250語でできる やさしいアラビア会話 (黒田 壽郎,レイラ 井上/白水社)


★★★☆☆
シリアを舞台としたごく一般的な会話本だが初心者向けの割には難しい
250語を上手く組み替えるだけで様々な基礎会話ができる系の必要語彙数・難易度ではない

著者:黒田 壽郎、レイラ 井上
カバー写真:本田 孝一
本文写真:日本アラブ協会
出版社:白水社

著者の先生について

黒田 壽郎 先生

1933年生まれ2018年没。慶應義塾大学文学部仏文科卒業。1967年同大学院文学研究科博士課程東洋史専攻単位取得退学。1974年イスラミックセンタージャパン設立に参画。イラン革命の2年半前から革命発生の1979年までイランに滞在。複数の研究者を通じイラン・イスラーム文化に関する知見を深められたのだとか。カイロ大学客員教授、イラン王立哲学アカデミー教授、国際大学教授/大学院教授、国際大学中東研究所所長(初代)を歴任。

イスラーム研究に加え文学作品の翻訳も。1974年柏木英彦氏との共訳『イスラーム哲学史』が日本翻訳文化賞を受賞。ムハンマド・アッ=タバータバーイー師著『現代イスラーム哲学』翻訳の功績が評され2012年には第19回イラン・イスラーム共和国年間最優秀図書賞を受賞。

レイラ 井上 先生

レイラもしくはライラ 井上。シリア生まれ。ニース大学卒。慶應義塾大学文学部仏文科卒業後ニース大学に留学されていた井上輝夫先生の奥様(当時)だったようで、湘南藤沢キャンパス(SFC)設立間もない時期にアラビア語の講師をされていたのだとか。

本の概要

●初版は1985年。その後1997年に新しい装丁の改訂版が出ています。いずれも新書サイズ。管理人が購入したのは1997年改訂版でした。別売りカセットテープあり。

250語でできる やさしいアラビア会話 カセットテープ

●「アラビアへ行くあなた、アラビア語をよく知らないあなたのために、やさしく便利な会話表現を選びました。これだけ覚えれば、あなたはもう一人でアラビアの町を歩き、アラビアの人たちと話ができるようになります。」とあり、海外旅行に行くアラビア語初心者向けの本として作られたことがうかがえます。

●『はじめに』(~24ページ)ではアルファベットの表、母音記号、定冠詞、アクセント、性、数、名詞、形容詞、人称代名詞、動詞の文法に関する基礎を学習。『これだけおぼえれば』(~41ページ)で挨拶、質問といった基本表現を幾つか挙げて詳しく解説。42ページ以降が会話学習編で会話スキット中心のレッスンが全20課用意されています。これらに出てくる単語を数えるとちょうど250語前後になるとのこと。

●会話スキットの内容は挨拶、紹介、入国手続き、税関、ホテル探し、ホテル宿泊、道をたずねる、道路で、喫茶店、レストラン、友人を訪ねる、訪問先で、仕事の約束、商店、旅行案内所、電話、郵便局、銀行、バスターミナル、診療所。アラビア語文→日本語訳→文法や構文の解説→会話の一部をアラビア語訳するレッスン(解答は付属していません)という構成です。登場人物は日本人の九郎さんとよう子さん。九郎さんは社会人で、シリアに渡航しセメント会社の支配人とビジネスの用事で会ったりしています。舞台は全てシリアでホテル・ミネラルウォーター・タバコ、長距離バスは全てシリアに実在する物の名称となっています。人名も جورج(ジュールジュと書いてジョルジュ、英語で言うところのジョージ)さんなど。

●初心者向けということで一応アラビア語アルファベットの読み方からスタートするのですが、42ページ目から始まる会話編は行数が長いと13~15行はありアラビア語が全く初めての人にはハードルが高めだと言わざるを得ません。会話スキットごとに文法説明はついていますが、内容と難易度を見る限り全くのアラビア語初心者には厳しいのでは、という気がします。

●フスハー会話本ですが口語的読みや文法が一部取り入れられています。初心者向けということで من فضلك [ 男性:ミン・ファドリカ、女性:ミン・ファドリキ ] を相手が男性・女性に関係無く全て「ミン・ファドラック」で統一して覚えてしまうよう指導されています。数字も20、30・・・は主格を使わず口語と同じ عشرين [ イシュリーン ]、ثلاثين [ サラースィーン ] とった属格・対格のみ掲載。

●「アラビア文字が難しいですって?そんなことでは困ります。日本語を習う外国人の身にもなって下さい」とか「アラブ圏では挨拶のために男同士でキスをするけどできるなら本当のキスは異性としたいですよね、冗談ですけど・・・」といった軽いジョークがところどころに入っています。

表記や誤字脱字

●アラビア語部分のフォントは小さいです。

●発音は日本語のカタカナによる読みガナ方式です。会話スキットでは左←右の逆方向読みガナがアラビア語文の上につけられています。

●ニスバ形容詞の語末シャッダは書いていないことが多いです。格変化に関連する各単語の語末母音記号もたいてい書いてありません。

●定冠詞や動詞派生形動名詞といった通常ハムザが書かれない語にもハムザが付いています。ただ、全部という訳ではなく、文法説明の文中や文頭で発音する場合のみ表記しているようで、文中でハムザトルワスルとして発音省略する部分には書かれていません。ちなみにワスラ記号はわずわらしいので省いたとのこと。また、ハムザを通常書く前置詞の إلى 等にハムザが書いていないパターンもしばしば見受けられました。

●数は多くありませんが誤記があります。動詞未完了形の第2語根につく母音、10~19の数字に含まれる10の位部分である عشرةش につく母音記号等に間違いがいくつかありました。

感想

●今は観光旅行で気軽に訪れることもできなくなってしまったシリア。この本を読んでシリア国内を旅行したことが懐かしく思い出されました。

●アラビア語やアラブ世界に馴染みのない渡航者向けの会話学習本にしては難しいので、全くの初心者の方にはおすすめできません。

●本書ではフスハー文法を口語的に崩して教えているので、フスハーだけを勉強しなければいけないのに本の中のどこがアーンミーヤになっているのか把握できない方は要注意です。純フスハーのアラビア語テストで本書の口語表現を書いてしまうと減点になるおそれがあります。

(2022年3月修正)

書籍本体(改訂版)

250語でできる やさしいアラビア会話 [ 改訂版 ]
著者:黒田 壽郎、レイラ 井上
出版社:白水社

書籍本体(旧版)

250語でできる やさしいアラビア会話
著者:黒田 壽郎、レイラ 井上
出版社:白水社

別売りカセットテープ

250語でできる やさしいアラビア会話 カセットテープ 250語でできる やさしいアラビア会話
別売りカセットテープ

著者:黒田 壽郎、レイラ 井上
出版社:白水社