おすすめ度:★★★★☆ 取り組みやすいのでおすすめ
アラビア語表記やラテン文字転写の細かい部分は気になるものの
ニューエクスプレスに似た構成でイラクに渡航したいアラビア語履修学生さんや
文法と日常会話学習を両立させたい初級学習者にちょうど良い内容
著者:Yasin M. Alkalesi
出版社:Georgetown University Press
ページサンプル
目次と本編の見本は米国Amazonの商品サンプルやGoogleブックスで確認可能です。
本の概要
公式ページ:https://press.georgetown.edu/Book/Modern-Iraqi-Arabic-with-MP3-Files
新版と旧版、題名の違い
米国ジョージタウン大学の出版部である Georgetown University Press が2006年に刊行。会話スキットと文法学習がセットになっています。
『Modern Iraqi Arabic』自体にはオレンジ色の表紙をした2001年刊の旧版
CD教材だった頃の旧版
画像引用元:Amazon.co.jp(引用のためアフィリエイトリンクをはってあります)
があったようで、Google ブックスで中身のプレビューを見ることができます。当時はCDがついていたらしく、新版に切り替えた際にMP3ファイルをジョージタウン大学出版サイトからのダウンロード方式となり、題名も『Modern Iraqi Arabic with Mp3 Files』に変わった模様です。
両者を比べてみると表紙とフォントが変わった以外にも、旧版ではラテン文字転写だけだったところにアラビア文字表記を追加したりと、大幅な改訂を行ったためにページ数も100ページほど増えた形となっています。
内容
ジョージタウンの書籍公式ページ内「Table of Contents」でも公開されている目次からの抜粋と大まかな課題名和訳は以下の通りです。
- Lesson 1: Arabic Alphabet and Vowels(アルファベットと母音)
- Lesson 2: Greetings and Courtesy Expressions(挨拶)
- Lesson 3: Asking for Directions(方向・行き先を尋ねる)
- Lesson 4: Arrival at Baghdad Airport, Part I(バグダード空港への到着1)
- Lesson 5: Arrival at Baghdad Airport, Part II(バグダード空港への到着2)
- Lesson 6: Taking a Taxi(タクシーに乗る)
- Lesson 7: At the Rashid Hotel(ラシードホテルにて)
- Lesson 8: Introductions(自己紹介)
- Lesson 9: Speaking Arabic(アラビア語を話す)
- Lesson 10: Telling Time(時間を伝える)
- Lesson 11: Visiting the Iraqi Museum(イラク国立博物館を訪れる)
- Lesson 12: Trip to Babylon(バビロン(バービル)への旅)
- Lesson 13: At the Bank(銀行で)
- Lesson 14: At the Post Office(郵便局で)
- Lesson 15: In the Restaurant(レストランで)
- Lesson 16: Family and Relatives(家族と親戚)
- Lesson 17: Medical Care(医療)
- Lesson 18: Media: Radio, Television and Journalism(メディア:ラジオ、テレビ、ジャーナリズム)
- Lesson 19: Telephone Conversations(電話での会話)
- Lesson 20: Cultural and Folkloric Tales(物語)
- 単語集
初級口語アラビア語学習本に求められている会話スキットを一通り揃えているほか、イラク観光で定番の名所やホテルなども登場するので、イラク方言を始めた頃にこの学習書に取り組み非常に有用だと感じました。
名物のマスグーフを食べに行ったり遺跡を訪れたりと一通りの観光アクティビティーをカバー。定番フレーズ・慣用句も掲載されており非常にバランスは良いです。
練習問題の解答ですが、大学の授業向けに作られていることもあってついていません。ただ、本文部分だけでも十分活用可能なので、買う価値は十分にあると思います。
難易度
難易度は白水社のニューエクスプレスをもう少し詳しくした程度で、比較的学習しやすいです。色々なイラク方言の教本を購入し5年ほどの間に色々読んだりしましたが、この『Modern Iraqi Arabic with Mp3 Files』が一番無難で初期に取り組むにはとても良かったです。
ただ、大学出版の口語アラビア語教材ということで全くの初歩の初歩といったレベルではなく、最後の課がライオンと狼が登場するやや行数の多い物語となっているなどするため、アラビア語自体も口語アラビア語(アーンミーヤ、いわゆる方言)も全く初めての方には難しく感じられるのでは、と思います。
だいたいの目安としてはフスハー経験が1~2年あると完走しやすく、フスハー経験が3~4年かつ他のアラビア語方言の学習経験があると比較的短期間で終わらせることができる、といった感じかもしれません。
表記
表記についてはアラビア文字と英字による転写がセットになっているので、この本で学習するとイラク人が書くイラク方言のアラビア語表記を読むのが楽になるなど、ラテン文字転写だけの場合よりも実用性が高いです。
アラビア文字表記は1文字だけの前置詞でも分かち書きする、シャッダでまとめる الله のような語が أللاه のように分解されているなど、フスハーや既習の他地域アーンミーヤ文とは違っている点、それに加えて通常のイラク人が書くイラク方言アラビア文字表記とも多少異なるこの本特有の当て字などもところどころに見られました。
他地域ネイティブたちの一般的な口語文アラビア語表記とイラク式との差異や本の著者の癖らしき部分との双方が混ざっている『Modern Iraqi Arabic with Mp3 Files』には管理人自身も最初戸惑いましたが、フスハー学習などでアラビア文字慣れしていてネイティブたちがアーンミーヤ文をフスハーとは違う表記をしばしば行うことを知っていれば、読み進めていくうちに慣れてきて気にならなくなるかと思います。
誤字脱字
上記とは別に、転写やアラビア語表記などに細かい誤字脱字類がやや多めだと感じました。
音声教材
ジョージタウン大学出版の書籍公式ページ内にある「Additional Resources」に Supplemental Materials として複数の圧縮フォルダが置かれており、自分でダウンロード&解凍して利用する形式となっています。
PCにダウンロードしたものをiPadに転送したところ、全185ファイル、合計9時間3分と表示されました。会話スキット以外の語彙集や文法学習用例文なども音読しているため長大な時間数となっていますが、そのぶん聞いて覚える文法書といった感じで繰り返しリスニングするのに向いているため、自分も繰り返し聴いて基礎文法や慣用句を覚えるのに活用しました。
ナレーターは全編同じ人物で、進行役も会話スキットも全て著者と思われる男性が吹き込み、男性役も女性役もこなしています。そのため臨場感というかリアリティーに欠ける部分があり、アラビア語にありがちな男性特有の話し方と女性特有の話し方のそれぞれを体験することができないというデメリットがあるように感じました。
男性と女性のナレーターが複数登場するような実際の会話に近いよりリアルな会話教材をお求めの方は、Hippocrene Books の『Beginner’s Iraqi Arabic with 2 Audio CDs』を追加で学習されるのが良いものと思います。
感想
色々なイラク方言学習書を比較した結果、まず買うならこの一冊がおすすめだと感じました。
ジョージタウン大学出版の復古版シリーズとして出ているイラク方言の文法書に比べると精度が低いので学習書としての完成度としてはもう一息といった印象もあるのですが、総合的に見れば有用性が非常に高い教材だということで★は4個としました。
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Modern Iraqi Arabic with Mp3 Files 著者:Yasin M. Alkalesi 出版社:Georgetown University Press ![]() |