★★★☆☆
往年の定番アラビア語教科書、後半はエジプト方言解説と会話編
タイプライター打ちのテキスト+手書き母音記号のため読みづらいのが難点
解説も簡潔なので独学に使って挫折する方が昔から多し
著者:黒柳 恒男、飯森 嘉助
出版社:大学書林(泰流社からの引き継ぎ)
著者の先生について
飯森 嘉助 先生
1937年生まれ2012年没。信州大学教育学部卒業後、東京都品川の中学校で教師として勤務。後にエジプトのアズハル大学アラビア語学部歴史文明学科に留学、1968年卒業。帰国後はアジア・アフリカ語学院、東京外国語大学講師を経て拓殖大学へ。イギリス・ロンドン大学SOAS留学の後に拓殖大学教授に就任。最終的には名誉教授。
留学先エジプトの名物野菜のひとつモロヘイヤの普及協会を設立し『新健康野菜モロヘイヤ』を出版。ご存命中は『モロヘイヤ事始』というホームページも運営されていたようで、そちらにはアラブ世界への関心が高まった頃に美味しいアラブ料理の材料としてモロヘイヤを紹介しようと思い立たれたこと、牟田口義郎先生自宅裏でモロヘイヤが栽培されているのを目撃してご自分も種をエジプトから取り寄せられたこと、試験栽培・試食・栄養分析の試行錯誤、農協やエジプト大使館へのPR活動、モロヘイヤ普及活動のその後など、非常に詳しい記録が掲載されています。
本の概要
●東京外国語大学のアラビア語専攻や色々な大学のアラビア語授業で昔使われていた文法書です。表紙が赤いことから「赤本」という愛称で知られています。ちなみに昔は東京外国語大学がこの通称赤本、大阪外国語大学が英語で書かれた通称オレンジブックだったかと思うのですが現在ではどちらも違う教科書に切り替わっています。なお、シラバス検索してみたところ今でも東京大学などで教科書として使われている模様。
●大学書林での初版は1999年ですが、1998年に泰流社が倒産した時に引き継いだ物なので本当の出版年は1976年です。40数年前ということでかなり古い部類に入ります。
●派生型までの一通りの文法解説は重要事項を淡々と述べていく硬派なタイプです。フスハー部分のページ数が少ない割には大事な内容もあれこれ織り込まれている方だと思います。長い間教科書として多用されていただけのことはあります。
●解説本文は簡潔というかとても少ないです。これ1冊でアラビア語の文法を十分に理解するのは厳しいので他の本と併用されることを強くおすすめします。
●半分とまではいきませんが、後半のかなりのページ数がエジプト方言とその会話集(アラビア文字表記のフスハー文とローマ字転写のエジプト方言文を並べて比較したもの)になっています。フスハーだけ学んでいた時には読み飛ばしていて気付きませんでしたが、エジプト方言の特徴が一通りまとめられていてなかなか良かったです。
表記
●元が古いだけあってアラビア語部分がタイプライター打ちした小さい字で、しかも最近のWindowsフォントとはだいぶ違うので読みづらいです。あと手書きする際のお手本とするにも向いていないように思います。ネット上では昔から文字が見づらく読み進めるのが大変だという感想が多い本なので、無理だと思ったら我慢しすぎずアラビア語事態に挫折してしまう前に早めに見切りをつけて他の読みやすい本に乗り換えることを検討されても良いかと思います。
●母音記号はタイプライター打ちしたアラビア語文に先生が手書きで書き足されたものだそうで、1個ずつ微妙に形が違う上にシャッダなどがかすれて読みづらい箇所が多いです。
気になった点
アルファベットの発音方法については解説が非常に短い上複数の子音に関して誤った説明がなされているので要注意です。
- アリフだけ母音を示す
→ 正:アリフに音価は無し - ح は ه より奥
→ 正:ه は ح より奥 - ر は巻き舌
→ 正:子音1個ならはじき音、シャッダありの2個連続で巻き舌のふるえ音 - ض は ص と同じ位置に舌の先を強くつける
→ 正:クルアーン朗誦学と発音の専門家が ص は下の前歯裏付近、ض は上の前歯裏生え際付近歯茎に舌の先を当てると解説。またアラブ式発音矯正で教えられる本来の ض は舌の奥の脇は強く押し当てるものの舌先はそっと当てるだけ。なお現代会話風 ض は د の重たい音として発音。 - ظ は ص の濁った音で発音の位置は同じ
→ 正:これは口語に多い発音。ز を重たくした ظ はアーンミーヤの発音で、フスハーでは歯を下にはさむ ذ の重たい音。 - غ は ع よりもさらに喉を強く締めつける
→ 正:ع が咽頭摩擦音なのに対し غ は軟口蓋付近での摩擦音なので不適切な説明。
このような誤りに加え ص ض ط ظ のような重い音の出し方も詳しく書かれていないので、他の本なり当サイトや東京外国語大学や大阪大学のアラビア語専攻が提供する発音自習コンテンツなりで確認されることをおすすめします。
感想
昔なら★4つぐらいの評価をつけられたかもしれませんが、出版から45年以上経過していること、また文字が日本で出版されたアラビア語学習書の中でも特に読みづらいので★3としました。
赤本は長年教育機関で使われてきた教科書であったということもあり未だに勧められて新規に購入される方もいるようですが、今では詳しくて読みやすい本がいくつも出ています。
文法・例文・会話スキット・CDで総合的に学べる学習書に比べると読んでもいまいちピンとこない度合いが強めなので、最初の頃に読む本としては他の参考書を選ばれた方が良いと思います。中級までスムーズに進めるだけの書籍が複数出版されていますのでこの赤本をスキップして読まないままでも全く支障は無いです。
正直なところ、これを買って独習で完走するのは難しいのではないでしょうか。挫折する確率が非常に高くなるので一人でアラビア語を勉強されている方には正直おすすめしません。こちらの赤本は字がかすれて読みづらく説明も詳しくないので昔からこの本で勉強し始めて挫折したという話をしばしば耳にしてきました。
どうしてもこちらの本を使いたいという場合、これ単独ではなく他の本と併用すると完走できる可能性がアップするかと思います。
(2022年1月修正)
大学書林バージョン
現代アラビア語入門 著者:黒柳 恒男、飯森 嘉助 出版社:大学書林(泰流社からの引き継ぎ) |
泰流社バージョン
アラビア語入門 著者:黒柳 恒男、飯森 嘉助 出版社:泰流社 |