サラブレッドの三大始祖のうちダーレーアラビアンの出身地でゴドルフィンアラビアン(ゴドルフィンバルブ)出身地説もあるシリア。古くから続いてきた馬産、人とのつながり、内戦の影響などについて情報を集めてみました。
シリアでの馬産について
シリア北部一帯で盛んな馬産
Wikimedia Commonsの画像を一部加工したものです
ティグリス川とユーフラテス川流域にはさまれたシリア北部の一帯は昔から اَلْجَزِيرَة [ ’al-jazīra(h) ] [ アル=ジャズィーラ(フ/ハ) ]((アル=)ジャズィーラ)地域と呼ばれてきました。ジャズィーラはアラビア語で海や川などの水域に囲まれた場所(島、半島、中洲)を意味。二大河川の間にある土地という意味でアル=ジャズィーラと呼ばれるようになったとのことです。
2つの大河川に囲まれたこの地方は純血アラブ種の歴史に大きく関わっており、多くの貴重な血統を抱えていることで知られています。
アレッポは十字軍との協定で馬を提供したこともあるなど、アラブ世界と馬にまつわるエピソードでも度々登場。サラブレッド三大始祖らを輩出した一大馬産地区域に含まれる重要エリアです。そのためシリアの馬産について調べているとアレッポが頻繁に登場します。
愛馬はどんな時も一緒にいる大切な存在
2018/07/24公開動画
要旨:
アレッポの重要な産業であり続けたアラブ馬の飼育。自動車が増えた今でも伝統は守られており、男性は「いつも一緒にいる ー تُرَافِقُنِي بِالْحَلِّ وّالتَّرْحَالِ [ turāfiqunī bi-l-ḥall(i) wa-t-tarḥal ] [ トゥラーフィクニー・ビ・ル=ハッル(/ハッリ)・ワ・ッ=タルハール ](宿営している時も移動生活の時も私に付き添う)ー 存在と形容。
贈り物としての純血アラブ馬
2020/01/08公開動画
要旨:
純血アラブ馬の宝庫デリゾール。内戦で打撃を受けた同地はかつてユーフラテス川流域でも特に馬産が盛んな大市場だった。純血アラブ馬は部族民にとっての誇りと力の象徴。非常に高額であるため知人へのプレゼントとしてやり取りすることが多いとか。
乗馬クラブ、牧場などの施設
国外の部族同胞から資金援助を受けてできた豪華な生産牧場
アル=ハヌーフ牧場の様子
2020/06/18公開動画
アル=ハヌーフ牧場公式サイトにおける関係者談話
要旨:
アル=ハヌーフ純血アラブ馬牧場は非営利施設。馬たちはシャンマル族が他部族と戦った際に得た戦利品の子孫が多い。
シャンマル族は何事においても寛大であり続けてきたが馬のことだけは別で他所に贈ることも売ることもしてこなかったという。オスマン朝から馬の提供を求められた際当時のシャイフで牧場主の先祖アブー・ホーザ*はシャンマルから馬を売り渡すことを拒み、その気持ちを表明した詩も残したという。
後半に出てくるのは専属獣医師、調教師ら(調教スタッフは18名在籍)で、着ているのはアル=ハヌーフ牧場オリジナル制服。
*アブー・ホーザはあだ名。アブーは「父;~の持ち主、~の所有者」の意味、ホーザはシャンマル方言で「これを取れ、これを持っていけ」。アブー・ホーザはあまりの寛大さからついた通称で「これを持っていきなさいおやじさん」的な意味。
2022/02/15公開動画
サウジアラビア系ニュースチャンネルによるアル=ハヌーフ純血アラブ馬牧場取材
要旨:
繋養馬は250頭超。厳しいシリア国内事情にもかかわらず、先祖代々受け継いできた كُحَيْلَة الْوَاطِي(クハイラ(ト)(/クヘイラ(ト))・アル=ワーティー)血統を守り続けている。約200名の従業員には獣医師や栄養士も。厩舎は牡馬、牝馬、仔馬エリアに分割されている。
名称と概要
- アル=ハヌーフ牧場
مَرْبِطُ الْهَنُوفِ - アル=ハヌーフ・クハイラ・ファーム
مَرْبِطُ كُحَيْلَةِ الْهَنُوفِ
アル=ハヌーフ・純血アラブ馬(牧場)
اَلْهَنُوفُ لِلْخُيُولِ الْعَرَبِيَّةِ الْأَصِيلَةِ
色々な名称で記載されているようですが全部一緒の施設です。YouTubeチャンネル、Twitterアカウント、Instagramアカウントあり。
シリア北東部ハサカ県のトルコ・イラク国境近く رُمَيْلَان الْبَاشَا(ルメイラーン・アル=バーシャー)という地域にあるアラブ有名部族シャンマルの支族長直営施設で、シリア方言辞典によるとアル=ハヌーフの「ハヌーフ」は「美女、美しき乙女」という意味だとか。
アル=ハヌーフ牧場のオーナーはシャンマル支族ジャルバー一族の族長であるシャイフ、عَبْد اللهِ بْن عَلِيّ الْبَاشَا الْعَاصِي الْجَرْبَا(アブドゥッラー・ビン・アリー・アル=バーシャー・アル=アースィー・アル=ジャルバー)氏。一族が受け継いできた كُحَيْلَة الْوَاطِي(クハイラ(ト)(/クヘイラ(ト))・アル=ワーティー)血統の維持を目的に運営しているとのこと。
シリア北部一帯の馬産家たちが苦境にあえいでいるのにアル=ハヌーフ純血アラブ馬牧場の環境がずば抜けて良いのは、牧場オーナーのシャイフがサウジアラビア在住で国境を越えた同族支援を大規模に行っているため。同牧場は従業員やその子弟・地域向けの支援活動も行っており、シャンマルという同一部族の同胞として地域産業振興にも一役買っている模様です。
牧場オーナーは部族長
2020/06/29
アル=ハヌーフ牧場サイト開設記念パーティーの様子。冒頭に出てくる写真の男性はオーナーであるシャイフ عَبْد اللهِ بْن عَلِيّ الْبَاشَا الْعَاصِي الْجَرْبَا(アブドゥッラー・ビン・アリー・アル=バーシャー・アル=アースィー・アル=ジャルバー)氏。
*現在は公式ウェブサイトは無くなっており、SNSアカウントのみの運営となっています。
なおアラブ部族関連動画には部族・族長・重鎮を称えた詩歌を添えた動画が多く、アル=ハヌーフ関連ビデオにも族長の二つ名がしばしば登場します。
- زيزوم شمر [ ザイズーム(/ゼイズーム)・シャンマル ]
ザイズーム・シャンマル / ゼイズーム・シャンマル
意味:シャンマルの勇敢なる漢、シャンマルの豪胆な漢 - أبو العَريب [ アブ・ル=アリーブ ]
アブー・アル=アリーブ
意味:(生粋なる)アラブ人の血統の者 - جَبَل الْمَكَارِمِ [ ジャバル・ル=マカーリム ]
ジャバル・アル=マカーリム
意味:寛大な施しの山、山のごとくたいそう寛大なお方
シリア南部で改良に取り組む牧場
ビューティーコンテスト(品評会)出場用純血アラブ馬の外見・体格改良の取り組み
2020/05/23公開動画
要旨:
シリア南部 اَلْقُنَيْطُرَة [ アル=クナイトラ / 口語発音:アル=クネイトラ ](クネイトラ)の كُودنا / كُودنة(クードナ)村にある مَزْرَعَةُ الطَّحَّانِ [ mazra‘atu-ṭaḥḥān ] [ マズラアト(ゥ)・アッ=タッハーン ](アッ=タッハーン・ファーム、アッ=タッハーン農場、アッ=タッハーン牧場)。
広い額・ポコッと盛り上がった目周辺が特徴のシリア系純血アラブ馬の改良を進めていて、品評会チャンピオン馬等を通じ美形の仔馬たちを生産。動画では旧世代→第2→第3→第4世代の順番に出演。次第に風貌・体格が変化していっている様子を紹介。
1:56
この牧場で馬の美形化改良計画に貢献したという種牡馬。
*種牡馬が芦毛ということもあり同牧場は芦毛が多めとの印象。
*ちなみに عبيان أبو جريس は出演している同種牡馬の父馬の名前らしく、有名種牡馬の名前である模様。عبيان [ ウバイヤーン / 口語発音:オバイヤーン ] は西洋で「O’Bajan」、日本で「オーバーヤン」と表記される純血アラブ馬の有名血統名称。
アッ=タッハーン牧場での馬産概観
2018/05/09公開動画
要旨:
シリア南西部(アル=)クネイトラで純血アラブ馬を所有するアッ=タッハーン家。アラブ馬は賢く・忠実で・速くて・耐久力がある世界最高の馬種だと語る通称 أَبُو فَارِس [ ’abū fāris ] [ アブー・ファーリス ](ファーリスの父、ファーリス君のお父さん)氏。
一族は代々馬産を継承。彼のところには現在150頭がいる。馬のエキスパートである彼は商業目的で生産している人々と自分たちとでは馬との結びつきが違うと自負しているという。彼が属する部族のシャイフ(族長)はかつて所有していた馬を連れて抗争相手の元を訪れそれをプレゼントとして贈ることで和解・解決に成功したという。
1:13
生まれた仔馬を世界アラブ馬機構(World Arabian Horse Organization、略称:WAHO)に登録するためDNAサンプルとなる毛などを採取。(*特徴を細かく記した)申請書を添え首都ダマスカスに送付。登録料を支払う。牧場では繁殖牝馬の維持に注力しており内戦で純血アラブが消滅の危機に瀕している現状を受けできる限り仔馬が増えるよう努めているという。
1:50
純血アラブ馬登録書類。(*母馬とのツーショット写真も写っている。)
2:00
(アル=)クネイトラ地域のアラブ馬は病気に強く、その体は起伏の激しい地形や変動のある天候に適応している。なお一番の悩みはヘビ害で、北保口で馬たちが噛まれてしまうことだという。
*現地は اَلْجَوْلَان [ アル=ジャウラーン / 口語発音:アル=ジョーラーン等 ](ゴラン)高原の一角で自然が豊か。
2:29
アラブ馬飼育にはお金がかかり、1頭に与える馬具だけでも数百万シリアポンドする。
2:35
純血アラブの理想的な外見・体格について。背は短いほど・胸(*=両前脚の間)は広いほど美しいとされる。同地域の馬は蹄が大きいのが特徴。
3:14
アブー・ファーリス氏の馬たちが食べる餌は年間60トンに達し維持には巨額の資金を要する。
3:27
アサド政権側による爆撃で(アル=)クネイトラでは30頭以上の馬が死亡。反体制派の解放地域では馬の売買が実質不可能で国外顧客にも売れず不況に陥ってしまった。得意先がいるヨルダンやアラビア半島湾岸諸国などに販売することもできなくなっている。
3:46
(字幕にてアブー・ファーリス氏の本名ヤースィーンが表示される)
爆撃時の被害が最小限になるようにと、ヤースィーン氏や彼の父、父方おじたちは一族総出で手分けして馬を分散飼育している。
反体制派側の解放区にできた乗馬クラブ
2021/04/28公開動画
要旨:
シリア イドリブにできた نَادِي الزَّعِيمِ لِلْفُرُوسِيَّةِ [ nādi-z-za‘īm li-l-furūsīya(h) ] [ ナーディ・ッ=ザイーム・リ・ル=フルースィーヤ(フ/ハ) ](アッ=ザイーム馬事クラブ)。(*反体制側である)解放区北部に乗馬クラブが無かったことから馬好きたちが立ち上げでできた。
青年は牝馬を所有。毎日のように通いつめているそうで「馬を手放すなんて考えられない」とコメント。同クラブでは飼料不足と医療がままならない状況が課題だという。
競馬(草競馬)やビューティーコンテスト(品評会)
シリアでも盛んな草競馬
2018/09/11公開動画
アレッポで開催された純血馬の草競馬。鞍をつけない裸馬に騎乗している様子が写っています。30頭が参加し4レース実施。0:45頃に出てくる青年は愛馬を4ヶ月トレーニングして臨み2位に入線。
2020/03/17公開動画
要旨:
シリア北東部デリゾール غَرَانِيج [ gharānīj ] [ ガラーニージュ ] で開かれた اَلْعُقَيْدَات(アル=ウカイダート / 口語発音:アル=ウガイダート、アル=ウゲイダート、アル=オゲイダート、アル=オゲイダート等)族*主催の競馬大会。
(アル=)ジャズィーラ地域にあるハサカ、ラッカ、スーサ等から参加者が大集結。馬名・血統・所有者名や何地区王者・代表なのかの紹介、父馬母馬の名前他がアナウンス。
*内戦に伴う諸々の衝突・戦闘により重鎮や成員が度々死亡している部族。
純血アラブ馬生産の火を絶やすな~生産者らの訴えとフェスティバル企画
2017/05/14公開動画
要旨:
シリア北西部イドリブで開催された純血アラブ馬フェスティバル。イドリブは引き続く内戦の影響で世界アラブ馬機構(World Arabian Horse Organization、略称:WAHO)に血統登録できていない馬が数多くおり、馬産振興に加え窮状を訴える目的でこの催事を企画したという。
3:30
レース1位馬はシリアの砂漠地域から参戦。世界アラブ馬機構(WAHO)未登録ながら無事優勝できたと優勝を喜ぶオーナー。
4:00過ぎ
芦毛馬。同馬の祖父は(*シリアの英雄にちなんで)サラーフッディーン(=サラディン)号、父馬もこの馬もサイフ・サラーフッディーン(=サラディンの剣)号という馬名だという。こちらの馬は草競馬ではなくビューティーコンテスト(品評会)部門での受賞馬を輩出している血統だとのこと。
シリア内戦の影響
反体制派「解放区」での純血アラブ馬事情
2020/04/28公開動画
アレッポのアラブ馬生産レポート。反体制派TV系局のため「解放区」という語を使用しています。
要旨:
内戦で多くの馬が死んだり他地に移送されたりしたため同地区にいるのは多くて5千頭。農場や個人宅で飼育。
3:00頃
世界アラブ馬機構(WAHO)証明書を片手に語るアラブ馬の美質・血統。
5:57
سِائِس [ sā’is ] [ サーイス ](馬丁、厩務員)の青年が登場。仔馬の名前は فَرْحَان [ farḥān ] [ ファルハーン ](幸福な、ハッピー)号。アラブ馬にはビタミン、デーツ、りんご、人参等も与えている。
7:00頃
رَشْمَة [ rashma(h) ] [ ラシュマ(フ/ハ) ](頭絡、端綱)と装飾用馬具の紹介。
9:20
馬の毛色とシリア国内主要血統と毛色の傾向。預言者ムハンマドが好んだ毛色ということで黒い青毛馬が出演。
11:00
アレッポ東部のアラブ馬保存組合による活動レポート。豪華な邸宅に見えるのが厩舎。
14:10
調教師兼厩務員男性による若馬の馴致手順。競走馬にする個体は40~45km走らせトレーニング。
16:30
純血アラブ種ハムダーニー血統の بُرَاق [ burāq ] [ ブラーク ](天馬)号。エンデュランス競走( سِبَاقَات التَّحَمُّلِ [ sibāqātu-t-taḥammul ] [ スィバーカートゥ・ッ=タハンムル ] )のためのトレーニングとして50km走ってきた直後だという。
18:35
調教師のトップが他のアラブ種とは異なる純シリア馬について語る。外の血を一切入れず改良無しで保持。
19:35
シャーム地域(シリア周辺地域)チャンピオン種牡馬。
20:35
アラブレベルで9回受賞したことがある牡馬。
21:55
繁殖牝馬用馬房。
23:25
獣医師。疝痛・呼吸器病・怪我以外にワクチン(日本で接種が行われている破傷風、インフル等のワクチン)不足による感染症も発生。馬たちの健康に影響が出ているという。
反体制地域における純血アラブ馬生産と問題点
シリアは大昔から馬の名産地として知られてきましたが、特に盛んなのはユーフラテス川が流れる一帯です。
しかしアレッポやイドリブなどアサド政権と敵対している地区が多数含まれており、純血アラブ馬の血統登録ができない、薬が手に入らず馬が病死しやすいといった問題が起こっていることが現地メディアで報じられています。
何度も移住せざるを得ず、その間に馬が死んで減っていってしまう
2021/04/08公開動画
要旨:
シリア北西部イドリブ。男性は内戦禍から逃れるためアラブ馬たちを連れて何度も移住を繰り返してきたが、途中で何頭も喪ったという。同地域での課題は国際組織世界アラブ馬機構(World Arabian Horse Organization、略称:WAHO)への血統登録が困難である件。
そのような中人々は草競馬等のイベントを開催するなどして、馬業界を支えようと奮闘している。
内戦と物価高騰のダブルパンチで維持がどんどん難しくなっている
2021/10/07公開動画
要旨:
大勢が馬産を辞めてしまったシリア北部で今もなお約22頭の純血アラブ馬(競走に出場するレースホースたち)を所有する男性。馬との付き合いは7歳の時から。
飼料高騰・獣医師不足に加え、放牧で育てる羊等と違い馬は馬房清掃といった世話が常に必要であることから手がかかるので飼うのは大変。
Tシャツを着た青年と一緒にいるのは3歳牡馬で、レース出場に向け2~3ヶ月の調教を実施している最中。同牧場の純血アラブ競走馬たちはラッカやハサカなどでの競走に参加するという。
*YouTubeの動画タイトル下にこの厩舎に関する解説が書かれています。撮影地はシリア北部アレッポ県にある مَنْبِج [ manbij ] [ マンビジュ ](マンビジュ / マンビジ)だとのこと。撮影当時、マンビジュ地域全体で約250頭の純血アラブ馬が飼育。
2023/02/05公開動画
要旨:
馬産が盛んなシリア北東部(アル=)ジャズィーラ地方の(アル=)ハサカ(口語発音:ハサケ)。アラブ馬飼育は先祖代々引き継いできた伝統的遺産で、どの家も馬を飼っている。同地は非常に古い名門血統を複数抱えており良血馬揃い。
しかしながら飼料・薬を始めとするあらゆる物品の価格高騰のためにひどい苦境に陥っており、一部の馬を手放して得た収入を資金として残した馬たちを養っているという。
純血アラブ馬の国際機関登録が困難=国際的認知を失いその血統がその時点で途絶えたも同然に
2018/02/19公開動画
要旨:
アサド政権との対立状況が与える純血アラブ馬生産現場の苦労について。
仔馬は毛のサンプルに正面・側面写真と名前を添え提出。シャーム(ここでは首都ダマスカスのこと)経由でドイツに送るという遠回りのせいで飼育地が反体制地域なのに登録地は体制側のダマスカスになってしまうというずれが発生してしまうという。
*アラビア語入りの世界アラブ馬機構(World Arabian Horse Organization、略称:WAHO)純血アラブ馬登録証がよく見えます。
*ちなみに馬房の扉に書いてあるのは、物事をほめたりする時に言う مَا شَاءَ اللهُ [ mā shā’a-llāh(u) ] [ マー・シャーア・ッラーフ / 口語発音:マー・シャー・アッラー、マー・シャー・アッラ、マーシャッラー、マーシャッラ等 ](これぞ神が望まれたこと)というアラビア語・イスラームの決まり文句です。アラブ世界では妬みの力が人や家畜を襲うという邪視信仰があり、家の戸口に邪視避けの文言を書いたり邪視撃退の目玉形お守りを飾ったりする習慣があります。ここでは高価で所有していると人から羨ましがられやすい純血アラブ馬が負傷や病死しないよう願掛けをして書き入れているものだと推察されます。
2019/09/15公開動画
要旨:
シリア北東部デリゾールにおける純血アラブ馬。同地はセグラーウィー系の血統が多いとか。動画に出てくる芦毛で焼き印があるのは英国にある世界アラブ馬機構(World Arabian Horse Organization、略称:WAHO)への登録が済んでいる馬。後半の鹿毛は未登録馬。
出演者のコメントで出てくる用語:
- 国際機関WAHO登録馬:
دوليّ [ duwalī(y) ] [ドゥワリー(ュ/ィ) / ダウリー(ュ/ィ) ] - 未登録馬:
وَطَنِيّ [ waṭanī(y) ] [ ワタニー(ュ/ィ) ]
*国際登録できず地元で純血と認知されているだけ。血統的には100%確実に純血アラブ種でも、どんなに良血であってもWAHOに登録されなければ国際的な認知を得られないただのシリア産馬になってしまう。
窃盗団の暗躍、純血アラブ馬の闇流通・国外横流し
2018/07/15公開動画
要旨:
デリゾールは純血アラブ馬生産の一大中心地だったが内戦により打撃を受けてしまった。馬産を守ろうと部族民らは奮闘している。出演しているのは اَلْعُقَيْدَات(アル=ウカイダート / 口語発音:アル=ウガイダート、アル=ウゲイダート、アル=オゲイダート、アル=オゲイダート等)族 الهفل(アル=ハファル)家の面々。
これまで地域最上級の良血馬たちを国内外イベントに出場させてきたが、シリア国外に売りさばこうとする窃盗団による被害を受けるなどしているという。
爆撃による厩舎被害と純血アラブ馬たちの死
2018/05/05公開動画
要旨:
ダマスカス出身の元馬産家。移住先のヨルダン首都アンマンにある Forest Hill Equestrian Center で馬の世話をして生計を立てている。
純血アラブ馬を育成していた一家出身で幼少期から世話、レース馬育成を学んだ。彼の暮らしていたグータ地区は馬産に適した土地だったものの内戦で大損害。我が子同然だった馬たちを喪い、自分自身の心にも大きなダメージを負ってしまったという。
彼の牧場はアサド政権によるグータへの爆撃で1日にして破壊され馬たちもほぼ全滅。ヨルダンでは馬の育成に従事。
6:20
ヨルダン人オーナーが سَلَامُ سُورِيَا [ salām(u) sūriyā ] [ サラーム・スーリヤー ](シリアの平和)号と命名した馬。馬と上手く付き合うにはまず愛してやることだと語るアブー・バクル氏。早朝1頭ずつに挨拶しながら体調確認し、手ずから朝食を給餌しているという。
アレッポにおける純血アラブ馬生産組合設立の取り組み
2017/04/04公開動画
要旨:
内戦・飼料価格高騰・薬ワクチン類不足・医療物資が揃わず外科処置もできないといった数々の困難にもかかわらず、シリア アレッポ西の馬産地では純血アラブ馬生産組合を設立。非常にコストがかかる飼育を続けようとなんとか頑張っているとのこと。
2017/11/06公開動画
要旨:
シリア北・西部で設立された جَمْعِيَّةُ الْفَجْرِ لِلْخُيُولِ [ jam‘īyatu-l-fajr(i) li-l-khuyūl ] [ ジャムイーヤトゥ・ル=ファジュル・リ・ル=フユール(アル=ファジュル馬組合)。内戦の7年間で半数以上のアラブ馬・シリア馬が死亡したハマー、イドリブ、アレッポ地域をカバー。
馬産・スポーツ振興を目的に活動。内戦中生まれた未登録馬の確認や医療体制整備にも尽力しているという。