アラブ街頭インタビュー「あなたはフスハーしゃべれますか?」

フスハー&アーンミーヤ事情がマイブームだった時に見た動画の視聴記録です。

色々な国の「フスハーしゃべって」動画

アルジェリア

世界アラビア語の日に合わせてフスハーチャレンジ動画を撮影したテレビ局が多かったようで、検索すると色々な動画を見ることができます。

こちらもそのひとつで、Ennahar TVというアルジェリアのニュースチャンネルが撮影。これがアルジェリア社会におけるアラビア語の現状、というタイトルで口語台頭地域であるアルジェリアのことを問題視していることがうかがえます。サムネイル画像も人々の顔を配置した下辺りに「わたしはフスハーのアラビア語はしゃべれません」(マグリブ系方言は نـ ـش でI’dont – だったと思うので一人称で訳してあります)と書いてあり、批判的なスタンスが伝わってきます。

フスハーをどのぐらい重視すべきか、自分たちの方言をどの程度大切にするのかという折り合いについては国内でも意見が統一されているわけではなく、フスハー教育強化がアマズィグ(いわゆるベルベル系)の言語やダリジャ(アルジェリア方言)を駆逐する動きだとして抵抗する意見もあります。

ただこの動画を作ったEnnahar TVについては他の動画を見る限りフスハーを話せないことを批判し、子供のうちから話せる子を絶賛する傾向があるように思います。

インタビュー内容は朝起きてから何をしたのかフスハーで話す、というものです。しゃべりながら完全なフスハーがしゃべれていないことを自覚していて笑ってしまう人、真剣に話しているもののアーンミーヤ(ダリジャ)になっている人、フスハーを話そうとしているものの意味が通っている文語文になっておらずツッコミ動画を入れられてしまった人、フランス語が出てしまったりする人が多いのですが、中には「フスハーは無理」と断ったり、「話せないから」「できないから」と立ち去ろうとしたりする人も。普段ダリジャをしゃべって暮らしているからフスハーのアラビア語は話せない、と言っている人が複数いるようでした。

傘をさした歯列矯正中の女性はフスハーで「家を出て仕事に向かいました」と言えていましたが、それ以上のトークを求められた時点で進めず。

アルジェリアのフスハーしゃべって系動画は他にも見たのですが、このように一言もフスハーを口にせず断って立ち去る大人の割合が高めであるように感じました。

*アルジェリアのようなマグリブ諸国は元々中世から独自性があり、フスハーのアルファベット順・形状や数字の形も異なるなどしていました。フランスによる植民地支配時代にはアラビア語の使用も大きく制限。また昔からアマズィグ(いわゆるベルベル人)が数多く住んでおり、特にモロッコとアルジェリアはベルベル語話者人口が多くアラビア語の普及率があまり高くならないまま今日に至っているとか。現代に入って再び整備され直したフスハーが普及することに対し、ベルベル的な独自性が損なわれるという否定的な意見もあるようです。

エジプト

サウジアラビア資本の大手汎アラブメディアmbcによる1分間アラビア語フスハーチャレンジ動画です。なかなかフスハーが出てこなかったり、「終えました」という動詞をハッラストゥと言い取材者に指摘されてからアーンミーヤだと気付いて笑ってしまう女子生徒さん、フスハー会話をしつつも昨日という部分が文語のアムスィではなく方言のインバーリフになっている青年などの様子を収録。

動詞の活用も含め完全かつ滑らかなフスハーで話せた人はほぼおらず、最後の方では若者たちが「アラビア語フスハーへの興味はそんなに無い」「試験のためにフスハーをやったらそれでおしまいだし」といった話をしています。

YouTuberの男性が通りを行き交う人々に今日の予定を聞いているアラビア語の日企画の動画です。後半はヤー・カウム(おお皆さん)で始まる視聴者への呼びかけを言うように求めているシーンに切り替わります。

「家に帰ります」「サッカーの試合を見ます」といった身近な事柄を伝える程度の短文については特につまってしまうこともなくフスハーで話している人が多いようでした。

ただエジプトの若者に多い英単語を混ぜて話すケースがちらほら。フスハーで会話しているものの文語に変換した動詞が堅すぎて自分で言っていて笑ってしまっている人、どこまで文語に変換すれば良いのか迷って取材者に質問する人も。

あとフスハーチャレンジ動画に多いのですが、文語における接続詞のバリエーションが少なめなのと考えながら話しているのとで、ずっと同じ接続詞のワ(そして)やスンマ(それから)で非常に短い文をつなげている人がこの動画でも見られます。

最後に出てくるピンク色シャツの青年は0:10に一度出てきているのですが、インタビューを受け始めたものの英語でOKと返事をしたためにすぐに違う人に切り替え。しかし再度出てきた時に披露したフスハー自体はとても流暢で、クルアーンや学問の言語としてのアラビア語を保つことの大切さを語っています。

フスハーをしゃべらせる企画では笑いを取るために上手く話せない人のシーンだけを集めたものもありますが、このようにフスハー会話が明らかに得意な人を収録していることも。

シリア

シリアのラタキアにあるティシュリーン大学で撮影された突撃取材系の番組動画です。学生らにフスハーで話すよう求め追いかけ回すのですが、テレビに写りたくない人やフスハーで話したくない人たちが足早に立ち去ろうとしたり苦笑いしながら応対している様子が写っています。

場所は文学部棟で取材陣はアラビア語科学生を探すものの他学科の学生もかなりいる様子。言葉が出てこない人、「私は英文科なので…Sorry…」「フスハーで話すのは難しいから」と言う人も。

そんな中黒いシャツに緑色の袖無しジャケットを着ている男子学生だけはアラビア語科な上にフスハー慣れしており、とても流暢にアラビア語科における学びについて会話をしています。

仲間たちとの学生生活については「毎朝カフェテリアに行きます」「皆と毎日講義に行きます」「たいていの時間を講義で過ごします」「友達のことが大好きです」と考えながら話したりフスハーにするために語末の格母音を足しながら話そうと試みているシーンが流れますが、比較的フスハー教育がしっかりしているシリアだからでしょうか。最後の方は彼らが短いとはいえほぼフスハーで将来の豊富などを語っている様子も紹介されています。

レバノン

スマホに写っているフスハーの文章を見せて音読してもらう、フスハーで電話してもらう、という動画です。

アラビア語は文字で表記されるのはほぼ子音なのであとは読む本人がフスハー知識を動員して母音を補う必要があります。そのため知らない単語が多い文章だと動画にあるように母音を色々とあてがいながら「なんと読むんだろう?」「バかなあ、ビだったっけ」と試行錯誤することになります。

母音が文字上に現れないアラビア語文は、2ちゃんねる時代に大流行したggrks、ktkr系の母音省略表記が常にあらゆる語において行われています。日本語だと「今朝味噌汁を飲みました」という文章が「ks msshr w nmmsht」と書かれているのが文章の中で延々と続く感じです。味噌汁を飲んだ程度なら推測するのも比較的簡単ですが、「衆議院で新しい法案について協議を行いました」レベルになると母音を補って元の文章に戻しながら読むのは非常に難しくなってしまいます。

上の動画では日常生活と接点の無い文章を読ませていること、口語では違う発音や型になっている能動分詞・受動分詞や受動態のあたりでつまったり、会話調フスハーでは読み飛ばしてイウラーブ(語末の格母音の発音)で多くの人が適切な母音を補うことができずそこの部分で時間をかけてしまったりしています。

しかし語末の格変化類を省いたフスハー会話は問題無い人も少なくないようで、電話をしている女性やアラビア語の文語が置かれている状況について語っているシーンではとくに困っている様子は見られません。レバノンが長い間高い教育水準を維持しておりそれなりにフスハーができる人が少なくないことを反映しているのだと思われます。

ヨルダン

口語(アーンミーヤ)で文章を見せてそれを完全にフスハーに変換してもらうという企画です。炎上している効果がついたテロップは「アラビア語が危ない」というフスハーの影が薄くなっている事態を示唆したものになっています。

美人な女性を見かけたから話すために立ち止まらせて声をかけたものの相手が嫌そうだったという変な例文なのですが、多くが笑いながら読んでいるのは話の中身が原因ではなく、いちいち口語の語彙を文語のものに変換したり、普段は発音しない語末の母音や非限定名詞であることを示す n の音(タンウィーン)を -an、-tan などと読み上げたりしているうちにおかしさがこみ上げてきて、という感じでした。

後半は八百屋に行ってズッキーニとナスを買いに行くもののズッキーニは無くて…という話も出てきます。(動画では خُضَرْجِي [ khodarjī/(口)-i ] [ ホダルジ(ー) ](八百屋という意味のトルコ語由来の職業名)はただの青果店として使われていますが、ヨルダンのアンマンには Khodarji という名前のスーパーもあるとか。)

出演している人たちはフスハーをベースに話すことはできるのですが、どうしてもアーンミーヤが混じってしまい単語を完全にフスハーに変換するのが難しいようでした。数人は途中で続けるのがしんどいといったリアクションを見せています。

流暢なフスハー会話にはアーンミーヤでの語彙を全部変換できるように文語バージョンの単語や構文をできるだけ多く暗記することが欠かせないとアラブ世界では言われていますが、この動画でも引き出しに入っている言い換え用のストックが少ないために苦労している様子が伝わってきます。

パレスチナ

ガザ地区在住のYouTuberが撮影した動画で、家族や友人と電話越しにフスハーで会話してもらうという企画です。撮影時間が午前中だったらしく友人と昼食を一緒に食べる約束をしている人が多いです。

最初の女性(黒いヒジャーブにあずき色のロングセーター風上着)はフスハーで女性の友人に大好きよと伝え相手もフスハーである程度付き合ってくれているのですが、女性はフスハー会話がおかしくて笑ってしまい途中中断。なんとか昼食に誘って2時に食べようという話まで言い切ることができました。

2番目の男性(あずき色のセーター)はフスハーで友人に昼食の誘いをし、相手もズフル礼拝を済ませたからと快諾。2時を口語のティンテーンで言っていますがフスハー電話に怒らず付き合ってくれています。

3番目の女性(民族衣装風の刺繍が入った茶色いアバーヤタイプのワンピース)は「元気ですか?」と口語発音風ながら文語語彙を使って相手女性にあいさつ。相手は「え?え~?」といぶかしがる声を出しますが「おかげさまで」と返事。昼食のことを質問したりするのですが笑うのをやめられず終盤はアーンミーヤに切り替わってしまい終了。

4番目の男性(ヴェルサーチと書かれた赤いシャツ)は「おお兄弟、元気ですか?」と話し始めるもののいつもと違うフスハーで話しかけているため見知った友人だと気付かず「誰?」となってしまいます、「ターヘルですよ」「君の友人のターヘルです」とフスハーで話し続けるため「友達のターヘルっていうけど誰だよ?」と言われてしまいます。

フルネームを聞いてようやく身元がわかって安心した様子ですが「朝は早起きしましたか?」と文語の会話を止めようとしない友人に「そんな風に話してどうしたんだ?」といぶかしがる相手。結局最後の方は方言でお互い話してしまっているのですが、取材者に促されて「君は女の子たちのことは好きですか?」という質問と切る前のまた会おうという挨拶はフスハーでしています。

5番目の男性(青いパーカー)は「アフマドさん、調子はいかがですか?」と文語で相手にあいさつ。しかし変な電話だと思われたらしく相手の反応が思わしくなく、ブチッと通話が切られる音がして終了。今度は違う人にかけて「ムアーズさん、今日はお元気でいらっしゃいますか?」と語末格変化の母音なども丁寧につけた上であいさつ。

しかしフスハーで話す際にパーカーの青年は電話相手が過去にガザで一度会ったことがあるアフマド・アブー・シャアバーンという設定で別人を装っているらしく、声を聞いたムアーズ青年は「誰?アブデルアールじゃないの?」と言い出します。「私はアブデルアールではありませんよ。」とシラを切って話し続ける青年。「じゃあアブデルアール君によろしく伝えてください。」と言いつつもどうせ正体はアブデルアールだろうと信じている様子の相手。結局観念してアフマドを名乗っていたアブデルアール青年はアーンミーヤでの会話に急に切り替えてしまいます。

6番目の男性(青いトレーナー)は面白がって笑いそうになりながら「調子はどうですか」とあいさつ。昼食に招待するから来るのか来ないのか、と質問します。「今どこにいますか?」「大学だよ。そっちは?」「通りにいます。」のやり取りを繰り返します。途中でからかいの冗談電話だと明かされつつも付き合ってくれていた相手ですが、しびれを切らして途中何度かダーティーワードを言ったらしくNGワード消しの効果音が入っています。

7番目の女性(白いヒジャーブに茶色のアバーヤタイプワンピース)は「事情があってモスクに行けなくなってしまいました」と丁寧なフスハーで相手に謝っています。

このビデオでは普段フスハーで会話することがないのでしゃべっているうちにその珍妙さに笑いが止まらなくなってしまう人もいました。しかしフスハーの教育は十分に受けているようで話そうと思えばかなり話せる人が多いように感じました。出演者の中にも語末の格変化や構文の基礎が身についている若者が複数含まれている印象です。

ナーブルスの街で撮影された動画です。書店に来ているお客さんはいずれもフスハーが流暢で、本を渡されてもすんなりと美麗な朗読を披露しています。アラブ世界では読書を好む人はアーンミーヤとフスハーを切り替えられるだけの語彙力があることが多く、書店に出入りするお客さんもそのようなタイプであると言えるかと思います。

店のおやじさんらしき男性はアラビア語はクルアーンの言語でありフスハーはこの世で最も美しい言語だという考えを述べています。

子連れの女性は書店を大変気に入り幼い娘さんもごきげんで児童書にワクワクしている様子だとスピーチ。

街中で普通の若者に話しかけている場面でもほぼフスハーな返事が返ってきており、文語の詩をすらすら口にしている女性も。服屋の青年も自分の職業や今日のナーブルスは良い天気ですという会話をクセの無い発音で披露。

この動画だとパレスチナのフスハー教育は他の地域よりも多めなのだろうという印象を持ちます。

サウジアラビア

ユーチューバーが冒頭のテロップで紹介したメモ用紙を渡してそこに書いてあるアーンミーヤ(口語)の文章をフスハーに変換し読み上げてもらうという企画です。

(途中で登場する水色のパーカーの男性はエジプト人です。仕事か何かで住んでいるらしく彼はエジプト方言を話しています。)

「フスハーで?」「行きました、えー、言えないなー」と言いながら挑戦するものの上手くいかず爆笑してしまったり、フスハーと指定されながらも口語読み連発だったり文語に言い換えるよう言われても繰り返し口語のままな人も出てきますが、笑ったり「アー」と言いよどみながらも最後まで変換しながら読むことができたりしたケースもあり人によりけりといった感じでした。

6分台に出てくるオレンジ色メガネの少年はかなり健闘しており小学校の国語の勉強を頑張っているのが伝わってきます。

8分台に出てくる高校生らしき男子(黒ジャージ)は与えられた例文を上手にフスハーに変換しかつ18秒で読み切ることができたので、撮影者にほめられて賞金を受け取っています。

イラク

ههههههههه というのは日本語でいうところの www に相当する笑い声や爆笑示す表記で、フスハーをしゃべってもらった動画で笑い死にしそうになるよ、というふれこみの題名になっています。(タイトルにある تحشيش [ タフシーシュ/タハシーシュ ] というのはイラク方言で超笑えるおもしろギャグな意味で使われている語で、コメディー番組動画の題名についていることが多いです。)

動画はカルバラー大学構内で撮影したもので、出演しているのも授業を受けに来た大学生たちです。

どこの国のフスハー挑戦動画でもそうなのですが、語彙が少ないとごく基本的な日常生活の表現をひねり出しているうちにアーンミーヤが出てしまいゲームオーバーというパターンが多いです。

最初に登場した青年はフスハーで話すよう言われ多少戸惑った後、「眠りから覚めました」「顔を洗いました、石鹸で(ここでオリーブ・ガール石鹸を意味するアーンミーヤ表現サーブーン・レッギーを使ってしまい撮影者に言い直すよう促されています)、えっと石鹸(イラク独特の名称のままですが ق [ q ] を口語発音 گ [ g ] にするのをやめてサーブーン・ラッキーに言い換えています)で顔を洗いました」「それから服を着ました」「1杯のミルクを飲みました」と1文ずつ考えながら話しインタビュアーに続けるよう促されるのですが、最後の方はアーンミーヤ(口語)がまた出てきてしまい笑いながら「大学に行きました」「試験室に入って試験を受けました」とストーリーを進めていた感じです。

彼はこの後解答用紙を提出、仲間たちとロースト肉のサンドイッチ(≒シャワルマサンド)やカプチーノを飲み、化学の講義に参加したりして帰宅するところまで話し切ります。

その仲間たちはといえば、彼がフスハーチャレンジをしている間じゅう面白がってゲラゲラ笑っており、その爆笑の声が動画にも入っています。いつもイラク方言でつるんでいるクラスメイトががちがちの文語で話しているのがよほどおかしかったようです。

2人目の学生さん(赤シャツにデニムジャケット)はアラビア語会話に特に支障が無いと本人が話していた通り会話スピードは早く、朝遅めに起きて礼拝し着替えてから9時半に大学に来たこと、遅く来たので1限目の講義には出ず同じように欠席したクラスメイトと暇つぶしをしたこと、昼食はハンバーガーやファラーフェルだったこと、大学で知り合った女子学生と婚約を結んでから結婚したいという夢について述べていました。ただ過去の否定といった口語では使わない構文で時々つまってしまい、えー、あーと言いつつ考えたり、ついつい「とても」という意味の方言クッリシュが出てしまって笑ってしまったりするシーンも。

3番目の2人組は考えたり言いたい単語のフスハー版を確かめたり、インタビュー役に指摘されて数字をフスハーの言い方に直したりしながら文語チャレンジに取り組み。

「朝起きました」「顔を洗いました、って何で…(そりゃ水と石鹸でだろ、と横からツッコミ)」「シャンプーで髪を洗いました。」「大学に来たけど遅刻したから講義に出られませんでした。」とアーンミーヤでの推敲や相談会話をはさみながら語っています。途中8時半というものの半の部分を文語のニスフにせずついつい口語のヌッスで繰り返してしまい思わず皆で笑うシーンも。(ちなみに2人は1限目と2限目をサボったそうで、インタビュアーに成績はどうかと尋ねられゴミ同然に良くないと回答しています。)

4番目の男子学生さん(赤・白・紺のシャツ)はイスラーム学系のアラビア語学科。「ゼーン インシャッラー」(たぶん上手く話せるかも的ニュアンス)と収録に参加。しかし「眠りから覚めた時」というしょっぱなから方言を出してしまい大笑い。「礼拝をして、朝ごはんを食べて(タライヤクトと方言と同じ動詞を文語発音で言ってから、これもフスハーだからと取材者に念押し)」と今日のこれまでを少し語ってからバトンタッチ。

5番目の男子学生さん(抹茶色のセーター)もアラビア語学科。しかし今日やったことを話しだしてすぐに方言で「眠りから覚めて」と言い出してしまい、横にいた4番目の出演者が大爆笑。

6番目のセーター2人組(ヤシの木の前)はどんな文でもいいからフスハーで会話するよう促されるのですが思いつかず、インタビュアーの誘導で「私たちはは観光学部で学んでいます」と答えた後今日のこれまでに話題が切り替わります。「朝早起きしました。私を待っていたクラスメイトと出かけました。」と話し出すのですが「友人と一緒に出かけました…プッ(笑)」と思わず途中で吹き出してしまったり、ついつい方言が出てしまい笑ったりしながらセリフを言っています。(ちなみに最後の方は友人コンビの片方が昨日自分だけパーティーに行ったらしく一緒に連れて行ってくれず悲しかったという話もしています。)

動画の紹介では爆笑間違いなしと書いてありますが、このカルバラーの学生さんたちは他の国の類似動画と比べれば結構長い時間話せている方だという気がしました。

イエメン

人気ユーチューバー青年がイエメンの口語で話しかけて街の人たちがフスハーで返事をするという企画です。取材者の方から全くのイエメン方言で話しかけられるということもあり、皆つられて方言の単語を出してしまいがちだったようです。

また本人は意識してフスハーを話しているつもりでも依然として口語調というケースもあって、インタビュアーが「それがフスハーなんですか?」と指摘されて考え込んでしまう人、「ジートゥ(私は来ました)はフスハーじゃないですよ」と言われてアタイトゥ(私は来ました)に直されている場面なども見られました。

この手のインタビューがよく作られる背景

コメディーだったり問題提起だったり動機は様々

アラブ世界のテレビ局やユーチューバーが制作した動画の定番の一つが、街に出かけてフスハーをしゃべってもらうという企画です。

フスハーはアラブ地域全体が共有している文語で、現代標準アラビア語(MSA=Modern Standard Arabic)、正則アラビア語などと呼ばれることもあります。

しかしながら、フスハーを使って生活しようという稀有な人、子供をバイリンガル的に育てるために家の中で両方を使っている家庭、もしくはアニメの見過ぎで地元の方言を喋れなくなってしまった子供以外は日常生活の会話に使うことは決してありません。→『フスハーは勉強した大人しか話せない?~文法教育を経ずに習得する子供たち

義務教育なり大学なりを終えてアラビア語の授業を受けなくなってしまうと努めて確保しない限りフスハーでアウトプットする機会が無くなります。

そもそもアラブの文語教育は文法や読解重視で実用性を磨く授業をしていないことで知られており、本人がフスハーの本をたくさん読んでせっせとスピーチや作文をして語彙力を増やさないと話す・書くアウトプット能力が身に付かず長時間しゃべり続けることはできません。

日常会話で話す内容をフスハーで言うことの面白おかしさを楽しむ、珍回答を見て笑うといった娯楽目的の動画もありますが、その一方でフスハーを話せない人たちが多いことを問題視してその惨状を報じようという趣旨のものもあり、まちかどインタビュー動画といっても提供者の意図により色々なスタイルで公開されている感じです。

日常におけるフスハーと場違い感

アラビア語のような言語の二層状況(ダイグロシア)では文語を得意とする知的エリート層と一般人との間のフスハー能力に大きな開きが出がちだと言われています。

このページに掲載したような動画はそうしたフスハーを苦手とする層をターゲットに撮影したもので、行くところに行けばペラペラ話せる人達が集まっているので「なんだネイティブはみんなこんなんなのか」と結論づけることはできません。

またフスハーで話すと周囲の反応が良くない・いじめられるという風潮も、クルアーンの朗誦・フスハー大会のスピーチ・詩の朗誦などしかるべき場所においては大きく異なります。

子供の参加者らが立派なフスハーを披露すると مَا شَاءَ اللهُ [ mā shā’a-llā(h) ] [ マー・シャーアッラー ](=これぞアッラーが望まれたこと。すばらしい。)と絶賛の声が多数寄せられるのが一般的です。

フスハーしゃべって動画は普段フスハーが立ち入らない領域でフスハーを苦手な人々にわざと使わせるから面白おかしいのであって、フスハー愛好家が集う場所では皆話せいじめなど起こらず当然かつ誇らしい特質として歓迎されます。

そうしたサークルはフスハーを愛好する人々が集まる場所で、文語が得意な子供が仲間を得て研鑽するために参加することを推奨されたりもしています。

彼らにとってフスハーを使えないことは嘆きの対象であり、問題視される傾向がまだまだ強いようです。

彼らはニュース番組などで我々がよく耳にするようなフスハーは簡略化された真の姿を失ったフスハーだと考えており、そうした層が使いこなせるフスハーはしゃべってみてインタビューに出てくる人たちの遥か上を行くハイレベルな文語アラビア語であることも多いです。「真のフスハー」を意識した人は通常の現代標準アラビア語会話ではほぼ省略されてしまう語末の格変化の母音も全て言う(=イウラーブを省かない)こともあるなど、非常に高い水準にあることを感じさせるスピーチをすることも珍しくありません。