アラブの動物動画でよくみかける仕事場拝見ビデオを集めた視聴記録ページです。
製油所で挽き臼を回す動物たち
牛
上エジプトのケナにあるハッグ・ユーヌス製油所の詳解動画。祖父の店を引き継いだユースフ氏が経営。屋内に置かれた挽き臼を牛が牽いています。
製油所の動画ではいずれもアラビア語で搾油所、搾油機という単語が出てきます。しかし動画で工程を見てみると、動物が担当するのは臼を回して材料となる素材を細かく砕く挽き臼の段階のみ。
その実を搾って油を取り出すのは近くに置かれたねじ式プレスの搾油機で、操作するのは人間です。砕かれた実を袋状のマットにスコップで入れ、それを重ねてから上から圧をかけることで繊維のすき間からこし出す方式になっています。
これはオリーブオイルの伝統的圧搾法「コールドプレス」という製造方法なのだとか。熱を加えないので素材の味や油分が劣化しにくく美味しいという特徴がある製法だとされています。
ハンドルを回すとねじ状パーツが下に降りていき実から油を取り出す仕組みになっています。0:20では店の主人が挽かれた粉を藁袋のような容器に入れ、0:25あたりで圧搾している様子が写っています。
このハッグ・ユーヌス製油所の設備はエジプト最古の設備で200年を超える年代物だとのこと。色々な素材を挽いていて1:12あたりに価格表が出てきます。
伝統的な製法で作る良質な油ははちみつ(この店舗でも売られている様子が写っています)同様薬効に富んだイスラーム的にも推奨される物として好まれることもあってか、はるばる県外から買いに来るお客さんが少なくないとのこと。
馬・ラバ・ロバ
モロッコ南西部にあるという古い製油施設で400年ものの石臼が稼働。ロバと人のペアが回している様子が見えます。
モロッコ中央部にある地域で撮影されたという動画。伝統的な搾油機を使ってのオリーブオイル作り光景。馬が働いているように見受けられます。
モロッコ系ニュースチャンネルの動画です。顔に覆い(搾油機と水車で働く動物の顔にカバーをするのは目が回らないようにするためだとのこと)をかけられた(多分)馬が速歩で走っている様子がおさめられています。
こちらもオリーブオイルの圧搾。
アルジェリア系TVチャンネルによる伝統的搾油施設のリポート動画。30分を超える伝統的な搾油現場の取材ビデオです。冒頭に写っているのは伝統的ナチュラルオリーブオイル製油所はここから200m、との旨を知らせる看板。
搾油所内部は観光客の来訪を意識しているのか壁に色々な道具が飾られ小洒落た内装になっています。写っている動物はロバというよりはラバでしょうか。
ラクダ
عندما تمر من جنب معصره (اللي تعصر السمسم او غيره لاستخراج الزيت)
نشاهد ان اصحاب المعصرة يقومون بتغطية عيون الحيوان سواء كان جمل او حمار ..🐫🐪
لماذا؟؟؟ pic.twitter.com/lb2VDsTyYP— احمد فراج (@ahmadfarraj522) January 14, 2020
こちらはサウジアラビア人の方がツイートされている伝統的な油搾り機作業場の様子で、ロバではなくラクダが回しています。こちらもやはり目隠しをしています。
ラクダというと乗用か荷物運搬用のイメージが強いですが、こちらは作業用ラクダという形になります。
サウジアラビアの方が投稿されたらしき動画。ラクダが伝統的搾油所でごま油を搾っています。
こちらは石臼ではなくすり鉢に巨大な棒をすりこぎ棒代わりに入れ、ガリガリとごまを潰す方式。重みでごまが潰れるよう大量の重石が置かれているのが見えます。
イエメン サナアにある伝統的な製油所の動画です。こちらでもラクダが働いています。サウジの動画同様すり鉢と巨大すりこぎ棒方式です。
ずっとぐるぐる回している割には5リットルほどしか取れないのだとか。健康等に良いということで人気の商品だとのこと。
スーダンのごま油製油作業所の動画です。こちらもラクダが牽くすりこぎ棒方式です。パーツの説明やすり鉢の中の様子が良く写っています。
モロッコ エッサウィラの伝統的な製油所。石臼方式です。
水車・灌漑施設での労働
ロバ
『サーキヤのクリップーエジプトの全農民に捧げる』と記されたサーキヤ社(肥料や農薬を販売する企業)のビデオクリップ。典型的な揚水水車をロバが回している場面が出てきます。
ankawa.com
『من موروثنا الشعبي – اِرخّي』
(ロバの写真あり)
アッシリア人が多く住むイラクのアンカワ地区にも揚水水車を回すロバが昔からいたのだとか。フォーラムメンバーの方がもっとちゃんとした構造の水路を作れば良かったのに、酷使されるロバも哀れだと書き込んでいました…
牛
こちらはエジプトの田舎で見られる伝統的な農業用揚水水車で、ロバではなく牛が働いているのが見えます。
1944年のエジプトにおける灌漑の様子を撮影した古い動画。途中で السواقي という字幕が出て来るのですが、それが揚水水車のことになります。2頭立てで牛が揚水水車を回しているのが写っています。
こちらはスーダン ドンゴラ北にある揚水水車。牛が2頭で回しています。部品が全部木でできていて、水車にかめのようなものが取り付けられているのが見えます。
1970年代のエジプトの農村の様子です。音声はありません。
木で作った歯車と桶が取り付けられた水車が回っているのが写っています。上に出てきたスーダンの牛水車に作りが似ているようです。
ちなみに1:48頃に登場するのは脱穀車です。
ラクダ
ファイユームにあった古い水車に関するビデオです。0:28ぐらいに古い写真が出てくるのですが、そこでラクダが水車を回している様子が写っています。
途中では代々サーキヤ(揚水水車)を手掛けてきたという大工の男性が登場しています。
麦収穫後の脱穀作業
ただ踏んで回るだけのシンプルな脱穀方法
こちらはモロッコで撮影されたという麦脱穀作業の光景。ロープで連結した家畜を脱穀場でひたすら追い回して蹄で麦穂と実を分離するという方法。馬にしては大きい耳とロバとは違うふさふさの尾からするとラバでしょうか。
脱穀車の牽引
脱穀車はアラブ諸国で使われてきた伝統的な農耕機具だそうで、木組みのソリ内側に取り付けられた円盤状のディスクが回転することで麦穂がガリガリと踏み潰されるしくみです。牽く動物は主にロバ、ラバ、馬、牛。
イラク伝統文化紹介チャンネルを運営している مَاجِد الطُّلَيْحِيّ [ mājid ‘aṭ-ṭulayḥī(y)/ṭulaiḥī(y) ] [ マージド・アッ=トゥライヒー ] 氏による昔ながらの脱穀作業解説ビデオです。
昔の鍛冶屋業界はは5月の収穫期に合わせ活気づき、収穫デビュー前に鎌を買う若者や古い鎌を研ぎ直す客で混み合ったとか。イラクでは1960年代半ば頃までは人の手で小麦大麦を刈り取っていたとのこと。
麦穂は بَيْدَر [ baydar/baidar ] [ バイダル ](脱穀場)に積み上げられロープで結んだロバ・牛に踏ませるなどして脱穀をするとともに藁を柔らかくする。ただ追い立てて蹄で踏ませるだけではなく、人が乗る木製の農機具 جَرْجَر [ jarjar ] [ ジャルジャル ](語根「j-r-j-r」は「引きずり回す」ことに関連した語を形成)をラバ・ロバ・馬に牽かせぐるぐる回って脱穀させる方法も。
動画後半も日本の稲刈りや脱穀に似た手順が紹介されています。ちなみに動画中の写真やビデオはネットから拾ってきたものらしくイラク以外のものがかなり混ざっている模様です。
esyria.sy
『يوم “الجرجر”… مهرجان جني القمح』
(ジャルジャルの日…小麦収穫の祭典)
画像引用元:esyria.sy
要旨:
シリア アレッポ県アフリーンにおいて小麦の収穫と脱穀作業は喜ばしい出来事。老若男女が集い収穫物を村内共有の脱穀場まで運び牛馬に牽かせる日は皆でごはんを食べたりしてワイワイ過ごす。子供はジャルジャルに乗せてもらうのを楽しみにしている。
*子供はこういう農機具に乗ると喜ぶ訳ですが、中の脱穀用ディスクは結構鋭利らしく巻き込まれての事故が起きることもあったとか。危険なので勝手に近づかないよう大人に注意されたりもしていたとのこと。
esyria.sy
『أدوات الحصاد التقليدي في الريف』
(地方部における伝統的な収穫機具)
画像引用元:esyria.sy
要旨:
シリア山地の農村は険しい地形で農業機械が入れないため今も伝統的手法による収穫・脱穀が存続している。アレッポ県アフリーン地域では小麦はパン用、大麦は飼料用として栽培してきた。収穫当日、男性陣が涼しい早朝から畑で刈り取り女性陣がそれをまとめていく。刈り取った麦は駄獣の背にに乗せ脱穀場に移動する。脱穀は収穫のように涼しい早朝を狙って行うと麦穂が夜露で湿ってしまい良くないので、上手くいくよう暑い日の昼間に実施する。脱穀した麦穂は風のある日に風選を行う。
シリアの伝統的な脱穀車を撮影した動画。上のアレッポ県アフリーンでは「ジャルジャル」でしたが、こちらのビデオでは حيلان となっています。ジャルジャルと同様の構造ですがここでは同じ国でも地域によって名称が違うようです。
BGMは脱穀作業を歌った歌謡曲らしいのですが、そこで「ヒーレーネ」と言っているように聞こえるのが حيلان の現地方言発音である模様。
動画やチャンネルの情報からするとエジプトのマトルーフ県で撮影されたようです。
エジプトの脱穀機動画や記事ではジャルジャルという名前は使われていないらしく、「脱穀機」の意味で文語アラビア語(フスハー)辞書にも載っている語の一つ نَوْرَج [ nawraj/nauraj ][ ナウラジュ/(口語発音)ノーラジュ、ノーラグ ] もしくは نُورَج [ nūraj ] [ ヌーラジュ ] という語をよく見かけます。
この動画に出てくるのはソリというよりは椅子に近い形状に見えます。内側に円盤状のディスクがついておりロバに牽かせコロコロ回しながら脱穀。
こちらはナイル川上流ヌビア地方での脱穀車動画。牛2頭立てで後ろにある脱穀車に座っている男性が棒で追い立てながら歩かせている様子が写っています。ちなみにビデオ後半は臼を回して穀物を挽いている作業の光景。
電動への切り替え
搾油機
ガリラヤ湖(ティベリアス湖)近くのヤルカにある製油所のビデオ。ロバなどがひいていた物をそのまま電動化した感じの搾油機がモーターでぐるぐる回されている様子が写っています。
アルジェリアの製油所です。先祖代々引き継がれてきた施設を電動化することで上手く維持できているという内容の動画。
水車
散策中に立派な水車を見つけた女性が撮影したという動画。女性は話には聞いていたものの実際に目にするのは初めてだったようです。近付くのを怖がりつつも「すごい」「素晴らしい」としきりに感心している様子。
エジプトの田舎では100年を超すような年代物の水車が現役で回っているらしいのですが、動物を使う方式からモーターで回す方式に改造されて使われ続けている場合も少なくないとか。
農業関係者の動画を集めたチャンネルが提供しているビデオ。燃料価格の高騰によりいったん電動化したものの、再び水車をロバ式に戻したというエジプトの農民男性のケースが紹介されています。
動画のケースでは古い水車を再利用した訳ではなく、モーターとホースで水を汲んでいたところに新しい水車を金属で作って増設しロバを連れてきたように見受けられます。モーター自体はまだ使っているようで、真横で稼働している音がしています。
回り続ける単純労働と弊害
搾油機や水車をずっと牽く作業はやはり動物に害を及ぼすようで、仕事から引退したロバが路上でいまだに回り続けている様子が投稿されていました…
目隠しをされ長年の間ひたすら回るという過酷な労働に対して否定的な意見を持つアラブ人も少なくないようで、動物がかわいそうだという書き込みもネット上で見かけます。
用語集
製油所
مِعْصَرَة
[ mi‘ṣara(h) ] [ ミゥサラ ]
油搾り機、搾油機
*上の動画で人がハンドルを回して操作しているプレス式圧搾機がこれに相当。
مَعْصَرَة
[ ma‘ṣara(h) ] [ マァサラ ]
搾油所、製油所
*上の動画に出てきた搾油する作業場や横で販売する店舗の看板にこの名詞が使われています。
طَاحُونَة
[ ṭāḥūna(h) ] [ ターフーナ ]
挽き臼
*労働用家畜が取り付けられ素材を砕くための道具。
حِمَار الطَّاحُونَةِ
[ ḥimāru-ṭ-ṭāḥūna(h) ] [ ヒマール・ッ=ターフーナ ]
挽き臼のロバ、臼牽きのロバ
طَحْن
[ ṭāḥn ] [ タフン ]
挽くこと、製粉すること
عَصْر
[ ‘aṣr ] [ アスル ]
搾ること、圧搾;時代
灌漑水車
سَاقِيَة
[ sāqiya(h) ] [ サーキヤ ]
小川;灌漑水路;揚水水車(エジプトなど)
نَاعُور
[ nā‘ūr ] [ ナーウール ]
揚水水車、水汲み水車(シリアなど)
نَاعُورَة
[ nā‘ūra(h) ] [ ナーウーラ ]
揚水水車、水汲み水車(シリアなど)
ِحِمَارُ السَّاقِيَة
[ ḥimāru-s-sāqiya(h) ] [ ヒマール・ッ=サーキヤ ]
水車のロバ、水車牽きのロバ
حِمَارُ النَّاعُورَةِ
[ ḥimāru-n-nā‘ūra(h) ] [ ヒマール・ン=ナーウーラ ]
水車のロバ、水車牽きのロバ
脱穀車
جَرْجَر
[ jarjar ] [ ジャルジャル ]
脱穀機、脱穀車(イラクやシリアなど)
*引きずり回すことを意味する語根「j-r-j-r」から。
نَوْرَج
文語発音:[ nawraj/nauraj ] [ ナウラジュ ]
口語発音:[ ノウラジュ/ノーラジュ(エジプトはノウラグ/ノーラグ) ]
脱穀機、脱穀車(エジプトなど)
نُورَج
[ nūraj ] [ ヌーラジュ ]
脱穀機、脱穀車(エジプトなど)