中東言語未対応のソフトで起きる左→右方向のバラバラアラビア文字トラブル

長年にわたり多発する左右逆順&バラバラのアラビア語

テレビやデザイン画像でよく見かけるバラバラのアラビア語

اشتهر في الخليج العربي と正しい文字列をコピペしたのにソフト内で分解してしまった例。こうした1文字ずつのアラビア文字が右から左とは逆の左から右方向に連結無しの単独状態で並べられていく状態が、SNSなどで「アラビア文字バラバラ事件」と呼ばれています。

広告ポスター、書籍、商品ラベル、テレビ番組のテロップなどで時おり見かけるおかしなアラビア語表記。文字がつながっておらずバラバラ、というかそもそも左右すら逆という代物で、SNSなどでも「おかしい」「ちゃんとチェックすべき」「恥ずかしい間違い」「どうしてこうなった」と写真つきで取り上げられていることも少なくありません。

この種の出力ミスはちょっとした食品のパッケージや店舗内掲示から大きなプロジェクトのポスター類まで色々な場面で発生しており、起きるたびにネット上で話題になるということが繰り返されています。

2020年東京オリンピックの際の感謝メッセージ、24時間テレビのTシャツなど一大イベントで使われるポスターや商品でも起こっており、一向に減らないバラバラ事件発生は今でもアラビア語界隈で話題になるなどしています。

アラビア文字事故の具体的な状態

昔からよく起こっているこの現象。バラバラのアラビア語を逆から1文字ずつ読んでいくとたいていの場合は一応正しい文章になっおり、本当は母音記号も正しい場所に打ったのだろうと思われる位置付近に来ています。

このことからも文字列の分解はアラビア語担当者がテキストを入力した時には正常だったにもかかわらず他のデザイン担当者に渡した後で問題が起こっている、もしくは個人のクリエイターさんがネット検索やGoogle翻訳などでアラビア文字のフレーズを見つけてきてコピーペーストした直後に起こっていることが推察できます。

表示不具合はアラビア語を知らない人が最初からわざと1文字ずつバラバラにして左から右へと逆に1文字ずつ丁寧にカタカタ入力している訳ではなく、文字列を作ったワープロソフトなどでは普通通りにキーボードを押して書いたものの、文字表示ミスを起こすソフトにコピー&ペーストで入れた時点で分解が発生しているのが一般的です。

そもそもアラビア語未習者の方は連結してつながっている文字列が1文字ずつどのアルファベットに分解されるか知らないのが普通なので、わざと分解して1文字ずつ左から並べ直すという芸当はアラビア語を知っている人にしかできないように思います。

普段見かけない分解事故が印刷物や字幕に多い理由

普段Wordなどのワープロソフトやネット検索をしている限りはこうしたバラバラ事件は起こらないので「日本人がアラビア文字に疎いせいで後を絶たない」「関係者の不注意と意識の低さが招いた」「下手に多言語にこだわるからいけない」という方向に話が進みやすいのですが、昔はWindowsパソコンなどでもこうしたアラビア文字関係の不具合は起きておりアラビア語界隈の人間は完全対応を心待ちにしていたものでした。

OSや主要ソフトで多言語対応が一通り済んだことから過去にそのような紆余曲折や試行錯誤があったこと自体をご存知ない方も多くなっているかもしれませんが、今でもOSにせよソフトウェアにせよアラビア語に対応していない・多言語機能がONになっていないと表示不具合が発生します。

印刷物、商品ラベル、テレビの字幕でばかり文字がバラバラになるのは業界関係者が一般のパソコンユーザーがあまり使わない業務向けソフトを使っているからで、特別な設定をしなくても大半の言語に対応するという便利な状態を既に達成したOSと違い、十分な対応が進んでいなかったり、アラビア語対応機能が標準ではOFFになっていたり、元から対応していなかったりすることで起こります。

アラビア文字のバラバラ事件は普段パソコンやスマホ、タブレットでアラビア語文を読んだり入力する際には問題が無いのに、普通の人が普段使いしないような特定のソフトで起こるせいでその発生が起きる可能性を見落としがちだという多言語対応が進んだ時代ならではの落とし穴も存在しているように思います。

アラビア語バラバラ事件の主なソフトの非対応か機能ON忘れが原因

グラフィック関係のソフトウェア

グラフィック、イラスト関連のソフトウェアではアラビア文字のバラバラ化が起きやすいです。ソフトウェアがアラビア語入出力を考慮していない場合と対応しているものの設定が不十分で起きている場合とに分かれますが、おそらくプロのデザイン業界で起きている現象に関しては設定未完了であることが原因だと思われます。

特にポスター、イラスト、製品説明書などに関しては業界最大手Adobeのグラフィックデザインソフトを使用しているケースが多いのではないでしょうか。しかしこのAdobe製品、長年の間多言語サポート機能が通常の状態ではOFFになっているという作りをしており、設定画面でわざわざONに切り替えないと確実にアラビア語部分のバラバラ化が起きてしまっていました。

Adobe製品新バージョンで進んだ多言語対応

長年の間アラビア文字バラバラ事件を起こしてきたAdobe社のソフトですが、一部製品において機能をONにしないとアラビア文字がバラバラになるといった問題を解消する「統合テキストエンジン」がついに搭載されました。(PhotoshopについてはPhotoshop 23.0(2021年10月リリース)以降で対応との告知あり。)

ついに実現~特別な設定は不要に

Wordソフトのような感覚で言語の切り替えとフォント選択をするだけで済むようになったので、業界関係者の間で新バージョン切り替えが進むにつれてアラビア文字分解事件も減っていくものと思います。

Adobe製品旧バージョン/未対応製品における多言語設定

Adobe旧製品ならびにPhotoshopのような多言語対応の統合テキストエンジン未搭載製品の場合は「Adobe 多言語対応段落コンポーザー」というような名称の外国語・多言語対応のオプションがあり、これをONにすることで中東系言語(アラビア語、ヘブライ語)やインド系言語、東南アジア系言語のサポートが有効になります。


Adobe公式サイトに掲載されている後から設定が必要になる言語のリストです。逆に言うと、これを設定しない初期状態では表示異常が起こる形です。

Adobe製品はしばらくの間アラビア語対応自体をしておらず、対応後もデフォルトではアラビア語エンジンの設定がOFFになっているため機能が搭載されていることに気付かず「Adobe製品は今でもアラビア語版に対応していない」「自分の持っているソフトウェアではアラビア語がちゃんと入出力できない」と勘違いされていることが多いように見受けられました。

しかし近年リリースされたAdobe製品では多言語対応エンジンが進んでおり、最新版でなくてもアラビア語バラバラ事件が起こらない機能を搭載しています。ポチッと設定変更するだけなのでアラビア語ここ最近のバージョンをお持ちの方は一度多言語関連の設定をチェックされることをおすすめします。

関連記事

サイト内関連記事~Adobeソフト設定マニュアル

外部サイトの設定ガイド等

テレビ局のテロップシステム

テレビ番組の字幕でアラビア語がおかしくなるのは、テロップを流す専用のシステムが多言語対応していないことが原因で起こります。

「外国語ができるテロップ係を雇うべき」「どうしてチェックしないのか」という意見もあるかと思いますが、そもそもテレビ局自前の機械がアラビア文字に対応していなければ誰が入力してもバラバラ化を防げません。

せっかくアラビア語ができる人物に文章の作成を依頼しても、最後まで立ち会わせテロップを入れる部屋まで入れて最終仕上がりをチェックさせなければ現場の人々はアラビア語非対応の事実について特に気にせずに放送してしまうのが現状かと思います。自分のところの機材が多言語に対応していないことを気にせず作業を繰り返すと、何年にもわたりそのスタジオでバラバラアラビア語字幕が繰り返し生産されることになります。

テロップやワイプって、どうやって作ってるの?「王様のブランチ」技術チームに聞いてきた』はテレビ局のテロップ入れ作業に密着した取材記事で、編集作業の様子がとてもよくわかります。スーパーや字幕を入れる機械類は価格が4桁万円ということなので簡単に「多言語対応製品に入れ替えよう」という話にはどうもならなさそうな感じです。

日本のテレビ局が使っているテロップシステムにはいくつかの有名メーカーがあって、以下の3社が大手として知られているそうです。

字幕制作システムのスペック表やカタログを見る限り多言語対応をうたっているものは見当たらず、中東言語までに対応している製品は一般的ではないようです。海外でも映画やドラマで同様の表示不具合が報告されているので、まだまだ多言語対応が進んでいない分野なのかもしれません。

オンラインゲームとバラバラのアラビア語

最近はオンラインゲームで日本人のプレーヤーの方がアラビア文字ユーザー名の対戦者と出くわすことも増えていますが、SNSなどでチーター関係の報告をされている方の書き込みを見ると同様にバラバラで左右が逆になったアラビア語ユーザー名になっていることが多いです。

これもやはり原因は同じです。アラビア語を始めとする中東言語にそのゲームの言語表示システムが対応していないためです。

アラビア文字の表示不具合とパターン

アラビア文字と正常でない表示にも色々

考えられる表示不具合や入力ミスの例をいくつか並べてみました。

  1. ◯ العربية 正しい形
  2. ×  ا ل ع ر ب ي ة 文字方向は同じ&文字同士は連結せず(orスペースが入っている)
  3. × ة ي ب ر ع ل ا 文字方向も逆で、文字同士も連結していない
  4. × ????? アラビア文字入力自体に対応せず文字化けする

2は昔のMicrosoft Wordとかでも見られたパターンだったように記憶しています。文字方向は合っているのですが合字処理がおかしくて連結しないパターンです。古い世代の日本語版Officeは中東言語の入力に対応しておらず過渡期は中途半端な状態でした。

Windows OSもレガシーかつ日本語版だとアラビア文字のファイル名がきちんと表示できずCD-ROMを買ってもソフトが使えなかったりして、別途アラビア語版Windows OSを購入せざるを得ませんでした。選択肢としては 別のマシンを買うか日本語OSとのデュアルブートにするかでしたが、大昔は皆Windowsなど使っておらずアラビア語対応が早かったMacを使っていました。

3はパンフレット・ポスター・製品ラベルやテレビのテロップでよく見かけるタイプのアラビア文字処理不具合パターンです。Adobe製品でも旧バージョンだったり最新版でも未設定だったりするとこうなるのですが、同社ソフトウェアはパンフレットや製品パッケージのデザイン業界で広く使われているので、巷で見かけるおかしなアラビア語文のかなりの割合はそれらが原因で起こっているのではないかと思います。

Adobe Photoshopの例


中東言語を含む多言語入力のエンジンにチェックを入れないとこうなります。初期状態ではこうなる設定になっています。

よく見ると文字方向が逆になっている、文字が連結していない、という他にも母音記号の位置がずれているのが分かるかと思います。通常は母音記号をアルファベットの各文字と正常な位置で組み合わせて1文字分のスペースに詰め込むのですが、その連結関係が正常に再現されず本来結びつくはずの文字の後に来てしまっています。(*各フォントと記号の形自体はこういう物として設定されているので、文字方向が逆になっても文字自体が左右反転して鏡像になることはありません。)

私が持っているソフトのバージョンと環境では、母音記号は後続の文字の上下に来て、シャッダ記号とダンマは一応重なり合っている感じになりました。

多言語エンジンを設定し、新しいファイルで作り直すとこんな感じになります。これが正常なアラビア文字の入出力になります。

文字の分解と左右順逆転トラブルの背景

原因

このバラバラアラビア語トラブルは、デザイン段階で使用されるソフトウェアもしくはテロップを流したりするシステムの側できちんと対応できていないために起きる現象になります。英語ではwrong renderingやincorrect renderingと書かれていることが多いです。(日本語で言うとレンダリングミスとかいった表現になるかと思います。)

それを改善しないとアラビア語やそれと同じ文字方向であるペルシア語、ウルドゥー語、ヘブライ語などで不具合が繰り返されることになります。一度中東文字バラバラ問題を起こしたシステムを入れ替えないまままた中東系言語のテロップを作りると、同様の現象がずっと続くことになるわけです。

そして現場で中東系言語の文字方向に関する注意点が認識・共有されておらず、かつアラビア語担当が最終的に仕上がった映像や画像を再度チェックをしないと、アラビア文字を流し込んだ時点で異常が起きたことに気付かないシステム不備とチェック不足が改善されず長期にわたり同様のものが世の中にリリースされる続けることになるという次第です。

アラビア語などの中東言語のソフトの対応

これは昔Windows OSやOfficeソフトで中東言語対応が不十分だった時代から続いている問題で、アラビア語入力に対応していないソフトなどでは文字すら出ず「???」のように文字化けしてしまうことも。

(アラビア文字に対応すらしていなかったUNIXの時代~Windows等アラビア語対応完了まではArabiziやFrancoと呼ばれる英数字を使ったアラビア語文の作成が行われていました。現代の若者たちに多用されているチャット・SNSの英字入力の起源です。)

Adobe社のソフトはアラビア語対応が済んでいますが、各国のユーザーたちが長年待ち望んでいた割には実現が遅かったようです。(Adobeの場合、多言語対応レイアウト、中東言語の機能という項目で設定をしてようやく正常な非常と入力が可能になります。)

グラフィックやイラストを扱うソフトは未だにアラビア語未対応なものも多いです。ソフト内でアラビア文字を入力できない場合の対処法としてどこかからアラビア語の文をコピーしようとしても、ペーストした段階で上のようなバラバラの文に変身してしまったりとなかなか上手くいきません。

アニメやコミックが流行してイラストソフトのアラブ人ユーザー人口が増えてもソフトはアラビア語未対応が続いているケースもあったりで、ユーザーたちから対応を求める声も次第に大きくなっている模様。

しかしユーザーが要望をずっと出していてもユーザーフォーラムでたびたび話題に上がってもアラビア語対応が長年実現しないままのこともあり、開発する側が中東言語対応という大変な作業をしてくれるかどうかは会社の意向次第、という感じのようです。手間とか費用とかの都合でアラビア語ユーザーが切り捨てられている形なのかもしれません。

海外でも頻発するアラビア語バラバラ事件

アラブ系住民が多い地域でもしばしば起こる事例

ちなみにこのようなミスは日本以外でも数多く起きています。

国連という重大な場所でロゴ下の文字がバラバラになっていることが発覚。アラビア語はれっきとした国連公用語ですが、依頼した業者や製品を実際に製造するラインを経由していくうちにこのようなバラバラ分解が起きてしまったようです。

ドバイDELOS INTERNATIONALビルの立派なエントランス看板が誤植で話題に。ドバイというアラビア語圏であるにもかかわらず、デザインを任せた会社が十分なノウハウを持ち合わせていないことが原因でこのような事態になったようです。

外資系の企業と外国人建設作業員に任せた結果、アラビア文字の異常が発覚しないまま完成してしまったものと思われます。

オリンピック開催時に大型ショッピングセンターであるウェストフィールド(Westfield)が掲げたロンドンへようこそ横断幕です。

英国の中東政策に意見したり英国社会におけるアラブ人・アラビア語文化に対する誤解を是正したりすることを活動目的としたアラブ人団体The Council for Arab-British Understanding (Caabu) も問題を指摘。BBCにも報道されてしまいその後急遽作り直されたとのこと。

ちなみに日本の場合は発言力を持ったこういう団体が無いため、企業が作ったポスターや製品のバラバラアラビア語が放置されやすいです。

ロンドン・バービカン・センター(Barbican Centre)のイベントポスターで全て文字がバラバラに。ポスターのデザインからするとアラブ系住民向けに作られたもののようですが、委託先で印刷されるまでの間にアラビア文字列分解が起きそのまま納入・掲示されてしまった模様。

Liverpool Cathedral(リヴァプール大聖堂)のデジタル案内板です。こういう電子画面やテレビゲーム、モバイルゲーム類はソフトウェアが英語などとは逆方向に筆記する言語も含め十分な多言語対応をしていないとアラビア語文字の逆向き配列+バラバラ化が起こりがちです。

海外ドラマ『Avenue 5(アベニュー 5)』画面。上に書いてあるであろう「Welcome Aboard」という言葉に対応したアラビア語「مرحبا بكم في الفضاء」 [ バルハバン・ビクム・フィ・ル=ファダー(ッ) ](皆さん宇宙へようこそ)が書かれているのですが、アラビア文字特有のアルファベット同士の連結と文字方向が英語とは逆向き(左←右)になっているのとに対応できていないため、左から順にバラバラのアルファベットをただ並べてあるだけになってしまっています。

海外サッカー選手マルティン・シュクルテル選手上腕部のファーストネームタトゥー。刺青は彫師に依頼する際に「こういうアラビア文字でやってもらえるかな?」と図案データをメールで送ったり印刷したりする過程で文字列分解が起こりやすいです。

管理人の個人的な経験から

私自身が最近見かけたのは、アラブ系住民が多い英国の大手会社(中東にも複数店舗所有)がアラビア語・ヘブライ語部分で逆方向になってしまったまま画面いっぱいの大きな告知画像を掲載し、数日後に差し替えたケースでした。

中東言語を扱う会社から文章を受け取ったスタッフたちがアラビア語やヘブライ語を理解しておらず、問題に気付かずにアップロードしてしまったようです。

日本と違うなと感じたのは非常に対応が早かった点です。

英語やアラビア語でこういうバラバラ化に関してやり取りされている情報量も多く、設定方法を紹介したWEBページや動画に比較的容易にアクセスでき、すぐに対応できるアラブ人スタッフも数が多いものと思われます。

英国Westfieldでの横断幕レンダリングトラブルの事例で見られたように、国内にあるアラブ人コミュニティが大きく是正を求める要求や声明を出す組織が活動している点も日本とは異なります。

消せないタトゥーの場合は特に注意が必要

海外では趣向を凝らしてアラビア語のタトゥーを入れてもらったと思いきや、コピーペーストや表示の段階でこの左右逆のバラバラ化が起こってしまい誤記を消せない形で肌に刻まれてしまって手遅れな事態に、というケースも多発しているようです。

『Awful Arabic Tattoos』(ひどいアラビア語のタトゥー)といったタイトルのページに写真が集められ紹介されたりもしています。

「こういうのでお願いします」とコピペでアラビア文字をメールやSNSで送ったり、画像データにして送ったりするうちに連結していた文字がバラバラになってそのまま誤字タトゥーが肌に刻まれることとなってしまう可能性があります。アラビア文字でタトゥーを彫ろうとしている方はくれぐれもご注意ください。

アラビア語表示とレンダリング

コンピューターで使う言語としては複雑な部類に入るアラビア語

アラビア語は文字を右から左(RTL)に書くにもかかわらず数字は左から右(LTR)です。文字の方向に混在が見られることから、キーボードを打って入力した文字を正しく連結させて表示させるのが難しい言語に分類されています。

(RTL、LTRにきちんと対応しているソフトウェアでも、RTLやLTRいずれかに設定してある同一の段落で混在させると括弧や句読点などを入れて入力しているうちに前後の順が乱れたりすることがあり、結構面倒です。)

アラビア語は、

  • 複雑なテキストレイアウト=complex text layout、CTL
  • 複雑なテキストレンダリング・描画=complex text rendering

を必要とする言語で、使用するソフトウェアの左↔右の双方向言語サポートがちゃんとしていないと不具合が起きてしまいます。

昔はWindowsもPhotoshopもアラビア語にきちんと対応しておらず対応を開始した当初は中途半端だったのですが、今ではすっかり変わって色々と快適になっています。

しかしメディア・デザイン関係者が使っているソフトウェアもそうした流れに追いついているとは言い切れず、また十分に対応していてもきちんと該当メニューにて設定しないと表示がおかしいままだったりするので、未だに珍妙なバラバラ逆向きアラビア語が無くならないのだと思われます。

関連ページ

アラビア語レンダリングの大変さ

YouTube動画『ゼロから始めるアラビア語レンダリング』

以前アラビア語入力・表示について調べていた時に見つけた動画です。2019/9/25-6開催 Unite Tokyo 2019講演スライドという資料もシェアされています。
→『【Unite Tokyo 2019】ゼロから始めるアラビア語レンダリング

携帯電話向けゲーム開発を行うKLab株式会社 今福文章氏による公演の記録なのですが、キャプテン翼のゲームをアラビア語化することになったもののレイアウトエンジンが対応していなかったためアラビア文字が正常に表示できず、対応を依頼された経緯を語られています。

この動画を見るとテレビ番組などでおかしなアラビア語表示になってしまう理由、改善するための作業がかなり煩雑であることがよくわかるかと思います。長い動画ですがおすすめです。

今は削除されて見当たりませんが、管理人が視聴した当時関係者の方がSNS上で「ゲーム開発者的にアラビア語対応は修羅の道。ただ世界の話者数を見ると無視できなくなりつつある。どんな修羅道が待っているかは以下のスライドから一部確認できます。」と書かれていました。そこからも現場の方たちが相当苦労されている様子がうかがえます。

若い世代の方は既に完成された状態しかご存じないのでいまいちぴんと来ないかもしれませんが、昔のOSはアラビア文字対応が完了しておらずバラバラ事件があちこちで多発していました。アラビア文字を右から書いて接続させるだけなら簡単ということは決してなく、20年、30年という長い時間をかけて築き上げられてきた成果の賜物です。

ゲーム開発の現場ではそうした作業を改めてされている形なので手間もかなりかかっているのではないかと思われます。

海外での取り組み

開発現場などでのニーズも大きいため、アラビア文字入力に十分な対応をしていないソフトで何とか使えるようにするためのテンプレートが編み出されたり、文字方向の混在を想定したレイアウトエンジンのHarfBuzzが開発されるなど、数々の苦心と工夫が今もなお続けられています。

関連ページ

アラビア文字を含む映像・画像を扱う仕事について

多言語字幕・テロップを扱う専門会社の存在

外国語ができる人材を個別にテレビ局が雇って編集室にある字幕をつける機材のシステムまで変えるのは現実的ではないということで、各種外国語の字幕・テロップを正常な形でつけて映像を仕上げる専門の業界が日本国内にも存在します。

アラビア語を理解するネイティブや日本人スタッフがいて、中東言語や左→右と左←右の双方向入力に対応した機材を取り揃え、テロップとトークがちゃんと合っているかまでを確認してくれるとても心強い存在です。

しかし全てのテレビ番組やコマーシャル制作会社がこうした会社を使っている訳ではないので、中東言語未対応のシステムでテロップをつけてしまいそのまま放送される事例が無くならないのだと思われます。番組を制作する側の外国語に対する認識、重要視の度合い、こうした作業にかける費用を惜しまないかどうかにも関係してくる問題なのですが、全面的な解決はなかなか難しいようです…

対策~最初に文字列を画像化する、各言語専門家の最終チェックを受ける

アラビア文字を含むデザインを請け負われている方は、文字がバラバラになってどこも連結していないことに気付いたら必ず設定を変更されるか、使用するソフトウェア自体がフルで中東言語をサポートしているかどうかを確認され、最終的にアラビア語文を作成した方にチェックを依頼するのが良いかと思われます。

ちなみに文字同士の連結が起こらないヘブライ語では左右が逆になっていてもわかりづらいです。デザインでヘブライ語を引き受けられた場合は、文の先頭から1文字ずつ文字の形を確認していって逆転しないかアラビア語以上によく確認する必要が出てきます。

この手のトラブルはアラビア語などに通じた専門家に依頼して正しい文章を作っても、それらの言語に詳しくないデザイナーさんの手に渡った時点で文字列が崩壊を起こします。複数人で連携してイラストを制作される場合は、絶対に外国語部分の最終チェックを行って下さい。

アラビア語に限らずAdobeの各ソフトは未設定だと特定の複数言語で表示がおかしくなる仕様になっています。アラビア語やヘブライ語だけでなくイラン、パキスタン、インド方面の言語なども同時に問題を起こす傾向が強いです。

世界各国語のメッセージを散りばめた画像を作る場合は最初に文字部分を画像化して変更できないようにするか、完成後各言語の専門家に見せて正常な表示を保っているかどうか点検してもらうかする必要があります。

事業に対する信頼性や評判が損なわれる可能性があるので、この点については慎重に対応されることをおすすめしたいところです。

 

(2023年11月 Adobe多言語対応の変更について追記)