エジプト国内での差異
地域による発音の違い
エジプト国内にも地域によって複数の方言があり、gで発音するのは首都カイロの方言、jのままで発音するのはサイード方言など、といった具合に違いが見られます。
メディアではカイロ方言の発音がスタンダードだそうで、ニュースでも全てジームではなくギームで統一されている模様。たしかに全国版のニュースでギーム以外で読んでいる人を私も見たこと・聞いたことが無いような気がします。
ドラマや映画で面白おかしいキャラとして描かれることの多いサイーディーの話す方言として認知されている感の強いサイード(ナイル上流地域、上エジプト)方言ではjをgで発音する代わりにアラビア半島やスーダン同様 ق [ q ] を [ g ] で発音します。
さらに同じサイード(上エジプト)であっても、一部の地域では ج [ j ] が د [ d ] の音に置き換わるとのこと。文法的なベースは共通でも、ちょっと離れた村同士になると語彙などに違いが出てくるのだとか。
エジプトの映画やドラマに出てくる色々な地方出身者キャラクターに関する動画です。
薄れゆく方言の独自性
エジプト各地の方言が失われつつあると危惧した投稿主が色々な地域を回って住民にマイクを向けている動画です。
エジプトでもメディアを通じたカイロ方言の浸透や人の移動の増加により方言が薄まりつつあるようです。
7:05過ぎに出てくのはエジプト西部の砂漠地帯にあるスィーワ(シーワ)オアシス地域に住んでいるアマズィグ(いわゆるベルベル人)系住民で、エジプトのアラビア語も話せるけれどもアマズィグの言語(ベルベル語)を使っていると答えていました。地域の人たちは家庭でアマズィグの言語で会話し、学校ではアラビア語を学んでくるとのこと。
ドラマ・映画で必要となる方言監修
エジプトでは地方出身者が役として出てくるドラマ撮影時に方言監修者が入り指導を行い、現場でダメ出しもしているそうです。その中でも有名なのがサイード方言監修者の男性なのだとか。
サイード地方方言
単数形:
صَعِيدِيّ
[ ṣa‘īdī(y) ] [ サイーディー ] サイード地方の、サイード地方出身者、サイーディー、サイード方言の
複数形:
صَعَايِدَة
[ ṣa‘āyida(h) ] [ サアーイダ ] サイード地方出身者たち、サイーディーたち
エジプトの映画・ドラマ業界で有名なサイード方言(上エジプト方言)指導者は حَسَن القِنَاويّ [ ハサン・エル=ゲナーウィー ](サイード方言の発音通りにqをgにしたゲナーウィーをご本人が名乗られています) という方らしく、YouTubeにもゲスト出演時の動画が複数上がっていました。上の2つの動画はいずれも彼をゲストに迎えた時の録画で、方言監修の仕事に関してだいたい似たようなエピソードを語っています。
彼によるとサイード方言は多様かつ他の地域の人に理解しづらいこと、年齢・学歴・外部地域への在住歴などによってその人その人で異なるそうです。同じサイード地方でもカイロ方言の دى الوقت [ ディルワッティ ](今) に相当する語の発音だけでも何通りもあるので、バリエーション通りに俳優たちに演じ分けさせるのはあまりに大変なんだそうです。
慣れない方言を話さなければならない出演者への配慮もあって、ある程度ケナー(ケナ)地域の言葉に集約して指導を行なっているとか。
エジプトのドラマや映画には遊牧民のベドウィン、サイーディー(上エジプト=エジプト南部住民)、ヌビア人などの登場人物が昔から出ていたものの、正しい方言で話していないことがしばしばだったとのこと。細かいイントネーションとか、特徴的な喋り方をするのはなかなか難しい模様。
方言指導が入っているサイーディーの言葉であっても舞台となる場所の方言でセリフを言っているとは限らないので、方言学習で視聴する時はその点に留意する必要がありそうです。
こちらはエジプト国営放送に出演した時の動画です。撮影現場で有名俳優たちと撮影した写真がスライドショーのようにして流れるシーンも。
冒頭で生粋のサイーディー、サイード方言界のアイコンと紹介されています。ちなみに司会やナレーションはカイロ方言なので q がハムザになってニスバが「エナーウィー」と発音されています。
昔は方言監修など無く、サイーディー役が決まった人はバウワーブ(門番。集合住宅の入り口付近に控えている管理人のような人で、サイード地方出身者も多いと言われています。)に教えてもらったりしていたそうです。
農村の方言
デルタ地域の農民が話す方言を監修している محمد عرفة [ モハンマド・アラファ ] 氏。マンスーラ、カフル・アッシャイフ、ブハイラといった県によって方言が異なる件、ج [ j ] を [ g ] で発音しない件などについて語っています。
エジプトのドラマには農村が舞台のものも多く、サイード(上エジプト)地方担当のハサン・エル=ゲナーウィー氏のデルタ地方版をこのモハンマド氏が務めている模様。
ちなみにスタジオではカイロ方言に寄せて話しており、農村地帯の方言ではトークしていません。
フスハー監修
إبراهيم بعلوشة [ イブラーヒーム・バアルーシャ ] 氏はパレスチナ出身。文芸活動・メディア関連活動の中で、エジプトのドラマ・映画撮影におけるフスハー(現代標準アラビア語、正則アラビア語)監修者も務めておられるようです。
エジプトではフスハーを文法的誤り無しにぶっ通しでしゃべれる人は少ないので、こうしたフスハーの監修者も置かれている模様。
同氏によると、特に若い世代を中心に ت [ t ](エジプト方言ではターではなく「テ」と発音) と ط [ ṭ ](エジプト方言ではターではなく「タ」と発音) のように発音する場所が同じで強勢化の有無で区別するようなアルファベットを混同するケースが増えているのだとか。
女性の司会は、サイード方言とか農村方言とかよりも難しいのはフスハーの方だと思うと話していました。