短母音~文語の母音はa・i・uの3つ
アラビア語の短母音は文語ではa(ア)、i(イ)、u(ウ)の3つしかありません。
そのため外国人の名前をアラビア語表記する時にはe(エ)をi(イ)で代用、o(オ)とu(ウ)で代用。さらに日本人名の場合はそれぞれの母音を長母音にするのが一般的です。
- キヨシ(kiyoshi)→ kiyushi → kīyūshī [ كِييُوشِي ](つづり通りに読むと、キーユーシー)
- ヒロコ(hiroko)→ hiruku → hīrūkū [ هِيرُوكُو ](つづり通りに読むと、ヒールークー)
アラブ人は英語の文章を読んでいる時でもアラビア語に無いpをbで、chをshで発音する人がいるのですが、同じようにiとe、uとoの区別も曖昧です。挙げた2つの日本人名もキユシ、ケヨシ、ヘロコ、ヘルコと読まれたり色々、なんてことも日常茶飯事です。
長母音(アー、イー、ウー)
アラビア語の解説、学術的に正確な人名の表記といった場合を除き、通常のアラビア語の名前を英字表記する時には長母音の記号は省略されるか、短母音を2個続けるかのどちらかが多いです。
長母音の記号を省略して短母音1文字で表記してある場合
「■ā■i■」→「■a■i■」♂
「■ā■i■」→「■a■i■」
動詞基本形(第1形)能動分詞 男性形
「~する人」という意味の能動分詞の語形です。前半に来るā(アー)とのばす長母音の記号の横棒をいちいち書く訳にもいかないので、ただのaで書いてあるケースです。
- サーリム(sālim → salim)≠ サリム、サリーム、サーリーム
- ヤースィル(yāsir → yasir)≠ ヤスィル、ヤスィール、ヤースィール
- ハーリド(khālid → khalid )≠ ハリド[カリド]、ハリード[カリード]、ハーリード[カーリード]
注: アラビア語屋はkhをカ行で表記しませんが、日本のカタカナ表記ではしばしば見かけます
このケースではSalimはSālim、YasirはYāsir、KhalidはKhālidと戻した上でカタカナ化するのが適切です。
「■ā■i■a」→「■a■i■a」♀
「■ā■i■a」→「■a■i■a」
動詞基本形(第1形)能動分詞 女性形
「~する人」という意味の能動分詞の語形です。上の語形とそっくりですが、語尾を「a」にすることで女性化してあります。前半に来るā(アー)とのばす長母音の記号の横棒をいちいち書く訳にもいかないので、ただのaで書いてあるケースです。
- マージダ(mājida → majida)≠ マジダ、マジーダ、マージーダ
- サーリハ(sāliha → saliha)≠ サリハ、サリーハ、サーリーハ
- ファーティマ(fātima → fatima)≠ ファティマ、ファティーマ、ファーティーマ
注:ファーティマのtは重たく発音するط(ṭ)です。軽く発音する普通の ت(t)と区別するために、学術的な表記ではtの下に点がついている「ṭ」を用います。
このケースではMajidaはMājida、SalihaはSālihaと戻した上でカタカナ化するのが適切です。
「■a■ī■」→「■a■i■」♂
「■a■ī■」→「■a■i■」
形容詞
形容詞などに多い語形です。後半に来るī(イー)とのばす長母音の記号の横棒をいちいち書く訳にもいかないので、ただのiで書いてあるケースです。
- カリーム(karīm → karim)≠ カリム、カーリム、カーリーム
- アズィーズ(azīz → aziz)≠ アズィズ、アーズィズ、アーズィーズ
- ジャミール(jamīl → jamil)≠ ジャミル、ジャーミル、ジャーミール
このケースではKarimはKarīm、AzizはAzīzと戻した上でカタカナ化するのが適切です。
「■a■ī■a」→「■a■i■a」♀
形容詞などに多い語形です。上の語形とそっくりですが、語尾を「a」にすることで女性化してあります。後半に来るī(イー)とのばす長母音の記号の横棒をいちいち書く訳にもいかないので、ただのiで書いてあるケースです。
「■a■ī■a」→「■a■i■a」
- カリーマ(karīma → karima)≠ カリマ、カーリマ、カーリーマ
- アズィーザ(azīza → aziza)≠ アズィザ、アーズィザ、アーズィーザ
- ジャミーラ(jamīla → jamila)≠ ジャミラ、ジャーミラ、ジャーミーラ
このケースではKarimはKarīm、AzizはAzīzと戻した上でカタカナ化するのが適切です。
「ma■■ū■」→「ma■■u■」♂
「~された人」という意味の受動分詞の語形です。後半に来るū(ウー)とのばす長母音の記号の横棒をいちいち書く訳にもいかないので、ただのuで書いてあるケースです。
「ma■■ū■」→「ma■■u■」
- マフムード(mahmūd → mahmud)≠ マフムド
- マルズーク(marzūq → marzuq)≠ マルズク
このケースではMahmudはMahmūd、MarzuqはMarzūqと戻した上でカタカナ化するのが適切です。
「mu■ā■i■」→「mu■a■i■」♂
動詞派生形第3形における「~する人」という意味の能動分詞の語形です。真ん中に来るā(アー)とのばす長母音の記号の横棒をいちいち書く訳にもいかないので、ただのaで書いてあるケースです。
「mu■ā■i■」→「mu■a■i■」
- ムジャーヒド(mujāhid → mujahid)≠ ムジャヒド、ムージャヒド、ムジャヒード、ムージャーヒード
このケースではMujahidをMujāhidと戻した上でカタカナ化するのが適切です。
「mu■ā■a■」→「mu■a■a■」♂
動詞派生形第3形における「~された人」という意味の受動分詞の語形です。真ん中に来るā(アー)とのばす長母音の記号の横棒をいちいち書く訳にもいかないので、ただのaで書いてあるケースです。
「mu■ā■a■」→「mu■a■a■」
- ムバーラク(mubārak → mubarak)≠ ムバラク、ムーバラク、ムバラーク、ムーバーラーク
このケースではMubarakをMubārakと戻した上でカタカナ化するのが適切です。
「mu■ī■」→「mu■i■」♂
動詞派生形第4形における「~する人」という意味の能動分詞の語形の変形バージョンです。真ん中に来るī(イー)とのばす長母音の記号の横棒をいちいち書く訳にもいかないので、ただのiで書いてあるケースです。
「mu■ī■」→「mu■i■」
- ムニール(munīr → munir)≠ ムニル、ムーニル、ムーニール
このケースではMunirをMunīrと戻した上でカタカナ化するのが適切です。
「ma■ā■」→「ma■a■」♂
場所や事柄を表す語形の変形バージョンです。後半のā(アー)とのばす長母音の記号の横棒をいちいち書く訳にもいかないので、ただのaで書いてあるケースです。
「ma■ā■」→「ma■a■」
- マナール(manāl → manal)≠ マナル、マーナル、マーナール
このケースではManalをManālと戻した上でカタカナ化するのが適切です。
その他長母音を複数含む名前
名前の中に長母音を何個も含む場合がありますが、英字での表記では全部短い母音になってしまっていることが多いので要注意です。
- ファールーク(fārūq → faruq)≠ファルク、ファールク、ファルーク
- ターハー(tāhā → taha)≠ タハ、ターハ、タハー
このケースでは、全部の箇所を長母音アー、イー、ウーに戻した上でカタカナ化するのが適切です。
長母音記号の代わりに短母音2個を続けて書いてある場合
人によっては自分の名前の英字表記において、長くのばすアー、イー、ウーを短母音を2個連ねたaa、ii、uuにしてあることもあります。またuuの場合はouで記してある場合もあり、慣れていないと間違ったカタカナ表記にしてしまいがちなので要注意です。
- ā(アー)→ aa、まれにahのことあり
- ī(イー)→ ii、もしくはee、yのこともあり
- ū(ウー)→ uu、もしくはouやooのこともあり
イーをeeと書くこともある名前の一例がKareem(カリーム)です。これは元をたどればKareem → Kariim → Karīmなので、カレームとカタカナ化するのは不適切です。
イーをyと書くこともある名前の一例がRamyです。人名でこの英字表記の時はラムユではなくRamīやRamiを意図しています。
ウーとouと書くこともある名前の一例が、Saoud もしくは Saood(サウード)です。これは元をたどればSaoud / Saood → Sauud → Saūd なので、Saoud=サオウド、Saood=サオードとカタカナ化するのは不適切です。
注:厳密にはアインという子音がはさまっているので学術書とかでは英字表記に「‘」を加えてSa‘ūdとします。ただのウーとは違い直前に苦しげに喉をしめるような子音を入れるので、アラビア語ではォウーに近く聞こえることがあります。
二重母音(ai・au)
ai↔ay、au↔awは同じ二重母音の異なる英字表記方法
アラビア語の二重母音はアイ(ai)とアウ(au)の2つだけです。
アラビア語の名前の英字表記では二重母音をwの字やyの字で表します。アラビア文字では見た目ayとなっている部分をaiと読み、awとなっている部分をauと読みます。
英字表記ではay、awの方で書かれていることもしばしばですが、カタカナ表記する上では基本的に同一です。
- faisal ↔ faysal (ファイサル)
- shauqī ↔ shawqī(シャウキー)
- taufīq ↔ tawfīq(タウフィーク)