アラビア語競馬実況中継のオーポーポーポーとは?

オーポーポーポーおじさんの正体

オーポーポーポーおじさんはUAEなどアラビア半島諸国で活躍する人気実況解説者

日本の海外競馬ファンの間ではアラビア語の競馬実況で「オーポーポーポー!」と叫ぶアナウンサーがいることが以前から知られていたかと思います。ドバイワールドカップやサウジカップといった国際的な大レースを担当しており、有名レースの度に

  • オーポーポー / オーポーポーポーってどういう意味?
  • ポーポーポー / ポーポーポーポー / ボーボーボー / ボーボーボーボーと聞こえたけど一体何?
  • オーポーポーポーおじさんの季節(春)がまた来た
  • アラブの競馬実況はオーポーポーポーって言う習慣でもあるの?
  • 言っているのは全部同じ実況アナ?

といったネット投稿を見かけたことがある方も多いのではないでしょうか。

アナウンサーご本人によると、「素晴らしい瞬間なのにあまりに凄すぎて感動・興奮を伝える言葉が見つからない時に叫ぶ」のがオーポーポーポーの使い方だそうで、どうやらぴったりな和訳は無い様子。そのため「行け!」でも「頑張れ!」でもなくどちらかというと「すごい、すごすぎる!」寄りで、もはや言葉すら出なくなって「ウォーッ!」「ワーッ!」と感嘆・歓声の雄叫びを上げているというのが近いようです。

ひとまず、例として2021年のサウジカップの録画ビデオを見てみたいと思います。サウジアラビア人によるサウジカップ放送という人員のサウジ化が重視されるようになったらしく2025年サウジカップでは実況・解説・通訳などがサウジ勢で固められていたようでしたが、この頃はオマーン人でアラブ首長国連邦を拠点に活動していたアル=マアマリー(アル=マアムリー)氏に依頼が来ていたようです。

この動画では3:33あたりでオーポーポーポーが登場。その前後の流れは以下の通りとなっています。

ゴール付近での実況について:

勝利したミシュリフはサウジアラビア王族が馬主で放送局も地元サウジのスポーツチャンネルだったことから、実況アナはサウジ人ではないもののサウジ側の立場で語っておりサウジアラビアのことを「我々」と表現。

ゴール直前には「ミシュリフ粘る!」「ナール!(直訳:火、ファイヤー、意味:すごい、ホットな等)」「行け!サウジアラビア!」「優勝杯は我らが手に!」「最高賞金金額のサウジカップ王者です!」とアナウンスし、勝利を確信した直後に喜びと興奮を込めオーポーポーポーとシャウト。

「オーポーポーポー!」や「ナール!」という決まり文句で有名なこのアラビア語実況解説者はアラブ首長国連邦の放送局などで活躍するオマーン出身 عبد الله المعمري [ ‘abdullāh ’al-ma‘marī(y) ] [ アブドゥッラー・アル=マアマリー ] 氏。

*ご本人のアカウント名からすると口語発音に近いアル=マアムリーと読む方が良いかもしれません。

地域屈指の有名実況アナウンサーということで日本人が視聴するアラブのビッグレース中継に必ずといっていいほど登場しているため誤解されやすいのですが、アラビア半島諸国でどの実況アナもオーポーポーポーを叫ぶ習慣があるわけではなく、オーポーポーポーで知られる同氏があちこちの国の大レース実況に呼ばれているのでアラブ首長国連邦、サウジアラビア、カタール(カタル)などのテレビ局からしょっちゅうオーポーポーポーが聞こえてくるというのが原因だったりします。

アラビア語実況中継のストリーミング放送で観戦している日本の海外競馬ファンの間で有名なこの「オーポーポーポー」。アラブ圏の競馬中継で熱血系アラビア語サッカー実況のようにオーポーポーポーと叫ぶのは彼(*後述の通り元々はサッカー実況アナだったとか)ぐらいで、アラブの競馬実況界に限って言えばいわば専売特許・トレードマークのようになっています。

最近はゴール後にサッカー実況同様の「パーパーパーパー」なども言うようになっており、彼の実況レパートリーにオーポーポーポー以外の各種フレーズが新たに加わった形となりました。

アブドゥッラー・アル=マアマリー氏の仕事風景

実況席でアナウンスするだけでなく、普段からTwitteで競馬情報を発信しているアブドゥッラー・アル=マアマリー氏。アラブの競馬関係メディアで紹介されていることもしばしばです。

スーツ姿で。アラビア語部分は「クリエイティブかつ世界的大物実況解説者アブドゥッラー・アル=マアマリー氏には、多忙にもかかわらず首長殿下のフェスティバルへの参加を承諾していただき、大いに感謝しております。クウェートの馬事愛好家らは彼の参加を切望し、想像力あふれる実況解説を聞きたくてたまりませんでした。オーポーポーポーの響きは未だに我々の耳を愉しませてくれているかのようです。」と、アル=マアマリー(アル=マアムリー)氏の人気ぶりを物語る内容となっています。

サウジカップが冬開催で肌寒い時期だったため防寒着を着て記念撮影。ここでも「大物実況解説者アブドゥッラー・アル=マアマリー氏」として紹介されています。

عبد الله المعمري [ アブドゥッラー・アル=マアマリー/マアムリー ] 氏は長年アラブ首長国連邦(UAE)で活動しているため同地の伝統衣装を着ていることが多く白い頭巾に白い長衣姿の方が有名だと思いますが、ラストネームがオマーンに多い部族成員の名乗るものであることからも推察できるように彼自身はオマーン出身だとか。

オマーンの伝統衣装は隣国のアラブ首長国連邦とは違い巻きターバンが主流。リビアのミスラータ(ミスラタ)で行われた競馬に招待された際もオマーン式ターバンにUAE旧式の結び紐タイプイカール(イガール)を重ねた姿で登場、実況アナウンスを披露するなどしています。

2021年サウジカップデーの本番に備えて実況席でリハーサルや確認を行うアブドゥッラー氏。

アラビア語での現地コメントや評価を見る限り、彼は叫び声がコミカルなせいで人気があるというわけではなく、元々サッカー実況で定評のあったアナウンサーが競馬に転身し安定したクオリティーの競馬実況を提供していることが主な原因である模様です。

管理人が実際聞いてみての感想でもありますが、レースの興奮が伝わってくるアナウンスや主催者について語ったり勝った馬を称賛したりする表現が巧みで、サッカー実況時代も含めると経験年数も豊富なので言い淀みも少ないなど、多くのファンに信頼されている理由がわかるような気がしました。

落ち着いた実況を好む方には叫びまくるオーポーポーポーは合わないかもしれませんが、時として馬に語りかけるほめ言葉を言っていたりしてその言葉の巧みさは聞いていてワクワクするのは確かです。日本にも昔から競馬実況名言集があり「上手いこと言うものだな」とファンをうならせたりしてきましたが、アル=マアマリー(アル=マアムリー)氏についてはそうした名実況アナの要素を持ちつつも、「10年ぐらい前までは有名サッカー実況アナウンサーだったのに、競馬に転身して当時と同じテンションで競馬レースの実況をしている」といった特色を備えた人物だと言えるかと思います。

“オーポーポーポーおじさん”の決まり文句

オーポーポーポー

アナウンサーご本人がSNSで説明しているのですが、言葉で表せないほどに素晴らしいことを表す歓声だとか。

オーポーポーポーは下で詳しく考察している通り、アラビア語ではなく英語でスポーツ観戦の時の歓声を意味する「Whoop Whoop Whoop!」(ワーワー、ウォーという意味の歓声)を取り入れた、スラングとしてのみ使われる外来間投詞的なものである可能性が高いです。

アラビア語の日常会話として十分広まっているものではなく、サッカー放送などに限って使わているもので、実況の時に叫ぶ雄叫びとしてアラブ圏に入ってきて、そのまま実況スタイルとして一部のアナウンサーたちのトレードマークになった、という状況が近いとの印象です。

日本では عبد الله المعمري [ アブドゥッラー・アル=マアマリー/(口語発音)アブドゥッラー・アル=マアムリー、アブダッラー・アル=マアムリー等 ] 氏が日本馬も出走する有名レースで実況を担当するたびに「オーポーポー」「オーポーポーポー」「ポーポーポー」「ポーポーポーポー」が気になるというSNS投稿をよく見かけるのですが、サウジアラビアなどアラブのサッカー事情を追っている方だと「アラビア語サッカー実況の方で聞いたことがある」というケースもある様子。

パーパーパーパー

オーポーポーポー同様、言葉で表せないほどに素晴らしいことを表す歓声である模様。

アル=マアマリー(アル=マアムリー)氏は最近はパーパーパーパーのような別バージョンも取り入れられたらしく、オーポーポーポーではない雄叫びを耳にする機会も増えました。そちらも同じく、アラブ世界ではサッカーといった一部スポーツ実況で決まり文句的に口にされることのある歓声フレーズとなっています。

2025年2月15日にカタール(カタル)で開催され日本馬サトノグランツ号も出走したG3競走アミールトロフィー(H.H. The Amir Trophy)では、途中で交代する形で実況。ゴール前ではオーポーポーポー、ゴール後ではパーパーパーパーという二本立てでした。

ゴール付近での実況意訳:

ロマンス、ロマンス、凄やばなロマンス号っ!オーポーポーポーポーポーポー!よしっ!ロマンス、ロマンス!凄いっ!なんとぞくぞくさせてくれることか!ドバウィの息子は、どこに出ようと大物・強者っぷりを見せてくれます!パーパーパーパー!大きな剣、大きなタイトル。タミーム・ビン・ハマド・アール・サーニー首長殿下という最も大切な名前を冠したタイトル。受賞は多くを意味し、雲いやそれどころか星々に到達するかというほどに極めて誉れ高いものなのです!

*大きな剣:レースの勝利記念品として贈られる大ぶりなアラビア刀剣のことかと。
*「星ほどの高さがある」は人や物事が極めて高貴・貴重・栄誉あることを意味するアラビア語の伝統的な比喩表現です。

アラビア語がわからないとオーポーポーポーばかり言っていて中身が無いように感じやすいかもしれませんが、アル=マアマリー(口語発音:アル=マアムリー)氏はコーナーを曲がってペースやスピードが上がったこと、ザフォクシーズ号が先頭を狙おうとなんとか奮闘している様子も伝えており、ゴール時のほめ言葉などは彼の実況の特色の一つとなっています。

ナール

عبد الله المعمري [ アブドゥッラー・アル=マアマリー/(口語発音)アブドゥッラー・アル=マアムリー、アブダッラー・アル=マアムリー等 ] 氏がよく使う決まり文句に نَار [ nār ] [ ナール ](日本語のツイートを見ているとノールに近く聞こえる方もいらっしゃる模様)があります。

オーポーポーポーと同じぐらいのタイミングで「ナーーーーールッ!」と伸ばして聞こえることが多いのですが「ナール」は火(fire)という意味で、スラングでは「熱い・ホット・素晴らしい・すげぇ」とか「値段が超高い」といった感じのニュアンスで使われていたりします。

ナールはオーポーポーポーと違い他の実況アナも使うポピュラーな表現です。”ホットな”外見をしたお姉さんを形容する時の俗っぽい言い回しとして使われていることも…😅

ハティール

アラビア語学習書に出てくる意味だと「危ない、危険な」「重大な、重篤な」が主である خَطِير [ khaṭīr ] [ ハティール ] は、スポーツ実況だと危険プレーという批判的な意味ではなくスラングのほめ言葉である「やばい」「すげぇ」や敵が巧みで点を入れられてしまいそうなプレーを指した「やばい」として使われていることが多いです。

アル=マアマリー(口語発音:アル=マアムリー)氏がサッカー実況アナウンサー時代から使っていたキーワードの一つで、サッカー選手や競走馬などを形容して「凄いっ!」「やばすぎるっ!」などと絶賛しているフレーズとなっています。

ムスィール

能動分詞 مُثِير [ muthīr ] [ ムスィール ] は「(興奮・関心といった感情)をかき立てる」「(問題)を惹起する」したりすることを意味。スポーツ実況だと「興奮させる」「刺激的な」「ワクワク、ゾクゾクさせる」といった良い意味で使われています。

これもアル=マアマリー(口語発音:アル=マアムリー)氏がサッカー実況アナウンサー時代から使っていたキーワードの一つで、彼の実況ではほめ言葉に当たります。

その他のアラビア語表現

アラビア語競馬実況中継に出てくる色々な用語はサイト内姉妹ページ『アラビア語競馬用語集』で紹介しています。

オーポーポーポーの意味は何なのか?

つづりと発音

日本でオーポーポーポーとして知られている声は、アラビア語の表記では実況アナご本人も含めて

أوب أوب أوب
( اوب اوب اوب )

という表記が使われています。

これに母音記号をつけると أُوبْ أُوبْ أُوبْ となりますが、アラビア語にはオとプの音が無いためつづり上は [ ’ūb ’ūb ’ūb ] [ ウーブ・ウーブ・ウーブ ] と読むような表記を使用。アラビア語では口語(方言)で u 音は o に寄ることが多くウとオ、ウーとオーの区別を厳密にしないことから「オーブ・オーブ・オーブ」という発音まで持っていき、さらにブの部分はアラビア語に無いプの音のことだからということで「オープ・オープ・オープ」という発音に置き換え。これを早口で続けるとオーポーポーポーに聞こえるというしくみになっています。

おそらく元になった表現が英語圏におけるスポーツ応援時歓声である Whoop Whoop Whoop! が由来になっているからか、発音を聞く限り p 音が無いアラビア語風に「オーボーボーボー」とは言っておらず b の字で当て字をしているけれども p 音で読む外来語パターンとして「オーポーポーポー」と発音するのが正解だと思われます。

意味・ニュアンス

アラブ人が語るオーポーポーポーの意味

最初これを聞いた時、アラブが動物を追う声か何かと思ったのですがどうやら違う模様。アラビア語の伝統的な慣用句でも家畜を追う時のかけ声、方言での日常会話で元々使われていた叫びの類でもないため、文語アラビア語辞書にも口語アラビア語辞書で探しても、電子化アラビア語文献サイトで串刺し検索をしても見当たりませんでした。

そうなると頼りになるのはSNSといったネット情報になってくるのですが、調べていくと英語圏のスポーツ応援・実況で歓声を示す「Whoop Whoop Whoop!」(英語辞書にはwhoopの意味として「歓声・興奮・応援などを表す間投詞・感動詞」などと掲載あり)が由来になっている可能性が非常に高いことがわかりました。

SNS上のアラビア語投稿によると

  • オーポーポーポーは何かすごいものを目にした時に言うフレーズ
  • 昨今増えている雄叫び・絶叫系のスポーツ実況に多い
  • アラブ世界のスポーツ実況の叫び声の定番はヤー・バーバー(يا بابا / يابابا)とかオーポーポーポー(أوب أوب أوب
  • 言葉自体には特に意味は無い

で、元になったであろう外国語表現「Whoop Whoop Whoop!」同様に歓声・興奮といった感情が込められているものの叫び声なので言葉に訳すほどでもない、ということで日本語に訳す場合は「ウオーッ!」「おおーっ!」「わーっ!」が近いかと思います。

アラブ人自身も「実況で出てくるオーポーポーってどういう意味?」と投稿していることもあるので、「なんか実況が叫んでるなー」ぐらいの感覚で聞いている人も少なくない模様です。

なおこれはあくまで雄叫びなので、アル=マアマリー(口語発音:アル=マアムリー)氏についてもオーポーポーポーは実況に熱気を吹き込むスパイス的なものとして使っており、レースの様子やゴール後のコメントはちゃんとアラビア語会話として色々と早口で言っている形です。

実況アナウンサー本人が語るオーポーポーポーの意味

オーポーポーポーの叫びについて、عبد الله المعمري [ アブドゥッラー・アル=マアマリー/(口語発音)アブドゥッラー・アル=マアムリー、アブダッラー・アル=マアムリー等 ] 氏が日本人競馬ファンの方の疑問に答えている返信があることを本ページを書いてから数年後(2025年2月)に知りました。

返信の直訳:

ご視聴ありがとうございました。これは状況の素晴らしさを表す言葉が見つからない時に、ものすごいシーンを表現する方法です。

ものすごいシーンなのにその状況がいかに素晴らしいのかを表す言葉が見つからないこと、つまりは感無量・ものすごい感動・興奮といった強い気持ちを表しているとのこと。

またアラビア語でも追加説明をしていて

投稿の直訳:

ものすごい場面で感嘆すべき対決なのに出来事の素晴らしさを伝える言葉を見いだせない時、أوب أوب أوب(オーポーポーポー)は私の感情を説明してくれるのです。

やはり歓声・興奮を表す間投詞・感動詞として海外実況で使われている whoop がそのまま取り入れられたと思われ、和訳するとしたら「うぉーっ!」「なんとーっ!」「これはすごい!」「なんと素晴らしいっ!」「感無量ですっ!」「すごすぎて言葉に表せません!」などが近いのではという気がします。

似たようなつづりでも何通りかある意味合い

いずれも外国語をアラビア文字化したものだと想定して調べた結果、同じ أوب やそれに類した文字列でも並べる個数や文脈によって違いがあるとのことで、ネイティブたちのSNS雑談で調べた限りでは

  • أوب أوب أوب は Whoop Whoop Whoop(英語:応援・興奮としての叫びや歓声)に対応している
  • サッカー板でよく使われている أب أب は英語の up up(アップ・アップ)のアラビア語表記で فوق فوق (上へ、上へ)に相当する
  • أوب أوب だと英語の Oop, Oop(=おっとっと)に対応している

という使い分けがなされている模様です。

オーポーポーポー(オープ・オープ・オープ)とアラビア語実況

スポーツ実況とオーポーポーポー

管理人自身はアラビア語でスポーツ観戦しないので詳しくなかったのですが、アブドゥッラー氏の実況がサッカー実況風だという視聴者コメントがあったのでサッカー中継の録画も見てみることに。すると聞こえてきたオーポーポーポー😅

アルジェリア出身でサッカー選手としての経歴も持つベテラン有名サッカー実況アナウンサー حفيظ دراجي(Hafid Derradji、文語アラビア語発音:ハフィーズ・ダッラージー、口語アラビア語発音:ハフィード・ダッラージ、ハフィード・デッラージ等)氏あたりはこのオーポーポーポーを長い間連呼してきたことで知られる一人だとか。

気になる方は彼の名前で検索して試合実況の動画を視聴していただきたいのですが、彼は色々な動画でゴール直後に「パーパーパーパー ゴ~ル」と言ったりしています。(例:現地スポーツチャンネル公式動画の1:33:50頃)

結局のところ、英語圏からの輸入か何かでまずサッカー中継でこの雄叫びが使われ、さらに競馬実況中継にも取り入れられたという順番だったために「サッカー中継っぽい競馬実況」と評される一因にもなっている様子。そのためアラブ圏では競馬実況専用用語というわけではなく、サッカー関連の実況動画やSNSファン投稿にこのオーポーポーポーが含まれていることが多いです。

なおサッカー中継での雄叫びですが、ベテランの域に入った年齢の Hafid Derradji 氏が長年「パーパーパーパー」や「ウララ~ッ」などを続けていることもあってかSNSアラビア語投稿には「飽きた」「中身が薄くて好きじゃない」といった声もちらほら。スポーツ中継での雄叫びスタイルも、将来的には下火になっていくということがあるかもしれません。

競馬実況とオーポーポーポー

サッカー実況に近い熱血競馬実況というスタイル

オーポーポーポーおじさん(オーポーポーおじさん)の名でも知られる実況アナのアル=マアマリー(アル=マアムリー)氏は基本的に勝ち馬がゴール手前の接戦や激しく迫ってくる馬の猛追、そしてゴール板を通過した直後にオーポーポーポーやパーパーパーを言うのですが、特にゴール付近については「ナール!」(≒すごい)との合わせ技で「オーポーポーポー!ナール!」(≒ウォーッ!これはすごい!/ なんと!これはすごい!/ うおーっ!すごすぎる!)といったニュアンスになっていたりします。

ノリとしてはサッカーのゴールシーンでの実況アナの雄叫びとだいたい同じで、スポーツ実況の手法としては既知のものではあるのですが、かつての日本同様アラブ世界も海外の影響でスポーツ実況における絶叫・雄叫び系の割合が増えていった結果競馬実況にもその波が訪れ、アル=マアマリー(アル=マアムリー)氏が取り入れ熱血競馬実況アナとしてのトレードマークになった、という経緯だったものと思われます。

アル=マアマリー(アル=マアムリー)氏の影響か最近のアラブ人競馬実況アナウンサーの中には似たような熱血系シャウトをする人も出てきており、単なるギャンブルに留まらない大衆的な競馬ブームが起こり平坦なしゃべり方ではない海外サッカー実況に似た盛り上げる系の熱血スタイルが次第に定着していった頃の日本に似た変化が起きているように感じます。

オーポーポーポーおじさんは元サッカー実況アナだった

عبد الله المعمري [ アブドゥッラー・アル=マアマリー/(口語発音)アブドゥッラー・アル=マアムリー、アブダッラー・アル=マアムリー等 ] 氏は今でこそ競馬実況中継の第一人者のようになっていますが、昔はサッカー実況のアナウンサーだったとか。

過去のニュースを検索してみると、活躍の場を求めて祖国オマーン以外のスポーツチャンネルとの契約を複数経験しており、2011年にはサッカー実況アナという形でカタール(カタル)のアルジャジーラ(Al Jazeera、アラビア語発音:アル=ジャズィーラ)スポーツ専門チャンネルに移籍。

権利問題があるためここには転載できませんが、YouTubeで تعليق عبد الله المعمريتعليق عبدالله المعمري(アブドゥッラー・アル=マアマリーの実況解説)というキーワードで2010年代当時の放送録画が上がっていたため見たところ、アラブ世界だけでなく海外リーグの試合も担当。当時からオマーン出身アナウンサーの中でも成功を手にしたスポーツ実況解説者の一人として知られていたようです。

オーポーポーポーは連呼していないものの、アルジャジーラ(アル=ジャズィーラ)移籍当初は多少控えめだったトークも数年すると今の競馬実況と同様の熱血スタイルが確立されていたようで、競馬ゴール時に使うキーワードなども共通。彼の熱い競馬実況の原点がサッカー放送時代にあったことがうかがえます。

なお彼の公式Snapchatアカウントトップには今でも「競馬・サッカー実況解説者、馬オーナー」と書かれていますが、2018年5月14日のTwitter(現X)投稿によると「サッカー実況の仕事はどうしたのか?と聞かれるのですが今は競馬実況の仕事以外は考えていないです」とコメント。既にその時点で競馬実況界のスターとして知られるようになっており、完全に競馬界に転身した形だった模様です。

オーポーポーポーやパーパーパーパーの是非と日本の競馬中継との違いについて

アラビア半島諸国の競馬実況の傾向とオーポーポーポーのタイミング

日本では「オーポーポーと言っていないで肝心の実況を数秒でも増やすべき」と感じる方が結構おられるようなのですが、アラブ富裕諸国のラクダレースや競馬などはスポーツ事業を国が開催していること、それらの形式的な統括者である元首たる国王陛下や首長殿下より恩恵として与えられるイベントという立ち位置であること、さらに放送局自体が国営・公営・王族が大株主であるといった形で主催者側のメディアであることから、政治的な絶賛メッセージがかなり入り込んだ日本人からすると無駄が多めな実況であることも珍しくないです。

有名なバーレーン(バハレーン)サッカーの空耳動画実況内容同様、アル=マアマリー(アル=マアムリー)氏はアラビア半島諸国の熱血系スポーツ実況の基本をおさえたベテランアナウンサーで、レース結果を伝えた直後に王族を称賛するコメントにするっと切り替え、興奮を伝える口調を維持しながら表現豊かにメッセージを伝えるのが上手いです。

ドバイ、サウジアラビアなどの首長一族・王族がオーナーである馬が一位入線を果たすのが確実になるとゴール前の直線にいる段階でオーナーや厩舎の名前が出始め、ゴールラインを突破したあたりで馬も含めての称賛が本格化し、かつ主催者である首長・国王陛下への称賛も交えるという競馬本体以外の要素がてんこ盛りとなります。

こうした目上の人物に絶賛を贈る文化はアラブ社会に千数百年前からあった伝統なのですが、オーポーポーポーはそうしたほめ言葉とからめてレースによりある程度出すタイミングが調整されているようで、レース全体のアラビア語実況を聞いているとオーポーポーだけすごく浮いているとは感じにくい構成になっています。

アラブと日本の違い

アラブ諸国は今でこそサラブレッドの国際競走として各国から招待を行う高額賞金レースが多数用意されるようになっていますが、元々はオーナーとして自分たちが部族・一族総出で育てた馬を自分たちの一員である騎手に託するという参加型草競馬があった部族社会で、育てる馬もサラブレッドではなく純血アラブ馬でした。

競馬は色々な部族が交流する大事な場で、馬は友好・同盟関係を強化する手段や対立した部族間の調停のための道具として贈り物にもされてきました。ドバイやサウジアラビアなどは馬が社会の要になる伝統が残っている地域なので、洋風のサラブレッド競走でも「部族社会のトップが競馬を開催してくれ、皆がその恩恵を受ける」「イベントが成功を収めれば元首の功績として称賛される」という雰囲気があり、競馬実況やメディア報道にも反映されています。

またイスラーム(イスラム教)でギャンブルは禁止されているので、血統や過去データを綿密に研究し馬券予想するといった文化もありません。

生産者に対し趣味・ギャンブルやアニメ・コミック等の二次利用として楽しむ極めて大勢のファンという構図が定着しているわけでもないので、スタジオにアナウンサーや競馬解説者が何人も集まって分析や予想をするというのは限られた競馬専門チャンネルが大レースの時に行っているのみで、実際に視聴しても「結局、今日の馬場状態ってどうだったんだろうか?」で終わることがあったりします。

馬場状態や出走馬の適性、各馬の血統や配合、騎手の過去の戦績など、日本では徹底分析が当たり前になっていますが、アラブ世界ではそうした日本の綿密な分析を「さすが日本。精密機械のようだ。」と評しており、日本の競馬界がアラブ諸国よりも非常に発達していて技術的にも高度であることを物語っています。

管理人自身はアラビア語の競馬中継を長い間見てきましたが、緻密な徹底解説を心がけるというよりは、元首が主催した世界的レースを盛り上げていきましょうと張り切ったり、今年も成功裏に終わってさすがは◯◯殿下といった流れに持っていったりで、国・文化・社会の違いと同様に競馬実況アナウンサーに求められる資質も違っているように感じることもしばしばです。

レース実況アナウンサーの仕事自体は、アラビア半島諸国に伝統的な純血アラブ馬の草競馬やラクダレースが昔からあったことからなかなか競争が激しい業界だとも言われていますが、大手放送局アルジャジーラ(アル=ジャズィーラ)でサッカー実況をしていたアル=マアマリー(アル=マアムリー)氏は、国際舞台であるG1級サラブレッド競走を任せるに値しかつ一味違ったインパクトで実況放送を楽しいものにしてくれる人物ということで高い評価を受けるに至ったのかもしれません。

アラビア語がわからない状態で視聴するとポーポーしか言っていないような気もするかとは思いますが、実際には早口であれこれしゃべっています。「アラブ人視聴者をワクワクさせられて、レースの様子もある程度説明してくれて、元首への称賛や馬の絶賛を熱く・表現豊かに行える」「国家事業としての競馬を盛り上げて話題作りをしてくれる」という現地のニーズに合致していることが、アル=マアマリー(アル=マアムリー)氏成功の鍵の一つだったのでは、と思います。

サッカー中継ではアパパパ系もある

アルジェリア代表のサッカーの試合を見た際、「アーパーパーパー ゴール!」のように聞こえる実況をしているのに気付きました。サッカー実況をいくつか確認したところ「オーポーポーポー」以外にも

أبا با با با
( ابا با با با )

母音記号をつけると أَبَا بَا بَا بَا となりますが、アラビア語に p の字が無いので b の字を使って書いているのはオーポーポーポーと同じで、実際に実況を聞いてみると表記通りのアバーバーバーバーではなくアパーパーパーパーと言っているような気がします。

サッカー実況だとゴールしそうな手前で言ったりしており أبا با با با با با با جووووول [ アパパパパパパパ ・ゴーーーール ]!のように盛り上げたりする形式のようです。

競馬実況アナウンサーであるアル=マアマリー(アル=マアムリー)氏も最近はオーポーポーポー以外にこの系統のシャウトをしており、オーポーポーポー同様にサッカー実況から着想を得たものと推察されます。

ラクダレースでの似たようなかけ声

ラクダレースでアババババととかププププププといった声が聞かれるのは上記のようなかけ声と関係があるのかもしれません。

ラクダレースの実況で白熱した争いの表現に使われるらしい بببببب [ ブブブブブブ (ププププププ) ] も以前はラクダのオスの口をブクブクさせる鳴き声の真似かと思っていましたが、スポーツ実況に多いアババババの類似形という可能性も考えられそうです。

 

(2025年2月 本人による意味解説、サッカー実況アナ時代の話、アラブと日本の違い)