知識人のフスハー/アーンミーヤ混成率に関する調査記事が長くなったので、大学講義の雰囲気を疑似体験できる動画のページを別途設けることにしました。
イラク
ムスタンスィリーヤ大学 アラビア語学科
イラクのバグダードに1963年設立された国立ムスタンスィリーヤ大学。ここの教育学部アラビア語学科を特集した動画で、1時間近くの長いものになります。
まず先生が世界アラビア語の日を引き合いに出しつつアラビア語の重要性やアラビア語学科での教育について語っています。
2番目にカリグラフィーの前で話しているのがアラビア語学科長です。先生によると文学部の25%近くがアラビア語学科に所属しているそうです。そして大学のカリキュラムや入学の基準などについての説明が続きます。
その後講義風景に切り替わり、1年生の授業を疑似体験できる動画になります。テーマはジャーヒリーヤ詩やムアッラカートについて。先生はずっとフスハーで話していて、人称代名詞とかもフスハーのそれで通しています。
次が2年生の講義で、アラブ詩の韻律論とは何かについて話しています。baḥrと呼ばれる15個のリズムについてなど。癖の無いフスハーで格変化のイウラーブも含めはっきりかつゆっくりめに話しているので、日本人学習者にもものすごく聞きやすい講義だと思いました。
最後がさらに上の学年で、3種類ある辞書についての講義でした。喉から口側に向けて調音部位の順番に並べる辞書の種類があることなどが紹介されています。残りは語根順とアルファベット順。女性の先生は少しだけイラク風の発音が混じったフスハーを話していました。
ハムダーニーヤ大学 アラビア語学科
アルビールにある大学だそうです。イラクの詩人 بدر شاكر السياب の詩を読み内容を分析する講義だとのこと。先生の講義も学生たちの回答も全編フスハーで行われています。
バグダード大学教育学部 女子部
学部4年生とアラビア語学の勉強についてのレクチャーです。新型コロナウイルス流行を受けて先生がiPadとApple Pencilで画面録画を行いながらスピーチを入れたものとなっています。
講義自体はほぼ完全にフスハーです。手書き文字がくっきり映っていて板書のサンプルとしてとても参考になるので掲載しました。
シリア
ダマスカス大学や女子高で教鞭をとるアラビア語講師
シリアでアラビア語の先生をされている رامي تكريتي 氏がネット上に動画をアップされているので、アラビア語教育者の方の一例として紹介したいと思います。
お名前からするとイラクのティクリートにルーツがある方のようですが、出身大学はダマスカス大学。現在もダマスカス在住で女子高でお仕事をされているそうです。
シリアの宗教系TVチャンネル نور الشام 出演時の録画です。テーマはアラビア語の未来について。流暢なフスハーですが早めのスピードでも全く止まりません。
レポート・論文作成のコツを伝授する大学生向けの講義です。こちらはフスハーで、話し方からシャーム地方出身だとわかるものの、アーンミーヤ色が非常に薄いです。
ダマスカス大学アラビア語学科の学生さんに一般的なアドバイスをしている動画です。
こちらはアーンミーヤで行われている講義です。他の動画も見た限り、場合によってアーンミーヤと使い分けているようでした。非常に流暢なフスハーを話せるけれども、ざっくばらんに学生と向き合いたい時はアーンミーヤを選ばれているのかもしれません。
ちなみにホワイトボードの右下に書いてあるのは التدرج という単語ですが、急いで書く板書なので定冠詞الの部分が一筆書で逆Uの字になり ـتدرج∩ に似た形になっています。
アレッポ大学 医学部
内戦で荒廃してしまったアレッポで開催された解剖学の講義のようです。時々アーンミーヤに切り替わりますが、ベースはフスハーとなっています。
動画の冒頭では先生がアレッポ大学の歩みと苦難について語っています。シリア国外に学生たちを連れ出して教育するには莫大な費用がかかるためシリア国内で養成するしかない現状について話していました。
エジプト
カイロ大学 アラビア語学科
新型コロナウイルス流行期間中の帰国者自己隔離施設として使われていたカイロ大学。休講期間中の対策としてアラビア語学科の複数の先生方が動画をアップされていました。
文章読解の講義らしいです。アラビア語学科なのでフスハーです。この先生は合成背景の前で話されている時にはjの音をgではなくjで発音されていますが、後から映るカイロ大学教室内での講義ではgの発音をされている場面も混ざっていました。
大学での実際の講義では疑問詞をフスハーのmāではなく口語のēにしていたり、動画冒頭よりも多少フレンドリーな感じのトークになっています。
動詞の語形変化に関する動画講義です。エジプトなのでjがgになるのと、アクセントがエジプト式の位置になっていますが、とても聞きやすいトークになっています。
フスハーは型にはまっていて揺れが少ないので、外国人学習者にはこういうフスハーメインの講義は聞きやすくてありがたいです。
カイロ大学 社会学科
社会学入門の講義です。専門用語が全てフスハー由来なのでわかりやすいですが、アラビア語学科の講義に比べるとアーンミーヤ色は強めです。
統計学の先生による講義で、社会学科の学生も受けることになっている科目のようです。画面上の文章を読み上げる時はほぼフスハーですが、講義自体ではアーンミーヤの割合が高めです。
人類学の講義です。フスハー色が強めなのでアーンミーヤが混じっているものの聞きやすいです。
社会心理学の講義らしいです。文章を音読している部分以外はアーンミーヤ寄りになっています。早口感がエジプトらしい響きとなっています。
こうやって同じ学科用に提供されている講義動画を比べてみるとわかるのですが、先生によってほぼフスハーなのか、かなりアーンミーヤ色が強いのかという違いがかなり大きいようです。両方ある程度できないと耳に入ってこないのでなかなか大変そうです。
カイロ大学文学部その他の講義
イスラーム哲学の講義です。こちらも新型コロナウイルス対応の一環でアップされたようです。
アラビア語学ではないこともあり、非常にフスハーではあるものの数字の読み方や動詞・人称代名詞・指示代名詞・副詞・否定・関係代名詞・疑問詞のような基本表現のみ口語に入れ替わったタイプのスピーチになっています。
天然ガスに関する講義です。アラビア語学やイスラーム哲学の講義に比べるとかなりアーンミーヤの混ざる割合が多めで、事前にアーンミーヤに馴染んでおかないと聞き取るのが難しく感じるかもしれません。
カイロ大学政治経済学部
カイロ大学経済学部の協力の元で会計学講師の男性が行った講義だったようです。場所はカイロ大学経済学部の教室だった模様。ほぼアーンミーヤでのレクチャーになっています。
証券取引所トップをゲストに迎えての特別講義だそうです。最初に大学の先生がゲストの紹介や特別講義の意義について語っています。専門的な事柄を扱う高度な内容ですが、基本的にアーンミーヤです。ゲストの方もかなり話すスピードが早めです。
カイロ大学法学部
こちらもやはり新型コロナウイルス流行を受けてネット上にアップされた動画のようです。先生が研究の方法について説明をしています。こちらもほぼアーンミーヤです。
イスラーム法と非ムスリムの扱いに関する講義です。フスハーの専門用語が出てくるかしこまったスピーチではありますがアーンミーヤでの講義になります。
板書の代わりにノートを使用されています。この先生は لا [ ラーム-アリフ ] を一筆で書かれるタイプのようです。
ナセルシティ大学 獣医学部
ゲストを迎えての特別公演だったようです。テーマは獣医師と動物との関係について。アーンミーヤによる楽しいレクチャーで学生たちの食いつきも上々のようです。
マンスーラ大学 工学部
電気に関する講義のようです。先生はアーンミーヤで講義を行っています。先生の問いに答える学生たちの声も小さいですが入っています。
アルジェリア
オラン大学 人間学・イスラーム学部
論理学の講義だそうです。時々口語が混じりますがほぼフスハーなので、アルジェリア方言がわからなくても理解できるようになっています。