日本人アラビア語学習者とフスハー、アーンミーヤの問題

以下に記した内容は独断に満ちた個人的な体験談・見解なので全ての方に当てはまるわけではありません。未習の方向けに解説口調になっていますが、アラビア語との付き合い方も千差万別なので必要に応じて読み替えていただければと思います。

なおフスハー、アーンミーヤ、ラフジャ(ラハジャ)が何なのかについては『フスハーとアーンミーヤとは?』を参照願います。

フスハー、アーンミーヤ両立の難しさ

フスハーとアーンミーヤの2つなので時間がかかる

アラビア語の習得を目指す日本人学習者たちを昔から悩ませてきたのが、フスハーとアーンミーヤの並存状況(二層状況、ダイグロシア)です。

よくある参考書や教科書で文語のアラビア語を学びいざ留学となると、日常生活を送るためにアーンミーヤを覚えなければならずフスハーの勉強に時間があまり取れなくなり文語の学習進度が失速することも。しかし今まで通り文語に集中しようとするとアーンミーヤに慣れるまで相手との意思疎通に困り続けることになってしまいます。

資料を読むために必要な能力が向上すればそれで十分だと考えている人にとって、生活のためとはいえアーンミーヤ学習にかなりの時間を割かねばならないことは悩みの種となりがちです。

フスハーを2年間勉強した程度で現地に渡航すると「言いたいことが言えない」「文句があっても上手く言い返せない」「真横で自分のことを悪く言われていても気付かない」「馬鹿にされているのは把握できているのに言い返し方がわからない」「頑張ってフスハーで言ったのに笑われておしまいだった」といった事態が頻発、「フスハーもまだまだなのにアーンミーヤについてはまっさらでゼロの状態」という状況が加わって留学生活におけるストレスがかなり増える恐れが出てきてしまいます。

相槌など会話をつなぐフレーズから「なんでそんなに値段が高いんだ?」「そんなみっともないことするなよ!」「あんた何でそんなこと言うんだ?」「近づかないで、触らないで、あっちに行って!」といったトラブル対処に必要な表現まで、サバイバルに必要な表現はアーンミーヤの教科書(会話本や基本フレーズ集)が担当です。

フスハーは主に読み書きで会話はアーンミーヤが担当のため、日本でフスハーの授業だけを受けていくとアーンミーヤはさっぱりのままその国に行き生活をスタートさせることになります。

泣き寝入りにならないためにも、個人的には簡単な口語会話本を読んでから渡航するか現地で使えるように数冊買って持っていくかすると良いかもしれません。

同じつづりでも文語と方言、また方言同士で補う母音が違う

アラビア文字はわざわざ母音記号まで一緒に書くことは日常ではしません。

たとえば جد と書いてある場合「祖父」か「真剣、真面目」の2通りがぱっと思い浮かぶのですが、文語と口語ではつける母音記号が異なります。どの方言も同じというわけではありませんが、

  • フスハー(文語)の場合
    جَدٌّ [ jadd ] [ ジャッド ](祖父)
    جِدٌّ [ jidd ] [ ジッド ](真剣、真面目)
  • アーンミーヤ(口語)の場合
    جَدٌّ [ jadd ] [ ジャッド ](真剣、真面目)
    جِدٌّ [ jidd ] [ ジッド ](祖父)

という風に文語と口語とで示す意味が真逆になることが多々あります。エジプトの首都カイロ周辺など ج [ j ] の音を [ g ] で発音する地域の方言もカバーするならこれらに加えて「ガッド」「ギッド」という読み方も記憶の引き出しに追加する必要が出てきます。

動詞もある程度フスハーとアーンミーヤには共通性があり異なる方言同士でも共通していることはあるのですが、動詞の活用や現在進行を示す時に未完了形動詞の語頭につける語が違うので新しい方言に触れるたびに覚え直していくことになります。

口語と文語を両立するほど、方言を覚えれば覚えるほど、ごちゃまぜにならないよう覚え分ける作業が欠かせなくなってきます。

全然違う方言が何種類もある大変さ

特定のアーンミーヤしか勉強しなかった場合に不便なこと

フスハーを知らずに暮らしている人々はたくさんいる

アラブ世界にはもっぱらアーンミーヤだけで生活している人が大勢います。国内の混乱や貧困化から生活のために小学校中退する人が増えている国もおり、彼らの場合はフスハーでの会話など全くすること無く読み書きせず方言での会話だけで暮らしています。

大学を卒業してもフスハーでめったに会話する機会を持たず方言メインという大人も少なくありません。

なので外国人学習者も身を置く環境によってはアーンミーヤを覚えればそれで十分事足りる可能性が高いです。

ネイティブとの違い

小中高教育をアラブの学校で終えたネイティブの場合は「フスハーは読む・聞くはできるけれど話すのが苦手」「子供時代からずっとフスハーのインプットや基本的なアウトプットは訓練してきたけれども、アウトプットだけは機会が少なく得意ではない」状態です。

しかし外国人学習者はそうした積み重ねは一切無いので、フスハーを全くやらないとフスハーの新聞や本を読むとかフスハーのニュースを聞いて理解するといったことはできるようになりません。

本もニュースも製品ラベルもフスハーなので、フスハーをやらないと何が書いてあるのか正確に意味を取るのが難しくなります。同じ物を指していても口語会話と違う名称が使われている場合は何のことなのか気付けないといった面倒な事態にもなりがちです。

「これ音読してみて」とフスハー文を渡されても正しく音読することができません。母音記号無しのアラビア文字のつづり上では全く同じスペリングでも、文語と口語では補う母音が違うので文語の知識が無いと正確に読めないからです。

これは外国人学習者に限らずフスハーのスキルが高くないネイティブでも同様で、普段口語メインでフスハーにあまり触れていためにアウトプットがそこまで上手くなく文語文を正確に読み上げられない人は決して珍しくないです。

フスハーや他のアーンミーヤの存在を無視しきれない

頑張ってアーンミーヤを覚えるものの、他の地域の人を相手に会話したりアーンミーヤが混ざったアラビア語を通訳・翻訳する仕事をするとなると自分が覚えたアーンミーヤだけでは対応できません。

違う地域の人と話す際に日用品の名前や基本フレーズが違うために理解できない、国籍が違うアラブ人同士の会話に用いるフスハーを使ってもらっても「その方言はわかりません。」「フスハーは勉強しなかったのでごめんなさい。よくわからないです。」と言わなければいけないなど不便が出てきます。

特定のアーンミーヤのみを勉強した場合、特定地域の人と自由に意思疎通ができるという大きなメリットはありますが、それ以外の地域や文語を使って当然というシーンに対応しきれいないというデメリットが出てきます。

日常会話ではアーンミーヤを使うとはいえフスハーでの会話やスピーチが無いという訳ではなく、かしこまった席や文学・宗教関係のレクチャーなどではフスハーオンリーでぶっ通しということも珍しくないです。

アラブ世界では、フスハーでの会話に無理がある・嫌がる人がいる・職場の雰囲気的にぎくしゃくするといった理由から方言が違うアラブ人同士は自分の方言を丸出し・全開にせずフスハーと混ぜたフスハーとアーンミーヤ中間体を使うことが多いです。

そのため、どこか特定の方言だけをマスターしてフスハーも他地域の方言も全く知らないとなると、アラブ人が多用するフスハーと方言をミックスした話し方ができず、他地域のアラブ人とやり取りする時のデメリットになりやすいです。

文章の読解能力やフスハーでの作文能力が不足する

アラビア語を勉強している学生さんだと「こんなフスハーの文法と読解をいつまで続けていたって意味が無い。アーンミーヤの授業が無いから話せないままなんだ。実用的なアラビア語能力がなかなか身につかないのは大学の授業のせいだ。」と悩むことも多いかもしれません。

ただ会話能力を上げる授業となると、格変化のような細かい部分を削ぎ落としていくことになるので難しい文章を読む際の土台となる主語・述語・修飾語・構文を迷わずに速読できる力がその分甘くなることも意味しています。

辞書を調べて単語の意味を並べればある程度訳すことはできるのですが、アラビア語文法の基礎に穴がある方の場合どうしても誤訳をしがちで、動詞の派生形の型を間違える、複数語尾を混同するといったことが起きやすいとの印象です。書く文章も普段アーンミーヤを使っていることがわかるような言い回し・見た目はアラビア語文なのにフスハーとしていまいちすっきりしない作りになっているケースも少なくありません。

アラビア語は本を読んだりアラビア語を使った学問をしたりしなければ会話重視でも構わないのですが、人によってはフスハー文法重視の従来型教育を受けるべき場合もあるかと思います。

要は会話にせよ読み書きにせよ、大事なのは「自分にとって役に立つと一番実感できるのがどちらなのか?」「自分の使うアラビア語をどんなアラビア語に仕上げたいのか?」であり、アラビア語が持つ多面性のうちどこを取ってどこを捨てるかという取捨選択の問題に帰結するような気がします。

フスハーしか勉強しなかった場合に不便なこと

現地生活に支障が出る

一番困るのは日常生活に必要なサバイバルアラビックができずアーンミーヤしかできない現地人との意思疎通が難しい点です。

アラブ世界では元々フスハーで何分も会話できるほど学校時代にアラビア語学習を頑張った人はそう多くなく、アウトプットに苦手意識を持っている人が少なくありません。「アーンミーヤとフスハーが違いすぎてフスハー会話ができない」というよりは「インプットしかできないためにフスハーでの返事ができない」ケースがかなりあり、

元々門番、店員、労働者の人々は中学・高校まで行っていないためにフスハーを話せない人の割合が高めでしたが、そこに内戦や経済状況悪化が加わって小学校も通わないまま児童労働に従事する青少年が増加。

道端を歩いたり商店に買い物に行ったりする際に出会う人々、追いかけてくる物乞いの少年少女らと双方向の会話やり取りを続けるにはフスハーなど役に立ちません。緊急事態も含め、フスハーを使うのが明らかにおかしいシチュエーションを毎回繰り返すのには気持ち的にもストレスがたまり限界があるように思います。

通常アラブ圏で暮らす場合はアーンミーヤだけでも生きていけるのですが、中東関係を専攻する人だとフスハーを無視することはできません。なので現地に行ってアーンミーヤの問題に特に悩まされるのはフスハー能力を上げつつアーンミーヤにも対応しないといけない留学生かもしれません。

色々な国籍のアラブ人が集まってもフスハーを使うとは限らない

複数の国籍のアラブ人が1ヶ所に集まった場合、ちょっとしたおしゃべりであれば完璧なフスハーで話すかというとそうでもなくて、実際には自分のアーンミーヤをベースにしつつこてこての方言丸出しにならないようフスハーを混ぜるという方法がとられたりします。

これはアラブ世界で اَللُّغَة الْبَيْضَاء [ ’al-lughatu-l-bayḍā’/baiḍā’ ] [ アッ=ルガトゥ・ル=バイダー(ゥ/ッ) ] とか اَللَّهْجَة الْبَيْضَاء [ ’al-lahjatu-l-bayḍā’/baiḍā’ ] [ アッ=ラフジャトゥ/ラハジャトゥ・ル=バイダー(ゥ/ッ) ] と呼ばれるもので、色々な国籍のアラブ人が集まる場所で円滑なコミュニケーションを進めるための第三のアラビア語として利用の場が広がっています。

なので「アーンミーヤなんて大嫌い」主義をとった場合、そうしたフスハーとアーンミーヤのミックス状態に対処できず自分だけ会話から置いてきぼりになってしまう可能性が高くなると言えます。

アーンミーヤの理解に難があるからといって色々な地域出身のアラブ人に毎回頼んで自分が理解できるフスハーで話してくれと頼むわけにもいかないですし、現地で色々な国から集まるアラブ人たちと仕事をする方はフスハーとアーンミーヤの知識を両方持っておくことが好ましいかもしれません。

テレビのバラエティー番組・ドラマやポップソングの歌詞が理解できない

アーンミーヤによる動画・音声が何を言っているのかもよくわからないため、視聴して理解できるメディア素材も限られてきます。

ドラマは大河ドラマ・イスラームドラマを除けば方言です。アニメは面白いのですがほぼフスハーでしかも国語教科書的なので日常生活で使うには堅すぎて会話に応用するにはあまり向いていません。

アラビア語は英語のようにスラング混じりながらフスハー学習書で覚えたことがどんどん出てきてかつ日常会話に応用できるせりふが頻出する環境ではないため、現代が舞台のドラマを楽しむにはフスハー学習の時間を削ってでも集中的にアーンミーヤ文法や語彙を学ばなければいけなくなってきます。せりふや歌詞の意味を調べるためにアーンミーヤ辞書をネットなり紙媒体なりで用意する必要も出てきます。

昔ながらの民謡が地元民にしか理解できないような方言であるために聞き取れないのは日本でも同じですが、普通の歌謡曲・ポップソング・ラップまでたいてい口語(方言)で日本語の標準語に相当するフスハーになっていない点は大きく異なっています。文語で歌詞を書くことで知られたごくわずかなアーティスト以外は皆アーンミーヤなので英語学習のように「歌でぐんぐん上達するアラビア語フスハー」「ドラマで覚えるフスハー日常フレーズ」「吹き替えアニメで楽しくアラビア語会話を上達」みたいなことはあまりできません。

特に日本製をアラビア語に吹き替えたアニメなどは格変化をしっかり言うなどフスハーの中でもかなり堅めで独特の言い回しがあるので、「吹き替えアニメ特有のしゃべり方」として有名です。現地では普通の会話で使うにはおかしなアラビア語という扱いなのでちょっとした文語会話で話すフスハーも選ぶ必要があります。

また辞書も文語辞書と口語辞書がきっちり分けられているので、スラングを調べるには口語辞書を用意する必要があります。街中やネット上で言われた文句や流行ソングの歌詞を知りたくても、外国人学習者が通常用いる文語アラビア語(フスハー)辞書には載っていないので調べても出てこないといった不便もあります。

汎アラブ人気ラジオ局を楽しめない

人気のある汎アラブFM局だとネット経由で各国の視聴者が電話トークに参加したり、エジプト~アラビア半島を中心とした各国のヒットソングが流れたりして複数方言のミックス状態になりがちです。ラジオ局自体が例えばサウジアラビア資本であってもDJはレバノン人といったことが珍しくありません。

このような放送を楽しむためにはフスハーだけやっていては全然対応できません。管理人自身エジプト方言、シリア・レバノン方言、湾岸方言、イラク方言の基礎をやってようやく色々な歌謡曲の内容が聞き取れるようになり、視聴者参加型で合間に人気曲が流れるタイプのラジオ放送を昔よりも面白いと思えるようになりました。

学習数年目の時点でアラビア語のダイグロシア状況と方言の数の多と違いが壮大すぎることを痛感して続ける意欲が薄れてしまったこともあったのですが、改めて方言を1つずつ学ぶようになって「ずっと続けていればアラビア語の世界はこんなに面白い物事であふれていたんだ」と新鮮な驚きを感じました。

映像・ニュース関係で仕事をするならアーンミーヤは避けて通れない

既に録画・録音された物を翻訳してくれとポンと渡されて実は中身がアーンミーヤ混じりだったと後から発覚しても仕事して引き受けてしまった以上やらざるを得ません。

ある時はエジプト方言の混じったビデオを渡され、またある時はレバノン方言の混じったビデオを渡されるかもしれません。

時事関係の映像だとイスラーム関連でクルアーンの章句・祈願(ドゥアー)が入っていることもあったり、ただのフスハーの知識だけではなくもっと広範囲な知識が要求されるようなケースも出てきます。そういう時は「フスハーをやっておいて良かった」となるのですが、同じ動画でも突然同じ人がアーンミーヤをしゃべりだすということが十分にあり得ます。

フスハーのニュースとかでも司会が冗談を言う時だけアーンミーヤに切り替えたり、討論番組のゲストが違う地域の出身者という組み合わせで興奮してきたら複数の方言が飛び交うかもしれません。街頭インタビューで怒ったり泣いたりしている人たちが何かアーンミーヤで叫んでいたりと、フスハーとアーンミーヤは混在した状態になっていることが多いのでアラビア語通訳の仕事もずいぶん大変そうだなと感じたことが昔ありました。

日本人がフスハーをマスターした上で複数の方言に対応できるまでになるには相当な年数・努力・適性が必要になってくると思います。テレビ局などでアラビア語通訳の仕事をしたいと考えている学生さんはよくよく考えてから進路を決めることをおすすめします…

両方できるのに越したことはない

個人的にはフスハーとアーンミーヤは両方できるようにし、アーンミーヤも複数の方言を聞いて理解できるようにした方が良いように思います。

そうでないと色々なパターンのアラビア語に対応できず、ネット上に転がっている種々の書き込みや動画を見ても何を話しているのか理解できずスルーするしかなくなってしまうためです。

ドキュメンタリーやニュース番組などはフスハーとアーンミーヤのミックスになっていることも多いため、情報収集をするなら両方聞いて分かるようにしておく必要が出てきます。アーンミーヤ混じりのフスハーだったり、それまでフスハーだったトークが突然アーンミーヤに切り替わったりということも珍しくありません。

私自身アラブ諸国の動画を見て色々調べ物をすることが多いのですが、シリア・レバノン、エジプト、イラク、アラビア半島の諸方言をある程度理解できるようにしておくと仕入れられる情報量が増え調べられる地域の範囲もそれだけ広がってとても便利だなと感じることが多いです。

アラビア語メインで仕事をする場合、フスハーのインプットとアウトプット+どこかメジャーな方言のインプットとアウトプットに加えメジャーな方言をいくつか聞いてわかるようにしておかないと「あ、やばいこの方言わからない。目の前で訳さないといけないのにどうしよう。」という状況に陥る可能性があります。それらを乗り越えて仕事をされている方たちには強い尊敬の念を抱かずにはいられません…

海外でのアラビア語教育事情

海外ではアラビア語の4技能育成が重視される傾向が強まり、アラビア語を専攻する学生はフスハーに加えてどこかのアーンミーヤを1つ学ぶことも珍しくなくなってきています。

アラビア語の口語は方言は違っても生じる現象自体はある程度似通っていたりするので、アーンミーヤ教本で文法的ルールを学ぶ期間が長くなるにつれて新しい方言に触れた時の戸惑いが減っていく形となっています。そのため管理人が購入したイラク方言の教科書にも大学で長年教えてきた著者からのアドバイスとして、

  • フスハーに加えどこかのアーンミーヤを勉強する場合はどれか1つの方言に専念してじっくり学ぶべき。
  • 特定の方言の基礎が十分できてから他の方言に移ると、そうでない時よりも理解が早くなり助けとなってくれる。

といったことが書かれていました。

実際の勉強はどうする?

フスハーを先に勉強しておくとアーンミーヤ学習は楽になる?

個人的な感想としては、フスハーと関連付けてアーンミーヤの単語を覚えられたりもするので、フスハーのベース(学習歴3~4年ぐらい?)がしっかりしているとその応用としてアーンミーヤを覚える時の手間が省ける部分があるように思います。

アーンミーヤは意外とフスハー由来の単語や表現が変形して使われている場合も多く、フスハーの辞書やフスハーで書かれた資料を読んで「あ、語源はこれだったんだ」と記憶に残るといったこともしばしばです。方言の教科書もフスハーの文法(時制など)や語彙をある程度知っていると楽に読める部分が増えます。

アーンミーヤは特に意識せず学べば容易かもしれませんが、細かくつきつめて学ぶと長母音の短母音化、母音の脱落、フスハーにある語の単語内アルファベット順入れ替えなどが起きるため意外と厄介です。なのでそういう部分を勉強する場合にはフスハーにおける元の語形や文語文法で教わるような弱文字・ハムザの特性を把握しているとイメージしやすいことがあります。

またフスハーの基礎が先に出来上がっていると、アラブ人向けの方言辞書や方言に関する色々な動画・記事・書籍を活用してアーンミーヤをより効率的かつ深く学ぶことができるようになり学習も面白くなりやすいような気がします。

しかしこのフスハーを先にやるという順番は人によっては合うと思いますが、フスハーとの相性が悪いと逆効果になる可能性が高く人それぞれかもしれません。フスハーが辛くて合わなくて仕方が無いというタイプの方も昔からいらっしゃるのですが、挫折してしまうよりも我慢せず自分に合うものから進めるのがよっぽと良いのではないでしょうか。

フスハーとアーンミーヤ、どっちを学ぶべき?

自分の用事に合わせた選択

昔からアラビア語学習者の間で話題に上り続けてきた問題です。

結局のところ、どっちつかずになるよりはどちらか片方を集中的にマスターした方が良いのかもしれません。というのも並行して双方を完璧に仕上げるのは非常に難しいためです。私自身はフスハーを何年もやってからのアーンミーヤ学習し直しなのですが、以前よりも気楽に取り組めアーンミーヤ文法書も理解しやすくなったように感じています。

国際結婚や駐在などで特定の国にずっと住まれる場合はアーンミーヤ重視で構わないと思います。アラビア語そのものを仕事に使うのでなく学問・研究に必要だから学習する場合はフスハー重視と、目的に応じた棲み分けになるように思います。

アーンミーヤが上手くなる必要のある方は最初にアラビア語の文字や簡単な文法の学習をしたら後はずっとアーンミーヤ。フスハーしか必要が無い方は留学中だけサバイバル・アラビックを覚えて無事終わったらその後はずっとフスハー、ということになるのではないでしょうか。

日本人の学習仲間から「フスハーよりもアーンミーヤを先にやるなんて邪道」「フスハーとアーンミーヤを混ぜて話すなんて許しがたい」、ネイティブから「その国のアーンミーヤばかり学んでいるけど君は就職か結婚でもしたくてやってるの?」と注意や質問を受けるかもしれませんが、特定の地域に渡航してすぐにやりたい仕事がある、アラブ世界の若者たちとざっくばらんに会話を楽しみたいといった明確な目的があり「自分が本当に必要なアラビア語が何か」が決まっている場合はめげずにアーンミーヤを続ければ良い気がします。

両立が難しいゆえの妥協も…

フスハーとアーンミーヤのどっちが優れているとか格上だとかそういうことではなく、アラブ社会に並存状況がある限り自分のニーズや想定される利用範囲に合わせて片方もしくは両方を選ぶ形になるという話だと思います。

「◯◯方言は汚らしいから嫌い」という言葉を耳にすることも多いとは思いますが、現にそういう方言が存在しておりそれをしゃべって暮らしている人が大勢いる以上、個人的な好き嫌いとは別に覚えておかないと聞いても理解できず困るのは自分だということになる気がします。

(管理人は馴染みが無くよくわからないからという理由で長年マグリブ地域の方言を勉強せずにいましたが、今になって街頭インタビューや畜産関係者の取材動画などの会話内容が理解できず、ネット上にあふれているにも関わらず情報に上手くアクセスないというもどかしい思いをしています。)

フスハーに関してですが、ネイティブですらペラペラ話す技能をマスターするのに苦労するぐらいだということは、日本人学習者がアーンミーヤとフスハーを両方マスターするのにもものすごく時間がかかることも意味しています。

いずれにせよどちらをとっても遠い道な訳なので、できることからコツコツやるしか無いのかもしれません。

アーンミーヤの方が現地の人とどんどん話せるようになっていくので1年程度でも手応えを感じやすくやる気も出やすいですが、フスハーも諦めずに続けると作文能力が高くなったりニュースで言っていることがほぼ全部理解できたりと良いことはたくさんあります。

ただ英語に比べて手間がかかり各分野における全般的な上達を実感しにくく挫折する方も少なくない言語なのがアラビア語ならではの問題点だと感じます。続ければそれなりに効果も出てくるのですがただの趣味でやるには時間がかかってしんどくなる人が昔から多いです。

「どちらか片方しかやらないと文語・口語両方が並存しているアラブ世界でやり取りされている会話やメディアの情報、発行されている書籍などの一部しか理解できないままになる」という事実があるにもかかわらず、外国人が両方をネイティブレベルまで引き上げるのが非常に困難な言語の一つなのではないでしょうか。

アラビア語そのものを仕事にする場合

アラビア語を仕事として使う場合は別で、フスハーとアーンミーヤの両方を習得して切り替えられるようにした方が良いと思います。フスハーに比重を置いて、アーンミーヤはどれか1個の理解度を高くして自分もある程度それっぽく話せるようにする感じといいますか…

ネイティブが使うべきだと思ってフスハーに切り替えている場所では自分もそれに合わせてフスハーを使う。相手がフスハーよりもアーンミーヤで話して欲しいようであれば自分も方言を混ぜてしゃべる。大変ですが、それが文語・口語並存状況であるアラビア語をやる人間の宿命なので諦めるしかないのかもしれません。

アラビア語を専攻する学生さんですら事情を理解するうちにアラビア語そのものを職業に選ぶのをやめるケースがとても多いので、これから学習を始められる方は何か他に職業に就けるような準備をしつつアラビア語を学ばれるのが良いのでは…と思います。

(なおアラビア語で食べていくのを諦めるというのは、アラビア語のフスハーとアーンミーヤのマスターが大変だと痛感したから、という以外にもアラブ世界の色々に触れて自分には合わないと感じたから、留学してもうたくさんだと思ったから、就職先が少なく普通の企業に入った方が良いと思ったから、など人によりけりなので必ずしもアラビア語の難しさだけが原因ではないかと…)

自分が習得したアラビア語に対するリアクション

フスハーだけ勉強した状態で現地に行ったら通じる?

「理解はしてもらえるもののまずフスハーでは返事が返ってこない」「フスハーよりも英語やフランス語の方がよっぽど意思疎通に使えることもしばしば」というつもりで渡航した方が良いです。

地域差は大きいですが、こちらの言っていることはある程度理解してもらえると思います。しかし相手がフスハーで会話を返してくれる保証は無く、インプットはできても長時間のアウトプットができない人がほとんどなのでアーンミーヤで返事が戻ってくる確率が非常に高いです。土産屋・観光地のおじさんともなるとフスハーで話してもらうのはまず期待できないです。

そうなると相手の言っていることがこちらは理解できず双方向の会話が成り立ちません。フスハーだけを勉強して現地に行って困った、という体験談が多いのはそのためです。

また、アラブ諸国では政情不安・経済状況悪化・難民化から教育を受けられず小・中・高学校中退相当になってしまう人が非常に増えています。小学校中退だと数年アラビア語の授業を受けたにもかかわらずフスハー能力がほぼ無い状態のままになってしまうことが多く、読み書きが一切できずフスハーもよく知らない若者が増えつつあることが社会問題化してきており、国・地域によっては文字を介さないアーンミーヤ会話の必要性が強まっている場合もあります。

ひどい言葉や行為を受け感情的に爆発しそうになった時、物陰に連れ込まれ乱暴されそうになった時、宿の部屋に夜中押しかけられた時などフスハーを使っている場合ではなくアーンミーヤを是非使うべきシーンも存在します。

フスハーとアーンミーヤを両立するのは大変ですが「絶対にフスハーしか自分は勉強しない」というのを押し通してしまうのは個人的にはおすすめしません。現地民との関係性や自分の立場にも影響するポイントでもあるので、必要に応じてアーンミーヤのフレーズも覚えた方が良いかもしれません。

特に難民キャンプなどのボランティアではアーンミーヤが必須だと思われます。アラブ諸国の避難民の子供は学校教育を受けられていないことが多く、フスハーではなくアーンミーヤを第一に考えて習得すべきだと思われます。

色々なダメ出しを受けることも…

覚えたアーンミーヤで話したらネイティブから「違うよ。フスハーでこう言うんだよ。」と直されたり、またある時はその逆にフスハーで話したら「うげっ、フスハー」「アハハ。実際の会話でそんな語順と言い回しなんかしないよ。そのアラビア語はもうおかしいよ。」と言われたり。

そんな定まらないダメ出しになんだか面倒になってしまって、という人もしばしばいるのがアラビア語学習の世界であるように思います。1回だけなら良いのですが、何回も繰り返されると混乱したりしんどくなってしまう学習者も…

また特定の方言に対する愛が強い方だと「◯◯方言は音が汚らしい」「◯◯方言はなよっとしている」「◯◯方言は変なアラビア語」といった具合に他の方言に対する評価が厳しくなる場合もあり、「自分が勉強してきた方言とは違う方言を学び直した方が良いのでは?」という必要性を感じさせられる経験をする方もいるかと思います。

日常ではめったに用いられない文語に関しては「フスハーで話す人なんて誰もいないからあんなの話せるように頑張って勉強しなくてもいいよ」「フスハーなんてつまらないからアーンミーヤオンリーでいくべき」とアーンミーヤを強く勧められて「このままフスハーたくさんやっていていいのかな」と迷うかもしれません。

ただここで忘れてはいけないのは、学校でフスハーを勉強した上で日常生活で既にアーンミーヤしか使わない生活を送っているネイティブと外国人学習者とでは全く状況が違うという点です。ネイティブはお互いのアーンミーヤでもある程度通じ合えますしフスハーの本を読む力も備えた上でそう言っている訳ですが、普通の日本人はそうした下地が全くありません。

「フスハー勉強して何になるの?」「みんなフスハー、フスハーって崇拝してるけど変なの」というアラブ人の声を真に受けて勉強をやめてしまうと本の読み書きやフスハーでの作文・会話能力はそこで止まってしまいます。フスハーを初級段階でやめてしまうと新聞を読んだりニュースを全部聞き取ったりするのが難しくなる可能性もあり、将来何らかの形でフスハーが必要になるならそれらを単なる一意見として流してこつこつとフスハーの勉強は続けた方が良いように思います。

特定の方言だけをマスターした場合に起きうること

アラブ世界では混じり気が少ない生粋の方言ほど他の地域のアラブ人とのコミュニケーションを困難にするという認識があり、自分とは違う方言を話すアラブ人相手にはなまりを減らしてフスハーに寄せるということが広く行われています。

そのため自分が住んでいる国以外のアラブ人と会話する機会がある方は、マスターとまではいかなくともいつかフスハーの基礎ぐらいはやらなければと感じることになる可能性が比較的高いと言えます。

また特定のアーンミーヤで話すと別の国で浮くとか、「それ◯◯で覚えたアラビア語だろう」と言われたり、自分が話す方言が相手の国では好かれていない国(=二国間関係が複雑・険悪だったり、出稼ぎ先などの上下関係がある等)の方言だったりしてあまり反応が良くなかったり、ということも起き得ます。

人類学の調査などのために首都とは違う農村に住み込んで田舎の方言を覚えたために、その国の都会人から「だっさい方言」と言われるかもしれないですし、「お前◯◯地区に住んでたな」と茶化されることもあるかもしれません。

なのでバリバリのアーンミーヤ話者になったらなったで、それなりの面倒も発生することは考慮に入れておいた方が良い気がします。

フスハーはクルアーンの言語ということもあり「うちらそんな堅い言い方しないよ」「えーっ、フスハぁ~?」という表現はされても「フスハーみたいな古くてつまらないアラビア語とかないわ、ケッ。」のようにフスハー自体をボロクソにけなす人はそこまで多くないように思います。きちんとアラビア語を勉強した人ができるのがフスハーというイメージなので、話せれば尊敬してくれる人や喜んでくれる人もいます。

アーンミーヤオンリーだと「外国人でアラビア語を勉強しているんだからフスハーやらなきゃだめだろう」と注文をつけてくる人もいたりで、特定の方言を貫くことにも多少の困難が伴うと言えるのではないでしょうか。

ただどの国も昨今はフスハー離れが進んでいるためフスハーを軽んじる層は増えつつあると言えます。現地で生活をする場合アーンミーヤ会話能力があると有利になる確率は昔に比べると高まりつつあると言えるかもしれません。

留学とアラビア語

留学の種類

イスラーム圏から留学する学生さんだと、クルアーン・フスハー・イスラームを学ぶ目的があることからフスハーやクルアーン朗誦といった内容的には硬派な勉強をされるケースが多いかと思います。

イスラーム系の大学の寮に住み、各国の留学生らとアラビア語で交流し、フスハーが流暢になって帰国していくケースです。日本でもイスラーム留学された方はこのパターンでアーンミーヤではなくフスハーを集中的に学ばれて帰国された例も少なくないのではないでしょうか。

一方日本人学習者は現地を体験するとか、勉強に必要なアラビア語能力を伸ばすためとか、色々な目的があるので人によってどの学校や居住場所が向いているか、習うのがフスハーなのかアーンミーヤなのかが違ってくるかと思います。

留学前に自分がやりたいことと似たことを経験された人の体験談を読んだり先輩に話を聞かれたりすると、より良い選択ができるかもしれません。

アラビア語学習向けの地域は?

フスハーが得意な人が多いと言われる国であっても全員が基本会話をスラスラ話せるとは限らないので、アラビア語学習のために日本国内においてネイティブチューターを選ぶ場合には個別にその人のアラビア語能力を確認してから、ということになるかと思います。

フスハーとの乖離が少なく(といっても実際には色々違うと思うのですが…)フスハー教育を受けたおかげで話しかければ返事をしてもらえる確率が高い地域としてはシリア周辺が知られていて、かつてダマスカスは日本人留学生が大勢滞在する場所でもありました。エジプトに留学する人よりもシリアに留学する人が主流だと思えるほどの時代もあったのですが、内戦で以前のようには渡航できなくなりすっかり変わってしまいました。

レヴァント方言地域ということでレバノンも長い間多くの日本人が留学してきましたが情勢悪化と経済崩壊により住むことが難しくなってきてしまっています。

昔は文芸の都であったイラクに留学される方もおられましたが同国も混乱状態で大学教育の水準も落ちてしまい今や留学先候補に挙がることも無くなってしまいました。

昨今では各地で現地情勢が悪化してしまい、日本人学生が訪れることのできる場所もどんどん減っている状況です。政情不安などで各国のアラビア語スクールも数を減らしている模様。

そのような背景から人気のアラビア語留学先も定期的に変わっており、最近はヨルダンやパレスチナに留学される方も多いようです。近年パレスチナ留学経験者がすごく増えていて驚きました。

留学先についてはまず何箇所かショートビジットで滞在してその中から好きな国を選ぶのが良いのかもしれません。適性や相性をリサーチせずいきなり合わない国に行くと疲弊して、逃げ場も無くなって大変だと思います。

湾岸諸国のようにネイティブ国民が恵まれた暮らしをしていてショッピング施設が充実している国については、学生寮(特に女子寮)に入って大学との往復しかできなかったり、大学が不便なところにあってただ学生寮にいるしかできない生活だったり、街中でネイティブとアラビア語で話す機会も少なかったりという話を昔から聞きます。

国自体は豊かなのですが、保守的な社会ならではの学生寮システムや繰り返されるメニューに辟易して嫌でたまらなかったという方も時々いらっしゃるようです。なので実際に同じコースに通って所属予定の大学施設で暮らした人の感想をしっかり調べて自分が耐えられそうかどうか検討してから決めると良いかもしれません。

国によって違いはありますがアラブ圏留学に何らかの苦労はつきものなので、暮らしやすさ、アラビア語が身につきやすい環境、学生生活の自由度、対アジア人・外国人労働者感情(アジア系をからかって罵倒言葉を投げかけたり子供が石を投げつけたりしてくる環境かどうか、アジア人女性に対する痴漢・暴行未遂・一時婚という名の一時的関係提案の危険度等)、チェックすべき要素について何も調べずに応募だけしてしまうというのは避けることをおすすめします。

国民性が合わずアラビア語のやる気自体が失われてしまうリスクがあるので、どこの方言を学ぶか・どの国に留学するかまだ決めていないという方は自分との相性という観点から滞在先を決めて、それからそこの方言を学び始めるのでも良いかもしれません。

留学してもなおモチベーションを維持できるかどうか

色々起きる留学生活との付き合い

留学に関しては、本当はアーンミーヤまでは勉強したくはないのに街を出歩くにはフスハーでは無理、この街の人がもっとフスハーできればこんな大変な思いをしなくてもいいのに…と腹立たしくなってしまったという思い出がある方も少なくないのでは。

特別料金だの、やっぱり追加で費用がかかっただの上手いこと言いくるめられ、後から「その場でそれ何の金だよ聞いてないぞ、とツッコミすらできず悔しい」「ああ言えば良かった」「きっちり喧嘩したかった」とむしゃくしゃすることもあると思います。

アラビア語は言語そのもの以外、人間関係とか民族性とかそういう部分で留学中にゴリゴリ精神力を削られる方も多いので、聞こえなかった方が幸せだった内容もわかるようになってしまったしんどさとか、そういうのを全部乗り越えて継続できる方というのは本当にすごいなと改めて痛感しています😅

アーンミーヤをどうするとかフスハーが良いとかいう以前に、アンラッキーな出来事に巻き込まれずアラビア語を続けたいというモチベーションを維持したまま帰国できる、その国やアラブ世界のことが大嫌いになったり心が折れたりしてゴリゴリのアンチに変身して毒を吐きまくる人になってしまって日本に戻ってくるのを避ける、なるべく心穏やかにその後の勉強・研究に差し支えが無い状態を維持する、といったことも非常に重要なポイントなのではないかという気がします。

特に元々メンタル系・発達系において繊細な方だと人間関係のストレスや現地社会に対する疑問・不満が溢れすぎて壊れてしまいアラブ世界に対する強烈な憎悪を消化しきれなくなったり、反アラブ・イスラームスピーカー的になって大暴れしてしまったり、その後の人生や研究者生活の有り様にも多大な影響を及ぼすこともあるのでより慎重に留学生活のプランを組み方言の事前学習などもして準備すると良いかもしれません。(失礼な発言ですみません。管理人自身が実際に目にしたいくつかの実例を参考に書かせていただきました。)

色々見えてくる・聞こえてくるようになった時期の葛藤

方言が上達して現地社会により深く関わるようになる方、改宗しイスラーム共同体の一員になってただの異教徒の外国人とは違う立場になる方も少なくないと思います。しかしそうなると今まで見えてこなかった現地における外国人の立場・ネイティブと非ネイティブの扱いの違い・社会が抱える問題や矛盾・人々の本音・表裏など負の部分を垣間見る機会も増え、それに耐えられる人とそうでない人とが出てくることになるかと思います。

「この人なら家族同然の付き合いができる」と信用していた相手がある時道徳観に欠けると思えるような言動をしたり事件なりをやらかして強いショックを受け、しばらく立ち直れなくなることも起きるかもしれません。

トラブルを自分なりに処理して前に進める人は良いのですが、それらが積み重なって長年続く恨みや後々までひきずる強い後悔になってしまう生真面目なタイプは結構リスクが高めだという気がします。

昔からアラブ地域に留学・滞在してトラウマになってしまい、アラビア語を使って彼らと会話する意欲すら失ってしまう人たちが少なからず存在します。「アラブ大好き、架け橋になりたい」「相互理解」とキラキラしていた人が積もり積もった結果真逆になってしまうことも聞かれる世界です。

(ちなみにエジプトはそうした「闇落ち」や一種の飽和状態に陥る留学生がなぜか昔から多いという評判です。好きになる人は大好きになるのですがアンチを量産することで知られている地域なのは確かだと思います。)

個人的な印象になりますがアーンミーヤを全く学ばずフスハーだけ多少できるようになった状態で渡航することも一因になっているような気がします。理解できるようになったらなったで色々見えて聞こえてしまうのでどちらが良いとは一概には言えないのですが、どちらかを選べと言われたら留学前に基本会話を覚えておくことをおすすめしたいところです。

トラブルや心無い言葉の類は自分から工夫して回避するのは難しいかもしれませんが、振り回されて散々な目に遭って心が折れたり、中東関係の学問を専門として選んだことを後悔するまでのレベルに達したりしないよう皆様もぜひご自愛ください…

(本ページは全体的に上から目線のアドバイスみたいで申し訳ないですが、独断と偏見の混じった戯言だと思ってあまり気にしないでいただけると嬉しいです。)

現在の状況

今から25年ぐらい前まではインターネット高速回線が普及しておらず、それよりもさらに前となるとパソコンやスマホでアラブ世界とつながるということ自体が存在せず、アラブ世界のテレビ放送や動画はおろか、ラジオ放送を視聴することも容易ではありませんでした。

普段受けているフスハーの授業と教材以外のアラビア語に触れる機会もわずかで、学生の多くが日本でアーンミーヤの授業を受けず、現地にフスハーとアーンミーヤがありフスハーが日常会話の手段としては使い物にならないことを知らないまま留学先を決め渡航するということも珍しくありませんでした。

しかし今では各国のテレビ局がハイビジョン画質のライブストリーミング放送を提供し、YouTubeにはオンデマンド動画、有料動画サービスサイトには字幕付きアラブドラマがあふれ返っています。オンラインチューターを見つけてフスハーや特定地域のアーンミーヤを日本にいながらにして学ぶこともできるようになっています。

大学のアラビア語専攻を取り巻く環境も整備され、現地で生活するにはアーンミーヤが必要だと知らないまま留学する専攻学生さんたちもすっかりいなくなったように見受けられます。それどころか、1回生時からネイティブらと積極的に交流し早い時期に会話能力を習得される方も増えてきているとの印象です。

またアラビア語や中東関係の仕事とは無縁であっても、趣味としてフスハーやアーンミーヤを学習され日本にいながらにして中級以上のレベルまで引き上げている方たちもネット上で複数見かけられるようになってきています。

アラビア語学習環境が劇的に変化したことから、日本に住んでいてもフスハーと複数の方言を同時並行で学び実用レベルぐらいまでにすることも不可能ではなくなり、管理人がこのページで述べたような苦労話が当てはまらないケースも増えてきているのではないでしょうか。

アラビア語との相性が良くモチベーションを長期間維持できればかなりの上達を見込めると思うので、興味のある方は尻込みせず気軽にチャレンジされるのが良いかもしれません。

 

(2024年1月 現在の状況を追加)