Iraqi Dialect Through Dialogue【書籍レビュー】

Iraqi Dialect Through Dialogue

おすすめ度:★★★★☆
イラク人・イラク系移民同士が会話する形式で地理や社会情勢も学べる良書
アラビア語-英語、アラビア語-アラビア語のイラク口語辞書を使いながら
比較的長めのリスニングができる中級以降の学習者におすすめ

著者:Dr. Shak Hanish、Dr. Hanada Taha(Hanada Taha-Thomure)
出版社:Montezuma Publishing

本の概要

公式ページhttp://www.montezumapublishing.com/larc/arabic

入手方法

サンディエゴ州立大学 Montezuma Publishing から2015年に刊行されたイラク方言学習書で、現在中古で出回っているのは第2版(Second Edition)になります。

既に絶版になったようで公式サイトのアラビア語学習書一覧からは削除されており、同出版社のアラビア語学習書特設サイトに初版(2010年)の表紙写真とMP3ファイルが置かれているのみとなっています。

米国Amazonにはまだかろうじて新品の在庫がわずかに残っているようですが、全体の流通数が非常に少ないのか、中古品の価格がかなり高く新品の在庫が無くなった後は入手が困難になっていくものと予想されます。

内容

日本や米国Amazonには「Iranian Languages Edition」「イラン語」と書かれていますが、イランのペルシア語とは全くの無関係で、イランに住むアラブ系住民のアフワーズ方言とも違う、純粋なイラク方言(具体的にはバグダード方言)の学習書となっています。

レッスンは全部で55課。イラクの地理、政治、イラク社会、治安問題に大別され、それぞれのジャンルにつき15課ほどが用意されています。

対話方式になっていますが非ネイティブ向けの日常会話学習書らしさは少なく、イラク在住のイラク人同士が会話をしたり、米国に住むイラク系移民がイラクに渡航したりするといった設定の会話スキットが中心となっています。

イラクが大荒れだった時期に作られた教材ということもあってか、イラクから他国に逃れたものの生活が成り立たずアメリカに移住したイラク人スタッフらの実体験に基づく複雑な心情がこもった課が多いように感じました。

かなり政治色が強めでバアス党時代の暴虐や女子の誘拐・暴行、店舗がテロで爆破され消失、負傷して手足を失う、武装グループに誘拐され失語症になった息子を持つ父親、武器の隠匿、死者の遺体を匿って当局に責められる話なども出てくるため、学習者さんによっては生々しすぎてあまり好きになれないかもしれません。

難易度

文語アラビア語と共通の時事関係語彙が多数登場すること、本文が長めであることから、フスハー学習経験が3~4年ぐらい、イラク方言も他書である程度学習した時点で取り組む本だとの印象です。

長いスキットだとテキストの約3ページ分、音声ファイルも長めのものだと3~6分の長さになりますが、普段から長時間のアラビア語番組視聴に慣れている方ならラジオ番組に近い感覚でリスニング練習ができるかと思います。レベルに合ったタイミングで使うと非常に効果的な教材だという気がします。

会話スキット本文の後に単語リストがあり英語での意味が併記されていますが、アラビア語-イラク方言オンライン辞書で調べても出てこない言い回しなどもあり、自分は『 المعجم للكلمات والمصطلحات العراقية 』の助けを何度も借りました。

色々なイラク方言辞書やネット記事やSNS投稿で調べても意味が良くわからない表現も複数あり、練習問題があっても解答は載っていないなどするため、本来はイラク人に並走してもらいながら取り組む教材で、独習にはやや向いていないのかもしれません。

表記

テキストで読者に説明や指示をしている部分は英語、会話スキット本文は発音記号(母音記号)をところどころにふったアラビア語文のみ、ボキャブラリーリストは発音記号(母音記号)を部分的にふったアラビア語表記+英語での意味、という形式です。

ラテン文字転写の併記は無いので、正確な発音についてはアラビア語-英語口語辞典や文法書で別途調べる必要があります。しかしながら学習者の時点でそうした高度な作業は容易ではないので、訳出作業とリスニング練習を中心に行う感じになるかと思います。

音声教材

Montezuma Publishing のアラビア語学習書特設サイトに初版(2010年)対応のMP3ファイルが置かれており、サイト上で再生したりダウンロードしたりする方式です。

PCに保存後iPadに転送したところ、全55ファイル、合計2時間31分と表示されました。

ナレーターは何人かの男女イラク人らが担当。時々言い直したり、ページをめくる音が大きめだったり、私語が混ざり込んだりもしていますが、早口すぎるということもなくそれなりに聴きやすい教材だと感じました。

余計なジングルも使われていないので長時間の繰り返しリスニングが非常にしやすく、イラクの地理・政治・宗教・治安・海外移住について知ることができるため、イラク方言を勉強し始めた時には毎日1~2周、その後も2日1周といったペースでリピートし、2021年から2025年までの間におそらく数百回ぐらいは聴いた気がします。アラビア語学習書の音声教材でこんなに何度もリスニングをしたのは初めてで、個人的には非常にお世話になりました。

書籍本体はかなり入手が難しくなってきていますが、サイトからMP3をダウンロードして何度か聴いてみるだけでもかなり違うと思うので、おすすめです。

感想

全体的な作りとしては不足感があるものの、音声教材が自分のニーズにちょうど合っており繰り返しリスニング学習でとてもお世話になってので★4としました。

 

Iraqi Dialect Through Dialogue Iraqi Dialect Through Dialogue
著者:Dr. Shak Hanish、Dr. Hanada Taha
出版社:Montezuma Publishing