昔から馬乗り、ホースマンが多かったリビア。現地における騎馬文化、競馬事情について情報を集めてみました。
リビアで生産されている馬の種類
アングロアラブが多いリビア
2022/05/07公開動画
要旨:
伝統を体現する乗馬文化はリビアでも人気。アラブ種に関しては血量が色々あり英国産品種とのかけ合わせが国内で行われている。(*アングロアラブのことかと)
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英国に加え米国、ベルギー、スペイン他ヨーロッパから馬を輸入。それらは競馬場での競争用で伝統的馬事に参加するのは国産アングロアラブ。アラブ馬、ベルベル馬(バルブ種)改良のため外国の品種を交配させているという。
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馬具の種類・名前・役割。手綱・頭絡等。
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リビアの馬事連盟はアラブ諸国の中でも早い時期(1965年)に創設。国外の競技会(障害飛越)受賞選手らを複数輩出してきた。
WAHO報告書から
世界アラブ馬機構(World Arabian Horse Organization、略称:WAHO)によるアラブ馬事情現地リポート
『Member Report from Libya』
(リビアからのメンバーリポート)
世界各国の純血アラブ馬を管轄しているWAHO(World Arabian Horse Organization,世界アラブ馬機構)によるリビアに関する報告記事です。
伝統的な馬事イベントに参加しているのはアングロアラブと半血種が圧倒的に多く、小柄な体格の純血アラブ種は平均よりも大きな体をした個体のみ参加している状況であることがわかる内容となっています。
リビア人と馬
リビアにおける馬事・馬産・民間療法
2020/09/22公開動画
撮影地は اَلْجَبَلُ الْأَخْضَرُ [ ’al-jabalu-l-’akhḍar ] [ アル=ジャバル・ル=アフダル ](アル=ジャバル・アル=アフダル)地域。
要旨:
リビアにおいて重要な地位を占める馬と騎士。馬乗りと馬との関係は特別な間柄。乗馬はジハード闘士(*イスラーム闘士、ここでは特にリビアを植民地支配から解放しようとする国土解放戦士)から引き継いだ伝統でもある。馬は最も高貴な生き物であり人々は上質の馬具を着せてきた。騎士には良き人柄や敬虔さが求められる。
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騎馬行事では銃の発砲を行う。所作はジハード闘争の内容を引き継いでおり、馬上から銃撃してから後方をちらりと見る動作を行う。前方の敵に向けるという意味で銃を掲げながら走り、撃った後相手がどうなったかを確認する意味で振り返る。
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乗る時は馬の左側から。馬は通常牡馬だが昔は牝馬が主流だった。馬の性別は特に違いが無いと話す馬乗りも。
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馬齢による名称の違いについて。授乳期が終わった後は離乳作業。この時期に負傷すると将来の走行に響くため細心の注意を払い足に緩く紐を結びつける。離乳期の仔馬は母馬のところに戻ってまた乳を吸わないよう隔離。古くなって傷んだ母乳で死んだり病気になって生涯病弱なままになるため。アル=ジャバル・アル=アフダル地域では離乳直後の仔馬に大麦と水を与えるという。
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仔馬の前髪・たてがみ・尾は将来ふさふさになるよう短く切り揃える。馬齢が上がるごとに丈は伸ばしていき5歳で完了。
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馴致は伝統的な方法・規定に従い行う。
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騎手の衣装は色々があるが戦争時には特有の装備で臨んだ。現在使われている衣装は昔のスタイルを受け継いだ物。馬の世話・蹄鉄・治療・馬具・騎乗方法等も同様。
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騎乗の際は場所が走行に適しているかを確認。馬の筋力が上がるよう訓練として長距離を走らせるなどし、森や砂浜に行くことも。単独や集団でトレーニング。
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馬事の際の所作には全て規範がある。リビア乗馬文化における騎乗中の高揚感は他地域に比べ格別とされ酒以上に陶酔感をもたらすとの言葉すらある。
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困難な状況と国からの援助不在にも関わらず乗馬人気は近年上昇中。馬・馬具・飼料の価格高騰がある中人々は馬に乗り続けている。青年省による支援や純血アラブ馬輸入と地元産馬の品種改良を訴える関係者ら。
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鞍・馬具や蹄鉄製造業は途絶の危機にあるがパフォーマンスに直接影響するだけに重大。リビアの蹄鉄は蹄の先を覆うツメ、中央に大きめの穴、6つの釘穴がある。出演の蹄鉄工は先祖代々この家業を引き継いできた。
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鞍などの馬具。各部位に重要な役割・意味合いがあり馬乗りは負傷を回避するため適切に扱う必要がある。途中で出てくる長い棒は鞭。ゼッケンは純羊毛の織物。
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馬・走行ぶり・騎乗の良し悪しと判断基準や馬具外れ・落鉄・口割り等について。鞍が後ろにずれるのは馬が力強く疾走した際に起こり走行の素晴らしさを示す。馬事イベントは結婚式等の開催者に招かれ開かれることが多い。走る場所は直線で石が無いことが必要。適した走行コースを用意しもてなすことに招待者側の寛大さ等が現れる。
(リビア人相手の撮影で地方部方言そのままで話しているので聞き取れない部分が多いです…😅)
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リビア人は馬乗り達に強い敬意を払い羊を屠ってご馳走したり丁重に迎える。騎馬にまつわる社会的結びつきは強く特筆に値する。彼らは乗馬という崇高な趣味を通じて連帯し合っている。
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馬と騎士の間柄は他の人には分からない特別な物で、馬乗りにとって愛馬は誇りであり家族同然。
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民間療法。疝痛にはオオカミの腸から作った薬が効くという。足まわりは焼灼。治療が功を奏さず二度と走れなくなってしまうこともある。
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毛色の名称や毛色毎の長所短所等。
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挨拶し合う騎士ら。彼らが最も心がけているのは安全・無事。パフォーマンスが終わった後は自らの衣装を脱ぎ馬も休ませる。騎乗後に鞍に鐙を上げたりする手順や発汗した馬を休ませる方法を実演する男性。
リビアの伝統的騎馬行事マイズ・シャアビー(イクド)
マイズ・シャアビーの様子
北アフリカのアラブ・イスラーム化した地域マグリブ(マグレブ)諸国には似通った騎馬行事があり、ライフルや剣を携えた騎士が昔ながらの服装を身にまとって疾走するという日本の流鏑馬のような伝統行事があります。
リビアの伝統的騎馬行事は اَلْمَيْز الشَّعْبِيّ [ ’al-mayzu/maizu-sh-sha‘abī(y) ] [ アル=マイズ・ッ=シャアビー(ュ/ィ) ](アル=マイズ・アッ=シャアビー)。古の騎馬戦士の衣装を身にまとった人馬が参加。地域差があるのかこの動画では頭部の房飾りが特に大きくもこもこ度が凄いです。
2018/08/15公開動画
リビア トリポリ県 تَاجُورَاء [ tājūrā’ ] [ タージューラー(ゥ/ッ) ](Tajura / Tajoura、タージューラー)で開催されたホースフェスティバル。古の騎馬戦士衣装を身にまとい伝統的馬具を着けた馬と共にパレード。近隣マグリブ諸国の騎馬イベントと似たような雰囲気。シルバー系でキラキラ感の強い馬具が目を引きます。現地は馬が大集合。
2022/11/02公開動画
要旨:
結婚式で昔ながらの騎馬行事を開催したリビアの一族。伝統的な出で立ちの馬乗りたち100名超が参加。عِقْد [ ‘iqd ] [ イクド ](イクド*)と呼ばれる一団(1イクドあたり30~40騎ずつ)が列になって疾駆、植民地主義に抵抗した解放闘士らの様子を再現した。
*イクドはマイズ・シャアビーの別名でもあるとか。
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彼らの先祖が身を投じてきた数十、数百という国土解放ジハード戦争とこの伝統的騎馬行事は結びついている。
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リビア人は馬事を非常に好む。イベントや結婚式があると国内各地から遠距離移動をしてまで大勢の馬乗りや観客が騎馬行事の会場に集まる。
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騎馬行事にはドクターやエンジニアといった高学歴男性、専門職男性らも参加しているという。
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乗馬や馬飼育にかかる経費の増大やリビア社会の経済状況悪化にもかかわらずリビア人たちは馬事文化を大切にしており、その存続がリビア人としての義務だと考える人々すらいる。
馬乗りの結婚式は仲間みんなの結婚式~ホースマン同士の絆
2021/11/28公開動画
リビア العُبَيْدَات(アル=ウバイダート / 口語発音:アル=ウベイダート、アル=オベイダート、アル=オベーダート等)族の馬事イベント。結婚式等で屋外でのテント設営・競馬・競駝がつきもののアラブ諸国では高精細カメラとドローンからの空撮を売りにしている記念写真&ビデオスタジオが多く、この動画もそのタイプとなっています。
BGMは馬乗り、ホースマンたるリビア人がテーマの歌。
2018/11/16公開動画
要旨:
リビアトリポリ地域 سْوَانِي بِنْ آدَم (スワーニ(ー)・ベン・アーダム)で行われた盛大な結婚祝い。アーダム一族でこうして結婚式が行われたのは25年ぶりだという。新郎はアーダム家の男性2人。結婚式に伴う伝統的馬事を盛り立てたいとリビア全土の騎士らを招待した。
招きに応じた3千騎が各地から大集結、さらに1万人の客(観客、結婚祝い客)ががイベントに参加。地域毎もしくはファミリー毎に馬を連ねて走行を披露。整列したらゆっくりと開始地点に向かい、そこから疾走を行った。
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式の世話役を務める新郎の家族。出席者の多くが同じ地域に暮らす別の一族でイタリアの植民地主義に抵抗した元同志。時代が変わっても馬は人々にとって誇り・誉れの象徴。
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イベントに参加した騎士らの声。親達が騎士ならその子も騎士にならないといけない。自分の息子達も継承してほしいと語る。リビアにおいて馬事は生活様式の一部。
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新郎。婚期が10年遅れてしまったが、その代わりにその期間をかけ真のリビア的伝統行事・馬事を盛り立てるべく着々と準備を進めてきたという。
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馬乗りが結婚する時は必ず騎士仲間も呼ぶ。1人の結婚式は皆の結婚式でもある。
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馬はリビアの解放闘争の相棒だった。結婚式にも欠かせない。
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トリポリ在住民族専門家。リビアにおける騎馬文化は古くから続く伝統で代々継承。アラブ種特有の忍耐力は西洋種と異なる。騎馬行事は結婚式や国の催事等に際して行われるがリビアではファンの数が非常に多い。最近ヨーロッパ系品種の参加が増えてきているがしなやかさ・軽やかさ・美においてアラブ種が秀でている。
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伝統的馬具等の製造補修をする職人が国内各地にいる。今の馬具には銀プレート細工がついている。指で示しながら頭絡の構成や形を解説。地域により馬具に違いがあり東部は飾り・房をあれこれ垂らす。トリポリ地域に関しては12:21~に写っているような装いが標準的。
マイズの詳細、騎士と愛馬の装い
2020/01/01公開
要旨:
冒頭~リビアの伝統衣装を着た馬乗り達。握手・抱擁・頬へのキスで挨拶を交わし合う。催しにて単騎で駆ける様子が映る。
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騎手兼馬具職人のマフムード・アブドゥルアーティー氏。騎馬行事マイズは祖父・父達から引き継いだ伝統。馬具の各名称を解説。鞍の上には飾りをあしらった布がかけられている。
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マフムード氏の馬具工房。丈夫な糸でゼッケンの端を縫製、色のついた布地を重ねることで縁の模様を出す。胸当てや頭絡。頭絡は馬に合わせ10~12号が流通、地元(東部)では8~9号が出回っているとか。頭絡への額飾り・房取り付け方やパーツによる幅の違い(9cm位と6~7cm)等を解説。
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リビア式のあぶみ。四角形で角部分は馬の腹に当て拍車として機能するという。
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マイズは東部と西部で異なり西部は40組の人馬が並んで進むが東部では戦闘スタイルをとっており単騎。古の戦士スタイルの騎馬衣装は昔実際に戦っていた頃の物と同じ装いだという。
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鞍の上にかける布の四隅に置く飾り布を縫い付け。布の幅は馬の体格による。地元では小さめサイズが流通。
*最後にリビア方言による口語詩朗読あり。
乗馬施設
馬人気を支える乗馬スクール
2020/11/27公開動画
要旨:
リビア وَادِي عُتْبَة(ワーディー・ウトバ / 口語発音:ワーディー・オトバ、直訳は「ウトバ谷(オトバ谷)」)に複数ある乗馬学校の一つ。若い馬乗りたちを育成、会員らはフェスティバルや結婚式に参加している。
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青年はこれまで地域内外でいくつもの行事に参加し腕を磨いてきた。
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馬には大麦やナツメヤシの実(デーツ)を与えている。デーツは特に冬に有効で馬のエネルギー源となり体を温め寒さから身を守るのに役立つ。体も毎日のように洗ってやっている。これも非常に重要なポイント。
*これに関しては動画下に「大麦やデーツを食べて毎日入浴もして人間よりいい暮らしをしているじゃないか」とのコメントあり。
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同地には色々な血統の馬がいる。(*乗馬人気の高まりに伴い)ここ数年の間に頭数が増加した。
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2013年に乗馬を始めたという男性。これまでに色々な行事に参加した。色々大変なこともあるがぼちぼちやっていけているという。
リビアにおける馬具製造業
リビアはかつては馬具製造が非常に盛んな土地柄で今でも伝統的な装飾を施した鞍や頭絡が作られています。現地テレビ局の取材動画で工房の様子や馬具パーツの詳細な説明を知ることができます。
2019/05/17公開動画
要旨:
リビア تَرْهُونَة [ tarhūna(h) ] [ タルフーナ ](タルフーナ)で子供時代から鞍を作っているという馬具職人 عَادِل مِيلَاد الْعَلَوِيّ(文語発音:アーディル・ミーラード・アル=アラウィー)氏。
近頃は生計を立てるため若者らの新たな参入があるという。アーディル氏の一族は馬事に従事してきたがタルフーナには手仕事が巧みな部族がおり鞍の製造も行ってきた。リビアは乗馬用鞍の名工を複数輩出、彼らは現代においても模範的存在。
リビア鞍まわりのパーツは88種。それぞれに名前がついている。リビア製の鞍は世界的な評価を得ており海外のフェアでも受賞。鞍は5色。鞍に合わせる布地も緑・赤等が用意されており客が好みに応じて選ぶ。
乗馬熱から国内には馬事クラブがたくさんあって結婚式でも多数の騎馬イベントが行われること、民芸品としての需要もあるためリビア製馬具の売れ行きは上々。
馬具にはサイズがあり馬の対格・頭の大きさに応じて6~12号が流通。リビアで最も売れているのは10号だが地域差あり。
乗馬のメリットは馬乗り同士がまるで親戚同士のように親しくなれる点。馬乗りたちは他の地域に行っても歓迎してもらえる。
リビア製の鞍は古くから有名で、ナイジェリアやスーダンにまで売られていき皆がリビア鞍を使っていたという。