読みはベレ出版の書籍紹介ページから利用可能です。amazonの商品ページにもページサンプル画像が掲載されています。
本の概要
●アラビア語を勉強するにあたり、現地の雰囲気を疑似体験しイメージを膨らませることによって理解の助けとするための本です。アラビア語の読み書きをマスターすることは目指しておらず、アラビア文字を見慣れる目的でアラビア語表記が添えられているとのこと。
●アラビア語初級学習書ではないので文法レッスンはほぼありません。アラビア語の口語と文語の違いについて触れつつアラビア語やアラブ世界の多様性を感じ取ったり雑学を仕入れたりしたい方向けの読み物です。
● 内容はアラビア文字の簡単な紹介と、分野別のアラブ紹介・体験読み物全16課となっています。目次の項目は以下の通り。
- アラビア文字の手引き
- どこで話されているの
- アラビア語はどんな言葉?
- 挨拶のキーワード
- アラビアの服装
- アラビアのパンとご飯
- アラビアの肉料理
- アラビアの野菜料理
- アラビアの飲み物
- アラビアの自然
- アラビアの暮らし
- アラビアの楽しみ
- アラビアの名前
- アラビアの仕事
- アラビアの町
- アラビアの生活動物
- アラビアの科学
- イスラム教のキーワード
- アラビアの宗教
- イスラム教の決まり文句。
●セム系言語の話やアラビア語との比較など言語・語源ネタが比較的多いです。長渡先生の研究分野であるマルタやマルタ語の話もよく出てきます。
●ネット上のフリー写真、いらすとやのイラスト、長渡先生撮影のオリジナル写真等を組み合わせてあります。イラストレーターの方の参加は無いように見受けられました。
表記・誤字脱字について
●アラビア語部分は丸みのあるフォントです。母音記号はついておらず、本文にもアラビア文字の子音に母音を補足して読んでいく方法の解説は載っていません。基本的に先生が記述されたカタカナ表記による読みガナメインで読んで、横にあるアラビア文字を眺めてみるといった作りになっています。
●アラビア語部分の表記はフスハー準拠の表記とアーンミーヤ準拠の表記が混じっている感じです。ニューエクスプレスのエジプト・アラビア語版同様ハムザが例外を除き書かれていない口語風表記になっています。ハムザが無くなって弱文字化したり省略されたりする口語風表記優先なのか、モロッコの地名「カサブランカ」も辞書や本に載っている الدار البيضاء ではなく الدار البيضا となっていて、アラビア文字部分もかなり口語に寄せてあります。
●フスハーから入ってアーンミーヤはかなり後にならないと勉強しない方が日本では大半であることを考えると、口語と文語の読みやつづりが混在している本書はアラビア語を勉強し始めたばかりの人にとって不便なのでは…という気がしないでもないです。
●クルアーンはコルアーン、アッラーフはアッラーホ、ジュムアがジョムア、ズフルがゾホル、ファジュルがファジル、(預言者)ムハンマドがモハンマド、(クルアーンの)イフラース章がエヘラース章といった具合に口語研究に注力されている長渡先生ならではのオリジナル表記となっているのですが、個人的には本書にしか無い表記だと初学者が混乱したりネットや辞書で検索してもうまく探せない・見つからなかったりする原因になってしまうので、そこはよくあるクルアーン、アッラーフ(もしくはアッラー)といった表記のほうが分かりやすかったのでは?という気がしました。
●読んでいて誤字だとすぐに分かるような部分は多くなく、あっても数ヶ所前後だといういう印象です。
付属音声教材について
●付属CDはありません。ベレ出版の音声ダウンロードページにて本冒頭にあるダウンロードコード(=パスワード)を入力すると圧縮されたzipフォルダのダウンロードが開始します。
●フォルダは2つあり、本文の語彙が入ったフォルダとチェック問題の解答を収録したフォルダに分かれています。ファイル形式はmp3ファイルでトラック番号やトラック題名が入力済なのでスマホやタブレットに転送する際に楽で良いです。語彙音声は全部で19トラック、合計60分ほど。チェック音声は全部で23トラック、合計17分ほどとなっています。
●ダウンロードして聞いてみたのですが、自分が利用した時点ではトラック番号と中身の音声の課の数字が合っていませんでした。発売日直後にダウンロードしたところ本文語彙音声のトラック11~に第1課~、トラック1~に第10課~が入っていました。自分で全部打ち直すこともできますがさすがに時間がかかって面倒なので、今後のファイル差し替えを期待したいと思います。
●アラビア語ナレーターは日本語部分は長渡先生が担当。アラビア語部分は男女1人ずつが吹き込んでいます。方言部分ではシリア・レバノン方言のナレーションをオダイマ先生が、エジプト方言のナレーションをザイナブさんが担当。
- ムハンマド オダイマ 先生(シリア出身)
シリア出身の文学者・詩人。ムハンマド・オデイマ、ムハンマド・アブドゥッラー・オダイマとも表記。1990年~1992年東京外国語大学アラビア語専攻で教鞭を執られ、その後も日本で活動。複数の大学でアラビア語の講師を務める他、シンポジウム等にも参加。ご夫人の武田朝子氏と共同で文学イベントをされたりもしているようです。 - ザイナブ ガマル タハ ハッサン 氏(エジプト出身)
日本語や日本文学を専攻。JICA長期研修員として中央大学大学院に留学。
●ところどころで長渡先生が吹き込んだ別収録の音声(録り直しか何か)をつないであるようで、その部分だけこもった違う感じになっています。
感想
文語と口語が混ざっている点・オリジナルのカタカナ表記が多い点など初学者に優しい作りとは言えない部分が気にかかりましたが、アラブ世界の地域ごとの違いや口語と文語の違いやアラブ人の多くが標準アラビア語フスハーが苦手な理由など面白い話題があれこれ載っておりアラビア語を本格的に始める前に楽しく読むにはちょうど良い本だと思います。
(2022年3月修正)
はじめてみようアラビア語 著者: 長渡 陽一 出版社:ベレ出版 |