オンライン&アプリでアラビア語学習~Duolingo

サービス名
Duolingo(デュオリンゴ)
公式サイト
https://www.duolingo.com/
対応OS
Windows、iOS、Android

Duolingoのアラビア語コースについて

Duolingo(デュオリンゴ)はゲームをしながら外国語の学習ができるシステムです。Amazonが提供する色々なサービスをベースに稼働。

元々有名なアプリであること、またアラビア語学習コースのリリースが待ち望まれていたこともあって、サービス提供直後から着実にユーザーが増えているとの印象です。

基本的には無料

アプリをインストールすればスマホで気軽にアラビア語が出てくるゲームを楽しむことができます。基本的に無料ですが、課金すると広告が出なくなる・オフラインでも遊べる・色々な制限を外すことができる、といったメリットがあるとのこと。

アラビア語コースの提供形態

日本語版ではアラビア語を勉強できません。対応している英語などの言語にユーザー側の言語を設定すると学習可能言語リストに現れる形です。Duolingoを利用する場合は基本的に英語でアラビア語を学ぶことになるかと思います。

機能と内容

取り扱っているアラビア語はフスハーにアーンミーヤ要素を加えたもの

一応こちらは文語アラビア語(フスハー)の学習ということになっていますが、口語アラビア語(アーンミーヤ)方言特有の日用品の名称や方言的な言い回しが時々出てきます。

アラビア語教育が専門ではない若い方がチームに参加されているようで、文語の正字法・正書法から外れたつづりになっていることがありました。母音記号については口語(方言)発音にわざとしてあると思われる部分と、誤りなのではと思われる部分とが混ざっているとの印象です。

たとえばフスハーでは人称代名詞「彼は、それは」は هُوَ [ huwa ] [ フワ ] ですがDuolingoでは方言での発音 هُوَّ [ huwwa / =hūwa ] [ フーワ ] になっています。

語形についても كافيةكَافِيَة [ kāfiya(h) ] [ カーフィヤ ] ですが、これに كافْية という母音記号をつけてアーンミーヤでの [ kāfya ] [ カーフヤ ] もしくは短母音化した [ kafya ] [ カフヤ ] を意図しているといった、ブロークン・アラビック的な要素が見られます。

主格・属格・対格など日本語でいうところの「て・に・を・は」に相当する部分の母音記号もフスハーとは違う口語バージョンに置き換わっているので、Duolingoを終えた後に普通のアラビア語参考書での勉強に切り替える場合は全部覚え直すことになるので要注意かもしれません。

実際の画面


Windowsパソコンでのユーザー画面です。既習者はPlacement Testのところでテストを受けて先まで一気に進めるようになっています。


ゲームなのでポイントを稼ぎながら先に進むようになっています。選択式の問題や単語の並べ替えなのでアプリ側に毎回採点してもらえます。初期バージョン発表の後、しばらくしてからアラビア文字の書き方レッスンも追加されました。

ゲームというだけあって、好みに合わせて単元を選んだりスキップしたりしたい人には向いていない作りです。また既習者向けテストで先にスキップできてもポイントをためないとコンテンツに入れなかったりするようでした。

コンテンツの数は少なめです。ゲーム主体なので文法やアラブ文化の解説コーナーといったものは期待できないですが、繰り返しと継続を希望される方にはちょうど良いのかもしれません。

 
発音は英字表記。ハムザを2で示すArabizi方式のようです。

アルファベットの読みと聴き取りに関しては、上のような音声を聞いて合うものを選んでいく問題がかなり多いです。アラビア語に実在しない文字列に母音記号を足したものがほとんどのため、単語力の増強にならないのが残念でした。ある程度学習が進んでしまっている既習者にはかなりしんどいと思います。


アラビア語部分を見て・聞いて下の選択肢から英単語を選んで作文するゲームもあります。ゲームとして成り立つことが優先なのか、実用性が低い妙な文が多いように感じました。Duolingoは元々珍妙な例文が多いことで有名らしいので仕方がないのかもしれません。

ちなみにアラビア語の並べ替え問題では単語をタップすると英語で意味が表示されます。

LGBTQフレンドリーコンテンツ

DuolingoはLGBTQIA+支援を公式に表明しているので、アラビア語学習の例文にも同性婚といった要素が取り入れられています。

そのため女性の妻が女性だったりといった文章はDuolingo以外の教材には見られない例文なのですが、アラブ世界ではこうした会話は公然とされないことから耳にすることはまずありません。教義として是認していないイスラーム教信徒の方の学習教材としては好み・意見が分かれるところかもしれません。

またLGBTQに対応した性別表現の置き換えも行われていない*ので、ひとまず男性形と女性形がありニュートラルな中性形が存在しない点だけ覚えておけば良いのではないでしょうか。

*アラビア語は神がクルアーンを下すために使った言語ということで不可侵の存在という扱いです。天国の住民の共通語とされるため変えるという気風が起きない、主張が出てもマイノリティーの声として終わってしまいやすいです。権利を求める声を挙げたばかりに命を落とす人もおり、Duolingoアラビア語学習例文のジェンダーフリーと現実アラブ世界との温度差はかなり大きいというのが現状です。

音声

旧エンジン・現エンジン

https://aws.amazon.com/jp/machine-learning/customers/innovators/duolingo/

Duolingo全体では実際の録音とAmazonのTTS(Text-To-Tpeech)という機械で合成した音声の両方を採用しているのだとか。アラビア語部分に関してはいずれも音声合成サービスのアラビア語版を使っているようでした。

私自身Amazonのこのサービスを利用するユーザーなので実感していることなのですが、この音声合成システムは不完全な部分も多くアクセントやインネーションも含め結構おかしいです。手動でタグを打って修正や細かい指定を入れないといけないこともしばしばです。

Duolingoの場合、上のサンプル写真にも出てくる「Bob」を合成音声は正確に発音できず「ポップ」と読み上げをしています。他の単語も人称代名詞や動詞派生形の分詞といった大事な箇所の母音を間違えているのが気になりました。

あとアラビア語特有の喉を締めつけるような子音の発音をあまり強調しないシステムなので、リスニング練習をしていても عء の区別がしにくいように思いました。Duolingoアラビア語ユーザーで「似た文字の聞き分けができない」と書いている方を時々見かけるのですが、Duolingoが採用している音声エンジンが一因なのでは、という気がします。

過去に一度採用されたことのあるエンジン

2020年8月のアップデートでテキスト読み上げのエンジンが変更になったことが海外のDuolingoアラビア語コース専用ユーザーフォーラムでも話題になりました。

男性&女性の合成音声で、非限定名詞・形容詞の語末にあるタンウィーン(un、tunなど)を読む形式へと変更。他のユーザーのレビュー同様、男声は比較的なめらかに聞こえますが、女声部分の読み上げで機械的な不自然さがアップ。読み上げの全体的な精度が落ち、ユーザーたちから改善要求や旧エンジンへ戻して欲しいという声が上がり、しばらくしてからまた元のAmazonシステムに戻されました。

私自身確認しましたが、مدينة [ マディーナ(トゥン) ] をマディーン、أمريكيّة [ アムリーキーヤ(トゥン) ] をアムリーキートゥン、فرنسيّة [ ファランスィーヤ(トゥン)] をファランスィートゥンと読み上げる、واسعة [ ワースィア(トゥン) ] の類の女性形の形容詞のアクセントやイントネーションがおかしい、といった具合に以前の旧エンジンよりも精度がかなり落ちており単語学習の質に影響を与えるレベルになっていました。

運営側も不適と判断したのか、この読み上げエンジンは復活すること無く今に至る模様です。

似た発音の文字の聞き分けについて

Duolingoで勉強されている方々の声として「発音が似ている文字の聞き分けができない」という書き込みをしばしば見かけます。

私自身サイト作成のためにDuolingoと全く同じ機械音声システムを一部利用しているのですが、この合成音声は عء といったカタカナ表記にすると全く同じになりよく似た響きとなる文字同士の違いがわかるような発音はしていません。

こうしたDuolingo音声エンジンのような話し方はシリアやレバノンなどアラビア半島以外の複数地域の都市部方言に結構あるのですが、聞いたら違いがすぐわかるような発音をしないので初学者の人にはわかりづらいです。

喉を引き締める、こもらせて重々しくするといったそっくりなアラビア文字の区別に必要な調音の過程が完全に行われていないので、聞き分け問題が解けなくてもあまり気にすることは無いと思います。

クルアーン(コーラン)朗誦者でない限り、明確な違いを意識して1文字1文字発音するというのは実際にはあまり無いことなので、単語を聞いて意味が推測できればそれで十分かもしれません。アプリで正答率は上げられないかもしれませんが、「アラビア語の発音は難しすぎる」と悩まれない方が良い気がします。

学習サポート情報

公式フォーラム

https://forum.duolingo.com/topic/966

以前は他のユーザーの感想やネイティブによるレビューをDuolingoの公式掲示板で見ることができました。アラビア語話者が書き込んでいる感想はおおむね的確なので読むと参考になったのですが、閉鎖されたため現在はありません。

ファン向けWiki

https://duolingo.fandom.com/wiki/Category:Arabic_skills

Duolingoには非常に多くのユーザーがいるので海外には学習者サポートの私設サイトもあります。上記Wikiでは各課ごとの学習内容が載っており、おさらいや今やっている文法項目が一体何なのかを把握するのに非常に役立つと思います。

ちなみに日本のAmazonではこれを日本語訳したものがアラビア語学習書として電子書籍で売られているのを見かけたことがあります😅

感想

適当に並べたアラビア語としては意味の無い文字列を機械音声が読み上げるゲームの割合が大きめ、かつ例文もアラビア語の表現力を増強する実用性に富んだものが多いとは言えないため、個人的には正直なところ取り組むのがしんどいアプリで好きになれませんでした。

機械音声の読み間違いや時として風変わりなこともある例文はアラビア語既習者が不満を覚える可能性が高いシステムだと言えるのですが、全くの初学者だと知らないうちにちょっとおかしなアラビア語が身についてしまうことになるので個人的にはおすすめできないです。

フスハーとアーンミーヤが混ざっているだけではなく例文もDuolingo独特の変わった言い回しが多くアラビア語としては不自然だったりするので、「アラビア語ってこういう言語なんだ」「アラブ人ってこんな言い回しをするんだ」と鵜呑みにしない方が良いかもしれません。

Duolingoのちょっと風変わりな例文やクイズ形式にするためにナチュラルさが犠牲になっている部分はかなり気になる度合いなので、将来的にアラビア語を本格的にやっていきたい方はライティングの際の文章構成能力に影響する可能性があり、場合によっては学習書による矯正が必要になるものと思われます。

Duolingoが全面的に悪いとは思いませんが、長期的かつ本格的にアラビア語を続ける予定がある方はDuolingo独特のアラビア語が定着してしまう前に通常の学習手段に乗り換えることをおすすめします。

アラビア語を習いたてで細かいことが気にならない期間中に遊ぶなら利用しても差し支えないシステムかもしれません。毎日決まった時間アラビア文字に触れ、ポイントをためながら楽しくアルファベットを見慣れる作業をするのに向いているのではないでしょうか。

実際に非常に多くのユーザーが利用されていることもDuolingoに一定の効果があることの証拠だと言えると思います。アラビア語は長続きさせるのが大変な言語なので、こうしたアプリの助けを借りることも継続のための効果的な手段だと思います。

 

(2023年6月 一部加筆)