★★★★☆~★★★★★
アラビア語学習が初めての方にぴったりのやさしい内容
難しい文法書が苦手な人におすすめ
文語アラビア語と口語アラビア語のミックスになっているため分かりづらい部分も
著者:本田 孝一
出版社:白水社
著者の先生について
著者はアラビア書道の大家でもある大東文化大学国際関係学部国際文化学科の元教授、本田孝一先生です。東京外国語大学アラビア語専攻を卒業、企業に就職され中東関係の業務に従事。その後アラビア書道や文法学習書・辞書の編纂に努めてこられたという経歴の方です。アラブ諸国のメディアでは日本の精神とアラビア書道を融合させた繊細かつ優美な作品を生み出すムスリム書道家として称賛をもって紹介されていることが多いです。
本の概要
●以前から販売が続けられているメジャーなアラビア語入門書です。カセットテープ・CD別売りの時代を経て現在はCDとテキストのセット販売になっています。
●こちらの本よりも先に本田先生はたまいらぼというところから『たのしいアラビア語』という大きめで巻数も多い学習書を発行されていましたが、当時から一般には入手が難しい物でした。白水社の『アラビア語の入門』はどこの書店でもたいてい置いてありますし、よりコンパクトに短期間で初級範囲を終えられるようなページ数に収まっているので大半の初学者さんはこちらの本を手にされるのではないでしょうか。
●こちらの『アラビア語の入門』は1冊では内容的に完結しておらず、続編の『ステップアップ アラビア語』とセットで初級文法の全部を学び終える作りになっています。『アラビア語の入門』で学ぶのは文字、名詞、形容詞、人称代名詞、定冠詞、双数・複数形、動詞の基本まで。『ステップアップ アラビア語』では比較級・最上級、能動・受動分詞、色々な文字を含んだ動詞、動詞派生形を学習。これで通常の初級文法書がカバーする項目が揃う形となります。
●字の大きさもほど良く行間が詰まり過ぎることもなく、かなり昔に出版された本である割には読みやすいレイアウトだと思います。会話、文化紹介、文法説明、基本単語一覧があり簡単な本ながら少しずつ文法の知識と語彙が増やせるようになっています。また語根を ف ع ل ではなく◻︎ ◻︎ ◻︎で表しているので、文法説明の時に単語の中のどこが語根なのかすぐわかるのも良いと思います。
●数は多くありませんが解説を読んだ後に練習問題を解くようになっています。巻末に解答あり。
表記・誤字脱字など
●ローマ字(英字)による転写はアルファベットの名称などごく一部で、アラビア文字表記とカタカナによる読みガナがセットになっています。読みガナは普通のアラビア語フスハー会話では読み飛ばす語末の格変化部分の母音やタンウィーンも含まれているので、「元気です」という意味で「ビ・ハィリン」と書かれている通りにアラブ人に話しかけるとかなり不自然になるので要注意です。
●文語であるフスハーに実際で使われる口語の表現や口語的な発音が取り入れられています。文語アラビア語におけるそれぞれの母音記号通りの発音は他書で改めて補充する感じになるかと思います。
●対格のタンウィーンで書き足すアリフに関しては、ـً(ファトハターン)記号がアリフ手前の文字についている場合と、アリフの上に書いてある場合とがありまちまちです。
●自分が買った版では二段変化の女性名 مَرْيَمُ [ maruyam(u) ] [ マルヤム ] が مَرْيَمٌ [ maruyam(un) ] [ マルヤム(ン) ] になっていました。他にもサーミヤ、アーイシャ、サミーラ、ナーディヤ、アミーラといったター・マルブータがついた女性名の語末がタンウィーン無しにすべき部分が ـةٌ [ -tun ] [ -トゥン ] となっていました。
●自分の買った版ではタンウィーンがついて ـٌ [ -un ] とする部分が ـُ [ -u ] と普通のダンマ記号がついている場所があるなど、小さな誤植がありました。
気になった点
●自分が昔購入した版なので今と同じかどうかは不明ですが、「アリフはアラビア語で唯一母音を表す「ハムザは独自の音を持っておらず単独で使う時にはア・イ・ウの母音を表す」といったアルファベットの発音や音価に関する説明が今となっては気になりました。入門当初は全然気付かなかったのですがかなり不正確な説明だと思います。初学者向けにわざとデフォルメした解説になっていたのかどうかは不明です。
●各国の挨拶紹介で「方言は通常、文字では書かれません。」と書かれていますが今はすっかり事情も変わってネット上にはアラビア文字で方言を表記した文で溢れかえっている状態です。
●三人称の人称代名詞は هُوَ と書いて本来ならフワなのにフーワ、هِيَ で本来ならヒヤなのにヒーヤと実際には発音されていると説明されていますが、いわゆる口語発音のことである点には触れられていません。
感想
文法を一通りマスターしたい人にとっては簡単過ぎるので文法説明や活用表が詳しく載っている参考書が別に必要になってしまいますが、ゼロから始める人にはとても優しい本なのでおすすめです。
アラビア語をど忘れした状態で勉強を再開した際もこの本から始めたのですが、読みやすくて良かったです。文語と口語のミックスでまぎらわしいと言えばまぎらわしいのですが、「アラビア語ってこんな感じなんだ」という体験レベルの学習書なのでこれはこれで良いのかもしれません。
何年も経ってから読み返してみると「あれここの説明はちょっと違うのでは?」と感じる部分も見つかったりするのですが、入門者に優しく挫折しにくい本という点が何よりのメリットなので★は4.5としました。
(2022年3月修正)
アラビア語の入門 著者:本田 孝一 出版社:白水社 |